(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】糖尿病を治療するための膵臓細胞および適用に関連するその生成方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0735 20100101AFI20240125BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C12N5/0735
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2020542885
(86)(22)【出願日】2019-02-08
(86)【国際出願番号】 US2019017281
(87)【国際公開番号】W WO2019157329
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-02-04
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514326487
【氏名又は名称】セラクシス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラスト,ウィリアム エル
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/178431(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0356951(US,A1)
【文献】Stem Cells,2007年01月01日,Vol. 25,No. 1,p.29-38,DOI: 10.1634/stemcells.2006-0219
【文献】Journal of Endocrinology,2010年04月12日,Vol. 206,No. 1,p.13-26,DOI: 10.1677/JOE-10-0073
【文献】Cell Research,2009年03月03日,Vol. 19,No. 4,p.429-438,DOI: 10.1038/cr.2009.28
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-5/28
C12P
C12Q
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/CAPLUS/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトインスリン分泌細胞の産生方法であって、
a.
ヒト幹細胞を接着状態で培養することにより、前記
ヒト幹細胞が自発的に三次元構造を形成することを可能にすることと、
b.前記三次元構造を浮遊状態で培養することと、を含み、
前記培養ステップが、少なくとも20日間のレチノイン酸およびシクロパミンへの曝露を含み、かつ前記三次元構造の前記幹細胞をWnt3Aに曝露することを含まない、方法。
【請求項2】
前記
ヒト幹細胞が、細胞株に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
インスリン分泌細胞の産生方法であって、
a.アクチビンAおよびワートマニンを含む第1の培地内の接着性基質上で
ヒト幹細胞を培養し、前記
ヒト幹細胞がWnt3aに曝露されないことと、
b.レチノイン酸およびシクロパミンを含む少なくとも1つの追加の培地で前記細胞をさらに培養することと、
c.前記細胞が三次元細胞構造を形成するときに、前記細胞を浮遊培養に移すことと、を含み、
前記細胞が、少なくとも20日間、レチノイン酸およびシクロパミンに曝露される、方法。
【請求項4】
前記
ヒト幹細胞が、前記接着性基質上で培養されるときに三次元構造を形成する、請求項
3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年2月9日に出願された米国仮出願第62/628,470号に対する35U.S.C.§119(e)に基づく優先権を主張し、これらのすべての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、概して、細胞生物学、幹細胞、および細胞分化の分野に関する。より具体的には、本開示は、膵臓細胞を生成するための方法、細胞ベースの治療のための細胞を特定する方法、および糖尿病を治療するための関連する使用方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
以下の議論は、読者が本開示を理解するのを助けるために提供されるものであり、それに対する先行技術を記述したり、構成したりすることを認めるものではない。
【0004】
糖尿病およびインスリン
真性糖尿病(すなわち、糖尿病)は、ホルモンインスリンを産生するまたはホルモンインスリンに応答する身体の能力が損なわれ、その結果炭水化物の代謝異常と血中および尿中のブドウ糖レベルの上昇が起こる疾患である。疾患は、いくつかのサブタイプに細分され、1型糖尿病、インスリン依存性糖尿病(IDDM)、若年者の成人発症型糖尿病(MODY)、成人潜在性糖尿病(LADA)、不安定型糖尿病、痩せ型糖尿病、1.5型、2型、3型、肥満関連糖尿病、妊娠糖尿病、および当分野によって受け入れられる他の命名法として、代替的に記載される。
【0005】
一般に、インスリン依存性糖尿病を有する対象は、血糖を十分に低下させるために外因性インスリンを投与することが必要である。非インスリン依存性対象は、インスリンに対する感受性を高める薬物の種類、またはブドウ糖の排泄を含む医薬品介入で十分に血糖を低下させ得る。インスリン依存性糖尿病を有する対象は、その疾患が1型、MODY、LADA、不安定型、痩せ型、1.5型、2型、3型、肥満関連糖尿病またはこれらの任意の組み合わせとして標識されているかどうかにかかわらず、インスリン産生細胞が対象に移植される細胞補充療法から利益を得ることができる。
【0006】
I型糖尿病は、通常、子供および若年成人で診断され、以前は、若年性糖尿病として知られていた。糖尿病の人のうち、このような形の病気を持っている人はわずか5~10%しかいない。成熟期に発症した糖尿病はこの疾患の最も一般的な形態であり、インスリン産生β細胞の障害または破壊、インスリン抵抗性の発達、またはインスリン産生β細胞の障害とインスリン抵抗性の発達の両方によって発生する。遺伝的要因と環境的要因の組み合わせにより、非肥満成人および子供に糖尿病が発生することがある。肥満の成人および子供では、膵臓は血糖をコントロールするために余分なインスリンの作製を試み得るが、時間が経つにつれて血糖値を正常に継続して維持することができなくなる。また、生成されるインスリンに対する身体の感受性が低くなる場合がある。インスリン分泌β細胞の長期間の過剰活動は、β細胞の機能障害および死につながり得る。
【0007】
糖尿病の症状は、対象の血糖がどの程度変動するかによって異なる。一部の人々、特に前糖尿病または非インスリン依存性糖尿病の人々の中には、最初は症状が出ない場合がある。I型糖尿病では、症状がすぐに現れやすい傾向があり、より重症化する。
【0008】
I型およびII型糖尿病の兆候および症状のいくつかには、限定するものではないが、渇きの増加、頻尿、極端な空腹感、原因不明の体重減少、尿中にケトンが存在する(ケトンは、利用可能なインスリンが十分でないときに起こる筋肉および脂肪の分解の副産物である)、疲労、過敏性、霧視、治癒の遅い傷、歯茎または皮膚感染症および膣感染症などの頻繁な感染症が含まれる。
【0009】
糖尿病治療のための細胞ベースの療法
インスリン依存性糖尿病患者は、新しいインスリン産生細胞の移植により、治癒する可能性があるが、これらの細胞が十分な量と質で得ることが困難であるため、このアプローチはこれまでに限定的であった。例えば、Pagliuca FW,et al.Cell,154(2):428-439(2014)を参照されたい。したがって、より効率的かつ予測可能な方法でヒト幹細胞からインスリン産生β細胞を生成することは、生体医学研究の長い間の目標であった。同上。この目標を達成するためには、ブドウ糖に曝されるとインスリンを生成する均一なβ細胞集団を生成するプロトコルを確立しなければならない。しかしながら、このようなプロトコルはまだ難しいままである。多くの研究グループが異なる細胞株を使用して様々な結果をもたらした様々なプロトコルを提案してきた。このような機能性β細胞の一貫性のない産生は、治療上の利益を達成するために必要な全細胞用量を増加させるため、潜在的な治療のコストを増加させ、変わりやすい結果のために臨床適用性を制限する。
【0010】
ヒト幹からインスリン産生β細胞を生成するためのほとんどの確立されたプロトコルは、非常に変わりやすい細胞集団を生成する。例えば、Pagliuca FW,et al.Cell,154(2):428-439(2014)を参照されたい。実際に、特定の細胞株に合わせて所与の分化プロトコルを調整することは、当該分野における一般的な慣行であり、そのため当該技術分野の分化のための任意の標準化を妨いでいる。種々の分化プロトコルからのβ細胞収率を向上させるためのアプローチには、典型的には、反復的、試行錯誤型のアプローチで分化経路に影響を及ぼす多くの要因の組み合わせを試験することが含まれる。例えば、Pagliuca FW,et al.Cell,154(2):428-439(2014)、Rezenia A.et al.Nat.Biotech.,32:1121-33(2014)、Schulz TC et al.Plos One,7:e37004(2012)。Chetty S.et al.Nat.Methods,10:553-556(2012)。したがって、1つの開始幹細胞集団からβ細胞を作製するための特定のプロトコルは、異なる開始集団を分化するのに有効ではない場合がある。
【0011】
さらに、この分野の研究者は、一貫して高パーセントのインスリン産生細胞を有する分化集団を得るのに苦労してきたため、得られた分化細胞集団内の一貫性のなさは、任意の提案された療法の臨床応用に影響を与えている。これは、糖尿病を治療するための細胞ベースの療法の潜在的有効性を損なうだけでなく、異種細胞の集団を含有する細胞移植片の腫瘍形成能に関する懸念を提起する。さらに、細胞バッチ間の低再現性は、細胞の産生コストに直接影響し、このプロトコルのクリニックへの橋渡しを制限する。
【0012】
異なる分化プロトコルの使用におけるこの変動性のいくつかは、開始細胞株に対して追跡することができる。例えば、多能性(pluripotent)細胞株は、特定の系譜に分化する能力において広く変化し得ることが示される。Bock C,et al.Cell,144:439-452(2011)、Lim H,et al.J.Vis.Exp.,(90):e51755(2014)、Osafune K,et al.Nat.Biotechnol.,26:313-315(2008)を参照されたい。現在利用されている分化プロトコルに対する個々のヒト幹細胞の応答におけるこの様々な能力は、研究者が所与の細胞株または開始細胞が最終的に治療細胞を産生する可能性の指標を持っていなかったため、克服するのに困難な障害であることが証明されている。
【0013】
加えて、既存技術から提供されるガイダンスは、実際には、少し異なる遺伝的背景を有する細胞株を使用するときに逆効果であり得る。例えば、多能性幹細胞からインスリン産生細胞を生成するための確立されたプロトコルの一貫した特徴は、レチノイン酸およびシクロパミンへの曝露を制限することである。Nostro et al.Stem Cell Reports,4:1-14(2015)を参照されたい。先行技術からの別の一貫したガイダンスは、浮遊状態の三次元培養において分化を開始することが膵臓細胞の適切な成熟のために必要である、ということである。Pagliuca FW,et al.Cell,154(2):428-439(2014)、Rezania et al.Nature Biotechnology,32(11):1121-33(2014)を参照されたい。以下でより詳細に議論されるように、かかるガイダンスに従うことは、実際には様々な幹細胞株からのインスリン分泌細胞の分化を阻害する可能性がある。
【0014】
したがって、糖尿病の治療のための治療的なインスリン産生細胞を生成する改善された予測可能な方法のニーズが残っている。本開示は、それらのニーズを満たすものである。
【発明の概要】
【0015】
本明細書に記載されるのは、インスリンを産生し、糖尿病を治療するために使用され得る細胞および細胞組成物、ならびにそれを作製および同定する方法である。
【0016】
一態様において、本開示は、哺乳動物のインスリン分泌細胞の産生方法であって、方法は、哺乳動物幹細胞を接着状態で培養することにより、哺乳動物幹細胞が自発的に三次元構造を形成することを可能にすることと、三次元構造を浮遊状態で培養することと、を含み、培養ステップは、少なくとも20日間のレチノイン酸およびシクロパミンへの曝露を含み、かつ三次元構造の幹細胞をWnt3Aに曝露することを含まない、方法を提供する。
【0017】
別の態様では、本開示は、インスリン分泌細胞の産生方法であって、アクチビンAおよびワートマニンを含む第1の培地内の接着性基質上で哺乳動物幹細胞を培養することであって、哺乳動物幹細胞が、Wnt3aに曝露されない、培養することと、レチノイン酸およびシクロパミンを含む少なくとも1つの追加の培地で細胞をさらに培養することと、細胞が三次元細胞構造を形成するときに、細胞を浮遊培養に移すことと、を含み、細胞が、少なくとも20日間、レチノイン酸およびシクロパミンに曝露される、方法を提供する。
【0018】
前述の態様のいくつかの実施形態では、哺乳動物幹細胞はヒト幹細胞であってもよく、いくつかの実施形態では、哺乳動物幹細胞は非ヒト霊長類幹細胞であってもよい。前述の態様のいくつかの実施形態では、哺乳動物幹細胞は細胞株に由来する。
【0019】
一態様において、本開示は、哺乳動物のインスリン分泌細胞の産生方法であって、内胚葉誘導因子を含む第1の培地で哺乳動物幹細胞を培養することにより、哺乳動物幹細胞を内胚葉細胞に分化させることと、内分泌誘導因子を含む第2の培地で内胚葉細胞を培養することにより、内胚葉細胞を内分泌細胞に分化させることと、を含み、哺乳動物幹細胞が、内胚葉細胞に分化する前にケラチノサイト増殖因子(KGF)に曝露されなかった、方法を提供する。
【0020】
いくつかの実施形態では、哺乳動物幹細胞は、ヒト幹細胞、非ヒト霊長類幹細胞、またはブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、イヌ、もしくはネコを含むがこれらに限定されない別の哺乳動物に由来する幹細胞であり得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、内胚葉誘導因子はアクチビンA、レチノイン酸、および/またはシクロパミンを含む。いくつかの実施形態では、第1の培地はワートマニンをさらに含んでよい。いくつかの実施形態では、第1の培地はWnt3Aを含まない。いくつかの実施形態では、細胞は第1の培地で1~3日間培養される。
【0022】
いくつかの実施形態では、第2の培地はノギンおよび/またはKGFを含んでよい。いくつかの実施形態では、第2の培地はレチノイン酸およびシクロパミンを含んでよい。いくつかの実施形態では、細胞は第2の培地で1~4日間培養される。
【0023】
本態様のいくつかの実施形態は、KGFを含む第3の培地で内分泌細胞をさらに培養することにより、内分泌細胞を膵臓始原細胞(progenitor cell)に分化させることをさらに含んでいてよい。いくつかの実施形態では、第3の培地はノギンおよび/または上皮増殖因子(EGF)を含む。いくつかの実施形態では、第3の培地はレチノイン酸およびシクロパミンを含む。いくつかの実施形態では、細胞は第3の培地で1~4日間培養される。
【0024】
本態様のいくつかの実施形態は、ノギン、EGF、γ-セクレターゼ阻害剤XXI、および/またはAlk5i IIを含む第4の培地で膵臓始原細胞をさらに培養することを含んでいてよい。いくつかの実施形態では、第4の培地はT3を含んでよい。いくつかの実施形態では、第4の培地はレチノイン酸およびシクロパミンを含んでよい。いくつかの実施形態では、細胞は第4の培地で1~4日間培養される。
【0025】
本態様のいくつかの実施形態は、Alk5i IIおよび/またはレチノイン酸を含む第5の培地で膵臓始原体(progenitor)をさらに培養することを含んでよい。いくつかの実施形態では、第5の培地はT3を含んでよい。いくつかの実施形態では、第5の培地はレチノイン酸およびシクロパミンを含んでよい。いくつかの実施形態では、細胞を第5の培地において1~5日間培養する。
【0026】
本態様のいくつかの実施形態は、Alk5i II、ニコチンアミド、および/またはインスリン様成長因子(IGF)-Iを含む第6の培地で膵臓始原体をさらに培養することを含んでよい。いくつかの実施形態では、第6の培地はT3および/またはBMP4を含んでよい。いくつかの実施形態では、第6の培地はレチノイン酸およびシクロパミンを含んでよい。いくつかの実施形態では、第6の培地はグルカゴンを含んでよい。いくつかの実施形態では、細胞を第6の培地において1~9日間培養する。
【0027】
別の態様では、本開示は、インスリン分泌膵細胞の産生方法であって、アクチビンAおよびワートマニンを含む第1の培地でヒト幹細胞を培養することによりヒト幹細胞を内胚葉細胞に分化させることであって、ヒト幹細胞が内胚葉細胞に分化する前にケラチノサイト増殖因子(KGF)に曝露されなかった、分化させることと、レチノイン酸およびシクロパミンを含む第2の培地で内胚葉細胞を培養することにより内胚葉細胞を内分泌細胞に分化させることと、KGF、ノギンおよびEGFを含む第3の培地で内分泌細胞を培養することにより内分泌細胞を膵臓始原細胞に分化させることと、ノギン、EGF、γ-セクターゼ阻害剤XXIおよびAlk5i IIを含む第4の培地で膵臓始原細胞を培養することにより膵臓始原細胞をインスリン産生成膵臓細胞に分化することと、を含む方法を提供する。
