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特許7426185ドミニキアsp.菌株とそれを含む組成物とその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ドミニキアsp.菌株とそれを含む組成物とその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20240125BHJP
   A01N 63/30 20200101ALI20240125BHJP
   A01N 25/12 20060101ALI20240125BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20240125BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C12N1/14 A
C12N1/14 Z
A01N63/30
A01N25/12 101
A01N25/12
A01N25/00 102
A01P21/00
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021514113
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-04
(86)【国際出願番号】 IB2019057647
(87)【国際公開番号】W WO2020053780
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-08-14
(31)【優先権主張番号】18382653.6
(32)【優先日】2018-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【微生物の受託番号】BCCM  MUCL57072
(73)【特許権者】
【識別番号】521099866
【氏名又は名称】シムボルグ,エスエル
(74)【代理人】
【識別番号】100081053
【弁理士】
【氏名又は名称】三俣 弘文
(72)【発明者】
【氏名】フアレツ モリナ,ヘス
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス,フェリックス
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/000612(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/000613(WO,A1)
【文献】Mycorrhiza,2015年,Vol.25,pp.399-409
【文献】Agroforest Syst.,2018年,Vol.92,pp.555-574
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/14
A01N
A01P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
寄託番号MUCL57072で国際寄託機関であるベルギー国立微生物の共同作業機構(International Depositary Authority Belgian Coordinated Collections of Microorganims)に寄託されているドミニキアsp.菌株。
【請求項2】
寄託番号MUCL57072で国際寄託機関であるベルギー国立微生物の共同作業機構に寄託されているドミニキアsp.菌株を4.0-1.0重量%含むことを特徴とする組成物。
【請求項3】
前記組成物中のドミニキアsp.菌株の濃度は、3.0-2.0重量%である
ことを特徴とする請求項2記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物は、固体組成物である
ことを特徴とする請求項2記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物は、粉末、乳化濃縮物、顆粒、微細顆粒の形態のいずれかである
ことを特徴とする請求項2記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物は、微細顆粒の形態である
ことを特徴とする請求項5記載の組成物。
【請求項7】
前記微細顆粒は、500-2000μmの範囲内のサイズを有する
ことを特徴とする請求項6記載の組成物。
【請求項8】
殺菌株剤、生物性殺菌剤、殺虫剤、生物殺虫剤、殺線虫剤、生物性刺激剤の内のいずれかを更に含む
ことを特徴とする請求項2-7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
国際寄託機関であるベルギー国立微生物の共同作業機構に寄託番号MUCL57072で寄託されているドミニキアsp.菌株を含む組成物の調整方法において、
(A)基質を提供するステップと、
(B)前記基質に、宿主植物の種子と寄託番号MUCL57072で寄託されたドミニキアsp.菌株とを提供するステップと、
(C)前記基質を苗場容水量の75%以上の湿分レベルに維持する為に、前記宿主植物を栽培し給水するステップと、
(D)少なくとも7日間、前記ステップ(C)の給水を中止するステップと、
(E)前記宿主植物の地上部と前記基質を除去するステップと、
(F)前記除去した基質を乾燥させるステップと、
(G)100μm未満の粒子サイズを有する顆粒を得る為に、前記乾燥した基質を粉砕するステップと
を含むことを特徴とする寄託番号MUCL57072で寄託されているドミニキアsp.菌株を含む組成物の調整方法。
【請求項10】
前記ステップ(B)のドミニキアsp.菌株は、ドミニキアsp.菌株の胞子を含む接種物である
ことを特徴とする請求項9記載の調整方法。
【請求項11】
(H1)前記基質を微細顆粒化するステップ
を更に含む
ことを特徴とする請求項9記載の調整方法。
【請求項12】
(H2)穀物の種子のコーティングの為に、濃縮接種物を調整するステップ
を更に含み、
前記ステップ(H2)の濃縮接種物は、
所定の値以上の粒子サイズを有する顆粒を選択する為に、前記ステップ(G)で得られた粉砕された生成物を篩いにかけることにより得られ、
ステップ(G)での乾燥した基質内のドミニキアsp.菌株の濃度以上の濃度を有する
ことを特徴とする請求項9記載の調整方法。
【請求項13】
(I)前記濃縮接種物で種子コーティングを行うステップ
を更に有する
ことを特徴とする請求項12記載の調整方法。
【請求項14】
前記ステップ(I)は、ステップ(I1)-(I4)のステップを含む
(I1)前記種子を粘着性物質で覆うステップと
(I2)前記濃縮接種物を添加するステップと、
(I3)選択的事項として、下記のサブステップから選択された親和性のある処理を施すステップと、
(I3.1)菌根形成菌と親和性のある殺菌剤、殺虫剤、除草剤の内のいずれかで処理するサブステップ、
(I3.2)有益な微生物で処理するサブステップ、
(I3.3)マクロ栄養素又はミクロ栄養素で処理するサブステップ、
(I3.4)刺激剤で処理するサブステップ、
(I3.5)菌根形成菌と親和性のある着色色素で処理するサブステップ、
(14)前記種子を乾燥させるステップ、
ことを特徴とする請求項13記載の調整方法。
【請求項15】
寄託番号MUCL57072で国際寄託機関であるベルギー国立微生物の共同作業機構に寄託されているドミニキアsp.菌株を含む組成物の植物の生物性刺激剤としての使用。
【請求項16】
前記植物が穀物である
ことを特徴とする請求項15記載の使用。
【請求項17】
種子を蒔く時に、前記ドミニキアsp.菌株を種子にコーティングする、又は前記ドミニキアsp.菌株を種子と組み合わせる
ことを特徴とする請求項2記載の組成物。
【請求項18】
請求項2記載の組成物でコーティングした穀物種子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業分野に関し、特にドミニキアsp.菌株(Dominikia sp strain)とそれを含む組成物とその使用(例:生物性刺激剤(bio-stimulant)と生物性殺線虫剤(bio-nematicidal)としての使用)に関する。ドミニキアsp.菌株を含む組成物は、特に穀類農作物(cereal crop)で有用であることと判明した。
【背景技術】
【0002】
現在、30属(genera)の約300種(species)がグロムス門(Glomeromycota)に記載されている。しかし核酸(DNA、RNA)をベースにした生物多様性の研究は、グロムス門の遙かに幅広い多様性に向けられ、いくつかの新たな種と属が最近記載されている。
【0003】
大部分のグロムス門はアーバスキュラー菌根菌(arbuscular mycorrhizal fungi(AMF):以下単に「AMF」とも称する)である。これらは、維管束陸上植物の約80%の相利共生菌(mutualistic symbiont)である。AMFによりコロニー化(コロニー形成)される植物の養分吸収は、根の表皮と根毛を介して直接行われるが、菌-根の界面(fungus-root -interface)を介しても行われている。この菌-根の界面は、アーバスキュール(arbuscule)又はラジカル内菌糸コイル(intraradical hyphal coil)の特徴的な形態を有する。AMFは、それらの宿主の養分吸収を強化する際の役割に加えて、土壌凝縮から保護、植物を干ばつのストレスから保護、土壌由来の植物病原菌から保護する点で重要な役割を果たす。この非常に有益な性質故に、いくつかの菌根組成物(mycorrhizal composition)がこの技術分野で知られている。それらは、その有益な効果を穀物に及ぼす為に、開発されている。
【0004】
特許文献1,2は、グロムシラニカムヴァー(Glomusiranicum var.)菌株とテヌイフィファラムバーノブ (tenuihypharum var nov)菌株を含む組成物とその使用例を開示している。特に特許文献1は、グロムシラニカムヴァー菌株、テヌイフィファラムバーノブ菌株を含むサブ組成物とスメクタイト粘土(smectite clay)を2:1の割合で含む組成物を開示する。特許文献1の組成物は、農作物収量に良い効果があることを即ちレタス農作物の生物性刺激剤として使用できることを開示している。
【0005】
同様に特許文献2は、グロムシラニカムヴァー菌株とテヌイフィファラムバーノブ菌株とスメクタイト粘土を2:1の割合で含むサブ組成物と、金属イオンと、チティン(chitin)を含む組成物を開示している。特許文献2は、前記組成物をトマト農作物の生物性殺線虫剤として作用することを開示している。
【文献】WO2015/000612
【文献】WO2015/000613
【文献】Porter, Aust. J. Soil Res., 1979, 17, 515-19
【文献】Schwarzott D, Schussler A (2001) A simple and reliable method for SSU rRNA gene DNA extraction, amplification, and cloning from single AM fungal spores. Mycorrhiza 10: 203-207
【文献】Redecker D. (2000) Specific PCR primers to identify arbuscular mycorrhizal fungi within colonized roots. Mycorrhiza 10: 73?80
【文献】Kruger M, Kruger C, Walker C, Stockinger H, Schusler A (2012) Phylogenetic reference data for systematics and phylotaxonomy of arbuscular mycorrhizal fungi from phylum to species level. New Phytol 193: 970?984; downloadable at www.amf-phylogeny.com)
【文献】Miller MA, Pfeiffer W, Schwartz T. (2010) Creating the CIPRES Science Gateway for inference of large phylogenetic tres. In Proceedings of the Gateway Computing Environments Workshop (GCE), 14 Nov. 2010, New Orleans, LA pp 1 - 8; http://www.phylo.org/) with RAxML version 8.0 (Stamatakis et al. 2014
【文献】Gerdemann J.W., Nicolson T.H. 1963. Spores of mycorrhizal endogen species extracted from soil by wet sieving and decanting. Transactions of the British Mycological Society 46(2):235-44.
【文献】McGonigle, T.P., Miller M.H., Evans D.G., Fairchild G.L., Swan J.A. 1990. A new method which gives an objective measure of colonization of roots by vesicular arbuscular mycorrhizal fungi. New Phytologist 115 (3):495-501
【文献】Phillips, J.M., Hayman D.S. 1970. Improved procedures for clearing roots and staining parasitic and vesicular arbuscular mycorrhizal fungi for rapid assessment of infection. Transactions of the British Mycological Society 55:158-161
【文献】Porter, W.M. 1979. The most probable number method for enumerating infective propagules of vesicular arbuscular mycorrhizal fungi in soils. Aust. J. Soil Res. 17:515-519.
