IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人同志社の特許一覧 ▶ ジーエルサイエンス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-試料前処理方法及び分析方法 図1
  • 特許-試料前処理方法及び分析方法 図2
  • 特許-試料前処理方法及び分析方法 図3
  • 特許-試料前処理方法及び分析方法 図4
  • 特許-試料前処理方法及び分析方法 図5
  • 特許-試料前処理方法及び分析方法 図6
  • 特許-試料前処理方法及び分析方法 図7
  • 特許-試料前処理方法及び分析方法 図8
  • 特許-試料前処理方法及び分析方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】試料前処理方法及び分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/06 20060101AFI20240125BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20240125BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20240125BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20240125BHJP
   G01N 30/74 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
G01N30/06 E
G01N30/88 N
G01N30/26 A
B01J20/281 G
G01N30/74 E
G01N30/74 F
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019154083
(22)【出願日】2019-08-26
(65)【公開番号】P2021032749
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(73)【特許権者】
【識別番号】390030188
【氏名又は名称】ジーエルサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100063842
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 三雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118119
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 大典
(72)【発明者】
【氏名】八木 雅之
(72)【発明者】
【氏名】▲崎▼山 智恵子
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 将太
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/132459(WO,A2)
【文献】特開2014-118406(JP,A)
【文献】特開2016-027345(JP,A)
【文献】特開2007-031359(JP,A)
【文献】特許第6002567(JP,B2)
【文献】Measurement of pentosidine in human plasma by high performance liquid chromatography,Glycative Stress Research,2018年
【文献】次世代型シリカモノリスカートリッジカラム MonoTower C18,ジーエルサイエンス株式会社 カタログ,日本,ジーエルサイエンス株式会社,2019年06月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
G01N 27/60 -27/92
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料を、65℃~110℃で、酸加水分解処理し、前記酸加水分解処理された生体試料は濃縮乾固処理を行わないで、前記酸加水分解処理された生体試料に塩基性緩衝液を添加し、モノリス体で構成される固相に添加し、前記酸加水分解処理された生体試料を溶出する、糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法。
【請求項2】
前記塩基性緩衝液は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン水溶液である請求項1に記載の糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法。
【請求項3】
前記モノリス体が、疎水性官能基と陽イオン交換基とを有する請求項1又は2に記載の糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法。
【請求項4】
前記酸加水分解処理された生体試料を前記固相に添加し、揮発性塩及び有機溶媒を含有する溶媒で溶出する工程を備える請求項1から3のうち何れか1項に記載の糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法。
【請求項5】
前記酸加水分解処理された生体試料を前記固相に添加し、揮発性塩を含有する溶媒で溶出し、連続して、揮発性塩及び有機溶媒を含有する溶媒で溶出する請求項4に記載の糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法。
【請求項6】
前記モノリス体がカーボン量20~30wt%、表面積300~400m/g、細孔径5~20nmである請求項1から5のうち何れか1項に記載の糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法。
【請求項7】
前記固相の通液方法が遠心法である請求項1から6のうち何れか1項に記載の糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法。
【請求項8】
前記モノリス体は、疎水性官能基と陽イオン交換基とを有し、前記陽イオン交換基がリンカーを介したグラフト重合により合成されている請求項1から7のうち何れか1項に記載の糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法。
【請求項9】
前記モノリス体は、前記疎水性官能基とリンカー試薬を同時に結合させる工程を含んだ方法により製造された請求項8に記載の糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法。
【請求項10】
前記モノリス体は、シリカモノリス体である請求項1から9のうち何れか1項に記載の糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法。
【請求項11】
前記生体試料が血漿又は血清である請求項1から10のうち何れか1項に記載の糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法。
【請求項12】
前記酸加水分解処理は、塩酸を用いて行う請求項1から11のうち何れか1項に記載の糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法。
【請求項13】
前記糖化最終生成物はペントシジンである請求項1から12のうち何れか1項に記載の糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法。
【請求項14】
請求項1から13のうち何れか1項に記載の試料前処理方法により調製された試料を、液体クロマトグラフィーを用いると共に、UV検出、蛍光検出又は質量分析することを含む糖化最終生成物の分析方法。
【請求項15】
液体クロマトグラフィー溶離液にギ酸を添加する請求項14に記載の糖化最終生成物の分析方法。
【請求項16】
