(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】リチウム一次電池の正極およびリチウム一次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/06 20060101AFI20240125BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240125BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240125BHJP
H01M 6/16 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
H01M4/06 L
H01M4/62 Z
H01M4/66 A
H01M6/16 Z
H01M4/06 X
(21)【出願番号】P 2020025937
(22)【出願日】2020-02-19
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池山 美紗子
(72)【発明者】
【氏名】落合 佑紀
(72)【発明者】
【氏名】花村 玲
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆二
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-252681(JP,A)
【文献】特開2015-125920(JP,A)
【文献】特開2018-181648(JP,A)
【文献】特開2009-266392(JP,A)
【文献】特開2004-327304(JP,A)
【文献】特開2003-178753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 4/64-4/84
H01M 6/00-6/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極材料と、
前記正極材料に接触する集電体とを備え、
前記正極材料は、
二酸化マンガンを含む活物質と、
バインダと、
増粘剤としてのヒドロキシエチルセルロース
とを有する
リチウム一次電池の正極。
【請求項2】
前記集電体は、ステンレス鋼から形成される
請求項1に記載のリチウム一次電池の正極。
【請求項3】
前記正極材料は、ホウ素をさらに有する
請求項1または請求項2に記載のリチウム一次電池の正極。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のリチウム一次電池の正極と、
金属リチウムまたはリチウム合金を有する負極
とを備えるリチウム一次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、リチウム一次電池の正極およびリチウム一次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
活物質が導電助剤とバインダと増粘剤と共に混錬されているスラリーが集電体に乾燥塗布されることにより作製される電池用電極が知られている(特許文献1)。たとえば、リチウムイオン二次電池用の負極としては、水を溶媒として活物質とバインダと増粘剤とから作製されたスラリーが、集電体である銅箔上に乾燥塗布されたものが一般的である。リチウムイオン二次電池用の正極としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶媒として活物質とバインダと導電助剤とから作製されたスラリーが、集電体であるアルミ箔上に塗布乾燥されたものが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン二次電池用の水系電極スラリーでは、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースCMCが一般的に使用されている。カルボキシメチルセルロースは、カルボキシ基を有し、水系電極スラリーのpHの影響を受けやすく、水系電極スラリーは、pHの変化によって粘度が変化することがある。水系電極スラリーの粘度が変化することにより、電極材料が集電体に適切に固着するように、水系電極スラリーを集電体に適切に塗布する作業が困難になるという問題がある。リチウムイオン二次電池用は、水系電極スラリーが集電体に適切に塗布されないときに、水系電極スラリーが乾燥されることにより形成された正極材料が集電体に適切に固着されず、電池特性が低下することがある。
【0005】
