(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】トラス梁
(51)【国際特許分類】
E04C 3/04 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
E04C3/04
(21)【出願番号】P 2020025055
(22)【出願日】2020-02-18
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江頭 寛
(72)【発明者】
【氏名】川島 学
(72)【発明者】
【氏名】大圖 友梨子
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-300681(JP,A)
【文献】特開平03-199581(JP,A)
【文献】特開2019-210781(JP,A)
【文献】特開2009-114701(JP,A)
【文献】特表2002-531731(JP,A)
【文献】特開2006-183324(JP,A)
【文献】特開平07-300900(JP,A)
【文献】特開2007-262716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00-1/36
E04C 3/00-3/46
E04H 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物において1対の柱間に掛け渡され、上弦材と、下弦材と、両端部において前記上弦材及び前記下弦材に接合する複数の斜材と、鉛直方向に延在して両端部において前記上弦材及び前記下弦材に接合する少なくとも1本の束材とを備えるトラス梁であって、
前記下弦材は、長尺材を有する本体部と、前記本体部と同軸に配置され前記本体部の少なくとも一方の端部に接合し、少なくとも所定の規模以上の地震時に前記下弦材に沿った方向への単位長さ当たりの変形が前記本体部よりも大きい変形許容部材とを含み、
前記複数の斜材は、前記トラス梁の延在方向の中央に向かうにつれて下方に向かうように傾斜した複数の第1斜材を含み、前記複数の第1斜材は、前記複数の第1斜材の中で前記延在方向における最も端部に配置された端部第1斜材と、前記端部第1斜材よりも前記延在方向の中央側に配置された中間部第1斜材とを含み、
前記トラス梁の少なくとも一方の端部において、前記変形許容部材は、前記端部第1斜材の下端部が前記下弦材に接合する第2接合部と前記柱との間に配置され、前記少なくとも1本の束材は、前記第2接合部に接合する端部束材を含
み、
前記斜材は、前記延在方向の中央に向かうにつれて上方に向かうように傾いた複数の第2斜材を更に含み、前記複数の第2斜材は、前記端部束材よりも前記延在方向の中央側に配置された中間部第2斜材を含み、
前記上弦材及び前記下弦材は互いに平行に配置され、前記端部束材から前記延在方向の中央までの範囲において前記中間部第1斜材及び前記中間部第2斜材は交互に配置され、前記中間部第1斜材の長さと前記中間部第2斜材の長さとは互いに等しく、
前記延在方向の長さおいて、前記トラス梁の前記少なくとも一方の端部における前記端部第1斜材は、前記中間部第1斜材よりも長いことを特徴とするトラス梁。
【請求項2】
前記トラス梁の前記少なくとも一方の端部において、前記端部第1斜材の上端部が前記上弦材に接合する第1接合部は少なくとも
前記所定の規模以上の地震時にピン接合とみなせることを特徴とする請求項1に記載のトラス梁。
【請求項3】
前記トラス梁の前記少なくとも一方の端部において、前記上弦材は、前記第1接合部において前記柱に接合していることを特徴とする請求項
2に記載のトラス梁。
【請求項4】
建物において1対の柱間に掛け渡され、上弦材と、下弦材と、両端部において前記上弦材及び前記下弦材に接合する複数の斜材と、鉛直方向に延在して両端部において前記上弦材及び前記下弦材に接合する少なくとも1本の束材とを備えるトラス梁であって、
前記下弦材は、長尺材を有する本体部と、前記本体部と同軸に配置され前記本体部の少なくとも一方の端部に接合し、少なくとも所定の規模以上の地震時に前記下弦材に沿った方向への単位長さ当たりの変形が前記本体部よりも大きい変形許容部材とを含み、
前記複数の斜材は、前記トラス梁の延在方向の中央に向かうにつれて下方に向かうように傾斜した複数の第1斜材を含み、前記複数の第1斜材は、前記複数の第1斜材の中で前記延在方向における最も端部に配置された端部第1斜材と、前記端部第1斜材よりも前記延在方向の中央側に配置された中間部第1斜材とを含み、
前記トラス梁の少なくとも一方の端部において、前記変形許容部材は、前記端部第1斜材の下端部が前記下弦材に接合する第2接合部と前記柱との間に配置され、前記少なくとも1本の束材は、前記第2接合部に接合する端部束材を含み、
前記トラス梁の前記少なくとも一方の端部において、前記端部第1斜材の上端部が前記上弦材に接合する第1接合部は少なくとも前記所定の規模以上の地震時にピン接合とみなせ、
前記トラス梁の前記少なくとも一方の端部において、前記上弦材は、前記第1接合部において前記柱に接合しており、
正面視で、第1辺部、第2辺部及び第3辺部を有する三角形状のパネル材を更に備え、
前記第1辺部は前記上弦材の端部を構成し又は前記上弦材の端部に当接し、前記第2辺部は前記端部第1斜材を構成し、前記第3辺部は前記端部束材を構成することを特徴とするトラス梁。
【請求項5】
