(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】省エネ運転支援システム及びその方法
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20240125BHJP
B61L 27/20 20220101ALI20240125BHJP
【FI】
B60L15/20 A
B61L27/20
(21)【出願番号】P 2020031178
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮内 努
(72)【発明者】
【氏名】祖父江 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】森本 美弥
(72)【発明者】
【氏名】飯田 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】野村 悠二
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-042380(JP,A)
【文献】特開2017-063556(JP,A)
【文献】特開2014-034358(JP,A)
【文献】特開2019-122131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
B61L 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車の駅間走行中に
おいて、減速区間では乗務員が前記列車を手動で運転するが、前記減速区間以外の自動運転部分では前記列車の走行制御を行う省エネ運転支援システムであって、
前記列車の在線位置に応じた定速走行速度を決定する定速支援部と、
前記列車の在線位置に応じた惰行開始位置を決定する惰行支援部と、
次停車駅までの残走行時間の目標値としての目標残走行時間を算出する目標残走行時分算出部と、
前記減速区間での、乗務員毎の減速パタン特徴を管理する減速パタン特徴管理部と、
を備え、
前記減速パタン特徴管理部は、支援対象とする前記列車の乗務員に対応した前記減速パタン特徴を出力し、
前記減速区間以外において、前記定速支援部と前記惰行支援部は、前記目標残走行時間と前記減速パタン特徴と前記列車の位置及び速度とに基づいて前記定速走行速度と前記惰行開始位置を決定する、
省エネ運転支援システム。
【請求項2】
前記減速パタン特徴は列車位置に応じた速度情報として管理される、
請求項1に記載の省エネ運転支援システム。
【請求項3】
前記減速パタン特徴は列車位置に応じたノッチ扱い情報として管理される、
請求項1に記載の省エネ運転支援システム。
【請求項4】
前記減速パタン特徴は減速度の大きさに応じて2つ以上の段階に分類されて管理される、
請求項1に記載の省エネ運転支援システム。
【請求項5】
前記減速パタン特徴は、降雨や降雪の有無と、乗車率の多寡と、前回メンテナンス時期からの経過時間と、の少なくとも何れかの条件によって、場合分け管理される、
請求項1に記載の省エネ運転支援システム。
【請求項6】
前記減速パタン特徴管理部は、車両情報制御装置から支援対象とする前記列車の乗務員を識別する情報を取得する、
請求項1に記載の省エネ運転支援システム。
【請求項7】
前記減速パタン特徴管理部は、降雨や降雪の有無と、乗車率の多寡と、前回メンテナンス時期からの経過時間と、の少なくとも何れかに関する情報を取得する、
請求項1に記載の省エネ運転支援システム。
【請求項8】
前記定速走行速度と前記惰行開始位置に基づき、制駆動装置への制駆動指令を計算する制駆動指令演算部を備える、
請求項1に記載の省エネ運転支援システム。
【請求項9】
前記定速走行速度と前記惰行開始位置に基づき、乗務員が参照するための目標速度と惰行タイミングを出力する運転士支援情報作成部を備える、
請求項1に記載の省エネ運転支援システム。
【請求項10】
前記運転士支援情報作成部が出力した目標速度と惰行タイミングを、表示と音声の少なくとも何れかで前記乗務員に教示する端末を備える、
請求項9に記載の省エネ運転支援システム。
【請求項11】
車両情報制御装置と運転支援装置と保安装置とを用いて、駅間を走行中の列車の運転操作を支援する省エネ運転支援方法であって、
前記車両情報制御装置を経由して制駆動指令を制駆動装置へ伝達する前記運転支援装置は、
次停車駅までの残走行時間の目標値を算出する目標残走行時分算出部と、
乗務員毎の減速パタン特徴を管理する減速パタン特徴管理部と、
前記列車の在線位置に応じた定速走行速度を決定する定速支援部と、
前記列車の在線位置に応じた惰行開始位置を決定する惰行支援部と、
列車速度と列車位置と定速走行速度と惰行開始位置と制限速度を入力して、制駆動指令を算出し、前記車両情報制御装置へ出力する制駆動指令演算部と、
を備えて構成され、
前記運転支援装置は、前記車両情報制御装置から目標着時刻と現在時刻と列車速度と列車位置と次走行駅間情報と乗務員識別情報と手動ノッチ情報と、を取得するほか、前記保安装置から制限速度を取得し、
前記減速パタン特徴管理部は、
支援対象とする前記列車が駅に停車中であるか否かを判定するステップと、
前記車両情報制御装置から次走行駅間情報を取得するステップと、
前記車両情報制御装置から乗務員識別情報を取得するステップと、
乗務員識別情報に基づいて、その乗務員に紐づく前記減速パタン特徴をデータベースから検索し、該減速パタン特徴を前記定速支援部及び前記惰行支援部に対して出力するステップと、
前記定速支援部及び前記惰行支援部が、次走行駅間情報と前記減速パタン特徴に基づいて、それぞれ、定速開始判定用テーブルと惰行開始判定用テーブルを選択し、次駅間走行に備えて読み込むステップと、
前記惰行支援部及び前記定速支援部が、惰行開始位置及び定速走行速度の設定有無をそれぞれ判定するステップと、
前記惰行支援部及び前記定速支援部が、設定された惰行開始位置及び定速走行速度を前記制駆動指令演算部に送出するステップと、
を有し、
前記目標残走行時分算出部は、次停車駅までの残走行時間の目標値とする目標残走行時間を算出し、
前記定速支援部及び前記惰行支援部が、前記目標残走行時間と前記減速パタン特徴と前記列車の位置及び速度とに基づいて前記定速走行速度と前記惰行開始位置を決定する、
