(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】電磁波遮蔽性能予測方法、電磁波遮蔽樹脂選別方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/04 20180101AFI20240125BHJP
G01N 23/203 20060101ALI20240125BHJP
H05K 9/00 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
G01N23/04
G01N23/203
H05K9/00 W
(21)【出願番号】P 2020054658
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】倉田 悠都
(72)【発明者】
【氏名】山口 健志
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-038559(JP,A)
【文献】特開2012-238790(JP,A)
【文献】特開2011-254046(JP,A)
【文献】国際公開第2017/111122(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
H05K 9/00
G01R 29/00-29/26
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂に導電性繊維を混合してなる電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能を予測する電磁波遮蔽性能予測方法であって、
前記電磁波遮蔽樹脂をX線で撮像してX線画像を得る撮像工程と、
前記X線画像において、前記導電性繊維が複数絡まって塊になった塊状部分、前記導電性繊維が単繊維として存在する単繊維部分、および前記樹脂である樹脂部分を画像認識する画像解析工程と、
前記単繊維部分の前記導電性繊維の面積包絡度の標準偏差σ、および前記樹脂に対する前記導電性繊維の充填率Fから予測式に基づいて電磁波遮蔽性能SEを予測する算出工程を含むことを特徴とする電磁波遮蔽性能予測方法。
【請求項2】
前記導電性繊維がステンレス繊維であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波遮蔽性能予測方法。
【請求項3】
前記予測式は式(1)で表されることを特徴とする請求項2に記載の電磁波遮蔽性能予測方法。
SE=1000×σ+8.72×F-167・・・(1)
【請求項4】
前記X線画像は、透過X線画像または後方散乱X線画像であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の電磁波遮蔽性能予測方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の電磁波遮蔽性能予測方法によって電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能SEを予測し、予測した電磁波遮蔽性能SEが予め設定された閾値以上である電磁波遮蔽樹脂を選別する選別工程を含むことを特徴とする電磁波遮蔽樹脂選別方法。
【請求項6】
前記閾値は40dBであることを特徴とする請求項5に記載の電磁波遮蔽樹脂選別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂に導電性繊維を混合してなる電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能を予測する電磁波遮蔽性能予測方法およびこれを用いて電磁波遮蔽樹脂を選別する電磁波遮蔽樹脂選別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車、燃料電池自動車など電気を動力源にした自動車が普及しつつある。こうした電気を動力源にした自動車の走行距離を延ばす方法の1つとして、車体の軽量化が進められている。車体の軽量化にあたっては、比較的大きな搭載面積を占有するバッテリーパックの軽量化が求められている。バッテリーパックの軽量化には、例えば、バッテリーを収容するバッテリーケース(外装体)を従来のような金属材料から、より軽量な樹脂材料にすることが考えられている。
【0003】
しかしながら、バッテリーをバッテリーケースに収容したバッテリーパックは、電気自動車のモータに大電流の電力を断続して出力するために電磁波ノイズが発生しやすい。こうした電磁波ノイズは、樹脂材料を容易に透過するために、バッテリーケースを樹脂によって形成すると、電磁波ノイズの漏洩が大きくなるという課題があった。
【0004】
こうした課題を解決するために、例えば、特許文献1では、長さが0.1mm~3mmの金属短繊維を熱可塑性樹脂に混合した電磁波遮蔽用樹脂組成物が開示されている。
また特許文献2には、直径が4~20μm、長さが4~30mmの導電性長繊維と、直径が30~100μm、長さが1~5mmの導電性短繊維とを、熱可塑性樹脂に混合した導電性熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
【0005】
電磁波遮蔽樹脂をバッテリーケース等に適用する場合、電磁波遮蔽性能が所望の値に達するように設計する必要がある。従来、電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能を測定する場合、電磁波を遮蔽する特殊な空間内で電磁波を発生させて、測定対象の電磁波遮蔽樹脂を透過する電磁波を測定する(DFFC法(2焦点型扁平空洞:Dual-Focus Flat Cavity))方法が知られている。
