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特許7426191軟磁性金属粒子を含む磁性基体及び当該磁性基体を含む電子部品
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  • 特許-軟磁性金属粒子を含む磁性基体及び当該磁性基体を含む電子部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】軟磁性金属粒子を含む磁性基体及び当該磁性基体を含む電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20240125BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20240125BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
H01F1/24
H01F1/147
H01F17/04 F
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018181117
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2020053542
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-01-13
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】中島 啓之
(72)【発明者】
【氏名】石渡 駿太
【合議体】
【審判長】山田 正文
【審判官】井上 信一
【審判官】岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-168648(JP,A)
【文献】特開2012-84803(JP,A)
【文献】特表2013-546162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/24
H01F 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を含有する合金から成る複数の軟磁性金属粒子と、
前記複数の軟磁性金属粒子の各々の表面に前記複数の軟磁性金属粒子に含まれる元素が酸化されることにより形成される酸化膜と、
前記複数の軟磁性金属粒子は、第1の軟磁性金属粒子と、前記第1の軟磁性金属粒子と隣り合う第2の軟磁性金属粒子と、を含み、
前記第1の軟磁性金属粒子と前記第2の軟磁性金属粒子とは、前記酸化膜を介して結合し、
波長488nmの励起レーザーを用いたラマンスペクトルにおいて、波数712cm-1付近に存在する第1ピークのピーク強度の、波数1320cm-1付近に存在する第2ピークのピーク強度に対する比であるピーク強度比が1~70である、
磁性基体。
【請求項2】
前記ピーク強度比が1.5~5.8である、
請求項1に記載の磁性基体。
【請求項3】
前記ピーク強度比が1.5~2.0である、
請求項2に記載の磁性基体。
【請求項4】
走査型電子顕微鏡により撮影された前記磁性基体の断面写真において前記軟磁性金属粒子の面積に対する前記酸化膜の面積の割合が2%以上である、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の磁性基体。
【請求項5】
前記複数の軟磁性金属粒子は、Fe-Si-Crの組成を有する、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の磁性基体。
【請求項6】
前記組成の割合は、Feが95wt%、Siが3.5wt%、Crが1.5wt%である、
請求項5に記載の磁性基体。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の磁性基体を含む電子部品。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の磁性基体と、
前記磁性基体に設けられたコイルと、
を備える電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性金属粒子を含む磁性基体及び当該磁性基体を含む電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の磁性基体の材料として、従来から様々な磁性材料が用いられている。インダクタなどのコイル部品用の磁性材料としては、フェライトがよく用いられている。フェライトは、透磁率が高いことから、インダクタ用の磁性材料として適している。
