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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】超電導機器
(51)【国際特許分類】
   H10N 60/81 20230101AFI20240125BHJP
【FI】
H10N60/81 ZAA
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019216481
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021086975
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】池内 正充
(72)【発明者】
【氏名】大野 隆介
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特許第5800018(JP,B2)
【文献】特開2000-030930(JP,A)
【文献】特開2016-105382(JP,A)
【文献】特開2019-033056(JP,A)
【文献】特開2019-117868(JP,A)
【文献】特開2006-210263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 60/81
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液冷媒によって冷却される伝熱面と、
前記伝熱面を少なくとも部分的に覆うように設けられ、前記伝熱面よりも低い熱伝導率を有する被覆層と、
を備え、
前記伝熱面は、
複数の伝熱領域と、
前記複数の伝熱領域と交互に配置された複数の伝熱抑制領域と、
を含み、
(a)前記被覆層が、前記伝熱面のうち前記伝熱抑制領域を選択的に覆うように設けられ、
または、
(b)前記被覆層の厚さが、各々の前記伝熱領域よりも各々の前記伝熱抑制領域のほうが大きい超電導機器。
【請求項2】
前記伝熱抑制領域に選択的に設けられた前記被覆層により前記伝熱面から突出した突起部が形成されている請求項1に記載の超電導機器。
【請求項3】
前記突起部の少なくとも先端部が前記伝熱面から0.1mm以上で気液境界より液相領域の高さに達するように構成されている請求項2に記載の超電導機器。
【請求項4】
前記伝熱抑制領域は格子状に形成され、前記伝熱抑制領域の間に各々の前記伝熱領域が離散的に形成されている請求項1乃至3の何れか一項に記載の超電導機器。
【請求項5】
前記伝熱領域は格子状に形成され、前記伝熱領域の間に各々の前記伝熱抑制領域が離散的に形成されている請求項1乃至3の何れか一項に記載の超電導機器。
【請求項6】
前記液冷媒が貯留された断熱壁を有する貯槽と、
前記液冷媒に浸漬された超電導限流器と、
を含み、
前記超電導限流器は前記液冷媒に接する前記伝熱面を有する請求項1乃至5の何れか一項に記載の超電導機器。
【請求項7】
超電導線材を含むケーブルコアと、
前記ケーブルコアを内蔵し、該ケーブルコアと内面との間に前記液冷媒が充填された空間が形成された断熱壁を有する配管と、
を含み、
前記ケーブルコアの外周面は前記伝熱面を有する請求項1乃至5の何れか一項に記載の超電導機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超電導機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、宇宙工学、医学、超電導技術等の低温分野において、低温液冷媒を用いた沸騰冷却を促進する冷却技術が必要とされている。液冷媒の沸騰状態は、一般的に沸騰曲線で表されるように、液冷媒と対象被冷却体との温度差が拡大するにつれ、核沸騰から遷移沸騰、さらには膜沸騰へと転移する。核沸騰では微細な気泡が被冷却体の表面から離れるときに対流を促進するため、伝熱量が最も大きくなる。液体窒素のような極低温の液冷媒中に置かれた被冷却体を沸騰冷却する場合、温度差が大きいため、被冷却体の表面が蒸気膜に覆われた膜沸騰状態に陥りやすい。膜沸騰状態では、液冷媒と被冷却体の表面との間にできる蒸気層を介して熱移動が行われるが、蒸気層の熱伝導率が極めて悪いため、被冷却体から液冷媒への熱伝達が極端に低下し、冷却効率が低下する。
