(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】塗布装置
(51)【国際特許分類】
B05C 11/10 20060101AFI20240125BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20240125BHJP
B25J 9/02 20060101ALI20240125BHJP
B25J 13/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
B05C11/10
B05C5/00 101
B25J9/02 A
B25J13/00 Z
(21)【出願番号】P 2019078914
(22)【出願日】2019-04-17
【審査請求日】2022-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】株式会社ジャノメ
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 芳和
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-144114(JP,A)
【文献】特開2006-150292(JP,A)
【文献】特開2011-036800(JP,A)
【文献】特開2006-294950(JP,A)
【文献】特開2010-026181(JP,A)
【文献】特開2013-169509(JP,A)
【文献】特開2005-338301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/00-21/00
B05D 1/00-7/26
B25J 1/00-21/02
H01L 21/52
21/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布材が収容された収容容器と前記塗布材を吐出するノズルとを有し、前記塗布材を前記収容容器から前記ノズルに供給する塗布装置において、
ワークに塗布する塗布量を記憶する塗布量記憶部と、
塗布作業を開始する点から塗布して、前記塗布量記憶部で記憶された塗布量に到達するまで前記ノズルと前記ワークとの相対移動を制御する移動制御部と、
前記ワークにおける任意の領域を塗布領域として設定する塗布領域設定部と、を備え、
前記移動制御部は、
前記塗布領域設定部で設定された塗布領域に前記ノズルが前記塗布材を吐出するように前記ノズルと前記ワークとの相対移動を制御して、前記ワーク上に塗布される塗布材から前記ノズルが逃げるように、前記ノズルを上昇させながら
、螺旋状に設定した前記塗布領域に前記塗布材を塗布する塗布装置。
【請求項2】
前記移動制御部は、
前記塗布量、前記ノズルからの前記塗布材の吐出速度及び前記ノズルの移動速度を予め設定し、前記塗布量記憶部で記憶された塗布量を塗布される塗布材の長さに換算する請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記移動制御部は、
前記塗布材を吐出している前記ノズルの上下方向を含めて前記ノズルと前記ワークとの相対移動を制御する請求項1又は2に記載の塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板等のワークに塗布材の塗布を行う塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基板等のワークに液体や粉体等の塗布材を塗布する塗布装置が知られている。塗布装置では、ノズルがワークの所定の箇所に対し所定量の塗布材を吐出することにより塗布材が塗布される。塗布装置では、ノズルを線状に移動させて塗布材を線状に塗布する線塗布や、ノズルを動かさないで塗布材を一点に塗布する点塗布が行われている。
【0003】
点塗布では、塗布を施したい箇所でノズルが停止した状態で塗布作業を行うので、塗布作業に際して塗布箇所の位置座標を1つ決めるだけでよい。これに対して、線塗布では、ノズルをワークに対して移動させる線を想定して、この線の開始点と終了点をつないで塗布作業を行う。そのため、線塗布を行う場合、少なくとも、ワークにおける塗布作業の開始点と終了点という2つの位置座標を決めなくてはならない。
【0004】
また、線塗布によって広い領域を塗布する場合には、例えばノズルをワークに対してジグザグに動かし、線状に動かすノズルからの塗布材が領域全体を網羅するようにして、塗布作業を行う。そのため、ノズルが移動する際の通過点を多数設定して、各通過点の位置情報を決める必要がある。
【0005】
