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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】プレストレス導入ユニット
(51)【国際特許分類】
   E01D 1/00 20060101AFI20240125BHJP
   E01D 21/00 20060101ALI20240125BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20240125BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20240125BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20240125BHJP
   E04C 5/12 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
E01D1/00 D
E01D21/00 Z
E01D22/00 Z
E01D19/12
E04G21/12 105A
E04C5/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021080139
(22)【出願日】2021-05-11
(65)【公開番号】P2022174383
(43)【公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099704
【弁理士】
【氏名又は名称】久寶 聡博
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一成
(72)【発明者】
【氏名】三浦 裕太
(72)【発明者】
【氏名】岩田 康則
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-325518(JP,A)
【文献】特開2020-147913(JP,A)
【文献】特開2021-38524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00
E01D 21/00
E01D 22/00
E01D 19/12
E04G 21/12
E04C 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PC鋼材と、該PC鋼材の各端近傍に取り付けられた一対の定着部材と、前記PC鋼材に引張力を導入するための反力が前記各定着部材又は前記PC鋼材の各端近傍に伝達されるようにかつ前記PC鋼材が挿通される形で該PC鋼材と同軸に配置された一対の筒状反力部材と、該一対の筒状反力部材に生じている反力を、それらの対向端部を接近させることで解放することができるようになっている反力解放機構とを備えるとともに、該反力解放機構を、前記PC鋼材を貫通させるための貫通開口がそれぞれ形成されるとともに該PC鋼材の材軸に直交する面に対して傾きを有する傾斜面がそれぞれ設けられていて該各傾斜面が当接される形で配置された一対の楔状部材と、前記材軸の直交方向に沿った前記一対の楔状部材の相対移動量を調整自在な相対移動量調整手段とで構成してなり、
前記一対の楔状部材は、前記各傾斜面の反対側に位置する面を圧力載荷面として該圧力載荷面を介して前記各対向端部からそれぞれ圧縮力が伝達されるようになっているとともに、前記各傾斜面の一方が他方を摺動する形で相対移動する際にそれらの相対移動が拘束されることがないように前記各貫通開口を切り欠き状又は長孔状に形成してあることを特徴とするプレストレス導入ユニット。
【請求項2】
前記相対移動量調整手段を、前記一対の楔状部材を前記材軸の側方から挟み込む一対の挟み込み部材と該一対の挟み込み部材を相互に連結する連結機構とで構成した請求項1記載のプレストレス導入ユニット。
【請求項3】
前記PC鋼材を貫通させるための台座側貫通開口がそれぞれ形成された中間台座を前記各対向端部と前記一対の楔状部材との間にそれぞれ配置するとともに、前記一対の楔状部材の相対移動が拘束されることがないように前記各台座側貫通開口を切り欠き状又は長孔状に形成した請求項1又は請求項2記載のプレストレス導入ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレストレストコンクリートを構築する際に用いられるプレストレス導入ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
