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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】摩擦ダンパー
(51)【国際特許分類】
   F16F 7/08 20060101AFI20240125BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20240125BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240125BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240125BHJP
   E04H 9/14 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
F16F7/08
F16F7/00 B
F16F15/02 E
E04H9/02 311
E04H9/14 G
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020059779
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021156415
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】高田 友和
(72)【発明者】
【氏名】安達 大悟
(72)【発明者】
【氏名】小野 将臣
(72)【発明者】
【氏名】飯沼 玲奈
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-286775(JP,A)
【文献】特開2000-081081(JP,A)
【文献】特開2014-152900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 7/00- 7/14
F16F 15/02-15/08
E04H 9/02
E04H 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦材と、該摩擦材に圧接された状態で、かつ該摩擦材に対して摺動可能に配置される相手部材と、を備え、該摩擦材と該相手部材とが摺動する際に生じる摩擦力により制振する摩擦ダンパーであって、
該摩擦材は、基材と、該基材に積層され該相手部材に摺接する樹脂層と、を有し、
該樹脂層は、エポキシ樹脂およびポリアミドイミド樹脂の少なくとも一方を有するバインダーと、ポリテトラフルオロエチレンを有する潤滑剤と、を有し、
該樹脂層の動摩擦係数は、0.1以上0.3以下であることを特徴とする摩擦ダンパー。
【請求項2】
前記樹脂層における前記バインダーと前記潤滑剤との含有比率は、質量比で5:5~9:1である請求項1に記載の摩擦ダンパー。
【請求項3】
前記樹脂層の厚さは、20μm以上100μm以下である請求項1または請求項2に記載の摩擦ダンパー。
【請求項4】
前記樹脂層の鉛筆硬度は、H以上5H以下である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の摩擦ダンパー。
【請求項5】
前記樹脂層の硬さは、前記相手部材における前記摩擦材との摺接面の硬さよりも小さい請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の摩擦ダンパー。
【請求項6】
前記基材は、金属板である請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の摩擦ダンパー。
【請求項7】
前記樹脂層が配置される前記基材の表面は、粗面化処理されている請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の摩擦ダンパー。
【請求項8】
前記粗面化処理は、ブラスト処理を含む請求項7に記載の摩擦ダンパー。
【請求項9】
前記相手部材は、金属板である請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の摩擦ダンパー。
【請求項10】
前記相手部材は、前記摩擦材との摺接面に樹脂被膜を有する請求項9に記載の摩擦ダンパー。
【請求項11】
構造物の架構に設置されるブレースに直列的に連結される請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の摩擦ダンパー。
【請求項12】
構造物の架構には二本のブレースがK型に配置されるK型ブレースが設置され、
該K型ブレースにおいて二本の該ブレースの端部間に連結される請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の摩擦ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物などの構造物の振動を抑制する摩擦ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