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【文献】IUSS Working Group. WRB. World reference base for soil resources 2006. World Soil Resources Reports. Rome: FAO, 2006
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【文献】Duncan, D. B. Multiple range and multiple F tests. Biometrics, 1955, vol. 11, no. 1
【文献】Lopez-Bellido, L. Cultivos herbaceos. Cereales. Ed. Mundi-Prensa, 1991. p. 151-158
【文献】Cornejo, P.; Borie, F.; Rubio, R. y Azcon, R. Influence of nitrogen source on the viability, functionality and persistence of Glomus etunicatum fungal propagules in an Andisol. Applied Soil Ecology, 2007, vol. 35, no. 2, p. 423-431
【文献】Echeverria, E. y Stiddert, G. A. El contenido de nitrogeno en la hoja bandera del trigo como predictivo del incremento de proteina en el grano por aplicaciones de nitrogeno en la espigazon (The nitrogen content in the wheat flag leaf as predictive of the increase in protein in the grain by nitrogen applications to the ear). Revista de la Facultad de Agronomia, 1998, vol. 103, no. 1, p. 10
【文献】Bolleta, A. y Krugger, H. Fertilizacion e inoculacion con hongos micorrizicos arbusculares en trigo. Buenos Aires:Instituto Nacional de Tecnologia Agropecuaria. 2004.,
【文献】Saleque, M. A.; Timsina, J.; Panaullah, G. M.; Ishaque, M.; Pathan, D. J.; Saha, P. K.; Quayyum, M. A.; Humphreys, E. y Meisner, C. A. Nutrient uptake and apparent balances for rice-wheat sequences. II. Phosphorus. Journal of Plant Nutrition, 2006, vol. 29, no. 1, p. 157-172,
【文献】Trouvelot, A., Kough, J. and Gianinazzi Pearson, V. (1986). Mesure du Taux de Mycorhization VA d'un Systeme Radiculaire. Recherche de Methodes d'Estimation ayant une Signification Fonctionnelle. Proceedings of the 1st European Symposium on Mycorrhizae: Physiological and Genetical Aspects of Mycorrhizae, Dijon, 15 July, 1985. (eds. V. Gianinazzi Pearson and S. Gianinazzi). INRA, Paris. pp. 217 222;
【文献】Herrera-Peraza, R. Eduardo Furrazola, Roberto L. Ferrer, Rigel Fernandez Valle and Yamir Torres Arias. 2004. Functional strategies of root hairs and arbuscular mycorrhizae in an evergreen tropical forest, Sierra del Rosario, Cuba. Revista CENIC Ciencias Biologicas, Vol. 35, No. 2, 2004
【文献】Rao, D.L.N., 1998. Biological amelioration of salt-affected soils. In: Microbial Interactions in Agriculture and Forestry, vol. 1. Science Publishers, Enfield, USA, pp. 21?238
【文献】Fernandez, F.; Ortiz, R.; Martinez, M.A.; Costales, A.; Llonin, D. The effect of commercial arbuscular mycorrhizal fungi (AMF) inoculants on rice (Oryza sativa) in different types of soils. Cultivos Tropicales 18 (1): 5-9, 1997
【文献】Bethlenfalvay, G.J., Brown, M.S., Franson, R.L., Mihara, K.L., 1989. The glycine-glomus-bradyrhizobium symbiosis. IX. Nutritional, morphological and physiological response of nodulated soybean to geographic isolates of the mycorrhizal fungus of Glomus mosseae. Physiol. Plant. 76, 226?232
【文献】Hirrel, M.C., 1981. The effect of sodium and chloride salts on the germination of Gigaspora margaria. Mycology 43, 610?617
【文献】Hernadez, A; Perez, J.M; Bosch, D; Rivero, L: Nueva Version de Clasificacion Genetica de los Suelos de Cuba. Soil Institute. AGRINFOR, La Habana, 1999. 64p
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来技術に開示された組成物は、穀類農作物に許容可能な良い効果を生物性刺激剤と生物性殺線虫剤の観点からは提供していない。
【0007】
本発明の目的は、組成物に含めるのに適した真菌の菌株(strain of fungus)を提供することである。前記組成物とは、農作物(特に穀類農作物)に良い影響を及ぼすのに適した組成物である。本発明の他の目的は、穀類農作物に対する生物性刺激剤として奏効する組成物を提供することである。本発明の他の目的は、穀類農作物に対する生物性殺線虫剤として奏効する組成物を提供することである。本発明の更なる目的はこのような組成物を得るプロセスを提供することである。
【0008】
本発明のドミニキアsp.菌株は、出願人により、以下の2つの機構に2018年3月21日に寄託された。
(1)国際寄託機関であるベルギー国立微生物共同作業機構(International Depositary Authority Belgian Coordinated Collections of Microorganims(BCCM))
(2)ウニベルジテ カソリック デ ルーベイン(Universite catholique de Louvain) Mycothequeque de I'Universite catholique de Louvain (MUCL).Croix du Sud 2, box L7.05.06, 1348 Louvain-la-Neuve, Belgium(.住所:Campus de Espinardo 7,edificio CEEIM, 30100 Murcia Spain)
【0009】
本発明のドミニキアsp.菌株は、寄託者により参照番号SMB01で識別され、国際寄託機関(1)から寄託番号MUCL57072を受領した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、グロムス門の菌株即ち寄託番号MUCL57072で寄託されたドミニキアsp.菌株(Dominikia sp. strain)である。本発明の菌株は、高い水性(hydromorphic )で、高圧縮されたナトリウム塩分を含有する土壌(Solonetz Gley)から単離された。この土壌は、表面に多くの塩分堆積物を有し、Fortuna, Murcia (Spain)地方のものである。
【0011】
本発明の菌株の胞子嚢果(sporocarps)は知られていない。本発明の菌株においては、胞子(spore)は、土壌中の遊離クラスター(loose cluster)内で発生し、末端(terminal)又は節間(intercalary)で発生することもある。胞子は根の中にも形成されうる。胞子の色は、透明から明るい黄土色であり、亜球状から球状(希に不規則)の構造であり、比較的小さく、その直径は、24.0-42μmで、その平均値は30.7±3.7μmである。胞子は、3層構造の壁(1-4μm厚)を有する複合体である。特に外側層、中間層、内側層が認識可能である。
【0012】
胞子壁の外側層は、粘液性で徐々に消えるよう(evanescent)に見える。若い胞子は粗い外観を呈し、古い胞子は幾分毛羽立った外観を示す。胞子壁の外側層は、Melzer試薬で着色すると、デキストリノイド反応(dextrinoid reaction)を示し、若い胞子は茶色がかった赤色になる。胞子壁の中間層は、実質的に永続し、0.5-2.0μmの厚さである。
【0013】
胞子壁の内側層は、層状であり、0.5-1.5μmの厚さを有する。胞子の中身は、淡く斑点のある外観を呈する。胞子を保持する菌糸(hphae)は、透明のガラス状から淡い黄土色であり、直線状又は波状で、直径が2.5-4.5μm(平均値:3.0μm)である。菌糸は、少なくとも成熟した胞子では、円筒状又は若干漏斗状であり、胞子壁の開放穴の層と合わさる。発芽構造(germination structure)は発芽管(germ tube)を含む。この発芽管は、成長し、胞子と菌糸の結合を介して元に戻る。それは小胞性のアーバス菌根(vesicula arbuscular mycorrhizae)を形成する。
【0014】
ラジカル外菌糸体(extraradical myselium)は、広範囲のネットワークを形成する。