プレストレストコンクリート(PC)は、プレストレスの導入時期によって、プレテンション方式とポストテンション方式とに大別されるが、プレテンション方式は、緊張材が取り付けられた反力台から反力をとる形で該緊張材に引張力を導入し、この状態でコンクリートを打設した後、コンクリートの強度発現を待って緊張材を反力台から取り外すといった手順になるため、基本的には、工場でプレキャストコンクリート(PCa)部材を製作する際に採用される。
【0003】
一方、ポストテンション方式は、緊張材をコンクリート内に自由に配置することができるので、さまざまな形状の場所打ちコンクリートに対して容易にかつ大きなプレストレスを導入することが可能であり、橋梁工事等の現場で数多く採用されているが、鉄筋工事と錯綜しながらのシースの配置に時間を要する、油圧ジャッキを据え付けるためのスペースや足場が必要になるといった点が、工期やコストの面で不利になる場合がある。
【0004】
かかる状況下、予め緊張材に引張力が導入されてなるユニットを、その引張力が保持されたまま現場に搬入設置し、コンクリート打設後、該コンクリートの強度発現を待って引張力を解放することにより、コンクリートにプレストレスを導入する工法が開発されており、該工法によれば、橋梁工事等の現場でプレテンション方式を採用することが可能となる。
【0005】
上記プレストレス導入ユニットには、中空材からなる緊張材の内部に挿通された反力材を利用して緊張材に引張力を導入し、打設コンクリートが硬化した後、緊張材周面での付着を介してコンクリートにプレストレスを導入する形式のほか、中空材からなる反力体を利用してその内部に挿通された緊張材に引張力を導入し、打設コンクリートが硬化した後、緊張材の端部に取り付けられた定着具での支圧を介してコンクリートにプレストレスを導入する形式のものも知られており、後者の例としては、中空材からなる2つの反力体をそれらの材軸が共通の軸線上に沿うように並置し、それらが向かい合う位置で離間方向に押し拡げることで緊張材に引張力を導入するとともに、逆方向に緩めることで該引張力を解放してコンクリートにプレストレスを導入するように構成されたものが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-325518号公報
【文献】特開2020-147913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載のプレストレス導入ユニット1においては、PC鋼棒2が緊張材に、反力鞘管5,6が2つの反力体にそれぞれ相当するが、同ユニットの場合、反力台10,10から反力をとりつつ、PC鋼棒2に引張力を発生させる一方、反力鞘管6に螺合した特殊ナット7を回してその先端に形成された押圧フランジ部7bを反力鞘管5の端面に当接させることで、反力台10,10で支持していた反力を圧縮力として反力鞘管5,6で受け替えるという手順になる。
【0008】
しかしながら、PC鋼棒2に導入された引張力を解放すべく、特殊ナット7を回す際、押圧フランジ部7bと反力鞘管5の端面との間に大きな摩擦力が生じているために、現場での解放操作が困難になる場合があるという問題を生じていた。
【0009】
ちなみに、特許文献2には、特許文献1の課題を解決する発明が開示されているが、引張力を解放するための技術思想は、本願発明とは本質的に異なる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、反力体に生じている反力をスムーズに解放することが可能なプレストレス導入ユニットを提供することを目的とする。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係るプレストレス導入ユニットは請求項1に記載したように、PC鋼材と、該PC鋼材の各端近傍に取り付けられた一対の定着部材と、前記PC鋼材に引張力を導入するための反力が前記各定着部材又は前記PC鋼材の各端近傍に伝達されるようにかつ前記PC鋼材が挿通される形で該PC鋼材と同軸に配置された一対の筒状反力部材と、該一対の筒状反力部材に生じている反力を、それらの対向端部を接近させることで解放することができるようになっている反力解放機構とを備えるとともに、該反力解放機構を、前記PC鋼材を貫通させるための貫通開口がそれぞれ形成されるとともに該PC鋼材の材軸に直交する面に対して傾きを有する傾斜面がそれぞれ設けられていて該各傾斜面が当接される形で配置された一対の楔状部材と、前記材軸の直交方向に沿った前記一対の楔状部材の相対移動量を調整自在な相対移動量調整手段とで構成してなり、