また、電磁波遮蔽樹脂を構成する個々の材料の電気伝導度、誘電率、透磁率などの電磁波特性から、成形される電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能を予測する方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭61-115957号公報
【文献】特開2001-261675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、DFFC法による電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能の測定は、電磁波を遮蔽するための特殊な空間が必要になるなど、測定にコストと時間が掛かり、電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能を低コストで迅速に測定することが困難であった。
また、電磁波遮蔽樹脂の構成材料の電磁波特性に基づいて、電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能を予測する方法では、樹脂にステンレス繊維を混合してなる電磁波遮蔽樹脂の場合、ステンレス繊維の樹脂内での分散状態によって電磁波遮蔽性能が大きく変わるために、構成材料の電磁波特性だけでは、電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能の正確な予測が困難であった。
【0008】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、樹脂にステンレス繊維を混合して射出成形によって製造する電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能を迅速に、かつ正確に予測することが可能な電磁波遮蔽性能予測方法と、これを用いて電磁波遮蔽樹脂を選別する電磁波遮蔽樹脂選別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは以下の知見を見出した。即ち、樹脂に対して導電体としてステンレス繊維を混合してなる電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能は、樹脂に対するステンレス繊維の充填率と、ステンレス繊維の面積包絡度の標準偏差によって、ほぼ正確に特定できる。
【0010】
こうした知見に基づいて、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の電磁波遮蔽性能予測方法は、樹脂に導電性繊維を混合してなる電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能を予測する電磁波遮蔽性能予測方法であって、前記電磁波遮蔽樹脂をX線で撮像してX線画像を得る撮像工程と、前記X線画像において、前記導電性繊維が複数絡まって塊になった塊状部分、前記導電性繊維が単繊維として存在する単繊維部分、および前記樹脂である樹脂部分を画像認識する画像解析工程と、前記単繊維部分の前記導電性繊維の面積包絡度の標準偏差σ、および前記樹脂に対する前記導電性繊維の充填率Fから予測式に基づいて電磁波遮蔽性能SEを予測する算出工程を含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明では、前記導電性繊維がステンレス繊維であってもよい。
【0012】
また、本発明では、前記予測式は式(1)で表されてもよい。
SE=1000×σ+8.72×F-167・・・(1)
【0013】
また、本発明では、前記X線画像は、透過X線画像または後方散乱X線画像であってもよい。
【0014】
本発明の電磁波遮蔽樹脂選別方法は、前記各項に記載の電磁波遮蔽性能予測方法によって電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能SEを予測し、予測した電磁波遮蔽性能SEが予め設定された閾値以上である電磁波遮蔽樹脂を選別する選別工程を含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明では、前記閾値は40dBであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、樹脂に導電性繊維を混合してなる電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能を迅速に、かつ正確に予測することが可能な電磁波遮蔽性能予測方法、およびこれを用いた電磁波遮蔽樹脂選別方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態の電磁波遮蔽性能予測方法、および電磁波遮蔽樹脂選別方法を段階的に示したフローチャートである。
【
図2】透過X線非破壊検査装置によって得られた、シート状の電磁波遮蔽樹脂のX線透過画像の一例を示す写真である。
【
図5】検証例2の結果を示すグラフ(分布図)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態の電磁波遮蔽性能予測方法、電磁波遮蔽樹脂選別方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0019】
