(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】栄養組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20240125BHJP
A23C 9/152 20060101ALI20240125BHJP
A23L 33/12 20160101ALI20240125BHJP
【FI】
A23L33/10
A23C9/152
A23L33/12
(21)【出願番号】P 2019186198
(22)【出願日】2019-10-09
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神村 卓也
(72)【発明者】
【氏名】北村 洋平
(72)【発明者】
【氏名】江原 達弥
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0095204(US,A1)
【文献】Infant Formula Stage 1,Mintel GNPD, [online], ID#:5619337,2018年06月,[2023年9月4日検索], Retrieved from the Internet: <URL: https://portal.mintel.com>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
A23L
C12G
A61K
A61P
Mintel GNPD
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテインと長鎖多価不飽和脂肪酸とを含有する栄養組成物であって、
摂取時におけるルテインの含有量が5μg/L以上50μg/L未満であり、
摂取時におけるドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量が20mg/L以上300mg/L以下であり、
ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)を重量比50:50~100:0で含有する、栄養組成物
(ただし、DHA及びARAの重量比が50:50である場合を除く)。
【請求項2】
DHA及びARAを重量比67:33~100:0で含有する、請求項1に記載の栄養組成物。
【請求項3】
調製乳である、請求項1
又は2に記載の栄養組成物。
【請求項4】
栄養組成物に含有されるルテインの酸化分解を抑制する方法であって、
前記栄養組成物中にルテインと長鎖多価不飽和脂肪酸とを共存させることを特徴とし、
前記栄養組成物は、ルテインを摂取時における濃度として5μg/L以上50μg/L未満含有し、
前記栄養組成物は、DHAを摂取時における濃度として20mg/L以上300mg/L以下含有し、
前記栄養組成物は、DHA及びARAを重量比50:50~100:0で含有する、方法。
【請求項5】
前記栄養組成物が調製乳である、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
長鎖多価不飽和脂肪酸を含有するルテイン酸化分解抑制剤であって、
摂取時におけるDHAの含有量が20mg/L以上300mg/L以下であり、
DHA及びARAを重量比50:50~100:0で含有し、
前記剤は、ルテインを摂取時における濃度として5μg/L以上50μg/L未満含有する栄養組成物に含有させるためのものである、剤。
【請求項7】
前記栄養組成物が調製乳である、請求項
6に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
乳児にとって母乳は理想の栄養である。しかし、何らかの理由で母乳を与えられない場合には、母乳の代替品として乳児に与える栄養として、調製粉乳や調製液状乳といった栄養組成物が一般的に用いられている。そのような栄養組成物は、牛乳を主原料とし、組成を母乳に近づけるために栄養成分が調整されており、特に乳児用調製乳については法令上の一定の基準が定められている(非特許文献1)。
【0003】
ルテインは、母乳に最も多く含まれるカロテノイドであり、視機能や脳機能の発達に関連することが知られている。
そのため、ルテインを乳児用製剤に配合することが提案されている(特許文献1)。しかしながら、日本国内の製造者においては、ルテインを乳児用調製乳等に実際に配合した例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】消食表第296号(令和元年9月9日) 別添1 特別用途食品の表示許可基準
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
乳児用調製乳等の栄養組成物においては、乳児の健康と発達をより向上させるため、その組成をより母乳に近づけるという要請がある。しかしながら、特許文献1に開示される乳児用製剤に含有されるルテイン量は、母乳よりも高濃度である。
