(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ヌクレオチド配列の増幅方法及び配列決定方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20240125BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20240125BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20240125BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6876 Z
C12N15/11 Z
(21)【出願番号】P 2021540769
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(86)【国際出願番号】 JP2020030907
(87)【国際公開番号】W WO2021033648
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2019150535
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
(73)【特許権者】
【識別番号】503335179
【氏名又は名称】株式会社ファスマック
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 益満
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 暖佳
(72)【発明者】
【氏名】和田 悠作
(72)【発明者】
【氏名】松平 崇弘
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/111209(WO,A1)
【文献】特開2004-275037(JP,A)
【文献】特開2006-166907(JP,A)
【文献】特表2002-502605(JP,A)
【文献】LIU, Taian et al.,A tailing genome walking method suitable for genomes with high local GC content,Anal. Biochem.,2013年,Vol. 441,pp. 101-103
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68-1/6897
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヌクレオチド鎖中の特定配列に隣接する配列を増幅する方法であって、下記工程(1)~(6)を含み、
(1)前記特定配列に第1のフォワードプライマーがアニールし、該プライマーを起点として伸長反応を行ない、前記隣接配列に対する相補的な配列を3’末端に含む相補鎖を合成する工程、
(2)工程(1)にて得られた相補鎖の3’末端に、第1のデオキシヌクレオチドを重合的に付加する工程、
(3)工程(2)にて付加された第1のデオキシヌクレオチドからなるポリデオキシヌクレオチド鎖の3’末端に、更に第2のデオキシヌクレオチドを重合的に付加する工程、
(4)工程(3)にて形成された1本鎖DNA中の、前記相補鎖の3’末端と前記ポリデオキシヌクレオチド鎖との結合部位に、第1のリバースプライマーをアニールし、該プライマーを起点として伸長反応を行ない、2本鎖DNAを合成する工程、
(5)工程(4)にて合成された2本鎖DNAを鋳型とし、前記特定配列に対して相補的な第2のフォワードプライマーと、第1のリバースプライマーとを用いるポリメラーゼ連鎖反応を行なう工程、
(6)工程(5)にて得られた増幅産物を鋳型とし、前記特定配列に対して相補的な第3のフォワードプライマーと、第2のリバースプライマーとを用いるポリメラーゼ連鎖反応を更に行なう工程、
第2のフォワードプライマーは、特定配列において第1のフォワードプライマーよりも隣接配列により近く位置し、
第3のフォワードプライマーは、特定配列において第2のフォワードプライマーよりも隣接配列により近く位置し、
第1のリバースプライマーは、5’末端から順に、アダプタープライマー配列及び第3のデオキシヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーであり、
第2のリバースプライマーは、アダプタープライマー配列を3’末端に含むプライマーであり、
第1~3のデオキシヌクレオチドは、デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシシチジン及びデオキシチミジンからなる4種から各々選択される1のデオキシヌクレオチドであり、
第2のデオキシヌクレオチドは、第1のデオキシヌクレオチドとは異なるデオキシヌクレオチドで
あり、
第3のデオキシヌクレオチドは、第1のデオキシヌクレオチドに対して相補的なデオキシヌクレオチドで
あり、かつ
アダプタープライマー配列は、第1のポリデオキシヌクレオチド鎖の3’末端に付加される第2のデオキシヌクレオチドからなるポリデオキシヌクレオチド鎖に対して相補的な配列ではない、方法。
【請求項2】
ヌクレオチド鎖中の特定配列に隣接する配列を決定する方法であって、
請求項1に記載の方法により前記隣接配列を増幅する工程と、
増幅された隣接配列のシーケンス解析を行なう工程とを、含む方法。
【請求項3】
第1のリバースプライマーは、5’末端から順に、アダプタープライマー配列、第3のデオキシヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、第4のデオキシヌクレオチド及び第5のデオキシヌクレオチドを含むプライマーであり、
第4のデオキシヌクレオチドは、第3のデオキシヌクレオチド以外の3種からランダムに選択されるデオキシヌクレオチドであり、かつ
第5のデオキシヌクレオチドは、前記4種からランダムに選択されるデオキシヌクレオチドである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記特定配列は、DNA鎖中に挿入されている外来遺伝子に由来する配列であり、前記隣接配列は、前記DNA鎖中に挿入された外来遺伝子挿入に隣接するホストゲノム由来の配列である、請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の方法に用いられるためのキットであって、
第1のフォワードプライマー、第2のフォワードプライマー、第3のフォワードプライマー、第1のリバースプライマー及び第2のリバースプライマーを含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヌクレオチド配列の増幅方法及び配列決定方法に関する。より詳しくは、特定の配列に隣接する配列を増幅する方法、及びその配列を決定する方法に関し、例えば、ホストゲノムに挿入された外来DNA(特定配列)の挿入部位の配列(隣接配列)を増幅し、その配列を決定する方法に関する。また例えば、T細胞受容体(TCR)等をコードするRNAにおいて、定常領域の配列(特定配列)に隣接する可変領域の配列(隣接配列)を増幅し、その配列を決定する方法に関する。さらに、本発明はこれら方法を実施するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
レトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターを用いた遺伝子治療は、既に多くの実績を挙げており、更なる研究開発、臨床試験が多々進行中である。しかしながら、この治療方法においては、治療対象の染色体(ホストゲノム)上の意図しない位置にウイルスベクターが組み込まれることがある。この挿入が、癌遺伝子近傍や癌抑制遺伝子内に入るとがん化する恐れがある。レトロウイルスベクターを使用した先天性免疫不全症に対して行われた造血幹細胞を標的とする遺伝子治療の例でいうと、有効性が確認されている一方、92人中11人が白血病を発症しており、内1人が死亡するという事例がある。そのため、かかる遺伝子治療においては、安全性確保策として15年間の被験者フォローが求められている。
【0003】
また、近年の遺伝子改変技術はゲノム編集の台頭に伴い加速的に発展している。しかしながら、標的部位に相同な配列間に外来DNA等を挟んだものを導入し、相同組換えによって部位特異的に当該DNA等を挿入するゲノム編集技術(所謂、SDN-3)では、意図しない部位への前記DNA等の導入(オフターゲット変異)が生じる等の問題があり、医療分野での利用には特に慎重を期すものである。
【0004】
そして、HTLV-1等のウイルスが関連する疾患においても、ホストゲノムへの挿入部位と病態との関連性が示唆されている。例えば、キャリアでは元々転写が不活性化されているゲノム領域にウイルス由来のDNAが組み込まれている頻度が高い一方で、ウイルス関連疾患(ATL等)の患者では、当該DNAが転写開始点近傍に組み込まれていることが知られている。そのため、ウイルス関連疾患の発症リスクを有効かつ適切に判定するにあたって、ホストゲノムへの挿入位置を適切に同定することは極めて重要である。
【0005】
このように、ウイルスベクターやゲノム編集技術を用いた遺伝子治療、ゲノム編集等による遺伝子改変技術、更にはウイルス関連疾患において、外来DNAのホストゲノム上への挿入部位を同定することが希求されている。
【0006】
