IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-操舵装置 図1
  • 特許-操舵装置 図2
  • 特許-操舵装置 図3
  • 特許-操舵装置 図4
  • 特許-操舵装置 図5
  • 特許-操舵装置 図6
  • 特許-操舵装置 図7
  • 特許-操舵装置 図8
  • 特許-操舵装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240125BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240125BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20240125BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
B62D113:00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020105195
(22)【出願日】2020-06-18
(65)【公開番号】P2021195085
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】柿本 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】内野 義友輝
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝文
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-293273(JP,A)
【文献】特開平10-236329(JP,A)
【文献】特開2006-347209(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0281490(US,A1)
【文献】特開2006-321434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 119/00
B62D 113/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールの操作に連動して回転するステアリングシャフトであって、車両の転舵輪との間の動力伝達が分離されたステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトに付与されるトルクを発生するモータと、
前記モータを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記ステアリングホイールの回転位置を調節する調節処理として前記ステアリングホイールを自動回転させる場合、前記ステアリングホイールの自動回転を停止するとき、前記ステアリングホイールの回転速度を零へ向けて徐々に減速させるように前記モータを制御するように構成され、
前記制御装置は、操舵トルクに応じて操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力を発生させる反力制御を実行するように構成される第1の制御部と、前記調節処理を実行するように構成される第2の制御部とを有し、
前記制御装置は、前記ステアリングホイールの回転位置の調節が必要であるかどうかに応じて、前記第1の制御部による前記反力制御と、前記第2の制御部による前記調節処理とを切り替えるように構成される操舵装置。
【請求項2】
前記第2の制御部は、前記調節処理として前記ステアリングホイールを自動回転させる場合、前記ステアリングホイールの自動回転を開始するとき、前記ステアリングホイールの回転速度を徐々に増速させるように前記モータを制御する請求項1に記載の操舵装置。
【請求項3】
前記第2の制御部は、前記ステアリングホイールの回転位置を調節する観点に基づき設定される目標操舵角に前記ステアリングホイールの回転位置を追従させる操舵角フィードバック制御を実行し、
前記第2の制御部は、前記ステアリングホイールの自動回転を開始するとき、および前記ステアリングホイールの自動回転を停止するとき、前記目標操舵角の値を制限しつつ前記調節の観点に基づき設定される最終的な前記目標操舵角へ向けて徐々に変化させることにより、前記ステアリングホイールの回転速度を徐々に変化させる請求項2に記載の操舵装置。
【請求項4】
前記調節処理は、車両の電源がオフからオンへ切り替えられた場合、ステアリングホイールの回転位置を車両の転舵輪の転舵位置に対応させるための処理である請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載の操舵装置。
【請求項5】
前記ステアリングホイールの回転を規制するストッパ機構を有し、
前記第2の制御部は、前記調節処理として、前記モータの制御を通じて前記ステアリングホイールを第1の動作端まで動作させた後に第2の動作端まで反転動作させるとともに、前記ステアリングホイールの反転動作の開始時点および終了時点における前記モータの回転角に基づき前記ステアリングホイールの中立位置を演算する請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置が存在する。操舵装置は、ステアリングシャフトに付与される操舵反力の発生源である反力モータを有する反力機構と、転舵輪を転舵させる転舵力の発生源である転舵モータを有する転舵機構とを備えている。車両の走行時、操舵装置の制御装置は、反力モータに対する給電制御を通じて操舵反力を発生させるとともに、転舵モータに対する給電制御を通じて転舵輪を転舵させる。
【0003】
ステアバイワイヤ方式の操舵装置では、ステアリングホイールが転舵機構からの制約を受けない。このため、車両の電源がオフされている状態でステアリングホイールに何らかの外力が加わった際、ステアリングホイールが回転するおそれがある。このとき、転舵輪は動作しないため、ステアリングホイールと転舵輪との位置関係が所定の舵角比に応じた本来の位置関係と異なる状況が生じる。ちなみに、舵角比とは、ステアリングホイールの操舵角と転舵輪の転舵角との比をいう。
【0004】
