(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】モータロータ及びモータロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/2733 20220101AFI20240125BHJP
H02K 15/03 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
H02K1/2733
H02K15/03 Z
(21)【出願番号】P 2022553769
(86)(22)【出願日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2021033514
(87)【国際公開番号】W WO2022070857
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2020165146
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【氏名又は名称】西本 博之
(72)【発明者】
【氏名】飯嶋 海
(72)【発明者】
【氏名】大岩 直貴
(72)【発明者】
【氏名】米山 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 裕司
(72)【発明者】
【氏名】勝 義仁
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 光
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-150494(JP,A)
【文献】国際公開第2020/022017(WO,A1)
【文献】特開2010-172095(JP,A)
【文献】特開2016-208724(JP,A)
【文献】特開2015-211612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/2733
H02K 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と、
前記軸体の外周面を覆う円筒状の磁石と、
前記磁石の外周面を覆う円筒状の保護層と、
輪状であり、前記軸体に挿通されて前記磁石の端面に接するエンドリングと、を備え、
前記エンドリングは、前記エンドリングの内周面と前記軸体の外周面との間に形成された内周樹脂部によって前記軸体に対して固定されて
おり、
前記エンドリングの内側端面の全面は、前記磁石の端面に対面する、モータロータ。
【請求項2】
前記エンドリングは、調整痕を含む、請求項1に記載のモータロータ。
【請求項3】
前記エンドリングを構成する材料の密度は、前記内周樹脂部を構成する材料の密度よりも、大きい、請求項1又は2に記載のモータロータ。
【請求項4】
前記軸体の軸線に沿う前記保護層の長さは、前記軸体の軸線に沿う前記磁石の長さよりも長い、請求項1~3の何れか一項に記載のモータロータ。
【請求項5】
軸体と、
前記軸体の外周面を覆う円筒状の磁石と、
前記磁石の外周面を覆う円筒状の保護層と、
輪状であり、前記軸体に挿通されて前記磁石の端面に接するエンドリングと、を備え、
前記エンドリングは、前記エンドリングの内周面と前記軸体の外周面との間に形成された内周樹脂部によって前記軸体に対して固定されており、
前記エンドリングの外周面と前記保護層の内周面との間には、外周樹脂部が設けられており、
前記外周樹脂部は、前記エンドリングの外周面と前記保護層の内周面との間に設けられた第1部分と、前記第1部分から前記エンドリングの外側端面に沿って延びる第2部分と、を含む、モータロータ。
【請求項6】
金型に、軸体及び前記軸体の外周面を覆う円筒状の磁石を配置すると共に、輪状であり前記軸体に挿通されて前記磁石の端面に接するようにエンドリングを配置する工程と、
前記軸体の外周面と前記磁石の内周面との間及び前記軸体の外周面と前記エンドリングの内周面との間のそれぞれに未硬化の樹脂材料を充填する工程と、を有
し、