【0003】
フェライト以外の磁性基体用の磁性材料として、軟磁性金属材料も用いられている。軟磁性金属材料は、軟磁性金属の粒子(又は粉末)の形態で磁性基体に含まれる。軟磁性金属の粒子を含む磁性基体は、多数の軟磁性金属の粒子と結合材とを混練して得られたスラリーを型に流し込み、この型内でスラリーに圧力を加える加圧成形によって作製される。磁性基体に含まれる各軟磁性金属粒子の表面には、隣接する粒子間でショートが起きないようにするために絶縁膜が設けられる。軟磁性金属材料は、一般的にフェライト材料よりも飽和磁束密度が高いため、大電流が流れるコイル部品の磁性基体の材料として適している。
【0004】
インダクタ等の電子部品用の磁性基体は、高い透磁率を有することが求められる。従来から、透磁率向上のために磁性基体における磁性粒子の充填率を高めるための提案がなされている。例えば、特開2010-34102号公報には、2種類以上の平均粒子径が異なる非晶質軟磁性金属粒子と絶縁性の結合材とが混ぜ合わされた粘土状の磁性基体が開示されている。同公報によれば、かかる磁性基体によって、高い充填率と低いコア損失が実現できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-034102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁性基体の成形時における成形圧力を高めることにより、軟磁性金属粒子の充填率を高めることができる。しかしながら、成形圧力が高くなると、軟磁性金属粒子の表面に設けられている絶縁膜が破壊されやすくなるため、軟磁性金属粒子間の絶縁性が悪化するという問題がある。
【0007】
軟磁性金属粒子の表面に設けられる絶縁膜は、一般に軟磁性金属よりも透磁率が低いので、磁性基体の透磁率を上げるために絶縁膜を薄膜化することで磁性基体における軟磁性金属の比率を高め、これにより磁性基体の透磁率を向上させることが考えられる。しかしながら、絶縁膜が薄膜化されると軟磁性金属粒子間の絶縁性が悪化するという問題がある。
【0008】
軟磁性金属粒子間で絶縁破壊が起こると、隣接する軟磁性金属粒子が大径の1つの粒子となる。この大径化した粒子においては渦電流が発生しやすくなる。よって、磁性基体に含まれる軟磁性金属粒子間で絶縁破壊が起こると渦電流損失が大きくなるという問題がある。
【0009】
このように、軟磁性金属粒子を含む磁性基体において高い透磁率と高い絶縁性とを両立することが望まれる。しかしながら、絶縁基体の透磁率と軟磁性金属粒子間の絶縁性とはトレードオフの関係にあるため、高い透磁率と高い絶縁性とを両立することは難しい。
【0010】
本発明の目的は、上述した問題の少なくとも一部を解決又は緩和することである。より具体的な本発明の目的の一つは、高い透磁率と高い絶縁性とを両立することができる磁性基体を提供することである。本発明のこれ以外の目的は、明細書全体の記載を通じて明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態による磁性基体は、表面に絶縁膜が設けられた軟磁性金属粒子を含み、波長488nmの励起レーザーを用いたラマンスペクトルにおいて、波数712cm-1付近に存在する第1ピークのピーク強度と波数1320cm-1付近に存在する第2ピークのピーク強度との比であるピーク強度比が1~70である。
【0012】
本発明の一実施形態による磁性基体において、前記ピーク強度比が1.5~5.8である。
【0013】
本発明の一実施形態による磁性基体において、前記ピーク強度比が1.5~2.0である。
【0014】
本発明の一実施形態において、走査型電子顕微鏡により撮影された前記磁性基体の断面写真において前記軟磁性金属粒子の面積に対する前記絶縁膜の面積の割合が2%以上である。
【0015】
本発明の一実施形態において、前記軟磁性金属粒子は、鉄を含有する合金から成る。
【0016】
本発明の一実施形態は、電子部品に関する。当該電子部品は、上記の磁性基体を含む。
【0017】
本発明の一実施形態による電子部品は、上記の磁性基体と、前記磁性基体に設けられたコイルと、を備える。当該コイルは、磁性基体内に埋め込まれていてもよい。当該コイルは、その少なくとも一部が磁性基体の外部に露出するように磁性基体に設けられても良い。
【発明の効果】
【0018】