前記一対の楔状部材は、前記各傾斜面の反対側に位置する面を圧力載荷面として該圧力載荷面を介して前記各対向端部からそれぞれ圧縮力が伝達されるようになっているとともに、前記各傾斜面の一方が他方を摺動する形で相対移動する際にそれらの相対移動が拘束されることがないように前記各貫通開口を切り欠き状又は長孔状に形成してあるものである。
【0012】
また、本発明に係るプレストレス導入ユニットは、前記相対移動量調整手段を、前記一対の楔状部材を前記材軸の側方から挟み込む一対の挟み込み部材と該一対の挟み込み部材を相互に連結する連結機構とで構成したものである。
【0013】
また、本発明に係るプレストレス導入ユニットは、前記PC鋼材を貫通させるための台座側貫通開口がそれぞれ形成された中間台座を前記各対向端部と前記一対の楔状部材との間にそれぞれ配置するとともに、前記一対の楔状部材の相対移動が拘束されることがないように前記各台座側貫通開口を切り欠き状又は長孔状に形成したものである。
【0014】
本発明に係るプレストレス導入ユニットにおいては、従来技術と同様、一対からなる筒状反力部材の対向端部を接近させることにより、PC鋼材に導入されるべき引張力の反力として該一対の筒状反力部材に生じていた圧縮力を解放するようになっているが、本発明の反力解放機構は、PC鋼材を貫通させるための貫通開口がそれぞれ形成された一対の楔状部材と、PC鋼材の材軸の直交方向に沿った一対の楔状部材の相対移動量を調整自在な相対移動量調整手段とで構成してある。
【0015】
かかる構成においてコンクリートにプレストレスを導入する際には、PC鋼材に引張力が導入された上述のプレストレス導入ユニットをコンクリート打設領域に配置し、次いで、反力解放機構の周囲にコンクリートが充填されないよう留意しつつ、該コンクリート打設領域にコンクリートを打設して強度発現を待ち、しかる後、相対移動量調整手段を用いて一対の楔状部材の上記材軸に沿った全体寸法が短くなるように該一対の楔状部材を相対移動させる。
【0016】
このようにすると、楔状部材の全体寸法が短くなった分、一対の筒状反力部材の対向端部が接近し、該各筒状反力部材に生じていた圧縮力が消失するとともに、反力としての圧縮力が消失したことに伴い、PC鋼材に導入されていた引張力は、一対の定着部材を介して周囲のコンクリートに圧縮力として伝達され、該コンクリートは、プレストレストコンクリートとして機能する。
【0017】
ここで、従来においては、一対の筒状反力部材に生じている圧縮力を、それらが作用し合うナットなどの機械部品の当接面で解放操作していたので、圧縮力によって機械部品の当接面に生じる摩擦力が過大になって解放操作が困難になる場合があったが、本発明においては、圧縮力のかなりの部分を楔状部材の傾斜面で互いに支持させながら、その傾斜角度に応じた分力を相対移動量調整手段で支持しつつ、該相対移動量調整手段で一対の楔状部材の相対移動量を調整することにより圧縮力の解放を行う。
【0018】
すなわち、本発明に係るプレストレス導入ユニットにおいて、一対の筒状反力部材に生じている圧縮力を解放する動作は、その圧縮力が直接作用し合う部位ではなく、一対の楔状部材の傾斜面によって生じる分力が作用する部位で行われるものであって、かかる構成によれば、従来のように、機械部品の当接面に生じる摩擦力が過大になって解放操作が困難になるという懸念がなくなる。
【0019】
相対移動量調整手段は、一対からなる楔状部材の上記材軸に沿った全体寸法が短くなるように該一対の楔状部材を相対移動させることにより、一対の筒状反力部材の対向端部を接近させることができるのであれば、その具体的構成は任意であるが、一対の楔状部材を上記材軸の側方から挟み込む一対の挟み込み部材と該一対の挟み込み部材を相互に連結する連結機構とで構成する場合が典型例となる。
