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特許7426386厚みのある低応力四面体アモルファスカーボンコーティング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】厚みのある低応力四面体アモルファスカーボンコーティング
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20240125BHJP
   F16J 9/26 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
C23C14/06 F
F16J9/26 C
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021519625
(86)(22)【出願日】2019-10-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 EP2019077230
(87)【国際公開番号】W WO2020074518
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】18199423.7
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510302157
【氏名又は名称】ナノフィルム テクノロジーズ インターナショナル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanofilm Technologies International Limited
【住所又は居所原語表記】28 Ayer Rajah Crescent,#02-02/03,139959 Singapore SINGAPORE
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】シ,シュ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ミン チュウ
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-053435(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235750(WO,A1)
【文献】特開2017-171988(JP,A)
【文献】国際公開第2018/179709(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/022660(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/06
F16J 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にコーティングを析出させる方法を提供し、該方法は、以下:
(a)ta-Cの第1層をCVAプロセスを介して基材上に析出させる工程であって、該第1層が、第1の硬さおよび100nmから800nmの厚さを有する、工程;
(b)ta-Cの第2層をCVAプロセスを介して基材上に析出させる工程であって、該第2層が、第2の硬さおよび2nmから10nmの厚さを有する、工程;ならびに
(c)工程(a)を少なくとも1回繰り返す工程;
を含み、
該第1層の厚さと該第2層の厚さとの比が400:1から150:1であり、そして該第1層の硬さが該第2層の硬さより大きい、方法。
【請求項2】
前記基材上に前記コーティングを連続的に析出させ、前記工程を繰り返して少なくとも5つのそのような第1層および少なくとも4つのそのような第2層を含むコーティングを提供することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
同じCVA源、好ましくはFCVA源を使用して、前記第1層および前記第2層に対して実質的に連続的なCVAプロセスを使用して前記析出を実行することを含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
(a)第1のバイアス電圧でCVAプロセスを使用して前記第1層を析出させる工程;および
(b)該第1のバイアス電圧よりも負である第2のバイアス電圧でCVAプロセスを使用して第2層を析出させる工程
を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1層の硬さが1500HVよりも大きい、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2層の硬さが1500HVまたはそれ以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1層の硬さが7000HV未満である、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第2層の厚さが5nmまたはそれ以下である、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1層の厚さが200nmまたはそれ以上である、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記基材がステンレス鋼基材である、