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特許74262932次元アレイ超音波探触子および加算回路
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】2次元アレイ超音波探触子および加算回路
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
A61B8/14
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020103537
(22)【出願日】2020-06-16
(65)【公開番号】P2021194292
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶山 新也
(72)【発明者】
【氏名】林 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】鍋田 忠宏
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-213884(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0128046(US,A1)
【文献】特開2005-034634(JP,A)
【文献】特開2005-034633(JP,A)
【文献】特表2015-521882(JP,A)
【文献】特開2011-161167(JP,A)
【文献】特開2010-193958(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0087991(US,A1)
【文献】特開2014-083281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B8/00-8/15
G01S1/72-1/82
3/80-3/86
5/18-5/30
7/52-7/64
15/00-15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動子および前記超音波振動子の受信信号を伝送する受信回路を含む振動子チャネルが第1方向および第2方向に複数配置された2次元アレイ超音波探触子であって、
複数の前記振動子チャネルは、前記受信信号の加算単位ごとに複数のサブアレイに区分けされ、
前記サブアレイごとに、前記サブアレイに含まれる前記振動子チャネルの受信信号を加算した加算信号を生成する加算回路を備え、
前記加算回路は、
前記加算信号を出力する加算出力端子と前記振動子チャネルとの間に、
前記サブアレイごとに、前記第1方向に配列された前記振動子チャネルで構成される振動子チャネル列ごとに設けられ、対応する前記振動子チャネル列の前記振動子チャネルと接続される振動子チャネル列配線と、
前記振動子チャネル列配線ごとに設けられ、対応する前記振動子チャネル列配線と接続される第1スイッチと、
前記第2方向に隣り合う前記振動子チャネル列に対応する前記振動子チャネル列配線を、前記第1スイッチを介して接続する第2スイッチと、
を備えている、
2次元アレイ超音波探触子。
【請求項2】
請求項1に記載の2次元アレイ超音波探触子において、
それぞれの前記振動子チャネルと前記加算出力端子との間の信号減衰率が等しくなるように、それぞれの前記第1スイッチおよびそれぞれの前記第2スイッチ間におけるオン抵抗の抵抗比が設定される、
2次元アレイ超音波探触子。
【請求項3】
請求項1に記載の2次元アレイ超音波探触子において、
前記振動子チャネルごとに、複数の前記振動子チャネル間における前記受信信号の整相を行う遅延回路を備え、
前記第1スイッチおよび前記第2スイッチは、前記遅延回路と前記加算出力端子との間に設けられる、
2次元アレイ超音波探触子。
【請求項4】
請求項1に記載の2次元アレイ超音波探触子において、
前記第1スイッチは、前記加算単位の切り換えに応じてオン抵抗を切り換え可能である、
2次元アレイ超音波探触子。
【請求項5】
請求項4に記載の2次元アレイ超音波探触子において、
前記第1スイッチは、MOSFETからなる複数のサブスイッチが並列に接続されており、オンさせる前記サブスイッチによりオン抵抗を切り換える、
2次元アレイ超音波探触子。
【請求項6】
請求項1に記載の2次元アレイ超音波探触子において、
前記振動子チャネルごとに、複数の前記振動子チャネル間における前記受信信号の整相を行う遅延回路を備え、
それぞれの前記遅延回路と前記第1スイッチとの間に前記受信信号のインピーダンス変換を行うバッファ回路を備えている、
2次元アレイ超音波探触子。
【請求項7】
請求項1に記載の2次元アレイ超音波探触子において、
前記加算出力端子と特定の前記振動子チャネルとを接続する経路上の前記第1スイッチ、および前記第2スイッチがオンされる、
2次元アレイ超音波探触子。
【請求項8】
超音波振動子および前記超音波振動子の受信信号を伝送する受信回路を含む振動子チャネルが第1方向および第2方向に複数配置され、複数の前記振動子チャネルが、前記受信信号の加算単位ごとに複数のサブアレイに区分けされた2次元アレイ超音波探触子において、前記サブアレイごとに、前記サブアレイに含まれる前記振動子チャネルの受信信号を加算した加算信号を生成する加算回路であって、
前記加算信号を出力する加算出力端子と前記振動子チャネルとの間に、
前記サブアレイごとに、前記第1方向に配列された前記振動子チャネルで構成される振動子チャネル列ごとに設けられ、対応する前記振動子チャネル列の前記振動子チャネルと接続される振動子チャネル列配線と、
前記振動子チャネル列配線ごとに設けられ、対応する前記振動子チャネル列配線と接続される第1スイッチと、
前記第2方向に隣り合う前記振動子チャネル列に対応する前記振動子チャネル列配線を、前記第1スイッチを介して接続する第2スイッチと、
を備えている、
加算回路。
【請求項9】
請求項8に記載の加算回路において、
それぞれの前記振動子チャネルと前記加算出力端子との間の信号減衰率が等しくなるように、それぞれの前記第1スイッチおよびそれぞれの前記第2スイッチ間におけるオン抵抗の抵抗比が設定される、
