(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】成形断熱材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/532 20060101AFI20240125BHJP
C04B 35/83 20060101ALI20240125BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20240125BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20240125BHJP
F16L 59/02 20060101ALI20240125BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C04B35/532
C04B35/83
C04B38/00 303A
C04B41/87 S
F16L59/02
F27D1/00 K
F27D1/00 G
(21)【出願番号】P 2020046703
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101823
【氏名又は名称】大前 要
(74)【代理人】
【識別番号】100181412
【氏名又は名称】安藤 康浩
(72)【発明者】
【氏名】惟高 直人
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-058428(JP,A)
【文献】特開2012-091988(JP,A)
【文献】特開2017-137200(JP,A)
【文献】特開2018-158874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/532
C04B 35/83
C04B 38/00
C04B 41/87
F16L 59/02
F27D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を交絡させた炭素繊維フェルトと前記炭素繊維フェルトの炭素繊維表面を被覆する炭素質からなる保護炭素層とを有する成形断熱材の少なくとも一つの表面に、炭素質の骨材と、軟化点を有する熱硬化性樹脂粒子とが、前記熱硬化性樹脂粒子が溶解しない分散媒中に分散された表面被覆液を含浸させる含浸ステップと、
前記含浸ステップの後、
前記熱硬化性樹脂粒子の軟化点以上で、前記軟化点+30℃以下の温度で、15分以上加熱し、前記熱硬化性樹脂粒子を軟化させて前記炭素質の骨材を前記成形断熱材に固定する軟化ステップと、
前記軟化ステップの後、500℃以上で焼成して前記熱硬化性樹脂粒子を炭素化させる焼成ステップと、を備える成形断熱材の製造方法。
【請求項2】
前記分散媒が、水である、
ことを特徴とする請求項1に記載の成形断熱材の製造方法。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂粒子は、平均粒子径が3~100μmのフェノール樹脂粒子である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の成形断熱材の製造方法。
【請求項4】
前記表面被覆液における前記炭素質の骨材と、前記熱硬化性樹脂粒子との質量比が、30:70~80:20である、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の成形断熱材の製造方法。
【請求項5】
炭素繊維を交絡させた炭素繊維フェルトと前記炭素繊維フェルトの炭素繊維表面を被覆する炭素質からなる保護炭素層とを有する成形断熱材において、
前記成形断熱材の少なくとも一つの表面には、炭素質の骨材が軟化した熱硬化性樹脂粒子の炭素化物により固着されてなる
、かさ密度が0.1~2.0/cm
3
である表面被覆層を有する、
ことを特徴とする成形断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維を用いた成形断熱材及びその製造方法に関し、詳しくは耐久性を高めるための表面層が形成された成形断熱材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維系の断熱材は、熱的安定性や断熱性能に優れ且つ軽量であることから、種々の用途で使用されている。このような断熱材には、炭素繊維を交絡してなる炭素繊維フェルトや、炭素繊維フェルトに樹脂材料を含浸させ炭素化させた炭素繊維成形断熱材がある。炭素繊維フェルトは可とう性に優れるという長所を有し、炭素繊維成形断熱材は、形状安定性に優れ、微細な加工が可能であるという長所を有する。
【0003】
何れの断熱材を使用するかは、使用目的や用途に応じて適宜選択される。後者の炭素繊維成形断熱材は、熱的安定性、断熱性能に優れ且つ形状安定性に優れることから、単結晶シリコン引き上げ装置、多結晶シリコンキャスト炉、金属やセラミックスの焼結炉、真空蒸着炉等の高温炉の断熱材として使用されている。