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記工程a)において前記第1層を析出させる前に、シード層を前記基材上に析出させる工程をさらに含む、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記シード層が、Ti、Cr、Ni、W、Si、またはそれらの組み合わせ、合金、炭化物または窒化物から形成される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記シード層がクロムまたはチタンである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記シード層において、0.05μmから0.5μmの厚さを有する、請求項11から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記コーティングの総厚さが1~100ミクロンである、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記コーティングの総厚さが5ミクロンまたはそれ以上である、請求項1から15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
コーティングを含む基材であって、
該コーティングが
(a)CVAプロセスを介して析出させたta-Cの第1層であって、該第1層が、第1の硬さおよび100nmから800nmの厚さを有する、第1層;
(b)CVAプロセスを介して析出させたta-Cの第2層であって、該第2層が、第2の硬さおよび2nmから10nmの厚さを有する、第2層;
(c)少なとも1つのさらなる第1層;
を含み、
該第1層の厚さと該第2層の厚さとの比が400:1から150:1であり、そして該第1層の硬さが該第2層の硬さより大きい、基材。
【請求項18】
前記コーティングの硬さが2000HVまたはそれ以上である、請求項17に記載の基材。
【請求項19】
前記基材がエンジン部品、例えば、ピストンリング、ピストンピン、カムシャフト、リフトバルブまたは噴射ノズルである、請求項17または18のいずれかに記載の基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四面体アモルファスカーボン(ta-C)コーティングを基材上に析出させる改善された方法、これらの方法から得られ得るコーティング、およびコーティングされた基材(特にエンジン部品)に関する。
【背景技術】
【0002】
当該技術分野には、例えば、エンジン部品を、摩耗、高温への長時間の曝露、摩損、および作動中のエンジンにおけるそのような部品の長期使用で発生する他の損傷から保護するための硬質で耐久性のあるコーティングの必要性が存在する。
【0003】
これを達成するために、多種多様な析出技術が基材をコーティングするために使用される。典型的に、蒸着技術が、マイクロエレクトロニクスアプリケーションおよびヘビーデューティアプリケーションを含むさまざまなタイプのアプリケーションで薄膜析出層を形成するために使用される。析出技術は、2つの主要なカテゴリに分類できる。最初のものは化学蒸着(CVD)として知られている。CVDは一般に、化学反応によって発生する析出プロセスを指す。CVDプロセスの一般的な例には、電着、エピタキシー、および熱酸化がある。析出の2番目のカテゴリは、一般に物理蒸着(PVD)として知られている。PVDは一般に、物理的プロセスの結果として発生する固形物質の析出を指す。
【0004】
アモルファスカーボンは、結晶形を有さない遊離の反応性形態の炭素である。アモルファスカーボン膜の様々な形態が存在し、これらは、通常、当該膜の水素含有量および当該膜内の炭素原子のsp:sp比によって分類される。
【0005】
この分野における文献の例では、アモルファスカーボン膜は7つのカテゴリに分類される(Fraunhofer Institut Schich- und Oberflachentechnikの「Name Index of Carbon Coatings」から抜粋した以下の表を参照)。
【0006】
【表1】
【0007】
四面体水素非含有アモルファスカーボン(ta-C)は、水素をほとんどまたはまったく含まず(5%mol未満、通常は2%mol未満)、sp混成炭素原子を多く含む(典型的には、炭素原子の80%より多くがsp状態にある)という特徴がある。
【0008】
「ダイヤモンドライクカーボン」(DLC)という用語は、すべての形態のアモルファスカーボン材料を指すために使用されることがあるが、本明細書で使用される用語は、ta-C以外のアモルファスカーボン材料を指す。DLC製造の一般的な方法では、炭化水素(アセチレンなど)を使用するため、膜に水素を導入する(その原料が典型的には水素非含有高純度グラファイトである、ta-C膜とは対照的である)。
【0009】
言い換えれば、DLCは、典型的には、50%より多くのsp炭素含有量および/または20%molおよびそれを上回る水素含有量を有する。DLCは、ドープされていないか、あるいは金属または非金属でドープされたものであり得る(上記の表を参照)。
【0010】
硬質炭素膜は、基材上に保護層を提供するために、スパッタリング技術(1つのPVDプロセス)を使用して基材上に析出され得る。別の既知のPVD技術は、電気アークを使用して陰極ターゲットから材料を気化/昇華させる陰極蒸気アーク析出法である。その結果、生じる気化/昇華した材料は基材上で凝縮し、薄い、より硬質である膜またはコーティングを形成する。