加算回路。
【請求項10】
請求項8に記載の加算回路において、
前記第1スイッチおよび前記第2スイッチは、前記振動子チャネルごとに設けられ複数の前記振動子チャネル間における前記受信信号の整相を行う遅延回路と、前記加算出力端子との間に設けられる、
加算回路。
【請求項11】
請求項8に記載の加算回路において、
前記第1スイッチは、前記加算単位の切り換えに応じてオン抵抗を切り換え可能である、
加算回路。
【請求項12】
請求項11に記載の加算回路において、
前記第1スイッチは、MOSFETからなる複数のサブスイッチが並列に接続されており、オンさせる前記サブスイッチによりオン抵抗を切り換える、
加算回路。
【請求項13】
請求項8に記載の加算回路において、
前記振動子チャネルごとに設けられ複数の前記振動子チャネル間における前記受信信号の整相を行う遅延回路と、前記第1スイッチとの間に前記受信信号のインピーダンス変換を行うバッファ回路を備えている、
加算回路。
【請求項14】
請求項8に記載の加算回路において、
前記加算出力端子と特定の前記振動子チャネルとを接続する経路上の前記第1スイッチ、および前記第2スイッチがオンされる、
加算回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次元アレイ超音波探触子および加算回路に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波探触子を体表に当てることで、例えば、心臓の脈動や胎児の動き等をリアルタイムに表示することが可能な、人体に非侵襲で安全性の高い医療診断機器である。
【0003】
近年、3次元立体画像が得られる超音波診断装置が開発されている。3次元立体画像を取得するためには、超音波探触子内の振動子を、従来の1次元配列から2次元配列にする必要がある。そうすると、振動子数が従来の超音波探触子に対して2乗で増加するため、配線等を含めた装置構成が煩雑となる。
【0004】
超音波探触子と本体装置とを接続するケーブルの本数を2乗で増やすことは不可能であるため、超音波探触子内で整相加算して受信信号の本数を削減する必要がある。超音波探触子内での整相加算を実現するには、例えば、送受信機能および整相加算機能をICとして実現し、IC内では振動子ごとに送受信回路を配置することとなる。
【0005】
具体的には、2次元アレイ超音波探触子では、数千から1万以上の送受信回路がICに搭載されることがある。超音波診断装置の本体装置の受信チャネル数に応じて、ICの加算回路では、整相加算により、数千から1万以上の受信信号を200チャネル程度まで削減する場合がある。
【0006】
図16は、2次元振動子アレイにおける受信信号の加算方法の一例を示す図である。図16には、24×12=288振動子チャネルを持つ2次元振動子チャネルアレイARRAYが示されている。図16では、288振動子チャネルが、2×2=4振動子チャネルを1単位とする72のサブアレイSUBに区分けされている。そして、サブアレイごとに、各振動子チャネルの受信信号を加算した加算信号を本体装置へ伝送することで、288チャネルを1/4の72チャネルに減らし、72本のケーブルで本体装置と接続することが可能となる。
【0007】
しかしながら、受信チャネル数が72チャネルより少ない本体装置に、図16の構成を持つ超音波探触子を接続する場合、一部の振動子チャネルの信号は利用できなくなる。このため、受信チャネル数が少ない本体装置では、信号対雑音比は劣化する。
【0008】
図17は、2次元振動子アレイにおける受信信号の加算方法の他の例を示す図である。図17では、288振動子チャネルが、3×3=9振動子チャネルを1単位とする32のサブアレイ(203)に区画されている。このように、サブアレイの構成する振動子チャネルを増やすことでチャネル数を減らすことが可能である。
【0009】
このように、2次元アレイ超音波探触子内に搭載されるICにおいて振動子チャネルの加算単位を、接続される本体装置の受信チャネル数に応じて切り換えることができれば、本体装置の受信チャネル数に依らず広い受信開口を利用でき、受信チャネル数が少ない本体装置においても信号対雑音比を確保することが可能である。
【0010】
このような振動子チャネルの加算単位の切り換え方法として、例えば、特許文献1が開示されている。特許文献1には、制御可能なスイッチを用いて振動子チャネルと本体装置受信チャネルとの接続を切り替えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第6165855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図18は、特許文献1の図4を発明者の視点で描き直したものである。図18のマトリックススイッチによって、2次元アレイ超音波探触子が、異なる受信チャネル数を有する本体装置にとって費用効果的なプローブケーブルで使用されることを可能にしている。図18では、各振動子チャネルの受信回路(Rx)は、スイッチ(SW)を介して本体装置のすべての受信チャネルと接続可能な構成となっている。
【0013】
この場合、2次元アレイ超音波探触子の振動子チャネル数がNで本体装置の最大受信チャネル数がMであるとした場合、N×M個のスイッチがICに必要となる。また、1振動子チャネルの送受信回路上にM本の配線が設けられることとなる。
【0014】
しかし、2次元アレイ超音波探触子で使用される振動子チャネルは数千から1万以上、本体装置の最大受信チャネル数は200程度となる場合がある。この場合、多数のスイッチおよび多数の配線が設けられることとなるので、加算回路のチップ面積が増大する。
【0015】
そこで、本発明は、チップ面積の増大を抑えつつ、本体装置の受信チャネルに応じて受信信号の加算単位を切り換え可能な2次元アレイ超音波探触子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0017】