建物において1対の柱間に掛け渡され、上弦材と、下弦材と、両端部において前記上弦材及び前記下弦材に接合する複数の斜材と、鉛直方向に延在して両端部において前記上弦材及び前記下弦材に接合する少なくとも1本の束材とを備えるトラス梁であって、
前記下弦材は、長尺材を有する本体部と、前記本体部と同軸に配置され前記本体部の少なくとも一方の端部に接合し、少なくとも所定の規模以上の地震時に前記下弦材に沿った方向への単位長さ当たりの変形が前記本体部よりも大きい変形許容部材とを含み、
前記複数の斜材は、前記トラス梁の延在方向の中央に向かうにつれて下方に向かうように傾斜した複数の第1斜材を含み、前記複数の第1斜材は、前記複数の第1斜材の中で前記延在方向における最も端部に配置された端部第1斜材と、前記端部第1斜材よりも前記延在方向の中央側に配置された中間部第1斜材とを含み、
前記トラス梁の少なくとも一方の端部において、前記変形許容部材は、前記端部第1斜材の下端部が前記下弦材に接合する第2接合部と前記柱との間に配置され、前記少なくとも1本の束材は、前記第2接合部に接合する端部束材を含み、
前記斜材は、前記延在方向の中央に向かうにつれて上方に向かうように傾いた複数の第2斜材を更に含み、前記複数の第2斜材は、前記端部束材よりも前記延在方向の中央側に配置された中間部第2斜材を含み、
前記トラス梁の前記少なくとも一方の端部において、前記端部第1斜材の上端部が前記上弦材に接合する第1接合部は少なくとも前記所定の規模以上の地震時にピン接合とみなせ、
前記トラス梁の前記少なくとも一方の端部において、前記複数の第2斜材は、上端部において前記第1接合部に接合し、下端部において前記下弦材及び前記柱に接合する端部第2斜材を含むことを特徴とするトラス梁。
【請求項6】
前記延在方向において、前記柱から前記端部束材までの距離は、下端部において互いに接合するように隣接する前記中間部第1斜材及び前記中間部第2斜材の前記上弦材への接合部間の距離に略等しいことを特徴とする請求項
2、3又は5に記載のトラス梁。
【請求項7】
前記第1接合部は、剛接合又は半剛接合を含み、前記所定の規模以上の地震時に塑性ヒンジを構成することを特徴とする請求項
2~6の何れか一項に記載のトラス梁。
【請求項8】
前記第1接合部はピン接合を含
み、前記第1接合部以外の、前記第1斜材又は前記第2斜材と、前記上弦材又は前記下弦材との接合部は、ガセットプレートを介した締結具による接合であることを特徴とする請求項
3に記載のトラス梁。
【請求項9】
前記変形許容部材は、所定の荷重を受けたときに前記本体部よりも先に塑性化するとともに座屈が拘束された部材を含む座屈拘束部材であることを特徴とする請求項1
~8の何れか一項に記載のトラス梁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、地震時の変形能力が高いトラス梁に関する。
【背景技術】
【0002】
トラス梁は、弦材及び斜材の個材で構成され、弾性域では個々の部材に生じる軸力で抵抗する部材であり、個材として束材を含むこともあり、一般的に弦材は直線や曲線状、斜材及び束材は直線状に延在することが多い。トラス梁は、建物において1対の柱間に掛け渡される大梁として使用され、上弦材の中間部に小梁を接合することもある。
【0003】
鉄骨部材の変形能力は、主に個材の幅厚比によって構造特性係数(以下、「Ds値」と記す)が決まり、Ds値はH形鋼などの単材の充腹材部材に適用されている。変形性能が大きいほどDs値は小さな値となり、設計用の地震力が小さくなる。しかし、Ds値はトラス梁の個材の幅厚比には適用できず、トラス梁自体の部材種別が存在しないため、現時点では特別な検討をしない限り、トラス梁の設計にはDs値を大きく定めることが慣例である。従って、トラス梁を設ける場合には、変形性能に乏しい「建物」として、地震力を大きく(Ds値を大きく)して設計する必要があり、トラス梁だけでなく、その他の柱・梁も含めて、不経済な設計になっていた。
【0004】
非特許文献1には、ラーメン骨組に組み込まれた平面トラス部材において、塑性化する部材を座屈拘束部材や、安定した履歴特性を有する部材に交換することにより、トラス架構全体に安定された履歴特性を与える設計が可能で、個材座屈の影響を考慮せず、充腹材(H形鋼等)と同様に架構を扱うことが可能になると記されている。
【0005】
例えば特許文献1に、座屈拘束部材が記載されている。この座屈拘束部材は、建物の柱と梁の軸組構造に斜めに配置される制振ブレースとして使用されるものであり、鋼管と、両端部が突出するように鋼管に挿通された鋼製の芯材と、芯材に付着しないように鋼管内に充填された充填材とを有する。鋼管及び充填材によって塑性化する芯材の座屈が拘束されている。また、特許文献2には、下弦材において、柱と柱に最も近い斜材が接合する部分との間に制振手段を設けたトラス梁が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-146773号公報
【文献】特開2006-183324号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】日本建築学会著「鋼構造座屈設計指針」日本建築学会、2009年11月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
