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特許7425983電気二重層キャパシタ用電極および電気二重層キャパシタ
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  • 特許-電気二重層キャパシタ用電極および電気二重層キャパシタ 図1
  • 特許-電気二重層キャパシタ用電極および電気二重層キャパシタ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】電気二重層キャパシタ用電極および電気二重層キャパシタ
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/32 20130101AFI20240125BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20240125BHJP
【FI】
H01G11/32
H01G11/36
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019141279
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021027077
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】高井 充
(72)【発明者】
【氏名】檜 圭憲
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0111227(US,A1)
【文献】特開2009-272454(JP,A)
【文献】国際公開第2013/073526(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体上に形成された電極層と、を有し
前記電極層が、活物質(A)と導電助剤(B)とバインダー(C)とを含み、
前記活物質(A)がグラフェンもしくは酸化グラフェンであり、
前記活物質(A)と前記導電助剤(B)との重量比率(A:B)が1:99~1090であり、
前記活物質(A)と前記導電助剤(B)との合計(A+B)、と前記バインダー(C)との重量比率((A+B):C)が90:10~65:35である
ことを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極。
【請求項2】
請求項1に記載の電極を用いた電気二重層キャパシタ。
【請求項3】
内部抵抗Rと静電容量Cとの積は、CR≦250Ω・mF である請求項2に記載の電気二重層キャパシタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタ用電極および電気二重層キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタは、活性炭等の分極性電極と電解液との界面に形成される電気二重層に蓄積される電気エネルギーを利用するキャパシタである。従来の二次電池のように充放電において化学反応を伴わないため長寿命であり、かつ急速充電特性と高サイクル特性を有し、さらに使用可能温度が幅広いという特徴から、近年、新たな蓄電源として、各種機器の駆動用電源等として注目を集めている。例えば、クレジットカードのセキュリティー確保と簡便性を目的として、電気二重層キャパシタ内蔵生体認証カードの検討が行われている。
【0003】
内蔵生体認証カードの蓄電源用途において、電気二重層キャパシタに対する要求特性として、急速充電が可能なことと、内部インピーダンスが低くIRドロップ(初期電圧降下)が少ないことが求められる。しかしながら、キャパシタにおいてインピーダンスが直流抵抗とリアクタンスを含み、リアクタンスは静電容量の逆数に比例することから、低容量化と低インピーダンス化を両立するためには更なる内部抵抗の低下が必要であり、困難であった。
【0004】
例えば、特許文献1には、低インピーダンス化および高容量化を目的として、活物質として従来の活性炭の代わりに電気伝導度の高いグラフェンやカーボンナノチューブを用いた技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-230906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1には、カーボンナノチューブ:導電助剤:バインダー=8:1:1の比率ではカーボンナノチューブの比率が多過ぎて必要以上の静電容量となり、所望の静電容量におけるインピーダンスが大幅に増加するという課題があった。