【0011】
基材上のta-Cコーティングのカソードアーク蒸着は、スパッタリングから得られた炭素コーティングよりも硬くて強いコーティングを生じるが、ta-Cコーティングのカソードアーク蒸着は、それ自身の欠点を共有する。
【0012】
ta-Cコーティングは硬質の性質があるため、これらのコーティング内に存在する内部応力は高い。したがって、例えば、カソードアーク蒸着によってta-Cコーティングの厚い硬質層を基材に適用することは実用的ではない。コーティングの厚い層内の大きな内部応力がコーティングを脆くし、ひび割れや破損を起こしやすくするためである。その結果、それらの硬さを上げるために、ta-Cの薄層しか表面に適切に付与することができない。結果として、そのようなコーティングのアプリケーションは限られる。
【0013】
Teo Edwinら、「Thermal stability of nonhydrogenated multilayer amorphous carbon prepared by the filtered cathodic vacuum arc technique」,Journal of Vacuum Science and Technology:Part A,(2007),25(3),pp.421-424は、より硬質の副層とより軟質の副層とを含むアモルファスカーボンの一連の膜を記載している。これらの膜は、良好な硬さおよび低い内部応力を有すると報告された。しかし、コーティングの全体の厚さはわずか1μmであった。したがって、耐摩耗性コーティングとしてのそれらの有用性は著しく制限される。
【0014】
US6,461,731B1(Veerasamy Vijayen)は、スクラッチ耐性ta-C層を含むソーラー管理コーティングでコーティングされた基材を記載している。WO2018/019940A1(Mahle Metal Leve S/A)は、異なるsp/sp結合比率を有する2層のDLCを含むエンジンエレメントを記載している。US2014/178637A1(Rajagopalan Srinivasan)は、下層、接着層、および機能層を含むコーティングを記載している。機能層は、ダイヤモンドライクカーボン層であり得る。
【0015】
WO2009/151404A1(Nanofilm Technologies International Pte Ltd)は、陰極真空アーク(CVA)蒸着工程を使用して基材上に材料を析出させ、続いてCVAを含まない物理蒸着工程(例えば、スパッタリング)を使用してさらに材料を析出させることによって、基材上にコーティングを析出させるプロセスを記載している。WO2009/151404において、CVAによって析出される層の厚さは、スパッタリング法によって析出される層の厚さよりも大きい。CVAによって析出されたより硬質の層とスパッタリングによって析出されたより軟質の層との組み合わせを使用することによって、コーティングは実質的にその全体的な硬さを維持するが、応力が減少し、コーティングを使用可能にすると述べられている。これにより、脆性や亀裂の影響を受けない、ta-Cコーティングのより厚いコーティングを製造することができる。
【0016】
WO2009/151404の方法は、2つの異なる蒸着技術(FCVAおよびスパッタリング)を使用する2段階プロセスを使用する。これとは別に、ta-C膜の一般的な利点は硬さであるが、より硬質の層の間に軟質の中間層を使用すると、膜全体の硬さが損なわれる。
【0017】
高硬さであるが低応力である厚いta-Cコーティングを析出させるためのさらなるプロセス、好ましくは、より効率的なプロセスの必要性が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、上記の方法に代わるものを提供することである。実施形態のさらなる目的は、比較的厚く硬質であるが、それにもかかわらず比較的低応力のta-Cコーティングを析出させる代替の(好ましくは改善された)方法を提供することにある。特定の実施形態の目的は、例えば当該技術分野で知られているコーティングのように、同様に低い応力を維持しながら、これまでよりも硬質となり得るコーティングをもたらす改善された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
したがって、本発明は、基材上にコーティングを析出させる方法を提供し、この方法は、以下:
(a)ta-Cの第1層をCVAプロセスを介して基材上に析出させる工程であって、該第1層が第1の硬さおよび第1の厚さを有する、工程;
(b)ta-Cの第2層をCVAプロセスを介して基材上に析出させる工程であって、該第2層が第2の硬さおよび第2の厚さを有する、工程;ならびに
(c)必要に応じて、工程(a)を少なくとも1回繰り返す工程
を含み、第1の厚さは第2の厚さより大きく、かつ第1の硬さは第2の硬さより大きい。
【0020】
本発明はまた、基材上にコーティングを析出させる方法を提供し、この方法は、以下:
(a)ta-Cの第1層をCVAプロセスを介して基材上に析出させる工程であって、該プロセスが、第1の硬さおよび第1の厚さを有する第1層を析出させる析出パラメータを用いて実施される、工程;
(b)該CVA析出プロセスのパラメータを調整して、減少した硬さおよび減少した厚さを有するta-Cの第2層を該第1層上に析出させる工程;ならびに
