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  • 特許-ナットランナおよびねじ締付方法 図1
  • 特許-ナットランナおよびねじ締付方法 図2
  • 特許-ナットランナおよびねじ締付方法 図3
  • 特許-ナットランナおよびねじ締付方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ナットランナおよびねじ締付方法
(51)【国際特許分類】
   B23P 19/06 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
B23P19/06 G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019103610
(22)【出願日】2019-06-03
(65)【公開番号】P2020196089
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-05-10
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000177128
【氏名又は名称】三洋機工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100093997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀佳
(72)【発明者】
【氏名】両田 寿
(72)【発明者】
【氏名】浦田 航太朗
【合議体】
【審判長】中屋 裕一郎
【審判官】内田 博之
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-170574(JP,A)
【文献】特開平4-93183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 19/00-21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄ねじ又は雌ねじを回転するためのモータと、
前記モータの回転角を検出する角度センサと、
雄ねじと雌ねじを軸線方向に突合わせて押圧した状態で前記モータをねじ締め方向とは反対方向に逆回転させたときの雄ねじと雌ねじのねじ切り口の周期的衝突により発生する衝撃力を検出する振動センサと、
前記モータを駆動制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、雄ねじと雌ねじのねじ締め作動の前に前記モータを逆回転させると共に、前記振動センサが前記衝撃力を少なくとも2回連続して検出したときであって、1回目の検出時の前記角度センサの回転角θ1と、2回目の検出時の前記角度センサの回転角θ2の差分角θ2-θ1が、前記周期的衝突の理論角度周期と一致したときに、前記モータを正回転に切り替えることを特徴とするナットランナ。
【請求項2】
雄ねじと雌ねじが一条ねじのとき、前記理論角度周期が360°であることを特徴とする請求項1のナットランナ。
【請求項3】
前記雄ねじと前記雌ねじが二条ねじのとき、前記理論角度周期が180°であることを特徴とする請求項1のナットランナ。
【請求項4】
前記モータを逆回転させるときの回転速度を、正回転させるときの回転速度よりも低速にしたことを特徴とする請求項1のナットランナ。
【請求項5】
ナットランナによるねじの締付方法であって、雄ねじと雌ねじを軸線方向に突合わせて押圧した状態でナットランナをねじ締め方向とは反対方向に逆回転させ、当該逆回転による雄ねじと雌ねじのねじ切り口の周期的衝突により発生する衝撃力を振動センサで検出し、前記振動センサが前記衝撃力を少なくとも2回連続して検出したときであって、1回目の検出時のナットランナの回転角θ1と、2回目の検出時のナットランナの回転角θ2の差分角θ2-θ1が、前記周期的衝突の理論角度周期と一致したときに、ナットランナを正回転に切り替えることを特徴とするねじ締付方法。
【請求項6】
ナットランナを逆回転させるときの雄ねじと雌ねじの押圧力を、ナットランナを正回転させるときの押圧力よりも小さくしたことを特徴とする請求項5のねじ締付方法。
【請求項7】
ナットランナを逆回転させるときの回転速度を、正回転させるときの回転速度よりも低速にしたことを特徴とする請求項5又は6のねじ締付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナットランナおよびねじ締付方法に係り、詳しくは、ボルトやナットをワークに自動締付けする際のねじの噛み込みを防止するナットランナおよびねじ締付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルトやナットをワークに自動締付けするのにナットランナが使用される。すなわち、ナットランナによってワークのねじ穴にボルトを締め付けたり、あるいはワークに突設された植え込みボルトにナットを締め付けたりする。このねじ締めに際してねじ同士の軸線が一直線になっていないと、ねじの噛み込みが発生する恐れがある。
【0003】
