(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】保温材剥取器
(51)【国際特許分類】
B26D 7/20 20060101AFI20240125BHJP
B26D 3/14 20060101ALI20240125BHJP
H02G 1/12 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
B26D7/20
B26D3/14
H02G1/12 017
(21)【出願番号】P 2020155182
(22)【出願日】2020-09-16
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】591083772
【氏名又は名称】株式会社永木精機
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】野川 保次
(72)【発明者】
【氏名】タイ レ ホアイ ドゥック
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-177952(JP,A)
【文献】登録実用新案第3065498(JP,U)
【文献】特開2002-369327(JP,A)
【文献】特開平10-000282(JP,A)
【文献】米国特許第06381850(US,B1)
【文献】米国特許第05311663(US,A)
【文献】特開2013-059613(JP,A)
【文献】特開平10-337386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 7/20
B26D 3/14
H02G 1/12
B26B 29/06
B26B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアコンの冷媒配管の切断端部の保温材を剥ぎ取る保温材剥取器であって、
前記冷媒配管の銅管に挿入され、前記銅管の中心に対して位置決めを行う位置決め部と、
前記位置決め部により位置決めされる前記保温材の表面に沿うように配置され、長手方向に沿った前記保温材の削ぎ切りをガイドするガイド部と、
前記ガイド部に沿った前記保温材の削ぎ切りを、前記切断端部から所定の距離で規制する規制部と
を備えたことを特徴とする保温材剥取器。
【請求項2】
前記規制部には、前記冷媒配管の長手方向に直交する方向に切断する直交ガイド面が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の保温材剥取器。
【請求項3】
前記位置決め部の基部側には、前記一対のガイド部を含む仮想平面に沿って摺接部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の保温材剥取器。
【請求項4】
前記位置決め部の基部側には、前記冷媒配管及び前記保温材の少なくとも一方と干渉して長手方向への移動を止めるストッパーが設けられていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の保温材剥取器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアコン本体と冷媒配管とを接続する際の前処理において保温材の一部を剥ぎ取るための保温材剥取器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
結露防止対策のために、冷媒配管とエアコン本体との接続箇所において保温材の外側の一部を一定の厚さで剥ぎ取り、剥ぎ取った箇所に接続口を重ねた後、保温処理を行うといった施工が知られている。このような施工において、保温材剥ぎ取り作業を行う際、作業者がカッターナイフを使用して剥ぎ取り作業を行う場合が多い。
【0003】
しかし、カッターナイフを用いて剥ぎ取り作業を行う場合、作業者によって保温材の剥ぎ取り状態にバラツキが生じやすい。残された保温材の厚さが一定でない場合、保温材の厚さが不十分な箇所で結露が生じる可能性がある。
【0004】
なお、冷媒配管を対象とした工具ではないが、被覆線の被覆を一定の厚さで剥ぎ取るための工具については、特許文献1に記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
被覆線の被覆は一般に、冷媒配管の保温材よりも硬質の部材が用いられている。したがって、刃を斜めに入れて削ぎ切りを行うのは容易である。しかし、冷媒配管の保温材のように、軟質の部材に対して削ぎ切りを行うのは容易ではない。よって、引き千切るように削ぎ切りを行うことはできるが、後工程における処理を容易にするために、表面から一定の厚さ分だけを正確に除去することは難しい。
【0007】
