(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】スペクトルデータ解析の方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/35 20140101AFI20240125BHJP
G01N 21/3563 20140101ALI20240125BHJP
G01N 21/552 20140101ALN20240125BHJP
【FI】
G01N21/35
G01N21/3563
G01N21/552
(21)【出願番号】P 2018557289
(86)(22)【出願日】2017-01-20
(86)【国際出願番号】 US2017014338
(87)【国際公開番号】W WO2017127679
(87)【国際公開日】2017-07-27
【審査請求日】2020-01-17
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-30
(32)【優先日】2016-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519444166
【氏名又は名称】プロテイン ダイナミック ソリューションズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】PROTEIN DYNAMIC SOLUTIONS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】パストラーナ-リオス、ベリンダ
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス-トロ、ホセ ハビエル
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】松本 隆彦
【審判官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第8268628(US,B1)
【文献】特表2014-503195(JP,A)
【文献】国際公開第2011/108369(WO,A1)
【文献】特表2013-533875(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0348750(US,A1)
【文献】ALCARAZ,Mirta R. et al.,External-Cavity Quantum Cascade Laser Spectroscopy for Mid-IR Transmission Measurements of Proteins in Aqueous Solution, Analytical Chemistry,2015年 6月10日,Vol.87,pages 6980-6987
【文献】NODA,Isao,Techniques of two-dimensional(2D) correlation spectroscopy useful in life science research,Biomedical Spectroscopy and Imaging,2015年,Vol.4,No.2,pages 109-127
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/00-21/01
G01N21/17-21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの特性を表すデータを処理する方法において、
溶液中の前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つに制御された摂動を加える
ステップと、
量子カスケードレーザ顕微鏡を使用し、かつ外因性のプローブ又は添加物を使用することなく、前記溶液中の前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの
、複数のスペクトル画像を連続して取得するステップであって、連続して取得した前記
複数のスペクトル画像は加え
られる前記摂動の関数としてスペクトル強度の誘引された変化を捉えている、
前記複数のスペクトル画像を連続して取得するステップと、
取得した前記
複数のスペクトル画像のうちの少なくとも1つにおいて、加え
られる前記摂動に関係する関心領域を識別し、及び選択するステップと、
連続して取得した前記複数のスペクトル画像の前記関心領域において、前記溶液中の前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つのアミノ酸の側鎖についてのデータを含むスペクトルデータを選択し、及び分析するステップであって、前記スペクトルデータを分析するステップには、内因性プローブとして前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの側鎖モードを分析することが含まれる、
前記スペクトルデータを選択し、及び分析するステップと、
前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの非同期共分布プロットを生成するように、二次元共分布(2DCDS)解析を適用するステップと、
前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの凝集と関連するオートピークと相関する少なくとも1つのクロスピークを、前記非同期共分布プロットの中で特定するステップとを備える、方法。
【請求項2】
前記クロスピークを使用するステップは、
二つの波数ν
1およびν
2に対して、前記二つの波数に相当する前記クロスピークが、正の値を有するかを判定するステップと、
前記クロスピークが正の値を有するとき、ν
1に存在するスペクトル強度
は、ν
2に存在するスペクトル強度が分布する期間よりも
早期の、加えられる
前記摂動の期間内に分布すると判定するステップとを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クロスピークを使用するステップは、
二つの波数ν
1およびν
2に対して、前記二つの波数に相当する前記クロスピークが、負の値を有するかを判定するステップと、
前記クロスピークが負の値を有するとき、ν
2に存在するスペクトル強度は、ν
1に存在するスペクトル強度が分布する期間よりも
早期の、加えられる
前記摂動の期間内に分布すると判定するステップとを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記非同期共分布プロットの非同期共分布強度は、二つのスペクトル信号の分布の差として表される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
加えられる
前記摂動は、熱、電位、濃度、圧力、化学反応、攪拌、酸化、又は音響による摂動である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの同期共分布プロットを生成するように、前記二次元共分布(2DCDS)解析を適用するステップと、
前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの凝集と関連する同期共分布ピークを、前記同期共分布プロットの中で特定するステップと、
加えられる
前記摂動に関して、スペクトル強度の分布パターンの重複度を判定するように、前記同期共分布ピークを使用するステップとをさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記同期共分布ピークを使用するステップは、二つの波数ν
1およびν
2に対して、前記二つの波数に相当する前記同期共分布ピークが、一定の範囲内にあるかを判定するステップを含んでなる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
二次元相関(2DCOS)解析を適用して、前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つに対して同期相関プロットおよび非同期相関プロットを生成するステップと、
前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの凝集と関連するオートピークと相関する正のクロスピークを、前記同期相関プロットの中で特定するステップと、
前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの凝集の量を判定するように、前記スペクトルデータの特定されるピーク強度を使用するステップとをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
加えられる
前記摂動に関して、前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの前記凝集の量を、分布するスペクトル強度の存在する順序と比較するステップをさらに備える、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
微粒子の集団分布を確認するように、
前記微粒子のサイズおよび数を判定するステップをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
信号対雑音比を検証すること、基準線補正を実施すること、水蒸気含有量を判定すること、およびスペクトル領域内の信号強度を判定することのうちの少なくとも1つを行うために、前記スペクトルデータを解析するステップをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
試料の摂動に基づき、共分散または動的スペクトルデータを生成するステップをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記同期
相関プロットで取得されるような、互いに同相である前記スペクトルデータで、ピーク強度を含め、変化を相互に関連付けるステップをさらに備える、請求項
8に記載の方法。
【請求項14】
前記スペクトルデータの中で変化する要素を判定するステップをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記スペクトルデータの中で、全体の最大強度変化を判定するステップをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記スペクトルデータの中で、全体の最小強度変化を判定するステップをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
バンドの中の基礎をなすスペクトル寄与の最小数を判定するステップと、曲線適合解析を実施するステップと、試料の二次構造組成を判定するステップとをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記スペクトルデータの分解能を高めるステップをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記非同期
相関プロットで取得されるような、互いとは異相である前記スペクトルデータで、ピーク強度を含め、変化を相互に関連付けるステップをさらに備える、請求項
8に記載の方法。
【請求項20】
前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの中で、アミノ酸側鎖の脱アミノ化の有無および程度のうちの少なくとも一方を判定するステップをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの中で、ドメインの安定性を判定するステップをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの特性を表すデータを処理するシステムにおいて、
量子カスケードレーザ顕微鏡を備えたデータ取得モジュールであって、
前記量子カスケードレーザ顕微鏡を使用し、かつ外因性のプローブ又は添加物を使用することなく、溶液中の前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの
、複数のスペクトル画像を連続して取得するステップであって、前記連続して取得した前記
複数のスペクトル画像は加え
られる摂動の関数としてスペクトル強度の誘引された変化を捉えている、
前記複数のスペクトル画像を連続して取得するステップと、
取得した前記
複数のスペクトル画像のうちの少なくとも1つにおいて、加え
られる前記摂動に関係する関心領域を識別し、及び選択するステップと、
連続して取得した前記複数のスペクトル画像
の前記関心領域において、前記溶液中の前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つのアミノ酸の側鎖についてのデータを含むスペクトルデータを選択し、及び分析するステップであって、前記スペクトルデータを分析するステップには、内因性プローブとして前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの側鎖モードを分析することが含まれる、
前記スペクトルデータを選択し、及び分析するステップとを実行する、
前記データ取得モジュールと、
相関解析モジュールであって、
前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの非同期共分布プロットを生成するように、二次元共分布(2DCDS)解析を適用し、
前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの凝集と関連するクロスピークを、前記非同期共分布プロットの中で特定するように、構成される
前記相関解析モジュールと、を備えるシステム。
【請求項23】
表示用に一つ以上のプロットを生成する、視覚モデル生成器をさらに備える、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
ヒューマンインターフェースを備える、ヒューマンインタラクションモジュールをさらに備える、請求項22に記載のシステム。