液体クロマトグラフィー用カラム充填剤がC18、C8、C4、Phから選択される1種である請求項14又は15に記載の糖化最終生成物の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料前処理方法及び分析方法に関し、特に、糖化最終生成物(advanced glycation endproducts:AGEs)を分析するために行う糖化最終生成物の前処理方法及び当該前処理方法を用いた糖化最終生成物の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内で蛋白とグルコ-スが非酵素的に反応すると、組織内には糖化最終生成物(advanced glycation endproducts:AGEs)が生成され、蓄積されることが知られている。そして、糖化最終生成物(以下「AGEs」ということもある。)の生体内での蓄積は、糖尿病、炎症、動脈硬化などの発症、進展に関与しているため、AGEsの生体への影響は糖化ストレス(glycative stress)と呼ばれている。
【0003】
AGEsの物理化学的特徴の一つとして、蛍光性を有する化合物の存在が知られており、蛍光性AGEsの多くは、励起波長370nm蛍光波長440nmの条件で特異的な蛍光を持っていると言われている。この性質を利用し、腕や指先に励起光を光源からレンズを通して照射することで、AGEs由来の自家蛍光を取得し、体内に蓄積したAGEsを評価する測定機も開発されている。
【0004】
生体内に存在するAGEsには様々な種類があり、このうちペントシジン(pentosidine)は、分子量が379で、分子内にリジン残基、アルギニン残基およびイミダゾピリジニウム環(imidazopyridinium ring) を持ち、蛍光性(励起波長335nm、蛍光波長385nm)かつ蛋白架橋性を有するAGEsの一種である。生体内でのペントシジンの生成・蓄積は組織のタンパク質を硬化させ、機能を低下させるため、皮膚老化、糖尿病合併症、骨粗鬆症などの進展に関与する。そのため、生体の糖化ストレス評価を目的に血中ペントシジンを精度高く定量することは非常に大きな意義がある。
【0005】
そして、生体の糖化ストレス評価を行うためには、正確でかつ操作し易い測定方法の準備が必要である。現在、血中ペントシジンの測定方法はいくつか提案、実施されており、例えば、ヒト血中ペントシジン測定用に、酵素免疫測定法(enzyme‐linked immuno sorbent assay; ELISA)を用いた測定キットが販売されている(非特許文献1)。
【0006】
又、血液サンプルを加水分解した後、イオン交換カラムで夾雑物を除去し、サンプルをイオンペア法による高速液体クロマトグラフィー(high performanceliquid chromatography; HPLC)で測定する方法(イオンペアHPLC法)が提案されている(非特許文献2)。
【0007】
一方、血液サンプルを加水分解の後、前処理カラムを使用せず、クエン酸を溶離液とした逆相HPLC法によりペントシジンを測定する方法(クエン酸HPLC法)(非特許文献3)は、前処理時のカラム精製が不要なため、測定時間の短縮、サンプル回収率の安定化による分析精度向上の可能性があった。
【0008】
更に、上述の前処理カラムを使用しないクエン酸HPLC法の前処理条件とカラム温度の最適化に関する提案もされていた。具体的には、AGEs測定の前処理は、血漿サンプルを水素化ホウ素ナトリウムによる蛋白中アミノ酸残基の保護後、トリクロロ酢酸によるタンパク質沈殿を行い、水に再溶解し、6N塩酸を添加後に酸加水分解(105℃、18時間)、濃縮乾固(遠心減圧乾燥)、0.1Mクエン酸(pH2.0)に再溶解する。その後逆相カラムを用いて、カラム温度を20℃とし、クエン酸を溶離液としたHPLC測定を行う分析方法も提案されていた(非特許文献4)。
【0009】
AGEs測定の前処理には、生体試料を加水分解する必要がある。この際の温度として、65~100℃で6~24時間で処理することが提案されている(特許文献1、非特許文献5)。更に、生体試料を分解した後には、スチレン、アクリル系などポリマーを母体にした強陽イオン交換基を有する充填剤固相、言い換えれば強酸性陽イオン交換樹脂を用いた前処理方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第6002567号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Nakao M et.al. Amino Acids.2013; 44: 1451-1456
【文献】大野礼一他 JMARS News Letter. 2015; 15:6-8
【文献】Scheijen JL et.al. J Chromatogr B 2009; 877:610-614
【文献】Yagi M et.al. Glycative Stress Research. 2018;5: 119-128
【文献】市川和宏他 日本農芸化学誌 1959, 33巻12号p1044-1048
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
非特許文献1に記載された、ヒト血中ペントシジン測定のための、酵素免疫測定法(ELISA)では、前処理段階において加熱処理があるため、熱処理によって人為的に生成したペントシジンの影響により、測定値が高値化する可能性があるという問題点があった。
【0013】
又、非特許文献2に記載された、イオンペアHPLC法は、実験操作が煩雑で、サンプルの前処理において長い時間が必要であり、サンプル回収率が低下してしまうという問題点があった。
【0014】
又、非特許文献3及び4に記載された、クエン酸HPLC法は、前処理時のカラム精製が不要なため、測定時間の短縮、サンプル回収率の安定化による分析精度向上の可能性があったが、HPLCカラムの平衡化などを含めたトータルの分析時間、前処理を行わないことによる分析精度に問題があった。又、非特許文献4の手法では、24検体を分析する場合に、前処理での濃縮乾固処理に4~5時間を要し、又、HPLC測定も平衡化などを加えると1検体あたり1時間程度かかるため、24検体では24時間を要していた。このように分析を行う前処理部分において、操作が煩雑であり、濃縮乾固に時間がかかるため、精度と時間に改良が求められている。
【0015】
又、特許文献1に記載された方法において使用される充填剤固相には、陽イオン交換基が結合されているが、疎水性官能基は結合されていない。そのため、精製の目的物質の物性にあわせた化学的修飾剤が充分ではなく、目的物質の精製の精度が充分ではなかった。
【0016】
ここでいう前処理時のカラム精製とは、固相抽出法を用いた精製のことであり、従来の粒径の大きな粒子を詰めたカラムクロマトグラフィーや薄層クロマトグラフィーなどの煩雑で特別な装置や技術を必要とする方法に代わって、粒子充填剤をカートリッジカラムに充填した方法が確立されている。この方法により前処理工程の簡便性、迅速性は格段に上昇したが、依然として微量且つ少量の成分を処理するにあたっては、多くの課題を抱えている。尚、固相抽出法とは、複雑な成分を含む試料中から目的成分のみを選択的に吸着、保持することにより分離精製を行う方法である。
【0017】
このように、従来、前処理に使用する固相カラムは、粒子充填剤として破砕形或いは数十マイクロメートルの粉体を用いており、樹脂製(主にポリプロピレン製)のリザーバーに充填して使用していた。そして、粉体が溶出液中に逸脱することを防ぐために、分離にはかかわらないフリットといわれるフィルターで粉体を挟んでおり、乾式で充填を行っていた。しかし、乾式充填によって充填された粉体の充填状態は、HPLC用カラムのように高密度に充填されているわけではないため、フィルターを用いた粉体逸脱防止法では、振動や衝撃、急激な圧力変化に伴い、上部フリットと粉体上部との間に隙間が生じたり、粉体のフィルターからの逸脱や流出も見られるため、高流速での使用や安定した抽出回収率を得ることは困難であった。そのため、生体中の微量成分の前処理時間を短縮化することは出来なかった。又、カラムの上下にフリットを配置する形状では、カラム容量が小さくなるほど、フリットの体積が占める割合が大きくなるため、生体試料を扱う場合、自然落下法やバキューム法では、フィルター内部に処理時に用いる溶液や溶出時の目的成分が残存してしまうことが多く、特に微量成分の場合は、目的成分の大きなロスに繋がっていた。