また、ルテインは、酸化されやすい化合物であり、栄養組成物の保存中や摂取のための調製後に、酸化による分解で含有量が減少してしまう。
かかる状況において、本発明は、栄養組成物にルテインを所定の低濃度で含有させるにあたり、その酸化分解を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ルテインを含有する栄養組成物において、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)を特定の重量比で共存させることにより、ルテインの酸化分解を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第一の態様は、ルテインと長鎖多価不飽和脂肪酸とを含有する栄養組成物であって、摂取時におけるルテインの含有量が5μg/L以上50μg/L未満であり、摂取時におけるドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量が20mg/L以上300mg/L以下であり、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)を重量比50:50~100:0で含有する、栄養組成物である。
本態様において、栄養組成物は好ましくは調製乳である。
【0009】
本発明の第二の態様は、栄養組成物に含有されるルテインの酸化分解を抑制する方法であって、前記栄養組成物中にルテインと長鎖多価不飽和脂肪酸とを共存させることを特徴とし、前記栄養組成物は、ルテインを摂取時における濃度として5μg/L以上50μg/L未満含有し、前記栄養組成物は、DHAを摂取時における濃度として20mg/L以上300mg/L以下含有し、前記栄養組成物は、DHA及びARAを重量比50:50~100:0で含有する、方法である。
本態様において、栄養組成物は好ましくは調製乳である。
【0010】
本発明の第三の態様は、長鎖多価不飽和脂肪酸を含有するルテイン酸化分解抑制剤であって、摂取時におけるDHAの含有量が20mg/L以上300mg/L以下であり、DHA及びARAを重量比50:50~100:0で含有し、前記剤はルテインを摂取時における濃度として5μg/L以上50μg/L未満含有する栄養組成物に含有させるためのものである、剤である。
本態様において、栄養組成物は好ましくは調製乳である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、栄養組成物中のルテインの酸化分解を抑制することができる。そのため、栄養組成物の保存中や、摂取のために調製した後に、ルテインの含有量の減少が抑制されるため、所望の組成の、例えば母乳により近づけた組成の栄養組成物が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1における、18時間後のルテイン残存率(重量%)を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。
【0014】
本発明の栄養組成物は、ルテインと長鎖多価不飽和脂肪酸とを含有する。
【0015】
本発明においてルテインは、経口摂取が可能である限りにおいて、シス及びトランス異性体を含む、遊離ルテイン、ルテインエステル、ルテイン塩、又は他の誘導体であってもよい。
ルテインエステルとしては、ルテインの2個のヒドロキシル基の少なくとも1個が、同一でもそれぞれ独立してもよい、カルボン酸のアシル残基であるエステルが含まれる。かかるカルボン酸としては、飽和又は不飽和の炭素数1~24のカルボン酸が挙げられ、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びオレイン酸等が含まれるがこれらに限定されない。
ルテイン塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
【0016】
ルテインは、天然由来の、例えば植物から抽出して入手することができる。また、経口摂取される組成物に用いられる形態の原料が市販されており、それを用いてもよい。
【0017】
本発明の栄養組成物は、摂取時における含有量として、ルテインを5μg/L以上かつ50μg/L未満含有する。摂取時における含有量の下限は、好ましくは20μg/Lであり、より好ましくは25μg/Lである。なお、これらの含有量は、遊離ルテインに換算した時の値とする。
通常、母乳には25~50μg/L程度のルテインが含まれている。本発明の栄養組成物は、母乳と同等量のルテインを含有することにより、より母乳に近い組成となる。
また、ルテインが多く含まれると黄色の着色が強くなり経口組成物として好ましくない
外観となったり、カロテノイド高摂取による副反応が生じる場合があるが、上記範囲でルテインを含有することにより、本発明の栄養組成物は、そのようなおそれを回避できる。
【0018】