【0007】
本発明の目的は、前記事情に鑑みてなされたものであり、活物質に電気伝導度の高いグラフェンを用い、活物質と導電助剤との重量比率を1:99~50:50(導電助剤リッチ)にすることで、所望の静電容量かつ低内部抵抗である電気二重層キャパシタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
〔1〕 集電体と、前記集電体上に形成された電極層と、を有し
前記電極層が、活物質(A)と導電助剤(B)とバインダー(C)とを含み、
前記活物質(A)がグラフェンもしくは酸化グラフェンであり、
前記活物質(A)と前記導電助剤(B)との重量比率(A:B)が1:99~50:50であり、
前記活物質(A)と前記導電助剤(B)との合計(A+B)、と前記バインダー(C)との重量比率((A+B):C)が90:10~65:35である
ことを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極。
〔2〕 〔1〕に記載の電極を用いた電気二重層キャパシタ。
〔3〕 内部抵抗Rと静電容量Cとの積は、CR≦250Ω・mF である〔2〕に記載の電気二重層キャパシタ。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、所望の静電容量かつ低内部抵抗である電気二重層キャパシタを提供することができる。また、本発明の一実施形態により、同じ静電容量で比較した場合、活性炭の約1/10以下の内部抵抗である電気二重層キャパシタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の電気二重層キャパシタ用電極の好適な一実施形態を示す模式断面図である。
図2】本発明の電気二重層キャパシタの好適な一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0012】
(電気二重層キャパシタ用電極)
以下、本実施形態に係る電気二重層キャパシタ用電極10について詳述する。図1は、本実施形態に係る電気二重層キャパシタ用電極10を示す模式断面図である。図1に示すように、電気二重層キャパシタ用電極10は、集電体12と、該集電体12上に形成された電極層14とを備えるものである。
【0013】
[集電体]
上記集電体12は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル箔の金属薄板を用いることができる。
【0014】
[電極層]
上記電極層14が、活物質(A)と導電助剤(B)とバインダー(C)とを含む。前記活物質(A)がグラフェンもしくは酸化グラフェンである。前記活物質(A)と前記導電助剤(B)との重量比率(A:B)が1:99~50:50であり、かつ、前記活物質(A)と前記導電助剤(B)との合計(A+B)、と前記バインダー(C)との重量比率((A+B):C)が90:10~65:35である。
【0015】
<活物質(A)>
前記活物質(A)がグラフェンもしくは酸化グラフェンである。
本実施形態に係る電気二重層キャパシタの電極層に用いられるグラフェンは、炭素原子が六方晶系配置した二次元シート状の物質をいう。
グラフェンは単層でも2層以上でもよい。本発明において、2層以上のグラフェンは、単層グラフェンと区別するため、グラフェンシート若しくはグラフェン粒子(集合体)と呼ぶことがある。グラフェンシートの積層数は、好ましくは、2層以上であり、10層以下である。
前記グラフェンは、例えば、電極材料として通常使用されるものを用いることが可能である。
【0016】
グラフェンは、グラファイトを機械的に剥離するか、化学的処理を施すことにより調製することができる。
具体的には、グラファイトを粘着テープで機械的に剥離する方法が知られている。また、グラファイトに酸化処理を施すことにより、酸化グラフェンを得た後、還元処理を施すことにより、グラフェンを調製することができる。
【0017】
本実施形態に係る電気二重層キャパシタの電極層に用いられる酸化グラフェンは、グラファイトに酸化処理を施すことにより、グラファイトから剥離されたナノシートである。例えば、カルボニル基などを含むグラフェンが挙げられる。好適に使用できる酸化グラフェンとしては、株式会社仁科マテリアル社製の還元型酸化グラフェン(製品名:Exfoliated GO)を挙げることができる。