【0004】
ところが、単結晶や多結晶シリコンなどの製造装置においては、高温炉内でSiOガスが発生したり、酸素ガスが不純物ガスとして製造雰囲気に混入したりする。SiOガスや酸素ガスは活性(反応性)が高く、炭素繊維成形断熱材とSiOガスとが反応するとSiCが生じ、炭素繊維成形断熱材と酸素ガスとが反応すると炭素酸化物(一酸化炭素、二酸化炭素等)が生じる。これにより特に炭素繊維が劣化し、炭素繊維により構成される骨格構造が崩れ、当該骨格構造が多数の空間を形成することにより得られる断熱作用が低下する。また、この劣化により特に炭素繊維が粉化して炉内雰囲気中に放出されて、製品品質を低下させるというおそれもある。
【0005】
また、工業炉においては、炉内の気圧が大気圧よりも大きくなることがある。このような場合、圧力差によって炉内雰囲気ガス(窒素ガスやアルゴンガス)の気流が生じるが、活性の高い雰囲気ガスが成形断熱材の内部空間に浸透すると、成形断熱材の内部組織が劣化して断熱性能が低下してしまう。
【0006】
この問題に対して、本発明者らは、成形断熱材の少なくとも一つの表面に、緻密下地層、表面被覆層を順次形成してなる表面層を形成する技術を提案している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【0008】
この技術によると、耐久性を犠牲にすることなく、成形断熱材内部へのガスの浸透を抑制し得た成形断熱材を実現できるとされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者が成形断熱材について鋭意研究した結果、上記特許文献1の技術を高周波誘導加熱方式の炉に使用する際には、次のような問題が生じることを知った。
【0010】
表面層の表面抵抗率が低い場合、表面層において高周波誘導加熱の誘導電流が発生してしまい、これにより発熱する。このため、表面層が高温となってしまい、断熱効果が低減し、表面層の劣化が生じやすくなるとともに、無用な電流の発生によりエネルギーコストも増大してしまう。上記特許文献1の技術では、表面層が導電性の高い炭素による緻密な層であるために表面抵抗率が低く、高周波誘導加熱方式の炉に使用することは不適である。なお、高周波誘導加熱は、非接触で自己発熱させるため、加熱効率が良い、作業性が良いなどの利点がある。
【0011】
表面層を設けない場合には、誘導電流が流れにくいのでこのような問題は生じないが、高周波誘導加熱方式の炉に適用する場合において、ガスの透過阻止機能、粉落ち防止機能などが求められることは多い。
【0012】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、高周波誘導加熱方式の炉に使用することに適し、且つ、成形断熱材内部へのガスの浸透を抑制し得た成形断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明にかかる成形断熱材の製造方法は、次のとおりである。
炭素繊維を交絡させた炭素繊維フェルトと前記炭素繊維フェルトの炭素繊維表面を被覆する炭素質からなる保護炭素層とを有する成形断熱材の少なくとも一つの表面に、炭素質の骨材と、軟化点を有する熱硬化性樹脂粒子とが、前記熱硬化性樹脂粒子が溶解しない分散媒中に分散された表面被覆液を含浸させる含浸ステップと、前記含浸ステップの後、前記軟化点以上の温度に加熱して前記熱硬化性樹脂粒子を軟化させて前記炭素質の骨材を前記成形断熱材に固定する軟化ステップと、前記軟化ステップの後、500℃以上で焼成して前記熱硬化性樹脂粒子を炭素化させる焼成ステップと、を備える成形断熱材の製造方法。
【0014】
炭素繊維フェルトと、炭素繊維フェルトの炭素繊維表面を被覆する炭素質からなる保護炭素層と、を有する成形断熱材であると、成形断熱材の周囲に、不純物として混入或いは炉内で発生した活性ガス(酸素ガス、SiOガス等)が存在する場合、炭素繊維表面を被覆する保護炭素層が炭素繊維に先んじて活性ガスと反応する。これにより炭素繊維と活性ガスとが反応して劣化することが抑制される。
【0015】
ここで、保護炭素層が酸素ガスと反応する場合、保護炭素層を構成する炭素が炭酸ガスとなって除去され、また、SiOガスと反応する場合にはSiCとなって除去されることなく残存するが、いずれの場合も炭素繊維により構成される骨格構造が維持されるので、当該骨格構造が多数の空間を形成することにより得られる断熱作用が維持される。
【0016】
そして、上記本発明では、成形断熱材の表面には、表面被覆層が形成される。この層は、炭素質の骨材と熱硬化性樹脂粒子とが、熱硬化性樹脂を溶解しない分散媒中に分散された表面被覆液を、成形断熱材に浸透後、熱硬化性樹脂粒子を軟化させた後に炭素化してなるものである。そして、成形断熱材の炭素繊維間の空隙の一部が、骨材と熱硬化性樹脂の炭素化物とによって埋められ、ガスが通過する経路の径が小さくなる。このため、成形断熱材内部へのガスの侵入が抑制される。また、表面被覆層は、成型断熱材の粉落ちも防止するように作用する。