【請求項25】
一つ以上のコンピュータにより実行されるとき、前記一つ以上のコンピュータに、
量子カスケードレーザ顕微鏡を使用し、かつ外因性のプローブ又は添加物を使用することなく
、溶液中
のタンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの
、複数のスペクトル画像を連続して取得するステップであって、連続して取得した前記
複数のスペクトル画像は制御して加え
られる摂動の関数としてスペクトル強度の誘引された変化を捉えている、
前記複数のスペクトル画像を連続して取得するステップと、
取得した前記
複数のスペクトル画像のうちの少なくとも1つにおいて、加え
られる前記摂動に関係する関心領域を識別し、及び選択するステップと、
連続して取得した前記複数のスペクトル画像の前記関心領域において、前記溶液中の前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つのアミノ酸の側鎖についてのデータを含むスペクトルデータを選択し、及び分析するステップであって、前記スペクトルデータを分析するステップには、内因性プローブとして前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの側鎖モードを分析することが含まれる、
前記スペクトルデータを選択し、及び分析するステップと、
前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの非同期共分布プロットを生成するように、二次元共分布(2DCDS)解析を適用するステップと、
前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドのうちの少なくとも1つの凝集と関連するオートピークと相関するクロスピークを、前記非同期共分布プロットの中で特定するステップと、
加えられる前記摂動に関して、分布するスペクトル強度の存在する順序を判定するように、前記クロスピークを使
用するステップとを実行
させる命令を備える非一時的なコンピュータ可読媒体。
【請求項26】
加えられる前記摂動に関して、分布して存在するスペクトル強度の順序を判定するように、前記クロスピークを使用するステップとをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記相関解析モジュールはさらに、加えられる前記摂動に関して、分布して存在するスペクトル強度の順序を判定するように、前記クロスピークを使用する、請求項22に記載のシステム。
【請求項28】
前記タンパク質、ペプチドおよびペプトイドは水(H
2O)溶液中にある、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスペクトルデータ解析の方法およびシステムに関する。
関連出願
本出願は、2016年1月21日出願の米国仮特許出願第62/281,630号の利益を主張し、参照することによって、その全体が本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
タンパク質凝集現象は、産業バイオプロセスの至る所で広く認められる。タンパク質は、その複雑な物理化学的特性が原因で、発現し、単離し、精製するのに費用がかかる。凝集は、時々、免疫原性、患者の抗薬物抗体反応(ADA)および有効性の喪失につながる、タンパク質分解の一次モードとみなされる。タンパク質凝集物を検出および判定することが、生物薬剤産業および科学研究の他のエリアにおける主要な目的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
タンパク質凝集物の形成は、タンパク質治療薬(すなわち、生物製剤またはバイオ後続品)の生産に著しく影響を与え、生産収率を有効に低減し得るため、産業での適用において重要である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
主題技術を、例えば、下に記述する様々な態様に従って説明する。主題技術の態様の様々な実施例について、下に記述する。これらは例として提供され、主題技術を限定するものではない。
【0005】
主題技術の態様により、プローブまたは添加剤を使用せずに、溶液中のまたは凍結乾燥状態のタンパク質、ペプチドおよび/もしくはペプトイド製剤における凝集を判定する方法を提供する。
【0006】
主題技術の態様に従い、タンパク質試料は分光学的に解析され、スペクトルデータは、タンパク質試料の実現可能性を判定するように、確立した方法を使用して解析される。方法および/またはその一部分は、完全に自動化され、凝集の機構を判定するために使用され得る。
【0007】
主題技術の態様に従い、本明細書に記述する方法は、単一成分、または他のペプチドもしくは脂質混合物との二成分もしくは三成分混合物のような、膜タンパク質、親水性タンパク質、ペプチドおよびペプトイドに適用され得る。混合物の場合、各成分の同時検出を可能にするように、成分のうちの一つを同位体的に標識化しなくてはならない。
【0008】
主題技術の態様により、試料調製の柔軟性やそれを自動化する可能性を持たせ、医薬用タンパク質製剤に対する試料調製の有用性を証明するデータ解析が可能になる。
主題技術の態様に従い、本明細書に記述する方法は、水性または脂質など、いくつかの環境でいかなるタンパク質、ペプチドまたはペプトイド試料にも適用され得る。本明細書に記述する方法は、タンパク質凝集を判定するために、定性的におよび/または定量的に使用され得る。タンパク質凝集の機構が判定され、タンパク質、ペプチドもしくはペプトイドの安定性および/または実現可能性が判定され得る、データ解析を実施する。
【0009】
主題技術の一態様に従い、方法は、これらのタンパク質、ペプチドまたはペプトイドを解析するために、透過フーリエ変換赤外(「FT-IR」)分光法および/もしくは減衰全反射(「ATR」)分光法、量子カスケードレーザ顕微鏡(「QCL」)、二次元相関分光法(「2DCOS」)、ならびに/または二次元共分布分光法(「2DCDS」)を伴う。主題技術の態様に従い、スペクトルデータは、FT-IR分析計、FT-IR顕微鏡、QCL分析計またはQCL顕微鏡など、いずれの好適な方法および機器を使用して取得され得る。主題技術の態様では、QCL顕微鏡を使用して、スペクトルデータを取得することが好ましい。
【0010】
タンパク質、ペプチドおよび/またはペプトイドの特性を表すデータを処理する方法、システムならびに命令は、加えられる摂動に関して、タンパク質、ペプチドおよび/またはペプトイドのスペクトルデータを取得することと、タンパク質、ペプチドおよび/またはペプトイドの非同期共分布プロットを生成するように、二次元共分布解析を適用することと、タンパク質、ペプチドおよび/またはペプトイドの凝集と関連するオートピークと相関するクロスピークを、非同期共分布プロットの中で特定することと、加えられる摂動に関して、分布するスペクトル強度の存在する順序を判定するように、クロスピークを使用することとを含み得る。
【0011】
クロスピークを使用することは、二つの波数ν1およびν2に対して、二つの波数に相当するクロスピークが、正の値を有するかを判定することと、クロスピークが正の値を有するとき、ν1に存在するスペクトル強度が、ν2に存在するスペクトル強度が分布する区間よりも低い、加えられる摂動の区間内に分布すると判定することとを含み得る。クロスピークを使用することは、二つの波数ν1およびν2に対して、二つの波数に相当するクロスピークが、負の値を有するかを判定することと、クロスピークが負の値を有するとき、ν2に存在するスペクトル強度は、ν1に存在するスペクトル強度が分布する区間よりも低い、加えられる摂動の区間内に分布すると判定することとを含み得る。
【0012】
操作は、タンパク質、ペプチドおよび/またはペプトイドに対して同期プロットを生成するように、二次元相関解析を適用することと、タンパク質、ペプチドおよび/またはペプトイドの凝集と関連する同期ピークを、同期プロットの中で特定することと、加えられる摂動に関して、スペクトル強度の分布パターンの重複度を判定するように、同期ピークを使用することとを含み得る。
【0013】
操作はまた、二次元相関解析を適用して、タンパク質、ペプチドおよび/またはペプトイドに対して同期プロットおよび非同期プロットを生成することと、タンパク質、ペプチドおよび/またはペプトイドの凝集と関連するオートピークと相関する正のクロスピークを、同期プロットの中で特定することと、タンパク質、ペプチドおよび/またはペプトイドの凝集の量を判定するように、スペクトルデータの特定されるピーク強度を使用することとを含み得る。
【0014】
タンパク質、ペプチドおよび/またはペプトイドの凝集の量は、加えられる摂動に関して、分布するスペクトル強度の存在する順序と比較され得る。関心領域は、微粒子および溶液の識別のために認識され得る。微粒子のサイズおよび数を判定して、微粒子の集団分布を確認し得る。スペクトルデータを解析して、信号対雑音比を検証し、基準線補正を実施し、水蒸気含有量を判定し、および/またはスペクトル領域内の信号強度を判定し得る。共分散または動的スペクトルデータは、試料の摂動に基づき生成され得る。ピーク強度を含む変化は、同期プロットで取得されるような、互いに同相であるスペクトルデータで、相互に関連付けられ得る。スペクトルデータの中で変化する要素を判定し得る。スペクトルデータにおける全体の最大強度変化を判定し得る。スペクトルデータにおける全体の最小強度変化を判定し得る。バンドの中の基礎をなすスペクトル寄与の最小数、曲線適合解析の実施、および試料の二次構造組成が判定され得る。ピーク強度を含む変化は、非同期プロットで取得されるような、互いとは異相であるスペクトルデータの中で、相互に関連付けられ得る。
【0015】
主題技術のさらなる特徴および利点を以下の記述において説明し、一部はその記述から明らかになるか、または主題技術の実践により学習されてもよい。主題技術の利点は、記述する説明および本明細書の特許請求の範囲、ならびに添付の図面で具体的に指摘する構造によって、実現され達成されるであろう。
【0016】
前述の全般的な記述および次の発明を実施するための形態の両方は、例示および説明であり、請求する主題技術のさらなる説明を提供することを意図していることは理解されるべきである。
【0017】
主題技術のさらなる理解を促すために含まれ、本記述の一部に組み込まれ、かつ構成する添付の図面は、主題技術の態様を図示し、本明細書と共に、主題技術の原理を説明する働きをする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】
図1A、1Bおよび1Cは、主題技術の一部態様に従い、タンパク質凝集を判定するように使用される、直交性の生物分析手法の結果を示す。
図1Aは、サイズ排除クロマトグラフィー(「SEC」)の結果を示すグラフ。
【
図1B】
図1Bは、示差走査熱量測定(「DSC」)の結果を示すグラフ。
【
図1C】
図1Cは、動的光散乱(「DLS」)の結果を示すグラフ。
【
図2】主題技術の一部態様に従う方法の、異なる局面を示すフローチャート。
【
図4】主題技術の一部態様に従う、例示のコンピューティングシステムの図。
【
図5】主題技術の一部態様に従う、例示の方法の操作を示すフローチャート。
【
図6】主題技術の一部態様に従う、例示の方法の操作を示すフローチャート。
【
図8】
図8Aは、発展性査定用のADC断片候補アミノ酸配列の比較を示す。ADC断片0(「ADC0」;SEQ ID NO:1)は、N末端に7個の追加アミノ酸(APELLGG;SEQ ID NO:2)を含有する全長断片である。ADC断片1(「ADC1」;SEQ ID NO:3)はN末端で切断され、まるで上部断片が一つのジスルフィド架橋を含有するかのようである。ADC断片2(「ADC2」;SEQ ID NO:4)は、ADC断片1と比較したとき、二つの点変異(L5C/K97C)を有し、そのため、ADC断片2を安定化するように、さらなるジスルフィド架橋を追加する。
図8Bは、ADC断片内のβシート、βターンおよびヒンジ、ならびに二つの短いへリックスから主に成る、Richardsonリボンモデルを示す。N末端、C末端、25番目、62番目および71番目に三つのArg、27番目および61番目に隣接するPro残基、ならびにジスルフィド結合Cys31およびCys91が見られる。これら三つのアルギニン残基は、ADC用の内部プローブとして機能を果たす。
【
図9】
図9Aおよび9Bは、凝集物のサイズを示し、特定する。
図9Aは、ADC0およびADC1に対するQCL赤外スペクトルオーバーレイを示す。
図9Bは、24℃および28℃のプロットをそれぞれ示す。ADC断片はすべて、完全にH→D交換されていた。さらに、24℃のアミドI’バンド最大値は凝集ADC1に相当し、28℃で最大値はD
2O溶液中のADC1に相当する。
【
図10】共分布解析の結果を示す。凝集機構は、タンパク質内にアルギニン残基を伴い、逆平行βシートおよびβターンを選択した。その結果、この解析によって、凝集を引き起こしているタンパク質の領域を提供する。
【
図11】
図11Aは、QCL顕微鏡画像を示し、
図11Bは、ショ糖15%中のADC断片2の関連QCLスペクトルを示す。これは、賦形剤およびタンパク質候補の両方の存在ならびに量を確証するように使用され得る。
【
図12】
図12A、12Bおよび12Cは、スペクトル領域1400~1800cm
-1内において26℃で、賦形剤としてNaClおよび異なる量のショ糖(
図12A:ショ糖15%、
図12B:ショ糖30%、および
図12C:ショ糖60%)が存在するpH6.6のHEPESで、ADC2に対して取得されたQCLスペクトル結果を示す。これらの結果により、定量解析を実施し得る範囲が実証され、それ以外では取得が難しい、極めて重要な情報を提供する。タンパク質の安定性および立体配座は、溶液中の対象のタンパク質およびその賦形剤の濃度判定も可能にしながら、所望の賦形剤条件下において確かめ得る。さらに、これらの条件下において、凝集物種はADC2に対して観察されなかった。
【