しかしながら、外来DNAのホストゲノム上への挿入部位、特にランダムインテグレーションの位置は不明であり、その同定は難しい。原始的な方法としては全ゲノムを対象としたメイトペアシーケンスが挙げられるが、この方法は選択性がないため低感度であり、費用面で問題がある。また、外来DNA挿入部位近傍のDNA配列の同定に関し、様々な方法が開発されており、例えば、ゲノムDNAを断片化してライゲーションにより環状化し、外来DNA特異的なオリゴヌクレオチドによりインバースPCRを行う手法、その他Tail-PCR、LAM-PCR、nrLAM-PCR(特許文献1、非特許文献1)等が挙げられる。しかしながら、所要時間、操作性、効率、感度、費用の点において、不十分なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Paruzynski A.ら、Nat Protoc.、2010年8月、5巻、8号、1379~1395ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、特定の配列に隣接する配列を増幅する方法を可能とする方法を提供することを目的とする。例えば、本発明は、ホストゲノムに挿入された外来DNA(特定の配列)の挿入部位の配列(特定配列に隣接する配列)の増幅を可能とする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、
図1に示すような工程1~6を含む方法によって、DNA鎖中の特定の配列に隣接する配列を増幅できることを見出した。
【0011】
従来の方法の中で最も所要時間が短いnrLAM-PCRにおいては、例えば非特許文献1に記載のとおり、特定の配列に隣接する配列の増幅産物を得るために30時間以上も要する(非特許文献1、第1392ページ、「TIMING」において、Steps 1-3,Linear PCR~Steps 32 and 33,Second exponential PCR迄の累積時間は32.5時間となっている)。しかしながら、前記方法によれば、
図2に示すとおり約3時間で得ることができ、所要時間が短く、高効率性を有する。
【0012】
また、nrLAM-PCRにおいては、例えば特許文献1及び非特許文献1に記載のとおり、精製工程においてビオチン及びストレプトアビジン等のヌクレオチド以外の物質を要し、コストがかかる。一方、前記方法においてはヌクレオチドのみからなるプライマーがあれば良いため、コストの上でも優れている。
【0013】
さらに、非特許文献1に記載のとおり、nrLAM-PCRにおいてはリンカーライゲーション反応は100%進行するわけではないため、感度が低い(非特許文献1、第1379ページ、右欄、第24~27行 参照)。一方、前記方法によれば、後述の実施例に示すとおり、HTLV-1が1コピー挿入された感染細胞のゲノムDNAと非感染細胞のゲノムDNAとを、所定のプロウイルス量になるように調整して混合したものを解析した場合に、プロウイルス量が0.032%という極僅かであっても特異的な増幅産物を得ることができ、感度高く隣接配列を検出できる。
【0014】
また、前記方法によれば、HTLV-1に限らず、HIV-1、SIV、HBV及びアデノウイルスが各々挿入されたゲノムDNA、ゲノム編集においてオフターゲットが生じている細胞のゲノムDNA、遺伝子組換え植物細胞のゲノムDNAのいずれにおいても、各外来DNAの挿入部位を特異的に増幅することができ、汎用性が高い。
【0015】
さらに、HTLV-1キャリア3検体のゲノムDNAを用いて、独立して2回反応させ解析した場合でも、同様の増幅産物を得ることができ、再現性が高い。
【0016】
また、
図1に示すような工程1~6を含む方法によれば、T細胞受容体(TCR)等をコードするRNA鎖において、定常領域の配列(特定配列)に隣接する可変領域の配列(隣接配列)を増幅し、その配列を決定できる。すなわち、DNA鎖、RNA鎖を問わず、当該ヌクレオチド鎖中の特定の配列に隣接する配列を増幅できる。
【0017】
本発明は、上記結果に基づくものであり、特定の配列に隣接する配列を増幅する方法、及びその配列を決定する方法に関する。また、本発明はこれら方法を実施するためのキットに関し、より具体的には以下の発明に関する。
<1> ヌクレオチド鎖中の特定配列に隣接する配列を増幅する方法であって、下記工程(1)~(6)を含み、
(1)前記特定配列に第1のフォワードプライマーがアニールし、該プライマーを起点として伸長反応を行ない、前記隣接配列に対する相補的な配列を3’末端に含む相補鎖を合成する工程、
(2)工程(1)にて得られた相補鎖の3’末端に、第1のデオキシヌクレオチドを重合的に付加する工程、
(3)工程(2)にて付加された第1のデオキシヌクレオチドからなるポリデオキシヌクレオチド鎖の3’末端に、更に第2のデオキシヌクレオチドを重合的に付加する工程、
(4)工程(3)にて形成された1本鎖DNA中の、前記相補鎖の3’末端と前記ポリデオキシヌクレオチド鎖との結合部位に、第1のリバースプライマーをアニールし、該プライマーを起点として伸長反応を行ない、2本鎖DNAを合成する工程、
(5)工程(4)にて合成された2本鎖DNAを鋳型とし、前記特定配列に対して相補的な第2のフォワードプライマーと、第1のリバースプライマーとを用いるポリメラーゼ連鎖反応を行なう工程、
(6)工程(5)にて得られた増幅産物を鋳型とし、前記特定配列に対して相補的な第3のフォワードプライマーと、第2のリバースプライマーとを用いるポリメラーゼ連鎖反応を更に行なう工程、
第2のフォワードプライマーは、特定配列において第1のフォワードプライマーよりも隣接配列により近く位置し、
第3のフォワードプライマーは、特定配列において第2のフォワードプライマーよりも隣接配列により近く位置し、
第1のリバースプライマーは、5’末端から順に、アダプタープライマー配列及び第3のデオキシヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーであり、
第2のリバースプライマーは、アダプタープライマー配列を3’末端に含むプライマーであり、
第1~3のデオキシヌクレオチドは、デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシシチジン及びデオキシチミジンからなる4種から各々選択される1のデオキシヌクレオチドであり、
第2のデオキシヌクレオチドは、第1のデオキシヌクレオチドとは異なるデオキシヌクレオチドであり、かつ
第3のデオキシヌクレオチドは、第1のデオキシヌクレオチドに対して相補的なデオキシヌクレオチドである、方法。
<2> ヌクレオチド鎖中の特定配列に隣接する配列を決定する方法であって、
<1>に記載の方法により前記隣接配列を増幅する工程と、
増幅された隣接配列のシーケンス解析を行なう工程とを、含む方法。
<3> 第1のリバースプライマーは、5’末端から順に、アダプタープライマー配列、第3のデオキシヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、第4のデオキシヌクレオチド及び第5のデオキシヌクレオチドを含むプライマーであり、
第4のデオキシヌクレオチドは、第3のデオキシヌクレオチド以外の3種からランダムに選択されるデオキシヌクレオチドであり、かつ
第5のデオキシヌクレオチドは、前記4種からランダムに選択されるデオキシヌクレオチドである、<1>又は<2>に記載の方法。
<4> 前記特定配列は、DNA鎖中に挿入されている外来遺伝子に由来する配列であり、前記隣接配列は、前記DNA鎖中に挿入された外来遺伝子挿入に隣接するホストゲノム由来の配列である、<1>~<3>のうちのいずれか一項に記載の方法。
<5> <1>~<4>のうちのいずれか一項に記載の方法に用いられるためのキットであって、
第1のフォワードプライマー、第2のフォワードプライマー、第3のフォワードプライマー、第1のリバースプライマー及び第2のリバースプライマーを含む、キット。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、短時間に効率良く、感度高く、低コストで、汎用性高く、また再現性良く、特定の配列に隣接する配列を増幅し、更にはその配列を決定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の特定配列に隣接する配列を増幅する方法、及びその配列を決定する方法の一実施態様を示す、概略図である。
【
図2】本発明の特定配列に隣接する配列を増幅する方法の実施における、各工程の所要時間の一例を示す、図である。
【
図3】HTLV-1が1コピー挿入された感染細胞(TL-Om1)のゲノムDNAと、非感染細胞(Jurkat)のゲノムDNAとを、図中に示す各プロウイルス量(PVL)になるように調整して混合したものを、本発明の方法により解析した結果を示す、ゲル電気泳動の写真である。
【
図4】HTLV-1、HIV-1、SIV、HBV及びアデノウイルスが各々挿入された生体試料及び感染細胞のゲノムDNA、ゲノム編集によってLoxp配列が挿入されたマウス(idlr-mLO-4、idlr-mLO-5)のゲノムDNA、並びに遺伝子組換え植物(Bt176)のゲノムDNAを、本発明の方法により解析した結果を示す、ゲル電気泳動の写真である。
【
図5】HTLV-1キャリア3検体のゲノムDNA(図中、AC1~3)に関し本発明の方法により、HTLV-1挿入部位の増幅を独立して2回行った結果を示す、ゲル電気泳動の写真である。
【
図6】デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)添加又は非添加にて、本発明にかかる工程2及び3(相補鎖3’末端のデオキシヌクレオチドの重合的付加)を行ない、工程5(第1のPCR)にて得られる増幅産物を、アガロースゲル電気泳動にて解析した結果を示す、ゲル電気泳動の写真である。
【
図7】本発明において、第1のリバースプライマーについて、第4、第5のヌクレオチドを含むもの(Oligo-dT-AD2)、第5のヌクレオチドを含まないもの(Oligo-dT-AD3)、第4、第5のヌクレオチドを含まないもの(Oligo-dT-AD4)を各々用い、工程4(2本鎖DNAの合成)を実施し、工程6(第2のPCR)にて得られる増幅産物を、アガロースゲル電気泳動にて解析した結果を示す、ゲル電気泳動の写真である。図中、各レーンに付記した破線(補助線)は、増幅産物の平均長の位置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<本発明の方法>
本発明は、ヌクレオチド鎖中の特定配列に隣接する配列を増幅する方法であって、下記工程(1)~(6)を含む方法である。