そこで、本発明は、冷媒配管の保温材を表面から一定の厚さだけ正確に除去する保温材剥取器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の保温材剥取器は、エアコンの冷媒配管の切断端部の保温材を剥ぎ取る保温材剥取器であって、前記冷媒配管の銅管に挿入され、前記銅管の中心に対して位置決めを行う位置決め部と、前記位置決め部により位置決めされる前記保温材の表面に沿うように配置され、長手方向に沿った前記保温材の削ぎ切りをガイドするガイド部と、前記ガイド部に沿った前記保温材の削ぎ切りを、前記切断端部から所定の距離で規制する規制部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の保温材剥取器は、上記構成に加えて、前記規制部には、前記冷媒配管の長手方向に直交する方向に切断する直交ガイド面が形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の保温材剥取器は、上記構成に加えて、前記位置決め部の基部側には、前記一対のガイド部を含む仮想平面に沿って摺接部が設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の保温材剥取器は、上記構成に加えて、前記位置決め部の基部側には、前
記冷媒配管及び前記保温材の少なくとも一方と干渉して長手方向への移動を止めるストッパーが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、冷媒配管の中心(銅管)に対して位置決めされるので、保温材の剥ぎ取り作業が進んでも中心からの距離を一定に保つことができる。また、一対のガイド部が保温材の表面に沿って長手方向に形成されているので、ガイド部に沿って刃を滑らせるだけで確実に一定の深さまで保温材を剥ぎ取ることができる。さらに、切断端部から所定の距離に規制部が設けられているので、切断端部側を一定の距離で切断することができる。
【0013】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、規制部の冷媒配管の長手方向に直交する方向に、保温材を切断する直交ガイド面が形成されているので、切断端部から一定の寸法で正確に切断することができる。
【0014】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、位置決め部の基部側に摺接部が設けられているので、摺接部に沿って刃を滑らせることにより、保温材に対して正確に刃先を入れることが可能となる。
【0015】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、位置決め部の基部側に、冷媒配管又は保温材に対して干渉するストッパーが設けられているので、切断端部をストッパーに突き当てるだけで、容易に切断端部から一定の寸法で正確に切断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る保温材剥取器を示し、(a)は正面側から見た全体斜視図、(b)は背面側から見た全体斜視図である。
【
図3】保温材剥取器のストッパー側の側面図である。
【
図4】保温材の表面切断作業を表しており、(a)は保温材剥取器に冷媒配管を設置した状態、(b)は長手方向への切断状態、(c)は直交方向への切断状態を示す図である。
【
図5】保温材の残留部分の除去作業を表し、(a)は長手方向への切断状態、(b)は直交方向への切断状態、(c)は切断後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る保温材剥取器について図を用いて説明する。
【0018】
図1は本発明の実施の形態に係る保温材剥取器1を示しており、(a)は正面側から見た全体斜視図、(b)は背面側から見た全体斜視図である。
【0019】
保温材剥取器1の本体2は、円筒の側面の一部を切り欠いたような形状に形成されている。このように切り欠かれた側面の切り口のうち、長手方向に延びる直線状の部分はガイド部6である。ガイド部6は2箇所あり、互いに平行になるように形成されている。これら2本のガイド部6は、本体2の内側に配置される冷媒配管100(後述の
図2参照)の保温材102の表面の長手方向に沿うように形成されている。
【0020】
本体2の長手方向の端縁において、2箇所のガイド部6同士の間を架け渡すようにアーチ状に形成されているのは規制部8である。すなわち、上述の側面の切り口の一部は、規制部8により形成されている。この規制部8により形成されており、2本のガイド部6に接する円弧状の面は後述する直交ガイド面8aである。規制部8は、保温材102を切断
する際に、長手方向へ切進めるカッターの動きを規制するために設けられた構造である。本実施の形態に係る構成では、直交ガイド面8aが形成された規制部8は、本体2の内側に配置される保温材102の表面の周方向に沿うように形成されている。
【0021】