省エネ運転支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道をはじめとする軌道輸送を行う移動体の省エネ運転支援システム及びその方法に関し、特に、乗務員の運転操作をより良く支援することによって、さらなる省エネを実現できるようにした省エネ運転支援システム及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、列車運行ダイヤの過密化やホームドアの整備充実化等を背景に、乗務員の負担低減や人件費の削減を目的として、自動列車運転(ATO:Automatic Train Operation)装置が多くの路線で導入されている。このATO装置とは、列車の運転について完全無人化を目指した運転保安システムをいう。完全無人化の場合、人に対する安全性が確保し易い地下鉄や新交通システムから順次導入されつつある。ATO装置への要求として、本来の目的である定時運行や無人化に加えて、消費電力量の削減も重視される傾向が強い。
【0003】
なお、完全無人化の実現性は、概ね投資効率で決まる。すなわち、ATO装置の性質上、予め策定された計画に基づく新規敷設路線の場合は、投資効率が良好で実現可能性が高い。現状では、大規模な輸送量が長期間安定的と考えられる大都市に限っての実績が見られる。一方、ATO装置が導入されていない既設路線向けには、既成路線を改造する場合、設備投資効率が悪いため、いきなり完全無人化を目指すことはできない。
【0004】
そのため、既設の有人運転路線に対し、完全無人化を目指すことなく、エネルギーの節約(全文にわたって「省エネ」と略す)を目的としたATO装置や運転支援装置の導入も進められている。つまり、有人運転ではあるものの、設備投資効率の許容範囲内で相当部分まで自動化するが、極端に設備費用を要する完全自動化は当分見送る、という趣旨で、いわば安上がりな有人ATO併用装置の方が現実的で普及実績もある。
【0005】
このような趣旨に基づく安上がりな有人ATO併用装置は、消費電力量が少ない走行パタンで走行できるように、乗務員に対して、より良い運転操作の支援を行うものであり、ここでは省エネ運転支援システムと定義する。この省エネ運転支援システムにおいて、設備投資効率の観点から自動化できる許容範囲は、始動、加速、定速走行及び惰行までの運転領域である。
【0006】
したがって、既設路線における減速から停止までの運転領域、すなわち減速区間は、当分の間、人に依存する方が良いとの総合的判断が大勢を占めている。つまり、軌道輸送の既設路線において、移動体を正確に停止させる機能、例えば、駅の所定位置に停止させる機能については、完全無人化の投資効率が著しく悪いという現実の課題がある。そのため、少なくとも減速区間は乗務員が手動で運転する省エネ運転支援システムについての課題をここでは検討する。
【0007】
すなわち、上述の投資効率とは別の課題も残されている。従来から知られているように、省エネを目的としたATO装置や運転支援装置は、予めシミュレーションで導出された消費電力量が少ない走行パタンに基づいて走行制御や運転操作支援を実施する。ところが実際の走行ではシミュレーションの前提条件とは異なる条件(例えば、架線電圧、乗車率)により、シミュレーションにより導出された走行パタン通りに走行できないことが発生する。
【0008】
公知技術として、特許文献1がある。特許文献1には、走行パタンを実際の走行実績に応じて補正する技術が開示されている。具体的には、駅間を定速走行と惰行を組み合わせて走行する場合において、定速走行を開始するタイミングを決定する定速開始判定部と惰行を開始するタイミングを決定する惰行開始判定部を備え、残走行時分に基づいて、力行指示/定速指示/惰行指示を運転支援装置に出力する省エネ運転支援システムが開示されている。
【0009】
別の公知技術として、特許文献2がある。特許文献2には、消費電力量を削減することを目的として各ドライバの車両運転技術を支援する技術が開示されている。具体的には、目標とする消費電力量を実現する目標運転操作を演算するとともに、収集した車両情報から消費電力量が閾値以下となるような運転支援情報を生成し、それをドライバに提示して車両運転を支援する、といった鉄道車両の運転支援システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2017-63556号公報
【文献】特開2017-30473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に代表されるように、省エネ運転支援のベースとなる省エネ走行パタンは、適切な定速走行速度及び惰行開始位置とで規定される。これらの要素は、減速時の走行パタン(速度パタンやノッチ操作パタンで規定)を代表的な固定パタンで仮定して、数値計算等の方法で求められることが一般的である。駅間全体を自動で走行するATOが前提の場合は、減速時の走行パタンを代表的な固定パタンで仮定することについて問題ない。
【0012】
しかし、少なくとも減速区間を乗務員が手動で運転する省エネ運転支援システムの場合、その固定の減速パタンどおりの運転操作を乗務員に強いることとなる。すなわち、乗務員は、その技量に基づく裁量範囲を無くされることで、大きな負担を被る。このことは、列車を安全かつ快適に停車させることが求められる制動操作に関しては、各鉄道事業者や各乗務員でそれぞれ固有の考え方や癖があり、ある程度の範囲で運転技量として公認されていた。このように公認されていた運転技量の範囲内に位置付けられていた考え方や癖は、最新システムが減速のパタンとして規定する要求とは相反することもあるので、安易に変更や固定をすることは難しい。
【0013】
このように、減速パタンにばらつきを許容せざるを得ない状態において、固定の減速パタンを前提にした運転支援は、結果が良くない。すなわち、半自動、半手動の省エネ運転支援システムにおいて、定速走行速度や惰行開始位置を乗務員が固定パタンに支配された状態では、定時性が悪化する場合がある。
【0014】
また、特許文献2に記載された技術では、運転士の運転操作に対し、主に省エネに寄与するか否かの観点に基づいて可否判定して運転指令信号を生成し、それを運転士に提示して車両運転を支援するものであった。しかし、それ以外の観点に基づく運転士の運転傾向、特に各運転士別に慣熟し、かつ公認された裁量範囲のあることについては、ほとんど考慮されず、技量に基づく裁量範囲を限定されるため、運転士が負担に感じて上述の支援を受け入れ難いという課題があった。
