(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ボトル缶胴用アルミニウム合金板
(51)【国際特許分類】
C22C 21/06 20060101AFI20240125BHJP
C22F 1/047 20060101ALN20240125BHJP
C22F 1/04 20060101ALN20240125BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
C22C21/06
C22F1/047
C22F1/04 C
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 673
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684B
C22F1/00 685Z
C22F1/00 694B
C22F1/00 692B
C22F1/00 694A
(21)【出願番号】P 2020003782
(22)【出願日】2020-01-14
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】河野 亜耶
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智子
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-242831(JP,A)
【文献】特開2014-198879(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002226(WO,A1)
【文献】特開2014-015643(JP,A)
【文献】特開2006-241517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 - 21/18
C22F 1/04 - 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:0.1質量%以上0.5質量%以下、
Fe:0.3質量%以上0.6質量%以下、
Cu:0.1質量%以上0.35質量%以下、
Mn:0.5質量%以上1.2質量%以下、
Mg:1.0質量%以上2.5質量%以下を含有し、
残部がAl及び不可避的不純物からなり、
Cu含有量に対するMg含有量の比(Mg質量%/Cu質量%)が
3.6以上4.2以下であり、
缶胴成形後の缶壁強度から缶胴成形前の板強度を差し引いた値が97MPa以下であ
り、
成形後の缶胴は、厚さが0.37mmで直径140mmのブランクを絞り成形して作製される直径90mmのカップを、再絞り加工して得られる缶体にしごき加工を3回施して成形され、最終しごき率が39.9%、最薄肉部の厚さが140μm、胴径がφ66mmの缶胴であるボトル缶胴用アルミニウム合金板。
【請求項2】
Zn含有量が0.4質量%以下である請求項1に記載の缶胴用アルミニウム合金板。
【請求項3】
Ti含有量が0.1質量%以下である請求項1又は請求項2に記載の缶胴用アルミニウム合金板。
【請求項4】
Cr含有量が0.1質量%以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の缶胴用アルミニウム合金板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボトル缶胴用アルミニウム合金板に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料用の包装容器として、有底円筒状の胴部と蓋部からなる2ピース缶が広く使用されてきた。近年では、リシールが可能なボトル缶が開発されている。ボトル缶胴材の材料としては、AAもしくはJIS3000系(Al-Mn系)などのアルミニウム合金が汎用されている。ボトル缶の缶胴は、一般に、次のような工程で製造される。まず、素材となるアルミニウム合金板を円板形状にブランキングし、得られたブランク材をカップ成形する。そして、成形されたカップを再絞り、しごき加工することで缶胴形状に成形する。このしごき加工後のサンプルをDI缶と呼称する。その後、DI缶の開口部をネッキング加工により小径化し口部を成形し、この口部にネジ加工をした後、カール加工を施すことで、ボトル缶が製造される。