【0028】
本態様のいくつかの実施形態では、第2の培養培地は、KGFをさらに含む。いくつかの実施形態では、ヒト幹細胞は膵臓一次組織に由来する。いくつかの実施形態では、第4の培地はT3などの甲状腺ホルモンを含んでよい。
【0029】
本態様のいくつかの実施形態では、第3および第4の培地の両方は、レチノイン酸およびシクロパミンを含んでよい。
【0030】
本態様のいくつかの実施形態は、第5および/または第6の培地で細胞をさらに培養することを含んでよく、第5の培地は、Alk5I IIおよびレチノイン酸、ならびに任意選択でシクロパミンを含み、第6の培地は、Alk5i II、ニコチンアミン、IGF-I、ならびに任意選択でレチノイン酸およびシクロパミンを含む。いくつかの実施形態では、第6の培地はグルカゴンを含んでよい。
【0031】
前述の態様のいくつかの実施形態では、細胞を30日以下の間培養してもよい。
【0032】
別の態様において、本開示は、糖尿病を治療するための細胞ベースの組成物であって、それを必要とするヒト対象への移植のための代理膵臓細胞の集団および好適な担体とを含み、代理膵臓細胞の少なくとも66%が、インスリン産生膵臓細胞である、細胞ベースの組成物を提供する。
【0033】
いくつかの実施形態では、代理膵臓細胞の少なくとも66%はNeuroD1を発現するが、一方いくつかの実施形態では、代理膵臓細胞の少なくとも68%はNkx6.1を発現する。
【0034】
いくつかの実施形態では、インスリン産生膵臓細胞は、内胚葉誘導因子を含む第1の培地内の接着性基質上でヒト幹細胞の集団を培養することであって、哺乳動物幹細胞がWnt3aに曝露されない、培養することと、レチノイン酸およびシクロパミンを含む少なくとも1つの追加の培地で細胞をさらに培養することと、細胞が三次元細胞構造を形成するときに浮遊培養に細胞を移すことと、を含み、細胞が少なくとも20日間レチノイン酸およびシクロパミンに曝露される、方法に従って誘導される。
【0035】
いくつかの実施形態では、内胚葉誘導因子はアクチビンAおよび/またはワートマニンを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの追加の培地は、KGF、ノギン、EGF、および/またはT3などの甲状腺ホルモンを含んでよい。
【0036】
いくつかの実施形態では、代理膵臓細胞はマクロカプセルにカプセル化され得る。例えば、細胞は、アルギン酸塩、硫酸セルロース、グルコマンナン、またはこれらの組み合わせを含むマクロカプセルにカプセル化され得る。
【0037】
前述の態様のいくつかの実施形態では、ヒト幹細胞は、膵臓一次組織に由来するか、ヒト胚性幹細胞であるか、人工多能性幹細胞であるか、または多能性ではないリプログラム化された細胞である。いくつかの実施形態では、リプログラム化された細胞は、例えば、リプログラミング遺伝子を、細胞のゲノムにこのリプログラミング遺伝子を組み込むことなく発現することによって、膵臓一次組織から誘導される。いくつかの実施形態では、リプログラミング遺伝子は、ゲノムに組み込まれない少なくとも1つのエピソーム発現プラスミド上にコードされ得る。いくつかの実施形態では、リプログラミング遺伝子はOct4、Sox2、Klf4、およびL-Mycを含む。
【0038】
別の態様において、本開示は、内胚葉系譜に優先的に分化する細胞を同定する方法であって、未分化細胞におけるBHMT2およびNAP1L1の発現を評価することと、BHMT2発現が対照細胞と比較して下方制御され、かつNAP1L1発現が対照細胞と比較して上方制御される場合に、内胚葉系譜に分化する優先度を有するものとして細胞を同定することと、を含む、方法を提供する。
【0039】
本態様のいくつかの実施形態は、未分化細胞におけるCox7A1およびHSPB2の発現を評価することと、Cox7A1およびHSPB2の発現の両方が対照細胞と比較して下方制御される場合、細胞を内胚葉系譜に分化する優先度を有するものとして同定することと、をさらに含む。いくつかの実施形態では、対照細胞は、内胚葉系譜への優先的分化を示さないまたは中胚葉系譜に分化することが実質的に不可能である多能性細胞であってもよい。
【0040】
いくつかの実施形態では、評価される未分化細胞が優先的に内胚葉系譜に分化する場合、BHMT2発現が、対照細胞に対して少なくとも2log下方制御され、NAP1L1発現が、対照細胞に対して少なくとも2log上方制御される。いくつかの実施形態では、評価される未分化細胞が優先的に内胚葉系譜に分化する場合、Cox7A1およびHSPB2の両方の発現は、対照細胞に対して少なくとも2log下方制御される。
【0041】
本態様のいくつかの実施形態は、GLIS2、CCDC58、MTX3、およびC7orf29の発現を評価することをさらに含む。例えば、いくつかの実施形態では、評価される未分化細胞が優先的に内胚葉系譜に分化する場合、GLIS2、CCDC58、およびMTX3発現は、対照細胞に対して上方制御されてもよく、C7orf29発現は、対照細胞に対して下方制御されてもよい。
【0042】
いくつかの実施形態では、発現レベルはQ-PCRおよび/またはマイクロアレイ分析によって評価される。
【0043】
本発明は以下を提供する。
[1] 哺乳動物のインスリン分泌細胞の産生方法であって、
a.哺乳動物幹細胞を接着状態で培養することにより、前記哺乳動物幹細胞が自発的に三次元構造を形成することを可能にすることと、
b.前記三次元構造を浮遊状態で培養することと、を含み、
前記培養ステップが、少なくとも20日間のレチノイン酸およびシクロパミンへの曝露を含み、かつ前記三次元構造の前記幹細胞をWnt3Aに曝露することを含まない、方法。
[2] 前記哺乳動物幹細胞が、ヒト幹細胞である、上記[1]に記載の方法。
[3] 前記哺乳動物幹細胞が、非ヒト霊長類幹細胞である、上記[1]に記載の方法。
[4] 前記哺乳動物幹細胞が、細胞株に由来する、上記[1]に記載の方法。
[5] インスリン分泌細胞の産生方法であって、
a.アクチビンAおよびワートマニンを含む第1の培地内の接着性基質上で哺乳動物幹細胞を培養し、前記哺乳動物幹細胞がWnt3aに曝露されないことと、
b.レチノイン酸およびシクロパミンを含む少なくとも1つの追加の培地で前記細胞をさらに培養することと、
c.前記細胞が三次元細胞構造を形成するときに、前記細胞を浮遊培養に移すことと、を含み、
前記細胞が、少なくとも20日間、レチノイン酸およびシクロパミンに曝露される、方法。
[6] 前記哺乳動物幹細胞が、前記接着性基質上で培養されるときに三次元構造を形成する、上記[5]に記載の方法。
[7] 前記哺乳動物幹細胞が、ヒト幹細胞である、上記[5]に記載の方法。
[8] 前記哺乳動物幹細胞が、非ヒト霊長類幹細胞である、上記[5]に記載の方法。
[9] 哺乳動物のインスリン分泌細胞の産生方法であって、
a.内胚葉誘導因子を含む第1の培地で哺乳動物幹細胞を培養することにより、前記哺乳動物幹細胞を内胚葉細胞に分化させることと、
b.内分泌誘導因子を含む第2の培地で(a)からの前記内胚葉細胞を培養することにより、前記内胚葉細胞を内分泌細胞に分化させることと、を含み、
前記哺乳動物幹細胞が、内胚葉細胞への分化前にケラチノサイト増殖因子(KGF)に曝露されなかった、方法。
[10] 前記哺乳動物幹細胞が、ヒト幹細胞である、上記[9]に記載の方法。
[11] 前記哺乳動物幹細胞が、非ヒト霊長類幹細胞である、上記[9]に記載の方法。
[12] 前記内胚葉誘導因子が、アクチビンAを含む、上記[9]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13] 前記第1の培地が、ワートマニンを含む、上記[9]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14] 前記第1の培地が、Wnt3Aを含まない、上記[9]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15] 前記細胞が、前記第1の培地で1~3日間培養される、上記[9]~[14]のいずれかに記載の方法。
[16] 前記内分泌誘導因子が、レチノイン酸およびシロパミンを含む、上記[9]~[15]のいずれかに記載の方法。
[17] 前記第2の培地が、ノギンを含む、上記[9]~[16]のいずれかに記載の方法。
[18] 前記第2の培地が、KGFを含む、上記[9]~[17]のいずれかに記載の方法。
[19] 前記細胞が、前記第2の培地で1~4日間培養される、上記[9]~[18]のいずれかに記載の方法。
[20] KGFを含む第3の培地で前記内分泌細胞を培養することにより、前記内分泌細胞を膵臓始原細胞に分化させることをさらに含む、上記[9]~[19]のいずれかに記載の方法。
[21] 前記第3の培地が、ノギンおよび上皮増殖因子(EGF)を含む、上記[20]に記載の方法。
[22] 前記第3の培地が、レチノイン酸およびシクロパミンを含む、上記[20]または[21]に記載の方法。
[23] 前記細胞が、前記第3の培地で1~4日間培養される、上記[20]~[22]のいずれかに記載の方法。
[24] ノギン、EGF、γ-セクレターゼ阻害剤XXI、およびAlk5i IIを含む第4の培地で前記膵臓始原細胞を培養することをさらに含む、上記[20]に記載の方法。
[25] 前記第4の培地が、レチノイン酸およびシクロパミンを含む、上記[24]に記載の方法。
[26] 前記細胞が、前記第4の培地で1~4日間培養される、上記[24]または[25]に記載の方法。
[27] Alk5i IIおよびレチノイン酸を含む第5の培地で前記膵臓始原体を培養することをさらに含む、上記[24]に記載の方法。
[28] 前記第5の培地が、シクロパミンを含む、上記[27]に記載の方法。
[29] 前記細胞が、前記第5の培地で1~5日間培養される、上記[27]または[28]に記載の方法。
[30] Alk5i II、ニコチンアミド、およびインスリン様増殖因子(IGF)-Iを含む第6の培地で前記膵臓始原体を培養することをさらに含む、上記[27]に記載の方法。
[31] 前記第6の培地が、レチノイン酸およびシクロパミンを含む、上記[30]に記載の方法。
[32] 前記細胞が、前記第6の培地で1~9日間培養される、上記[30]または[31]に記載の方法。
[33] 前記哺乳動物幹細胞が、膵臓一次組織に由来する、上記[9]~[32]のいずれかに記載の方法。
[34] 前記哺乳動物幹細胞が、ヒト胚性幹細胞である、上記[9]~[32]のいずれかに記載の方法。
[35] 前記哺乳動物幹細胞が、人工多能性幹細胞である、上記[9]~[32]のいずれかに記載の方法。
[36] 前記哺乳動物幹細胞が、多能性ではないリプログラム化された細胞である、上記[9]~[32]のいずれかに記載の方法。
[37] 前記リプログラム化された細胞が、膵臓一次組織に由来する、上記[36]に記載の方法。
[38] 前記リプログラム化された細胞が、リプログラミング遺伝子を、前記細胞のゲノムに前記リプログラミング遺伝子を組み込むことなく発現することによって、リプログラム化されている、上記[36]または[37]に記載の方法。
[39] 前記リプログラミング遺伝子が、少なくとも1つのエピソーム発現プラスミド上にコードされる、上記[38]に記載の方法。
[40] 前記リプログラミング遺伝子が、Oct4、Sox2、Klf4、およびL-Mycを含む、上記[38]または[39]に記載の方法。
[41] 前記細胞が、30日以下の間培養される、上記[9]~[40]のいずれかに記載の方法。
[42] インスリン分泌細胞の産生方法であって、
a.アクチビンAおよびワートマニンを含む第1の培地でヒト幹細胞を培養することにより、前記ヒト幹細胞を内胚葉細胞に分化させ、前記ヒト幹細胞が内胚葉細胞への分化前にケラチノサイト増殖因子(KGF)に曝露されなかったことと、
b.レチノイン酸およびシクロパミンを含む第2の培地で(a)からの前記内胚葉細胞を培養することにより、前記内胚葉細胞を内分泌細胞に分化させることと、
c.KGF、ノギン、およびEGFを含む第3の培地で(b)からの前記内分泌細胞を培養することにより、前記内分泌細胞を膵臓始原細胞に分化させることと、
d.ノギン、EGF、γ-セクレターゼ阻害剤XXI、およびAlk5i IIを含む第4の培地で(c)からの前記膵臓始原細胞を培養することにより、前記膵臓始原細胞をインスリン産生細胞に分化させることと、を含む方法。
[43] 前記第2の培養培地が、KGFをさらに含む、上記[42]に記載の方法。
[44] 前記第3および第4の培地が、レチノイン酸およびシクロパミンをさらに含む、上記[42]または[43]に記載の方法。
[45] Alk5I IIおよびレチノイン酸、ならびに任意選択的にシクロパミンを含む第5の培地で(d)からの前記インスリン産生細胞をさらに培養する、上記[42]~[44]のいずれかに記載の方法。
[46] Alk5i II、ニコチンアミン、IGF-I、ならびに任意選択的にレチノイン酸およびシクロパミンを含む第6の培地で前記細胞をさらに培養することをさらに含む、上記[45]に記載の方法。
[47] 総培養時間が、30日未満である、上記[42]~[46]のいずれかに記載の方法。
[48] 前記ヒト幹細胞が、膵臓一次組織に由来する、上記[42]~[47]のいずれかに記載の方法。
[49] 糖尿病を治療するための細胞ベースの組成物であって、それを必要とするヒト対象への移植のための代理膵臓細胞の集団および好適な担体を含み、前記細胞の少なくとも66%がインスリン産生膵臓細胞である、組成物。
[50] 前記代理膵臓細胞の少なくとも66%が、NeuroD1を発現する、上記[49]に記載の細胞ベースの組成物。
[51] 前記代理膵臓細胞の少なくとも68%が、Nkx6.1を発現する、上記[49]または[50]に記載の細胞ベースの組成物。
[52] 上記[49]~[51]のいずれかに記載の細胞ベースの組成物であって、
前記インスリン産生膵臓細胞が、
a.内胚葉誘導因子を含む第1の培地内の接着性基質上でヒト幹細胞の集団を培養し、前記哺乳動物幹細胞はWnt3aに曝露されないことと、
b.レチノイン酸およびシクロパミンを含む少なくとも1つの追加の培地で前記細胞をさらに培養することと、
c.前記細胞が三次元細胞構造を形成するときに、前記細胞を浮遊培養に移すことと、を含み、
前記細胞は、少なくとも20日間、レチノイン酸およびシクロパミンに曝露され、前記細胞は、少なくとも20日間、レチノイン酸およびシクロパミンに曝露される方法に従って誘導される、細胞ベースの組成物。
[53] 前記内胚葉誘導因子が、アクチビンAおよびワートマニンを含む、上記[52]に記載の細胞ベースの組成物。
[54] 前記ヒト幹細胞が、膵臓一次組織に由来する、上記[49]~[53]のいずれかに記載の細胞ベースの組成物。
[55] 前記ヒト幹細胞が、ヒト胚性幹細胞である、上記[49]~[53]のいずれかに記載の細胞ベースの組成物。
[56] 前記ヒト幹細胞が、人工多能性幹細胞である、上記[49]~[53]のいずれかに記載の細胞ベースの組成物。
[57] 前記ヒト幹細胞が、多能性ではないリプログラム化された細胞である、上記[49]~[53]のいずれかに記載の細胞ベースの組成物。
[58] 前記リプログラム化された細胞が、リプログラミング遺伝子を、前記細胞のゲノムに前記リプログラミング遺伝子を組み込むことなく発現することによって、リプログラム化されている、上記[57]に記載の細胞ベースの組成物。
[59] 前記リプログラミング遺伝子が、少なくとも1つのエピソーム発現プラスミド上にコードされる、上記[58]に記載の細胞ベースの組成物。
[60] 前記リプログラミング遺伝子が、Oct4、Sox2、Klf4、およびL-Mycを含む、上記[59]に記載の細胞ベースの組成物。
[61] 前記担体が、マクロカプセルを含む、上記[49]~[60]のいずれかに記載の細胞ベースの組成物。
[62] 前記マクロカプセルが、アルギン酸塩、硫酸セルロース、グルコマンナン、またはこれらの組み合わせを含む、上記[61]に記載の細胞ベースの組成物。
[63] 内胚葉系譜に優先的に分化する未分化細胞を同定する方法であって、未分化細胞におけるBHMT2およびNAP1L1の発現を評価することと、BHMT2の発現が対照細胞と比較して下方制御され、かつNAP1L1の発現が対照細胞と比較して上方制御される場合に、前記細胞を内胚葉系譜に分化する優先度を有するものとして同定することと、を含む方法。
[64] 前記未分化細胞におけるCox7A1およびHSPB2の発現を評価することと、Cox7A1およびHSPB2の両方の発現が対照細胞と比較して下方制御される場合、前記細胞を内胚葉系譜に分化する優先度を有するものとして同定することと、をさらに含む、上記[63]に記載の方法。
[65] 前記対照細胞が、前記内胚葉系譜への優先的分化を示さないまたは中胚葉系譜に分化することが実質的に不可能である、多能性細胞である、上記[63]または[64]に記載の方法。
[66] BHMT2の発現が、前記対照細胞に対して少なくとも2log下方制御され、かつNAP1L1の発現が、前記対照細胞に対して少なくとも2log上方制御される、上記[63]に記載の方法。
[67] Cox7A1およびHSPB2の両方の発現が、前記対照細胞に対して少なくとも2log下方制御される、上記[66]に記載の方法。
[68] GLIS2、CCDC58、MTX3、およびC7orf29の発現を評価することをさらに含む、上記[63]または[64]に記載の方法。
[69] GLIS2、CCDC58、およびMTX3の発現が、前記対照細胞に対して上方制御され、かつC7orf29の発現が、前記対照細胞に対して下方制御される、上記[68]に記載の方法。
[70] 前記発現レベルは、Q-PCRによって評価される、上記[63]または[64]に記載の方法。
[71] 前記発現レベルは、マイクロアレイ分析によって評価される、上記[63]または[64]に記載の方法。