本明細書の開示によれば、高い透磁率及び高い絶縁性を有する磁性基体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態によるコイル部品の斜視図である。
図2図1のコイル部品I-I線で切断した断面を模式的に示す図である。
図3図2の断面の一部を撮影した像を模式的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1から図3を参照して、本発明の一実施形態に係るコイル部品10について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るインダクタ1の斜視図であり、図2は、図1のインダクタ1をI-I線で切断した断面を模式的に示す図であり、図3は、図2の断面の領域Aを撮影した像を示す模式図である。
【0021】
本明細書においては、文脈上別に解される場合を除き、インダクタ1の「長さ」方向、「幅」方向、及び「厚さ」方向はそれぞれ、図1の「L」方向、「W」方向、及び「T」方向とする。
【0022】
これらの図に示されているインダクタ1は、本発明を適用可能なコイル部品の一例である。本発明は、インダクタ以外にも、トランス、フィルタ、リアクトル、及びこれら以外の様々なコイル部品に適用され得る。本発明は、カップルドインダクタ、チョークコイル、及びこれら以外の様々な磁気結合型コイル部品にも適用することができる。後述するとおり、磁性基体10は高い透磁率及び高い絶縁性を有するため、インダクタ1は、電源系のインダクタとして特に優れた適性を有している。インダクタ1の用途は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0023】
図示のように、インダクタ1は、磁性基体10と、この磁性基体10内に設けられたコイル導体25と、当該コイル導体25の一端と電気的に接続された外部電極21と、当該コイル導体25の他端と電気的に接続された外部電極22と、を備える。
【0024】
磁性基体10は、磁性材料から直方体形状に形成されている。本発明の一実施形態において、磁性基体10は、長さ寸法(L方向の寸法)が1.0mm~2.6mm、幅寸法(W方向の寸法)が0.5~2.1mm、高さ寸法(H方向の寸法)が0.5~1.0mmとなるように形成される。長さ方向の寸法は、0.3mm~1.6mmとされてもよい。磁性基体10の上面及び下面は、カバー層により覆われていてもよい。
【0025】
インダクタ1は、回路基板2に実装されている。回路基板2には、ランド部3が設けられてもよい。インダクタ1が2つの外部電極21,22を備える場合には、これに対応して回路基板2には2つのランド部3が設けられる。インダクタ1は、外部電極21,22の各々と回路基板2の対応するランド部3とを接合することにより、当該回路基板2に実装されてもよい。回路基板2は、様々な電子機器に実装され得る。回路基板2が実装され得る電子機器には、スマートフォン、タブレット、ゲームコンソール、及びこれら以外の様々な電子機器が含まれる。よって、インダクタ1は、高密度に部品が実装される回路基板2に好適に用いられ得る。インダクタ1は、回路基板2の内部に埋め込まれる内蔵部品であってもよい。
【0026】
磁性基体10は、第1の主面10a、第2の主面10b、第1の端面10c、第2の端面10d、第1の側面10e、及び第2の側面10fを有する。磁性基体10は、これらの6つの面によってその外面が画定される。第1の主面10aと第2の主面10bとは互いに対向し、第1の端面10cと第2の端面10dとは互いに対向し、第1の側面10eと第2の側面10fとは互いに対向している。
【0027】
図1において第1の主面10aは磁性基体10の上側にあるため、第1の主面10aを「上面」と呼ぶことがある。同様に、第2の主面10bを「下面」と呼ぶことがある。インダクタ1は、第2の主面10bが回路基板2と対向するように配置されるので、第2の主面10bを「実装面」と呼ぶこともある。インダクタ1の上下方向に言及する際には、図1の上下方向を基準とする。
【0028】
外部電極21は、磁性基体10の第1の端面10cに設けられる。外部電極22は、磁性基体10の第2の端面10dに設けられる。各外部電極は、図示のように、磁性基体10の下面まで延伸してもよい。各外部電極の形状及び配置は、図示された例には限定されない。例えば、外部電極21,22はいずれも磁性基体10の下面10bに設けられてもよい。この場合、コイル導体25は、ビア導体を介して、磁性基体10の下面10bに設けられた外部電極21,22と接続される。外部電極21と外部電極22とは、長さ方向において互いから離間して配置されている。
