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特許7426166フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア、電子写真現像剤及びフェライト粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア、電子写真現像剤及びフェライト粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20240125BHJP
   C30B 29/22 20060101ALI20240125BHJP
   G03G 9/107 20060101ALI20240125BHJP
   G03G 9/113 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C01G49/00 A
C30B29/22 F
G03G9/107
G03G9/113
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023524254
(86)(22)【出願日】2022-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2022021790
(87)【国際公開番号】W WO2022250149
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2021089755
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 謙
(72)【発明者】
【氏名】石川 誠
(72)【発明者】
【氏名】植村 哲也
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-137455(JP,A)
【文献】国際公開第2019/198304(WO,A1)
【文献】特開2015-93817(JP,A)
【文献】特開2011-107286(JP,A)
【文献】特開2011-118380(JP,A)
【文献】国際公開第2021/200172(WO,A1)
【文献】特開2021-88487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00
C30B 29/22
G03G 9/107
G03G 9/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間群Fd-3mに帰属するスピネル型結晶構造を有し、
そのフェライト組成が下記式(1)で表されるフェライト粒子。
(Fe3+u,Mn2+v,Mg2+w)(Mn3+x,Fe2+y,Fe3+z)・・・(1)
但し、
u+v+w=1
x+y+z=1
0.870≦v<1.000
0.001≦w<0.070
0.000≦x≦0.075
【請求項2】
前記式(1)中のwが下記の条件を満足する請求項1に記載のフェライト粒子。
0.003≦w≦0.060
【請求項3】
当該フェライト粒子に含まれるFe、Mn、Mgの総物質量を100molとしたときに、これらのフェライト構成元素とは別にSr元素を0.4mol以上1.2mol以下含有する請求項1又は請求項2に記載のフェライト粒子。
【請求項4】
内部空隙率が4.0%以下である請求項1又は請求項2に記載のフェライト粒子。
【請求項5】
3K・1000/4π・A/mの磁場をかけたときのB-H測定による飽和磁化が70Am/kg以上90Am/kg以下である請求項1又は請求項2に記載のフェライト粒子。
【請求項6】
見掛密度が2.10g/cm以上2.40g/cm以下である請求項1又は請求項2に記載のフェライト粒子。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載のフェライト粒子と、当該フェライト粒子の表面を被覆する樹脂被覆層とを備える電子写真現像剤用キャリア。
【請求項8】
請求項7に記載の電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含む電子写真現像剤。
【請求項9】
補給用現像剤として用いられる請求項8に記載の電子写真現像剤。
【請求項10】
請求項1又は請求項2に記載のフェライト粒子を製造するためのフェライト粒子の製造方法であって、
Fe原料、Mn原料及びMg原料の配合量が下記式(2)を満たすように配合して被焼成物を作製し、
当該被焼成物を気孔率が20%以上35%以下の耐火物容器に収容して焼成することによりフェライト粒子を製造するフェライト粒子の製造方法。
2.00≦nFe/(nMn+nMg)≦3.00・・・(2)
但し、
Fe:前記Fe原料中のFe元素の物質量(mol%)
Mn:前記Mn原料中のMn元素の物質量(mol%)
Mg:前記Mg原料中のMg元素の物質量(mol%)
【請求項11】
前記被焼成物を密閉式雰囲気熱処理炉において、炉内圧が炉外の雰囲気圧よりも2Pa以上100Pa以下の範囲で高くなるように加圧した状態で焼成する請求項10に記載のフェライト粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア、電子写真現像剤及びフェライト粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真現像方法は、現像剤中のトナーを感光体上に形成された静電潜像に付着させて現像する方法をいう。この方法で使用される現像剤は、トナーとキャリアからなる二成分系現像剤と、トナーのみを用いる一成分系現像剤とに分けられる。二成分系現像剤を用いた現像方法としては、古くはカスケード法等が採用されていたが、現在では、マグネットロールを用いる磁気ブラシ法が主流である。
【0003】
磁気ブラシ法では、現像剤が充填されている現像ボックス内においてトナーとキャリアとを攪拌・混合することによって、トナーに電荷を付与する。そして、マグネットを保持する現像ロールによりキャリアを感光体の表面に搬送する。その際、キャリアにより、電荷を帯びたトナーが感光体の表面に搬送される。感光体上で静電的な作用によりトナー像が形成された後、現像ロール上に残ったキャリアは再び現像ボックス内に回収され、新たなトナーと撹拌・混合され、一定期間繰り返して使用される。
【0004】
二成分系現像剤は、一成分系現像剤とは異なり、キャリア自体の磁気特性や電気特性をトナーと分離して設計することができるため、現像剤を設計する際の制御性がよい。そのため、二成分系現像剤は高画質が要求されるフルカラー現像装置及び画像維持の信頼性、耐久性が要求される高速印刷が可能な複写機や複合機等(以下、画像形成装置と称する)に適している。
【0005】
ところで、一般的な家庭用の画像形成装置を用いて連続して画像形成する場合の連続画像形成速度はA4サイズの場合、5~15枚/分程度であるが、業務用の画像形成装置の連続画像形成速度は15~50枚/分程度である。このように業務用の画像形成装置の連続画像形成速度は家庭用の画像形成装置よりも連続画像形成速度が一般に速く、ウォームアップタイムやファーストコピータイム等の立上速度なども速い。これらの印刷速度が異なると、キャリア芯材に要求する特性も異なる。
【0006】
印刷速度が速くなると、現像ボックス内でキャリアとトナーとが高速に攪拌・混合されるため、キャリア芯材の割れや欠けも生じやすくなる。キャリア芯材の割れや欠けもキャリア飛散の原因となる。そのため、高速印刷用の画像形成装置には高磁化であり、攪拌・混合時の割れや欠けが生じにくいキャリア芯材が求められる。そこで、高速印刷用の画像形成装置で用いるキャリアに適した芯材として、例えば、特許文献1には、組成式(MFe3-X)O(ただし、MはFe,Mg,Mn,Ti,Cu,Zn,Sr,Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、0≦X<1)で表される材料を主成分とし、Ca元素とP元素とを含有するフェライト粒子であって、Ca元素の含有量がP元素の含有量に対して重量比で0.45~1.0の範囲であることを特徴とするフェライト粒子が提案されている。特許文献1に記載のフェライト粒子は、帯電性の向上を図りながら強度の低下を防止することで、キャリア芯材の割れや欠けを抑制するものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2012-144401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年では、100枚/分以上の連続画像形成速度を実現した画像形成装置も知られている。このような高速の連続画像形成速度を実現するには、感光体及び現像ロールの回転速度も速くする必要がある。現像ロールの回転速度が速くなるとキャリアに作用する遠心力も大きくなる。キャリアに作用する遠心力に対して現像ロールとキャリアとの間に作用する磁気吸引力が小さいと、キャリアが現像ロールの表面から飛散する。その結果、感光体の表面にキャリアが付着したり、感光体の予定しない位置にトナーが付着するなど、キャリア付着やトナー飛散の原因となる。従って、高速の連続画像形成速度を実現するには芯材全体としてみたときに高磁化であると共に、他の粒子と比較したときに低磁化の粒子が含まれていないことが求められる。
【0009】
ところで、フェライト粒子の結晶構造は、微量成分の種類と量、焼成条件等によって複雑に変化する。そのため、同じ組成式で表される場合であっても結晶構造が異なると磁気特性等が変化する。上記特許文献1に記載の発明では、Ca元素とP元素の含有量のバランスを図ることで結晶成長を制御するものとしている。しかしながら、例えば、スピネル型結晶構造を有するフェライト粒子では、Bサイトを占有する元素種とその価数によって磁気特性が変化する。特許文献1に記載の方法では、Bサイトを占有する元素種とその価数までは制御することが困難であり、他の粒子と比較すると低磁化の粒子が含まれている蓋然性が高い。そのため、高速印刷時にはキャリア付着やトナー飛散を十分に抑制することができないおそれがある。
【0010】
そこで、本件発明の課題は、高速印刷に適した磁気特性を有し、高速印刷時にも良好な画像特性を有する電子写真用現像剤のキャリア芯材に好適なフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア、電子写真現像剤及びフェライト粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記の態様を包含する。
【0012】
[1]
空間群Fd-3mに帰属するスピネル型結晶構造を有し、
そのフェライト組成が下記式(1)で表されるフェライト粒子。
(Fe3+u,Mn2+v,Mg2+w)(Mn3+x,Fe2+y,Fe3+z)・・・(1)
但し、
u+v+w=1
x+y+z=1
0.870≦v<1.000
0.001≦w<0.070
0.000≦x≦0.075
【0013】
[2]
前記式(1)中のwが下記の条件を満足する[1]に記載のフェライト粒子。
0.003≦w≦0.060
【0014】
[3]
当該フェライト粒子に含まれるFe、Mn、Mgの総物質量を100molとしたときに、これらのフェライト構成元素とは別にSr元素を0.4mol以上1.2mol以下含有する[1]又は[2]に記載のフェライト粒子。
【0015】
[4]
内部空隙率が4.0%以下である[1]~[3]のいずれか一項に記載のフェライト粒子。
【0016】
[5]
3K・1000/4π・A/mの磁場をかけたときのB-H測定による飽和磁化が70Am/kg以上90Am/kg以下である[1]~[4]のいずれか一項に記載のフェライト粒子。