図13】異なる条件下において、QCL顕微鏡を使用する43回の実験に対して実施した、正規分布解析の結果を示す表。QbD実験時の設定は、324個のスペクトルデータを解析して、異なる量のNaCl、ショ糖、ならびに異なる割合の両賦形剤(すなわち、NaClおよびショ糖)の存在するADC断片2の評価を表した。
【
図14】二番目に良く適合するモデル(AICモデル)を使用する、ADC2のQCL顕微鏡スペクトルデータに対する予測プロファイルを含む、DOEの段階的なモデル適合の結果を示す。
【
図15】最適モデル(BICモデル)を使用する、ADC2のQCL顕微鏡スペクトルデータに対する予測プロファイルを含む、DOEの段階的なモデル適合の結果を示す。結果は、室温に近い条件では、ADC2に対する最良の賦形剤として、ショ糖18.5%を示唆している。
【
図16】
図16Aおよび16Bは、26~28℃の温度範囲内で、HEPESおよびショ糖15%が存在するADC断片2に対する、2D IR相関解析プロット(
図16A:同期、
図16B:非同期)を示す。アミドI’および側鎖バンドは、スペクトル領域1720~1500cm
-1で調査された。同期プロット(
図16A)ADC2では、凝集物種の存在しない、主にβシートおよびβターンの二次構造を有することが観察された。
【
図17】タンパク質を安定化させる際のショ糖の役割を確かめるように使用される、pH6.6および温度26℃で、50mMのHEPES、150mMのNaCl、3mMのKClおよびショ糖15%のADC断片2に対する事象の順番を示す。
【
図18】
図18Aおよび18Bは、26~28℃の温度範囲で、HEPESおよび賦形剤としてショ糖15%の2D IR共分布解析プロット(
図18A:同期、
図18B:非同期)ADC2を示す。πヘリックスおよびβターン(ヒンジループ)を伴う側鎖は、低温で摂動を加えられた。
【
図19】2D IR相関解析から生成されるバンド帰属を使用する、D
2O中のADC断片2に対する代表的な曲線適合解析を示し、80.4+/-1.1%のタンパク質が、β構造を含むと判定された(表2および3も参照)。
【
図20】
図20Aは、H
2O中、24~60℃の温度範囲内で獲得された、MID IRスペクトル領域1750~1400cm
-1におけるNIST mAb(50mg/mL)に対する、アミドI、IIおよびIIIバンドを示す重ねられたスペクトルを示す。
図20Bおよび20Cは、
図16Aの試料に対する、2D IR相関解析プロット(
図20B:同期、
図20C:非同期)を示す。
【
図21】
図21Aは、H
2O中、24~60℃の温度範囲内で獲得された、MID IRスペクトル領域1750~1500cm
-1におけるNIST mAb(50mg/mL)に対する、アミドIおよびIIバンド両方を示す重ねられたスペクトルを示す。
図21Bおよび21Cは、
図21Aの試料に対する、2D IR相関解析プロット(
図21B:同期、
図21C:非同期)を示す。
【
図22】24~60℃の温度範囲内の熱応力下における、H
2O中のNIST mAb(50mg/mL)に対する事象の順番を示す。
【
図23】
図23は、24~60℃の温度範囲内の熱応力下における、H
2O中のNIST mAb(50mg/mL)に対する、非同期2D IR共分布解析プロットを示す。
【
図24-1】
図24Aおよび24Bは、
図21Aおよび21Bのプロットの複製をそれぞれ示し、同期プロット2D IR相関解析プロット(
図24B)のオートピークと交差する縦の破線が追加されている。
【
図24-2】
図24Cおよび24Dは、
図21Cおよび22のプロットの複製をそれぞれ示し、同期プロット2D IR相関解析プロット(
図24B)のオートピークと交差する縦の破線が追加されている。
【
図25】
図25Aは、H
2O中、24~60℃の温度範囲内で獲得された、MID IRスペクトル領域1750~1500cm
-1におけるBSA(40mg/mL)に対する、アミドIおよびIIバンド両方を示す重ねられたスペクトルを示す。
図25Bおよび25Cは、
図25Aの試料に対する、2D IR相関解析プロット(
図25B:同期、
図25C:非同期)を示す。
【
図26】
図26は、熱応力(24~60℃)下における、H
2O中のBSA(40mg/mL)に対する事象の順番を示す。
【
図27】24~60℃の温度範囲内、およびスペクトル領域1750~1380cm
-1内の熱応力下における、H
2O中のBSA(40mg/mL)に対する、非同期2D IR共分布解析プロット。
【
図28-1】
図28Aは、H
2O中、24~60℃の温度範囲内で獲得された、スペクトル領域1750~1500cm
-1における、NIST mAb/BSA(モル比1:2)混合物に対する、アミドIおよびIIバンド両方を示す重ねられたスペクトルを示す。
【
図29】
図29Aは、H
2O中、24~60℃の温度範囲内で獲得された、スペクトル領域1750~1500cm
-1におけるリゾチーム(600mg/mL)に対する、アミドIおよびIIバンド両方を示す重ねられたスペクトルを示す。
図29Bおよび29Cは、
図29Aの試料に対する、2D IR相関解析プロット(
図29B:同期、
図29C:非同期)を示す。
【
図30】
図30は、熱応力(24~60℃)下における、H
2O中のリゾチーム(600mg/mL)に対する事象の順番を示す。
【
図31】24~60℃の温度範囲内、およびスペクトル領域1750~1500cm
-1内の熱応力下における、H
2O中のリゾチーム(600mg/mL)に対する、非同期2D IR共分布解析プロット。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の発明を実施するための形態は、主題技術の理解を促すように特定の詳細について説明する。しかしながら、これら特定の詳細の一部がなくとも、主題技術が実践される場合があることは、当業者には明らかであろう。他の例において、主題技術を不明瞭にしないために、良く知られる構造および手法について詳細には示していない。
【0020】
タンパク質は、直鎖で配置され、隣接アミノ酸残基のカルボキシル基とアミノ基との間のペプチド結合により共に接合される、アミノ酸から作られる大きな有機化合物である。大部分のタンパク質は、折り畳まれて固有の三次元構造になる。タンパク質が自然に折り畳まれる形状は、天然状態として知られる。多くのタンパク質が、単にそれらアミノ酸の化学的性質によって、援助なしで折り畳まれ得るものの、折り畳まれて天然状態になるように、分子シャペロンの助けを必要とするものもある。タンパク質の構造には次の四つの明瞭な態様がある。
・ 一次構造:アミノ酸配列。
・ 二次構造:水素結合により安定化される、規則的に繰り返す局所構造。二次構造は局所的であるため、異なる二次構造の多くの領域は、同一のタンパク質分子の中に存在し得る。
・ 三次構造:単一のタンパク質分子の全体形状であり、二次構造の互いに対する空間的関係。
・ 四次構造:二つ以上のタンパク質分子の相互作用に由来する形状または構造であり、これに関連しては、通常タンパク質サブユニットと呼ばれ、より大きな集合体またはタンパク質複合体の一部として機能する。
【0021】
タンパク質は、完全に強固な分子ではない。これらの構造レベルに加えて、タンパク質は、生物学的機能を果たしながら、いくつかの関係する構造間で変化してもよい。これらの機能の再配置に関連して、これら三次または四次構造は、通常「立体配座」と称され、それらの間の遷移は立体構造変化と呼ばれる。
【0022】
タンパク質凝集は、誤って折り畳まれた強固なタンパク質のグループ化と特徴付けられ、工業バイオプロセスの至る所で広く認められる現象とみなされている。凝集は、タンパク質分解の一次モードとみなされ、しばしば、タンパク質の免疫原性につながり、生理活性の喪失に導く。タンパク質凝集は、アルツハイマー病およびパーキンソン病などの異常な病態から、タンパク質薬物の生産、安定性および送達までに及ぶ、幅広い生物医学的状況において極めて重要である。本来は無定形または細繊維であり得るタンパク質凝集は、次の二つの異なる機構、A)一部折り畳まれた中間体が凝集の直接前駆体である、自己凝集、およびB)一つのタンパク質の凝集を別のタンパク質によって媒介する、ヘテロ凝集、のうちの一方により始まり得る。
【0023】
タンパク質凝集物の形成は、タンパク質ベースの薬剤または市販酵素の生産に大きく影響し、生産収率を大幅に下げ得るため、産業での適用において重大である。生物製剤およびバイオ後続品産業は、タンパク質治療薬を含む、複合剤の研究、開発および製造に関係する。研究および開発の効率性は、望ましくないほど低い場合があり、そのため、タンパク質治療薬の高い損耗率により、薬剤開発のコストが増大する。タンパク質治療開発のコストは、遅い段階での不具合から重大な影響を受ける。研究および開発コストを下げる一つの手段は、研究および開発局面の早期に、タンパク質治療薬候補の一連の評価を実施することである。研究および開発局面の速期に、異なる製剤条件およびストレス要因の下、治療用タンパク質の特徴付けを実施することによって、治療薬候補の予測プロファイルを生成して、タンパク質凝集のリスクを査定する。このアプローチは発展性査定(developability assessment)として定義されている。この査定によって、さらなる開発のためにタンパク質治療薬候補を選択するなど、意思決定に重要な情報を提供し得る。タンパク質凝集が発生すると、タンパク質治療薬は、典型的には有効性を低減しており、免疫反応を生じさせ得る。深刻な場合、そのような免疫反応は致命的となり得る。
【0024】
混合物における凝集物の判定について、過去にいくつかの方法が提案されてきた。これら従来の方法は、ある特定のタンパク質またはペプチドのいずれかに対して設計され、および/または異質なプローブの追加を必要とするため、あるクラスの生体分子に一般的に適用する一般化した方法を代表するわけではない。プローブを活用するUV-Vis分光法、内部または外因性プローブも使用する蛍光分光法のような、いくつかの分光法手法が使用されてきた。同様に、近紫外円偏光二色性(「CD」)も使用されてきたが、凝集物のごく近辺の検出に限定され、核磁気共鳴(「NMR」)は、バンドの広がりの出現によりタンパク質凝集を検出するように使用し得る。また沈降解析も、対象のタンパク質が充分に大きなモル吸光係数を有する限りにおいて、オリゴマー形成の程度を特定するように使用され得る。サイズ排除などのクロマトグラフ手法もまた、タンパク質凝集物の存在を検出し得る。しかし、これらの手法は、外因性プローブ、すなわち大量のタンパク質の使用を必要とする場合があり、時間を消費し、凝集機構の判定はできない。
【0025】
タンパク質凝集の問題は複雑で、差異を認識するのが難しい、いくつかの異なる化学および/または計算過程を伴うことがよくある。凝集は、ストレス誘発性で、撹拌、酸化、脱アミノ化および温度変化など、物理的または化学的変化を伴ってもよい。pH、塩類条件、タンパク質濃度または製剤条件の僅かな変化でさえもまた、タンパク質凝集を誘発し得る。また、凝集は、より低い生産収率、タンパク質治療薬の有効性の喪失、および免疫原性リスクに関する安全性の懸念につながる。現在利用可能な凝集を査定する手法は、凝集のサイズ、同一性、機構および程度、ならびに溶液中のタンパク質治療薬の安定性など、過程に関係する要因のすべてに対処するわけではない。いくつかの手法が、凝集物または微粒子のサイズに対処するように開発されてきたが、同一性は判定されない。凝集物のサイズおよび同一性を判定し得る手法もあるが、凝集の程度を判定することはできない。タンパク質に存在するアミノ酸側鎖は、タンパク質の安定性の重要な一因である。しかし、側鎖で観察される弱い化学的相互作用と、タンパク質の二次構造の安定性との関係は、ハイスループット処理での通例のベンチ計測手段を使用して判定することはできない。
【0026】
タンパク質治療薬の安定性もまた、薬剤開発にとって重大であり、タンパク質の熱遷移温度を特定するだけでは、完全に特徴付けることができない。タンパク質治療薬の安定性を理解し対処するには、より高い理解度が必要とされる。例えば、1)対象のタンパク質内におけるドメインの相対的安定性、2)どのようにアミノ酸側鎖がドメインの安定性に寄与するか、3)アミノ酸側鎖が凝集機構に関与するか、4)賦形剤が、タンパク質治療薬の特定ドメインの重大な領域内で、弱い相互作用(例えば、アミノ酸側鎖において)を安定化し得るかを理解することは有益であろう。タンパク質凝集の機構を判定するのに重要なパラメータの理解については、相違がある。
【0027】
現在市販されている手法を統計的に独立して使用するとき、利用可能な手法の感度差が懸念となる。概して、そのような手法は、ロット間の一貫性を実現するために、タンパク質治療薬のサイズ、純度および安定性の判定に重点を置き、製剤の中のタンパク質凝集物または微粒子の有無を評価する。
【0028】
タンパク質治療薬の発展性をより良く査定するように使用し得る技術、ならびに製品の完全性、有効性および安全性を維持し保証するのに必要な比較可能性査定へのニーズがある。そのような過程は、食品医薬品局(「FDA」)の医薬品評価センター(「CDER」)部門および他の関係規制機関により、製品の完全性、有効性および安全性を保証するのに充分であると認識される必要があるだろう。
【0029】
生物薬剤産業に対するタンパク質凝集問題への解決策は、(1)研究開発コストの削減、(2)製品収率の増加による、製品の需要および供給の保証、(3)回収リスクの低下、(4)FDA承認率の増加、(5)市場投入までの時間の減少、および(6)それによる評価額の増加につながるであろう。また、新しいタンパク質治療薬のパイプラインが、数ある中で、癌、ならびに関節リウマチ、クロン病および神経変性疾患などの慢性疾患に対処するように準備され、それによって患者の生活の質を改善する。
【0030】
主題技術の態様により、単一の実験で、タンパク質治療薬または他の化学薬品の凝集および安定性のサイズ、同一性、機構および程度を判定するように、速く正確で再現性のある手法を提供する。主題技術の態様は、異なるタンパク質治療薬候補の比較可能性査定、およびタンパク質治療薬候補の発展性査定に対処する。データは、パイロット規模もしくは製造で、または品質管理および保証の目的で、発見、研究および開発するために、タンパク質、ポリマー、有機物、無機物の分類および化学的特徴付けに使用され得る。また、タンパク質治療薬の貯蔵および送達中の安定性査定にも使用され得る。