そこで、たとえば特許文献1の操舵装置では、車両の電源がオンされたとき、ステアリングホイールの回転位置の補正処理が実行される。操舵装置の制御装置は、車両の電源がオフされたときのステアリングホイールの回転位置を記憶している。制御装置は、車両の電源がオフされたときのステアリングホイールの回転位置と車両の電源がオンされたときのステアリングホイールの回転位置との比較を通じてステアリングホイールの回転位置のずれ量を演算し、このずれ量が0(零)になるように反力モータを駆動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-321434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の操舵装置によれば、確かにステアリングホイールと転舵輪との位置関係のずれが改善される。しかし、ステアリングホイールと転舵輪との位置関係を補正するために、車両の電源がオンされるタイミングでステアリングホイールが自動的に回転する。このステアリングホイールの自動回転に対して運転者が違和感を覚えるおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、ステアリングホイールの自動回転に対する運転者の違和感を軽減することができる操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成し得る操舵装置は、ステアリングホイールの操作に連動して回転するステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトに付与されるトルクを発生するモータと、前記モータを制御する制御装置と、を備えている。前記制御装置は、前記ステアリングホイールの回転位置を調節する調節処理として前記ステアリングホイールを自動回転させる場合、前記ステアリングホイールの自動回転を停止するとき、前記ステアリングホイールの回転速度を零へ向けて徐々に減速させるように前記モータを制御する。
【0009】
この構成によれば、ステアリングホイールの自動回転が停止されるとき、ステアリングホイールの回転速度は徐々に減速する。回転していたステアリングホイールの急停止が抑制されることにより、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0010】
上記の操舵装置において、前記制御装置は、前記調節処理として前記ステアリングホイールを自動回転させる場合、前記ステアリングホイールの自動回転を開始するとき、前記ステアリングホイールの回転速度を徐々に増速させるように前記モータを制御するようにしてもよい。
【0011】
この構成によれば、ステアリングホイールの自動回転が開始されるとき、ステアリングホイールの回転速度は徐々に増速する。すなわち、ステアリングホイールはより円滑に回転し始める。ステアリングホイールの急回転が抑制されることにより、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0012】
上記の操舵装置において、前記制御装置は、前記ステアリングホイールの回転位置を調節する観点に基づき設定される目標操舵角に前記ステアリングホイールの回転位置を追従させる操舵角フィードバック制御を実行するようにしてもよい。この場合、前記制御装置は、前記ステアリングホイールの自動回転を開始するとき、および前記ステアリングホイールの自動回転を停止するとき、前記目標操舵角の値を制限しつつ前記調節の観点に基づき設定される最終的な前記目標操舵角へ向けて徐々に変化させることにより、前記ステアリングホイールの回転速度を徐々に変化させるようにしてもよい。
【0013】
この構成によれば、操舵角の目標値である目標操舵角の値を制限しつつステアリングホイールの回転位置を調節する観点に基づき設定される最終的な目標操舵角へ向けて徐々に変化させることにより、ステアリングホイールの回転速度を徐々に増速させたり徐々に減速させたりすることが可能となる。
【0014】
上記の操舵装置において、前記調節処理は、車両の電源がオフからオンへ切り替えられた場合、ステアリングホイールの回転位置を車両の転舵輪の転舵位置に対応させるための処理であってもよい。
【0015】
この構成によれば、ステアリングホイールの回転位置を車両の転舵輪の転舵位置に対応させるための処理を実行する際、ステアリングホイールの自動回転に対する運転者の違和感を抑制することができる。
【0016】
上記の操舵装置において、前記ステアリングホイールの回転を規制するストッパ機構を有していてもよい。この場合、前記制御装置は、前記調節処理として、前記モータの制御を通じて前記ステアリングホイールを第1の動作端まで動作させた後に第2の動作端まで反転動作させるとともに、前記ステアリングホイールの反転動作の開始時点および終了時点における前記モータの回転角に基づき前記ステアリングホイールの中立位置を演算するようにしてもよい。
【0017】
この構成によれば、ステアリングホイールの中立位置を求める際、ステアリングホイールの自動回転に対する運転者の違和感を抑制することができる。
上記の操舵装置において、前記ステアリングシャフトは車両の転舵輪との間の動力伝達が分離されていてもよい。この場合、前記モータは前記ステアリングシャフトに付与される操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力を発生するようにしてもよい。
【0018】
この構成によるように、上記の操舵装置は、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置に好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の操舵装置によれば、ステアリングホイールの自動回転に対する運転者の違和感を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】操舵装置の第1の実施の形態を示す構成図。
図2】第1の実施の形態における反力制御部のブロック図。
図3】第1の実施の形態の反力制御部によって設定される変化量ガード幅の経時的な変化を示すグラフ。
図4】第1の実施の形態における操舵角の経時的な変化を示すグラフ。
図5】(a)は第1の実施の形態における補正前のステアリングホイールの回転位置を示す正面図、(b),(c),(d)は第1の実施の形態における補正中のステアリングホイールの回転位置の変化を示す正面図、(e)は第1の実施の形態における補正後のステアリングホイールの回転位置を示す正面図。
図6】(a)は第1の実施の形態においてステアリングホイールの回転位置の補正処理の実行に伴う操舵角の経時的な変化を示すグラフ、(b)は第1の実施の形態においてステアリングホイールの回転位置の補正処理の実行に伴う操舵角速度の経時的な変化を示すグラフ。
図7】第2の実施の形態におけるステアリングホイールの背面図。
図8】(a)は第2の実施の形態において舵角中点の設定処理の実行に伴う操舵角速度の経時的な変化を示すグラフ、(b)は第2の実施の形態において舵角中点の設定処理の実行に伴う操舵角の経時的な変化を示すグラフ。
図9】第3の実施の形態における反力制御部のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1の実施の形態>
以下、操舵装置を具体化した第1の実施の形態を説明する。