そこで特許文献1の発明は、ナットランナでボルトやナットをねじ締め方向に正回転する前に複数回逆回転させ、その際に発生するねじ切り口同士の衝突による衝撃力を検出した時点でボルトやナットを正回転する。また特許文献2の発明は、ボルトやナットの逆回転時に発生するねじ切り口同士の衝突の時間間隔と、衝突の理論周期とが一致した時点でボルトやナットを正回転する。特許文献2の発明は特許文献1の発明を改良したもので、ねじ切り口同士の衝突による衝撃力を他の衝撃ノイズから区別してナットランナの誤作動を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-315097号公報
【文献】特開2017-170574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2の発明において、ボルトやナットの逆回転開始からのナットランナの加速時や、逆回転の回転速度がナットランナの負荷等の影響で途中から変化する場合がある。そのような変化があると、測定されたねじ切り口同士の衝突の時間間隔と衝突の理論周期とが一致しなくなる。そうすると正回転の切り替え時期を逸する誤作動が生じ、ナットランナの締付動作が遅れたり、逆回転が不必要に長引くことでねじ切り口が潰れたりする可能性があった。
【0006】
そこで本発明の目的は、ボルトやナットの逆回転開始からのナットランナの加速時や、逆回転の回転速度が途中で変化しても、誤作動なく確実に締付動作を開始可能なナットランナおよびねじ締付方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明のナットランナは、雄ねじ又は雌ねじを回転するためのモータと、前記モータの回転角を検出する角度センサと、雄ねじと雌ねじを軸線方向に突合わせて押圧した状態で前記モータをねじ締め方向とは反対方向に逆回転させたときの雄ねじと雌ねじのねじ切り口の周期的衝突により発生する衝撃力を検出する振動センサと、前記モータを駆動制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、雄ねじと雌ねじのねじ締め作動の前に前記モータを逆回転させると共に、前記振動センサが前記衝撃力を少なくとも2回連続して検出したとき、1回目の検出時の前記角度センサの回転角θ1と、2回目の検出時の前記角度センサの回転角θ2の差分角θ2-θ1が、前記周期的衝突の理論角度周期と一致したときに、前記モータを正回転に切り替えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のねじ締付方法は、ナットランナによるねじの締付方法であって、雄ねじと雌ねじを軸線方向に突合わせて押圧した状態でナットランナをねじ締め方向とは反対方向に逆回転させ、当該逆回転による雄ねじと雌ねじのねじ切り口の周期的衝突により発生する衝撃力を振動センサで検出し、前記振動センサが前記衝撃力を少なくとも2回連続して検出したとき、1回目の検出時のナットランナの回転角θ1と、2回目の検出時のナットランナの回転角θ2の差分角θ2-θ1が、前記周期的衝突の理論角度周期と一致したときに、ナットランナを正回転に切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ボルトやナットの逆回転開始からのナットランナの加速時や、逆回転の回転速度が途中で変化しても、誤作動なく確実に締付動作を開始することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るナットランナの概略図である。
図2】(a)(b)はナットランナでボルトを逆回転する状態を示す図、(c)は正回転する状態を示す図である。
図3】ボルトを逆回転から正回転に切り替えるときのタイムチャートである。
図4】コントローラの作動を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係るナットランナとねじ締付方法を図面を参照して説明する。図1にナットランナ100とその制御手段としてのコントローラ200を示す。ナットランナ100はモータ110、減速機120、出力軸140、ソケット150、角度センサ160および振動センサ170を有する。
【0012】
角度センサ160は出力軸140の回転角度を検出するもので、アブソリュート形やインクリメンタル形のロータリーエンコーダで構成可能である。また振動センサ170は、出力軸140に作用する衝撃力、特に出力軸140の軸線方向の衝撃力を検出するもので、周知の加速度計や速度計等を使用可能である。振動センサ170の感度軸は1軸あればよく、当該感度軸を出力軸140の軸線方向に合わせて取り付ける。
【0013】
モータ110はコントローラ200によって駆動制御される。コントローラ200はモータ110の他にトルクセンサ130、角度センサ160および振動センサ170に接続され、これらセンサで検出された出力軸140のトルク、回転角度、衝撃力がコントローラ200に入力される。
【0014】
図2(a)(b)は、雄ねじが切られたボルト10の先端を、雌ねじが切られたワークWのねじ穴20の入口に押圧した状態で、ボルト10を逆回転させたときのねじ切り口同士が衝突する状態を示す。また図2(c)はボルト10を正回転してねじ締めを開始するときのねじ山11の切り口11aの移動方向を示す。図2(b)と(c)は、ねじの周方向を展開して示している。
【0015】
ここで「ねじ切り口」とは、雄ねじと雌ねじのねじ山端部のことをいう。図2(a)のようにボルト10の先端をワークWのねじ穴20の入口に押圧し、この状態でナットランナ100によってボルト10を逆回転する。
【0016】