開示の技術は、かかる点に鑑みてなされたものであって、水系電極スラリーが乾燥されることにより形成された正極材料を集電体に適切に固着させるリチウム一次電池の正極およびリチウム一次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によるリチウム一次電池の正極は、正極材料と、その正極材料に電気的に接触する集電体とを備えている。その正極材料は、二酸化マンガンを含む活物質と、バインダと、増粘剤としてのヒドロキシエチルセルロースとを有している。
【発明の効果】
【0007】
開示のリチウム一次電池の正極およびリチウム一次電池は、水系電極スラリーが乾燥されることにより形成される正極材料を集電体に適切に固着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態のリチウム一次電池を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態のリチウム一次電池を示す分解斜視図である。
【
図3】
図3は、溶出マンガン量の調査結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本願が開示する実施形態にかかるリチウム一次電池の正極およびリチウム一次電池について、図面を参照して説明する。なお、以下の記載により本開示の技術が限定されるものではない。また、以下の記載においては、同一の構成要素に同一の符号を付与し、重複する説明を省略する。
【0010】
[リチウム一次電池]
実施形態のリチウム一次電池1は、
図1に示されているように、いわゆる薄形二酸化マンガンリチウム一次電池に形成され、外装体11と負極端子板33と正極端子板23とを備えている。
図1は、実施形態のリチウム一次電池1を示す斜視図である。外装体11は、長方形状である袋に形成されている。外装体11の内部には、外部から密閉される内部空間が形成されている。負極端子板33は、金属に例示される導体から形成され、帯状に形成されている。負極端子板33は、外装体11のうちの長方形の一辺に対応する縁13を貫通している。すなわち、負極端子板33の一端は、外装体11の内部空間に配置され、負極端子板33の他端は、外装体11の外部に配置されている。正極端子板23は、金属に例示される導体から形成され、帯状に形成されている。正極端子板23は、外装体11のうちの縁13を貫通している。すなわち、正極端子板23の一端は、外装体11の内部空間に配置され、正極端子板23の他端は、外装体11の外部に配置されている。
【0011】
図2は、実施形態のリチウム一次電池1を示す分解斜視図である。外装体11は、フィルム11aとフィルム11bとを備えている。フィルム11aとフィルム11bとは、それぞれ、可撓性を有するアルミラミネートフィルムから形成されている。外装体11は、フィルム11aの周縁領域12とフィルム11bのうちの周縁領域12とが互いに溶着されることにより、袋状に形成されている。
【0012】
リチウム一次電池1は、電極体10をさらに備えている。電極体10は、外装体11の内部空間に配置されている。電極体10は、負極30と正極20とセパレータ40とを備えている。負極30と正極20とセパレータ40とは、セパレータ40が負極30と正極20との間に挟まれるように、積層されている。セパレータ40は、負極30と正極20とが電気的に接触しないように、負極30と正極20とを電気的に絶縁している。
【0013】
負極30は、負極集電体31と負極活物質32とを備えている。負極集電体31は、金属に例示される導体から形成され、長方形状である板に形成されている。負極活物質32は、金属リチウムまたはリチウム合金から形成され、板状に形成されている。リチウム合金は、リチウムを含有する金属であり、たとえば、アルミリチウム合金が例示される。負極活物質32は、負極活物質32がセパレータ40と負極集電体31との間に配置されるように、かつ、負極活物質32が負極集電体31に電気的に接続されるように、負極集電体31に貼付されている。負極集電体31は、負極活物質32が負極端子板33と電気的に接続されるように、負極端子板33のうちの外装体11の内部空間に配置されている一端に接合されている。
【0014】
なお、負極30は、負極集電体31が省略されてもよい。負極端子板33のうちの外装体11の内部空間に配置されている一端は、負極集電体31が省略されるときに、負極活物質32が負極端子板33と電気的に接続されるように、負極活物質32に直に接合されている。
【0015】