(1)前記特定配列に第1のフォワードプライマーがアニールし、該プライマーを起点として伸長反応を行ない、前記隣接配列に対する相補的な配列を3’末端に含む相補鎖を合成する工程、
(2)工程(1)にて得られた相補鎖の3’末端に、第1のデオキシヌクレオチドを重合的に付加する工程、
(3)工程(2)にて付加された第1のデオキシヌクレオチドからなるポリデオキシヌクレオチド鎖の3’末端に、更に第2のデオキシヌクレオチドを重合的に付加する工程、
(4)工程(3)にて形成された1本鎖DNA中の、前記相補鎖の3’末端と前記ポリデオキシヌクレオチド鎖との結合部位に、第1のリバースプライマーがアニールし、該プライマーを起点として伸長反応を行ない、2本鎖DNAを合成する工程、
(5)工程(4)にて合成された2本鎖DNAを鋳型とし、前記特定配列に対して相補的な第2のフォワードプライマーと、第1のリバースプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応を行なう工程、
(6)工程(5)にて得られた増幅産物を鋳型とし、前記特定配列に対して相補的な第3のフォワードプライマーと、第2のリバースプライマーとを用いるポリメラーゼ連鎖反応を更に行なう工程。
【0021】
なお、第2のフォワードプライマーは、特定配列において第1のフォワードプライマーよりも隣接配列により近く位置し、第3のフォワードプライマーは、特定配列において第2のフォワードプライマーよりも隣接配列により近く位置する。
【0022】
第1のリバースプライマーは、5’末端から順に、アダプタープライマー配列及び第3のデオキシヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーであり、第2のリバースプライマーは、アダプタープライマー配列を3’末端に含むプライマーである。
【0023】
第1~3のデオキシヌクレオチドは、デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシシチジン及びデオキシチミジンからなる4種から各々選択される1のデオキシヌクレオチドであり、第2のデオキシヌクレオチドは、第1のデオキシヌクレオチドとは異なるデオキシヌクレオチドであり、第3のデオキシヌクレオチドは、第1のデオキシヌクレオチドに対して相補的なデオキシヌクレオチドである。
【0024】
本発明の方法に供する「ヌクレオチド鎖」とは、後述の特定配列及びそれに隣接する配列(隣接配列)を含み得る限り、特に制限はないが、例えば、動物、植物のような生体(組織、細胞等)、培養細胞、食品、環境(土壌、排水等)等から単離されるヌクレオチドのポリマーである。また、本発明の方法に供するヌクレオチド鎖は、デオキシヌクレオチドのポリマー(DNA鎖)であってもよく、リボヌクレオチドのポリマー(RNA鎖)であってもよい。
【0025】
本発明の方法に供するヌクレオチド鎖の前記生体等からの単離は、任意の方法で行うことができる。例えば、界面活性剤(CTAB等)による溶解処理、音波処理、ガラスビーズを用いた振盪撹拌及びフレンチプレス等を用いる方法が挙げられる。ヌクレオチド鎖の精製は、例えば、フェノール抽出、クロマトグラフィー、イオン交換、ゲル電気泳動、密度に依存した遠心分離等により実施することが可能である。より具体的に、本発明の方法に供するヌクレオチド鎖としては、前記方法により単離したゲノムDNAやPCRフラグメントのような2本鎖核酸、全RNA若しくはmRNA、又はそれらRNAから逆転写反応で調製されたcDNAのような1本鎖核酸が挙げられる。
【0026】
「特定配列」とは、その配列が既に特定されているものであれば特に制限はなく、例えば、宿主細胞のゲノムDNA(ホストゲノム)に挿入されている外来DNA(外来遺伝子)が挙げられる。外来遺伝子としては、より具体的に、トランスジーン(例えば、遺伝子組換え等に用いられるノックイン遺伝子及びベクター、ゲノム編集(SDN-3)のノックイン遺伝子)、ウイルスDNA(例えば、HTLV-1、HIV、SIV、HBV、HBV、MCV、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス)、及びそれらの一部が挙げられる。また、本発明にかかる「特定配列」として、例えば、T細胞受容体(TCR)、B細胞受容体(BCR)又は抗体等の抗原結合性ポリペプチドをコードするヌクレオチドにおいて、定常領域をコードする配列、及びその一部が挙げられる。
【0027】
「隣接配列」とは、前記特定配列の5’側と3’側の少なくとも一方に隣接している配列を意味する。例えば、前記外来遺伝子に隣接するホストゲノム由来の配列、前記定常領域をコードする配列に隣接する、TCR等の可変領域をコードする配列が挙げられる。
【0028】
以下、
図1を参照しながら、本発明の好適な実施形態について、その工程順に沿って詳細に説明するが、本発明は、
図1に示す態様に限定されるものではない。
【0029】
(工程(1) 相補鎖の合成)
当該工程においては、前記特定配列に第1のフォワードプライマー(図中の「F1」)がアニールし、該プライマーを起点として前記特定配列から前記隣接配列への伸長反応を行ない、前記隣接配列に対する相補的な配列を3’末端に含む1本鎖DNAが合成される。
【0030】
「プライマー」は、鋳型ポリヌクレオチドに特異的にアニールすることができ、鋳型ポリヌクレオチドと相補的である伸長産物を産生するために、鋳型依存的ポリメラーゼの基質(起点)となる3’末端を提供するポリヌクレオチド分子を意味する。「伸長反応」は、アニールしたプライマーの3’末端への少なくとも1つの相補的ヌクレオチドの鋳型依存的組み込みを意味する。
【0031】
「相補的」とは、2つのポリヌクレオチドが互いにアニールする場合に、アデニン(A)がチミン(T)又はウラシル(U)と対を形成し、グアニン(G)がシトシン(C)と対を形成する、これら塩基間の水素結合による塩基対形成選択性を意味する。さらに、本発明において「相補的」とは、対象のポリヌクレオチドの配列に対して、その全長又は一部にわたって少なくとも80%の相補性(例えば85%以上の相補性、好ましくは90%以上の相補性(91%、92%、93%、94%)、より好ましくは95%以上の相補性(96%、97%、98%、99%)、特に好ましくは100%の相補性)を有することを意味する。
【0032】
工程(1)において合成される相補鎖の鎖長としては、前記隣接配列に対する相補的な配列を3’末端に含む長さであれば特に制限はなく、例えば、後述のシーケンス解析の各手法において解析可能な長さとすることもできる。より具体的に、イルミナ社による次世代シーケンス解析用ライブラリーに対応するためには、隣接配列に対する相補的な配列を、好ましくは200~2000ヌクレオチド、より好ましくは400~1000ヌクレオチドを含むほどの鎖長とすることもできる。
【0033】
工程(1)における、相補鎖の合成は、例えば、特定配列に相補的な第1のフォワードプライマーをヌクレオチド鎖にアニーリングさせ、当該プライマーを起点としてDNAポリメラーゼによる伸長反応を行う工程、当該工程によって合成された配列を含む2本鎖を熱変性により解離させ1本鎖とする工程、これら2工程からなるサイクルを繰り返すことによって行なうことができる。なお、本発明にかかるヌクレオチド鎖がRNA鎖である場合、前記DNAポリメラーゼとしてRNA依存性DNAポリメラーゼを用いることにより、伸長反応(逆転写反応)を行なうことができる。
【0034】
伸長反応を行う工程における温度としては、相補鎖が合成できる温度であれば特に制限はなく、当業者であれば適宜調整し得るが、好ましくは50~80℃であり、より好ましくは50~70℃である。その保持時間は特に限定されず、所望する相補鎖の鎖長、用いるDNAポリメラーゼの種類等に応じて当業者であれば適宜設定することができ、例えば10秒~20分間である。また、伸長工程における温度は全てのサイクルで同一温度であっても良いし、異なっていても良い。
【0035】
熱変性工程における温度としては、2本鎖を解離できる温度であれば特に制限はなく、当業者であれば適宜調整し得るが、好ましくは80~100℃であるが、より好ましくは90~99℃であり、さらに好ましくは94~98℃である。また、その保持時間は特に限定されないが、好ましくは1秒~5分間、より好ましくは5秒~3分間、さらに好ましくは10秒~2分間である。
【0036】
工程(1)における相補鎖形成において、サイクル数は、後述の工程において鋳型となり得る程度に増幅できる限り特に制限はなく、当業者であれば用いるDNAポリメラーゼの種類等に応じて適宜調整し得るが、好ましくは10~50サイクルであり、より好ましくは15~40サイクルであり、さらに好ましくは20~30サイクルである。
【0037】
このような相補鎖合成における反応液には、当該合成を行うために必須な成分が含まれていれば、その組成は特に限定されない。反応液に含まれるものとしては、例えば、後述の第1のフォワードプライマー及び後述のDNAポリメラーゼの他、デオキシヌクレオチド(dNTP)等の基質、2価イオン(例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン)及び1価イオン(例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン)、又はそれらを供するための塩(例えば、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム)、並びに緩衝液(例えば、トリス塩酸バッファー、リン酸バッファー、HEPESバッファー)が挙げられる。また、反応液には、これらに加え、溶媒(例えば、エタノール、メタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド)、有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、安息香酸)、界面活性剤(例えば、SDS、TritonX-100)、アミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、トリプトファン)、タンパク質(例えば、BSA、DNA結合タンパク質)、糖(例えば、グルコース、キシロース、ガラクトース)、還元剤(例えば、DTT)、ベタイン等を、添加剤として含んでいてもよい。また、本発明にかかるヌクレオチド鎖がRNA鎖である場合、RNAの分解を抑制するために、リボヌクレアーゼ(RNase)阻害剤を含んでいてもよく、さらにまた、逆転写反応の効率低下を抑制するために、逆転写反応補助試薬(例えば、ニッポンジーン社製、製品名:RTmate(T7 RNAポリメラーゼで合成した976ヌクレオチドからなるRNA))を含んでいてもよい。