本発明の代表的な実施の形態による2次元アレイ超音波探触子は、超音波振動子および超音波振動子の受信信号を伝送する受信回路を含む振動子チャネルが第1方向および第2方向に複数配置されている。複数の振動子チャネルは、受信信号の加算単位ごとに複数のサブアレイに区分けされている。2次元アレイ超音波探触子は、サブアレイごとに、サブアレイに含まれる振動子チャネルの受信信号を加算した加算信号を生成する加算回路を備えている。加算回路は、加算信号を出力する加算出力端子と振動子チャネルとの間に、サブアレイごとに、第1方向に配列された振動子チャネルで構成される振動子チャネル列ごとに設けられ、対応する振動子チャネル列の振動子チャネルと接続される振動子チャネル列配線と、振動子チャネル列配線ごとに設けられ、対応する振動子チャネル列配線と接続される第1スイッチと、第2方向に隣り合う振動子チャネル列に対応する振動子チャネル列配線を、第1スイッチを介して接続する第2スイッチと、を備えている。
【発明の効果】
【0018】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0019】
すなわち、本発明の代表的な実施の形態によれば、チップ面積の増大を抑えつつ、本体装置の受信チャネルに応じて受信信号の加算単位を切り換えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態1に係る2次元アレイ超音波探触子を有する超音波診断装置の一例を示す構成図である。
図2】送受信回路の構成の一例を示す回路ブロック図である。
図3】加算回路の動作を説明する図である。
図4図3の抵抗をスイッチに置き換えた図である。
図5】加算回路の課題を説明する図である。
図6図5を実現する具体的な回路構成を例示する図である。
図7】抵抗値のばらつきを無くす加算回路を図5と対応させて示す図である。
図8図7を実現する具体的な回路構成を例示する図である。
図9図8の等価回路を示す図である。
図10】加算単位が切り換えられた回路構成を例示する図である。
図11図10の等価回路を示す図である。
図12図11における信号減衰率の式を一覧にして示す図である。
図13】スイッチのオン抵抗を切り換える方法を説明する図である。
図14図13とは異なる出力スイッチの構成を例示する図である。
図15】本発明の実施の形態2に係る回路のテスト方法を説明する図である。
図16】2次元振動子アレイにおける受信信号の加算方法の一例を示す図である。
図17】2次元振動子アレイにおける受信信号の加算方法の他の例を示す図である。
図18】特許文献1の図4を発明者の視点で描き直したものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。以下で説明する各実施の形態は、本発明を実現するための一例であり、本発明の技術範囲を限定するものではない。なお、実施例において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は、特に必要な場合を除き省略する。
【0022】
(実施の形態1)
<超音波診断装置の構成>
図1は、本発明の実施の形態1に係る2次元アレイ超音波探触子を有する超音波診断装置の一例を示す構成図である。図1に示すように、超音波診断装置1は、2次元アレイ超音波探触子100、および本体装置300を備えている。超音波診断装置1では、2次元アレイ超音波探触子100から伝送される信号に基づき、本体装置300において検査対象物の3次元立体画像が生成される。
【0023】
〈本体装置〉
本体装置300は、プロセッサCPU、複数の受信チャネル(アナログフロントエンド)AFE等を備えている。
【0024】
プロセッサCPUは、2次元アレイ超音波探触子100内の制御論理回路ICへ制御信号を送信する。制御信号に基づき2次元アレイ超音波探触子100の制御が行われる。制御信号には、例えば、送受信の切り換え、超音波のビームフォーミングおよびビーム走査のための遅延制御等が含まれる。特に制限されないが、送信回路がリニアアンプ方式でなくパルサ方式の場合、波形はデジタル値としてパルサに送られるため、制御論理回路ICは、パルサが送波する波形データを記憶する波形メモリを含んでもよい。
【0025】
受信チャネルAFEには、2次元アレイ超音波探触子100の対応するサブアレイ(詳しくは後述する)における受信信号を加算した加算信号が伝送される。伝送された加算信号に基づき、例えばプロセッサCPUで信号処理が行われる。
【0026】
〈2次元アレイ超音波探触子〉
図1の2次元アレイ超音波探触子100では、例えば図1図17で説明したように、複数の振動子チャネルCHが2次元アレイ状に配置されている。図1に示すように、2次元アレイ超音波探触子100には、複数の振動子チャネルCHを含むサブアレイSUBが複数設けられる。それぞれのサブアレイSUBは、本体装置300が備える複数の受信チャネルAFEとそれぞれ対応している。
【0027】
アレイ状に配置された振動子チャネルCHは、複数のサブアレイSUBに区分けされる。振動子チャネルCHの区分けは、例えば、それぞれのサブアレイSUBが、互いに同数の振動子チャネルCHを含むよう行われる。サブアレイSUBは、加算回路ADDと接続される。
【0028】
それぞれの振動子チャネルCHは、図1に示すように、超音波振動子TDおよび送受信回路TRVを備える。超音波振動子TDは、対応する送受信回路TRVと接続される。すなわち、超音波振動子TDおよび送受信回路TRVは、1対1で互いに接続される。なお、超音波振動子TDが送受信回路TRVに含まれてもよく。この場合、超音波振動子TDおよび送受信回路TRVを含めたものを、送受信回路TRVと総称する場合がある。
【0029】
超音波振動子TDは、対応する送受信回路TRVから供給される駆動信号により振動することで超音波を送信する。その際、それぞれの超音波振動子TDに供給される駆動信号には所定の遅延がそれぞれ与えられる。これにより、複数の超音波振動子TDを連携させて、検査対象物に対する超音波のビームフォーミングおよびビーム走査が行われる。
【0030】
ビームフォーミングされた超音波は、検査対象物で反射する。超音波振動子TDは、検査対象物からの微弱な反射信号(超音波)を受信する。超音波振動子TDは、検査対象物からの微弱な反射信号を受信して振動することで、反射信号を電気信号に変換する。反射信号に対応する電気信号は、超音波振動子TDの受信信号として送受信回路TRVへ伝送される。