柱と下弦材における柱に最も近い斜材が接合する部分との間は、その距離が短いため、特許文献1に記載の座屈拘束部材のような部材を配置することができなかった。下弦材において地震時に最も大きな力が作用する部分は端部であるため、このような部分に座屈拘束部材を配置したい場合がある。単に柱と柱に最も近い接合部との間に座屈拘束部材を設けると、座屈拘束部材の変形長さが短くなり、また、柱と柱に最も近い接合部との間を拡げて座屈拘束部材を組み込むとトラス梁の強度が不足する恐れがあった。
【0009】
このような問題に鑑み、本発明は、地震時の変形能力が高く、地震時に弦材や斜材に応力が集中することが抑制され、十分な強度を有するトラス梁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある実施形態は、建物において1対の柱(6)間に掛け渡され、上弦材(2)と、下弦材(3)と、両端部において前記上弦材及び前記下弦材に接合する複数の斜材(4)と、鉛直方向に延在して両端部において前記上弦材及び前記下弦材に接合する少なくとも1本の束材(5)とを備えるトラス梁(1,31,41,51,61,71,81,91)であって、前記下弦材(3)は、長尺材を有する本体部(7)と、前記本体部(7)と同軸に配置され前記本体部(7)の少なくとも一方の端部に接合し、少なくとも所定の規模以上の地震時に前記下弦材(3)に沿った方向への単位長さ当たりの変形が前記本体部よりも大きい変形許容部材(8)とを含み、前記複数の斜材は、前記トラス梁の延在方向の中央に向かうにつれて下方に向かうように傾斜した複数の第1斜材(9)を含み、前記複数の第1斜材(9)は、前記複数の第1斜材(9)の中で前記延在方向における最も端部に配置された端部第1斜材(9a)と、前記端部第1斜材(9a)よりも前記延在方向の中央側に配置された中間部第1斜材(9b)とを含み、前記トラス梁(1,31,41,51,61,71,81,91)の少なくとも一方の端部において、前記変形許容部材(8)は、前記端部第1斜材(9a)の下端部が前記下弦材(3)に接合する第2接合部(12)と前記柱(6)との間に配置され、前記少なくとも1本の束材(5,52)は、前記第2接合部に接合する端部束材(5)を含むことを特徴とする。前記トラス梁(1,31,41,51,61,71,81,91)の前記少なくとも一方の端部において、前記端部第1斜材(9a)の上端部が前記上弦材(2)に接合する第1接合部(11,11a,11b,32)は少なくとも所定の規模以上の地震時にピン接合とみなせることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、端部束材が存在するため、端部第1斜材を中間部第1斜材よりも長くしても強度の低下を補うことができ、比較的長い変形許容部材をトラス梁の端部に配置することができる。また、地震時に変形許容部材が伸縮しても、第1接合部が地震時にピン接合とみなせる構造のため、第1接合部の周辺に応力が集中することが抑制される。これらのため、地震時の変形能力が高いトラス梁であって、地震時に弦材や斜材に応力が集中することが抑制され、十分な強度を有するトラス梁を提供することができる。
【0012】
本発明のある実施形態に係るトラス梁(1,31,41,51,61,71,81,91)は、上記構成において、前記変形許容部材(8)は、所定の軸力を受けたときに前記本体部よりも先に塑性化するとともに座屈が拘束された部材を含む座屈拘束部材(8)であることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、地震時に大きな軸力を受ける弦材,斜材等の各個材の座屈が防止される。
【0014】
本発明のある実施形態に係るトラス梁(1,31,41,61)は、上記構成の何れかにおいて、前記斜材(4)は、前記延在方向の中央に向かうにつれて上方に向かうように傾いた複数の第2斜材(10)を更に含み、前記複数の第2斜材(10)は、前記端部束材(5)よりも前記延在方向の中央側に配置された中間部第2斜材(10b)を含み、前記中間部第1斜材(9a)及び前記中間部第2斜材(10b)は、ワーレントラス形状に配置され、前記延在方向の長さおいて、前記トラス梁(1,31,41,61)の前記少なくとも一方の端部における前記端部第1斜材は、前記中間部第1斜材よりも長いことを特徴とする。
【0015】
一般的なワーレントラス形状であれば、柱から最も柱に近接する斜材が下弦材に接合する部分までの長さは、斜材と下弦材の接合部間の長さの半分であるところ、この構成によれば、束材によって強度の低下を補うことにより、柱から第1接合部までの長さを長くし、変形許容部材を下弦材の端部に設置できる。
【0016】
本発明のある実施形態に係るトラス梁(1,41,61)は、上記構成において、前記トラス梁(1,41,61)の前記少なくとも一方の端部において、前記上弦材(2)は、前記第1接合部(11,11a,11b)において前記柱(6)に接合していることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、一般的なワーレントラス形状と同等の個材数でトラス梁を構築することができる。
【0018】