以下の詳細な説明は、例示的かつ説明的であり、本発明のさらなる説明を提供することを意図する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】
図1A~1Cはランゲルハンス島からの人工多能性幹細胞(iPSC)株SR1423の選択を示す。
図1Aは、SR1423の選択スキームを示す。
図1Bは分化の3日目における内胚葉マーカーSox17(左)およびHNF3β(中央)のSR1423発現を示すための免疫染色とそれに続く蛍光顕微鏡検査法を表す。
図1CはSR1423細胞の分化の11日目の膵臓マーカーPdx1(左)およびNkx6.1(中央)の免疫染色を示す。併合された画像は、核染色と組み合わされたマーカーの共染色を示す。画像は倍率40倍で撮影されている。
【
図2】
図2はSR1423細胞は中胚葉系譜への分化が低いことを示す。SR1423を、Sox17(内胚葉)、ブラキュリ(中胚葉)、またはOTX2(外胚葉)について免疫染色した。核染色(中胚葉フレームで明らか)は、総細胞数を示す。図は、SR1423細胞が(Sox17およびOTX2のほぼ均一な標識によって示されるように)内胚葉および外胚葉になる能力を有するが、ブラキュリを発現できないことによって示されるように、中胚葉への分化が低いことを示す。
【
図3】
図3A~3DはSR1423細胞が多能性幹細胞に典型的な特徴を有することを示す。
図3Aは、SR1423細胞が、多能性マーカーOct4、Tra-1-81、Tra-1-60、Sox2、SSEAを発現することを示す。
図3Bは、培養における40回継代後のSR1423細胞の核型が正常であることを示す。
図3Cは、シングルタンデムリピート分析(STR)によって評価されるDNA指紋を示す。
図3Dは、SR1423細胞倍加時間を示す。
【
図4】
図4A~4BはSR1423細胞が、内胚葉系譜への優先分化と相関する遺伝子発現パターンを有することを示す。
図4Aは、SR1423細胞、B、C、およびDの遺伝子発現プロファイルクラスタ分析を示す。内胚葉に対する優先分化を示す2つの株(SR1423細胞およびB)と、優先分化を示さない2つの株(C、D)との間の発現プロファイルの相関は、教師なし階層的クラスタリング分析によって示された。上方制御された遺伝子を赤色で示し、下方制御された遺伝子を緑色で示す。条件間に大きな発現差異を有する遺伝子を識別する強度フィルタに基づいて、このクラスタ分析から差次的に発現された遺伝子のサブセットを選択した。最大の発現差異を有する250個の遺伝子が表される。
図4B qRTは、Aで同定された上方および下方制御された遺伝子のサブセットのPCR検証を示す。
【
図5】
図5A~5BはSR1423細胞が、堅牢な膵臓、ホルモン分泌細胞集団を産生することを示す。
図5Aは、上列のPdx(左)、Nkx6.1(中央)および併合(右)の免疫染色で28日後のSR1423分化を示す。下列は、インスリン(左)、グルカゴン(中央)、および併合(右)の免疫染色を示す。「併合」の画像には核染色が含まれている。すべての画像は、分化の28日後に40倍の元の倍率下で撮影した(n=10)。
図5Bは、集団における膵臓細胞の平均純度の定量を示す。細胞の68%がNkx6.1を発現することが分かり、66.5%がインスリンを発現していた。
【
図6】
図6A~6CはKGFを除外することによって、複数の細胞株にわたって分化を改善することができることを示す。
図6Aは、KGFの有りまたは無しでの分化後のSR1423細胞のPdx(左)およびNkx6.1(中央)の免疫蛍光染色を示す。
図6BはKGFの有りまたは無しでの分化後のBGO1V細胞のPdx(左)およびNkx6(中央)の免疫蛍光染色を示す。
図6Cは、本開示されたプロトコルを、HDC57およびBGO1V細胞において初期内胚葉細胞をKGFに曝露する公開されたプロトコルと比較する。発現レベルを未加工の輝度の総和(Raw Integrated density)(n=10)によって測定し、-KGFプロトコルおよび+KGFプロトコルを比較した。画像を倍率40倍で収集した。エラーバーは、平均SD;*P<0.05;****P<0.0001;ns、有意ではない、を表す。
【
図7】
図7はSR1423分化は、高レベルのホルモン分泌を有する培養物を生じることを示す。これは、グルコースに応答して、SR1423細胞およびHDC57細胞からのインスリンおよびグルカゴン分泌を比較することによって確立された。インスリンおよびグルカゴンレベルは、C-ペプチド(インスリンの代用として)またはグルカゴンELISAを介して評価された。
【
図8】
図8は動物モデルにおける糖尿病の逆転を示す。移植された細胞は、ストレプトゾトシン誘導正常マウスへの移植後の血糖を調節する。0日目にカプセル化された細胞を移植した。示される結果は、3匹のマウスの平均である。エラーバーは、標準偏差である。
【
図9】
図9A~9Fは非ヒト霊長類(NHP)組織に由来する幹細胞株の代表的な例を示す。NHPドナーAからの未分化株A1.3は、多能性マーカーOct4、SSEA4、Tra-1-80およびTra-1-60を発現する(A~D)。これらの細胞は、分化の4日目に内胚葉マーカーSox17およびHNF2βを発現し(E)、12日目に膵臓マーカーPdx1およびNkx6.1を発現する(F)。細胞の核が染色されている。
【
図10】
図10A~10Bはグルカゴンに曝露すると、インスリンおよびグルカゴンを共発現する細胞の量が減少することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
糖尿病を治療するために使用することができるインスリン分泌細胞と、ヒトインスリン産生β細胞の純粋な治療細胞集団を生成する改善された方法が本明細書に記載される。より具体的には、本開示は、単純な分化プロトコルが、グルコースに応答してインスリンを分泌する成熟表現型を示す純粋なインスリン分泌細胞の集団をもたらすことができるように、内胚葉系譜に分化する優先度または素因を有する幹細胞株で培養を開始することを含む、哺乳動物インスリン分泌細胞の産生方法を提供する。開示されるプロトコルは、他のステップの中でも、幹細胞(特に、内胚葉系譜に対する優先度または素因を示す幹細胞)を、レチノイン酸およびシクロパミン(または化学類似体)に長期(例えば、少なくとも20日)に曝露することを含み得る。培養物は、接着して開始され、細胞が三次元構造を自然かつ自発的に形成することを可能にし、次いで、この三次元構造を浮遊培養に移すことができる。細胞は、接着状態でまたは浮遊状態のいずれかで増殖している間、培養中にWnt3aに曝露されない場合がある。さらに、本開示は、細胞療法に適し、かつ内胚葉系譜に向かって分化するための素因を有する細胞の集団を同定するための方法も提供する。
【0046】
I.定義
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、当業者によって理解され、それが使用される文脈に応じてある程度変化する。用語が使用される文脈から考えると、当業者には明確でない用語の使用がある場合、「約」は、特定の用語のプラスまたはマイナス10%までを意味する。
【0047】
本明細書で使用される場合、「実質的に含まない」という用語は、組成物に、実質的に含まれない薬剤が添加されていないことを指すが、それは、薬剤の微量が存在することを除外しない。
【0048】
本明細書で使用される場合、「島細胞」という用語は、最終分化した膵臓内分泌細胞、および通常膵内分泌として分類される子孫を形成することに関与する任意の前駆細胞(precursor cell)を指す。島細胞は、島細胞系譜に典型的な形態学的特徴および表現型マーカー(以下に例示される)のいくつかを示す。成熟α細胞はグルカゴンを分泌し、成熟β細胞はインスリンを分泌し、成熟δ細胞はソマトスタチンを分泌し、PP細胞は膵臓ポリペプチドを分泌する。
【0049】
本明細書で使用される場合、「膵臓始原体」、「膵臓前駆体(precursor)」、または「膵臓幹細胞」は、有意義に内分泌ホルモンを分泌しない膵臓細胞または島細胞であるが、これらの細胞は、内分泌ホルモン(例えば、インスリン)を分泌することができる最終分化細胞を増殖させ、生成することができる。初期の膵臓始原体は多分化能(multipotent)であり、これは少なくとも膵臓内分泌細胞と膵臓外分泌細胞を形成することができることを意味する。
【0050】
本明細書で使用される場合、「幹細胞」という用語は、特殊化した細胞(例えば、インスリン産生膵臓細胞)に分化することができる未分化細胞を示す。本出願の目的のために、「幹細胞」という用語は、3つの胚層(すなわち、内胚葉、中胚葉、および外胚葉)のすべての始原体を産生することができる受精後の前胚(pre-embryonic)組織、胚組織、または胎児組織に由来する多能性細胞(pluripotent cell)、人工多能性細胞(すなわち、リプログラミング遺伝子で形質導入された細胞)で3つの胚層のすべての始原体を産生することができるもの、ならびに1つまたは2つの胚層のみに分化することができる、または特定の胚葉に優先的に分化できるリプログラミングされた細胞(例えば、外胚葉または内胚葉細胞型に優先的に分化するリプログラミングされた細胞)などの多分化能細胞(multipotent cell)(すなわち、リプログラミング遺伝子で形質導入された細胞)を含むことができる。この用語は、記載の様式で多能性または多分化能である様々な種類の幹細胞(一次組織から得られる細胞を含む)の両方の確立された株を含む。
【0051】
本明細書で使用される場合、「人工多能性細胞」または「人工多能性幹細胞」(「iPS細胞」)という用語は、標準的な技術で受け入れられている方法(例えば、体細胞核転移、リプログラミング遺伝子による形質導入、化学的誘導(De Los et al.,Cell Research,23:1337-1338(2013)、Federation et al.,Trends in Cell Biology,24:179-187(2013))などを参照されたい)に従い、成人体細胞、生殖細胞、多能性細胞、または他の細胞型のリプログラミングによって誘導された多能性細胞を示す。この用語は、確立された人工多能性幹細胞と、記載される方法で多能性である一次組織から得られる細胞の両方を含む。
【0052】
本明細書で使用される場合、「非多能性リプログラミング細胞」または「多分化能リプログラミング細胞」という用語は、リプログラミング遺伝子の導入/発現、および上記で考察された他の方法などの既知のリプログラミング方法を用いて、成人体細胞、生殖細胞、多能性細胞、または他の細胞型のリプログラミングによって誘導された細胞を示す。人工多能性細胞とは異なり、「非多能性リプログラム細胞」または「多分化能リプログラム細胞」は、1つまたは2つの胚葉のみに分化し得るか、または特定の胚葉に分化する優先度を有し得る(例えば、優先的に外胚葉細胞または内胚葉細胞型に分化するが、中胚葉細胞に効率的に分化することができないリプログラム細胞)。この用語は、確立された人工多分化能細胞(例えば、SR1423)と、記載される方法で多分化能であるようにリプログラムされる一次組織から得られる細胞の両方を含む。
【0053】
本明細書で使用される場合、「リプログラミング遺伝子」という用語は、分化された細胞の多能性または多分化能を誘導するための当該技術分野で一般的に使用される既知の遺伝子および転写因子を示す。例示的なリプログラミング遺伝子としては、Oct4(すなわち、Oct-3/4またはPou5f1)、Sox1、Sox2、Sox3、Sox15、およびSox18などのSoxファミリー転写因子、Klf4、Klf1、Klf2、およびKlf5などのKlfファミリー転写因子、C-myc、N-myc、およびL-mycなどのMycファミリー転写因子、Nanog、LIN28、およびGlis1が挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、開示されるリプログラミング遺伝子、ならびに当該技術分野で既知の他のリプログラミング遺伝子が、多能性または多分化能を誘導するために様々な方法で組み合わされ得ることを理解するであろう。例えば、Yu et al.,Science,318(5858):1917-20(2007)は、LIN28、Oct4、Sox2、およびNanogの組み合わせを使用してiPS細胞を生成することができることを実証し、一方でMaekawa et al.,Nature,474(7350):225~29(2011)は、Glis1、Oct-3/4、Sox2、およびKlf4の組み合わせを使用してiPS細胞を生成することができることを実証した。
【0054】
本明細書で使用される場合、「分化する」または「分化」という用語は、細胞型が特異性の低い細胞から特異性の高い細胞に変化することを示す。例えば、多能性状態を脱して、定義された生殖細胞系に向かって発達経路に沿って進行した任意の細胞は、分化を受けている。「分化された」という用語は相対的な用語であるため、分化細胞は、成熟した機能性細胞型に向かうそれらの発達経路の間の異なる段階であり得る。したがって、発達の進行の後期の細胞は、早期の細胞よりも分化していると言える。
【0055】
本明細書で使用される場合、この開示で使用されるものとしての「分化誘導因子」は、本発明の培養系において幹細胞の分化を誘導して、膵島系譜の分化した細胞(前駆細胞および最終分化細胞を含む)にするための化合物の集合体のうちの1つを指す。化合物の作用様式に関して制限は意図されていない。例えば、薬剤は、表現型の変化を誘導または補助すること、特定の表現型を有する細胞の増殖を促進すること、または他のものの増殖を遅延させることによって、分化プロセスを補助することができる。それはまた、培地内にあるか、またはさもなければ、望ましくない細胞型への経路の分化を誘導する細胞集団によって合成され得る他の因子に対する阻害剤として機能し得る。「分化誘導因子」のカテゴリ内で、当業者は、特定の因子が、分化プロセスを通じて特定のステップを誘導することが既知であることを理解するであろう。例えば、当業者であれば、「内胚葉誘導因子」は、限定されないが、単独または組み合わせのいずれかで、アクチビンAおよび/またはワートマニンを含むことができることを理解するであろう。同様に、「内分泌誘導因子」は、限定されないが、単独または組み合わせのいずれかで、レチノイン酸および/またはシクロパミンを含むことができる。
【0056】
本明細書で使用される場合、「長期的」は、細胞ベースの療法/移植で使用される異質の治療細胞の生存および機能に関連して使用される場合、少なくとも6ヶ月以上の期間を意味する。
【0057】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」という語句は、細胞が移植される特定の薬理学的効果、すなわち、インスリンを産生し、血糖を調節することを提供する対象に移植されるカプセル化細胞の量を意味する。治療有効量のカプセル化細胞は、そのような濃度が当業者によって治療有効量であるとみなされても、所与の対象における糖尿病の治療に必ずしも有効ではないことが強調される。便宜上、以下に例示的な量を提供する。
【0058】
当業者は、特定の対象を治療するために必要に応じて標準的な実践に従ってそのような量を調整することができる。治療有効量は、移植部位、対象の年齢および体重、および/または、対象の疾患の重症度、対象の食事、および/または対象の全体的な健康状態を含む、対象の状態に基づいて変化し得る
【0059】
糖尿病に関して本明細書で使用される場合、「治療」または「治療すること」という用語は、高血糖および低血糖、心臓病、腎臓病、肝疾患、網膜症、神経障害、非治癒性潰瘍、歯周病などの糖尿病の1つ以上の症状または併存症を軽減、改善または排除すること、血糖を調節するための外因性インスリンへの対象の依存性を低減すること、外因性インスリンを使用せずに対象の血糖を調節すること、対象のグリコシル化ヘモグロビン、またはHbA1Cレベルの割合を低減すること、および/またはインスリン感受性改善薬、ブドウ糖排泄促進剤、および当技術分野で知られている他の治療法など、他の薬剤介入への対象の依存を低減すること、のうちの1つ以上を指す。
【0060】
「個体」、「対象」および「患者」という用語は、本明細書において互換的に使用され、任意の個々の哺乳動物対象、例えば、非ヒト霊長類、ブタ、ウシ、イヌ、ネコ、ウマ、またはヒトを指す。
【0061】
II.細胞ベースの治療のための細胞の同定
従来の細胞ベース療法の1つの限界は、異なる細胞が成熟した細胞型に分化する異なる傾向を有することである。例えば、開始細胞集団のエピジェネティックなサインは、「エピジェネティックメモリ」と呼ばれる現象である、リプログラム化された細胞において持続することができることが報告されている。その結果、iPS細胞および他のリプログラム化された細胞は、それらが由来した同じ胚葉に属する細胞に優先的に分化し得る。したがって、いくつかの実施形態では、インスリン産生細胞を生成するための開示された方法で使用される幹細胞は、多能性または多分化能幹細胞にリプログラム化された成熟内胚葉細胞に由来し得る。いくつかの実施形態では、開示される方法において使用される幹細胞は、再プログラムされたヒト膵臓細胞に由来し得る。かかるドナー膵臓細胞は、糖尿病で治療されている対象(すなわち、自己ドナー)または糖尿病で治療されていない人(すなわち、同種異系ドナー)から得られることができる。いくつかの実施形態では、開示される方法において使用される幹細胞は、同意した健常な成人ドナー膵臓のランゲルハンス島からのリプログラム化された初代細胞であってもよい(例えば、
図1Aを参照されたい)。
【0062】
細胞培養で増殖した初代細胞は、おそらく人工培養条件または遺伝的浮動に適応した結果として、時間とともに均質になり、機能的成熟形質を失うことができる。したがって、初代細胞が開始細胞集団として使用されるとき、例えば、細胞の収穫または単離の7日、6日、5日、4日、3日、2日以内、または1日以内に初代細胞をリプログラミングすることが有利であり得る。例えば、単離された初代細胞は、細胞収穫の5日以内にリプログラミング遺伝子で形質導入され得る。
