(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】受容器検査装置、受容器検査プログラム及び受容器検査方法
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
A61B3/10
(21)【出願番号】P 2020057666
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】100180758
【氏名又は名称】荒木 利之
(72)【発明者】
【氏名】樋口 人志
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-188254(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0041206(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-5/01
A61B 5/05-5/0538
A61B 5/06-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを、
被験者の受容器の状態を当該受容器の位置情報とともに示す状態情報を取得する状態情報取得手段と、
前記状態情報に基づいて前記被験者の受容器を検査するための刺激を与える位置及び刺激の内容を示す刺激イベント情報を生成する刺激イベント生成手段と、
前記刺激イベント情報に基づいて前記被験者の受容器を刺激するよう制御する刺激制御手段と、
受容器への刺激に対する前記被験者の反応を検出し、前記刺激イベント情報に対応付けて応答履歴情報として記録する応答検出手段と、
前記応答履歴情報と、前記状態情報及び前記刺激イベント情報の少なくともいずれかとを対応付けて出力する応答履歴出力手段と
、
前記状態情報及び前記刺激イベント情報の少なくともいずれかと、前記応答履歴情報とを比較することにより前記被験者の応答に補完が含まれるか否かを分析する応答分析手段として機能させる受容器検査プログラム。
【請求項2】
コンピュータを、
被験者の受容器を検査するための刺激を与える位置及び刺激の内容を示す刺激イベント情報を生成する刺激イベント生成手段と、
前記刺激イベント情報に基づいて前記被験者の受容器を刺激するよう制御する刺激制御手段と、
受容器への刺激に対する前記被験者の反応を検出し、前記刺激イベント情報に対応付けて応答履歴情報として記録する応答検出手段と、
前記応答履歴情報と、被験者の受容器の状態を当該受容器の位置情報とともに示す状態情報及び前記刺激イベント情報の少なくともいずれかとを対応付けて出力する応答履歴出力手段と
、
前記状態情報及び前記刺激イベント情報の少なくともいずれかと、前記応答履歴情報とを比較することにより前記被験者の応答に補完が含まれるか否かを分析する応答分析手段として機能させる受容器検査プログラム。
【請求項3】
前記刺激イベント生成手段は、前記受容器の状態を検査するための刺激の内容として、受容器、末梢神経、脳の部位、一次感覚野、より高次の感覚領域及び刺激に対する反応動作のいずれかの段階又は複数の段階を応答させる内容を選択する請求項1
又は2に記載の受容器検査プログラム。
【請求項4】
前記刺激イベント情報の刺激の内容で応答を意図した段階と、前記応答履歴情報とを比較することにより前記被験者の応答に補完が含まれるか否かを分析する応答分析手段としてさらに機能させる請求項
3に記載の受容器検査プログラム。
【請求項5】
前記受容器は網膜であり、前記受容器の状態を示す情報は眼底画像であり、前記刺激は光の照射である請求項1-
4のいずれか1項に記載の受容器検査プログラム。
【請求項6】
被験者の受容器の状態を当該受容器の位置情報とともに示す状態情報を取得する状態情報取得手段と、
前記状態情報に基づいて前記被験者の受容器を検査するための刺激を与える位置及び刺激の内容を示す刺激イベント情報を生成する刺激イベント生成手段と、
前記刺激イベント情報に基づいて前記被験者の受容器を刺激するよう制御する刺激制御手段と、
受容器への刺激に対する前記被験者の反応を検出し、前記刺激イベント情報に対応付けて応答履歴情報として記録する応答検出手段と、
前記応答履歴情報と、前記状態情報及び前記刺激イベント情報の少なくともいずれかとを対応付けて出力する応答履歴出力手段と
、
前記状態情報及び前記刺激イベント情報の少なくともいずれかと、前記応答履歴情報とを比較することにより前記被験者の応答に補完が含まれるか否かを分析する応答分析手段とを有する受容器検査装置。
【請求項7】
被験者の受容器の状態を当該受容器の位置情報とともに示す状態情報を取得するステップと、
前記状態情報に基づいて前記被験者の受容器を検査するための刺激を与える位置及び刺激の内容を示す刺激イベント情報を生成するステップと、
前記刺激イベント情報に基づいて前記被験者の受容器を刺激するステップと、
受容器への刺激に対する前記被験者の反応を検出し、前記刺激イベント情報に対応付けて応答履歴情報として記録するステップと、
前記応答履歴情報と、前記状態情報及び前記刺激イベント情報の少なくともいずれかとを対応付けて出力するステップと
、
前記状態情報及び前記刺激イベント情報の少なくともいずれかと、前記応答履歴情報とを比較することにより前記被験者の応答に補完が含まれるか否かを分析するステップとを有する受容器検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受容器検査装置、受容器検査プログラム及び受容器検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、眼底画像と視野欠損に関する画像を重ねて表示する視覚検査装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示された受容器検査装置の一例としての視覚検査装置は、可視レーザ光と赤外レーザ光とを出射する光源と、第1周波数で振動することで可視レーザ光を2次元に走査する走査部を有し、珠容器の一例としての被検者の網膜に可視レーザ光を照射して被検者の網膜に画像を投影する画像投影光学系と、第1周波数と異なる第2周波数で振動することで赤外レーザ光を2次元に走査する走査部を有し、被検者の網膜に赤外レーザ光を照射する赤外光光学系と、被検者の網膜で反射した赤外レーザ光を検出する検出器と、光源からの可視レーザ光及び赤外レーザ光の出射を制御するとともに、検出器の出力信号から被検者の眼底の状態の検出を行う制御部とを備え、検出した被験者の眼底の状態から眼底画像を生成し、可視レーザ光による画像に基づいて被験者の入力に基づき視野欠損に関する画像を生成して、眼底画像と視野欠損に関する画像を重ねて表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1の視覚検査装置は、光源を一にしているため、眼底画像と視野欠損に関する画像の位置を合わせて、これらを重ねて表示するものであるが、視野欠損に関する情報は被験者の入力に基づくものであり、被験者の意思や脳による視野補完を経由したものである。