本発明のある実施形態に係るトラス梁(61)は、上記構成において、正面視で、第1辺部(62a)、第2辺部(62b)及び第3辺部(62c)を有する三角形状のパネル材(62)を更に備え、前記第1辺部(62a)は前記上弦材(2)の端部を構成し又は前記上弦材(2)の端部に当接し、前記第2辺部(62b)は前記端部第1斜材(9a)を構成し、前記第3辺部(62c)は前記端部束材(5)を構成することを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、パネル材によって代替された個材間の接合が不要となる。
【0020】
本発明のある実施形態に係るトラス梁(31)は、上記第3の構成において、前記トラス梁(31)の前記少なくとも一方の端部において、前記複数の第2斜材(10)は、上端部において前記第1接合部(32)に接合し、下端部において前記下弦材(3)及び前記柱(6)に接合する端部第2斜材(10a)を含むことを特徴とする。
【0021】
この構成よれば、端部第2斜材と端部第1斜材の下方が変形許容部材を設置するべきスペースとなり、このスペースを長くすることが可能であり、比較的長い変形許容部材をこのスペースに設置することができる。
【0022】
本発明のある実施形態に係るトラス梁(11,61)は、上記の中間部第1斜材(9b)及び中間部第2斜材(10b)を含む構成において、前記延在方向において、前記柱(6)から前記端部束材(5)までの距離は、下端部において互いに接合するように隣接する前記中間部第1斜材(9b)及び前記中間部第2斜材(10b)の前記上弦材(2)への接合部間(互いに隣り合う第3接合部13及び第5接合部15間、又は、互いに隣り合う第5接合部15間)の距離に略等しいことを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、上弦材と斜材又は束材との接合部が等間隔となるため、これらの接合部に接合される小梁を等間隔に配置することができる。
【0024】
本発明のある実施形態に係るトラス梁(1,31,41,51,61,71,81,91)は、上記構成の何れかにおいて、前記第1接合部(11,11a,32)は、剛接合又は半剛接合を含み、前記所定の規模以上の地震時に塑性ヒンジを構成することを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、第1接合部が塑性ヒンジを構成することにより、地震時に第1接合部周辺に曲げ応力が集中すること防止でき、終局時の設計が容易になる。
【0026】
本発明のある実施形態に係るトラス梁(1,31,41,51,61,71,81,91)は、上記構成の何れかにおいて、前記第1接合部(11b)はピン接合を含むことを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、第1接合部がピン接合であるため、地震時に第1接合部周辺に曲げ応力が集中すること防止でき、地震時の損傷を抑制することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、地震時の変形能力が高く、地震時に弦材や斜材に応力が集中することが抑制され、十分な強度を有するトラス梁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】第1実施形態に係るトラス梁を示す模式的な正面図
【
図2】第1実施形態に係るトラス梁の一部を示す正面図
【
図3】第1実施形態に係るトラス梁の端部を示す正面図
【
図4】第1実施形態に係るトラス梁の端部の第1変形例を示す正面図
【
図5】第1実施形態に係るトラス梁の端部の第2変形例を示す正面図
【
図6】第1実施形態に係るトラス梁における座屈拘束部材と柱との接合部を示す正面図
【
図7】第1実施形態に係るトラス梁の構築方法を示す説明図
【
図8】第1実施形態に係るトラス梁の地震時における第1実施形態に係るトラス梁を示す説明図
【
図9】第2実施形態に係るトラス梁の一部を示す正面図
【
図10】第2実施形態に係るトラス梁の第1接合部を示す正面図
【
図11】第3及び第4実施形態に係るトラス梁を示す模式的な正面図(A:第3実施形態、B:第4実施形態)
【
図12】第5~第8実施形態に係るトラス梁を示す模式的な正面図(A:第5実施形態、B:第6実施形態、C:第7実施形態、D:第8実施形態)
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0031】
図1及び
図2は、第1実施形態に係るトラス梁1を示す。トラス梁1は、上弦材2と、上弦材2の下方に配置された下弦材3と、両端部がそれぞれ上弦材2及び下弦材3に接合された複数の斜材4と、両端部がそれぞれ上弦材2及び下弦材3に接合された2つの端部束材5を備え、両端部において柱6に支持されている。トラス梁1は、正面視で概ね左右対称形をなすため、両端部の一方を例に説明するが、他方の端部も同様の構成を有する。
【0032】
上弦材2及び下弦材3は、概ね水平方向に沿って互いに平行に配置されている。第1実施形態の上弦材2及び下弦材3は、直線状の部材であるが、曲線状の部材でもよい。上弦材2は、複数のH形鋼等の長尺材を連結することによって形成される。下弦材3は、複数のH形鋼等の長尺材を連結することによって形成された本体部7と、本体部7と同軸に本体部7の両端部に接合された座屈拘束部材8等の変形許容部材とを含む。上弦材2及び下弦材3は、両端部において柱6に接合されている。上弦材2の全体及び下弦材3の本体部7に用いられるH形鋼は、1対のフランジが上下方向に対向し、ウェブが鉛直面に沿うように配置される。上弦材2及び下弦材3の本体部7は、それぞれ、複数の長尺材に代えて1本のH形鋼等の長尺材によって構成されてもよい。