【0063】
当業者は、初代細胞がリプログラミング遺伝子を使用してリプログラミングされるとき、使用することができるリプログラミング遺伝子の多数の組み合わせが存在することを理解するであろう。いくつかの実施形態では、初代細胞は、Oct4、Sox2、Klf4、およびL-Mycによる形質導入を介してリプログラムミングされ得る。いくつかの実施形態では、初代細胞は、Oct4、Sox2、Klf4、およびC-Mycによる形質導入を介してリプログラミングされ得る。いくつかの実施形態では、初代細胞は、LIN28、Oct4、Sox2、およびNanogによる形質導入を介してリプログラミングされ得る。いくつかの実施形態では、初代細胞は、Glis1、Oct-3/4、Sox2、およびKlf4による形質導入を介してリプログラミングされ得る。これらの例示的な組み合わせは、リプログラミング遺伝子の他の組み合わせが当該技術分野で既知であり、開示される方法の目的のために使用され得るため、限定することを意図するものではない。
【0064】
いくつかの実施形態では、開示される分化および治療方法において使用される細胞は、別の生殖細胞株よりもある生殖細胞系統に向かって分化するための優先度を有し得る。例えば、いくつかの実施形態では、初代細胞または幹細胞(例えば、SR1423)は、外胚葉または内胚葉系譜に効率的に分化し得るが、実質的に中胚葉系譜に分化することはできない。これは、例えば、分化プロトコルまたはキットを用いて、幹細胞を特定の生殖細胞株に向かって押し出すが、生殖細胞株マーカー(例えば、外胚葉に対するOTX2、内胚葉に対するSox17、または中胚葉に対するBrachyury)の検出できないことによって決定され得る。
【0065】
いくつかの実施形態では、内胚葉系譜に沿って優先的に分化する幹細胞または初代細胞は、ある特定の分子マーカーによって識別され得る。例えば、内胚葉系譜に沿って優先的に分化する幹細胞または初代細胞は、多能性(例えば、
図3Aを参照のこと)および正常な核型(例えば、
図3Bを参照のこと)に典型的なマーカーを発現し得るが、多能性に典型的なマーカーが発現されても、幹細胞は多分化能であっても全能性であってもよく、したがって多能性のための許容される基準に適合しない可能性がある。
【0066】
内胚葉系譜に沿って優先的に分化する幹細胞または初代細胞はまた、固有の遺伝子発現プロファイルを有し得る。例えば、いくつかの実施形態では、内胚葉系譜に沿って優先的に分化する幹細胞または初代細胞は、対照レベルまたは対照細胞と比較して、BHMT2、Cox7A1、およびHSPB2の発現を下方制御し得る。いくつかの実施形態では、内胚葉系譜に沿って優先的に分化する幹細胞または初代細胞は、対照レベルまたは対照細胞に対してNAP1L1の発現を上方制御し得る。加えて、内胚葉系譜に沿って優先的に分化する細胞は、対照細胞と比較して、GLIS2、CCDC58、およびMTX3の発現を上方制御し得、C7orf29の発現を下方制御し得る。発現レベルは、qRT-PCRまたはマイクロアレイ分析などの当該技術分野で既知の任意の手段によって決定されてもよく、比較の標準として使用される対照細胞は、内胚葉系譜への優先的な分化または中胚葉系譜への実質的な分化不能を示さないNIHレジストリに見出される標準胚性幹細胞株などの、多能性細胞を含んでもよい。理論に拘束されないが、少なくともBHMT2およびNAP1L1は、DNA修飾において役割を果たし、エピジェネティックメモリに寄与し得ると考えられる。
【0067】
いくつかの実施形態では、BHMT2、Cox7A1、HSPB2、および/またはNAP1L1の分化発現は、内胚葉系譜への優先分化を示さず、かつ実質的に中胚葉系統への分化ができない多能性細胞、または多能性の標準基準を満たす幹細胞と比較して、少なくとも約1log、少なくとも約2log、または少なくとも約3log増加(BHMT2、Cox7A1、およびHSPB2について)または減少(NAP1L1について)し得る。
【0068】
開示された発現プロファイルで幹細胞を同定することは、内胚葉系譜に分化し、その後インスリン産生細胞に分化するための優先度を示す。特定の胚葉に対する分化優先度を直接試験することは、特定の運命に傾いた細胞株を生成する効率が高まるため、細胞ベースの治療に適している。
【0069】
III.インスリン産生β細胞の生成プロトコル
哺乳動物幹細胞(例えば、iPS細胞、胚性幹細胞、およびリプログラム化された細胞)が、胚膵臓発生を模倣することによってインスリン産生β細胞に分化することができることが示されている。例えば、Borowiak M.et al.Curr Opin Cell Biol.,21:727-32(2009)を参照されたい。多能性細胞は段階的に膵臓細胞に分化する。第1段階は、内胚葉系譜に向けた分化である。内胚葉細胞はさらに多分化能膵臓始原細胞に分化させ、次いで、それは島細胞に分化させ、次いで、ブドウ糖曝露時にインスリンを産生するβ細胞に分化させることができる。現在の分化プロトコルは、これらの段階をインビトロで模倣しようとしているが、これらの分化プロトコルの臨床適応の効率と成功率はかなり異なる。例えば、Pagliuca FW,et al.Cell,154(2):428-439(2014)を参照されたい。確かに、現在の分化プロトコルは、それらが適用される個々の細胞に応じて適応されなければならないことが多い。これにより、今日まで、普遍的で標準化された分化プロトコルの確立が妨げられている。実際、現在の分化プロトコルからのいくつかの一貫したガイダンスは、異なる遺伝子背景からの幹細胞株の分化を阻害し得る。本明細書に開示される改善された方法は、当該技術分野におけるこの欠陥に対処する。例えば、いくつかの実施形態では、開示されるプロトコルは、細胞特異的であり得る他の分化プロトコルとは対照的に、様々な細胞源からインスリン産生β細胞を堅牢に生成することができる。
【0070】
インスリン産生細胞を生成する従来の手段は、幹細胞を培養および分化することを含む。開示されるプロトコルに関して、細胞源は、限定されないが、ヒト胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、非多能性リプログラム化された細胞(例えば、SR1423)、および当該技術分野で既知の他の従来の細胞源を含み得る。
【0071】
幹細胞からインスリン産生細胞を生成する開示される方法は、最初に内胚葉分化が開始され、続いて膵臓系譜への分化、続いて内分泌系譜への分化、最後にインスリン産生細胞への成熟プロセスが行われる、多段階プロセスを含む。内胚葉分化は、典型的には、幹細胞を、アクチビンAもしくはワートマニンなどの内胚葉誘導剤またはこれらの組み合わせと接触させることによって開始される。十分な数の内胚葉細胞に到達したとき、この細胞をレチノイン酸もしくはシクロパミンなどの内分泌誘導剤またはこれらの組み合わせと接触させて、細胞を膵臓始原細胞にさらに分化させる。以下でより詳細に論じられるさらなる分化因子への曝露を介して、膵臓始原細胞は、糖尿病を治療するための細胞ベースの治療に使用することができるインスリン産生細胞に成熟させることができる。
【0072】
いくつかの実施形態では、幹細胞は、内胚葉誘導剤を含む第1の培地で培養される。いくつかの実施形態では、内胚葉誘導剤は少なくともアクチビンAを含む。いくつかの実施形態では、内胚葉誘導剤はアクチビンAおよびワートマニンを含む。いくつかの実施形態では、開示される方法は、CHIR-99021(Wntシグナル伝達の低分子活性化剤)および/または増殖因子Wnt3AなどのWntシグナル伝達の活性化剤を使用しないか、または含まない。幹細胞を内胚葉誘導剤に曝露すると、内胚葉細胞への細胞の分化が起こる。
【0073】
インスリン産生細胞を得る従来の方法とは対照的に、いくつかの実施形態では、開示される分化方法は、Wntシグナル伝達の活性化剤を使用しない。従来の方法とは対照的に、いくつかの実施形態では、開示される分化方法は、細胞をレチノイン酸(RA)に長期間曝露する。従来の方法とは対照的に、いくつかの実施形態では、開示される分化プロトコルは、細胞をシクロパミンまたは化学類似体に長期間曝露する。従来の方法とは対照的に、いくつかの実施形態では、開示される分化プロトコルは、接着性培養物の解離および浮遊状態の細胞の再凝集による三次元浮遊培養物の作成を用いない。
【0074】
いくつかの実施形態では、開示される分化方法は、幹細胞をケラチノサイト増殖因子(KGF)に曝露しない。KFGは、膵臓始原細胞からのβ細胞の分化を促進するために必要な成分であると考えられてきた。例えば、Movassat J.,Diabetologia,46:822-829(2003)を参照されたい。KGFは、インビボで、特に、膵管細胞はKGFおよびノギンの存在下で形成される、胎児膵臓組織においてβ細胞の分化を促進することが報告されている。したがって、培養における内胚葉分化の初期段階におけるKGFの適用は、従来のプロトコルの開発における合理的な仮定であった。いくつかの実施形態では、開示される分化方法は、幹細胞をKGFに曝露することを含み得る。
【0075】
しかし本明細書では、本発明者らは予想外に、KGFが有効であるためには、レチノイン酸(RA)シグナル伝達によって膵臓始原体が確立されていなければならないことを発見した。確かに、他の因子がない場合、KGFでの処置は、β細胞分化にマイナスの影響を与えることが判明した。同様に、本開示は、KGFを初期内胚葉期から除外し、後の膵臓始原体期にKGFを添加することにより、様々な細胞源からのβ細胞産生が改善され、インスリン産生細胞のほぼ均質な培養物の産生がもたらされることを示す。したがって、一態様において、本開示は、幹細胞が内胚葉誘導剤の前に、またはそれと同時にKGFと接触しない、インスリン産生細胞を得るための新規な分化方法を提供する。むしろ、細胞は分化の後期でのみKGFと接触する。例えば、KGFは、細胞がRAと接触すると同時に、または後の培養ステップで細胞に導入されてもよいが、それ以前は導入されない。
【0076】
したがって、いくつかの実施形態では、分化細胞は、細胞が内分泌細胞に分化された後などの内胚葉分化の後期においてのみKGFと接触する。この段階の前に、幹細胞をKGFと接触させるべきではない。したがって、幹細胞を内胚葉細胞に分化するために使用される培地は、アクチビンAおよび/またはワートマニンを含むことができるが、KGFを含むべきではない。いくつかの実施形態では、幹細胞を内胚葉細胞に分化するために使用される培地は、アクチビンA、ワートマニン、および/またはWntシグナル伝達の活性化剤、例えば、CHIR-99021(Wntシグナル伝達の低分子活性化剤)および/または増殖因子Wnt3A、ならびにこれらの組み合わせを含むことができるが、KGFを含むべきではない。
【0077】
いくつかの実施形態では、幹細胞を内胚葉細胞に分化させるステップは、KGFを含みまたは含まずに、アクチビンA、ワートマニン、およびこれらの組み合わせを含む培地で、細胞を1~4日間培養することを含んでよい。例えば、幹細胞を、これらの内胚葉誘導剤の存在下で約1、約2、約3、または約4日間培養することによって、幹細胞を内胚葉細胞に分化させることができる。
【0078】
いくつかの実施形態では、幹細胞は、約1~約200ng/mL、約25~約175ng/mL、約50~約150ng/mL、または約75~約125ng/mLの濃度のアクチビンAの存在下で内胚葉細胞に分化される。例えば、アクチビンA濃度は、約1ng/mL、約10ng/mL、約20ng/mL、約40ng/mL、約50ng/mL、約60ng/mL、約70ng/mL、約80ng/mL、約90ng/mL、約100ng/mL、約110ng/mL、約120ng/mL、約130ng/mL、約140ng/mL、約150ng/mL、約160ng/mL、約170ng/mL、約180ng/mL、約190ng/mL、または約200ng/mLであってもよい。
【0079】
いくつかの実施形態では、幹細胞は、約0.1~約2.0μM、約0.25~約1.75μM、約0.5~約1.5μM、または約0.75~約1.25μMの濃度のワートマニンの存在下で内胚葉細胞に分化される。例えば、ワートマニン濃度は、約0.1μM、約0.5μM、約1.0μM、約1.5μM、または約2.0μMであってもよい。
【0080】
いくつかの実施形態では、内胚葉細胞を内分泌細胞に分化させるために使用される培地はKGFを含むことができるが、いくつかの実施形態では、内胚葉細胞を内分泌細胞に分化させるために使用される培地は、KGFを含まないレチノイン酸、ノギン、またはシクロパミンならびにこれらの組み合わせを含むことができる。
【0081】
いくつかの実施形態では、内胚葉細胞を内分泌細胞に分化させるステップは、KGFを含みまたは含まずに、レチノイン酸、シクロパミン、および/またはノギンを含む培地で1~5日間細胞を培養することを含み得る。例えば、内胚葉細胞を、これらの内分泌誘導剤の存在下で約1、約2、約3、約4、または約5日間培養することにより、内胚葉細胞を内分泌細胞に分化させることができる。
【0082】
いくつかの実施形態では、細胞は、約0.05μM、約0.1μM、約0.5μM、約1.0μM、約1.5μM、または約2.0μMの濃度でのレチノイン酸の存在下で少なくとも20日間分化される。
【0083】
いくつかの実施形態では、細胞は、約0.05μM、約0.1μM、約0.25μM、または約0.5μMの濃度でのシロパミンの存在下で少なくとも20日間分化される。
【0084】
いくつかの実施形態では、細胞は、約0.05μM、約0.1μM、約0.25μM、または約0.5μMの濃度でのシクロパミンSANT-1((4-ベンジル-ピペラジン-1-イル)-(3,5-ジメチル-1-フェニル-1H-ピラゾール-4-イルメチレン)-アミン)の化学類似体の存在下で分化される。
【0085】
いくつかの実施形態では、内胚葉細胞は、約1.0~約10.0μM、約2.0~約8.0μM、または約3.0~約5.0μMの濃度でのレチノイン酸の存在下で内分泌細胞に分化される。例えば、レチノイン酸濃度は、約1.0μM、約1.5μM、約2.0μM、約2.5μM、約3.0μM、約3.5μM、約4.0μM、約4.5μM、約5.0μM、約5.5μM、約6.0μM、約6.5μM、約7.0μM、約7.5μM、約8.0μM、約8.5μM、約9.0μM、約9.5μM、または約10.0μMであり得る。
【0086】
いくつかの実施形態では、内胚葉細胞は、約0.1~約1.0μMまたは約0.25~約0.75μMの濃度でのシクロパミンの存在下で内分泌細胞に分化される。例えば、シクロパミン濃度は、約0.1μM、約0.2μM、約0.25μM、約0.3μM、約0.4μM、約0.45μM、約0.5μM、約0.55μM、約0.6μM、約0.7μM、約0.75μM、約0.8μM、約0.9μM、または約1.0μMであり得る。
【0087】
いくつかの実施形態では、内胚葉細胞は、約1~約100ng/mL、約25~約75ng/mL、または約60~約70ng/mLの濃度でのノギンの存在下で内分泌細胞に分化される。例えば、ノギン濃度は、約1ng/mL、約5ng/mL、約10ng/mL、約15ng/mL、約20ng/mL、約25ng/mL、約30ng/mL、約35ng/mL、約40ng/mL、約45ng/mL、約50ng/mL、約55ng/mL、約60ng/mL、約65ng/mL、約70ng/mL、約75ng/mL、約80ng/mL、約85ng/mL、約90ng/mL、約95ng/mL、または約100ng/mLであり得る。
【0088】
いくつかの実施形態では、内胚葉細胞は、1~約100ng/mL、約25~約75ng/mL、または約60~約70ng/mLの濃度でのKGFの存在下で内分泌細胞に分化される。例えば、KGF濃度は、約1ng/mL、約10ng/mL、約20ng/mL、約40ng/mL、約50ng/mL、約60ng/mL、約70ng/mL、約80ng/mL、約90ng/mL、または約100ng/mLであり得る。いくつかの実施形態では、細胞が内胚葉細胞から内分泌細胞に分化された後まで、細胞をKGFに曝露しない。
【0089】
いくつかの実施形態では、内分泌細胞を膵臓始原細胞、次いで最終的にはインスリン産生細胞に分化させるために、追加の増殖因子および/またはホルモンの存在下でさらに培養することができる。いくつかの実施形態では、内分泌細胞は、レチノイン酸および/またはシクロパミンなどの内分泌誘導剤に曝露した後にKGFを含む培地で培養することにより、内分泌細胞を膵臓始原細胞に分化させることができる。いくつかの実施形態では、内分泌細胞は、レチノイン酸および/またはシクロパミンなどの内分泌誘導剤に曝露された後、KGF、ノギン、および/または上皮増殖因子(EGF)またはこれらの組み合わせを含む培地で培養されてもよい。
【0090】
いくつかの実施形態では、内分泌細胞を膵臓始原細胞に分化させるステップは、KGF、ノギン、および/または上皮増殖因子(EGF)またはこれらの組み合わせを含む培地で細胞を1~5日間培養することを含み得る。いくつかの実施形態では、内分泌細胞を膵臓始原細胞に分化させるステップは、KGF、ノギン、および/または上皮増殖因子(EGF)またはこれらの組み合わせを含み、ならびにさらに、レチノイン酸および/またはシクロパミン(例えば、シクロパミンKAAD)を含む培地で、細胞を1~5日間培養することを含み得る。例えば、内胚葉細胞を、これらの薬剤の存在下で約1、約2、約3、約4、または約5日間培養することにより、内分泌細胞を膵臓始原細胞に分化させることができる。
【0091】
いくつかの実施形態では、内分泌細胞は、1~約100ng/mL、約25~約75ng/mL、または約60~約70ng/mLの濃度でのKGFの存在下で膵臓始原細胞に分化される。例えば、KGF濃度は、約1ng/mL、約10ng/mL、約20ng/mL、約40ng/mL、約50ng/mL、約60ng/mL、約70ng/mL、約80ng/mL、約90ng/mL、または約100ng/mLであり得る。