【0031】
図2は、送受信回路の構成の一例を示す回路ブロック図である。図2には、サブアレイSUBの構成を示しつつ、送受信回路TRVの具体的構成が示されている。送受信回路TRVは、送信回路Tx、送受信分離スイッチTRSW、低雑音増幅器LNA、遅延回路DLYを備えている。
【0032】
送信回路Txは、入力側が遅延回路DLYと接続され、出力側が超音波振動子TDおよび送受信分離スイッチTRSWと接続されている。送信回路Txは、例えば高耐圧の素子(例えばMOSFET等)を含む構成となっている。送信回路Txは、遅延回路DLYから伝送される駆動信号に基づき高電圧の駆動信号を生成し、超音波振動子TDへ伝送する。超音波振動子TDは、高電圧の駆動信号に基づき振動することで超音波を送信する。
【0033】
送受信分離スイッチTRSWは、高電圧の駆動信号を受けるため高耐圧の素子で構成される。送信回路Txから駆動信号が伝送されるとき、送受信分離スイッチTRSWは、オフ状態となり、受信回路を高電圧の駆動信号から保護する。そして、超音波振動子TDから受信信号が伝送されるとき、送受信分離スイッチTRSWは、オン状態となり微小な受信信号を通過させて低雑音増幅器LNAへ伝送する。低雑音増幅器LNAは、受信信号の増幅を行う低雑音の回路である。低雑音増幅器LNAは、増幅後の受信信号を遅延回路DLYへ伝送する。なお、以下では、増幅後の受信信号を受信信号と称する場合がある。
【0034】
遅延回路DLYは、送信回路Txへ伝送する駆動信号に所定の遅延を与える。それぞれの遅延回路DLYにおける遅延時間は、所定の値に設定される。そして、複数の遅延回路DLYにおいて駆動信号に所定の遅延が与えられることで、超音波のビームフォーミングおよびビーム走査が行われる。
【0035】
また、それぞれの遅延回路DLYは、低雑音増幅器LNAから伝送された増幅後の受信信号に遅延を与える。これにより、複数の振動子チャネルCH間における受信信号の整相を行う。整相された受信信号は加算回路へ伝送される。なお、以下では、整相された受信信号を受信信号と称する場合がある。
【0036】
《加算回路》
次に、加算回路ADDについて詳しく説明する。加算回路ADDは、サブアレイSUBに含まれるそれぞれの振動子チャネルCHから出力される信号を加算した加算信号を生成し、加算出力端子OUTから、対応する受信チャネルAFEへ加算信号を伝送する回路である。
【0037】
ここでは、まず、単純化した加算回路を例に挙げて加算回路の動作について説明する。図3は、加算回路の動作を説明する図である。図3には、単純化された加算回路ADDの構成、および対応する振動子チャネルCHとの接続関係が示されている。図3には、サブアレイSUBがN個の振動子チャネルCHを含んだ例が示されている。それぞれの振動子チャネルCHの端子Vin0、・・・、Vin(N-1)は、対応する低雑音増幅器LNAから伝送される増幅後の受信信号を伝送する端子を示している。
【0038】
それぞれの振動子チャネルCHでは、増幅された受信信号が遅延回路DLYに入力され、遅延回路DLYにおいて受信信号に遅延が与えられる。遅延が与えられた受信信号は、対応する増幅器BUFにより低インピーダンスの受信信号に変換される。インピーダンス変換後の受信信号は、抵抗RESを介して加算点ADD_Pに伝送される。加算点ADD_Pにおいて、サブアレイSUBに含まれるすべての振動子チャネルCHから伝送された変換後の受信信号が加算されて加算信号が生成される。加算信号は、ケーブルCABを介して、加算出力端子OUTから本体装置300の対応する受信チャネルAFEへ伝送される。
【0039】
このように、抵抗RESを介してバッファ回路BUFの出力をN個の振動子チャネルCHで接続することにより、加算点ADD_Pでは、抵抗RESによる電圧の補間平均を受けた加算出力を加算信号として得られる。
【0040】
なお、ここまでは、信号(受信信号)の加算と便宜上呼んできた。ただし、複数の信号を加算して1/Nの利得を掛けることは平均と等価であり、信号処理においては、加算して一定の利得を掛けることと、平均して一定の利得を掛けることに本質な違いはないため、平均を含めて加算と呼ぶこととする。
【0041】
なお、バッファ回路BUFは、ケーブルCABの負荷の下で加算信号を伝送するために必要な構成要素であるので、明示的に描き加えられている。バッファ回路BUFの出力インピーダンスと、抵抗RESの直列インピーダンスをN並列させたときのインピーダンスが加算回路の出力インピーダンスとなる。
【0042】
図4は、図3の抵抗を出力スイッチに置き換えた図である。図4では、図3の各振動子チャネルCHに加え、端子VinB、VinCを有する2個の振動子チャネルCHが合わせて示されている。なお、追加された振動子チャネルCHは、スイッチの機能を説明するための便宜的なものであり、追加される振動子チャネルCHの個数は、図4の例に限定されるものではない。
【0043】
各振動子チャネルCHから遅延が与えられた受信信号が伝送されると、対応するバッファ回路BUFにより低インピーダンスの受信信号に変換される。インピーダンス変換後の受信信号は、スイッチを介して加算点ADD_Pに伝送される。
【0044】
図4に示すように、図3の抵抗RESは出力スイッチSW_OUT_A0、・・・、SW_OUT_A(N-1)に置き換えられ、オンしている出力スイッチSW_OUT_A0、・・・、SW_OUT_A(N-1)はオン抵抗をもつので抵抗RESとそれぞれ等価である。
【0045】
一方、図4に示すように、出力スイッチSW_OUT_B、SW_OUT_Cはオフしている。オフしているスイッチは、無限大に近い抵抗値となるため、端子VinB、VinCから伝送された受信信号は、加算点ADD_Pに伝送されない。このため、出力スイッチSW_OUT_B、SW_OUT_Cに対応する振動子チャネルCHは、受信信号の加算には寄与しない。すなわち、図4においても、端子VinA、・・・、VinA(N-1)を含むそれぞれの振動子チャネルCHが1つのサブアレイSUBを構成している。
【0046】