【0017】
[6]
見掛密度が2.10g/cm以上2.40g/cm以下である[1]~[5]のいずれか一項に記載のフェライト粒子。
【0018】
[7]
[1]~[6]のいずれか一項に記載のフェライト粒子と、当該フェライト粒子の表面を被覆する樹脂被覆層とを備える電子写真現像剤用キャリア。
【0019】
[8]
[7]に記載の電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含む電子写真現像剤。
【0020】
[9]
補給用現像剤として用いられる[8]に記載の電子写真現像剤。
【0021】
[10]
[1]~[6]のいずれか一項に記載のフェライト粒子を製造するためのフェライト粒子の製造方法であって、
Fe原料、Mn原料及びMg原料の配合量が下記式(2)を満たすように配合して被焼成物を作製し、
当該被焼成物を気孔率が20%以上35%以下の耐火物容器に収容して焼成することによりフェライト粒子を製造するフェライト粒子の製造方法。
2.00≦nFe/(nMn+nMg)≦3.00・・・(2)
但し、
Fe:前記Fe原料中のFe元素の物質量(mol%)
Mn:前記Mn原料中のMn元素の物質量(mol%)
Mg:前記Mg原料中のMg元素の物質量(mol%)
【0022】
[11]
前記被焼成物を密閉式雰囲気熱処理炉において、炉内圧が炉外の雰囲気圧よりも2Pa以上100Pa以下の範囲で高くなるように加圧した状態で焼成する[10]に記載のフェライト粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本件発明によれば高速印刷に適した磁気特性を有し、高速印刷時にも良好な画像特性を実現することのできる電子写真用現像剤のキャリア芯材に好適なフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア、電子写真現像剤及びフェライト粒子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本件発明に係るフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤の実施の形態を説明する。まず、フェライト粒子及び電子写真現像剤用キャリア芯材の実施の形態を説明する。なお、本明細書において、フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤は、特記しない限り、それぞれ個々の粒子の集合体、つまり粉体を意味するものとする。
【0025】
また、以下では、本実施の形態のフェライト粒子は電子写真現像剤用キャリア芯材として用いられるものとして説明するが、本件発明に係るフェライト粒子は磁性インク、磁性流体、磁性フィラー、ボンド磁石用フィラー及び電磁波シールド材用フィラー等の各種機能性フィラー、電子部品材料等の各種用途に用いることができ、当該フェライト粒子の用途は電子写真現像剤用キャリア芯材に限定されるものではない。
【0026】
1.フェライト粒子
まず、フェライト粒子について説明する。当該フェライト粒子は、空間群Fd-3mに帰属するスピネル型結晶構造を有し、そのフェライト組成が下記式(1)で表されることを特徴とする。
(Fe3+u,Mn2+v,Mg2+w)(Mn3+x,Fe2+y,Fe3+z)・・・(1)
但し、
u+v+w=1
x+y+z=1
0.870≦v<1.000
0.001≦w<0.070
0.000≦x≦0.075
【0027】
空間群Fd-3mに帰属するスピネル型結晶は立方晶系に属する。当該スピネル型結晶構造を有するフェライトの組成を一般式ABで表した場合、その単位格子は8(AB)で表される。スピネル型結晶の単位格子を構成する32個の酸素は最密立方格子を形成する。単位格子において金属イオンが配置される格子点は2種類あり、4個の酸素が構成する四面体の中心位置である8b位置(Aサイト)と、6個の酸素が構成する六面体の中心位置である16c位置(Bサイト)とがある。Mn-Mg系フェライトの場合、Mgは2価の金属イオンとしてAサイトに配置される。
【0028】
一方、Fe及びMnは遷移金属元素であるため、これらは2価又は3価の金属イオンとしてAサイト又はBサイトに配置される。Mn-Mg系フェライトの場合、Aサイトには「Fe3+」、「Mn2+」、「Mg2+」が配置され、Bサイトには「Mn3+」、「Fe2+」及び「Fe3+」が配置される。Bサイトにおけるこれらのイオンの占有率は製造条件等によって変化すると考えられている。そのため、Bサイトにおける電子スピン状態がフェライト粒子の磁性特性に大きな影響を及ぼす。
【0029】
そこで、本件発明者等の鋭意検討の結果、Bサイトにおける「Mn3+」の占有率を極めて小さくすること、具体的には当該フェライト粒子のフェライト組成を上記式(1)で表したときに、Bサイトにおける「Mn3+」の占有率を表す「x」の値を0.075以下に抑制することで、フェライト粒子全体としてみたときに高磁化であり、且つ、低磁化の粒子がほぼ含まれず、100枚/分以上、さらには120枚/分以上の高速印刷に極めて好適な磁気特性を発現し、低磁化粒子に起因するキャリ付着やトナー飛散等を抑制し、高速印刷時にも良好な画像特性を実現可能であることを見出した。しかしながら、従来公知の製造方法では、上記「x」の値を超えて「Mn3+」がBサイトを占有し、Bサイトにおける「Mn3+」の占有率のバラツキも大きなものとなっていた。そのため、フェライト粒子全体(粉体)としてみたときには高磁化であっても、低磁化の粒子が含まれる等の個々の粒子の磁化にバラツキが生じる原因となっていた。そこで、本件発明者等の鋭意検討の結果、後述する製造方法に想到し、上記式(1)において、「x」の値が0.075以下であり、Bサイトにおける「Mn3+」の占有率が極めて低いスピネル型結晶構造を示すフェライト粒子を得ると共に、当該フェライト粒子を精度良く製造することを可能とした。以下、詳細に説明する。
【0030】
(1)フェライト組成
i)(Mn3+x,Fe2+y,Fe3+z)
上記式(1)における「(Mn3+x,Fe2+y,Fe3+z)」は上記一般式における「B」に相当する。上述のとおり、「x+y+z=1、0.000≦x≦0.075」である。「x」、「y」、「z」はそれぞれBサイトにおける「Mn3+」、「Fe2+」、「Fe3+」のの占有率を示す。本件発明に係るフェライト粒子では、「0.000≦x≦0.075」であり、Bサイトはほぼ「Fe2+」又は「Fe3+」により占有される。このようにBサイトにおける「Mn3+」の侵入を抑制したスピネル型結晶構造を示すフェライト粒子では、低磁化の粒子が含まれる割合が極めて小さくなる。つまりフェライト粒子全体でみたときに高磁化であり、且つ、低磁化の粒子がほぼ含まれず、その結果磁気特性のバラツキの小さいフェライト単粒子の集合体としてのフェライト粒子を得ることができる。なお、「x」の値は小さいほど好ましく、上限値は0.075であることが好ましく、0.040であることがより好ましく、0.020であることがさらに好ましい。
【0031】
但し、本明細書において数値範囲についての好ましい上限値、下限値に関して、式において「不等号」で表示されている場合、これを「等号付不等号」に置換することも好ましく、その逆も可能である。また、好ましい上限値、下限値に関して、「以上」は「より大きい」に置換することもでき、「以下」は「より小さい」に置換することもでき、その逆も可能である。
【0032】
ii)(Fe3+u,Mn2+v,Mg2+w)
一方、上記式(1)における「(Fe3+u,Mn2+v,Mg2+w)」は上記一般式における「A」に相当する。上述のとおり、「0.870≦v<1.000、0.001≦w<0.070」である。「u」、「v」、「w」はそれぞれAサイトにおける「Fe3+」、「Mn2+」、「Mg2+」の占有率を示す。
【0033】
Bサイトにおける「Mn3+」の占有率が上記「x」の範囲内であることに加えて、Aサイトにおける「Mn2+」の占有率を上記「v」の範囲内とすることで、高速印刷に適した磁気特性を有するフェライト粒子を得ることができる。
【0034】
当該効果を得る上で、「v」の上限値は1.000より小さいことがより好ましく、0.998より小さいことがさらに好ましい。また、「v」の下限値は0.870であることがより好ましく、0.900であることがさらに好ましく、0.960であることが一層好ましい。
【0035】
なお、Mnを「2x+v」の範囲内で含むフェライト組成とすることで、低磁場側の磁化を高くすることができる。さらに、Mnを含むフェライト組成とすることにより、本焼成後の炉出の際のフェライトの再酸化を防止することができる。そのため良好な抵抗値に調整することが容易になり、高速印刷に適した帯電特性を得ることが容易になる。
【0036】
また、Aサイトにおける「Mg2+」の占有率が上記範囲内であると、高磁化であり、且つ、高抵抗のフェライト粒子を得ることが容易になる。ここで、Mg原料として水酸化マグネシウムを用いたときに、当該フェライト粒子を製造する際の焼成温度が低いと、フェライト粒子に水酸基が残存する場合がある。そこで、「w」の値が0.070未満となるようにMg原料を配合することで、原料に起因して存在する残存水酸基の量を低減することができる。そのため、残存水酸基により当該フェライト粒子の帯電量や抵抗といった電気的特性が雰囲気湿度の影響を受けて変動するのを抑制し、当該フェライト粒子の電気的特性の環境依存性を良好にすることができる。
【0037】
当該効果を得る上で、「w」の上限値は0.060であることがより好ましく、0.030であることがさらに好ましく、0.020であることが一層好ましい。また、「w」の下限値は0.001であることがより好ましく、0.003であることがさらに好ましい。
また、好ましい一態様として、0.003≦w≦0.060であることが好ましい。
【0038】
(2)Sr含有量
当該フェライト粒子に含まれるFe、Mn、Mgの総物質量を100molとしたときに、これらのフェライト構成元素とは別にSr元素を0.4mol以上1.2mol以下含有することが好ましい。Srを当該範囲で含むことで、当該フェライト粒子の表面の凹凸を適度な大きさにすることができると共に、凹凸のバラツキを抑制することができ、キャリア同士が衝突した際の樹脂被膜層の剥がれ等を抑制することができる。また、当該フェライト粒子の表面の凹凸が適度な大きさとなり、表面を樹脂で被覆してキャリアにしたときに、抵抗が高くなり過ぎるのを抑制することができる。一方、Sr含有量が上記範囲を超えて大きくなると、焼成時等にFe原料等から放出された塩素が、芯材表面に析出したSr化合物に吸着し、当該フェライト粒子の帯電特性が雰囲気湿度の影響を受けやすくなる。そのため、高温高湿環境下では当該フェライト粒子の表面抵抗が低下し、帯電性も低くなるおそれがある。なお、「フェライト構成元素とは別にSr元素」を含有するとは、Sr元素は当該スピネル型結晶構造を構成する元素ではなく、さらにSrフェライトのように他の結晶構造を有するフェライトを構成する元素でもなく、粒子内に存在することを意味する。
【0039】
当該効果を得る上で、「Sr」の含有量の下限値は0.5molであることが好ましく、0.6molであることがより好ましい。また、上限値は1.1molであることが好ましく、1.0molであることがより好ましい。
【0040】
(3)組成分析
上記式(1)における「x」、「y+z」は、X線回折パターンをリートベルト解析することにより得られる値であり、「u」、「v」、「w」はICP発光分析法によりフェライト粒子に含まれる元素を定量することにより得られる値である。