【0003】
そのため、従来、被冷却体の表面をPTFEなどの熱伝導率が小さい物質で覆って表面温度を低下させ、核沸騰に留まらせることによって膜沸騰に至らないようにした研究成果が報告されている。しかし、この方法では、非沸騰領域での熱伝達が悪化することは避けられない。また、銅球の表面を熱伝導率が小さい霜で覆い、核沸騰状態を保つことで、熱伝達が向上することが報告されている。この場合、霜層の微細な氷柱の存在により表面積が増大することで、非沸騰領域での熱伝達も良くなることが期待できるが、工業的な実施は今後の課題である。
【0004】
特許文献1には、超電導体を利用して限流動作を行う限流器において、超電導部材の表面に熱伝導率が大きいフィンを設けることで、冷却媒体の沸騰状態が核沸騰状態から膜沸騰状態に遷移することを抑制する手段が提案されている。膜沸騰を抑制できる理由として、特許文献1の段落[0055]には、「試験発熱体3においては充分な数のフィンが形成されているため、その表面形状が複雑になっており、蒸気膜が形成され難くなっている結果、完全な膜沸騰状態にならないためであると考えられる。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5800018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された手段は、冷却される伝熱面にフィンなどの放熱部材を設けて伝熱面の形状を複雑化する必要があるため、製造コストが増加し、かつ放熱部材を設けるためのスペースが必要となる。また、製造コストが増加する割には、放熱部材の形状によっては所期の冷却効果が得られるかどうか不明である。
【0007】
本開示は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、低コストな手段で膜沸騰を確実に抑制可能にすることで、冷却効果の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本開示に係る超電導機器は、液冷媒によって冷却される伝熱面と、前記伝熱面を少なくとも部分的に覆うように設けられ、前記伝熱面よりも低い熱伝導率を有する被覆層と、を備え、前記伝熱面は、複数の伝熱領域と、前記複数の伝熱領域と交互に配置された複数の伝熱抑制領域と、を含み、(a)前記被覆層が、前記伝熱面のうち前記伝熱抑制領域を選択的に覆うように設けられ、または、(b)前記被覆層の厚さが、各々の前記伝熱領域よりも各々の前記伝熱抑制領域のほうが大きい。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る超電導機器によれば、伝熱面よりも低い熱伝導率を有する被覆層を用いて、複数の伝熱領域と複数の伝熱抑制領域とを交互に配置することで、膜沸騰の形成を抑制して核沸騰状態を維持でき、これによって、冷却効果を高く維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る超電導機器の一部を示す断面図である。
図2】一実施形態に係る超電導機器の一部を示す断面図である。
図3】一実施形態に係る超電導機器の透視斜視図である。
図4図3中のA―A線に沿う断面図である。
図5】一実施形態に係る超電導機器の斜視図である。
図6図5中のB―B線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載され又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一つの構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0012】