【0038】
また、このようにして合成された相補鎖は、下記工程(2)に供する前に、精製処理に供してもよい。精製処理としては、前記第1のプライマー等を除去できれば特に制限はなく、当業者であれば適宜公知の手法を用いて行なうことができる。公知の手法としては、フェノール/クロロホルム処理、イソプロパノール又はエタノールによる沈殿処理、カラムを用いた精製が挙げられる。当該カラムとしては、例えば、DNA吸着カラム(カラムの担体としては、シリカゲル、ガラス等)、ゲル濾過カラム、陰イオン交換体、限外濾過カラムが挙げられる。また、かかるカラムには市販品も好適に用いられる。相補鎖(1本鎖DNA)精製用の市販カラムとしては、例えば、Monarch PCR&DNAクリーンナップキット(New England Biolabs社製)、ssDNA/RNAクリーン&コンセントレーター(ZYMO RESEARCH社製)、Elutip-d DNA精製用ミニカラム(GEヘルスケア株式会社製)が挙げられる。
【0039】
(工程(2) 相補鎖3’末端への第1のデオキシヌクレオチドの重合的付加)
当該工程においては、工程(1)にて単離された相補鎖の3’末端に、第1のデオキシヌクレオチドが重合的に付加される。
【0040】
工程(2)において重合される第1のデオキシヌクレオチドは、デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシシチジン及びデオキシチミジンからなる4種のうちのいずれかであれば特に制限はないが、重合的付加反応がより進行し易く、単位時間あたりに形成されるポリデオキシヌクレオチド鎖の鎖長が長くなり易いという観点から、また当該ポリデオキシヌクレオチド鎖と後述の第1のリバースプライマー(
図1中の「R1」)とのアニーリング温度を比較的低く抑えることができるという観点から、好ましくは、デオキシアデノシン、デオキシシチジン又はデオキシチミジンであり、より好ましくはデオキシアデノシンである。
【0041】
また前記相補鎖の3’末端に重合的に付加される第1のデオキシヌクレオチドからなるポリデオキシヌクレオチド鎖(以下、「第1のポリデオキシヌクレオチド鎖」とも称する)の鎖長としては特に制限はないが、当該ポリデオキシヌクレオチド鎖と前記相補鎖の3’末端との結合部位に、後述の第1のリバースプライマー(
図1中の「R1」)がより特異的にアニールし易くなるという観点から、好ましくは20~300ヌクレオチドである。
【0042】
相補鎖の3’末端への第1のデオキシヌクレオチドの重合的な付加は、例えば、ターミナルデオキシトランスフェラーゼを用い、そのDNAの3’OH末端へのデオキシヌクレオチド重合反応を触媒する活性を利用することにより行なうことができる。
【0043】
かかる酵素反応の温度としては特に制限はなく、通常30~40℃、好ましくは37℃である。また、その反応時間としては、所望する相補鎖の鎖長に応じて当業者であれば適宜設定することができるが、好ましくは5~40分間で、より好ましくは10~30分間である。
【0044】
このような重合的付加における反応液には、当該付加を行うために必須な組成が含まれていれば、その組成は特に限定されない。反応液に含まれるものとしては、例えば、第1のデオキシヌクレオチド及びターミナルデオキシトランスフェラーゼの他、2価イオン(例えば、マンガンイオン、コバルトイオン、マグネシウムイオン)、又はそれらを供するための塩(例えば、塩化マンガン、塩化コバルト、塩化マグネシウム)及び緩衝液(例えば、HEPESバッファー、トリス塩酸バッファー、リン酸バッファー)が挙げられる。また、反応液には、これらに加え、還元剤(例えば、DTT)、タンパク質(例えば、BSA、DNA結合タンパク質)、溶媒(例えば、エタノール、メタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド)、有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、安息香酸)、界面活性剤(例えば、SDS、TritonX-100)、アミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、トリプトファン)、糖(例えば、グルコース、キシロース、ガラクトース)、ベタイン等を、添加剤として含んでいてもよい。
【0045】
(工程(3) 第1のポリデオキシヌクレオチド鎖3’末端への第2のデオキシヌクレオチドの重合的付加)
当該工程においては、工程(2)にて付加された第1のポリデオキシヌクレオチド鎖の3’末端に、更に第2のデオキシヌクレオチドが重合的に付加される。
【0046】
工程(3)において重合される第2のデオキシヌクレオチドは、デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシシチジン及びデオキシチミジンからなる4種のうちのいずれかであり、かつ第1のデオキシヌクレオチドとは異なるデオキシヌクレオチドであるが、重合的付加反応が進行し難く、単位時間あたりに形成されるポリデオキシヌクレオチド鎖の鎖長を調整し易いという観点から、好ましくは、デオキシグアノシンである。
【0047】
第1のポリデオキシヌクレオチド鎖の3’末端に付加される第2のデオキシヌクレオチドからなるポリデオキシヌクレオチド鎖(以下、「第2のポリデオキシヌクレオチド鎖」とも称する)の鎖長としては、後述の第1のリバースプライマー(
図1中の「R1」)による非特異的な合成を抑制できる鎖長であれば特に制限はないが、好ましくは1~300ヌクレオチドである。また、第2のポリデオキシヌクレオチド鎖においては、第2のデオキシヌクレオチド以外の他のデオキシヌクレオチドが含まれていてもよい。他のデオキシヌクレオチドとしては特に制限はないが、例えば、第1のデオキシヌクレオチドと同種のデオキシヌクレオチドが挙げられる。
【0048】
第1のポリデオキシヌクレオチド鎖の3’末端への第2のデオキシヌクレオチドの重合的な付加は、前記第1のデオキシヌクレオチド同様に、例えば、ターミナルデオキシトランスフェラーゼの酵素反応を利用することにより行なうことができる。
【0049】
かかる酵素反応の温度としては特に制限はなく、通常30~40℃、好ましくは37℃である。また、その反応時間としては、所望する相補鎖の鎖長に応じて当業者であれば適宜設定することができるが、好ましくは2~40分間で、より好ましくは5~30分間、さらに好ましくは10~20分間である。
【0050】
また、このような重合的付加における反応液は、前記工程(2)における反応液に第2のデオキシヌクレオチドを添加することにより調製することができる。
【0051】
そして、このようにして前記相補鎖の3’末端に第1のポリデオキシヌクレオチド鎖を介して第2のポリデオキシヌクレオチド鎖が付加された1本鎖DNAは、ターミナルデオキシトランスフェラーゼの酵素活性を失活するために熱処理に供してもよい。かかる熱処理の条件としては、前記酵素が失活する条件であれば特に制限はないが、通常60~90℃(好ましくは70~80℃)にて、1分~1時間(好ましくは5~20分間)インキュベートすることにより、前記酵素は失活され得る。
【0052】
(工程(4) 2本鎖DNAの合成)
当該工程においては、工程(3)にて形成された1本鎖DNA中の、前記相補鎖の3’末端と第1のポリデオキシヌクレオチド鎖との結合部位に、第1のリバースプライマー(
図1中の「R1」)をアニールさせ、該プライマーを起点として伸長反応を行なうことにより、2本鎖DNAが合成される。
【0053】
工程(4)において、2本鎖の合成は、例えば、熱変性処理後、第1のリバースプライマーを前記1本鎖DNAにアニーリングさせ、当該プライマーを起点としてDNAポリメラーゼによる伸長反応を行うことによって行なうことができる。
【0054】
当該工程において用いられる酵素としては、当該伸長反応を行なうことができる限り特に制限はないが、塩化コバルトの存在下でもその活性を奏するDNAポリメラーゼが好ましい。塩化コバルトは、上述のとおり、ターミナルデオキシトランスフェラーゼによる重合的付加反応系に通常添加される塩であるため、当該塩存在下でも伸長反応を行えるDNAポリメラーゼを用いることにより、上記工程(2)から工程(5)までを精製処理等を要することなくワンポットで行なうことができる。かかるDNAポリメラーゼとしては、例えば、Q5 DNAポリメラーゼ(Q5-高正確性DNAポリメラーゼ、Q5-ホットスタート高正確性DNAポリメラーゼ等、いずれもNew England Biolabs社製)が挙げられる。
【0055】
熱変性工程における温度としては、前記1本鎖DNAの高次構造を変性できる温度であれば特に制限はなく、好ましくは30~100℃であるが、より好ましくは50~99℃である。その保持時間は特に限定されないが、例えば1秒~10分間である。
【0056】
アニーリング工程における温度としては、第1のリバースプライマーと前記1本鎖DNAとのアニーリングが生じ、維持できる温度であれば特に制限はなく、非特異的な増幅産物を抑制するという観点から、好ましくは40~80℃であるが、より好ましくは45~70℃であり、さらに好ましくは50~65℃である。その保持時間は特に限定されないが、好ましくは30秒~5分間、より好ましくは1~2分間である。また、アニーリング温度は同一温度であっても良いし、異なっていても良い。例えば、10秒毎に数℃(2~3℃)ずつ下げる温度勾配を設けることにより、第1のリバースプライマーは、第1のポリデオキシヌクレオチド鎖を滑るように、その3‘末端に特異的にアニールし易くなる。