図1に示すように、車両の操舵装置10は、車両のステアリングホイール11に操舵反力を付与する反力ユニット20、および車両の転舵輪12,12を転舵させる転舵ユニット30を有している。操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用するトルクをいう。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0022】
反力ユニット20は、ステアリングホイール11が連結されたステアリングシャフト21、反力モータ22、減速機構23、回転角センサ24、トルクセンサ25、および反力制御部27を有している。
【0023】
反力モータ22は、操舵反力の発生源である。反力モータ22としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。反力モータ22は、減速機構23を介して、ステアリングシャフト21に連結されている。反力モータ22が発生するトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト21に付与される。
【0024】
回転角センサ24は反力モータ22に設けられている。回転角センサ24は反力モータ22の回転角θを検出する。
トルクセンサ25は、ステアリングシャフト21における減速機構23とステアリングホイール11との間の部分に設けられている。トルクセンサ25は、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト21に加わる操舵トルクTを検出する。
【0025】
反力制御部27は、回転角センサ24を通じて検出される反力モータ22の回転角θに基づきステアリングシャフト21の回転角である操舵角θを演算する。反力制御部27は、ステアリングホイール11の操舵中立位置に対応する反力モータ22の回転角θ(以下、「モータ中点」という。)を基準とする回転数をカウントしている。反力制御部27は、モータ中点を原点として回転角θを積算した角度である積算角を演算し、この演算される積算角に減速機構23の減速比に基づく換算係数を乗算することにより、ステアリングホイール11の操舵角θを演算する。ちなみに、モータ中点は舵角中点情報として反力制御部27に記憶されている。
【0026】
反力制御部27は、反力モータ22の駆動制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵反力を発生させる反力制御を実行する。反力制御部27は、トルクセンサ25を通じて検出される操舵トルクTに基づき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力および操舵トルクTに基づきステアリングホイール11の目標操舵角を演算する。反力制御部27は、反力モータ22の回転角θに基づき演算される操舵角θと目標操舵角との差を求め、当該差を無くすように反力モータ22に対する給電を制御する。反力制御部27は、回転角センサ24を通じて検出される反力モータ22の回転角θを使用して反力モータ22をベクトル制御する。
【0027】
転舵ユニット30は、転舵シャフト31、転舵モータ32、減速機構33、ピニオンシャフト34、回転角センサ35、および転舵制御部36を有している。
転舵シャフト31は、車幅方向(図1中の左右方向)に沿って延びている。転舵シャフト31の両端には、それぞれタイロッド13,13を介して左右の転舵輪12,12が連結されている。
【0028】
転舵モータ32は転舵力の発生源である。転舵モータ32としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。転舵モータ32は、減速機構33を介してピニオンシャフト34に連結されている。ピニオンシャフト34のピニオン歯34aは、転舵シャフト31のラック歯31aに噛み合わされている。転舵モータ32が発生するトルクは、転舵力としてピニオンシャフト34を介して転舵シャフト31に付与される。転舵モータ32の回転に応じて、転舵シャフト31は車幅方向(図1中の左右方向)に沿って移動する。転舵シャフト31が移動することにより転舵輪12,12の転舵角θが変更される。
【0029】
回転角センサ35は転舵モータ32に設けられている。回転角センサ35は転舵モータ32の回転角θを検出する。
転舵制御部36は、転舵モータ32の駆動制御を通じて転舵輪12,12を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。転舵制御部36は、回転角センサ35を通じて検出される転舵モータ32の回転角θに基づきピニオンシャフト34の回転角θを演算する。また、転舵制御部36は、反力制御部27により演算される目標操舵角を使用してピニオンシャフト34の目標回転角を演算する。ただし、ピニオンシャフト34の目標回転角は、所定の舵角比を実現する観点に基づき演算される。転舵制御部36は、ピニオンシャフト34の目標回転角と実際の回転角θとの差を求め、当該差を無くすように転舵モータ32に対する給電を制御する。転舵制御部36は、回転角センサ35を通じて検出される転舵モータ32の回転角θを使用して転舵モータ32をベクトル制御する。
【0030】
つぎに、反力制御部27の機能的な構成の一部について詳細に説明する。
図2に示すように、反力制御部27は、目標操舵角演算部51、ガード設定部52、ガード処理部53、操舵角フィードバック制御部54および通電制御部55を有している。
【0031】
目標操舵角演算部51は、トルクセンサ25を通じて検出される操舵トルクTに基づき目標操舵トルクを演算し、この演算される目標操舵トルクに操舵トルクTを追従させるべく操舵トルクTのフィードバック制御を通じて目標操舵反力を演算する。目標操舵角演算部51は、この演算される目標操舵反力および操舵トルクTに基づきステアリングホイール11の目標操舵角θ を演算する。目標操舵角演算部51は、たとえば目標操舵反力および操舵トルクThの総和を入力トルクとするとき、この入力トルクに応じた理想的な転舵角に対応するステアリングホイール11の操舵角θを予め実験あるいはシミュレーションによりモデル化した理想モデルに基づいて目標操舵角θ を演算する。
【0032】
ガード設定部52は、定められた演算周期当たりの目標操舵角θ の変化量を制限するための制限値Δθを設定する。
ガード処理部53は、ガード設定部52により設定される制限値Δθに基づき、目標操舵角演算部51により演算される目標操舵角θ の変化量を制限する。
【0033】
ちなみに、ガード設定部52およびガード処理部53によって、定められた演算周期当たりの目標操舵角θ の変化量を所定の制限値Δθに制限する、いわゆる時間に対する変化量ガード機能が実現される。
【0034】
操舵角フィードバック制御部54は、ガード処理部53を経た目標操舵角θ と、反力モータ22の回転角θに基づき演算される操舵角θとを取り込む。操舵角フィードバック制御部54は、反力モータ22の回転角θに基づき演算される操舵角θを目標操舵角θ に追従させるべく操舵角θのフィードバック制御を通じて操舵反力指令値Tを演算する。