加算点ADD_Pでは、端子VinA0、・・・、VinA(N-1)から伝送される受信信号のみが加算され、加算信号がケーブルCABを介して本体装置300の対応する受信チャネルAFEへ伝送される。このように、抵抗をスイッチで置き換えることにより加算信号を生成するための振動子チャネル数が適宜変更される。このように、出力スイッチSW_OUTのオン/オフによりサブアレイSUBを構成する振動子チャネルCHが適宜選択可能である。
【0047】
次に、図3図4に関わる課題について詳しく説明する。図5は、加算回路の課題を説明する図である。図5には、それぞれの振動子チャネルCHの出力側にバッファ回路BUFが設けられ、隣接するバッファ回路BUFの出力間にスイッチが設けられた加算回路が示されている。
【0048】
図5に示すように、出力間スイッチSW_INT_B(N-1)、SW_INT_A(N-1)がオフしているので、端子VinA0、・・・VinA(N-1)から伝送された受信信号のみが加算点ADD_Pにおいて加算される。
【0049】
一方、出力間スイッチSW_INT_B(N-2)はオンしているので、端子VinB(N-2)、VinB(N-1)から伝送される受信信号は、別のグループとして加算されることとなる。また、これと同様に、出力間スイッチSW_INT_C0はオンしているので、端子VinC0、VinC1から伝送される受信信号は、これらとは別のグループとして加算されることとなる。
【0050】
しかしながら、図5の構成によれば、加算点ADD_P(または加算出力端子OUT)と各バッファ回路BUFまでに経由するスイッチの個数により、バッファ回路BUFと加算点ADD_P(または加算出力端子OUT)との間の抵抗値が、振動子チャネルCH間でばらつく。このため、図5における受信信号の加算は、単純な補間平均とはならず、補間平均に重みがついてしまう。例えば、端子VinA0に対応するバッファ回路BUFから加算点ADD_Pまでの抵抗値は、スイッチ1個分の抵抗値(R)であるが、端子VinA(N-1)に対応するバッファ回路BUFから加算点ADD_Pまでの抵抗値は、直列配置されたスイッチN-2個分の抵抗値((N-2)×R)である。
【0051】
抵抗補間平均の前提は、サブアレイSUB内のすべての振動子チャネルCHについて、バッファ回路BUFから加算点ADD_Pまでの抵抗値が等しいことである。しかし、加算信号を取り出す位置によって抵抗値が変動すると、加重平均となってしまい、振動子チャネルごとに受信信号の利得がばらついてしまう。そうすると、スイッチのオン抵抗の影響を受け、所望の加算動作を得ることができない。
【0052】
図6は、図5を実現する具体的な回路構成を例示する図である。図6では、それぞれのサブアレイが2×2の4振動子チャネルCHを含む例が示されている。すなわち、図6の加算回路は、4振動子チャネルの受信信号を加算して加算信号を生成する。図6では、加算単位である2×2振動子チャネルからなるサブアレイが縦に4つ配置される。それぞれのサブアレイSUBは、図示で縦方向(第1方向)に配列された2つの振動子チャネルCHで構成される振動子チャネル列が図示で横方向(第2方向)に2列配置された構成となっている。
【0053】
そして、振動子チャネル列ごとに、対応する配線(振動子チャネル列配線)がそれぞれ設けられる。例えば、サブアレイSUB1~SUB4の左側の振動子チャネル列には、配線L1~L4がそれぞれ対応している。サブアレイSUB1~SUB4の右側の振動子チャネル列には、配線L5~L8がそれぞれ対応している。
【0054】
図6に示す振動子チャネルCHには、送受信回路TRVの出力側に1:4のマルチプレクサMUXが設けられる。各振動子チャネルCHは、マルチプレクサMUXを介して対応するいずれかの配線と接続される。配線L1、L5は出力間スイッチSW_INT1を介して互いに接続されている。これにより、加算出力端子(加算点)P1に、サブアレイSUB_1の加算信号が伝送される。
【0055】
同様に、サブアレイSUB_2の加算信号は、互いに接続される配線L2、L6を介して、加算出力端子P2へ伝送される。サブアレイSUB_3の加算信号は、互いに接続される配線L3、L7を介して、加算出力端子P3へ伝送される。サブアレイSUB_4の加算信号は、互いに接続される配線L4、L8を介して、加算出力端子P4へ伝送される。
【0056】
しかしながら、図6に示すように、各サブアレイSUBの左側の振動子チャネル列から出力される受信信号はマルチプレクサMUXしか通過しないが、右側の振動子チャネル列から出力される受信信号はマルチプレクサMUXおよび出力間スイッチSW_INT1を通過する。
【0057】
すなわち、右側の振動子チャネル列は、出力間スイッチSW_INT1のオン抵抗分、左側の振動子チャネル列よりも加算出力端子P1と振動子チャネルCHとの間の抵抗値が大きい。このため、サブアレイSUB_1に対する信号の加算は、所望の抵抗補間平均とはならず、加重平均すなわち重み付き加算となり、振動子チャネル間で受信信号利得がばらつく。このような状況は、他のサブアレイにおいても同様である。
【0058】
そこで、加算出力端子(加算点)と、サブアレイの各振動子チャネルとの間の抵抗値が同じになる構成を検討する。
【0059】
図7は、抵抗値のばらつきを無くす加算回路を図5と対応させて示す図である。図7では、遅延回路DLYと出力スイッチSW_OUTとの間に受信信号のインピーダンス変換を行うバッファ回路BUFが設けられている。すなわち、それぞれの振動子チャネルCH(バッファ回路BUF)の出力側に、出力スイッチSW_OUTが設けられる。
【0060】
受信信号出力スイッチSW_OUTを設けることにより、加算点と、サブアレイSUBとの間に、出力間スイッチ(第2スイッチ)SW_INTおよび出力スイッチSW_OUTによる直並列ラダースイッチがスイッチ群GRPとして構成される。そして、スイッチ群GRPまたは加算点から加算出力端子OUTは、ケーブルCABで接続されている。
【0061】
出力間スイッチSW_INTおよび出力スイッチSW_OUTのオン抵抗の抵抗値を適切に設定することにより、加算出力端子(加算点)とサブアレイSUB内の各振動子チャネルCHとの間の抵抗値が同じになるように構成される。これにより、振動子チャネル間における受信信号利得のばらつきが解消される。
【0062】