【0033】
複数の斜材4は、2つの端部束材5間において、トラス梁1の延在方向の一端側から他端側に向かうにつれ、斜め下方に向かうものと斜め上方に向かうものとが交互に配置される。トラス梁1の一方の端部から延在方向の中央までの範囲に着目すると、複数の斜材4は、トラス梁1の延在方向の中央に向かうにつれて下方に向かうように傾斜した複数の第1斜材9と、延在方向の中央に向かうにつれて上方に向かうように傾いた複数の第2斜材10とを含む。第1斜材9は、両端部のそれぞれにおいて複数の第1斜材9の中で最も端部に配置された端部第1斜材9aと、端部第1斜材9a及び端部束材5よりも延在方向の中央側に配置された複数の中間部第1斜材9bとを含む。端部第1斜材9aは、中間部第1斜材9bよりも長い。
【0034】
端部第1斜材9aは、上端部において上弦材2及び柱6に接合し(第1接合部11)、下端部において下弦材3及び端部束材5に接合している(第2接合部12)。端部束材5は、鉛直方向に延在し上端部において上弦材2及び1本の中間部第1斜材9bの上端部に接合している(第3接合部13)。第1実施形態における全ての第2斜材10は、端部束材5よりも中央側に配置された中間部第2斜材10bに相当し、端部束材5からトラス梁1の延在方向の中央までは、中間部第1斜材9bと中間部第2斜材10bが交互に配置され、中間部第1斜材9bの下端部及び中間部第2斜材10bの下端部が下弦材3に接合する第4接合部14と、中間部第2斜材10bの上端部及び中間部第1斜材9bの上端部が上弦材2に接合する第5接合部15とが交互に現れる。
【0035】
各々の斜材4及び端部束材5は、互いに平行に配置された1対の溝形鋼等の鋼製の長尺材からなる。中間部第1斜材9bと中間部第2斜材10bの長さは互いに等しく、これらの上弦材2及び下弦材3に対する角度は互いに略等しいことが好ましい。柱6から端部束材5までの距離は、第3接合部13から第3接合部13に隣接する第5接合部15までの距離、並びに、互いに隣り合う第5接合部15同士の距離に等しいことが好ましい。
【0036】
柱6は、鉛直方向に延在する柱本体6aと、柱本体6aから下弦材3に向かって突出する下部突出部6bとを含む。柱本体6aは、H形鋼等の鋼材によって構成されるが、他の素材、例えば、鉄筋コンクリートによって構成されてもよい。下部突出部6bは、下弦材3と同軸に配置されて柱本体6aに剛接合されている。下部突出部6bは、H形鋼や断面視で十字型となる鋼材等によって構成される(詳細は後述)。下部突出部6bがH形鋼を含む場合、このH形鋼は、下弦材3の本体部7を構成するH形鋼と同様に、1対のフランジが上下方向に対向し、ウェブが鉛直面に沿うように配置される。
【0037】
座屈拘束部材8は、一端側において本体部7に接合されて他端側において下部突出部6bに接合される芯材16と、両端部のそれぞれから芯材16の端部が突出するように芯材16を挿通させる筒状体17と、芯材16に付着しないように筒状体17に充填されたグラウト等の充填材(図示せず)とを含む。芯材16は、所定の荷重を受けたときに本体部7よりも先に塑性化する部材であり、延在方向に直交する断面形状が十字になるように、鋼板の両表面に直角に他の鋼板を溶接した鋼材からなる。筒状体17は、角形や円形の鋼管からなり、充填材と協働して芯材16の座屈を拘束する。地震時に芯材16が座屈せずに伸縮することにより、芯材16にエネルギーが吸収され、トラス梁1の他の部材への負荷が軽減される。なお、変形許容部材は、少なくとも所定の規模以上の地震時に下弦材3の延在方向への単位長さ当たりの変形が本体部7よりも大きい部材である。座屈拘束部材8以外の変形許容部材の例として制振ダンパーが挙げられる。
【0038】
上弦材2を構成するH形鋼同士の接合及び下弦材3の本体部7を構成するH形鋼同士の接合である弦材接合部18は、剛接合である。ある弦材接合部18は、互いに接合されるH形鋼の端部のウェブ及びフランジのそれぞれの表面を跨ぐようにスプライスプレート19を添え、ウェブ及びフランジのそれぞれと、これに添えられたスプライスプレート19とを高力ボルト等の締結具20で締結することによって構成される。
【0039】
図3に示すように、第1接合部11では、端部第1斜材9aの上端部がガセットプレート21を介して上弦材2及び柱6に接合している。ガセットプレート21は、上弦材2及び柱6に溶接されており、端部第1斜材9aの上端部が高力ボルト等の締結具20によってガセットプレート21に締結されている。第1接合部11は、剛接合であるが、所定の規模以上の地震時には塑性変形して塑性ヒンジを形成してピン接合とみなせる。
【0040】
図4は、第1変形例に係る第1接合部11aを示す。柱6は、上弦材2と同軸に上弦材2に向かって突出する上部突出部6cを含む。上部突出部6cは、H形鋼等の鋼材によって構成され、柱本体6aに剛接合している。上部突出部6cを構成するH形鋼は、上弦材2を構成するH形鋼と同様に、1対のフランジが上下方向に対向し、ウェブが鉛直面に沿うように配置される。上弦材2の端部と上部突出部6cとは、これらのウェブの表面を跨ぐようにシアプレート22を添え、ウェブとシアプレート22とを高力ボルト等の締結具20で締結することによって接合される。上弦材2の端部のフランジの下面にはガセットプレート21が溶接されている。端部第1斜材9aの上端部が、高力ボルト等の締結具20により、このガセットプレート21に締結されている。第1接合部11aは、半剛接合であるが、所定の規模以上の地震時には塑性変形して塑性ヒンジを形成してピン接合とみなせる。
