(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
C23C14/34 C
(21)【出願番号】P 2021575598
(86)(22)【出願日】2020-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2020033044
(87)【国際公開番号】W WO2021157112
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2020018559
(32)【優先日】2020-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺村 享祐
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-027227(JP,A)
【文献】特開平02-254164(JP,A)
【文献】特開2004-270019(JP,A)
【文献】特開2005-232580(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063524(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のターゲット部材と、段差のある基材とを備えたスパッタリングターゲットであって、前記ターゲット部材と前記基材との間に設置された保護部材とを備え、段差のある基材の段差部分に配置された前記ターゲット部材は、厚さが相互に異なり、前記厚さが相互に異なるターゲット部材のうち、厚さが小さな方のターゲット部材の端部が、前記基材の段差部よりも迫り出した部分(この迫り出した部分を「迫り出し部」と称する)を有
し、
前記迫り出し部の裏面に、少なくとも前記ターゲット部材よりも熱伝導率の高い材料からなる層を備えたスパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記熱伝導率の高い材料が、前記ターゲット部材と前記基材を接合する接合材と同一の材料である請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記迫り出し部において、基材の段差部よりも迫り出してなる幅が1mm~20mmである請求項1
又は2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記迫り出し部において、基材の段差部よりも迫り出してなる幅が3mm以上である請求項1
~3のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記迫り出し部において、基材の段差部よりも迫り出してなる幅が4mm以上である請求項1~
4のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
前記迫り出し部において、基材の段差部よりも迫り出してなる幅が5mm以上である請求項1~
5のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項7】
前記迫り出し部において、基材の段差部よりも迫り出してなる幅が15mm以下である請求項1~
6のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項8】
前記迫り出し部において、基材の段差部よりも迫り出してなる幅が12mm以下である請求項1~
7のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項9】
前記ターゲット部材がセラミックス製である、請求項1~
8のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項10】
酸化物半導体薄膜の成膜に用いられる、請求項1~
9のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣り合うターゲット部材との間に隙間を設けて配置してなる構成を備えたスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングとは、薄膜形成技術の一手法である。その一例として、Arなどの不活性ガスを真空中に導入し、ターゲット部材にマイナスの電圧を印加してグロー放電を発生させ、グロー放電によって不活性ガスをプラズマ化させてイオン化してガスイオンとし、このガスイオンを高速でターゲット部材の表面に衝突させて、該ターゲット部材を構成する成膜材料の粒子を弾き出させ、この粒子を、薄膜を形成する基材表面に付着・堆積させて、緻密で強い薄膜を基材表面に形成する方法を挙げることができる。