【0035】
通電制御部55は、操舵反力指令値Tに応じた電力を反力モータ22へ供給する。具体的には、通電制御部55は、操舵反力指令値Tに基づき反力モータ22に対する電流指令値を演算する。通電制御部55は、電流指令値と図示しないセンサを通じて検出される実際の電流の値との偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ22に対する給電を制御する。これにより、反力モータ22は操舵反力指令値Tに応じたトルクを発生する。
【0036】
ここで、ステアバイワイヤ方式の操舵装置10においては、ステアリングホイール11が転舵ユニット30からの制約を受けないため、つぎのような事象が発生するおそれがある。
【0037】
すなわち、車両の電源がオンされているとき、ステアリングホイール11と転舵輪12,12とは同期する。このため、ステアリングホイール11と転舵輪12,12との位置関係は、所定の舵角比に応じた位置関係に維持される。ところが、車両の電源がオフされている状態でステアリングホイール11に何らかの外力が加わった際、ステアリングホイール11が回転するおそれがある。このとき、転舵シャフト31は動作しないため、ステアリングホイール11と転舵輪12,12との位置関係が所定の舵角比に応じた本来の位置関係と異なる状況が生じることが懸念される。
【0038】
このため、操舵装置10は、車両の電源が再びオンされたとき、初期動作としてステアリングホイール11の位置を自動調節する機能を有している。
たとえば車両の電源がオフされている期間にステアリングホイール11が反時計方向(正方向)へ向けて所定の角度だけ回転した場合、車両の電源が再びオンされたとき、反力モータ22の駆動制御を通じてステアリングホイール11を時計方向(負方向)へ向けて所定の角度だけ回転させる。これにより、ステアリングホイール11と転舵輪12,12との位置関係が所定の舵角比に応じた本来の位置関係に戻る。
【0039】
図1に示すように、反力制御部27は、記憶装置27mを有している。反力制御部27は、車両の電源がオンからオフへ切り替えられる際、その直前に演算される操舵角θを基準操舵角θとして記憶装置27mに格納する。この基準操舵角θは、車両の電源がオフされている期間におけるステアリングホイール11の回転の有無を判定する際の基準となる。
【0040】
反力制御部27は、車両の電源がオフからオンへ切り替えられた場合、記憶装置27mに格納された基準操舵角θと、車両の電源がオンされた直後に演算される操舵角θとの比較を通じて、ステアリングホイール11の位置調節の要否を判定する。
【0041】
反力制御部27は、車両の電源がオフされる直前の操舵角θである基準操舵角θと車両の電源が再びオンされた直後の操舵角θとが互いに一致しているとき、ステアリングホイール11の位置調節は不要である旨判定する。車両の電源がオフされてから車両の電源が再びオンされるまでの期間、操舵角θが変化していないため、ステアリングホイール11が回転していないことが明らかである。反力制御部27は、操舵トルクTに応じて操舵反力を発生させる通常の反力制御を実行開始する。
【0042】
反力制御部27は、車両の電源がオフされる直前の操舵角θである基準操舵角θと車両の電源が再びオンされた直後の操舵角θとが互いに一致していないとき、ステアリングホイール11の位置調節を行う必要がある旨判定して、ステアリングホイール11の位置調節を実行する。反力制御部27は、たとえば基準操舵角θと車両の電源がオンされた直後の操舵角θとの差を求め、当該差を無くすように反力モータ22に対する給電を制御する。具体的には、反力制御部27は、基準操舵角θと車両の電源がオンされた直後の操舵角θとの差に基づき目標操舵角θ を演算し、この演算される目標操舵角θ に操舵角θを追従させるべく操舵角θのフィードバック制御を実行する。基準操舵角θと現在の操舵角θとが互いに一致すれば、ステアリングホイール11の位置調節が完了となる。
【0043】
しかし、このような初期動作が実行されることを知らない運転者は、ステアリングホイール11の自動回転に対して違和感を覚えるおそれがある。
そこで、本実施の形態では、ステアリングホイール11の自動回転に伴う運転者の違和感を軽減する観点に基づき、初期動作の実行開始から初期動作の実行完了までの期間におけるステアリングホイール11の回転速度を変化させる。反力制御部27は、目標操舵角θ の制限値Δθを変更することによりステアリングホイール11の回転速度を変化させる。
【0044】
図3のグラフに示すように、反力制御部27は、初期動作の実行開始時、目標操舵角θ の初回値(=操舵角θ)の絶対値と今回の目標操舵角θ の絶対値との偏差の値が第1のしきい値に達するまでの第1の期間ΔT1、制限値Δθを「0」から最大制限値Δθmaxへ向けて徐々に増加させる。最大制限値Δθmaxは、定められた演算周期当たりの目標操舵角θ の変化が最も許容される最大許容値である。
【0045】
反力制御部27は、目標操舵角θ の初回値の絶対値と今回の目標操舵角θ の絶対値との偏差の値が第1のしきい値に達した以降、最終的な目標操舵角θ の絶対値と今回の目標操舵角θ の絶対値との偏差の値が第2の偏差しきい値よりも小さい値に至るまでの第2の期間ΔT2、制限値Δθを最大制限値Δθmaxに維持する。
【0046】
反力制御部27は、最終的な目標操舵角θ の絶対値と前回の目標操舵角θ の絶対値との偏差の値が第2の偏差しきい値よりも小さい値に至った以降、最終的な目標操舵角θ の絶対値と今回の目標操舵角θ の絶対値との偏差が「0」に至るまでの第3の期間ΔT3、制限値Δθを最大制限値Δθmaxから「0」へ向けて徐々に減少させる。
【0047】
図4のグラフに示すように、操舵角θの値が最終的な目標操舵角θ に達するまでの期間において、制限値Δθがより大きい値になるほど、定められた演算周期当たりの操舵角θの変化量はより多くなる。逆に、制限値Δθがより小さい値になるほど、定められた演算周期当たりの操舵角θの変化量はより少なくなる。また、制限値Δθが一定の値であるとき、定められた演算周期当たりの操舵角θの変化量は制限値Δθに応じた一定の量となる。
【0048】
つぎに、操舵装置10の初期動作の実行過程におけるステアリングホイール11の動作を説明する。
図5(a)に示すように、前提の状態として、車両の電源がオンからオフへ切り替えられた状態でステアリングホイール11が転舵輪12,12の転舵位置に対して時計方向へ向けて角度-αだけ回転されている。ステアリングホイール11と転舵輪12,12との位置関係は、所定の舵角比に応じた本来の位置関係と異なる状態に維持されている。ここでは、転舵輪12,12は車両の直進状態に対応する転舵中立位置(転舵角θ=0°)に位置している。このため、本来、ステアリングホイール11は、車両の直進状態に対応する操舵中立位置(操舵角θ=0°)に位置すべきである。
【0049】