【0029】
本発明の一実施形態において、磁性基体10は、表面に酸化膜が設けられた複数の軟磁性金属粒子を結合させることによって形成される。隣接する軟磁性金属粒子は、互いの酸化膜を介して互いと結合される。隣接する軟磁性金属粒子は、酸化膜を介さずに直接結合されてもよい。軟磁性金属粒子間には空隙が存在していてもよい。この空隙の一部又は全部には樹脂が充填されていてもよい。本発明の一実施形態において、磁性基体10に含まれる樹脂は、例えば絶縁性に優れた熱硬化性の樹脂である。磁性基体10用の熱硬化性樹脂として、ベンゾシクロブテン(BCB)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂(PI)、ポリフェニレンエーテルオキサイド樹脂(PPO)、ビスマレイミドトリアジンシアネートエステル樹脂、フマレート樹脂、ポリブタジエン樹脂、又はポリビニルベンジルエーテル樹脂が用いられ得る。
【0030】
磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子には、互いに平均粒径の異なる2種類以上の軟磁性金属粒子を含んでもよい。本発明の一実施形態において、磁性基体10は、互いに平均粒径の異なる2種類の軟磁性金属粒子を含んでいる。互いに平均粒径の異なる2種類の軟磁性金属粒子を含む磁性基体10の断面の模式図が図3に示されている。図3は、磁性基体10の断面の領域Aを走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影したSEM写真を模式的に示す図である。領域Aは、磁性基体10内の任意の領域である。
【0031】
図3に示されている実施形態において、磁性基体10は、複数の第1軟磁性金属粒子31及び複数の第2軟磁性金属粒子32を含んでいる。別の実施形態において、磁性基体10は、互いに平均粒径の異なる3種類の軟磁性金属粒子を含んでもよい。一実施形態において、第2軟磁性金属粒子32の平均粒径は、第1軟磁性金属粒子31の平均粒径の1/10以下とされる。第2軟磁性金属粒子32の平均粒径は、例えば、0.1μm~20μmとされる。第2軟磁性金属粒子32の平均粒径が第1軟磁性金属粒子31の平均粒径の1/10以下の場合、第2軟磁性金属粒子32が隣接する第1軟磁性金属粒子31の間に入り込み易く、その結果、磁性基体10における軟磁性金属粒子の充填率(Density)を高めることができる。
【0032】
磁性基体20に含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径は、当該磁性基体をその厚さ方向(T方向)に沿って切断して断面を露出させ、当該断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により1000倍~2000倍の倍率で撮影した写真に基づいて粒度分布を求め、この粒度分布に基づいて定められる。例えば、SEM写真に基づいて求められた粒度分布の50%値を軟磁性金属粒子の平均粒径とすることができる。
【0033】
第1軟磁性金属粒子31の表面には絶縁膜41が設けられており、第2軟磁性金属粒子32の表面には絶縁膜42が設けられている。この絶縁膜41及び絶縁膜42により、第1軟磁性金属粒子31同士、第2軟磁性金属粒子32同士、及び第1軟磁性金属粒子31と第2軟磁性金属粒子32とのショートを防止することができる。絶縁膜41及び絶縁膜42は、軟磁性金属粒子の表面全体を覆うように形成されることが望ましい。絶縁膜41及び絶縁膜42は、走査型電子顕微鏡(SEM)による10000倍程度のSEM写真において、明度の違いに基づいて、第1軟磁性金属粒子31及び第2軟磁性金属粒子32か
ら区別することができる。
【0034】
図3において、領域Aにおいて、第1軟磁性金属粒子31、第2軟磁性金属粒子32、絶縁膜41、及び絶縁膜42以外の領域は、参照符号50で示されている。この参照符号50で示されている領域には、樹脂又は空隙が存在する。したがって、参照符号50で示されている領域には鉄元素は存在しない。
【0035】
第1軟磁性金属粒子31及び第2軟磁性金属粒子32は、鉄を含有する軟磁性合金から形成される。一実施形態において、第1軟磁性金属粒子31及び第2軟磁性金属粒子32は、例えば、Fe-Si合金、Fe-Si-Al合金、又はFe-Si-Cr合金であってもよい。軟磁性金属粒子は、単一の種類の合金の粒子のみを含んでいてもよい。磁性基体10用の磁性材料に含まれる軟磁性金属粒子は、複数の異なる種類の合金の粒子を含んでいてもよい。例えば、第1軟磁性金属粒子31は、Fe-Si合金から成る複数の粒子と、Fe-Si-Al合金から成る複数の粒子と、を含んでいても良い。軟磁性金属粒子がFeを含む合金から形成される場合には、軟磁性金属粒子におけるFeの含有比率は、90wt%以上とされてもよい。これにより、良好な磁気飽和特性を有する磁性基体10が得られる。