(電磁波遮蔽樹脂)
まず最初に、本実施形態の電磁波遮蔽性能予測方法を好適に適用可能な電磁波遮蔽樹脂について説明する。電磁波遮蔽樹脂は、樹脂に対して、導電性フィラー(導電性繊維)を混合(混練)したものからなる。以下の実施形態では、導電性フィラー(導電性繊維)の一例として、ステンレス繊維を用いた実施形態を例示する。
電磁波遮蔽樹脂を構成する樹脂としては、射出成形が可能な樹脂、例えば熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリ塩化ピニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。
【0020】
ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂等が挙げられる。
ポリアミド樹脂としては、例えば、ナイロン6樹脂、ナイロン46樹脂、ナイロン66樹脂などの脂肪族ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、半芳香族ポリアミド樹脂等が挙げられる。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-プロピレン共重合体樹脂等が挙げられる。
また、上述したような各種樹脂を複数種混合したものも用いることができる。
【0021】
ステンレス繊維は、樹脂に対して導電性を付与することで電磁波遮蔽性を持たせる。ステンレス繊維は、ステンレス鋼を繊維状にしたものであり、ステンレス鋼としては、マルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼、析出硬化系ステンレス鋼等、各種ステンレス鋼を用いることができる。
【0022】
ステンレス繊維の繊維形状は、細線状であり、長さが2mm以上、15mm以下であればよく、複数の長さのステンレス繊維を組み合わせることも好ましい。例えば、長さが2mmのステンレス繊維と、長さが6mmのステンレス繊維とを組み合わせることも好ましい。ステンレス繊維の繊維径(直径)は、例えば、3μm以上、20μm以下の範囲であればよい。
【0023】
ステンレス繊維の樹脂に対する充填率(質量%)は、例えば、2.0質量%以上、4.0質量%以下であればよい。ステンレス繊維の充填率が2.0質量%未満であると、十分な電磁波遮蔽性能が得られない虞がある。また、4.0質量%を超えると、電磁波遮蔽樹脂の製造コストが高くなり過ぎる懸念がある。
【0024】
なお、導電性繊維としては、本実施形態のステンレス繊維以外にも、例えば、黄銅、チタン、錫、亜鉛、ニッケル、インコネルなどをびびり振動切削法で製造した各種金属繊維を用いることができる。また、これらの金属繊維は、表面に別な金属をメッキしたものであってもよい。また、導電性繊維としては、炭素繊維であってもよい。
【0025】
(電磁波遮蔽性能予測方法)
図1は、本発明の一実施形態の電磁波遮蔽性能予測方法、およびこれを用いた電磁波遮蔽樹脂選別方法を段階的に示したフローチャートである。
本実施形態の電磁波遮蔽性能予測方法によって電磁波遮蔽性能を予測する電磁波遮蔽樹脂は、射出成形によって製造される。
電磁波遮蔽樹脂を製造する際には、例えば、射出成形機を用いて、ホッパー内に樹脂とステンレス繊維(導電性繊維)とを含有量が所定量となるように投入し、シリンダ内において、これらを混練するとともに加熱することによって、樹脂にステンレス繊維が混錬した溶融物が形成される。この溶融物を金型内に射出成形することによって、任意の形状の電磁波遮蔽樹脂を得る。
【0026】
このようにして得られた電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能を予測する際には、電磁波遮蔽樹脂の試料片を切り出し、この試料片のX線画像を撮像する(撮像工程S1)。X線画像の撮像は、一般的な透過型X線撮像装置や後方散乱型X線検査装置(X線非破壊検査装置)を用いることができる。
【0027】
図2に、透過型X線非破壊検査装置によって得られた、シート状の電磁波遮蔽樹脂の透過X線画像の一例を示す。
図2に示す透過X線画像(2次元)では、グレーの部分が樹脂部分、黒色の部分がステンレス繊維の絡まった塊になった塊状部分、黒い細片状の部分が塊にならずに解けた状態の単繊維部分を示している。
【0028】
次に、この撮像工程S1で得られた透過X線画像を画像処理ソフトを用いて、ステンレス繊維が複数絡まって塊になった塊状部分、ステンレス繊維が単繊維として存在する単繊維部分、および樹脂である樹脂部分に区分けして、それぞれの部分を画像認識させる(画像解析工程S2)。
【0029】
次に、画像解析工程S2で区分けされたステンレス繊維の単繊維部分について、面積包絡度の標準偏差σを算出する(面積包絡度算出工程S3)。
ここで、本実施形態における面積包絡度について説明する。
面積包絡度(Solidity)は、複雑な3次元の粒子形状を単純化して画像解析に用いる粒子の輪郭パラメータであり、粒子プロファイルの2次元の投影図から算出される。例えば、
図3に示すような2次元の投影図となる粒子A~粒子Dの二次元輪郭の周囲を囲む包絡仮想線Lb(
図3中の点線)で囲まれた面積Sbを測定する。また、粒子Aや粒子Bの二次元輪郭の実際の輪郭線La(
図3中の実線)で囲まれた面積Saを測定する。
【0030】
そして、このSaとSbから、面積包絡度Ss=Sa/Sbで定義される。こうした定義から分かるように、面積包絡度は、粒子の表面の凹凸が少なく平滑(粒子A,粒子B)なほど値が1に近づき、粒子の凹凸が多い(粒子C,粒子D)ほど値が小さくなる。なお、