前記エンドリングの内側端面の全面は、前記磁石の端面に対面するように形成する、モータロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータロータ及びモータロータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータに関する技術として、特許文献1に開示された永久磁石付きの回転子が知られている。回転子は、いわゆるモータロータである。特許文献1の回転子は、樹脂材料に複数の永久磁石を埋め込んでいる。樹脂材料に複数の永久磁石を埋め込んだ構造によれば、永久磁石が充分なエネルギ積を有することができる。その結果、モータの出力を高めることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータを構成する部品は、回転バランスが重要である。特に、モータの回転数が高まるほど、要求される回転バランスの精度は高まる。回転バランスを調整する手法は、例えば、まず、回転バランスを調整するための錘を回転体に取り付ける。次に、回転体に取り付けた錘を削る。その結果、回転軸線まわりの質量分布が調整されるので、回転バランスが高まる。
【0005】
一方、モータが適用される外部装置に応じて、モータには様々な性能が要求される。例えば、外部装置の状態に応じて、モータの出力を増加又は減少させることが求められる。この場合には、外部装置の状態の変化に素早く応じられるように、モータの出力の応答性を高めることが望まれる。出力の応答性は、モータが備えるロータの質量と関係がある。調整用の錘を用いて回転バランスを高める手法では、錘の大きさは、回転バランスの調整ができる程度であることが要求される。他方、錘が大きくなると錘の質量が増加する。その結果、ロータの質量が増大するので、回転の安定性が悪化するおそれがある。
【0006】
本開示は、質量を低減することが可能なモータロータ及びモータロータの製造方法を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一形態であるモータロータは、軸体と、軸体の外周面を覆う円筒状の磁石と、磁石の外周面を覆う円筒状の保護層と、輪状であり、軸体に挿通されて磁石の端面に接するエンドリングと、を備える。エンドリングは、エンドリングの内周面と軸体の外周面との間に形成された内周樹脂部によって軸体に対して固定されている。
【発明の効果】
【0008】
本開示のモータロータ及びモータロータの製造方法によれば、質量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示のモータロータを備えた過給機を示す断面図である。
【
図2】
図2は、モータロータの構造を示す斜視図である。
【
図3】
図3(a)及び
図3(b)及び
図3(c)は、モータロータの製造方法の工程を示す図である。
【
図4】
図4(a)及び
図4(b)及び
図4(c)は、モータロータの製造方法の工程を示す図である。
【
図5】
図5(a)及び
図5(b)は、モータロータの製造方法の工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の一形態であるモータロータは、軸体と、軸体の外周面を覆う円筒状の磁石と、磁石の外周面を覆う円筒状の保護層と、輪状であり、軸体に挿通されて磁石の端面に接するエンドリングと、を備える。エンドリングは、エンドリングの内周面と軸体の外周面との間に形成された内周樹脂部によって軸体に対して固定されている。
【0011】
モータロータのエンドリングは、回転バランスを調整するための錘として用いることができる。回転バランスの調整では、回転軸線から質点までの距離が遠いほど、質量を調整したときに得られる回転バランスの調整の効果が大きい。換言すると、回転軸線から質点までの距離が近いほど、質量を調整したときに得られる回転バランスの調整の効果が小さい。モータロータのエンドリングは、内周樹脂部によって軸体に固定されている。この構成によれば、質量が大きいエンドリングは、回転軸線から遠いために回転バランスの調整効果が高い部分に配置される。質量が小さい内周樹脂部は、回転軸線から近いために回転バランスの調整効果が低い部分に配置される。その結果、エンドリングを直接に軸体に固定する構成と比べると、錘であるエンドリングの調整しろを低減することができる。その結果、軽量なエンドリングを用いることが可能となる。内周樹脂部を採用することにより、モータロータを軽量化することが可能になる。従って、モータロータの質量を低減することができる。