134 18S rDNA配列の系統派生分析(phylogenetic analysis)は、環境配列(environmental sequence )と参照配列(referenced sequence)を含むが、本出願人により生成された。大部分のドミニキア種(Dominikia species)から、比較的短いか、18S配列が得られるかそれが無い。ドミニキア indica(Dominikia indica)配列とドミニキア iranica (Dominikia iranica)配列は、この系統派生分析に含めることができる。これら2つの種の配列は、データセットの残りの部分のそれより短かった。このデータセットをこれらの配列の長さにトリミングすると、比較的不完全な分析ツリーになった。完全な長さの配列を用いて、より高い分類レベル(higher taxonomic level)を表す枝(ブランチ)を有するツリーとなった。しかし、ドミニキアspp.(Dominikia spp.)からの配列からなる堅牢な単系統クレード(robust monohyletic clade)は、このデータセットでは、生成できなかった。ドミニキアsp.は、ドミニキアiranica(Dominikia iranica)と、様々な宿主植物と様々な場所からの匿名の環境グロメラリアン配列(anonymous, enviromental glomeralean sequence)と共に、1つの十分サポートされたクレードを形成する。
【0015】
上記したドミニキア種(Dominikia species)の大部分をからの配列を含むSSU-ITS1データセットの系統派生分析は、Dominikia sp.はDominikia aureaの隣に枝を広げている(branches)ことを示している。
【0016】
小さな胞子(直径が最大65-70μm)は、通常柔らかい(遊離)クラスターから堅いクラスターに渡って凝集しているが、ドミニキア属(genus Dominikia)にとって特徴的である。ドミニキア属のメンバーの胞子壁は、2層又は3層から構成される。外側層は、胞子表面を形成するが、粘液性(mucilagenous)で短命で、Melzer 試薬で染色されるか、又は単一体(小層に分割されていない)であり、永続的でMelzer 試薬では反応しない。胞子を保持する菌糸は、円筒形から漏斗状であり、貫通穴又は中隔で塞がれている穴を有する。ドミニキア minuta(Basidionym: Glomus minutum)が、タイプ種(type-species)として指定されている。本発明の菌株即ちドミニキア sp.は、ドミニキア minuta と同じサイズのガラス状胞子を有する。しかし、G. minutum(即ちドミニキア minuta)の胞子は、中隔により閉塞されている、ドミニキアsp.とは対照的である。ドミニキアsp.は、ドミニキアminuta とも異なっている。その理由は、ドミニキアsp. は、3層の胞子壁を有し(これに対し、ドミニキア minutaは2層の胞子壁を有する)、ドミニキアminutaには存在しないデキストリノイド反応(dextrinoid reaction)をするからである。
【0017】
Dominikia sp. は、上記した他のドミニキアの種とも菌株とも異なる。Dominikia achra 菌株の胞子の外側層と内側層とは、Melzer 試薬で深い赤色に染まる。 これに対しDominikia sp.では、外側層のみがデキストリノイド反応を示す。Dominikia indica がDominikia sp.と相違するのは、中の団粒(hypogeous aggregate )内に小さなガラス性胞子を形成する点である。Dominikia indicaの胞子壁は、ガラス状の2層構造(薄い外側層と厚い内側層)からなる。薄い外側層は、粘着性で短命であり、Melzer 試薬でピンクがかっているかピンク色に染まる。厚い内側層は、層構造で平滑で永続的である。Dominikia indicaの2層構造は、Dominikia sp.の3層構造とは対照的である。18S-ITS1系統によると、Dominikia aureaが本発明のDominikia sp. 菌株に最も近い親戚である。しかしこの2つの種は多くの形態学的特徴の点で異なる(表1を参照)。最も明白な相違点は、Dominikia aureaがほぼ卵形の胞子である点である。この卵形胞子は不規則な胞子嚢果(sporocarp)で凝縮している。
【0018】
本発明のドミニキアsp.の配列に極めて類似する配列は、遺伝子バンクに対しブラストされた時、見いだされた(e値0.00,同一性99%)。これらの配列は、様々な国々、大陸からの幅広い範囲の様々な宿主(例:コケ類、単子葉植物)から発生し、世界的な分布を示している。これらの発見はドミニキアsp.は広く分布していることを示している。
【0019】
上記したように、Dominikia sp. は、組成物、特に穀類農作物に提供される組成物が含むと、特に有益である。
本発明の他の目的は、2018年3月21日に寄託番号MUCL57072で寄託されたDominikia sp. を含む組成物を提供することである。
特定の説明に縛られることなく、驚くべきことに、本発明のドミニキアsp.とそれを含む組成物は、農作物特に穀類農作物に有益な効果を奏することが観測された。
【0020】
特に、ドミニキアsp.を含む組成物を、農作物特にシリアル(穀物)農作物(例:トウモロコシ、小麦、大麦、稲)に与えることにより、それを与えなかった場合に比較して、栄養素の取り込み量の増加と穀物の収量の改善が観測された。好ましくは、組成物中のドミニキアsp.の濃度は、4.0-10重量%、より好ましくは3.0-2.0重量%、更に好ましくは2.5-2.3重量%である。
【0021】
一実施例によれば、本発明の組成物は、液体、固体、ジェルのいずれかの形態の組成物である。好ましくは、本発明の組成物は、固体の形態の組成物である。一実施例によれば、本発明の組成物は、粉末、乳化性濃縮物、顆粒、微細顆粒のいずれかの形態である。
【0022】
本発明の組成物は固体組成物である。その組成物中のドミニキアsp.の胞子(propagules)の濃度は、"Most Propable Number Method"(非特許文献1)で測定すると、組成物1グラム(g)当たり180-120個の胞子であり、好ましくは組成物1g当たり150-120個の胞子であり、更に好ましくは組成物1g当たり125-120個の胞子である。胞子の濃度は、最終品中の胞子の濃度である。
【0023】
一実施例によれば、本発明の組成物は、微細顆粒の形態である。
一実施例によれば、前記微細顆粒のサイズは、500-2000μmの範囲、好ましくは800-1500μmの範囲、より好ましくは900-1200μmの範囲である。
【0024】
好ましくは、ドミニキアsp.の濃度は、本発明の組成物において、更に組成物の存在の形態(例:微細顆粒)においては、所定の最終用途に従って、選択される。
【0025】
一実施例によれば、本発明の組成物は、殺菌株剤、生物性殺菌剤、殺虫剤、生物殺虫剤、殺線虫剤、生物性刺激剤の内のいずれかを更に含む。
【0026】
一実施例によれば、本発明の組成物は、種子をコーティング(以下「種子コーティング」と称する)する形態である。
例えば、殺菌剤は以下の群から選択される。
マネブ(Maneb),マコゼブ(Mancozeb), メタラキシ-リドミル(Metalaxyl-Ridomil), ミクロブタニル(Myclobutanil), オルピサン(Olpisan), プロパモカルブ(Propamocarb), キントゼン(Quintozene), ストレプトマイシン(Streptomycin), 硫黄(Sulfur),チオファネート-メチル (Thiophanate-methyl), チラム(Thiram), トリフォリン(triforine),ビンクロゾリン(vinclozolin),亜鉛白(Zinc white), ジネブ(Zineb), ジラム(Ziram), バンロット(Banrot), 固定銅(Fixed copper), クロロタロニル(Chlorothalonil), キャプタン(Captan), クロロネブ(Chloroneb), シプロクロナゾール(Cyproconazole), 亜鉛エテレン(Zinc ethelene), ビスジチオカルバメート(bisdithiocarbamate), エトリジアソール(Etridiazole), フェナミノスルフ(Fenaminosulf), フェナリモール(Fenarimol), フルトラニル(Flutolanil), フォルペット(Folpet), フォセチル-AL(Fosetyl-AL)、イプロジオン (Iprodione)。
代表的な生物性殺菌剤は以下の群から選択される。
トリコデルマ属(Trichodermas sp), 枯草菌(Bacillus subtilis), バシラスリチェニフォルミス(Bacillus licheniformis), バシラスプルミス(Bacillus pumilus),バシラス アミロリケファエンス(Bacillus amyloliquefaciens), ストレスミセス属(Streptomyces sp), コニオシリウムミニタン(Coniothyrium minitans),ピシリウムオリガンドラム(Pythium oligandrum)。
【0027】
一実施例によれば、殺虫剤は、以下の群から選択される。
有機リン酸塩(organophosphate), カルバメート(carbamate),ネオニコチノイド(neonicotinoid)。
一実施例によれば、生物性殺虫剤は、以下の群から選択される。
バシラス種(Bacillus sp.), クロモバクテリウム種(Chromobacterium sp.), ボーベリア種(Beauveria sp.)、マタリズム種(Metarhizium sp.)。
一実施例によれば、線虫剤は、以下の群から選択される。
有機リン酸塩(organophosphate),カルバメート(carbamate.)。
一実施例によれば、生物線虫剤は、パスツリア種(Pasteuria sp)である。
本発明の別の目的は、ドミニキアsp.菌株を含む組成物の調整方法である。
【0028】
本発明の方法は、以下のステップを含む。
(A)基質を提供するステップと、
(B)前記基質に、宿主植物の種子と寄託番号MUCL57072で寄託されたドミニキアsp.菌株とを提供するステップと、
(C)前記宿主植物を栽培し給水し、前記基質を苗場容水量の75%以上の湿分レベルに維持するステップと、
(D)少なくとも7日間前記給水ステップ(C)を中止するステップと、
(E)前記宿主植物の地上部と前記基質を除去するステップと、
(F)前記除去された基質を乾燥させるステップと、
(G)前記乾燥した基質を粉砕するステップ。
これにより、100μm未満の粒子サイズを有する顆粒を得る。
【0029】
好ましくは、基質はクレイ(粘土)を含む。
一実施例によれば、前記ステップ(B)のドミニキアsp.は、ドミニキアsp.の胞子を含む接種物である。好ましくは、この接種物は、以下の手順により得られる。
(B1)宿主植物の根系に高純度のドミニキアsp.を提供し、(B2)この宿主植物を粘土(好ましくは滅菌スメタイト粘土、以下単に「粘土」とも称する)を含む基質上でそのライフサイクルの間育て、(B3)その後根系を抽出して、接種物を得る。
この場合、接種物は、ある量の基質と、細根又は小根(rootlet)と、ドミニキアsp.の胞子を含む。
【0030】
一実施例によれば、本発明の方法は、微細顆粒化するステップ(H1)を含む。
好ましくは、このステップ(H1)により、本発明のドミニキアsp.菌株を含む組成物は、微細顆粒の形態で得られる。上記したように、前記微細顆粒のサイズは、500-2000μmの範囲、好ましくは800-1500μmの範囲、より好ましくは900-1200μmの範囲である。
【0031】
一実施例によれば、本発明の方法は、濃縮接種物を準備するステップ(H2)を含む。これにより穀物の種子をコーティングする。即ちステップ(G)で得られた粉砕製品の穀物の種子をコーティングする濃縮接種物を得る。本明細書において、前記ステップ(H2)は、組成物内のドミニキアsp.(例:ドミニキアsp.胞子)の濃度を上げることを意味する。
【0032】
前記ステップ(H2)は、前記ステップ(G)で得られた粉砕された生成物を篩いにかけることにより行われ、所定の値(例:35μm)以上の粒子サイズを有する顆粒を選択する。
【0033】
好ましくは、ステップ(H2)により、ドミニキアsp.(例:ドミニキアsp.胞子)の濃度を最初の濃度(ステップ(H2)前の生成物内のドミニキアsp.の濃度)に比較して、10倍に、好ましくは50倍に、更に好ましくは100倍に上げる。
【0034】