【0006】
従って、本発明の目的は、受容器が受ける刺激に対する被験者の反応を取得し、被験者の応答に補完が含まれるか否かを分析する受容器検査装置、受容器検査プログラム及び受容器検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するため、以下の受容器検査装置、受容器検査プログラム及び受容器検査方法を提供する。
【0008】
[1]コンピュータを、
被験者の受容器の状態を当該受容器の位置情報とともに示す状態情報を取得する状態情報取得手段と、
前記状態情報に基づいて前記被験者の受容器を検査するための刺激を与える位置及び刺激の内容を示す刺激イベント情報を生成する刺激イベント生成手段と、
前記刺激イベント情報に基づいて前記被験者の受容器を刺激するよう制御する刺激制御手段と、
受容器への刺激に対する前記被験者の反応を検出し、前記刺激イベント情報に対応付けて応答履歴情報として記録する応答検出手段と、
前記応答履歴情報と、前記状態情報及び前記刺激イベント情報の少なくともいずれかとを対応付けて出力する応答履歴出力手段として機能させる受容器検査プログラム。
[2]コンピュータを、
被験者の受容器を検査するための刺激を与える位置及び刺激の内容を示す刺激イベント情報を生成する刺激イベント生成手段と、
前記刺激イベント情報に基づいて前記被験者の受容器を刺激するよう制御する刺激制御手段と、
受容器への刺激に対する前記被験者の反応を検出し、前記刺激イベント情報に対応付けて応答履歴情報として記録する応答検出手段と、
前記応答履歴情報と、被験者の受容器の状態を当該受容器の位置情報とともに示す状態情報及び前記刺激イベント情報の少なくともいずれかとを対応付けて出力する応答履歴出力手段として機能させる受容器検査プログラム。
[3]前記状態情報及び前記刺激イベント情報の少なくともいずれかと、前記応答履歴情報とを比較することにより前記被験者の応答に補完が含まれるか否かを分析する応答分析手段としてさらに機能させる前記[1]又は[2]に記載の受容器検査プログラム。
[4]前記刺激イベント生成手段は、前記受容器の状態を検査するための刺激の内容として、受容器、末梢神経、脳の部位、一次感覚野、より高次の感覚領域及び刺激に対する反応動作のいずれかの段階又は複数の段階を応答させる内容を選択する前記[1]‐[3]のいずれかに記載の受容器検査プログラム。
[5]前記刺激イベント情報の刺激の内容で応答を意図した段階と、前記応答履歴情報とを比較することにより前記被験者の応答に補完が含まれるか否かを分析する応答分析手段としてさらに機能させる前記[4]に記載の受容器検査プログラム。
[6]前記受容器は網膜であり、前記受容器の状態を示す情報は眼底画像であり、前記刺激は光の照射である前記[1]‐[5]のいずれかに記載の受容器検査プログラム。
[7]被験者の受容器の状態を当該受容器の位置情報とともに示す状態情報を取得する状態情報取得手段と、
前記状態情報に基づいて前記被験者の受容器を検査するための刺激を与える位置及び刺激の内容を示す刺激イベント情報を生成する刺激イベント生成手段と、
前記刺激イベント情報に基づいて前記被験者の受容器を刺激するよう制御する刺激制御手段と、
受容器への刺激に対する前記被験者の反応を検出し、前記刺激イベント情報に対応付けて応答履歴情報として記録する応答検出手段と、
前記応答履歴情報と、前記状態情報及び前記刺激イベント情報の少なくともいずれかとを対応付けて出力する応答履歴出力手段とを有する受容器検査装置。
[8]被験者の受容器の状態を当該受容器の位置情報とともに示す状態情報を取得するステップと、
前記状態情報に基づいて前記被験者の受容器を検査するための刺激を与える位置及び刺激の内容を示す刺激イベント情報を生成するステップと、
前記刺激イベント情報に基づいて前記被験者の受容器を刺激するステップと、
受容器への刺激に対する前記被験者の反応を検出し、前記刺激イベント情報に対応付けて応答履歴情報として記録するステップと、
前記応答履歴情報と、前記状態情報及び前記刺激イベント情報の少なくともいずれかとを対応付けて出力するステップとを有する受容器検査方法。
【発明の効果】
【0009】
請求項1、2、7、8に係る発明によれば、被験者の意思や補完の影響を抑制又は分離しつつ、受容器が受ける刺激に対する被験者の反応を取得することができる。
請求項3に係る発明によれば、刺激イベント情報と、応答履歴情報とを比較することにより被験者の応答に補完が含まれるか否かを分析することができる。
請求項4に係る発明によれば、受容器の状態を検査するための刺激の内容として、受容器、末梢神経、脳の部位、一次感覚野、より高次の感覚領域及び反応動作のいずれかの段階又は複数の段階を応答させる内容を選択することができる。
請求項5に係る発明によれば、刺激イベント情報の刺激の内容で応答を意図した段階と、前記応答履歴情報とを比較することにより被験者の応答に補完が含まれるか否かを分析することができる。
請求項6に係る発明によれば、受容器として網膜、受容器の状態を示す情報として眼底画像、刺激として光の照射を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1(a)及び(b)は、第1の実施の形態に係る受容器検査装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、視覚検査装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3(a)~(e)は、眼底画像情報の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、眼底画像情報の構成の一例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、照射イベント情報の構成の一例を示す概略図である。
【
図6】
図6は、照射コンテンツ情報の構成の一例を示す概略図である。