図1及び図2は、幾つかの実施形態に係る超電導機器10(10A、10B)の一部の構成を示す断面図である。これらの超電導機器10は、超電導部材(不図示)を内蔵すると共に、例えば液体窒素などの液冷媒rと接し液冷媒rによって冷却される伝熱面12を有する。該超電導部材は伝熱面12を介して極低温に冷却されることで電気抵抗がほぼ零の状態を保つことができる。伝熱面12は、被覆層14によって少なくとも部分的に覆われ、被覆層14は、伝熱面12を構成する材料よりも低い熱伝導率を有する材料で構成されている。こうして、伝熱面12は、複数の伝熱領域Raと、複数の伝熱領域Raと交互に配置された複数の伝熱抑制領域Rbと、を含むように構成されている。従って、同一の液冷媒rによる冷却条件下で、伝熱抑制領域Rbの単位表面積当たりの伝熱量(熱流束)は伝熱領域Raより小さくなる。
【0013】
図1に示す超電導機器10(10A)では、伝熱面12は、被覆層14によって覆われていない伝熱領域Raと、被覆層14によって選択的に覆われた伝熱抑制領域Rbとに区画されている。図2に示す超電導機器10(10B)では、伝熱領域Ra及び伝熱抑制領域Rbの伝熱面12は共に被覆層14で覆われ、伝熱抑制領域Rbにおける被覆層14の厚さが伝熱領域Raにおける被覆層14の厚さより大きくなっている。
【0014】
これらの実施形態において、伝熱抑制領域Rbでは伝熱面12と液冷媒rとの熱伝達が抑制されるため、膜沸騰の形成が抑制され、核沸騰状態となる。また、伝熱抑制領域Rbが伝熱領域Raと交互に配置されるため、伝熱領域Raで局所的に膜沸騰が形成されたとしても、膜沸騰の伝搬が伝熱抑制領域Rbで阻止されるため、伝熱面12全体への膜沸騰の拡大が抑制され、核沸騰状態の領域が維持される。これによって、伝熱面12が全面膜沸騰状態に移行したときに比べ熱流束を大きく改善でき、超電導部材の冷却効果を高いまま維持することが可能となる。
【0015】
被覆層14は、例えば、PTFEなどの熱伝導率が小さいフッ素樹脂で構成される。フッ素樹脂は超電導部材を極低温状態で冷却する環境下でも安定した物性を維持して冷却効果を発揮できる。
【0016】
一実施形態では、図1に示すように、被覆層14が伝熱抑制領域Rbに選択的に設けられ、被覆層14は伝熱面12から突出した突起部18を形成している。伝熱面12が液冷媒rと伝熱面12との温度差の増大で膜沸騰に移行しても、伝熱抑制領域Rbでの表面温度の上昇が抑制されるため、膜沸騰の抑制効果を維持できる。これによって、伝熱面12での温度降下は大きくなり、伝熱面がある温度を越えて降下すれば膜沸騰に復帰できず、その場所では核沸騰が起こり、蒸気膜は分断される。伝熱面12を覆っていた蒸気膜は部分的に核沸騰領域で不安定となる。このように遷移沸騰が始まり、やがてそれぞれの気泡が分離される核沸騰に転移する。
【0017】
なお、本実施形態によれば、伝熱抑制領域Rbに突起部18を形成しているため、伝熱抑制領域Rbの表面積を増加できる。そのため、伝熱抑制領域Rbの形成によって生じる伝熱面12の非沸騰時の全体的な伝熱量の低下を、突起部18のフィン効率を考慮する必要があるが、伝熱抑制領域Rbの表面積の増加で補うことができる。
【0018】
突起部18は、伝熱抑制領域Rbに1個又は複数形成される。突起部18の形状は、例えば、柱状、壁状(直線状又は曲線状の壁を含む。)等でもよく、特に特定の形状に限定されない。また、複数形成された突起部18の配列は、例えば、並列、交差状等でもよく、特に特定の配列に限定されない。
【0019】
図1に示す超電導機器10(10A)は、被覆層14が伝熱抑制領域Rbのみに設けられ、伝熱領域Raには設けられていない。この実施形態によれば、伝熱領域Ra及び伝熱抑制領域Rbの液冷媒rとの伝熱量を被覆層14の有無によって差別化しているため、両者の伝熱量を容易に差別化できる。
図2に示す超電導機器10(10B)は、被覆層14が伝熱領域Ra及び伝熱抑制領域Rbに形成され、伝熱面12は液冷媒と接する被覆層14が形成された伝熱領域Raの表面となる。伝熱領域Ra及び伝熱抑制領域Rbの熱伝導の差を被覆層14の膜厚で差別化しているため、両者の微妙な伝熱量の差を被覆層14の膜厚で正確に差別化できる。
【0020】