【0031】
本明細書に記述するコンピュータによる方法およびシステムは、タンパク質向けに、既存の解析を著しく上回る改善を提供する。本明細書に記述するコンピュータによる方法およびシステムでは、数台の機器使用を必要とすることなく、効率的で意味のある解析を促進する形態で、データを生成し記憶する。したがって、本明細書に記述するコンピュータによる方法およびシステムによって、候補薬剤を評価するためのスペクトルデータ解析の効率性が向上し得る。
【0032】
主題技術の態様は、タンパク質治療薬の凝集の程度および機構に対して、必須の情報を提供する、二次元相関分光法(「2DCOS」)および二次元共分布分光法(「2DCDS」)の使用を含む。本明細書に記述する方法は、内部プローブとして側鎖モードの解析を含み、タンパク質内の構造モチーフまたはドメインの安定性を確認する情報を用意し得る。本明細書に記述する方法は、クオリティバイデザイン(「QBD」)に準拠する実験計画(「DOE(Design of Experiment)」)アプローチによる、ハイスループット発展性および比較可能性査定(「HT-DCA(High Throughput-Developability and Comparability Assessment)」)において有用であることが分かっている。
【0033】
一部の実施形態に従い、本明細書に記述するシステムおよび方法はまた、タンパク質間相互作用(「PPI」)またはタンパク質‐高分子間相互作用(タンパク質‐脂質間相互作用、タンパク質DNAもしくはタンパク質‐RNA間相互作用、またはタンパク質薬物相互作用)を判定するように使用され得る。また、本明細書に記述するシステムおよび方法は、有機溶液、ポリマー、ゲル、ナノ構造または小さな液晶などの解析に使用され得る。
【0034】
図1Aは、サイズ排除クロマトグラフィー(「SEC」)の結果を示し、
図1Bは、示差走査熱量測定(「DSC」)の結果を示し、
図1Cは、動的光散乱(「DLS」)の結果を示す。これらの手法は、凝集のサイズ、同一性および程度の判定につながり得るが、いずれも凝集の機構を定義することはできない。凝集の機構を理解することは、免疫原性のリスクがほとんどないか、または全くなく、目的通りに作用する潜在力を保証する、タンパク質薬物の開発において基本的なことである。
【0035】
一部の実施形態に従い、例えば、
図2に示す通り、水性または凍結乾燥であり得る、バイオプロセスの異なる一部からの試料は、フーリエ変換赤外(ATRまたは透過)分光法(「FT-IR」)によって監視され、凝集物を探すために2DCOSを使用して解析される。ラマン分光法、量子カスケードレーザ吸収、シンクロトロン放射源フーリエ変換赤外顕微鏡および/またはそれらの組み合わせなど、他のタイプの解析も用い得る。凝集物が見つかった場合、結果を設置したデータベースと比較することを含むこともある、評価手順を開始することができ、結果として、バイオプロセスで使用されるプロトコルを修正または変更し得る。FT-IR分光法によって、限られた操作で、外因性プローブを使用することなく、タンパク質凝集物の判定において、高度の柔軟性および速度が可能になる。例示的方法には、2DCOSと組み合わせたFT-IR分光法を含むことができ、それによって、凝集物の有無の判定、すなわち、凝集機構の判定が可能になり、もう一度存続可能なタンパク質を生成するように、タンパク質のパイプライン製造過程を修正することが可能になる。別の例示的方法は、2DCOSと組み合わせた量子カスケードレーザ顕微鏡を含むことができ、それによって、凝集物の有無の判定、すなわち、凝集機構の判定が可能になり、もう一度存続可能なタンパク質を生成するように、タンパク質のパイプライン製造過程を修正することが可能になる。加えて、タンパク質の温度遷移もまた判定され、2DCOSプロットを、立証された実現可能なタンパク質と比較するように生成することができ、所望のタンパク質製品の品質管理、安定性および実現可能性に備える。さらに、試料調製およびデータ解析を容易にすることで、本方法の自動化を可能にする。
【0036】
FT-IR分光法は、立体構造変化および凝集に敏感である。この手法によって、タンパク質、ペプチドおよびペプトイド凝集の程度について、定性および定量解析が可能になる。2DCOSを使用することで、さらなる解析が可能になり、凝集過程に関する機構の情報が提供される。方法には、次の手法、透過FT-IR分光法、減衰全反射(「ATR」)FT-IR分光法、2DCOS解析および/または2DCDS解析のうちの一つ以上を組み込んでもよい。
【0037】
透過FT-IR顕微鏡またはQCL顕微鏡では、試料の調製には、適切な緩衝液中に、純粋なタンパク質、ペプチドまたはペプトイドの使用を伴い得る。試料は、D2O中で凍結乾燥され再懸濁され得る。タンパク質溶液がスライドとカバーとの間に加えられ、溶媒の蒸発を妨げるように密封され得る。スライドは、スライドホルダーの中に配置され得る。類似の手順は、適切な緩衝液(PBSまたはHEPES)を使用して、基準にも使用される。スライドに近接して位置する温度プローブは、試料の温度を登録するように使用される。時間による温度勾配を使用することができ、獲得されるスペクトルデータは、熱電対インターフェースによって自動的に受信される。スペクトル解析中、のアミドIバンドの半値幅(FWHH(full width at half height))は、遷移温度を立証する、温度の関数として判定され得る。
【0038】
減衰全反射(ATR)FT-IR分光法は、水素/重水素交換調査、滴定実験、および再構成される膜タンパク質の配向の判定に使用され得る。本方法では、タンパク質は、繰り返される凍結乾燥およびD2O中での試料の再溶解によって、完全に交換され得る。完全に交換されたタンパク質試料および緩衝液は、独立して薄膜として広げることができ、緩衝液は基準とみなされる。典型的にD2O中のタンパク質試料は、ATR結晶上に広げられ、乾燥空気パージを使用して、乾燥することが可能である。それに続くスペクトルは、タンパク質試料、および存在する場合、タンパク質の凝集形態を代表するであろう。
【0039】
一部の実施形態に従い、スペクトルデータは、上に記述した方法のうちの一つ以上など、いずれの好適な方法によっても生成され得る。解析される分子は、所望の場合、水またはD2Oなど、溶質を伴う溶液中に提供され得る。溶液中で解析される分子の濃度は、好ましくは、試料の溶質(例えば、水)または他の成分からのいかなる信号に対する、分子からの強い信号を提供する範囲(すなわち、好適な信号対雑音比)を伴い、本明細書に記述する通り、さらなる解析を促進し得る。典型的に、所望の信号対雑音比を提供するであろう、タンパク質またはペプチド分子の濃度は、タンパク質またはペプチドのサイズに関係し、それに比例する。好ましい濃度によって、解析に適正な信号対雑音比が提供される。例えば、本明細書にさらに記述する通り、試料によって、試料の溶質(例えば、水またはD2O)または他の成分に起因するスペクトルを差し引く必要なく、対象の分子に対するスペクトル解析を促進し得る。例えば、IgGまたは他のタンパク質約150kDに対して、試料は、約50mg/mLから約150mg/mLまでの濃度のタンパク質を含有し得る。タンパク質の量は、この範囲から対象のタンパク質のサイズまで比例して変化することができ、例えば、約67kDのBSAは、溶液中約25mg/mLから約75mg/mLまでの濃度で解析され得る。試料は、経路長を有する細胞の中に提供され得る。経路長は、D2Oに対してはより長く(例えば、30~50μm、好ましくは約40μm)、水に対してはより短く(例えば、4~12μm)なり得る。
【0040】
一部の実施形態に従い、スペクトル解析は、例えば、
図3に図示する通り、段階的に実施され得る。
図3に図示する過程は、
図2に図示する「2DCOS/2DCDS解析」段階の少なくとも一部として実施される段階を含み得る。
【0041】
一部の実施形態に従い、タンパク質試料は、振動スペクトルの動的ゆらぎを含め、(熱的に、化学的に、圧力または音響特性に)摂動を加えられる。段階310では、未加工のスペクトルデータが収集および/または解析され得る。スペクトルデータは、規則的な温度間隔で、順次獲得され得る。一部の実施形態に従い、データは基準線補正が行われ得る。
【0042】
一部の実施形態に従い、スペクトルデータは、タンパク質、ペプチドまたはペプトイドの凝集形態の存在を判定するように使用され得る。このため、第1スペクトルは、動的スペクトルを生成するように、続くスペクトルから差し引かれる。段階320では、共分散(差)スペクトルは、続く全スペクトルから第1スペクトル(24℃)を差し引くことによって生成され得る。その結果として、共分散(差)スペクトルは、正および負のピークを包含し、それらは互いと同相である、または異相であると称する。
【0043】
とりわけ本明細書に記述する過程では、スペクトルデータから水または他の基準(例えば、溶質)を手動で減算する必要はない。そのような手動による減算は、タンパク質のスペクトル解析でしばしば出くわす、極めて自覚的なステップである。実際、本明細書に記述する過程で、対象の試料の摂動に基づき設定される、差スペクトルデータが生成される。そのデータの出力はその後、さらなる解析に使用され得る。アミドIバンドと共に重複する水バンドを有する第1スペクトルを、続く全スペクトルから差し引くことによって、水のスペクトル寄与を自動的に差し引く。
【0044】
段階330では、2D IR相関手法が、同期プロット(段階340)および非同期プロット(段階350)を生成するように適用され得る。例えば、スペクトルデータは、同期および非同期プロットを生成する相互相関製品を通して、強度行列が取得される複素行列を生成するように、高速フーリエ変換(「FFT」)され得る。これらのプロットを生成する手法については、本明細書でより詳細に論じるであろう。
【0045】
同期プロットは、摂動中に発生する強度変化を表す。このプロットの対角線上に、スペクトルの至る所で変化した、ピークまたはバンド(オートピークとして知られる)がある。対角線から外れたところが、オートピーク間の相関、すなわち、観察される二次構造の変化間の関係を示す、クロスピークである。同期プロットは、同相のピーク強度変化またはシフトを関連付けるように使用され得る。
【0046】
同期相関スペクトルでは、対角線位置のオートピークは、摂動を誘導するスペクトル信号の動的ゆらぎの程度を表す。クロスピークは、二つの異なる波数におけるスペクトル信号の同時変化を表し、強度変動の連結または関係開始点を示唆する。クロスピークの符号が正の場合、相当する波数における強度は共に増加または減少している。符号が負の場合、一つは増加している一方、他方は減少している。
【0047】
非同期プロットは、事象の順序、およびタンパク質の凝集機構を判定するように使用される、クロスピークのみを包含する。非同期プロットは、異相のピーク強度変化またはシフトを関連付けるように使用され得る。
【0048】
非同期相関スペクトルでは、強度が、信号ゆらぎの一部のフーリエ周波数成分に対して、互いに相を異にして変化する場合のみ、クロスピークが現れる。波数ν2の強度変化が、波数ν1の前に発生する場合、クロスピークの符号は正である。波数ν2の強度変化が、波数ν1の後に発生する場合、クロスピークの符号は負である。同期プロットに翻訳される、同じ非同期クロスピーク位置が、負の領域(Φ(ν1,ν2)<0)に集合する場合、上の符号規則は反転する。
【0049】
2D IR相関は、ピークを二次元で広げることによって、アミドIおよびIIバンドなど、広域バンドの基礎をなすピークのスペクトル分解能を強化する。これらのプロットは本来対称であり、議論のため、解析に関して上部三角形に言及する。同期プロット(340に図示)は、次の二つのタイプのピーク、(a)対角線上の正のピークであるオートピーク、および(b)正または負のいずれかであり得る、対角線から外れたピークであるクロスピークを包含する。非同期プロット(350に図示)は、異相のピークを関連付けるクロスピークからのみ成る。結果として、このプロットによって、より大きなスペクトル分解能の強化が明らかになる。以下の規則を適用して、分子事象の順序を立証し得る。
I. 非同期クロスピークν
2が正の場合、ν
2はν
1より前に摂動を加えられる(ν
2→ν
1)。
II. 非同期クロスピークν
2が負の場合、ν
2はν
1の後に摂動を加えられる(ν
2←ν
1)。
III. 同期クロスピーク(対角線から外れたピーク、
図3に図示せず)が正の場合、非同期プロットを使用して(規則IおよびII)、事象の順序を立証するのみである。
IV. 同期プロットが負のクロスピークを包含し、相当する非同期クロスピークが正の場合、順序が逆転する。
V. 同期プロットが負のクロスピークを包含し、相当する非同期クロスピークが負の場合、順序は維持される。
【0050】
事象の順序は、ν2の軸に観察される各ピークに対して立証され得る。各事象に対する順序を要約した表を、提供し得る。段階360では、各事象の順序を要約する表を使用して、事象の順番のプロットを生成する。各ステップ(事象)の上部には、クロスピークν2の分光情報がある一方、各ステップの底部には、温度の関数として摂動を加えられる順序で、相当するピークの帰属または各事象の生化学情報がある。実施例を本明細書に提供する。
【0051】
二次元相関分光法(「2DCOS」)解析は、アミドIバンドなど、複雑なバンドを分解するように使用され得る。2DCOS解析の例は、米国特許第8,268,628号に記述され、本明細書で参照することによって本明細書に援用される。当業者は、2DCOS解析に使用するのに好適であるアルゴリズムについて記述する、Journal of Molecular Structure、1069号、51~54ページのIsao Nodaの「Two-dimensional co-distribution spectroscopy to determine the sequential order of distributed presence of species」に関心を向けている。
【0052】