地震、強風時に建物などの構造物の揺れを低減させる制振ダンパーとして、ゴムなどの粘弾性体を用いた粘弾性ダンパー、オイルなどの粘性体を用いた粘性ダンパー、金属材料を用いた鋼材ダンパー、摩擦材を用いた摩擦ダンパーなどが知られている。例えば、摩擦ダンパーにおいては、摩擦材と相手部材とが圧接された状態で互いに摺動可能に配置される。地震などにより建物が振動すると、摩擦材と相手部材とが摺動して摩擦力が生じる。これにより、振動エネルギーが熱エネルギーに変換され、建物の振動が抑制される。摩擦材には、所定の動摩擦係数、強度、耐摩耗性などが要求され、焼結金属や樹脂材料が用いられる。例えば特許文献1には、ステンレス鋼板と樹脂板とが接合されてなる二層構造の摩擦材が記載されている。樹脂板は、熱硬化性樹脂、繊維材料、摩擦調整材、充填材などの粉末を、ステンレス鋼板上で加熱、加圧して板状に固形化することにより形成される(特許文献1の段落[0021]、[0027]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-152900号公報
【文献】特開2007-70857号公報
【文献】特開2009-52289号公報
【文献】特開2007-232136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
摩擦ダンパーを構成する摩擦材には、大きな面圧が加わる。従来の材料では、強度が充分ではないため、割れなどが生じないよう、摩擦材の厚さを大きくしたり、特許文献1に記載されているように金属板などの基材に組み付けて使用する必要があった。このため、摩擦ダンパーが大型化する、コストがかさむなどの課題があった。また、摩擦材は、金属粉を焼結したり、樹脂などの粉末をプレス成形するなどして製造されるため、薄く形成したい場合などに寸法精度を出すのが難しい。よって、摩擦材の大きさや形状が限定されるという課題もあった。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、所望の強度および耐摩耗性を有する摩擦材を備え、薄く小型化が可能な摩擦ダンパーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の摩擦ダンパーは、摩擦材と、該摩擦材に圧接された状態で、かつ該摩擦材に対して摺動可能に配置される相手部材と、を備える摩擦ダンパーであって、該摩擦材は、基材と、該基材に積層され該相手部材に摺接する樹脂層と、を有し、該樹脂層は、エポキシ樹脂およびポリアミドイミド樹脂の少なくとも一方を有するバインダーと、ポリテトラフルオロエチレンを有する潤滑剤と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の摩擦ダンパーは、基材と樹脂層とを有する摩擦材を備える。樹脂層は、相手部材との摺接面を構成する。エポキシ樹脂、ポリアミドイミド樹脂は、耐摩耗性、耐熱性などに優れる。よって、樹脂層を、エポキシ樹脂およびポリアミドイミド樹脂の少なくとも一方を含んで形成することにより、耐久性に優れた摺接面を実現することができる。これにより、高い面圧が加わっても摩擦材が割れにくくなるため、摩擦材の薄型化が可能になり、コストも低減することができる。また、エポキシ樹脂、ポリアミドイミド樹脂は、塗料化しやすいという利点を有する。したがって、樹脂層を形成するための原料を塗料化して基材に塗布するなどして、薄く耐久性に優れる樹脂層を比較的容易に形成することができる。これにより、摩擦材を小型化することができ、形状の自由度が向上する。さらに樹脂層は、ポリテトラフルオロエチレンを有する潤滑剤を有する。これにより、樹脂層は、耐摩耗性などの耐久性に加えて、摩擦材に適した滑り性も有する。
【0008】
ちなみに、特許文献2には、滑り免震の技術を利用した免震構造が記載されている。当該免震構造においては、コンクリート基礎構造の底面と地盤の内底面との間に、一対の滑り底板および滑り面板が配置されている。特許文献2には、これらの板材を、セメント系の板材の表面に、フッ素樹脂粒子を配合したエポキシ樹脂塗料を塗工して形成することが記載されている。特許文献3には、同様の免震構造において摩擦軽減手段として配置される一対の移動板および受け基板を、各々、セメント系の板材の表面に、ポリイミド系樹脂をバインダーとする塗料を塗工して形成することが記載されている。また、当該塗料に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末を配合してもよいことが記載されている。特許文献4には、金属板の一面に低摩擦材料からなる焼結被膜を有するディスクブレーキ用シムが記載されている。焼結被膜としては、ポリアミドイミド樹脂微粒子とPTFE微粒子とを溶剤に分散した塗料を焼結した被膜が記載されている。
【0009】
特許文献2、3に記載されている一対の板材は、摩擦ダンパーのように制振を目的とした部材に用いられるものではなく、免震を目的とした構造において建物の基礎部分に設置される部材である。したがって、一対の板材の接触面には同じ材質の被膜が形成され、当該被膜には免震に適切な滑り特性が設定される。この点において、自身とは異なる相手部材に対して摺動し、その際の摩擦力を利用して制振する摩擦ダンパーの摩擦材とは異なる。よって、耐摩耗性、滑り性などの摩擦材に必要な特性は、免震構造に用いられる部材に必要な特性とは異なる。また、特許文献4に記載されているシムは、自動車などに使用されるディスクブレーキ用の部材である。ディスクブレーキ用シムは、主に摩擦係数の低減が目的であるため、摩擦力を発生させつつも滑り性を要求される摩擦ダンパーの摩擦材とは異なる。また、特許文献4に記載されているディスクブレーキ用シムにおいては、長期にわたり低摩擦状態を維持するという観点から、金属板に焼結被膜を形成する。このため、塗料を塗布した後、400~450℃の高温で加熱する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第一実施形態の摩擦ダンパーが設置されたフレームの正面図である。