【
図7】
図7は、応答履歴情報及び分析結果情報の構成の一例を示す概略図である。
【
図8】
図8は、視覚検査動作を説明するための概略図である。
【
図9】
図9は、視覚動作を説明するためのフローチャートである。
【
図10】
図10は、視覚検査動作を説明するための概略図である。
【
図11】
図11は、視覚動作を説明するためのフローチャートである。
【
図12】
図12(a)及び(b)は、刺激内容に対する補完の有無に応じた認識内容を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
(受容器検査装置の構成)
図1(a)及び(b)は、第1の実施の形態に係る受容器検査装置の構成の一例を示す概略図である。
【0012】
受容器検査装置の一例としての眼鏡型の視覚検査装置1は、受容器(「受容体」ということもある。)の一例として被験者の網膜及び網膜から末梢神経を通じて伝達される感覚を検査するものであって、眼鏡の智又はテンプルに設けられて被験者の網膜20rの照射点lsに光線ltを照射する照射部12、網膜20rの照射点lsで反射した光線ltを検出する検出部13、テンプルに設けられて被験者の操作を受け付ける操作部14、眼鏡の鼻パッドに設けられて被験者の眼球20iの視線を眼電位等により検出する視線検出部15を備えるまた、照射部12/検出部13内に情報を処理するための機能を有するCPU(Central Processing Unit)やフラッシュメモリ及び外部と無線通信する通信モジュール等の電子部品を備える。
【0013】
視覚検査装置1は、例えば、医師、検査技師、看護師、介助者又は被験者自身(以降、「医師等」と言う。)が操作する外部機器とネットワークを介して接続される。ネットワークは、有線又は無線の通信ネットワークであってもよいし、イントラネットやLAN(Local Area Network)等の通信網を用いてもよい。
【0014】
視覚検査装置1は、上記構成において、まず、被験者の眼球20iの網膜20rの照射点lsに第1の波長(赤外光)で光線ltを照射そして検出し、照射点lsを網膜20rの所定の範囲で走査して眼底画像を得た後、当該眼底画像に基づいて網膜20rのうち欠損していると考えられる箇所に検査のための第2の波長(可視光)の光線ltを照射する照射イベントを生成し、照射イベントに基づいて視覚検査のための光線ltを照射する。被験者は、視覚検査のための光線ltが照射されたことを認識すると、操作部14を操作し、視覚検査装置1は操作部14に対する操作履歴を照射イベントに対応付けて記録して、視覚検査の結果として記録する。
【0015】
本実施の形態は、受容器検査装置の検査内容として視覚検査を例に挙げて説明するが、受容器は網膜に限られず焦点距離に応じて変形する水晶体及び水晶体の厚みを調整する毛様体筋や瞳孔径を変化させる虹彩であってもよいし、視覚に関するもの以外であってもよく、外部刺激に対して反応するものであれば種類は問わない。受容器検査装置は、眼底画像を取得した場合と同様に、他の手段によって受容器の状態に関しての客観的な状態情報(被験者の反応を経由しないで得られる状態情報)を得た後、当該状態情報に基づいて検査のための刺激イベントを生成し、当該刺激イベントに基づいて被験者の受容器に刺激を与える。被験者は、刺激を認識するとその刺激に対して反応し、受容器検査装置は、当該反応の履歴を刺激イベントに対応付けて記録する。
【0016】
図2は、視覚検査装置の構成の一例を示す概略図である。
【0017】
視覚検査装置1は、CPU等から構成され、各部を制御するとともに、各種のプログラムを実行する制御部10と、フラッシュメモリ等の記憶媒体から構成され情報を記憶する記憶部11と、被験者の眼球20iの網膜20rに光線ltを照射する照射部12と、網膜20rからの反射光を検出する検出部13と、被験者の操作を受け付ける操作部14と、被験者の眼球20iの視線を検出する視線検出部15と、外部装置と通信する通信部16とを備える。
【0018】
制御部10は、後述する視覚検査プログラム110を実行することで、眼底画像取得手段100、照射イベント生成手段101、照射制御手段102、応答検出手段103、応答履歴出力手段104及び応答分析手段105として動作する。
【0019】
状態情報取得手段の一例としての眼底画像取得手段100は、照射部12を制御して赤外領域の光線ltを被験者の網膜20rに照射して走査するとともに、検出部13を制御して網膜20rからの反射光を検出して眼底画像情報111(状態情報)として、例えば、網膜20r上の位置を示す座標に対して網膜20rの厚み、平滑度、状態レベル等を取得する。なお、眼底画像情報111は、他の装置によって予め測定された情報を取得したものであってもよい。
【0020】
刺激イベント生成手段の一例としての照射イベント生成手段101は、眼底画像情報111に基づいて検査が必要とされる座標に、検査のために提示する刺激の内容と順番を指定して刺激イベント情報の一例としての照射イベント情報112を生成する。
【0021】
刺激制御手段の一例としての照射制御手段102は、照射イベント情報112に基づいて、照射部12を制御して主に可視光領域の光線ltを被験者の網膜20rに照射する。
【0022】
応答検出手段103は、照射制御手段102によって被験者の網膜20rに照射された光線ltに対する被験者の反応を操作部14に対する入力によって検出し、応答履歴情報114として記憶部11に記録する。
【0023】
応答履歴出力手段104は、応答履歴情報114を、通信部16を介して医師等が操作する外部端末に送信する。また、応答履歴出力手段104は、応答履歴情報114を、視覚検査装置1において被験者の網膜20r上に表示してもよいし、通信部16を介して外部の判定装置に出力するものであってもよい。外部の判定装置の表示部に表示される応答履歴情報114の内容は、後述する
図7に示す表形式のものであってもよいし、座標とともに画像化したもの及びこれを眼底画像情報111に重畳したものであってもよい。
【0024】
応答分析手段105は、照射イベント情報112と、応答履歴情報114とを比較して被験者の応答を分析し、網膜20rの判定内容(例えば、欠損の有無、補完の有無等)を判定して分析結果情報115として記録する。
【0025】
記憶部11は、制御部10を上述した各手段100‐104として動作させる視覚検査プログラム110、眼底画像情報111、照射イベント情報112、照射コンテンツ情報113、応答履歴情報114、分析結果情報115等を記憶する。なお、これらの情報111‐115は、被験者毎に日時とともに管理され、継続的に使用されて検査経過の比較判断に使用されてもよい。
