(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】電池劣化判定システム、電池劣化判定装置及び電池劣化判定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20240125BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20240125BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20240125BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240125BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/367
G01R31/389
H01M10/48 P
H02J7/00 Q
(21)【出願番号】P 2022095019
(22)【出願日】2022-06-13
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】503374488
【氏名又は名称】株式会社トヨタシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100114306
【氏名又は名称】中辻 史郎
(74)【代理人】
【識別番号】100148655
【氏名又は名称】諏訪 淳一
(72)【発明者】
【氏名】高木 淳
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-112491(JP,A)
【文献】特開2019-090684(JP,A)
【文献】特開2014-048284(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0246173(US,A1)
【文献】特開2010-127729(JP,A)
【文献】特開2020-125968(JP,A)
【文献】国際公開第2022/255480(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第112379280(CN,A)
【文献】国際公開第2022/244378(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/003841(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/170621(WO,A1)
【文献】特開2001-6756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/36-31/44、
H02J 7/00-7/12、
7/34-7/36、
H01M 10/42-10/48、
B60L 1/00-3/12、
7/00-13/00、
15/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項3】
前記等価回路は、
前記メインタンク回路と、
第2の抵抗素子(D)と、少なくとも第1のサブタンク回路と、第2のサブタンク回路
とを直列接続した回路構成であり、
前記第1のサブタンク回路は、第3の抵抗素子(R1)と、第2の容量素子(C1)と
を並列に接続した回路であり、前記第2のサブタンク回路は、第4の抵抗素子(R2)と
第3の容量素子(C2)とを並列に接続した回路である
請求項1に記載の電池劣化判定システム。
【請求項7】
前記劣化判定手段は、
前記二次電池の充電時の充電特性が、出荷前の充電特性に比較して電圧の上昇が早くな
るような第1の等価回路定数及び/又は、放電時の放電特性が、出荷前の放電特性に比較
して電圧の下降が早くなるような第1の等価回路定数である場合に劣化と判定する請求項
2に記載の電池劣化判定システム。
【請求項9】
二次電池の劣化判定を行う電池劣化判定装置を有する電池劣化判定システムにおける電池劣化判定方法であって、
前記電池劣化判定装置が、前記二次電池の充放電特性値を計測する計測工程と、
前記電池劣化判定装置が、前記計測工程により計測された前記充放電特性値に基づいて、
定電圧電源を有さず、第1の抵抗素子
(R0)と、第1の容量素子
(C0)とを並列
に接続したメインタンク回路
を電源とした等価回路における第1の等価回路定数を算出する算出工程と、
前記電池劣化判定装置が、少なくとも前記
算出工程により算定された第1の等価回路定数に基づいて、前記二次電池の劣化判定を行う劣化判定工程と
を含む電池劣化判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の劣化判定を迅速かつ効率的に行うことができる電池劣化判定システム、電池劣化判定装置及び電池劣化判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の車両の急激な電動化に伴って車両用の二次電池の需要が増加しており、かかる状況に伴って二次電池の再利用のニーズも増している。車両が廃車となったならば、この車両から二次電池を取り出してリサイクル会社に送られ、リサイクル会社において二次電池の劣化判定が行われる。そして、劣化判定の結果、二次電池が再利用可能であると判定された場合には、リビルドして中古市場で利用される。
【0003】
このため、かかる二次電池の劣化判定を行う従来技術が知られている。例えば、特許文献1には、前回の満充電容量から走行期間中の使用電気量及び走行期間後の残存容量を減じた値に基づいて、走行期間中の二次電池の負極副反応電流を測定し、負極副反応電流に基づいて被膜量を推定し、この被膜量に基づいて二次電池の劣化状態を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のものは、充電器において劣化判定するものであり、走行期間中の使用電気量及び走行期間後の残存容量を取得する必要があるため、リサイクル会社において二次電池の劣化判定を行う場合に利用することができない。このため、リサイクル会社において二次電池を満充電し、その後放電させて充放電特性を取得し、充放電特性に基づいて劣化判定をせざるを得ないことになるが、かかる充放電特性を取得するためには多大の時間を要する。
【0006】