図2】同摩擦ダンパーのII-II断面図である。
図3】同摩擦ダンパーを構成する第一摩擦材の厚さ方向断面図である。
図4】第二実施形態の摩擦ダンパーが設置されたフレームの正面図である。
図5】同摩擦ダンパーのV-V断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の摩擦ダンパーの実施の形態について説明する。
【0012】
<第一実施形態>
まず、第一実施形態の摩擦ダンパーの構成を説明する。図1に、本実施形態の摩擦ダンパーが設置されたフレームの正面図を示す。図2に、同摩擦ダンパーのII-II断面図を示す。図3に、同摩擦ダンパーを構成する第一摩擦材の厚さ方向断面図を示す。
【0013】
図1に示すように、建物の架構を構成するフレーム8は、横架材として上側に配置される梁80と、下側に配置される土台81と、梁80および土台81の間に所定の間隔を空けて配置される一対の左側柱82、右側柱83と、を備えている。摩擦ダンパー10は、フレーム8内に、第一ブレース片50および第二ブレース片51を介して設置されている。
【0014】
第一ブレース片50は、フレーム8の右上の仕口部(梁80と右側柱83との接合部)から、対角線方向に延在している。第一ブレース片50の一端部は、取付金具84により当該仕口部に固定されている。第二ブレース片51は、フレーム8の左下の仕口部(土台81と左側柱82との接合部)から、対角線方向に延在している。第二ブレース片51の一端部は、取付金具85により当該仕口部に固定されている。第一ブレース片50および第二ブレース片51は、フレーム8の振動により相対的に往復移動する。摩擦ダンパー10は、第一ブレース片50および第二ブレース片51の間に、直列的に連結されている。第一ブレース片50および第二ブレース片51は、本発明におけるブレースの概念に含まれる。
【0015】
図2に示すように、摩擦ダンパー10は、第一外板20と、第一摩擦材21と、第二外板30と、第二摩擦材31と、中板40と、第一相手部材41と、第二相手部材42と、を有している。
【0016】
第一外板20および第二外板30は、いずれもSAPH(自動車構造用熱間圧延鋼板)からなる。第一外板20は、長手方向の二箇所に組み付け用のボルト孔200a、200bを有している。第二外板30も、長手方向の二箇所に組み付け用のボルト孔300a、300bを有している。各部材の組み付け方法については後述する。
【0017】
第一摩擦材21は、第一外板20の裏側に配置されている。図3に示すように、第一摩擦材21は、組み付け用のボルト孔210を有している。第一摩擦材21は、第一基材22と、第一樹脂層23と、を有している。第一基材22は、鋼板からなり長方形状を呈している。第一樹脂層23は、第一基材22の裏面220に形成されている。第一基材22の裏面220には、脱脂処理およびブラスト処理が施されている。第一樹脂層23は、バインダーのエポキシ樹脂と、潤滑剤のPTFE粉末と、を有している。第一樹脂層23の厚さは20μm、鉛筆硬度は3H、動摩擦係数は0.2である。
【0018】
図2に戻って、第二摩擦材31は、第二外板30の表側に配置されている。第二摩擦材31は、第一摩擦材21と同じ形状および寸法を有している。第二摩擦材31は、組み付け用のボルト孔310を有している。第二摩擦材31は、第二基材32と、第二樹脂層33と、を有している。第二樹脂層33は、第二基材32の表面に形成されている。第二基材32および第二樹脂層33の構成は、前述した第一基材22および第一樹脂層23の構成と同じである。第一摩擦材21および第二摩擦材31は、本発明における摩擦材の概念に含まれる。
【0019】
中板40は、SAPHからなる。中板40は、長孔400と、組み付け用のボルト孔401と、を有している。長孔400は、中板40の長手方向(後述する往復動方向)に細長い形状を有している。第一相手部材41は、中板40の表側に配置されている。第一相手部材41は、ステンレス鋼板からなり、長方形状を呈している。第一相手部材41は、中板40の長孔400と同じ形状および寸法の長孔410を有している。第二相手部材42は、中板40の裏側に配置されている。第二相手部材42は、ステンレス鋼板からなり、長方形状を呈している。第二相手部材42は、第一相手部材41と同じ形状および寸法を有している。第二相手部材42は、中板40の長孔400と同じ形状および寸法の長孔420を有している。第一相手部材41および第二相手部材42は、中板40にビスで固定されている。第一相手部材41および第二相手部材42は、本発明における相手部材の概念に含まれる。
【0020】