図3では、点線で示す包絡仮想線Lbと、実線で示す実際の輪郭線Laとが実際には重なる部分は、分かりやすいように互いにずらして描かれている。
【0031】
ステンレス繊維の面積包絡度Ssの測定は、ステンレス繊維の透過X線画像で区分けされた単繊維部分について、画像処理ソフトによってステンレス繊維の包絡仮想線Lbと実際の輪郭線Laとをデータとして得ることにより行うことができる。
【0032】
こうして得られた複数のステンレス繊維の面積包絡度Ssから、面積包絡度の標準偏差σを算出する。例えば、1つの透過X線画像(2次元)に、互いに絡み合っていないステンレス繊維(単繊維部分)がN本写っているときに、それぞれのステンレス繊維の面積包絡度Ssを計算すると、1つの透過X線画像(2次元)について面積包絡度SsがN個得られる。これらN個の面積包絡度Ssから、面積包絡度の標準偏差σを得ることができる。
【0033】
以下、本実施形態の面積包絡度の測定のための透過型X線撮像装置の例、および画像処理ソフトの例を示す。
(1)画像撮影
X線撮像装置:TOSCANER-32300μFD(東芝ITコントロールシステム株式会社)
-撮影条件-
・管電圧:100kV
・管電流:120μm
・積算枚数:256枚
・FPD(Flat Panel Detector)ゲイン:0.5pF
・FPD積分時間:99ms
・FDD(Focus Detector Distance):1000.0mm
・FCD(Focus-to-Centre Distance):678.7mm
・ウィンドウレベル:2844
・ウィンドウ幅:684
【0034】
(2)画像処理
・画像処理ソフトウェア:ImageJ Fiji
・解析手法:TWS(Trainable Weka Segmentation)
-手順-
1.対象画像(例えば
図2に示すような透過X線画像)を全てトリミングする。
2.ステンレス繊維の充填率(質量%)が4質量%の画像を画像処理ソフトウェアで開き、TWSを起動する。
3.ステンレス繊維が絡まった塊部分、塊部分以外のステンレス繊維、樹脂部分をそれぞれ5か所ずつ、画面上で選択する。
4.TWSで分類器を学習する。
5.トリミングした画像に学習した分類器を適用する。
6.1枚の対象画像を塊部分のステンレス繊維、塊部分以外のステンレス繊維、樹脂部分のそれぞれを抽出した画像3枚に分割する。
7.分割した画像それぞれに対して画像処理ソフトウェアで粒子それぞれの面積包絡度を計算する。
8.構成粒子の面積包絡度の標準偏差σを計算する。
【0035】
次に、面積包絡度算出工程S3で得られたステンレス繊維の透過X線画像上での面積包絡度の標準偏差σ、および試料片である電磁波遮蔽樹脂の射出成形時におけるステンレス繊維の充填率F(質量%)から、本発明者が見出した予測式に基づいて電磁波遮蔽性能SE(dB)を予測する(算出工程S4)。
【0036】
算出工程S4における予測式は、以下の式(1)の通りである。
SE(dB)=1000×σ+8.72×F(質量%)-167・・・(1)
【0037】
一方、電磁波遮蔽性能SE(dB)の実測式は、電磁波遮蔽樹脂を設置しない空間の電界強度をE0(V/m)、電磁波遮蔽樹脂を設置した空間の電界強度をE1(V/m)とした時に、以下の式(2)によって示される。
SE=20log(E0/E1)・・・(2)
【0038】
このように、本実施形態によれば、特殊な電磁波遮蔽空間を用意して実際に電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能を測定しなくても、電磁波遮蔽樹脂の透過X線画像から得られるステンレス繊維の面積包絡度の標準偏差σと、電磁波遮蔽樹脂の射出成形時のステンレス繊維の充填率Fから、容易に、かつ正確に電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能SE(dB)を予測することができる。
【0039】
上記式(1)によれば、ステンレス繊維の面積包絡度の標準偏差σの値が大きい方が電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能が大きい。従って、ステンレス繊維が同一の充填率であっても、ステンレス繊維の面積包絡度の標準偏差σの値が大きくなるようなステンレス繊維を選択することにより、電磁波遮蔽性能SE(dB)を向上させることができる。
【0040】
電磁波遮蔽樹脂の射出成形時において、投入するステンレス繊維の長さが長いほど、樹脂との混錬中に屈曲が多くなり、面積包絡度の値が低下するステンレス繊維が増加し、逆にステンレス繊維の長さが短いほど混錬中の屈曲が少なく、面積包絡度の値が大きいまま変化しにくいと考えられている。
【0041】
よって、電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能を向上させるには、上述したようにステンレス繊維の面積包絡度の標準偏差σを増大させることが好ましいので、投入するステンレス繊維は、長さが複数のものを組み合わせることが好ましい。言い換えると、面積包絡度が小さくなりやすい長さステンレス繊維と、面積包絡度が変わりにくく大きいままである短いステンレス繊維や太いステンレス繊維とを複数組み合わせることで、面積包絡度の標準偏差σを増大させることができる。
【0042】