正極20は、実施形態のリチウム一次電池の正極であり、正極集電体21と正極材料22とを備えている。正極集電体21は、ステンレス鋼またはアルミニウムから形成され、長方形状である板に形成されている。正極材料22は、正極活物質と導電助剤とバインダと増粘剤と添加剤とを含んでいる。正極活物質は、粉体である二酸化マンガンMnO2から形成されている。導電助剤は、粉体である高電導性カーボンブラックから形成されている。高電導性カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックが例示される。バインダは、スチレンブタジエンゴムSBRから形成されている。増粘剤は、ヒドロキシエチルセルロースHECから形成されている。添加剤は、単体ホウ素またはホウ素化合物から形成され、粉体に形成されている。ホウ素化合物としては、酸化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸リチウム、ホウ酸アンモニウムが例示される。正極材料22は、正極材料22が正極集電体21とセパレータ40との間に配置されるように、かつ、正極材料22が正極集電体21に電気的に接続されるように、正極集電体21に貼付されている。
【0016】
リチウム一次電池1は、図示されていない電解液をさらに備えている。電解液は、非水電解液であり、有機溶媒に電解質が溶解されている溶液から形成されている。電解液は、外装体11の内部空間に充填されている。このため、負極30と正極20とセパレータ40とは、電解液に浸漬されている。
【0017】
[リチウム一次電池1の製造方法]
リチウム一次電池1を製造する製造方法は、負極の作製と、正極の作製と、リチウム一次電池の組立とを備えている。負極の作製では、負極集電体31と負極活物質32とが準備される。負極活物質32が負極集電体31に電気的に接続されるように、負極活物質32が負極集電体31に圧着されることにより、負極30が作製される。
【0018】
正極の作製では、予め定められた質量比の正極活物質と導電助材とバインダーと増粘剤と水とが混錬されることにより、水系スラリーが調製される。増粘剤は、バインダーと異なり、水系スラリーの年胴を上昇させるものである。水系スラリーは、予め定められた塗布量でステンレス箔の一方の面に塗布され、乾燥され、プレスされる。プレスされたステンレス箔と水系スラリーとが、予め定められたサイズに切り出されることにより、正極20が作製される。切り出されたステンレス箔は、正極集電体21に対応し、水系スラリーが乾燥されることにより形成された部分は、正極材料22に対応している。
【0019】
リチウム一次電池の組立では、セパレータ40が負極30の負極活物質32と正極20の正極材料22とに挟まれるように、負極30と正極20とセパレータ40とが積層されることにより、電極体10が作製される。さらに、負極集電体31に負極端子板33の一端が溶接され、正極集電体21に正極端子板23の一端が溶接される。負極端子板33の一端は、負極30の負極集電体31が省略された場合には、負極活物質32に直に溶接される。電極体10が外装体11の内部空間に挿入された後に、外装体11の内部空間に電解液が注入される。電極体10が挿入された外装体11に電解液が注入された後に、電解液が電極体10に減圧含浸され、外装体11の縁が真空封止されることにより、リチウム一次電池1が作製される。
【0020】
「評価試験」
実施形態のリチウム一次電池1の効果を確認する評価試験を実行するために、複数の試料が作製されている。その複数の試料は、実施例1のリチウム一次電池と実施例2のリチウム一次電池と比較例1のリチウム一次電池と比較例2のリチウム一次電池とを含んでいる。
【実施例1】
【0021】
実施例1のリチウム一次電池に用いられる正極20の作製には、90.2重量部の正極活物質と5重量部の導電助剤と3.7重量部のバインダと0.8重量部の増粘剤と0.3重量部の添加剤とが水で混錬されている水系スラリーが用いられている。導電助剤は、アセチレンブラックから形成されている。添加剤は、単体ホウ素から形成されている。水系スラリーは、ステンレス鋼から形成されているステンレス箔に片面塗布量31mg/cm2で塗布され、乾燥され、プレスされている。実施例1のリチウム一次電池に用いられる正極20は、ステンレス箔のうちの水系スラリーが塗布された部分が20mm×13mmの長方形に形成されるように、ステンレス箔が切り出されることにより、作製されている。ここで、ステンレス箔は、正極集電体21に対応し、水系スラリーが乾燥されることにより形成された部分は、正極材料22に対応している。
【0022】