本発明に係る酸化グラフェンは、上記酸化グラフェンを還元処理して得られる還元型酸化グラフェン(RGOと呼ばれることがある。)を含む。本発明において、RGOと区別するために、還元処理されたことのない酸化グラフェンは、一次酸化グラフェンと呼ぶことがある。
還元型酸化グラフェン(RGO)は、例えば、グラファイトから単層剥離されたナノシートである酸化グラフェンのカルボニル基を一部又は全部除去することによって得られる。
一次酸化グラフェンは、カルボニル基、ヒドロキシ基などを有するので、極性溶媒などに対して親和性を有し、電極層を成膜する観点から、有利である。
還元型酸化グラフェンは、一部又は全部のカルボニル基が除去されているので、高い導電性を有し、電極材料に好適である。一方で、還元型酸化グラフェンは、ヒドロキシ基を有するので、極性溶媒などに対して親和性を有し、蓄電デバイスの構築に有利である。
【0018】
ここで、好適に使用できる還元型酸化グラフェンとしては、株式会社MICC TEC製の「グラフェライトRGO」を挙げることができる。この「グラフェライトRGO」は、粒度が4~80μm、厚みが2~40nmであり、線状に繋がった形状を有している。
【0019】
一次酸化グラフェンは、グラファイトを粘着テープで機械的に剥離する方法で得られたグラフェンを酸化する方法で得られることができる。また、グラファイトを酸化する方法で一次酸化グラフェン得られることができる。還元型酸化グラフェンは、一次酸化グラフェンを還元することによって得ることができる。
【0020】
グラファイトを酸化する方法で一次酸化グラフェンを得る一例は以下に示す。すなわち、グラファイトに水中で過マンガン酸カリウム、硫酸等の強力な酸化剤を作用させると、グラファイトの各層の表面の炭素が酸化され、表面に酸素を含む置換基(カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシド等)を有するグラファイト酸化物が得られる。グラファイト酸化物はこれらの置換基の存在によって親水性を示し、水中に分散すると剥離し、単層か多層の一次酸化グラフェンの水分散液が得られる。
【0021】
上記のようにして得られた一次酸化グラフェンは、例えば、ゆるやかな還元を行うことにより、グラフェンとは異なり、一次酸化グラフェンに比べて、水酸基や、カルボキシル基などの官能基を残した形態の構造を有する還元型酸化グラフェンが得られる。
【0022】
本実施形態に係る電気二重層キャパシタの電極層に用いられる酸化グラフェンとしては、一次酸化グラフェンと還元型酸化グラフェンとの何れか1種を単独でも、これらの混合物でも、使用することができる。
電気二重層キャパシタの電極層に用いられる場合、電気伝導度が大きいことが望ましい。一次酸化グラフェン及び還元型酸化グラフェンの酸化度と電気伝導度は比例関係にあり、酸化度は好ましくは30%以下、より好ましくは10%以下である。
【0023】
本発明の電気二重層キャパシタの電極層に用いられるグラフェンもしくは酸化グラフェン(「本発明のグラフェン系物質」ともいう。)は、凝集部分などの例外部位を除いて層数が1~100であり、好ましく2~10である。層数が2~10であるグラフェンの重量比は、電極層に含まれているグラフェンに対して、60~100%であり、好ましく70%~100%であり、より好ましく80~100%である。
本発明のグラフェン系物質は、粒度が0.1~50μmであり、厚みが0.5~200nmであるシート状を有している。電極層を塗膜する際に操作性の観点から、粒度が1~10μmであることが好ましい。
【0024】
<導電助剤(B)>
導電助剤(B)は、電極層の導電性を良好にするものであれば特に限定されず、公知の導電助剤を使用できる。例えば、黒鉛、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、その他のファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラックなど)、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等の炭素材料が挙げられる。カーボンブラック、カーボンナノチューブもしくはカーボンナノファイバーであることが好ましい。
【0025】
導電助剤(B)は、例えば、カーボンブラックなどの場合、平均粒径が20~100nmであることが好ましく、25~90nmであることがより好ましい。BET比表面積が、25~200m/gであることが好ましく、30~180m/gであることがより好ましい。
【0026】
<バインダー(C)>