【0017】
また、表面被覆液は、熱硬化性樹脂粒子および骨材を溶解せずに分散した状態であり、熱硬化性樹脂粒子と固形の骨材とが凝集した状態で成形断熱材に含浸される。この後、熱硬化性樹脂粒子の軟化点以上の温度で加熱されると、熱硬化性樹脂粒子が軟化して変形する。これにより、熱硬化性樹脂粒子が骨材を、成形断熱材を構成する炭素繊維に接着固定する。この後、焼成を行うと、骨材固定機能を失うことなく軟化した熱硬化性樹脂粒子が炭素化される。このようにして形成される表面被覆層は、粒子の凝集により不均一なもの、つまり面方向に隙間の多いものとなる。この結果、表面被覆層の表面抵抗を高く(導電性を低く)でき、高周波誘導加熱方式の炉に使用する場合に、表面被覆層での誘導電流・誘導加熱を低減できる。
【0018】
なお、軟化ステップを行わない場合には、成型断熱材に熱硬化性樹脂粒子による骨材を固定接着する作用が得られない(表面被覆層を形成できない)ため、熱硬化性樹脂粒子の軟化ステップは不可欠のステップである。また、分散媒ではなく溶媒を用い、熱硬化性樹脂粒子を溶解させてしまうと、熱硬化性樹脂が全体に均一に広がるので、製造される表面被覆層の表面抵抗を小さくしてしまう。
【0019】
つまり、上記本発明の製造方法によると、成形断熱材内部へのガスの侵入を効果的に抑制しつつも、誘導電流を流れにくく(表面抵抗を大きく)でき、これにより高周波誘導加熱方式の炉に適した成形断熱材を実現できる。
【0020】
表面被覆液の含浸は公知の方法を採用でき、例えば表面被覆液を入れた容器に成形断熱材を浸ける方法、スプレーや刷毛を用いて添加する方法などを採用できる。含浸させやすくするために、圧力をかけながら塗布などを行ってもよい。
【0021】
表面被覆層は、成型断熱材の少なくとも1つの面に形成されるが、2以上の面に形成されている構成としてもよい。表面被覆層の形成面数を増加させるとその分コスト高になるので、成型断熱材の用途や熱源の配置などに応じて適宜決定すればよい。
【0022】
分散媒としては、熱硬化性樹脂を溶解しないものであれば特に限定されないが、安価で低沸点であることが好ましい。中でも、安価で環境負荷のない水がより好ましく、イオン交換、蒸留などによって純度が高められた水であることがさらに好ましい。
【0023】
(熱硬化性樹脂)
ここで、本明細書において、単なる「熱硬化性樹脂」とは、軟化前のものを意味し、軟化後で且つ熱硬化前のものは「軟化後」、熱硬化後で且つ炭素化前のものは「熱硬化後」、炭素化のものは「炭素化後」などの語を付して区別する。
【0024】
また、軟化点とは、樹脂の温度を上昇させていったときに、変形し始めるときの温度のことをいう。なお、すべての熱硬化性樹脂が軟化点を有するものではなく、軟化点を有さない熱硬化性樹脂(不融化処理がなされた樹脂など)は、本発明では使用しない。また、熱硬化性樹脂の軟化点は、例えば市販品のカタログ値とすることができ、またJIS K 5601-2-2に従い求めることもできる。
【0025】
また、市販の熱硬化性樹脂の軟化点のカタログ値は、特定の温度一点ではなく幅を持っていることがある。この場合、軟化点以上の温度とは、その下限値以上の温度を意味する。軟化ステップは、好ましくはその中央値以上の温度、より好ましくは上限値以上の温度で加熱する。
【0026】
また、熱硬化性樹脂粒子は、軟化点を有するものであれば特に限定されず、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等の粒子を使用することができ、中でもフェノール樹脂粒子が好ましい。また、熱硬化性樹脂粒子の平均粒子径は、3~100μmであることが好ましく、5~70μmであることがより好ましく、10~40μmであることがさらに好ましい。なお、平均粒子径は、レーザー回折による中心粒径D50とすることができる。
【0027】
熱硬化性樹脂粒子の軟化点(幅のある場合、その下限値)は、140~90℃であることが好ましく120~90℃であることがより好ましく、100℃~90℃であることがさらに好ましい。軟化点が高すぎると、軟化ステップで高温をかける必要があり、コスト高になる。軟化点が低すぎると、室温での作業時にも軟化して作業性が低下する。また、軟化ステップにおいて熱硬化性樹脂粒子の軟化とともに分散媒の揮発除去が行えることが好ましく、分散媒として水を用い、100℃の加熱で軟化と水の揮発とを同時に行う構成が最も好ましい。
【0028】
また、熱硬化性樹脂粒子の形状は特に限定されず、球状、楕円球状、その他不定形状などとすることができ、これらの混合物であってもよい。
【0029】
また、熱硬化性樹脂粒子の残炭率(焼成後質量/焼成前質量×100)は、30~70%であることが好ましく、40~70%であることがより好ましく、50~70%であることがさらに好ましい。
【0030】
(骨材)