【0020】
かかる構成においては、連結機構を例えばボルト及びナットで構成した場合だと、一対の挟み込み部材が互いに離れるようにナットを緩めることにより、一対の楔状部材の上記材軸に沿った全体寸法が短くなるように該一対の楔状部材を相対移動させることができる。
【0021】
一対からなる筒状反力部材の対向端部は、一対からなる楔状部材の各圧力載荷面にそれぞれ直接当接させるようにしてもかまわないが、対向端部が当接することで楔状部材の相対移動が妨げられる懸念があるのであれば、PC鋼材を貫通させるための台座側貫通開口がそれぞれ形成された中間台座を各対向端部と各楔状部材との間にそれぞれ配置するとともに、一対の楔状部材の相対移動が拘束されることがないように各台座側貫通開口を切り欠き状又は長孔状に形成した構成を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態に係るプレストレス導入ユニット1をPC鋼棒2に引張力が導入された状態で示した側面図。
図2】プレストレス導入ユニット1の分解斜視図。
図3】プレストレス導入ユニット1の作用を示した図であり、(a)は、PC鋼棒2の引張力の反力となる圧縮力が筒状反力部材4a,4bに生じている状態の詳細側面図、(b)は同じく詳細斜視図、(c)は上記圧縮力が解放される際の詳細側面図、(b)は同じく詳細斜視図。
図4】プレストレス導入ユニット1をPC鋼棒2に引張力が導入される前の状態で示した側面図。
図5】PC鋼棒2に引張力を導入する様子を示した全体斜視図。
図6】プレストレス導入ユニット1を用いて、コンクリートにプレストレスを導入する様子を示した側面図。
図7】プレストレス導入ユニット1を用いてプレキャストコンクリート部材を相互に連結する場合において、その適用対象となる橋梁の床版を示した図であり、(a)は平面図、(b)はA-A線方向から見た矢視図。
図8】プレストレス導入ユニット1を用いて橋梁の床版を架け替える様子を示した図。
図9】引き続き橋梁の床版を架け替える様子を示した図であって、(a)は後打ちコンクリート打設を行う前、(b)は打設後の様子を示した平面図。
図10】引き続き橋梁の床版を架け替える様子を示した図であって、筒状反力部材4a,4bの圧縮力(PC鋼棒2の引張力による反力)が解放されたことによってプレキャストコンクリート部材103a,103bが互いに連結される様子を示した平面図。
図11】プレストレス導入ユニット1の作用を示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るプレストレス導入ユニットの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0024】
図1乃至図3は、本実施形態に係るプレストレス導入ユニットを示した図である。これらの図でわかるように、本実施形態に係るプレストレス導入ユニット1は、PC鋼材としてのPC鋼棒2と、該PC鋼棒の各端近傍に取り付けられた一対の定着部材としての定着板3a,3bと、一対の筒状反力部材4a,4bと、反力解放機構5とを備える。
【0025】
ここで、PC鋼棒2に引張力が導入されその反力として筒状反力部材4a,4bにそれぞれ圧縮力が発生している状態においては、図1に示すように、PC鋼棒2は、全長がLとなり、筒状反力部材4a,4bはそれぞれ全長がLとなる。
【0026】
定着板3a,3bはそれぞれ円形状をなし、PC鋼棒2に予め導入された引張力を、定着板3a,3bの対向面を介して支圧力としてコンクリートに伝達することにより、該コンクリートにプレストレスを導入できるようになっている。
【0027】
ここで、定着板3bは、溶着、係着、螺着等によってPC鋼棒2の一端に固定してあるが、定着板3aについては、該定着板に設けられた挿通孔31にPC鋼棒2を挿通できるようになっており、PC鋼棒2の他端に設けられた雄ネジ32に定着ナット33を螺合することにより、PC鋼棒2への取付け位置を調整できるようになっている。
【0028】
図2でよくわかるように、筒状反力部材4a,4bはそれぞれ中空円筒部材で構成してあり、PC鋼棒2に引張力を導入するための反力である圧縮力が、互いに反対側となる端部7a,7bを介して定着板3a,3bの対向面にそれぞれ伝達されるように、かつPC鋼棒2が挿通される形で該PC鋼棒と同軸に配置してある。
