(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】カルボン酸組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/40 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
C12P7/40
(21)【出願番号】P 2023101586
(22)【出願日】2023-06-21
【審査請求日】2023-12-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523237682
【氏名又は名称】アースジャパンファーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100189865
【氏名又は名称】下田 正寛
(74)【代理人】
【識別番号】100094215
【氏名又は名称】安倍 逸郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 篤実
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0131096(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P1/00-41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖、海水塩、乳清、日本酒に、バチルス属、乳酸菌、酵母菌を加えたバクテリア溶液を室温下で発酵させることにより製造されるカルボン酸組成物の製造方法であって、
前記バクテリア溶液を3等分し、それぞれのバクテリア溶液の発酵期間を異ならせることによって、3種類の発酵済みのバクテリア溶液を製造し、
前記3種類の発酵済みのバクテリア溶液を混合することによって製造されるカルボン酸組成物の製造方法。
【請求項2】
前記バクテリア溶液の発酵前に、エアナノバブルを10分間吹き込む請求項1に記載のカルボン酸組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のカルボン酸組成物の製造方法によって得られたカルボン酸組成物と、ギ酸とリチウムジイソプロピルアミドとを加えた溶液に、オゾンナノバブルを供給し、
その後、前記溶液に酸化チタンを添加し、その後、再度オゾンナノバブルを供給し、
その後、前記溶液に珪藻頁岩ナノパウダーを添加し、その後、再度オゾンナノバブルを供給し、
その後、前記溶液をろ過することよって製造されるカルボン酸組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸組成物の製造方法、具体的には、所定量のアミノ酸を含むカルボン酸組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボン酸は、種々の化学製品として重要な化合物である。
例えば、アセト酢酸などのカルボン酸は、除草剤や殺虫剤として利用されている。また、植物の成長促進のためにカルボン酸を用いることもある。
他にも、カルボン酸を配位子として利用し、金属錯体を形成することを応用して、不純物金属の除去に用いられることもある。
【0003】
カルボン酸の製造方法として、各種技術が提案されている。例えば、本発明と同様に、バイオテクノロジーを用いたカルボン酸の製造方法として、特許文献1~2に記載の技術が開示されている。特許文献1に記載の技術は、酸触媒(ルイス酸、ブレンステッド・ローリー酸いずれも可)の存在下で、バイオマス生成物の加水分解によってカルボン酸を得るものである。特許文献2に記載の技術では、微生物を利用して、炭化水素からのカルボン酸を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2016-512826号公報
【文献】特表2009-521918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術のように、酸触媒下にて、バイオマス生成物の加水分解によりカルボン酸を得る場合、反応生物性の選択性が低く、副生成物として、アルデヒドやケトン等の副生成物が生成される。
また、酸触媒は腐食性が高く、反応器やパイプなどの設備に対してダメージを与えることがあり、これらの設備に対して、耐酸性処理を施すことが必要である、加えて、酸触媒を使用する場合には、設備の寿命が短いことから、メンテナンスコストが上昇する。
しかも、酸触媒を使用した加水分解反応は、高温高圧下で行われることから、エネルギー消費が大きい。加えて、酸触媒は強酸であり、しかも、前述したとおり、副生成物が生成されるなど、環境負荷が極めて大きい。
【0006】
特許文献2に記載の技術のように、微生物を利用して炭化水素からのカルボン酸を製造する場合、適切な菌株の維持・増殖が大前提となる。その一方で、生産量に対して収量が低い場合や、生成物の精製に大量のエネルギーが必要な場合もあることから、コスト高となりやすいことも知られている。
【0007】