塗布装置が塗布作業を行う場合、ノズルだけを動かすのではなく、ワークも動かすことでノズルとワークを相対的に移動させることが一般的である。すなわち、「ノズルとワークの相対移動」には、ノズルが移動しておらずワークだけが移動している場合も含まれる。ただし、「ノズルとワークの相対移動」という記載については、煩雑さを避けるために、本明細書ではノズルのみが動く場合、ワークのみが動く場合、ノズルとワークがともに動く場合を「ノズルの相対移動」あるいは単に「ノズルの移動」と記載するものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、塗布装置が塗布作業を行う場合、ノズルの位置情報を設定する必要がある。中でも、ある程度の広さを持つ領域に対して線塗布を行う場合には、多数の通過点に関して位置情報を設定することが必須である。このため、塗布装置では、ノズルの位置情報を設定する作業が面倒となることが多かった。そこで従来から、ノズルの位置情報を設定する作業の軽減化が求められている。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、塗布作業に際してのノズルの位置情報の設定作業の軽減化を図った塗布装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するために、本発明は、塗布材が収容された収容容器と前記塗布材をワークに吐出するノズルとを有し、前記塗布材を前記収容容器から前記ノズルに供給する塗布装置において、次の構成要素を備える。
(1)ワークに塗布する塗布量を記憶する塗布量記憶部。
(2)塗布を開始する点から塗布して、前記塗布量記憶部で記憶された塗布量に到達するまで前記ノズルと前記ワークとの相対移動を制御する移動制御部。
【0010】
本発明は、前記ワークにおける任意の領域を塗布領域として設定する塗布領域設定部と、を備え、前記移動制御部は、前記塗布領域設定部で設定された塗布領域に前記ノズルが前記塗布材を吐出するように前記ノズルと前記ワークとの相対移動を制御して、前記ワーク上に塗布される塗布材から前記ノズルが逃げるように、前記ノズルを上昇させながら、螺旋状に設定した前記塗布領域に前記塗布材を塗布するようにしてもよい。
【0011】
前記移動制御部は、前記塗布量記憶部で記憶された塗布量を塗布される塗布材の長さに換算するようにしてもよい。また、前記移動制御部は、前記ノズルの上下方向を含めて前記ノズルと前記ワークとの相対移動を制御するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、移動制御部が、塗布量に基づいてノズルの相対移動を制御するので、塗布量に達するまでノズルの相対移動を継続させて塗布作業を行うことが可能である。このため、塗布作業の開始点や円の範囲等、ノズルの位置情報に関して必要最低限の設定をするだけで、あとは塗布量に基づいて塗布作業を実施することができ、塗布作業に際してのノズルの位置情報の設定の手間が軽減される。また、塗布量が定まっているため、無駄な塗布材が生じることがなく、環境的・経済的に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】第1の実施形態にて塗りつぶしを行う場合の平面図
【
図5】第1の実施形態による点塗布を説明するための拡大図
【
図6】第1の実施形態にて点塗布の効果を説明するための拡大図(塗布領域が円形状)
【
図7】第1の実施形態にて点塗布の効果を説明するための拡大図(塗布領域が螺旋形状)
【
図9】第2の実施形態にて点塗布パラメータの変換を説明するための拡大図
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
(構成)
以下、
図1~
図2を参照して、本発明に係る第1の実施形態の構成について具体的に説明する。
図1は第1の実施形態の正面図である。
図1に示すように、塗布装置1には、塗布材4の収容容器2と、塗布材4をワークwに吐出するノズル3とが設けられている。塗布材4は、ノズル3から吐出される点線にて示しているが、収容容器2内にも収容されている。塗布材4は、液体や粉体等からなり、具体的には半田や薬液等がある。塗布装置1では、ステッピングモータ(不図示)を制御することにより収容容器2からノズル3に塗布材4を供給し、ノズル3がワークwの所定箇所に塗布材4を吐出することで、塗布材4をワークwに塗布する。
【0015】
塗布装置1には、塗布作業用のテーブル21が設けられている。テーブル21には支柱22が立設されている。支柱22の中ほどには、支柱22と直交する方向に水平に延びる2本のアーム23が装着されている。アーム23には、直方体状のY軸方向移動体24がアーム23に沿ってスライド自在に取り付けられている。