(c)工程(a)を少なくとも1回繰り返す工程、
を含む。
【0021】
以下の実施例に詳細に記載されるように、上記方法は、簡潔には、第2層を析出させるようにパラメータを調整し、さらなる第1層を析出させるように工程(a)のパラメータに実質的に戻ることを含み得る。次いで、この方法は、代替の第1および第2の層を有するコーティングを析出させるために繰り返され得る。したがって、このプロセスは、主に工程(a)による析出と、より短い期間でしかない工程(b)の析出を含むことができる。
【0022】
方法によってコーティングされた基材およびコーティングを実施するための装置もまた提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、WO2009/151404に従って作製されたコーティングの硬さの結果を示す。
図2図2は、本発明に従って作製され、実施例2に示されているコーティングの硬さの結果を示す。
図3図3は、温度試験後にWO2009 / 151404に従って作製されたコーティングのSEMを示す。
図4図4は、温度試験後の実施例2のコーティングのSEMを示す。
図5図5は、約30ミクロンの厚さを有する本発明のさらなるコーティングのSEMを示す。
図6A図6(a、b)は、温度試験の前の図5のコーティングを示す。
図6B図6(a、b)は、温度試験の前の図5のコーティングを示す。
図7A図7(a、b、c、d)は、温度テスト後の図5のコーティングを示す。
図7B図7(a、b、c、d)は、温度テスト後の図5のコーティングを示す。
図7C図7(a、b、c、d)は、温度テスト後の図5のコーティングを示す。
図7D図7(a、b、c、d)は、温度テスト後の図5のコーティングを示す。
図8A図8(a、b)は、温度試験後の実施例4のコーティングを示す。
図8B図8(a、b)は、温度試験後の実施例4のコーティングを示す。
図9図9は、約13ミクロンの厚さを有する、本発明のさらなるコーティングのSEMを示す。
図10図10は、その硬さを計算するために使用される図9のコーティングの荷重/除荷曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上記のように、本明細書で使用される「四面体アモルファスカーボン」(ta-C)という用語は、低水素含有量および低sp炭素含有量を有するアモルファスカーボンを指す。
【0025】
ta-Cは、不規則なダイヤモンドに存在するものと同様に、強い結合によって連結された不規則Cspで構成されていると記載されている高密度アモルファス材料である(Neuville S、「New application perspective for tetrahedral amorphous carbon coatings」、QScience Connect 2014:8、http://dx.doi.org/10.5339/connect.2014.8を参照)。ダイヤモンドと構造的に類似しているため、ta-Cは硬さの値が30GPaを超えることが多い非常に硬い材料である。
【0026】
例えば、ta-Cは、10%未満、典型的には5%以下、好ましくは2%以下(例えば、1%以下)の水素含有量を有し得る。ここで提供される水素のパーセンテージ含有量は、(質量による水素のパーセンテージではなく)モルパーセントを指す。ta-Cは、30%未満、典型的には、典型的には20%以下、好ましくは15%以下のsp炭素含有量を有し得る。好ましくは、ta-Cは、2%以下の水素含有量および15%以下のsp炭素含有量を有し得る。ta-Cは、他の材料(金属または非金属のいずれも)でドープされていないことが好ましい。
【0027】
対照的に、本明細書で使用される「ダイヤモンドライクカーボン」(DLC)という用語は、ta-C以外のアモルファスカーボンを指す。したがって、DLCは、ta-Cよりも、より大きな水素含有量およびより大きなsp炭素含有量を有する。例えば、DLCは、20%またはそれ以上、典型的には25%またはそれ以上、例えば30%またはそれ以上の水素含有量を有し得る。ここで提供される水素のパーセンテージ含有量は、(質量による水素のパーセンテージではなく)モルパーセントを指す。DLCは、50%またはそれ以上、典型的には60%またはそれ以上のsp炭素含有量を有し得る。典型的には、DLCは、20%より大きい水素含有量および50%より大きいsp炭素含有量を有し得る。DLCは、ドープされていないか、または金属および/または非金属でドープされていてもよい。
【0028】
本発明の方法は、厚くて硬く、比較的低い応力を有するta-Cコーティングを析出させるために有利に使用することができる。この方法は、一般に、コーティングを基材上に連続的に析出させて、複数の第1および第2の層を含むコーティングを生成することを含む。工程(a)および(b)は、好ましくは、多層コーティングを生成するために繰り返される。例えば、方法は、少なくとも3、少なくとも5のこのような第1層および少なくとも2、好ましくは少なくとも4のこのような第2層を含むコーティングを提供するたように、析出工程を繰り返す工程を含み得る。
【0029】
したがって、作業用コーティングは複数層から構築され得る。使用において、この方法は、典型的には、交互の工程(a)および(b)を繰り返して、複数のta-C層を形成することを含む。(a)と(b)の隣接するta-C層は同じ材料(炭素)でできており、(b)層は、以下で詳しく説明するように、(a)層に比べて薄い。しかし、全体としてのコーティングを調べることによって、目立たない層をゴーストまたは製造プロセスの履歴として明らかにしなくてもよい。