【0003】
ボトル缶では、ネッキング加工、その後のネジ加工及びカール加工といった2ピース缶よりも厳しい加工においても、シワ及び割れを抑制する必要があり、これらのネック成形性(ネッキング加工、ネジ加工及びカール加工)向上に着目した技術が開発されている。例えば、特許文献1には、強度、加工硬化指数が規定されたボトル缶胴用アルミニウム合金板が記載され、ネック成形時のシワ及び割れを防止することができるとされている。一方、コストダウン、環境負荷軽減等の観点からボトル缶胴用アルミニウム合金板の薄肉化が進んでおり、ネック成形性向上技術に加え、素材の高強度化が求められている。加えて、素材の高強度化に伴う変形抵抗の増加に起因して、しごき加工時において側壁厚が不均一になり変動することによる偏肉の発生が新たな課題となっている。例えば、特許文献2には、素材の結晶粒径とr値の面内異方性が規定されたボトル缶胴用アルミニウム合金板が記載され、強度、しごき加工性、ネッキング加工性等に優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-82429号公報
【文献】特開2006-89828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載された技術では、対象としている板厚が0.4mmと厚く、今後に要求される板厚0.30mm以上0.38mm以下の薄肉化に対応することが困難である。そのため、更なる高強度化としごき加工性の向上を可能とする技術が求められている。高強度化のためには、固溶強化元素であるMg含有量の増加が有効であるが、Mg含有量の増加に伴い、しごき加工時の加工硬化量が増加するため、しごき加工時の変形抵抗が増加して、DI缶の偏肉量が大きくなってしまう場合がある。一方、Mgの代わりに同じく固溶強化元素であるCu含有量を増加することで高強度化を図ると、熱間圧延後のコイル冷却時に固溶強化元素を含む金属間化合物が析出し、強度低下が発生してしまう場合がある。
【0006】
上記に鑑み、本発明は、高強度かつしごき加工時の偏肉の発生が抑制されるボトル缶胴用アルミニウム合金板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るボトル缶胴用アルミニウム合金板は、Si:0.1質量%以上0.5質量%以下、Fe:0.3質量%以上0.6質量%以下、Cu:0.1質量%以上0.35質量%以下、Mn:0.5質量%以上1.2質量%以下、Mg:1.0質量%以上2.5質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる。ボトル缶胴用アルミニウム合金板は、Cu含有量に対するMg含有量の比(Mg質量%/Cu質量%)が4.2以下であり、缶胴成形後にDI缶の缶壁引張試験で得られる缶壁強度から缶胴成形前に板の引張試験で得られる板強度を差し引いた値(缶壁強度-板強度)が97MPa以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高強度かつしごき加工時の偏肉の発生が抑制されるボトル缶胴用アルミニウム合金板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】缶胴成形後の偏肉量変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係るボトル缶胴用アルミニウム合金板について説明する。但し、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具現化するための一例を例示するものであって、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0011】
本発明の一実施形態に係るボトル缶胴用アルミニウム合金板は、例えば、Al-Mn-Mg系合金、Al-Mg-Mn系合金等からなる。Al-Mn-Mg系合金、Al-Mg-Mn系合金等としては、例えば、一般的なJIS合金、例えば3004、3104等が挙げられる。
【0012】