また、Srの含有量は「u」、「v」、「w」と同様の手順により得ることができる。
以下、それぞれの具体的な分析手順について説明する。
【0041】
i)x、y+z
まず、発明に係るフェライト粒子をロータリーキルンを用い大気雰囲気下において650℃で焼成することで「Fe」、「Mn」に分解することで、試料を調製する。この試料を用いて、後述する測定条件により粉末X線回折を行い、粉末X線回折パターンを得る。
【0042】
次に、得られた粉末X線回折パターンをリートベルト解析することにより「MnFe」、「Fe」、「Mn」の組成比を求める。得られた組成比から、「Fe」及び「Mn」を100mol%としたときの「Mn」の含有割合(mol%)を求める。「Mn」の含有割合はBサイトにおける「Mn3+」の占有率を示す。従って、得られた「Mn」の含有割合に基づき「x」を求めることができる。具体的には、「Mn」の含有割合が「a(mol%)」であるとき、「x」=「a」×「1/100」により求めることができる。
【0043】
「x」の値が得られたら、次に「x」の値からBサイトにおける「Fe3+」及び「Fe2+」の総占有率を表す「y+z」を求める。
「y+z」の値は、上記式(1)において「x+y+z=1」であるため、「y+z」=「1-x」により求めることができる。
【0044】
粉末X線回折の際の測定条件及びリートベルト解析の際の解析条件は以下のとおりである。
【0045】
(粉末X線回折)
X線回折装置として、パナリティカル社製「X’PertPRO MPD」を用いることができる。X線源としてCo管球(CoKα線)を用いることができる。光学系として集中光学系及び高速検出器「X‘Celarator」を用いることができる。測定条件は以下のとおりとする。
【0046】
スキャンスピード :0.08°/秒
発散スリット :1.0°
散乱スリット :1.0°
受光スリット :0.15mm
封入管の電圧及び電流値:40kV/40mA
測定範囲 :2θ=15°~90°
積算回数 :5回
【0047】
(結晶相の定性分析)
上記得られた測定結果(粉末X線回折パターン)を元に、「国立研究開発法人物質・材料研究機構、”AtomWork”、インターネット<URL:http://crystdb.nims.go.jp/>」に開示の構造より結晶構造を以下の通り仮定した。その際、以下の3相(第1相~第3相)を結晶構造モデルとし、試料中の下記各相の組成比から、BサイトにおけるMn3+の占有率「x」を求める。
【0048】
第1相:MnFe(スピネル型結晶相)
結晶構造: 空間群 Fd-3m (No.227-2)
原子座標: Mn2+(8b位置(3/8,3/8,3/8))
Fe3+(16c位置(0,0,0))
2- (32e位置(x,x,x))
第2相:Fe
結晶構造: 空間群 R-3c (No.167-1)
原子座標: Fe3+(12c位置(0,0,z))
2- (18e位置(x,0,1/4))
第3相:Mn
結晶構造: 空間群 Ia-3 (No.206-1)
原子座標: Mn2+(24d位置(x,0,1/4))
Mn2+(8a位置(0,0,0))
2- (48e位置(x,y,z))
【0049】
以上のように結晶構造を仮定した後、解析用ソフト「RIETAN-FP u2.83」を用いて下記のパラメータの最適化を行う。プロファイル関数はThompson,Cox,Hastingの擬Voigt関数を使用しHowardの方法で非対称化する。また、フィッティングの正確さを表すRwp値,S値が各々Rwp:2%以下,S値:1.5以下となるように以下のパラメータの精密化を行う。
【0050】
(精密化するパラメータ)
・シフト因子
・スケール因子
・バックグラウンドパラメータ
・ガウス関数 U,V,W
・ローレンツ関数 X,Y
・非対称パラメータ As
・格子定数・酸素原子座標
【0051】
ii)u,v,w
後述する測定条件により、試料とするフェライト粒子における「Fe」、「Mn」、「Mg」、「Sr」の含有量を測定し、得られた値から以下のようにして各値を求めた。
【0052】
まず、「Fe」、「Mn」及び「Mg」の総物質量(mol)から「Mg」の占める割合(mol%)を算出し、「w」の値を求める。この「w」の値と、上記で求めた「x」の値に基づき、以下の計算式から「u」、「v」を算出する。
u=(1-w)×(1-x)
v=1-u-w
【0053】
(ICP)
「Fe」、「Mn」、「Mg」の含有量についてのICP発光分析法による具体的な測定方法は以下のとおりである。
まず測定対象とするフェライト粒子を0.2g秤量する。そして、純水60mlに1Nの塩酸20ml及び1Nの硝酸20mlを加えたて加熱し、その中に、フェライト粒子を添加し、フェライト粒子を溶解させた水溶液を準備する。この水溶液を試料とし、ICP発光分析装置(島津製作所製ICPS-1000IV)を用いて、Fe、Mn及びMgの含有量を測定することができる。
【0054】
(iii)Srの含有量
Srの含有量は、上記u、v、wと同様に求める。具体的には、当該フェライト粒子がSr元素を含む場合、ICP発光分析を行う際に調製する上記水溶液にはSrが溶け込む。当該水溶液を用いて上記のようにFe、Mn及びMgの含有量を測定する際に、Sr元素の含有量についても同時に測定し、「Fe」、「Mn」、「Mg」の総物質量(mol)を100としたときの「Sr」の物質量(mol)を求め、その値をSrの含有量(mol)とする。
【0055】
(4)内部空隙率
当該フェライト粒子の内部空隙率は4.0%以下であることが好ましい。ここで、内部空隙率は以下のようにして測定した値をいうものとする。
【0056】
測定対象とするフェライト粒子を樹脂包埋し、イオンミリングによる断面加工を施すことにより、測定用の断面試料を作製する。イオンミリングは、日立ハイテクノロジーズ社製のIM4000PLUSを使用し、イオンビームの加速電圧を6.0kVとして、アルゴン雰囲気下で行う。そして、測定用の断面試料を走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製SU8020)にて加速転圧1kV 700倍の反射電子像を撮影し、画像解析ソフト(Image-Pro Plus、Media Cybernetics社製)を用いて解析した。
【0057】
ここで、内部空隙率は30粒子の平均値として求めた。測定フェライト粒子(粉体)を、当該測定対象粒子が含まれるフェライト粒子(粉体)の体積平均粒径をD50としたとき、最大直径DxがD50×0.8≦Dx≦D50×1.2の範囲である粒子とした。そして、各測定対象粒子について、その表面の凹凸を包絡する線で結んだ包絡粒子面積(A)を測定し、次いで、その粒子画像に含まれる粒子の断面積を芯材面積(B)として測定した。そして、30粒子についてそれぞれ測定した包絡粒子面積(A)の和と、芯材面積(B)の和を用いて、下記式により求めた値を本発明にいう内部空隙率とする。
【0058】
内部空隙率(%)
=(包絡粒子面積(A)-芯材面積(B))/包絡粒子面積(A)×100
但し、
包絡粒子面積(A):粒子断面の凹凸を包絡する線(包絡線)で囲まれた領域の面積
芯材面積(B):芯材部分の面積
【0059】
上記式によって定義される内部空隙率は、包絡面積に対して、粒子断面において測定対象粒子の表面から連続する空隙面積と芯材内部に独立して存在する空隙面積との和が占める割合を示す値である。
【0060】
上記のようにして求めた内部空隙率が4.0%以下のフェライト粒子は、粒子内部の空隙が小さく、粒子表面の凹凸のバラツキが小さく、形状の均一な粒子の集合体であることを意味する。また、粒子内部の空隙が小さいため、他の粒子と比較したときに低磁化の粒子が含まれることを抑制し、個々の粒子の磁気特性のバラツキの小さいフェライト粒子となる。また、内部空隙率を小さくすることで粒子強度の低い粒子が含まれることを抑制することができる。これらのことから、低磁化粒子或いは低強度の粒子に起因したキャリア飛散を抑制し、キャリア飛散に起因するキャリア付着やトナー飛散等の画像欠陥の発生を抑制することがより容易になる。また、低磁化粒子の存在による画像現像量のバラツキを抑制することができる。
【0061】
当該効果を得る上で、内部空隙率の上限値は3.5%であることが好ましく、3.0%であることが好ましく、2.5%であることがより好ましく、2.0%であることがさらに好ましい。
【0062】
(5)磁気特性
次に、当該フェライト粒子の磁気特性について説明する。当該フェライト粒子は、3K・1000/4π・A/mの磁場をかけたときのB-H測定による飽和磁化が70Am/kg以上90Am/kg以下であることが好ましい。当該フェライト粒子の飽和磁化が当該範囲内であると、例えば、100枚/分以上、或いは120枚/分以上のように連続複写速度が速くなったときも、速やかに磁気ブラシを形成することができる。また、現像ロールとキャリアとの間に作用する磁気吸引力が強く、現像ロールの回転に伴いキャリアに低速印刷時よりも大きな遠心力が作用しても磁気ブラシからキャリアが脱離してキャリアが飛散し、キャリア付着やトナー飛散が生じるのを抑制することができる。
【0063】
これに対して、飽和磁化が70Am/kg未満になると、100枚/分以上のような高速の連続複写速度で印刷する際に、キャリアに作用する遠心力に対してキャリアの磁力が小さい場合があり、磁気ブラシの穂立ちが不十分となる、又は、低磁化に起因するキャリアが現像ロールから飛散が発生しやすくなるおそれがある。また、飽和磁化が90Am/kgを超えると飽和磁化が高すぎて、磁気ブラシの高さが不均一になり画像現像量バラツキが生じやすくなるおそれがある。また、飽和磁化と電気抵抗はトレードオフの関係にあり、フェライト粒子の飽和磁化が高くなると、その電気抵抗は低くなる。そのため、当該フェライト粒子の飽和磁化が95Am/kgを超えると、当該フェライト粒子の抵抗が低くなり、低抵抗に起因するキャリア飛散が発生しやすくなるおそれがある。電気抵抗の低下を抑制する上で、飽和磁化の上限値は85Am/kgであることがより好ましく、80Am/kgであることがさらに好ましい。
【0064】
飽和磁化は、積分型B-HトレーサーBHU-60型(株式会社理研電子製)を用いて測定することができる。具体的には、試料を4πIコイルに入れ、当該装置の電磁石間に磁場測定用Hコイル及び磁化測定用4πIコイルを配置し、電磁石の電流を変化させ磁場Hを変化させたHコイル及び4πIコイルの出力をそれぞれ積分し、H出力をX軸に、4πIコイルの出力をY軸に、ヒステリシスループを記録紙に描く。このヒステリシスカーブにおいて、印加磁場が3K・1000/4π・A/mであるときの磁化を求め、飽和磁化とした。なお、測定条件は以下のとおりである。
試料充填量 :約1g
試料充填セル:内径7mmφ±0.02mm、高さ10mm±0.1mm
4πIコイル:巻数30回
【0065】
(6)見掛密度(AD)
当該フェライト粒子の見掛密度(AD)は2.10g/cm以上2.40g/cm以下であることが好ましい。ここでいう見掛密度は、JIS Z 2504:2012に準拠して測定した値という。当該フェライト粒子の見掛密度が当該範囲内であると高速印刷を行う際に要求される流動性を満足することができ、当該フェライト粒子を電子写真現像剤用キャリア芯材としたとき、現像ボックス内でキャリアとトナーとが高速に攪拌されたときにも攪拌ストレスによる帯電特性の劣化を抑制することができる。
【0066】