【0016】
Y軸方向移動体24は、図示しないパルスモータの動力によりY軸方向(
図1の左右方向)に移動する。
図1では、移動後のY軸方向移動体24が二点鎖線にて示されている。テーブル21には、ワークwの相対移動を行うために、Y軸方向移動体24に加えて、保持部25及びスライドテーブル26が設けられている。
【0017】
保持部25は、Y軸方向移動体24の下部に設置されており、Z軸方向(
図1の上下方向)に移動自在に構成されている。保持部25にはノズル3が保持されている。保持部25は、Y軸方向移動体24の移動に伴いY軸方向に移動すると共に、パルスモータ(不図示)の動力を受けてZ軸方向に移動する。なお、保持部25には、ノズル3を回転させるθ軸移動体を設けるようにしてもよい。
【0018】
テーブル21の上面にはスライドテーブル26が配置されている。スライドテーブル26の上面にはワークwが載置される。スライドテーブル26は、テーブル21上をX軸方向(
図1の紙面に対して垂直方向)に移動可能に設けられており、図示しないパルスモータの動力を受けてX軸方向に移動するように構成されている。
【0019】
第1の実施形態では、上記のテーブル21、支柱22、アーム23、Y軸方向移動体24、保持部25、スライドテーブル26の各構成要素を、塗布装置1に含めたが、これらの各構成要素を多関節型等のロボットの構成要素として捉え、塗布装置1をロボットに接続した装置としてもよい。
【0020】
塗布装置1には、制御部10が組み込まれている。制御部10は、マイクロコンピュータを主体に構成されるCPUである。制御部10は、塗布装置1における入力操作、表示、記憶、モータ駆動、信号入出力等、塗布作業に関する制御指令の出力を行う処理部である。
【0021】
図2に示すように、制御部10には、操作部13と、表示部14とが接続されている。操作部13は、キーボード等の入力装置や、ティーチングのためのハード的、ソフト的機構などである。操作部13は、作業者の操作により、各種データ、例えば塗布材4の塗布量Aや吐出速度V1、ノズル3の相対的な移動速度(以下、ノズル3の移動速度とも呼ぶ)V2などを入力する。表示部14は、操作部13による入力状態等を表示するLCD表示装置である。
【0022】
制御部10には、3つの記憶部と、2つの設定部が設けられている。3つの記憶部とは、塗布材4の塗布量記憶部11と、塗布材4の吐出速度記憶部16と、ノズル3の移動速度記憶部17である。塗布量記憶部11は、ワークwに塗布する塗布量Aを記憶する記憶部である。なお、この「塗布量」は、体積であっても重量であっても良い。吐出速度記憶部16は、ノズル3による塗布材4の吐出速度V1を記憶する記憶部である。
【0023】
移動速度記憶部17は、ノズル3の移動速度V2を記憶する記憶部である。ノズル3の移動速度V2は、ノズル3移動の全ストロークにおいて固定値としても良いし、所定のポイント区間ごとに変化するように設定することも可能である。上記の各記憶部11、16及び17に記憶される情報は、作業者が操作部13を介して入力することで、各記憶部11、16及び17に予め記憶されている。
【0024】
制御部10の2つの設定部とは、塗布領域設定部15及び開始点設定部18である。塗布領域設定部15は、ワークwの任意の領域を塗布領域Eとして設定する部分である。塗布領域Eとは、ノズル3からの塗布材4の吐出によって塗布材4が塗布される領域である。塗布領域設定部15にて設定される塗布領域Eの形状は、円形状を含めて楕円形状であってもよいし、線形状あるいは螺旋状等であってもよい。
【0025】
開始点設定部18は、ワークwにおける塗布作業の開始点Sの位置座標をX,Y,Z座標として設定する部分である。上記の設定部15及び18にて設定される情報は、作業者が操作部13を介して入力することで各設定部15、18に設定される。
【0026】
さらに、制御部10には移動制御部12が組み込まれている。移動制御部12には、上記の3つの記憶部11、16、17と、2つの設定部15、18とが接続されており、記憶された情報あるいは設定された情報が取り込まれる。移動制御部12には、スライドテーブル26、Y軸方向移動体24及び保持部25の各パルスモータ(不図示)が接続されている。
【0027】
移動制御部12は、塗布量記憶部11で記憶された塗布量Aに基づいてノズル3の相対移動を制御する部分である。移動制御部12は、X軸、Y軸、Z軸の各方向における移動制御指令Cx,Cy,Czを生成して、これらをそれぞれスライドテーブル26、Y軸方向移動体24及び保持部25の各パルスモータ(不図示)に出力することで、ノズル3の相対移動を制御するようになっている。
【0028】