一実施例によれば、ステップ(H2)前の生成物内のドミニキアsp.(例:ドミニキアsp.胞子)の最初の濃度に比較して、濃度を100倍に上げることも可能である。
【0035】
一実施例によれば、本発明の方法は、(I)種子コーティングを行うステップを含む。即ち、ステップ(H2)により得られた濃縮生成物種子コーティングを行う。
【0036】
前記種子コーティングを行うステップ(I)は、以下のステップを含む。
(I1)前記種子を粘着性物質で覆うステップと
(I2)前記濃縮接種物を添加するステップと、
(I3)選択的事項として、下記のサブステップから選択された親和性のある処理を施すステップと、
(I3.1)菌根形成菌(mycorrhizal froming fungi)と親和性のある殺菌剤、殺虫剤、除草剤の内のいずれかで処理するサブステップ、
(I3.2)有益な微生物で処理するサブステップ、
(I3.3)マクロ又はミクロ栄養素で処理するサブステップ、
(I3.4)刺激剤で処理するサブステップ、
(I3.5)菌根形成菌と親和性のある着色色素で処理するサブステップ、
(14)前記種子を乾燥させるステップ。
【0037】
本発明の他の目的は、寄託番号MUCL57072で寄託されたドミニキアsp.菌株を含む組成物を植物の生物性刺激剤として使用することである。本明細書において、「生物性刺激剤」とは、植物に本発明の組成物が及ぼす刺激を意味する。
【0038】
特定の科学的説明に縛られることなく、以下が仮説として説明できる。即ち、本発明のドミニキアsp.菌株は、栄養素の転流の機能を発揮し、これらの栄養素を土壌又は基質から取りだし、この栄養素を代謝系で使用し、この栄養素を菌糸ネットワークから転流させ、続いて、それらを根細胞内で交換する。
【0039】
一実施例によれば、本発明の組成物は、穀物に対する生物性刺激剤として使用される。本発明の他の目的は、寄託番号MUCL57072で寄託されたドミニキアsp.菌株を含む組成物を植物の生物性殺線虫剤として使用することである。言い換えると、本発明の組成物は植物を線虫から保護する。
【0040】
一実施例によれば、本発明の組成物は、穀物に対する生物性殺線虫剤として使用される。好ましくは、本発明の組成物は、植物即ち穀物例えば穀類農作物に、いくつかの方法で与えられる。一実施例によれば、本発明の組成物は、植物に以下の方法で与えることができる。即ち、種子処理(即ち、種子コーティング)、根処理、乳濁液に沈めた根、潅漑水への添加、灌漑、粉末状での根系への添加、乳濁液の根系への注入適用である。
【0041】
好ましくは、特に本発明の組成物が穀類に提供される時は、本発明の組成物は、種子コーティングにより、種まき時に種子と共に、微細顆粒の形態のいずれかで提供される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】ドミニキアsp.で処理した植物の視覚密度(%)で表した胞子生成(spore production)と菌類占有(fungal occupation)のグラフ。横軸:DPT(移植後の日数)、縦軸:1g土壌当たりの胞子数/視覚密度(%)黒四角;視覚密度(%)、白四角:1g土壌当たりの胞子数
図2】ドミニキアsp.で処理したアーバスキュラー外菌糸体(arbuscular external mycelium)とアーバスキュラー内部増殖菌(arbuscular endophyte)の挙動を示すグラフ。横軸:DPT(移植後の日数)、縦軸:土壌50g当たりMg黒四角;アーバスキュラー外菌糸体、白四角:アーバスキュラー内部増殖菌
図3】ドミニキアsp.で処理したアーバスキュラー外菌糸体とアーバスキュラー内部増殖菌の間の関係を示すグラフ。横軸:DPT(移植後の日数)、縦軸:MEA:EA黒四角;MEA:EA
図4】表1を示す。
図5】表2を示す。
図6】表3を示す。
図7】表4を示す。
図8】表5を示す。
図9】表6を示す。
図10】表7を示す。
図11】表8を示す。
図12】表9示す。
図13】表10を示す。
図14】表11を示す。
図15】表12を示す。
図16】表13を示す。
図17】表14を示す。
図18】表15を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
実験編
実験例1:分子分析
DNA-抽出
分離された菌糸と胞子を、1.5mLのEppendorf試験管に、0.2gのガラス・ビーズ(直径2mm)と100μLのCTABバッファー液(2%CTAB=臭化セチルトリメチルアンモニウム(cetyltrimethylammoniumbromide),1.4M Nacl,0.1M Tris-HclpH7.5 0.2M Na-EDTA)と共に入れられた。この混合物を、RetschMM301ボールミルで、50Hzで30秒間均質化した。400μLのCTABバッファー液を更に添加し、この混合物を65℃で1時間培養した。400μLのクロロフォルム-イソアミルアルコール(Cholroform-Isoamylalkohol)(24:1)を懸濁液に添加し、反応チューブを反転して混合した。その後、5分間15000gで遠心分離し、最上層をきれいなEppendorf試験管に回収した。このステップを2回繰り返した。この懸濁液に200μL5M酢酸アンモニウムを添加した。この混合物を4℃で少なくとも30分間培養した。その後、20分間4℃、15000gで回転させた。DNAを700μLのイソプロパノール(Isopropanol)、-20℃で一晩沈殿させた。イソプロパノールによる沈殿後得られたDNAペレットを氷冷した70%のエタノールで洗浄し、空気乾燥させ、50μLのTEバッファー液(10mM Tris, 10mM EDTA, pH8)+4.5URNase/mLに再溶解させた。
【0044】
PCR条件
18SrDNAは、プライマーGEOA2,GEO11(非特許文献2)で増幅された。PCR増幅用と18SrDNA内部転写スペーサー領域の配列決定用に使用されるプライマーは、Glom1310とITS4i(非特許文献3)であった。増幅は、0.2mMdNTP-mix,1mMの各プライマー、10%のPCR反応バッファー、無菌の分子グレードの水で行われた。GoTaq(登録商標)DNAポリメラーゼ(ドイツ国、マンハイム市 プロメガ社製(Promega Mannheim Germany))が、4u/100μLの反応混合物で添加された。2μLのゲノムDNAテンプレートが、各20μLの反応混合物で使用された。増幅は、200μL反応管内のPrimus 96最新式の熱サイクラー(peqLab Biotechnology社製)内で、次のPCR条件で行われた。96℃で180秒間の初期変性:続いて1サイクル(96℃を30秒間、58℃を30秒間、72℃を30秒間)を35回繰り返し、そして72℃で10分間の最終延長である。
【0045】
配列データとグロムス門分類
Krueger et al.(非特許文献4)によって発行された参照/基準アラインメント(reference arignment)が、18S系統発生の基礎として使用された。類似の環境配列を同定するために、Dominikia sp. は、遺伝子バンク(GenBank)にブラストされた。高度に類似する配列が、18Sツリーの基礎を構成するアラインメントに含まれる。発行された部分的18S-ITS1-部分的5.8S配列が、ドミニキア系統発生に用いられた。
【0046】
アラインメントは、最初はClustal Wによって実行された。最尤系統分析(maximum likelihood phylogenetic analysis)は、CIPRES web-portal (非特許文献5)を介して、100ブーツトラップ(bootstrap replicas)複製とGTRGAMMAモデルを用いて、計算された。バイジアン・コンセンサス・ツリー(Bayesian consensus tree)が、MrBayes version 2.0.5を用いて構築された。ランダムに生成されたスターティング・ツリーでの2つの枝分かれたMC3ランを、GTR+1モデルを利用して実行し、1つのコールド・チェーンと3つのヒート・チェーンを有する2M世代(generation)を得た。全てのパラメータはデータから推定される。ツリーは、1000世代毎にサンプリングされる。200000世代は、バーン・イン(burn-in)として廃棄され、コンセンサス・ツリーは、戻されたサンプルから構築された。
【0047】
実験例2:本発明の組成物の実施例の調製手順-種子コーティング用の濃縮された組成物
第1フェーズ-温室条件
基質:スメクタイト粘土を、pHが7.8-8の間で選択し、基質として使用する前に、3日間の交互のサイクルで滅菌する。
AMF菌株:純粋な状態のドミニキアsp.胞子(Dominikia sp. propagules)を開始接種物として使用する。この種の接種物は、90-180日のサイクルで、宿主植物が制御された状態にある成長室内または温室内で、常に連続的に再生される。様々な植物を用いて、接種物を連続したサイクルで複製して、同一宿主での病気の伝染を避ける。
夏-秋:トウモロコシブルゲア(Sorghum vulgare)と メボウシ属sp.(Ocimum sp.)
冬-春:ホソムギ(Lolium perenne)
培養ポット:15リットルの容量のポットが使用される。
【0048】
宿主植物の成長条件
成長室又は温室において、培養は、宿主植物の根系に直接接種することで始まる。この接種は、無菌のスメクタイト粘土製基質中でAMF(ドミニキアsp.)の選択された菌株の純粋な接種物で行われた。この宿主植物は、完全なライフサイクルで成長する。そのサイクルは、宿主植物の種類によっては90-190日間かかる。これらの植物は、常に十分に水分補給されており、25-28℃の温度範囲、相対湿度65%で、毎日灌漑給水(無菌水で)されている。これが完了すると、根系が抽出される。この根系は、スメクタイト粘土製基質、小根、純粋なAMF胞子を含む。その後これは、第2フェーズで規模拡大(scale up)する為に使用される。
【0049】
接種物の品質を決定する為に、次の最小仕様が用いられた。
全胞子数:50-225個の胞子/g
マトリックス外菌糸体:70mg/kg基質
小根でのコロニー化割合(%):ソルガム>50%、ドクムギ属>45%、メボウシ属>40%
MPN濃度:基質100ml当たり10000胞子
【0050】
第2フェーズ-規模拡大(スケールアップ)
ステップ1:ベッド即ち苗床の準備
苗床は、プラスチック・ライナー材料で形成されている。その為苗床は周りの土壌から離れている。苗床の構造は、排水が行われ、望ましくない植物の成長が阻止される。好ましくはプラスチック製のカバーで覆われている。
【0051】
苗床は選択されたスメクタイト粘土(Arcilla Roja Galve)で満たされている。この粘土の湿度は約15%であり、苗床を粘土で満たす間その取り扱いが容易になる。粘土充填後、灌漑が飽和するまで行われ、粘土の生体構造を改善する。
-苗床は水はけの良い場所に置かれる。
-苗床は任意の大きさである。ただし、苗床を世話するのに必要な作業員と道具の移動が容易になるようアクセスを考慮に入れて決められる。
-苗床は、場所のニーズに応じて示された灌漑系を有する。好ましい灌漑系の設定は、点滴灌漑又はスプリンクラーのいずれかであり、自動化されており、苗床の所定の領域毎に独立して水やりができる。
【0052】
ステップ2:宿主植物の種
このシステムで設定される宿主植物の種と菌根菌の決定:
宿主植物の種と菌根菌の種子の選択と同定は、特定の場所の条件と生産の目的に対応する。ライ麦(Rye grass)(多年生のドクムギ属(Lolium perenne))と第1フェーズで予め調製されたAMFが使用される。
【0053】
ステップ3:宿主植物への種植えと接種
宿主植物を植える前に、種子の発芽(seed germination)が試験される。この試験結果に基づいて、適切な種子植え率(seeding rate)が決定される。多年生のライ麦(perennial ryegrass)の場合、事前に認証された種子を80kg/haの割合で、ペレット状で万遍なく蒔く。この種子と組み合わせて、20gのAMF接種物のm2苗床がスメクタイト粘土に直接適用される。種まき直後に、灌漑/注水を細かいスプレーで行い、種子と接種物の再分散/拡散を防ぐ。