【0030】
工程(a)で析出したより硬質である第1層は、工程(b)で析出したより柔らかい第2の層よりも厚さを有し、それは通常顕著であり、コーティングの全体の硬さは高く、軟質層の影響により、コーティング内の内部ストレスは減少する。
【0031】
「硬質層」および「軟質層」に関する「硬質」および「軟質」という用語は、相対的な用語である。硬質層は、軟質層よりも大きい硬さの値および大きい密度を有する。典型的には、「硬質層」は1500HV(14.7GPa)より大きい、例えば1700HV(16.7GPa)またはそれ以上、好ましくは2000HV(19.6GPa)またはそれ以上の硬さを有する。硬質層の硬さは通常7000HV(68.6GPa)を超えない。「軟質層」は、硬質層よりも硬さの値が低く、典型的には1500HV(14.7GPa)またはそれ以下、例えば1350HV(13.2GPa)またはそれ以下、好ましくは1200HV(11.8GPa)またはそれ以下である。軟質層の硬さは通常500HV(4.9GPa)を超える。
【0032】
硬質層はまた、軟質層よりも大きなヤング率を有する。軟質層は硬質層よりもはるかに薄く、硬質層間に位置している。それにもかかわらず、それらは全体的な膜特性に有利に影響を与えることが見出されている。本発明は、コーティングが脆性または基材からの層間剥離を過度に受けることなく、バルクの硬質層に匹敵する硬さを有する厚いコーティングの析出を可能にする。バルクの個別の硬質層の特性と比較して、応力が有効に低減されつつ、硬さは許容できる程度に保持される。
【0033】
硬質層および軟質層は、2つまたはそれ以上の副層を含み得る。硬質副層の硬さは、本明細書に記載の第1層の硬さの範囲内(例えば、1500HV(14.7GPa)より大きい)であるが、各硬質副層は、異なる厚さを有し得る。同様に、軟質副層の硬さは互いに異なる場合があるが、すべてが本明細書に提供される第2層の範囲内にある(例えば、1500HV(14.7GPa)またはそれ以下)。
【0034】
第1層内のすべての硬質副層の全体の厚さは、第1層の合計の厚さに等しく、第2層内のすべての軟質副層の全体の厚さは、第2層の合計の厚さに等しい。
【0035】
交互の第1層と第2層の析出は、硬質の第1層パラメータと軟質の第2層のパラメータの間でCVAプロセスを変化させることによって、特に次によって達成され得る:
(a)第1のバイアス電圧でCVAプロセスを使用して第1層を析出させる;
(b)第1のバイアス電圧よりも負の第2のバイアス電圧でCVAプロセスを使用して第2層を析出させる。
【0036】
より軟質の層は、より高い負のバイアスで析出させることができ、適切には、第2のバイアス電圧は、第1のバイアス電圧より少なくとも100V負であるか、または第1のバイアス電圧より少なくとも200V負であり、好ましくは少なくとも300V負である。差異は、例えば基材の性質に依存してより大きいものであってもよく、500Vまたはそれ以上、または800Vまたはそれ以上であり得る。
【0037】
硬質ta-C膜のFCVA蒸着は確立されたプロセスであり、バイアスは基材依存であり得るが、第1のバイアス電圧は、一般には-100Vから-1000V、より一般には-100Vから-800Vまでの範囲内にあり、第2のバイアス電圧は、一般には-500Vまたは-600Vから-1000Vまたは-1600V、より一般的には-600Vまたは-700Vから-1000Vまたは-1200Vである。以下の実施例および本発明の実施形態で操作される方法では、バイアスの負の変化はコーティングを軟化させ、硬さを過度に損なうことなく全体的なコーティング応力を低減するために薄い中間の軟質層を析出させるために使用される。
【0038】
バイアスは一般にデューティサイクルに従う。実質的に方形波パターンを介して、100%はバイアスが一定であることを示し、一般には70%以下、例えば2%から70%、通常はDCおよびパルス、より一般的には5%から50%のデューティサイクルで動作する。以下でより詳細に説明する特定の実施形態では、第2層である軟質TAC層を析出させるために、基材は、44KHzのパルスDC電源を使用して40%のデューティサイクルで約-900Vにバイアスされた。バイアスの差が非常に大きい場合、それぞれの層のデューティサイクルは理論的に同じであり得る。したがって、バイアスはより硬質の層とより軟質の層との間でのみ変化する。通常、硬質層のデューティサイクルは3~20%であり、軟質層のデューティサイクルは20~50%である。一般に、デューティサイクルは、第2の軟質層を析出させるために増加し、例えば10%または20%または30%またはそれ以上増加する。
【0039】
したがって、本願発明者は、コーティングされる基材上のバイアス、および必要に応じてデューティサイクルを変えることによって、陰極真空アーク(CVA)プロセスを使用して、同じ操作でより硬質であるコーティングとより軟質であるコーティングの両方を析出できることを見出した。これにより、より軟質の層はコーティングの応力を低減することが見出され、一方、より硬質の層はコーティングにそれらの硬さを与え、その特性は、薄い、より軟質の層の存在にもかかわらず大部分は保持されるという点で、WO2009/151404に記載されているコーティングに匹敵し、改善されたコーティングを実現できる。