移動制御部12は、開始点Sからノズル3が塗布材4の吐出を開始し、塗布領域Eにノズル3が塗布材4を吐出するように、ノズル3の相対移動を制御している。このため、塗布材4を吐出するノズル3は、移動制御部12の制御によって、開始点Sから塗布領域Eを描くようになっている。
【0029】
また、移動制御部12では、塗布量記憶部11で記憶された塗布量Aを、塗布材4の吐出速度V1と、ノズル3の移動速度V2とから、ノズル3から吐出される塗布材4の長さLに換算するようになっている。移動制御部12は、塗布領域Eと、開始点Sと、塗布材4の長さLに基づいて、ノズル3と相対移動を制御するようになっている。移動制御部12は、換算した塗布材4の長さLを塗布領域設定部15に出力するようにしてもよい。
【0030】
移動制御部12では、次のようにして塗布材4の長さLが換算される。例えば、塗布量Aとして1.23mlが与えられて、塗布材4の吐出速度V1は2ml/s、ノズル3の移動速度V2は10mm/sと設定されているとする。この条件下で線塗布を行う場合、単位距離当たりの塗布材4の流量は、
2ml/s÷10mm/s=0.2 ml/mmとなる。
これに基づいて、与えられた塗布量Aを塗布するために必要な塗布材4の長さLは、
1.23ml÷0.2 ml/mm=6.15mmとなる。
【0031】
(作用)
以上の構成を有する第1の実施形態では、移動制御部12は、
(1)塗布量記憶部11から塗布量Aを、
(2)吐出速度記憶部16から塗布材4の吐出速度V1を、
(3)移動速度記憶部17からノズル3の移動速度V2を、
(4)塗布領域設定部15から塗布領域Eを、
(5)開始点設定部18から塗布作業の開始点Sを、それぞれ取り込む。移動制御部12は、塗布量Aに基づいてノズル3の移動制御指令Cx,Cy,Czを生成し、各指令Cx,Cy,Czをスライドテーブル26、Y軸方向移動体24及び保持部25の各パルスモータに出力する。
【0032】
スライドテーブル26、Y軸方向移動体24及び保持部25の各パルスモータがノズル3の移動制御指令Cx,Cy,Czを受けると、各指令Cx,Cy,Czに従って各パルスモータが動作する。このため、スライドテーブル26はX軸方向に移動し、Y軸方向移動体24はY軸方向に移動し、保持部25はZ軸方向に移動する。これにより、保持部25に保持されたノズル3と、スライドテーブル26上のワークwとが、X軸、Y軸、Z軸の3方向に対して相対的に移動する。
【0033】
以上のような第1の実施形態では、ワークwに塗布する塗布材4の塗布量Aを記憶する塗布量記憶部11と、塗布作業の開始点Sから塗布して、塗布量記憶部11で記憶された塗布量Aに到達するまでノズル3とワークwとの相対移動を制御する移動制御部12と、を備えることにより、塗布材4の塗布量Aに基づくだけでノズル3の相対移動を制御することが可能である。このため、第1の実施形態においては、塗布材4の塗布量Aさえ決めてしまえば、ノズル3から吐出される塗布材4が塗布量Aに達するまで、つまり塗布量Aの続く限り、ノズル3の相対移動を継続させて塗布作業を実施することが可能である。
【0034】
(位置情報設定作業の軽減化)
第1の実施形態によれば、塗布作業の開始点S等の必要最低限の位置情報を設定すればよいことになる。その結果、第1の実施形態では、塗布作業に際しての位置情報の設定の手間を軽減することができる。
【0035】
ところで、ワークwへの塗布作業に際して、塗布材4が塗布される場所が変わったとしても、ワークwの大きさ自体が変わらなければ、塗布材4の塗布量Aや塗布領域Eの形状等まで変更されることは少ない。第1の実施形態では、開始点設定部18を設けたので、必要最低限の位置情報である塗布作業の開始点Sの設定が容易である。そのため、第1の実施形態では、ワークwにおいて塗布材4を塗布する場所が変更されたとしても、開始点設定部18によって塗布作業の開始点Sの位置情報の設定変更を行うことだけで、これに即座に対応することができ、作業効率の向上に寄与することができる。
【0036】
(線塗布における効果)
以上述べた位置情報の設定作業の軽減化について、従来の塗布装置による線塗布の観点から説明する。従来の塗布装置では、塗布材4を線状に塗布する線塗布を行う場合に、少なくとも開始点と終了点の2点については位置情報を逐一設定しなくてはならない。また、線塗布によって広い領域を塗りつぶす場合、塗布作業を行う領域の面積に比例して、多数の通過点について位置情報を設定しなくてはならない。その結果、位置情報の設定作業が非常に面倒になることは既に述べた通りである。
【0037】