【0029】
反力解放機構5は、筒状反力部材4a,4bの対向端部を構成する角形状の台座8a,8bを接近させることにより、該筒状反力部材に生じていた圧縮力を解放できるようになっており、一対の楔状部材11a,11bと、該楔状部材をPC鋼棒2の材軸10の側方から挟み込む一対の挟み込み部材12,13と、該挟み込み部材を相互に連結する連結機構としての2組のボルト14及びナット15と、中間台座16a,16bとで構成してある。
【0030】
楔状部材11a,11bは、円筒体を斜めに切断してなる各切断片に類似した形状をなし、PC鋼棒2を貫通させるための貫通開口17a,17bをそれぞれ形成してあるとともに、PC鋼棒2の材軸10に直交する面に対して傾きを有する傾斜面18a,18bがそれぞれ設けられていて該各傾斜面が当接される形で配置してある。
【0031】
楔状部材11a,11bは、各傾斜面18a,18bの反対側に位置する面を圧力載荷面19a,19bとして該圧力載荷面に中間台座16a,16bを介して台座8a,8bからそれぞれ圧縮力が伝達されるようになっているとともに、各傾斜面18a,18bの一方が他方を摺動する形で相対移動する際にそれらの相対移動が拘束されることがないよう、各貫通開口17a,17bを切り欠き状に形成してある。
【0032】
楔状部材11a,11bの傾斜面18a,18bは、できるだけ摩擦が生じないように、耐荷重に優れた潤滑剤を塗布する、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を被覆するなどの措置を講じておくのが望ましい。
【0033】
中間台座16a,16bは、PC鋼棒2を貫通させるための台座側貫通開口25a,25bをそれぞれ形成してあるとともに、楔状部材11a,11bの相対移動が拘束されることがないよう、貫通開口17a,17bと同様、各台座側貫通開口25a,25bを切り欠き状に形成してある。
【0034】
中間台座16a,16bは、台座8a,8bを介した筒状反力部材4a,4bからの圧縮力を、より広い作用面積をもって楔状部材11a,11bに確実に伝達する役目を果たすとともに、楔状部材11aや楔状部材11bが材軸10の直交方向に沿って相対移動する際、楔状部材11a,11bの側と台座8a,8bの側の二面で摺動可能とすることにより、楔状部材11a,11bの相対移動がより確実に行われるようになっている。
【0035】
中間台座16a,16bの両面には、楔状部材11a,11bの傾斜面18a,18bと同様、耐荷重に優れた潤滑剤を塗布する、PTFEを被覆するなどして摩擦低減を図るのが望ましい。
【0036】
挟み込み部材12,13はそれぞれ直方体状をなすとともに、それらの対向内面に湾曲凹部20,22をそれぞれ形成してあり、該湾曲凹部に楔状部材11b,11aの周面24b,24aがそれぞれ当接する形で該各楔状部材の一部がそれぞれ嵌合されるようになっているとともに、挟み込み部材12には湾曲凹部20を挟む位置にボルト孔21,21が、挟み込み部材13には湾曲凹部22を挟む位置にボルト孔23,23がそれぞれ設けてあり、2組のボルト孔21,23にボルト14をそれぞれ挿通して該各ボルトの先端にナット15を螺合するようになっている。
【0037】
なお、挟み込み部材12には、湾曲凹部20と反対側の面に座ぐり26を設けてあり、該座ぐりにボルト14の頭部が嵌め込まれるようになっている。
【0038】
挟み込み部材12,13の湾曲凹部20,22や楔状部材11b,11aの周面24b,24aには、楔状部材11a,11bの傾斜面18a,18bや中間台座16a,16bの両面と同様、耐荷重に優れた潤滑剤を塗布する、PTFEを被覆するなどして摩擦低減を図るのが望ましい。
【0039】
連結機構であるボルト14、ナット15及び挟み込み部材12,13は図3でよくわかるように、材軸10に沿った楔状部材11a,11bの全体寸法がLの状態(図3(a),(b)の状態)から、各ナット15を緩み方向に回すことにより、全体寸法がL´の状態(図3(c),(d)の状態)へと短くなるように、該楔状部材を相対移動させるようになっており、かかるボルト14及びナット15並びに挟み込み部材12,13は、PC鋼棒2の材軸10の直交方向に沿った楔状部材11a,11bの相対移動量を調整する相対移動量調整手段として機能する。