【0015】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、乗務員の個人的運転技量により、ばらつきが不可避とされていた制動操作について、どの乗務員にとっても受け入れ易いように個人的運転技量を尊重した支援策を提示して遅着や早着を抑制するとともに、省エネ走行を追求する省エネ運転支援システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決する代表的な本発明の省エネ運転支援システムは、列車の駅間走行中における運転操作を支援する省エネ運転支援システムであって、前記列車の在線位置に応じた定速走行速度を決定する定速支援部と、前記列車の在線位置に応じた惰行開始位置を決定する惰行支援部と、次停車駅までの残走行時間の目標値としての目標残走行時間を算出する目標残走行時分算出部と、乗務員毎の減速パタン特徴を管理する減速パタン特徴管理部と、を備え、前記減速パタン特徴管理部は、支援対象とする前記列車の乗務員に対応した前記減速パタン特徴を出力し、前記定速支援部と前記惰行支援部は、前記列車の位置及び速度と前記目標残走行時間と前記減速パタン特徴から、前記定速走行速度と前記惰行開始位置を決定するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、どの乗務員にとっても受け入れ易いように個人的運転技量を尊重した支援策を提示して遅着や早着を抑制するとともに、省エネ走行を追求する省エネ運転支援システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施例1に係る省エネ運転支援システム(以下、「本システム」ともいう)の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1の本システムにおける支援情報決定の処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図1の本システムをランカーブに基づいて動作説明するためのグラフである。
【
図4】
図1の本システムにおける減速パタン特徴の第1管理方法を示す説明図である。
【
図5】
図1の本システムにおける減速パタン特徴の第2管理方法を示す説明図である。
【
図6】
図1の本システムにおける減速パタン特徴の第3管理方法を示す説明図である。
【
図7】本発明の実施例2に係る省エネ運転支援システム(これも「本システム」という)の概略構成を示すブロック図である。
【
図8】
図7の本システムにおける表示器が表示内容を遷移させた一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。はじめに、実施例1を
図1~
図6に沿って説明し、その後、実施例2を
図7~
図8に沿って説明する。実施例1は、駅間の減速区間以外を自動運転し、減速区間だけ手動運転する運転支援システムを例示している。実施例2では、駅間走行全体にわたって、手動での列車運転を支援する例を示す。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の実施例1に係る省エネ運転支援システム(本システム)の概略構成を示すブロック図である。
図1の本システムは、運転支援装置10と、車両情報制御装置1と、保安装置7と、より構成されている。運転支援装置10は、車両情報制御装置1から取得する情報と、保安装置7から取得する情報に基づいて、制駆動指令21を決定する。
【0021】
車両情報制御装置1は、他にモニタ装置・車両情報管理装置等の呼称があるが、ここでは車両情報制御装置1の名称を用いる。制駆動指令21は車両情報制御装置1を経由して、インバータやブレーキに代表される制駆動装置へ伝達される。運転支援装置10が車両情報制御装置1から取得する情報は、目標着時刻11と現在時刻12と列車速度13と列車位置14と次走行駅間情報(単に「次走行駅間」ともいう)15と乗務員識別情報16と手動ノッチ情報23である。また、運転支援装置10が保安装置7から取得する情報は、制限速度22である。
【0022】
目標着時刻11は、次停車駅の到着時刻に関する目標であり、車両情報制御装置1が保持しているダイヤ情報に基づく。そのダイヤ情報は、固定の発着時刻として管理されるほか、他列車の運行状態や人の流れに応じて動的に変化する発着時刻であっても良い。現在時刻12は、車両情報制御装置1が認識している現在時刻12である。
【0023】
列車速度13は、車両情報制御装置1が、速度発電機(不図示)の回転数情報等から生成し、管理している。例えば、速度発電機が生成する単位時間当たりの車輪の回転数情報に車輪の円周長をかけることにより単位時間当たりの走行距離、すなわち速度が求められ、これを用いて列車速度13を生成する。
【0024】
列車位置14は、車両情報制御装置1が保持しており、トランスポンダ等を利用した地上側との通信による絶対位置検出結果を初期値とし、その通信ができない区間において列車速度13を積分した値、すなわち走行距離を加算することで求める。なお、トランスポンダ(Transponder)はTRANSmitter(送信機)とresPONDER(応答機)からの合成語で、受信した電気信号を中継送信したり、電気信号と光信号を相互に変換したり、受信信号に何らかの応答を返す機器の総称である。
【0025】
次走行駅間情報15は、車両情報制御装置1が保持しており、列車位置14に応じて変化する。不図示の駅A、駅B、駅Cがこの順に並び、駅Cに向かう行路である場合、列車が駅Aに停車している間の次走行駅間15は「駅A~駅B」である。列車が駅A~駅Bを走行中及び駅Bに停車中における次走行駅間15は「駅B~駅C」である。
【0026】
乗務員識別情報16は、車両情報制御装置1が保持しており、支援対象の列車に乗務している乗務員を特定できる情報である。例として、乗務員の氏名や乗務員毎に割り振られたID番号が挙げられる。車両情報制御装置1に対する、乗務員識別情報16の入力方法として、例えば、乗務員自身が車両情報制御装置1に対して、表示器27(
図7及び
図8)等のユーザインタフェースを通して入力する方法が挙げられる。あるいは、乗務員固有のICカードを車両情報制御装置1にセットする方法も考えられる。制限速度22は、駅間の位置に応じた許容最高速度が定義されている。手動ノッチ情報23は、乗務員が操作したノッチ段数である。
【0027】