【0036】
第1軟磁性金属粒子31及び第2軟磁性金属粒子32の表面に設けられる絶縁膜41及び絶縁膜42は、例えば、軟磁性金属粒子31及び軟磁性金属粒子32の表面が酸化されることで形成される酸化膜である。一実施形態においては、絶縁膜41及び絶縁膜42の表面にコーティング膜を設けてもよい。このコーティング膜は、例えば非晶質の酸化ケイ素膜であってもよい。非晶質の酸化ケイ素膜は、例えばゾルゲル法を用いたコートプロセスによって、軟磁性金属粒子31及び軟磁性金属粒子32のそれぞれの表面に形成されてもよい。絶縁膜41及び絶縁膜42は、コーティング膜の形成前に、またはコーティング膜が形成
された後に第1軟磁性金属粒子31及び第2軟磁性金属粒子32の表面が酸化されることで形成されてもよい。
【0037】
一実施形態において、絶縁膜41及び絶縁膜42の厚さは100nm以下とされる。絶縁膜41及び絶縁膜42の厚さは、当該軟磁性金属粒子の平均粒径に応じて変更され得る。
【0038】
一実施形態において、磁性基体10を切断して露出させた断面内の所定領域において、当該磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子の表面に設けられている絶縁膜が占める面積は、当該軟磁性金属粒子が占める面積の2%以上とされる。具体的には、図3に示されている例では、絶縁膜41及び絶縁膜42が占める面積の合計は、第1軟磁性金属粒子31及び第2軟磁性金属粒子32が占める面積の合計の2%以上とされる。絶縁膜の面積の軟磁性金属粒子の面積に対する割合が2%よりも小さいと、絶縁膜が薄くなりすぎて絶縁信頼性に欠ける。
【0039】
磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子に設けられた絶縁膜の面積の当該軟磁性金属の面積に対する割合は以下のようにして決定され得る。まず、磁性基体10を例えばT方向に沿って切断して断面を露出させる。次に、当該断面の一部の領域について5000倍~10000倍の倍率で撮影したSEM写真においてエネルギー分散型X線分析(EDS)行って、鉄元素の分布画像を得る。このようにして得られた分布画像における明度の違いに基づいて、SEM写真に示されている領域が、軟磁性金属粒子が存在する領域Aと、軟磁性金属粒子の表面に設けられた絶縁膜が存在する領域Bと、それ以外の領域C(樹脂または空隙が存在する領域)とに区別され得る。領域Aは領域Bよりも顕著に多い割合で鉄元素を含有しているため、領域Aと領域Bとは、分布画像の明度の違いにより容易に識別される。次に、領域Aの面積及び領域Bの面積を求め、領域Bの面積の領域Aの面積に対する割合を算出する。このようにして算出された領域Bの面積の領域Aの面積に対する割合が、軟磁性金属粒子に設けられた絶縁膜の面積の当該軟磁性金属の面積に対する割合に相当する。上記の画像処理において、EDSにより得られた鉄元素の分布画像をグレースケール化し、このグレースケール化された分布画像に対して所定の輝度(例えば、最頻度の輝度)を閾値として2値化処理を行ってもよい。この2値化処理により、鉄元素を含有する領域A及び領域Bと鉄元素を含有しない領域Cとをより明瞭に区別することができる。
【0040】
絶縁膜41及び絶縁膜42における鉄酸化物には、マグネタイト(Fe3O4)及びヘマタイト(Fe2O3)が含まれる。従来、磁性基体におけるマグネタイトとヘマタイトとの比率を調整することにより、磁性基体の機械的強度を改善できることが知られている。例えば、特開2013-168648号公報においては、磁性基体においてマグネタイトに対するヘマタイトの体積割合を0.05~0.25とすることで、当該磁性基体の機械的強度を高めることが提案されている。本発明者らは、軟磁性金属粒子を含む磁性基体におけるマグネタイトとヘマタイトとの比率を適切な範囲とすることにより、磁性基体の透磁率及び絶縁性をいずれも望ましい範囲とすることができることを発見した。具体的には、本発明の一実施形態におけるマグネタイトとヘマタイトとの比率は、磁性基体10に波長488nmの励起レーザーを照射したときの散乱光を測定して得られるラマンスペクトルにおいて、波数712cm-1付近に存在するピークのピーク強度(ピーク強度M)と波数1320cm-1付近に存在するピークのピーク強度(ピーク強度H)との比であるピーク強度比(M/H)が1~70となるように調整される。