【0040】
本実施形態に係るプレストレス導入ユニット1においてPC鋼棒2に引張力を導入するには、まず、楔状部材11a,11bを、それらの貫通開口17a,17bが同軸となるように傾斜面18a,18bを互いに当接させるとともに、その状態でそれらを挟み込み部材12,13で挟み込んでボルト14とナット15で連結することにより、反力解放機構5を先行して組み立てる。中間台座16a,16bについては、後述する引張力導入工程に先だって、楔状部材11aと台座8aとの間及び楔状部材11bと台座8bとの間に適宜挿入配置すればよい。
【0041】
なお、PC鋼棒2は、引張力導入後は、図1で説明したように全長がLに伸長するが、引張力導入前においては図4に示すように、L´(<L)であり、筒状反力部材4a,4bは、引張力導入後は全長がLに収縮するが、圧縮力発生前においてはそれぞれL´(>L)である。
【0042】
次に、図5に示すように、一端に定着板3bが取り付けられたPC鋼棒2を、筒状反力部材4b、反力解放機構5、筒状反力部材4aに順次挿通するとともに、該PC鋼棒の先端に設けられた雄ネジ32を定着板3aの挿通孔31に挿通し、該雄ネジにナット33を仮配置する。
【0043】
次に、同図黒矢印に示すように定着板3aから反力をとることにより、同図白矢印に示すようにPC鋼棒2に引張力を載荷する。
【0044】
引張力載荷にあたっては、チェアと呼ばれる反力架台を介在させつつ、雄ネジ32に引張力導入用ロッドをカプラーで連結し(いずれも図示せず)、その引張力導入用ロッドに引張力を載荷することで、定着板3aに均等な反力が作用するようにするのが望ましい。
【0045】
所定の引張力がPC鋼棒2に載荷されたならば、ナット33を締め込むことで、定着板3aを筒状反力部材4aの端部7aに押し付ける形で該筒状反力部材に固定し、しかる後、反力架台、引張力導入用ロッド及びカプラーを撤去する。
【0046】
このようにすると、PC鋼棒2の引張力は、筒状反力部材4a,4b及び反力解放機構5に発生した反力としての圧縮力と釣り合い、かくしてPC鋼棒2に引張力が導入される。
【0047】
一方、コンクリートにプレストレスを導入する際には、PC鋼棒2に引張力が導入された上述のプレストレス導入ユニット1をコンクリート打設領域に配置し、次いで、図6に示すように、反力解放機構5の周囲にコンクリートが充填されないよう留意しつつ、コンクリート打設領域にコンクリート51を打設して強度発現を待ち、しかる後、ナット15を緩めて挟み込み部材12,13の連結距離を拡げることにより、材軸10に沿った楔状部材11a,11bの全体寸法が短くなるように該楔状部材を相対移動させる。
【0048】
このようにすると、楔状部材11a,11bの全体寸法が短くなった分、筒状反力部材4a,4bの対向端部である台座8a,8bが接近し、該各筒状反力部材に生じていた圧縮力が消失するとともに、反力としての圧縮力が消失したことに伴い、PC鋼棒2に導入されていた引張力は同図に示すように、定着板3a,3bを介して周囲のコンクリートに圧縮力として伝達され、該コンクリートは、プレストレストコンクリートとして機能する。
【0049】
次に、プレストレス導入ユニット1を用いてプレキャストコンクリート部材を相互に連結する方法を、橋梁の床版架替えに適用する場合について説明する。
【0050】
図7は、対象となる橋梁の床版101を示した平面図及びA-A線方向から見た矢視図である。
【0051】
同図に示すように、床版101は、矩形状のプレキャストコンクリート部材103a´,103b´を橋軸直交方向に互いに並置する形で橋梁の主桁102に架け渡してあるとともに、これらを橋軸方向に沿って列状に敷設して構成してある。
【0052】
プレキャストコンクリート部材103a´,103b´を架け替えるには、既に説明したように、まず、プレストレス導入ユニット1を構成するPC鋼棒2への引張力導入を工場等で行う。
【0053】
次に、架け替えられるべきあらたなプレキャストコンクリート部材103aを、該プレキャストコンクリート部材にPC鋼棒2への引張力が導入されたプレストレス導入ユニット1の定着板3aが埋設され定着板3bが突出するように製作する。
【0054】