運転支援装置10は、目標残走行時分算出部2と、減速パタン特徴管理部3と、定速支援部4と、惰行支援部5と制駆動指令演算部6と、より構成されている。
【0028】
目標残走行時分算出部2は、目標着時刻11から現在時刻12を減じて、目標残走行時分17を算出する。算出された目標残走行時分17は、定速支援部4と惰行支援部5に伝達される。
【0029】
減速パタン特徴管理部3は、第1機能、第2機能として説明する2つの機能を有する。第1機能は、乗務員毎の減速パタンのデータベース化である。第2機能は、乗車している乗務員に対応した減速パタンの検索と出力である。
【0030】
第1機能であるデータベース化に関しては、列車速度13、列車位置14、乗務員識別情報16、及び手動ノッチ情報23を入力信号として用いる。これらの情報に基づいて、各乗務員の減速パタンの特徴を駅間毎にデータベース化する。
【0031】
図1に示す実施例1に係る本システムは、駅間の減速区間以外について、自動で列車を運転し、減速区間だけ手動で運転する運転支援システムを例示している。本システムを用いた省エネ運転支援方法によれば、手動運転部分(減速区間)の運転方法に乗務員毎のばらつきがある場合でも、定時性の悪化が抑制できる。本システムは、それを実現するように、自動運転部分(減速区間以外)の走行制御を行う。
【0032】
図2は、
図1の本システムにおける支援情報決定の処理手順を示すフローチャートである。
図2のフローチャートを用いて、列車運行中(駅停止中含む)における、定速走行速度19、及び惰行開始位置20の出力情報の流れについて説明する。
図2に示すように、まず、ステップS1で、減速パタン特徴管理部3は、支援対象の列車が駅に停車中であるか否かを判定する。
【0033】
停車中であれば(S1でYes)ステップS2へ遷移し、停車中で無い場合(S1でNo)、すなわち駅間走行中の場合、ステップS6へ遷移する。駅停車の判定方法の例として、列車速度13、及び列車位置14の情報を用いて、列車が所定の位置範囲で停止していることで判定する方法が挙げられる。
【0034】
駅停車の判定方法について、図示を省略する他の例として、車両情報制御装置1から駅停車中を示すフラグを受信して使用する方法も考えられる。ステップS2では、減速パタン特徴管理部3が、車両情報制御装置1から次走行駅間情報15を取得する。続くステップS3では、減速パタン特徴管理部3が、車両情報制御装置1から乗務員識別情報16を取得する。
【0035】
ステップS4では、減速パタン特徴管理部3が、乗務員識別情報16に基づいて、その乗務員に紐づく減速パタン特徴18をデータベースから検索する。データベースについては、
図4、
図5及び
図6を用いて後述する。ここで検索された減速パタン特徴18は、定速支援部4及び惰行支援部5に対して出力される。
【0036】
ステップS5では、定速支援部4と惰行支援部5において、次走行駅間情報15と減速パタン特徴18に基づいて、それぞれ、定速開始判定用テーブルと惰行開始判定用テーブルが選択されて、次駅間走行に備えて読み込まれる。
【0037】
ステップS6では、惰行支援部5において、惰行開始位置20に値が設定されたか否かを判定する。惰行開始位置20に値が設定されている場合(S6でYes)はステップS7へ遷移し、設定されていない場合(S6でNo)はステップS8へ遷移する。ステップS7では、惰行支援部5が惰行開始位置20の情報を制駆動指令演算部6へ送出する。
【0038】
ステップS8では、定速支援部4において、定速走行速度19に値が設定されたか否かを判定する。定速走行速度19に値が設定されている場合(S8でYes)はステップS9へ遷移し、設定されていない場合(S8でNo)は、本処理手順から離脱する。ステップS9では、定速支援部4が定速走行速度19の情報を制駆動指令演算部6へ送出する。以上が、定速走行速度19、及び惰行開始位置20が情報出力する処理手順である。つぎに、制駆動指令演算部6における制駆動指令21の算出方法を説明する。
【0039】
図3は、
図1の本システムをランカーブに基づいて動作説明するためのグラフである。
図3に示すように、支援対象となる列車の日々の運行実績に基づいて、以下の手順に沿った処理を実行する。まず、(1)減速パタンの特徴を乗務員の識別情報と対応させて蓄積・管理しておく。そして、駅間を走行するにあたり、(2)当駅間を運転する乗務員の識別情報を取得する。これら(1)及び(2)の結果を用いて、(3)ランカーブ形状決定の前提とする減速パタンを検索・設定する。
【0040】
そして、(4)設定した減速パタンを前提として、定時性を守れるランカーブを決定する。以上の手順に沿った処理を実行することで、乗務員毎にランカーブ形状が柔軟に変更されるため、仮想の固定減速パタンを前提としてランカーブ形状を決める場合と比較して、定時性のロバスト性が向上する。なお、ロバスト性とは、ある系が応力や環境の変化といった外乱の影響によって変化することを阻止する内的な仕組み、または性質をいう。
【0041】
図4は、
図1の本システムにおける減速パタン特徴の第1管理方法を示す説明図である。
図4に示すように、この第1管理方法では、位置に応じた速度データをテーブル化し、各乗務員の減速パタンを駅間毎にデータベース化している。同じ乗務員でも時と場合によって異なる減速パタンとなることもあるため、データベースに保存される数値は代表値である。代表値の決め方は、例えば過去の実績の平均値とする方法がある。この方法によればその乗務員の平均的な減速パタンを得ることができる。あるいは、その乗務員の直近の運転操作傾向を反映するため、代表値は直近の走行における速度データとすることもできる。
【0042】
図5は、
図1の本システムにおける減速パタン特徴の第2管理方法を示す説明図である。
図5に示すように、この第2管理方法では、位置に応じたノッチ段数をテーブル化し、各乗務員の減速パタンを駅間毎にデータベース化している。同じ乗務員でも時と場合によって異なる減速パタンとなることもあるため、データベースに保存されるノッチ段数は代表値である。代表値の決め方は、例えば過去の実績で頻繁に使用されたノッチ段数とする方法がある。この方法によればその乗務員が頻繁に用いる減速パタンを得ることができる。あるいは、その乗務員の直近の運転操作傾向を反映するため、代表値は直近の走行におけるノッチ段数とすることもできる。
【0043】
図6は、
図1の本システムにおける減速パタン特徴の第3管理方法を示す説明図である。