灌漑に使用される水は、以下の特性を有する。
-pH値:6以上7.5以下
-電気伝導率:1.6mS/m以下
-可溶な総塩量:1000ppm以下
-ナトリウム吸収率(Sodium Absorption Ratio)(SAR)<10
-重元素と病原菌を含まない。灌漑用水は飲料水が好ましい。
【0054】
ステップ4:培養活動と灌漑
適用される灌漑は、苗場容量(field capacity)を100%達成できるほど十分でなければならない。しかし水を過剰にやったり、水溜まりが出来たり、水が溜まった状態になるのを避けねばならない。苗床は、粘土の水分が苗場容量の75-80%に低下した時に、再度灌漑する。
【0055】
ステップ5:菌根共生の確立の管理と菌根菌のコロニー化(colonization)の発達の動きの知識
宿主植物の成長と発達の間、AMF根でのコロニー化が起き、宿主植物と菌株との間の共生が確立される。この関係の発達を評価するために、根系(root system)の周期的なサンプリングが行われ、菌根発達が評価される。コロニー化を評価するのに使用される方法は、Gerdeman & Nicolson (1963)(非特許文献6)とMcGonigle (1990)(非特許文献7)とPhillip s & Hayman(1970)(非特許文献8)である。
【0056】
サンプリングは、植え付けから2月後に始まり成長期の終わりまで毎月続ける。これらのサンプルから得られた情報で、接種物内の菌根共生の発達の動きを決定することができる。
【0057】
生成過程の評価は、菌根根(mycorrhizal root)のコロニー化、菌糸体のマトリックス外濃度、周期的に採取された胞子含有粘土サンプルに基づく。
菌根生成の発達の動きを知ることにより、最適な収穫時期を決定でき、宿主植物と菌根菌株に対する共生の過程の大部分を作り出すことができるようになる。
【0058】
ステップ6:収穫
使用される宿主植物が多年生のドクムギ属(perennial Lolium)であると、最適な収穫時期は、種まきから6-7月の間である。理由は、その期間で宿主植物が成熟し、その寿命サイクルを完了させ、活力を失わせ、黄色に変色する傾向を示すからである。
【0059】
収穫予定日の15日前に、灌漑給水を止め、葉を保持し、粘土が徐々に湿分を失うようにして、接種プロセスを完了する。この作業/活動が雨期に一致した場合、苗床を防水性のプラチックでカバーして、苗床を雨から守り、苗床を乾燥状態に適時維持する必要がある。土の上の方で、宿主植物からの葉をまず手で取り除く。収穫は、苗床から粘土を取り除くことで行われる。基質の除去は、粘土を出来る限り薄い部分に分割することにより、行われ、苗床容器の深さ方向でその内容物を混合して、それを輸送用のバッグに入れる。
【0060】
ステップ7:接種物の乾燥と粉砕
乾燥:収穫された基質と菌根胞子は、50℃で30日間日光にさらし熱消毒をする。乾燥期間は、湿度が5%以下になるまで行われ、粉砕プロセスを容易にする。
粉砕:製品は工業用製粉所で粉砕され2℃に冷却し、菌根胞子の過熱を回避する。粉砕は、粒子サイズが100μmになるまで、継続する。
【0061】
第3フェーズ-濃縮
ステップ7の後、粉砕されたバイオマスは、35μmの篩いを用いて濃縮する。この値以下の粒子(最初の物の60-70%)は廃棄され、25-30%がこのサイズを通過せず、篩いに残り、最終的に濃縮した組成物になる。この技術を用いて、100ml当たり1.2x10個から1.2x10個の胞子を通過させた。最終品の出口相対湿度は、5%未満である。
【0062】
品質制御:最終品の純度と濃度は、Porter (1979)の最も可能性の高い数値法(非特許文献9)に従って決定された。
【0063】
梱包:最終品は、梱包され、出荷用のラベルが付された。
濃縮組成物(concentrated composition)の最終濃度は、MPN濃度>生成物100ml当たり1.2x10の胞子である。
【0064】
第4フェーズ-種子コーティング
菌糸体接種物による種子のコーティングは種子コーティング用の特別な機械で行われる。例えば、従来のコンクリート・ミキサー又は混合容器内で手動で行われる。種子コーティングは、下記の様々なステップを必要とする。
【0065】
(1)最初のステップとして、種子を接着性基質(adhesive substance)でコーティングする。水に加えて使用される接着性物質は、有機接着剤(ゼラチン、エチルセルロース、プロピレングリコール等)と無機接着剤(鉱油、ポリビニル、プラスチックレジン等)を含む。好ましい接着剤は、ポリビニル基のポリマー又はコポリマーである。その一例は、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)、ポリビニルアセテート(polyvinyl acetate)である。接着剤は、水溶液又はアルコール溶液にその最適な溶解度まで添加される。接着剤の量は、コーティングされるべき種子の総重量の、0.1-15%の間、好ましくは0.5-10%の間、より好ましくは1.0-5%の間で変えられる。使用される接着剤の量は、接着剤の化学特性と処理すべき種子の種類に依存する。接着剤で種子を処理する時間は、種子100kg当たり、1-60秒の間、好ましくは5-50秒の間、より好ましくは10-40秒の間である。
【0066】
(2)接着剤でコーティングした後、菌根接種物を添加する。種子に添加される接種物の比率は、種子の重量の、0.1-15%の間、好ましくは0.1-15%の間、より好ましくは0.5-10%の間、更に好ましくは1-5%の間で選択される。これは種子の種類と多様性に依存する。菌糸体接種物による種子の処理時間は、種子100kg当たり、1-50秒の間、好ましくは5-40秒の間、より好ましくは10-30秒の間である。
【0067】
菌糸体処理は、以下の(2a)-(2e)に記載した他の処理と組み合わせることもできる。これらの処理は、菌根接種物処理から切り離して実行して、多層のコーティングを得てもよい。各層のコーティングで行われるステップは、菌根接種物の場合のそれらと同じである。これらの層は、無害の、石灰質物質(炭酸カルシウム等)、粘土、ポリマー由来物(polymeric origin)のいずれかで、種子をコーティングすることにより、分離される。ペレット化物質又は外皮形成物質は、種子の重量の、50%、好ましくは40%、更に好ましくは30%を超えてはならず、上記(1)で述べた接着性物質の付いた種子に添加される。
【0068】
(2a)菌糸体を形成する菌と親和性のある殺菌剤、殺虫剤、除草剤による処理。
一般的に、市販されている除草剤と殺虫剤の全ては、菌糸体を形成する菌(mycorrhizal forming fungi)と親和性がある。しかし殺菌剤の全てが、菌糸体菌の生存に適合するわけではない。使用される主な殺菌剤は、以下を含む。
アゾキシトロビン(azoxystrobin)、カルボキシン(carboxin)、シプロコナゾール(cyproconazole)、クロロタロニル(chlorothalonil)、メタラキシル(metalaxyl)、ミクロブタニール(myclobutanil)、プロチオコナゾール( prothioconazole)。
使用する農薬(pesticide)の量は、製造業者の推奨事項に依存し、様々な農薬がニーズに応じて使用される。
【0069】
(2b)以下を含む有益な微生物による処理。
トリコデルマspp.(Trichoderma spp.),リゾビウム(Rhizobium )菌、担根体(rhizosphere)に有益な微生物の組み合わせ。
担根体の一例は、アスペルギラス(Aspergillus)、ペニシリウム(Penicillium)、窒素固定菌(nitrogen fixing bacteria)等である。
【0070】
(2c)マクロ栄養素又はミクロ栄養素による処理:
窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、硫黄(S)は、必須のマクロ栄養素である。これに対し、鉄(F)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、ボロン(B)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、塩素(Cl)は、必須のミクロ栄養素である。コーティング用の栄養素のドーズ量は、コーティングされるべき種子の総重量の0.01-15%の間で、好ましくは0.05-10%の間で、更に好ましくは0.1-5%の間で変わる。
【0071】
(2d)刺激剤による処理:
種子を刺激剤でコーティングする。これの刺激剤は、種子の発芽と成長、植物の防御と胞子形成、菌根菌の成長を誘発する。これの刺激剤は、植物ホルモン(phytohormone)(アブシジス酸(abscisic acid)、ストリゴラクトン(strigolactones)、ブラシノステロイド(brassinosteroids)等)とそれらの誘発体と誘導体、二次代謝産物(フラボノイド(flavonoids)、テルペノイド(terpenoids))、補因子(cofactors)(金属イオン等)のいずれかである。
【0072】
(2e)着色色素による処理:
これらの色素は、菌糸体菌の生存に適合しなければならず、処理済みの種子と未処理の種子とを明確に個別できるものでなければならない。
【0073】
(3)ステップ1,2は、接着性物質を利用した菌根接種物の完全なコーティングが、1-40秒の間、好ましくは5-30秒の間、より好ましくは10-20秒の間で行われることを、意味する。
【0074】
(4)菌糸体の処理の後、種子の乾燥は、1-50秒の間、好ましくは5-40秒の間、より好ましくは10-30秒の間で行われる。このステップ(4)はステップ(5)の後に実行してもよい。
【0075】
(5)最後に、コーティングされた種子は、コーティング室から容器に放出される。この放出の持続時間は、5-30秒の間、好ましくは10-25秒の間、より好ましくは15-20秒の間で変わる。
【0076】
実験例3:本発明の組成物の実施例の調製手順-微細顆粒化された組成物
第1フェーズ-温室条件
基質:pHが7.8-8の間のスメクタイト粘土を選択し、基質として使用する前に、3日間の交互のサイクルで滅菌する。
AMF菌株:純粋な状態のドミニキアsp.胞子(Domiikia sp. propagules)を開始接種物として使用する。この種の接種物は、90-180日のサイクルで、宿主植物が制御された状態にある成長室内または温室内で、常に連続的に再生される。様々な植物を用いて、連続したサイクルで接種物を複製して、同じ宿主での病気の伝染を避ける。
夏-秋:モロコシブルゲア(Sorghum vulgare)と メボウシ属sp.(Ocimum sp.)
冬-春:ホソムギ(Lolium perenne)
培養ポット:15リットルの容量のポットが使用される。
【0077】
宿主植物の成長条件
成長室又は温室において、培養は、無菌のスメクタイト粘土製基質中でAMF(ドミニキアsp.)の選択された菌株の純粋な接種物で宿主植物の根系に直接接種することで始まる。これらの植物は、完全なライフサイクルで成長する。そのサイクルは、宿主植物の種類によっては90-190日間かかる。これらの植物は、常に十分に水分補給されており、25-28℃の温度範囲、相対湿度65%で、毎日灌漑給水(無菌水で)されている。これが完了すると、根系が抽出される。この根系は、スメクタイト粘土製基質、小根、純粋なAMF胞子を含む。その後これは、第2フェーズで規模拡大する為に使用される。
【0078】
接種物の品質を決定する為に、次の最小仕様が用いられた。
全胞子数:50-225個の胞子/g
マトリックス外菌糸体:>70mg/kg基質
小根でのコロニー化割合(%):ソルガム>50%、ドクムギ属>45%、メボウシ属>40%
MPN濃度:基質100ml当たり10000個の胞子
【0079】
第2フェーズ-規模拡大
ステップ1:苗床の準備
苗床は、プラスチック・ライナー材料で形成されている。その為苗床は、周りの土壌から離れている。苗床の構造は、排水が起こり、望ましくない植物の成長が阻止され、プラスチック製のカバーで覆うのが好ましい。