このようなスパッタリング法によれば、高融点金属や合金、セラミックスなど、真空蒸着法などでは成膜が困難な材料でも成膜が可能であるほか、大面積を有する薄膜を高精度で形成できるため、例えば、情報機器、AV機器、家電製品等の各種電子部品の製造に多用されている。中でも、スパッタリング法により形成される、ITO、IZO、IGZO等の薄膜は、液晶ディスプレイ、タッチパネル、ELディスプレイ等を中心とする表示デバイスの電極として広く用いられている。
【0003】
近年、ディスプレイパネルの大型化に伴い、大面積を有する薄膜を形成することが求められるようになり、ターゲット部材も大型化する必要があった。ところが、スパッタリングに用いるターゲット部材を、大面積からなる一枚のターゲット部材で形成することは難しい。そのため、ターゲット部材を、複数のターゲット部材に分割し、基材上に複数のターゲット部材を接合することで、大面積のスパッタリングターゲットとすることが採用されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
このように、複数のターゲット部材に分割されたターゲット(「分割スパッタリングターゲット」とも称する)は、基材上に、熱膨張によるターゲット部材の衝突を回避するため、隣り合うターゲット部材間に隙間ができるように配置し、該基材と各ターゲット部材とを、In系やSn系金属等の熱伝導が良好な低融点ハンダで接合するのが一般的である。
【0005】
また、このような分割スパッタリングターゲットでは、隣り合うターゲット部材との間に隙間を設けて配置するため、該隙間において基材が露出した状態となり、スパッタリング時に当該基材もごく微量にスパッタリングされて、成膜する薄膜中に該基材の構成材料が混入してしまうことが懸念された。そのため、隣り合うターゲット部材間の隙間に保護部材を設けて、該隙間において基材が露出しないようにすることが提案されている(例えば特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-232580号公報
【文献】国際公開第2012/063523号パンフレット
【文献】国際公開第2012/063524号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マグネトロンスパッタリングでは磁界強度の不均一さが影響し、マグネトロンカソード上のイオン電流密度の分布は不均一である。そのため、スパッタ率の分布が不均一となり、ターゲット部材の消耗が場所によって異なることがあった。具体的には、例えば平板状ターゲット部材の場合、端部におけるスパッタ率が高くなる傾向にあるため、ターゲット部材の端部の消費が特に速くなることがあった。
【0008】
そこで従来から、
図6、7に示すように、中央部のターゲット部材3の厚みに比べて、端部のターゲット部材3の厚みを大きくすることで、端部のターゲット寿命を延ばして、ターゲットの交換頻度を下げることが行われている。そしてその場合、スパッタリング面をフラットにするために、ターゲット部材3の裏面側に配置する基材2の厚みも、垂直面からなる段差部2Cを介して異ならせるのが一般的である。
しかしこの場合、基材2の該段差部2Cは、隙間4を介して露出した状態になるため、スパッタリングによって薄膜を成膜する際、この基材2の段差部2Cがスパッタリングされて、基材2の構成材料(例えばCuなど)が隙間4を通じて成膜した薄膜中に混入してしまうという課題があった。
【0009】
本発明は、隙間を介して隣り合うターゲット部材の厚さが相互に異なる構成を備えたスパッタリングターゲットにおいて、基材の構成材料が薄膜中に混入するのを防ぐことができる新たなスパッタリングターゲットを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複数のターゲット部材と、段差のある基材とを備えたスパッタリングターゲットであって、前記ターゲット部材と前記基材との間に設置された保護部材とを備え、段差のある基材の段差部分に配置された前記ターゲット部材は、厚さが相互に異なり、前記厚さが相互に異なるターゲット部材のうち、厚さが小さな方のターゲット部材の端部が、前記基材の段差部よりも迫り出した部分(この迫り出した部分を「迫り出し部」と称する)を有するスパッタリングターゲットを提案する。