実施例1のリチウム一次電池に用いられる負極30は、金属リチウムから形成されている板が19mm×12mmの長方形に切り出されることにより、作製されている。実施例1のリチウム一次電池に用いられるセパレータ40は、厚さ20μmのセルロース製不織布から形成されている。実施例1のリチウム一次電池に用いられる電極体10は、セパレータ40が負極30と正極20とに挟まれるように、負極30と正極20とセパレータ40とが積層されることにより作製されている。実施例1のリチウム一次電池は、電極体10が外装体11の内部に挿入され、電解液が電極体10に減圧含浸された後に、180℃のヒートバーを用いてアルミラミネートフィルムの4辺を2mmの封止幅で真空封止されることにより、作製されている。
【実施例2】
【0023】
実施例2のリチウム一次電池は、添加剤が正極材料22に含まれておらず、ホウ素が正極材料22に添加されていない点以外は、実施例1のリチウム一次電池と同様に作製されている。
【0024】
[比較例1]
比較例1のリチウム一次電池は、正極材料22に増粘剤として含まれるヒドロキシメチルセルロースがカルボキシメチルセルロースCMCに置換されている。比較例1のリチウム一次電池は、正極材料22に増粘剤として含まれるヒドロキシメチルセルロースがカルボキシメチルセルロースCMCに置換される以外は、実施例1のリチウム一次電池と同様に作製されている。
【0025】
[比較例2]
比較例2のリチウム一次電池は、正極材料22に増粘剤として含まれるヒドロキシメチルセルロースがアルギン酸に置換されている。比較例2のリチウム一次電池は、正極材料22に増粘剤として含まれるヒドロキシメチルセルロースがアルギン酸に置換される以外は、実施例1のリチウム一次電池と同様に作製されている。
【0026】
評価試験では、スラリー特性と電池特性と正極集電体の外観と溶出マンガン量とが調査されている。表1は、スラリー特性と電池特性と正極集電体の外観との調査結果を示している。
【表1】
【0027】
スラリー特性の調査では、複数の試料に対応する複数のpHと複数の粘度と複数の安定性とが導出されている。複数のpHのうちのある試料に対応するpHは、その試料の作製に用いられた水系スラリーのpHを示している。複数の粘度のうちのある試料に対応する粘度は、その試料の作製に用いられた水系スラリーの粘度を示している。複数の安定性のうちのある試料に対応する安定性は、その試料の作製に用いられた水系スラリーの安定性を示し、経時変化によりその水系スラリーに沈降が現れたか否かを示している。
【0028】
スラリー特性の調査結果は、実施例1のリチウム一次電池の水系スラリーのpHが5.03であり、比較例1のリチウム一次電池の水系スラリーのpHが6.04であり、比較例2のリチウム一次電池の水系スラリーのpHが6.74であることを示している。導出された複数のpHは、実施例1のリチウム一次電池の水系スラリーのpHが、比較例1と比較例2とのリチウム一次電池の水系スラリーのpHより小さいことを示している。
【0029】
スラリー特性の調査結果は、実施例1のリチウム一次電池の水系スラリーの粘度が4.0Pa・sであることを示している。スラリー特性の調査結果は、さらに、比較例1のリチウム一次電池の水系スラリーの粘度が4.0Pa・sであり、比較例2のリチウム一次電池の水系スラリーの粘度が4.1Pa・sであることを示している。導出された複数の粘度は、実施例1のリチウム一次電池の水系スラリーの粘度が、比較例1と比較例2とのリチウム一次電池の水系スラリーの粘度と概ね同等であることを示している。すなわち、導出された複数の粘度は、実施例1のリチウム一次電池の水系スラリーが、比較例1のリチウム一次電池の水系スラリーと比較例2とのリチウム一次電池の水系スラリーと同様に、扱うことができることを示している。
【0030】
また、スラリー特性の調査結果は、実施例1のリチウム一次電池の水系スラリーのpHが小さい場合でも、実施例1のリチウム一次電池の水系スラリーの粘度が、比較例1と比較例2とのリチウム一次電池の水系スラリーの粘度と概ね同等であることを示している。すなわち、実施例1のリチウム一次電池の水系スラリーは、予め定められたpHとpHが異なるときに、水系スラリーの粘度を調整するために他の添加剤をさらに添加したり、塗布条件を変更したりする必要がなく、正極集電体に容易に塗布されることができる。
【0031】