2DCOSの開発概要は以下の通りである。別々に採取されたスペクトルセットA(νj,tk)は、外部摂動の影響下で測定されるシステムに対して取得することができ、外部摂動によって、観察されるスペクトル強度の変化を誘導する。j=1,2,…,nであるスペクトル変数νjは、例えば、波数、周波数、散乱角などであってもよく、k=1,2,…,mである他方の変数tkは、加えられる摂動、例えば、時間、温度および電位の効果を表す。明確に画定されたtlとtmとの観察間隔中に取得され、順次採取されるスペクトルデータセットのみが、2DCOS解析に使用されるであろう。便宜上、波数および時間を、二つの変数に指定して本明細書で使用するが、他の物理変数の使用もまた有効であることは理解されるものとする。
【0053】
2D相関分光法で使用される動的スペクトルは、以下の通り、明確に定義される。
【0054】
【0055】
【数2】
は、システムの基準状態のスペクトルである。基準状態の演繹的知識がない場合、基準スペクトルはまた、t
lとt
mとの間の観察間隔に渡る時間平均スペクトルとして設定され得る。
【0056】
【数3】
この特定の基準スペクトルの選択で、観察間隔内の動的スペクトルの一部分が、本質的に平均中心スペクトルに等しくなる。同期および非同期2D相関スペクトルΦ(ν1,ν
2)およびΨ(ν1,ν
2)は、次の式により与えられる。
【0057】
【0058】
【数5】
用語N
ijは、次の式により与えられる、いわゆるHilbert-Noda変換行列の要素である。
【0059】
【数6】
同期スペクトルΦ(ν
1,ν
2)は、摂動変数t
kに従って二つの異なる波数ν
1およびν
2で観察される、スペクトル強度の協調した変化または同時変化を表す。二つの波数で測定されるスペクトル強度が、増加または減少のどちらかで、大部分同じ方向に変化する場合、同期相関強度の符号は正になる。一方、一つが増加していて、他方が減少している場合、(ν
1,ν
2) の符号は負になる。
【0060】
非同期スペクトルΨ(ν1,ν2)は、異相、またはスペクトル強度の経時的変化を表す。(ν1,ν2)=0の場合、二つの波数ν1およびν2のスペクトル強度の変動は、完全に同期する。Φ(ν1,ν2)およびΨ(ν1,ν2) の符号が同じ場合、ν1で観察される全体のスペクトル強度の変動は主に、ν2で観察される全体のスペクトル強度の変動より前に発生する。符号が異なる場合、順序が逆転する。最後に、Φ(ν1,ν2)=0の場合、強度変動の順序は判定できない。2D相関スペクトルは、スペクトル強度変動の順序のみを与え、スペクトル信号の原因となる、分布する種の存在する順序は与えないことを強調するのは重要である。
【0061】
再び
図3を参照すると、段階370では、共分布相関プロットは、溶液中のタンパク質集団分布(閾値80%)の摂動を加えられた領域を提供する。
二次元共分布分光法(「2DCDS」)解析は、溶液中のタンパク質分子の集団、およびこれらのタンパク質の異なる集団の振る舞い方を解析するように使用され得る。当業者は、2DCDS解析に使用するのに好適であるアルゴリズムについて記述する、Journal of Molecular Structure、1069号、54~56ページのIsao Nodaの「Two-dimensional co-distribution spectroscopy to determine the sequential order of distributed presence of species」に関心を向けている。
【0062】
式(2)により与えられる時間平均スペクトル
【0063】
【数7】
と共に、t
1≦t
k≦t
mの観察間隔中に取得されるm個の時間依存スペクトルA(ν
j,t
k)の一セットに対して、特性(時間)指標は以下のように定義される。
【0064】
【0065】
【数9】
は、式(1)に定義するものと同じである。波数ν
jで観察されるスペクトル強度分布の相当する特性時間は、次の式によって与えられる。
【0066】
【数10】
再び、本明細書に使用する時間は、加えられる摂動の代表的な変数の一般的な記述を意味し、そのため、実験条件に対して特異的に選択される、温度、濃度および圧力など、いかなる他の適切な物理変数と置き換えられる可能性があることは理解されるものとする。特性時間
【0067】
【数11】
は、t
1とt
mとの間の観察間隔により結びつけられる時間軸に沿う、スペクトル強度A(ν
j,t
k)の分布密度の第1の瞬間(時間軸のほぼ開始点、すなわち、t=0)である。特性時間t(ν
j)は、その時間に渡って分布し観察されるスペクトル強度に対する、重心の位置に相当する。
二つの異なる波数ν
1およびν
2で測定される、スペクトル強度の時間分布の特性時間
【0068】
【0069】
【数13】
に対して、同期および非同期共分布スペクトルは、次のように定義される。
【0070】
【0071】
【数15】
式中、T(ν
1,ν
2)は、以下により与えられる全結合分散である。
【0072】
【数16】
同期共分布強度Γ(ν
1,ν
2)は、時間軸に沿った、二つの別個のスペクトル強度の分布の共存または重複の測定値である。対照的に、非同期共分布強度Δ(ν
1,ν
2)は、二つのスペクトル信号の分布差の測定値である。用語「共分布」は、二つの別個の分布の比較を示し、この計量と、二つの変動の比較に基づく「相関」の概念とを識別する。
【0073】
式6、7および9を組み合わせることによって、非同期共分布スペクトルに関する式が、次の通り与えられる。
【0074】
【数17】
波数の一方において、スペクトル強度信号がないことを示す、
【0075】
【0076】
【数19】
に遭遇した場合、Δ(ν
1,ν
2)の値はゼロに設定される。同期共分布スペクトルは、次の関係から取得され得る。
【0077】
【数20】
非同期共分布スペクトルでは、正符号を伴うクロスピーク、すなわち、Δ(ν
1,ν
2)=0に対して、ν
1のスペクトル強度の存在は、ν
2に対するそれと比較される時間軸に沿って、より早期の段階で主に分布する。一方、Δ(ν
1,ν
2)<0の場合、順序が逆転する。Δ(ν
1,ν
2)≒0の場合、経時変化中に二つの波数で観察されるスペクトル強度の平均分布が類似する。同期共分布ピークの符号はいつも正であり、分布パターンの重複度の明らかな定性的測定値を超える、同期スペクトルの情報量を幾分制限する。
【0078】
2DCDSは、タンパク質における凝集機構の要素を提供でき、または加重して調査している、いかなる過程でもある。2DCDSは、摂動(例えば、時間、温度、濃度、圧力など)の可変軸に沿って、分配される種の存在の配列を、直接提供するように使用され得る。手法は、中間体種の存在を直接特定する際に、2DCOS解析を拡張する補足ツールとして使用し得る。一部の実施形態に従い、摂動依存性スペクトルは観察間隔中に、順次取得される。2D相関スペクトル(同期スペクトルおよび非同期スペクトル)は、スペクトルの変動に由来する。同期共分布強度は、摂動軸に沿った、二つの別個のスペクトル強度の分布の共存または重複として測定される。非同期共分布強度は、二つのスペクトル信号の分布の差として測定される。正符号を伴うクロスピーク、すなわち、Δ(ν1,ν2)>0に対して、ν1のスペクトル強度の存在は主に、ν2に対するそれと比較される時間軸に沿って、より早期の段階で分布する。一方、Δ(ν1,ν2)<0の場合、順序が逆転する。Δ(ν1,ν2)≒0の場合、経時変化中に二つの波数で観察されるスペクトル強度の平均分布が類似する。
【0079】
2DCOS解析間の差によって、摂動過程および試料への効果による、経路の平均に関する説明が提供される一方、2DCDS解析では、摂動過程中に分子の集団(タンパク質)の中に加重した要素が提供される。2DCOSおよび2DCDSの結果は、摂動によってスペクトルデータの中で変化している要素に関する直接的で簡潔な記述である。
【0080】
一部の実施形態に従い、例えば、
図4に示す通り、データ解析を実施するシステムは、本明細書に記述する方法の機能を実施するため、少なくとも図示する構成要素を含み得る。獲得されるデータは、解析のため、プロセッサを含む一つ以上の演算器に提供され得る。データの解析を実施または管理するように、モジュールが提供され得る。そのようなモジュールは、相関解析モジュール、視覚モデル生成器モジュールおよび/またはヒューマンインタラクションモジュールを含み得る。モジュールは互いに通信してもよい。一部の実施形態では、モジュールはソフトウェア(例えば、サブルーチンおよびコード)に実装されてもよい。例えば、モジュールは、メモリおよび/またはデータ記憶部に記憶され、プロセッサによって実行されてもよい。一部態様では、モジュールの一部またはすべては、ハードウェア(例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プログラマブルロジックデバイス(PLD)、コントローラ、状態機械、ゲート論理、個別のハードウェア構成要素、またはいかなる他の好適なデバイス)、ファームウェア、ソフトウェアおよび/またはそれらの組み合わせに実装されてもよい。主題技術の様々な態様に従うこれらのモジュールの追加の特徴および機能について、さらに本開示に記述する。
【0081】
一部の実施形態に従い、例えば、
図5に示す通り、獲得されるデータを検証し準備する方法が実施され得る。データのタイプが特定され検証される。検証に基づいて、データを変換、および/または記憶もしくは拒絶して、エラーをユーザに表示し得る。
【0082】
一部の実施形態に従い、例えば、
図6に示す通り、獲得されるデータを解析する方法が実施され得る。閾値に対する適正な信号対雑音比について、データのタイプが検証される。検証に基づいて、データは、解析または解析前に平滑化フィルタ過程の対象となり得る。
【0083】
一部の実施形態に従い、例えば、
図6に示す通り、データは、基準線の相関を適用することと、ピークを位置させることと、データウィンドウを計算することと、相関を計算することと、共分布を計算することと、および/または摂動相関を計算することとを含む、操作で解析され得る。
【0084】
データ操作は、微粒子および溶液を識別するため、関心領域(ROI)の自動認識を含み得る。微粒子のサイズおよび数を判定して、微粒子の集団分布を確認し得る。データ操作は、SN比判定、基準線補正などの遵守を確保し、水蒸気含有量を判定し、調査されるスペクトル領域内における対象要素の信号強度を判定するように実施され得る。統計解析用のデータ出力は、とりわけ、実験計画アプローチを使用して単純化し得る。対象要素の強度およびスペクトル位置は、カンマ区切りのファイル(*.csv)として出力され得る。共分散、つまり、動的スペクトルデータセットは、対象試料の摂動に基づき生成することができ、その出力はさらなる解析に使用され得る。例えば、データ出力は、比較可能性査定に対する他の生物分析結果との融合を促進し、摂動タイプ、賦形剤、タンパク質治療薬、タンパク質濃度、温度、獲得日および/または生物分析手法により出典が明らかにされる形式で提供され得る。このアプローチにより、類似条件下で行われた実験のすべてに対して実行される、統計解析が可能になるであろう。さらに重要なことに、DOE解析の結果は、最終報告に備えた独立型の文書であり、意思決定が可能になるであろう。
【0085】
一部の実施形態に従い、本明細書に記述する方法およびシステムによって、このアルゴリズムを2D IR相関分光法と呼ぶ二つのプロット(同期および非同期)を生成するように、相関関数を共分散または動的スペクトルデータに適用し得る。互いに同相であるスペクトルデータにおける変化(例えば、ピーク強度)は、同期プロットで取得される通り、相互に関連付けられ得る。スペクトルデータの中で変化する要素を判定し得る。スペクトルデータにおける全体の最大強度変化を判定し得る。スペクトルデータにおける全体の最小強度変化を判定し得る。タンパク質およびペプチドのアミドバンドなど、広域バンドにおいて基礎をなすスペクトル寄与の最小数は、曲線適合解析に対して判定することができ、それによって二次構造組成の判定が可能になる。調査されているスペクトル領域の分解能は、特にスペクトルの広域バンドに対して高め得る。
【0086】
互いとは相を異にするスペクトルデータにおける変化(例えば、ピーク強度)は、非同期プロットで取得される通り、相互に関連付けられ得る。非同期プロットはまた、タンパク質の振る舞いを、分子詳細に記述する事象の順序を包含する。プロットの詳細な評価は、事象の順序を確認するように実施され得る。代替としてまたは組み合わせて、この過程を自動化し得る。事象の順序を判定するように直接解釈し得る、融合された非同期プロットを生成するように、結合分散関数を、共分散または動的スペクトルデータに適用し得る。この方法は代替として、複雑な記述である、タンパク質の分子行動の記述についての上記解釈を確証するように使用され得る。曲線適合ルーチンに対するさらなる情報、つまり、曲線適合ルーチンに対する番手位置および強度情報の入力もまた、タンパク質の二次構造組成、および解析される試料でタンパク質凝集される種の範囲を得る、自動化過程となる可能性がある。2D IR相関プロットからの強度情報は、脱アミノ化など、酸化生成物の定量判定に使用され得る。例えば、脱アミノ化は側面の頤上で検出され得る。そのような解析は、候補薬剤選択に、またはタンパク質設計局面中に使用され得る。相互に関連付けて解決する必要のある属性の複雑性に対する長期ソリューションとして、機械学習アプローチを実装し得る。
【0087】
一部の実施形態に従い、例えば、
図7に示す通り、獲得したデータの解析は、タンパク質凝集調査に関して統計的に有効で情報価値が高い、包括的解決を提供するように、段階的に実施され得る。一部の実施形態に従い、
図7に図示する過程は、
図3に図示する過程の適用を表し得る。QCL赤外顕微鏡の結果(
図7の左上)は、5℃の低温(より大きな最大値を伴う)で初期および最終QCLスペクトルと共に示され、H→D(水素→重水素)交換された全長IgG(150KDa)用の90℃の高温(より小さい最大値を伴う)は、スペクトル領域1700~1500cm
-1に示される。アミドI’(1700~1600cm
-1、主にペプチド結合カルボニル伸縮モードによる)および側鎖(表1に定義した1600~1500cm
-1)バンドの差が観察される。
表1: D
2O中の内部プローブとしてのアミノ酸
【0088】
【表1】