図6に示すように、この第3管理方法では、各乗務員の減速パタンを減速度の傾向について、急緩で分類し、駅間毎にデータベース化している。この例では減速度の傾向を急・中庸・緩の3種類に、すなわち2つ以上の段階に分類し、それぞれに想定減速度を割り付けている。各乗務員は、過去の運転実績から、これらのうちの何れか最も近い減速度傾向に分類される。
【0044】
減速パタン特徴管理部3における減速パタン特徴18の管理方法は、
図4、
図5、及び
図6の例に限定されることは無く、乗務員による減速時の速度減少傾向の違いが区別される方法であれば良い。また、駅間毎の管理は必ずしも必要ではなく、全駅間を通した全体的な減速パタン特徴18を、乗務員毎にデータベース化する方法でも良い。
【0045】
減速パタン特徴管理部3における減速パタンの管理及び蓄積は、同一乗務員による減速パタンのサンプル数を増やす目的で、本システムによる運転支援が支援中と非支援中の別に関わらず継続することが望ましい。さらに、減速パタン特徴管理部3における減速パタンの管理及び蓄積は、降雨や降雪の有無と、乗車率の多寡と、前回メンテナンス時期からの経過時間と、によって、細分化して管理及び蓄積されることが望ましい。
【0046】
なぜならば、これらの条件によって車両のブレーキの効きが変化するため、それに応じて乗務員の通常操作の特徴も変化する場合があり、細分化した管理によって、想定する原則パタンの精度が向上するからである。これらの条件を使用する場合は、車両情報制御装置1から、降雨や降雪の有無と、乗車率の多寡と、前回メンテナンス時期からの経過時間と、に関する情報を取得し、使用する方法が考えられる(不図示)。
【0047】
減速パタン特徴管理部3の第2機能である、乗車している乗務員に対応した減速パタンの検索と出力、に関しては、次走行駅間情報15及び乗務員識別情報16が入力情報であり、減速パタン特徴18が出力情報である。次走行駅間情報15及び乗務員識別情報16を用いて、上述のデータベースから対応する減速パタン特徴18を検索し、定速支援部4及び惰行支援部5に出力する。
【0048】
定速支援部4は、目標残走行時分17、列車速度13、列車位置14、次走行駅間情報15、及び減速パタン特徴18を入力して、定速走行速度19を算出し、制駆動指令演算部6へ出力する。定速走行速度19の算出方法については後述する。
【0049】
惰行支援部5は、目標残走行時分17、列車速度13、列車位置14、次走行駅間情報15、及び減速パタン特徴18を入力して、惰行開始位置20を算出し、制駆動指令演算部6へ出力する。惰行開始位置20の算出方法については後述する。
【0050】
制駆動指令演算部6は、列車速度13と列車位置14と定速走行速度19及び惰行開始位置20と制限速度22を入力して、制駆動指令21を算出し、車両情報制御装置1へ出力する。制駆動指令21の算出方法については後述する。つぎに、実施例1の省エネ運転支援システムに含まれる、定速支援部4と惰行支援部5における各出力の算出方法を説明する。
【0051】
定速支援部4は、列車が定速運転に移行するべき速度を算出して、定速走行速度19として出力する。定速走行速度19の算出方法の一例として、駅間の位置と速度毎に残走行時分が定義されている、定速開始判定テーブルを使用する方法がある。定速開始判定テーブルに格納されている残走行時分と目標残走行時分17を比較することで、現在の位置と速度から定速運転をした方が良いか、あるいは力行を継続した方が良いかが判定できる仕組みである。定速開始判定テーブルに格納されている残走行時分は、定時性を守りつつ、より省エネになるような値が、予めシミュレーションベースで決められている(もちろん、実際に列車を走行させて実測により値を定めても良い)。
【0052】
目標残走行時分17が定速開始判定テーブルにおける現在の位置と速度に対応する残走行時分の値より小さい場合は、力行を続けて加速し走行時分を短縮させる必要があるため、定速走行速度19に値を設定しない。
【0053】
一方、目標残走行時分17が定速開始判定テーブルにおける現在の位置と速度に対応する残走行時分の値以上である場合は、定速開始判定テーブルにおいて現在の位置における残走行時分が目標残走行時分17と最も近い値になる速度を定速走行速度19として出力する。
【0054】
定速開始判定テーブルは各駅間につき複数種類が運行前に予め用意され、運行中には減速パタン特徴18の内容によって、それら複数のテーブルから選択使用される。
【0055】
減速パタン特徴18の管理方法が、
図4や
図5のように乗務員毎に減速パタンを定義する方法の場合は、乗務員毎の各減速パタンを前提としてシミュレーションを事前に行い、定速開始判定テーブルを用意する方法がある。
【0056】
あるいは、定速開始判定テーブルを作成する方法として、仮想的な複数の減速パタンを前提としてシミュレーションを事前に行っておく方法もある。ここで複数の減速パタンの例として、ブレーキノッチ段数毎に減速パタンを仮定する方法が挙げられる。この場合、減速パタン特徴18は
図4や
図5の表中に記載された速度データやノッチである。定速支援部4の内部では、の仮想的な複数の減速パタンの中から、減速パタン特徴18に最も近い減速パタンが選ばれ、その減速パタンを前提に作成された定速開始判定テーブルが使用される。
【0057】
減速パタン特徴18の管理方法が、
図6の「急」、「緩」、「中庸」のように予めいくつかのパタンに分類されている場合は、
図6記載の各想定減速度の減速パタンを前提して、シミュレーションを行って定速開始判定テーブルを用意する。減速パタン特徴18は減速度傾向の分類であり、指定された分類に応じて、定速開始判定テーブルが選択使用される。このように、減速パタン特徴18は、減速度の大きさに応じて2つ以上の段階に分類されて管理されることが好ましい。
【0058】
惰行支援部5は、列車が惰行運転に移行するべき位置を算出して、惰行開始位置20として出力する。惰行開始位置20の算出方法の一例として、駅間の位置と速度毎に残走行時分が定義されている、惰行開始判定テーブルを使用する方法がある。
【0059】
惰行開始判定テーブルに格納されている残走行時分と目標残走行時分17を比較することで、現在の位置と速度から惰行運転をした方が良いか、あるいは現在の運転操作を継続した方が良いかが判定できる仕組みである。惰行開始判定テーブルに格納されている残走行時分は、定時性を守りつつ、より省エネになるような値が、予めシミュレーションベースで決められている。もちろん、実際に列車を走行させて実測により値を定めても良い。