母乳には、通常、乳児の発育に必要な長鎖多価不飽和脂肪酸が含まれており、乳児用調製乳は所定の長鎖多価不飽和脂肪酸を一定量含むよう定められている(非特許文献1)。
本明細書における長鎖多価不飽和脂肪酸としては、ドコサヘキサエン酸(DHA)、アラキドン酸(ARA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、リノール酸、γ-リノレン酸(GLA)、α-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)、ステアリドン酸、ドコサペンタエン酸(DPA)等が挙げられる。これらの長鎖多価不飽和脂肪酸は、摂取後に係る遊離脂肪酸となり得る誘導体であってもよいし、摂取時に遊離脂肪酸であってもよい。
本発明の栄養組成物は、これらの一種又は二種以上を任意の組み合わせで含んでよい。ただし、本発明の栄養組成物はDHAを必須に含有する。
【0019】
長鎖多価不飽和脂肪酸は、天然由来の、例えば魚類から抽出して入手することができる。また、経口摂取される組成物に用いられる形態の原料が市販されており、それを用いてもよい。
【0020】
本発明の栄養組成物は、摂取時における含有量として、DHAを20mg/L以上かつ300mg/L以下含有する。摂取時における含有量の下限は、好ましくは45mg/Lであり、より好ましくは70mg/Lである。摂取時における含有量の上限は、好ましくは200mg/Lであり、より好ましくは160mg/Lである。なお、これらの含有量は、遊離DHAに換算した時の値とする。
【0021】
本発明の栄養組成物は、長鎖多価不飽和脂肪酸であるARAも含有してもよい。
その場合、DHAの含有量がARAの含有量よりも多くなるようにする。具体的には、DHAとARAとの含有量は、重量比でDHA:ARA=50:50~100:0であり、好ましくは60:40~100:0である。
【0022】
なお、本明細書における「摂取時における」の語は、特に断らない限り、栄養組成物を摂取者が摂取する(被投与者に投与される)のに適した形態の際を意味する。例えば、栄養組成物が調製粉乳である場合は、販売者が定める標準調乳濃度で調乳された形態を指す。
【0023】
本発明の栄養組成物は、含有するルテインの酸化分解が抑制される。具体的には、任意の時間が経過したときに、DHA又はDHA及びARAを特定量・特定比で含有しないときに比べて、時間経過前後でのルテインの減少が抑制される。また、時間経過前後でのルテインの含有量が維持され、例えば30分経過後に0時点の80重量%以上が残存する。
そのため、栄養組成物において、製造時に配合したルテインが摂取時まで所望の含有量で維持されうる。栄養組成物が調製乳である場合、ルテインの含有量が母乳と同程度の低濃度であっても、保存中や調製を経て摂取時まで維持される。
【0024】
ルテインの酸化分解が抑制されたことは、ルテインが酸化すると退色することに基づき470nmの吸光度を測定してその減少量を算出することにより確認することができる。また、HPLC又はLC-MSなどでルテイン量を測定することにより確認してもよい。
【0025】
前述のことから、本発明の別の態様として、栄養組成物に含有されるルテインの酸化分解を抑制する方法も提供される。かかる方法は、前記栄養組成物中にルテインと長鎖多価不飽和脂肪酸とを共存させることを特徴とし、前記栄養組成物は、ルテインを摂取時における濃度として5μg/L以上50μg/L未満含有し、前記栄養組成物は、DHAを摂取時における濃度として20mg/L以上300mg/L以下含有し、前記栄養組成物は、
DHA及びARAを重量比50:50~100:0で含有する。
【0026】
また、本発明の別の態様として、ルテイン酸化分解抑制剤も提供される。かかる剤は、長鎖多価不飽和脂肪酸を含有するルテイン酸化分解抑制剤であって、摂取時におけるDHAの含有量が20mg/L以上300mg/L以下であり、DHA及びARAを重量比50:50~100:0で含有し、ルテインを摂取時における濃度として5μg/L以上50μg/L未満含有する栄養組成物に含有させるためのものである。
【0027】
本発明において、「栄養組成物」は、経口摂取される飲食品を指し特に限定されないが、好ましくは調製乳、流動食等であり、より好ましくは調製乳である。摂取対象は、乳児、幼児、小児、成人を問わないが、好ましくは乳児及び幼児である。
調製乳には、調製粉乳、調製液状乳が含まれる。
調製粉乳は、乳および乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)において、「生乳、牛乳、特別牛乳、またはこれらを原料として製造した食品を加工し、または主要原料とし、乳幼児に必要な栄養分を加え粉末状にしたもの」として定義される。
調製液状乳は、前記省令において、「生乳、牛乳、特別牛乳、またはこれらを原料として製造した食品を加工し、または主要原料とし、乳幼児に必要な栄養分を加え液状にしたもの」として定義される。