【0018】
そして、この固相抽出法の前処理における問題点は、溶出時に十分な溶出液を用いることにより解決することが可能であるが、この方法では、試料を希釈することとなり、後の検出操作での感度低下をもたらす原因となってしまう。その原因を解消する為に、溶出後に溶出液を濃縮乾固することも可能だが、濃縮乾固する場合には長い時間がかかるという問題点があった。
【0019】
そこで、糖化ストレス評価法としての生体由来AGEsの分析方法、及びそれを可能にする試料調製方法の短時間化及び簡便化が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するための手段としての本発明は、生体試料を酸加水分解処理した後、モノリス体に逆相官能基及び陽イオン交換基を有する固相を用いて精製し、得られた試料をギ酸を添加した移動相を用いたHPLC分析にかける方法であり、この方法により従来より分析時間を大幅に短縮し、高感度且つ高精度でAGEsを分析することが出来た。尚、試料は酸加水分解処理した後に濃縮乾固してもよいが、しなくてもよい。又は、試料を固相を用いて精製し、得られた試料を濃縮乾固してもよいが、しなくてもよい。
【0021】
即ち、本発明は、AGEsのための試料調製方法と分析方法であって、生体試料を酸加水分解処理した後、モノリス体に逆相官能基および陽イオン交換基を有する固相を用いて精製する試料調製方法である。尚、試料は酸加水分解処理した後に濃縮乾固してもよいが、しなくてもよい。又、本発明は、上記試料調製方法により調製された試料を、移動相、好ましくはギ酸を添加した移動相を用いたHPLC-UV、蛍光検出器、質量分析計にて分析することを含むAGEsの分析方法である。
【0022】
具体的には、生体試料を、65℃~110℃で、酸加水分解処理し、前記酸加水分解処理された生体試料をモノリス体で構成される固相に添加し、溶出する、糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法である。
【0023】
又、上記試料前処理方法において、前記酸加水分解処理された生体試料に塩基性緩衝液を添加し、前記固相に添加する糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法である。
【0024】
又、上記試料前処理方法において、前記塩基性緩衝液は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン水溶液である糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法である。
【0025】
又、上記試料前処理方法において、前記モノリス体が、疎水性官能基と陽イオン交換基とを有する糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法である。
【0026】
又、上記試料前処理方法において、前記酸加水分解処理された生体試料を前記固相に添加し、揮発性塩及び有機溶媒を含有する溶媒で溶出する工程を備える糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法である。
【0027】
又、上記試料前処理方法において、前記酸加水分解処理された生体試料を前記固相に添加し、揮発性塩を含有する溶媒で溶出し、連続して、揮発性塩及び有機溶媒を含有する溶媒で溶出する糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法である。
【0028】
又、上記試料前処理方法において、前記モノリス体がカーボン量20~30wt%、表面積300~400m/g、細孔径5~20nmである糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法である。
【0029】
又、上記試料前処理方法において、前記固相の通液方法が遠心法である糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法である。
【0030】
又、上記試料前処理方法において、前記酸加水分解処理された生体試料を濃縮乾固処理を行わないで前記固相に添加する糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法である。
【0031】
又、上記試料前処理方法において、前記モノリス体は、前記陽イオン交換基がリンカーを介したグラフト重合により合成されている糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法である。
【0032】
又、上記試料前処理方法において、前記モノリス体は、疎水性官能基とリンカー試薬を同時に結合させる工程を含んだ方法により製造された糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法である。
【0033】
又、上記試料前処理方法において、前記モノリス体は、シリカモノリス体である糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法である。
【0034】
又、上記試料前処理方法において、前記生体試料が血漿又は血清である糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法である。
【0035】
又、上記試料前処理方法において、前記酸加水分解処理は、塩酸を用いて行う糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法である。
【0036】
又、上記試料前処理方法において、前記糖化最終生成物はペントシジンである糖化最終生成物の分析のための試料前処理方法である。
【0037】
又、上記試料前処理方法により調製された試料を、液体クロマトグラフィーを用いると共に、UV検出、蛍光検出又は質量分析することを含む糖化最終生成物の分析方法である。
【0038】
又、上記分析方法において、液体クロマトグラフィー溶離液にギ酸を添加する糖化最終生成物の分析方法である。
【0039】
又、上記分析方法において、液体クロマトグラフィー用カラム充填剤がC18、C8、C4、Phから選択される1種である糖化最終生成物の分析方法である。
【発明の効果】
【0040】
本発明の試料前処理方法により、AGEsの試料調製から分析までの時間を短縮化することが可能となった。又、モノリス体に目的物質の物性にあわせて、疎水性官能基及び陽イオン交換基を有する固相を用いてAGEsを前処理、即ち精製することにより、夾雑ピークを除去することが出来、高精度且つ高感度なAGEsの分析が可能となった。又、分析カラム選択による時間短縮も可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】官能基で修飾したモノリス体で前処理したシリカモノリス体のペントシジンの吸着可能性を示すクロマトグラム
図2】溶出効率の比較を示すグラフ図
図3】本発明方法と比較例との分析時間の比較を示すクロマトグラム
図4】本発明方法の分析時間を示すクロマトグラム
図5】遠心減圧乾燥の有無の相違による工程の相違点を示す工程図
図6】希釈液の最適化を検討する工程図
図7】希釈液種によるピーク面積再現性を示すクロマトグラム
図8】希釈液種によるペントシジン回収量を示す図
図9】本発明に用いるスピンカラムの一実施例斜視図
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明は、AGEsの分析のための試料前処理方法であって、生体試料を、65℃~110℃で、酸を用いて加水分解処理し、酸加水分解処理した生体試料をモノリス体、例えばシリカモノリス体で構成される固相に添加し、溶出して、AGEsの分析のための試料を調製する方法である。又、本発明は、この試料前処理方法で調製された試料を、液体クロマトグラフィーを用いて分析するAGEsの分析方法であり、AGEsを分析する。
【0043】