第一ブレース片50は、仕口部に固定されている一端部とは反対側の他端部に、組み付け用のボルト孔500を有している。第一ブレース片50の他端部は、第一外板20と第二外板30との間に挿入されている。第一外板20および第二外板30と第一ブレース片50とは、厚さ方向に貫通するボルト孔200b、500、300bに挿通されたボルト52をナット53で締め付けることにより、固定されている。第二ブレース片51は、仕口部に固定されている一端部とは反対側の他端部に、組み付け用のボルト孔510を有している。第二ブレース片51の他端部は、中板40に重なっている。中板40と第二ブレース片51とは、厚さ方向に貫通するボルト孔401、510に挿通されたボルト52をナット53で締め付けることにより、固定されている。
【0021】
さらに、第一外板20、第二外板30、および中板40は、厚さ方向に貫通するボルト孔200a、210、300a、310、および長孔400、410、420に挿通されたボルト52をナット53で締め付けることにより、固定されている。このボルト52およびナット53による締め付け力により、第一摩擦材21と第一相手部材41、第二摩擦材31と第二相手部材42は、圧接されている。ここで、第一摩擦材21と第一相手部材41とは、互いに摺動可能である。同様に、第二摩擦材31と第二相手部材42とは、互いに摺動可能である。したがって、第一ブレース片50と第二ブレース片51とが相対的に往復移動すると、各々に固定されている第一外板20および第二外板30と中板40とが相対的に往復移動する。すると、第一摩擦材21と第一相手部材41、第二摩擦材31と第二相手部材42が各々摺動して摩擦力を発生する。これにより、フレーム8、すなわち建物の振動が抑制される。
【0022】
次に、摩擦ダンパー10における第一摩擦材21の製造方法を説明する。第二摩擦材31の製造方法も、第一摩擦材21の製造方法と同じである。まず、第一樹脂層23を形成する塗料として、エポキシ樹脂およびPTFE粉末を含む塗料を調製する。第一基材22については、一面(図3においては裏面220)を脱脂した後、ブラスト処理しておく。次に、準備した塗料を第一基材22の一面に塗布し、所定の条件で乾燥する。このようにして、第一基材22の裏面220に第一樹脂層23が積層されてなる第一摩擦材21が製造される。
【0023】
次に、本実施形態の摩擦ダンパーの作用効果を説明する。摩擦ダンパー10は、第一摩擦材21および第二摩擦材31を備える。第一摩擦材21および第二摩擦材31は、各々、第一樹脂層23、第二樹脂層33を有する。第一樹脂層23は、第一相手部材41との摺接面を構成し、第二樹脂層33は、第二相手部材42との摺接面を構成する。第一樹脂層23、第二樹脂層33は、各々エポキシ樹脂を含むため、耐摩耗性などの耐久性に優れる。また、第一基材22、第二基材32は鋼板からなり、剛性に優れる。よって、圧接されて高い面圧が加わっても、第一摩擦材21および第二摩擦材31は破損しにくい。これにより、第一摩擦材21および第二摩擦材31の薄型化が可能になり、コストを低減することができる。また、第一樹脂層23、第二樹脂層33は、塗料を用いて形成される。よって、薄型の第一摩擦材21および第二摩擦材31を、寸法精度よく、比較的容易に製造することができる。また、第一基材22の裏面220(第一樹脂層23が形成される一面)には、予め脱脂処理およびブラスト処理が施されている。これにより、第一樹脂層23の密着性が高くなり、第一摩擦材21の耐久性がより向上する。同様に、第二基材32の表面(第二樹脂層33が形成される一面)にも、予め脱脂処理およびブラスト処理が施されている。これにより、第二樹脂層33の密着性が高くなり、第二摩擦材31の耐久性がより向上する。
【0024】
第一樹脂層23、第二樹脂層33の鉛筆硬度は3Hであり、比較的硬質である。よって、第一樹脂層23、第二樹脂層33は耐摩耗性に優れる。他方、第一樹脂層23の硬さは、第一相手部材41の硬さよりも小さく、第二樹脂層33の硬さは、第二相手部材42の硬さよりも小さい。よって、摺動時に、第一相手部材41、第二相手部材42を過度に摩耗させることがない。第一樹脂層23、第二樹脂層33は、PTFE粉末を有するため、耐摩耗性などの耐久性に加えて、摩擦材に適した滑り性も有する。よって、摩擦力による制振性能に優れると共に、摺動時に異音が発生しにくい。
【0025】
<第二実施形態>
本実施形態の摩擦ダンパーと、第一実施形態の摩擦ダンパーとの相違点は、摩擦ダンパーの設置形態、および摩擦材を構成する樹脂層の材質が異なる点である。ここでは、主に相違点について説明する。図4に、本実施形態の摩擦ダンパーが設置されたフレームの正面図を示す。図5に、同摩擦ダンパーのV-V断面図を示す。なお、図4図5中、前出の図3図4と対応する部材、部位については、同じ符号で示す。
【0026】
図4に示すように、摩擦ダンパー11は、フレーム8内において、左側柱82の右側面に設置されている。摩擦ダンパー11は、左側柱82の高さ方向(上下方向)の略中央部に設置されている。摩擦ダンパー11には、二本の上側ブレース54および下側ブレース55が連結されている。上側ブレース54は、フレーム8の右上の仕口部(梁80と右側柱83との接合部)から、左斜め下の方向に延在している。上側ブレース54の一端部は、取付金具84により当該仕口部に固定されている。下側ブレース55は、フレーム8の右下の仕口部(土台81と右側柱83との接合部)から、左斜め上の方向に延在している。下側ブレース55の一端部は、取付金具86により当該仕口部に固定されている。フレーム8内において、上側ブレース54および下側ブレース55は、K型に配置されている。上側ブレース54および下側ブレース55は、フレーム8の振動により変位する。摩擦ダンパー11は、上側ブレース54の他端部と下側ブレース55の他端部との間に連結されている。摩擦ダンパー11において、後述する第一摩擦材21と第一相手部材41、第二摩擦材31と第二相手部材42の摺動方向は、図4中、白抜き矢印で示すように、上下方向である。上側ブレース54および下側ブレース55は、本発明におけるK型ブレースを構成する二本のブレースの概念に含まれる。