また、調製乳は、各種の蛋白質、油脂、炭水化物、ミネラル類、ビタミン類等の栄養成分が配合されたものであって、粉末状又は液状に加工されたものも含まれる。
また、調製乳にはさらに、健康増進法で規定される特別用途食品における「乳児用調製粉乳」、「乳児用調製液状乳」「妊産婦、授乳婦用粉乳」が含まれ、幼児向け調製粉乳、成人用栄養粉末、高齢者用栄養粉末等の態様も含まれる。
【0028】
本発明の栄養組成物は、通常は、乳清蛋白質を含有する。乳清蛋白質は、精製された高純度の乳清蛋白質を用いてもよいし、低純度であって乳清蛋白質以外の成分を含んでいるものを用いてもよい。
乳清蛋白質原料を製造するために用いられる乳原料をそのまま乳清蛋白質の代替として使用することもできる。この場合の乳原料とは乳清蛋白質原料ということができる。乳清蛋白質原料としては、生乳、脱脂乳、全脂粉乳、脱脂粉乳等の乳清蛋白質を含有する通常の乳製品を用いることができる。
乳清蛋白質の精製法としては、牛乳または脱脂粉乳にレンネット等を加えてカゼインと乳脂肪を取り除く方法や、前記工程からさらにゲル濾過法、限外濾過法、イオン交換法等により処理する方法があり、これらの方法で得られる乳清蛋白濃縮物、乳清蛋白分離物等を使用することができる。なお、市販の乳清蛋白質濃縮物(WPC)、乳清蛋白質分離物(WPI)等の乳清蛋白質原料を使用することもできる。
一般的に、乳清蛋白質には、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、血清アルブミン、免疫グロブリン、ラクトフェリン、プロテオースペプトン等を含んでいるが、本明細書における乳清蛋白質も、これらの成分を含有していてもよい。
また、乳清蛋白質として使用される乳清蛋白質原料は1種類のみを使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0029】
本発明の栄養組成物は、通常は、前記乳清蛋白質以外の蛋白質を含有する。かかる蛋白質としては、経口摂取組成物に通常使用されるものであればよく、脱脂粉乳、全脂粉乳、カゼインや乳清蛋白質及びこれらの加水分解物等の乳由来の蛋白質の他、大豆蛋白質等を用いることができる。
【0030】
本発明の栄養組成物は、通常は、前述の長鎖多価不飽和脂肪酸の他に、油脂類を含有する。
油脂類としては、牛、水牛、ヤギ、ロバ等から得られる乳脂肪、魚油、卵黄油等の動物
性油脂、大豆油、コーン油、ゴマ油、エゴマ油、ナタネ油、パーム油、ヒマワリ油等の植物性油脂の他、微生物を培養して得られる油脂のいずれをも含むことができる。
【0031】
本発明の栄養組成物は、通常は、炭水化物を含有する。
炭水化物としては、乳糖、デキストリン、澱粉、ラフィノース、ラクチュロース等の糖質の他、難消化性デキストリンやイヌリン等の食物繊維を含むことが出来る。
【0032】
本発明の栄養組成物は、通常は、ビタミン類を含有する。
ビタミン類としては、ビタミンB群やビタミンC等の水溶性ビタミン、ビタミンA、ビタミンD及びビタミンE等の脂溶性ビタミンを含むことができる。
【0033】
本発明の栄養組成物は、通常は、ミネラル類を含有する。
本発明のミネラル類は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄、亜鉛、マンガン、銅の塩類を使用することができ、好適には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、ピロリン酸第二鉄、硫酸亜鉛、硫酸マンガン、硫酸銅等の形で配合することができる。
【0034】
本発明の栄養組成物は、常法により製造できる。すなわち、任意の段階でルテイン及び長鎖多価不飽和脂肪酸を添加することにより製造すればよい。
以下に、栄養組成物が調製乳である場合を例として、本発明の栄養組成物の製造方法を説明する。
所定量の、乳清蛋白質、蛋白質、ルテイン、長鎖多価不飽和脂肪酸を含む油脂類、炭水化物、ビタミン類、ミネラル類等を含む調製乳原料を、水、生乳、脱脂乳等に添加し、適宜加温して混合・溶解し、加熱殺菌して液状の調製乳を調製する。
原料の一部である油脂類は、予め加熱溶融され、前記で調製した調製乳の原料溶液に添加される。油脂類を添加した調製乳の原料溶液は、均質機によって均質化されることが好ましい。油脂類は、調製乳の原料の一部を溶解した溶液と混合し、一旦均質化した後、残りの調製乳の原料を追加して調製乳の原料溶液を完成させることが可能である。
【0035】
上述のように混合され、調製された液状の調製乳は、プレート殺菌機等を用いて、75~150℃で加熱殺菌される。加熱殺菌工程に続いて、液中の脂肪球を均一な大きさに整え、良好な乳化状態にするための均質化工程を追加することもできる。
加熱殺菌され、製造された液状の調製乳は、後述の粉末状の調製乳を製造するために使用することができる中間製品であると同時に、これ自体を最終製品とすることもできる。すなわち、加熱殺菌され、製造された液状調製乳は、衛生的に充填機に移送され、そのまま、紙、プラスチック、アルミ等の容器に充填し、製品とすることができる。