モノリス体とは、三次元網状の骨格構造を備え、一方の端部から他方の端部に連続し、且つ相互に連通する貫通孔(以下「スルーポア」ということもある。)と、貫通孔内に貫通孔より小径であって貫通孔間に連通する又は連通しない細孔(以下「メソポア」ということもある。)を有した、単一の多孔質体の構造物である。貫通孔は相互に連通し、モノリス体の上端から下端まで貫通した構造である。モノリス体としては、貫通孔が連続的かつ規則正しく三次元網目構造を形成しているものが好ましいが、これに限定されない。尚、貫通孔はモノリス体の軸と直行する方向の断面が円形又はそれに近いものが好ましい。
【0044】
モノリス体の原料は、特に限定されないが、多孔質セラミックや多孔質ガラスなどの無機質が望ましい。多孔質セラミックの例としては、特に限定されないが、シリカやチタン、ジルコニウム、ハフニウムなどの4族元素化合物、アルミナシリケート質A(硬磁気粒子を燒結したもの)、けい砂質、アルミナ質、アルミナシリケート質B(シャモット粒子を燒結したもの)、多孔質ムライト質、けいそう土質のもの等から選択することが出来る。この場合の製造方法として、例えば、一定範囲の粒子径の陶磁器粒子(硬磁気粉砕物、シリカ、アルミナ、シャモットなど)と気孔形成材、例えば結晶セルロ-スと適当な分散溶媒と混合・成形・燒結して製造することが出来る。
【0045】
多孔質ガラスの例としては、特に限定されないが、組成がNaO-B-SiO-CaO系のものが挙げられ、A1、ZrO、ZnO、TiO、SnO、MgOなど種々の酸化物を添加したガラスを用いて製造する場合もある。この場合の製造方法として、例えば、けい砂、硼酸、ソ-ダ灰及びアルミナを混合し、1200~1400℃に溶融し、これを800~110℃にて成形後、未分相硼けいガラスを得、熱処理によりSiO相とB-NaO-CaO相に分相させ、酸処理によってSiO骨格を残して製造することが出来る。モノリス体の原料が無機質の場合、熱処理時の条件を変化させることにより、細孔分布の均一なものが製造可能である。
【0046】
このように、モノリス体の原料は特に限定されないが、生体試料成分の場合はモノリス体を形成する原料により、非対象物の吸着が生じる場合があり、固相抽出など実績のあるSi骨格のものが好ましい。例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等を原料として製造されるシリカモノリス体が好ましく、又、これらの原料を単独又は混合してから行うゾル-ゲル合成により製造されるシリカモノリス体が好ましい。
【0047】
シリカモノリス体の製造は、特に限定されないが、以下のように行うことが出来る。水溶性高分子を酢酸水溶液に溶解し、この溶液に上記原料加えて加水分解反応を行って攪拌した後に得られた溶液を固化させる。そして、固化したゲルをアンモニア水溶液中に浸漬した後、乾燥し、加熱することによって、非晶質シリカよりなる多孔質のモノリス体を得る。尚、アンモニア溶液浸漬の温度が高いほど大きいメソポアが得られ、温度コントロールによりメソポアの大きさは自由に変化させることが可能である。又、上記原材料比や固化時の温度によってスルーポアもコントロール可能である。
【0048】
又、モノリス体として、耐薬品性やアルカリ性溶媒への耐久性が高く、多種な種類がある、高分子物質を原料とした多孔性有機ポリマーモノリス体を用いることが出来る。多孔性有機ポリマーモノリス体の材質は、特に限定されるものではないが、疎水性とカチオン交換基、好ましくはスルホン酸基をもつ樹脂を用いることができる。具体的には、スチレンージビニルベンゼン系、メタクリル酸エステル系、アクリルアミド系などの共重合体が挙げられる。これらの共重合体にカチオン交換基を導入したものなど多機能なものであってもよい。多孔性有機ポリマーモノリス体を構成するモノマーは、共重合体を有するものであれば特に限定されず、目的に適合したモノマーを選択すればよい。
【0049】
これらに限定されるものではないが、例をあげれば、エチルメタクリレート、n‐オクチルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル、スチレン、2‐アクリルアミド‐2‐メチルプロパンスルホン酸等のイオン交換基を有するものを用いることが出来、ジビニルベンゼンやエチレンジメタクリレート等の架橋剤と重合させるだけで逆相ポリマーモノリス体やイオン交換モノリス体をワンステップで調製することが出来る。またモノマーの配合割合を調節することで、疎水性やイオン交換容量を制御することが出来る。又、多孔性有機ポリマーモノリス体のスルーポアサイズや孔の均一性を制御するパラメーターとしては、モノマーを溶解するポロゲンの配合割合や溶媒種、モノマー濃度、架橋剤や重合開始剤の割合、重合温度が挙げられる。
【0050】
モノリス体は、液体の流れる貫通孔であるスルーポアが、直径1~50μmが好ましい。基本的にはスルーポア径が小さいほど、接触回数が増えるが、液体を流す際の通液抵抗も上昇する。遠心機を用いる場合には、スルーポアの直径は1~10μmが好ましい。モノリス体の骨格表面にあるメソポアは、直径5nm以下のノンポーラスから直径100nm程度が好ましいが、低分子の生体試料成分を処理対象とする場合は、メソポアの直径は5~20nm程度の細孔がより好ましい。又、モノリス体は表面積300m/g~400m/gとすることが好ましい。
【0051】
モノリス体を用いる利点としては、以下の点を挙げることが出来る。先ず、モノリス体は3次元網状構造を備えることから、ろ過膜と同様な機能を有しているので、試料をろ過膜を通して濾過処理を行う工程や遠心分離により不溶物を除去する工程を省略することが出来る。
【0052】
又、モノリス体は、粒子充填剤とは異なり、一体型の形状であるため、粒子充填剤に比べて機械的強度が高いことから、固相の通液方法として遠心分離機を用いた遠心法を使用することが出来るので、粒子充填剤を用いる場合と比較して、短時間に並列な試料の処理が可能であると共に、固相により精製を行う際にかかる時間も短縮化することが出来る。又、モノリス体は、遠心法を使用することが出来るので、バキューム法を使用した場合のように吸引速度をポンプで調製する必要がないため、初心者でも扱いやすく、作業者による回収率の差が生じ難い。特に生体試料のような微量の試料を扱う作業では、再現性が特に難しくなるが、粒子充填剤に比べてモノリス体を用いることにより、再現性の差を生じ難くすることが出来る。
【0053】
更に、粒子充填剤を用いた固相では、充填剤を固相カートリッジに封入するためのフリットが必要であり、このフリットがデットボリュームとなる。又、バキュ-ム法では、フリット部分での液残りが大きな問題となっている。そして、固相容量が小さくなるほどこのデットボリュームの割合は大きくなり、回収率への影響は大きくなる。又、生体試料は、固相通液時に泡が発生しやすく、飛散などコンタミネーションの原因になりやすい。一方、モノリス体を用いた固相を用いることにより、遠心法を採用することが出来、遠心法では、下部に重力がかかるため、消泡作用も期待することが出来る。また試料量に対して希釈することなく、良好な回収率を可能にすることが出来る。従って、本発明では、操作性、操作時間、回収率の観点から、モノリス体を用いた遠心法による固相処理が好ましい。
【0054】
モノリス体は、従来の充填剤に用いられている、試料の精製に適したコ-ティング剤及び/又は化学的修飾剤を適用してスルーポア及びメソポアの表面を修飾、改質することが出来る。
【0055】
固相としてSi骨格のシリカモノリス体を用いることにより、目的物質の物性にあわせて、疎水性官能基を選択して結合させることが出来る。本発明で使用するモノリス固相に使用する疎水性官能基としては、特に限定されず、従来固相に用いられているオクタデシル基、オクチル基、ブチル基、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基、トリアコンチル基、オクタコシル基等を使用することが出来るが、オクタデシル基が好ましい。
【0056】