【0012】
一形態においてエンドリングは、調整痕を含んでもよい。
【0013】
一形態において、エンドリングを構成する材料の密度は、内周樹脂部を構成する材料の密度よりも、大きくてもよい。この構成によれば、モータロータを軽量化することができる。
【0014】
一形態において、軸体の軸線に沿う保護層の長さは、軸体の軸線に沿う磁石の長さよりも長くてもよい。この構成によれば、磁石を保護層によって保護することができる。さらに、エンドリングも保護層によって保護できる。
【0015】
一形態において、エンドリングの内側端面の全面は、磁石の端面に対面してもよい。この構成によれば、エンドリングを回転軸線から離れた位置に配置することができる。
【0016】
一形態において、エンドリングの外周面と保護層の内周面との間には、外周樹脂部が設けられていてもよい。この構成によれば、エンドリングを保護層によって保護することができる。
【0017】
一形態において、外周樹脂部は、エンドリングの外周面と保護層の内周面との間に設けられた第1部分と、第1部分からエンドリングの外側端面に沿って延びる第2部分と、を含んでもよい。この構成によれば、エンドリングを磁石に対して固定することができる。
【0018】
本開示の別の形態であるモータロータの製造方法は、金型に、軸体を配置する工程と、金型に軸体の外周面を覆う円筒状の磁石を配置すると共に、輪状であり軸体に挿通されて磁石の端面に接するようにエンドリングを配置する工程と、軸体の外周面と磁石の内周面との間及び軸体の外周面とエンドリングの内周面との間のそれぞれに未硬化の樹脂材料を充填する工程と、を有する。この製造方法によれば、回転バランスを調整する高い効果及びモータロータの軽量化を両立させたモータロータを製造することができる。さらに、磁石とエンドリングとを1回の充填工程によって形成することができる。
【0019】
図面を参照しながら、本開示のモータロータについて説明する。
図1は、過給機1の回転軸線Hを含む断面を示す図である。過給機1は、本開示のモータロータを備えた可変容量型過給機である。以下の説明で、単に「軸方向」と言うときは、後述する回転軸2の軸方向を意味する。「径方向」と言うときは、回転軸2の径方向を意味する。「周方向」と言うときは、回転軸2の周方向を意味する。
【0020】
過給機1は、車両等に搭載される内燃機関に適用される。
図1に示すように、過給機1は、タービン3とコンプレッサ4とを備えている。タービン3は、タービンハウジング31と、タービン翼車32と、を備えている。タービン翼車32は、タービンハウジング31に収納されている。タービンハウジング31は、タービン翼車32の周囲に配置されたスクロール流路33を有している。スクロール流路33は、周方向に延びている。コンプレッサ4は、コンプレッサハウジング41と、コンプレッサ翼車42と、を備えている。コンプレッサ翼車42は、コンプレッサハウジング41に収納されている。コンプレッサハウジング41は、コンプレッサ翼車42の周囲に配置されたスクロール流路43を有している。スクロール流路43は、周方向に延びている。
【0021】
タービン翼車32は、回転軸2の一端に設けられている。コンプレッサ翼車42は、回転軸2の他端に設けられている。軸受ハウジング21は、タービンハウジング31とコンプレッサハウジング41との間に設けられている。回転軸2は、軸受22を介して軸受ハウジング21に回転可能に支持されている。回転軸2、タービン翼車32及びコンプレッサ翼車42は、一体の回転体23として回転軸線Hのまわりに回転する。
【0022】
タービンハウジング31には、排気ガス流入口と排気ガス流出口31aとが設けられている。内燃機関から排出された排気ガスは、排気ガス流入口を通じてタービンハウジング31に流入する。タービンハウジング31に流入した排気ガスは、スクロール流路33を通じてタービン翼車32に流入する。タービン翼車32に流入した排気ガスは、タービン翼車32を回転させる。タービン翼車32を回転させた排気ガスは、排気ガス流出口31aを通じてタービンハウジング31から流出する。
【0023】
コンプレッサハウジング41には、吸入口41aと吐出口とが設けられている。タービン翼車32が回転すると、回転軸2を介してコンプレッサ翼車42が回転する。回転するコンプレッサ翼車42は、吸入口41aを通じて外部の空気を吸入する。吸入された空気は、コンプレッサ翼車42及びスクロール流路43を通過する間に圧縮される。圧縮された空気は、吐出口から吐出される。吐出口から吐出された圧縮空気は、内燃機関に供給される。