【0040】
コーティングの硬さを維持するために、第2のより軟質の層は、より硬質の第1の層と比較して著しく減少した厚さであることが好ましい。本発明の例示的な例では、約300nm~600nmの第1層を、約0.5nm~3nmの第2層と交互にし、以下に示した特定の実施形態では、約500nmの第1層を、1nm~2nmの第2層と交互にした。第2層が過度に厚い場合、それらの層の低応力特性だけでなく、それらの低下した硬さもまた全体的なコーティング特性に影響を与え得る。一般に、第1層の厚さは、100nmまたはそれ以上、適切には200nmまたはそれ以上であり、1500nmまで、適切には1000nmまで、特に600nmまたは800nmまでであり得る。第2層は著しく薄く、適切には10nmまたはそれ以下、適切には5nmまたはそれ以下、好ましくは3nmまたはそれ以下、または2nmまたはそれ以下、および特定の実施形態では約2nmまたは約1nmである。応力低減を提供するために、好ましくは、より軟質の低応力の成分が十分にあり、第2層は、好ましくは、少なくとも0.5nmの厚さまたは少なくとも1nmの厚さであるべきである。CVAプロセス、特にFCVAプロセスが使用され、これらはこれらの厚さの順で均一かつ濃密かつ平滑な層を製造することができる。同じことは、スパッタタイプのプロセスには一般に当てはまらず、現在、これらのより薄い厚さまで平滑なコーティングを作製することができない。
【0041】
層が組み合わさってコーティングを形成し、上記から理解されるように、第1の厚さ対第2の厚さの比は、一般に4000:1から5:1、より一般的には1000:1から50:1、好ましくは500:1から150:1である。層は、バルク材料を使用して達成できない厚さに構築することができ、多くの層を含む本発明の典型的なコーティングは、1~100ミクロンであり、2ミクロンおよびそれ以上、3ミクロンおよびそれ以上から5ミクロンおよびそれ以上の総厚さを有する。完全に硬質ta-Cのコーティングは、より厚い場合に特に脆く、利点を示す本発明のさらなる実施形態は、10ミクロンおよびそれ以上、15ミクロンおよびそれ以上、特に50ミクロンまで、または60ミクロンまでのコーティングを含む。以下に説明する特定の例は、約15ミクロン、26ミクロン、および30ミクロンであり、すべてテストで良好な硬さおよび/または臨界荷重値を示す。
【0042】
この分野で慣習的であるように、ta-C層を析出させる前に、通常、シード層および/または接着層が基材上に析出される。シード層は、(例えば、基材とさらに析出した層との間に結合を提供することによって)ta-Cコーティングの接着性を向上させることができる。シード層はまた、基材と作業コーティングとの間の弾性率の一致を提供し得る。適切なシード層の例には、特に基材がシード層なしで非導電性である場合、導電性シード層が含まれる。したがって、シード層は、ta-Cが非導電性基材上にコーティングされている場合、基材に導電性を与えることができる。したがって、シード層を使用すると、例として、セラミックへのコーティングの析出が可能になる。シード材料の例としては、Ti、Cr、Ni、W、Si、およびそれらの組み合わせ、合金、炭化物、または窒化物がある。特定のシード層材料の例には、Cr、WC、WC、NiCr、WCr、TiSi、CrSi、およびSiC、ならびにそれらの組み合わせが含まれる。鋼基材を使用する場合、シード層は好ましくはCrまたはTiから形成される。シード層の厚さは、通常、0.05μmから0.5μm、好ましくは0.1μmから0.4μmである。シード層は、プラズマ蒸着(PVD)技術、例えば、スパッタリング、アーク蒸着、およびFCVAなどの様々な膜析出技術によって適用することができる。シード層の使用はコーティング技術において知られており、シードの使用およびシード材料の選択は本発明の一部ではない。
【0043】
本発明はさらに、本発明の方法に従って析出したコーティングを含む基材を提供する。これらの基材およびそれらのコーティングは、典型的には、上記および下記の本発明の任意の好ましい特徴およびパラメータに従って特徴付けられる。一例として、好ましい基材は、厚さが1~100ミクロン、より好ましくは3~60ミクロン、さらにより好ましくは10~50ミクロンのコーティングを含み、厚さ100nm~800nmの第1層と0.5nm~3nmの第2層が交互にある。
【0044】
好ましい基材は、好ましくは、2000HV(19.6GPa)またはそれ以上、例えば2500HV(24.5GPa)またはそれ以上、より好ましくは2800HV(27.5GPa)またはそれ以上、または3500HV(34.3GPa)またはそれ以上の全体的なビッカース硬さを有するコーティングを含み、かつ4000HV(39.2GPa)または5000HV(49.0GPa)までの硬さを有し得る。
【0045】
一般に、基材の選択は、本発明の特定の特徴ではない。従来のCVAおよびFCVAプロセスは、広範囲の基材に対して知られかつ使用されており、本発明の方法は、同様に、広範囲の基材をコーティングするのに適している。導電性と非導電性の両方の固体が一般的に適切であり、また、コーティングの接着性と強度を改善し、表面をコーティングし易くするために、シード層と接着層とが使用され得る。金属、合金、セラミック、およびそれらの混合物で作られた基材をコーティングすることができる。金属および複合基材、特に鋼および鋼の種類、ならびにそれらで作られた部品、工具、部品などがコーティングされ得る。好ましい基材の特定の例には、(例えば、燃料電池または電気化学アプリケーションで使用するための)電極が含まれる。他の好ましい基材には、工具、道具細工、産業用機械およびそれらの部品が含まれる。さらに、別個に、基材は、ピストンリング、ピストンピン、カムシャフト、リフトバルブ、または噴射ノズルなどのエンジン部品であることが好ましい。