疎水性官能基のシリカモノリス体の表面へ修飾する表面処理をオクタデシル基を例に説明するが、この方法に限定されるものではない。先ず、シリカモノリス体を所定厚に切断し、減圧乾燥させる。乾燥させたシリカモノリス体に対してオクタデシルトリメトキシシラン、特級ヘキサンをLナス型フラスコに入れ、減圧にしながら超音波をあて、シリカモノリス体のメソポア内の空気を除去しながら、溶解し、混合する。混合後、ヘキサンを飛ばし、その後、シリカモノリス体を密閉容器に入れ、窒素パージを行った後、加熱して反応させる。反応後、シリカモノリス体を超音波洗浄し、デカンテーション破棄を繰り返した後、減圧乾燥を行う。
【0057】
又、陽イオン交換基としては、特に限定されず、従来固相に用いられている陽イオン交換基を使用することが出来、例えば、2-(4-クロロスルフォニルフェニル)エチルクロロシランや2-(4-クロロスルフォニルフェニル)エチルトリメトキシシラン等シラン剤から出発するベンゼンスルホン酸を使用することが出来るが、スルホン酸型陽イオン交換基が好ましい。特に、リンカーを介したグラフト重合により製造され、多くのスルホン酸型陽イオン交換基を有するモノリス体が、試料の吸着性が向上するので好ましい。
【0058】
陽イオン交換基のシリカモノリス体の表面へ修飾する表面処理をp-スチレンスルホン酸ナトリウムを用いた例で説明するが、この方法に限定されるものではない。先ず、p-スチレンスルホン酸ナトリウムに蒸留水を添加し、分散させ、温め、試薬を完全に溶解させる。溶液が室温25℃まで下がるまで静置する。メタノ-ル溶液を加え、0.2gのペルオキソ2硫酸アンモニウムを添加し、溶解する。上記混合溶液に対して、リンカー結合処理を施したシリカモノリス体を投入し、超音波をあてながら、脱気を行い、メソポア内の空気を除去した後、密閉容器に入れ、反応させる。反応後、反応液をデカンテーションにより除去し、シリカモノリス体を洗浄し、減圧乾燥を行う。
【0059】
グラフト重合は公知の方法で行うことが出来、これらに限定されないが、例えば、シリカモノリス体に3-メタクリルアミドプロピルトリエトキシシラン或いは3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランをリンカーとして導入し、モノマーとしてアリールメタクリレート、同アクリレートをはじめとする不飽和エステル類、不飽和アミド類、スチレン、ビニル化合物、アリル化合物を重合させる方法で行うことが出来る。
【0060】
特に陽イオン交換ポリマーとしては、p-スチレンスルホン酸ナトリウムを用いることができるが、これに限定されない。又、開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウム、ペルオキソ2硫酸アンモニウムなどを使用することができ、重合反応は、温度20~80℃、時間1~24時間で行うことが出来る。
【0061】
疎水性官能基と陽イオン交換基を同時にもつゲル合成では、オクタデシル基結合反応、リンカー結合反応、陽イオン交換基のグラフト重合反応と3段階でもよいし、時間的負担を減少させるために、リンカー試薬と疎水性官能基試薬を同時に結合させる反応工程を行った後に陽イオン交換基のグラフト重合を行う工程を行ってもよい。
【0062】
AGEsのひとつであるペントシジンを精製する場合、スルホン酸型官能基のみを有したモノリス体を使用すると、スルホン酸型官能基の数が多いために強い吸着が認められ、オクタデシル基を同時に有するモノリス体よりも溶出効率が悪くなる。
【0063】
このように、モノリス体、詳しくはSi骨格のシリカモノリス体が、疎水性官能基と陽イオン交換基を同時に有することで、試料の回収率の向上が認められるので、モノリス体はSi骨格のシリカモノリス体が好ましい。又、シリカモノリス体は炭素量20~30%、表面積300m/g~400m/g、細孔径5~20nmとすることが好ましい。このような構成とすることで、AGEsの目的物質として用いたペントシジンにおいて92%以上の良好な回収率を示す。
【0064】
モノリス体は、図9に示すように、モノリス体3をポリプロピレン製等の空のカラム2へ挿入し、超音波融着法又は熱圧入法等にてスピンカラム1を作成して用いてもよい。
【0065】
本発明の試料前処理方法で調製される試料及び分析方法により分析される試料は、AGEs(advanced glycation endproducts)を含有している。AGEsとしては特に限定されないが、例えば、ペントシジン、アルグピリミジン、クロスリン、ピロピリジン、イミダゾロン、ピラリン、カルボキシメチルリジン(CML)、カルボキシエチルリジン(CEL)カルボキシメチルアルギニン(CMA)、ベスパリジンGA‐ピリジン、GOLD、MOLD、DOLD、GLAP、グルコスパン、MG‐H1、G‐H、3DG‐H、CMC等が挙げられる。又、上記AGEsの中で、ペントシジン、クロスリン、ピロピリジン、ベスパリジンは蛍光性を有することで知られている。
【0066】
本発明の試料前処理方法の処理の流れを説明する。先ず、生体試料を蛋白中アミノ酸残基保護のために水素化ホウ素ナトリウムによる処理を行う。続いて、生体試料をタンパク分解酵素や酸などを用いて分解する工程を経る。生体試料は、健常者から採取されたものでも患者から採取されたものでもよい。生体試料は、生体から採取されたあらゆる細胞、組織及び体液を含み、例えば、筋肉、骨、脂肪組織、血管、リンパ、血液、全血、血清、血漿、唾液、尿、毛髪、皮膚組織、爪等が含まれる。これらのうち、採取が容易な生体試料として血漿、血清、毛髪、皮膚角層、爪を使用することが好ましい。
【0067】
酸加水分解に使用される酸は、有機酸でも無機酸でもよいが、塩酸が好ましい。酸加水分解に使用される酸の量、反応時間及び温度条件は、生体試料を十分に溶解できる条件且つ反応が進む温度であれば特に限定されず、使用する生体試料や酸の種類に応じて適宜決定することが出来る。酸加水分解の一具体例としては、血漿100μLに対して、6N塩酸を100μL添加し、酸加水分解温度は、65~110℃で6~24時間処理して行うことが出来る。
【0068】
酸加水分解された生体試料は、図5及び図6に示すように、遠心減圧乾燥による濃縮乾固処理を行い、適した溶媒に再溶解する溶媒置換を行い、固相により精製を行う(図5左側、図6左ルート)。しかし、この方法では、4~5時間の大幅な時間ロスに繋がるので、時間短縮をするために、エバポレーター等による濃縮乾固処理(遠心減圧乾燥)を行わずに、酸加水分解された生体試料に、塩基性緩衝液、好ましくはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(以下「Tris」という。)水溶液等のアルカリを添加して塩酸濃度等の酸濃度を下げ、直接モノリス体に添加して精製を行うことが好ましい(図5右側、図6右ルート)。
【0069】
又、酸加水分解後の希釈には、Tris‐baseのような塩基性を示し、且つナトリウムイオンを含まないアンモニウム塩型の化合物が好ましい。ナトリウムイオンを含むと試料の回収が安定しないが、Trisを含むと試料の回収が安定するからである。尚、添加する塩基性緩衝液は、特に限定されないが、酸加水分解で使用された酸と等量とすることが出来、又、Tris水溶液は1.5Mとすることが出来る。更に、疎水性官能基(逆相官能基)及び陽イオン交換基を有するモノリス体で構成される固相に添加して精製を行うことがより好ましい。酸加水分解された試料の精製は、固相としてのモノリス体に試料を添加した後に、モノリス体を洗浄し、吸着した物質を溶出させ、溶出液を回収することにより行う。
【0070】
疎水性官能基(逆相官能基)と陽イオン官能基を同時に有するモノリス体の固相は、酸加水分解処理した試料を添加する前に、予め有機酸であるクエン酸やギ酸水溶液等にて洗浄及び平衡化しておくことが好ましい。例えば、0.1Mクエン酸水溶液/アセトニトリル(990/10)200μL又は0.1Mギ酸水溶液/アセトニトリル(990/10)200μLにて洗浄し、次に0.1Mクエン酸水溶液400μL又は0.1Mギ酸水溶液400μLにて平衡化するとよい。
【0071】
そして、酸加水分解処理した試料を塩基性緩衝液、好ましくはアンモニウム塩緩衝液である1.5M Tris水溶液にて混和し、モノリス体に添加し、通液させる。モノリス体に添加した試料中のAGEsを含む目的物質は、疎水性官能基と陽イオン交換を同時に有するモノリス体の固相に吸着する。
【0072】