【0041】
図5は、第2変形例に係る第1接合部11bを示す。上弦材2の端部のフランジの下面にはガセットプレート21が溶接されている。端部第1斜材9aの上端部が、高力ボルト等の締結具20により、このガセットプレート21に締結されている。互いに接合された上弦材2の端部及び端部第1斜材9aの上端部は、クレビス23を介して柱6に接合している。クレビス23は、ピン接合部を挟んで一方の部材が柱6に固定され、他方の部材が上弦材2の端部及びこの端部に固定されたガセットプレート21に固定されている。
【0042】
図2及び
図3に示す第2~第5接合部12~15では、それぞれ、端部第1斜材9aの下端部及び端部束材5の下端部、端部束材5の上端部及び中間部第1斜材9bの上端部、中間部第1斜材9bの下端部及び中間部第2斜材10bの下端部、並びに、中間部第2斜材10bの上端部及び中間部第1斜材9bの上端部が、上弦材2又は下弦材3に溶接されたガセットプレート21に高力ボルト等の締結具20によって締結されている。第2~第5接合部12~15は、剛接合であるが、設計上はピン結合とみなせるように構成されてもよい。
【0043】
第1~第5接合部11~15において、ガセットプレート21は、トラス梁1の構面と並行に配置される。1本の斜材4及び1本の端部束材5、又は、2本の斜材4が接合する第2~第5接合部12~15において、ガセットプレート21には、2本の接合する部材の間に、トラス梁1の延在方向に直交するようにリブ28が溶接等により固定されていることが好ましい。上弦材2及び下弦材3にも、上下方向においてガセットプレート21のリブ28に整合する位置にリブ28が溶接等により固定されていることが好ましい。
【0044】
図6は、座屈拘束部材8の端部と柱6の下部突出部6bとの接合である第6接合部24を示す。なお、下弦材3の本体部7(
図3参照)の端部の構造は、下部突出部6bにおける座屈拘束部材8に接合する部分の構造と同一であり、座屈拘束部材8の他の端部と下弦材3の本体部7(
図3参照)の端部との接合も、
図6に示す接合構造と同様の第6接合部24をなす。第6接合部24は、通常時は剛接合又は半剛接合とみなせるが、所定以上の規模の地震時にはピン接合とみなせる接合構造である。H形鋼によって構成されている下部突出部6bの突出端部(座屈拘束部材8の他の端部の接合においては、「下部突出部6b」を「本体部7」と読み替え、「突出端部」を「端部」と読み替える。以下、第6接合部24に関する説明において同じ)には、座屈拘束部材8の芯材16の十字の断面形状に対応するように、ウェブの両表面に鋼板25が溶接され、H形鋼に鋼板25を合わせた形状が断面視で「王」字形状となっている。十字状の断面を有する芯材16の表面と、下部突出部6bの突出端部のウェブ及び鋼板25の表面とには、両者を跨ぐように鋼製の接合プレート26が添えられ、締結具20によって締結されている。下部突出部6bの突出端部のウェブと、これに連結される芯材16の鋼材の厚さが相違する場合はフィラープレート(図示せず)が用いられる。芯材16及び下部突出部6bの突出端部、並びに接合プレート26の通し穴(図示せず)の直径は、締結具20を構成するボルトの軸部の直径よりも大きい。このため、通し穴と軸部との間には遊びが生じている。通常時は、締結具20、接合プレート26、並びに、下部突出部6bの突出端部及び芯材16の間の摩擦力によって剛接合又は半剛接合状態が維持される。所定以上の規模の地震時には、締結具20を構成するボルトの頭部及びナットと接合プレート26との間、又は接合プレート26と下部突出部6bの突出端部との間にすべりが生じる。この時、通し穴とボルトの軸部との間に遊びがあるため、下部突出部6bと座屈拘束部材8とは、トラス梁1(
図1参照)の構面に直交する方向を軸に相対的に所定の範囲で回転可能となる。所望の回転範囲に応じて、遊びの大きさは決定される。通し穴を長孔としてもよい。このように、第6接合部24は、通常時は剛接合又は半剛接合とみなせ、所定以上の規模の地震時にはピン接合とみなせる。
【0045】
また、芯材16から鋼板25に伝わった軸力を受けるように、鋼板25における接合プレート26が接合していない部分に他の鋼板27が溶接されている。他の鋼板27は、トラス梁1の延在方向に直交するように配置され、端縁が下部突出部6bのフランジ及びウェブに溶接されている。他の鋼板27によって、芯材16から下部突出部6bに伝わる軸力が、下部突出部6bのウェブだけでなくフランジに伝わりやすくなり、また、下部突出部6bのフランジで伝達されていた軸力が芯材16に伝わりやすくなる。なお、他の鋼板27は、芯材16から離間するにつれて上下のフランジに近づくように、正面視でV字形状に変更してもよい。
【0046】
なお、下部突出部6bは、下弦材3の延在方向に直交する断面において、座屈拘束部材8の芯材16の十字形状に対応する形状を含んでいればよい。例えば、下部突出部6bは、上記の構造においてH形鋼の上下のフランジがなく、断面視で実質的に十字形状のみとなる構造であってもよい。この場合、上記の構造におけるウェブに相当する鋼材の上下方向幅は、柱本体6aに近づくほど拡がっていることが好ましい。
【0047】
