(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】未病識別システム
(51)【国際特許分類】
G16H 50/20 20180101AFI20240125BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20240125BHJP
A61B 5/107 20060101ALI20240125BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240125BHJP
C12Q 1/6827 20180101ALN20240125BHJP
C12Q 1/04 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
G16H50/20
A61B5/00 M
A61B5/107 100
G01N33/50 Q
C12Q1/6827 Z
C12Q1/04
(21)【出願番号】P 2019202778
(22)【出願日】2019-11-07
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】505008958
【氏名又は名称】株式会社BHY
(74)【代理人】
【識別番号】100100918
【氏名又は名称】大橋 公治
(72)【発明者】
【氏名】金沢 生花
【審査官】吉田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-154870(JP,A)
【文献】国際公開第2019/022085(WO,A1)
【文献】特開2016-143171(JP,A)
【文献】特開2012-133501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00 - 80/00
A61B 5/00
A61B 5/107
G01N 33/50
C12Q 1/6827
C12Q 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の
東洋医学的未病状態を識別する識別システムであって、
前記被験者及び複数のサンプル提供者の体質に関係するデータを実測する実測手段と、
前記サンプル提供者の前記未病状態を評価する評価データと該サンプル提供者の前記実測手段で実測された実測データとを含むサンプルデータの複数個を保持するデータベースと、
前記サンプルデータ
に含まれる前記実測データと
前記評価データとの対応関係から、前記被験者の
前記実測手段で実測された実測データに基づいて前記被験者の
東洋医学的未病状態を識別する識別部と、
を備え
、
前記識別部は、入力層、中間層及び出力層を有するニューラルネットワークを用いて、前記サンプルデータに含まれる前記実測データを前記入力層に入力し、該サンプルデータに含まれる前記評価データを前記出力層から出力する学習を行い、学習済みの前記ニューラルネットワークの前記入力層に前記被験者の実測データを入力して、該被験者の前記未病状態を表す前記評価データを前記出力層から得る、東洋医学的未病識別システム。
【請求項2】
請求項
1に記載の
東洋医学的未病識別システムであって、
前記実測手段には、皮膚の状態を実測する皮膚測定手段、体型を実測する体型計測手段、遺伝子を測定するDNA測定手段、及び、体内のマイクロバイオームを測定するマイクロバイオーム測定手段の少なくとも一つが含まれる
東洋医学的未病識別システム。
【請求項3】
請求項
1に記載の
東洋医学的未病識別システムであって、
前記ニューラルネットワークが、多層の前記中間層を有している
東洋医学的未病識別システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、東洋医学的未病の状態を科学的に識別するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
同じ「未病」でも「西洋医学的未病」と「東洋医学的未病」とでは意味が違っており、西洋医学では「自覚症状はないが、検査で異常が確認される状態」を未病と言い、東洋医学では「自覚症状はあるが、検査で異常がない状態」を未病と言っている。
西洋医学では検査で異常が確認できなければ治療は行わない。一方、東洋医学では、未病も治療対象であり、本格的な病気になる前に正常に戻すことを治療原則としている。
東洋医学では、人体を構成し生存を維持する基本要素として「気」「血」「津液」が存在し、それらの不調が病をもたらすと考えられている。未病は、健康と病との中間の状態に当たる。
【0003】