【0060】
目標残走行時分17の方が惰行開始判定テーブルにおける現在の位置と速度に対応する残走行時分の値よりも小さい間は、その時点で惰行開始すると定時性が確保できない、すなわち遅着するため、惰行開始位置20に値を設定しない。
【0061】
一方、目標残走行時分17が惰行開始判定テーブルにおける現在の位置と速度に対応する残走行時分の値の近辺(例えば±5秒以内)となった時点で、その時点での列車位置14を惰行開始位置20として出力する。
【0062】
惰行開始判定テーブルは各駅間につき複数種類が運行前に予め用意され、運行中には減速パタン特徴18の内容によって、それら複数のテーブルが使い分けられる。減速パタン特徴18の管理方法による、テーブルを作成する方法及びそれを選択して使用する方法は定速開始判定テーブルに対する考え方と同じである。以上が、定速支援部4と惰行支援部5における各出力の算出方法の説明である。
【0063】
まず、制駆動指令演算部6は、列車速度13が保安装置7から取得する制限速度22を基本的に超過しないように、制駆動指令21を演算して出力する。すなわち、制駆動指令演算部6は、列車速度13が制限速度22を超過しない範囲で、定速走行速度19及び惰行開始位置20に基づいた制駆動指令21を算出する。なお、実施例1は、駅への停止ブレーキは乗務員が実施する前提である。
【0064】
列車が駅を発車した後、制駆動指令演算部6は、定速走行速度19及び惰行開始位置20の内容を周期的に確認しながら力行させることにより、列車を加速する。定速走行速度19に値が設定された場合、その設定速度に列車速度13を追従させるように制駆動指令21を演算する。
【0065】
その後、惰行開始位置20に値が設定された場合には、その時点から惰行を始める。なお、力行による加速中、定速走行速度19の値が設定されないまま、惰行開始位置20の値が設定される場合もある。その場合は定速走行を挟まずに、その設定地点から惰行を開始する。
【0066】
制限速度22によって、駅間に低い速度の速度制限が存在する場合には、制駆動指令演算部6は、列車速度13がその速度制限を超過しないように、制駆動指令21を算出する。速度制限が無くなった後は、駅発車後と同様の手順で加速運転、定速運転、及び惰行運転を行う。
【0067】
上述のとおり、実施例1では、停止駅に近づいた際の停止ブレーキ操作は乗務員の役割とする。車両情報制御装置1では、制駆動指令21の内容によらず、乗務員によるノッチ操作(不図示)を優先させて主回路及びブレーキ装置に制動指令が送られる。
【0068】
制駆動指令演算部6において、目標とする速度(定速走行速度19や制限速度22)に列車速度13を追従させるための制御は、比例制御やファジー制御等が知られている。しかし、ここでは、その制御方式は問わないこととする。制駆動指令演算部6における制駆動指令21の算出方法を主とする実施例1の説明は、以上のとおりである。以下、実施例2では、駅間走行全体にわたって、手動での列車運転を支援する例を示す。
【実施例2】
【0069】
図7は、本発明の実施例2に係る省エネ運転支援システム(これも「本システム」という)の概略構成を示すブロック図である。
図7の本システムは、運転支援装置30と、車両情報制御装置1と、表示器27と、より構成されている。運転支援装置10は、運転支援装置30は、車両情報制御装置1から取得する情報に基づいて、運転士支援情報26を決定・出力する。
【0070】
運転士支援情報26は表示器27を通して乗務員に教示される。運転支援装置30が車両情報制御装置1から取得する情報は、目標着時刻11と現在時刻12と列車速度13と列車位置14と制駆動力情報25と次走行駅間情報15と乗務員識別情報16と手動ノッチ情報23である。
【0071】
目標着時刻11と現在時刻12と列車速度13と列車位置14と次走行駅間情報15と乗務員識別情報16と手動ノッチ情報23は、実施例1に記載のとおりである。制駆動力情報25は、発生した制駆動力の実績値又は指令値である。これらは、車両情報制御装置1に保持されている。
【0072】
運転支援装置30は、目標残走行時分算出部2と、位置・速度予測部28と、減速パタン特徴管理部3と、定速支援部4と、惰行支援部5と、運転士支援情報作成部9と、により構成されている。目標残走行時分算出部2は実施例1に記載のとおりである。
【0073】
位置・速度予測部28は、列車速度13と列車位置14と制駆動力情報25とを入力して、予測速度29と予測位置24を算出し、定速支援部4と惰行支援部5へ出力する。予測速度29及び予測位置24の算出方法については後述する。減速パタン特徴18部は実施例1に記載のとおりである。
【0074】
定速支援部4は、目標残走行時分17と予測速度29と予測位置24と次走行駅間情報15と減速パタン特徴18を入力して、定速走行速度19を算出し、運転士支援情報作成部9へ出力する。定速走行速度19の算出方法については後述する。
【0075】
惰行支援部5は、目標残走行時分17と予測速度29と予測位置24と次走行駅間情報15と減速パタン特徴18を入力して、惰行開始位置20を算出し、運転士支援情報作成部9へ出力する。惰行開始位置20の算出方法については後述する。
【0076】
運転士支援情報作成部9は、定速走行速度19及び惰行開始位置20を入力して、乗務員に対する運転士支援情報26を作成する。運転士支援情報26の具体例として、制御モードとパラメータの組として構成する方法が挙げられる。ここで制御モードとは「定速」もしくは「惰行」であり、パラメータとは「定速」に対しては速度を、「惰行」に対しては位置を設定することが考えられる。表示器27は、画面表示あるいは音声鳴動、もしくはその両方で運転士支援情報26を教示する。運転支援内容教示の具体例は後述する。以上が、実施例2に係る省エネ運転支援システム(本システム)の概略構成の説明である。
【0077】
つぎに、
図7で示した実施例2に係る本システムに含まれる、位置・速度予測部28と定速支援部4と惰行支援部5における各出力データの算出方法を説明する。
【0078】
位置・速度予測部28は、対象となる列車の所定時間後の速度と位置を予測する。これは、手動運転における運転支援という機能の特性上、乗務員に対して実際に必要となる運転操作タイミングよりも早いタイミングで運転操作内容を教示することが必要だからである。
【0079】