【0024】
過給機1は電動機5を備えている。例えば車両の加速時など、回転軸2のトルクが不足する場合に、不足するトルクを補うように電動機5が回転軸2にトルクを付与する。電動機5は、例えばブラシレスの交流電動機である。電動機5は、回転子であるモータロータ50と、固定子であるモータステータ60とを備えている。電動機5の駆動源として、車両のバッテリを使用することができる。車両の減速時において、電動機5は、回転体23の回転エネルギによって回生発電してもよい。電動機5は、回転軸2の高速回転に対応可能な特性を有する。高速回転とは、例えば10万~20万rpm程度が例示できる。
【0025】
モータロータ50は、軸方向において軸受22とコンプレッサ翼車42との間に配置されている。モータロータ50は、回転軸2に固定されている。モータロータ50は、回転軸2と共に回転可能である。モータステータ60は、軸受ハウジング21に収容されている。モータステータ60は、モータロータ50を周方向に囲む。モータステータ60は、複数のコイルと複数の鉄心とを備えている。コイルに電流が供給されることにより、モータステータ60は、磁場を生じさせる。モータステータ60が発生する磁場によって、モータロータ50に周方向の力が作用する。その結果、回転軸2にトルクが付与される。
【0026】
図2を参照しながら、モータロータ50について説明する。モータロータ50は、インナースリーブ51と、永久磁石52と、エンドリング53と、エンドリング54と、保護層55と、内周樹脂部56と、外周樹脂部57と、を有する。
【0027】
インナースリーブ51は、回転軸2と共に軸体を構成する。インナースリーブ51は、やや大径に設けられた大径部511を備えている。大径部511は、軸方向の中央部に設けられている。インナースリーブ51の材料としては、例えばSCM435H等の鋼材を採用してよい。
【0028】
円筒状をなす永久磁石52は、大径部511の周囲に設置されている。永久磁石52の外周面には、軸方向に延びる溝が、周方向に等間隔に形成されていてもよい。永久磁石52の軸方向の長さは、大径部511の軸方向の長さとほぼ同じである。永久磁石52としては、例えば、ネオジム磁石(Nd-Fe-B)及びサマリウムコバルト磁石などを採用してよい。永久磁石52は、内周樹脂部56及び外周樹脂部57に覆われる。その結果、永久磁石52は、外的環境から保護される。
【0029】
保護層55は、円筒状の部材である。保護層55は、「アーマリング」と呼ばれる場合もある。円筒状である保護層55は、永久磁石52の周囲に設置されている。保護層55は、永久磁石52が破損した場合に破片が径方向へ飛散することを防止する。保護層55は、永久磁石52のひずみを抑制すると共に、永久磁石52の破損の可能性を低減する。従って、保護層55には、ある程度の剛性が要求される。保護層55の軸方向の長さは、永久磁石52の軸方向の長さよりも長い。保護層55の軸方向の長さは、大径部511の軸方向の長さよりも長い。保護層55の材料としては、金属材料又は樹脂材料を採用してよい。金属材料としては、チタン(例えばTi-6Al-4V)等の非磁性体金属が挙げられる。樹脂材料としては、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)なども挙げられる。
【0030】
エンドリング53及びエンドリング54は、回転軸線Hの方向において永久磁石52を挟む。エンドリング53とエンドリング54と永久磁石52とを含む構成物の長さは、保護層55の長さとおおむね同じである。エンドリング53及びエンドリング54は、円環状をなす。エンドリング53は、内向き端面53a(内側端面)と、外向き端面53b(外側端面)と、リング内周面53cと、リング外周面53dと、を有する。エンドリング54は、内向き端面54a(内側端面)と、外向き端面54b(外側端面)と、リング内周面54cと、リング外周面54dと、を有する。
【0031】