【0057】
伸長工程における温度としては、2本鎖が合成できる温度であれば特に制限はなく、当業者であれば適宜調整し得るが、好ましくは50~80℃であるが、より好ましくは65~75℃であり、特に好ましくは72℃である。また、その保持時間は特に限定されないが、好ましくは10秒~5分間、より好ましくは30秒~2分間、特に好ましくは1分間である。なお、アニーリング温度は伸長工程における温度と同一温度であってもよいが、伸長工程における温度よりも高く設定することはしない。
【0058】
なお、かかる反応は、工程(1)における反応液と同様のものを用いることにより行なうことができる。また、伸長反応後は、DNAポリメラーゼの酵素活性を抑制し、2本鎖DNA構造を維持するため、通常4℃にて維持される。
【0059】
(工程(5) 第1のポリメラーゼ連鎖反応)
当該工程においては、工程(4)にて合成された2本鎖DNAを鋳型とし、前記特定配列に対して相補的な第2のフォワードプライマー(
図1中の「F2」)と、第1のリバースプライマー(
図1中の「R1」)とを用いるポリメラーゼ連鎖反応が行なわれる。
【0060】
「ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)」は、温度変化を繰り返すことにより、標的ヌクレオチド配列を増幅させることを意味する。より具体的には、フォワードプライマー及びリバースプライマーを標的ヌクレオチド配列にアニーリングさせるための工程、次いで、前記プライマーを起点としてDNAポリメラーゼによる伸長反応を行う工程、当該工程によって合成された標的ヌクレオチド配列を含む2本鎖を熱変性により解離させ1本鎖とする工程、これら三工程からなるサイクルで、PCRは構成される。
【0061】
工程(5)におけるアニーリングの温度としては、前記アニーリングが生じ、維持できる温度であれば特に制限はなく、当業者であれば適宜調整し得るが、非特異的な増幅産物を抑制するという観点から、好ましくは50~80℃であるが、より好ましくは60~70℃である。また、その保持時間は特に限定されないが、好ましくは1~60秒間である。なお、アニーリング温度はすべてのサイクルで同一温度であっても良いし、異なっていても良い。
【0062】
伸長反応を行う工程における温度としては、相補鎖が合成できる温度であれば特に制限はなく、好ましくは50~80℃であるが、より好ましくは65~75℃であり、特に好ましくは72℃である。その保持時間は特に限定されないが、好ましくは1~60秒間、より好ましくは10~50秒間、さらに好ましくは20~40秒間であり、特に好ましくは30秒間である。また、伸長反応を行う工程における温度は全てのサイクルで同一温度であっても良いし、異なっていても良い。アニーリング温度はと伸長反応を行う工程における温度とは同一温度であってもよいが、伸長工程における温度よりも高く設定することはしない。
【0063】
熱変性工程における温度としては、2本鎖を解離できる温度であれば特に制限はなく、好ましくは80~100℃であるが、より好ましくは95~99℃であり、特に好ましくは98℃である。その保持時間は特に限定されないが、好ましくは1~60秒間、より好ましくは10~50秒間、さらに好ましくは20~40秒間であり、特に好ましくは30秒である。
【0064】
工程(5)におけるPCRにおいて、サイクル数は、後述の工程において鋳型となり得る程度に増幅できる限り特に制限はないが、好ましくは10~40サイクルであり、より好ましくは15~30サイクルであり、さらに好ましくは20~25サイクルである。
【0065】
なお、かかるPCRは、工程(1)(工程(4))における反応液と同様のものを用いることにより行なうことができる。すなわち、工程(4)における反応後に、F2プライマーを添加し、上記温度変化を繰り返すことによって、工程(5)におけるPCRを行なうことができる。
【0066】
このようにして得られる増幅産物は、下記工程(6)に供する前に、精製処理に供してもよい。精製処理としては、工程(1)に記載の精製処理と同様である。また、精製用カラムとしては市販品も好適に用いられ、かかるPCR増幅産物精製用カラムの市販品としては、例えば、AmpureXP(ベックマンコールター社製)、GenElute PCRクリーンナップキット(メルク社製)が挙げられる。
【0067】
また、下記工程(6)においては、精製処理を施さずとも、増幅産物を希釈して鋳型として用いてもよい。かかる希釈倍率としては特に制限はなく、当業者であれば適宜調整し得るが、通常10~1000倍、好ましくは100~500倍、より好ましくは200~300倍である。
【0068】
(工程(6) 第2のポリメラーゼ連鎖反応)
当該工程においては、工程(5)にて合成された増幅産物を鋳型とし、前記特定配列に対して相補的な第3のフォワードプライマー(
図1中の「F3」)と、第2のリバースプライマー(
図1中の「R2」)とを用いるPCRが行なわれる。
【0069】
PCRについては上述のとおりであるが、その条件については、例えば、工程(6)におけるアニーリング及び伸長反応における温度は同一とすることができる。かかる温度としては、工程(5)にて合成された増幅産物と、第3のフォワードプライマー又は第2のリバースプライマーとのアニーリングが生じ、さらに相補鎖が合成できる温度であれば特に制限はなく、当業者であれば適宜調整し得るが、非特異的な増幅産物を抑制するという観点から、好ましくは50~80℃であるが、より好ましくは60~70℃である。その保持時間は特に限定されないが、好ましくは5秒~2分間、より好ましくは10秒~1分間、さらに好ましくは20~40秒間、特に好ましくは30秒間である。なお、アニーリング及び伸長反応における温度は異なっていてもよいが、伸長工程における温度よりも高く設定することはしない。また、アニーリング温度及び/又は伸長反応における温度は全てのサイクルで同一温度であっても良いし、異なっていても良い。
【0070】
熱変性工程における温度としては、2本鎖を解離できる温度であれば特に制限はなく、当業者であれば適宜調整し得るが、好ましくは80~100℃であるが、より好ましくは90~99℃であり、さらに好ましくは94~98℃である。その保持時間は特に限定されないが、好ましくは1秒~5分間、より好ましくは5秒~3分間、さらに好ましくは10秒~2分間である。
【0071】
工程(6)におけるPCRにおいて、サイクル数は、後述の方法において検出できる程度又はシーケンス解析できる程度に増幅できる限り特に制限はないが、好ましくは10~50サイクルであり、より好ましくは25~40サイクルであり、さらに好ましくは30~35サイクルである。
【0072】
なお、かかるPCRも、工程(4)及び工程(5)同様に、工程(1)における反応液と同様のものを用いることにより行なうことができる。
【0073】
そして、以上の工程を経ることにより、本発明によれば、
図1に示すとおり、隣接配列を増幅することができる。なお、当該図において示されるように、隣接配列のみならず、特定配列の一部及び第1のポリデオキシヌクレオチド鎖の一部も併せて増幅される。また、PCRにおいて、鋳型ポリヌクレオチドとそれに対して相補的な配列を有する相補鎖は、両者の関係はあくまでも相対的なものに過ぎない。すなわち、相補鎖として合成された鎖は、再び鋳型として機能することができる。したがって、本発明において増幅又は後述の配列決定の対象となる隣接配列等には、当該配列のみならず、該配列の相補鎖も含まれる。
【0074】
本発明において増幅された隣接配列等の検出又は確認は、公知の手法を適宜用いることによって、当業者であれば行なうことができる、公知の手法としては、電気泳動法(例えば、アガロースゲル又はアクリルアミドゲルに増幅産物を展開する電気泳動法)、核酸クロマト法、インターカレーション法、クエンチャー媒介蛍光検出法、サザンブロッティングが挙げられる。
【0075】
(シーケンス解析)
上記工程を経て得られた増幅産物の配列を決定することにより、隣接配列を明らかにすることができる。かかる配列決定は、公知のシーケンス解析によって行なうことができる。例えば、増幅産物について、単離し、ベクター内にサブクローニングし、そしてサンガー配列決定法又は色素ターミネーター配列決定法を用いて配列決定することができる。また、次世代シーケンシング(NGS;Next Generation Sequencing)又は1分子シーケンシング法に供することにより、サブクローニングステップを必要とせず、配列決定することができる。
【0076】
次世代シーケンシング法としては特に制限はないが、合成シーケンシング法(sequencing-by-synthesis、例えば、イルミナ社製Solexaゲノムアナライザー、Hiseq(登録商標)、Nextseq、Miseq又はMiniseqによるシーケンシング)、パイロシーケンシング法(例えば、ロッシュ・ダイアグノステックス(454)社製のシーケンサーGSLX又はFLXによるシーケンシング(所謂454シーケンシング))、リガーゼ反応シーケンシング法(例えば、ライフテクノロジー社製のSoliD(登録商標)又は5500xlによるシーケンシング)が挙げられる。1分子シーケンシング法としては、例えば、パシフィック・バイオサイエンシズ・オブ・カリフォルニア社製のPacBio RS II又はPacBioSequelシステム、オックスフォード・ナノポアテクノロジーズ社製のPromethION、GridION又はMinION等が挙げられる。
【0077】
また、このように隣接配列を決定することにより、例えば、更に当該配列をBLAST検索にかけることにより、特定配列である外来DNAが挿入されているホストゲノムの位置を決定することもできる。
【0078】
<本発明のキット>
上述のとおり、本発明によれば、上述のプライマーを用いた各反応を行なうことにより、特定の配列に隣接する配列を増幅し、さらには当該配列を決定することも可能となる。したがって、本発明は、上述の方法に用いられ、第1のフォワードプライマー、第2のフォワードプライマー、第3のフォワードプライマー、第1のリバースプライマー及び第2のリバースプライマーを含む、キットを提供する。