【0092】
いくつかの実施形態では、内分泌細胞は、約1~約100ng/mL、約25~約75ng/mL、または約60~約70ng/mLの濃度でのノギンの存在下で膵臓始原細胞に分化される。例えば、ノギン濃度は、約1ng/mL、約5ng/mL、約10ng/mL、約15ng/mL、約20ng/mL、約25ng/mL、約30ng/mL、約35ng/mL、約40ng/mL、約45ng/mL、約50ng/mL、約55ng/mL、約60ng/mL、約65ng/mL、約70ng/mL、約75ng/mL、約80ng/mL、約85ng/mL、約90ng/mL、約95ng/mL、または約100ng/mLであり得る。
【0093】
いくつかの実施形態では、内分泌細胞は、約1~約100ng/mL、約25~約75ng/mL、または約60~約70ng/mLの濃度でのEGFの存在下で膵臓始原細胞に分化される。例えば、EGF濃度は、約1ng/mL、約5ng/mL、約10ng/mL、約15ng/mL、約20ng/mL、約25ng/mL、約30ng/mL、約35ng/mL、約40ng/mL、約45ng/mL、約50ng/mL、約55ng/mL、約60ng/mL、約65ng/mL、約70ng/mL、約75ng/mL、約80ng/mL、約85ng/mL、約90ng/mL、約95ng/mL、または約100ng/mLであり得る。
【0094】
いくつかの実施形態では、内分泌細胞は、約1~約200ng/mL、約50~約200ng/mL、または約75~約125ng/mLの濃度でのレチノイン酸の存在下で膵臓始原細胞に分化される。例えば、レチノイン酸濃度は、約1ng/mL、約5ng/mL、約10ng/mL、約15ng/mL、約20ng/mL、約25ng/mL、約30ng/mL、約35ng/mL、約40ng/mL、約45ng/mL、約50ng/mL、約55ng/mL、約60ng/mL、約65ng/mL、約70ng/mL、約75ng/mL、約80ng/mL、約85ng/mL、約90ng/mL、約95ng/mL、約100ng/mL、約105ng/mL、約110ng/mL、約115ng/mL、約120ng/mL、約125ng/mL、約130ng/mL、約135ng/mL、約140ng/mL、約145ng/mL、約150ng/mL、約155ng/mL、約160ng/mL、約165ng/mL、約170ng/mL、約175ng/mL、約180ng/mL、約185ng/mL、約190ng/mL、約195ng/mL、または約200ng/mLであり得る。
【0095】
いくつかの実施形態では、内分泌細胞は、約0.1~約1.0μMまたは約0.25~約0.75μMの濃度でのシクロパミンの存在下で膵臓始原細胞に分化される。例えば、シクロパミン濃度は、約0.1μM、約0.2μM、約0.25μM、約0.3μM、約0.4μM、約0.45μM、約0.5μM、約0.55μM、約0.6μM、約0.7μM、約0.75μM、約0.8μM、約0.9μM、または約1.0μMであり得る。
【0096】
いくつかの実施形態では、膵臓始原細胞は、膵臓系譜に向かって膵臓始原細胞を分化させ、最終的にはインスリン産生細胞に分化させるために、追加の増殖因子および/またはホルモンの存在下でさらに培養され得る。いくつかの実施形態では、膵臓始原細胞は、ノギン、EGF、γ-セクレターゼ阻害剤XXI、Alk5i II、および/またはT3ならびにこれらの組み合わせを含む培地で培養され得る。いくつかの実施形態では、膵臓始原細胞は、ノギン、EGF、γ-セクレターゼ阻害剤XXI、Alk5i II、および/またはT3ならびにこれらの組み合わせを含み、レチノイン酸および/またはシクロパミン(例えば、シクロパミンKAAD)をさらに含む培地で培養され得る。いくつかの実施形態では、T3は、分化のこの段階で培養培地に含まれない場合がある。例えば、膵臓始原細胞を、これらの薬剤の存在下で約1、約2、約3、約4、または約5日間培養することにより、膵臓始原細胞を膵臓系譜に分化させることができる。
【0097】
いくつかの実施形態では、膵臓始原細胞は、約1~約100ng/mL、約25~約75ng/mL、または約60~約70ng/mLの濃度でのノギンの存在下でさらに培養される。例えば、ノギン濃度は、約1ng/mL、約5ng/mL、約10ng/mL、約15ng/mL、約20ng/mL、約25ng/mL、約30ng/mL、約35ng/mL、約40ng/mL、約45ng/mL、約50ng/mL、約55ng/mL、約60ng/mL、約65ng/mL、約70ng/mL、約75ng/mL、約80ng/mL、約85ng/mL、約90ng/mL、約95ng/mL、または約100ng/mLであり得る。
【0098】
いくつかの実施形態では、膵臓始原細胞は、約1~約100ng/mL、約25~約75ng/mL、または約60~約70ng/mLの濃度でのEGFの存在下でさらに培養される。例えば、EGF濃度は、約1ng/mL、約5ng/mL、約10ng/mL、約15ng/mL、約20ng/mL、約25ng/mL、約30ng/mL、約35ng/mL、約40ng/mL、約45ng/mL、約50ng/mL、約55ng/mL、約60ng/mL、約65ng/mL、約70ng/mL、約75ng/mL、約80ng/mL、約85ng/mL、約90ng/mL、約95ng/mL、または約100ng/mLであり得る。
【0099】
いくつかの実施形態では、膵臓始原細胞は、約0.1~約2.0μM、約0.25~約1.75μM、約0.5~約1.5μM、または約0.75~約1.25μMの濃度でのγ-セクレターゼ阻害剤XXIの存在下でさらに培養される。例えば、γ-セクレターゼ阻害剤XXI濃度は、約0.1μM、約0.5μM、約1.0μM、約1.5μM、または約2.0μMであり得る。
【0100】
いくつかの実施形態では、膵臓始原細胞は、約1.0~約50.0μM、約5~約25μM、または約10~約20μMの濃度でのAlk5i IIの存在下でさらに培養される。例えば、Alk5i II濃度は、約0.1μM、約1.0μM、約5.0μM、約10μM、約20μM、約30μM、約40μM、または約50μMであり得る。
【0101】
いくつかの実施形態では、膵臓始原細胞は、約0.1~約2.0μM、約0.25~約1.75μM、約0.5~約1.5μM、または約0.75~約1.25μMの濃度でのT3の存在下でさらに培養される。例えば、T3濃度は、約0.1μM、約0.5μM、約1.0μM、約1.5μM、または約2.0μMであり得る。
【0102】
いくつかの実施形態では、膵臓始原細胞は、約1~約200ng/mL、約50~約200ng/mL、または約75~約125ng/mLの濃度でのレチノイン酸の存在下でさらに培養される。例えば、レチノイン酸濃度は、約1ng/mL、約5ng/mL、約10ng/mL、約15ng/mL、約20ng/mL、約25ng/mL、約30ng/mL、約35ng/mL、約40ng/mL、約45ng/mL、約50ng/mL、約55ng/mL、約60ng/mL、約65ng/mL、約70ng/mL、約75ng/mL、約80ng/mL、約85ng/mL、約90ng/mL、約95ng/mL、約100ng/mL、約105ng/mL、約110ng/mL、約115ng/mL、約120ng/mL、約125ng/mL、約130ng/mL、約135ng/mL、約140ng/mL、約145ng/mL、約150ng/mL、約155ng/mL、約160ng/mL、約165ng/mL、約170ng/mL、約175ng/mL、約180ng/mL、約185ng/mL、約190ng/mL、約195ng/mL、または約200ng/mLであり得る。
【0103】
いくつかの実施形態では、膵臓始原細胞は、約0.1~約1.0μMまたは約0.25~約0.75μMの濃度でのシクロパミンの存在下でさらに培養される。例えば、シクロパミン濃度は、約0.1μM、約0.2μM、約0.25μM、約0.3μM、約0.4μM、約0.45μM、約0.5μM、約0.55μM、約0.6μM、約0.7μM、約0.75μM、約0.8μM、約0.9μM、または約1.0μMであり得る。
【0104】
いくつかの実施形態では、膵臓細胞は、細胞をインスリン産生細胞に最終的に分化させるために、追加の増殖因子および/またはホルモンの存在下でさらに培養され得る。いくつかの実施形態では、膵臓始原細胞は、Alk5i II、T3、および/またはレチノイン酸ならびにこれらの組み合わせを含む培地で培養されてもよい。いくつかの実施形態では、膵臓始原細胞は、Alk5i II、T3、および/またはレチノイン酸ならびにこれらの組み合わせを含み、シクロパミン(例えば、シクロパミンKAAD)をさらに含む培地で培養され得る。いくつかの実施形態では、T3は、分化のこの段階で培養培地に含まれない場合がある。例えば、膵臓始原細胞を、これらの薬剤の存在下で約1、約2、約3、約4、または約5日間培養することにより、膵臓細胞をインスリン産生細胞型に向けて分化させることができる。
【0105】
いくつかの実施形態では、膵臓細胞は、約1.0~約50.0μMの約5~約25μM、または約10~約20μMの濃度でのAlk5i IIの存在下でさらに培養される。例えば、Alk5i II濃度は、約0.1μM、約1.0μM、約5.0μM、約10μM、約20μM、約30μM、約40μM、または約50μMであり得る。
【0106】
いくつかの実施形態では、膵臓細胞は、約0.1~約2.0μM、約0.25~約1.75μM、約0.5~約1.5μM、または約0.75~約1.25μMの濃度でのT3の存在下でさらに培養される。例えば、T3濃度は、約0.1μM、約0.5μM、約1.0μM、約1.5μM、または約2.0μMであり得る。
【0107】
いくつかの実施形態では、膵臓細胞は、約1~約200μM、約25~約175μM、約50~約150μM、または約75~約125μMの濃度でのレチノイン酸の存在下でさらに培養される。例えば、レチノイン酸濃度は、約1μM、約10μM、約20μM、約40μM、約50μM、約60μM、約70μM、約80μM、約90μM、約100μM、約110μM、約120μM、約130μM、約140μM、約150μM、約160μM、約170μM、約180μM、約190μM、または約200μMであり得る。いくつかの実施形態では、膵臓始原細胞は、約1~約200ng/mL、約50~約200ng/mL、または約75~約125ng/mLの濃度でのレチノイン酸の存在下でさらに培養される。例えば、レチノイン酸濃度は、約1ng/mL、約5ng/mL、約10ng/mL、約15ng/mL、約20ng/mL、約25ng/mL、約30ng/mL、約35ng/mL、約40ng/mL、約45ng/mL、約50ng/mL、約55ng/mL、約60ng/mL、約65ng/mL、約70ng/mL、約75ng/mL、約80ng/mL、約85ng/mL、約90ng/mL、約95ng/mL、約100ng/mL、約105ng/mL、約110ng/mL、約115ng/mL、約120ng/mL、約125ng/mL、約130ng/mL、約135ng/mL、約140ng/mL、約145ng/mL、約150ng/mL、約155ng/mL、約160ng/mL、約165ng/mL、約170ng/mL、約175ng/mL、約180ng/mL、約185ng/mL、約190ng/mL、約195ng/mL、または約200ng/mLであり得る。
【0108】
いくつかの実施形態では、膵臓始原細胞は、約0.1~約1.0μMまたは約0.25~約0.75μMの濃度でのシクロパミンの存在下でさらに培養される。例えば、シクロパミン濃度は、約0.1μM、約0.2μM、約0.25μM、約0.3μM、約0.4μM、約0.45μM、約0.5μM、約0.55μM、約0.6μM、約0.7μM、約0.75μM、約0.8μM、約0.9μM、または約1.0μMであり得る。
【0109】
いくつかの実施形態では、膵臓細胞は、細胞をインスリン産生細胞に最終的に分化させるために、追加の増殖因子および/またはホルモンの存在下でさらに培養され得る。いくつかの実施形態では、膵臓始原細胞は、Alk5i II、T3、ニコチンアミド、インスリン様増殖因子(IGF)-I、および/またはBMP4およびこれらの組み合わせを含む培地で培養されてもよい。いくつかの実施形態では、膵臓始原細胞は、Alk5i II、T3、ニコチンアミド、インスリン様増殖因子(IGF)-I、および/またはBMP4、ならびにこれらの組み合わせ、ならびにこれらの組み合わせを含み、さらに、レチノイン酸および/またはシクロパミン(例えば、シクロパミンKAAD)を含む培地中で培養され得る。いくつかの実施形態では、T3および/またはBMP4は、この分化段階で培養培地に含まれない場合がある。例えば、膵臓始原細胞を、これらの薬剤の存在下で約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、または約10日間培養することにより、膵臓細胞をインスリン産生細胞に分化し得る。
【0110】
いくつかの実施形態では、膵臓細胞は、約1.0~約50.0μMの約5~約25μM、または約10~約20μMの濃度でのAlk5i IIの存在下でさらに培養される。例えば、Alk5i II濃度は、約0.1μM、約1.0μM、約5.0μM、約10μM、約20μM、約30μM、約40μM、または約50μMであり得る。
【0111】
いくつかの実施形態では、膵臓細胞は、約0.1~約2.0μM、約0.25~約1.75μM、約0.5~約1.5μM、または約0.75~約1.25μMの濃度でのT3の存在下でさらに培養される。例えば、T3濃度は、約0.1μM、約0.5μM、約1.0μM、約1.5μM、または約2.0μMであり得る。
【0112】
いくつかの実施形態では、膵臓細胞は、約1.0~約50.0mM、約5~約25mM、または約10~約20mMの濃度でのニコチンアミドの存在下でさらに培養される。例えば、ニコチンアミド濃度は、約0.1mM、約1.0mM、約5.0mM、約10mM、約20mM、約30mM、約40mM、または約50mMであり得る。
【0113】
いくつかの実施形態では、膵臓始原細胞は、約1~約100ng/mL、約25~約75ng/mL、または約60~約70ng/mLの濃度でのIGF-Iの存在下でさらに培養される。例えば、IGF-I濃度は、約1ng/mL、約5ng/mL、約10ng/mL、約15ng/mL、約20ng/mL、約25ng/mL、約30ng/mL、約35ng/mL、約40ng/mL、約45ng/mL、約50ng/mL、約55ng/mL、約60ng/mL、約65ng/mL、約70ng/mL、約75ng/mL、約80ng/mL、約85ng/mL、約90ng/mL、約95ng/mLまたは約100ng/mLであり得る。
【0114】
いくつかの実施形態では、膵臓細胞は、約1.0~約50.0ng/mL、約5~約25ng/mL、または約10~約20ng/mLの濃度でのBMP4の存在下でさらに培養される。例えば、BMP4濃度は、約0.1ng/mL、約1.0ng/mL、約5.0ng/mL、約10ng/mL、約20ng/mL、約30ng/mL、約40ng/mL、または約50ng/mLであり得る。
【0115】
いくつかの実施形態では、膵臓始原細胞は、約1~約200ng/mL、約50~約200ng/mL、または約75~約125ng/mLの濃度でのレチノイン酸の存在下でさらに培養される。例えば、レチノイン酸濃度は、約1ng/mL、約5ng/mL、約10ng/mL、約15ng/mL、約20ng/mL、約25ng/mL、約30ng/mL、約35ng/mL、約40ng/mL、約45ng/mL、約50ng/mL、約55ng/mL、約60ng/mL、約65ng/mL、約70ng/mL、約75ng/mL、約80ng/mL、約85ng/mL、約90ng/mL、約95ng/mL、約100ng/mL、約105ng/mL、約110ng/mL、約115ng/mL、約120ng/mL、約125ng/mL、約130ng/mL、約135ng/mL、約140ng/mL、約145ng/mL、約150ng/mL、約155ng/mL、約160ng/mL、約165ng/mL、約170ng/mL、約175ng/mL、約180ng/mL、約185ng/mL、約190ng/mL、約195ng/mL、または約200ng/mLであり得る。
【0116】
いくつかの実施形態では、膵臓始原細胞は、約0.1~約1.0μMまたは約0.25~約0.75μMの濃度でのシクロパミンの存在下でさらに培養される。例えば、シクロパミン濃度は、約0.1μM、約0.2μM、約0.25μM、約0.3μM、約0.4μM、約0.45μM、約0.5μM、約0.55μM、約0.6μM、約0.7μM、約0.75μM、約0.8μM、約0.9μM、または約1.0μMであり得る。
【0117】
いくつかの実施形態では、細胞は、ビトロネクチンおよび/またはラミニンおよび/またはコラーゲンから成る接着性基質上で分化される。いくつかの実施形態では、自発的かつ自然に三次元構造を形成する細胞を収集し、浮遊培養に移す。
【0118】
いくつかの実施形態では、細胞はハイドロゲル内にカプセル化され、細胞がハイドロゲル内にカプセル化される間に分化はさらに進行し得る。これらの実施形態では、分化プロトコルは、カプセル化されていない細胞と同じである(すなわち、分化プロトコルは、開示された分化方法と同じ試薬およびインキュベーション時間を含んでよい)。すなわち、ヒドロゲル内にカプセル化された後であっても、開示された培地内で細胞をインキュベートして、インスリン産生細胞を産生することができる。いくつかの実施形態では、細胞をカプセル化するヒドロゲルは、アルギン酸ナトリウムを含んでもよく、またはアルギン酸ナトリウムからなってもよい。いくつかの実施形態では、細胞は、分化の12日目前後にハイドロゲル内にカプセル化される。例えば、細胞は、分化の8日目、9日目、10日目、11日目、12日目、13日目、14日目、または15日目にハイドロゲル内にカプセル化され得る。したがって、細胞は、ノギンおよび/またはEGFを含む培地(すなわち、本明細書に開示される「第3の培地」)でインキュベートされた後、ハイドロゲル内にカプセル化され得る。いくつかの実施形態では、細胞は、14日目前後、16日目前後、18日目前後、20日目前後、22日目前後、24日目前後、26日目前後、または28日目前後の分化の後期段階でハイドロゲル内にカプセル化される。