【0080】
苗床は、選択されたスメクタイト粘土(Arcilla Roja Galve)で満たされている。この粘土の湿度は約15%であり、苗床を粘土で満たす間その取り扱いが容易になる。粘土充填後、灌漑が飽和するまで行われ、粘土の生体構造を改善する。
-苗床は水はけの良い場所に置かれる。
-苗床は任意の大きさである。ただし、苗床を世話するのに必要な作業員と道具の移動が容易になるようなアクセスを考慮に入れて決められる。
-苗床は、場所の必要に応じて示された灌漑系を有する。好ましい灌漑系の設定は、点滴灌漑又はスプリンクラーのいずれかであり、自動化されており、苗床の所定の領域に独立して水やりができる。
【0081】
ステップ2:宿主植物の種
このシステムで設定される宿主植物の種と菌根菌の決定:
宿主植物の種と菌根菌の種子の選択と同定は、特定の場所の条件と生産の目的に対応する。ライ麦(Rye grass)(多年生のドクムギ属(Lolium perenne))と第1フェーズで予め調製されたAMFが使用される。
【0082】
ステップ3:宿主植物の種植えと接種
宿主植物を植える前に、種子の発芽(seed germination)が試験される。この試験結果に基づいて、適切な種子植え率(seeding rate)が決定される。多年生のライ麦(perennial ryegrass)の場合、事前に認証された種子を80kg/haの割合で、ペレット状で万遍なく蒔く。又、この種子と組み合わせて、20gのAMF接種物のm2苗床がスメクタイト粘土に直接適用される。種まき直後に、灌漑を細かいスプレーで行い、種子と接種物の再分散を防ぐ。
灌漑に使用される水は、以下の特性を有する。
-pH値:6以上7.5以下
-電気伝導率:1.6mS/m以下
-可溶な総塩量:1000ppm以下
-ナトリウム吸収率(Sodium Absorption Ratio)(SAR)<10
-重元素と病原菌を含まない。灌漑用水は飲料水が好ましい。
【0083】
ステップ4:培養活動と灌漑
適用される灌漑は、苗場容量(field capacity)を100%達成できるほど十分でなければならない。しかし水を過剰にやったり、池となったり水が溜まった状態になるのを避けねばならない。苗床は、粘土の水分が苗場容量の75-80%に低下した時に、再度灌漑する。
【0084】
ステップ5:菌根共生の確立の管理と菌根菌のコロニー化の発達の動きの知識
宿主植物の成長と発達の間、AMFの根でのコロニー化が起き、宿主植物と菌株との間の共生を確立する。この関係の発達を評価するために、根系(root system)の周期的なサンプリングが行われ、菌根発達が評価される。コロニー化を評価するのに使用される方法は、Gerdeman & Nicolson (1963)(非特許文献6)とMcGonigle (1990)(非特許文献7)とPhillip s & Hayman(1970)(非特許文献8)である。
【0085】
サンプリングは、植え付けから2月後に始まり成長期の終わりまで毎月続ける。これらのサンプルから得られた情報で、接種物内の菌根共生の発達の動きを決定することができる。
【0086】
生成過程の評価は、菌根でのコロニー化、菌糸体のマトリックス外濃度、周期的に採取された胞子含有粘土サンプルに基づく。
菌根生成の発達の動きを知ることにより、最適な収穫時期を決定でき、宿主植物と菌根菌株に対する共生の過程の大部分を作り出すことができるようになる。
【0087】
ステップ6:収穫
収穫が、製造プロセスの中で最も重要なステップである。使用される宿主植物が多年生のドクムギ属(perennial Lolium)であると、最適な収穫時期は、種まきから6-7月の間である。理由は、この期間で、宿主植物が成熟し、そのライフサイクルを完了させ、活力を失わせ、黄色に変色する傾向を示すからである。
【0088】
収穫予定日の15日前に、灌漑給水を止め、葉を保持し、粘土が徐々に湿分を失うようにして、接種プロセスを完了する。この作業/活動が雨期に一致した場合、苗床を防水性のプラチックでカバーして、苗床を雨から守り、苗床を乾燥状態に適時維持する必要がある。土の上の方で、宿主植物からの葉をまず手で取り除く。収穫は、苗床から粘土を取り除くことで行われる。基質の除去は、粘土を出来る限り薄い部分に分割することにより、行われ、苗床容器の深さ方向でその内容物を混合して、それを輸送用のバッグに入れる。
【0089】
ステップ7:接種物の乾燥と粉砕
乾燥:収穫された基質と菌根胞子は、50℃で30日間、日光にさらし熱消毒をする。乾燥期間は、湿度が5%以下になるまで行われる。粉砕プロセスを容易にする為である。
粉砕:製品は工業用製粉所で粉砕され2℃に冷却し、菌根胞子の過熱を回避する。粉砕は、粒子サイズが100μmになるまで、継続する。
【0090】
第3フェーズ-微細顆粒化
微細顆粒化プロセスは、以下の3ステップに分けられる。
(1)顆粒化された支持体を、回転するバイコニカル・ミキサーへ添加する。
この支持体を作る為、雲母、アタパルガイト(attapulgite)、石灰石の混合物が用いられた。この濃度は、40-90重量%の間、好ましくは50-80重量%の間、より好ましくは60-70重量%の間である。
【0091】
(2)菌糸体(mycorrhizae)(AMF)の添加:
AMFは、バインダーと共に、スクリューで回転するバイコニカルなミキサー内に投与された。AMFの濃度は、ステップ7で生成されたドミニキアsp.の10-60重量%の間、好ましくは20-50重量%の間、より好ましくは30-40重量%の間である。バインダーの一例は、ワックス(wax)、亜麻仁油(linseed oil)、アラビアゴム(gum arabic)、トラガカントガム(gum tragacanth)、メチルセルロース(methyl cellulose)ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)、タピオカ粉末(tapioca flour)、ラクトース(lactose)、スクロース(sucrose)粉末、微細結晶セルロース(microcrystalline cellulose)、ポリビニルピロリドン(poly vinyl pyrrolidone )、ラクトース粉末(lactose powder)、スクロース粉末(sucrose powder)、タピオカデンプン(tapioca starch )(カッサバ粉末(cassava flour))、ガム、タンパク質(卵白、カセイン(casein))等である。バインダーの濃度は、1-25重量%の間、好ましくは5-20重量%の間、より好ましくは10-15重量%の間である。この作業の間、ミキサーは、顆粒が完全に均質化するまで動き続けている。
【0092】
(3)梱包:
配合された製品は、完全に均質化されると、篩いの上に出され、塊やほこりを取り除く。最後に、製品は梱包ホッパーに集められ、そこから、自動的に対応する充填容器に入れられる。
【0093】
品質制御と梱包
品質制御:
最終品の純度と濃度は、Porter (1979)の最も可能性のある数値法(非特許文献9)に従って決定された。
【0094】
梱包:
最終品は、梱包され出荷用のラベルが付された。微細顆粒化された組成物の最終濃度は、MPN濃度>生成物100ml当たり1x10個の胞子である。
【0095】
実験例4:本発明の組成物が小麦(Triticum durum)の成長/発育に及ぼす影響:
本発明の組成物が小麦に及ぼす影響を調べるために、実験を、MurciaのCEBAS-CSIC社が所有する実験農場”Tres caminos"で行った。本発明の組成物は、AMF、寄託番号MUCL57072で寄託されたドミニキアsp.菌株を含む。
【0096】
実験計画は、4回の複製をしたランダムにされたブロック(塊)である。実験場所は、長さ3mで幅4.2mである。
【0097】
以下の処理が適用された。
(1)対照(コントロール):化学肥料や菌類は加えていない。
(2)本発明の組成物:微細顆粒の状態で、化学肥料(非特許文献10)と組み合わせて、10kg/haの割合で、提供された。
(3)標準製品:化学肥料投与(非特許文献10):150kg/haの窒素、54kg/haのリン、100kg/haのカリウム、15kg/haのカルシウム、15kg/haのマグネシウム、23kg/haの硫黄、及びその他の微細栄養素。
【0098】
植え付けは2013年11月1日に行われ、収穫は2014年6月1日に行われ、全部で240日かかった。種まきと接種は機械で行われ、穀物ドリル・ストロークが適用され、本発明の組成物は、微細顆粒の形態で10kg/haの割合で、種子と共に適用された。
【0099】
使用した土壌は、Nitisol(非特許文献11)と分類された。この土壌の化学的特性を得る為に、以下の分析方法が用いられた。
-pH:土壌-溶液比率 1:2.5
-有機物(organic matterMO):ウォークリーとブラック(Walkely and Black)
-P2O5:オニアニ(Oniani)
-交換可能な陽イオン:pH7でNH4ACを1ml/Lで抽出。錯滴定(complexometric titration)(Ca,Mg)とフレーム測光(flame photometry)(Na,K)を実行。
【0100】
これらの方法は、土壌、葉、有機肥料、化学肥料の分析用の分析技術のマニュアル(非特許文献12)に記載されている。化学土壌の特性の結果(表2)は、中程度から高程度の肥沃土を示し、有機物の平均量を記述する。これは、土壌のこの種類の記載事項(非特許文献13)に対応する。
表2:土壌の化学的特性
本発明のドミニキアsp.の菌類(fungal strain)は、塩性土壌から分離され、この菌類は高塩濃度に対し耐性がある。
【0101】
分析された変数は、以下であった。
根菌土壌(rhizospheric soil)1g当たりのAMFの胞子数(非特許文献14)、
根の染色技術による菌根コロニー化の割合(%)(非特許文献15)、
インターセプト法による視覚密度の割合(%)(非特許文献16)、
圧力鍋方式で得られた全グロマリン(glomalin)(糖タンパク(glycoprotein))量(非特許文献17)。
【0102】
葉の栄養素含有量(% N,P,K)と全タンパク量とは、INCA(非特許文献18)分析技術の研究所マニュアルに記載された方法で決定された。
収量は次のようにして評価された。スパイク当たりの粒(grain)の量、1m当たりスパイクの数、1000粒当たりの質量、農業収量(T/ha)で、決定された。
【0103】
実験結果の統計的処理は、一方向ANOVA解析で行われ、ダンカンのテスト(非特許文献19)が用いられた。平均値の間に差がある時は、統計プロセッサーSPSS11.5が、全ての場合に用いられた。
【0104】
結果と考察
表3は、菌根変数(mycorrhizal variable)に対する様々な処理の結果を示す。これらの値は、胞子数の増加を明確に示す。ここで、本発明の組成物は、対照(化学肥料なし)と標準製品に関連して適用された。
表3:研究された菌根変数に対する処理の効果
同じ列内の異なる文字は、p<0.05で大幅に異なる。
【0105】
上記のことは、強いコロニー化活性に起因し、AMFの他の種類による根コロニー化を困難にすることもある。他方で、菌根コロニー化は、本発明の組成物でより効果的であることを示している。本発明の組成物は、他の処理に比べてより高い値を示す。
【0106】
注目すべき点は、土壌中の在来菌株(native strain)はコロニー化の値が低いことを示していることである。視覚密度の値(菌根コロニー化の強度を測る変数)を見ると、最高の割合(%)が、本発明の組成物で得られていることが解る。
【0107】
別の注目すべき変数は、全糖タンパク量であった。この全糖タンパク量は、本発明の組成物で高かった。この現象は、本発明の組成物が適用された時に菌根共生がより高くなることと、土壌中の凝集体の形成を増加させる接種物の可能な影響を、再確認させる。更に、菌根接種物が適用されない処理では、この変数の値は低く、これは在来菌根の有効性が低いことに起因している。
【0108】