これに対して、当該フェライト粒子の見掛密度(AD)が2.10g/cm未満になると、100枚/分以上の高速印刷を行う上ではキャリアの流動性が低く現像ボックス内でトナーとの攪拌を良好に行うことが困難になる他、当該フェライト粒子に要求されるレベルの磁化よりも低磁化の粒子が増加し、低磁化に起因するキャリア付着を抑制することが困難になるおそれがある。一方、当該フェライト粒子の見掛密度(AD)が2.40g/cmを超えると、現像ボックス内での高速の攪拌ストレスにより、後述する樹脂被覆層が剥離するなどにより帯電特性が劣化する場合がある。
【0067】
これらの効果を得る上で、当該フェライト粒子の見掛密度は2.15g/cm以上であることがより好ましい。また、当該フェライト粒子の見掛密度は、2.35g/cm以下であることがより好ましく、2.30g/cm以下であることがさらに好ましい。
【0068】
見掛密度は、粉末見掛密度計を用いて以下のようにして測定することができる。粉末見掛密度計として、漏斗、コップ、漏斗支持器、支持棒及び支持台から構成されるものを用いる。天秤は、秤量200gで感量50mgのものを用いる。そして、以下の手順で測定し、以下のようにして算出して得た値をここでいう見掛密度とする。
【0069】
i)測定方法
(a)試料は、少なくとも150g以上とする。
(b)試料は孔径2.5+0.2/-0mmのオリフィスを持つ漏斗に注ぎ流れ出た試料が、コップ一杯になってあふれ出るまで流し込む。
(c)あふれ始めたら直ちに試料の流入をやめ、振動を与えないようにコップの上に盛り上がった試料をへらでコップの上端に沿って平らにかきとる。
(d)コップの側面を軽く叩いて、試料を沈ませコップの外側に付着した試料を除去して、コップ内の試料の重量を0.05gの精度で秤量する。
【0070】
ii)計算
上記(d)で得られた測定値に0.04を乗じた数値をJIS-Z8401(数値の丸め方)によって小数点以下第2位に丸め、「g/cm」の単位の見掛け密度とする。
【0071】
(7)平均体積粒径(D50
当該フェライト粒子の平均体積粒径(D50)は20μm以上80μm以下であることが好ましい。フェライト粒子の体積平均粒径(D50)が当該範囲内であると、種々の用途に好適なフェライト粒子とすることができる。
【0072】
また、当該フェライト粒子を電子写真現像剤用キャリア芯材として用いる場合、当該フェライト粒子の体積平均粒径(D50)は25μm以上50μm以下であることが好ましい。当該範囲内とすることで、キャリア付着を抑制しつつ、画像現像量バラツキが生じるのを防ぐことができる。
【0073】
ここでいう平均体積粒径(D50)は、レーザ回折・散乱法によりJIS Z 8825:2013に準拠して測定した値をいう。具体的には、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分析計(Model9320-X100)を用い、次のようにして測定することができる。まず、測定対象とするフェライト粒子を試料とし、試料10gと水80mlを100mlのビーカーに入れ、分散剤(ヘキサメタリン酸ナトリウム)を2滴~3滴添加し、超音波ホモジナイザー(SMT.Co.LTD.製UH-150型)を用い、出力レベル4に設定し、20秒間分散を行い、ビーカー表面にできた泡を取り除くことによりサンプルを調製し、当該サンプルを用いて、上記マイクロトラック粒度分析計により測定したサンプルの体積平均粒径を試料の平均体積粒径(D50)とする。
【0074】
2.電子写真現像剤用キャリア
次に、本件発明に係る電子写真現像剤用キャリアについて説明する。本発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、上記フェライト粒子と、当該フェライト粒子の表面を被覆する樹脂被覆層とを備える。すなわち、上記フェライト粒子は、電子写真現像剤用キャリア芯材として用いられる。電子写真現像剤用キャリア芯材としてのフェライト粒子については上述したとおりであるため、ここでは主として樹脂被覆層について説明する。
【0075】
(1)被覆樹脂の種類
樹脂被覆層を構成する樹脂(被覆樹脂)の種類は、特に限定されるものではない。例えば、フッ素樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、フッ素アクリル樹脂、アクリル-スチレン樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができる。また、シリコーン樹脂等をアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等の各樹脂で変性した変成シリコーン樹脂等を用いてもよい。例えば、トナーとの撹拌混合時に受ける機械的ストレスによる樹脂剥離を抑制するという観点からは、被覆樹脂は熱硬化性樹脂であることが好ましい。当該被覆樹脂に好適な熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂及びそれらを含有する樹脂等が挙げられる。但し、上述のとおり、被覆樹脂の種類は特に限定されるものではなく、組み合わせるトナーの種類や使用環境等に応じて、適宜適切なものを選択することができる。
【0076】
また、1種類の樹脂を用いて樹脂被覆層を構成してもよいし、2種類以上の樹脂を用いて樹脂被覆層を構成してもよい。2種類以上の樹脂を用いる場合は、2種類以上の樹脂を混合して1層の樹脂被覆層を形成してもよいし、複数層の樹脂被覆層を形成してもよい。例えば、当該フェライト粒子の表面に、当該フェライト粒子と密着性の良好な第一の樹脂被覆層を設け、当該第一の樹脂被覆層の表面に、当該キャリアに所望の帯電付与性能を付与するための第二の樹脂被覆層を設けることなども好ましい。
【0077】
(2)樹脂被覆量
フェライト粒子の表面を被覆する樹脂量(樹脂被膜量)は、芯材として用いるフェライト粒子に対して0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。当該樹脂被覆量が0.1質量%未満であると、フェライト粒子の表面を樹脂で十分被覆することが困難になり、所望の帯電付与能力を得ることが困難になる場合がある。また、当該樹脂被覆量が10質量%を超えると、製造時にキャリア粒子同士の凝集が発生してしまい、歩留まり低下等の生産性の低下と共に、実機内での現像剤の流動性或いは、トナーに対する帯電付与性等の現像剤特性が変動するおそれがある。
【0078】
(3)添加剤
樹脂被覆層には、導電剤や帯電制御剤等のキャリアの電気抵抗や帯電量、帯電速度をコントロールすることを目的とした添加剤が含まれていてもよい。導電剤としては、例えば、導電性カーボン、酸化チタンや酸化スズ等の酸化物、又は、各種の有機系導電剤を挙げることができる。但し、導電剤の電気抵抗は低いため、導電剤の添加量が多くなりすぎると、電荷リークを引き起こしやすくなる。そのため、導電剤の含有量は、被覆樹脂の固形分に対して0.25質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0079】
帯電制御剤としては、トナー用に一般的に用いられる各種の帯電制御剤や、シランカップリング剤が挙げられる。これらの帯電制御剤やカップリング剤の種類は特に限定されないが、ニグロシン系染料、4級アンモニウム塩、有機金属錯体、含金属モノアゾ染料等の帯電制御剤や、アミノシランカップリング剤やフッ素系シランカップリング剤等を好ましく用いることができる。帯電制御剤の含有量は、被覆樹脂の固形分に対して好ましくは0.25質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0080】
3.電子写真現像剤
次に、本件発明に係る電子写真現像剤の実施の形態について説明する。当該電子写真現像剤は、上記電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含む。
【0081】
当該電子写真現像剤を構成するトナーとして、例えば、重合法により製造される重合トナー及び粉砕法によって製造される粉砕トナーのいずれも好ましく用いることができる。これらのトナーは各種の添加剤を含んでいてもよく、上記キャリアと組み合わせて電子写真現像剤として使用することができる限り、どのようなものであってもよい。
【0082】
トナーの体積平均粒径(D50)は2μm以上15μm以下であることが好ましく、3μm以上10μm以下であることがより好ましい。トナーの体積平均粒径(D50)が当該範囲内であると、高画質な電子写真印刷を行うことができる電子写真現像剤を得ることができる。
【0083】
キャリアとトナーとの混合比、すなわちトナー濃度は、3質量%以上15質量%以下であることが好ましい。トナーを当該濃度で含む電子写真現像剤は、所望の画像濃度が得られやすく、カブリやトナー飛散をより良好に抑制することができる。
【0084】
本件発明に係る電子写真現像剤は、補給用現像剤としても用いることができる。
当該電子写真現像剤を補給用現像剤として用いる場合には、キャリアとトナーとの混合比は、キャリア1質量部に対してトナー2質量部以上50質量部以下であることが好ましい。
【0085】
当該電子写真現像剤は、磁気ドラム等にキャリアを磁力により吸引付着させてブラシ状にしてトナーを搬送し、バイアス電界を付与しながら、感光体上等に形成された静電潜像にトナーを付着させて可視像を形成する磁気ブラシ現像法を適用した各種電子写真現像装置に好適に用いることができる。当該電子写真現像剤は、バイアス電界を付与する際に、直流バイアス電界を用いる電子写真現像装置だけでなく、直流バイアス電界に交流バイアス電界を重畳した交番バイアス電界を用いる電子写真現像装置にも用いることができる。
【0086】
4.製造方法
以下では、本件発明に係るフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤の製造方法について説明する。
【0087】
4-1.フェライト粒子及び電子写真現像剤用キャリア芯材
本件発明に係るフェライト粒子及び電子写真現像剤用キャリア芯材は、原料混合工程及び本焼成工程を後述する方法で行う点を除いて、電子写真現像剤キャリア芯材などの用途に用いられるフェライト粒子の一般的な製造方法を採用することができる。
なお、本件発明に係るフェライト粒子の製造方法は、上述のフェライト粒子を製造するためのフェライト粒子の製造方法であって、
Fe原料、Mn原料及びMg原料の配合量が後述の式(2)を満たすように配合して被焼成物を作製し、
当該被焼成物を気孔率が20%以上35%以下の耐火物容器に収容して焼成することによりフェライト粒子を製造するものである。
【0088】
以下、原料混合工程、本焼成前工程、本焼成工程、本焼成後工程の順に説明する。本焼成前工程は、原料混合工程の後に造粒物(フェライト粒子の前駆体)を得るまでに行う工程をいう。また、本焼成後工程は、本焼成工程後に行う解粒、分級、表面酸化処理等の工程をいう。
【0089】
4-1-1.原料混合工程
原料混合工程では、上記式(1)で表されるフェライト粒子を得るべく、Fe原料、Mn原料及びMg原料を下記式(2)を満たすように秤量して混合する。
2.00≦nFe/(nMn+nMg)≦3.00・・・(2)
但し、
Fe:前記Fe原料中のFe元素の物質量(mol%)
Mn:前記Mn原料中のMn元素の物質量(mol%)
Mg:前記Mg原料中のMg元素の物質量(mol%)
【0090】
条件式(2)を満たすようにFe原料、Mn原料、Mg原料を秤量し、混合することで、上記式(1)を満たすフェライト粒子を精度よく得ることができる。その際、本焼成工程を下記の方法で行うことにより、上記式(1)を満たすフェライト粒子をより精度よく得ることができる。
【0091】