さて、反力制御部27は、車両の電源がオフからオンへ切り替えられたとき、ステアリングホイール11の位置調節を実行開始する。この際のステアリングホイール11の一連の動作の概要は、つぎの通りである。
【0050】
図5(b)に示すように、ステアリングホイール11は反時計方向(正方向)へ向けて回転し始めるところ、ステアリングホイール11の回転速度は徐々に増速する。やがて、図5(c)に示すように、ステアリングホイール11の回転速度は一定速度に達する。図5(d)に示すように、ステアリングホイール11の回転量が反時計方向へ向けた角度+αに近づくにつれて、今度はステアリングホイール11の回転速度が徐々に減速する。図5(e)に示すように、ステアリングホイール11の回転量が反時計方向へ向けた角度+αに達するとステアリングホイール11の位置調節が完了となる。ステアリングホイール11が転舵輪12,12の転舵位置に対して時計方向へ向けて角度-αだけ回転した初期位置を基準として反時計方向へ向けて角度+αだけ回転することにより、ステアリングホイール11と転舵輪12,12との位置関係が所定の舵角比に応じた本来の位置関係に戻る。
【0051】
つぎに、ステアリングホイール11の位置調節の実行開始から実行完了までの操舵角速度ωおよび操舵角θの経時的な変化について詳細に説明する。ただし、前提の状態は先の図5(a)に示される通りである。なお、操舵角速度ωは、ステアリングホイール11の回転速度と同義である。
【0052】
図6(b)のグラフに示されるように、ステアリングホイール11の位置調節の実行開始に伴い(時刻T10)、ステアリングホイール11は反時計方向(正方向)へ向けて回転し始めるところ、ステアリングホイール11の操舵角速度ωは徐々に増速する。これは、制限値Δθ、ひいては目標操舵角θ の絶対値が最終的な目標操舵角θ (ここでは、θ =0°)へ向けて徐々に増加されることによる。図6(a)のグラフに示すように、操舵角θの絶対値は操舵中立位置に対応した本来の操舵角θである「0°」へ向けて徐々に減少する。ただし、単位時間あたりの操舵角θの変化量である傾きは徐々に大きくなる。このように、ステアリングホイール11はより円滑に動き出すことによって、運転者に与える違和感が軽減される。
【0053】
図6(b)に示すように、やがて、ステアリングホイール11の操舵角速度ωは一定速度に達する(時刻T11)。これは、制限値Δθ、ひいては目標操舵角θ の絶対値が一定の値に維持されることによる。図6(a)のグラフに示すように、操舵角θの絶対値は操舵中立位置に対応した本来の操舵角θである「0°」へ向けて徐々に減少する。ただし、単位時間あたりの操舵角θの変化量である傾きは一定の傾きに維持される。
【0054】
図6(a),(b)に示すように、操舵角θの絶対値が操舵中立位置に対応した本来の操舵角θである「0°」に近い値に達した以降(時刻T12)、今度はステアリングホイール11の操舵角速度ωが徐々に減速する。これは、制限値Δθ、ひいては目標操舵角θ の絶対値が最終的な目標操舵角θ へ向けて徐々に減少されることによる。図6(a)のグラフに示すように、操舵角θの絶対値は操舵中立位置に対応した本来の操舵角θである「0°」へ向けて徐々に減少する。ただし、単位時間あたりの操舵角θの変化量である傾きは徐々に小さくなる。
【0055】
図6(a),(b)に示すように、やがてステアリングホイール11の操舵角θの絶対値が操舵中立位置に対応した本来の操舵角θである「0°」に達したとき(時刻T13)、ステアリングホイール11の動作は停止する。ステアリングホイール11の操舵角速度ωは「0」となる。図6(a)のグラフに示すように、操舵角θの絶対値が最終的な目標操舵角θ (ここでは、θ =θ=0°)に一致する。すなわち、ステアリングホイール11と転舵輪12,12との位置関係が所定の舵角比に応じた本来の位置関係に戻る。また、ステアリングホイール11の位置調節の実行完了の直前において、ステアリングホイール11の回転速度が徐々に減速されることによって、運転者に与える違和感が軽減される。
【0056】
<第1の実施の形態の効果>
したがって、第1の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ステアリングホイール11の位置調節の実行開始の直後、ステアリングホイールの回転速度は徐々に増速する。すなわち、ステアリングホイール11はより円滑に回転し始める。ステアリングホイール11の急回転が抑制されることにより、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0057】
(2)ステアリングホイール11の位置調節の実行完了の直前、ステアリングホイールの回転速度は徐々に減速する。回転していたステアリングホイール11の急停止が抑制されることにより、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0058】
(3)上記の(1),(2)欄に記載されるステアリングホイール11の回転速度の漸増減機能によって、ステアリングホイール11の位置調節の実行開始の直後、およびステアリングホイール11の位置調節の実行完了の直前における運転者の違和感が軽減される。このため、ステアリングホイール11の回転速度を一定速度に維持する期間、ステアリングホイール11をより速い速度で回転させることができる。したがって、より円滑なステアリングホイール11の回転挙動を実現しつつも、ステアリングホイール11の位置調節の実行開始から実行完了までに要する時間をより短くすることができる。
【0059】
<第2の実施の形態>
つぎに、操舵装置を具体化した第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1および図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。また、本実施の形態は、先の第1の実施の形態と組み合わせて実施してもよい。
【0060】
図7に示すように、反力ユニット20は、ストッパ機構40を有している。ストッパ機構40は、ステアリングホイール11の操舵角θに限界を設けるためのものである。ストッパ機構40は、ステアリングホイール11の1回転(360°)を超える回転を規制する。ちなみに、図7はステアリングホイール11をその裏面側から見た図である。
【0061】
ストッパ機構40は、第1の規制部材41、および第2の規制部材42を有している。
第1の規制部材41は、ステアリングシャフト21を車体に支持するステアリングコラム43に固定されている。第1の規制部材41は、ステアリングシャフト21の半径方向に沿って延びている。第1の規制部材41は、ステアリングシャフト21の回転方向において互いに反対側に位置する第1の規制面41aおよび第2の規制面41bを有している。第1の規制面41aおよび第2の規制面41bは、ステアリングシャフト21の半径方向においてステアリングシャフト21に近づくほど互いに近接するように傾斜している。第1の規制部材41は、ステアリングホイール11の中立位置に対応して設けられる。