エンドリング53及びエンドリング54の材料の密度は、後述する内周樹脂部56の材料の密度よりも大きい。この密度の大小関係を満たす限りにおいて、エンドリング53、エンドリング54及び内周樹脂部56の材料を適宜選択してよい。例えば、エンドリング53及びエンドリング54の材料としては、SUS等の非磁性体金属、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂などを採用してよい。
【0032】
輪状のエンドリング53は、永久磁石52の第1の磁石端面52aに接している。より詳細には、エンドリング53の内向き端面53aは、永久磁石52の第1の磁石端面52aに接している。この「接している」とは、必ずしも固定されていることを要しない。内向き端面53aは、第1の磁石端面52aに対して接着されていてもよい。内向き端面53aは、第1の磁石端面52aに対して単に接触しているだけでもよい。
図2の例示では、リング外周面53dの直径は、永久磁石52の磁石外周面52dの直径と同じである。リング外周面53dは、磁石外周面52dと面一である。リング内周面53cの直径は、磁石内周面52cの直径より大きい。リング内周面53cは、磁石内周面52cと面一ではない。リング内周面53cと磁石内周面52cとの間には段差が存在する。このような構成によれば、リング内周面53cは、スリーブ外周面51dに対して直接に接しない。リング内周面53cとスリーブ外周面51dとの間には、隙間が存在する。リング内周面53cとスリーブ外周面51dとの間の隙間には、内周樹脂部56が充填されている。
【0033】
永久磁石52とエンドリング53との関係は、上記の関係には限定されない。内向き端面53aの内側部分は、永久磁石52の磁石内周面52cよりも回転軸線Hに近くてもよい。リング内周面53cの直径は、永久磁石52の磁石内周面52cの直径よりも小さくてもよい。内向き端面53aの外側部分は、永久磁石52の磁石外周面52dよりも回転軸線Hから遠くてもよい。リング外周面53dの直径は、永久磁石52の磁石外周面52dの直径より大きくてもよい。
【0034】
リング内周面53cには、内周樹脂部56が接合されている。エンドリング53は、内周樹脂部56によってインナースリーブ51に対して固定されている。リング外周面53dには、外周樹脂部57が接合されている。エンドリング53は、外周樹脂部57によって保護層55に対して固定されている。外向き端面53bの外周側の一部分にも、外周樹脂部57が接合されている。
図2に示す例示では、外向き端面53bの内周側は、露出面である。外向き端面53bの内周側には、樹脂部などが設けられていない。
【0035】
エンドリング54は、永久磁石52の第2の磁石端面52bに接している。エンドリング54の内向き端面54aは、永久磁石52の第2の磁石端面52bに接している。詳細な構成については、エンドリング54も、エンドリング53と同様である。従って、エンドリング54の詳細な説明は省略する。
【0036】
インナースリーブ51と永久磁石52との間には僅かな隙間が存在する。隙間には内周樹脂部56が形成されている。その結果、インナースリーブ51のスリーブ外周面51dは、内周樹脂部56によって覆われる。磁石内周面52cは、内周樹脂部56によって覆われる。エンドリング53のリング内周面53cも内周樹脂部56によって覆われる。エンドリング54のリング内周面54cも内周樹脂部56によって覆われる。内周樹脂部56は、部分56s1と、部分56s2と、部分56s3と、を含む。部分56s1は、スリーブ外周面51dと磁石内周面52cとに挟まれている。部分56s2は、スリーブ外周面51dとリング内周面53cとに挟まれている。部分56s3は、スリーブ外周面51dとリング内周面54cとに挟まれている。内周樹脂部56の第1の端面56aは、エンドリング53の外向き端面53bと面一であってよい。内周樹脂部56の第2の端面56bは、エンドリング54の外向き端面54bから突出してもよい。つまり、第2の端面56bと外向き端面54bとの間には、段差が形成されていてもよい。
【0037】