ここで、Fe原料としては、Fe等の酸化鉄を用いることができる。Mn原料としては、MnO、Mn、Mn、MnCO等を用いることができる。Mg原料としては、MgO,Mg(OH)、MgCO等を用いることができる。さらに、Sr元素を含むフェライト粒子を得る場合には、Srの酸化物又は炭酸塩等を原料とすることができる。これらの原料を所定量秤量した後、湿式あるいは乾式で、ボールミル、サンドミル又は振動ミル等で1時間以上、好ましくは1~20時間粉砕混合する。
【0092】
4-1-2.本焼成前工程
次に、上記のように原料を粉砕混合した混合物に水を加えてビーズミル等を用いて微粉砕し、スラリーを得る。メディアとして使用するビーズの径、組成、粉砕時間を調整することによって、粉砕度合いをコントロールすることができる。原料を均一に分散させる上で、1mm以下の粒径を持つ微粒なビーズをメディアとして使用することが好ましい。また、原料を均一に分散させる上で、粉砕物の体積平均粒径(D50)が2.5μm以下になるように粉砕することが好ましく、2.0μm以下になるように粉砕することがより好ましい。また、異常粒成長を抑制するため、粒度分布の粗目側の粒径(D90)は3.5μm以下になるように粉砕することが好ましい。このようにして得られたスラリーに、必要に応じて分散剤、バインダー等を添加し、2ポイズ以上4ポイズ以下に粘度調整することが好ましい。この際、バインダーとしてポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンを用いることができる。
【0093】
上記のように調製されたスラリーを、スプレードライヤーを用いてスラリーを噴霧し、乾燥させることで造粒物を得る。
【0094】
次に、上記造粒物を焼成する前に分級し、当該造粒物に含まれる微細粒子を除去することが粒度の揃ったフェライト粒子を得る上で好ましい。造粒物の分級は、既知の気流分級や篩等を用いて行うことができる。
【0095】
ところで、フェライト粒子の製造工程では、スラリーを調製する前に、原料の混合物を仮焼成する仮焼成工程を設けることが一般に行われている。また、造粒物を得た後、造粒物から分散剤やバインダーといった有機成分の除去を行うためのいわゆる脱バインダー工程を設けることも多い。しかしながら、本発明に係るフェライト粒子を製造するには、仮焼成工程や脱バインダー工程を行わないことが好ましい。本焼成工程の前に、これらの熱処理工程を行うと、原料の混合物が加熱されることによりフェライト化反応が一部進行する。そのため、造粒物はスピネル構造への結晶化が部分的に進んだ種結晶を含むことになる。このような造粒物を本焼成すると、種結晶が起点となって結晶成長するため、本焼成後に得られたフェライト粒子には内部空孔が発生しやすくなる。そのため、フェライト粒子の磁化の低下を招きやすい。また、この場合、本焼成工程において各粒子の結晶成長が同等になるように制御することが困難であり、粒子毎の内部空孔の大きさなどにバラツキが生じやすくなる。よって、内部空孔率が小さく、他の粒子と比較して低磁化の粒子が含まれない高速印刷に適したキャリア芯材に用いるフェライト粒子を得る上では、本焼成工程の前にフェライト化反応が進行し得る条件で、原料の混合粉や造粒物に対して仮焼成工程や脱バインダー工程等の熱処理を行わないことが好ましい。
【0096】
4-1-3.本焼成工程
上記式(1)を満たすフェライト粒子を得る上で、本焼成工程は以下のように行うことが好ましい。
【0097】
(1)焼成炉
本焼成を行う際は、ロータリーキルンのように、造粒物を流動させながら熱間部を通過させるような形式の焼成炉よりも、トンネルキルン或いはエレベータキルン等のように造粒物をコウ鉢等の耐火物容器に入れて静置した状態で熱間部を通過させるような形式の焼成炉で行うことが好ましい。造粒物を耐火物容器に入れて静置した状態で熱間部を通過させる形式の焼成炉で造粒物を焼成すれば、造粒物の内部を十分に焼結させることができるため、高磁化及び高抵抗であり、スピネル型結晶相が十分に生成されたフェライト粒子を得ることが容易になる。
【0098】
また、炉内の雰囲気を制御可能な密閉式雰囲気焼成炉を用いることにより、炉内を式(1)を満たすフェライト粒子を製造する上で好適な焼成雰囲気に調整することができ、耐火物容器内における個々の粒子の焼成雰囲気を同一に調整することが容易になる。なお、式(1)を満たすフェライト粒子を製造する上で好適な焼成雰囲気については後述する。
【0099】
これらの理由から、本焼成工程を行う際には、トンネルキルン、エレベータキルン等であって密閉式雰囲気焼成炉を用いることが好ましい。
【0100】
(2)耐火物容器
耐火物容器として、例えば、アルミナ(Al)を主成分とする材料よりなる略直方体の容器を用いることができる。コウ鉢等と一般に称される容器を用いることができる。上記式(1)を満たすフェライト粒子を製造する上で、気孔率が20%以上35%以下の耐火物容器を用いることが好ましい。
【0101】
ここで、耐火物容器の気孔率は、耐火物などに存在する気孔のうち表面に通じている開気孔の気孔率をいい、「JIS R 1634:1998 ファインセラミックスの焼結体密度・開気孔率の測定方法」に規定される気孔率の測定方法に準じて測定することにより求めた値とする。
【0102】
耐火物容器に造粒物を充填すると、耐火物容器内における焼成雰囲気、例えば、酸素濃度にムラが生じる場合がある。そこで、気孔率が上記範囲内の耐火物容器を用いることで、耐火物容器の外部と内部における通気性を確保しつつ、耐火物容器内における焼成雰囲気における酸素濃度ムラ等の発生を抑制することができる。そのため、耐火物容器内において局所的に異なる焼成雰囲気下(例えば、無酸素雰囲気等)で造粒物が焼成されることを抑制し、各造粒物のフェライト化反応を均質に進行させることができる。その結果、上記式(1)を満たすフェライト粒子を精度よく製造することが可能になり、個々の粒子の磁性特性等のバラツキの小さいフェライト粒子を得ることができる。
【0103】
これに対して、気孔率が20%未満になると、耐火物容器内の雰囲気と、炉内の焼成雰囲気とが一致せず、耐火物容器の内壁面近くでは炉内の焼成雰囲気と同等であっても、耐火物容器内において中心に近い位置になると、炉内の焼成雰囲気とは異なる雰囲気条件となる蓋然性が高くなる。そのため、同じ炉内で同じ耐火物容器に収容して焼成した場合であっても、造粒物が焼成された位置によって焼成雰囲気が相違するため、フェライト化反応の進行にバラツキが生じる。そのため、Bサイトにおける「Mn3+」占有率が他の粒子と比較すると高く、他の粒子と比較すると低磁化の粒子が生成されるおそれがある。一方、気孔率が35%を超えると、耐火物容器の耐久性が低下するため好ましくない。
【0104】
上記効果を得る上で、耐火物容器の気孔率の下限値は22%であることがより好ましく、25%であることがさらに好ましい。また、耐火物容器の気孔率の上限値は33%であることがより好ましく、30%であることがさらに好ましい。
【0105】
(3)焼成雰囲気
i)酸素濃度
本発明に係るフェライト粒子を製造する上で、焼成雰囲気中の酸素濃度は0.1体積%(1000ppm)以上4.0体積%(40000ppm)以下であることが好ましい。無酸素雰囲気(酸素濃度0.0体積%)で焼成を行うと、BサイトにMn3+が侵入しやすくなり式(1)を満たすフェライト粒子を製造することが困難になる。式(1)を満たすフェライト粒子を製造する上で、雰囲気酸素濃度は2.0体積%(20000ppm)以下であることがより好ましく、1.0体積%(10000ppm)以下であることがさらに好ましい。
【0106】
ii)炉内圧
本件発明に係るフェライト粒子を製造する上で、被焼成物を密閉式雰囲気熱処理炉において、炉内圧が炉外の雰囲気圧よりも2Pa以上100Pa以下の範囲で高くなるように加圧した状態で焼成することが好ましい。このように炉外の雰囲気圧よりも加圧された状態で焼成を行うことで、耐火物容器内の雰囲気置換を良好に行うことができ、耐火物容器内の雰囲気を炉内の調整雰囲気と一致させることができる。その結果、耐火物容器内において造粒物(被焼成物)が局所的に異なる焼成雰囲気下(例えば、無酸素雰囲気等)で焼成されることを抑制し、個々の粒子の焼成雰囲気を同一に調整することができる。
【0107】
密閉式雰囲気焼成炉は、炉外の雰囲気と炉内(焼成室)とが遮断された密閉状態にある訳ではなく、給気口と排気口とを有し、給気口を介して炉内に窒素ガス等の雰囲気調整用のガスを供給し、炉内の空気を排気口から排気することで、炉内の酸素濃度等を所定の条件に調整する。造粒物を焼成する間、炉内の雰囲気が所定の条件に維持されるように給気と排気が継続的に行われる。よって、このように炉内雰囲気の酸素濃度等が所定の条件に維持されるように給気と排気を行いつつ、炉内圧が上記のとおり炉外の雰囲気圧より2Pa以上100Pa以下の範囲で高くなるように調整されるものとする。すなわち、炉内を加圧しない場合と同量以上の排気量を維持しつつ、炉内雰囲気の酸素濃度等が所定の条件に維持されるように給気を行うことが好ましい。
【0108】
(4)本焼成温度等
本焼成温度及び本焼成時間は目的とするフェライト組成のフェライト粒子を製造する上で好ましい条件を採用することができる。例えば、本焼成は、850℃以上の温度で4時間以上24時間以下保持することにより行うことが好ましい。その際、スピネル型結晶構造を有するフェライト粒子の生成に適した温度(850℃以上1280℃以下)で3時間以上保持することが好ましい。しかしながら、本焼成温度や保持時間は、スピネル型結晶構造を有するフェライト粒子が得られる限り、特に限定されるものではない。
【0109】
4-1-4.本焼成後工程
本焼成後、焼成物を解砕、分級を行う。分級方法としては、既存の風力分級、メッシュ濾過法、沈降法等を用いて所望の粒子径に粒度調整する。乾式回収を行う場合は、サイクロン等で回収することも可能である。粒度調整を行う際は前述の分級方法を2種類以上選んで実施してもよく、1種類の分級方法で条件を変更して粗粉側粒子と微粉側粒子を除去してもよい。
【0110】
さらに、本焼成後或いは分級後のフェライト粒子に対して、必要に応じて、その表面を低温加熱することで表面酸化処理を施し、表面抵抗を調整することができる。表面酸化処理は、ロータリー式電気炉、バッチ式電気炉等を用い、大気等の酸素含有雰囲気下で、400℃以上730℃以下、好ましくは450℃以上680℃以下で行うことができる。表面酸化処理時の加熱温度が400℃よりも低い場合は、フェライト粒子表面を十分に酸化することができず、所望の表面抵抗特性が得られない場合がある。一方、加熱温度が730℃よりも高い場合、酸化が進みすぎ、フェライト粒子の飽和磁化が低下するおそれがある。フェライト粒子の表面に均一に酸化被膜を形成するには、ロータリー式電気炉を用いることが好ましい。但し、当該表面酸化処理は任意の工程である。
【0111】
4-2.電子写真現像剤用キャリア
本件発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、上記フェライト粒子を芯材とし、当該フェライト粒子の表面に樹脂被覆層を設けたものである。樹脂被覆層を構成する樹脂は上述したとおりである。フェライト粒子の表面に樹脂被覆層を形成する際には、公知の方法、例えば刷毛塗り法、流動床によるスプレードライ法、ロータリドライ方式、万能攪拌機による液浸乾燥法等を採用することができる。フェライト粒子の表面に対する樹脂の被覆面積の割合(樹脂被覆率)を向上させるためには、流動床によるスプレードライ法を採用することが好ましい。いずれの方法を採用する場合であっても、フェライト粒子に対して、1回又は複数回樹脂被覆処理を行うことができる。樹脂被覆層を形成する際に用いる樹脂被覆液には、上記添加剤を含んでいてもよい。また、フェライト粒子表面における樹脂被覆量は上述したとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0112】