【0079】
第1のフォワードプライマー、第2のフォワードプライマー及び第3のフォワードプライマーは、上述のとおり、前記特定配列に対して各々相補的な配列を有するプライマーであるが、
図1に示すとおり、第2のフォワードプライマーは、第1のフォワードプライマーよりも隣接配列により近くに位置し、第3のフォワードプライマーは、第2のフォワードプライマーよりも隣接配列により近くに位置する。なお、「隣接配列により近い」とは、プライマー5’末端のアニーリング位置が隣接配列により近ければよく、フォワードプライマーのアニーリング領域間は一部重複するものであってもよい。アニーリングの位置としては特に制限はなく、特定配列情報に基づき当業者であれば適宜調整することができるが、第1~3のフォワードプライマーのアニーリング位置(各プライマー5’末端のアニーリング位置)は各々、特定配列と隣接配列との境界から、好ましくは1000~200ヌクレオチド、500~80ヌクレオチド及び300~30ヌクレオチドである。
【0080】
また、特定の配列が、LTRを有する外来DNA由来の配列である場合には、LTR領域内に第1のフォワードプライマーアニーリングしてしまうと、LTR領域(5’LTR及び3’LTR)間に挟まれたウイルス由来のDNAも増幅してしまう可能性があるという観点から、第1のフォワードプライマーはLTR領域外にアニーリングすることが望ましい。
【0081】
第1~3のフォワードプライマーの鎖長としては特に制限はないが、特定の配列に対して相補的な配列部分の長さが、好ましくは18~27ヌクレオチドであり、より好ましくは18~25ヌクレオチドである。
【0082】
第1~3のフォワードプライマーのmelting temperature(Tm)値は、好ましくは57~72℃であり、より好ましくは62~70℃であり、特に好ましくは68℃である。
【0083】
なお、このような所望の鎖長及びTm値を備えたプライマーは、当業者であれば、PCRプライマー設計ツールを用いることにより設計することができる。かかる設計ツールとしては、例えば、Primer3が挙げられる。
【0084】
第1のリバースプライマーは、5’末端から順に、アダプタープライマー配列及び第3のデオキシヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドを少なくともむプライマーである。上述のとおり、当該プライマーは、上記相補鎖の3’末端と第1のポリデオキシヌクレオチド鎖との結合部位にアニーリングするため、第1のデオキシヌクレオチドに対して相補的なデオキシヌクレオチドである第3のデオキシヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドを有する必要がある。また、後述の実施例において示すとおり、隣接配列に対する相補的な配列と第1のポリデオキシヌクレオチド鎖との結合部位により特異性高くアニーリングし易くなるという観点から、第1のリバースプライマーは、3’末端に更に第4のデオキシヌクレオチドを含むプライマー(すなわち、5’末端から順に、アダプタープライマー配列、第3のデオキシヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド及び第4のデオキシヌクレオチドを含むプライマー)であることが好ましく、3’側に更に第4のデオキシヌクレオチド及び第5のデオキシヌクレオチドを含むプライマー(すなわち、5’末端から順に、アダプタープライマー配列、第3のデオキシヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、第4のデオキシヌクレオチド及び第5のデオキシヌクレオチドを含むプライマー)であることがより好ましい。
【0085】
なお、第4のデオキシヌクレオチドは、第3のデオキシヌクレオチド以外の3種からランダムに選択されるデオキシヌクレオチドであり、第5のデオキシヌクレオチドは、4種からランダムに選択されるデオキシヌクレオチドである。具体的には、第1~第5のデオキシヌクレオチドは、下記表1に示す関係となる。
【0086】
【0087】
第3のデオキシヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドの鎖長としては、第1のポリデオキシヌクレオチド鎖に十分にアニールし得る長さであれば、特に制限はなく、当業者であれば含めるデオキシヌクレオチドの種類に応じて適宜調整し得るが、好ましくは5~30ヌクレオチドであり、より好ましくは10~25ヌクレオチドである。なお、第4のデオキシヌクレオチド及び第5ヌクレオチドは、第1のリバースプライマーにおいて各々1ヌクレオチドずつ含まれる。
【0088】
第1のリバースプライマーは、更に5’側にアダプタープライマー配列を含む。また、第2のリバースプライマーも、アダプタープライマー配列を3’末端に含む。本発明において「アダプタープライマー配列」とは、少なくとも本発明にかかる特定の配列、第1のポリデオキシヌクレオチド鎖及び第2のポリデオキシヌクレオチド鎖に対して相補的な配列ではなく、更に、本発明に係るDNA鎖(例えば、外来DNAが挿入されているホストゲノム)に対して相補的な配列ではないことが好ましい。また、アダプタープライマー配列は、天然には存在しない配列であることがより好ましい。
【0089】
アダプタープライマー配列の鎖長としては、上述の第2のポリメラーゼ連鎖反応(工程(6))が十分に進行し得る長さであれば、特に制限はなく、当業者であれば適宜調整し得るが、好ましくは18~27ヌクレオチドであり、より好ましくは20~25ヌクレオチドであり、特に好ましくは22ヌクレオチドである。アダプタープライマー配列のmelting temperature(Tm)値は、好ましくは50~72℃であり、より好ましくは55~68℃である。
【0090】
アダプタープライマー配列の好適な例を下記表2に示す。
【0091】
【0092】
本発明においてプライマーを構成する「ヌクレオチド」は、通常、DNAであるが、塩基対結合を形成し得る限り、他の天然ヌクレオチド(RNA)であってもよく、非天然ヌクレオチド(人工ヌクレオチド、ヌクレオチドアナログ)を含んでもよい。非天然ヌクレオチドとしては、例えば、ヘキシトール核酸(HNA)、シクロヘキセン核酸(CeNA)、ペプチド核酸(PNA)、グリコール核酸(GNA)、トレオース核酸(TNA)、モルホリノ核酸、トリシクロ-DNA(tcDNA)、2’-O-メチル化核酸、2’-MOE(2’-O-メトキシエチル)化核酸、2’-AP(2’-O-アミノプロピル)化核酸、2’-フルオロ化核酸、2’F‐アラビノ核酸(2'-F-ANA)、BNA(LNA等の架橋化核酸(Bridged Nucleic Acid))が挙げられる。
【0093】
本発明の「プライマー」は、標的ヌクレオチド配列にアニーリングし、DNA複製の起点となるオリゴヌクレオチドであり、1種のヌクレオチドのみ(例えば、DNAのみ)で構成されるオリゴヌクレオチドであってもよく、複数種のヌクレオチド(例えば、DNAとRNA)から構成されるキメラオリゴヌクレオチドであってもよいが、好ましくはDNAのみから構成されるオリゴヌクレオチドである。
【0094】
本発明のプライマーは、当業者であれば公知の方法を適宜選択することにより調製することができる。例えば、市販の核酸自動合成機(アプライドバイオシステムズ社製、べックマン社製等)を用いて合成し、次いで、得られるオリゴヌクレオチドを逆相カラム等を用いて精製することにより、プライマーを調製することができる。
【0095】
また、本発明のプライマーには、PCRによる増幅産物を検出等し易くするために、標識物質が結合していてもよい。「標識物質」としては、ヌクレオチドに結合することができ、化学的又は光学的方法に検出できるものであれば特に制限されることはなく、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、アロフィコシアニン(APC)、フィコエリスリン(R-PE)等の蛍光蛋白質、アルカリホスファターゼ(ALP)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、βガラクトシダーゼ(β-gal)等の酵素、125I等の放射性同位元素、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)やローダミンイソチオシアネート(RITC)等の蛍光色素、コロイド状金属、着色ラテックス等の呈色標識物質、アビジン、ビオチン、DIG、抗DIG抗体が挙げられる。なお、標識物質として酵素を用いる場合には、基質として、発色基質、蛍光基質、あるいは化学発光基質等を添加することにより、基質に応じて種々の検出を行うことができる。また、標識物質の結合は、プライマーを構成するヌクレオチドに直接結合していてもよく、他の物質を介して間接的に結合していてもよい。
【0096】
さらに、第3のフォワードプライマー及び第2のリバースプライマーには、後述の実施例に示すように、隣接する配列を決定するための配列(例えば、フローセル結合領域等の次世代シーケンサー用アダプター配列)を付加してもよい。
【0097】
また、本発明のキットには、上記プライマーの他、反応に用いる各種酵素を含めてもよい。かかる酵素としては、上記DNAポリメラーゼ、ターミナルデオキシトランスフェラーゼ(ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ)が挙げられる。
【0098】
「DNAポリメラーゼ」としては、標的ヌクレオチド配列に対してDNAからなる相補鎖を合成する活性を有するもの(DNA依存性DNAポリメラーゼ、RNA依存性DNAポリメラーゼ)であればよく、常温性、中温姓、耐熱性のものであっても用いることができる。また、5’→3’エクソヌクレアーゼ活性、3’→5’エクソヌクレアーゼ活性(校正活性)及びTdT活性のうちの少なくとも1の活性を有するDNAポリメラーゼが挙げられる。
【0099】