表4は、各処理における葉のミネラル含有量(foliar mineral content)を示す。窒素、リンに関しては、その含有量は、本発明の組成物が適用された場合がより高く、カリウム含有量は、化学肥料が投与された場合がより高かった。
表4:葉の窒素、リン、カリウム、総タンパク量
同じ列の異なる文字は、p<0.05で、大幅に異なる。
【0109】
この変数(%N葉)に対し報告された値(非特許文献20)は、4-5T/haの小麦収量の臨界指数より上である。
同様な結果(非特許文献21,22)は、葉の組織内に栄養素が存在することを示している。これは菌根共生プロセス(mycorrhizal symbiosis process)に起因する。このプロセスにより、窒素の吸収と移送が菌糸体を介して可能となっている。葉中のリンの含有量はどの処理に対しても有意差を示さない(表4)。これは、土壌中のこの元素(リン)の含有量に起因するのかも知れない。この元素は、この土壌溶液からそのラジカル系を介して植物により取り込まれる。特殊なケースにおいては、植物-アーバスキュラー菌根(菌根共生)と土壌の三者相互作用(tripartite interaction)により、デュラム小麦(durum wheat)中のこの栄養素の葉臨界指数よりも高い値を示し(非特許文献20)、良好な穀物の発育を示す。これと同様に、この値は、本発明の組成物を適用すると、高い傾向にあった。
【0110】
関連する別の変数は、葉のタンパク質含有量であり、これは、本発明の組成物での処理ではより高くなり、化学肥料での処理より更に高くなる。最後に、対照処理では大幅に低い割合(%)であった。
【0111】
収量とその成分の結果(表4)は、本発明の組成物と標準製品に対するデュラム小麦の反応を明確に反映している。ただし両者は高含有量のNで行われた。
表5:収量とその変数に対する処理の効果。
同じ列の異なる文字は、p<0.05で、大幅に異なる。
本発明の組成物と標準製品での処理は、対照と比較すると、各変数に対する最高の影響を与えた。これは、固体接種物のより大きな有効性と高濃度の窒素の適用により、説明できる。
【0112】
本発明の組成物に関連する小麦の栽培により、十分な生産性応答を、菌根操作の許容可能な指標で達成可能であり、土壌生物活性を改善し、更に対照と標準製品に比較して、8.8%の生産性の大幅な増加を達成できる。
【0113】
実験例5:本発明の組成物がトウモロコシ(Zea mays)の発育に及ぼす影響:
本発明の組成物がトウモロコシ(maize)に及ぼす影響を調べるために、"Egea de los Caballeros"町に近い現場の農場畑で実験を行った。本発明の組成物は、AMF、寄託番号MUCL57072で寄託されたドミニキアsp.菌株を含む。本発明の組成物の微細粒子の形態がテストされた。標準製品を用いてCambisol土壌でのトウモロコシの栽培に対する、両方の製品(var DKC 6717、Monsanto社)の効果を比較した。
【0114】
植え付けは2014年4月12日に行われ、収穫は2014年12月14日に行われ、全部で230日かかった。種まきと接種は機械で行われ、穀物ドリル・ストロークが適用され、本発明の組成物は、微細顆粒の形態で10kg/haの割合で種子と共に適用された。
【0115】
使用された植え付けは、0.7mx0.16mで、1m当たり全部で80本の植え付けだった。使用されたスプレイ・システムは18x18mであった。
実験計画は、3回の複製でランダムにされたブロック(塊)であった。実験場所は、長さ20mx幅20mであった。
以下の処理が適用された。
(1)本発明の組成物:10kg/haの割合で提供され、化学肥料投与(非特許文献10)。
(2)標準製品:化学肥料投与(非特許文献10):325kg/haの窒素、80kg/haのリン、200kg/haのカリウム、有機物をスラリーの形態で10T/haを最初に加えた。
【0116】
使用した土壌は、Cambisol(非特許文献11)と分類された。土壌の化学的特性を得る為に、以下の分析方法が用いられた。
-pH:土壌-溶液の比率 1:2.5
-有機物(MO):ウォークリーとブラック(Walkely and Black)
-P2O5:オニアニ(Oniani)
-交換可能な陽イオン:pH7でNH4ACを1ml/Lで抽出。錯滴定(complexometric titration)(Ca,Mg)とフレーム測光(flame photoetry)(Na,K)を実行した。
【0117】
これらの方法は、土壌、葉、有機肥料、化学肥料の分析用の分析技術のマニュアル(非特許文献12)に記載されている。化学土壌特性の結果(表6)は、中程度から高程度の肥沃土を示し、有機物の平均量を記述し、これは土壌のこの種類の記載事項(非特許文献13)に対応する。
表6:土壌の化学的特性
本発明のドミニキアsp.の菌類(fungal strain)は塩性土壌から分離される。この菌類は高塩濃度に対し耐性がある。
【0118】
分析された変数は、以下である。
根の染色技術による菌根コロニー化の割合(非特許文献15)、
インターセプト法による視覚密度(VD)割合(%)(非特許文献16)。
【0119】
葉の栄養素含有量(%N,P,K)は、INCA(非特許文献18)分析技術の研究所マニュアルに記載された方法で決定された。
収量は次のようにして評価された。スパイク当たりの穀物の粒量は、1m当たりスパイク数と、1000粒当たりの質量と、農業収量(T/ha)とで、決定された。
【0120】
実験結果の統計的処理は、一方向ANOVA解析で行われ、ダンカンのテスト(非特許文献19)が用いられた。平均値の間に差がある時は、統計プロセッサーSPSS11.5が、全ての場合で使用された。
【0121】
結果と考察
表7は、植え付け後45日と120日後の菌根活性の展開の結果を示す。これらの値は、本発明の組成物が適用された場合に増加した活性を示す。菌根でのコロニー化割合(%)の増加を示すだけでなく、コロニー化の強度が大きくなったことを示し、これは、高い視覚密度に反映されている。
表7:研究された菌根変数の処理の効果
同じ列内の異なる文字は、p<0.05で大幅に異なる。
【0122】
このアッセイは、最も効果的な接種物は本発明の組成物であることを示している。本発明の組成物は、他の処理に比較してより高い値を示す。視覚密度の値(菌根コロニー化の強度を測る変数)は、最大の割合は本発明の組成物に関係しており、有効性に直接関連していることを、示している。
【0123】
葉のミネラル含有量を測定した(表8)。その結果は、両方の処理(本発明の組成物と標準製品)の間に有意差がないことを示した。しかしより大きな栄養供給に向かう傾向がある。特に、ドミニキアsp.(本発明の組成物)の存在下での窒素を含有している場合である。表8は、トウモロコシに対し、120日目の葉の窒素、リン,カリウム:
同じ列内の異なる文字は、p<0.05で大幅に異なる。
本発明の組成物での処理で得られた窒素含有量は、4-5T/haの間の収穫の小麦の臨界指標より大きい(非特許文献20)。
【0124】
葉中のリンの含有量は、どの処理に対しても有意差を示さない(表8)。これは、使用された土壌中のこの元素(リン)の含有量に起因するかも知れない。リンは、この土壌溶液からそのラジカル系を介して植物により取り込まれる。特殊なケースにおいては、植物-アーバスキュラー菌根(菌根共生)-土壌の三者相互作用により、デュラム小麦(durum wheat)中のこの栄養素の臨界指数よりも高い値を示し(非特許文献20)、良好な穀物の発育を示す。この値は、本発明の組成物を適用すると、より高い傾向にあった。
【0125】
小麦とトウモロコシにおける同様な結果は、無機肥料の投与が、低用量のリンが適用された場合、コロニー化された根の長さの割合に対し及ぼす影響を示す。このことは、トウモロコシと小麦に対する本発明の組成物の重要性と有効性(即ち、本発明の組成物が窒素とリンの有無にかかわらず、土壌からのリンの吸収を増加させ、肥料の投与量を最小にする)を支持している。葉のカリウムの含有量は、研究中の様々な処理に対し同様であり、この穀物に対し満足するレベルを示し、このことはマクロ元素に関する穀物の記述(非特許文献20)と一致している。更に、この元素の高濃度イオンは、菌根植物とそれ以外の植物の両方に見いだされる(非特許文献23,24)。この理由は、この元素が土壌溶液中でより容易に移動できるという事実によると思われる。
【0126】
表9は、得られた結果をまとめたものである。表9は、本発明の組成物と標準製品の適用に対するトウモロコシの応答を明示している。
表9:培養中のその成分と収量に対する処理の効果;
同じ列内の異なる文字は、p<0.05で大幅に異なる。
【0127】
本発明の組成物で処理された植物は、標準製品によるものと比較すると、最高値を示す。このことは、植物との共生を確立する固体接種物のより大きな有効性、結果的に高用量の窒素のより良い同化により説明できる。
【0128】
最終結論として次のことが指摘できる。本発明の組成物を利用したトウモロコシの栽培により、生産性の観点から肯定的な生産応答を達成でき、無機肥料の投与に比較して9.18%の生成物の増量を達成できた。同様に栄養の指標は高い傾向を示し、本発明のAMFの使用は、土壌生物活性を改善し、より持続可能な管理に基づく生産性の大幅な増加を促進した。
【0129】
実験例6:ドミニキアsp.と接着性基質によるトウモロコシ種子のコーティングが菌根活性に及ぼす有効性:
目的:ドミニキアsp.と接着性基質によるトウモロコシ種子のコーティングが菌根活性に及ぼす有効性を知ること。
この目的を達成する為に、3個のプランター(それぞれが繰り返しとみなされる)に、寄託番号MUCL57072で寄託されたドミニキアsp.と接着性基質でコーティングしたトウモロコシの種子を植えた。
【0130】
種子が2016年3月8日に植えられ、菌根コロニー形成アッセイが、Phillips and Hayman (1970)の染色技術(非特許文献15)を用いた根に対し、植え付け後21日目と35日目に、実行された。
表10:ドミニキアsp.と接着性基質の混合物でコーティングしたトウモロコシ種子からの小根の菌根コロニー形成の、植え付け後21日目(21dpp)と35日目(35dpp)における、割合(%MC):
表10は、分析された各サンプルにおいて、植物が成長するに連れて、菌根コロニー形成(化)割合が正の方向に増加していることを示している。この段階において、トウモロコシ上の初期コロニー形成点(incipient colonization point)のみが検出された。この初期コロニー形成点は、形成開始したばかりのマトリックス外菌糸体網(network of extramatical mycelium)により形成されたものである。
結論:
ドミニキアsp.と接着性基質を含む接種物の濃度状態(concentration)で行ったトウモロコシ種子のコーティングは有効である。その理由は、ドミニキアsp.が、植物の第1段階において、マトリックス外菌糸体として根内の菌根構成(mycorrhizal structure)を生成するからである。発芽した種子の胞子が見られ、内部発芽とコロニー形成網を形成する。コロニー形成の値がトウモロコシ成長の時間に依存することを示す。
【0131】
実験例7:小麦と大麦に対し本発明の組成物を微細顆粒形態で(in microgranulated form )適用した畑で得られた結果:
表11に、小麦と大麦に対し寄託番号MUCL57072で寄託されたドミニキアsp.を含む本発明の組成物を微細顆粒形態で適用した畑で得られた結果を示す。
【0132】
実験例8:トウモロコシに対し本発明の組成物を微細顆粒形態で適用した畑で得られた結果:
表12に、トウモロコシに対し寄託番号MUCL57072で寄託されたドミニキアsp.を含む本発明の組成物を微細顆粒形態で適用した畑で得られた結果を示す。
【0133】
実験例9:水田(flooded soil)での稲(Oriza sativa)の栽培におけるドミニキアsp.の菌根活性:
実験を行って、灌漑した塩水土壌状態中に、寄託番号MUCL57072で寄託されたドミニキアsp.を含む濃縮形態(in concentrated form)での本発明の組成物の菌根活性を決定した。使用された本発明の組成物の濃度は、基質1g当たり1-4x10個の胞子である。実施例によれば、本発明の組成物の濃度は、基質1g当たり1-2x10個、好ましくは1.2-1.8x10個である。