【発明の効果】
【0011】
本発明が提案するスパッタリングターゲットは、厚さが小さな方のターゲット部材、言い換えれば、基材の段差部側のターゲット部材の端部を、該基材の段差部よりも迫り出させることにより、該段差部が保護部材によって被覆されていなくても、基材の構成材料(例えばCuなど)が薄膜中に混入するのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のスパッタリングターゲットの一例を示す平面図である。
【
図2】本発明のスパッタリングターゲットの一例の構成例を模式的に示した部分断面斜視図である。
【
図3】
図2の一部を拡大して示した部分拡大断面図である。
【
図4】本発明のスパッタリングターゲットの変形例を模式的に示した部分拡大断面図である。
【
図5】本発明のスパッタリングターゲットの一例として、実施例で作製したスパッタリングターゲットを示したものであり、(A)はその平面図、(B)はその断面図、(C)はその一部((B)の点線で囲った部分)を拡大した部分拡大断面図である。
【
図6】従来のスパッタリングターゲットの一例の構成例を模式的に示した部分断面斜視図である。
【
図7】
図6の一部を拡大して示した部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<本スパッタリングターゲット>
本発明の実施形態の一例に係るスパッタリングターゲット(「本スパッタリングターゲット」と称する)1においては、
図1~3に示すように、基材2のスパッタ表面側(単に「表面側」とも称する)に、複数のターゲット部材3、3・・が設置され、隣り合うターゲット部材3,3間には隙間4が設けられている。該基材2と該ターゲット部材3は接合材により接合されている。
また、ターゲット部材3,3間の隙間4に沿って、該ターゲット部材3と該基材2との間に保護部材5が設置されている。
また、本スパッタリングターゲット1は、ターゲット部材3(3A),3(3A)のように、隙間4を介して隣り合うターゲット部材の厚さが相互に同じ部分と、ターゲット部材3(3A)、3(3B)のように、隙間4を介して隣り合うターゲット部材の厚さが相互に異なる部分と、を備えている。
複数のターゲット部材3、3・・の表面は、同じ高さに、すなわちフラットになるように配置されている。
【0015】
本スパッタリングターゲット1は、平板状を呈している。しかし、本発明のスパッタリングターゲットの全体形状は任意であり、例えば円筒状であってもよい。
本発明のスパッタリングターゲットが円筒状を呈する場合、例えば、円筒状の基材2の表面側に、円筒状の複数のターゲット部材3、3を貫通させて、隣り合うターゲット部材3,3間に隙間4を設けて円柱軸方向に多段状に配置すればよい。また、円筒を柱軸方向に縦割りした湾曲状のターゲット部材3を、円筒状の基材2の外側面へ、円周方向に複数並べて配置したものであってもよい。但し、このような構成に限定するものではない。
【0016】
(隣り合うターゲット部材3、3の厚さが同じ部分の構造)
隣り合うターゲット部材3、3の厚さが同じ部分においては、基材2の均一な厚さ部分のスパッタ表面側に、隣り合うターゲット部材3(3A),3(3A)が隙間4を介して配置されると共に、該隙間4に沿って、該ターゲット部材3と該基材2との間に保護部材5が配置され、該ターゲット部材3と該基材2とは接合材6によって接合されている。
【0017】
隣り合うターゲット部材3(3A),3(3A)間の隙間4の幅、言い換えれば、隣り合うターゲット部材3A,3Aの相対する先端部間の距離は、0.1mm~0.6mmであるのが好ましい。
該隙間4の幅が0.1mm以上であれば、熱膨張によってターゲット部材3(3A),3(3A)が衝突して割れたりするのを防ぐことができるので好ましい。0.6mmよりも距離が大きくなると、その分ターゲット部材がスパッタされず、膜特性に異常が発生するため、0.6mm以下であることが好ましい。
かかる観点から、該隙間4の幅は0.1mm以上であるのが好ましく、中でも0.15mm以上、その中でも0.2mm以上であるのがさらに好ましい。他方、0.6mm以下であるのが好ましく、中でも0.5mm以下、その中でも0.4mm以下であるのがさらに好ましい。
【0018】
なお、本スパッタリングターゲット1は、例えば
図5に示すように、隣り合うターゲット部材3(3A),3(3B)の厚さが相互に異なる部分を備えていれば、必ずしも、隣り合うターゲット部材3(3A),3(3A)の厚さが相互に同じ部分を備えていなくてもよい。