表面被覆液に用いる骨材の形状としては特に限定されず、粒子状、ミルド(短繊維)状などとすることができる。なお、端面が円形状であるもの(短繊維)、アスペクト比が9以上であるものなどは、粒子状ではないものとする。
【0031】
ここで、骨材の形状が球状、楕円球状などの粒子状である場合には、繊維状、針状などのアスペクト比が高い形状である場合よりもガスの経路の径を小さくする効果が大きい。骨材は、黒鉛粒子と炭素繊維ミルドとを含んでいることが好ましい。
【0032】
また、本明細書において炭素とは、広義のものを意味し、非晶質(難黒鉛化性、易黒鉛化性)であっても黒鉛質であってもよい。
【0033】
また、骨材に黒鉛粒子などの粒子状の炭素を含ませる場合、その平均粒径は、好ましくは3~100μmであり、より好ましくは5~60μmであり、さらに好ましくは10~40μmである。
【0034】
骨材に炭素繊維のミルドを含ませる場合、その平均繊維径は、好ましくは5~30μm、より好ましくは6~20μm、さらに好ましくは7~18μmとする。また、平均繊維長(長さ平均繊維長)は、その平均粒径は、好ましくは0.04~0.8mm、より好ましくは0.1~0.6mm、さらに好ましくは0.2~0.5mmとする。長さ平均繊維長ZLは、個々の繊維長をXnとするとき、ZL=(X1
2+X2
2+X3
2+・・・+Xn
2)/(X1+X2+X3+・・・+Xn)で表されるものである。
【0035】
(表面被覆液)
表面被覆液における炭素質の骨材と、熱硬化性樹脂粒子との質量比は、30:70~80:20であることが好ましく、35:65~75:25であることがより好ましく、40:60~70:30であることがさらに好ましい。
【0036】
そして、焼成されてなる表面被覆層において、炭素質の骨材と、熱硬化性樹脂粒子の炭素化物との質量比は、45:65~90:10であることが好ましく、50:50~85:15であることがより好ましく、55:45~80:20であることがさらに好ましい。
【0037】
また、表面被覆液における固形分(骨材+熱硬化性樹脂粒子)の全質量(骨材+熱硬化性樹脂粒子+分散媒)に占める質量割合は、5~40質量%であることが好ましく10~35質量%であることがより好ましく、15~30質量%であることがさらに好ましい。
【0038】
(軟化ステップ)
軟化ステップは、熱硬化性樹脂の軟化点~軟化点+30℃の温度範囲で行うことが好ましく、軟化点~軟化点+20℃の温度範囲で行うことがより好ましく、軟化点~軟化点+10℃の温度範囲で行うことがさらに好ましい。コストと十分な軟化とのバランスから、上記温度範囲で行うことが好ましい。
【0039】
また、軟化ステップの加熱時間は、15~120分であることが好ましく、15~60分であることがより好ましく、15~30分であることがさらに好ましい。コストと十分な軟化とのバランスから、上記時間範囲で行うことが好ましい。
【0040】
また、表面被覆層形成ステップの焼成温度は1000~2500℃であることが好ましく、1500~2500℃であることがより好ましく、2000~2500℃であることがさらに好ましい。焼成時間は、1~9時間であることが好ましく、2~8時間であることがより好ましく、3~7時間であることがさらに好ましい。
【0041】
(成形断熱材)
上記本発明にかかる製造方法により製造される成形断熱材は、次のようなものとなる。
炭素繊維を交絡させた炭素繊維フェルトと前記炭素繊維フェルトの炭素繊維表面を被覆する炭素質からなる保護炭素層とを有する成形断熱材において、前記成形断熱材の少なくとも一つの表面には、炭素質の骨材が軟化した熱硬化性樹脂粒子の炭素化物により固着されてなる表面被覆層を有する、ことを特徴とする。
【0042】
表面被覆層のかさ密度は、0.1~2.0g/cm3であることが好ましく、0.15~1.5g/cm3であることがより好ましく、0.2~0.8g/cm3であることがさらに好ましい。
【0043】
また、成形断熱材本体部分(表面被覆層が形成されていない部分)のかさ密度は、0.07~0.3g/cm3であることが好ましく、0.13~0.3g/cm3であることがより好ましく、0.16~0.3g/cm3であることがさらに好ましい。
【0044】
さらに、表面被覆層と、成形断熱材本体部分のかさ密度の差は、0.03~1.8g/cm3であることが好ましく、0.1~1.0g/cm3であることがより好ましく0.2~0.4g/cm3であることがさらに好ましい。
【0045】
表面被覆層の厚み(表面被覆液を含浸させる領域の厚み)は、0.1~5mmであることが好ましく、0.1~2mmであることがより好ましく、0.2~1mmであることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0046】
以上に説明したように、本発明によると、低コストでもってガスの浸透を抑制し得た、しかも高周波誘導加熱方式の炉への適用に適した炭素繊維成形断熱材を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】