具体的には、ボトル缶胴用アルミニウム合金板は、Si:0.1質量%以上0.5質量%以下、Fe:0.3質量%以上0.6質量%以下、Cu:0.1質量%以上0.35質量%以下、Mn:0.5質量%以上1.2質量%以下、Mg:1.0質量%以上2.5質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる。ボトル缶胴用アルミニウム合金板は、Cu含有量に対するMg含有量の比(Mg質量%/Cu質量%)が4.2以下であり、缶胴成形後にDI缶の缶壁引張試験で得られる缶壁強度から、缶胴成形前に板の引張試験で得られる板強度を差し引いた値(缶壁強度-板強度)が97MPa以下である。
【0013】
ボトル缶胴用アルミニウム合金板は、Si、Fe、Cu、Mn及びMgを所定範囲で含有しており、また、引張試験により求められる(缶壁強度-板強度)の値が所定の範囲内となっている。これにより、しごき加工時の変形抵抗が低減され、DI缶の偏肉の発生が抑制される。これは例えば、Mg含有量の代わりにCu含有量を増加させ、熱間圧延後の巻き取ったコイルの冷却速度を制御することで、金属間化合物の析出を抑制することができるためと考えることができる。
【0014】
以下、ボトル缶胴用アルミニウム合金板に含まれる各成分の含有量と、含有量の限定の理由について説明する。
【0015】
(Si:0.1質量%以上0.5質量%以下)
Si含有量が0.1質量%未満では、原料となる地金の必要純度が上がるため、コストアップとなる場合がある。一方、Si含有量が0.5質量%を超えると、ホットコイルでの未再結晶残存で成形性が低下する。Si含有量は、好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.25質量%以上であり、さらに好ましくは0.28質量%超であってよい。また、Si含有量は、好ましくは0.45質量%以下であり、より好ましくは0.4質量%以下であってよい。
【0016】
(Fe:0.3質量%以上0.6質量%以下)
Fe含有量が0.3質量%未満では、ホットコイルに未再結晶が残存するため、DI成形時において45°耳が高くなり、しごき加工時に耳切れ及びこれに起因するティアオフが生じやすい。一方、Fe含有量が0.6質量%を超えると、Al-Fe-Mn系金属間化合物が多くなり、しごき加工時に成形不良が生じやすい。Fe含有量は、好ましくは0.35質量%以上であり、より好ましくは0.40質量%以上であり、さらに好ましくは0.42質量%超であってよい。また、Fe含有量は、好ましくは0.55質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であってよい。
【0017】
(Cu:0.1質量%以上0.35質量%以下)
Cu含有量が0.1質量%未満では強度が不足し、缶の耐圧強度が不足する。一方、Cu含有量が0.35質量%を超えると強度が過大となり、しごき加工時に成形不良が生じやすい。Cu含有量は、好ましくは0.15質量%以上であり、より好ましくは0.18質量%以上であり、さらに好ましくは0.24質量%超であってよい。また、Cu含有量は、好ましくは0.33質量%以下であり、より好ましくは0.30質量%以下であってよい。
【0018】
(Mn:0.5質量%以上1.2質量%以下)
Mn含有量が0.5質量%未満では強度が不足し、缶の耐圧強度が不足する。一方、Mn含有量が1.2質量%を超えると、Al-Fe-Mn系金属間化合物が多くなり、缶の側壁にピンホール(穴あき)が生じやすくなる。また、しごき加工時に成形不良が生じやすい。Mn含有量は、好ましくは0.6質量%以上であり、より好ましくは0.8質量%以上であり、さらに好ましくは0.85質量%以上であってよい。また、Mn含有量は、好ましくは1.15質量%以下であり、より好ましくは1.10質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以下であり、特に好ましくは0.87質量%以下であってよい。
【0019】
(Mg:1.0質量%以上2.5質量%以下)
Mg含有量が1.0質量%未満では強度が不足し、缶の耐圧強度が不足する。一方、Mg含有量が2.5質量%を超えると強度が過大となり、成形性が低下し、しごき加工時に成形不良が生じやすい。Mg含有量は、好ましくは1.05質量%以上であり、より好ましくは1.08質量%以上であり、さらに好ましくは1.1質量%以上であってよい。また、Mg含有量は、好ましくは2.0質量%以下であり、より好ましくは1.7質量%以下であり、さらに好ましくは1.6質量%以下であってよい。