【0019】
(隣り合うターゲット部材3、3の厚さが相互に異なる部分の構造)
他方、隣り合うターゲット部材3、3の厚さが異なる部分においては、
図3に示すように、隙間4を介して隣り合うターゲット部材3(3A),3(3B)の厚さが相互に異なっており、また、これらターゲット部材3(3A),3(3B)の裏面側の基材2の厚さも、段差部2Cを介して異なっている。すなわち、隣り合うターゲット部材3A,3Bのスパッタ表面の高さが同じになるように、段差部2Cを介して基材2の厚さも異なっている。且つ、厚さが小さな方の該ターゲット部材3Aは、該基材2の段差部2Cよりも、隙間4内を他方のターゲット部材3B側に迫り出した状態(この部分を「迫り出し部3Aa」)に配置されている。
基材2のうち、厚さの大きな部分を「基材2A」、段差部2Cを介して、厚さの小さな部分を「基材2B」と称する。
【0020】
すなわち、本スパッタリングターゲット1は、段差部2Cを介して厚さが異なる基材2と、基材2の表面側に積層される複数のターゲット部材3、3・・とを有している。そのうちのターゲット部材3Aは、厚さの大きな基材2A上に積層され、該ターゲット部材3Aの端部は、段差部2Cから迫り出して配置されている。ターゲット部材3Aと隙間4を介して配置されるターゲット部材3Bは、その表面がターゲット部材3Aの表面と同一高さになるように配置されている。
また、基材2Aの表面には、段差2Cの起立面から、ターゲット部材3Aの裏面側の端縁から所定幅に渡り、保護部材5が配置されており、基材2の表面が露出しないように構成されている。
段差2Cの起立面は、露出しているが、ターゲット部材3Aの迫り出し部3Aaが庇の役割を果たすため、隙間4から侵入してくるマグネトロン乃至ガスイオンなどが当該起立面に衝突し難く、段差2Cの当該起立面がスパッタされ難くなっている。
【0021】
隣り合うターゲット部材3、3の厚さが異なる部分は、
図2に示すように、本スパッタリングターゲット1の端部領域に設けるのが通常である。ターゲット部材の端部領域においてスパッタ率が高くなり、ターゲット部材の消費が速いという傾向があるため、端部領域のターゲット部材の厚みを大きくすることで、ターゲット寿命を延ばしてスパッタリングターゲットの交換頻度を下げることができる。
但し、隣り合うターゲット部材3、3の厚さが異なる部分を設ける場所は任意である。
【0022】
迫り出し部3Aaの迫り出し幅x、言い換えれば基材2Aの段差部2Cとターゲット部材3Aの迫り出し部3Aaの先端部との距離x、さらに言い換えれば基材2Aの段差部2Cと隙間4との距離xは1mm~20mmであるのが好ましい。
該迫り出した幅xが1mm以上であれば、それだけ隙間4の位置が基材2Aの段差部2Cから離れることになり、段差部2Cがスパッタされ難くなるから好ましい。他方、該迫り出した幅xが20mm以下であれば、迫り出し部3Aaの冷却効率が落ち、スパッタにより迫り出し部3Aaが局所的に加熱されることによる、割れやアーキングなどの異常が発生することを防ぐことができるから好ましい。
かかる観点から、該迫り出した幅xは1mm以上であるのが好ましく、中でも3mm以上、その中でも4mm以上、その中でも5mm以上であるのがさらに好ましい。他方、20mm以下であるのが好ましく、中でも15mm以下、その中でも12mm以下であるのがさらに好ましい。
【0023】
また、前記迫り出し部3Aaの迫り出し幅xは、基材2における段差部2Cの高さzに応じて調整するのが好ましいから、段差部2Cの高さzの30~500%であるのが好ましく、中でも50%以上或いは400%以下、その中でも100%以上或いは300%以下であるのがさらに好ましい。
【0024】
隣り合うターゲット部材3A、3Bの隙間4の幅y、言い換えれば、ターゲット部材3Aにおける迫り出し部3Aaの端部と、ターゲット部材3Bの端部3Baとの距離yは0.1mm~0.6mmであるのが好ましい。
ターゲット部材3A、3Bの隙間4の幅yが0.1mm以上であれば、熱膨張によってターゲット部材3A、3Bが衝突して割れたりするのを防ぐことができるので好ましい。0.6mmよりも距離が大きくなると、その分ターゲット部材がスパッタされず、膜特性に異常が発生するため、0.6mm以下であることが好ましい。