そこで、発明者は、環境負荷の低減を中心に新たなカルボン酸の製造を行うとともに、副生成物を含むカルボン酸であっても、精製工程を経ずに、そのまま利用することができれば、これらの問題を解決することを知見し、本発明を完成させた。
本発明は、副生成物を含むカルボン酸であっても、精製工程を経ずに、そのまま利用することができる、環境負荷と製造コストを低減したカルボン酸組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、糖、海水塩、乳清、日本酒に、バチルス属、乳酸菌、酵母菌を加えたバクテリア溶液を室温下で発酵させることにより製造されるカルボン酸組成物の製造方法であって、前記バクテリア溶液を3等分し、それぞれのバクテリア溶液の発酵期間を異ならせることによって、3種類の発酵済みのバクテリア溶液を製造し、前記3種類の発酵済みのバクテリア溶液を混合することによって製造されるカルボン酸組成物の製造方法である。
【0009】
糖は、グルコース、サッカロース、アラビノース、キシロース、ラクトース、果糖、マルトース、糖蜜、デンプン、セルロース及びヘミセルロース、またグリセリン又は非常に単純な有機分子骨格を持ち、ホルミル基またはカルボニル基をひとつ持ったものである。
海水塩は、海水を採取し、水分子を除去したものである。採取地などは問わず、工業的に生産された人工海水であってもよい。
乳清は、牛乳などの乳から乳脂肪分やカゼインなどを除いた水溶液である。乳の種類は特に問わないが、流通量の観点から牛乳が好ましい。
日本酒は、米と麹と水を主な原料とする清酒で、醸造酒に分類されるものをいう。銘柄等は特に問わない。
バチルス属は、水中や土壌に普遍的に存在する、非常に多くの種を含む属であり、枯草菌や納豆菌等、人体に影響のないものが選択される。逆に炭疽菌のような人体に重大な影響を与えるものは除外されるべきである。
乳酸菌は、代謝により乳酸を産生する細菌類であり、本発明においては、乳酸のみを最終産物として作り出すホモ乳酸菌や、ビタミン、アルコール等、乳酸以外のものを同時に産生するヘテロ乳酸菌であってもよい。
酵母菌は、生活環の一定期間において栄養体が単細胞性を示す真菌類であり、出芽酵母、分裂酵母、カンジダ、キラー酵母、トルラ酵母等を採用することができる。
【0010】
バクテリア溶液には、糖、海水塩、乳清、日本酒に、バチルス属、乳酸菌、酵母菌が含まれており、このバクテリア溶液を室温下で発酵させることにより、カルボン酸組成物を製造することができる。
その際に、1つのバクテリア溶液を3等分して、3等分されたバクテリア溶液の発酵期間をそれぞれ異ならせていく。例えば、3等分されたバクテリア溶液のうちの1つは、発酵期間を15日間、別のバクテリア溶液のうちの1つは、発酵期間を30日間、残り1つのバクテリア溶液の発酵期間を45日間とする。
発酵期間は、バクテリア溶液を構成する組成物の種類と配合割合によって変動されるべき因子となるが、おおむね10日~180日の範囲内で割り振られる。
その後、これらのバクテリア溶液を混合することによって、カルボン酸組成物を得ることができる。
【0011】
このようにして得られたカルボン酸組成物は、カルボン酸だけでなく、様々なミネラル成分が含まれている。このため、副生成物を考慮することなく、すなわち、精製工程を経ずに、植物の成長促進剤として使用することができる。
また、詳しい化学的性質についての理論は不明ではあるものの、本発明によって得られたカルボン酸組成物の場合、金属錯体の構成が容易であるため、不純物金属の回収が可能であるとともに、カルボン酸の不対電子対が安定化することにより、求核付加反応を促進することができ、回収が困難とされるフッ素やトリチウムであっても回収が可能となる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記バクテリア溶液の発酵前に、エアナノバブルを10分間吹き込む請求項1に記載のカルボン酸組成物の製造方法である。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、発酵前のバクテリア溶液にエアナノバブルを10分間吹き込ませることにより、バクテリアであるバチルス属、乳酸菌、酵母菌の活性が高まり、カルボン酸組成物の収率を高めることができるだけでなく、有効成分が濃縮された状態となるため、植物の成長促進剤や回収剤として使用した場合の効果は極めて高い。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のカルボン酸組成物の製造方法によって得られたカルボン酸組成物と、ギ酸とリチウムジイソプロピルアミドとを加えた溶液に、オゾンナノバブルを供給し、その後、前記溶液に酸化チタンを添加し、その後、再度オゾンナノバブルを供給し、その後、前記溶液に珪藻頁岩ナノパウダーを添加し、その後、再度オゾンナノバブルを供給し、その後、前記溶液をろ過することよって製造されるカルボン酸組成物の製造方法である。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は請求項2に記載のカルボン酸組成物(すなわち、本発明に係るカルボン酸組成物)にさらに、ギ酸と、リチウムジイソプロピルアミド(以下、単にLDAと略す。)、酸化チタン等を加え、外添するたびにオゾンナノバブルを吹き込む。この場合、ギ酸とLDAの有する還元特性により、カルボン酸等による金属錯体等の形成がより効果的となる。このため、例えば、汚染対象物に含まれる不純物金属やフッ素、トリチウムなどの不純物をカルボン酸組成物により金属錯体等を形成させた後に、汚染対象物の精製等段階を経ることで、高収率にて回収することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るカルボン酸組成物は、カルボン酸だけでなく、様々なミネラル成分が含まれている。このため、副生成物を考慮することなく、すなわち、精製工程を経ずに、植物の成長促進剤として使用することができる。