【0027】
摩擦ダンパー11の基本構成は、第一実施形態の摩擦ダンパー10の基本構成と同じである。図5に示すように、摩擦ダンパー11は、第一外板20と、第一摩擦材21と、第二外板30と、第二摩擦材31と、中板40と、第一相手部材41と、第二相手部材42と、を有している。
【0028】
第一摩擦材21は、第一外板20の裏側に配置されている。第一摩擦材21は、第一基材22と、第一樹脂層24と、を有している。第一樹脂層24は、バインダーのポリアミドイミド樹脂と、潤滑剤のPTFE粉末と、を有している。第一樹脂層24の厚さは20μm、鉛筆硬度は3H、動摩擦係数は0.2である。第二摩擦材31は、第二外板30の表側に配置されている。第二摩擦材31は、第二基材32と、第二樹脂層34と、を有している。第二樹脂層34は、第一樹脂層24と同様に、ポリアミドイミド樹脂およびPTFE粉末を有している。第一樹脂層24および第二樹脂層34についても、第一実施形態と同様に、ポリアミドイミド樹脂およびPTFE粉末を含む塗料を、第一基材22、第二基材32の一面に塗布して乾燥することにより形成されている。第一摩擦材21および第二摩擦材31は、本発明における摩擦材の概念に含まれる。
【0029】
図4に戻って、上側ブレース54における、仕口部に固定されている一端部とは反対側の他端部は、中板40の上端部にボルトおよびナットで固定されている。下側ブレース55における、仕口部に固定されている一端部とは反対側の他端部は、中板40の下端部にボルトおよびナットで固定されている。
【0030】
フレーム8の左側柱82の右側面には、摩擦ダンパー11を左側柱82に取り付けるための取付部材56が設置されている。取付部材56の一部は、第一外板20および第二外板30の間に介装されており、その部分をボルトおよびナットで締め付けることにより、第一外板20および第二外板30に固定されている。
【0031】
第一実施形態と同様に、第一外板20、第二外板30、および中板40は、第一摩擦材21、第一相手部材41、第二摩擦材31、第二相手部材42を挟んだ状態で、ボルト52およびナット53により固定されている。このボルト52およびナット53による締め付け力により、第一摩擦材21と第一相手部材41、第二摩擦材31と第二相手部材42は、圧接されている。ここで、中板40、第一相手部材41、第二相手部材42には、上下方向(摺動方向)に細長い形状を有する長孔が形成されている。したがって、上側ブレース54および下型ブレース55が変位すると、中板40が上下方向に移動して、第一摩擦材21と第一相手部材41、第二摩擦材31と第二相手部材42が各々摺動して摩擦力を発生する。これにより、フレーム8、すなわち建物の振動が抑制される。
【0032】
本実施形態の摩擦ダンパーと、第一実施形態の摩擦ダンパーとは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。第一樹脂層24、第二樹脂層34は、各々ポリアミドイミド樹脂を含むため、耐摩耗性などの耐久性に優れる。よって、圧接されて高い面圧が加わっても、第一摩擦材21および第二摩擦材31は破損しにくい。これにより、第一摩擦材21および第二摩擦材31の薄型化が可能になり、コストを低減することができる。また、第一樹脂層24、第二樹脂層34は、塗料を用いて形成される。よって、薄型の第一摩擦材21および第二摩擦材31を、寸法精度よく、比較的容易に製造することができる。第一樹脂層24、第二樹脂層34の鉛筆硬度は3Hであり、比較的硬質である。よって、第一樹脂層24、第二樹脂層34は耐摩耗性に優れる。他方、第一樹脂層24の硬さは、第一相手部材41の硬さよりも小さく、第二樹脂層34の硬さは、第二相手部材42の硬さよりも小さい。よって、摺動時に、第一相手部材41、第二相手部材42を過度に摩耗させることがない。
【0033】
<その他の形態>
以上、本発明の摩擦ダンパーの実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に限定されるものではなく、本発明の摩擦ダンパーは、当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することができる。
【0034】
本発明の摩擦ダンパーの設置形態は特に限定されない。本発明の摩擦ダンパーを設置する場所は、構造物の架構を構成する柱、横架材、ブレース、補強部材などから適宜選択すればよい。上記第一実施形態のように、摩擦ダンパーを複数のブレース片の間に直列的に連結して一本のブレースを構成する場合、摩擦ダンパーの数、連結位置などは限定されない。また、摩擦ダンパーを一本のブレースと柱などとの間に設置してもよい。上記第二実施形態のように、摩擦ダンパーをK型ブレースに連結する場合、二本のブレース間に配置する形態の他、一本のブレースの途中に配置してもよい。すなわち、K型ブレースを構成する一本のブレースを複数のブレース片から構成し、当該ブレース片の間に直列的に連結してもよい。ブレースの取り付け方法、配置形態なども特に限定されない。例えば、ブレースの一端部は、必ずしも仕口部に取り付ける必要はなく、梁、柱などの任意の部分に取り付けることができる。すなわち、ブレースは、梁、柱などの中間部から架設してもよく、横架材などとして適宜設けられた補強部材に取り付けてもよい。