かかる観点から、ターゲット部材3A、3Bの隙間4の幅yは0.1mm以上であるのが好ましく、中でも0.15mm以上、その中でも0.2mm以上であるのがさらに好ましい。他方、0.6mm以下であるのが好ましく、中でも0.5mm以下、その中でも0.4mm以下であるのがさらに好ましい。
【0025】
なお、隣り合うターゲット部材3、3の厚さが相互に異なる部分の構造は、上記以外の点では、隣り合うターゲット部材3、3の厚さが同じ部分の構造と同じである。
ターゲット部材3(ターゲット部材3A、3Bを包含する)の厚みは、特に限定するものではないが、2mm~20mmであるのが通常であり、中でも4mm以上或いは14mm以下であるのが好ましい。
【0026】
(伝熱層7)
さらに、上記ターゲット部材3Aの迫り出し部3Aaの裏面に、少なくとも該ターゲット部材3Aよりも熱伝導率の高い材料からなる伝熱層7を設けるのが好ましい。
迫り出し部3Aaの裏面に、熱伝導率の高い材料からなる伝熱層7を設けることにより、スパッタリングの際において、迫り出し部3Aaの温度上昇を抑える冷却効果を付与することができ、その結果、割れやアーキングの発生、また、迫り出し部3Aaの変色を抑えることができる。ちなみに、温度が上昇する可能性があるのは、迫り出し部3Aaのみであると考えられる。
この際、ターゲット部材3Aがセラミックス製である場合、ターゲット部材3Aよりも熱伝導率の高い材料としては、インジウム、各種の金属、合金などを挙げることができる。中でも、基材2とターゲット部材3を接合する接合材6は、通常はインジウムなどの熱伝導率の高い材料が使われるから、迫り出し部3Aaの裏面にも接合材6を塗布して、接合材6からなる伝熱層7を形成するのが好ましい。
【0027】
(基材2)
基材2は、板状又は円筒状を呈するものを挙げることができる。但し、これらの形状に限定されるものではない。
【0028】
基材2は、段差部2Cを介して、厚さの大きな部分(基材2A)と厚さの小さな部分(基材2B)とを備えていれば、厚さ方向に一つの部材からなる一体のものであってもよいし、厚さ方向に複数の部材が積層して段差部2Cを形成してなるものであってもよい。
例えば、一つの部材の一部を切除するなどして、厚さの大きな部分(基材2A)と厚さの小さな部分(基材2B)とを段差部2Cを介して設けることができる。
また、一つの部材の上に別の部材を積層して、厚さの大きな部分(基材2A)と厚さの小さな部分(基材2B)とを段差部2Cを介して設けることができる。
【0029】
基材2の厚さは、特に限定するものではない。
他方、厚さの小さな部分(基材2B)の厚さは、ターゲット部材3A、3Bのスパッタ面が同じ高さになるように、これらターゲット部材3A、3Bの厚さに応じて決定するのが好ましい。すなわち、ターゲット部材3Aの厚さと基材2Aの厚さの合計と、ターゲット部材3Bの厚さと基材2の厚さの合計が同じになるようにするのが好ましい。
【0030】
基材2の材料は、Ti、SUS又はCu等の単独金属またはそれらの合金であればよい。但し、これらに限定するものではない。
【0031】
<ターゲット部材3>
ターゲット部材3は、板状又は円筒状を呈するものを挙げることができる。但し、これらの形状に限定されるものではない。
【0032】
また、ターゲット部材3Aと3Bとの厚さの差は、スパッタリング設備の仕様に応じて決定するのが好ましい。ターゲットの裏面に設置されるマグネットの磁力分布等によって生じるスパッタ率の差に応じて適宜選択することができるが、通常、ターゲット部材3Aの30%~100%であるのが好ましい。当該差がスパッタ率の差に対して、小さすぎれば交換頻度を効果的に下げることができなくなり、大きすぎれば、ターゲットと基板間の距離が小さくなり、所望の膜質を得られない場合がある。
【0033】
ターゲット部材3は、その材料を特に限定するものではない。例えばCu、Al、In、Sn、Ti、Ba、Ca、Zn、Mg、Ge、Y、La、Al、Si、Ga、Wのいずれか一種以上を含む金属または酸化物(この酸化物を「セラミックス」とも称する)を挙げることができる。
前記酸化物としては、例えば、In-Sn-O、In-Ti-O、In-Ga-Zn-O、Ga-Zn-O、In-Zn-O、In-W-O、In-Zn-W-O、Zn-O、Sn-Ba-O、Sn-Zn-O、Sn-Ti-O、Sn-Ca-O、Sn-Mg-O、Zn-Mg-O、Zn-Ge-O、Zn-Ca-O、Zn-Sn-Ge-O、Cu2O、CuAlO2、CuGaO2、CuInO2などを挙げることができる。
【0034】
(保護部材5)