本発明にかかる「DNA依存性DNAポリメラーゼ」としては、特に制限はないが、好ましくは耐熱性DNAポリメラーゼである。耐熱性DNAポリメラーゼとしては、特に制限はなく、例えば、KODポリメラーゼ(KOD-Plus-Neo等、東洋紡株式会社製)、Q5 DNAポリメラーゼ(Q5-高正確性DNAポリメラーゼ、Q5-ホットスタート高正確性DNAポリメラーゼ等、いずれもNew England Biolabs社製)、ExTaqポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社製)が挙げられる。
【0100】
また、本発明にかかる「RNA依存性DNAポリメラーゼ」としては、特に制限はなく、例えば、レトロウイルス由来の逆転写酵素が挙げられる。より具体的には、変異型モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)逆転写酵素、トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)逆転写酵素、ラウス関連ウイルス(RAV)逆転写酵素、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)逆転写酵素、又はそれらの変異体(例えば、MMLV逆転写酵素の変異体である、SuperScript(登録商標)逆転写酵素(Thermo Fisher Scientific社製))が挙げられる。
【0101】
本発明のキットには、さらに上記反応に必要な物質を含んでいてもよい。かかる物質としては、上記反応液の組成(基質(dNTP)、上記イオン又はそれらを供するための塩、緩衝液、添加剤)が挙げられる。また、本発明のプライマーに標識物質を結合している場合には、当該標識物質を検出するための基質も前記キットに含まれ得る。さらに、検出方法によっては、PCRによる増幅産物を展開するための担体(例えば、電気泳動方法におけるゲル、核酸クロマト法におけるクロマト用試験紙)及び溶媒、蛍光物質(例えば、インターカレーション法におけるインターカレーター)、クエンチャー媒介蛍光検出法における蛍光物質及び消光物質が結合したプローブも、前記キットに適宜含まれる。さらに、増幅された配列を確認するための、DNA分子量マーカー及び陽性コントロールも、前記キットに含めてもよい。また、配列決定に必要な物質、例えば、シーケンス用プライマー等を含めることもできる。さらにまた、本発明のキットには、その使用説明書が含まれる。
【実施例】
【0102】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0103】
(ゲノムDNAの調製)
特定の配列(HTLV-1由来のDNA等のトランスジーン)及びそれに隣接する配列(ホストゲノム由来の配列)を含むゲノムDNAは、試料が末梢血白血球又は細胞株である場合には、キアゲン社製QIAamp DNA Blood Mini kitを用い添付の説明書に記載の方法に従って、試料がアデノウイルス、ラットの組織又はトウモロコシ Bt176種(http://bch.cbd.int/database/attachment/?id=10723)である場合には、アルカリ溶解液を用い常法にて、単離、調製した。
【0104】
そして、得られたゲノムDNAに、下記表3に示すとおり、RNaseA(タカラバイオ株式会社又は株式会社ニッポンジーン社製)を添加し、37℃で10分間インキュベーションし、RNAを失活、除去した。
【0105】
【0106】
そして、
図1に示す工程にて、特定の配列に隣接する配列の増幅を試みた。
【0107】
(工程1) 相補鎖の合成
トランスジーンとホストゲノムを含む1本鎖DNAの合成は、前記ゲノムDNAを鋳型とし、トランスジーン特異的F1プライマーとKOD-Plus Neo反応液(東洋紡社製)とを、下記表4に示す組成になるよう混合し、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製、Veritiサーマルサイクラーを用い、下記表5に示す条件にて反応させた(所要時間:約40分)。
【0108】
【0109】
【0110】
なお、各F1プライマー、後述の各F2プライマー及び各F3プライマーの配列は以下のとおりである。また、下記表6において「Common」は、トランスジーンの種類を問わず、共通して用いられたプライマーであることを示す。「NGS-F2」配列中の「NNNNNNNN」は、後述のイルミナ社次世代シーケンサーにおいて用いられるインデックスタグ(デュアルインデックス配列)を示す。
【0111】
【0112】
合成された1本鎖DNAの精製とF1プライマーの除去は、Monarch PCR&DNAクリーンナップキット(New England Biolabs社製、製品番号:T1030)を用いて行った。当該キットに付属のカラムに一旦結合させた1本鎖DNAの溶出は、9.2μLの水を添加して行ない、結果8.2μLのサンプルを回収した(所要時間:約15分)。
【0113】
(工程2及び3) 相補鎖3’末端のポリAGテール化
精製された1本鎖DNAと、ターミナルデオキシトランスフェラーゼ(TdT)反応液(New England Biolabs社製)とdATPを、下記表7に示す組成になるよう混合し、37℃、20分間反応させることによって、前記1本鎖DNAの3’末端のポリAテーリングを行った。
【0114】
【0115】
その後、下記表8に示す組成になるよう、dGTPを加え、更に37℃、15分間反応させることによって、前記1本鎖DNAの3’末端にポリAGを付加した。
【0116】
【0117】
その後、75℃、10分間の加熱処理を行なうことにより、ターミナルデオキシトランスフェラーゼの不活化を行った(所要時間:約45分)。
【0118】
(工程4) 2本鎖DNAの合成
2本鎖DNAの合成は、前記工程3の反応液に、下記表9に示す組成になるよう、オリゴdTアダプタープライマー(配列番号:2及び41)とQ5ホットスタート高正確性DNAポリメラーゼ反応液(New England Biolabs社製)とを直接加え、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製Veritiサーマルサイクラーを用い、下記表10に示すタッチダウン条件下で反応させた(所要時間:約5分)。なお、次の工程に移行するまで得られたサンプルは4℃にて維持した。
【0119】
【0120】
【0121】
なお、オリゴdTアダプタープライマー等の配列は以下のとおりである。また、下記表11において「Common」は、トランスジーンの種類を問わず、共通して用いられたプライマーであることを示す。また「NGS-R2」配列中の「NNNNNNNN」は、後述のイルミナ社次世代シーケンサーにおいて用いられるインデックスタグ(デュアルインデックス配列)を示す。
【0122】
【0123】
(工程5) 第1のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
2本鎖DNAの増幅は、工程4の反応液に、下記表12に示す組成になるよう、トランスジーン特異的F2プライマーを直接加え、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製Veritiサーマルサイクラーを用い、下記表13に示す条件にて反応させた(所要時間:約35分)。
【0124】
【0125】
【0126】
(工程6) 第2のPCR
工程5で増幅されたDNAを1/200希釈し、トランスジーン特異的F3プライマーとアダプタープライマー1(ADP1-NGS-R1)とKOD-Plus Neo反応液(東洋紡社製)を、下記表14に示す組成になるよう混合し、Thermo Fisher SCIENTIFIC、Veritiサーマルサイクラーを用い、下記表15に示す条件にて反応させた(所要時間:約40分)。
【0127】
【0128】
【0129】
その後、AmpureXP(Beckman coulter社製)を用いてDNAの精製及びプライマーの除去を行った。
【0130】
なお、以上の工程は、
図2に示すとおり、3時間弱にて行なうことができた。
【0131】
(サンガーシーケンスによるHTLV-1のクロナリティ解析)
上述の(工程6)にて得られた増幅産物をテンプレートとし、アダプター特異的なプライマー(Sanger seq primer)とBigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(サーモフィッシャー社製)を用いてシーケンス反応を行い、3730Xl DNA Analyzer(サーモフィッシャー社製)に供与し、サンガーシーケンスを行った。
【0132】
(NGSアダプターライブラリーの調製)
上述の(工程6)にて得られた増幅産物の配列決定、すなわちトランスジーン挿入部位の配列決定は、次世代シーケンス解析(NGS)に供することにより行なった。
【0133】
下記表16に示すとおり、工程6にて調製したDNA 2μLをテンプレートとし、下記表17に示す条件にて反応させることにより、Tail-PCR法により、イルミナ社の次世代シーケンサー用アダプター(インデックスタグ及びフローセル結合領域)を付加した増幅産物(NGSアダプターライブラリー)を調製した。また、その後、AmpureXP(Beckman coulter社製)を用いてDNAの精製及びプライマーの除去を行った。
【0134】
【0135】
【0136】
調製したライブラリーは、illumina社のMiseqに供与し、シーケンスを行う。シーケンスにより得られた配列(リード)は、FASTX-Toolキットによるプライマー配列と完全一致する配列の抽出、sickleによるプライマー配列のトリムと低精度配列の除去、UsearchによるOTUクラスタリング(Identity 97%)の工程を経て、BLAST+でホモロジー検索を行った。
【0137】
(実施例1)
HTLV-1が1コピー挿入された感染細胞(TL-Om1)のゲノムDNAと、非感染細胞(Jurkat)のゲノムDNAとを、各プロウイルス量(PVL)になるように調整して混合したものを、上述の方法にて解析した。