【0035】
本発明の摩擦ダンパーは、摩擦材と相手部材とを備える。上記実施形態においては、摩擦ダンパーを、二対の摩擦材と相手部材とを有し摺動面が二面になる二面型の構成にした。しかし、一対の摩擦材と相手部材とを有する一面型の構成でもよく、三対以上の摩擦材と相手部材とを有する多面型の構成でも構わない。上記実施形態においては、摩擦材を固定する部材として第一外板、第二外板を、相手部材を固定する部材として中板を使用した。これら固定部材の材質、形状などは特に限定されない。上記実施形態においては、ボルトおよびナットにより、摩擦材と相手部材とを圧接した状態で固定した。この場合、締結力が低下するのを抑制するために、ボルトなどと固定部材(第一外板、第二外板など)との間に皿ばねなどを介装してもよい。
【0036】
[摩擦材]
摩擦材は、基材と樹脂層とを有する。基材の材質は限定されないが、強度、剛性、耐久性の観点から、鋼材などの金属材料が望ましい。例えば、基材は、SS400(一般構造用圧延鋼材)、SAPH、ステンレス鋼などからなる金属板であることが望ましい。樹脂層との密着性を高めて摩擦材の耐久性を向上させるという観点から、樹脂層が配置される基材の表面には、ブラスト処理などの粗面化処理、または化成被膜形成処理が施されていることが望ましい。
【0037】
樹脂層は、基材に積層され相手部材に摺接する。樹脂層は、バインダーと潤滑剤とを有する。このうち、バインダーは、エポキシ樹脂およびポリアミドイミド樹脂の少なくとも一方を有する。すなわち、バインダーとして、エポキシ樹脂およびポリアミドイミド樹脂から選ばれる一種以上を有すればよく、それに加えて他の樹脂を有してもよい。他の樹脂としては、フェノール樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。潤滑剤は、PTFEを有する。潤滑剤は、PTFEのみに限定されることなく、PTFEに加えてテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリビニルフロライド(PVF)などを有してもよい。また、PTFEに加えてモリブデン、グラファイト、マイカなどを有してもよい。例えばFEPは、PTFEより融点が低いため、併用すると成膜性が向上する。さらに樹脂層は、バインダーおよび潤滑剤以外の成分として、消泡剤、レベリング剤、離型剤などを有してもよい。
【0038】
バインダーと潤滑剤との含有比率は、樹脂層の耐久性および摺動性を考慮して適宜決定すればよい。樹脂層の厚さにもよるが、バインダーの含有量が少ないと耐久性が低下する。例えば、バインダーと潤滑剤とが質量比で5:5~9:1の範囲で含まれていることが望ましい。
【0039】
樹脂層の厚さは特に限定されないが、耐摩耗性の観点から、20μm以上であることが望ましい。また、塗料を用いて形成する際の成膜性の観点から、100μm以下であることが望ましい。薄型化を図りコストを低減するという観点においては、60μm以下、さらには40μm以下であると好適である。
【0040】
樹脂層の硬さは特に限定されない。例えば、耐摩耗性の観点から、樹脂層の鉛筆硬度は、H以上5H以下であることが望ましい。鉛筆硬度は、JIS K 5600-5-4:1999に準拠した方法で測定された値を採用する。また、摺動時に相手部材を過度に摩耗させないという観点から、樹脂層の硬さは、相手部材における摩擦材との摺接面の硬さよりも小さいことが望ましい。
【0041】
樹脂層には、耐摩耗性などの耐久性に加えて、摩擦力を発生させつつも適度な滑り性が必要になる。例えば、樹脂層の動摩擦係数が小さすぎると摩擦力が得られない。反対に、樹脂層の動摩擦係数が大きすぎると異音が発生したり破損の原因にもなる。例えば、樹脂層の動摩擦係数は、0.1以上0.3以下であることが望ましい。
【0042】
摩擦材は、基材の表面に、樹脂層を形成するための塗料を塗布、乾燥して製造することができる。樹脂層を形成するための塗料は、バインダーおよび潤滑剤を含む原料を、羽根撹拌、三本ロール、ビーズミルなどにより混合して調製すればよい。
【0043】
[相手部材]
相手部材は、摩擦材に圧接された状態で、かつ摩擦材に対して摺動可能に配置される。相手部材の材質は限定されないが、強度、剛性、耐久性の観点から、鋼材などの金属材料が望ましい。例えば、相手部材は、ステンレス鋼などからなる金属板であることが望ましい。また、相手部材は、摩擦材との摺接面にカチオン電着塗装などにより形成された樹脂被膜を有することが望ましい。この形態としては、カチオン電着塗装などにより樹脂被膜が形成されたSS板、SAPH板などが挙げられる。
【実施例
【0044】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0045】
<摩擦材の製造>