低温の初期スペクトルを、続く全スペクトルから差し引くことによって、温度上昇によるスペクトルの変化を明らかにし(タンパク質挙動の変化を明らかにする)、それらは、共分散スペクトルデータと称されるが、またよく差スペクトルとも称される。その後、観察されるピーク間の関係を判定するように、これらのスペクトルの変化に相互相関関数を適用する。タンパク質試料の摂動によって観察される、結果生じるピーク間の相関を提供する、同期および非同期プロットである、二つのプロットが生成される。これらのプロットによって、大量の分子情報、およびタンパク質の挙動について記述する分子事象の順番を提供する。オートピーク(対角線上のピーク)を包含する、同期プロット(
図7の左下)は、凝集ピークと共に示される。この図は、タンパク質の最大強度変化を表し、より低強度の変化を伴う二つの追加オートピークが観察される。これらのピーク間の関係は、クロスピーク(対角線から外れたピーク)の観察に基づいて判定され、クロスピークは、正または負のいずれかであり、対角線上で観察される異なるオートピーク間の関係(すなわち、初期スペクトルの減算による強度の変化)を提供する。この仮定のケースでは、観察される関係によって、タンパク質のヘリックス二次構造を伴う凝集事象をもたらし、凝集事象は、例えば、タンパク質の凝集過程用の内部プローブとして機能を果たす、このヘリックスモチーフの中に見つかるチロシン残基の存在によって確証される。その結果、チロシンピークによって、凝集しているタンパク質の領域を画定する。2DCOS解析によって、SEC、DSCおよびDLSなど、他の直交手法により以前は利用できなかった、価値のある詳細な分子情報を提供する。QCLから取得される結果は、非常に再現性が高く、統計を使用して厳密に試験されてきた。QCL赤外スペクトル領域は、非常に選択的で繊細であり、そのため、タンパク質の立体構造変化だけでなく、20個のアミノ酸側鎖振動モード(表1参照)のうちの6個も同時に調査することを可能にする。
実施例1
発展性および比較可能性査定が、三つの抗体薬物複合体断片に対して実施された(
図8A~B)。解析は全部で47回の実験を伴った。QCL顕微鏡は、43個のDOE条件の画像を獲得するように使用され、そのうちの16個は、pH6.6およびT=24~30℃のHEPES緩衝液中のADC0、ADC1およびADC2と呼ぶ、三つのADC断片の比較に関与していた。ADC2は、調査した条件下では凝集物がなかった一方、ADC1にはいくつかの凝集物種が見られたが、28℃にまで加熱したとき、凝集物は溶液に戻る(
図9A~B)ことが判明した。さらに、ADC0の候補に凝集物種が存在したが、温度上昇すると、凝集物種の存在が増加した。これらの凝集物種は、ADC0であると判定された。類似の結果が、2DCDS解析を使用するADC1に対しても見られた(
図10)。
【0089】
また、凝集物を含まないADC2のスペクトル解析を、ほぼ室温のT=24~26℃で異なる賦形剤(ショ糖およびNaCl)の存在する中で実施した(
図11A~B)。分光器と接続されずに解析された(
図11B)QCL画像内に囲んだ通りに示される(
図11A)、異なる関心領域(ROI)を選択することによって、解析の再現性を判定する値が増した。ショ糖の賦形剤は1420~1520cm
-1で示される。また、アミドI’バンドおよび側鎖バンド(1520~1700cm
-1)も示され、手法の高い感度および選択性を証明する。さらなる証拠を
図12A~Cに示す。解析の面で、賦形剤とタンパク質治療薬との両方を直接検出する能力は、各製剤中の賦形剤の存在を確証することが可能になるため、生物薬剤産業にとって価値が高い。HT-DCAプラットフォームは、試料内の構成物の価値の高い分子情報だけでなく、統計解析に必要とされる精度および再現性の両方も提供するであろう。
【0090】
516個のスペクトルおよび正規分布解析の全体要因計画は、異なる条件下で、QCL顕微鏡(QCL)を使用して、43回の実験に対して実施された。QbD実験時の設定は、324個のスペクトルデータを解析して、異なる量のNaCl、ショ糖、ならびに異なる割合の両賦形剤(すなわち、NaClおよびショ糖)の存在するADC2の評価を表すようであった。試料サイズは、標準偏差によってn=8~12であると判定された。発展性および比較可能性査定をADC2を用いて追及し、以下は、26°および28℃で、ショ糖15、30および60%で取得された結果の概要である。類似の結果が、賦形剤として、異なる濃度(325、350および400mM)のNaCl、および異なる割合のショ糖およびNaClに対して取得された。典型的に、取得された結果は、0.8より大きいp値に収斂した(
図13)。分布解析の後に、段階的な全モデル適合を使用するDOE統計評価が続き、ADC2に対する最善の賦形剤はショ糖18.5%であるという、同じ成果に到達したAICおよびBICモデル(
図14、15)で終わった。
【0091】
HT-DCAプラットフォームのQCLスペクトル解析能力によって、タンパク質治療薬のさらなる分子解析および安定性判定を提供する。このタイプの解析は、情報価値が高く、タンパク質治療薬候補の最適設計を可能にする。2DCOS解析および2DCDS解析という、二つのタイプの相関解析を実施し、溶液中のタンパク質治療薬の行動に関する情報を提供した。
【0092】
2D IR相関プロットの概念解析が、タンパク質の赤外スペクトルに適用された。アミドI’バンドおよび側鎖バンドは、隣接する環境および弱い相互作用の情報を提供する、ペプチド結合または側鎖振動モード内のカルボニル伸縮のように、立体配座的に敏感であろうとも、広く、基礎をなす寄与から成る。この情報を抽出するために、基準スペクトルを続く全スペクトルから差し引くことによって、共分散スペクトルを生成する。例えば、タンパク質熱変性調査(温度摂動)では、低温での初期スペクトルが減算に使用されるであろう。生成された共分散スペクトルは、温度上昇による強度の変化を含む。その後、二つの別個のグラフの形態である共分散スペクトルで観察された強度の変化を、増加した分解能と関連付けるであろうデータセットに、相関関数が適用される。これらのプロットは、非常に重複したバンドを分解し、タンパク質のより柔軟な領域を立証し、タンパク質の凝集機構を解読し、タンパク質標的の相互作用を立証することができる。2D IR相関プロットは、同期および非同期プロットと呼ばれる。これらのプロットは本来対称であり、解釈のため、各プロットの上半分に言及する。同期プロットは、対角線上に、オートピークとして知られる正のピークを有する。オートピークは、全体のスペクトルデータセットに対して観察される強度の全体的な変化を包含する。変化の大きさを特定し、タンパク質の領域が、摂動によって有する場合がある、柔軟性または感受性を判定するように使用し得る。これらのピークの位置および数は、アミドI’バンドおよび側鎖バンドに対して、基礎をなすスペクトル寄与を判定するように使用される(表2参照)。
表2: ショ糖15%のHEPES緩衝溶液中のADC2に対するバンド帰属の概要
【0093】
【表2】
同期プロットはまた、クロスピークとして知られる対角線から外れたピークも有する。これらのクロスピークによって、オートピークの関係を判定する。同期プロットで観察されるクロスピークは、互いと同相である強度の変化によるものである。強度が徐々に増えて、またはその逆に変化した二つのピークを考えることができ、これら二つのオートピークは、相互関係を表す付随のクロスピークを有するであろう(
図16A~B)。
【0094】
非同期プロットは、対角線上にピークを包含しないが、強化されたスペクトル分解能を描写する。結果生じるクロスピークは、共分散スペクトルにおける強度により、互いに異なる位相が変化し、その結果として詳細情報を提供する、ピークによるものである。それらの中には、熱的摂動による分子事象の順番がある。非同期プロットの中のクロスピークは、正または負のいずれかであり、順番が判定され得る。概して、クロスピークの符号が両プロットで正である場合、非同期プロットで画定される順序は保持される。その結果、正のクロスピーク手段ν1は、ν2より前に発生する。この解釈は、同期プロットの中の同じクロスピークもまた正である場合、およびその場合のみ、真であると指定される。しかしながら、クロスピークの符号が両プロットで異なる場合、順序が逆転する。
【0095】
これを
図16A~Bのプロットに適用すると、非同期プロットの中のクロスピークは、(1652、1632)で正であることが分かる。1652cm
-1(ν
1)のピークには、1632cm
-1(ν
2)より前に摂動が加えられる。分子論的解釈では、πへリックスには、タンパク質内の逆平行βシートより前に摂動が加えられる(表2)であろう。同様に、βターン(ヒンジループ、1670.3cm
-1)には、逆平行βシートより前に摂動が加えられる。さらに、これらのプロットは、ショ糖が溶液中でどのようにADC2を安定化したかを判定するのにも使用された。側鎖とショ糖との間の水素結合によって、βターン(ヒンジループ)を安定化し、そのためβシートも安定化した。さらに重要なことに、対象のタンパク質断片で発生した分子変化を、
図17に示す。
【0096】
温度摂動がほぼ室温に限定されたものの、それでも解析によって、側鎖およびその水性環境と、賦形剤(ショ糖)との間のH結合相互作用を判定することが可能であった。また、これらの相互作用によって、ADC2の二次構造が安定した。
【0097】
2DCDS解析は、ある温度範囲内において、タンパク質溶液の動態評価、および立体配座動態の分布に有用であることが分かり、その時の場合では、温度範囲は、ショ糖が15%存在する、HEPES緩衝液中のADC2に対して、温度範囲が26~28℃のみと小さかった(
図18A~B)。非同期共分布プロットの解釈は、2D IR相関と比較すると分かりやすい。プロット間のクロスピーク符号の比較は必要ではない。正のクロスピークに対して、ν
1はν
2より前に発生すると判定し得る。さらに、負のクロスピークに対して、ν
2はν
1より前に発生すると判定し得る。
【0098】
凝集はこのタンパク質には観察されなかった。非同期プロット(
図18B)を参照すると、溶液中のこのタンパク質に対して、ヒンジループとも称されるβターン(1660cm
-1)および負に帯電したアスパラギン酸塩(1553cm
-1)と、グルタミン酸(1543cm
-1)残基との間に、相互依存が観察される。この結果は、ADC2のβターンモチーフ内におけるそれらの部位と一致する。2DCOS解析および2DCDS解析によって、ADC2、および分子レベルでADC2に及ぼすショ糖の安定化効果についての完全な説明が可能になった(
図16A~18B)。要約すると、ADC2における主な安定化の特色は、アルギニンとすぐ近くのアスパラギン残基との間に観察される塩橋相互作用による、ヒンジループの安定化の特色であった。塩橋相互作用の破壊は、部位特異的突然変異誘発により導入される、第2ジスルフィド架橋によって防がれた。さらなる安定化が、賦形剤としてショ糖を含んだ製剤条件により実現された。具体的には、ショ糖15%でも、これらの同じ残基とのH結合による安定化が提供された。
表3: 26℃でのADC断片2の二次構造組成を提示する、曲線適合結果の概要
【0099】
【表3】
図19は、表3に示す結果に相当するプロットを示す。
実施例2
米国国立標準技術研究所の基準材料8671(RM8671)、ロット番号14HB-D-002m、H
2O中にヒト化IgG1κモノクローナル抗体(NIST mAb)を含む試料を、本明細書に記述する方法に従う解析のために調査した。試料は、QCL顕微鏡を使用して、データ獲得のために、CaF
2スライドの細胞に追加された。加えられた摂動は、24~60℃の範囲内で4℃間隔の温度であった。QCL IRスペクトルデータを、4cm
-1で4倍の大きさの対物レンズを使用して獲得し、データは0.5cm
-1ごとにコード化され、基準線は補正された。
【0100】
NIST mAb標準はIgG1κタンパク質である。抗体の重鎖(SEQ ID NO:5)および軽鎖(SEQ ID NO:6)のアミノ酸配列を、以下に表す。
【0101】
【化1】
試料に対するアミノ酸側鎖の帰属を、表4および5に提供する。
表4: H
2O中のNIST mAbに対する重いアミノ酸側鎖の帰属
【0102】
【表4】
表5: H
2O中のNIST mAbに対する軽いアミノ酸側鎖の帰属
【0103】
【表5】
図20Aに示す通り、MID IRスペクトル領域1750~1400cm
-1における、NIST mAb(50mg/mL)のQCLスペクトルを、H
2O中、24~60℃の温度範囲内で獲得した。
図20Aは、アミドI、IIおよびIIIバンドを示す、重ねられたスペクトルを示す。スペクトルデータに基づき、同期(
図20B)および非同期(
図20C)2D IR相関解析プロットを生成した。重複するH
2O吸光度が、アミドIバンドで観察され、アミドIIおよびIIIバンドでは観察されず、解析に対して充分なタンパク質濃度が実現されたことを示唆していた。本開示の実施形態に従い適用された方法によって、ユーザによるH
2Oの自覚的操作または基準の減算の必要を排除する。
【0104】
図21Aに示す通り、MID IRスペクトル領域1750~1500cm
-1における、NIST mAb(50mg/mL)のQCLスペクトルを、H
2O中、24~60℃の温度範囲内で獲得した。
図21Aは、アミドIIおよびIIIバンド両方を示す、重ねられたスペクトルを示す。スペクトルデータ同期(
図21B)および非同期(
図21C)プロットに基づく。アミドIおよびIIバンド間の相関が立証される。強化分解能を、非同期プロットの使用を通して実現する。
【0105】
H2O中のNIST mAb(50mg/mL)のピークの帰属を表6に提供する。
表6:H2O中のNIST mAb(50mg/mL)のピークの帰属の概要
【0106】
【表6】
24~60℃の温度範囲内の熱応力下における、H
2O中のNIST mAb(50mg/mL)に対する事象の順番を
図22に示す。1635.5cm
-1は、1692cm
-1のβターンの摂動による逆平行βシートに帰属し、両振動モードが最も安定している。また、1618cm
-1も、この作業に基づき、60℃で熱的に誘導されたタンパク質凝集に帰属していた。1652cm