東洋医学の診察では、患者の動作・状態等を観察する「望診」、患者の声・呼吸音等を聞き、口臭・体臭等を嗅ぐ「聞診」、患者の自覚症状・病歴・生活習慣等を確認する「問診」、そして、患者の体に触れて筋肉の緊張度や内臓の状態等を診る「切診」の四診が行われ、それらの情報を総合して「証」、即ち、患者の体質を読取り、その体に合った治療法が採られる。
こうした診察には時間が掛かる。また、多くの経験を積んだ熟練者でなければ適切な証を立てることが難しい。
【0004】
東洋医学の四診を支援するため、種々の器具が開発さている。下記特許文献1には、望診の内の舌診を容易にする器官画像撮影装置が開示されている。また、下記特許文献2には、切診を支援する触診支援装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-198140号公報
【文献】再表2015-121957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、望診や切診等を機械的に支援する手段が提供されたとしても、四診の情報を総合して患者の未病状態を読取ることは容易ではない。
【0007】
本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、東洋医学的未病(以下、単に「未病」と言う。)の状態を科学的に識別できるシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被験者の未病状態を識別する識別システムであって、被験者及び複数のサンプル提供者の体質に関係するデータを実測する実測手段と、サンプル提供者の未病状態を評価する評価データとこのサンプル提供者の実測手段で実測された実測データとを含むサンプルデータの複数個を保持するデータベースと、データベースに保持されたサンプルデータの実測データと評価データとの対応関係から、被験者の実測手段で実測された実測データに基づいて被験者の未病状態を識別する識別部と、を備える。
【0009】
そして、識別部は、入力層、中間層及び出力層を有するニューラルネットワークを用い、サンプルデータに含まれる実測データを入力層に入力して、そのサンプルデータに含まれる評価データを出力層から出力する学習を行う。そして、学習済みのニューラルネットワークの入力層に被験者の実測データを入力し、被験者の未病状態を表す評価データをニューラルネットワークの出力層から得る。
学習済みニューラルネットワークは、人工知能(AI)の機械学習を通じて構築することができ、このニューラルネットワークを用いて被験者の未病状態を短時間に識別することができる。
【0010】
また、本発明の未病識別システムの実測手段には、皮膚の状態を実測する皮膚測定手段、体型を実測する体型計測手段、遺伝子を測定するDNA測定手段、及び、体内のマイクロバイオームを測定するマイクロバイオーム測定手段の少なくとも一つが含まれる。
これらの実測手段を用いて、被験者及びサンプル提供者の実測データが測定される。
【0011】
また、本発明の未病識別システムで用いるニューラルネットワークは、多層の中間層を有していても良い。
多層の中間層を有するニューラルネットワークを用いて深層学習(ディープラーニング)を行い、被験者の未病状態を識別することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の未病識別システムは、被験者の未病状態を、熟練を必要とせずに、簡便に、且つ、高い精度で科学的に識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る未病識別システムの構成を示すブロック図
【
図3】本発明の実施形態に係る未病識別システムの構築手順を示すフロー図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る未病識別システムの構成を模式的に示している。
このシステムは、システム構築に協力するサンプル提供者から得られたサンプルデータ10を多数保存するサンプルデータベース9と、サンプルデータを教師データに利用してニューラルネットワーク21の学習を行い、学習済みのニューラルネットワーク21を用いて被験者の未病状態を識別する識別部20とを備えている。
【0015】
サンプルデータ10は、サンプル提供者の未病状態を評価した未病状態評価データ11と、実測手段120で測定したサンプル提供者の実測データ12とから成る。
サンプル提供者の未病状態評価データ11は、サンプル提供者の未病状態を判定した医師の医師評価データ111である。
【0016】
例えば、医師は、サンプル提供者から、普通にしていても自然と汗が出る自汗や、倦怠感、食欲不振、手足の冷え等の症状を読み取ると「気虚」と判定する。精神の抑うつ、げっぷ、おなら、腹部の張り等の症状を読み取ると「気滞」と判定する。イライラ感、呼吸器の異常、吐き気の症状を読み取ると「気逆」と判定する。目のかすみや乾き、動悸、月経不順の症状を読み取ると「血虚」と判定する。発熱、各部の出血、乾燥、皮膚のかゆみの症状を読み取ると「血熱」と判定する。肌や髪の乾燥、喉、鼻、口の渇き、関節の異常の症状を読み取ると「内燥」と判定する。また、めまい、吐き気、腹水が溜る状態、むくみの症状を読み取ると「内湿」と判定する。