【0062】
第2の規制部材42は、ステアリングシャフト21の外周面に固定されている。第2の規制部材42は、ステアリングシャフト21におけるステアリングホイール11側の端部の近傍に位置している。第2の規制部材42は、ステアリングシャフト21の回転中心軸に直交する方向に沿って延びている。第2の規制部材42は、ステアリングシャフト21の回転方向において第1の規制部材41に当接可能とされている。したがって、ステアリングホイール11は、第2の規制部材42が第1の規制部材41の第1の規制面41aに当接する第1の規制位置と、第2の規制部材42が第1の規制部材41の第2の規制面41bに当接する第2の規制位置との間を移動する。
【0063】
第1の規制面41aと第2の規制面41bとのなす角度がたとえば20°に設定されている場合、第2の規制部材42は、ステアリングホイール11の中立位置を起点として、ステアリングホイール11が右操舵方向へ向けて170°だけ回転するタイミングで第1の規制部材41の第1の規制面41aに当接する。第2の規制部材42は、ステアリングホイール11の中立位置を起点として、ステアリングホイール11が左操舵方向へ向けて170°だけ回転するタイミングで第1の規制部材41の第2の規制面41bに当接する。すなわち、ステアリングホイール11の操作範囲は、ステアリングホイール11の中立位置を基準として±170°、トータルとして340°の範囲に制限される。
【0064】
ステアリングホイール11と転舵輪12,12との位置関係は、定められた舵角比に応じた位置関係に維持される。たとえば、ステアリングホイール11がその操作範囲の全域にわたって操作されたとき、転舵輪12,12もその転舵範囲の全域にわたって転舵する。ここでは、ステアリングホイール11の操作範囲が360°未満の範囲に制限されているため、ステアリングホイール11を1回転させることなく転舵輪12,12をその転舵範囲の全域にわたって転舵させることが可能である。すなわち、ステアリングホイール11の持ち替え操作を行う必要がない。
【0065】
ここで、操舵装置10では、ステアリングホイール11の操舵角θに基づき転舵モータ32が制御される。また、操舵装置10は、ステアリングホイール11の操舵角θに限界を設けるためのストッパ機構40を有している。このため、ステアリングホイール11と転舵輪12,12との位置関係を所定の舵角比に応じた位置関係に維持するためには、ステアリングホイール11の操舵中立位置と転舵輪12,12の転舵中立位置とを一致させたうえで動作させる必要がある。
【0066】
ところが、たとえばバッテリの交換作業を行う場合、車両からバッテリが取り外されたとき、反力制御部27に電力が供給されなくなる。このため、反力制御部27に記憶されていた舵角中点情報が消失する。これにより、ステアリングホイール11と転舵輪12,12との位置関係を所定の舵角比に応じた位置関係に維持することが困難となるおそれがある。そこで、反力制御部27は、新たにバッテリが取り付けられた後、初めて車両の電源がオンされたとき、改めて舵角中点情報を設定する。
【0067】
反力制御部27は、車両の電源がオンされた時点の反力モータ22の回転角θに基づきステアリングホイール11の初期位置として現在の操舵角θを演算し、この演算される操舵角θを一時的に記憶する。
【0068】
つぎに、反力制御部27は、第2の規制部材42が第1の規制部材41の第1の規制面41aに当接する位置までステアリングホイール11を右回転させるべく、ステアリングホイール11の初期位置として記憶されている操舵角θを基準として第1の目標操舵角を設定する。反力制御部27は、操舵角フィードバック制御の実行を通じて、第2の規制部材42が第1の規制部材41の第1の規制面41aに当接したときの操舵角θを第1のエンド角として一時的に記憶する。
【0069】
つぎに、反力制御部27は、第2の規制部材42が第1の規制部材41の第2の規制面41bに当接する位置までステアリングホイール11を左回転させるべく、ステアリングホイール11の初期位置として記憶されている操舵角θを基準として第2の目標操舵角を設定する。反力制御部27は、操舵角フィードバック制御の実行を通じて、第2の規制部材42が第1の規制部材41の第2の規制面41bに当接したときの操舵角θを第2のエンド角として一時的に記憶する。
【0070】
そして、反力制御部27は、第1のエンド角と第2のエンド角との和の2分の1の値を操舵角θの中点θs0として演算する。この演算される操舵角θの中点θs0は、ステアリングホイール11の操舵中立位置に対応する反力モータ22の回転角θであるモータ中点に対応する。反力制御部27は、これら演算される操舵角θの中点θs0およびモータ中点を舵角中点情報として記憶する。以上で、舵角中点の設定処理が完了となる。
【0071】
この後、反力制御部27は、ステアリングホイール11を操舵角θの中点θs0に対応する位置へ回転させるべく、先に舵角中点情報として記憶された操舵角θの中点θs0の値を第3の目標操舵角として設定する。反力制御部27は、操舵角フィードバック制御の実行を通じて、操舵角θsが第3の目標操舵角に一致する位置までステアリングホイール11を回転させる。これにより、ステアリングホイール11の回転位置は、操舵角θの真の中点θs0に対応した位置に至る。
【0072】
ただし、舵角中点の設定処理を実行する際、車両の電源がオンされるタイミングでステアリングホイールが自動的に回転する。このステアリングホイールの自動回転に対して運転者が違和感を覚えるおそれがある。また、ステアリングホイール11を車両の電源がオンされた時点の位置を基準として第1の規制位置へ回転させるとき、第1の規制位置から第2の規制位置へ反転動作させるとき、および第2の規制位置から操舵角θの中点θs0へ回転させるとき、ステアリングホイール11の円滑な挙動が得られないおそれもある。たとえば、ステアリングホイール11が急回転したり急停止したりすることが懸念される。
【0073】
そこで、本実施の形態において舵角中点の設定処理を実行する場合、先の第1の実施の形態においてステアリングホイール11の位置の自動調節機能を実行する場合と同様に、ステアリングホイール11の回転速度を漸増減させる。すなわち、ステアリングホイール11の自動回転の開始直後においては、ステアリングホイール11の回転速度を漸増させる。また、ステアリングホイール11の自動回転の停止直前においては、ステアリングホイール11の回転速度を漸減させる。
【0074】
図8(a)のグラフに示すように、ステアリングホイール11を車両の電源がオンされた時点の位置を基準として第1の規制位置へ回転させる場合、ステアリングホイール11の操舵角速度ωは徐々に増速し、やがて一定速度に達する(時刻T21)。ステアリングホイール11の回転位置が第1の規制位置に近づいた以降(時刻T22)、ステアリングホイール11の操舵角速度ωが徐々に減速する。ステアリングホイール11の回転位置が第1の規制位置に至るタイミングで(時刻T23)、ステアリングホイール11の回転は停止する。