図1及び図2に示す超電導機器10(10A、10B)では、突起部18の全体を被覆層14で構成しているが、突起部18の表面のみを被覆層14で形成し、突起部18の内側部分を別な材料で構成してもよい。例えば、超電導機器10(10A)では、突起部18の内側部分を伝熱面12を形成する材料と同じ材料で構成してもよい。
【0021】
伝熱面12と液冷媒rとの温度差が増大し、伝熱面12に膜沸騰が形成される場合、図1に示すように、伝熱面12に接して形成された膜沸騰領域Rの気液境界GLの外側に液相領域Rが形成される。例えば、条件により異なるが、膜沸騰領域Rの厚さは通常数十μm~0.1mm程度である。一実施形態では、伝熱抑制領域Rbに形成された突起部18の少なくとも先端部が伝熱面12から0.1mm以上で気液境界GLより液相領域Rの高さに達するように構成されている。これによって、図1に示すように、突起部18の先端部が液相領域Rまで達することができるため、突起部18周辺では表面温度の上昇が抑制され、膜沸騰の抑制効果を維持できる。伝熱面12を覆っていた蒸気膜は部分的に核沸騰領域となり不安定となる。このように遷移沸騰が始まり、やがてそれぞれの気泡が分離される核沸騰に転移する。このように良好な熱伝達を保持する核沸騰領域が拡大され、この液相による冷却により伝熱面12の表面での膜沸騰領域Rの形成を抑制できるため、超電導部材の冷却効果を高く維持できる。
【0022】
なお、一実施形態では、図2に示す突起部18に代えて、伝熱領域Raを形成する突起部18’で置き換えてもよい。置き換え後の突起部18’は、被覆層14よりも高い熱伝導率を有する金属等で構成され、伝熱面12に接触して配置される。この実施形態では、被覆層14より突起部18’の温度が高くなり、突起部18’の表面に膜沸騰が形成されても、被覆層14で表面温度の上昇が抑制されるため、膜沸騰の抑制効果を維持することが期待できる。
【0023】
図3は、一実施形態に係る超電導機器10(10C)を示す透視斜視図であり、図4図3中のA-A線に沿う断面図である。超電導機器10(10C)は、断熱性を有する貯槽20に極低温の液冷媒r(例えば、液体窒素など)が貯留され、貯槽20の内部で液冷媒rに超電導限流器22が浸漬されている。超電導限流器22が内蔵する超電導部材は、例えば、超電導マグネットで構成され、液冷媒rで極低温に保持されている。超電導限流器22は通常は電気抵抗がほぼ零となる超電導状態を呈しており、許容値以上の電流が流れて短絡すると、超電導状態が破れて常電導状態に転移(クエンチ)する。常電導状態に転移すると、電気抵抗を発生し、この抵抗を利用して短絡電流を抑制する。超電導限流器22の表面は液冷媒rに接した伝熱面12を構成している。
【0024】
伝熱面12は、伝熱面12を構成する材料よりも低い熱伝導率を有する材料で構成された被覆層14(18)によって少なくとも部分的に覆われ、複数の伝熱領域Raと、複数の伝熱領域Raと交互に配置された伝熱領域Raより熱伝導率が小さい複数の伝熱抑制領域Rbと、を含んでいる。例えば、図1及び図2に示す超電導機器10(10A、10B)のいずれかの構成を有している。超電導限流器22は、待機中は液冷媒rによって効率良く冷却されるため、常時はほとんど損失がない超電導状態を保持できる。
【0025】
限流動作時、超電導限流器22は急激な常電導転位(クエンチ)による急激な発熱のため大きく温度が上昇し、周囲の液冷媒rは急速に気化する。限流動作終了後(電流遮断後)、再冷却のため液冷媒rが速やかに貯槽20に供給される。この時、超電導限流器22の表面は、被覆層14によって膜沸騰が抑制され速やかに冷却されて超電導状態に復帰し、次の限流器動作に備えることが可能となる。
【0026】
一実施形態では、貯槽20の隔壁は二重壁で構成され、これら二重壁の外側壁と内側壁との間に真空空間が形成されている。これによって、貯槽20は高い断熱性を得ることができる。
【0027】