一方、架け替えられるべきあらたなプレキャストコンクリート部材103bを、プレストレス導入ユニット1への引張力導入とは別工程で、後述する切り欠きが形成されるように製作する。
【0055】
次に、プレストレス導入ユニット1が先付けされたプレキャストコンクリート部材103aと、切り欠きが形成されたプレキャストコンクリート部材103bとを、施工現場である橋梁の床版架替え現場に搬入する。
【0056】
橋梁の床版架替えは、例えば片側二車線の場合、そのうちの一車線のみ通行止めとし、残りの一車線の通行を許可するようにすれば、全面通行止めを回避して道路渋滞を避けることができるので、これを例とすると、まず、図8(a)に示すように、架替え対象となる既存のプレキャストコンクリート部材103a´,103b´のうち、まずはプレキャストコンクリート部材103b´だけを撤去し、次いで、同図(b)に示すように、その撤去箇所に切り欠き114が形成されたプレキャストコンクリート部材103bを設置する。
【0057】
次に、同図(c)に示すように既存のプレキャストコンクリート部材103a´を撤去した後、同図(d)に示すように、その撤去箇所にプレストレス導入ユニット1が先付けされたプレキャストコンクリート部材103aを設置する。
【0058】
プレキャストコンクリート部材103a,103bを設置するにあたっては、図9(a)に示す通り、プレキャストコンクリート部材103bの切り欠き114内に定着板3bが位置決めされるよう、プレキャストコンクリート部材103a,103bを並置する。
【0059】
次に、同図(b)に示すように、切り欠き114内にコンクリートを打設するとともに、反力解放機構5を操作するための作業領域131を除いて、プレキャストコンクリート部材103a,103bの対向面115a,115bに拡がる空間にコンクリートを打設する。
【0060】
このようにすると、切り欠き114には、プレキャストコンクリート部材103bと連続一体化する形で引張力伝達部113が設けられるとともに、該引張力伝達部には、定着板3bが埋設される。
【0061】
また、プレキャストコンクリート部材103a,103bの対向面115a,115bに拡がる空間には、プレキャストコンクリート部材103a,103bと連続一体化する形で接合部116が設けられる。
【0062】
なお、プレキャストコンクリート部材103bに配筋された鉄筋(図示せず)を該プレキャストコンクリート部材から切り欠き114に適宜突出させることにより、プレキャストコンクリート部材103bと引張力伝達部113との連続一体化を高めるようにしておくとともに、プレキャストコンクリート部材103a,103bに配筋された鉄筋(図示せず)を該各プレキャストコンクリート部材から対向面115a,115bに拡がる空間に適宜突出させることにより、プレキャストコンクリート部材103a,103bと接合部116との連続一体化を高めるようにしておくのが望ましい。
【0063】
次に、引張力伝達部113や接合部116のコンクリート強度が発現した後、既に説明したように、プレストレス導入ユニット1を構成する筒状反力部材4a,4bの圧縮力を解放する。
【0064】
このようにすると、筒状反力部材4a,4bに生じていた圧縮力の解放に伴い、それを反力としていたPC鋼棒2の引張力は、図10に示すように、定着板3b,3aにおける支圧を介して周辺コンクリートにおける圧縮力とバランスするとともに、該コンクリートの圧縮力は、プレキャストコンクリート部材103a,103bの対向面115a,115bから受ける圧縮反力でそれぞれバランスし、かくして、2つのプレキャストコンクリート部材103a,103bは、接合部116を介してそれらの対向面115a,115bに互いに作用する圧縮力を反力としたPC鋼棒2の引張力によって互いに引き寄せられ連結される。
【0065】
箱抜きされた作業領域131については、引張力解放後、コンクリートやモルタルを適宜充填すればよい。
【0066】
以上説明したように、本実施形態に係るプレストレス導入ユニット1によれば、コンクリートに埋設された状態で楔状部材11a,11bの全体寸法が短くなるように楔状部材11a,11bを相対移動させることで筒状反力部材4a,4bの台座8a,8bを接近させるようにしたので、機械部品の当接面における摩擦力が過大になることに起因して圧縮力の発生操作やその解放操作が困難になるという事態を回避しつつ、コンクリートにプレストレスを導入することが可能となり、特に、橋梁工事等の施工現場においてプレテンション方式のプレストレス導入を効率的に行うことが可能となる。