【0017】
サンプル提供者の実測データ12を測定する実測手段120は、サンプル提供者の肌の状態を測定する皮膚測定手段121や、サンプル提供者の体型を測定する体型計測手段122、サンプル提供者の遺伝子を測定するDNA測定手段123、サンプル提供者の体内に常在する微生物叢を測定するマイクロバイオーム測定手段124等である。
【0018】
サンプル提供者の実測データ12を得るための実測手段120は、被験者の実測データ22を得るときにも使用される。
皮膚測定手段121は、脂性肌/乾燥肌の関係を表すスコア(脂性肌の程度が高いほど値が大きく、乾燥肌の程度が高いほど値が小さい)や、耐性肌/敏感肌の関係を表すスコア、色素性肌/非色素性肌の関係を表すスコア、シワ肌/ハリ肌の関係を表すスコア、スポット(しみ、斑点、ほくろ)のスコア、肌のキメの状態、毛穴の大きさ、UVスポットの発生状態、赤いシミの発生状態等を測定する。
皮膚測定手段121として、例えばVISIO(皮膚計測機)などを使用する。
【0019】
体型計測手段122は、身長、バスト、二の腕、ウエスト、ヒップ、太もも、ふくらはぎ、足首、肩幅、骨盤等の各部位の寸法を測定する。
体型計測手段122として、例えば
図4に示す3次元測定装置を使用する。
図4(a)の装置は、垂直線上に固定された4台の距離センサ付きカメラSDの前で人物Sを乗せたステージTが回転するように構成されている。4台のカメラSDは、ステージTが所定角度回転するごとに人物Sを撮影する。ステージTが1回転する間にカメラSDで撮影された複数の画像から被写体の複数の特徴点が抽出され、特徴点の位置関係が計算されて、人物Sの各種の寸法が測定される。
図4(b)の装置は、人物Sが載る固定ステージTの周りを4台の距離センサ付きカメラSDが回転する。また、
図4(c)の装置は、垂直線上に固定された4台の距離センサ付きカメラSDを120度の角度を空けて3列配置し、人物を回転させなくても人物の全周が撮影できるように構成されている。
【0020】
DNA測定手段123は、唾液、血液、綿棒で採取した口腔粘膜等のサンプルから遺伝子情報を取得する。近年、DNAの解析技術が急速に進歩したことにより、低価格で遺伝子検査を引受ける検査機関が増えている。こうした検査機関にサンプルを送ることで遺伝子情報が得られる。検査機関は、サンプルから一塩基多型(SNP:塩基配列中の一塩基が変異しているヒトの割合が一定率以上である塩基配列)における変異の有無を解析し、解析結果を送り返してくる。
【0021】
マイクロバイオーム測定手段124は、糞便検体から腸内細菌叢の情報を取得する。マイクロバイオームの検査機関も最近増えており、こうした検査機関に糞便検体を送ることで腸内細菌叢の情報が得られる。検査機関は、糞便検体を検査して腸内細菌叢の菌種数や菌種の割合、また、ビフィズス菌、乳酸菌、痩せ菌等の腸内細菌がどの程度住み着いているかの情報等を伝えてくれる。
【0022】
識別部20は、ニューラルネットワーク21を用いて被験者の未病状態を識別する。
ニューラルネットワーク21は、
図2に示すように、入力層、中間層、及び、出力層を有している。
ニューラルネットワークの入力層の各ノードに値xi(i=1,2,3,4・・・)を与えると、中間層のノードj(j=1,2,3,4・・・)には、入力層の各ノードの値xiに重みw(1)jiを掛けた値の加算値vjが入力する(vj=Σxi・w(1)ji)。そして、出力層のノードk(k=1,2、3・・・)には、中間層の各ノードの値vjに重みw(2)kjを掛けた値の加算値ykが入力する(yk=Σvj・w(2)kj)。
識別部20は、サンプルデータを教師データに用いて、サンプルデータの実測データ12を入力層の各ノードに与えたとき、出力層から医師評価データ111が出力されるように、重みw(1)ji及びw(2)kjの値を調整する。
【0023】
この調整をやり易くするため、実測データ12に対して、最大値xmaxを1(又は1より僅かに小さい値)、最小値xminを0(又は0より僅かに大きい値)とする正規化を行う。この正規化した値Yは、実測データをX、実測データの最大値をXmax、実測データの最小値をXminとするとき、次式により求めることができる。
Y=(X-Xmin)/(Xmax-Xmin)
【0024】
皮膚測定手段121で計測した各実測データは、数値化して正規化し、ニューラルネットワーク21の入力層の個々のノードに入力する。数値化できない(有るか無いかを検出している)実測データは、有る場合にxmaxを、無い場合にxminをノードに入力する。