これに対して、第1の実施形態に係る塗布装置1が線塗布を行う場合、塗布領域設定部15がワークwにおける線形状の塗布領域Eを設定する。また、開始点設定部18が塗布作業の開始点Sを設定して、移動制御部12は塗布領域Eに塗布材2を塗布するように、開始点Sからノズル3の移動を開始させる。
【0038】
このとき、塗布量記憶部11における塗布材4の塗布量Aの記憶と、塗布領域設定部15における塗布領域Eの形状設定は別途行っておくものとする。この場合、第1の実施形態では、開始点設定部18にて開始点Sの位置情報さえ設定すればよく、ノズル3からの塗布材4の吐出量が塗布量Aに達した時点で、移動制御部12によるノズル4の相対移動を停止させて、塗布作業を終わらせることが可能である。
【0039】
つまり、第1の実施形態では、ノズル3の線移動における終了点を決めておかなくても、開始点設定部18にて開始点Sの位置情報だけを設定するだけで、塗布作業を実施することが可能である。そのため、第1の実施形態によれば、従来の線塗布では不可欠であった終了点の位置情報の設定が不要である。
【0040】
従って、従来の線塗布において最もシンプルな位置情報の設定(開始点と終了点の位置情報の設定)と比較しても、設定作業の工数を半減させることができ、塗布作業の効率化が可能である。また、線塗布によって広い領域を塗りつぶす場合でも、第1の実施形態では、塗布領域設定部15における塗布領域Eを所望の形状として設定しておくだけで済む。従って、従来の線塗布によって広い領域を塗りつぶす場合と異なり、通過点として多数の位置情報を設定する必要がなく、位置情報の設定作業を大幅に簡略化することが可能である。
【0041】
(塗りつぶしにおける効果)
矩形であれ、円形であれ、広い領域を塗りつぶす場合での第1の実施形態における効果について、
図3を用いて説明する。
【0042】
例えば、塗布作業の用途として接着があり、1つの部品を板部品に接着することがある。接着する方の部品であるワークwに、接着剤からなる塗布材4が塗布され、その後、ワークwが板部品(図示せず)の上に置いて接着される。従来技術では、ワークwにどの様に塗布材4を塗っていくのかを決めるためにノズル3の移動経路の設定作業は行おうとすると、ノズル3の移動経路をジグザグとしたり、螺旋としたりする必要がある。従って、通過点の設定作業が非常に煩雑であった。
【0043】
しかし、ワークwのある程度広い範囲に塗布材4を塗る必要がある場合、最も重要なパラメータは塗布材4の塗布量Aであって、所定の領域上に所望の量の塗布材4が塗れてさえすれば良く、ノズル3の移動経路から導かれる塗布材4の軌跡や、塗布材4がどこで終了するのかといった終了点の位置情報はさして重要なパラメータではない。
【0044】
第1の実施形態では、
図3に示すように、開始点設定部18にて塗りつぶしの開始点S(
図3の渦巻きの中心)を設定し、塗布領域設定部15にて塗布領域Eの形状を渦巻形状とし、その渦巻のピッチ数だけを設定する。また、塗布量記憶部11にて塗布量Aを記憶しておく。移動制御部12は、まず開始点Sにノズル3を移動させる。ノズル3は、開始点Sに達した時点で、塗布材4の吐出を開始する。
【0045】
ノズル3が塗布材4の吐出を開始すると、移動制御部12は、塗布領域設定部15で設定したピッチ間隔になる渦巻きを描くように、X軸方向及びY軸方向をノズル3を移動させる。移動制御部12は、ノズル3から吐出される塗布材4の量が塗布量Aに達した時点で、X軸方向及びY軸方向へのノズル3の移動を停止させ、ノズル3は塗布材4の吐出を停止する。
【0046】
第1の実施形態では、塗布材4の塗布量Aさえ決めておけば、ノズル3から吐出される塗布材4が塗布量Aに達するまで、移動制御部12がノズル3の相対移動を継続させて塗布作業を実施することができる。よって、第1の実施形態によれば、ある程度広い領域を塗布材4で簡単に塗りつぶすことが可能である。
【0047】
しかも、第1の実施形態では、塗布材4の塗布量Aを変化させるだけで、塗布品質を維持する際の塗布量Aの最適値の決定試験を行うこともできる。従って、接着に必要な最小限の量となるような塗布量Aも容易に決めることができる。これにより、塗布材4を最適化して塗布材4の使用量の削減に寄与することが可能となる。
【0048】
(点塗布における効果)
第1の実施形態の効果に関して、従来の塗布装置による点塗布と比べて説明する。従来の点塗布では、塗布材4の塗布箇所を単一の位置座標で決めた上で、停止した状態のノズル3が塗布材4を吐出する。そのため、
図4に示すように、塗布材4がワークw上に大きく盛り上がり、高さ寸法の大きい塗布材溜まり5ができ易い。従って、ノズル3が塗布材溜まり5に埋没して、ノズル3の周囲に塗布材4が付着するおそれがある。
【0049】