まず、樹脂層を形成する塗料として、後出の表1に示す種々の塗料を準備した。基材として、厚さ4.5mmの鋼板(SS400)を準備した。基材の樹脂層を形成する表面については、予め脱脂し、適宜、追加の表面処理を施した。次に、準備した塗料を基材の表面に塗布し、所定の条件で乾燥した。このようにして、基材の一面に樹脂層が形成されてなる摩擦材を製造した。以下に、摩擦材の製造方法を説明する。また、後出の表1に、製造した摩擦材における樹脂層の組成、硬度および厚さ、ならびに基材の表面処理の種類を示す。表1中、実施例1~12の摩擦材は、本発明の摩擦ダンパーを構成する摩擦材の概念に含まれる。
【0046】
[実施例1]
まず、バインダーとしてのエポキシ樹脂(荒川化学工業(株)製「アラキード(登録商標) 9201N」)と、潤滑剤としてのPTFE粉末と、をエポキシ樹脂の固形分換算で質量比が5:5になるように配合し、羽根撹拌して塗料A1を調製した。次に、塗料A1を、ブラスト処理を施した基材の表面に膜厚20μm狙いで塗布し、120℃で20分間乾燥して樹脂層を形成した。樹脂層の鉛筆硬度を測定したところ、3Hであった。得られた摩擦材を、実施例1の摩擦材と称す。
【0047】
[実施例2]
バインダーと潤滑剤の配合比率を7:3に代えた点以外は、塗料A1と同様にして塗料A2を調製した。そして、塗料A1を塗料A2に変更した点以外は、実施例1の摩擦材と同様にして実施例2の摩擦材を製造した。
【0048】
[実施例3]
塗料A1を塗料A2に変更し、それを膜厚10μm狙いで塗布した点以外は、実施例1の摩擦材と同様にして実施例3の摩擦材を製造した。
【0049】
[実施例4]
塗料A1を塗料A2に変更し、脱脂以外の表面処理が施されていない基材を用いた点以外は、実施例1の摩擦材と同様にして実施例4の摩擦材を製造した。
【0050】
[実施例5]
バインダーと潤滑剤の配合比率を9:1に代えた点以外は、塗料A1と同様にして塗料A3を調製した。そして、塗料A1を塗料A3に変更した点以外は、実施例1の摩擦材と同様にして実施例5の摩擦材を製造した。
【0051】
[実施例6]
まず、バインダーとしてのポリアミドイミド樹脂(東洋紡績(株)製「バイロマックス(登録商標) HR-16NN」)と、潤滑剤としてのPTFE粉末と、をポリアミドイミド樹脂の固形分換算で質量比が5:5になるように配合し、羽根撹拌して塗料B1を調製した。次に、塗料B1を、ブラスト処理を施した基材の表面に膜厚20μm狙いで塗布し、230℃で30分間乾燥して樹脂層を形成した。樹脂層の鉛筆硬度を測定したところ、2Hであった。得られた摩擦材を、実施例6の摩擦材と称す。
【0052】
[実施例7]
バインダーと潤滑剤の配合比率を7:3に代えた点以外は、塗料B1と同様にして塗料B2を調製した。そして、塗料B1を塗料B2に変更した点以外は、実施例6の摩擦材と同様にして実施例7の摩擦材を製造した。
【0053】
[実施例8]
バインダーと潤滑剤の配合比率を9:1に代えた点以外は、塗料B1と同様にして塗料B3を調製した。そして、塗料B1を塗料B3に変更した点以外は、実施例6の摩擦材と同様にして実施例8の摩擦材を製造した。
【0054】
[実施例9]
まず、バインダーとしてのエポキシ樹脂と、潤滑剤としてのPTFE粉末と、を有する塗料A4(ダイキン工業(株)製「ポリフロン(登録商標)PTFE TC-7408GY」)を準備した。次に、塗料A4を、ブラスト処理を施した基材の表面に膜厚20μm狙いで塗布し、180℃で30分間乾燥して樹脂層を形成した。樹脂層の鉛筆硬度を測定したところ、3Hであった。得られた摩擦材を、実施例9の摩擦材と称す。
【0055】
[実施例10]
塗料A4を膜厚40μm狙いで塗布した点以外は、実施例9の摩擦材と同様にして実施例10の摩擦材を製造した。
【0056】
[実施例11]
塗料A4を膜厚40μm狙いで塗布し、脱脂以外の表面処理が施されていない基材を用いた点以外は、実施例9の摩擦材と同様にして実施例11の摩擦材を製造した。
【0057】
[実施例12]
まず、バインダーとしてのポリアミドイミド樹脂と、潤滑剤としてのPTFE粉末と、を有する塗料B4(ダイキン工業(株)製「ポリフロンPTFE TC-7109BK」)を準備した。次に、塗料B4を、ブラスト処理を施した基材の表面に膜厚40μm狙いで塗布し、280℃で30分間乾燥して樹脂層を形成した。樹脂層の鉛筆硬度を測定したところ、3Hであった。得られた摩擦材を、実施例12の摩擦材と称す。
【0058】
[比較例1]
まず、バインダーとしてのウレタン樹脂(東ソー(株)製「ニッポラン(登録商標) 5230」)と、潤滑剤としてのPTFE粉末と、をウレタン樹脂の固形分換算で質量比が5:5になるように配合し、羽根撹拌して塗料Cを調製した。次に、塗料Cを、ブラスト処理を施した基材の表面に膜厚20μm狙いで塗布し、160℃で30分間乾燥して樹脂層を形成した。樹脂層の鉛筆硬度を測定したところ、Bであった。得られた摩擦材を、比較例1の摩擦材と称す。
【0059】
[比較例2]
まず、バインダーとしてのエポキシ樹脂と、潤滑剤としての二硫化モリブデン粉末およびグラファイト粉末と、を有する塗料A5(エスティーティー(株)製「SOLVEST(登録商標) 306」)を準備した。次に、塗料A5を、化成被膜形成処理を施してリン酸鉄被膜を形成した基材の表面に膜厚25μm狙いで塗布し、180℃で30分間乾燥して樹脂層を形成した。樹脂層の鉛筆硬度を測定したところ、Bであった。得られた摩擦材を、比較例2の摩擦材と称す。
【0060】