バインダー(C)は、活物質同士を結合すると共に、活物質と集電体とを結合している。バインダーは、上述の結合が可能なものであればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂が挙げられる。
【0027】
また、上記の他に、バインダーとして、例えば、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFPTFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴムを用いてもよい。
【0028】
更に、上記の他に、バインダーとして、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、芳香族ポリアミド、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等を用いてもよい。また、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、その水素添加物、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、その水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子を用いてもよい。更に、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α-オレフィン(炭素数2~12)共重合体等を用いてもよい。
【0029】
また、バインダーとして電子伝導性の導電性高分子やイオン伝導性の導電性高分子を用いてもよい。電子伝導性の導電性高分子としては、例えば、ポリアセチレン等が挙げられる。この場合は、バインダーが導電助剤粒子の機能も発揮するので導電助剤を添加しなくてもよい。
【0030】
<電極層に含まれる各成分の組成比>
前記電極層において、前記活物質(A)がグラフェンもしくは酸化グラフェンである。前記活物質(A)と前記導電助剤(B)との重量比率(A:B)が1:99~50:50であることが好ましく、5:95~40:60であることがより好ましく、10:90~30:70であることが更に好ましい。前記重量比率(A:B)が1:99~50:50である場合、電極層に含まれるグラフェンもしくは酸化グラフェンの分散状態を良好にして電極層内の導電パスを形成することがけきる。その結果、そのような電極層を用いる電気二重層キャパシタのインピーダンスが低くする。また、同時に、所望の範囲内で低容量化することができる。
【0031】
前記活物質(A)と前記導電助剤(B)との合計(A+B)、と前記バインダー(C)との重量比率((A+B):C)が90:10~65:35であることが好ましく、90:10~70:30であることがより好ましく、90:10~80:20であることが更に好ましい。前記重量比率((A+B):C)が90:10~65:35の範囲内である場合、電極層と種電体との間において、塗膜剥がれが無く、電極強度とインピーダンスとのバランスが良好な範囲が得られる。
【0032】
[電極の作製方法]
本実施形態に係る電気二重層キャパシタ用電極10は、通常用いられる方法により作製できる。例えば、本実施形態の電気二重層キャパシタ用活物質(A)(グラフェンもしくは酸化グラフェン)、導電助剤(B)、バインダー(C)、及び溶媒(D)を含むスラリーを集電体12上に塗布し、集電体12上に塗布されたスラリー中の溶媒を除去することにより製造することができる。
【0033】
溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド等を用いることができる。
【0034】
塗布方法としては、特に制限はなく、通常電極を作製する場合に採用される方法を用いることができる。例えば、スリットダイコート法、ドクターブレード法が挙げられる。
【0035】
集電体上に塗布されたスラリー中の溶媒を除去する方法は特に限定されず、スラリーが塗布された集電体を、例えば80℃~150℃の雰囲気下で乾燥させればよい。
【0036】
そして、このようにして電極層が形成された電極を、その後、プレス装置等によりプレス処理して、電極層の厚さを調整する。プレス装置としては、ロールプレスを用いることができる。
【0037】