【0075】
つぎに、ステアリングホイール11を第1の規制位置から第2の規制位置へ反転動作させる場合、ステアリングホイール11の操舵角速度ωは徐々に増速し、やがて一定速度に達する(時刻T31)。ステアリングホイール11の回転位置が第2の規制位置に近づいた以降(時刻T32)、ステアリングホイール11の操舵角速度ωが徐々に減速する。ステアリングホイール11の回転位置が第2の規制位置に至るタイミングで(時刻T33)、ステアリングホイール11の回転は停止する。
【0076】
最後に、ステアリングホイール11を第2の規制位置から操舵角θの中点θs0へ回転させる場合、ステアリングホイール11の操舵角速度ωは徐々に増速し、やがて一定速度に達する(時刻T41)。ステアリングホイール11の回転位置が操舵角θの中点θs0に近づいた以降(時刻T42)、ステアリングホイール11の操舵角速度ωが徐々に減速する。ステアリングホイール11の回転位置が操舵角θの中点θs0に至るタイミングで(時刻T43)、ステアリングホイール11の回転は停止する。
【0077】
図8(b)のグラフに示すように、目標操舵角θ に対する制限値Δθを操舵状況に応じて変化させることにより、操舵角θは急増すること、あるいは急減することなく、より滑らかに変化する。
【0078】
したがって、第2の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(4)ステアリングホイール11の自動回転の開始の直後、ステアリングホイールの回転速度は徐々に増速する。すなわち、ステアリングホイール11はより円滑に回転し始める。ステアリングホイール11の急回転が抑制されることにより、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0079】
(5)ステアリングホイール11の自動回転の停止の直前、ステアリングホイールの回転速度は徐々に減速する。回転していたステアリングホイール11の急停止が抑制されることにより、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0080】
(6)上記の(4),(5)欄に記載されるステアリングホイール11の回転速度の漸増減機能によって、ステアリングホイール11の自動回転の開始の直後、およびステアリングホイール11の自動回転の停止の直前における運転者の違和感が軽減される。このため、ステアリングホイール11の回転速度を一定速度に維持する期間、ステアリングホイール11をより速い速度で回転させることができる。したがって、より円滑なステアリングホイール11の回転挙動を実現しつつも、舵角中点の設定処理の実行開始から実行完了までに要する時間をより短くすることができる。
【0081】
<第3の実施の形態>
つぎに、操舵装置を具体化した第3の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1に示される第1の実施の形態と同様の構成を有し、反力制御部27の構成の点で第1の実施の形態と異なる。なお、本実施の形態は、先の第2の実施の形態と組み合わせて実施してもよい。
【0082】
図9に示すように、反力制御部27は、第1の制御部27a、第2の制御部27b、スイッチ27c、通電制御部27d、およびフラグ設定回路27eを有している。
第1の制御部27aは、反力モータ22の駆動制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵反力を発生させる通常の反力制御を実行する部分である。第1の制御部27aは、目標操舵反力演算部61、軸力演算部62および減算器63を有している。
【0083】
目標操舵反力演算部61は、操舵トルクTに基づき目標操舵反力T1を演算する。目標操舵反力T1は、反力モータ22を通じて発生させるべき操舵反力の目標値である。目標操舵反力演算部61は、操舵トルクTの絶対値が大きいほど、より大きな絶対値の目標操舵反力T1を演算する。
【0084】
軸力演算部62は、たとえばピニオンシャフト34の回転角θおよび転舵モータ32の電流Iの値のうち少なくとも一方の値に基づき転舵輪12,12を通じて転舵シャフト31に作用する軸力を演算し、この演算される軸力をトルクに換算したトルク換算値(すなわち、軸力に応じた操舵反力)T2を演算する。
【0085】
減算器63は、目標操舵反力演算部61により演算される目標操舵反力T1から軸力演算部62により演算されるトルク換算値T2を減算することにより、操舵反力指令値T3を演算する。
【0086】
第2の制御部27bは、ステアリングホイール11の回転位置の調節処理を実行する部分である。ステアリングホイール11の回転位置の調節処理とは、第1の実施の形態におけるステアリングホイール11の回転位置を自動調節する調節処理、あるいは第2の実施の形態の舵角中点の設定処理をいう。第2の制御部27bは、目標操舵角演算部71、ガード設定部72、ガード処理部73、操舵角フィードバック制御部74、および操舵角演算部75を有している。
【0087】
操舵角演算部75は、ピニオンシャフト34の回転角θおよび舵角比に基づき、ピニオンシャフト34の回転角θに対応する操舵角θを演算する。
目標操舵角演算部71、ガード設定部72、ガード処理部73、および操舵角フィードバック制御部74は、基本的には先の図2に示される第1の実施の形態の目標操舵角演算部51、ガード設定部52、ガード処理部53、および操舵角フィードバック制御部54と同様の機能を有している。ただし、目標操舵角演算部71は、操舵角演算部75により演算される操舵角θに基づき目標操舵角θ を演算する。操舵角フィードバック制御部74は、ガード処理部73を経た目標操舵角θ と、反力モータ22の回転角θに基づき演算される操舵角θとを取り込み、この取り込まれる操舵角θを目標操舵角θ に追従させるべく操舵角θのフィードバック制御を通じて操舵反力指令値T4を演算する。
【0088】
スイッチ27cは、データ入力として、第1の制御部27aにより演算される操舵反力指令値T3、および第2の制御部27bにより演算される操舵反力指令値T4を取り込む。また、スイッチ27cは、制御入力として、フラグ設定回路27eにより設定されるフラグFを取り込む。フラグ設定回路27eは、車両の電源がオンされた際、ステアリングホイール11の位置調節が必要である場合であってその位置調節が完了していないとき、フラグFの値を「0」にセットする。フラグ設定回路27eは、車両の電源がオンされた際、ステアリングホイール11の位置調節が必要である場合であってその位置調節が完了したとき、あるいはステアリングホイール11の位置調節が不要であるとき、フラグFの値を「1」にセットする。