本体2のうち、規制部8が形成されているのと反対側の長手方向の端縁には、少なくとも円筒面の中心を含む領域を塞ぐようにストッパー10が設けられている。そして、このストッパー10の内側から長手方向に向けて位置決め部4が突設されている。この位置決め部4は、本体2の内側に配置される冷媒配管100の中心を通る銅管101(
図2参照)の内側に挿入可能な形状となっている。ストッパー10及び位置決め部4は、何れも樹脂材で形成されており、金属に対して摺接摩擦が比較的小さい材質で構成されている。また、ストッパー10には、上述のガイド部6と同一平面を構成するように摺接面10aが形成されている。
【0022】
図2は、
図1の保温材剥取器1の中央縦断面図である。
図2では、収容される冷媒配管100も合わせて点線で表している。
【0023】
ストッパー10は、本体2に対してボルト12で固定されているのが見て取れる。位置決め部4は、ストッパー10に対してボルト14によって固定されている。また、規制部8に形成された直交ガイド面8aは、長手方向に対して直交する方向に形成されているのが分かる。このように構成されているので、ガイド部6に沿って長手方向へ保温材102を削ぐように切断し、直交ガイド面8aに沿って直交方向へ刃を入れることにより切り離すことができる。したがって、冷媒配管100の軸周りにおいて、どのような回転位置で切断しても、保温材102の表面から所定の深さDを超えて剥ぎ取られないように切断作業を行うことができる。すなわち、後処理として接続する際に必要な厚さの保温材102を、先端から一定の距離だけ正確に段差を形成することが可能である。
【0024】
図3は、保温材剥取器1のストッパー10側の側面図を示している。説明の便宜のため、保温材102の切断領域に斜線を施して表している。
図3から分かるように、冷媒配管100の保温材102の表面から所定の深さDを正確に切除することが可能である。しかし、切断面は平面であり、全周に渡って均等に不要な領域を剥ぎ取るためには、冷媒配管100を位置決め部4の周りに回転させることによって切断位置を入れ替え、切断作業を繰り返す必要がある。次に、具体的な切断作業について説明を行う。
【0025】
図4は、保温材102の表面切断作業を表しており、(a)は保温材剥取器1に冷媒配管100を設置した状態、(b)は長手方向への切断状態、(c)は直交方向への切断状態を示す図である。
【0026】
図4(a)の状態では、中心にある銅管101の内側に位置決め部4を挿入するようにして中心位置を合わせた冷媒配管100が配置される(
図2参照)。このとき、冷媒配管100の先端は確実にストッパー10に突き当たる位置まで挿入される。これにより、正確に先端から一定の距離の保温材102を剥ぎ取ることができる。
【0027】
図4(b)では、カッター103を冷媒配管100の先端から長手方向へ向けてスライドさせている。上述したように、ガイド部6は、保温材102の表面に沿って長手方向へ平行に形成されているので、均等な所定の深さD(本実施の形態の構成では10mm)で保温材102を剥ぎ取ることができる。また、規制部8が設けられているので、先端から所定の距離(本実施の形態の構成では100mm)で切断を確実に停止させることができる。なお、切断開始時には、カッター103を位置決め部4の摺接面10aに密着させるように配置すると、カッター103の面が長手方向に対して平行になるように維持した状態で、正確に刃を入れることができる。本実施の形態に係る構成では、この摺接面10a
のように助走区間が設けられているので、先端の角を形成する切断面を正確に形成することができる。すなわち、後処理においてエアコン側と接続する際に、スムーズに接続できるので、高品質な接続処理が可能となる。
【0028】
図4(c)では、直交ガイド面8aに沿って、長手方向に直交する方向にカッター103の刃が入れられる。これにより、段差を形成する径方向に延びる面が整えられ、エアコン側へ隙間なく接続することが可能となる。
【0029】
図5は、保温材102の残留部分の除去作業を表しており、(a)は長手方向への切断状態、(b)は直交方向への切断状態、(c)は切断後の状態を示す図である。
【0030】
図5(a)では、
図4(a)~(c)の工程において保温材102の表面が剥ぎ取られた際の残留部分について、切断可能な位置まで回転させ、
図4(b)と同様に、長手方向への切断が行われる様子が示されている。この段階では、冷媒配管100と本体2の内壁との間には隙間が生じている。しかし、本実施の形態に係る構成では、銅管101に対して位置決めを行っているので、正確な位置を維持できる(
図2参照)。これにより、何れの回転位置においても、中心から一定の距離を残して正確に余分な保温材102を剥ぎ取ることが可能である。
【0031】
図5(b)では、
図4(c)と同様に、直交方向への切断が行われる。このように、
図5(a)及び