波数712cm-1付近に存在するピークは、マグネタイト(Fe3O4)に由来するピークであり、波数1320cm-1付近に存在するピークは、ヘマタイト(Fe2O3)に由来するピークである。マグネタイト(Fe3O4)に由来するピークは、ラマンスペクトルにおいて波数660cm-1~760cm-1の範囲に現れる。本明細書においては、「波数712cm-1付近に存在するピーク」は、波長488nmの励起レーザーを用いたラマンスペクトルにおいて波数660cm-1~760cm-1の範囲にピークトップが現れるピークを意味する。ヘマタイト(Fe2O3)に由来するピークは、ラマンスペクトルにおいて波数1270cm-1~1370cm-1の範囲に現れる。本明細書においては、「波数1290cm-1付近に存在するピーク」は、マグネタイト(Fe3O4)に由来するピークであり、波長488nmの励起レーザーを用いたラマンスペクトルにおいて波数1270cm-1~1370cm-1の範囲にピークトップが現れるピークを意味する。本明細書においては、磁性基体10に波長488nmの励起レーザーを照射したときの散乱光を測定して得られるラマンスペクトルにおいて、マグネタイトに由来するピーク強度(ピーク強度M)のヘマタイトに由来するピーク強度(ピーク強度H)との比であるピーク強度比(M/H)を「M/Hピーク比」ということがある。
【0041】
本発明の別の一実施形態において、磁性基体10のM/Hピーク比は1.5~5.8となる。本発明の別の一実施形態において、磁性基体10のM/Hピーク比は1.5~2.0となる。
【0042】
磁性基体10のラマンスペクトルは、磁性基体10の表面に波長488nmの励起レーザーを照射し、この磁性基体10からの散乱光を一般的な分光測定装置を用いて測定することにより得られる。分光測定装置としては、例えば、日本分光株式会社製のラマン分光光度計(NRS-3300)を用いることができる。
【0043】
本発明者の研究によれば、磁性基体におけるマグネタイトの含有比率が高くなると透磁率が向上する一方で絶縁性が劣化し(耐電圧が低くなり)、また、磁性基体におけるヘマタイトの含有比率が高くなると透磁率が低下する一方で絶縁性が改善する(耐電圧が高くなる)ことが分かった。電源系のインダクタ等の大電流が流れる電子部品においては、透磁率が25以上で耐電圧が1V/μm以上であることが望ましい。
【0044】
続いて、本発明の一実施形態によるインダクタ1の製造方法の例について説明する。インダクタ1を圧縮プロセスにより製造する場合、当該インダクタ1の製造方法は、軟磁性金属粒子を含む複合磁性材料を圧縮成形して成形体を形成する成形工程と、当該成形工程により得られた成形体を加熱する熱処理工程と、を備える。
【0045】
成形工程においては、軟磁性金属粒子を準備し、この軟磁性金属粒子の粒子群とバインダーとを混練してスラリーを作成する。バインダーは、熱分解性に優れ、脱バインダー処理が容易な樹脂などを用いることができる。バインダーには、例えば、ブチラール樹脂やアクリル樹脂を使用することができる。次に、成形金型にコイル導体を設置し、このコイル導体が設置された成形金型内に上記のスラリーを入れ、成形圧力を加えることで、内部にコイル導体を含む成形体が得られる。成形工程は、温間成形によって行われてもよく、冷間成形によって行われてもよい。温間成形による場合には、バインダーの熱分解温度よりも低く軟磁性金属粒子の結晶化に影響を与えない温間で成形が行われる。例えば、温間成形においては、150~400の温間で成形が行われる。成形圧力は、例えば、40MPa~120MPaとされる。成形圧力は、所望の充填率を得るために適宜調整され得る。
【0046】
成形工程において成形体が得られた後に、当該製造方法は熱処理工程に進む。熱処理工程においては、成形工程により得られた成形体に対して熱処理が行われる。熱処理工程においては、成形工程により得られた成形体に対して、脱バインダー処理が500℃以下で行われ、さらに5~3000ppmの範囲の酸素を含有する低酸素濃度雰囲気において700℃以上で、20分間~120分間の加熱時間だけ加熱処理を行う。脱バインダー処理は、加熱処理とは独立してして行われてもよい。酸素量と、加熱温度、加熱時間を適宜選ぶことにより必要な様態の酸化膜を得ることができる。