【0119】
いくつかの実施形態では、開示される分化方法において使用される幹細胞は膵臓一次組織に由来する。いくつかの実施形態では、開示される分化方法において使用される幹細胞は胚性幹細胞である。いくつかの実施形態では、開示される分化方法において使用される幹細胞は人工多能性幹細胞である。いくつかの実施形態では、開示される分化方法において使用される幹細胞は、非多能性リプログラムされた細胞である。いくつかの実施形態では、幹細胞はヒト幹細胞である。
【0120】
本開示の目的のために、細胞のゲノムにリプログラミング遺伝子を組み込まずに、細胞内でリプログラミング遺伝子を発現することによって、細胞をリプログラミングすることが望ましい場合がある。当業者であれば、形質導入された遺伝子は、例えばエピソーム発現プラスミドを使用して、それらの遺伝子をゲノムに組み込むことなく、細胞内で発現することができることを認識するであろう。リプログラミング遺伝子は、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、または少なくとも4個以上のエピソーム発現プラスミド上で発現され得る。上述のように、複数のリプログラミング遺伝子は当該技術分野で既知であり、開示される方法の目的のために使用され得るが、いくつかの実施形態では、リプログラミング遺伝子は、Oct4、Sox2、Klf4、およびL-Mycを含む。
【0121】
いくつかの実施形態では、幹細胞からインスリン産生細胞への細胞分化に必要な総培養時間は、約30日以下であり得る。例えば、細胞は、約30日間、約29日間、約28日間、約27日間、約26日間、約25日間以下培養され得る。
【0122】
当業者はまた、各分化ステップにおける全体的な培養時間が変化し得ることを理解するであろう。したがって、いくつかの実施形態では、本開示は、インスリン分泌膵臓細胞の産生方法であって、(a)アクチビンAおよびワートマニンを含む第1の培地でヒト幹細胞を培養することであって、ヒト細胞がWnt3aに曝露されず、かつ任意選択で内胚葉細胞への分化前にケラチノサイト増殖因子(KGF)に曝露されず、それによってヒト幹細胞を内胚葉細胞に分化することと、(b)レチノイン酸およびシクロパミンを含み、任意選択でKGFを含む第2の培地で(a)からの内胚葉細胞を培養することにより、内胚葉細胞を内分泌細胞に分化させることと、(c)KGFを含む第3の培地において(b)からの内分泌細胞を培養することにより、内分泌細胞を膵臓始原細胞に分化させることと、(d)ノギン、EGF、γ-セクレターゼ阻害剤XXI、Alk5i II、およびT3を含む第4の培地で(c)からの膵臓始原細胞を培養することと、(e)Alk5i II、T3、およびレチノイン酸を含む第5の培地で(d)からの細胞を培養することと、(f)Alk5i II、T3、ニコチンアミド、インスリン様増殖因子(IGF)-I、およびBMP4を含む第6の培地で培養することと、を含む、方法を提供する。
【0123】
いくつかの実施形態では、本開示は、インスリン分泌膵臓細胞の産生方法であって、(a)アクチビンAおよびワートマニンを含む第1の培地内でヒト幹細胞を培養することであって、ヒト細胞がWnt3aに曝露されず、かつ任意選択で、内胚葉細胞への分化前にケラチノサイト増殖因子(KGF)に曝露されず、それによって、ヒト幹細胞を内胚葉細胞に分化することと、(b)レチノイン酸、ノギンおよびシクロパミンを含み、任意選択でKGFを含む第2の培地で(a)からの内胚葉細胞を培養することにより、内胚葉細胞を内分泌細胞に分化させることと、(c)KGF、ノギン、レチノイン酸、およびシクロパミンを含む第3の培地で(b)からの内分泌細胞を培養することにより、内分泌細胞を膵臓始原細胞に分化させることと、(d)ノギン、EGF、γ-セクレターゼ阻害剤XXI、Alk5i II、レチノイン酸、およびシクロパミンを含む第4の培地で(c)からの膵臓始原細胞を培養することと、(e)Alk5i II、T3、レチノイン酸、およびシクロパミンを含む第5の培地で(d)からの細胞を培養することと、および(f)Alk5i II、ニコチンアミド、IGF-I、レチノイン酸、およびシクロパミンを含む第6の培地で培養することと、を含む、方法を提供する。
【0124】
いくつかの実施形態では、第6の培地はグルカゴンを含んでよく、これはインスリンおよびグルカゴンを共発現する内分泌細胞の割合を低減させる有益な効果を有する。グルカゴンの濃度は、例えば、約40ng/L、約70ng/L、約110ng/L、または約140ng/Lであり得る。
【0125】
いくつかの実施形態では、ステップ(a)~(f)の総培養時間は30日以下であってよい。例えば、細胞は、約30日間、約29日間、約28日間、約27日間、約26日間、約25日間以下培養され得る。いくつかの実施形態では、ステップ(a)は培養の1~3日目を含んでよく、ステップ(b)は培養の4~7日目を含んでよく、ステップ(c)は培養の8~11日目を含んでよく、ステップ(d)は培養の12~15日目を含んでよく、ステップ(e)は培養の16~19日目を含んでよく、ステップ(f)は培養の20~28日目を含んでよい。したがって、いくつかの実施形態では、ステップ(a)は1~4日の培養を含み得、ステップ(b)は1~5日の培養を含み得、ステップ(c)は1~5日の培養を含み得、ステップ(d)は1~5日の培養を含み得、ステップ(e)は1~5日の培養を含み得、ステップ(f)は1~10日の培養を含み得る。
【0126】
本明細書に開示されるように、より早期の内胚葉段階で分化細胞をKGFに曝露することは、インスリン産生β細胞の生成を妨げる可能性があり、したがって、この成分の添加は任意選択であり、正確なプロトコルに応じて変化し得る。インスリン産生細胞を調製する目的では、したがって、いくつかの実施形態では、内胚葉分化の初期段階から、または分化細胞がレチノイン酸に曝露されている培養において少なくともある時期までKGFを除外することが有益であり得る。
【0127】
いくつかの実施形態では、本開示は、インスリン分泌膵臓細胞の産生方法であって、(a)アクチビンAおよびワートマニンを含む第1の培地でヒト幹細胞を培養することであって、ヒト細胞がWnt3aに曝露されず、それによってヒト幹細胞を内胚葉細胞に分化することと、(b)その後の培養ステップ中細胞を少なくとも20日間レチノイン酸に曝露することと、(c)その後の培養ステップ中細胞を少なくとも20日間シクロパミンまたは化学類似体に曝露することと、(d)接着性基質上で細胞培養を開始することと、(e)自然かつ自発的に三次元構造を形成する細胞を浮遊培養に移すことと、任意選択的に(f)グルカゴンの存在下で細胞を培養することと、を含む、方法を提供する。
【0128】
いくつかの実施形態では、本開示は、哺乳動物幹細胞を接着状態で培養することにより、哺乳動物幹細胞が自発的に三次元構造を形成することを可能にすることと、三次元構造を浮遊状態で培養することと、を含む、哺乳動物のインスリン分泌細胞の産生方法であって、培養ステップは、少なくとも20日間のレチノイン酸およびシクロパミンへの曝露を含み、かつ三次元構造の幹細胞をWnt3Aに曝露することを含まない、方法を提供する。
【0129】
いくつかの実施形態では、本開示は、インスリン分泌細胞の産生方法であって、アクチビンAおよびワートマニンを含む第1の培地内の接着性基質上で哺乳動物幹細胞を培養することであって、哺乳動物幹細胞が、Wnt3aに曝露されない、培養することと、レチノイン酸およびシクロパミンを含む少なくとも1つの追加の培地で細胞をさらに培養することと、細胞が三次元細胞構造を形成するときに、細胞を浮遊培養に移すことと、を含み、細胞が、少なくとも20日間、レチノイン酸およびシクロパミンに曝露される、方法を提供する。
【0130】
いくつかの実施形態では、優先的に分化するか、または内胚葉系譜へ分化しやすい開始幹細胞または非多能性始原細胞を選択することが好ましい場合がある。これは、より単純な分化を可能にし、従来の方法と比較して、インスリン分泌細胞のより純粋かつより成熟した培養を達成し得る。
【0131】
本開示の方法の目的のために、インスリン分泌細胞の産生は、細胞が最初に接着状態で増殖するか、または培養が接着性基質(例えば、正に荷電した表面またはビトロネクチンまたはマトリゲルでコーティングされた表面)上で開始され、これにより細胞が自然かつ自発的に三次元構造(例えば、細胞の凝集体)を形成することを可能にするときに最適化されると判断された。次いで、接着細胞から構成されるこれらの三次元構造を、開示される方法の間にわたって浮遊状態で培養することができる。
【0132】
したがって、いくつかの実施形態では、開始幹細胞集団は接着状態で増殖する一方で、培養の後期は浮遊状態で行われる。本開示の目的のために、「接着状態で増殖した」または「接着状態で培養した」という語句は、細胞が培養皿の表面に接着する標準的な細胞培養を指す。ある場合には、接着を促進するため培養皿を基質でコーティングしてもよく、ある場合には、接着を促進するため皿に正味正電荷を与えてもよい。一般に、iPS細胞などの幹細胞の培養には、接着性基質が必要であり、種々の接着促進性基質が当該技術分野で既知である。例えば、細胞フラスコに1つのビトロネクチンまたはマトリゲルを塗布して接着を促進することができるが、マトリゲルはマウス肉腫細胞から採取され、したがって、臨床使用に好ましくない。いくつかの実施形態では、分化は、開始幹細胞集団を内胚葉誘導培地で培養することによって開始され、接着状態で増殖される。基質/プレート上の3D構造(例えば、分化した細胞/分化細胞の凝集体)の形成は、分化が進むにつれて徐々に生じ得る。約15日までに、3D構造はプレートから分離し始め、これらの3D構造は、3D構造が遊離浮遊状態で培養されるように、接着性基質(例えば、ビトロネクチン)でコーティングされていない容器に移すことができる。接着状態における培養から浮遊培養へのこの移行は新規なことであり、インスリン分泌細胞へのより自然な分化を可能にする。
【0133】
また、従来の実践に反して、培養を開始するために使用される幹細胞を、分化を容易にするためにWnt3aと接触させる必要がないと判断された。実際、Wnt3aは、開示された方法のいずれの時点でも必要ではない。
【0134】
最後に、インスリン分泌細胞を産生するプロセスを通じて様々な分化培地が交換されても、少なくとも約20日間、細胞が少なくともある程度の濃度のレチノイン酸およびシクロパミンと接触したままである場合、分化が最も効率的であると判断された。例えば、いくつかの実施形態では、細胞は、好ましくは、少なくとも約16日間、少なくとも約17日間、少なくとも約18日間、少なくとも約19日間、少なくとも約20日間、少なくとも約21日間、少なくとも約22日間、少なくとも約23日間、少なくとも約24日間、少なくとも約25日間、少なくとも約26日間、少なくとも約27日間、または少なくとも約28日間、レチノイン酸およびシクロパミンに曝露される。いくつかの実施形態では、このレチノイン酸およびシクロパミンへの継続的曝露は、開始幹細胞集団が内胚葉系譜に向かって強制された後、例えば、開始幹細胞集団がアクチビンAおよびワートマニンの存在下で約1日間、約2日間、約3日間、約4日間、または約5日間培養された後に開始することができる。
【0135】
当業者であれば、開示される方法は、ヒトおよび非ヒト霊長類幹細胞などの哺乳動物幹細胞に概して適用され得ることを理解するであろう。しかしながら、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌ、またはネコ幹細胞などの追加の哺乳動物細胞も、開示された方法に従って分化され得る。さらに、当業者は、開示される方法が、例えば、接着培養および/または浮遊培養を含む様々な形態の細胞培養を用いることができることを認識するであろう。
【0136】
インスリン産生細胞を生成するための開示されたプロトコルは、ヒト胚性幹細胞およびリプログラムされた膵臓組織の両方からのインスリン産生β細胞の収率を増強した。インスリン産生細胞を産生する従来の方法とは対照的に、本明細書に開示されるプロトコルは、インスリン産生細胞のほとんど均質な集団を産生する。均質な細胞集団を産生することは、幹細胞が移植されると奇形腫を形成し、腫瘍発生の可能性を有するため、治療効果に対するだけでなく安全性に対しても重要である。開示される分化方法によって提供される高い分化度および均質性は、有用な細胞療法の開発に不可欠である腫瘍発生可能性を有する細胞の数を減少させることを意味する。
【0137】
開示される分化方法を用いる前に、内胚葉細胞に優先的に分化する幹細胞は、本出願の第II節に開示される方法に従って同定され得る。これは、分化プロセスの全体的な効率を増加させるとともに、インスリン産生細胞の収率を増加させることができる。
【0138】
IV.細胞ベースの組成物および治療方法
本明細書に開示されるインスリン産生細胞は、治療を必要とする対象における糖尿病を治療するために使用され得る。いくつかの実施形態では、治療を必要とする対象は、インスリン依存性糖尿病を有する哺乳動物、例えばヒト対象である。
【0139】
本開示は、糖尿病を治療するための細胞ベースの組成物に組み込むことができる、実質的に均質なインスリン産生細胞の集団の産生方法を提供する。したがって、本明細書で提供するのは、糖尿病を治療するための細胞ベースの組成物であって、代理膵臓細胞の集団と、治療を必要とするヒト対象への移植に好適な担体とを含み、細胞の少なくとも66%がインスリン産生膵臓細胞である、組成物である。いくつかの実施形態では、細胞ベースの組成物は、少なくとも約67%、少なくとも約68%、少なくとも約69%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、少なくとも約100%のインスリン産生膵臓細胞を含み得る。
【0140】
治療細胞の移植に好適な担体は、当該技術分野で既知であり、限定されないが、ヒドロゲル、天然および合成ポリマー足場、細胞外マトリックス(例えば、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンなどを含み得る)、ヒアルロン酸、生体模倣足場、ポリラクチド(PLA)足場、ポリグリコライド(PGA)足場、PLA-PGAコポリマー(PLGA)足場、ならびにヒドロキシアパタイト足場、およびマクロ多孔質クリオゲルを含み得る。いくつかの実施形態では、移植に好適な担体は、アルギン酸塩、硫酸セルロース、グルコマンナン、またはこれらの組み合わせを含むマクロカプセルなどのマクロカプセルにインスリン産生細胞をカプセル化することを含んでよい。
【0141】
いくつかの実施形態では、代理膵臓細胞の少なくとも66%はNeuroD1を発現する。いくつかの実施形態では、少なくとも約67%、少なくとも約68%、少なくとも約69%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、少なくとも約100%の代理膵臓細胞は、NeuroD1を発現する。
【0142】
いくつかの実施形態では、代理膵臓細胞の少なくとも68%はNkx6.1を発現する。いくつかの実施形態では、少なくとも約67%、少なくとも約68%、少なくとも約69%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、少なくとも約100%の代理膵臓細胞は、Nkx6.1を発現する。
【0143】
糖尿病を治療するための細胞ベースの組成物は、本明細書に開示される方法に従って調製することができる。例えば、細胞ベースの組成物のインスリン産生膵臓細胞は、例えば、下記方法であって(a)内胚葉誘導因子を含む第1の培地でヒト幹細胞の集団を培養することにより、ヒト幹細胞を内胚葉細胞に分化させることであって、ヒト幹細胞が内胚葉細胞への分化前にケラチノサイト増殖因子(KGF)に曝露されなかった、分化させることと、(b)内分泌誘導因子を含む第2の培地で(a)からの内胚葉細胞を培養することにより、内胚葉細胞を内分泌細胞に分化させることと、(c)KGFを含む第3の培地で(b)からの内分泌細胞を培養することにより、内分泌細胞を膵臓始原細胞に分化させることと、(d)甲状腺ホルモンを含む第4の培地で(c)からの膵臓始原細胞を培養することにより、膵臓始原細胞をインスリン産生膵臓細胞に分化させることと、を含む、方法に従って誘導され得る。
【0144】
いくつかの実施形態では、細胞ベースの組成物のインスリン産生膵臓細胞は、例えば、下記方法であって、(a)内胚葉誘導因子を含む第1の培地でヒト幹細胞の集団を培養することにより、ヒト幹細胞を内胚葉細胞に分化させることであって、前記ヒト幹細胞がWnt3aに曝露されなかった、分化させることと、(b)その後の培養ステップ中に細胞を少なくとも20日間レチノイン酸に曝露することと、(c)その後の培養ステップ中に細胞を少なくとも20日間シクロパミンまたは化学類似体に曝露することと、(d)接着性基質上で細胞培養を開始することと、(e)三次元構造を自然かつ自発的に形成する細胞を浮遊培養に移すことと、を含む、方法に従って誘導され得る。
【0145】
いくつかの実施形態では、細胞ベースの組成物のインスリン産生膵臓細胞は、例えば、方法であって、内胚葉誘導因子を含む第1の培地内の接着性基質上でヒト幹細胞の集団を培養することであって、哺乳動物幹細胞がWnt3aに曝露されない、培養することと、レチノイン酸およびシクロパミンを含む少なくとも1つの追加の培地で細胞を浮遊状態でさらに培養することであって、細胞が少なくとも20日間、レチノイン酸およびシクロパミンに曝露され、培養することと、を含む、方法に従って誘導され得る。いくつかの実施形態では、内胚葉誘導因子はアクチビンAおよび/またはワートマニンを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの追加の培地は、KGF、ノギン、EGF、および/またはT3などの甲状腺ホルモンを含んでよい。