【0026】
なお、上記した視覚検査装置1の構成は、すべてを視覚検査装置1に含む他、構成の一部を別装置に設けて協働して動作するように構成してもよいし、手段の一部を別装置やクラウド上で機能させるようにしてもよい。
【0027】
図3(a)~(e)は、眼底画像情報111の一例を示す概略図である。
【0028】
図3(a)は、視覚検査装置1の照射部12、検出部13を眼底画像取得手段100によって制御して得られた、又は外部の光干渉断層計(OCT:Optical Coherence Tomography)によって得られた乳頭辺縁の網膜神経線維層(RNFL:Retinal Nerve Fiber Layer)厚さマップであり、実際にはカラー表示等がなされ、受容体の状態情報の一例として神経線維束欠損の状態や定量的な厚み解析結果を表示するものであり、緑内障の発見や経過観察に用いられる。
【0029】
図3(b)は、RNFL偏差マップであり、
図3(a)に示した網膜神経線維層厚さマップを偏差値で示したものである。また、断面Eは、
図3(e)に示す円形断層撮影画像に対応する断面である。
【0030】
図3(c)は、水平断層撮影画像であり、
図3(a)に示した網膜神経線維層厚さマップの水平方向の断層を示す。
【0031】
図3(d)は、垂直断層撮影画像であり、
図3(a)に示した網膜神経線維層厚さマップの垂直方向の断層を示す。
【0032】
図3(e)は、円形断層撮影画像であり、
図3(a)に示した網膜神経線維層厚さマップ中に示す乳頭周辺の円断層を示す。
【0033】
図4は、眼底画像情報111の構成の一例を示す概略図である。
【0034】
眼底画像情報111は、網膜20rの座標と、対応する座標における網膜20rの厚さ、座標とその周辺との平滑の度合いである平滑度、総合的なスコア付による状態とを有する。また、眼底画像情報111は、網膜20r以外の他の要素、例えば、水晶体、毛様体筋の情報や、眼球20iの眼圧、直径、焦点距離等を有していても良い。
【0035】
図5は、照射イベント情報112の構成の一例を示す概略図である。
【0036】
照射イベント情報112は、例えば、乳頭の中心を原点とした網膜20r上の座標と、照射の有無を示す照射と、照射する光線ltの刺激のID及び順番を示す刺激とを有する。なお、図中の座標は走査動作の観点から(x,y)で示される二次元直行座標系で記載しているが、(r,θ)で示される二次元回転座標系で記載するものであってもよい。
【0037】
図6は、照射コンテンツ情報113の構成の一例を示す概略図である。
【0038】
照射コンテンツ情報113は、刺激の種類を示す刺激IDと、刺激の内容としてパターン、強度、波長、点滅…等を示す内容とを対の形で有する。
【0039】
図7は、応答履歴情報114及び分析結果情報115の構成の一例を示す概略図である。
【0040】
応答履歴情報114及び分析結果情報115は、網膜20rの座標と、照射の有無を示す照射と、被験者の応答の内容を示す応答と、応答分析手段105の分析結果とを有する。
【0041】
(視覚検査装置の動作)
次に、第1の実施の形態の作用を、(1)基本動作、(2)視覚検査動作に分けて説明する。
【0042】
(1)基本動作
まず、医師等は、被験者に視覚検査装置1を装着する。
【0043】
視覚検査装置1の視線検出部15は、被験者の視線を検出し、追跡する。照射部12は、視線検出部15の検出した視線に基づき網膜20r上の座標を相対的に定め、網膜20r上の意図する座標に光線ltを照射する。検出部13は、視線検出部15の検出した視線に基づき網膜20r上の座標を相対的に定め、照射部12が照射した光線ltが反射した時点での網膜20r上の座標からの反射光として光線ltを検出する。
【0044】
医師等は、視覚検査動作を開始すべく外部端末を操作する。外部端末は、ネットワークを介して視覚検査装置1に視覚検査動作を開始するよう要求する。視覚検査装置1は、通信部16を介して外部端末から視覚検査動作開始要求を受け付け、以下に説明する「(2)視覚検査動作」を実行する。
【0045】
(2)視覚検査動作
図9は、視覚動作を説明するためのフローチャートである。
【0046】
まず、視覚検査装置1の眼底画像取得手段100は、照射部12を制御して赤外領域の光線ltを被験者の網膜20rに照射して走査する。同時に眼底画像取得手段100は、検出部13を制御して網膜20rからの反射光を検出して、
図3及び
図4に示すように、網膜20r上の位置を示す座標に対して網膜20rの厚みを表す眼底画像情報111を取得する(S1)。眼底画像取得手段100は、まず、
図3(a)~(e)に示すような画像情報111a~111eを取得し、これらを変換して
図4に示すテーブル形式の眼底画像情報111を得るが、
図4に示すテーブル形式の眼底画像情報111を得て、これらを変換して
図3(a)~(e)に示すような画像情報111a~111eを得ても良いし、直接テーブル形式の眼底画像情報111を得るものであってもよい。
【0047】
次に、視覚検査装置1の照射イベント生成手段101は、まず、眼底画像情報111に基づいて欠損が疑われる座標、例えば、厚さが予め定めた閾値より小さい座標を要検査の座標とする。照射イベント生成手段101は、
図4に示す眼底画像情報111のうち、厚さが50μm以下の座標(x
1,y
3)及び(x
2,y
1)を要検査として、
図5に示す照射イベント情報112の照射欄をチェックする。また、照射イベント生成手段101は、平滑度や状態の値に基づいて要検査の座標としてもよいし、厚さに問題がなくとも網膜の剥離が生じている等の異常が認められる場合に要検査の座標としてもよい。また、比較対象として、例えば、眼底画像情報で厚さが閾値より大きい画像を比較対象座標としてチェックしておくことが好ましい。
【0048】
また、照射イベント生成手段101は、要検査とした座標に、検査のために提示する刺激の内容と順番を指定して照射イベント情報112の刺激欄を決定して照射イベント情報112を生成する(S2)。照射イベント生成手段101は、まず、欠損か否かを確認するため、座標(x
1,y
3)に
図6に示す照射コンテンツ情報113のうち刺激ID「I」、つまり、スポット光であって、強度60、標準の波長100、点滅有を、座標(x
2,y
1)に刺激ID「II」、つまり、スポット光であって、強度20、標準の波長100、点滅無を刺激として決定する。なお、その他の提示可能な刺激の内容は、