【0138】
その結果、
図3に示すとおり、プロウイルス量が0.032%という極僅かであっても特異的なバンドを検出することができた。すなわち、本発明によれば、特定の配列(HTLV-1)に隣接する配列(ホストゲノムDNA)を特異的に増幅することができ、また感度高く検出できることが明らかになった。
【0139】
(実施例2)
各トランスジーン用プライマーを設計し、プライマーを替えた以外は、実施例1と同条件下で反応させ、解析した。その結果、
図4に示すとおり、HIV-1、SIV、HBV、アデノウイルス、ゲノム編集のオフターゲット遺伝子組換え植物のいずれにおいても、外来DNAの挿入部位を特異的に増幅することができることが明らかになった。したがって、本発明によれば、実施例1に示したHTLV-1のみならず、汎用性高く、特定の配列(HTLV-1)に隣接する配列(ホストゲノムDNA)を特異的に増幅することができることが明らかになった。
【0140】
(実施例3)
HTLV-1キャリア3検体のゲノムDNAを用いて、実施例1と同条件下で独立して2回反応させ、解析した。その結果、
図5に示すとおり、キャリア3検体に関し、HTLV-1挿入部位の増幅を独立して2回行っても、同様なバンドパターンを得ることができた。また、図には示さないが、サンガーシーケンスによるクロナリティ解析、次世代シーケンスにおけるホモロジー検索の結果についても再現性の良いデータが得られた。したがって、本発明によれば、特定の配列(HTLV-1)に隣接する配列(ホストゲノムDNA)を特異的に、再現性良く増幅できることが明らかになった。
【0141】
(実施例4)
第2のポリデオキシヌクレオチド鎖を付加することの技術的意義を明確にすべく、HTLV-1が1コピー挿入された感染細胞(TL-Om1)のゲノムDNAを対象として、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)非添加にて、工程2及び3(相補鎖3’末端のデオキシヌクレオチドの重合的付加)を行ない、工程5(第1のPCR)にて得られる増幅産物を、アガロースゲル電気泳動にて解析した。また、dGTPを添加して工程2及び3を行ない、工程5にて得られる増幅産物と比較した。
【0142】
その結果、
図6に示すとおり、dGTPを添加しない場合、非特異的増幅産物由来のバンドが検出された。対して、dGTPを添加した場合では、このバンドは検出されなかった。したがって、特定の配列に隣接する配列を特異的に増幅するためには、第2のポリデオキシヌクレオチド鎖を付加することが必要であることが明らかになった。
【0143】
(実施例5)
第1のリバースプライマーに第4、第5のヌクレオチドを含めることの技術的意義を明確にすべく、HTLV-1が多コピー挿入された感染細胞(SLB1)のゲノムDNAを対象として、第1のリバースプライマーについて、第4、第5のヌクレオチドを含むもの(Oligo-dT-AD2)、第5のヌクレオチドを含まないもの(Oligo-dT-AD3)、第4、第5のヌクレオチドを含まないもの(Oligo-dT-AD4)を各々用い、工程4(2本鎖DNAの合成)を実施し、工程6(第2のPCR)にて得られる増幅産物を、アガロースゲル電気泳動にて解析した。
【0144】
その結果、
図7に示すとおり、Oligo-dT-AD2、Oligo-dT-AD3、Oligo-dT-AD4の順で反応産物の増幅長がより短鎖長側に収束していることが明らかになった。すなわち、第1のリバースプライマーは、第4及び/又は第5のヌクレオチドを含めることによって、増幅長の増大を伴う、第1のポリデオキシヌクレオチド鎖等への非特異的なアニーリングが抑制される一方で、当該プライマーは、隣接配列に対する相補的な配列と第1のポリデオキシヌクレオチド鎖との結合部位により特異性高くアニーリングしていることが明らかになった。このことから、第4及び/又は第5のヌクレオチドを第1のリバースプライマーに含めることは、特定の配列に隣接する配列を増幅する上で必要ではないが、特異性を高めるという観点から望ましいことが示唆される。
【0145】
(実施例6)
本発明の方法によれば、RNA鎖を対象としても、その鎖中の特定配列に隣接する配列を増幅し、更にはその配列を決定することができることを、以下に示す方法にて確認した。すなわち、ヒトTCRα(TCRA)及びTCRβ(TCRB)をコードするRNAにおいて、定常領域をコードする配列に隣接する、各可変領域をコードする配列を増幅し、それらの配列決定を試みた。
【0146】
なお、実施例6において用いた各プライマーの配列は表18に示すとおりである。また各反応における温度制御には、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製、Veritiサーマルサイクラーを用いた。
【0147】
【0148】
(RNAの調製)
成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)細胞株(HTLV-1が1コピー挿入された感染細胞(TL-Om1))から、RNA抽出・精製キット(Zymo research社製、Quick-RNA miniprep)を用い、その添付のプロトコールに沿って、トータルRNAを調製した。
【0149】
そして、
図1に示す工程にて、TCR可変領域をコードする配列の増幅を試みた。
【0150】
(工程1) 相補鎖の合成
定常領域と可変領域とをコードする1本鎖DNAを合成すべく、先ず、前記RNAを鋳型とし、下記表19に示す組成になるよう混合した。なお、鋳型とするRNAの添加量に応じ、全量が3.25μLになるよう、DEPC処理水の添加量を適宜調整した。
【0151】
【0152】
そして、前記RNAとF1プライマー等との混合液を、65℃で5分間インキュベートした後、少なくとも1分間は氷上に静置し、RNAとF1プライマーとをアニーリングさせた。
【0153】
次に、下記表20に示す組成の混合液を添加して、54℃で10分間インキュベートし、逆転写反応により、前記1本鎖DNAを合成した。
【0154】
【0155】
合成された1本鎖DNAの精製とF1プライマーの除去は、Monarch PCR&DNAクリーンナップキットを用い、その付属の説明書に従って行った。そして、当該キットに付属のカラムに一旦結合させた1本鎖DNAの溶出は、9.2μLの水を添加して行ない、結果約8.0μLのサンプルを回収した。
【0156】
(工程2及び3) 相補鎖3’末端のポリAGテール化
精製された1本鎖DNA(cDNA)と、ターミナルデオキシトランスフェラーゼ(TdT)及びその反応バッファー(New England Biolabs社製)とdATPを、下記表21に示す組成になるよう混合し、37℃、30分間反応させることによって、前記1本鎖DNAの3’末端のポリAテーリングを行った。
【0157】
【0158】
その後、下記表22に示す組成になるよう、dGTPを加え、更に37℃、15分間反応させることによって、前記1本鎖DNAの3’末端にポリAGを付加した。
【0159】
【0160】
その後、75℃、10分間の加熱処理を行なうことにより、ターミナルデオキシトランスフェラーゼの不活化を行った。
【0161】
(工程4) 2本鎖DNAの合成
2本鎖DNAの合成は、前記工程3の反応液に、下記表23に示す組成になるよう、オリゴdTアダプタープライマー(Oligo-dT-AD2)とQ5ホットスタート高正確性DNAポリメラーゼ反応液(New England Biolabs社製)とを直接加え、下記表24に示すタッチダウン条件下で反応させた。なお、次の工程に移行するまで得られたサンプルは4℃にて維持した。
【0162】
【0163】
【0164】
(工程5) 第1のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
2本鎖DNAの増幅は、工程4の反応液に、下記表25に示す組成になるよう、TCRA及びTCRBの各々の定常領域に特異的なF2プライマーミックスを直接加え、下記表26に示す条件にて反応させた。
【0165】
【0166】
【0167】
(工程6) 第2のPCR
工程5で増幅されたDNAを1/200希釈し、TCRA及びTCRBの各々の定常領域に特異的なF3プライマーとアダプタープライマー1(ADP1-NGS-R1)とKOD-Plus Neo反応液(東洋紡社製)を、下記表27に示す組成になるよう混合し、下記表28に示す条件にて反応させた。
【0168】
【0169】
【0170】
その後、AmpureXPを用いてDNAの精製及びプライマーの除去を行った。
【0171】
(サンガーシーケンスによるTCRレパトア解析)
上述の(工程6)にて得られた増幅産物をテンプレートとし、アダプター特異的なプライマー(Sanger seq primer)とBigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(サーモフィッシャー社製)を用いてシーケンス反応を行い、3730Xl DNA Analyzer(サーモフィッシャー社製)に供与し、サンガーシーケンスを行った。そして、得られた各配列をV-QUESTのデータベースに照合した。その結果、表29及び30に示すとおり、α遺伝子、β遺伝子の再構成結果を同定することができた(なお、表29にヒトTCRA遺伝子の再構成解析結果を示し、表30にヒトTCRB遺伝子の再構成解析結果を示す)。
【0172】
【0173】
【産業上の利用可能性】
【0174】
以上説明したように、本発明によれば、短時間に効率良く、感度高く、低コストで、汎用性高く、また再現性良く、特定の配列に隣接する配列を増幅し、更にはその配列を決定することが可能となる。
【0175】
したがって、本発明は、遺伝子治療、ゲノム編集等の遺伝子改変技術、更にはウイルス関連疾患における、外来DNA(特定配列)のホストゲノム上への挿入部位(隣接配列)を同定する上で優れているため、遺伝子改変技術の安全性評価、ウイルス関連疾患の診断法及び治療法の開発等において極めて有用である。また、上述のとおり、TCRレパトア解析においても極めて有用である。
【配列表】