永久磁石52と保護層55との間には僅かな隙間が存在する。永久磁石52と保護層55との間の隙間には、外周樹脂部57が形成されている。その結果、永久磁石52の磁石外周面52dは、外周樹脂部57によって覆われる。保護層内周面55cは、外周樹脂部57によって覆われる。保護層55の第2の保護層端面55bの内周側も外周樹脂部57によって覆われる。エンドリング53のリング外周面53dも外周樹脂部57によって覆われる。エンドリング54のリング外周面54dも外周樹脂部57によって覆われる。エンドリング53の外向き端面53bの外周部分も外周樹脂部57によって覆われる。エンドリング54の外向き端面54bの外周部分も外周樹脂部57によって覆われる。外周樹脂部57は、部分57s1と、部分57s2(第1部分)と、部分57s3(第1部分)と、を含む。部分57s1は、磁石外周面52dと保護層内周面55cとに挟まれている。部分57s2は、リング外周面53dと保護層内周面55cとに挟まれている。部分57s3は、リング外周面54dと保護層内周面55cとに挟まれている。外周樹脂部57は、部分57s4(第2部分)をさらに含む。部分57s4は、外周樹脂部57の第1の端面側において、エンドリング53の外向き端面53bより突出する。部分57s4は、外向き端面53bの一部を覆う。外周樹脂部57は、部分57s5と、部分57s6と、をさらに含む。部分57s5は、外周樹脂部57の第2の端面側において、エンドリング54の外向き端面54bより突出する。部分57s5は、エンドリング54の外向き端面54bの一部を覆う。部分57s6も、外周樹脂部57の第2の端面側において、エンドリング54の外向き端面54bより突出する。部分57s6は、保護層55の第2の保護層端面55bの一部を覆う。
【0038】
インナースリーブ51、永久磁石52、保護層55、エンドリング53及びエンドリング54は、内周樹脂部56及び外周樹脂部57を介して一体的に連結される。内周樹脂部56は、永久磁石52からインナースリーブ51へトルクを伝達する。外周樹脂部57は、永久磁石52から保護層55へトルクを伝達する。過給機1において、永久磁石52からインナースリーブ51へ伝達されるトルクは、例えば約0.5Nmである。永久磁石52から保護層55へ伝達されるトルクも、例えば約0.5Nmである。
【0039】
内周樹脂部56及び外周樹脂部57の材料は、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂等を採用してよい。内周樹脂部56及び外周樹脂部57の材料は、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂及びエポキシ樹脂を採用してよい。また、内周樹脂部56及び外周樹脂部57の材料は、熱可塑性樹脂である液晶ポリマー(LCP:Liquid Crystal Polymer)を採用してよい。発明者らの試験によれば、LCPは、フェノール樹脂に比べて射出成形時の流動性が高い点において、内周樹脂部56及び外周樹脂部57の材料として好ましい。LCPは、フェノール樹脂に比べて比較的入手が容易である点において、内周樹脂部56及び外周樹脂部57の材料として好ましい。フェノール樹脂は、LCPに比べて耐熱性、剛性、及び耐環境性に優れる点において、内周樹脂部56及び外周樹脂部57の材料として好ましい。エポキシ樹脂は、密着性を有するので、内周樹脂部56及び外周樹脂部57の材料として好ましい。
【0040】
内周樹脂部56の材料は、エンドリング53の材料と所定の関係を満たす必要がある。内周樹脂部56の材料の密度は、エンドリング53の材料の密度よりも小さい。
【0041】
モータロータ50の製造方法について説明する。
図3(a)に示すように、金型91を準備する。次に、金型91の内部へ、インナースリーブ51を配置する。次に、金型91の内部へ、エンドリング53、永久磁石52及びエンドリング54の順に配置する(工程S1)。エンドリング53、永久磁石52及びエンドリング54を配置するとき、インナースリーブ51と永久磁石52との間に隙間を設ける。インナースリーブ51とエンドリング53との間にも隙間を設ける。インナースリーブ51とエンドリング54との間にも隙間を設ける。インナースリーブ51の配置を行った後に、エンドリング53、永久磁石52及びエンドリング53の配置を行ってもよい。また、エンドリング53、永久磁石52及びエンドリング53の配置を行った後に、インナースリーブ51の配置を行ってもよい。次に、
図3(b)に示すように、蓋92を取り付ける(工程S2)。蓋92には、穴92aが設けられている。穴92aには、内周樹脂部56となる未硬化の樹脂材料56sを充填するために蓋92に設けられている。