図1は、実施例1にかかる成形断熱材の表面被覆層の走査電子顕微鏡写真であって、(a)は焼成前、(b)は焼成後をそれぞれ示す。
【
図2】
図2は、実施例2にかかる成形断熱材の表面被覆層の走査電子顕微鏡写真であって、(a)は焼成前、(b)は焼成後をそれぞれ示す。
【
図3】
図3は、比較例1にかかる成形断熱材の焼成前の表面被覆層の走査電子顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、比較例2にかかる成形断熱材の表面被覆層の走査電子顕微鏡写真であって、(a)は焼成前、(b)は焼成後をそれぞれ示す。
【
図5】
図5は、比較例3にかかる成形断熱材の表面被覆層の走査電子顕微鏡写真であって、(a)は焼成前、(b)は焼成後をそれぞれ示す。
【
図6】
図6は、表面被覆層の表面抵抗率の測定方法を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、ガス透過試験装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
(実施の形態)
本発明に係る成形断熱材は、炭素繊維を交絡させた炭素繊維フェルトと前記炭素繊維フェルトの炭素繊維表面を被覆する炭素質からなる保護炭素層とを有する成形断熱材において、成形断熱材の少なくとも一つの表面には、炭素質の骨材が軟化した熱硬化性樹脂粒子の炭素化物により固着されてなる表面被覆層を有している。
【0049】
成形断熱材を構成する炭素繊維としては、特に限定されることはなく、例えば石炭又は石油由来の異方性又は等方性ピッチ系、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系、フェノール系、セルロース系等の炭素繊維を、単一種又は複数種混合して用いることができる。
【0050】
炭素繊維の微視的な構造としては特に限定されず、形状(巻縮型、直線型、直径、長さ等)が同一のもののみを用いてもよく、また異なる構造のものが混合されていてもよい。ただし、炭素繊維の種類やその微視的構造は、製造される成形断熱材の物性に影響を与えるので、用途に応じて適宜選択するのがよい。
【0051】
成形断熱材の微視的構造としては、ランダムな方向に配向した炭素繊維が複雑に交わっているものを用いることが好ましい。
【0052】
また、成形断熱材は、その形状は特に限定されず、板状、直方体状、円筒状などとすることができる。また、表面被覆層を形成後に所望のサイズに切断等してもよく、所望のサイズに切断した後に表面被覆層を形成してもよい。
【0053】
保護炭素層は、炭素繊維の表面全部、あるいは、炭素繊維の表面の一部を被覆し、あるいは炭素繊維相互間を埋めるように存在しているものである。また、保護炭素層は炭素質であればよく、その由来となる化合物は特に限定されることはない。なかでも、炭素繊維フェルトに含浸可能な樹脂材料の炭素化物を用いることが好ましい。このような樹脂材料としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が好ましい。
【0054】
ここで、成形断熱材を製造する際の熱硬化性樹脂(保護炭素層の材料)は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、熱硬化性樹脂は、そのまま炭素繊維フェルトに含ませてもよく、溶剤で希釈して炭素繊維フェルトに含ませてもよい。溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコールを用いることができる。
【0055】
本実施の形態の構成では、成形断熱材の少なくとも1つの表面には、表面被覆層が設けられており、活性ガス源(熱源)側の表面に表面被覆層が配されるようにすることにより、気流による活性ガスの浸透が抑制される。さらにこの層は炭素繊維の劣化や粉化をも抑制する。したがって、断熱作用が長期間にわたって得られ、成形断熱材の長寿命化が図られる。
【0056】
(表面被覆層の製造方法)
表面被覆層は、次のようにして成形断熱材に形成される。
【0057】
(含浸ステップ)
炭素質の骨材と、軟化点を有する熱硬化性樹脂粒子と、分散媒と、からなる表面被覆液を、成形断熱材の少なくとも一つの表面に塗布して、この領域に表面被覆液を浸透させる。このとき、成形断熱材に圧力がかかるように塗布してもよい。分散媒は、熱硬化性樹脂粒子を溶解しないものであればよいが、中でも水が好ましい。
【0058】
(軟化ステップ)
この後、軟化点以上の温度に加熱して熱硬化性樹脂粒子を軟化させ、炭素質の骨材を軟化した熱硬化性樹脂粒子により成形断熱材に固定する。このとき、分散媒の揮発除去を同時に行う構成としてもよい。この場合、分散媒の沸点以上に加熱する構成を採用する。
【0059】
(焼成ステップ)
こののち、不活性雰囲気下、500~2500℃で熱処理して、熱硬化性樹脂を炭素化させることにより、軟化ステップにより炭素質の骨材が成形断熱材に固定された状態で、熱硬化性樹脂粒子が炭素化する。これにより、表面被覆層が形成される。