【0020】
(Zn:0.4質量%以下)
一般的に知られているように、アルミニウム合金板はZnを含んでいてよい。Znは0.4質量%以下の含有量であれば、アルミニウム合金板の材料特性、しごき加工後の缶特性に大きな影響を及ぼさない。Znは不可避不純物であるが、上記範囲内でZnを積極添加することもできる。Zn含有量は、好ましくは0.3質量%以下であり、より好ましくは0.27質量%以下であり、より好ましくは0.25質量%以下であり、さらに好ましくは0.2質量%以下であってよい。また、Zn含有量の下限は、例えば、0.1質量%以上であってよい。
【0021】
(Ti:0.1質量%以下)
一般的に知られているように、アルミニウム合金板はTiを含んでいてよい。Tiは鋳塊結晶粒の微細化を目的に、必要に応じて添加される。鋳造時に鋳塊組織を微細化すると、鋳造性が向上して高速鋳造が可能となる。その効果は0.01質量%以上の添加により得られる。一方、Ti含有量が0.1質量%以下であると、フィルターの目詰まりを抑制でき、鋳造中に次第に溶湯がフィルターを通過しにくくなることが抑制され、フィルターの目詰まりに起因する鋳造の中止が回避できる。従って、アルミニウム合金中のTi含有量は上記範囲内に制限されてよい。なお、Tiを添加する場合には、例えばTiとBの質量比を5:1とした鋳塊微細化剤(Al-Ti-B)を添加する。ワッフルあるいはロッドの形態で鋳造前の溶湯に添加するため、含有割合に応じたBも必然的に添加される。Ti含有量は、好ましくは0.08質量%以下であり、より好ましくは0.06質量%以下であってよい。
【0022】
(Cr:0.1質量%以下)
一般的に知られているように、アルミニウム合金板はCrを含んでいてよい。Crは0.1質量%以下の含有量であれば、アルミニウム合金板の材料特性、しごき加工後の缶特性に影響を及ぼさない。Crは不可避不純物であるが、コストダウンを図るため、例えば原料中へのスクラップ(Crを多く含有するスクラップ等)配合率を高くするなど、上記範囲内でCrを積極添加することもできる。Cr含有量が0.1質量%以下であると、ホットコイルに未再結晶が残存することが抑制され、しごき加工時に成形不良が生じることが抑制される。Cr含有量は、好ましくは0.05質量%以下であってよい。
【0023】
前記したZn、Ti及びCrは、前記した上限値を超えなければ、アルミニウム合金に1種以上、つまり1種のみが含まれる場合だけでなく、2種以上が含まれていても、当然に本発明の効果を妨げることが抑制される。
【0024】
(残部:Al及び不可避不純物)
ボトル缶胴用アルミニウム合金板は、Al及び上記合金成分の他に、不可避不純物を含有していてよい。不可避不純物としては、例えば、Zr、B、V、Na、Ca、Ni、In、Sn、Gaなどが挙げられる。不可避不純物について許容される含有量は、Zrについては、例えば、0.3質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下であってよい。Zr以外の他の元素については、例えば、各0.05質量%以下かつ合計0.15質量%以下であってよい。前記範囲内であれば、不可避不純物として含有した場合に限らず、前記元素を添加する場合であっても、本発明の効果を妨げることが抑制される。
【0025】
(Mg質量%/Cu質量%≦4.2)
Cu含有量に対するMg含有量の比(Mg質量%/Cu質量%)は、加工硬化特性を決定し、適正に制御することでしごき加工時における偏肉量を小さくする効果がある。固溶するMg量が多いと加工硬化しやすく、Mg質量%/Cu質量%が4.2を超えると、しごき加工時の変形抵抗の増大に繋がり、しごき加工時の偏肉量が大きくなる。以上の理由からMg質量%/Cu質量%≦4.2とする。Mg質量%/Cu質量%は、好ましくは4.15以下であり、より好ましくは4.1以下であってよい。また、Mg質量%/Cu質量%は、好ましくは3.6以上であり、より好ましくは3.8以上であってよい。
【0026】
(板強度)