フェライト粒子の表面に樹脂被覆液を塗布した後、必要に応じて、外部加熱方式又は内部加熱方式により焼き付けを行ってもよい。外部加熱方式では、固定式又は流動式の電気炉、ロータリー式電気炉、バーナー炉などを用いることができる。内部加熱方式では、マイクロウェーブ炉を用いることができる。被覆樹脂にUV硬化樹脂を用いる場合は、UV加熱器を用いる。焼き付けは、被覆樹脂の融点又はガラス転移点以上の温度で行うことが求められる。被覆樹脂として、熱硬化性樹脂又は縮合架橋型樹脂等を用いる場合は、これらの樹脂の硬化が十分進む温度で焼き付ける必要がある。
【0113】
4-3.電子写真現像剤
次に、本発明に係る電子写真現像剤の製造方法について説明する。
本発明に係る電子写真現像剤は、上記電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含む。トナーは上述したとおり、重合トナー及び粉砕トナーのいずれも好ましく用いることができる。
【0114】
重合トナーは、懸濁重合法、乳化重合法、乳化凝集法、エステル伸長重合法、相転乳化法等の公知の方法で製造することができる。例えば、界面活性剤を用いて着色剤を水中に分散させた着色分散液と、重合性単量体、界面活性剤及び重合開始剤を水性媒体中で混合撹拌し、重合性単量体を水性媒体中に乳化分散させて、撹拌、混合しながら重合させた後、塩析剤を加えて重合体粒子を塩析させる。塩析によって得られた粒子を、濾過、洗浄、乾燥させることにより、重合トナーを得ることができる。その後、必要により乾燥されたトナー粒子に外添剤を添加してもよい。
【0115】
さらに、この重合トナー粒子を製造するに際しては、重合性単量体、界面活性剤、重合開始剤、着色剤等を含むトナー組成物を用いる。当該トナー組成物には、定着性改良剤、帯電制御剤を配合することができる。
【0116】
粉砕トナーは、例えば、バインダー樹脂、着色剤、帯電制御剤等を、例えばヘンシェルミキサー等の混合機で充分混合し、次いで二軸押出機等で溶融混練して均一分散し、冷却後に、ジェットミル等により微粉砕化し、分級後、例えば風力分級機等により分級して所望の粒径のトナーを得ることができる。必要に応じて、ワックス、磁性粉、粘度調節剤、その他の添加剤を含有させてもよい。さらに分級後に外添剤を添加することもできる。
【実施例
【0117】
次に、実施例及び比較例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0118】
[実施例1]
(1)フェライト粒子
実施例1では、配合比がMnO:46.0mol%、MgO:3.0mol%、Fe:51.0mol%及びSrO:0.8mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量した。ここで、MnO原料としては四酸化三マンガンを用い、MgO原料としては水酸化マグネシウムを用い、Fe原料として酸化第二鉄を用い、SrO原料としては炭酸ストロンチウムを用いた。また、上記式(2)に関し、nFe=51.0×2=102.0、nMn=46.0、nMg=3.0であり、nFe/(nMn+nMg)=2.08である。
【0119】
次いで、秤量した原料を乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)で5時間粉砕し、スラリーバインダー及び分散剤を添加した。バインダーとしてPVA(ポリビニルアルコール、20質量%溶液)を用い、これを固形分(スラリー中の原料量)に対してPVAを0.2質量%添加した。分散剤としてポリカルボン酸系分散剤を添加し、スラリーの粘度を2ポイズに調製した。そして、スプレードライヤーにより造粒、乾燥した。
【0120】
その後、密閉式雰囲気熱処理炉としてのトンネル式電気炉により、焼成温度(保持温度)1230℃、酸素濃度0.8体積%雰囲気下で5時間保持することにより造粒物の本焼成を行った。このとき、昇温速度を150℃/時、降温速度を110℃/時とした。また、造粒物は気孔率が20%のコウ鉢に収容して焼成した。
【0121】
また、雰囲気ガスをトンネル式電気炉の出口側から導入し、トンネル式電気炉の炉内を密閉し、内部圧力を炉外の雰囲気圧よりも100.0Pa高くなるように加圧した。得られた焼成物を衝撃式粉砕機であるハンマークラッシャーにて解砕し、さらに回分式のふるいわけ方式を用いたジャイロシフター、及び気流式分級室回転型に分類されるターボクラシファイアにて分級して粒度調整を行い、磁力選鉱により低磁力品を分別し、実施例1のフェライト粒子とした。なお、本焼成工程の前後において、仮焼成工程及び脱バインダー工程は行わなかった。
【0122】
(2)電子写真現像剤用キャリア上記フェライト粒子を芯材とし、当該フェライト粒子に対して、表面に以下のように樹脂被覆層を形成して、実施例1のキャリアを得た。
【0123】
まず、T単位とD単位を主成分とする縮合架橋型シリコーン樹脂(重量平均分子量:約8000)を準備した。このシリコーン樹脂溶液2.5質量部(樹脂溶液濃度20質量%のものを用いたためシリコーン樹脂固形分としては0.5質量部、希釈溶媒:トルエン)と、上記フェライト粒子100質量部とを、万能混合撹拌機にて混合撹拌し、トルエンを揮発させながらシリコーン樹脂をフェライト粒子の表面に被覆した。トルエンが充分揮発したことを確認した後、装置内から取り出して容器に入れ、熱風加熱式のオーブンにて250℃で2時間加熱処理を行った。その後、室温まで冷却し、表面の樹脂が硬化したフェライト粒子を取り出し、200メッシュの目開きの振動篩にて粒子の凝集を解し、磁力選鉱機を用いて、非磁性物を取り除いた。その後、再度200メッシュの目開きの振動篩にて粗大粒子を取り除き、フェライト粒子を芯材とし、その表面に樹脂被覆層を備えた実施例1の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0124】
[実施例2]
各原料を配合比がMnO:40.0mol%、MgO:2.0mol%、Fe:58.0mol%及びSrO:1.2mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1270℃、焼成時の雰囲気酸素濃度を1.5体積%、炉内圧を炉外の雰囲気圧に対して10.0Pa加圧し、コウ鉢の気孔率を35%とした点を除いて実施例1と同様にしてフェライト粒子を製造した後に450℃で表面酸化処理を行い、実施例2のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(2)の値は、「2.76」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして実施例2の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0125】
[実施例3]
各原料を配合比がMnO:43.0mol%、MgO:0.5mol%、Fe:56.6mol%及びSrO:0.8mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1280℃、焼成時の雰囲気酸素濃度を0.5体積%、炉内圧を炉外の雰囲気圧に対して5.0Pa加圧し、コウ鉢の気孔率を35%とした点を除いて実施例1と同様にして実施例3のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(2)の値は、「2.60」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして実施例3の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0126】
[実施例4]
各原料を配合比がMnO:40.5mol%、MgO:9.0mol%、Fe:50.5mol%及びSrO:1.0mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1250℃、焼成時の雰囲気酸素濃度を0.2体積%、炉内圧を炉外の雰囲気圧に対して20.0Pa加圧し、コウ鉢の気孔率を30%とした点を除いて実施例1と同様にして実施例4のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(2)の値は、「2.04」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして実施例4の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0127】
[実施例5]
各原料を配合比がMnO:45.0mol%、MgO:3.0mol%、Fe:52.0mol%及びSrO:0.4mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1180℃、焼成時の雰囲気酸素濃度を1.2体積%、炉内圧を炉外の雰囲気圧に対して50.0Pa加圧し、コウ鉢の気孔率を30%とした点を除いて実施例1と同様にして実施例5のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(2)の値は、「2.17」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして実施例5の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0128】
[実施例6]
各原料を配合比がMnO:38.0mol%、MgO:2.0mol%、Fe:60.0mol%及びSrO:0.8mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1260℃、焼成時の雰囲気酸素濃度を0.3体積%、炉内圧を炉外の雰囲気圧に対して2.0Pa加圧し、コウ鉢の気孔率を35%とした点を除いて実施例1と同様にしてフェライト粒子を製造した。なお、上記式(2)の値は、「3.00」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして実施例6の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0129】
[比較例1]
各原料を配合比がMnO:52.0mol%、MgO:3.0mol%、Fe:45.0mol%及びSrO:0.3mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1170℃、焼成時の雰囲気酸素濃度を0.3体積%、炉内圧を炉外の雰囲気圧に対して190.0Pa加圧し、コウ鉢の気孔率を5%とした点を除いて実施例1と同様にして比較例1のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(2)の値は、「1.64」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして比較例1の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0130】
[比較例2]