加熱処理工程における低酸素濃度雰囲気は、例えば、5~3000ppmの範囲、10~2900ppmの範囲、20~2800ppmの範囲、30~2700ppmの範囲、40~2600ppmの範囲、50~2500ppmの範囲、60~2400ppmの範囲、70~2300ppmの範囲、80~2200ppmの範囲、90~2100ppmの範囲、又は100~2000ppmの範囲とされる。酸素濃度を50ppm未満に保つことは困難な場合があるので、酸素濃度は50ppm以上とされてもよい。熱処理工程における加熱温度は、600℃以上、610℃以上、620℃以上、630℃以上、640℃以上、650℃以上、660℃以上、670℃以上、680℃以上、690℃以上、又は700℃以上とされる。加熱温度が高すぎると軟磁性金属粒子間の結合(ネッキング)が発生する為、好ましくない。このため加熱温度は920℃以下、900℃以下、880℃以下、860℃以下、840℃以下、820℃以下、又は800℃以下とされる。加熱時間は、20分間~120分間の範囲とされる。
【0047】
成形体への加熱処理を上記の条件で行うことにより、波数712cm-1付近に存在するマグネタイトに由来するピーク強度と波数1320cm-1付近に存在するヘマタイトに由来するピークのピーク強度との比であるピーク強度比(M/H)が1~70、1.5~5.8、又は1.5~2.0となる磁性基体を得ることができる。
【0048】
次に、上記のようにして得られた磁性基体の両端部に導体ペーストを塗布することにより、外部電極21及び外部電極22を形成する。外部電極21及び外部電極22は、磁性基体内に設けられているコイル導体の一方の端部とそれぞれ電気的に接続するように設けられる。以上により、インダクタ1が得られる。
【0049】
インダクタ1の製造方法は、上記の方法には限られない。例えば、インダクタ1は積層プロセスにより作製されてもよい。インダクタ1が積層プロセスによって作製される場合には、まず、軟磁性金属粒子の粒子群と結合材とを混練してスラリーを作成し、このスラリーを成形金型に入れて所定の成形圧力で加圧することにより磁性体シートを作成する。次に、この磁性体シートに導体パターンを形成し、この導体パターンが形成された磁性体シートを積層して積層体を作成する。この積層体に外部電極を設けることでインダクタ1が作成される。
【実施例
【0050】
続いて、本発明の実施例について説明する。まず、Fe―Si-Cr(Fe:95wt%、Si:3.5%、Cr:1.5wt%)の組成を有する軟磁性金属粒子を準備した。続いて、この軟磁性金属粒子の粒子群とポリビニルブチラールとを混練してスラリーを作成した。次に、このスラリーをダイコータなどの塗工機を用いて長尺状にシート化し、これを裁断することで、8μmの厚さを有する直方体形状の磁性体シートを複数作成した。次に、このようにして作成された磁性体シートの所定位置にビア導体用の貫通孔を設けた。次に、当該貫通孔にAgを含む導電性ペーストを埋め込むとともに、当該磁性体シートと別の磁性体シートの表面に所定パターンで導電性ペーストを印刷した。このようにして導体パターンが形成された磁性体シートを、異なる磁性体シートに形成された導体パターン同士が貫通孔に埋め込まれた導電体を介して電気的に接続されるように積層して60℃にて仮圧着を行い積層体を得た。この積層体を16個作成した。
【0051】
次に、このようにして得られた16個の積層体に対して熱処理を行った。この熱処理においては、積層体ごとに、異なる酸素濃度を有する雰囲気において、異なる加熱温度及び異なる加熱時間を用いて行われた。この16個の積層体のうち3つは大気雰囲気にて熱処理を行い、2つは酸素濃度が3ppm以下の極低酸素濃度雰囲気下で熱処理を行った。
【0052】
熱処理が施された16個の積層体の各々に対して、2つの外部電極を取り付けた。この2つの外部電極のうち一方の外部電極を導体パターンの一端と接続し、他方の外部電極を当該導体パターンの他端と接続し、16個のインダクタを得た。この16個のインダクタを試料番号1~試料番号16とする。試料番号1~試料番号3の試料が、大気雰囲気において熱処理が行われた試料に対応する。試料番号15及び試料番号16の試料が極低酸素濃度雰囲気下において熱処理が行われた試料に対応する。
【0053】
このようにして得られた試料番号1~試料番号16の16個のインダクタの各々について、日本分光株式会社製のラマン分光光度計(NRS-3300)を用いてラマンスペクトルを測定した。具体的には、試料番号1~試料番号16の表面に波長488nmの励起レーザーを照射し、各インダクタからの散乱光をNRS-3300を用いて測定することで16通りのラマンスペクトルを得た。このようにして得られた16通りのラマンスペクトルについて、波数712cm-1付近に存在するピークのピーク強度(ピーク強度M)と波数1320cm-1付近に存在するピークのピーク強度(ピーク強度H)との比であるピーク強度比(M/H)を求めた。