ノズル3の周囲に塗布材4が付着したまま、ノズル3が塗布作業を続けると、本来塗布すべき塗布材4と共に、ノズル3に付着した塗布材4までもが、ワークwに触れることになり、塗布の形状や量が乱れて塗布品質が劣化しかねない。そこで従来では、ノズル3が塗布材溜まり5に埋没してノズルの周囲に塗布材4が付着した場合には、ノズル3のクリーニング(付着した塗布材4の拭き取り)やメンテナンス(ノズル3の洗浄)が不可欠となっている。これらのノズル3のクリーニングやメンテナンスは、塗布作業の生産効率を低下させる要因となっていた。
【0050】
一方、第1の実施形態において、塗布領域Eの形状が微小な円形状である塗布作業を行う場合、塗布された塗布材4の形状は塗布領域Eとして円周が描かれるにせよ、従来の点塗布による塗布に近い。このとき、塗布量Aに基づきノズル3の移動制御を行う第1の実施形態では、ノズル3が塗布材4を吐出している間、ノズル3の移動を継続させることが可能である。
【0051】
すなわち、
図5に示すように、第1の実施形態では、移動中のノズル3が塗布材4を吐出しており、停止状態のノズル3から塗布材4が吐出されることがなく塗布材溜まり5が生じ難い。このため、塗布材4にノズル3が埋没することが少なく、ノズル3先端が汚れる心配がない。
図5の上段は塗布材4を吐出するノズル3の正面図、下段は塗布領域Eの平面図である。
【0052】
ここで、第1の実施形態による塗布と従来の点塗布との違いを、具体例を挙げて説明する。例えば、ノズル3の性能や塗布材4の性質等から規定される塗布の条件下において、従来の点塗布では1秒間の吐出時間により直径5mmの塗布材溜まり5が形成されるとする。このとき、第1の実施形態では、塗布領域設定部15が塗布材溜まり5の外径よりも小さい外径を持つ領域を塗布領域Eとして設定する。
【0053】
より具体的には、直径5mmをはみ出さない程度、例えば直径4mmの円を塗布領域Eとして設定したとする。移動制御部12は直径4mmの円の円周の長さを塗布材4の長さLとして算出し、この塗布材4の長さLに従ってノズル3の相対移動を制御する。この移動制御を受けて、ノズル3は1秒間の吐出時間をかけて直径4mmの円を描くようにして塗布材4を吐出する。
【0054】
すなわち、第1の実施形態では、塗布領域設定部15にて微小な円形状を塗布領域Eとして設定し、ノズル3を移動させながら塗布材41を吐出することにより、微小な円形状である塗布領域Eを描くことになる。つまり、第1の実施形態では、微小な円形状の塗布領域Eを、位置座標が1つである「点」として捉えて塗布作業を行うのではなく、円形状として捉えて、円周に沿ってノズル3を移動させることで塗布作業を行っている。
【0055】
このような第1の実施形態によれば、ノズル3が塗布材4を吐出している状態では、ノズル3は移動し続けるので、塗布材4へのノズル3の埋没を回避することができ、ノズル3先端の汚れを低減することができる。このため、第1の実施形態においては、従来と同等の点塗布を実施しつつ、本来塗布すべき塗布材4だけがワークwに塗布されるので塗布品質を高めることができる。また、ノズル3先端の汚れが低減するため、ノズル3のクリーニングやメンテナンスの頻度も低減することが可能であり、塗布作業の生産効率が向上する。
【0056】
しかも、移動制御部12は、保持部25によって、上下方向(Z軸方向)へのノズル3相対移動を制御可能である。そのため、
図6に示すように、ノズル3をワークwから上昇させながら、円形状の塗布領域Eとして塗布材4を吐出し続けることも可能である。
図6の上段は塗布材4を吐出するノズル3の正面図、下段は塗布領域Eの平面図である。この場合、ワークw上に塗布材4が塗布されていってもノズル3が上方に逃げるので、ノズル3先端の汚れの付着を防ぐことができる。
【0057】
さらに、
図7に示すように、塗布領域Eを螺旋状に設定しておくこともできる。この場合、塗布領域Eにおいて同一円を描きながらノズル3が塗布材4を吐出することがなく、塗布材4の高さが増大することがない。従って、ワークw上に塗布材溜まり5を形成させることがなく、塗布材溜まり5へのノズル3の埋没を確実に回避しながら、十分な量の塗布材4を吐出することができる。よって、ノズル3先端の汚れの付着を防ぎつつ、塗布品質のさらなる向上に寄与することが可能である。なお、螺旋状の塗布領域Eにおける開始点Sは、渦巻きの中心に位置する点であってもよいし、渦巻の最外周に位置する点であってもよい。
【0058】
上記の第1の実施形態では、移動制御部12によって制御されるノズル3が、線塗布の動作原理に基づいて点塗布を行っていると捉えることもできる。そのため、施すべき点塗布によって形成される塗布材溜まり5が例えば直径0.5mmといった極めて微小な場合であったとしても、それより十分に細かい制御分解能(例えば、0.01mm)を、移動制御部12に持たせることで、非常に小さな円を描くことで線塗布を行うことが可能である。