保護部材5は、隣り合うターゲット部材3,3間の隙間4に沿って、該ターゲット部材3と基材2との間に介在され、該隙間4において露出する基材2の表面を覆うように配置されている。
保護部材5が、露出する基材2の表面を覆うから、スパッタリング時に、該隙間4において基材2表面がスパッタされて、該基材2の構成材料が、成膜する薄膜中に混入するのを防ぐことができる。
【0035】
保護部材5の平面視形状としては、例えば矩形状、帯状、十字帯状、格子枠状などを挙げることができる。但し、これらの平面視形状に限定するものではない。
また、保護部材5は、
図4に示すように、断面視形状として、段差部2Cを被覆するように、L字状を呈するものでもよい。
【0036】
保護部材5の厚さは特に限定するのではない。但し、取り扱いの観点から、100μm以上であるのが好ましく、中でも200μm以上、その中でも300μm以上であるのがさらに好ましい。他方、接合層の厚みの観点から、1000μm以下であるのが好ましく、中でも900μm以下、その中でも800μm以下であるのがさらに好ましい。
【0037】
保護部材5は、単層構造のものであっても、厚さ方向に2層以上を積層してなる複層構造のものであってもよい。
【0038】
保護部材5が単層構造の場合の材料、及び、複層構造の場合の表面層の材料は、成膜する薄膜に混入しても悪影響を与えない材料、若しくは、スパッタリング現象を抑制できる材料から構成されることが好ましい。
成膜する薄膜に混入しても悪影響を与えない材料としては、例えば、ターゲット部材3の組成を構成する元素の全部或いはその一部、これらの元素を含む合金や酸化物などを用いることができる。
他方、スパッタリング現象を抑制できる材料としては、例えば、ターゲット部材3よりもその体積抵抗が大きな物質、即ち高抵抗物質を隙間配置部材の材料として用いることができる。このような高抵抗物質を隙間配置部材の材料として用いる場合、高抵抗物質の体積抵抗率(Ω・cm)がターゲット部材3の体積抵抗率の10倍以上の値を有するものであることが好ましい。
【0039】
保護部材5が単層構造の場合の材料、及び、複層構造の場合の表面層の材料の具体例として、ターゲット部材3を構成する金属材料、又は、セラミックス材料、又は、高分子材料、又は、これら2種類以上の複合材料を挙げることができる。
この際、セラミックス材料としては、ターゲット部材3と同組成か、或いは一部の組成がターゲット部材3と同じ材料からなるセラミックス材料か、若しくは、ZrO2、Al2O3などの体積抵抗が高いセラミックス材料が好ましい。体積抵抗が高いセラミックス材料であれば、スパッタリングの際に分割部分へのプラズマの進入が抑制され、ZrやAlのスパッタリングが効果的に防止できる。
【0040】
ここで、前記のターゲット部材3を構成する金属材料としては、例えば、ターゲット部材3がIGZO(In-Ga-Zn-O)であれば、In、Zn及びGaのいずれか一種以上の金属材料であればよく、ターゲット部材3がIZO(In-Zn-O)であれば、In又はZnの金属材料であればよい。
【0041】
前記のセラミックス材料としては、In、Zn、Al、Ga、Zr、Ti、Sn、Mgのいずれか一種以上を含む酸化物又は窒化物からなる材料を挙げることができる。具体的には、例えばIn2O3、ZnO、Al2O3、ZrO2、TiO2、IZO、IGZOなどや、ZrN、TiN、AlN、GaN、ZnN、InNなどを挙げることができる。
【0042】
他方、保護部材5が複層構造の場合の裏面層の材料としては、基材2との線膨張率差が小さく、接合材6(例えばIn半田)と反応しにくい材料であることが好ましい。
かかる観点から、金属材料、又は、セラミックス材料、又は、これらの複合材料を挙げることができる。金属材料としては、例えばCu、Al、Ti、Ni、Zn、Cr、Feのいずれかの単金属またはこれらのいずれかを含む合金を挙げることができる。
【0043】
また、保護部材5が3層以上の複層構造の場合、中間層は表面層及び裏面層と接合性が好ましく、且つ、中間層を構成する材料の線膨張率が、表面層及び裏面層を構成する材料の線膨張率の中間値となるように設計するのが好ましい。
【0044】
(接合材6)
基材2とターゲット部材3、並びに、基材2と保護部材5は、接合材6によって互いに接合されている。
接合材6としては、この種のターゲット部材3と基材2との接合に用いられ得るものであれば特に限定されない。例えばInメタル、In-Snメタル、又は、Inに微量金属成分を添加したIn合金メタル等の半田金属又は半田合金を挙げることができる。
【0045】
<用途>