【0060】
このように形成される表面被覆層は、活性ガスの浸透を抑制しつつも、表面抵抗率が高く誘導電流が流れにくい。このため、高周波誘導加熱方式を採用する炉の断熱に適している。
【0061】
ここで、軟化ステップと焼成ステップとの間に、熱硬化性樹脂粒子の熱硬化温度以上に加熱して、熱硬化性樹脂粒子を熱硬化する熱硬化ステップを行う構成としてもよい。
【0062】
ここで、本明細書でいう炭素化とは、黒鉛化を含んだ広義のものを意味する。例えば、特に2000℃以上の温度で熱処理する場合、表面被覆層の黒鉛構造が発展することが考えられるが、本発明では、表面被覆層の骨材は、非晶質、黒鉛質のいずれでもよく、これらの混合物でもよい。
【実施例】
【0063】
実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明する。
【0064】
(実施例1)
(表面被覆液作製ステップ)
フェノール樹脂粒子(DIC製フェノライトOI-305A、軟化点90~100℃、平均粒子径15μm)、天然鱗状黒鉛粉末(新越化成製BF-30A/S、平均粒子径30μm)、炭素繊維ミルド(大阪ガスケミカル製S-242、平均繊維径13μm、平均繊維長0.36mm、アスペクト比28)を、質量比30:50:20の比率で混合して混合粉末となした。この混合粉末と精製水を、質量比16:84となるように混合し、混合粉末を精製水中に分散させ、表面被覆液を作製した。
【0065】
(含浸ステップ)
外径220mm×内径160mm×高さ400mmの円筒状の成形断熱材、及びその上下の蓋となる円板状の成形断熱材(大阪ガスケミカル製DON-1000-H、かさ密度0.16g/cm3)のそれぞれの全ての表面(外側に位置する全ての面)に、それぞれ含浸厚みが同じとなるように、上記表面被覆液を、刷毛を用いて押し込むように含浸させた。表面被覆液は、成形断熱材の表面から0.3mmの領域まで含浸された。
【0066】
(軟化ステップ)
表面被覆溶液が含浸された成形断熱材をオーブンに入れ、大気中100℃で30分間加熱し、フェノール樹脂粒子を軟化させるとともに、水分を蒸発させた。
【0067】
(焼成ステップ)
こののち、不活性雰囲気下2000℃で5時間熱処理して、フェノール樹脂粒子を炭素化させて、実施例1にかかる成形断熱材を作製した。なお、表面被覆層のかさ密度は、0.28g/cm3であった。
【0068】
(実施例2)
表面被覆液作製ステップ、及び軟化ステップを次のように行ったこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例2にかかる成形断熱材を作製した。なお、表面被覆液は、成形断熱材の表面から0.3mmの領域まで含浸され、表面被覆層のかさ密度は、0.31g/cm3であった。
【0069】
(表面被覆液作製ステップ)
フェノール樹脂粒子(エア・ウォーター製ベルパールS-899、軟化点110~120℃、平均粒子径20μm)、天然鱗状黒鉛粉末(新越化成製BF-30A/S)、炭素繊維ミルド(大阪ガスケミカル製S-242)を、質量比55:38:7の比率で混合し、さらにこの混合粉末と精製水を質量比18:82となるように混合し、混合粉末を精製水中に分散させ、表面被覆溶液を作製した。
【0070】
(軟化ステップ)
表面被覆溶液が含浸された成形断熱材をオーブンに入れ、大気中120℃で30分間加熱し、フェノール樹脂粒子を軟化させるとともに、水分を蒸発させた。
【0071】
(比較例1)
軟化ステップの温度を100℃とした以外は、実施例2と同様にして、比較例1にかかる成形断熱材を作製した。この結果、軟化ステップ後、焼成ステップ後のいずれにおいても、骨材の固着が不十分であり、衝撃などにより粉落ちが発生し、十分な品質の表面被覆層を形成できなかった。
【0072】
(比較例2)
表面被覆液作製ステップ、及び軟化ステップを次のように行ったこと以外は、上記実施例2と同様にして、比較例2にかかる成形断熱材を作製した。なお、表面被覆液は、成形断熱材の表面から0.6mmの領域まで含浸され、表面被覆層のかさ密度は、0.39g/cm3であった。
【0073】
(表面被覆液作製ステップ)
フェノール樹脂粒子(エア・ウォーター製ベルパールS-899)、天然鱗状黒鉛粉末(新越化成製BF-30A/S)、炭素繊維ミルド(大阪ガスケミカル製S-242)を質量比55:38:7の比率で混合して混合粉末となした。この混合粉末とメタノールを質量比18:82となるように混合し、フェノール樹脂粒子をメタノール中に溶解させ、表面被覆溶液を作製した。
【0074】
(軟化ステップ)
表面被覆溶液が含浸された成形断熱材をオーブンに入れ、大気中80℃で30分間乾燥させ、溶液に含まれるメタノールを揮発させた。
【0075】
(比較例3)
表面被覆液作製ステップを次のように行ったこと以外は、上記比較例2と同様にして、比較例3にかかる成形断熱材を作製した。なお、表面被覆液は、成形断熱材の表面から0.4mmの領域まで含浸され、表面被覆層のかさ密度は、0.36g/cm3であった。