各原料を配合比がMnO:49.0mol%、MgO:2.5mol%、Fe:48.5mol%及びSrO:0.8mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1200℃、焼成時の雰囲気酸素濃度を0.2体積%、炉内圧を炉外の雰囲気圧に対して180.0Pa加圧し、コウ鉢の気孔率を15%とした点を除いて実施例1と同様にして比較例2のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(2)の値は、「1.88」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして比較例2の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0131】
[比較例3]
各原料を配合比がMnO:51.0mol%、MgO:1.9mol%、Fe:47.1mol%及びSrO:1.2mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1220℃、焼成時の雰囲気酸素濃度を0.1体積%、炉内圧を炉外の雰囲気圧に対して160.0Pa加圧し、コウ鉢の気孔率を15%とした点を除いて実施例1と同様にして比較例3のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(2)の値は、「1.78」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして比較例3の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0132】
[比較例4]
各原料を配合比がMnO:55.0mol%、MgO:0.4mol%、Fe:44.6mol%及びSrO:1.3mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1230℃、焼成時の雰囲気酸素濃度を0.3体積%、炉内圧を炉外の雰囲気圧に対して150.0Pa加圧し、コウ鉢の気孔率を15%とした点を除いて実施例1と同様にしてフェライト粒子を製造した後に450℃で表面酸化処理を行い、比較例4のフェライト粒子とした。なお、上記式(2)の値は、「1.61」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして比較例4の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0133】
[比較例5]
各原料を配合比がMnO:41.0mol%、MgO:10.2mol%、Fe:48.8mol%及びSrO:0.6mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1170℃、焼成時の雰囲気酸素濃度を0.4体積%、炉内圧を炉外の雰囲気圧に対して200.0Pa加圧し、コウ鉢の気孔率を10%とした点を除いて実施例1と同様にして比較例5のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(2)の値は、「1.91」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして比較例5の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0134】
[比較例6]
各原料を配合比がMnO:49.0mol%、MgO:5.0mol%、Fe:46.0mol%及びSrO:0.2mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1220℃、焼成時の雰囲気酸素濃度を0.5体積%、炉内圧を炉外の雰囲気圧に対して105.0Pa加圧し、コウ鉢の気孔率を18%とした点を除いて実施例1と同様にして比較例6のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(2)の値は、「1.70」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして比較例6の電子写真現像剤用キャリアを得た。
表1に各実施例及び比較例におけるフェライト粒子の製造条件を示す。
【0135】
[評価]
1.評価方法
(1)組成解析
上記各実施例及び比較例のフェライト粒子について、上記の方法によりXRD回折及びリートベルト解析、及びICP発光分析を行い、組成解析を行い、「u」,「v」,「w」,「x」,「y+z」の値を求めた。Sr含有量についても上述のとおりである。(2)基本特性
上記各実施例及び比較例のフェライト粒子について、上記の方法により(a)飽和磁化、(b)見掛密度(AD)、(c)内部空隙率を測定した。
【0136】
(3)画質特性
各実施例及び比較例で製造した電子写真現像剤用キャリアを用いて、電子写真現像剤を調製し、(a)画像濃度再現性、(b)画像濃度ムラ、(c)キャリア付着、(d)トナー飛散量について評価した。
電子写真現像剤は、次のようにして調製した。
各実施例及び比較例で製造した電子写真現像剤用キャリア18.6gと、トナー1.4gをボールミルにより10分間攪拌して混合し、トナー濃度が7.0質量%の電子写真現像剤を製造した。トナーはフルカラープリンターに使用されている市販の負極性トナー(シアントナー、富士ゼロックス株式会社製DocuPrintC3530用;平均体積粒径(D50)約5.8μm)を用いた。
【0137】
(a)画像濃度再現性
上記のようにして調製した電子写真現像剤を試料とし、帯電量測定装置を用いて、以下のような基準で画像濃度再現性を判定した。
【0138】
帯電量測定装置として、直径31mm、長さ76mmの円筒形のアルミ素管(以下、スリーブ)の内側に、N極とS極を交互に合計8極の磁石(磁束密度0.1T)を配置したマグネットロールを配置した。また、該スリーブと5.0mmのGapをもった円筒状の電極を、該スリーブの外周に配置した。そしてスリーブ上に、試料としての電子写真現像剤0.5gを均一に付着させた後、外側のアルミ素管を固定させたまま、内側のマグネットロールを2000rpmで回転させながら、外側の電極とスリーブ間に、直流電圧2500Vを60秒間印加し、トナーを外側の円筒状の電極に移行させて、外側の電極に移行したトナー質量(トナー移行量)を測定した。外側の円筒状の電極として、エレクトロメーター(KEITHLEY社製 絶縁抵抗計model6517A)を用いた。そして、以下の式により画像再現率を求めた。当該測定を10回繰り返し行い、その平均値を求めた。
画像再現率(%)=(トナー移行量/現像剤0.5g中のトナー質量)×100
【0139】
各試料について求めた画像再現率の平均値に基づき、以下の判定基準によりA~Dの評価を行った。
A:97%以上
B:95%以上97%未満
C:85%以上95%未満
D:85%未満
【0140】
(b)画像濃度ムラ
画像再現性を評価する際と同様にして、トナー移行量を測定し、10回の測定値のうち、最大トナー移行量、最小トナー移行量、平均値から、以下の式により各試料についての画像濃度ムラを評価するための評価値とした。なお、この評価値が低い程、画像濃度ムラが小さいことを示す。
【0141】
画像濃度ムラ評価値=
(最大トナー移行量-最小トナー移行量)/トナー移行量の平均値×100(%)
【0142】
各試料について求めた評価値に基づき、以下の基準によりA~Dの評価を行った。
A:0.5%未満
B:0.5%以上1.5%未満
C:1.5%以上2.5%未満
D:2.5%以上
【0143】
(c)キャリア付着
上記のようにして調製した電子写真現像剤を試料とし、以下のようにしてキャリア付着を評価した。
【0144】
画像再現性等を評価する際に用いた帯電量測定装置と同じ帯電量測定装置を用い、スリーブ上に、上記電子写真現像剤1gを均一に付着させた後、外側のアルミ素管を固定させたまま、内側のマグネットロールを2000rpmで回転させながら、外側の電極とスリーブ間に、直流電圧2500Vを90秒間印加し、トナーを外側の電極に移行させた。90秒経過後、印加していた電圧を切り、マグネットロールの回転を止めた後、外側の電極を取り外し、電極に移行したトナーと一緒に付着したキャリア粒子の個数を計測した。計測したキャリア粒子の数に基づいて、以下の基準によりA~Dの評価を行った。
【0145】
A:付着したキャリア粒子の数20個未満
B:付着したキャリア粒子の数20個以上40個未満
C:付着したキャリア粒子の数40個以上50個未満
D:付着したキャリア粒子の数50個以上
【0146】
(d)トナー飛散量
N極とS極を交互に合計8極の磁石(磁束密度0.1T)を配置したマグネットロールと、マグネットロールから1.0mmのGapを介して穂切板を設置し、現像剤と接触する穂切板から50mmの位置に粒子計数機の計測部を設置し、トナー飛散量計測装置とした。外気の影響によりトナー飛散が生じ測定値が変動することを抑制するため、トナー飛散量の測定は、20±5℃、50±5%のクラス1000のクリーンルーム内で行った。また、トナー飛散量の測定は、マグネットロールを2000rpmで10分間回転させる間に穂切板に付着した粒子のうち、粒径5μmの粒子を計数対象として計数し、その積算粒子数から1分当りの粒子数(但し、容積1L当たりの粒子数とする)を求め、以下の基準によりA~Dの評価を行った。
【0147】
A:500個/L未満
B:500個/L以上1000個/L未満
C:1000個/L以上1600個/L未満
D:1600個/L以上
【0148】
上記評価方法は、実機(画像形成装置)により画像再現性、画像濃度ムラ、キャリア付着、トナー飛散量を評価する実機評価と比較すると、電子写真現像剤による画質特性の実態により近い評価を行うことができる。近年、実機や電子写真現像剤の性能が向上し、例えば、50枚/分程度の連続複写速度の実機では実際に印刷したときには差がほとんど表れない場合がある。また、試験に用いる実機の機種や実機自体の経年劣化等によって評価結果にバラツキが生じる場合がある。一方、上記のように帯電量測定装置による代替評価によれば、測定条件を厳密に制御することができ、実機評価の場合と比較すると1つの評価帯の幅を広くすることができる。さらに、上記の代替評価では、それぞれマグネットロールの回転速度を2000rpmと極めて高速にしている。そのため、120枚/分以上の高速の連続複写速度を有する実機で印刷した際の電子写真現像剤の画質特性についてより精密な評価が可能になる。
【0149】
2.評価結果
表2に各実施例及び比較例の組成分析結果を示す。また、表3に各実施例及び比較例の基本特性及び画質特性を示す。
【0150】
(1)組成
表2に示す結果から、各実施例のフェライト粒子は、Fe原料、Mn原料及びMg原料の配合量が上記式(2)(nFe/(nMn+nMg))の値が2.00以上3.00以下になるように各原料を配合して造粒物を作製し、気孔率が20%以上35%以下の耐火物容器に収容して焼成することにより、空間群Fd-3mに帰属するスピネル型結晶構造を有し、そのフェライト組成が上記式(1)((Fe3+u,Mn2+v,Mg2+w)(Mn3+x,Fe2+y,Fe3+z)、u+v+w=1、x+y+z=1、0.870≦v<1.000、0.001≦w<0.070、0.000≦x≦0.075)を満たすフェライト粒子が製造されたことが確認された。
【0151】
一方、比較例のフェライト粒子はいずれも「x」の値が0.075を超えており、各比較例の製造条件では本発明に係るフェライト粒子を得ることができなかった。「x」の値は上述してきたとおりBサイトにおける「Mn3+」の占有率を表す。ここで、比較例5はMnOの配合割合が41.0mol%であり、他の比較例と比較するとMn原料の配合割合が低い。しかしながら、比較例5よりもMnOの配合割合が小さい実施例6(MnO:38mol%)では、「x」の値が「0.013」であるのに対し、比較例5では「x」の値が「0.170」と大きな値を示す。また、比較例の中だけでみても比較例5よりもMnOの配合割合の大きい比較例2、比較例3、比較例4及び比較例6の「x」の値は、比較例5より小さいことが確認される。従って、単にMn原料の配合割合を小さくするだけではフェライト組成が式(1)で表されるフェライト粒子を得ることができないことが確認される。