【0036】
上述のように加熱殺菌された液状の調製乳を、さらに乾燥して、粉末状の調製乳を製造することができる。加熱殺菌と乾燥とを、一工程で行っても良い。乾燥させる工程では、熱風による噴霧乾燥や凍結乾燥を実施することができる。熱風による噴霧乾燥は、加熱を伴うために、一定の殺菌作用が発揮される点で好ましい。得られた粉末は、さらに成分を加えた後に、又は新たに成分を加えることなく、充填し、製品とすることができる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
<実施例1>長鎖多価不飽和脂肪酸含有サンプルにおけるルテイン退色実験
(1)試験油ヘキサン溶液の調製
ドコサヘキサエン酸含有油(日油株式会社製;DHAを27重量%含有)と、アラキド
ン酸含有油(日本水産株式会社製;ARAを42重量%含有)を、DHAとARAの重量比が91:9~9:91の範囲で9段階となるように混合した(DHA:ARA=91:9、80:20、67:33、60:40、50:50、40:60、33:67、20:80、9:91)。DHA含有油、ARA含有油、及び各混合油をそれぞれ100mgずつヘキサン(国産化学社製)1mLに溶解し、試験油ヘキサン溶液を調製した。
【0039】
(2)反応混合液の調製
20重量%ルテイン含有油脂(DSM社製)120mgに対し、ジメチルスルホキシド(DMSO)(富士フィルム和光純薬社製)1mLを添加し、ボルテックスミキサーで充分に攪拌した後、上清を回収し、更にDMSOで5倍希釈することでルテイン含有DMSO溶液を調製した。リノール酸(Sigma-Aldrich社製)2.5mgをDMSO0.75mLに溶解し、リノール酸含有DMSO溶液を調製した。ルテイン含有DMSO溶液0.35mL、リノール酸含有DMSO溶液0.75mLおよびDMSO9mLを混和し、反応混合液とした。
【0040】
(3)銅溶液の調製
硫酸銅5水和物(国産化学社製)を超純水で溶解し、銅含量として10μg/mLとなる水溶液を調製した。
【0041】
(4)吸光度の測定
96穴プレートに試験油ヘキサン溶液を5μLずつ分注し、前出の反応混合液を195μL、銅溶液10μLを添加した(各試験区:n=3)。その後速やかにマイクロプレートリーダー(波長470nm)にて吸光度を測定した。さらに40℃の遮光恒温槽にて18時間静置した後、吸光度を再測定した。試験対照は、試験油を含まないヘキサン溶液とした。静置前後の吸光度の差に基づきルテインの残存率を算出した。
【0042】
(5)結果
図1及び表1に、反応開始18時間後の、対照を100とした際のルテインの残存率を示す。
試験油によるルテインの退色抑制効果は、DHA:ARA=100:0が最も良好であり、DHA:ARA=50:50よりもDHAの混合割合が少なくなると、DHA:ARA=100:0に比べて、ルテインの酸化分解を抑制する効果が有意に低下することが示された。
【0043】
【0044】
<実施例2>調乳液サンプルにおけるルテイン退色実験
(1)ルテイン濃縮物調製
10重量%ルテイン製剤(DSM社製)からルテインを抽出し、ルテイン濃縮物を得た。
【0045】
(2)反応溶液調製
35mgのリノール酸(Sigma-Aldrich社製)を量り取り、0.25mLクロロホルムを添加した。250mgのポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート(ナカライテスク社製)を量り取り、1.25mLのクロロホルムを添加した。上記のルテ
イン濃縮物に0.75mLのクロロホルムを添加した。上記3液をそれぞれよく撹拌した後、混合した。室温下で窒素ガスを吹き付けてクロロホルムを取り除き、超純水160mLと0.1M リン酸Buffer(pH7.0)(富士フィルム和光純薬社製)を40mL添加し、よく混合して反応溶液を得た。
【0046】
(3)調乳液サンプルの調製
表2に示す重量比でDHAとARAを含む各調製粉乳を、1.3%(w/v)となるように純水を用いて溶解し、調乳液サンプルとした。なお、各調乳液サンプルにおけるDHAの含有量は、20mg/L以上300mg/L以下の範囲内であった。
【0047】
【0048】
(4)退色反応
調乳液サンプルを96穴プレートに5μLずつ分注し、前出の反応溶液を245μLずつ分注し(各調乳液サンプル:n=3)、その後速やかにマイクロプレートリーダー(波長470nm)にて吸光度を測定した。更に50℃の遮光恒温槽に入れ、経時的に吸光度を測定した。
【0049】
(5)結果
表3に、反応開始30分後及び60分後の、反応開始0分を100とした際のルテインの残存率を示す。
調乳液サンプル中のARAに対するDHAの割合が大きくなるほど、ルテインの退色抑制効果、換言するとルテインの酸化分解を抑制する効果が大きいことが示された。
【0050】