速度と位置の予測方法の一例として、位置・速度予測部28は、列車速度13と列車位置14を基準に、それから先の所定時間後まで制駆動力情報25が続いたと仮定して、予測速度29と予測位置24を計算する。
【0080】
予測の計算過程では、車両の制駆動特性や路線条件、あるいは制限速度22情報を加味することで、より精度の良い予測が可能となる(これらの付加情報は不図示)。また、予測用の所定時間は乗務員が支援内容を知覚してから余裕を持って操作に移ることができるように決められる。
【0081】
定速支援部4における定速走行速度19の算出過程は、実施例1における列車速度13と列車位置14の代わりに、実施例2の予測速度29と予測位置24を用いることで算出される。具体的な算出方法については実施例1に記載のとおりである。
【0082】
惰行支援部5における惰行開始位置20の算出過程は、実施例1における列車速度13と列車位置14の代わりに、実施例2の予測速度29と予測位置24を用いることで算出される。具体的な算出方法については実施例1に記載のとおりである。表示器27では、運転士支援情報26に従って、乗務員に対する支援内容を教示する。具体例として、
図8を用いて後述する運転操作内容を教示する方法が挙げられる。
【0083】
実施例2では、本発明の省エネ運転支援システムによって、駅間走行全体にわたって、手動での列車運転を支援する例を示す。実施例2に示す方法によれば、減速区間の運転方法に乗務員毎のばらつきがある場合でも、定時性の悪化が抑制できる運転支援情報を乗務員に教示可能となる。なお、実施例2には、原則区間の一部を自動で運転する場合も含む。
【0084】
図8は、
図7の本システムにおける表示器27が表示内容を遷移させた一例を示す説明図である。
図8に示すように、運転台に設置された表示器27に、運転操作内容が表示されている。定速走行速度19に値が設定されている場合に「87km/h定速」、惰行開始位置20が設定されている場合に「Xm地点でノッチオフ」といった運転操作内容が表示される。画面表示以外に音声鳴動での教示も可能であり、両者を併用することも考えられる。列車運行中(駅停止中含む)における、定速走行速度19及び惰行開始位置20が、それぞれ出力される処理手順は
図2の通りであり、実施例1において説明したとおりである。
【0085】
以下、本発明の要点を特許請求の範囲に沿って説明する。
[1]本システムは、駅間走行中の列車の乗務員に運転操作を支援するものである。本システムは、定速支援部4と、惰行支援部5と、目標残走行時分算出部2と、減速パタン特徴管理部3と、を備えて構成されている。定速支援部4は、列車の在線位置に応じた定速走行速度19を決定する。惰行支援部5は、列車の在線位置に応じた惰行開始位置20を決定する。目標残走行時分算出部2は、次停車駅までの残走行時間の目標値を算出する。減速パタン特徴管理部3は、乗務員毎の減速パタン特徴18を管理する。
【0086】
減速パタン特徴管理部3は、支援対象の列車の乗務員に対応した減速パタン特徴18を出力する。このように出力された減速パタン特徴18のほかに、列車の位置及び速度と、目標残走行時間と、に基づいて、定速支援部4及び惰行支援部5は、定速走行速度19及び惰行開始位置20をそれぞれ決定する。
【0087】
このような本システムの動作によって、普及が望まれている有人の省エネ運転支援システム、すなわち、少なくとも減速区間は乗務員が手動で運転するという省エネ運転支援システムに残されていた課題を解決できる。その課題とは、乗務員の個人的運転技量に基づく制動操作について、ばらつきが不可避とされていた課題である。
【0088】
その課題に対し、本システムによれば、どの乗務員にとっても受け入れ易いように、個人的運転技量を尊重した支援策を提示して遅着や早着を抑制するとともに、省エネ走行を追求することが可能となる。つまり、支援対象の列車の乗務員に対応した、乗務員個別の減速パタン特徴18に基づいた支援策は、個人的運転技量を尊重した内容である。
【0089】
したがって、その内容を提示された乗務員本人は、当然に自分の個性に合わせた支援策であるため、心理的抵抗が少なく受け入れ易い。その結果、乗務員は、省エネ目的に即して最適の支援策に沿った最適な運転操作を実行する。このように、本システムによれば、遅着や早着を抑制するとともに、省エネ走行を追求することが可能となる。
【0090】
[2]本システムにおいて、減速パタン特徴18は、列車位置14に応じた速度情報として管理される。これについて、
図4に示すように、第1管理方法では、位置に応じた速度データをテーブル化し、各乗務員の減速パタンを駅間毎にデータベース化している。すなわち、減速パタン特徴18は、
図4の表中に記載されたように、駅1から駅2までの間における位置[m]に応じた速度情報として管理されている。
【0091】
[3]本システムにおいて、減速パタン特徴18は、列車位置14に応じたノッチ扱い情報として管理される。すなわち、減速パタン特徴18は、
図5の表中に記載されたように、第2管理方法では、駅1から駅2までの間における位置[m]に応じたノッチ扱い情報として管理される。この情報を用いた実際の運転支援において、例えば、
図8に示すように、惰行開始位置20が設定されている場合に「Xm地点でノッチオフ」といった運転操作内容が表示される。
【0092】
[4]本システムにおいて、減速パタン特徴18は、減速度の大きさに応じて2つ以上の段階に分類されて管理される。これについて、
図6に示すように、第3管理方法では、各乗務員の減速パタンを減速度の傾向の急緩で2つ以上の段階に分類し、駅間毎にデータベース化している。実施例では減速度の傾向を急・中庸・緩の3種類に分類し、それぞれに想定減速度を割り付けている。各乗務員は、過去の運転実績から、これらのうち何れか最も近い減速度傾向に分類される。
【0093】
[5]本システムにおいて、減速パタン特徴18は、降雨や降雪の有無と、乗車率の多寡と、前回メンテナンス時期からの経過時間と、の少なくとも何れかの条件によって、場合分け管理される。
[6]本システムにおいて、減速パタン特徴管理部3は、車両情報制御装置1から支援対象の列車の乗務員を識別する情報を取得する(
図2のステップS3)。では、減速パタン特徴管理部3が、車両情報制御装置1から乗務員識別情報16を取得する。なお、乗務員識別情報16の一例として、乗務員の氏名や乗務員毎に割り振られたID番号が挙げられる。
【0094】