また、詳しい化学的性質についての理論は不明ではあるものの、本発明によって得られたカルボン酸組成物の場合、不純物金属、フッ素やトリチウムの回収が可能となる。
【0017】
特に、請求項2に記載の発明によれば、バクテリアであるバチルス属、乳酸菌、酵母菌の活性が高まり、カルボン酸組成物の収率を高めることができるだけでなく、有効成分が濃縮された状態となるため、植物の成長促進剤や回収剤として使用した場合の効果は極めて高い。
【0018】
また、請求項3に記載の発明によれば、ギ酸とLDAの有する還元特性により、カルボン酸等による金属錯体等の形成がより効果的となり、不純物金属やフッ素、トリチウムなどの不純物を高収率にて回収することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施例に係るカルボン酸組成物の製造方法は、原料糖として市販の黒白糖を500g、市販のにがり入り原料塩を5g、ヤクルト製の乳清を500g、市販の日本酒(清酒)を200mlを容器に投入し、オゾンナノバブルを2時間供給したのち、エアナノバブル処理を2時間行った。
その後、バクテリアを投入して攪拌したのち、3等分し、それぞれ水温25~28度の範囲内で攪拌しながら、発酵を行った。
発酵期間は、3等分されたバクテリア溶液のうちの1つは、発酵期間を15日間、別のバクテリア溶液のうちの1つは、発酵期間を45日間、残り1つのバクテリア溶液の発酵期間を90日間とした。
そして、5日に1回、原料糖50g、海水塩0.5g、乳清50g、日本酒100mlを水に溶かし10lの溶液とし、これを各バクテリア溶液に追加した。
発酵後、3等分されたバクテリア溶液を1つの容器に投入し、混合し、最後にギ酸を70%溶液を3ml添加することで、カルボン酸組成物を得た。
当該組成物は、ミネラル分のほかに、アミノ酸、カルボン酸が多く含まれている。
【0020】
本実施例で使用したバクテリア(菌種)は、バチルス属、乳酸菌、酵母菌を用いた。バチルス属はわらより採取した。乳酸菌はヤクルトを、酵母菌は市販酵母を用いた。また、自然常駐菌として、しいたけのほだぎを粉砕したものを使用した。これらを本発明の実施例に係るカルボン酸組成物における発酵の段階で微量投入した。
【0021】
(植物成長剤としての使用)
千葉県鋸南町において、2020年に1反の水田にて実験を行った。
当該水田を本実施例に係るカルボン酸組成物を用いずに稲作を行った領域と、本実施例に係るカルボン酸組成物を散布して稲作を行った領域とに分けて、その他の稲作条件は同一にて稲作を行った。カルボン酸組成物の散布量は、50L/50aとした。その結果、本実施例に係るカルボン酸組成物を散布して稲作を行った領域での稲の収穫量と、カルボン酸組成物を用いずに稲作を行った領域での稲の収穫量と、の割合は1.2であり、本実施例に係るカルボン酸組成物は、植物成長剤として使用することができることを確認した。
また、翌年(2021年)に同場所で、いずれも、本実施例に係るカルボン酸組成物を用いずに稲作を行った。その結果、2020年に本実施例に係るカルボン酸組成物を散布して稲作を行った領域での稲の収穫量と、2020年にカルボン酸組成物を用いずに稲作を行った領域での稲の収穫量と、の割合は1.1であり、連作であっても、植物成長剤としての効果を確認することができた。
【0022】
(不純物金属回収剤としての使用)
1000mlの純水中に不純物としてフッ化ナトリウム、トリチウムを投入し、十分に攪拌したのち、本実施例に係るカルボン酸組成物を100ml投入して攪拌し、その後24時間放置した。その後、精製工程により、カルボン酸組成物を除去したのち、機器分析により分析を行った。その結果、フッ化ナトリウム、トリチウムともに6割以上除去することができたことを確認した。
【要約】 (修正有)
【課題】副生成物を含むカルボン酸であっても、精製工程を経ずに、そのまま利用することができる、環境負荷と製造コストを低減したカルボン酸組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】糖、海水塩、乳清、日本酒に、バチルス属、乳酸菌、酵母菌を加えたバクテリア溶液を室温下で発酵させることにより製造する。バクテリア溶液を3等分し、それぞれのバクテリア溶液の発酵期間を異ならせて3種類の発酵済みのバクテリア溶液を製造する。その後、3種類の発酵済みのバクテリア溶液を混合する。
【選択図】なし