図3に示すように、下弦材3の本体部7における座屈拘束部材8に接合する部分は、H形鋼のウェブの上下方向高さが中央側の部分7aよりも拡幅された拡幅部7bとなっていること、もしくは座屈拘束部材8の芯材16の十字形状に対応する形状を含んでいることが好ましい。拡幅部7bと中央側の部分7aとの境界は、端部束材5の下端部と端部第1斜材9aの下端部との間に配置され、この境界にリブ28が設けられている。中央側の部分7aにおける拡幅部7bに隣接する部分のウェブには、断面形状の変化による強度の低下を補うため、補強板29が溶接等により固定されている。
【0048】
図7は、トラス梁1の構築手順を示す。座屈拘束部材8以外の部材を構築した後に、座屈拘束部材8を柱6の下突出と下弦材3の本体部7とに接合する。このように座屈拘束部材8を後から接合することにより、通常時に座屈拘束部材8に軸力が作用することを防止して、地震時の耐力が低下することを防止できる。地震後の損傷が大きい場合は交換もできる。
【0049】
トラス梁1の作用効果について説明する。端部第1斜材9aを中間部第1斜材9b及び中間部第2斜材10bよりも長くしたため、柱6と第2接合部12との間が、一般的なワーレントラス形状よりも広くなる。このため、全長が長く十分な変形量を有する座屈拘束部材8を、地震時に最も大きな軸力が作用する下弦材3の端部に設置することができる。
【0050】
端部第1斜材9aに接合する端部束材5を設けることにより、端部第1斜材9aを中間部第1斜材9bよりも長くしたことによる強度の低下を補うことができる。
【0051】
第1接合部11,11a,11bは、少なくとも地震時にピン接合とみなせる構造であるのため、地震時に座屈拘束部材8が伸縮すると第1接合部11,11a,11bが回転する(
図8参照)。このため、終局時の設計が容易であり、地震時に第1接合部11,11a,11bの周囲に曲げ応力が集中することが防止できる。また、座屈拘束部材8の柱6及び下弦材3の本体部7への接合も、地震時にピン接合とみなせる構造であるため、同様に、地震時にその周囲に曲げ応力が集中することを防止できる。第1接合部11,11aは、比較的安価な部材によって構築でき、第1接合部11bは、クレビス23によるピン接合構造であるため、地震時の第1接合部11bの損傷が抑制される。
【0052】
第1実施形態に係るトラス梁1と一般的なワーレントラス形状とを比較すると、第1実施形態に係るトラス梁1の端部第1斜材9a及び端部束材5が、それぞれ、ワーレントラス形状の最も端部に配置された斜材及び2番目に配置された斜材に対応する。すなわち、両者の個材数は同じであり、トラス梁1のコストの増加が抑制される。
【0053】
トラス梁1は大梁として使用され、上弦材2における斜材4及び/又は端部束材5の接合部(第3接合部13及び第5接合部15)には小梁が接合されてもよい。この場合、柱6から端部束材5までの距離が、第3接合部13から第3接合部13に隣接する第5接合部15までの距離、並びに、互いに隣り合う第5接合部15同士の距離に等しいため、1対の柱6間において小梁を等間隔に設置できる。
【0054】
図9は、第2実施形態に係るトラス梁31を示す。第2~8実施形態の説明に当たって、説明済みの実施形態と共通又は類似する構成は、同一の符号を付し、相違点のみ説明する。
【0055】
第2実施形態に係るトラス梁31において、第2斜材10は、柱6と端部第1斜材9aとの間に配置された端部第2斜材10aと、端部第1斜材9a及び端部束材5よりもトラス梁1の延在方向における中央側に配置された中間部第2斜材10bとを含む。上弦材2は、両端部において柱6に剛接合している。
【0056】
端部第2斜材10aは、下端部においてガセットプレート21を介して柱6に接合している。ガセットプレート21は、柱本体6a及び下部突出部6bに溶接等により固定されている。
図10は、端部第2斜材10aの上端部と、端部第1斜材9aの上端部と、上弦材2との互いの接合である第1接合部32を示す。端部第2斜材10a及び端部第1斜材9aの下方に座屈拘束部材8が配置されている。
【0057】
上弦材2は、複数のH形鋼等の長尺材が接合された構造をなすが、第1接合部32で2つの長尺材が接合されている。これらの2つの長尺材の接合は、通常時は剛接合又は半剛接合とみなせるが、所定以上の規模の地震時にはピン接合とみなせる構造をなす。
【0058】
図10に示すように、第1接合部32において接合されたH形鋼からなる長尺材同士は、ウェブの両表面に添えられたシアプレート22を介して、高力ボルト等の締結具20によって締結されるが、フランジ同士は接合されていない。また、第1接合部32において、端部第2斜材10aの上端部及び端部第1斜材9aの上端部は、それぞれ対応する長尺材の端部にガセットプレート21を介して接合している。ガセットプレート21は、長尺材の端部の下面に溶接等により固定されている。2つのガセットプレート21の互いに近接する側の縁部のそれぞれには、トラス梁1の延在方向に直交するリブ28が溶接等により固定されていることが好ましい。
【0059】
第1接合部32では、上弦材2を構成する2つのH形鋼からなる長尺材のフランジ同士が接合されておらず、ウェブ同士でのみ接合されているため、両長尺材間で伝達される軸力がウェブに集約される。そこで、両長尺材の接合された端部のウェブの両表面に補強板33が溶接されている。補強板33は上下のフランジと等価であり、例えば、補強板33とフランジとの材質が互いに同じならば、左右方向に直交する断面において、2枚の補強板33の合計断面積は、上下のフランジの合計断面積に略等しい。このため、両長尺材において、中間部ではフランジによって伝達されていた軸力が第1接合部32でウェブに向かい、軸力がウェブに集中しても、補強板33で補強されたウェブはその力に耐えることができる。