体型計測手段122で計測した各実測データは、そのまま正規化しても良いが、各実測データと一つの値(例えば身長)との比を計算し、その比の値を正規化して入力層の個々のノードに入力するようにしても良い。
DNA測定手段123の測定結果は、検査した各遺伝子について変異がある場合にxmaxを、無い場合にxminをノードに入力する。
マイクロバイオーム測定手段124の測定結果も同様に、数値化できるデータは正規化してノードに入力し、数値化できないデータは、xmaxまたはxminをノードに入力する。
【0025】
また、出力層から出力される医師評価データ111にはラベルを付し、ラベルの情報が出力層のノードから出力されるようにする。例えば、「気虚」のラベルを「000」、「気滞」のラベルを「001」、「気逆」のラベルを「010」、「血虚」のラベルを「011」、「血熱」のラベルを「100」、「内燥」のラベルを「101」、また「内湿」のラベルを「110」に設定し、出力層の1番目のノードからラベルの1桁目の数字が出力され、2番目のノードからラベルの2桁目の数字が出力され、3番目のノードからラベルの3桁目の数字が出力されるようにすることで出力層からの医師評価データの出力が可能になる。
【0026】
識別部20は、ニューラルネットワーク21の入力層のノードに各サンプル提供者の実測データ12を入力したとき、出力層のノードから、そのサンプル提供者に対する医師評価データ111が出力されるように重みw(1)ji及びw(2)kjの値を設定する。
この操作を効率化するため、ニューラルネットワークでは「誤差逆伝搬法(バックプロパゲーション)」と言う方法が広く行われている。この方法では、出力側から順番に答えとどのくらい違っているか比較して誤差を算出し、誤差を埋めるようにして重み付けの値を導き出す。
【0027】
こうした学習を経て、ニューラルネットワーク21の入力層のノードに各サンプル提供者の実測データ12を入力したとき、出力層のノードから、そのサンプル提供者に対する医師評価データ111が出力されるようになった段階で、識別部20は、入力層のノードに入力された実測データ12の内、中間層の全てのノードとの間の重みw(1)jiが0の実測データを探し、該当する実測データを未病識別システムから除外する。
こうすることで、入力層の不必要なノードを整理することができる。
【0028】
識別部20は、実測手段120で実測された被験者の実測データ22が入力すると、それを学習済みのニューラルネットワーク21の入力層の各ノードに入力する。そうすると、学習済みのニューラルネットワーク21の出力層からは、被験者の未病状態を表す医師評価データが出力される。
【0029】
図3のフロー図は、この未病識別システムを実現する手順を示している。
先ず、医師評価データと実測データを含むサンプルデータを集める(St.1)。
次いで、サンプルデータを用いてニューラルネットワークの学習を行う(St.2)。
次いで、学習済みニューラルネットワークを用いて、被験者の実測データから被験者の未病状態を表す評価データを得る(St.3)。
St.3で得られた被験者の評価データ及び被験者の実測データは、以降のサンプルデータに含めることができる。そうしたサンプルデータが増えることにより、このシステムを維持するための医師の負担が減少する。
【0030】
ここでは、ニューラルネットワークの中間層が1層の場合について説明したが、ニューラルネットワークの中間層は多層であっても良い。多層の中間層を有するニューラルネットワークを用いて深層学習(ディープラーニング)を行うことにより、高精度の未病状態の識別が可能になる。
また、ここでは、実測手段として、皮膚測定手段、体型計測手段、DNA測定手段、及び、マイクロバイオーム測定手段を挙げたが、そのすべてを使わなくても良いし、また、その他の実測手段を使っても良い。
また、ここでは、ニューラルネットワークを用いて被験者の未病状態を識別する場合について説明したが、サンプルデータの実測データと被験者の実測データとの対応関係を別の手法で求めて被験者の未病状態を識別するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の未病識別システムは、未病状態の識別に熟練を必要としないため、各種医療機関等で広く利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
9 サンプルデータベース
10 サンプルデータ
11 サンプル提供者の未病状態評価データ
12 サンプル提供者の実測データ
20 識別部
21 ニューラルネットワーク
22 被験者の実測データ
111 医師評価データ
120 実測手段
121 皮膚測定手段
122 体型計測手段
123 DNA測定手段
124 マイクロバイオーム測定手段