例えば、長さが6mmと2mmのステンレス繊維を組み合わせて投入すれば、長さ6mmのステンレス繊維は、射出成形機のスクリュで裁断されるものが多くなるので、成形後の電磁波遮蔽樹脂に含まれるステンレス繊維の長さは多様化する。更に、長さが2mmのステンレス繊維を投入することで、成形後のステンレス繊維の長さは更に多様化し、ステンレス繊維の面積包絡度の標準偏差σが増大する。これにより、電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能を向上させることができる。
【0043】
以上のように、本実施形態の電磁波遮蔽性能予測方法によれば、射出成形によって得られた電磁波遮蔽樹脂をX線で撮像し、得られたX線画像を画像解析によって塊状部分、単繊維部分、および樹脂部分に区分けして、単繊維部分のステンレス繊維の面積包絡度の標準偏差σと、射出成形時のステンレス繊維の充填率Fから、予測式に基づいて容易に、かつ正確に電磁波遮蔽性能SEを予測することができる。
【0044】
これにより、電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能SEを、コストと時間のかかる実測によらずに予測できるので、例えば、試作品の電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能SEを迅速に予測して、製品の電磁波遮蔽樹脂の製造にフィードバックすることができる。
【0045】
(電磁波遮蔽樹脂選別方法)
本実施形態の電磁波遮蔽樹脂選別方法は、前述した電磁波遮蔽性能予測方法の算出工程S4において式(1)によって算出された電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能SE(dB)と、予め設定された電磁波遮蔽性能の閾値(dB)とを比較し、予測した電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能SE(dB)が閾値(dB)以上であることを判定する選別工程S5を含んでいる。
【0046】
こうした電磁波遮蔽樹脂選別方法の選別工程S5において、電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能SE(dB)が閾値(dB)を下回る場合には、画面上で電磁波遮蔽性能SE(dB)が基準に達していないことを表示したり、記録媒体に記録することができる。
【0047】
電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能SE(dB)は、例えば、0.1MHz~10MHzの周波数帯域において、35dB以上、好ましくは40dB以上、より好ましくは50db以上、更に好ましくは60dB以上である。このため、例えば、閾値は40dBに設定することができる。
【0048】
以上のように、本実施形態の電磁波遮蔽樹脂選別方法によれば、測定に手間とコストが掛かる電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能の実測を行わずに、予測した電磁波遮蔽性能が予め設定した閾値以上である電磁波遮蔽樹脂を選別することができる。
【0049】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0050】
本発明の効果を検証した。
(検証例1)
まず、電磁波遮蔽樹脂における電磁波遮蔽性能に影響を及ぼす要素について、それぞれの要素の影響の度合いを確認した。要素としては、樹脂の組成や射出成形機の成形条件など、454個の要素を抽出し、ここからMI(Materials Informatics)によって電磁波遮蔽性能に影響がある18個の要素を選択し、更にここから累積寄与度が90%を超えるよう、寄与度の上位7個の要素に絞り込んだ。この7個の要素の電磁波遮蔽性能中での寄与度(棒グラフ)を
図4に示す。
図4では寄与度が大きいほど、電磁波遮蔽性能に対する影響度が大きいことを示している。
【0051】
要素としては、ステンレス繊維の面積包絡度の標準偏差σ(A)、ステンレス繊維の樹脂に対する充填率(B)、電磁波遮蔽樹脂の任意の部分の樹脂領域の数(C)、ステンレス繊維の角度(D)、凝集したステンレス繊維の円形度の第1四分位数(E)、凝集したステンレス繊維の円形度(F)、ステンレス繊維の最大幅(G)である。
【0052】
従来は電磁波遮蔽性能に一番影響のある要素は、
図4に示す結果によれば、ステンレス繊維の面積包絡度の標準偏差σ(A)が、ステンレス繊維の樹脂に対する充填率(B)よりも電磁波遮蔽性能に影響が大きいことが判明した。よって、本発明のように、ステンレス繊維の面積包絡度の標準偏差σ、および樹脂に対するステンレス繊維の充填率(質量%)Fを変数にした前述した式(1)を用いることによって、電磁波遮蔽樹脂の電磁波遮蔽性能をほぼ正確に予測することができる。
【0053】
(検証例2)
次に、前述した式(1)基づいて予測された電磁波遮蔽性能(dB)と、実際の電磁波遮蔽性能(dB)との関係を調べた。射出成形時におけるステンレス繊維の充填率F(質量%)は、2.0質量%、4.0質量%、5.6質量%に設定し、同一の成形条件でそれぞれ複数の試料を作製して、実際の電磁波遮蔽性能(dB)の測定、および電磁波遮蔽性能(dB)の予測値の算出を行った。この結果を
図5に示す。なお、
図5において、実線は前述した式(1)に沿った線、この実線の上側の破線および下側の破線は、実線に対してそれぞれ上側95%および下側95%の範囲を示す。
【0054】
図5に示す結果によれば、前述した式(1)基づいて予測された電磁波遮蔽性能(dB)は、実際の電磁波遮蔽性能(dB)に対して、大きく乖離することなくほぼ正確に電磁波遮蔽性能(dB)を予測可能であることが確認できた。