図5は、一実施形態に係る超電導機器10(10D)を示す斜視図であり、図6図5中のB―B線に沿う断面図である。超電導機器10(10D)は、超電導線材(不図示)を内蔵するケーブルコア32と、ケーブルコア32を内蔵し、ケーブルコア32と内側壁との間に液冷媒rが充填された空間が形成された断熱性を有する配管30とを備えている。ケーブルコア32の外周面は伝熱面12を有する。伝熱面12は、伝熱面12を構成する材料よりも低い熱伝導率を有する材料で構成された被覆層14(18)によって少なくとも部分的に覆われ、複数の伝熱領域Raと、複数の伝熱領域Raと交互に配置された伝熱領域Raより熱伝導率が小さい複数の伝熱抑制領域Rbと、を含んでいる。例えば、図1及び図2に示す超電導機器10(10A、10B)のいずれかの構成を有している。ケーブルコア32に内蔵された超電導部材は、伝熱面12を介し液冷媒rによって効率良く冷却されるため、常時はほとんど損失がない超電導状態を保持できる。
【0028】
超電導機器10(10D)が過電流などで超電導状態が破壊され常電導状態に転位(クエンチ)すると、ケーブルコア32は急激な温度上昇を起こし、周囲の液冷媒rは激しく蒸発する。この時、ケーブルコア32への通電は遮断される。超電導機器10(10D)に異常がなければ、再度、液冷媒rを供給し、超電導状態への復帰と再通電を目指す。この再冷却時、被覆層14により膜沸騰状態が抑制されることで冷却時間が大幅に短縮され、再通電を速やかに再開することが可能である。
【0029】
一実施形態では、配管30の隔壁は二重壁で構成され、これら二重壁の外側壁と内側壁との間に真空空間が形成されている。これによって、配管30は高い断熱性を得ることができる。
【0030】
一実施形態では、図3図6に示すように、伝熱抑制領域Rbは格子状に形成され、伝熱抑制領域Rbの間に各々の伝熱領域Raが離散的に形成されている。これによって、格子状に形成された伝熱抑制領域Rbにおいて核沸騰領域を形成することで、伝熱抑制領域Rbの間に離散的に形成された伝熱領域Raにおいても局所的に膜沸騰が形成されても、伝熱抑制領域Rbでは表面温度の上昇が抑制されるため、膜沸騰の抑制効果を維持できる。伝熱面を覆っていた蒸気膜は部分的に核沸騰領域で不安定となる。このように遷移沸騰が始まり、やがてそれぞれの気泡が分離される核沸騰に転移するため、膜沸騰領域の広がりを抑制かつ解消できる。
【0031】
一実施形態では、図3図6に示す実施形態とは逆に、伝熱領域Raが格子状に形成され、伝熱領域Raの間に各々の伝熱抑制領域Rbが離散的に形成されている。これによって、格子状に形成された伝熱領域Raの間に膜沸騰を抑制可能な伝熱抑制領域Rbが離散的に形成されるため、伝熱領域Raで局所的に膜沸騰が形成されても、伝熱抑制領域Rbでは表面温度の上昇が抑制されるため、膜沸騰の抑制効果を維持でき、膜沸騰領域の広がりを抑制かつ解消できる。
【0032】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0033】
(1)一つの態様に係る超電導機器は、液冷媒によって冷却される伝熱面と、前記伝熱面を少なくとも部分的に覆うように設けられ、前記伝熱面よりも低い熱伝導率を有する被覆層(例えば、図1及び図2に示す被覆層14)と、を備え、前記伝熱面は、複数の伝熱領域(例えば、図1及び図2に示す伝熱領域Ra)と、前記複数の伝熱領域と交互に配置された複数の伝熱抑制領域(例えば、図1及び図2に示す伝熱抑制領域Rb)と、を含み、(a)前記被覆層が、前記伝熱面のうち前記伝熱抑制領域を選択的に覆うように設けられ(例えば、図1に示す実施形態)、または、(b)前記被覆層の厚さが、各々の前記伝熱領域よりも各々の前記伝熱抑制領域のほうが大きい(例えば、図2に示す実施形態)。
【0034】
このような構成によれば、伝熱面のうち伝熱抑制領域では熱伝導が抑制され伝熱面の表面温度上昇が抑制されるため、膜沸騰の形成を抑制でき、核沸騰状態を維持できる。また、複数の伝熱領域と複数の伝熱抑制領域とが交互に配置されるので、各伝熱領域で局部的に膜沸騰が形成されたとしても、膜沸騰が伝熱面全体に広がるのを各伝熱抑制領域で阻止できる。これによって、膜沸騰の発生を局部的なものに抑えることができ、伝熱面全体で主として核沸騰状態を維持できるため、超電導部材の冷却効果の低下を抑制かつ解消できる。
【0035】
(2)一実施形態では、(1)に記載の超電導機器であって、前記伝熱抑制領域に選択的に設けられた前記被覆層により前記伝熱面から突出した突起部(例えば、図1及び図2に示す突起部18)が形成されている。