【0042】
次に、
図3(c)に示すように、未硬化の樹脂材料56sを充填する(工程S3)。未硬化の樹脂材料56sを充填するとき、金型91及び蓋92は、所定の温度となるように予熱されている。従って、充填された樹脂材料56sは、時間の経過と共に硬化が進行する。硬化が完了すると、サブアッシ50s(SUB ASSY)が得られる。サブアッシ50sは、インナースリーブ51、永久磁石52、エンドリング53及びエンドリング54が内周樹脂部56によって一体化されたものである。そして、蓋92を取り外した後に、金型91からサブアッシ50sを取り外す(
図4(a)参照、(工程S4))。
【0043】
次に、
図4(b)に示すように、サブアッシ50sを別の金型93に配置する(工程S5)。次に、サブアッシ50sが配置された金型93に保護層55を配置する。その後、
図4(c)に示すように、蓋94を配置する(工程S6)。蓋94を配置したとき、永久磁石52と保護層55との間には隙間が形成される。エンドリング53と保護層55との間にも隙間が形成される。奥側のエンドリング53の外向き端面53bの外周側と金型93との間にも隙間が形成される。外向き端面53bの内周側は、金型93と接している。手前側のエンドリング54の外向き端面54bの外周側と蓋94との間にも隙間が形成される。この隙間は、蓋94に設けられた穴94aと連通している。この隙間は、樹脂だまりとして機能する。保護層55が含む第2の保護層端面55bの内周側は、蓋94と接しない。保護層55が含む第2の保護層端面55bの外周側は、蓋94と接する。
【0044】
次に、
図5(a)に示すように、未硬化の樹脂材料57sを充填する(工程S7)。工程S3と同様に、金型93及び蓋94は、所定の温度となるように予熱されている。従って、充填された樹脂材料57sは、時間の経過と共に硬化が進行する。硬化が完了すると、モータロータ50が得られる(工程S8)。モータロータ50は、インナースリーブ51、永久磁石52、エンドリング53、エンドリング54及び保護層55が内周樹脂部56及び外周樹脂部57によって一体化されたものである。
【0045】
発明者らは、過渡応答性とワイドレンジ性とを実現する二段過給システムに適用する電動コンプレッサの実用化を目指している。発明者らは、高負荷時の余剰のタービン出力を回生する電動アシストターボの実用化も目指している。これらの電動コンプレッサ及び電動アシストターボには、空気力学の都合に基づき、所定の回転数が要求される。例えば、電動コンプレッサには、100、000rpm程度の回転数が要求される。電動アシストターボには、200、000rpm程度の回転数が要求される。
【0046】
車両用の電動化製品は、高効率、低騒音及び省スペース化の要求が厳しい。これらの要求を満たすために、表面磁石型(SPM:surface permanent magnetic)モータが選定される。一般的に高い回転数を得るためには、埋め込み磁石型(Interior Permanent Magnet)モータが有利である。埋め込み磁石型モータは、多極化及び多スロット化することができる。例えばハイブリッド車に用いられるモータ等は、多極化及び多スロット化という考え方を採用して製品化している。しかし、電動コンプレッサ及び電動アシストターボに関しては、多極化及び多スロット化という考え方を採用できない。
【0047】
超高速SPMモータは、磁石の飛散を防止することが課題である。特に、小型モータは、シャフトに円筒型磁石を挿入する。さらに、小型モータは、円筒型磁石の外周側に飛散防止のための保護層(アーマリング)を設ける。これらの構造によって、小型モータは、磁石の破損を防止する。アーマリングには、軽量且つ高強度であることが要求される。アーマリングには、磁気性能に影響を与えないために非磁性体であることも要求される。アーマリングには、肉厚を薄くすることも求められる。
【0048】
上述の技術的な背景のもと発明者らは、電動コンプレッサ及び電動アシストターボに適用可能なモータロータについて開発を進めてきた。そして、いくつかの技術開発によって、経済的であり、かつ大幅にイナーシャが低減されたモータロータを得ることに成功した。発明者らは、いっそうの高回転に適用可能であると共に、優れた制御性を実現可能とするため、さらなるモータロータのイナーシャの低減について検討を行った。
【0049】