缶胴成形前におけるボトル缶胴用アルミニウム合金板の板強度は、例えば以下のようにして評価することができる。冷間圧延後のボトル缶胴用アルミニウム合金板を用いて、圧延方向と試験時の引張方向とが平行になるように引張試験片を採取する。採取した引張試験片に対して圧延方向と平行な方向に引張試験を実施して、0.2%耐力を測定し、板強度とした。板強度は、DI缶の缶体強度を確保するため、好ましくは260MPa以上、より好ましくは270MPa以上であってよい。また、板強度は、好ましくは290MPa以下であり、より好ましくは280MPa以下であってよい。
【0027】
(缶壁強度)
缶胴成形後におけるボトル缶胴用アルミニウム合金板の缶壁強度は、例えば以下のようにして評価することができる。DI缶の缶壁において、板の圧延方向とDI缶の缶軸方向が平行となる位置から缶軸方向に引張試験片を採取する。採取した引張試験片に対して引張試験を実施して、0.2%耐力を測定し、缶壁強度とした。缶壁強度は、缶体強度確保の観点から、好ましくは350MPa以上であり、より好ましくは360MPa以上である。また、缶壁強度は、好ましくは380MPa以下であり、より好ましくは370MPa以下である。
【0028】
(缶壁強度-板強度)
缶胴成形後の缶壁強度から、缶胴成形前の板強度を差し引いた値(缶壁強度-板強度)は、小さいほど加工硬化しにくいことを示す。(缶壁強度-板強度)の値は97MPa以下であり、好ましくは95MPa以下であってよい。(缶壁強度-板強度)の値を所定値以下にすることで、しごき加工時の変形抵抗を低減させ、DI缶の偏肉の発生を抑制することができる。また、(缶壁強度-板強度)の値は、好ましくは85MPa以上であり、より好ましくは90MPa以上であってよい。
【0029】
(製造方法)
ボトル缶胴用アルミニウム合金板の製造方法の一例について説明する。ボトル缶胴用アルミニウム合金板の製造方法は、第1工程である鋳造工程と、第2工程である均質化熱処理工程と、第3工程である熱間圧延工程と、第4工程である冷間圧延工程と、を含み、これらの工程をこの順に行うものである。
【0030】
(第1工程から第2工程:鋳造工程、均質化熱処理工程)
第1工程は、目的の組成を有する鋳塊を半連続鋳造法にて作製する工程である。第2工程は、第1工程で作製されたアルミニウム合金の鋳塊に均質化熱処理を施す工程である。
【0031】
第1工程では、半連続鋳造法(DC(direct chill)鋳造)によりアルミニウム合金を鋳造して鋳塊を得る。次に、鋳塊表層の不均一な組織となる領域を面削にて除去する工程を実施した後、均質化熱処理を施す第2工程を行う。第2工程では2段均質化熱処理又は2回均質化熱処理を採用してもよい。ここでいう2段均質化熱処理とは、鋳塊を所定の均質化処理温度に所定時間保持して1段目の均質化熱処理を実施した後、室温まで冷却せず、200℃を超える温度までで冷却を止め、その温度に所定時間保持して2段目の均質化熱処理を実施することを意味する。また、2回均質化熱処理とは、鋳塊を所定の均質化処理温度に所定時間保持して1回目の均質化熱処理を実施した後、室温を含む200℃以下の温度までいったん冷却した後、再加熱して所定の均質化処理温度に所定時間保持して2回目の均質化熱処理を実施することを意味する。また、2回均質化熱処理の場合、面削工程は1回目の均質化熱処理の前、もしくは1回目と2回目の均質化熱処理の間で実施することが出来る。2段均質化熱処理の場合は、均質化熱処理実施前に面削を実施する。
【0032】
(第3工程:熱間圧延工程)
第3工程は、第2工程で均質化熱処理を施されたアルミニウム合金の鋳塊を熱間圧延する工程である。熱間圧延により得る熱間圧延板の板厚は、通常、冷間圧延して得られる製品板の板厚から冷間圧延による総圧延率を逆算して設定する。
【0033】
熱間圧延の終了温度である巻き取り温度は、例えば300℃以上370℃以下であり、330℃以上370℃以下が好ましく、340℃以上360℃以下がより好ましい。巻き取り温度が330℃以上であると、加工組織の残留がより抑制され、冷間圧延後のアルミニウム合金板を円筒カップ状に成形した時の45°耳が低くなりティアオフ又は耳切れの発生が抑制される。一方、巻き取り温度が370℃以下であると、熱間圧延板の表面において焼付きと呼ばれる表面欠陥が発生することが抑制され、板表面の性状が良化する。
【0034】