比較例1のリチウム一次電池の水系スラリーに含まれるカルボキシメチルセルロースは、側鎖にカルボキシ基を有し、アルカリ不純物の存在下で架橋したり、水系スラリーのpHが変化することにより配位が変化したりする。このとき、比較例1のリチウム一次電池の水系スラリーの粘度は、カルボキシメチルセルロースが架橋したり配位が変化したりすることにより、変化する。比較例2のリチウム一次電池の水系スラリーに含まれるアルギン酸も、側鎖にカルボキシ基を有し、アルカリ不純物の存在下で架橋したり、水系スラリーのpHが変化することにより配位が変化したりする。このとき、比較例2のリチウム一次電池の水系スラリーの粘度は、アルギン酸が架橋したり配位が変化したりすることにより、変化する。水系スラリーに含有されるヒドロキシエチルセルロースは、ヒドロキシ基を有していることにより、水系スラリーのpHに対して鈍感であり、水系スラリーのpHが変化した場合でも水系スラリーの粘度に及ぼす影響が小さい。このため、実施例1のリチウム一次電池の水系スラリーのpHが小さい場合でも、実施例1のリチウム一次電池の水系スラリーの粘度が、比較例1と比較例2とのリチウム一次電池の水系スラリーの粘度と概ね同等であるものと考えられる。
【0032】
スラリー特性の調査結果は、実施例1のリチウム一次電池の水系スラリーに沈降が現れないことを示している。スラリー特性の調査結果は、さらに、比較例1のリチウム一次電池の水系スラリーに約24時間で沈降が現れたことを示している。スラリー特性の調査結果は、さらに、比較例2のリチウム一次電池の水系スラリーに沈降が現れないことを示している。導出された複数の安定性は、実施例1のリチウム一次電池の水系スラリーが、比較例1のリチウム一次電池の水系スラリーに比較して、安定していることを示し、より容易に扱うことができることを示している。
【0033】
電池特性の調査では、複数の試料に対応する複数の開回路電圧と複数の内部抵抗とが導出されている。複数の開回路電圧のうちのある試料に対応する開回路電圧は、その試料の作製に用いられた水系スラリーの開回路電圧を示している。複数の内部抵抗のうちのある試料に対応する内部抵抗は、その試料の作製に用いられた水系スラリーの内部抵抗を示している。正極集電体の外観の調査では、複数の試料を解体して正極集電体21を観察することにより、正極集電体21の表面に腐食が発生しているか否かが評価されている。
【0034】
電池特性の調査結果は、実施例1のリチウム一次電池の開回路電圧が3.19Vであり、比較例1のリチウム一次電池の開回路電圧が3.18Vであり、比較例2のリチウム一次電池の開回路電圧が3.23Vであることを示している。導出された複数の開回路電圧は、実施例1のリチウム一次電池の開回路電圧が、比較例1のリチウム一次電池の開回路電圧と概ね同等であることを示している。導出された複数の開回路電圧は、実施例1のリチウム一次電池が、比較例2のリチウム一次電池に比較して、開回路電圧が低いことを示している。電池は電圧が高いほど保存劣化が起きやすくなるため、実施例1のリチウム一次電池は、比較例2のリチウム一次電池に比較して、優れていると言える。
【0035】
電池特性の調査結果は、実施例1のリチウム一次電池の内部抵抗が10.4Ωであり、比較例1のリチウム一次電池の内部抵抗が12.4Ωであり、比較例2のリチウム一次電池の内部抵抗が16.0Ωであることを示している。導出された複数の内部抵抗は、実施例1のリチウム一次電池の内部抵抗が、比較例1と比較例2とのリチウム一次電池の内部抵抗より小さいことを示している。導出された複数の内部抵抗は、実施例1のリチウム一次電池が、比較例1と比較例2とのリチウム一次電池に比較して、内部抵抗が小さく、電池特性に優れていることを示している。
【0036】
正極集電体の外観の調査結果は、比較例1のリチウム一次電池の正極集電体21の一部が黒色化する現象が現れたことを示している。この現象は、正極集電体21を形成するステンレス鋼の表面に形成されるクロム層が破壊されることにより、正極集電体21が腐食したものと考えられる。正極集電体の外観の調査結果は、さらに、実施例1と比較例2のリチウム一次電池の正極集電体21に同様の現象が現れないことを示している。すなわち、正極集電体の外観の調査結果は、実施例1のリチウム一次電池の正極集電体21は、比較例1と比較例2とのリチウム一次電池の正極集電体21に比較して、腐食しにくいことを示している。
【0037】
カルボキシメチルセルロースは、セルロースとアルカリと塩とを使用して製造される。その塩としては、クロロ酢酸塩や次亜塩素酸塩など塩素Clを含むものが使用されるため、カルボキシメチルセルロースの最終製品には、一定量の塩素成分が不純物として含まれている。アルギン酸は、海藻から抽出されることにより製造され、一定量の塩素成分が不純物として含まれている。ヒドロキシエチルセルロースは、製造時に、塩素を含む塩を使用しないため、不純物として含有される塩素の量が、カルボキシメチルセルロースとアルギン酸とに比較して、極めて少ない。このため、実施例1のリチウム一次電池の正極集電体21は、比較例1と比較例2とのリチウム一次電池の正極集電体21に比較して、塩素によりステンレス鋼のクロム層が破壊され難く、腐食しにくいものと考えられる。