本スパッタリングターゲットは、例えば、酸化物半導体薄膜を成膜する際のスパッタリングターゲットなどとして好適に用いることができる。但し、この用途に限定するものではない。
【0046】
<本スパッタリングターゲットの製造>
基材2の表面に所定の間隔をおいて複数の保護部材5を配置し、接合材6によって両者を接合する。
次に、ターゲット部材3の裏面側に接合材6を塗布しておき、保護部材5の表面側に複数のターゲット部材3を、隣り合うターゲット部材3,3との間に隙間4を設けて配置する。このとき、保護部材5が隙間4に沿って、ターゲット部材3と基材2との間に介在するように配置し、保護部材5、基材2、ターゲット部材3を、接合材6によって接合すればよい。
【0047】
この際、上述したように、上記ターゲット部材3Aの迫り出し部3Aaの裏面にも、熱伝導率がターゲット部材3Aよりも高い材料からなる接合材6を塗布するのが好ましい。
接合材6として、ターゲット部材3Aよりも熱伝導率の高い材料を選択して、迫り出し部3Aaの裏面に接合材6を塗布して伝熱層7を設けることにより、スパッタリングの際において、迫り出し部3Aaの温度上昇を抑える冷却効果を付与することができ、その結果、アーキングの発生、および迫り出し部3Aaの変色を抑えることができる。
【0048】
但し、このような方法は、本スパッタリングターゲット1の製造方法の一例であって、この方法に限定するものではない。
【0049】
<語句の説明>
本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
また、「X≦」(Xは任意の数字)或いは「Y≧」(Yは任意の数字)と表現した場合、「X<であることが好ましい」或いは「Y>であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0050】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が、ここで説明する実施例に限定されるものではない。
【0051】
<実施例1>
図5に示すように、隙間4を介して隣り合うターゲット部材3A、3Bの厚さが相互に異なり、段差部2Cを介して厚さの異なる基材2を用いて、直径152.4mmの円盤状のスパッタリングターゲット1を作製した。
【0052】
ターゲット部材3A、3Bは次のように製造した。
原料のIn2O3、Ga2O3、ZnOの各原料粉末を1:1:2のmol比で秤量し、20時間のボールミルによる混合処理をした。そして、バインダーとして4質量%に希釈したポリビニルアルコール水溶液を、粉総量に対して8質量%添加して混合した後、500kgf/cm2の圧力で円板状に成型した。その成形体を大気中1400℃で焼成処理をして円板状の焼結体を得た。そして、この焼結体を平面研削機により両面を研磨して、直径152.4mm×厚さ10mmと直径152.4mm×厚さ5mmの円盤加工体を製造した。その後、分割位置に合わせて、円盤加工体をそれぞれ半分に切断加工し、厚さ5mmのIGZO製ターゲット部材3Aと厚さ10mmのIGZO製ターゲット部材3Bを製造した。
【0053】
基材2として、無酸素銅(Cu)からなり、中心部に高さ5mmの段差部2Cを設けて、厚さ10mmの厚肉部と厚さ5mmの薄肉部とを備えた、直径180mmの円板状の基材を用意した。
保護部材5としては、厚み0.5mm、幅20mmの帯状のCu金属箔の上に、溶射によって、厚み100μmのAl2O3からなる層を形成したものを用いた。
【0054】
ターゲット部材3Aの裏面全面に、接合材6と同じ材料からなる、低融点半田であるInを予め塗布した。すなわち、ターゲット部材3Aの迫り出し部3Aaの裏面にInからなる伝熱層7を形成した。
そして、互いのスパッタ面が同じ高さになり、ターゲット部材3A、3B間に幅(y)0.5mmの隙間4を設けるように、基材2上にターゲット部材3A、3Bを配置すると共に、厚さが小さな方のターゲット部材3Aの端部が、基材2の段差部2Cから迫り出すように配置した。この際、迫り出し部3Aaの幅x、言い換えれば、段差部2Cと隙間4との距離xが5mmとなるように配置した。そして、低融点半田であるInからなる接合材6により、ターゲット部材3A、3Bと基材2とを接合して、スパッタリングターゲット1(サンプル)を作製した。
【0055】
<実施例2>
ターゲット部材3Aの迫り出し部3Aaの裏面に低融点半田であるInを予め塗布しなかったこと以外、実施例1と同様に、スパッタリングターゲット1(サンプル)を作製した。