図7では、バッファ回路BUFの出力と直列に出力スイッチ(第1スイッチ)SW_OUTが挿入されている。ここで、出力間スイッチSW_INTのオン抵抗値をすべてRとする。また、端子VinA0に対応する出力スイッチSW_OUT_A0のオン抵抗をαR、端子VinA1に対応する出力スイッチSW_OUT_A1のオン抵抗をβRのように設定し、振動子チャネルCH間における受信信号利得がばらつかないよう、それぞれの出力スイッチSW_OUTの抵抗比を設計する。これにより、各振動子チャネルCHからの受信信号の加算点ADD_Pまでの抵抗分圧減衰量を等しくすることができ、各振動子チャネルCHから加算点ADD_Pまでの受信信号利得を等しくすることができる。
【0063】
図7では、出力間スイッチSW_INT_A0と出力間スイッチSW_INT_A1との間から加算信号が取り出され、ケーブルCABを介して本体装置300の受信チャネルAFEへ伝送されている。ただし、このような構成に限定されるものではなく、加算信号の取り出し位置が他の出力間スイッチの間に設定されても、各振動子チャネルCHからの受信信号利得が等しくなるよう、出力スイッチSW_OUTのオン抵抗の抵抗比の組み合わせを設定することができる。
【0064】
図8は、図7を実現する具体的な回路構成を例示する図である。図8は、図6に対応している。図8に示すように、配線L1~L4には出力スイッチSW_OUT1が接続され、配線L5~L8には出力スイッチSW_OUT2が接続されている。
【0065】
図9は、図8の等価回路を示す図である。回路CIR1は、図8の振動子チャネルCH1、CH2の並列回路、回路CIR2は、図8の振動子チャネルCH3、CH4の並列回路に相当する回路である。説明を簡単のため、ここでは、回路CIR1、CIR2の出力インピーダンスを0Ωとし、抵抗RES1の抵抗値をR1、抵抗RES2の抵抗をRとする。また、抵抗RES3の抵抗値をRとする。
【0066】
この場合、回路CIR1の出力から加算出力端子P1までの信号減衰率A1は、A1=2R/(R1+2R)であり、回路CIR2の出力から加算点ADD_Pまでの信号減衰率A2は、A2=R1/(R1+2R)である。これらの信号減衰率A1、A2を等しくすれば(A1=A2)、各振動子チャネルCHから加算出力端子P1までの信号利得を等しくすることが可能である。したがって、2R/(R1+2R)=R1/(R1+2R)から、R1=2Rが算出される。したがって、R1を2Rと設定することで、各振動子チャネルから加算点ADD_Pまでの信号利得を等しくすることが可能である。
【0067】
図8において、出力スイッチSW_OUT1、SW_OUT2、出力間スイッチSW_INT1の抵抗群間におけるそれぞれのスイッチのオン抵抗の抵抗比を、前述の手法により設計することで、加算信号を加算出力端子P1~P4のいずれの端子から取り出しても、各振動子チャネルCHから加算点までの信号利得を等しくすることが可能となる。
【0068】
図7図9では、加算単位であるサブアレイSUBが2×2の振動子チャネルCHで構成された例が示されているが、振動子チャネルCHの加算単位が他の構成に切り替えられてもよい。図10は、加算単位が切り換えられた回路構成を例示する図である。図10には、回路構成は図8のままで、加算単位が3×3の振動子チャネルに切り換えられている。 図10では、加算単位である9振動子チャネルからなるサブアレイSUB_11、SUB_12が縦に2つ配置されている。サブアレイSUB_12は振動子チャネルCH11~CH19を含み、サブアレイSUB_21は振動子チャネルCH21~CH29を含む。サブアレイごとに受信信号が加算され、それぞれの加算信号は2つの加算出力端子P1、P3から本体装置300へそれぞれ伝送される。
【0069】
図10の例では、振動子チャネル列ごとに2本の配線が用いられる。具体的には、振動子チャネルCH11~CH13、CH21~CH23を含む振動子チャネル列では、配線L1、L3がそれぞれ用いられる。振動子チャネルCH14~CH16、CH24~CH26を含む振動子チャネル列では、配線L5、L7がそれぞれ用いられる。振動子チャネルCH17~CH19、CH27~CH29を含む振動子チャネル列では、配線L9、L11がそれぞれ用いられる。
【0070】
サブアレイSUB_11の左列の振動子チャネルCH11~CH13は、出力スイッチSW_OUT1のみを介して加算点ADD_Pと接続される。中央列の振動子チャネルCH14~CH16は、出力スイッチSW_OUT2および出力間スイッチSW_INT1を介して加算点ADD_Pと接続される。右列の振動子チャネルCH17~CH19は、出力スイッチSW_OUT3、および出力間スイッチSW_INT2、SW_INT1を介して加算出力端子P1と接続される。このように列によって接続されるスイッチの段数が異なるが、前述の通り、各出力スイッチのオン抵抗の抵抗比(または抵抗値)を、加算出力端子と各振動子チャネル間の信号減衰率から算出した値に設定すればよい。サブアレイSUB_12についても同様である。
【0071】
なお、図7図8図10等において、加算出力端子の個数が、本体装置300の受信チャネルAFEの個数より大きい場合、受信チャネルAFEの個数分のみ、加算出力端子と受信チャネルAFEとを接続してもよい。この場合、2次元アレイ超音波探触子100は、複数の本体装置と接続されても構わない。
【0072】
例えば、2次元アレイ超音波探触子100の加算出力端子の個数をNとし、受信チャネルAFEの個数がMの第1本体装置と、受信チャネルAFEの個数がLの本体装置があり、N≧M>Lである場合、N個の加算出力端子のうち第1本体装置に対してM個の加算出力端子を接続し、第2本体装置に対してL個の加算出力端子を接続してもよい。
【0073】
さらに、L個の加算出力端子はM個の加算出力端子の部分集合でもよく、言い換えれば、第2本体装置に接続される加算出力端子はすべて第1本体装置1も接続されてもよい。
【0074】
これにより、単一の2Dアレイ超音波探触子と複数の本体装置との接続を可能とし、本体装置の受信チャネル数に依らず広い受信開口を利用することで、受信チャネル数が少ない本体装置においても信号対雑音比を確保することが可能となる。