【0059】
点塗布と線塗布を行う従来の塗布装置では、塗布材4の吐出量について点塗布と線塗布とで制御モードを切り替えることがある。例えば、点塗布では塗布材4の吐出量を固定にする吐出量固定モードを採り、線塗布ではノズル3の移動量や移動速度V2に応じて塗布材4の吐出量を変更する吐出量可変モードを採ることがある。このような制御モードの切り替えを行う場合、制御が複雑化するといった不具合が生じた。
【0060】
これに対して、第1の実施形態では、線塗布の動作原理によって点塗布を実施しているので、点塗布と線塗布とで塗布材4の吐出制御モードを切り替える必要がない。従って、第1の実施形態によれば、制御の複雑化を回避することができる。さらに、吐出制御モードを切り替えられない塗布装置や、吐出制御モードの切り替え機能を持たずに線塗布にしか使えない塗布装置であったとしても、第1の実施形態では、線塗布の制御方式だけで点塗布を行うことができ、これらの塗布装置への適用が可能である。
【0061】
しかも、塗布材4に対するノズル3の埋没を回避可能なので、上記のような塗布装置においても、塗布品質の維持や塗布作業の生産効率の向上といった効果を得ることができる。また、第1の実施形態では、塗布量Aが予め定まっているので、無駄に塗布材4を吐出することがなく、環境的・経済的にも優れている。
【0062】
なお、「ノズル3とワークwの相対移動」に関しては、上記の実施形態では主にノズル3の移動が記載されているが、ノズル3を動かさずに「ワークw」のみを移動させる場合であっても、上記の効果と同様の効果を達成することができる。
【0063】
(第2の実施形態)
(構成)
以下、
図8を参照して、本発明に係る第2の実施形態の構成について具体的に説明する。第2の実施形態の構成は基本的には前記第1の実施形態と同様である。そのため、第1の実施形態と同様の構成要素に関しては同一符号を付して説明は省略する。
【0064】
図8に示すように、第2の実施形態には、点塗布パラメータ設定部19と、パラメータ変換部20と、が設けられている。点塗布パラメータ設定部19は、位置座標を1つだけ決める点塗布パラメータTを設定する部分である。第2の実施形態における点塗布パラメータTは、従来の点塗布において設定される位置座標と同様であるが、必ずしも、その位置座標にノズル3が塗布材4を吐出する必要はない。例えば、塗布領域Eが円形状であるとき、塗布材4が吐出されない円の中心点を、点塗布パラメータTとしてもよい。点塗布パラメータ設定部19にて設定される点塗布パラメータTは、作業者が操作部13を介して入力することで設定される。
【0065】
パラメータ変換部20には、線塗布パラメータRが予め設定されており、線塗布パラメータRを用いて点塗布パラメータTを変換し線塗布における位置情報Dを求める部分である。パラメータ変換部20は、求めた線塗布の位置情報Dを塗布領域設定部15に出力するようになっている。
【0066】
(作用及び効果)
第2の実施形態では、点塗布パラメータ設定部19に点塗布パラメータTを設定するだけで、開始点Sやノズル3の通過点等を設定することなく、移動制御部12がノズル3の相対移動を制御して、塗布材4の塗布作業を行うことができる。例えば、
図9に示すP0は、位置座標を1つだけ決められた位置座標であり、ここでは塗布領域Eを円形状とした時の中心点である。
【0067】
図9に示すRは、パラメータ変換部20に予め設定された線塗布パラメータであって、ここでは円形状の塗布領域Eの半径である。P1は線塗布の開始点、P2~P4は線塗布の通過点、P5は線塗布の終了点である。パラメータ変換部20は、線塗布パラメータである半径Rに基づいて、線塗布で円形状を描くための各点P1~P5の位置情報Dを求める。第2の実施形態の塗布領域設定部15は、パラメータ変換部20が求めた線塗布の位置情報Dに基づいて塗布領域Eを設定する。
【0068】
第2の実施形態では、パラメータ変換部20において塗布装置1や塗布材4の仕様・性能・特性に応じて線塗布パラメータを予め定義しておき、パラメータ変換部20が点塗布パラメータTを変換して、線塗布における位置情報Dを求めることかできる。従って、作業者は線塗布をティーチングする時のように始点や各通過点等を設定する必要が無く、点塗布パラメータ設定部19に点塗布パラメータTを設定するだけで、従来の点塗布と同じ感覚で線塗布のティーチングを行うことができる。
【0069】