ロールプレスを用いる場合、加熱プレスロールの表面温度は、室温以上、かつ融点以下の温度に設定するが、好ましくは25℃以上かつ融点以下、より好ましくは25℃以上、かつ80℃以下の温度から選択する。例えば、バインダーにPVDF(ポリフッ化ビニリデン:融点150℃)を用いた場合は室温~150℃の範囲に加温することが好ましく、25~80℃の範囲内で加温することがより好ましい。バインダーにスチレン-ブタジエン共重合体(融点100℃)を用いた場合は室温~100℃の範囲に加温することが好ましく、25~80℃の範囲で加温することがより好ましい。
【0038】
加熱プレスロールのプレス圧力は100kgf/cm以上1000kgf/cm以下が好ましく、300kgf/cm以上900kgf/cm以下がより好ましく、300kgf/cm以上600kgf/cm以下がより好ましく。プレス速度は15m/分以下の速度が好ましく、より好ましくは10m/分以下、更に好ましくは5m/分以下である。上記のプレス速度であると適切な細孔径及び細孔分布を得ることができる。
【0039】
活物質(A)と導電助剤(B)とバインダー(C)との構成比率を調整する方法としては、例えば、前記活物質(A)と前記導電助剤(B)との重量比率(A:B)が1:99~50:50の範囲内で、かつ、前記活物質(A)と前記導電助剤(B)との合計(A+B)、とバインダー(C)との重量比率((A+B):C)が90:10~65:35の範囲内で、活物質(A)と導電助剤(B)とバインダー(C)とを含有するスラリーを調整することが挙げられる。
【0040】
活物質(A)がグラフェンもしくは酸化グラフェンであるため、溶剤中に、先に活物質(A)を良く分散してから、導電助剤(B)又はバインダー(C)を添加することができる。あるいは、溶剤中に、先に活物質(A)と導電助剤(B)を先に良く分散してから、バインダー(C)を添加することもできる。
【0041】
以上の工程を経て、本実施形態の電気二重層キャパシタ電極を作製することができる。
【0042】
(電気二重層キャパシタ)
図2は、本実施形態に係る電気二重層キャパシタを示す模式断面図である。図2に示すように、電気二重層キャパシタ100は、正極20と、正極20に対向する負極30と、正極20及び負極30の間に介在し、正極20の主面及び負極30の主面にそれぞれに接触するセパレータ18と、非水電解液(図示略)とを備えた電気二重層キャパシタである。本実施形態に係る電気二重層キャパシタは、内部抵抗Rと静電容量Cとの積は、CR≦250Ω・mF であることが好ましく、CR≦200Ω・mF であることがより好ましく、CR≦100Ω・mF であることがさらに好ましい。
【0043】
電気二重層キャパシタ100は、主として、発電要素40、発電要素40を密閉した状態で収容する外装体50、及び発電要素40に接続された一対のリード60,62(電極端子)を備えている。
【0044】
発電要素40は、一対の正極20、負極30が、セパレータ18を挟んで対向配置されたものである。正極20は、板状(膜状)の正極集電体22上に正極活物質層24が設けられたものである。負極30は、板状(膜状)の負極集電体32上に負極活物質層34が設けられたものである。正極活物質層24の主面及び負極活物質層34の主面が、セパレータ18の主面にそれぞれ接触している。正極集電体22及び負極集電体32の端部には、それぞれリード60(正極端子)及びリード62(負極端子)が接続されており、リード60、62の端部は外装体50の外部にまで延びている。
【0045】
[正極と負極]
本実施態様の電気二重層キャパシタ100において、正極20又は負極30は、前述の本実施形態の電気二重層キャパシタ用電極を用いる。正極20と負極30とは、前述の本実施形態の電気二重層キャパシタ用電極を用いることが好ましい。例えば、正極20が前述の本実施形態の電気二重層キャパシタ用電極からなる第一の電極を用い、負極30が前述の本実施形態の電気二重層キャパシタ用電極からなる第二の電極を用いる場合、この第一の電極とこの第二の電極とが同じでも、異なっても良い。この第一の電極とこの第二の電極とが同一であることがより好ましい。正極と負極とが同一の前述の本実施形態の電気二重層キャパシタ用電極であることで保持される電解液量のバランスが取れ、連続充電下での特性変化が小さくなる。「第一の電極と第二の電極とが同一である」ということは、一例として、同じシートから製造された前述の電気二重層キャパシタ用電極シートから、正極と負極に用いる第一の電極と第二の電極を切り取ることが挙げられる。すなわち、評価誤差の許容範囲において、第一の電極と第二の電極は、同じ電極の組成・形状・厚み等を有する意味である。
【0046】
[電解液]