ボルト10を逆回転し、ボルト10の先端のねじ山11が図2(b)のように矢印方向に移動してねじ穴20の入口のねじ山21の切り口21aを通過すると、ボルト10のねじ山11が1ピッチ分だけ落下して下側のねじ山21に衝突する。この衝突によりナットランナ100の出力軸140に衝撃力が伝わり、当該衝撃力の大きさが振動センサ170で検出される。検出された衝撃力はその時の出力軸140の回転角度と共にコントローラ200に入力される。
【0017】
図3は、衝撃力の検出によりナットランナ100のモータ110を逆回転から正回転に切り替えるときのタイムチャートを示したものである。モータ110の逆回転の開始から最初に所定閾値以上の衝撃力IM1を検出したときの回転角θ1から、次に所定閾値以上の衝撃力IM2を検出したときの回転角θ2までの差分角(θ2-θ1)が360°か否かで、モータ110の逆回転を継続するか、正回転に切り替えるかを判定する(後述の図4のフローチャートのステップ3参照)。図3は差分角(θ2-θ1)=360°で正回転に切り替えた状態を示している。逆回転と正回転の間には短い回転停止期間を設ける。
【0018】
前記「所定閾値」は、実測された最大衝撃力の例えば70%~90%の範囲内の所定値に設定することができる。当該閾値が大きいほど他の衝撃ノイズによる誤作動を低減できるが、大きすぎると衝撃力不検出によって締付動作が遅れる原因になる。したがって、「所定閾値」はボルト10の種類ごとに複数回実測した衝撃力の大きさに基づいて最適値を定めるとよい。
【0019】
差分角(θ2-θ1)は理論的には360°になるはずであるが、実際は角度センサ160と振動センサ170の検出精度やボルト10の部品精度などでバラツキがでるので、例えば±5°程度の許容角度誤差を設定するとよい。仮に±5°を許容角度誤差に設定した場合は、355°≦差分角(θ2-θ1)≦365°で正回転に切り替えることになる。
【0020】
モータ110を逆回転するときのボルト10の押圧力は、その後に正回転するときのボルト10の押圧力と同じでよい。このように押圧力を一定に維持することで、衝撃力IM1、IM2の発生を確実化すると共に、ボルト10の締付動作を迅速化することができる。
【0021】
またモータ110を逆回転させるときの回転速度は、正回転させるときの回転速度と同じでもよいが、より低速で逆回転させてもよい。これにより、衝撃ノイズの発生を抑制して後述する角度周期の判定精度を高めることができる。
【0022】
次に、コントローラ200の作動を図4のフローチャートにより説明する。図1のナットランナ100によりボルト10を図2のようにワークWのねじ穴20に締め付けるにあたり、ステップ1で、まずボルト10の締め付け方向とは反対方向にボルト10を逆回転させる。
【0023】
ボルト10を逆回転させると、図2(b)のように、ボルト10のねじ山11の切り口11aが、雌ねじのねじ山21の切り口21aに周期的に衝突する。ステップS2で、この周期的衝突による衝撃力を振動センサ170で検出したか否かが判定される。
【0024】
当該衝撃力の大きさが所定の閾値よりも大きいと、ねじ切り口同士の周期的衝突による衝撃力であると判定する。ステップS2で衝撃力が振動センサ170で検出されたと判定されなかった場合、ステップS1に戻ってモータ110の逆回転が継続する。
【0025】
ステップS2で衝撃力が振動センサ170で検出されたと判定された場合、次のステップS3に移動し、衝撃力の検出が2回目か否か判定される。衝撃力の検出が2回目であると判定されると、次のステップS4に移動し、実測された衝撃力の角度周期と理論角度周期(360°)が一致しているか否かが判定される。
【0026】
角度周期が一致しない場合は、振動センサ170で1回目又は2回目に検出された衝撃力がねじ切り口の衝突による衝撃力以外である可能性が高いので、衝撃力の検出回数を「0」にリセットした上で、ステップS1に戻ってモータ110の逆回転を継続し、ステップS2~ステップS4の判定を繰り返す。
【0027】
ステップS4で角度周期が一致していると判定されると、ステップS5でモータ110を停止し、次いでステップS6でモータ110を締付方向に正回転させる。そしてステップS7で、ナットランナ100の締付トルクが規定トルクに到達したか否かがトルクセンサ130からの信号によって判定される。
【0028】
規定トルクに到達していないとステップS6に戻ってモータ110の正回転が継続される。規定トルクに到達するとステップS8でモータ110を停止し、ナットランナ100によるねじ締付を終了する。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば前記実施形態ではボルト10のねじ山を一条ねじと想定して理論角度周期を360°としたが、二条ねじの場合は理論角度周期を180°にすればよい。
【0030】
また、前記実施形態では2回の衝撃力IM1、IM2の検出で角度周期の一致・不一致を判定したが、判定精度を高めるために3回以上の衝撃力の検出で角度周期の一致・不一致を判定してもよい。この場合、ボルト10の押圧力でねじ切り口が潰れるのを防止するため、モータ110を逆回転するときのボルト10の押圧力を、その後に正回転するときのボルト10の押圧力よりも小さくしてもよい。
【符号の説明】
【0031】
10:ボルト 11,21:ねじ山
11a,21a:ねじ山の切り口 20:ねじ穴
100:ナットランナ 110:モータ
120:減速機 130:トルクセンサ
140:出力軸 150:ソケット
160:角度センサ 170:振動センサ
200:コントローラ(制御手段) IM1,IM2:衝撃力
W:ワーク θ1,θ2:回転角
図1
図2
図3
図4