-1はαへリックスに帰属してもよい。
【0107】
H2O中のNIST mAb(50mg/mL)に対する事象の順番を表7に提供する。
表7: H2O中のNIST mAb(50mg/mL)の事象の順番の概要
【0108】
【表7】
図23は、24~60℃の温度範囲内の熱応力下における、H
2O中のNIST mAb(50mg/mL)に対する非同期2D IR共分布解析プロットを示す。熱応力は、温度範囲24~60℃でスペクトル領域1760~1380cm
-1のNIST mAb(50mg/mL)内である。このプロットによって、溶液中のタンパク質の集団に最も共通する反応を提供する。その結果、NIST mAb(50mg/mL)の場合、その熱応力は、おそらく塩橋相互作用による、Argを伴うグルタミン酸の摂動に関係していた。グルタミン酸はHis残基に水素結合し、これらの残基は、αへリックスおよびβシート内に位置する。
【0109】
図24A~Dは、(A)重ねられた未加工のスペクトルデータ、2D IR相関、すなわち (B)同期および(C)非同期プロット、ならびに(D)共分布非同期プロット内の関係を提供する、自動解析の例を示す。縦の破線は、同期プロット内のオートピーク(
図24Bに示す対角線上の正のピーク)の絶対強度値に基づき、自動解析中に提供される。
実施例3
H
2O中にウシ血清アルブミン(「BSA」)を含む試料を、本明細書に記述する方法に従い解析のために調査した。試料は、QCL顕微鏡を使用して、データ獲得のために、CaF
2スライドの細胞に追加された。加えられた摂動は、24~60℃の範囲内で4℃間隔の温度であった。QCLスペクトルデータを、4cm
-1で4倍の大きさの対物レンズを使用して獲得し、データは0.5cm
-1ごとにコード化され、基準線は補正された。
【0110】
以下は、解析されたBSAに対するアミノ酸配列である。
DTHKSEIAHRFKDLGEEHFKGLVLIAFSQYLQQCPFDEHVKLVNELTEFAKTCVADESHAGCEKSLHTLFGDELCKVASLRETYGDMADCCEKQEPERNECFLSHKDDSPDLPKLKPDPNTLCDEFKADEKKFWGKYLYEIARRHPYFYAPELLYYANKYNGVFQECCQAEDKGACLLPKIETMREKVLTSSARQRLRCASIQKFGERALKAWSVARLSQKFPKAEFVEVTKLVTDLTKVHKECCHGDLLECADDRADLAKYICDNQDTISSKLKECCDKPLLEKSHCIAEVEKDAIPENLPPLTADFAEDKDVCKNYQEAKDAFLGSFLYEYSRRHPEYAVSVLLRLAKEYEATLEECCAKDDPHACYSTVFDKLKHLVDEPQNLIKQNCDQFEKLGEYGFQNALIVRYTRKVPQVSTPTLVEVSRSLGKVGTRCCTKPESERMPCTEDYLSLILNRLCVLHEKTPVSEKVTKCCTESLVNRRPCFSALTPDETYVPKAFDEKLFTFH ADICTLPDTEKQIKKQTALVELLKHKPKATEEQLKTVMENFVAFVDKCCAADDKEACFAVEGPKLVVSTQTALA (SEQ ID NO:7)
試料に対するアミノ酸側鎖の帰属を、表8に提供する。
表8: H2O中のBSAに対するアミノ酸側鎖の帰属
【0111】
【表8】
図25Aに示す通り、MID IRスペクトル領域1750~1500cm
-1における、BSA(40mg/mL)のQCLスペクトルを、H
2O中、24~60℃の温度範囲内で獲得した。
図25Aは、アミドIおよびIIバンドを示す、重ねられたスペクトルを示す。スペクトルデータ同期(
図25B)および非同期(
図25C)に基づき、2D IR相関解析プロットを生成した。アミドIおよびIIバンド間の相関が立証される。強化される分解能は、非同期プロットの使用を通して実現される。また、同期プロット内の最高強度のオートピークは、この球状タンパク質に対するヘリカル摂動によるものである。加えて、凝集は観察されなかった。
【0112】
BSA(40mg/mL)のピークの帰属を表9に提供する。
表9: BSA(40mg/mL)のピークの帰属の概要
【0113】
【表9】
24~60℃の温度範囲内の熱応力下における、BSA(40mg/mL)に対する事象の順番を
図26に示す。BSA(40mg/mL)に対する事象の順番もまた、表10に提供する。
表10: BSA(40mg/mL)の事象の順番の概要
【0114】
【表10】
最初、リジン(1530.0cm
-1および1525.5cm
-1)との塩橋相互作用に関与するヘリックス領域(1653.9cm
-1)内に位置する、アスパラギン酸塩(1567cm
-1)およびグルタミン酸塩(1584cm
-1)に、続いてβシート(1629.6cm
-1)に摂動を加え、その後、逆平行βシート(1629.6cm
-1)βターン(1698cm
-1)内のチロシン(1518cm
-1)およびヒスチジン(1606.5cm
-1)に摂動を加える。最後に高温で、βターン(1684.0cm
-1)に近接して位置する、グルタミン酸塩(1560cm
-1)およびアスパラギン酸塩(1576.4cm
-1)と共に、アルギニンを伴う塩橋相互作用に摂動を加える。
【0115】
図27は、24~60℃の温度範囲内、およびスペクトル領域1750~1380cm
-1内の熱応力下における、H
2O中のBSA(40mg/mL)に対する、非同期2D IR共分布解析プロットを示す。BSA(40mg/mL)の場合、その熱応力は、βターンおよびヘリックス領域内のグルタミン酸塩の摂動に関係していた。
実施例4
H
2O中にNIST mAbおよびBSAの混合物を含む試料を、本明細書に記述する方法に従い解析のために調査した。試料は、QCL顕微鏡を使用して、データ獲得のために、CaF
2スライドの細胞に追加された。加えられた摂動は、24~60℃の範囲内で4℃間隔の温度であった。QCLスペクトルデータを、4cm
-1で4倍の大きさの対物レンズを使用して獲得し、データは0.5 cm
-1ごとにコード化され、基準線は補正された。
【0116】
図28Aに示す通り、スペクトル領域1750~1500cm
-1における、NIST mAb/BSA(モル比1:2)混合物のQCLスペクトルを、H
2O中、24~60℃の温度範囲内で獲得した。
図28Aは、アミドIおよびIIバンドを示す、重ねられたスペクトルを示す。スペクトルデータに基づき、同期(
図28B)および非同期(
図28C)2D IR相関解析プロットを生成した。同期プロット全体の輪郭は、NIST mAbおよびBSA純粋成分の両方を区別できる特色を呈する。
【0117】
NIST mAb/BSAのピークの帰属を表11に提供する。
表11: NIST mAb/BSAのピークの帰属の概要
【0118】
【表11】
実施例5
H
2Oにリゾチームを含む試料を、本明細書に記述する方法に従い解析のために調査した。特注のCaF
2スライド上の細胞が、H
2O中の試料に対して7μm経路長で使用された。加えられた摂動は、24~60℃の範囲内で4℃間隔の温度であった。QCL IRスペクトルデータを、4cm
-1で4倍の大きさの対物レンズを使用して獲得し、データは0.5cm
-1ごとにコード化され、基準線は補正された。
【0119】
以下は、解析されたリゾチームのアミノ酸配列である。
KVFGRCELAAAMKRHGLDNYRGYSLGNWVCAAKFESNFNTQATNRNTDGSTDYGILQINSRWWCNDGRTPGSRNLCNIPCSALLSSDITASVNCAKKIVSDGNGMNAWVAWRNRCKGTDVQAWIRGCRL (SEQ ID NO:8)
試料に対するアミノ酸側鎖の帰属を、表12に提供する。
表12: H2O中のリゾチームに対するアミノ酸側鎖の帰属
【0120】
【表12】
図29Aに示す通り、スペクトル領域1750~1500cm
-1における、リゾチーム(600mg/mL)のQCLスペクトルを、H
2O中、24~60℃の温度範囲内で獲得した。
図29Aは、アミドIおよびIIバンドを示す、重ねられたスペクトルを示す。スペクトルデータに基づき、同期(
図29B)および非同期(
図29C)2D IR相関解析プロットを生成した。タンパク質のヘリックス領域と、βターンとの間の相関は、熱応力により立証され得る。また、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩と、アルギニン、リジン、ヒスチジン残基との間の弱い相互作用も、同期および非同期プロットの両方で観察される相関により立証される通り、リゾチームの安定性にとって重要である。凝集はこのタンパク質には観察されなかった。
【0121】
リゾチーム(600mg/mL)のピークの帰属を表13に提供する。
表13: リゾチーム(600mg/mL)のピークの帰属の概要
【0122】
【表13】
24~60℃の温度範囲内の熱応力下における、リゾチーム(600mg/mL)に対する事象の順番を
図30に示す。BSA(40mg/mL)に対する事象の順番もまた、表14に提供する。
表14: リゾチーム(600mg/mL)の事象の順番の概要
【0123】
【表14】
最初にチロシン(1514.6cm
-1)およびリジン(1526.9cm
-1)、続いてアルギニン(1628.7cm
-1)、その後βシート(1637.2cm
-1)、それからβシート内のグルタミン酸塩(1536.8cm
-1)、続いて、ヘリックス領域(1647.0cm
-1)およびβターン(1698.0cm
-1および1683.8cm
-1)内に位置するグルタミン酸塩(1556cm
-1)、続いてグルタミン酸塩(1547.8cm
-1)、ヒンジループ(1660.5cm
-1)、その後アスパラギン酸塩(1566.1、1672.3cm
-1)、およびN末端近くに位置するH結合相互作用により、アスパラギン酸塩とおそらく相互作用する単一ヒスチジン(1596.6cm
-1)に摂動を加え、最後にArg、Asn、Glnすべてを(1666.6cm
-1)に帰属させる。凝集は観察されなかった。
【0124】
図31は、24~60℃の温度範囲内、およびスペクトル領域1750~1500cm
-1内の熱応力下における、H2O中のリゾチーム(600mg/mL)に対する、非同期2D IR共分布解析プロットを示す。リゾチーム(600mg/mL)の場合、その熱応力は、ヒンジループ内に位置するチロシン、ならびにβターンおよびヘリックス領域の近く、またはβターンおよびヘリックス領域に位置するリジンおよびグルタミン酸塩の摂動に関係していた。
【0125】
図32は、(例えば、
図4の)コンピューティングデバイスを実装し得る、例示的コンピュータシステムを図示するブロック図である。ある実施形態では、コンピュータシステム1900は、専用サーバの中か、または別のエンティティの中に統合されるか、もしくは複数のエンティティに渡って分散されるかのいずれかで、ハードウェア、またはソフトウェアおよびハードウェアの組み合わせを使用して実装されてもよい。
【0126】
コンピュータシステム1900は、バス1908、または情報を伝達する他の通信機構と、情報を処理するバス1908と連結されるプロセッサ1902とを含む。例として、コンピュータシステム1900は、一つ以上のプロセッサ1902を伴い実装されてもよい。プロセッサ1902は、汎用マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プログラマブルロジックデバイス(PLD)、コントローラ、状態機械、ゲート論理、個別のハードウェア構成要素、および/または計算もしくは情報の他の操作を実施し得る、いかなる他の好適なエンティティであってもよい。
【0127】
コンピュータシステム1900は、ハードウェアに加えて、当該のコンピュータプログラム用の実行環境を作り出すコードで、例えば、プロセッサファームウェアを構成するコード、プロトコルスタック、データベース管理システム、オペレーティングシステム、または情報と、プロセッサ1902により実行される命令とを記憶するバス1908に連結される、ランダムアクセスメモリ(RAM)、フラッシュメモリ、読み出し専用メモリ(ROM)、プログラム可能な読み出し専用メモリ(PROM)、消去可能なPROM(EPROM)、レジスタ、ハードディスク、リムーバブルディスク、CD-ROM、DVD、および/もしくはいかなる他の好適な記憶デバイスなど、含まれるメモリ1904に記憶されるそれらのうちの一つ以上の組み合わせを含み得る。プロセッサ1902およびメモリ1904は、専用論理回路によって補われ得るか、または専用論理回路に組み込まれ得る。
【0128】
命令は、メモリ1904に記憶され、一つ以上のコンピュータプログラム製品、すなわち、コンピュータシステム1900による実行のための、またはコンピュータシステム1900の操作を制御する、コンピュータ可読媒体上にコード化されるコンピュータプログラム命令の一つ以上のモジュールに実装されてもよく、当業者によく知られるいかなる方法に従い、データ指向言語(例えば、SQL、dBase)、システム言語(例えば、C、Objective-C、C++、Assembly)、アーキテクチャ言語(例えば、Java(登録商標)、NET)、および/またはアプリケーション言語(例えば、PHP、Ruby、Perl、Python)などのコンピュータ言語を含むが限定はされない。命令はまた、配列言語、アスペクト指向言語、アセンブリ言語、オーサリング言語、コマンドラインインターフェース言語、コンパイル型言語、並行言語、中括弧(curly-bracket)言語、データフロー言語、データ構造言語、宣言型言語、難解言語、拡張言語、第四世代言語、関数型言語、対話型(interactive mode)言語、インタプリタ言語、反復(iterative)言語、リストベース言語、小(little)言語、論理型言語、機械語、マクロ言語、メタプログラミング言語、マルチパラダイム言語、数値解析、非英語ベース言語、オブジェクト指向のクラスベース言語、オブジェクト指向のプロトタイプベース言語、オフサイドルール言語、手続型言語、自己反映言語、ルールベース言語、スクリプト言語、スタックベース言語、同期言語、構文処理言語、ビジュアル言語、ヴィルト(wirth)言語および/またはxmlベース言語などのコンピュータ言語で実装されてもよい。メモリ1904はまた、プロセッサ1902により実行される命令の実行中、一時変数または他の中間情報を記憶するために使用されてもよい。