【0054】
また、試料番号1~試料番号16のインダクタの各々について、B-Hアナライザを用いて透磁率を測定した。
【0055】
また、試料番号1~試料番号16のインダクタの各々について、外部電極間に加える電圧を段階的に増加させ、ショートが発生したときの電圧を計測した。このショートが発生したときの電圧を導体パターン間の間隔で除した値を各試料の耐電圧とした。
【0056】
以上のようにして得られた試料番号1~試料番号16の各々についてのピーク強度比、透磁率、及び耐電圧を表1にまとめた。
【表1】
【0057】
電源系のインダクタ等の大電流が流れる電子部品においては、透磁率が25以上で耐電圧が1V/μm以上であることが望ましい。表1においては、透磁率が25以上であり且つ耐電圧が1V/μm以上である試料を良品とした。良品と判定された試料については、表1の「判定」の欄に「良(Good)」と表記した。透磁率が25未満であるか又は耐電圧が1V/μm未満である試料を不良品とした。不良品と判定された試料については、表1の「判定」の欄に「不良(Defective)」と表記した。
【0058】
表1に示されている測定結果から、M/Hピーク比が1~70の範囲にあれば、透磁率が25以上で耐電圧が1V/μm以上となることが分かった。逆に、M/Hピーク比が70.8以上の場合には耐電圧が1V/μm未満となり、M/Hピーク比が0.93以下の場合には透磁率が23以下となることが分かる。このように、磁性基体のM/Hピーク比が1~70の範囲にあるときに、電源系のインダクタとして望ましい高透磁率及び高絶縁性が実現される。
【0059】
M/Hピーク比が1.5~5.8の範囲にあれば、透磁率が30以上で耐電圧が1.4V/μm以上となることが分かる。このように、M/Hピーク比が1.5~5.8の範囲にある磁性基体は、インダクタとしてより優れた特性を有している。
【0060】
M/Hピーク比が1.5~2.0の範囲にあれば、透磁率が30以上で耐電圧が1.5V/μm以上となることが分かる。このように、M/Hピーク比が1.5~2.0の範囲にある磁性基体は、インダクタとしてより優れた特性を有している。
【0061】
M/Hピーク比が1未満であれば、透磁率が25未満となってしまい、所望の磁気特性を得られない。これは、大気雰囲気中の熱処理により、軟磁性金属粒子の粒子表面の絶縁酸化膜の量が増加することで、充填率が減少してしまったことによると推察される。一般に行われている大気雰囲気での熱処理を行うとM/Hピーク比が1未満の値となる。
【0062】
試料15及び試料16の測定結果から分かるように、M/Hピーク比が73を超えると、耐電圧が1V/μm未満となってしまい、所望の絶縁特性を得られない。これは、一定程度以上の酸素濃度の雰囲気下で熱処理が行われれば、軟磁性金属粒子の表面に新たに酸化物が生成されると考えられるが、酸素濃度が3ppm以下の極低酸素雰囲気(又は無酸素雰囲気)中の熱処理では、酸素が供給されないため、この絶縁酸化膜の生成が進まないためと考えられる。
【0063】
上記の試料番号1~試料番号16のインダクタの各々をその厚さ方向(T方向)に沿って切断して断面を露出させ、当該断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により10000倍の倍率で撮影した。このようにして撮影したSEM写真にエネルギー分散型X線分析(EDS)を行って、鉄元素の分布画像を得た。このようにして得られた分布画像における明度の違いに基づいて、軟磁性金属粒子が存在する領域Aと、軟磁性金属粒子の表面に設けられた絶縁膜が存在する領域Bと、それ以外の領域C(樹脂または空隙が存在する領域)とを区別し、領域Aの面積及び領域Bの面積を求め、領域Bの面積の領域Aの面積に対する割合を百分率で算出した。この結果、領域Bの面積の領域Aの面積に対する割合は、試料1から試料14については2.3%から7.4%の範囲であり試料15については1.8%、試料16については1.4%であった。
【0064】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【符号の説明】
【0065】
1 インダクタ
2 回路基板
10 磁性基体
25 コイル導体
31,32 軟磁性金属粒子
41,42 絶縁膜


図1
図2
図3