図6に示した照射コンテンツ情報113に定義されたものを参照する。
【0049】
刺激は、
図6の照射コンテンツ情報113に示すように、照射パターン、照射強度、照射波長、点滅の有無等によって定義される。提示する刺激の内容の選択方法として、照射イベント生成手段101は、検査範囲の大きさに応じて又は補完の有無の検査に応じてスポットで照射するか広範囲に照射するかを選択する。また、欠損がない場合で、網膜の感度を検査するために強度を選択する。また、欠損がない場合で、波長応答性を検査するために波長を選択する。また、欠損がない場合で、時間的応答性を検査するために点滅パターンを変更する。さらに、補完が起こる時間的な境界を検査するため、点滅の時間的な間隔を変更する。また、補完が起こる空間的な境界を検査するため、境界付近の座標に複数の照射を行う。また、補完の感度を検査するため、各箇所の照射強度を変えた照射パターンを選択する。さらに、これらの組み合わせを選択してもよい。照射イベント生成手段101は、これらを選択して照射イベント情報112を生成する。
【0050】
次に、照射制御手段102は、照射イベント情報112に基づいて、照射部12を制御して主に可視光領域の光線ltを被験者の網膜20rに照射する(S3)。照射制御手段102は、光線ltを被験者の網膜20rに照射する前に、検査を行う旨、光が見えたら操作部14を操作してほしい旨表示する。
【0051】
被験者は、照射制御手段102によって照射された光線ltを認識した場合、操作部14を操作する。ここで、被験者の認識動作は、
図8に示すように機能する。
【0052】
図8は、視覚検査動作を説明するための概略図である。
【0053】
受容体A、B、Cのうち、眼底画像情報111において受容体Bに相当する座標の網膜20rの厚みが予め定めた値より小さいことを示す「△」である場合、照射制御手段102が照射する光線ltは、眼底画像情報111に基づいて作成された、
図5に示した照射イベント情報112に定義されているように、網膜20rの各座標(受容体A、B、C)に対応して刺激A、B、Cが設定されている受容体A、Cについては網膜の厚みが予め定めた値以上であることを示す「◎」であるため刺激を提示する必要がないが、提示した場合は
図8に示す反応が得られ受容体A、Cの認識が受容体Bへの補完を生じさせる可能性を生じさせる。網膜20rの各座標が刺激されると、網膜20rから末梢神経を通じて脳20bに伝達される。伝達された刺激は脳20bによって認識され、又は補完された後に認識される。脳20bによって刺激A、B、C又はこれを補完したものが認識された後、各認識内容に対して被験者が反応して反応動作A、B、Cを行う。
【0054】
受容体Bに欠損があり、補完がない場合、刺激Bが照射された場合「☆」、受容体Bは刺激を認識せず「★」、反応動作も無し「★」となるため、当該結果と眼底画像情報111とを照合して結果として受容体Bは欠損「X」と分析される。なお、刺激の強度によっては認識及び反応が有り、欠損と判断されない場合もあるため、強度を変えて検証する必要がある。一方、補完がある場合は、受容体Bが認識しないものの「★」、他の受容体又は脳が補完して反応動作が有り「☆」となる。
【0055】
一方、従来の視覚検査方法は、被験者の反応動作103aがそのまま分析結果104aとされていた。つまり、眼底画像情報111と照合することはなかった。
【0056】
ここで、「欠損」とは、該当する座標の網膜20rが客観的に、例えば、物理的に欠損している状態であり、強度、波長、点滅等を変化させたとしても認識されない状態をいう。また、「欠損(補完有り)」とは、該当する座標の網膜20rが欠損している状態であるが、周囲の座標の網膜20r、末梢神経、脳の部位、一次視覚野、より高次の視覚野のいずれか又はこれらの組み合わせが、欠損している座標の網膜20rにおいてもあたかも視認したかのように視覚を補う状態をいう。さらに、図中には記載していないが、「補完」は網膜20rが欠損していない場合でも生じ、網膜20rは認識しているのにも関わらず、視認していない状態も含むものとする。
【0057】
視覚検査装置1の応答検出手段103は、被験者の反応動作を操作部14に対する入力によって検出し、応答履歴情報114として記憶部11に記録する(S4)。なお、応答履歴情報114は、
図7に示すように、座標及び照射に関連付けられて記録される。
【0058】
次に、応答分析手段105は、照射イベント情報112と、応答履歴情報114とを比較して、例えば、眼底画像情報111において欠損が疑われた座標(x
1,y
3)であって、被験者の応答から欠損が無く(S6;Yes)、補完が無いことが確定したものを分析結果として出力する(S8)。ここで、眼底画像情報111において欠損が疑われた座標(x
2,y
1)であって、予め設定した照射イベント情報で被験者の応答がなかったものを「欠損」と確定する。具体的には、例えば、ステップS3において照射した光線ltの強度「20」が最大の強度でないため、欠損が確定しておらず(S6;No)、照射イベント生成手段101は、
図6に示す照射コンテンツ情報113のうち、刺激ID「I」、つまり、スポット光であって、強度60、標準の波長100、点滅有をより強度の強い刺激として決定する(S9)。そして、ステップS3、S4、S5を再度実行し、欠損の有無が確定するまで、刺激の波長、点滅、パターン等を変えて応答がないことを予め設定した条件で予め設定した回数繰り返して確定させる。
【0059】
なお、ステップS6及びS9の動作は、欠損の範囲の境界を定める際にも実施される。つまり、ある範囲において欠損が確定している場合は、検査範囲を少しずつ広げてステップS3、S4、S5を再度実行する。
【0060】
また、応答分析手段105は、眼底画像情報111において欠損が疑われた座標(x2,y1)であって、例えば、スポット光では欠損有りと判断された(S6;Yes)にもかかわらず、例えば、予め設定した照射範囲又は点滅パターンに変更した場合には被験者の応答があったものを網膜20rは欠損しているが末梢神経、脳、反応等において補完がなされている「欠損(補完有り)」とし、ステップS5において分析結果情報115が記録されている。なお、補完の有無の判断は、反応時間、照射範囲の大きさ、照射強度、照射波長等を総合して判断する。つまり、判断の結果、補完の有無が確定しない場合(S7;No)、照射イベント生成手段101は、反応時間、照射範囲の大きさ、照射強度、照射波長等の条件を変更することで照射イベント情報112を修正して(S9)、ステップS3、S4、S5を繰り返して確定させる。