【0146】
種々の内胚葉誘導因子は当該技術分野で既知であり、限定されないが、アクチビンAおよびワートマニンを含む。同様に、種々の内分泌誘導因子が当該技術分野で既知であり、限定されないが、レチノイン酸およびシクロパミンを含む。
【0147】
いくつかの実施形態では、第2の培地はKGFを含むが、いくつかの実施形態では、細胞はステップ(b)の後までKGFと接触しない。いくつかの実施形態では、KGFはステップ(a)の培地に含まれ得る。
【0148】
いくつかの実施形態では、第3の培地はノギンおよび/または上皮増殖因子(EGF)を含む。いくつかの実施形態では、第3の培地はレチノイン酸および/またはシクロパミンを含む。そしていくつかの実施形態では、甲状腺ホルモンはT3であり得る。
【0149】
開示される細胞ベースの組成物を調製するために使用される幹細胞の供給源は特に限定されず、しかしながら、本明細書に開示されるように、内胚葉系譜に優先的に分化する細胞/細胞株を選択することは、インスリン産生細胞の収率を増加させ、分化効率を増加させ得る。したがって、いくつかの実施形態では、細胞ベースの組成物を調製するために開示される分化方法において使用される幹細胞は膵臓一次組織に由来する。いくつかの実施形態では、開示される分化方法において使用される幹細胞は胚性幹細胞である。いくつかの実施形態では、開示される分化方法において使用される幹細胞は人工多能性幹細胞である。いくつかの実施形態では、開示される分化方法において使用される幹細胞は、非多能性リプログラム細胞である。いくつかの実施形態では、幹細胞はヒト幹細胞である。
【0150】
本開示の目的のために、糖尿病を治療するための細胞ベースの組成物に組み込むためのインスリン産生細胞を調製する場合、細胞のゲノムにリプログラミング遺伝子を組み込むことなく細胞内でリプログラミング遺伝子を発現することによって細胞をリプログラム化することが望ましい場合がある。当業者であれば、形質導入された遺伝子は、例えばエピソーム発現プラスミドを使用して、それらの遺伝子をゲノムに組み込むことなく、細胞内で発現することができることを認識するであろう。リプログラミング遺伝子は、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、または少なくとも4個以上のエピソーム発現プラスミド上で発現され得る。上述のように、複数のリプログラミング遺伝子は当該技術分野で既知であり、開示される方法の目的のために使用され得るが、いくつかの実施形態では、リプログラミング遺伝子は、Oct4、Sox2、Klf4、およびL-Mycを含む。
【0151】
いくつかの実施形態では、細胞ベースの組成物は、例えばマイクロカプセルまたはマクロカプセルにカプセル化される。
【0152】
本開示はまた、開示の細胞ベースの組成物を使用して糖尿病を治療する方法を提供する。糖尿病を治療する方法は、一般に、治療有効量のカプセル化されたインスリン産生細胞をそれを必要とする対象に移植することを含む。治療有効量のインスリン産生細胞は、細胞ベースの組成物、例えば、マイクロカプセル化またはマクロカプセル化された代理膵臓細胞の集団の形態であってもよい。
【0153】
したがって、いくつかの実施形態では、方法は、治療有効量のマクロカプセルにカプセル化されたインスリン産生細胞をそれを必要とする個体に移植することを含む。マクロカプセルの組成物は特に限定されず、当業者は、様々な材料を使用してインスリン産生細胞をカプセル化することができることを理解するであろう。例えば、カプセルは、アルギン酸塩、硫酸セルロース、グルコマンナン、またはこれらの組み合わせを含んでもよい。いくつかの実施形態では、マクロカプセルは、外側バリアが硫酸セルロースおよびグルコマンナンから成る、少なくとも1つのバリアを含んでよい。いくつかの実施形態では、マクロカプセルは、アルギン酸塩の内側カプセルおよび硫酸セルロースおよびグルコマンナンの外側カプセルから成る円筒管の形状で形成され得る。
【0154】
いくつかの実施形態では、本方法は、治療有効量の、開示されたマクロカプセルにカプセル化されたインスリン産生細胞を、それを必要とする個体に、約1年に1回、2年に1回、3年に1回、4年に1回、5年、またはそれ以上ごとに1回移植することを含む。いくつかの実施形態では、移植細胞は移植後少なくとも6ヶ月間生存する。したがって、いくつかの実施形態では、対象は1つのインプラントのみを必要とし得る。いくつかの実施形態では、細胞ベースの組成物は、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月、13ヶ月、14ヶ月、15ヶ月、16ヶ月、17ヶ月、もしくは18ヶ月、またはそれ以上ごとに1回、1年、2年、3年、4年、もしくは5年またはそれ以上ごとに1回、あるいは対象が再発性高血糖症になるまで、あるいは糖尿病状態に戻るまで、交換する必要があってもよい。
【0155】
いくつかの実施形態では、細胞ベースの組成物は、対象の大網に移植され得る。大網(greater omentum)(大網(great omentum)、大網(omentum majus)、胃結腸網(gastrocolic omentum)、エピプロン(epiploon)、または、大網膜(caul)とも呼ばれる)は、胃から垂れ下がり、胃の大きな湾曲から横方向の結腸まで上昇して伸びてから後腹壁に到達する、内臓腹膜の大きなエプロン状のひだである。したがって、細胞ベースの組成物は、この網から外科的に形成されるポーチに移植され得る。
【0156】
いくつかの実施形態では、細胞ベースの組成物は腹腔に移植される。いくつかの実施形態では、細胞ベースの組成物は腹腔に移植され、網に固定される。いくつかの実施形態では、細胞ベースの組成物は、網のポーチに移植される。
【0157】
インスリン産生細胞の例示的な用量は、治療される個体のサイズおよび健康状態に応じて変化し得る。例えば、いくつかの実施形態では、開示される細胞ベースの組成物にカプセル化された細胞の例示的なインプラントは、体重1kg当たり500万個の細胞~1000万個の細胞を含んでよい。
【0158】
さらに、開示される治療方法は、カプセル化された治療用細胞に加えて、第2の治療薬の投与をさらに含むことができる。例えば、いくつかの実施形態では、追加の治療用化合物は、限定されないが、インスリン注射、メトホルミン、スルホニル尿素、メグリチニド、チアゾリジンジオン、DPP-4阻害剤、GLP-1受容体アゴニスト、およびSGLT2阻害剤を含むことができる。
【0159】
インスリン産生細胞を含む細胞ベースの組成物を移植することを含む特定の治療レジメンは、それらが所与の患者の転帰を改善するかどうかに従って評価されてもよく、これは、対象の血糖値の安定化または正常化するのに役立ち、または糖尿病に関連する症状もしくは併存症のリスクもしくは発生を低減するのに役立つことを意味し、この糖尿病に関連する症状もしくは併存症には、低血糖のエピソード、グリコシル化ヘモグロビンのレベル(HbA1Cレベル)の上昇、心臓病、網膜症、神経障害、腎臓病、肝臓病、歯周病、および非治癒潰瘍が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、細胞ベースの組成物は、例えば、アルギン酸塩、硫酸セルロース、グルコマンナン、またはこれらの組み合わせを含むカプセルにカプセル化される。
【0160】
このように、本開示の目的のために、対象は、所望の臨床結果を含む1つ以上の有益なまたは所望の結果が得られる場合に治療される。例えば、有益または所望の臨床結果として、限定されないが、以下のうちの1つ以上が挙げられる:糖尿病に起因する1つ以上の症状を軽減させること、糖尿病に罹患している人の生活の質を高めること、糖尿病を治療するために必要とされる他の薬物の用量を減少させること、糖尿病に関連する合併症を遅延または予防すること、および/または個体の生存期間を延長すること。
【0161】
さらに、本方法の対象は概して糖尿病を有する対象であるが、患者の年齢は限定されない。開示される方法は、すべての年齢層およびコホートにわたる糖尿病の治療に有用である。したがって、いくつかの実施形態では、対象は小児対象であってもよく、他の実施形態では、対象は成人対象であってもよい。
【0162】
当業者であれば、本開示は、目的を実行し、言及される目的および利点、ならびにその固有の目的および利点を得るために十分に適合されていることを容易に理解するであろう。その中の改変および他の用途が、当業者に生じるであろう。これらの改変は、本開示の趣旨の範囲内に包含される。以下の実施例は、本発明を例示するために示される。しかしながら、本発明は、これらの実施例の特定の条件または詳細に限定されないことを理解されたい。
【実施例】
【0163】
実施例1-材料および方法
島の収穫:登録臓器提供から適切に同意され、匿名化されたヒト全膵臓が得られた。葉に、島分離液(0.35gのNaHCO3/Lおよび1%ヒト血清アルブミン(Roche A9731)を含有するHanks平衡塩類溶液(Invitrogen#14065-056))中に1.4mg/mlで再懸濁されたコラーゲナーゼP(Roche#1129 002 001)を注入した。膨張した葉を37Cで15~25分間、軽度の撹拌でインキュベートした。消化物を冷島分離液で希釈し、1500RPMで5分間遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットを激しく粉砕しながら冷島分離液中で洗浄した。この溶液を420μmのふるい(Bellco Glass,Inc,Cat#1985-00040)を通して濾過し、遠心分離した。ペレットを1.100g/mlのHistopaque(Sigma #10771、Sigma #11191)中に再懸濁し、1200RPMで30分間遠心分離した。上清を収集し、島分離液中で2倍希釈し、1500RPMで5分間遠心分離した。ペレットを島単離液中ですすぎ、遠心分離し、加湿インキュベータ中、37Cおよび5%CO2でE8培地(Gibco #A1517001)で培養した。翌日、島を1500RPMで5分間遠心分離し、未希釈TryplE Select 10X(Life Technologies #A12177)に再懸濁し、37Cで10分間インキュベートした。解離した島をE8培地中で希釈し、遠心分離し、100ng/mLのヒドロコルチゾン(Sigma#H0135)、1U/mLのトロンビン(Sigma#T9326)、および100ng/mLのEGF(Sigma E5036)を補充したE8中に再懸濁した。細胞を、メーカーの指示に従って、ビトロネクチン(Life Technologies #A14700)でコーティングした皿上で培養した。
【0164】
リプログラミング:細胞をPBS(Gibco #14190144)ですすぎ、TryplE Select 1X中で37Cで5分間インキュベートした。E8培地で消化を停止し、細胞を1000RPMで5分間遠心分離した。細胞を2E6細胞/200ulでBTXエレクトロポレーション溶液(VWR #89130-542)中に再懸濁し、20μgのリプログラミングプラスミドを用いてエレクトロポレーションキュベットに添加した。CMVプロモーターの制御下でEBNAエピソーム発現配列、アンピシリン耐性、およびリプログラミング遺伝子Oct4、Sox2、Klf4、およびL-Mycを含む2個のリプログラミングプラスミドを社内で構築した。遺伝子パルサーXL(Bio-Rad)を用いてエレクトロポレーションキュベットをパルスした。細胞を、100ng/mlのbFGF(Life Technologies #PHG6015)および1μMのヒドロコルチゾンを補充したE6培地(Life Technologies #a1516401)のビトロネクチンコーティングした皿に移した。細胞を5%CO2を有する加湿インキュベータ中で37Cで培養した。24時間後、100ng/mLのbFGF、および1μMのヒドロコルチゾン、および100μMの酪酸ナトリウム(Sigma #P1269)を補充したE6で培地を交換し、1日おきに交換した。幹細胞コロニーを手動で分離し、E8培地のビトロネクチンコーティングした皿に移した。2つのドナーの一次組織から生成された73株を、内胚葉誘導剤アクチビンAおよびワートマニンに4日間曝露した後に、内胚葉マーカーを発現する能力について最初にスクリーニングした。内胚葉マーカーを発現する細胞の割合が最も高い培養物を選択した。続いて、第1のスクリーニングを通過した24個の細胞株を、12日間の膵臓分化プロトコルに曝露した後に膵臓マーカーを発現する能力についてスクリーニングした。膵臓細胞の最も高い割合を一貫して生成した細胞株は、SR1423と名付けられ、貯蔵され、その後のすべての実験に使用された。
【0165】
細胞株の特徴付け:SR1423は、多能性細胞に典型的なマーカーを発現し(
図3A)、正常な核型を有した(
図3B)。SR1423のDNA STRプロファイルは、ドナー組織と一致する単一細胞株であることを確認した(
図3C)。加えて、SR1423は、多能性細胞株に典型的な速度で増殖する(
図3D)。同じドナーおよびリプログラミング実験からの他の人工多能性幹細胞(以下、「iPSC」と呼ぶ)株も優先分化を示したことが観察された。IPSC株「B」はまた、内胚葉に対して良好に分化したが、株「C」および「D」は内胚葉系譜への分化の優先性を示さなかった(データは示さない)。遺伝子発現プロファイルとiPSCが特定の系譜に分化できないこととの間に相関があったかどうかを判断するために、SR1423の発現遺伝子ならびに株B、C、およびDの全ゲノムマイクロアレイプロファイリングを行った。例えば、Koyanagi-Aoi M.et al.Proc.Natl.Acad.Sci.110(2013)を参照されたい。少なくともLog2の倍率変化発現(fold change expression)に基づく教師なしの階層的クラスタリング分析(Unsupervised hierarchical clustering analysis)により、SR1423が細胞株Bとともにクラスタリングされたが、CおよびDからはクラスタリングされなかったことが明らかになった。これにより、内胚葉系譜に対する堅牢かつ優先的な分化と相関する遺伝子発現パターンが同定された(
図4A)。10個の最も特異な(differentially)発現遺伝子のうち、BHMT2、Cox7A1、HSPB2、およびNAP1L1は、qRT-PCR測定値を使用して内胚葉を形成する能力と有意に相関した(
図4B)。
【0166】
幹細胞培養:未分化のiPS細胞を、製造業者の指示に従って、ビトロネクチンXF(Stem Cell Technologies #07180)または17ug/cm2でGeltrex(Life Technologies #A1413301)でコーティングした6ウェル組織培養プレート(Greiner Bio-One #657160)に維持し、E8培地を毎日供給した。培養物を、0.5mMのEDTA(Life Technologies#15575)で3~5日ごとに75~85%のコンフルエンスで継代し、7×103細胞/cm2で播種した。
【0167】
分化:第1のバッチのSR1423細胞を2.3×10
4細胞/cm
2で播種し、18~24時間増殖させた。次いで、細胞をdPBS(-Mg
2+/-Ca
2+)で洗浄し、以下のように6種の培地配合物で構成される28日間のスケジュールに従って培地を変更した:1日目、2日目、3日目:DMEM/F-12培地(Life Technologies #10565018)、0.2%HSA、1XB27サプリメント(Life Technologies # A1486701)、100ng/mlのアクチビンAおよび1μM のワートマニン;4日目、5日目、6日目、7日目:DMEM(Life Technologies #10567014)、0.2%HSA、1XB27サプリメント、4μMのレチノイン酸、50ng/mlのKGF、50ng/mlのノギン、0.25μMのシクロパミンKAAD;8日目、10日目:DMEM、0.2%HSA、1XB27サプリメント、50ng/mlのKGF、50ng/mlのノギン、50ng/mlのEGF;12日目、14日目:DMEM、0.2%HSA、1XB27サプリメント、50ng/mlのノギン、50ng/mlのEGF、1μMのγ-セクレターゼ阻害剤XXI、10μMのAlk5i II、1μMのT3;16日目、18日目:DMEM、0.2%HSA、1XB27サプリメント、10μMのAlk5i II、1μM のT3、100nMのレチノイン酸;20日目、22日目、24日目、26日目、28日目:CMRL(Life Technologies #11530037)、0.2%HSA、1XB27サプリメント、1Xグルタマックス(glutamax)(Life Technologies #35050061)、10μMの Alk5i II、1μMのT3、10mMのニコチンアミド、50ng/mlのIGF-I、10ng/mlのBMP4。KGFを用いた第2段階の追加による分化については、4日目、5日目、6日目にDMEM、0.2%BSA、1XB27サプリメント、および50ng/mLのKGFを含む培地を、残りのステージを3日後にシフトさせたスケジュールに挿入した。この実施形態のプロトコルは、分化の28日目までに高純度の内分泌膵臓細胞集団を生成した(
図5A)。代表的な画像の定量化は、68%が内分泌膵臓マーカーNkx6.1(
図5A、5Eで定量化)を発現し、66.8%が後期膵臓マーカーNeuroD1(
図5B、5Eで定量化)を発現し、66.5%がインスリン(
図5D、5Eで定量化)を発現している細胞からなる集団を明らかにした。KGFを、内胚葉細胞を分化することから除外するこの手法は、膵臓由来の幹細胞および確立されたヒト胚性幹細胞の両方の収率を改善した。
図6.