次いで、目的物質が吸着したモノリス体を洗浄する。洗浄は、例えば0.1Mクエン酸水溶液500μL又は0.1Mギ酸水溶液500μLで洗浄する。この際夾雑物の除去を目的にアセトニトリルやメタノールの濃度を変更してもよい。この洗浄により夾雑物が除去され、溶出条件にて目的物質を選択的に回収することが出来る。
【0073】
溶出液は、特に限定されないが、溶出は非酸性条件下で行うことが望ましいので、例えば、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウムなどの揮発性塩が好ましく、これらの揮発性塩に有機溶媒を加えた溶出液も好ましい。有機溶媒は、特に限定されないが、アセトニトリル等を使用することが出来る。溶出は、例えば、150μLの試料を固相に添加した場合、これに限定されないが、1Mギ酸アンモニウム水溶液(pH6.5)150μL又は1Mギ酸アンモニウム水溶液/アセトニトリル(50/50(V/V))150μLを用いて1回で溶出してもよい。又、1回で溶出するのではなく、複数回で溶出することとしてもよい。例えば、これに限定されないが、1Mギ酸アンモニウム水溶液(pH6.5)75μLで1回目の溶出をし、更に1Mギ酸アンモニウム水溶液/アセトニトリル(50/50(V/V))75μLで2回目の溶出をし、或いは1Mギ酸アンモニウム水溶液/アセトニトリル(50/50(V/V))75μLで1回目の溶出をし、1Mギ酸アンモニウム水溶液(pH6.5)75μLで2回目の溶出をして連続的に溶出しても良い。尚、固相に添加する試料溶液の量と溶出時に用いる溶出液の全量は異なる量でもよいが、溶出液の量が多いと、溶出後に試料の濃縮が必要になるので、溶出液の全量を等量程度とすることが好ましい。
【0074】
上記の手順により精製された試料は、AGEs分析に適切な形態へと調製され、分析へと供される。
【0075】
AGEs分析の方法は、液体クロマトグラフィーとUV検出器を用いたUV検出、蛍光検出器を用いた蛍光検出又は質量分析計を用いた質量分析との組み合わせが好ましい。サンプルやサンプル濃度、必要データによって検出器は使い分けることが好ましい。又、HPLCカラムの固定相としては、逆相充填剤として使用されている、オクタデシル基、オクチル基、ブチル基、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基、トリアコンチル基又はオクタコシル基を有する充填剤を利用することが出来るが、これらに限定されない。そして、特に夾雑物との分離、AGEsの保持時間を重視し、HPLCカラムの充填剤を適宜選択することが出来る。例えば、HPLCカラムは、これに限定されないが、オクタデシル基結合型シリカゲル充填カラムで、粒子径が1.5~7μm、修飾後のシリカゲルの炭素量が5~16%、表面積200~500m/g、細孔径が8~30nmであるカラムを用いることが出来る。
【0076】
液体クロマトグラフィーと質量分析計の組み合わせでは、HPLCに使用する移動相に添加する揮発性の酸や塩はイオンサプレッションを引き起こさないものに限定される。そのため移動相は、クエン酸を用いることも出来るが、0.1%~0.5%程度のギ酸添加等が好ましい。例えば、移動相をクエン酸とアセトニトリル又はギ酸とアセトニトリルを用いてステップグラジエントで溶出させることが出来る。又、ギ酸を用いることで、試料溶出後の洗浄及び平衡化に要する時間を短縮することが可能となる。液体クロマトグラフィーと検出器によるAGEsの測定条件は、目的とするAGEsの種類や、機器の型、試料の状態によって、通常の知識に則って適宜設定することが出来る。上記手順で測定された試料中のAGEsに関する測定値を、同様の手順で測定された標準物質からの測定値と比較することによって、生体由来のAGEsを定量することが出来る。具体的には、所定濃度のAGEsを含有する標準溶液から測定結果に基づいて、検量線を作成する。また、カラムスイッチング法等を用い、AGEsの固相抽出処理を自動化することが出来れば、前処理から分析までを自動化(オンライン化)することも可能となる。
【実施例
【0077】
(試薬・機器)
以下の実施例1~6において、試薬としては、ペントシジンの標準物質にはPolypeptide社(フランス)のpentosidine‐トリフルオロ酢酸(TFA)塩を使用した。クエン酸は、和光純薬工業社製のものを使用した。ギ酸は和光純薬工業社製のものを使用した。血液サンプルの加水分解には35%塩酸(和光純薬工業)又は無鉄塩酸(hydrochroric Acid(35%) Fe free:ナカライテスク)を使用した。アセトニトリルは、HPLC用を使用した。装置は、HPLC Prominence システム(on‐line degassing unit:DGU20A3、pump unit with low‐pressure gradient unit:LC20AT、auto‐sampler:SIL20AC、column oven:CTO20AC、fluorescence detector:RF20Axs)及びデータ解析システム(LC solution:島津製作所)又は、Gulliver&EXTREMA HPLCシステム(3-line degasser:DG-980-50、Ternary gradient unit:LG-1580-02、Intelligent HPLC pump:PU-980、Intelligent sampler:AS-2057-Plus、Fluorescence detector:FP-4020、Column oven:CO-4020)及びデータ解析システム(ChromNAV:日本分光)を使用した。
【0078】
(シリカモノリス体の合成)
以下の実施例1~6において使用するシリカモノリス体は、以下のようにして形成した。水溶性高分子であるポリエチレンオキシド0.70gを0.001N酢酸水溶液10gに溶解し、この溶液にテトラメトキシシラン5mLを攪拌下で加えて加水分解反応を行った。数分攪拌した後に得られた透明溶液を密閉容器に移し、40℃の恒温槽中で固化させた。固化したゲルを数時間熟成させ、0.1Nアンモニア水溶液中に、40℃で1日毎に溶液を交換しながら3日間浸漬した。この後、ゲルを60℃で乾燥し、100℃/hの昇温速度で600℃まで加熱した。これによって非晶質シリカよりなる多孔質のモノリス体を得た。得られた多孔質のシリカモノリス体は、水銀圧入測定及び窒素吸着測定により、中心孔径5μm程度の貫通孔(スルーポア)、10nm程度の細孔(メソポア)が多数存在していることが確認され、表面積は350m/gであることが分かった。
【0079】
(表面処理)
シリカモノリス体へのオクタデシル基及び強陽イオン交換基の修飾は以下の方法で行った。表面処理として、オクタデシル基とリンカーの同時修飾は以下ように行った。先ず、上記のようにして得られたシリカモノリス体を1.5mm厚でダイアモンドカッターにて機械的に切断し、80℃で2日間減圧乾燥させた。乾燥させたシリカモノリス体1gに対してオクタデシルトリメトキシシラン1g、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.2g、特級ヘキサン3gを300mLナス型フラスコに入れ、減圧にしながら超音波をあて、メソポア内の空気を除去しながら、溶解し、混合した。混合後、70℃でロータリーエバポレーターによりヘキサンを飛ばした。その後、シリカモノリス体をステンレス製の密閉容器に入れ、窒素パージを行った後、200℃、10時間反応させた。反応後、シリカモノリス体をヘキサン50mLで2回、アセトン50mL1回で超音波洗浄し、デカンテーション破棄を繰り返した後、70℃で減圧乾燥を1日行った。
【0080】
更なる表面処理として、強陽イオン交換基(SCX)の修飾は以下のように行った。先ず、p-スチレンスルホン酸ナトリウム3gに蒸留水12mLを添加し、分散させた。60℃のお湯で温め、試薬を完全に溶解させた。溶液が室温25℃まで下がるまで静置した。8mLのメタノール溶液を加え、0.2gのペルオキソ2硫酸アンモニウムを添加し、溶解した。上記混合溶液20mLに対して、上記のようにして得られた、オクタデシル基結合とリンカー導入されたシリカモノリス体1gを投入し、超音波をあてながら、脱気を行い、メソポア内の空気を除去した後、密閉容器に入れ、60℃で15時間反応させた。反応後、反応液をデカンテーションにより除去し、シリカモノリス体を50%メタノール水溶液50mLで2回、水50mLで1回、アセトン50mLで1回、夫々超音波をあてながら洗浄し、70℃で減圧乾燥を行った。乾燥後TG測定を行った結果、カーボン量は25wt%であった。