第2の実施形態では、パラメータ変換部20にて線塗布パラメータを予め定義しているので、ユーザーがティーチングするときには、各種のパラメータについて一切意識する必要がない。このため、第2の実施形態によれば、点塗布の実施に際して、作業者は実際の動作が線塗布であることを意識することがなく、良好な操作性を提供することができる。その結果、作業者は直観的なティーチングを行うことができ、優れた操作性を維持することが可能である。
【0070】
また、第2の実施形態は、点塗布を実施する感覚を維持したまま、線塗布の動作によって塗布材溜まり5の量を容易に調整することができる。従って、ノズル3から塗布材4をジェットで射出するジェット塗布方式においてジェットの1ドットよりも大きな塗布材溜まり5を形成したい場合に、第2の実施形態は特に有効である。
【0071】
[他の実施形態]
以上のように本発明の実施形態を説明したが、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。そして、この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【0072】
例えば、塗布材4が通るチューブを潰している部材をモータ駆動で移動させて塗布量を制御するロータリー・チュービング式塗布装置や、スクリュー式のポンプモータによって塗布材4の塗布量を制御するスクリュー式塗布装置、1ショット当たりの吐出量が微少かつ正確に制御される非接触式ディスペンス装置等にも、本発明を適用することが可能である。
【0073】
上記の実施形態では、X軸方向の移動をスライドテーブル26によって行う構成としたが、XYZ軸方向の各移動をどの部材により行うかは適宜変更可能である。例えば、支柱22やY軸方向移動体24をX軸方向に移動可能に設けることにより、X軸方向の移動を行うようにしても良い。
【0074】
上記の制御部10は、CPUを含むコンピュータを所定のプログラムで制御することによって実現できる。この場合のプログラムは、コンピュータのハードウェアを物理的に活用することで、上記のような処理を実現するものである。このため、上記の処理を実行する方法、プログラム及びプログラムを記録した記録媒体も、実施形態の一態様に含めることができる。
【0075】
従来の点塗布のためのパラメータである位置座標や塗布量等から、線塗布の位置情報Dを導き出すための線塗布パラメータとしては、ノズル3の性能や塗布材4の仕様、性能、特性に依存するパラメータや、塗布領域Eの形状に関わるパラメータ等がある。前者としては、塗布材4の吐出速度V1、吐出速度V1が可変の場合はその上限、塗布材4の粘度等の特性と吐出速度V1への影響度合い(補正量)などがある。後者としては、塗布領域Eが円であればその半径、螺旋であれば外径やピッチ、 z軸方向への上昇速度や上昇量、上昇の上限などがある。
【0076】
また、本発明では、点塗布時の塗布量とは異なる階層のメニューや画面(例えばメンテナンス設定のための画面等)で、上記のパラメータを設定するようにしてもよい。このような実施形態によれば、従来の点塗布と同等の操作性を発揮することができる。さらに、表示部14において、上記のパラメータを一括して同じメニューや画面に表示することもでき、優れた操作性を確保することが可能である。
【0077】
本発明において塗布材4の捨て打ちを実施するようにしてもよい。捨て打ちの実施方法には、捨て打ちスイッチまたは外部からの指示を受け付けて実施する方法と、自動捨て打ちといった方法がある。自動捨て打ちでは、一定時間間隔や運転サイクルの開始時や終了時等、予め定められたルールに基づいて自動的にその場、または、塗布材4を捨てるべき場所にノズル3を移動させて捨て打ちを行う。
【0078】
本発明を塗布材4の捨て打ちに適用した場合、ノズル3が捨て打ちされた塗布材溜まり5に留まることがなく、ワークw上の塗布材溜まり5にノズル3が埋没することがない。従って、ノズル3周囲への塗布材の付着あるいは塗布材の残留を防ぐことができる。これにより、塗布品質の安定化を実現することができ、且つノズルのメンテナンスの軽減に寄与することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 塗布装置
2 収容容器
3 ノズル
4 塗布材
5 塗布材溜まり
10 制御部
11 塗布量記憶部
12 移動制御部
13 操作部
14 表示部
15 塗布領域設定部
16 吐出速度記憶部
17 移動速度記憶部
18 開始点設定部
19 点塗布パラメータ設定部
20 パラメータ変換部
21 テーブル
22 支柱
23 アーム
24 Y軸方向移動体
25 保持部
26 スライドテーブル
A 塗布量
Cx,Cy,Cz 移動制御指令
D 位置情報
E 塗布領域
L 塗布材の長さ
S 開始点
T 点塗布パラメータ
V1 塗布材の吐出速度
V2 ノズルの移動速度
w ワーク