モータロータ50は、その結果得られたものである。モータロータ50のエンドリング53及びエンドリング54は、回転バランスを調整するための錘として用いることができる。回転バランスを調整するとき、回転軸線Hから回転バランスを調整するための錘までの距離が遠いほど、錘の質量を調整したときに得られる回転バランスの調整の効果が大きい。逆に言えば、回転軸線Hから回転バランスを調整するための錘までの距離が近いほど、錘の質量を調整したときに得られる回転バランスの調整の効果が小さい。モータロータ50のエンドリング53及びエンドリング54は、内周樹脂部56によってインナースリーブ51に固定されている。従って、質量が大きいエンドリング53及びエンドリング54は、回転軸線Hから遠いために回転バランスの調整効果が高い場所に配置される。質量が小さい内周樹脂部56は、回転軸線Hから近いために回転バランスの調整効果が低い場所に配置される。その結果、エンドリング53及びエンドリング54を直接にインナースリーブ51に固定する構成と比べると、内周樹脂部56を採用することにより軽量化することが可能になる。従って、モータロータ50の質量を低減することができる。
【0050】
エンドリング53及びエンドリング54は、組み立て作業の後に実施する回転バランスの修正作業において、加工しろ(バランスランド)として用いることができる。バランスランドとしての機能は、外周側にあるほど効果が高い。発明者らは、エンドリング53及びエンドリング54が円盤状である必要性は低く、リング状であれば良いことに想到した。エンドリング53及びエンドリング54の形状をリング状とする。そして、エンドリング53及びエンドリング54は、圧入ではなく、樹脂材料の射出成形によって永久磁石52と一体化する。そうすると、エンドリングにおいて、回転軸線Hに近い部分が樹脂材料に置き換わる。その結果、エンドリングから樹脂材料に置き換えられた体積と、エンドリングの材料と樹脂材料との密度差と、に応じた重量が低減される。その結果、より軽量なモータロータ50を得ることができる。また、後工程におけるエンドリング53、54を圧入する工程を省くことができる。従って、より経済的に優れる。
【0051】
エンドリング53及びエンドリング54はバランスランドである。従って、エンドリング53及びエンドリング54は、調整痕を含んでもよい。調整痕とはバランス調整の痕跡である。調整痕とは、例えば、エンドリング53及びエンドリング54に設けられた窪み及び突出である。この窪み及び突出は、バランスを調整する作業時に、重量を低減するためにエンドリング53及びエンドリング54の一部が削られることによって生じる。さらに、調整痕とは、例えば、ヒートマークである。ヒートマークは、重量の調整のための加工時に発生する熱によって生じる。さらに、調整痕とは、例えば、部材を追加研削することで生じる加工溝の屈曲及び加工溝のパターンの不連続である。さらに、調整痕とは、エンドリング53及びエンドリング54を単体で回転させた場合に、回転軸心回りの回転にアンバランスとなる部位である。
【0052】
本開示は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、変形例を構成することも可能である。各実施形態の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0053】
上述の実施形態では、モータロータ50が過給機1の電動機5に適用された場合を例として説明した。モータロータ50は、電動コンプレッサにも適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 過給機
2 回転軸
3 タービン
4 コンプレッサ
5 電動機
21 軸受ハウジング
22 軸受
23 回転体
31 タービンハウジング
32 タービン翼車
33 スクロール流路
41 コンプレッサハウジング
42 コンプレッサ翼車
43 スクロール流路
50 モータロータ
50s サブアッシ
51 インナースリーブ(軸体)
51d スリーブ外周面
52 永久磁石(磁石)
52c 磁石内周面
52d 磁石外周面
53、54 エンドリング
53c、54c リング内周面
53d、54d リング外周面
55 保護層
56 内周樹脂部
57 外周樹脂部
60 モータステータ
H 回転軸線