本実施態様に係る電解液は、正極活物質層24、負極活物質層34、及び、セパレータ18の内部に含有させるものである。水系電解液でも非水電解液でもよい。非水電解液が好ましい。非水電解液の溶質としては、カチオンとアニオンとを含む塩であって、例えば、カチオンが、テトラエチルアンモニウム,トリエチルメチルアンモニウム,スピロ-(1、1’)-ビピロリジニウム若しくはジエチルメチル-2-メトキシエチルアンモニウム(DEME)等の4級アンモニウム又は1、3-ジアルキルイミダゾリウム,1、2、3-トリアルキルイミダゾリウム,1-エチル-3-メチルイミダゾリウム(EMI)若しくは1、2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウム(DMPI)等のイミダゾリウムであり、アニオンが、BF4-、PF6-、ClO4-、AlCl4-又はCFSO3-であるものを採用することが出来る。
【0047】
電気二重層キャパシタの非水電解液の溶媒としては、プロピレンカーボネート(略称PC)、エチレンカーボネート(略称EC)、ジメチルカーボネート(略称DMC)、ジエチルカーボネート(略称DEC)、アセトニトリル(略称AN)、プロピオニトリル、γ-ブチロラクトン(略称BL)、ジメチルホルムアミド(略称DMF)、テトラヒドロフラン(略称THF)、ジメトキシエタン(略称DME)、ジメトキシメタン(略称DMM)、スルホラン(略称SL)、ジメチルスルホキシド(略称DMSO)、エチレングリコール、プロピレングリコール、メチルセルソルブなどの有機溶媒などが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で混合して使用してもよい。
【0048】
これらの非水系電解液中の溶質濃度は電気二重層キャパシタの特性が十分引き出せるように、0.6mol/L以上2.2mol/L以下が好ましく、特に、0.8mol/L以上2.0mol/L以下の濃度では、高い電気伝導性が得られて好ましい。特に、-20℃以下の低温で充放電するとき、2.2mol/L以上の濃度では、電解液の電気伝導性が低下し好ましくない。0.6mol/L以下では室温下、低温下とも電気伝導度が小さく好ましくない。例えば、電解液としては、トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートのアセトニトリル(AN)の溶液を用いる場合、トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの濃度としては0.9~1.9mol/Lが好ましい。
【0049】
[セパレータ]
セパレータ18としては、セルロース不織布やポリオレフィン系の多孔質フィルム、アラミド繊維の不織布のいずれか、またはこれらの混合物を用いることができる。
セパレータの厚みは、10μm以上50μm以下であることが好ましい。厚みが10μm以上であれば、内部のマイクロショートによる自己放電の抑制に優れ、一方、厚みが50μm以下であれば、電気二重層キャパシタのエネルギー密度及び出力特性に優れる。
【0050】
[外装体]
外装体50は、その内部に発電要素40及び電解質溶液を密封するものである。外装体50は、電解液の外部への漏出や、外部からの電気二重層キャパシタ100内部への水分等の侵入等を抑止できる物であれば特に限定されない。例えば、外装体50として、金属箔52を高分子膜54で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムを利用できる。金属箔52としては例えばアルミ箔を、高分子膜54としてはポリプロピレン等の膜を利用できる。例えば、外側の高分子膜54の材料としては融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等が好ましく、内側の高分子膜54の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が好ましい。
【0051】
[リード]
リード60,62(電極端子:正極端子と負極端子)は、一般的には略矩形をしており、その一端は電極の集電体と電気的に接続され、他端は使用時に外部の負荷(放電の場合)又は電源(充電の場合)と電気的に接続される。正極にリード60(正極端子)の一端を電気的に接続し、負極にリード62(負極端子)の一端を電気的に接続する。具体的には、正極集電体22の正極活物質層の未塗布領域にリード60を、負極集電体32の負極活物質層の未塗布領域にリード62を電気的に接続する。
リード60,62は、導電材料から形成されている。材質がアルミニウムであることが好ましい。