【0046】
CVAプロセスは、実施例で使用されているように、通常、フィルタード陰極真空アーク(FCVA)プロセスである。FCVAコーティングのための装置および方法は公知であり、本発明の方法の一部として使用され得る。FCVAコーティング装置は、典型的には、真空チャンバー、アノード、ターゲットからプラズマを発生するためのカソードアセンブリ、および基材を所与の電圧にバイアスするための電源を含む。FCVAの性質は従来のものであり、本発明の一部ではない。
【0047】
硬さは、すべての金属に使用でき、硬さ試験の中で最も広いスケールの1つであるビッカース硬さ試験(1921年に、Vickers LtdのRobert L. SmithおよびGeorge E. Sandlanによって開発された)を使用して適切に測定される。本試験によって与えられた硬さの単位はビッカースピラミッド数(HV)として知られており、パスカルの単位(Gpa)に変換できる。硬さの数値は、試験で使用されたくぼみの表面積全体の荷重によって決定される。例として、硬鋼のマルテンサイトのHVは約1000で、ダイヤモンドのHVは約10,000HV(約98GPa)である。ダイヤモンドの硬さは、正確な結晶構造と配向によって異なるが、約90から100GPaを超える硬さが一般的である。
【0048】
この場合も、本明細書の他の場所でも説明されているように、複合コーティングの全体的な特性は、より硬質な厚い層と、薄いより軟質の層とが交互に現れることによって影響を受ける。以下の実施例に示されるように、本発明の利点は、この方法を使用して、従来技術(例えば、WO2009/151404)と同等の応力を有するが硬さが増加したコーティングを得ることが可能である。特定の例において、本発明のコーティングは、従来技術の1つよりも著しく改善された硬さを示し、ビッカース数によって測定される硬さのほぼ50%の増加を示した。本発明の例の他の試験では、コーティング性能は良好であり、コーティングは、とりわけ、先行技術の例と比較して増加した臨界荷重を示す。
【0049】
さらなる別個の利点として、本発明のコーティングは、析出層の単一の供給源のみを操作しながら、チャンバー内で作製することができる。本発明の方法は、好ましくは、同じCVA源、好ましくはFCVA源を使用して、第1および第2の層に対して実質的に連続的なCVAプロセスを使用して析出を実行することを含む。これにより、(i)FCVAと(ii)スパッタソースとの間を切り替えることによってプロセスが中断されたり、影響を受けたりすることはない。ソースの場所として所与の数(>1)のステーションがあるチャンバーでは、これは1つのステーションを代替のソース用に解放し(例えば、異なるタイプのソース、異なる材料など)、したがって装置内で利用可能なオプションが増大する。スパッタ源の代わりに、2源チャンバーにおいて、シード層を適用するためのCVA源を提供することができる。本発明はまた、これらの厚い硬質コーティングを析出させるために必要とされるコーティング装置を単純化する。例えば、単一のソースを備える装置を使用することができる。
【0050】
本発明のコーティングの追加の利点は、コーティング中に温度感受性の高いスパッタ層がないため、作動温度の上昇を示すことができることである。
【0051】
本発明を、添付の図面を参照して説明する。
【実施例
【0052】
(実施例1-比較例)
WO2009/151403、実施例3の教示に従って、ta-Cコーティングを、以下のパラメータを有するHSSピストンリング上に調製した:
シード層 Ti、約250nm
FCVA層 約350nm
スパッタ層 約10nm
総コーティング厚さ 約20ミクロン
【0053】
ナノ硬さを、最大負荷8mN、負荷速度16mM/分、保持時間30秒で試験した。結果を図1に示す。これは、2211HVの計算硬さを与えた。臨界荷重は決定されなかったが、WO2009/151403からの実施例3のすべての実施形態において、臨界荷重値は、約18~21Nの範囲で変化した。
【0054】
ピストンリングを400℃で2時間保持することにより耐熱性を測定した。試験後の冷却リングを図3に示す。わずかな層間剥離/表面損傷が見られた。これは、この試験の失敗を示す。
【0055】
(実施例2)
本発明のコーティングは、実施例1による従来技術のコーティングと一致するように調製し、HSSピストンリング上にta-Cをコーティングした。コーティングは以下のパラメータを有していた:
シード層 Ti、約250nm
FCVA硬質層 約500nm
FCVA軟質層 約1~2nm
総コーティング厚さ 約20ミクロン
【0056】
コーティングを、FCVAを介して交互の第1(硬質)層と第2(軟質)層とを交互にして析出させた。軟質層を約-900Vの負のバイアスで析出させ、44KHzパルスDC電源を使用して40%のデューティサイクルで析出させた。第1層のバイアスは、硬質ta-C層の析出の標準であり、約-200V、デューティサイクル30%であった。
【0057】