【0152】
ところで、本発明に係るフェライト粒子は、AサイトにおけるMn2+の占有率を表す「v」の値が「0.870≦v<1.000」の範囲内である。「v」の値が当該範囲内のフェライト粒子を得るには、フェライト粒子を製造する際にMn原料の配合割合を決定するときに、Mn量が「2x+v」となるようにする必要がある。比較例5を除いて他の比較例はいずれも各実施例よりもMnOの配合割合が大きい。しかしながら、各比較例の「v」の値は本願発明に規定する範囲よりも小さくなっている。従って、「v」が本願発明に規定する範囲となるようにMn原料の配合割合を決定するだけでは、「x」の値が本発明の範囲内とはならないばかりか、BサイトにMn3+が侵入する結果、「v」の値についても本発明の範囲内とすることが困難であることが確認された。
【0153】
すなわち、本発明者等の鋭意検討の結果、Fe原料、Mn原料及びMg原料の配合量が式(2)を満たすように配合しつつ、造粒物を焼成する際に用いるコウ鉢(耐火物容器)の気孔率が上記範囲内のものを用いることで、スピネル結晶相を得る際にBサイトに対するMn3+の侵入を抑制し、「x」及び「v」の値が本発明に規定する範囲内のフェライト粒子を精度よく得ることができることを見出した。当該方法によりBサイトに対するMn3+の侵入を抑制することのできる理由は次のように考えられる。
【0154】
まず、造粒物を作製する際に、Mn元素と、Fe元素及びMg元素の割合が式(2)を満たすように各原料の配合割合を決定することで、造粒物中におけるMn元素の割合よりもFe元素の割合を高くすることができる。すなわち、原料における配合がFeリッチな条件となる。そして、Feリッチな混合物からなる造粒物を焼成することで、フェライト化反応時にBサイトをFe2+又はFe3+により優先的に占有させ、Bサイトに対するMn3+の侵入を抑制することが容易になる。特に、式(2)の値が「2.76」、「2.60」、「3.00」の実施例2、実施例3及び実施例6は、他の実施例よりも式(2)の値が大きく、原料の配合をFeリッチな条件とすることで「x」の値の小さいフェライト粒子が得られやすいことが確認される。
【0155】
さらに、造粒物を焼成する際に、気孔率が所定の範囲内のコウ鉢を用いることで、コウ鉢の外部と内部における通気性を確保しつつ、コウ鉢内における焼成雰囲気における酸素濃度ムラ等の発生を抑制することができる。そのため、コウ鉢内全域を、上記式(1)を満たすフェライト粒子の製造に好適な焼成雰囲気とすることが容易になる。つまり、コウ鉢内で局所的に焼成雰囲気が変化し、BサイトにMn3+が侵入しやすい焼成条件となることを抑制することができる。さらに、コウ鉢内の焼成雰囲気を均一にした状態で造粒物を焼成することができるため、各造粒物のフェライト化反応を均質に進行させることができる。これらのことから、上記式(1)を満たすフェライト粒子を精度よく製造することが可能になり、個々の粒子の磁性特性等のバラツキが小さいフェライト粒子を得ることができると考える。その際、コウ鉢の気孔率は上記範囲内で高い方が好ましく、実施例1~実施例6においても、コウ鉢の気孔率が高い方が「x」の値の小さいフェライト粒子が得られやすいことが確認される。
【0156】
さらに、炉内圧を炉外の雰囲気圧に対して加圧することで、コウ鉢内の雰囲気を炉内の雰囲気と同じ条件にするより容易になり、さらに精度よく上記式(1)を満たすフェライト粒子を製造することが可能になる。但し、炉内圧と炉外の雰囲気圧との差が大きい方がよい訳ではなく、実施例に示すように本発明に規定する範囲(2Pa以上100Pa以下)で僅かに加圧することが好ましく、気孔率の高いコウ鉢を使用しつつ、加圧の程度を好ましくは50.0Pa以下、より好ましくは20.0Pa以下、さらに好ましくは10.0Pa以下であることが確認される。つまり、炉内に対する給気と炉内からの排気を維持しつつ、炉内の雰囲気圧が高くなりすぎないように制御することで、コウ鉢内の造粒物の一つ一つの焼成雰囲気を同等の条件とすることが容易になり、局所的に「x」の値の異なる粒子が生成されることを抑制することが可能になると考える。
【0157】
なお、粉末X線回折パターンにはSrフェライトを示すピークは観察されなかった。したがって、各実施例及び比較例のフェライト粒子においてSrはフェライト構成元素としては存在していないことも確認された。
【0158】
(2)基本特性
次に、表3から、各実施例及び各比較例の基本特性を対比する。本発明の実施例1~実施例6のフェライト粒子は飽和磁化が70Am/kg~86Am/kgと高磁化であり、見掛密度が2.14g/cm~2.31g/cmであり、内部空隙率が1.3%~4.0%の範囲内であることが確認された。一方、比較例1~比較例6のフェライト粒子は飽和磁化が60Am/kg~72Am/kgであり、見掛密度が1.91g/cm~2.24g/cmであり、内部空隙率が2.9%~5.8%の範囲内であった。
【0159】
実施例のフェライト粒子の中にはこれらの値が比較例と同等の値を示すものもあるが、全体的にみて実施例のフェライト粒子の方が高磁化であり、見掛密度が大きく、内部空隙率が小さい傾向にあるといえる。「x」の値とこれらの物性との関係については次のように考察する。まず、上記式(1)において、フェライト粒子中の各元素の含有割合が同じであっても、「x」の値、すなわちBサイトにおけるMn3+の占有率が異なると、Bサイトにおける電子スピン状態が異なり、上述のとおり磁気特性に大きな影響を及ぼし、「x」の値が小さいほど高磁化のフェライト粒子が得られやすくなる。よって、「x」の値の小さい実施例のフェライト粒子は比較例のフェライト粒子に対して飽和磁化の値が高くなったと考える。
【0160】
また、上記式(1)において、フェライト粒子中の各元素の含有割合が同じであっても、「x」の値が異なると、「y+z」、「u」、「v」の値も異なるため、それぞれの結晶粒の成長速度も異なる。例えば、球形の造粒粉を焼成した際に、それぞれの結晶粒の成長速度が異なると、球形を維持することができず粒子形状がいびつになることがある。また、結晶粒が異常成長すると一部が突出したような形状となったり、結晶成長が他と比較して遅い部分があるとその部分がへこむなどして、不定形状の粒子となる場合がある。このように粒子形状の異なる粒子を含むと、粉体内における粒子間空隙が大きくなる。そのため、見掛密度が低下することになる。また、結晶粒が異常成長すると、内部空隙が生じやすくなり、内部空隙率も大きくなる。焼成時にコウ鉢内で局所的に焼成雰囲気が変化すると、このように「x」の値が他と異なる粒子が生成されると共に、見掛密度の低下や内部空隙率の増加が生じると考えられる。そのような場合、「x」の値のみから想定される値よりも飽和磁化の値が低下すると考える。
そこで、実施例及び比較例についてみると、実施例では、コウ鉢の気孔率及び雰囲気圧を適切に制御しているため、「x」の値と「飽和磁化」との相関も高くなっていると考えられる。
一方、比較例ではこれらの制御が十分ではないため、「x」及び「v」が本発明に規定する範囲から逸脱する上に、見掛密度の低下や内部空隙率の増加といった要因から、「x」の値と「飽和磁化」との相関も低くなり、例えば、比較例6では「x」の値が「0.108」と他の比較例に対して低い値を示すにも関わらず、飽和磁化は64Am/kgと低い値を示すと考える。
【0161】
(3)画像特性
表3から、本実施例のフェライト粒子をキャリア芯材とした電子写真現像剤を用いたときは、120枚/分以上の高速の連続複写速度を想定した上記代替評価において、「画像濃度再現性」、「画像濃度ムラ」、「キャリア付着」、「トナー飛散量」が「A」又は「B」の高い評価が得られた。特に実施例3のフェライト粒子は全ての項目が「A」の評価であり、高速印刷に適した電子写真現像剤に極めて好適なキャリア芯材であることが確認された。一方、比較例についてみると、「画像濃度再現性」及び「画像濃度ムラ」の2項目については、比較例4を除くと本発明の実施例と同様に「A」又は「B」の評価が得られている。しかしながら、「キャリア付着」及び「トナー飛散量」についてはいずれも「C」又は「D」の低評価となった。
【0162】
このように、キャリア付着について特に顕著な差が生じたのは次の理由によると考える。本実施例のフェライト粒子は、高磁化であると共に、個々の粒子についてみたときも低磁化の粒子が含まれる割合が極めて小さいと考える。一方、各比較例のフェライト粒子は「x」の値が高く、本実施例のフェライト粒子と比較すると、フェライト粒子全体についてみたときも低磁化であり、個々の粒子についてみたときも低磁化の粒子が含まれる割合が高いと考えられる。その結果、「画像濃度再現性」及び「画像濃度ムラ」については、高速印刷を行った場合も、本実施例と同等の評価が得られるものの、上記代替評価においてマグネットロールの回転速度を2000rpmと極めて高速にしたときに、比較例のフェライト粒子をキャリア芯材とした場合は、各粒子に作用する遠心力に対してマグネットロールとフェライト粒子との間に働く磁力が小さく、マグネットロールから離脱する粒子が多くなったものと考えられる。
【0163】
トナー飛散はキャリア芯材が低磁化であること、或いは、トナーが帯電不足であることなどにより生じる。キャリア芯材が低磁化であると、キャリアがマグネットロールから飛散することに伴いキャリアと共にトナーが飛散する場合がある。また、トナーが帯電不足である場合、トナーとキャリアとの間の静電気的拘束力が小さく、マグネットロールの回転に伴いトナーだけが飛散する場合がある。比較例のフェライト粒子は、実施例のフェライト粒子と比較すると低磁化であるため、上記のようにキャリアがマグネットロールから飛散しやすく、そのためトナー飛散量も多くなる。また、「x」の値が大きいフェライト粒子は、「x」の値が異なる複数種類のフェライト粒子からなる混合粉体であるといえる。結晶構造が同じ同種の粒子同士が摩擦接触したときよりも、結晶構造の異なる異種の粒子同士が摩擦接触したときの方が低帯電化する。比較例のフェライト粒子は実施例のフェライト粒子と比較すると「x」の値が大きい。そのため、「x」の値の小さいフェライト粒子と、xの値の大きいフェライト粒子とが接触する機会が比較例のフェライト粒子の方が多く、キャリアとトナーとを混合攪拌する際に、一部のトナーの帯電不足が生じ、トナーのみがマグネットロールから飛散することに起因するトナー飛散も生じたと考えられる。一方、実施例のフェライト粒子は高磁化であり、局所的な帯電不足も抑制することができるため、トナー飛散量に対する評価はいずれも「A」又は「B」が得られたと考える。
【0164】
【表1】
【0165】
【表2】
【0166】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0167】
本件発明によれば、高速印刷に適した磁気特性を有し、高速印刷時にも良好な画像特性を有するフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤を提供することができる。
【0168】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2021年5月28日出願の日本特許出願(特願2021-089755)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。