【0060】
両長尺材のウェブと補強板33とには、締結具20を構成するボルトの軸部を挿通させる通し穴(図示せず)が設けられている。通し穴の直径は軸部の直径よりも大きい。第6接合部24(
図9参照)と同様の理由により、所定規模以上の地震時に第1接合部32は回転可能となり、ピン接合とみなせる。
【0061】
なお、第1接合部32の構造を、第5接合部15(
図9参照)と同様の剛接合に変更してもよく、また、クレビス23(
図5参照)を備えるピン接合としてもよい。第1接合部32を剛接合にすると、半剛接合やピン接合に比べて、経済性や施工性が高く、設計難易度が低い。第1接合部32を半剛接合にすると、ピン接合に比べて経済性及び施工性が高く、剛接合に比べて回転性が高く、修復が容易である。第1接合部32をピン接合にすると、剛接合や半剛接合に比べて回転性が高く、地震による損傷が生じず、設計難易度が半剛接合に比べて低い。
【0062】
端部第2斜材10a及び端部第1斜材9aの下方に座屈拘束部材8を配置するため、トラス梁1に必要な強度を維持しつつ、第1実施形態よりも長い座屈拘束部材8を下弦材3の端部に配置することができる。
【0063】
図11(A)は、第3実施形態に係るトラス梁41を示す。第3実施形態に係るトラス梁41は、第1実施形態に係るトラス梁1(
図1参照)において、最も端部に配置された中間部第1斜材9bを省略し、その分だけ端部第1斜材9aを長くし、最も端部に配置された中間部第2斜材10bの下端部を第2接合部12に接合し、第3接合部13を上弦材2と端部束材5のみが接合するように変更したものに相当する。よって、第3実施形態に係るトラス梁41は、第1実施形態に係るトラス梁1に比べて、約1.5倍の長さの座屈拘束部材8を設置できる。このように、わずかに変更するだけで座屈拘束部材8を設置するスペースの長さが互いに相違するトラス梁1,41を設計できるため、座屈拘束部材8の必要長さの調整が容易である。
【0064】
図11(B)は、第4実施形態に係るトラス梁51を示す。第4実施形態に係るトラス梁51は、第1実施形態に係るトラス梁1(
図1参照)において、中間部第2斜材10bを中間部束材52に変更したものに相当し、プラットトラス形状をなす。このように、トラス梁1,51を設計する上で、異なる種類のトラスへの変更が容易である。
【0065】
図12(A)は、第5実施形態に係るトラス梁61を示す。第5実施形態に係るトラス梁61は、パネル材62を含む点で第1実施形態と相違する。パネル材62は、正面視で第1辺部62a、第2辺部62b及び第3辺部62cを有する三角形状をなし、トラス梁1の構面に直交する方向に所定の厚さを有する。第1辺部62aは上弦材2の端部を構成し又は上弦材2の端部の下面に当接し、第2辺部62bは端部第1斜材9aを構成し、第3辺部62cは端部束材5を構成する。パネル材62を使用することにより、パネル材62で代替される個材間の接合を簡素化できる。
【0066】
図12(B)は、第6実施形態に係るトラス梁71を示す。第6実施形態に係るトラス梁71は、下弦材3がトラス梁71の延在方向の中央に向かうにつれて上方に向かうように傾斜している点で第1実施形態と相違する。このような形状とすることで、トラス梁71の下方の空間を拡げることができる。
【0067】
図12(C)は、第7実施形態に係るトラス梁81を示す。第7実施形態に係るトラス梁81は、上弦材2及び下弦材3がトラス梁81の延在方向の中央に向かうにつれて上方に向かうように傾斜している点、並びに、第1実施形態における中間部第2斜材10b(
図1参照)に相当する部分が中間部束材52になっている点で第1実施形態と相違する。第7実施形態に係るトラス梁81は、勾配屋根を有する建物の梁に適する。
【0068】
図12(D)は、第8実施形態に係るトラス梁91を示す。第8実施形態に係るトラス梁91は、上弦材2及び下弦材3が上に凸な曲線状に配置される点、並びに、第1実施形態における中間部第2斜材10b(
図1参照)に相当する部分が中間部束材52になっている点で第1実施形態と相違する。第8実施形態に係るトラス梁91は、ドーム屋根を有する建物の梁に適する。
【0069】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。トラス梁は、正面視で左右対称形でなくてもよく、例えば、一端側を上記実施形態の構成とし、他端側において、一般的なワーレントラス形状において、端部から2番目と3番目の斜材の下方に座屈拘束部材を配置し、端部から2番目と3番目の斜材の上弦材への接合を地震時にピン接合とみなせる構造としてもよい。第1実施形態の第1変形例及び第2変形例を他の実施形態に適用してもよい。
【符号の説明】
【0070】
1,31,41,51,61,71,81,91:トラス梁
2:上弦材
3:下弦材
4:斜材
5:端部束材
6:柱
7:本体部
8:座屈拘束部材(変形許容部材)
9:第1斜材
9a:端部第1斜材
9b:中間部第1斜材
10:第2斜材
10b:中間部第2斜材
11,11a,11b,32:第1接合部
12:第2接合部
16:芯材
17:筒状体
62:パネル材
62a:第1辺部
62b:第2辺部
63b:第3辺部