【0129】
本明細書で論じるコンピュータプログラムは、必ずしもファイルシステムの中のファイルに相当しない。プログラムは、他のプログラムもしくはデータを保持するファイルの一部分(例えば、マークアップ言語文書に記憶される一つ以上のスクリプト)、当該のプログラム専用の単一ファイル、または複数の協調ファイル(例えば、一つ以上のモジュール、サブプログラムまたはコードの複数部分を記憶するファイル)に記憶され得る。コンピュータプログラムは、一つのコンピュータ上、または一箇所に位置するか、もしくは複数箇所に渡って分散し、通信ネットワークによって相互接続される複数のコンピュータ上で実行されるように配備され得る。本明細書に記述するプロセスおよび論理の流れは、入力データ上で動作し出力を生成することによって機能を実施する、一つ以上のコンピュータプログラムを実行する一つ以上のプログラム可能なプロセッサによって実施され得る。
【0130】
コンピュータシステム1900はさらに、情報および命令を記憶するバス1908に連結される、磁気ディスクまたは光ディスクなどのデータ記憶デバイス1906を含む。コンピュータシステム1900は、入力/出力モジュール1910を介して、様々なデバイス(例えば、デバイス1914および1916)に連結されてもよい。入力/出力モジュール1910は、いかなる入力/出力モジュールでもあり得る。例示的な入力/出力モジュール1910には、データポート(例えば、USBポート)、オーディオポートおよび/またはビデオポートを含む。一部の実施形態では、入力/出力モジュール1910には通信モジュールを含む。例示的な通信モジュールには、イーサネット(登録商標)カード、モデムおよびルータなど、ネットワークインターフェースカードを含む。ある態様では、入力/出力モジュール1910は、入力デバイス1914および/または出力デバイス1916など、複数のデバイスに接続するように構成される。例示的な入力デバイス1914には、ユーザがコンピュータシステム1900への入力を提供し得る、キーボードおよび/またはポインティングデバイス(例えば、マウスまたはトラックボール)を含む。触覚入力デバイス、視覚入力デバイス、音声入力デバイスおよび/またはブレインコンピュータインターフェースデバイスなど、他の種類の入力デバイス1914も、ユーザとの相互作用を提供するように使用され得る。例えば、ユーザへ提供されるフィードバックは、いかなる形態の感覚フィードバック(例えば、視覚フィードバック、聴覚フィードバックおよび/または触覚フィードバック)であることができ、ユーザからの入力は、音響、発話、触覚および/または脳波入力を含む、いかなる形態でも受信し得る。例示の出力デバイス1916は、ユーザに情報を表示する、ブラウン管(CRT)、または液晶表示(LCD)モニタなどの表示デバイスを含む。
【0131】
ある実施形態に従い、メモリ1904に包含される一つ以上の命令の一つ以上のシーケンスを実行するプロセッサ1902に応じて、クライアントデバイスおよび/またはサーバが、コンピュータシステム1900を使用して実装され得る。そのような命令は、データ記憶デバイス1906など、別の機械可読媒体からメモリ1904の中へ読み取られてもよい。メモリ1904に包含される命令のシーケンスを実行することによって、プロセッサ1902に、本明細書に記述するプロセスステップを実施させる。多重処理配列の中の一つ以上のプロセッサはまた、メモリ1904に包含される命令のシーケンスを実行するように用いられてもよい。一部の実施形態では、配線で接続された回路を、本開示の様々な態様を実装するように、ソフトウェア命令の代わりに、またはソフトウェア命令と組み合わせて使用してもよい。そのため、本開示の態様は、ハードウェア回路およびソフトウェアのいかなる特定の組み合わせにも限定されない。
【0132】
本明細書に記述する主題の様々な態様は、バックエンド構成要素(例えば、データサーバ)を含むコンピューティングシステムで、もしくはミドルウェア構成要素(例えば、アプリケーションサーバ)を含むコンピューティングシステムで、もしくはフロントエンド構成要素(例えば、ユーザが本明細書に記述する主題の実装と相互作用し得る、グラフィカルユーザインターフェースおよび/またはウェブブラウザを有するクライアントコンピュータ)を含むコンピューティングシステムで、または一つ以上のそのようなバックエンド、ミドルウェアまたはフロントエンド構成要素のいかなる組み合わせで実装され得る。システム1900の構成要素は、いかなる形態または媒体のデジタルデータ通信(例えば、通信ネットワーク)によって相互接続し得る。通信ネットワークの例には、ローカルエリアネットワークおよび広域ネットワークを含む。
【0133】
本明細書に使用する用語「機械可読記憶媒体」または「コンピュータ可読媒体」は、実行のためプロセッサ1902への命令提供に関与する、いかなる一つのまたは複数の媒体を指す。そのような媒体は、これらに限定されないものの、不揮発性媒体、揮発性媒体および伝送媒体を含む多くの形態を取ってもよい。不揮発性媒体には、例えば、データ記憶デバイス1906など、光または磁気ディスクを含む。揮発性媒体には、メモリ1904など、動的メモリを含む。伝送媒体には、バス1908を備えるワイヤを含む、同軸ケーブル、銅線および光ファイバを含む。機械可読媒体の通常形態には、例えば、フロッピーディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、いかなる他の磁気媒体、CD-ROM、DVD、いかなる他の光媒体、パンチカード、紙テープ、穴のパターンを伴ういかなる他の物理的媒体、RAM、PROM、EPROM、FLASH EPROM、いかなる他のメモリチップもしくはカートリッジ、またはコンピュータが読み取り得るいかなる他の媒体を含む。機械可読記憶媒体は、機械可読記憶デバイス、機械可読記憶基板、メモリデバイス、機械可読伝搬信号をもたらす組成物またはそれらのうちの一つ以上の組み合わせであり得る。
【0134】
本明細書で使用する通り、「プロセッサ」は一つ以上のプロセッサを含むことができ、「モジュール」は一つ以上のモジュールを含み得る。
主題技術の態様では、機械可読媒体は、命令と共にコード化または記憶されるコンピュータ可読媒体であり、コンピュータ素子であり、命令とシステムの残りとの間の構造的および機能的な関係を定義し、それによって、命令の機能性を実現することを可能にする。命令は、例えば、システムによって、またはシステムのプロセッサによって実行可能であってもよい。命令は、例えば、コードを含むコンピュータプログラムであり得る。機械可読媒体は一つ以上の媒体を備えてもよい。
【0135】
本明細書に使用する通り、語「モジュール」は、例えば、C++などのプログラミング言語で書かれ、エントリーおよびエグジットポイントを有する可能性がある、ハードウェアもしくはファームウェアに埋め込まれる論理、またはソフトウェア命令の一群を指す。ソフトウェアモジュールは、ダイナミックリンクライブラリにインストールされて、実行可能なプログラムにコンパイルおよびリンクされてもよく、またはBASICなど、インタプリタ型言語で書かれてもよい。ソフトウェアモジュールは、他のモジュールもしくはソフトウェアモジュール自体から呼び出すことが可能であってもよく、および/または検出される事象もしくは割り込みに応じて呼び出されてもよいことは理解されるであろう。ソフトウェア命令は、EPROMまたはEEPROMなど、ファームウェアに埋め込まれてもよい。ハードウェアモジュールは、ゲートおよびフリップフロップなど、接続する論理ユニットから成ってもよく、ならびに/またはプログラマブルゲートアレイもしくはプロセッサなど、プログラム可能なユニットから成ってもよいことはさらに理解されるであろう。本明細書に記述するモジュールは、好ましくは、ソフトウェアモジュールとして実装されるが、ハードウェアまたはファームウェアとして示されてもよい。
【0136】
モジュールは、より少ない数のモジュールに統合されてもよいと考えられる。一つのモジュールもまた、複数のモジュールに分離されてもよい。記述するモジュールは、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアまたはそれらのいかなる組み合わせとして実装されてもよい。加えて、記述するモジュールは、有線もしくは無線ネットワーク、またはインターネットによって接続される異なる場所に存在してもよい。
【0137】
概して、プロセッサは、本明細書に記述する通りに動作する、例として、コンピュータ、プログラム論理、またはデータおよび命令を表す他の基板構成を含み得ることは理解されるであろう。他の実施形態では、プロセッサは、コントローラ回路、プロセッサ回路、プロセッサ、汎用単一チップまたはマルチチップマイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、埋め込み式マイクロプロセッサ、マイクロコントローラおよび類似のものを含み得る。
【0138】
さらに、一実施形態では、プログラム論理は、一つ以上の構成要素として有利に実装されてもよいことは理解されるであろう。構成要素は、一つ以上のプロセッサ上で実行するように有利に構成されてもよい。構成要素は、ソフトウェアまたはハードウェア構成要素、ソフトウェアモジュールなどのモジュール、オブジェクト指向ソフトウェア構成要素、クラス構成要素およびタスク構成要素、プロセス方法、機能、属性、手順、サブルーチン、プログラムコードのセグメント、ドライバ、ファームウェア、マイクロコード、回路、データ、データベース、データ構造、表、配列ならびに変数を含むが、これらに限定されない。
【0139】
先の記述は、当業者が、本明細書に記述する様々な構成を実践することが可能になるように提供されている。主題技術は、様々な図面および構成を参照して具体的に記述しているものの、様々な図面および構成は説明のためのみであり、主題技術の範囲を限定すると取られるべきでないことは理解されるべきである。
【0140】
主題技術を実装する多くの他の手段があってもよい。本明細書に記述する様々な機能および要素は、主題技術の範囲から逸脱することなく示される、機能および要素とは異なるように分割されてもよい。これらの構成に対する様々な変形は、当業者には容易に明らかとなり、本明細書に定義する全体的な原理が、他の構成に適用されてもよい。そのため、主題技術の範囲から逸脱することなく、当業者によって多くの変更および変形が主題技術になされてもよい。
【0141】
開示する過程におけるステップの特定の順序または階層が、例示のアプローチについての説明であることは理解されるものとする。設計の好みに基づき、過程におけるステップの特定の順序または階層を、再整理してもよいことは、理解されるものとする。一部のステップを同時に実施してもよい。添付の方法に関する請求項は、見本の順序において様々なステップの要素を示し、示す特定の順序または階層に限定されることを意味しない。
【0142】
本明細書に使用する通り、一連の項目のうちいずれかが用語「および」「ならびに」または「または」「もしくは」で分けられ、それらの項目に続く「のうちの少なくとも一つ」という表現は、その一覧の各要素(すなわち、各項目)ではなく一覧全体を修飾する。「のうちの少なくとも一つ」という表現は、一覧に挙げる各項目の少なくとも一つを選択することを必要とせず、むしろ、項目のうちのいずれか少なくとも一つ、および/もしくは項目のいかなる組み合わせのうちの少なくとも一つ、ならびに/または項目の各々を少なくとも一つ含むことを意味することが可能になる。例として、「A、BおよびCのうちの少なくとも一つ」または「A、BまたはCのうちの少なくとも一つ」という表現は、各々、Aのみ、BのみもしくはCのみ、A、BおよびCのいかなる組み合わせ、ならびに/またはA、BおよびCの各々を少なくとも一つを指す。
【0143】
本開示で使用される「上部」、「底部」、「前部」、「後部」および類似のものなどの用語は、普段の重力基準系ではなく、任意の基準系を指すと理解されるべきである。そのため、上部表面、底部表面、前部表面および後部表面は、重力基準系において上方へ、下方へ、対角線上にまたは水平に延在してもよい。
【0144】
さらに、用語「含む」、「有する」または類似のものが、本明細書または特許請求の範囲で使用される限りにおいて、そのような用語は、用語「備える」が、請求項の移行句として用いられるときに解釈されるのと同様に非排他的であることを意図している。
【0145】
「例示的な」という語は、「実施例、例または説明として働く」ことを意味するように、本明細書で使用する。「例示的」として本明細書に記述するいかなる実施形態も、他の実施形態よりも好ましいまたは有利であると、必ずしも解釈されるべきではない。
【0146】
単数形で述べられている要素は、特に言及しない限り「だた1つ」ではなく、むしろ「1つ以上」を意味することを意図している。男性形(例えば、彼の)の代名詞は、女性形および中性形(例えば、彼女のまたはその)を含み、逆の場合も同じである。用語「一部の」「いくつかの」は一つ以上を指す。下線付きのおよび/またはイタリック体の見出しならびに小見出しは、便宜のためのみに使用し、主題技術を限定せず、主題技術の記述の解釈と関連して参照されないものとする。当業者にとって既知であるか、または後に知られることとなる、本開示を通して記述する様々な構成の要素の、すべての構造的および機能的同等物は、参照により本明細書に明示的に援用され、主題技術により網羅されることが意図される。さらに、本明細書に開示するものはいずれも、公に供すると上記に明示的に述べているかに関わらず、そのようには意図していない。
【0147】
主題技術のある態様および実施形態について記述してきたが、これらは、例としてのみ示しており、主題技術の範囲を限定することを意図していない。実際、本明細書に記述する新規の方法およびシステムは、それらの精神から逸脱することなく、様々な他の形態で具体化されてもよい。添付の請求項の範囲およびそれらの同等物は、主題技術の範囲および精神内に該当するであろうような、形態または変形を含むことを意図している。