【0038】
実施例1のリチウム一次電池は、正極集電体21が腐食しにくいことにより、比較例1と比較例2とのリチウム一次電池に比較して、正極集電体21から電解液中に溶出する鉄の量が小さい。このため、実施例1のリチウム一次電池は、比較例1と比較例2とのリチウム一次電池に比較して、電池特性に優れているものと考えられる。
【0039】
図3は、溶出マンガン量の調査結果を示すグラフである。溶出マンガン量の調査では、複数の試料が放電深度80%の状態で60℃の雰囲気で保存されている。複数の試料は、200日保存された後に解体され、負極30の表面とセパレータ40の表面とに存在するマンガンの量が誘導結合プラズマ(ICP:Inductively coupled plasma)発光分析により定量されている。
【0040】
溶出マンガン量の調査結果は、実施例1のリチウム一次電池の正極材料22から溶出したマンガンの量が実施例2のリチウム一次電池の正極材料22から溶出したマンガンの量より少ないことを示している。溶出マンガン量の調査結果は、正極材料22に添加されたホウ素が、正極材料22からマンガンが溶出することを抑制したことを示している。
【0041】
[リチウム一次電池の正極の効果]
実施形態のリチウム一次電池の正極20は、正極材料22と、正極材料22に電気的に接触する正極集電体21とを備えている。正極材料22は、二酸化マンガンから形成される活物質と、活物質を正極集電体21に固着させるバインダと、ヒドロキシエチルセルロースから形成される増粘剤とを備えている。
【0042】
活物質とバインダと増粘剤とを備える水系スラリーの粘度は、ヒドロキシエチルセルロースがヒドロキシ基を有していることにより、pHが変化した場合でも、変化が小さい。水系スラリーは、粘度変化が小さいことにより、正極集電体21に適切に塗布されることができる。このため、正極20は、正極材料22が正極集電体21に適切に貼付されることができ、正極材料22が正極集電体21に適切に固着されることができる。このような正極20が利用されるリチウム一次電池1は、正極材料22が正極集電体21に適切に固着されていることにより、優れた電池特性(開回路電圧、内部抵抗)を有している。正極20は、さらに、正極材料22に含有される塩素の量を低減することができ、正極集電体21の腐食を低減することができる。
【0043】
また、実施形態のリチウム一次電池の正極20の正極集電体21は、ステンレス鋼から形成されている。正極20は、正極材料22に含有される塩素の量が低減することにより、正極集電体21がステンレス鋼から形成されるときに、特に、正極集電体21の腐食を低減することができる。
【0044】
また、実施形態のリチウム一次電池の正極20の正極材料22は、ホウ素を含有する添加剤をさらに有している。このような正極20は、正極材料22から溶出されるマンガンの量を低減することができ、正極20が利用されるリチウム一次電池1の電池特性を向上させることができる。
【0045】
ところで、既述のリチウム一次電池1は、薄形二酸化マンガンリチウム一次電池に形成されているが、他の形状に形成されていてもよい。たとえば、リチウム一次電池1は、円筒形リチウム一次電池、または、コイン形リチウム一次電池に形成されていてもよい。このような形状に形成されたリチウム一次電池も、既述のリチウム一次電池1と同様に、正極材料22を正極集電体21に適切に固着させることができ、電池特性を向上させすることができる。
【0046】
ところで、既述の正極20は、リチウム一次電池1に利用されているが、他の電池に利用されてもよい。その電池としては、マンガン乾電池、アルカリマンガン乾電池が例示される。正極20は、このような電池に利用されている場合でも、リチウム一次電池1に利用されている場合と同様に、正極材料22を正極集電体21に適切に固着させることができ、電池特性を向上させすることができる。
【0047】
以上、実施例を説明したが、前述した内容により実施例が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、実施例の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換及び変更のうち少なくとも1つを行うことができる。
【符号の説明】
【0048】
1 :リチウム一次電池
20 :正極
21 :正極集電体
22 :正極材料
23 :正極端子板
30 :負極
31 :負極集電体
32 :負極活物質
33 :負極端子板
40 :セパレータ