[7]本システムにおいて、減速パタン特徴管理部3は、降雨や降雪の有無と、乗車率の多寡と、前回メンテナンス時期からの経過時間と、の少なくとも何れかに関する情報を車両情報制御装置1から取得する。これらの条件によって車両のブレーキの効きが変化するため、それに応じて乗務員の通常操作の特徴も変化する場合がある。これに対し、細分化した管理によって、想定する原則パタンの精度が向上させることができる。
【0095】
[8]本システムにおいて、定速走行速度19及び惰行開始位置20に基づき、制駆動装置への制駆動指令21を計算する制駆動指令演算部6を備える。本発明では、駅への停止ブレーキは乗務員が実施する前提である。その乗務員を支援するため、制駆動指令演算部6は、列車速度13が、保安装置7から取得する制限速度22を超過しないように制駆動指令21を演算して出力する。すなわち、制駆動指令演算部6は、制限速度22を列車速度13が超過しない範囲において、定速走行速度19及び惰行開始位置20に基づいた制駆動指令21の算出を行う。算出された制駆動指令21は、制駆動指令演算部6から車両情報制御装置1へ出力されて乗務員を支援する。
【0096】
[9]本システムにおいて、定速走行速度19及び惰行開始位置20に基づき、乗務員が参照するための目標速度と惰行タイミングを出力する運転士支援情報作成部9(
図7)を備える。運転士支援情報作成部9は、定速走行速度19及び惰行開始位置20を入力して、乗務員に対する運転士支援情報26を作成する。
【0097】
運転士支援情報26の具体例として、制御モードとパラメータの組として構成する。この制御モードの例として、「定速」もしくは「惰行」がある。組の例として、「定速」に対しては速度を、「惰行」に対しては位置を組み合わせて設定する。
図7及び
図8に示す表示器27は、運転士支援情報26を教示する。
【0098】
[10]本システムにおいて、運転士支援情報作成部9が出力した目標速度と惰行タイミングを、表示と音声の少なくとも何れかで乗務員に教示する端末を備える。
図8に示すように、表示器27において、定速走行速度19に値が設定されている場合に「87km/h定速」、惰行開始位置20が設定されている場合に「Xm地点でノッチオフ」といった運転操作内容が表示される。画面表示以外に音声鳴動での教示も可能であり、両者を併用しても良い。
【0099】
[11]本方法は、車両情報制御装置1と運転支援装置10と保安装置7とを用いて、駅間を走行中の列車の運転操作を支援する方法である。運転支援装置10は、車両情報制御装置1を経由して制駆動指令21を制駆動装置へ伝達する。この、運転支援装置10は、目標残走行時分算出部2と、減速パタン特徴管理部3と、定速支援部4と、惰行支援部5と、制駆動指令演算部6と、を備えて構成されている。
【0100】
目標残走行時分算出部2は、次停車駅までの残走行時間の目標値を算出する。減速パタン特徴管理部3は、乗務員毎の減速パタン特徴18を管理する。定速支援部4は、列車の在線位置に応じた定速走行速度19を決定する。惰行支援部5は、列車の在線位置に応じた惰行開始位置20を決定する。制駆動指令演算部6は、列車速度13と列車位置14と定速走行速度19及び惰行開始位置20と制限速度22を入力して、制駆動指令21を算出し、車両情報制御装置1へ出力する。
【0101】
運転支援装置10は、車両情報制御装置1から目標着時刻11と現在時刻12と列車速度13と列車位置14と次走行駅間情報15と乗務員識別情報16と手動ノッチ情報23と、を取得するほか、保安装置7から制限速度22を取得する。
【0102】
減速パタン特徴管理部3は、つぎに示す手順(ステップS1~ステップS9)により、で減速パタン特徴18を、定速支援部4及び惰行支援部5に対して出力する。まず、ステップS1では、支援対象の列車が駅に停車中であるか否かを判定する。つぎに、ステップS2では、車両情報制御装置1から次走行駅間情報15を取得する。つぎに、ステップS3では、車両情報制御装置1から乗務員識別情報16を取得する。
【0103】
つぎに、ステップS4では、乗務員識別情報16に基づいて、その乗務員に紐づく減速パタン特徴18をデータベースから検索する。検索された減速パタン特徴18は、定速支援部4及び惰行支援部5に対して出力される。
【0104】
つぎに、ステップS5では、定速支援部4及び惰行支援部5が、次走行駅間情報15と減速パタン特徴18に基づいて、それぞれ、定速開始判定用テーブルと惰行開始判定用テーブルを選択し、次駅間走行に備えて読み込む。つぎに、ステップS6,S8では、惰行支援部5及び定速支援部4が、惰行開始位置20及び定速走行速度19の設定有無をそれぞれ判定する。
【0105】
また、定速支援部4及び惰行支援部5が、目標残走行時間と、減速パタン特徴18と、列車の位置及び速度と、に基づいて、定速走行速度19及び惰行開始位置20を決定する。つぎに、ステップS7,S9では、惰行支援部5及び定速支援部4が、設定された惰行開始位置20及び定速走行速度19を制駆動指令演算部6に送出する。本方法は、以上の手順により、駅間を走行中の列車の運転操作を支援する。
【0106】
また、上述の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。なお、本システムは、不図示のコンピュータにより構成されている。そのコンピュータは、例えば、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、通信装置と、入出力装置と、を備える。CPUは、メモリに記憶されるプログラムを実行することで、
図1~
図8に例示した機能を実現する。このコンピュータのメモリには、
図4に例示した各種DBも格納される。また、各機能を実現するプログラム、テーブル、等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【符号の説明】
【0107】
1 車両情報制御装置、2 目標残走行時分算出部、3 減速パタン特徴管理部、4 定速支援部、5 惰行支援部、6 制駆動指令演算部、7 保安装置、9 運転士支援情報作成部、10,30 運転支援装置、11 目標着時刻、12 現在時刻、13 列車速度、14 列車位置、15 次走行駅間情報、16 乗務員識別情報、17 目標残走行時分、18 減速パタン特徴、19 定速走行速度、20 惰行開始位置、21 制駆動指令、22 制限速度、23 手動ノッチ情報、24 予測位置、25 制駆動力情報、26 運転士支援情報、27 表示器、28 位置・速度予測部、29 予測速度