【0061】
次に、応答分析手段105は、当該分析結果情報115を、例えば、通信部16を介して医師等の操作する外部端末に送信する等して出力する(S8)。また、照射部12を制御して被験者に直接分析結果情報115を表示してもよい。外部端末の表示部に表示される分析結果情報115の内容は、
図7に示す表形式のものを、座標とともに画像化したもの又はこれを眼底画像情報111の座標に一致させて重畳したものである。なお、
図7に示す分析結果情報115をそのまま表示するものであってもよいし、他の分析装置に出力するものであってもよい。
【0062】
また、応答履歴出力手段104は、応答履歴情報114を、例えば、通信部16を介して医師等の操作する外部端末に送信する等して出力してもよい。外部端末の表示部に表示される応答履歴情報114の内容は、
図7に示す表形式のものを、座標とともに画像化したもの又はこれを眼底画像情報111の座標に一致させて重畳したものである。なお、
図7に示す応答履歴情報114をそのまま表示するものであってもよいし、他の分析装置に出力するものであってもよい。
【0063】
医師は、外部端末の表示部に表示された画像化された応答履歴情報114を眼底画像情報111と見比べながら、又は応答履歴情報114を眼底画像情報111に重畳して表示したものを確認し、網膜の状態が視野欠損にどの程度影響しているかを判断する。
【0064】
(第1の実施の形態の効果)
上記した第1の実施の形態によれば、被験者の眼底画像情報111に基づいて欠損が疑われる座標に検査のための光線を照射するために照射イベント情報112を生成し、照射イベント情報112に基づいて被験者に刺激を提示して、刺激に対する被験者の応答を検出して応答履歴情報114を生成して出力するようにしたため、被験者の意思や補完の影響を抑制しつつ、受容器としての網膜20rが受ける刺激に対する被験者の反応を取得することができる。さらに、欠損及び補完が確定するまで照射イベント情報112を修正して検査を行うようにしたため、眼底画像情報111において欠損が疑われるものの感度が悪いだけで欠損していないのか、欠損しているのか、補完が働いているのかを分析することができる。また、欠損の範囲についても境界を定めることができる。
【0065】
また、視覚検査装置1として眼鏡型デバイスを採用したため、視野検査時の視線の固定が不要になり被検者にとって苦痛がなくなり、視線の不安定がなくなるので位置情報の信頼度が向上する。
【0066】
また、被検者が見えていないと思われる領域を眼底画像情報111に基づいて設定したため、被検者自ら申告する必要がなく、被験者の意思や補完に基づく反応の揺らぎを低減できる。
【0067】
一方、従来の視覚検査方法は、被験者の反応動作がそのまま分析結果とされていたため、被験者の意思や補完の影響を受けたものであった。
【0068】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態は、受容器、末梢神経、脳の部位、一次感覚野、より高次の感覚領域及び反応動作のいずれかの段階又はこれらの段階の組み合わせが反応するような刺激を提示して、これらの段階のいずれに補完の原因があるかを分析する点で第1の実施の形態と異なる。また、補完がある場合に、受容器、末梢神経、脳の部位、一次感覚野、より高次の感覚領域及び反応動作のいずれか又はこれらの組み合わせのいずれで補完が行われているかを分析する。
【0069】
構成については第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略するが、視覚検査プログラム110は、補完を検査する視覚補完検査プログラム110Aに置き換えられる。また、動作のうち、「(1)基本動作」は第1の実施の形態と同様であるため説明を省略する。
【0070】
(2)視覚検査動作
図11は、視覚動作を説明するためのフローチャートである。なお、第1の実施の形態と同様のステップについては説明を省略する。
【0071】
まず、視覚検査装置1の眼底画像取得手段100は、眼底画像情報111及び分析結果情報115を取得する(S11)。なお、分析結果情報115に加え又は代えて応答履歴情報114を取得するものであってもよいし、眼底画像情報111のみ取得するものであってもよい。
【0072】
次に、視覚検査装置1の照射イベント生成手段101は、眼底画像情報111及び分析結果情報115に基づいて補完が疑われる座標、例えば、分析結果情報115に基づいて補完有りとされた座標又は新たに眼底画像情報111と応答履歴情報114とを比較して補完有りと判断される座標を要検査の座標とする。
【0073】
また、照射イベント生成手段101は、要検査とした座標に、n=1として(S12)、検査のために提示する刺激の内容と順番を指定して照射イベント情報112の刺激欄を第1段階、つまり受容体である網膜20rに対する刺激を設定して照射イベント情報112を生成する(S13)。提示する刺激の内容は、
図6に示した照射コンテンツ情報113に定義されたものを参照する。すなわち、受容器の状態に関しての客観的な状態情報と対応付けられた座標を要検査の座標とする。
【0074】
刺激は、
図6の照射コンテンツ情報113に示したのと同様に、照射パターン、照射強度、照射波長、点滅の有無等によって定義される。提示する刺激の内容の選択方法として、照射イベント生成手段101は、例えば、受容野によって反応パターンが異なる性質を用いて、反応を検査したい段階に適したパターンを選択する。例えば、第1段階の網膜20rと視床の細胞の受容野は、二重の同心円型の構造を有していることが知られており、中心部分に明るい刺激を外側に暗い刺激を与えると最もよく反応するため、この反応に適したパターン及び強度を用いる。
【0075】
次に、照射制御手段102は、照射イベント情報112に基づいて、照射部12を制御して主に可視光領域の光線ltを被験者の網膜20rに照射する(S14)。照射制御手段102は、光線ltを被験者の網膜20rに照射する前に、検査を行う旨、光が見えたら操作部14を操作してほしい旨表示する。
【0076】
被験者は、照射制御手段102によって照射された光線ltを認識した場合、操作部14を操作する。ここで、被験者の認識動作は、
図10に示すように機能する。
【0077】
図10は、視覚検査動作を説明するための概略図である。
【0078】