【0076】
(表面被覆液作製ステップ)
フェノール樹脂粒子(DIC製フェノライトOI-305A)、天然鱗状黒鉛粉末(新越化成製BF-30A/S)、炭素繊維ミルド(大阪ガスケミカル製S-242)を、質量比30:50:20の比率で混合して混合粉末となした。この混合粉末とメタノールを、質量比16:84となるように混合し、フェノール樹脂粒子をメタノール中に溶解させ、表面被覆溶液を作製した。
【0077】
(顕微鏡観察)
図1は実施例1にかかる成形断熱材の表面被覆層、
図2は実施例2にかかる成形断熱材の表面被覆層、
図3は比較例1にかかる成形断熱材の表面被覆層、
図4は比較例2にかかる成形断熱材の表面被覆層、
図5は比較例3にかかる成形断熱材の表面被覆層の、それぞれ走査電子顕微鏡写真であって、(a)は焼成前、(b)は焼成後を示す。なお、比較例1では表面被覆層の固形分の粉落ちが多く発生したため、焼成後の表面被覆層の走査電子顕微鏡写真は撮影していない。
【0078】
図4(a)、5(a)から分かるように、比較例2、3で成形断熱材1の表面に含浸される熱硬化性樹脂(焼成前)6は、いずれもメタノールに溶解されて広がったものであるため、全体に均一な膜状となっている。このため、
図4(b)、5(b)に示すように焼成後においても、熱硬化性樹脂7は膜状の形状を保っている。また、この膜状の熱硬化性樹脂が骨材5を、成型断熱材を構成する炭素繊維4に固定する。
【0079】
また、
図3に示すように、比較例1では焼成前において熱硬化性樹脂6が軟化しておらず、粒子の形状を保っている。熱硬化性樹脂粒子が軟化していない比較例1では、焼成前および焼成後において、添加した骨材などが衝撃によって脱落した。つまり、焼成ステップでは熱硬化性樹脂粒子による骨材の固着作用を得ることはできず、このような熱硬化性樹脂粒子を軟化させない条件での表面被覆層の形成は不適である。
【0080】
これらに対し、実施例1、2では、
図1(a)、2(a)に示すように、熱硬化性樹脂6と骨材5とが凝集した状態となっており、均一ではなく偏在化している。そして、熱硬化性樹脂6が含浸前の粒子形状を保っておらず、軟化変形した状態となっており、この軟化変形した熱硬化性樹脂6が、成型断熱材を構成する炭素繊維4に骨材5を固着している。
【0081】
そして、
図1(b)、2(b)に示すように、焼成前の状態をほぼ保ったまま焼成される。つまり、焼成後の表面被覆層は、炭素化後の熱硬化性樹脂7と骨材5とが凝集し、偏在した状態である。また、熱硬化性樹脂7が軟化変形した状態のまま炭素化され、この熱硬化性樹脂7が、成型断熱材を構成する炭素繊維4に骨材5を固着している。このようにして形成された表面被覆層は、衝撃によって粉落ちが生じないとともに、粒子の凝集がない領域に多数の微小な空隙が形成されている。
【0082】
(表面抵抗率の測定)
上記実施例1、比較例2に係る成形断熱材について、
図6に示すように、成型断熱材1の表面被覆層3の面方向の表面抵抗率を、ロレスタEPMCP-T360(三菱ケミカルアナリテック製)を用いて四端子法によって各8箇所ずつ測定し、その算術平均値を求めた。
【0083】
その結果、実施例1の表面被覆層の表面抵抗率は0.264Ω/□であり、比較例2の表面被覆層の表面抵抗率0.129Ω/□の2.05倍高い値を示した。つまり、顕微鏡観察で考察した実施例1の表面被覆層の空隙が、表面被覆層の表面抵抗値を大きく(表面被覆層の面方向の導電性を低く)していると考えられる。
【0084】
(消費電力)
上記実施例1、比較例2に係る成形断熱材について、高周波誘導加熱炉での使用時の消費電力を測定した。
【0085】
竹内電機株式会社製の高周波誘導加熱炉内に、実施例1、または比較例2の成形断熱材を設置し、炉内雰囲気をアルゴンに置換したのち、発振器の出力を32%に設定して運転させた。30分間ほどで炉内温度が安定したので、その時の消費電力を記録した。続けて同様の手順で発振器出力50%、65%時の消費電力を測定した。
【0086】
その結果、実施例1の成形断熱材を使用した際の消費電力は、下記表1に示すように、比較例2と比較して平均(32%、50%、65%の算術平均)で8.5%減少していた。
【0087】
【0088】
これらのことは、次のように考えられる。上述したように比較例2では、フェノール樹脂がメタノールに溶解された状態で成形断熱材に添加されるため、
図4に示すように空隙が少ない膜状のフェノール樹脂炭素化物による表面被覆層が得られる。この膜状の表面被覆層は特に面方向の導電性が高く(表面抵抗が低く)なる。
【0089】
これに対し実施例1では、フェノール樹脂粒子が溶解されないで分散した状態で成形断熱材に添加される。このため、フェノール樹脂は表面被覆液が含浸された領域全体にわたって薄く広がることはなく、他の粒子と凝集した状態で偏在含浸される。その後の軟化と焼成により、フェノール樹脂は軟化した形状を保ったまま炭素化する。このため、