図5(b)の作業を繰り返すことによって断面が円形の保温材102を残すように余分な保温材102を剥ぎ取ることができる。このようにして加工された冷媒配管100は、
図5(c)のようになる。
【0032】
以上のように構成されているので、作業者の熟練度を問わず、長手方向への切断と直交方向への切断を交互に繰り返すだけで、保温材102の正確な接続構造を形成することが可能となる。
【0033】
以上に述べてきたような構成は本発明の一例であり、さらに以下のような変形例も含まれる。
【0034】
(1)上記の実施の形態では、筒状の本体2にガイド部6と規制部8が形成されており、且つ、規制部8に直交ガイド面8aが形成されている構成を例として示した。しかし、本体2は筒状でなくても構わない。例えば、ガイド部6、規制部8及び直交ガイド面8aが線材で曲げ形成されているようなシンプルな構造でも構わない。
【0035】
(2)上記の実施の形態では、筒状の本体2にガイド部6、規制部8及び直交ガイド面8aが一組だけ形成されている構成を例として示した。しかし、それぞれ異なる寸法で保温材102を剥ぎ取ることができる構成を複数組有する構成でも構わない。
【0036】
(3)上記の実施の形態では、位置決め部4が本体2の中央付近まで延びている構成を例として示したが、このような構成に限らない。例えば、規制部8を越える位置まで延びるような構成であっても構わない。
【0037】
(4)上記の実施の形態では、保温材102又は位置決め部4を長手方向で規制するストッパー10が円板を一部切り欠いた形状の板材で構成されている例を示した。しかし、板状でなくても構わない。保温材102又は位置決め部4を長手方向で確実に規制できる構成であれば、例えば、位置決め部4と本体2との間を橋渡しする少なくとも1本の線材で構成しても構わない。
【0038】
(5)上記の実施の形態では、規制部8がガイド部6と一体に成形されている構成を例として示した。しかし、規制部8とガイド部6とを別体で構成しても構わない。さらに、規制部8を長手方向の任意の位置にスライドできる構成でもよい。このように構成すると、作業対象に合わせて剥ぎ取り長さを変えることができるので汎用的な利用が可能となる。
【0039】
(6)上記の実施の形態では、摺接部10aが一対のガイド部6を橋渡すように構成されている例を示した。しかし、摩擦を低減して保温材102に対して正確に刃先を入れることができる構成であれば、ガイド部6同士の間を埋めていなくても構わない。さらに、ガイド部6の外側に摺接部10aを有する構成でも構わない。
【0040】
(7)上記の実施の形態では、規制部8が一対のガイド部6の間を橋渡すように構成されている例を示した。しかし、一対のガイド部6のそれぞれに対して削ぎ切りを規制できる構成であれば、中央は分離していても構わない。この場合、それぞれの規制部8に直交ガイド面8aが形成されていれば、上記実施の形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0041】
(8)上記の実施の形態では、位置決め部4が冷媒配管100の銅管101に挿入可能な円柱状に形成されている構成を例として示した。しかし、銅管101に対して径方向の相対的な位置関係を一定の状態に固定できる構成であれば、円柱状でなくても構わない。例えば、銅管101の直径方向に延びる板状部材であっても良い。また、作業精度を高く設定するためには、位置決め部4の断面形状に関わらず、銅管101の内壁に対する隙間をできるだけ小さく設定する構成が望ましい。例えば、樹脂材で位置決め部4を構成する場合は、銅管101に対して摺動摩擦を小さく抑えられるので、銅管101の内径と位置決め部4の最大径とが略一致していても構わない。
【0042】
(9)上記の実施の形態では、位置決め部4が樹脂材で形成され、冷媒配管100の銅管101の内壁と位置決め部4との間に滑りが生じやすい構成を例として示した。しかし、銅管101の中心位置に対して相対的に一定の位置を取ることができ、且つ、銅管101(冷媒配管100)の周りに保温材剥取器1を自在に回転させることができる構成であれば、位置決め部4は樹脂製の一体成型部材でなくても構わない。例えば、回転自在に構成された部分が銅管101の中に挿入された上で固定され、その挿入部分を銅管101とともに自在に回転させるような構成でも構わない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の保温材剥取器は、シンプルな構成でありながらカッターを正確にガイドし、冷媒配管の端部の保温材に段差構造を形成することができる。したがって、段差を形成する必要がある被覆電線などの加工においても有用である。
【符号の説明】
【0044】
1 保温材剥取器
2 本体
4 位置決め部
4a 基部
6 ガイド部
8 規制部
8a 直交ガイド面
10 ストッパー
10a 摺接面(摺接部)
12、14 ボルト
100 冷媒配管
101 銅管
102 保温材
103 カッター
D 所定の深さ