[比較例3]
まず、バインダーとしてのポリアミドイミド樹脂と、潤滑剤としての二硫化モリブデン粉末およびグラファイト粉末と、を有する塗料B6(エスティーティー(株)製「SOLVEST 374」)を準備した。次に、塗料B6を、化成被膜形成処理を施してリン酸鉄被膜を形成した基材の表面に膜厚20μm狙いで塗布し、280℃で30分間乾燥して樹脂層を形成した。樹脂層の鉛筆硬度を測定したところ、5Hであった。得られた摩擦材を、比較例3の摩擦材と称す。
【0061】
<摩擦ダンパーの製造>
製造した摩擦材と、厚さ2mmのステンレス鋼板からなる相手部材と、を組み付けて、上記第一実施形態と同じ構成の二面型摩擦ダンパーの評価用サンプルを製造した。すなわち、まず、二つの同種の摩擦材の一方を樹脂層側が表出するように第一外板に固定し、他方についても同様に第二外板に固定した。次に、中板の厚さ方向両面に相手部材を一つずつ固定した。そして、相手部材に摩擦材の樹脂層が接するように、第一外板および第二外板で中板を挟み、中央部をボルトで固定した。
【0062】
<摩擦ダンパーの評価>
[評価方法]
評価用サンプルの加振試験を行い、摩擦材の摺動性および耐久性を評価した。加振試験には、動的載荷試験機を使用し、アクチュエータにより中板を往復動させて、摩擦材に対して相手部材を摺動させた。
【0063】
(1)摺動性
摺動性を評価した加振試験(以下、摺動性評価試験と称す)の条件は、次のとおりである。
ボルト締結時の面圧:約10MPa
変位:±7.5mm
加振周波数:3.0Hz
加振回数:3サイクル
摺動性評価試験にて得られた荷重-変位特性から摩擦材の動摩擦係数を算出し、摺動時に音が発生するか否かを確認した。摩擦材の動摩擦係数は、次式(I)を用いて算出した。式(I)中、摩擦力は、荷重-変位履歴曲線の正負切片荷重の平均値である。
摩擦力(kN)=ボルト軸力(kN)×動摩擦係数×摩擦面数 ・・・(I)
そして、摺動音無し、かつ動摩擦係数が0.1以上0.3以下の場合を摺動性良好(A判定)、摺動音無し、かつ動摩擦係数が0.1未満の場合を摺動性やや不良(B判定)、摺動音有りの場合を摺動性不良(C判定)と評価した。
【0064】
(2)耐久性
耐久性を評価した加振試験(以下、耐久性評価試験と称す)の条件は、次のとおりである。
ボルト締結時の面圧:約10MPa
変位:±30mm
加振周波数:0.5Hz
加振回数:85サイクル
耐久性評価試験において、摺動時に音鳴りが発生するか否かを確認し、得られた荷重-変位履歴曲線から摩擦材の摩擦力の低下率を求めた。そして、試験開始から加振による中板の累積摺動距離が9mになるまで摺動音無し、かつ摩擦材の摩擦力が試験前の摩擦力の7割以上残存している場合を耐久性が極めて高い(A判定)、累積摺動距離が6mになるまで摺動音無し、かつ摩擦材の摩擦力が試験前の摩擦力の7割以上残存している場合を耐久性が高い(B判定)、累積摺動距離が3mになるまで摺動音無し、かつ摩擦材の摩擦力が試験前の摩擦力の7割以上残存している場合を耐久性が普通(C判定)、累積摺動距離が3m未満で摺動音が発生した、または摩擦材の摩擦力が試験前の摩擦力の7割未満になった場合を耐久性が低い(D判定)と評価した。
【0065】
[評価結果]
表1に、評価用サンプルの摺動性および耐久性の評価結果を示す。表1中、実施例1~12の摩擦材を備える評価用サンプル(以下、「実施例1の摩擦ダンパー」などと称す)は、本発明の摩擦ダンパーの概念に含まれる。
【表1】
【0066】
表1に示すように、実施例1~12の摩擦ダンパーにおいては、いずれも摺動性が良好(A判定)で、耐久性も普通(C判定)以上であった。このうち、バインダーがエポキシ樹脂である実施例1、2、5を比較すると、樹脂層におけるバインダーの配合比率が多くなると耐久性が向上した。バインダーがポリアミドイミド樹脂である実施例6~8を比較しても、樹脂層におけるバインダーの配合比率が多くなると耐久性が向上した。また、実施例1、3、4を比較すると、樹脂層の厚さが20μm以上、基材に粗面化処理としてのブラスト処理が施されている場合に、耐久性が向上した。同様に、実施例9~11を比較しても、基材にブラスト処理が施されている場合に、耐久性が向上した。
【0067】
これに対して、摩擦材の樹脂層に、バインダーとしてエポキシ樹脂およびポリアミドイミド樹脂のいずれも含まない比較例1の摩擦ダンパーによると、樹脂層の硬度が低く、相手材との摺動により樹脂層が剥がれやすいため、耐久性が低くなった(D判定)。また、潤滑剤としてPTFEを有しない比較例1の摩擦ダンパーによると、樹脂層の硬度によらず、耐久性が低くなった(D判定)。
【符号の説明】
【0068】
10、11:摩擦ダンパー、20:第一外板、21:第一摩擦材、22:第一基材、23、24:第一樹脂層、200a、200b、210:ボルト孔、220:裏面、30:第二外板、31:第二摩擦材、32:第二基材、33、34:第二樹脂層、300a、300b、310:ボルト孔、40:中板、41:第一相手部材、42:第二相手部材、400、410、420:長孔、401:ボルト孔、50:第一ブレース片、51:第二ブレース片、52:ボルト、53:ナット、54:上側ブレース、55:下側ブレース、56:取付部材、500、510:ボルト孔、8:フレーム、80:梁、81:土台、82:左側柱、83:右側柱、84、85、86:取付金具。
図1
図2
図3
図4
図5