受容体A、B、Cのうち、眼底画像情報111において受容体Bに相当する座標の網膜20rの厚みが欠損を示す「X」である場合(第1の実施の形態において「欠損(補完有り)」と判断された座標であってもよい)、照射制御手段102が照射する光線ltには、網膜20rの各座標(受容体A、B、C)によって刺激A、B、Cが設定されている。通常、網膜20rの各座標が刺激されると、網膜20rから末梢神経を通じて脳20bに伝達される。伝達された刺激は脳20bによって認識され、又は補完された後に認識される。受容体A、Cは正常であるとすると、脳20bによって刺激A、Cが認識された後、各認識内容に対して被験者が反応して反応動作A、Cを行う。
【0079】
一方、受容体Bに欠損「X」があるにも関わらず、刺激B「☆」を呈示すると反応動作Bが反応「☆」しているとすると、いずれかの段階で補完が疑われる。例えば、第1段階である受容体Bが反応しうるような刺激(他の段階は反応しない又はしづらい刺激)を呈示すると、第1段階である受容体Bは欠損して反応しないが、脳20b、反応動作Bのいずれか又はこれらの組み合わせにおいて補完が行われていると判断できる。
【0080】
視覚検査装置1の応答検出手段103は、被験者の反応動作を操作部14に対する入力によって検出し、応答履歴情報114として記憶部11に記録する(S15)。なお、応答履歴情報114は、
図7に示すように、座標及び照射に関連付けられて記録される。
【0081】
次に、応答分析手段105は、照射イベント情報112と、応答履歴情報114とを比較して、第1段階である網膜20rが反応しうる刺激を提示した場合に補完が行われなかった場合、異なる段階で補完が行われたと分析され、「欠損(網膜以外の段階にて補完あり)」と分析結果情報115に記録する(S16)。
【0082】
しかし、応答分析手段105は、異なる段階で補完が行われたことを分析したものの、補完の段階を特定できていないため(S17;No)、n=n+1として(S19)、次の第2段階、つまり脳20bのうち一次視覚野の神経細胞に対する刺激を設定して照射イベント情報112を生成する(S13)。第2段階の一次視覚野の神経細胞の受容野は、放射状の構造を有していることが知られており、この構造に適したパターン及び強度を用いる。第2段階である網膜20rが反応する刺激を提示した場合に補完が行われなかった場合、異なる段階で補完が行われたと分析され、「欠損(網膜及び一次視覚野の神経細胞以外の段階にて補完あり)」と分析結果情報115に記録する(S16)。また、補完の程度の判断は、応答の有無だけでなく、反応時間、照射範囲の大きさ、照射強度、照射波長等を総合して判断する。
【0083】
ステップS13からS16は、補完の段階が特定されるまで繰り返し行われ、特定された場合は(S17;Yes)、応答分析手段105は、当該分析結果情報115を、例えば、通信部16を介して医師等の操作する外部端末に送信する等して出力する(S18)。なお、補完の段階がn=1で特定された場合にも(S17;Yes)、応答分析手段105は分析結果情報115を出力する(S18)。また、n=1から順に補完の段階を特定する方式の他、n=iの特定の段階のみ補完の有無を調べるようにしてもよい。
【0084】
なお、上記動作において、分析結果情報115の分析結果が「欠損(補完あり)」の場合を前提に説明をしたが、眼底画像情報111において欠損が疑われない場合、つまり、網膜20rが十分な厚さを有している場合についても補完の要検査の座標としてもよい。この場合、応答分析手段105は、網膜20r以降の末梢神経、脳の部位、一次視覚野、より高次の視覚野(脳20b)、反応動作103b等の段階(n>1)で発生する補完の有無を分析する。また、この際に照射イベント生成手段101が生成する照射イベント情報112の刺激の内容は、以下に説明するように、空間的変化や時間的変化を伴うものを用いる。
【0085】
図12(a)及び(b)は、刺激内容に対する補完の有無に応じた認識内容を示す概略図である。
【0086】
(空間的補完評価)
空間的変化を伴う刺激は、例えば、
図12(a)に示すように、要検査の座標の周辺に、複数の照射刺激を呈示するものであり、複数の照射位置の間隔を段階的に狭めていき、照射している間隔を認識せずに各照射がつながっているように認識する境界値を特定することで行われる。例えば、
図12(a)の「補完無」のように空間的な刺激群と刺激群との間隔が空いている場合、認識内容は刺激内容に対して補完されないが、「補完有」のように刺激群と刺激群との間隔が狭まっている場合、認識内容は刺激内容に対して補完により呈示されていない刺激を認識する。この時の値を「補完間隔(距離)」として分析結果情報115に記録する。以下、詳細に説明する。
【0087】
まず、照射イベント生成手段101は、要検査とした座標及びその周辺の座標に、n>1として、検査のために提示する刺激の内容と順番を指定して照射イベント情報112の刺激欄を第2段階、つまり末梢神経に対する刺激を設定して照射イベント情報112を生成する。提示する刺激の内容は、
図6に示した照射コンテンツ情報113に定義されたものを参照する。
【0088】
刺激は、
図6の照射コンテンツ情報113に示したものに加え、周辺の複数の座標を含めた照射パターン、照射強度、照射波長、点滅の有無等によって定義される。また、照射パターンは、
図12(a)に具体的に説明したように、照射位置の間隔を段階的に狭めていくものを採用する。
【0089】
次に、照射制御手段102は、照射イベント情報112に基づいて、照射部12を制御して主に可視光領域の光線ltを被験者の網膜20rに照射する。照射制御手段102は、光線ltを被験者の網膜20rに照射する前に、検査を行う旨、例えば、途切れている光のパターンを提示するが、途切れているパターンが繋がって見えたタイミングで操作部14を操作してほしい旨表示する。
【0090】
視覚検査装置1の応答検出手段103は、被験者の反応動作を操作部14に対する入力によって検出し、繋がって見えた際の刺激群と刺激群との間隔を含め「補完間隔(100μm)」のように応答履歴情報114として記憶部11に記録する。なお、応答履歴情報114は、
図7に示すように、座標及び照射に加え、周辺の座標範囲、補完間隔等と関連付けられて記録される。また、繋がって見えなかった場合は、「補完応答なし」と記録する。
【0091】
応答分析手段105は、照射イベント情報112と、応答履歴情報114とを比較して、第2段階である末梢神経が反応しうる刺激を提示した場合に補完が行われた場合、「末梢神経において空間的補完あり(補完間隔(100μm))」と分析し、分析結果情報115に記録する。
【0092】