【0168】
第2のバッチのSr1423細胞を上述のように6.3×104で播種し、18~24時間増殖させた。次いで、細胞をdPBS(-Mg2+/-Ca2+)で洗浄し、以下の6種の培地配合物で構成される28日間のスケジュールに従って培地を変更した:1日目、2日目、3日目:DMEM/F-12培地(Life Technologies #10565018)、0.2%HSA、1XB27サプリメント(Life Technologies #A1486701)、100ng/mlのアクチビンA(PeproTech #AF-120-14E)、および1μMのワートマニン(Sigma #W 3144);4日目、5日目、6日目、7日目:DMEM(Life Technologies #10567014)、0.2%HSA、1XB27サプリメント、2μMのレチノイン酸(Sigma #R2625)、50ng/mlのKGF(PeproTech #AF-100-19)、50ng/mlのノギン(PeproTech #120-10C)、0.25μMのシクロパミンKAAD(Millipore #239804);8日目、10日目:DMEM、0.2%HSA、1XB27サプリメント、50ng/mlのKGF、50ng/mlのノギン、50ng/mlのEGF(PeproTech #AF-100-15)、100nMのレチノイン酸(Sigma #R2625)、0.25μMのシクロパミンKAAD(Millipore #239804);12日目、14日目:DMEM、0.2%HSA、1XB27サプリメント、50ng/mlのノギン、50ng/mlのEGF、1μMのγ-セクレターゼ阻害剤XXI(Millipore #565790)、10μMのAlk5i II(Axxora、#ALX-270-445)、100nMのレチノイン酸(Sigma #R2625)、0.25μMのシクロパミンKAAD(Millipore#239804);16日目、18日目:DMEM、0.2%HSA、1XB27サプリメント、10μMのAlk5i II、100nMのレチノイン酸、0.25μMのシクロパミンKAAD(Millipore #239804);20日目、22日目、24日目、26日目、28日目:CMRL(Life Technologies #11530037)、0.2%HSA、1XB27サプリメント、1Xグルタマックス(Life Technologies #35050061)、10μM のAlk5i II、10mMのニコチンアミド(Sigma #N0636)、50ng/mlのIGF-I(PeproTech #100-11)、100nMのレチノイン酸(Sigma#R2625)、0.25μMのシクロパミンKAAD(Millipore #239804))、およびグルカゴン(Sigma #G2044)。
【0169】
ブドウ糖刺激インスリン分泌の検査:グルコース溶液に曝露する前に、細胞を、1g/dLのグルコース、10μMのAlk5i II+1μMのT3+10mMのニコチンアミド+50ng/mLの IGF-I+10ng/mLのBMP4を含む、CMRL、0.2% HSA、1XB27サプリメント、1Xグルタマックス(Life Technologies #35050061)中で2時間培養した。細胞を、KREBS(Alfa Aesar #J67591-AP)中の2mMのグルコース中で30分間インキュベートし、上清を収集した。緩衝液をKREBS中の20mMのグルコースに30分間交換し、上清を収集した。緩衝液をKREBS中の20mMのグルコース、30mMのKClに30分間交換し、上清を収集した。各上清中のCペプチドの濃度を、超高感度CペプチドまたはグルカゴンELISA(Mercodia#10-1141-01)およびGENiosマイクロプレートリーダー(TECAN)を使用して決定した。吸光度測定は、Magellanソフトウェア(TECAN)を用いて二重測定された。この手順に続いて、SR1423から分化した細胞が、インスリン(
図7)およびグルカゴン(図示せず)の代用としてCペプチドを使用してインスリンを分泌することが観察された。
【0170】
実施例2-結果
細胞株誘導体。iPSC株は、成熟細胞の核にリプログラミング遺伝子を導入することによって生成された。これらの遺伝子、典型的には、OCT4、Sox2、KLF4、およびc-Mycは、胚性幹細胞の遺伝子発現パターン、形態、および挙動を採用するように誘導した。この効果の持続時間は不明であるが、「エピジェネティックメモリ」と呼ばれる現象であるリプログラム細胞において、開始細胞集団のエピジェネティックサインが持続することが報告されている。膵臓系譜に効率的に分化するiPSC株を生成する可能性を最大限に引き出すために、同意された健康成人ドナー膵臓のランゲルハンス島からの初代細胞をリプログラミングのため選択した(
図1A)。
【0171】
細胞培養で増殖した初代細胞は、おそらく人工培養条件への適応の結果として、均質になり、機能的成熟形質を経時的に失うことができる。開始細胞集団における遺伝子多様性の喪失を回避するために、リプログラミング遺伝子は、細胞収穫から5日以内であった。リプログラミング遺伝子Oct4、Sox2、Klf4、およびL-Mycを、2つのエピソーム発現プラスミドのエレクトロポレーションを介して初代細胞に導入した。C-MycよりもL-Mycを選択して、がん遺伝子を導入する可能性を低減した。2つのドナーの一次組織から生成された73株を、内胚葉誘導剤アクチビンAおよびワートマニンに4日間曝露した後に、内胚葉マーカーを発現する能力について最初にスクリーニングした。内胚葉マーカーを発現する細胞の割合が最も高い培養物を選択した。続いて、第1のスクリーニングを通過した24個の細胞株を、12日間の膵臓分化プロトコルに曝露した後に膵臓マーカーを発現する能力についてスクリーニングした。膵臓細胞の最も高い割合を一貫して生成した細胞株は、SR1423と名付けられ、貯蔵され、その後のすべての実験に使用された。この細胞株は、胚体内胚葉細胞(
図1B)および膵臓始原細胞(
図1c)のほぼ均質な培養物を生成した。特筆すべきことに、SR1423は、外胚葉および内胚葉に分化する堅牢な能力を示した(それぞれOTX2およびSox17によって示されるように)が、商業キットを使用して分化したときに中胚葉マーカー、ブラキュリを発現できなかった(
図2)。3つの胚葉がすべて達成されなかったため、SR1423は、iPSCに対する多能性の許容される基準に適合せず、代わりに多分化能または非多能性とみなされ得る。
【0172】
細胞株の特徴付け。SR1423は、多能性細胞に典型的なマーカーを発現し(
図3A
)、正常な核型を有する(
図3B)。そのDNA STRプロファイルは、ドナー組織と一致し(
図3C)、NIH、ATCC、およびDSMZデータベース内のすべての指紋と比べてユニークである単一の細胞株を確認する。加えて、SR1423は、多能性細胞株に典型的な速度で増殖する(
図3D)。同じドナーおよびリプログラミング実験からの他のiPSC細胞株も優先分化を示したことが観察された。IPSC株「B」はまた、内胚葉に対して良好に分化したが、iPSC株「C」および「D」は内胚葉系譜への分化の優先性を示さなかった(データは示さない)。発現遺伝子の全ゲノムマイクロアレイプロファイリングをSR1423ならびに株B、C、およびDにおいて行った。この比較によって、ドナーまたはリプログラミング方法による遺伝子発現の違いが排除された。少なくともLog2の倍率変化発現に基づく教師なし階層的クラスタリング分析により、SR1423クラスタが細胞株Bとともにクラスタリングされたが、CおよびDとは異なっていたことが明らかになった。これにより、内胚葉系譜に対する堅牢かつ優先的な分化と相関する遺伝子発現パターンを同定する(
図4A)。10個の最も差次的に発現された遺伝子のうち、BHMT2、Cox7A1、HSPB2、およびNAP1L1は、qRT-PCR測定を使用する内胚葉を形成する能力と有意に相関した(
図4B)。これらの結果は、定義された遺伝子サブセットの遺伝子発現を使用して、治療的有用性を有する特定のiPSC株を同定することができることを示唆する。
【0173】
細胞分化。多能性幹細胞集団からの膵臓細胞の産生を報告する他の群は、ユニークな幹細胞集団と組み合わせてユニークな細胞培養プロトコルを使用する。これは、各プロトコルが特定の開始細胞集団に合わせて調整されていることを意味し、開始細胞集団が分化の可能性の主な決定要因であるという概念に信憑性を与えている。
【0174】
ほとんどの方法では、β細胞の生成は、胚性膵臓発生の既知の段階を通じて、多能性細胞の進行的分化によって生じる。この進行は、胚体内胚葉の形成から始まり、その後、膵臓始原細胞、膵内分泌系(endocrine-committed pancreas)、最後にホルモン発現膵臓細胞への移行が続く。従来、Sox17およびHNF3βを発現する胚体内胚葉細胞の産生は、哺乳動物における内胚葉パターン化に関与するシグナル伝達分子であるアクチビンAおよびWnt3aに曝露することによって達成された。膵臓十二指腸ホメオボックス-1(pancreatic duodenal homeobox-1)(Pdx1)の発現によって同定される膵臓始原体は、HOX遺伝子をレチノイン酸で活性化した後に生じるが、シクロパミンでヘッジホッグシグナル伝達を阻害する。Pdx1およびNkx6.1の両方を発現する内分泌細胞は、パターン化タンパク質ノギンの存在下で、膵管細胞の形成に関与するKGFシグナル伝達の活性化によって膵臓始原体から形成される。ホルモンを発現する表現型への成熟は甲状腺ホルモンによって促される。分化プロトコルに用いられる増殖因子およびホルモンを小分子に置き換えるためにかなりの努力がなされている。
【0175】
本開示の方法は、SR1423および他の幹細胞のβ細胞表現型への分化を駆動することが可能である。開示されたプロトコルは、分化の28日目までに高純度の内分泌膵臓細胞集団を生成した(
図5A)。代表的な画像の定量化は、68%が内分泌膵臓マーカーNkx6.1を発現し、66.8%が後期膵臓マーカーNeuroD1を発現し、66.5%がインスリンを発現している細胞からなる集団を明らかにした(
図5B)。
【0176】
本プロトコルは、Wnt3Aへの胚体内胚葉細胞の曝露を提供せず、任意選択で、培養の4~7日目にTGFβRIキナーゼ阻害の有無にかかわらず、胚体内胚葉をKGF(FGF7)に曝露しない。分化の初期段階におけるKGFの影響を調べたところ、膵臓およびインスリン産生細胞の産生の著しい減少を示した(
図6A)。この結果がSR1423細胞株に特異的であったかどうかを判定するために、開示されたプロトコルを、マッチングの結果を有する参照胚性幹細胞株BGO1Vを使用して既知のプロトコルと比較した(
図6B、6Cで定量化)。並べて使用された開示されたプロトコルは、これらの細胞株にわたってより多くのインスリン産生細胞を生成した。
【0177】
開示されたプロトコルに従ってSR1423から分化した細胞は、インスリン(
図7)およびグルカゴン(図示せず)を培地に分泌する。SR1423の連続的な分化は、われわれのプロトコルにより分化した場合、一貫した、再現性の高いレベルのC-ペプチド検出(
図7)およびより高いレベルを示す。これらの細胞は、グルコース応答様式(図示せず)でインスリンを分泌することができる。したがって、これらのホルモン分泌細胞は、細胞置換療法の理想的な候補であり得る。さらに、培養培地にグルカゴンを添加することにより、成熟したインスリンおよびグルカゴン発現細胞の最適なバランスを実現することが可能であり、インスリンおよびグルカゴンを共発現する細胞の量を減少させる利点がある(
図10A~C)。
【0178】
実施例3-動物モデルにおける開示される治療細胞による糖尿病の治療
アルギン酸塩カプセル化:SR1423の分化平面培養物をセルリフターを使用して手動で遊離させ、6ウェル浮遊培養皿中で95rpmで一晩揺り動かした。形成されたクラスタを130mMのNaCl、10mMのMOPS、pH7.4中ですすぎ、2%Pronva UP MVGアルギン酸塩(Novamatrix)中に2E6細胞/mlの密度で再懸濁した。アルギン酸塩/細胞混合物をシリンジに充填し、20mMのBaCl2、130mMのNaCl、10mMのMOPSの重合浴に、0.24μmノズルで4ml/分および7kVでNisco静電液滴発生器を介して供給したか、または手動で滴下した。ビーズを4回すすぎ、移植まで分化培地に戻した。
【0179】
マウスにおける糖尿病の誘導:8~10週齢の免疫適格性(Immune-competent)CD1マウスを使用して、ストレプトゾトシン(STZ、VWR#102515-840)で糖尿病を誘導した。STZをマウスに腹腔内(200mg/kg)注入した。STZ誘導性糖尿病は、血糖値を測定することによって確認された。
【0180】
アルギン酸塩カプセル化SR1423分化細胞の移植:STZ誘導型糖尿病マウスを20mg/kgのトリブロモエタノール(Sigma #776557888)で麻酔し、腹部を剃毛し、イソプロパノールで滅菌した。胸骨下の腹部中央に垂直切開を行った。腹膜にアルギン酸塩ビーズを移植し、切開部を縫合糸で閉じた。術後、マウスにケトプロフェン(2.5mg/Kg、ThermoFisher#P08D009)を3日間投与した。移植後に定期的にマウスを観察した。血糖値は、市販の血糖計を使用して尾静脈から少量の血液を採取することによって、週に2回モニタリングした。血糖の低下は、移植後48時間以内に明らかになり、数週間維持された(
図8)。
【0181】
動物モデルにおける糖尿病の逆転。移植のために島細胞を免疫保護する一般的な方法は、アルギン酸塩を含むマイクロビーズ内に細胞を埋め込むことである。アルギン酸塩の中に埋め込まれ、腹膜に移植される代理膵臓細胞は、糖尿病の短期的な逆転を示すことができ、概念実証の良い基盤を提供する。線維症を刺激する傾向が低い修飾アルギン酸塩で形成されたマイクロビーズは、通常のげっ歯類で最大6ヶ月間糖尿病を逆転させることができた。SR1423生成細胞が免疫保護デバイス内で糖尿病を逆転させる能力を実証するために、アルギン酸塩ビーズ内に分化細胞を埋め込み、これらを化学的に誘導された糖尿病の正常マウスの腹膜に移植した。血糖の低下は、移植後48時間以内に明らかになり、数週間維持された(
図8)。
【0182】
実施例4-開示される方法を使用して非ヒト霊長類細胞を培養する
多能性幹細胞を単離し、幹細胞をインスリン産生膵臓系譜に効率的に分化するための開示された方法は、非ヒト組織から始めて、非膵臓組織から始めるときにも有効である。アカゲザル種の3つの非ヒト霊長類(NHP)の皮膚生検から線維芽細胞を採取し、ヒト細胞について記載したものと同様に培養した(すなわち、実施例1の培養および分化ステップ)。リプログラミング遺伝子Oct4、Sox2、Klf4、およびL-Mycを、2つのエピソーム発現プラスミドのエレクトロポレーションを介して初代線維芽細胞に導入した。NHPドナーの一次組織から生成された幹細胞株は、多能性マーカーOct4、SSEA4、Tra-1-80、およびTra-1-60を発現した。これらの株を、内胚葉誘導剤アクチビンAおよびワートマニンに4日間曝露した後に、内胚葉マーカーを発現する能力についてスクリーニングした。NHPドナーの各々から内胚葉マーカーを発現する細胞の割合が最も高い培養物を選択し、その後、12日間の膵臓分化プロトコルに曝露した後に膵臓マーカーを発現する能力についてスクリーニングした。3つすべてのNHPドナーからの組織は、記載の12日間の分化プロトコルに曝露すると、膵臓内胚葉細胞を効率的に生成する少なくとも1つの幹細胞株を得た。
図9は、NHPドナーに由来するこれらの株のうちの1つの代表的な例を示す。
【0183】
実施例5-開示される治療細胞を用いたヒト成人における糖尿病の治療
この実施例は、ヒト成人におけるI型糖尿病を治療するための治療細胞を生成するために開示されたプロトコルを使用する方法を例示する。
【0184】
インスリン依存性糖尿病の成人ヒト対象は、治療有効量の開示されたマクロカプセル化されたインスリン産生細胞を含む組成物含む移植片を、対象の網のポーチまたは腹腔内に受ける。対象は血糖値について評価される。対象は、対象の血糖値が安定していることを確認するため、治療上有効な数のマクロカプセル化細胞の移植後に監視される。対象をさらに、経時的にグリコシル化ヘモグロビン、および糖尿病の併存症についてスクリーニングする。