図2に示すように骨材が局所的に凝集し、空隙の多い外観の表面被覆層が得られる。このように空隙の多い表面被覆層は、比較例2に比べて面方向の導電性が低く(表面抵抗が高く)なる。それゆえ、実施例1のほうが比較例2よりも成形断熱材に流れる誘導電流の量が減少し、消費電力が小さくなる。
【0090】
次に上記実施例1、比較例2にかかる成形断熱材について、以下の条件でガス透過率を測定した。
【0091】
(ガス透過試験)
ガス透過試験装置100は、
図7に示すように、平板状の台42上にキャップ状の容器41が載置されており、これにより一次側空間20が形成されている。一次側空間20には透過セル21が備えられている。また、台42の中央部には貫通孔が設けられ、ここに配管35が接続されている。この台42よりも下方の空間が、二次側空間30である。また、ガス透過試験装置100は、一次側空間20及び二次側空間30の圧力を測定する圧力計31を備えている。
【0092】
また、一次側空間20内部にガスを供給する吸気管23が設けられるとともに、ロータリー式真空ポンプ34にそれぞれ接続され、一次側空間20又は二次側空間内部のガスを排気する排気管25,33が設けられている。これらの管にはそれぞれバルブ22,24,32が設けられている。
【0093】
上記の成形断熱材を長さ6cm、幅6cm、厚さ約2cmの大きさに切断して試験片10とし、ガス透過試験装置100の透過セル21内に設置した。この試験片10は、ガス漏れが発生しないよう周囲がシリコーンゴム11で目止めされており、且つ上下面にはシリコーンゴム製のOリング12が設置されている。これにより、一次側空間20内部のガスは、透過セル21内部の試験片10を経由しない限り、二次側空間30に移動することはできないようになっている。
【0094】
測定は次のようにして行った。まず、バルブ24,32を開け、真空ポンプ34により、一次側空間20及び二次側空間30が一定の真空値になるまで減圧する。次いで、バルブ24,32を閉じ、真空ポンプ34の作動を停止する。そして、バルブ22を開けて一次側空間20に窒素ガスを一定のガス圧で供給する。窒素ガスは、一次側空間20から試験片10を透過して二次側空間30へと移動し、これにより、二次側空間30の圧力が上昇し始める。その圧力上昇率を、圧力計31を用いて測定した。この圧力上昇率から次の式(3)、(4)を用いてガス透過率(K)を算出した。
【0095】
K=(Qh)/(ΔPA)・・・(3)
Q={(p2-p1)V0}/t・・・(4)
ここで、Kは窒素ガス透過率、Qは通気量、ΔPは一次側と二次側の圧力差、Aは透過面積、hは試験片の厚さ、p1は二次側の初期圧力、p2は二次側の最終圧力、V0は二次側の容積、tは測定時間である。
【0096】
このとき、次の式(5)式が成り立つような平均圧力Pm(一次側空間と二次側空間の圧力の平均値)の範囲で測定するため、平均圧力Pmが約50~110kPaとなる範囲で測定を行った。表2に示しているガス透過率は平均圧力Pmに対してガス透過率Kを3点以上プロットした際の最小二乗法による近似直線において、Pm=100kPaのときの値を示している。
【0097】
K=aPm+b ・・・(5)
ここで、a、bは定数である。
【0098】
【0099】
この結果、実施例1では比較例2よりも800cm2/s(約1.42倍)、ガス透過率が大きい(ガスが透過しやすい)ことがわかった。これは、比較例2のほうがかさ密度が0.11g/cm3(約1.39倍)大きく且つその厚みが2倍であることが影響しているものと考えられる。しかしながら、ガス透過率の差は1.42倍程度でその桁が違うような相違はなく、この程度の数値の差であればガス透過阻止性能に大きな差はないといえる。また、実施例の同様の製法であっても、表面被覆層のかさ密度や厚みなどを適切に設定すれば比較例2程度のガス透過性が得られる。
【0100】
なお、上記実施例では成形断熱材(本体部分)のかさ密度を0.16g/cm3としたが、この値に限定されることはない。ただし、かさ密度は、製造される成形断熱材の断熱性能に影響を及ぼすので、目的とする断熱性能に応じてかさ密度等を選択すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0101】
上記で説明したように、本発明によると、ガスによる断熱性能の低下を抑制し得た、しかも高周波誘導加熱方式の炉への適用に適した成形断熱材を実現できるので、その産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0102】
1 成形断熱材
3 表面被覆層
4 炭素繊維
5 骨材
6 炭素化前の熱硬化性樹脂
7 熱硬化性樹脂の炭素化物
10 試験片
11 シリコーンゴム
12 Oリング
20 一次側空間
21 透過セル
22 バルブ
23 吸気管
24 バルブ
25 排気管
30 二次側空間
31 圧力計
32 バルブ
33 排気管
34 真空ポンプ
35 配管
41 容器
42 台
100 ガス透過試験装置