ナノ硬さを、最大負荷8mN、負荷速度16mM/分、保持時間30秒で試験した。結果を図2に示す。これは、3122HVの計算硬さを与えた。臨界負荷は決定されなかった。ピストンリングを400℃で2時間保持することにより、同様に耐熱性を測定した。試験後の冷却リングを図3に示す。層間剥離および表面損傷がなく、このテストに合格したことを示す。
【0058】
(実施例3)
HSS Shuang Huanピストンリングを、約500nmの硬質ta-C(バイアス約-200V)および約1~2nmの軟質ta-Cの層(バイアス約-1000V)の約60の繰り返し層でコーティングした。完成したコーティングの厚さをSEM断面分析によって測定した(そのような断面の1つを図5に示す)。3回の別々の測定により、29.71ミクロン、29.73ミクロン、および29.9ミクロンの厚さが得られたため、厚さが約30ミクロンの厚さを有する滑らかで実質的に均一なコーティングが得られた。
【0059】
コーティングされたピストンリングを温度試験に供し、サンプルを加熱前(図6a、b)および400℃で2時間加熱した後(図7a、b、c、d)で分析した。このコーティングはこの加熱試験に合格したと見られる。
【0060】
コーティングを最大荷重60Nで最初のスクラッチ試験に供したところ、合格した。コーティングを最大荷重100Nで2回目のスクラッチ試験に供したところ、約80Nで重大な荷重破壊を示した。
【0061】
(実施例4)
HSSディーゼルエンジンのピストンリングを、約1~2nmの軟質ta-Cの層(バイアス約-1000V)を有する硬質ta-C(基材バイアス約-300V)の約50層でコーティングし、SEM断面で測定して約25ミクロンのコーティングの厚さを得た。
【0062】
コーティングを実施例3と同じ温度試験に供した。コーティングの事後試験を図8(a、b)に示す。加熱および冷却後、ピストンリングからのコーティングの層間剥離はなかった。このことは、コーティングが良好な熱安定性および基材への良好な接着性を有し、試験に合格したことを示す。
【0063】
コーティングの硬さを、最大荷重8mN、荷重/除荷速度16mN/分、保持時間30秒で試験した。硬さは約2500HVとして計算された。
【0064】
摩耗評価は、ボール回転速度300rpm、ボール径30mm、サンプル傾斜角25°、ラッピングスラリー(直径0.1ミクロンのダイヤモンド粉末)を試験中に塗布したボールクレーターマシンを使用して実施した。摩耗試験の30分後、クレーターの深さは3.56ミクロンで、クレーターの直径は743ミクロンであった。摩耗試験の120分後、クレーターの深さは7.25ミクロン、クレーターの直径は1019ミクロンであった。
【0065】
コーティングを、半径200ミクロンの球形の先端および120°の角度、40N/分の負荷速度でロックウェルC形状を有するダイヤモンド圧子/スタイラスを有するアントンパールレベテストスクラッチテスターを用いたスクラッチ試験に供した。60Nのスクラッチ荷重ではコーティングに亀裂は生じなかった。これにより、コーティングの臨界荷重が60Nを超えていることが示された。
【0066】
コーティングを別個の耐摩耗性能評価に供した。これは、シリンダーライナー上のピストンリングの往復運動に応じて、コーティングされたピストンリングの摩耗を測定する。ピストンリングとライナーとの間の負荷力500Nを用いて、ピストンリングとシリンダーライナーの界面の間にエンジン潤滑油/オイルを塗布して往復周波数4Hzで、230,400サイクル(1サイクルあたり3cm)試験を継続した。これは、約16時間の試験期間に相当する。試験後、コーティングを顕微鏡およびスタイラスプロファイラーによって調べた。摩耗痕の深さは0.2ミクロン未満と測定された。この試験について摩耗が非常に少ないことを示す。
【0067】
コーティングを、別途、Tribo-tester(Bruker(登録商標)Tribolabシステム、Bruker Corporation)を使用して摩擦係数テストに供した。ピストンリングとシリンダーライナーとの間の摩擦は、潤滑油(Castrol(登録商標)エンジンオイル、5w-30)がある場合とない場合で、リングとライナーとの間の垂直力が10Nで、ピン速度0.84mm/秒(0.03Hz、14mmストローク)で測定した。潤滑剤を使用した場合の摩擦係数(COF)は0.04~0.14と測定され、オイルを使用しない場合のCOFは0.15~0.18と測定された。
【0068】
(実施例5)
HSSピストンリングを、実施例4に従ってコーティングした。コーティング層の数を減らしたが、約13ミクロンの厚さのコーティングが得られた。
【0069】
SEM断面分析は、緻密で均一なコーティングを示した(図9を参照)。
【0070】
コーティングの硬さを、最大荷重8mN、荷重/除荷速度16mN/分、保持時間30秒のナノインデンターを使用して測定した。荷重/除荷曲線を図10に示す。硬さは2850HVと計算された。
【0071】
コーティングを研磨剤CS-17、試験荷重1.5kg、サイクル速度60サイクル/分、ストローク長50mmのテーバー摩耗試験(TLA 5700)に供した。70,000サイクル後、コーティングは無傷のままであったため、テストに合格した。
【0072】
したがって、本発明は、ta-Cコーティングおよびそれでコーティングされた基材を作製するための方法を提供する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図9
図10