【0081】
(スピンカラムの作成)
以下の実施例1~6においてシリカモノリス体を用いる時にはスピンカラムを用いた。スピンカラムは、直径約4.3mm×厚み1.5mmの上記シリカモノリス体3を、ポリプロピレン製の空のカラム2へ挿入し、超音波融着法にて、図9に示すスピンカラム1を作成した。
【実施例1】
【0082】
(試料・機器)
血漿サンプル50μLに0.2M水素化ホウ素ナトリウム溶液(pH9.5)250μLを添加、30分間室温にて静置し、アミノ基の保護処理をおこなった。次に、処理済みサンプル300μLに20%トリクロロ酢酸1mLを添加し、15分間氷冷後に遠心分離を行い、上清を除去した。そして、沈殿に5%トリクロロ酢酸1mLを添加し、15分間氷冷後に遠心分離を行い、上清を除去した。その後沈殿に蒸留水100μLを添加し懸濁させた。次に、トリクロロ酢酸沈殿後懸濁試料100μLに6N塩酸100μLを添加し酸加水分解(105℃、18時間)をおこなった。そして、遠心エバポレーターで乾固し、0.1Mクエン酸400μLにて再溶解した。この溶液を試料溶液(血漿酸加水分解物)とした。
【0083】
又、試料の濃縮乾固には遠心エバポレーター(CC-105:トミー精工)を使用した。試料の加水分解時の加熱には、ブロックインキュベーター(Genius Dry Bath Incubator MD-02N:Major Science社)を使用した。試料の溶解、分散、懸濁には超音波洗浄機(VS-150:アズワン)を使用した。
【0084】
血漿酸加水分解物中の夾雑物の除去並びにペントシジンの吸着が可能な官能基を選択するために、上述のように作成した、表面積350m/g、メソポアサイズ10nmを有するシリカモノリス体の固相に様々な官能基、オクタデシル基(C18)、フェニル基(Ph)、オクタデシル基及び強陽イオン交換基(C18-CX)、オクタデシル基及び強陰イオン交換基(C18-AX)、強陽イオン交換基(SCX)、強陰イオン交換基(SAX)、アミノ基(NH)、弱陽イオン交換基(CBA)、アミド基(Amide)を修飾したシリカモノリス体を作成した。オクタデシル基及び強陽イオン交換基は上述のように修飾し、他は、それに準じた公知の方法で修飾した。
【0085】
試料を添加する前に、上記のようにして得たシリカモノリス体に、0.1Mクエン酸水溶液/アセトニトリル(990/10)200μLを通液し洗浄し、次に0.1Mクエン酸水溶液400μLを通液し平衡化した。そして、洗浄及び平衡化したシリカモノリス体に、上記のように調製した試料溶液(血漿酸加水分解物)を夫々150μL添加して通液し、そのフロースルー画分の分析を以下の条件で行った。シリカモノリス体への夫々の通液は、遠心加速度5,000g×1分を4℃にて遠心法で行った。結果を図1のクロマトグラムに示す。
【0086】
分析条件:測定装置:Prominence (島津製作所)、流速:1mL/min、カラム温度:20℃、注入量20μL、カラム:Unison US-C18(Imtakt)、検出器:蛍光Ex:325nm、Em:385nm、移動相:A)0.1Mクエン酸/アセトニトリル(995/5)、B)アセトニトリル、グラジエント条件(ステップグラジエント):A/B=100/0-(0~15min)-50/50-(15~20min)-100/0-(20~60min)
【0087】
図1のクロマトグラムに示すように、オクタデシル基+強陽イオン交換基(C18-CX)又は強陽イオン交換基(SCX)を有するシリカモノリス体固相にて前処理をすると、ペントシジンが固相へ吸着した為、ペントシジンのピークは検出されなかった。よって、この2つの官能基種が精製度を向上させる官能基と判断することが出来た。又、強陽イオン交換基(SCX)はペントシジンだけでなく、夾雑物も吸着していることから、溶出時に夾雑物も溶出してしまう可能性がある。よって、オクタデシル基+強陽イオン交換基(C18-CX)の方が強陽イオン交換(SCX)と比較してクリーンアップ効果が高いことが分かる。若干ではあるがオクタデシル基(C18)でもペントシジンの吸着が確認された。これらの結果から、オクタデシル基(C18)と強陽イオン交換基(SCX)が補完的にペントシジンの吸着に作用することが分かる。
【実施例2】
【0088】
次に実施例1と同様に洗浄、平衡化をおこなったオクタデシル基+強陽イオン交換(C18-CX)又は強陽イオン交換(SCX)を有するシリカモノリス体に、10ng/mLペントシジン標準試料(0.1Mクエン酸水溶液に溶解)150μLを通液して吸着させ、0.1Mクエン酸水溶液500μLを通液して洗浄した。そして、1Mギ酸アンモニウム水溶液75μLを通液して第1回目の溶出をし、連続して1Mギ酸アンモニウム水溶液/アセトニトリル(50/50(V/V))75μLを通液して第2回目の溶出をし、オクタデシル基+強陽イオン交換(C18-CX)と強陽イオン交換(SCX)固相カラムの溶出効率の比較を行った。連続溶出した溶出液は1つにまとめ、150μLとし、マイクロプレートリーダー(Ex:325nm、Em:385nm)にて分析を行った。尚、シリカモノリス体への夫々の通液は、遠心加速度5,000g×1分を4℃にて遠心法で行った。結果を図2のグラフ図に示す。尚、図2の左の棒はペントシジン標準試料を前処理することなく分析したものである。
【0089】
図2のグラフ図に示すように、連続溶出にて十分な回収率が得られた。又、オクタデシル基+強陽イオン交換(C18-CX)のほうが強陽イオン交換(SCX)よりも溶出効率が高く、ペントシジンの前処理に最も有用であることが分かる。強陽イオン交換(SCX)では陽イオン交換基量が多く、強力に吸着していると考えられる。オクタデシル基+強陽イオン交換(C18-CX)では、オクタデシル基が存在していることから、陽イオン交換基の結合量が減少し、なおかつオクタデシル基による保持も起こり、補完的な作用があることが理解できる。連続溶出することにより標準試料150μLと同量の溶出液で希釈することなく精製出来たことから、時間短縮及び精度向上にはオクタデシル基+強陽イオン交換(C18-CX)結合型のシリカモノリス体の固相がもっとも好ましいと判断することが出来る。
【実施例3】
【0090】
実施例1で調製した試料溶液(血漿酸加水分解物)を、上記のように作成したオクタデシル基+強陽イオン交換(C18-CX)結合型シリカモノリス体の固相にて精製し、C18結合型シリカゲルカラムを用いて以下の条件で分析を行った。固相による精製方法は、試料を添加する前に、シリカモノリス体に、0.1Mクエン酸水溶液/アセトニトリル(990/10)200μLを通液し洗浄し、次に0.1Mクエン酸水溶液400μLを通液し平衡化した。そして、洗浄及び平衡化したシリカモノリス体に、実施例1で調製した試料溶液(血漿酸加水分解物)を150μL添加して通液した。その後、0.1Mクエン酸水溶液500μLを通液して洗浄した。そして、1Mギ酸アンモニウム水溶液75μLを通液して第1回目の溶出をし、連続して1Mギ酸アンモニウム水溶液/アセトニトリル(50/50(V/V))75μLを通液して第2回目の溶出をし、溶出液は1つにまとめ、150μLとし分析試料とした。シリカモノリス体への夫々の通液は、遠心加速度5,000g×1分を4℃にて遠心法で行った。
【0091】
比較例として、従来までの非特許文献4に記載の前処理、即ち固相による精製無しのクエン酸HPLC法にてC18結合型シリカゲルカラムを用いて、実施例1で調製した試料溶液(血漿酸加水分解物)を以下の条件で分析を行い、分析時間を比較した。結果を図3のクロマトグラムに示す。
【0092】
本発明の実施例3の分析条件は以下の通りである。測定装置:Prominence (島津製作所)、流速:1mL/min、カラム温度:20℃、注入量:20μL、カラム:C18結合型シリカゲルカラム(4.6×100mm、粒子径:3μm粒子、表面積:300~400m/g、細孔径:8~12nm、カ-ボン量:12~16%)、検出器:蛍光Ex:325nm、Em:385nm、移動相:A)0.1%ギ酸(V/V)、B)アセトニトリル、グラジエント条件(ステップグラジエント):A/B=100/0-(0~15min)-50/50-(15~20min)-100/0-(20~60min)