【0089】
スイッチ27cは、フラグFの値に基づき、第1の制御部27aにより演算される操舵反力指令値T3、および第2の制御部27bにより演算される操舵反力指令値T4のうちいずれか一方を最終的な操舵反力指令値T5として選択する。スイッチ27cは、フラグFの値が「0」であるとき、第2の制御部27bにより演算される操舵反力指令値T4を最終的な操舵反力指令値T5として選択する。スイッチ27cは、フラグFの値が「1」であるとき、第1の制御部27aにより演算される操舵反力指令値T3を最終的な操舵反力指令値T5として選択する。
【0090】
通電制御部27dは、スイッチ27cにより選択される最終的な操舵反力指令値T5に応じた電力を反力モータ22へ供給する。
したがって、第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態の(1)~(3)あるいは第2の実施の形態の(4)~(6)に記載の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
【0091】
(7)ステアリングホイール11の回転位置の調節処理が実行完了しているかどうかに基づき、第1の制御部27aによる通常の反力制御と、ステアリングホイール11の回転位置を調節するための制御とが切り替えられる。このため、通常の反力制御と、ステアリングホイール11の回転位置を調節するための制御とが互いに干渉することを抑制することができる。
【0092】
<他の実施の形態>
なお、第1~第3の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第2の実施の形態では、バッテリの交換後、最初に車両の電源がオンされたときに舵角中点の設定処理を実行するようにしたが、たとえばバッテリの交換作業の有無にかかわらず、車両の電源がオンされる度に舵角中点の設定処理を実行するようにしてもよい。
【0093】
・第2の実施の形態では、ステアリングホイール11の中立位置に対応する操舵角θの中点θs0を反力ユニット20の動作の基準点としたが、転舵輪12の転舵角θと対応付けることができるのであれば、ステアリングホイール11の中立位置から外れた位置に対応する操舵角θを反力ユニット20の動作の基準点としてもよい。
【0094】
・第2の実施の形態では、ステアリングホイール11を車両の電源がオンされた時点の位置を基準として第1の規制位置へ回転させる場合、車両の電源がオンされた時点の位置から第1の規制位置までのステアリングホイール11の回転角度量を把握することができないため、ステアリングホイール11の回転速度の漸増減を適切に実行できないことが考えられる。この場合、舵角中点の設定処理のうちステアリングホイール11を車両の電源がオンされた時点の位置を基準として第1の規制位置へ回転させる期間に限り、ステアリングホイール11の回転速度の漸増減を実行しないようにしてもよいし、つぎのようにしてもよい。
【0095】
すなわち、舵角中点の設定処理を実行する前に、ステアリングホイール11と転舵輪12,12とのおおよその外観上の位置関係を把握し、あらかじめステアリングホイール11を中立位置付近にセットしておく。そして、ステアリングホイール11の中立位置を起点として、ステアリングホイール11が右操舵方向へ向けて回転したときに第1の規制部材41の第1の規制面41aに当接する角度、すなわち右操舵方向に170°だけ回転するものとして、ステアリングホイール11の回転速度の漸増減を実行する。
【0096】
図1に二点鎖線で示すように、第1~第3の実施の形態において、たとえば車室内に報知装置28が設けられる場合、反力制御部27は、報知装置28を通じて、ステアリングホイール11の位置調節の実行開始および実行完了、ならびに舵角中点の設定処理の実行開始および実行終了を報知するようにしてもよい。報知装置28による報知動作としては、たとえば文字によるメッセージを表示させたり、音声によるメッセージを発したりすることが挙げられる。このようにすれば、運転者は、ステアリングホイール11が自動回転すること、および自動回転しているステアリングホイール11が自動停止することを認識することができるため、運転者に与える違和感が低減される。
【0097】
・第1~第3の実施の形態では、反力モータ22の回転角θに基づき演算される操舵角θを使用したが、操舵装置10として操舵角センサを有する構成が採用される場合、この操舵角センサを通じて検出される操舵角θを使用してもよい。
【0098】
・第1~第3の実施の形態において、舵角比は製品仕様などに応じて適宜の値に設定される。舵角比は、たとえば「θ:θ=1:1」でもよいし「θ:θ=1:3」でもよい。たとえば舵角比が「θ:θ=1:3」の場合、操舵角θが10°だけずれていとき、転舵角θにして30°だけずれていることになる。このため、操舵角θと転舵角θとを正しく同期することが望まれる。
【0099】
・第1~第3の実施の形態において、ステアリングホイール11の自動回転の開始の直後、ステアリングホイール11の回転速度を徐々に増速させるようにしたが、必ずしも漸増させなくてもよい。すなわち、ステアリングホイール11の自動回転の開始の直後、操舵角フィードバック制御の実行を通じて、成り行きでステアリングホイール11を回転させるようにしてもよい。
【0100】
・第1~第3の実施の形態において、反力制御部27および転舵制御部36を単一の制御装置として構成してもよい。
・第1~第3の実施の形態において、車両の電源は、たとえばアクセサリ電源(ACC電源)あるいはイグニッション電源(IG電源)を含んでいてもよい。
【0101】
・第1~第3の実施の形態では、車両の操舵装置10として、ステアリングシャフト21と転舵輪12との間の動力伝達が分離されたいわゆるリンクレス構造を採用した例を挙げたが、クラッチによりステアリングシャフト21と転舵輪12との間の動力伝達を分離可能とした構造を採用してもよい。クラッチが切断されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪12との間の動力伝達が切断される。クラッチが接続されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪12との間の動力伝達が連結される。
【0102】
・第2の実施の形態は、ステアリングシャフト21と転舵シャフト31との間がたとえばラックアンドピニオンを介して連結された電動パワーステアリング装置に適用してもよい。この場合、反力モータ22は、ステアリングホイール11の操作を補助するための力であるアシスト力の発生源となる。
【符号の説明】
【0103】
10…操舵装置
11…ステアリングホイール
12…転舵輪
21…ステアリングシャフト
22…反力モータ(モータ)
27…反力制御部(制御装置)
40…ストッパ機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9