【0056】
<実施例3>
ターゲット部材3Aの迫り出し部3Aaの幅xが、10mmとなるようにしたこと以外、実施例1と同様に、スパッタリングターゲット1(サンプル)を作製した。
【0057】
<実施例4>
ターゲット部材3Aの迫り出し部3Aaの裏面に低融点半田であるInを予め塗布しなかった以外、実施例3と同様に、スパッタリングターゲット1(サンプル)を作製した。
【0058】
<実施例5>
ターゲット部材3Aの迫り出し部3Aaの幅xが、20mmとなるようにしたこと以外、実施例1と同様に、スパッタリングターゲット1(サンプル)を作製した。
【0059】
<実施例6>
ターゲット部材3Aの迫り出し部3Aaの裏面に低融点半田であるInを予め塗布しなかった以外、実施例5と同様に、スパッタリングターゲット1(サンプル)を作製した。
【0060】
<比較例1>
ターゲット部材3Aの端部が、基材2の段差部2Cから迫り出すことのないように配置し、段差部2Cと隙間4との距離xが0mmとなるようにしたこと以外、実施例1と同様に、スパッタリングターゲット(サンプル)を作製した。
【0061】
=作製したスパッタリングターゲットの評価=
実施例及び比較例で作製したスパッタリングターゲット(サンプル)を次のように評価した。
【0062】
<スパッタ評価試験>
(Cu混入量)
実施例及び比較例で作製したスパッタリングターゲット(サンプル)を用いて、下記条件でスパッタリングを行い、無アルカリガラス基板(日本電気硝子社製)に厚み14μmのIGZO薄膜を成膜し、IGZO薄膜付基板を得た。
そして、このIGZO薄膜付基板における、スパッタリングターゲット(サンプル)の隙間4に相当する該隙間4の直上部分を切り出して、原子吸光分析により、基材の構成材料であるCuがIGZO薄膜中に含まれる量(「Cu混入量」と称する)を測定した。
【0063】
(スパッタリング条件)
装置:DCマグネトロンスパッタ装置、排気系クライオポンプ、ロータリーポンプ
到達真空度:3×10-6Pa
スパッタ圧力:0.4Pa
酸素分圧:1×10-3Pa
投入電力量時間:2W/cm2
時間:10時間
【0064】
(アーキング評価)
また、アーキングカウンター(LANDMARK TECHNOLOGY社製、型式:μArc Moniter MAM Genesis MAM データコレクター Ver.2.02)を用いて、10時間で発生したアーキング回数を測定し、分割がないターゲットでのアーキング回数に対して120%より少ない場合「少」、120~150%の場合「中」、150%より多い場合「多」と評価した。
【0065】
(迫り出し部の変色評価)
さらに、スパッタリング後のエロージョン部に位置する隙間の外観を観察し、黒色に変色したか否かを評価し、変色しなかった場合「異常なし」、変色した場合は「変色」と評価した。
この変色は、迫り出し部の冷却が追い付かず、局所的に温度上昇が発生した結果、ターゲット材が変性したために発生したと推測される。
【0066】
【0067】
上記実施例・比較例及びこれまで本発明者が行ってきた試験結果から、隙間を介して隣り合うターゲット部材の厚さが相互に異なり、これら隣り合うターゲット部材のスパッタ表面の高さが同じになるように、これら隣り合うターゲット部材の裏面側の基材の厚さが、段差部を介して異なっている構成において、厚さが小さな方のターゲット部材の端部を、該基材の段差部よりも迫り出させることにより、該段差部が保護部材によって被覆されていなくても、基材の構成材料(例えばCuなど)が薄膜中に混入するのを防ぐことができることが分かった。
【0068】
また、厚さが小さな方のターゲット部材における、基材の段差部よりも迫り出した部分、すなわち迫り出し部の裏面には接合材が接触しないため、接合材による冷却効果を得ることができず、割れやアーキングが発生する可能性がある。
そこで、実施例1,3,5のように、迫り出し部の裏面に、接合材と同じ材料を塗布して伝熱層を形成したことにより、冷却効果を得ることができ、アーキングの発生を抑制できることが分かった。
また、迫り出し部の裏面に、接合材と同じ材料を塗布して伝熱層を形成したことにより、冷却効果を得ることができ、変色を防ぐことができることも分かった。
【符号の説明】
【0069】
1 スパッタリングターゲット
2 基材
2A 基材
2B 基材
2C 段差部
3 ターゲット部材
3A ターゲット部材
3B ターゲット部材
3Aa 迫り出し部
4 隙間
5 保護部材
6 接合材
7 伝熱層