【0036】
このような構成によれば、伝熱抑制領域に突起部を形成することで、伝熱抑制領域の表面積を増加できる。これによって、突起部によるフィン効率を考慮する必要があるが、伝熱抑制領域の形成による伝熱量の低下を抑制できる。
【0037】
(3)一実施形態では、(2)に記載の超電導機器であって、前記突起部の少なくとも先端部が前記伝熱面から0.1mm以上で気液境界より液相領域(例えば、図1に示す液相領域R)の高さに達するように構成されている。
【0038】
伝熱面と液冷媒の温度差が増加して伝熱面に膜沸騰が形成される場合、膜沸騰領域(例えば、図1に示す膜沸騰領域R)の外側に液相領域が形成される。上記構成によれば、突起部の少なくとも先端部が伝熱面から0.1mm以上で気液境界(例えば、図1に示す気液境界GL)より液相領域の高さに達するように構成されるため、突起部の先端部の表面温度の上昇が抑制されるため、膜沸騰の抑制効果を維持できる。伝熱面を覆っていた蒸気膜は部分的に核沸騰領域で不安定となり、遷移沸騰が始まり、やがてそれぞれの気泡が分離される核沸騰に転移する。このように核沸騰状態を維持することができる。これによって、核沸騰領域における良好な熱伝達域を突起部を介して伝熱面にまで延長できる。そのため、膜沸騰の拡大を阻止かつ解消できる。
【0039】
(4)一実施形態では、(1)乃至(3)の何れかに記載の超電導機器であって、前記伝熱抑制領域(例えば、図4又は図6に示す伝熱抑制領域Rb)は格子状に形成され、前記伝熱抑制領域の間に各々の前記伝熱領域(例えば、図4又は図6に示す伝熱領域Ra)が離散的に形成されている。
【0040】
このような構成によれば、格子状に形成された伝熱抑制領域において核沸騰を形成することで、伝熱抑制領域の間に離散的に形成された伝熱領域において局所的に膜沸騰が形成されても、伝熱抑制領域に形成された核沸騰が膜沸騰領域の広がりを抑制かつ解消できる。
【0041】
(5)一実施形態では、(1)乃至(3)の何れかに記載の超電導機器であって、前記伝熱領域は格子状に形成され、前記伝熱領域の間に各々の前記伝熱抑制領域が離散的に形成されている。
【0042】
このような構成によれば、格子状に形成された伝熱領域の間に膜沸騰を抑制可能な伝熱抑制領域が離散的に形成されるので、格子状に形成された伝熱領域で局所的に膜沸騰が形成されても、伝熱抑制領域に形成された核沸騰が膜沸騰領域の広がりを抑制かつ解消できる。
【0043】
(6)一実施形態では、(1)乃至(5)の何れかに記載の超電導機器(例えば、図3に示す超電導機器10(10C))であって、前記液冷媒が貯留された断熱壁を有する貯槽と、前記液冷媒に浸漬された超電導限流器(例えば、図3に示す超電導限流器22)と、
を含み、前記超電導限流器は前記液冷媒に接する前記伝熱面を有する。
【0044】
このような構成によれば、上記構成の超電導限流器は、伝熱面を介し液冷媒によって効率良く冷却され、伝熱面の表面で膜沸騰が形成されるのを抑制できるため、超電導部材は限流動作後あるいはクエンチ後に速やかに超電導状態に復帰できる。
【0045】
(7)一実施形態では、(1)乃至(5)の何れかに記載の超電導機器(例えば、図5に示す超電導機器10(10D))であって、超電導線材を含むケーブルコア(例えば、図5に示すケーブルコア32)と、前記ケーブルコアを内蔵し、該ケーブルコアと内面との間に液冷媒が充填された空間が形成された断熱壁を有する配管と、を含み、前記ケーブルコアの外周面は前記伝熱面を有する。
【0046】
このような構成によれば、上記構成の超電導機器は、伝熱面を介し液冷媒によって効率良く冷却され、伝熱面の表面で膜沸騰が形成されるのを抑制できるため、超電導部材はほとんど損失がない超電導状態を保持できる。
【符号の説明】
【0047】
10(10A、10B、10C、10D) 超電導機器
12 伝熱面
14 被覆層
18 突起部
20 貯槽
22 超電導限流器
30 配管
32 ケーブルコア
膜沸騰領域
液相領域
Ra 伝熱領域
Rb 伝熱抑制領域
r 液冷媒
GL 気液境界
図1
図2
図3
図4
図5
図6