上記のラミネートフィルム外装体50の封止部となる、リード60,62の中央部には、ポリプロピレン等の樹脂製のフィルム(図示略)が貼りつけられていることが好ましい。これは、リード60,62と、ラミネートフィルムを構成する金属箔との短絡を防ぎ、かつ封止密閉性を向上させる。
前述した集電体(正極集電体22と負極集電体32)とリード60,62との電気的な接続方法は、例えば、超音波溶接法が一般的であるが、抵抗溶接、レーザー溶接等でもよく、限定するものではない。
【0052】
[電気二重層キャパシタの作製]
公知の方法により、リード60、62を正極集電体22、負極集電体32にそれぞれ溶接し、正極20の正極活物質層24と負極30の負極活物質層34との間にセパレータ18を挟んだ状態で、非水電解液と共に外装体50内に挿入し、外装体50の入り口をシールすることにより、図2に示すような単セルの電気二重層キャパシタを作製することができる。また、2つ以上の単セルの電気二重層キャパシタを直列に接続して、2つ以上の単セルを含む電気二重層キャパシタを作製することができる。単セルの電気二重層キャパシタの容量維持率などの電気特性を評価・算出する方法としては、例えば、直列に接続された2つ以上の単セルを含む電気二重層キャパシタの評価から算出する方法が挙げられる。
【実施例
【0053】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
[電極の作製]
本発明の活物質(A)として株式会社仁科マテリアル社製の還元型酸化グラフェン(製品名:Exfoliated GO)を使用し、導電助剤(B)としてはカーボンブラック粉末(メーカ:TIMCAL、商品名:SUPER C-45、BET比表面積:45m/g)を使用し、バインダー(C)としてはポリフッ化ビニリデン(PVDF、メーカ:ARKEMA、商品名:KYNAR)を使用し、活物質(A)と導電助剤(B)との重量比率(A:B)をA:B=1:99になるように、かつ、活物質(A)と前記導電助剤(B)との合計(A+B)、と前記バインダー(C)との重量比率((A+B):C)を(A+B):C=70:30となるように配合し、スラリーを調製した。
【0055】
得られたスラリーをTDK製剥離シート上に塗工し、温度110℃で30分間乾燥した後にロールプレス装置によりプレス処理して、塗膜厚10μmの電極材料シートを得た。厚みの測定はマイクロメーターを用いた。ロールプレスの条件は、線圧を450kgf/cm、加熱ロール温度は室温、送り速度を5m/minとした。線圧は加圧ロールに掛かる圧力と上下のロールが接触する長さで計算をした。
【0056】
[非水電解液]
アセトニトリル(AN)に、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートを1.0mol/Lとなるように溶解させた非水電解液を用意した。
【0057】
[セパレータ]
膜厚20μmのポリエチレン微多孔膜を用意した。
【0058】
[電気二重層キャパシタの作製]
上記で得られた電極2枚をそれぞれ1.8cmになるように切り取り、正極、負極とした。この正極、負極それぞれに正極端子と負極端子とを超音波融着して、正極と負極の間に上記セパレータを挟むように積層させた後、外装体としてのアルミラミネート材で覆い、上記非水電解液を注入し、最後に開口部を融着密封することにより、単セルの電気二重層キャパシタを作製した。
【0059】
<静電容量の評価>
実施例1の電気二重層キャパシタについて、10mAで2.5Vまで定電流充電を行い、2.5Vに達した後は定電圧充電に移行し、1秒間定電圧充電を行った。放電は10mAの定電流で行い、終止電圧0Vとした。これにより得られた放電曲線(放電電圧-放電時間)から、2.0Vから1.0Vまでにかかった時間Δt[msec.]を求め、下記の関係式:
容量={放電電流(10mA)×時間Δt}/電圧(2.0V-1.0V)
により初回容量値(C)を算出した。初回容量値(C)を該電気二重層キャパシタの静電容量Cとした。その結果を表1に示す。
【0060】
<IRドロップの評価>
上記静電容量の評価時、満充電後、充放電切り替え時に起こる電圧降下(「IRドロップ」若しくは「IR-drop」と呼ぶことがある。)の値を求めた。放電電流:10mA;満充電電圧:2.5V。
放電のカーブはゆっくりと拡散する様に曲がり一定の直線となる場合、この拡散カーブも含めた放電初期と放電直線部分を延長した交点のΔVを測定し、IRドロップ(JIS規格:IRドロップ=ΔV)とした。その結果を表1に示す。