本発明では、アルミニウム合金中に比較的多くCu、Mgを含有させているため、熱間圧延後のコイル冷却時に、固溶強化元素を含む金属間化合物の析出ピークである250℃付近で長時間保持すると、金属間化合物が多く析出してしまい、ボトル缶胴用アルミニウム合金板の板強度の低下を招くことになる。従って、熱間圧延終了直後から約250℃に到達するまでの冷却速度を28℃/hr以上とすることが好ましい。
【0035】
(第4工程:冷間圧延工程)
第4工程は、第3工程で熱間圧延された熱間圧延板を冷間圧延する工程である。第4工程では、熱間圧延板を、焼鈍することなく冷間圧延して、所定の板厚のアルミニウム合金板に仕上げる。冷間圧延は、熱間圧延板が適切な荷重の範囲で製品板の板厚まで圧延されるように、所定の総圧延率となる複数回のパスを設定して行う。なお、パスとは、一対のワークロール間を板が1回通板して圧延されることをいう。
【0036】
冷間圧延の総圧延率は、例えば、80%以上95%以下としてよい。冷間圧延の総圧延率が80%以上であると、ボトル缶胴用アルミニウム合金板の強度が充分に得られ、DI成形及びベーキング後の缶胴の耐圧強度が充分に得られる。冷間圧延の総圧延率は、好ましくは82%以上であってよい。一方、総圧延率が95%以下であると、アルミニウム合金板の強度が過大となることが抑制され、成形性の低下が抑制される。
【0037】
ボトル缶胴用アルミニウム合金板の製造方法においては、冷間圧延後、必要に応じて仕上げ焼鈍を施してもよいが、仕上げ焼鈍を施さないほうが好ましい。なお、以上のボトル缶胴用アルミニウム合金板の製造方法においては、第3工程より後、かつ、第4工程が終了するより前には、DI缶の塗装焼付け処理の到達温度を超える中間焼鈍を行わないものとする。
【実施例】
【0038】
以上、本発明の実施形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
(ボトル缶胴用アルミニウム合金板の作製)
表1に示す組成からなるアルミニウム合金(No.1からNo.3)を半連続鋳造法にて鋳造し、第1工程及び第2工程として示した方法で面削、均質化熱処理を行い、冷却すること無く、熱間圧延を行った。熱間圧延の終了温度を巻取り温度として330℃以上とした。No.1及びNo.2については熱間圧延終了後から約250℃となるまでの冷却速度を表1に示す条件とした。そして、得られた熱間圧延板を、中間焼鈍を施すこと無く、冷間圧延して0.37mmの冷間圧延板を得た。なお、No.1が実施例に相当し、No.2及びNo.3は比較例に相当する。
【0040】
(板強度)
冷間圧延板より、圧延方向と平行な方向にJIS5号試験片を採取して、引張試験を行い、0.2%耐力を測定した結果を板強度とした。
【0041】
(DI缶の作製)
冷間圧延板を用いて、DI缶を作製した。作製方法として、まず冷間圧延板から直径140mmのブランクを打ち抜き、このブランクを絞り成形して、直径90mmのカップを作製した。得られたカップに対し、汎用のアルミ缶胴成形機にて再絞り加工を施し、更にしごき加工として前記各缶体にしごきを3回施し、最終しごき率を39.9%として、最薄肉部の厚さが140μm、胴径がφ66mmのDI缶を作製した。
【0042】
(缶壁強度)
作製したDI缶の缶壁の最薄肉部より、冷間圧延板の圧延方向と缶軸方向とが平行となる位置からJIS13号B試験片形状をベースに標点距離を25mmに短くした引張試験片を採取した。採取した引張試験片に対して引張試験を実施して、0.2%耐力を測定し、缶壁強度とした。この缶壁強度と上記板強度の差(缶壁強度-板強度)の値を算出し、(缶壁強度-板強度)の値が97MPa以下のものを合格とした。
【0043】
<しごき加工時の偏肉量の評価>
作製したDI缶の側壁厚分布を缶底から14mmとなる高さ位置から開口端となる高さ位置(今回は125mm)にかけて1mmピッチで缶周方向に45°間隔で測定し、偏肉量((180°対称位置の側壁厚の差の最大値)/2)を算出した。測定結果を
図1に示す。各高さ位置で算出した偏肉量を全高さ位置で平均した値(偏肉量平均値)が1.5μm以下のものをA、2.5μm以下のものをB、2.5μmを超えたものをCとした。結果を表1に示す。
【0044】
【0045】
表1に示すように、板厚が0.30mm以上0.38mm以下であっても、組成及び(缶壁強度-板強度)が本発明の範囲であるNo.1が、偏肉量が小さく優れていた。