【0075】
図11は、図10の等価回路を示す図である。CIR11は、図10の振動子チャネルCH11~CH13の並列回路、回路CIR12は、図10の振動子チャネルCH21~CH23の並列回路に相当する。回路CIR13は、図10の振動子チャネルCH14~CH16の並列回路、回路CIR14は、図10の振動子チャネルCH24~CH26の並列回路に相当する。回路CIR15は、図10の振動子チャネルCH17~CH19の並列回路、回路CIR16は、図10の振動子チャネルCH27~CH29の並列回路に相当する。
【0076】
ここでも、簡単のために、回路CIR11~CIR16の出力インピーダンスを0Ωとする。また、抵抗RES11の抵抗値をR1、抵抗RES12の抵抗値をR2、抵抗RES13の抵抗値をR3、抵抗RES14の抵抗値をR4とし、抵抗RES15~RES16の抵抗値をRとする。また、抵抗RES21~RES24の抵抗値をRとする。
【0077】
図12は、図11における信号減衰率の式を一覧にして示す図である。このとき、回路CIR11の出力から加算出力端子P1までの信号減衰率A11は、図12の式1で表される。回路CIR13の出力から加算出力端子P1までの信号減衰率A13は、図12の式2で表される。回路CIR15の出力から加算出力端子P1までの信号減衰率A15は、図12の式3で表される。
【0078】
一方、回路CIR12の出力から加算出力端子P3までの信号減衰率A12は、図12の式4で表される。回路CIR14の出力から加算出力端子P3までの信号減衰率A14は、図12の式5で表される。回路CIR16の出力から加算出力端子P3までの信号減衰率A16は、図12の式4で表される。
【0079】
各振動子チャネルから加算出力端子P1、P3までの信号利得がすべて等しくなるためには、信号減衰率A11~A16がすべて等しくなければならない。これより、スイッチ間における各スイッチのオン抵抗の抵抗比が算出され、さらに各スイッチの抵抗値が、R1=4R、R3=2R、R2=R、R4=2Rとして算出される。
【0080】
これらの値に基づく抵抗比で各スイッチのオン抵抗を設計すれば、加算単位が異なるサブアレイSUB_11、SUB_12間においても、各振動子チャネルから加算点までの信号利得を等しくすることが可能である。
【0081】
ところで、同一の回路構成において加算単位を切り換えに応じて、各スイッチのオン抵抗の抵抗値を切り換える必要がある。そこで、オン抵抗の切り換え方法について以下で説明する。
【0082】
図13は、スイッチのオン抵抗を切り換える方法を説明する図である。図13は、1本の配線と接続される出力スイッチSW_OUTの構成が例示されている。図13の出力スイッチSW_OUTでは、オン抵抗の抵抗値が同じ(例えば4R)4つのサブスイッチSW_SUB1~SW_SUB4が並列に接続されている。サブスイッチSW_SUB1~SW_SUB4は、それぞれNMOSFET(以下NMOS)とPMOSFET(以下PMOS)が並列接続された構成となっている。
【0083】
サブスイッチSW_SUB1のNMOSのゲートには、抵抗値設定信号D1Rが供給される。サブスイッチSW_SUB1のPMOSのゲートには、抵抗値設定信号D1Rの反転信号が供給される。
【0084】
サブスイッチSW_SUB2のNMOSのゲートには、オア回路OR1の出力信号が供給される。サブスイッチSW_SUB2のPMOSのゲートには、オア回路OR1の出力信号の反転信号が供給される。
【0085】
サブスイッチSW_SUB3のNMOSのゲートには、オア回路OR1の出力信号が供給される。サブスイッチSW_SUB2のPMOSのゲートには、オア回路OR1の出力信号の反転信号が供給される。
【0086】
サブスイッチSW_SUB4のNMOSのゲートには、オア回路OR2の出力信号が供給される。サブスイッチSW_SUB4のPMOSのゲートには、オア回路OR2の出力信号の反転信号が供給される。
【0087】
オア回路OR1には、抵抗値設定信号D1R、D2Rが入力される。オア回路OR2には、抵抗値設定信号D1R、D4Rが入力される。
【0088】
図13の構成では、出力スイッチSW_OUTの抵抗値を3段階で切り換え可能である。例えば、抵抗値設定信号D1Rの論理レベルがハイレベルである場合、サブスイッチSW_SUB1~SW_SUB4はオンする。この場合、出力スイッチSW_OUTのオン抵抗値はRとなる。次に、抵抗値設定信号D2Rの論理レベルがハイレベル、抵抗値設定信号D1R、D4Rの論理レベルがローレベルである場合、サブスイッチSW_SUB2~SW_SUB3のみがオンする。この場合、出力スイッチSW_OUTのオン抵抗値は2Rとなる。次に、抵抗値設定信号D4Rの論理レベルがハイレベル、抵抗値設定信号D1R、D2Rの論理レベルがローレベルである場合、サブスイッチSW_SUB4のみがオンする。この場合、出力スイッチSW_OUTのオン抵抗値は4Rとなる。
【0089】
このように、オンさせるサブスイッチにより、出力スイッチSW_OUTにおける所望のオン抵抗値が設定される。なお、MOSのオン抵抗は、閾値電圧のばらつき、電源電圧変動、温度によって変動する。しかし、図9図11で示したように、各振動子チャネルから加算点までの受信信号利得を等しくするために必要なのは抵抗比の精度である。IC設計においては、各MOSのオン抵抗の抵抗値を高い精度で得ることは困難であるが、並列させるMOSの個数や各MOSのチャネル幅の比率により、スイッチ間における抵抗比の精度を高めることは可能である。このため、図13の構成はICとして実装するのに適している。
【0090】
図13の出力スイッチはNMOSとPMOSを並列に接続したものであり、通過させる信号の直流レベル変動に対してオン抵抗の変動が小さい。直流レベルが下がれば、NMOSのオン抵抗が低下しPMOSのオン抵抗は高くなる。一方、直流レベルが上がれば、NMOSのオン抵抗が高くなりPMOSのオン抵抗は低下する。
【0091】
このようにNMOSとPMOSとを並列させることで、並列抵抗の増減はある程度相殺される。ただし、通過させる信号の直流レベルが電源よりもグラウンドレベルに近い場合、サブスイッチをNMOSおよびPMOSの並列とする必要はない。このような場合、出力スイッチは別の構成を持たせることが可能である。