【0067】
すなわち、従来においては、圧縮力が作用し合うナットなどの機械部品の当接面でその発生操作や解放操作を行っていたので、その圧縮力によって機械部品の当接面に生じる摩擦力が過大になって各操作が困難になる場合があった。
【0068】
それに対し、本実施形態に係るプレストレス導入ユニット1において筒状反力部材4a,4bに生じていた圧縮力を解放すべく、楔状部材11a,11bの全体寸法が短くなるようにそれらを相対移動させる際には、図11に示すように、筒状反力部材4aからの圧縮力Pのうち、楔状部材11a,11bの傾斜面18a,18bに垂直な分力P1が、楔状部材11bから楔状部材11aの傾斜面18aに作用する法線方向荷重Nで支持されることを踏まえると、相対移動量調整手段は、傾斜面18a,18bに平行な分力P2だけを支持すればよい。
【0069】
具体的には、相対移動量調整手段が負担すべき反力Rは、
R=P・sinθ-μN (1)
θ;PC鋼棒2の材軸10に直交する面に対する傾斜面18a,18bの傾き
μ;傾斜面18a,18bの界面における摩擦係数
となるので、分力Rは、
=(P・sinθ-μN )cosθ (2)
となる。
【0070】
ここで、摩擦係数μを実質的に無視し得るとすると、
=P・sinθcosθ (2´)
となるから、tanθ=3/10の場合には、
=0.275P (3)
となり、挟み込み部材13を介して二組のボルト14及びナット15が負担すべき荷重Rは、筒状反力部材4aからの圧縮力Pの27.5%で足りることがわかる。
【0071】
このように、プレストレス導入ユニット1によれば、筒状反力部材4a,4bに生じている圧縮力の解放操作を、従来よりも格段に小さい作用荷重下で行うことが可能となり、施工現場での解放(コンクリートへのプレストレス導入)を効率よくかつ確実に行うことが可能となる。
【0072】
本実施形態では、反力解放機構5に中間台座16a,16bを備えるようにしたが、筒状反力部材4a,4bから楔状部材11a,11bに圧縮力が伝達される際や、楔状部材11a,11bが相対移動する際に何ら問題がないのであれば、中間台座16a,16bを省略してもかまわない。
【0073】
また、本実施形態では、貫通開口17a,17bや台座側貫通開口25a,25bを切り欠き状としたが、楔状部材11a,11bの相対移動に問題がないのであれば、これらを長孔状としてもかまわない。
【0074】
また、本実施形態では、PC鋼棒2に引張力を導入するにあたって、図5で説明したように、定着板3aから反力をとりつつ、PC鋼棒2に引張力を載荷し、しかる後、ナット33を締め込んで定着板3aを筒状反力部材4aの端部7aに押し付ける形で該筒状反力部材に固定するようにしたが、これに代えて、反力解放機構5を用いてPC鋼棒2に引張力を導入するようにしてもよい。
【0075】
すなわち、反力解放機構5を構成するボルト14及びナット15並びに挟み込み部材12,13を用いて、筒状反力部材4a,4bから伝達される圧縮力に抗しつつ、PC鋼棒2の材軸10に沿った楔状部材11a,11bの全体寸法がL´からLへと長くなるように該楔状部材を相対移動させる。
【0076】
このようにすると、楔状部材11a,11bの全体寸法が長くなった分、筒状反力部材4a,4bの対向端部である台座8a,8bが押し拡げられて圧縮力が発生するとともに、それに伴ってPC鋼棒2に引張力が導入される。
【符号の説明】
【0077】
1 プレストレス導入ユニット
2 PC鋼棒(PC鋼材)
3a,3b 定着板(定着部材)
4a,4b 筒状反力部材
5 反力解放機構
8a,8b 台座(対向端部)
11a,11b 一対の楔状部材
12,13 一対の挟み込み部材(相対移動量調整手段)
14 ボルト(連結機構、相対移動量調整手段)
15 ナット(連結機構、相対移動量調整手段)
16a,16b 中間台座
18a,18b 傾斜面
19a,19b 圧力載荷面
17a,17b 貫通開口
25a,25b 台座側貫通開口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11