また、応答分析手段105は、照射イベント情報112と、応答履歴情報114とを比較して、第2段階である末梢神経が反応しうる刺激を提示した場合に補完が行われなかった場合、異なる段階で補完が行われる可能性があるため、分析結果情報115に記録せずに、n=n+1として、次の第3段階、つまり脳20bのうち一次視覚野の神経細胞に対する刺激を設定して照射イベント情報112を生成し、上記と同様に刺激に対する応答を記録する。すべての段階において補完が行われなかった場合、「補完無」と分析し、分析結果情報115に記録する。
【0093】
(時間的補完評価)
また、時間的変化を伴う刺激は、例えば、
図12(b)に示すように、要検査の座標に、複数回の照射刺激を呈示するものであり、複数回の照射の時間間隔を段階的に狭めていき、照射している時間間隔(つまり、点滅)を認識せずに各照射がつながっている(つまり、点灯している)ように認識する境界値を特定することで行われる。例えば、
図12(b)の「補完無」のように時間的な刺激群と刺激群との間隔が空いている場合、認識内容は刺激内容に対して補完されないが、「補完有」のように刺激群と刺激群との間隔が狭まっている場合、認識内容は刺激内容に対して補完により呈示されていない刺激を認識する。この時の値を「補完間隔(時間)」として分析結果情報115に記録する。
【0094】
まず、照射イベント生成手段101は、要検査とした座標に、n>1として、検査のために提示する刺激の内容と順番を指定して照射イベント情報112の刺激欄を第2段階、つまり末梢神経に対する刺激を設定して照射イベント情報112を生成する。提示する刺激の内容は、
図6に示した照射コンテンツ情報113に定義されたものを参照する。
【0095】
刺激は、
図6の照射コンテンツ情報113に示したものに加え、時間的間隔を含む照射パターン、照射強度、照射波長、点滅の有無等によって定義される。また、時間的間隔を含む照射パターンは、
図12(b)に説明したように、時間的な照射間隔を段階的に狭めていくものを採用する。
【0096】
次に、照射制御手段102は、照射イベント情報112に基づいて、照射部12を制御して主に可視光領域の光線ltを被験者の網膜20rに照射する。照射制御手段102は、光線ltを被験者の網膜20rに照射する前に、検査を行う旨、例えば、時間的に途切れている光のパターンを呈示するが、時間的に途切れている光のパターンが繋がって見えた又は点灯して見えたタイミングで操作部14を操作してほしい旨表示する。
【0097】
視覚検査装置1の応答検出手段103は、被験者の反応動作を操作部14に対する入力によって検出し、パターンが時間的に繋がって見えた際の刺激群と刺激群との間隔を含め「補完間隔(70μsec)」のように応答履歴情報114として記憶部11に記録する。なお、応答履歴情報114は、
図7に示すように、座標及び照射に加え、補完間隔等と関連付けられて記録される。また、繋がって見えなかった場合は、「補完応答なし」と記録する。
【0098】
応答分析手段105は、照射イベント情報112と、応答履歴情報114とを比較して、第2段階である末梢神経が反応しうる刺激を提示した場合に補完が行われた場合、「末梢神経において時間的補完あり(補完間隔(70μsec))」と分析し、分析結果情報115に記録する。
【0099】
また、応答分析手段105は、照射イベント情報112と、応答履歴情報114とを比較して、第2段階である末梢神経が反応しうる刺激を提示した場合に補完が行われなかった場合、異なる段階で補完が行われる可能性があるため、分析結果情報115に記録せずに、n=n+1として、次の第3段階、つまり脳20bのうち一次視覚野の神経細胞に対する刺激を設定して照射イベント情報112を生成し、上記と同様に刺激に対する応答を記録する。すべての段階において補完が行われなかった場合、「補完無」と分析し、分析結果情報115に記録する。
【0100】
なお、上記の動作をn>1の全ての段階で、n=1から順に補完の段階を特定する方式を説明したが、その他、n=iについて単数又は複数の特定の段階の補完の有無及び補完間隔を調べて、分析結果情報115に記録するようにしてもよい。
【0101】
(第2の実施の形態の効果)
上記した第2の実施の形態によれば、被験者の眼底画像情報111(及び第1の実施の形態で得られた分析結果情報115)に基づいて補完が疑われる座標に検査のための光線を照射するために分析が完了するまで繰り返し照射イベント情報112を生成し、照射イベント情報112に基づいて被験者に刺激を提示して、刺激に対する被験者の応答を検出していずれの段階において補完が行われているかを繰り返し分析して分析結果情報115を生成して出力するようにしたため、被験者の意思や補完の影響を抑制しつつ、受容器としての網膜20rが受ける刺激に対する被験者の反応を取得することができるとともに、補完が行われている段階を特定することができる。
【0102】
また、空間的及び/又は時間的な補完間隔を評価することで、被験者の補完能力を定量的に評価することができる。
【0103】
[他の実施の形態]
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々な変形が可能である。
【0104】
前回の眼底画像情報111、照射イベント情報112、応答履歴情報114及び分析結果情報115を参照し、再度上記第1の実施の形態及び第2の実施の形態の動作を実行することで、経過観察を行うことができ、さらに前回結果を考慮した照射位置制御等を実施することができる。
【0105】
上記実施の形態では制御部10の各手段100‐105の機能をプログラムで実現したが、各手段の全て又は一部をASIC等のハードウエアによって実現してもよい。また、上記実施の形態で用いたプログラムをCD‐ROM等の記録媒体に記憶して提供することもできる。また、上記実施の形態で説明した上記ステップの入れ替え、削除、追加等は本発明の要旨を変更しない範囲内で可能である。
【符号の説明】
【0106】
1 :視覚検査装置
10 :制御部
11 :記憶部
12 :照射部
13 :検出部
14 :操作部
15 :視線検出部
16 :通信部
20b :脳
20i :眼球
20r :網膜
100 :眼底画像取得手段
101 :照射イベント生成手段
102 :照射制御手段
103 :応答検出手段
104 :応答履歴出力手段
105 :応答分析手段
110 :視覚検査プログラム
111 :眼底画像情報
112 :照射イベント情報
113 :照射コンテンツ情報
114 :応答履歴情報
115 :分析結果情報