【0061】
測定機器:
電源 KIKUSUI PMC18-3A
負荷 KIKUSUI PLZ164W
オシロ YOKOGAWA DL708E
【0062】
<内部抵抗の評価>
上記IRドロップ(JIS規格:IRドロップ=ΔV)を用いて、内部抵抗Rを以下の式で計算した。その結果を表1に示す。
内部抵抗R(直流抵抗)=ΔV/I
【0063】
<塗膜剥がれの評価>
各実施例、参考例及び比較例で作製した電極について、電極層の塗膜外観を目視にて観察し、塗膜剥がれの有無を評価した。なお、塗膜剥がれが認められなかったものは「無」とした。塗膜剥がれが電極表面に限定されており軽微なものは「ほぼ無し」とした。塗膜剥がれが電極全面に発生し塗膜の欠落が認められたものは「剥がれ大」とした。その結果を表1に示す。
【0064】
(実施例2~11、比較例1~4)
表1に示す活物質(A)、導電助剤(B)、バインダー(C)の配合比で調整したスラリーを用いた以外は実施例1と同様な方法で電気二重層キャパシタ用電極を作製した。
【0065】
得られた電極を用いて、実施例1と同様な方法で、電気二重層キャパシタを作製した。実施例1と同様な方法で、静電容量、IR-drop、内部抵抗、CR積、塗膜剥がれなどを評価した。結果を表1に示す。
【0066】
(比較例5~7)
活物質(A)として、活性炭(メーカ:クラレ、商品名:クラレコール(登録商標)、平均粒径:2nm、BET非表面積:1600m/gなど)を用いて、表1に示す活物質(A)、導電助剤(B)、バインダー(C)の配合比で調整したスラリーを用いた以外は実施例1と同様な方法で電気二重層キャパシタ用電極を作製した。
【0067】
得られた電極を用いて、実施例1と同様な方法で、電気二重層キャパシタを作製した。実施例1と同様な方法で、静電容量、IR-drop、内部抵抗、CR積、塗膜剥がれなどを評価した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1の実施例1~7の結果より、活物質(A)と導電助剤(B)との重量比率(A:B)が1:99~50:50である場合、内部抵抗は5Ω以下、CR積は75Ω・mF以下の値が得られた。また実施例8~11の結果より、活物質(A)と導電助剤(B)との合計(A+B)、とバインダー(C)との重量比率((A+B):C)が90:10~65:35である場合、内部抵抗は1.8Ω以下、CR積は18Ω・mF以下が得られた。
これに対して比較例1および2の場合、内部抵抗は10Ω以上、CR積は300Ω・mFを超える値であった。また比較例3および4の場合、内部抵抗は50Ω以上、CR積は500Ω・mFを超える値であった。
活物質として活性炭を用いた比較例5~7の場合、内部抵抗は30Ω以上、CR積は600Ω・mFを超える値であった。
【0070】
一般的には、導電助剤よりも電気伝導率の高いグラフェンの重量部比率が大きいほど内部抵抗が低減すると考えられる。しかしながら実際には50重量部を超えるグラフェン比率の場合は電極層形成の際にグラフェンの再凝集が発生したと考えられ予想に反して内部抵抗が増大した(比較例1および2)。
さらに、活性炭を用いた場合(比較例5~7)では、重量比率((A+B):C)が65:35のバインダーでは内部抵抗が非常に大きくなった。しかし、グラフェンの場合は重量比率((A+B):C)が65:35であっても1桁程度低い内部抵抗が得られた。その理由については、活性炭とグラフェンの粉体形状の違い(活性炭は概球状、グラフェンは二次元シート状)から電極層内の導電パス形成状態が異なったためと推測される。
【0071】
なお、実施例1と2における抵抗およびIR-dropの上昇、及び比較例1と2における抵抗およびIR-dropの上昇は、グラフェン特有のものである。その理由については、グラフェン比率を少なくすると抵抗を下げる効果が少なくなって、逆にグラフェン比率を50%超に増やすと分散がうまくいかなくて単体の電気伝導率を活かしきれないと推測される。
【符号の説明】
【0072】
10…電気二重層キャパシタ用電極、
12…集電体(集電体)、
14…電極層、
18…セパレータ、
20…正極(電気二重層キャパシタ用電極)、
22…正極集電体(集電体)、
24…正極活物質層(電極層)、
30…負極(電気二重層キャパシタ用電極)、
32…負極集電体(集電体)、
34…負極活物質層(電極層)、
40…発電要素、
50…外装体、
52…金属箔、
54…高分子膜、
60,62…リード、
100…電気二重層キャパシタ。
図1
図2