【0093】
従来法の比較例の分析条件は以下の通りである。測定装置:Prominence (島津製作所)、流速1mL/min、カラム温度:20℃、注入量20μL、カラム:C18結合型シリカゲルカラムUnison US-C18(4.6×100mm、粒子径:5μm粒子、細孔径:13nm、Imtakt社製)、検出器:蛍光Ex:325nm、Em:385nm、移動相:A)0.1Mクエン酸/アセトニトリル(995/5)、B)アセトニトリル、グラジエント条件(ステップグラジエント):A/B=100/0-(0~15min)-50/50-(15~20min)-100/0-(20~60min)
【0094】
図3のクロマトグラムに示すように、左側のクロマトグラムに示される比較例としての従来法では、固相による精製が無いため、多くの夾雑物ピークも検出された。夾雑物ピークが多いことから、アセトニトリルによる洗浄工程でとり切れなかった化合物の蓄積により、カラム寿命に影響することが予想される。又、ベースラインの安定を図るための平衡化時間までを含めると1分析が60分程度かかっている。一方、右側のクロマトグラムに示される実施例によれば、この分析をC18結合型シリカゲルカラム(4.6×100mm、粒子径:3μm粒子、表面積300~400m/g、細孔径:8~12nm、カーボン量:12~16%)、0.1%ギ酸にて行うことにより、短時間でペントシジンのピークを検出することが出来、更に、平衡化時間までを含めても1/2の30分で分析が可能であった。又、実施例では、オクタデシル基+強陽イオン交換(C18-CX)結合型シリカモノリス体の固相による精製を行うことで夾雑物ピ-クが明確に減少していることも確認された。これにより分析時間短縮化が可能であること及びオクタデシル基+強陽イオン交換(C18-CX)結合型シリカモノリス体による夾雑物除去効果が高く、分析精度の向上が可能であることが確認された。
【実施例4】
【0095】
実施例3の方法を用いて、更なる分析時間の短縮を検討し、以下の条件で分析を行った。結果を図4のクロマトグラムに示す。分析条件は以下の通りである。測定装置:Gulliver&EXTREMA(日本分光)、流速:1mL/min、カラム温度:20℃、注入量20μL、カラム:C18結合型シリカゲルカラム(4.6×100mm、粒子径:3μm粒子、表面積:300~400m/g、細孔径:8~12nm、カ-ボン量:12~16%)、検出器:蛍光Ex:325nm、Em:385nm、移動相:A)0.1%ギ酸(V/V)、B)アセトニトリル、グラジエント条件(ステップグラジエント):A/B=100/0-(0~8min)-50/50-(8~10min)-100/0-(10~18min)
【0096】
図4のクロマトグラムに示すように、溶離条件、即ちグラジエント条件を変更することで、平衡化時間までを含めた分析時間を、18分まで短縮することが出来ることが明らかとなった。
【実施例5】
【0097】
濃縮乾固処理として遠心減圧乾燥及び再溶解を行う工程を含む、前処理から分析まで行う方法と、遠心減圧乾燥及び再溶解を行う工程を含まず、前処理から分析まで行う方法とを比較した。夫々の方法の工程及び相違点を図5に示す。尚、酸加水分解処理は、血漿サンプル50μLに0.2M水素化ホウ素ナトリウム溶液(pH9.5)250μLを添加、30分間室温にて静置し、アミノ基の保護処理をおこなった。次に、処理済みサンプル300μLに20%トリクロロ酢酸1mLを添加し、15分間氷冷後に遠心分離を行い、上清を除去した。そして、沈殿に5%トリクロロ酢酸1mLを添加し、15分間氷冷後に遠心分離を行い、上清を除去した。その後沈殿に蒸留水100μLを添加し懸濁させた。次に、トリクロロ酢酸沈殿後懸濁試料100μLに6N塩酸100μLを添加し酸加水分解(105℃、18時間)を行った。
【0098】
図5に示すように、遠心減圧乾燥を行う方法(乾固法)(図5左側)と遠心減圧乾燥を行わない方法(乾固省略法)(図5右側)では、試料24検体の酸加水分解工程までは20時間と違いがない。その後、遠心減圧乾燥及び再溶解を行わずに、オクタデシル基+強陽イオン交換(C18-CX)を有するシリカモノリス体を用いた前処理及び実施例4に記載のHPLC測定方法を用いることにより、遠心減圧乾燥工程及び分析時間の短縮が可能となり、約29時間の工程が7.5時間と約1/4に短縮することが可能になったことが分かる。
【実施例6】
【0099】
実施例5と同様に、血漿サンプルを水素化ホウ素ナトリウムによるアミノ基の保護後、トリクロロ酢酸によるタンパク質沈殿を行い、水に再溶解し、6N塩酸を添加後に酸加水分解(105℃、18時間)をする酸加水分解工程の後、遠心減圧乾燥及び再溶解を行わずに、オクタデシル基+強陽イオン交換(C18-CX)を有するシリカモノリス体を用いた前処理方法における、試料の希釈方法の相違による回収率の違いを確認した。又、酸加水分解した後、遠心減圧乾燥を行い、0.1Mクエン酸400μLで再溶解を行った場合(乾固法)と、遠心減圧乾燥を行わず、酸加水分解後に直接希釈溶液を添加した場合(乾固省略法)においての回収率の違いを確認した。
【0100】
酸加水分解後に直接添加した希釈溶液は、1.5M NaOH200μL、0.3M NaOH200μL、1.5M Tris水溶液200μLの3種類である。1.5M Tris水溶液は、Trizma-base(Sigma-Aldrich社、Cat.No. T6066)を18.17g量り取り、80mLのMilliQ水に溶解した後、100mLにメスアップした。尚、pH調整はしていない。実験フロー図を図6に示す。又、試行回数3回のクロマトグラムを図7、回収量と再現性を図8に示す。
【0101】
図7に示すように、塩酸をTris水溶液で希釈することにより、酸加水分解後、濃縮乾固処理として遠心減圧乾燥を行うことなく、前処理を行うことが出来ることが明らかである。NaOHにおいては、ピーク面積値の再現性が悪いことが明らかであり、1.5M Trisは、ピーク形状、面積再現性ともに高いことがわかる。NaOHにおいては、ナトリウムイオンが、モノリス体上のスルホン酸基と相互作用するため、試料中ペントシジンの吸着に影響し、回収が安定しないと考えられる。Trisは、ナトリウムイオンを含まない緩衝液の一つであり、酸加水分解後の希釈には、Tris‐baseのような塩基性を示し、且つナトリウムイオンを含まないアンモニウム塩型の化合物が好ましい。
【0102】
図8に示すように、従来法である濃縮乾固法(乾固法)はCV値が9.3%であり、1.5M Tris添加の場合はCV値が4.2%と濃縮乾固法よりも高い再現性を示した。濃縮乾固法においては、一度試料を乾固させ、再溶解を行う際の人為的なロスが影響し、CV値が上昇していると考えられる。又、ペントシジン量平均値が濃縮乾固法では11.3±1.05pg、Tris添加法では16.1±0.68pgとTris添加法の値が上昇していた。濃縮乾固法の実試料では、酸加水分解処理後に乾固することで炭化物が容器に固着し、一部再溶解できないことに起因し、ペントシジン量が減少していると考えられる。Tris添加法では、濃縮乾固工程と再溶解工程を省略していることから、炭化物の固着が抑えられ、高い回収率が得られたと考えられる。上記実験結果から、Tris添加法は濃縮乾固法に比べ、回収量、再現性も向上し、より感度高く、安定した分析が可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
以上のような本発明によれば、AGEsの試料調製から分析までの時間を短縮化し、高精度且つ高感度なAGEsの分析が可能となったので、生体の糖化ストレス評価が正確且つ短時間で行うことが出来、医療の分野の研究並びに応用において利用が可能であると共に、糖化に着目した食品や化粧品等の様々な分野の研究並びに応用において利用が可能である。
【符号の説明】
【0104】
1 スピンカラム
2 空のカラム
3 モノリス体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9