【0134】
材料と方法
実験は"Tres Caminos"実験農場で行われた。この農場は、CEBAS-CSIC社が所有し、Santomera 市(Murcia)のMatanza 地区にある。植物は、単層のトンネル型の温室で成長した。この温室は、約60mの面積を有し、ポリカーボネイト製のカバーで覆われ、天井窓はトリップ防止のメッシュで保護されている。更に冷却システムとアルミ製スクリーン・シェード・システムを備える。実験は、稲植物(Oriza sativa)品番J104で実施した。この稲は菌根接種処理を2回行ったが、対照はこの処理をしなかった。菌根処理は、寄託番号MUCL57072で寄託されたドミニキアsp.を含む濃縮形態の本発明の組成物で行い、その濃度は、稲の種子を1kg/haでコーティングする程度のドーズ量であった。
【0135】
接種が個々のシュートで確認されると、発芽後15日目に、この稲植物は、2mの表面積のコンクリート製チャネル当たり10個の植物の割合で移植された、これは、UNESCOの土壌分類(非特許文献30)に従って、Hidromorfico Gley Nodular Salinizado 土壌を両方の容器内の基質として用いて行った。主な特徴を表13に示す。培養作業が行われ、水の層が、全ての処理において、種子を蒔いてから18日後に、追加された。
表13:この実験で使用された前記Hidromorfico Gley Nodular Salinizado 土壌50g当たりの胞子数と化学的特性:
【0136】
濃縮形態の本発明の組成物の特性
この実施例においては、菌根接種物、濃縮形態での本発明の組成物は、寄託番号MUCL57072で寄託されたドミニキアsp.菌(fungus Dominikia sp.)を形成するアーバスキュラー菌根菌(AMF)を含む。本発明の組成物の濃度は基質1g当たり1-4x10個の胞子である。
【0137】
行われた決定
移植後90日間(単位:dpt)の動きが決定された。植物の高さと根系の深さが測定され、収穫量とその成分の一部も測定された。
【0138】
菌根菌の作用は、穀物の成長の間、以下の測定を実行することにより決定された。
アーバスキュラー・マトリックス外菌糸体(arbuscular extramatricla mycelium)とアーバスキュラー・内生菌(arbuscular endophtes)のコロニー形成割合(%)、視覚密度(%)を、ステレオ顕微鏡(streo micorscope)(ドイツ、ツァイス社製)とAxiostar 複合顕微鏡(compound microscope)(ドイツ、ツァイス社製)を用いて測定した。アーバスキュラー・マトリックス外菌糸体とアーバスキュラー内生菌の比率(MEA:EA)も計算された。
【0139】
サンプルの菌根評価(mycorrhizal evaluation)は、根の染色技術(非特許文献15)を用いて行われた。コロニー形成の割合は、インターセプト法(非特許文献16)を用いて決定された。視覚密度、アーバスキュラー内生菌、菌根活性の数学的計算は、提案されたプロトコル(非特許文献25,26)に従って決定された。土壌1g当たりの胞子の全数も決定された。
【0140】
統計による分析
結果の統計的処理は、分類の分散の単純解析により行われた。Tukeyのテストが用いられたのは、平均値の間に有意差がある時である。これはプログラムStatgraphics(登録商標) Plus 4.1を用いて行われた。図1,2,3のグラフについては、SigmaPlot 4 プログラムが用いられた。
【0141】
菌根コロニー形成の割合(%)は、計算式2arcsen √x を用いて変換された。
【0142】
結果と議論
表13は、実験で使用された土壌の化学的性質の一部を示す。この土壌は、わずかなアルカリ性のpHを有し、有機物Pの平均レベルとCa2+の値は、10cmol.kg-1のオーダーである。塩分特性については、Naの含有量が大きく、導電率が高く、これは塩分特性が強いことを示すが、肥沃の程度は稲の成長に許容できる程度である。
【0143】
この基質で見つかった胞子の量は非常に少なく、AMFの多様性と強度が低下している頻繁に使用されている農業用土壌の特徴である。この種の農業用土壌は、集中的な耕作、乱開発、典型的な化学化プロセス、塩化プロセス等が行われた土壌である(非特許文献27)。
【0144】
これらの条件下での稲植物の成長ダイナミクスの分析は、処理に際し明確な変数の挙動を、示した。植物の高さは順調に増加し、27日目以降の成長を加速させた(表14)。
表14:塩性土壌条件下でドミニキアsp.で処理した植物(D.t)と対照植物(C)の、処理後90日間の植物の高さ(cm)、根系の深さ(cm)、菌根コロニー形成(%MC):
DRS:根系の深さ、DPT:処理後の経過日、St.Sig:標準偏差
同じ列内の同じ文字は、p<=0.05で大幅には違わない。
【0145】
両方の処理は、高さが伸びる間は有意差がある。最高値は、対照処理で18日目までに得られた。その後は挙動に変化が見られ、植物高さの最高値は、効率的なAMFによる接種処理で得られた。
【0146】
これらの条件下での植物の成長ダイナミクスの分析は、処理したことによる変数の明確な挙動を明らかにした。植物の高さは順調に増加し、27日目以降の成長を加速させた。
【0147】
高さ変数の類似の挙動は、根系の深さでも観測された。これは、本発明の組成物で処理された植物のほうが32日経過後、対照植物より大きかった。
【0148】
この場合、挙動が加速される理由は、これは、菌類(fungus)が確立される植物の一部だからである。
【0149】
菌根コロニー形成の研究は、以前に分析された変数で見られるものに対し、異なる挙動を示した。この場合、両方の処理において、コロニー形成は累進的/進行性(progressive)であり、対照処理に比較してこの接種処理において常に最高値に達する。しかし、未接種の対照処理は、菌根コロニー形成の自然レベル自然条件で行われた実験の典型的な結果を示す。
【0150】
発達/生育は、AMFを接種した処理の場合、十分顕著であり、実験が灌漑条件(fluided condition)又は20日間水層を用いて行われたことを考慮すると、高い値に達する。
【0151】
栽培の最終時点において、根でのコロニー形成は44%の値に達する。この値は、稲の菌根の他の研究(非特許文献28)に比較しても高いと思われる。ここで、コロニー形成の最大値は、固形ベースの接種では、25%を超えることはない。
【0152】
図1は、本発明の組成物を濃縮形態で接種する処理による菌根活性の2つの非常に重要な菌類変数(fungal variables)の展開を示す。2つの菌類変数である胞子の集団/密度(population of spores)と菌類の占有(fungal occupation)は、視覚密度割合(%)で表されるが、これは菌糸体が内部の根をコロニー化する強さ以外の何ものでもない。
【0153】
視覚密度は、明確に定義された潜伏期間(latency phase)を有する通常の微生物の挙動を示した。この潜伏期間においては、菌類は、根内部を、0-20日をかけてゆっくりとコロニー化し、その後40日目(安定状態に達し栽培の終了時までの時間)まで指数関数的な成長を示す。
【0154】
胞子集団の場合、土壌内の値は、初日に検出され、接種(茎で最大15日)に由来し、その後、胞子は、徐々に時間をかけて消失し、発芽の生成物は、高温で湿度が良好な条件で、土壌中の固体数が減少するまで、置かれた。
【0155】
30日後、新たな胞子の生成が開始した。この胞子は、外部菌類バイオマスの発達と植物との共生の発達に由来する。この場合、胞子の数は、土壌1g当たり胞子数12個に迫る値まで成長し続けた。
【0156】
アーバスキュラー外菌糸体とアーバスキュラー内菌根の変数の分析(図2)は、非常に興味深い。その理由は、菌根共生菌(mycorrhizal symbiont)の内部挙動と外部挙動が、共生が毎年の成長サイクルを発展させるに連れて、どのように起こるかを示しているからである。
【0157】
この場合、外部菌糸体の高い値が、共生展開の第1段階の間、観測された。共生展開は、植物の成長を犠牲にした菌類の成長により引き起こされ、数年後に寄生付着プロセス(frank parasitic process)として発現した(非特許文献29)。この寄生プロセスは、植物内の菌根でのコロニー形成(低い光合成段階と高い代謝コストを伴う)の初期段階における菌糸体の豊かな成長(時間)に由来する。アーバスキュラー内菌根の発達は、逆の傾向に従う。非常に低い値が、最初の数日間表れる。成長の25日目以後、アーバスキュラー菌根共生における遷移と見なされる段階、まで有意な成長を達成しない。
【0158】
30日後、外部菌糸体の減少と安定化があり、植物の成長と共生に発展に関連する内生菌のゆっくりとした増加があった。
【0159】
図3は、稲穀物の菌根成分の間の関係(アーバスキュラー外菌糸体と内生菌糸体の間の比率(MEA:EA))を示す。共生の2つの主要な成分である外部菌糸体と内生菌の間のこの対応は、成長の様々な段階を経験するこの生物群衆(association)の活性度を表している(非特許文献30)。
【0160】
初期段階は、これらの変数だけでなく、未接種の対照又は非効率的な菌根化対照と比較した植物の成長の低下でも、表現される。これは、植物の成長に実質的な変化を引き起こすものではない(表2)。ここで初期段階とは、非常に低い値の内生菌に対応して高い値の外部菌糸が存在し、率直な寄生化を抑制する状態のことである、
【0161】
両方の部分がバランスを取り始める中間フェーズ即ち遷移フェーズと、両成分が値1以下で平衡状態になる時である交換の双利共生フェーズ(mutualist phase of exchange)が発生すると、根の内部で顕著な増加が見られ、細胞内のアーバスキュール(arbuscule)のレベルでの栄養素の適切な交換を保証する。
【0162】
特に、この穀物では、2つのフェーズは明確に定義できる。即ち20-25日目までの初期遷移フェーズと、それ以降の双利共生フェーズである。これと並行して、植物の高さの分析は、植え付け後27日目以降の未接種の対照に関連して、植物の成長のテイクオフを示す。この効果は、収量とその成分の分析に示されている(表15)。
表15:塩性土壌中で、ドミニキアsp.で処理された稲植物(D.t)と未処置の対照植物(C)の、植物当たりの稲穂の数(n)、稲穂の重量(g)、100粒の重量(g)、収量(g.植物-1):
NPP:植物当たりの稲穂の数(n)、PP:稲穂の重量(g)、P100g:100粒の重量(g)、R:収量(g.植物-1)、St.Sig:標準偏差、同じ列内の同じ文字は、p<=0.05で大幅には違わない。
【0163】
未処置の対照植物に比較して、ドミニキアsp.で処理された植物で測定された収量の全ての要素で増加が見られた。この実験の塩分条件は特に興味を引く。
【0164】
結論として、菌根菌(mycorrhizal fungus)のこの菌株の使用は、これらの土壌条件には有効であった。これは、塩分によるストレスの悪条件に対し、実行可能かつ持続可能は代替手段として非常に興味深い。
【0165】
以上の説明は、本発明の一実施例に関するもので、この技術分野の当業者であれば、本発明の種々の変形例を考え得るが、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。特許請求の範囲の構成要素の後に記載した括弧内の番号は、図面の部品番号に対応し、発明の容易なる理解の為に付したものであり、発明を限定的に解釈するためではない。同一番号でも明細書と特許請求の範囲の部品名は必ずしも同一ではない。これは上記した理由による。用語「又は」に関して、例えば「A又はB」は、「Aのみ」、「Bのみ」ならず、「AとBの両方」を選択することも含む。特に記載のない限り、装置又は手段の数は、単数か複数かを問わない。%表示は特に断りのない限り重量%である。
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