【0092】
図14は、図13とは異なる出力スイッチの構成を例示する図である。図14では、サブスイッチSW_SUB1~SW_SUB4がNMOSのみで構成されている。この構成によれば、出力スイッチに係る回路面積を削減可能である。
【0093】
なお、通過させる信号の直流レベルが電源に近い場合は、PMOSのみでサブスイッチを構成することも可能である。ただし、同じ素子サイズのPMOSおよびNMOSに対し、同レベルのゲート-ソース間電圧を印加する場合、NMOSのほうがPMOSよりオン抵抗が低くなる。このため、回路の雑音やICの出力インピーダンスを下げて駆動力を上げるためにはNMOSを用いたほうが有利である。
【0094】
<本実施の形態による主な効果>
本実施の形態によれば、加算出力端子と振動子チャネルCHとの間に、出力スイッチSW_OUTと出力間スイッチSW_INTとからなるラダー構造のスイッチ群が構成される。
【0095】
この構成によれば、2Dアレイ超音波探触子100内に搭載されるICにおいて、スイッチの個数および配線本数を削減することができる。これにより、チップ面積の増大を抑えつつ、本体装置の受信チャネルに応じて受信信号の加算単位を切り換えが可能となる。
【0096】
また、本実施の形態によれば、加算出力端子とそれぞれの振動子チャネルCHとの間の信号減衰率が等しくなるように、それぞれの出力スイッチSW_OUTおよびそれぞれの出力間スイッチSW_INT間におけるオン抵抗の抵抗比が設定される。この構成によれば、加算出力端子とそれぞれの振動子チャネルCHとの間において、受信信号の利得のばらつきを抑えることが可能となる。また、振動子チャネルCHの物理位置によらず、受信信号の利得を全振動子チャネル間で等しくそろえることができ、信号利得の振動子チャネル依存による虚像の発生を防ぐことが可能となる。
【0097】
また、本実施の形態によれば、出力スイッチSW_OUTおよび出力間スイッチSW_INTは、遅延回路DLYと加算出力端子P1~P4(OUT)との間に設けられる。この構成によれば、出力スイッチSW_OUTおよび出力間スイッチSW_INTのオン/オフ制御が遅延処理後の受信信号に与える影響が低減される。
【0098】
また、本実施の形態によれば、出力スイッチSW_OUTは、加算単位の切り換えに応じてオン抵抗を切り換え可能である。具体的には、出力スイッチSW_OUTは、MOSFETからなる複数のサブスイッチ(例えばSW_SUB1~SW_SUB4)が並列に接続されており、オンさせるサブスイッチによりオン抵抗を切り換える。この構成によれば、複数種類の本体装置に対応でき、汎用性を高めることが可能となる。
【0099】
また、本実施の形態によれば、それぞれの遅延回路DLYと出力スイッチとの間に受信信号のインピーダンス変換を行うバッファ回路BUFが設けられている。この構成によれば、受信信号の出力経路におけるインピーダンスを低減させることができ、信号雑音比を向上させることが可能となる。
【0100】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。各振動子チャネルにテスト用交流信号を入力し、それぞれ振動子チャネルにおいて、信号の入力から出力まで振動子チャネルが期待通り動作するかテストしたい場合がある。シリコンウェハの状態でICのテストを行うICテスタは、複数の受信チャネルを持っており、ICからの信号が複数の受信チャネルに伝送されることで、ICのテストを行うことができる。
【0101】
しかしながら、ICテスタの受信チャネルの多くは、デジタル信号用の受信チャネルであり、論理レベルのハイレベルかローレベルかを判定する機能しか備えていない。ICテスタには、アナログ信号をサンプリングしてアナログ/デジタル変換できるアナログ信号用の受信チャネルが少ないのが実情である。このため、任意の振動子チャネルの信号をテスタのアナログ受信チャネルに接続して、受信信号の振幅の大小をアナログ値として判定できるテストが望まれる。
【0102】
図15は、本発明の実施の形態2に係る回路のテスト方法を説明する図である。図15では、右下の振動子チャネルCH_TESTに含まれる送受信回路TRV_TESTを、ICテスタのアナログ受信チャネルと接続される出力端子P_TESTにルーティングする例が示されている。
【0103】
図15では、マルチプレクサMUX_TESTにより振動子チャネルCH_TESTが配線L9と接続される。そして、出力スイッチSW_OUT3、および出力間スイッチSW_INT2、SW_INT1をオンさせることで、振動子チャネルCH_TESTは、配線L9等を介してアナログ受信チャネルAFE_TESTと接続される。言い換えれば、加算出力端子P_TESTと特定の振動子チャネルCH_TESTとを接続する経路上の出力スイッチSW_OUT3、および出力間スイッチSW_INT2、SW_INT1がオンされる。
【0104】
これにより、ICテスタから、振動子チャネルCH_TESTから伝送されるアナログの受信信号の振幅の大きさ、および各スイッチの導通判定を行うことが可能となる。
【0105】
このとき、テスト用の信号パスとは関係ない各スイッチはオフされることが望ましい。これにより、テスト実行時における回路負荷が軽減され、スイッチを切り換えながら振動子チャネルごとの導通テストを容易に行うことが可能となる。
【0106】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。なお、図面に記載した各部材や相対的なサイズは、本発明を分かりやすく説明するため簡素化・理想化しており、実装上はより複雑な形状となる場合がある。
【符号の説明】
【0107】
1…超音波診断装置、100…2次元アレイ超音波探触子、300…本体装置、ADD…加算回路、BUF…バッファ回路、CH…振動子チャネル、L1~L12…配線、OUT、P1~P4…加算出力端子、TD…超音波振動子、SUB…サブアレイ、SW_INT…出力間スイッチ、SW_OUT…出力スイッチ、SW_SUB…サブスイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18