本発明は、上記従来技術による問題点(課題)を解決するためになされたものであって、二次電池の劣化判定を迅速かつ効率的に行うことができる電池劣化判定システム、電池劣化判定装置及び電池劣化判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、二次電池の劣化判定を行う電池劣化判定装置を有する電池劣化判定システムであって、前記電池劣化判定装置は、前記二次電池の充放電特性値を計測する計測手段と、前記計測手段により計測された前記充放電特性値に基づいて、定電圧電源を有さず、第1の抵抗素子(R0)と、第1の容量素子(C0)とを並列に接続したメインタンク回路を電源とした等価回路における第1の等価回路定数を算出する算出手段と、少なくとも前記算出手段により算定された第1の等価回路定数に基づいて、前記二次電池の劣化判定を行う劣化判定手段とを備える。
【0008】
また、本発明は、上記発明において、前記電池劣化判定装置は、前記二次電池の出荷前における第2の等価回路定数を記憶する記憶手段をさらに備え、前記劣化判定手段は、前記算出手段により算出された前記第1の等価回路定数と、前記記憶手段に記憶された第2の等価回路定数とに基づいて、前記二次電池の劣化判定を行う。
【0009】
また、本発明は、上記発明において、前記等価回路は、前記メインタンク回路と、第2
の抵抗素子と、少なくとも第1のサブタンク回路と、第2のサブタンク回路とを直列接続
した回路構成であり、前記第1のサブタンク回路は、第3の抵抗素子と、第2の容量素子
とを並列に接続した回路であり、前記第2のサブタンク回路は、第4の抵抗素子と第3の
容量素子とを並列に接続した回路である。
【0010】
また、本発明は、上記発明において、前記第1の等価回路定数は、前記第1の抵抗素子の抵抗値、前記第1の容量素子の容量値、前記第2の抵抗素子の抵抗値、少なくとも前記
第3の抵抗素子と前記第4の抵抗素子の抵抗値及び少なくとも前記第2の容量素子と前記
第3の容量素子の容量値を含む。
【0011】
また、本発明は、上記発明において、前記計測手段は、複数の異なるサンプリング時間で複数の充放電特性値を計測し、前記算出手段は、前記複数の充放電特性値に基づいて時間によって変化する第1の等価回路定数を算出する。
【0012】
また、本発明は、上記発明において、前記劣化判定手段は、前記第1の等価回路定数と前記第2の等価回路定数との差が所定の閾値以上であるか否かにより前記二次電池の劣化判定を行う。
また、本発明は、上記発明において、前記劣化判定手段は、前記二次電池の充電時の充
電特性が、出荷前の充電特性に比較して電圧の上昇が早くなるような第1の等価回路定数
及び/又は、放電時の放電特性が、出荷前の放電特性に比較して電圧の下降が早くなるよ
うな第1の等価回路定数である場合に劣化と判定する。
【0013】
また、本発明は、二次電池の劣化判定を行う電池劣化判定装置であって、前記二次電池の充放電特性値を計測する計測手段と、前記計測手段により計測された前記充放電特性値に基づいて、定電圧電源を有さず、第1の抵抗素子(R0)と、第1の容量素子(C0)
とを並列に接続したメインタンク回路を電源とした等価回路における第1の等価回路定数を算出する算出手段と、少なくとも前記算出手段により算定された第1の等価回路定数に基づいて、前記二次電池の劣化判定を行う劣化判定手段とを備える。
【0014】
また、本発明は、二次電池の劣化判定を行う電池劣化判定装置を有する電池劣化判定システムにおける電池劣化判定方法であって、前記電池劣化判定装置が、前記二次電池の充放電特性値を計測する計測工程と、前記電池劣化判定装置が、前記計測工程により計測された前記充放電特性値に基づいて、定電圧電源を有さず、第1の抵抗素子(R0)と、第1の容量素子(C0)とを並列に接続したメインタンク回路を電源とした等価回路における第1の等価回路定数を算出する算出工程と、前記電池劣化判定装置が、少なくとも前記算出工程により算定された第1の等価回路定数に基づいて、前記二次電池の劣化判定を行う劣化判定工程とを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、二次電池の劣化判定を迅速かつ効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る電池劣化判定システムの概要を説明するための説明図である。
【
図2】
図2は、電池劣化判定システムのシステム構成を示す図である。
【
図3】
図3は、
図2に示した二次電池の等価回路の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、
図2に示した電池劣化判定装置の構成を説明する機能ブロック図である。
【
図5】
図5は、充放電特性とサンプリング時間t
S=50msとした場合の計測点の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、充放電特性とサンプリング時間t
S=400msとした場合の計測点の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、充放電特性とサンプリング時間t
S=900msとした場合の計測の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、異なるサンプリング時間t
Sの計測値に基づく等価回路定数の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、時定数の時間変化の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、二次電池の放電特性の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、二次電池の初期の充放電特性と所定期間使用した二次電池の充放電特性を比較した一例を示す図である。
【
図12】
図12は、
図2に示した電池劣化判定装置の処理手順を示すフローチャート(その1)である。
【
図13】
図13は、
図2に示した電池劣化判定装置の処理手順を示すフローチャート(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る電池劣化判定システム、電池劣化判定装置及び電池劣化判定方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
<電池劣化判定システムの概要>
まず、本実施形態に係る電池劣化判定システムの概要について説明する。
図1は、本実施形態に係る電池劣化判定システムの概要を説明するための説明図である。
図1に示すように、電池劣化判定システムは、電池劣化判定装置10を用いて新品の二次電池の充放電特性を計測し(S1)、計測した二次電池の充放電特性に基づいて新品の二次電池の初期等価回路定数を算出し、記憶する(S2)。
【0019】
そして、所定期間使用した二次電池20を電池劣化判定装置10を用いて、二次電池20の充放電特性を計測し(S3)、所定期間使用した二次電池20の等価回路定数を算出し、記憶する(S4)。電池劣化判定装置10は、あらかじめ記憶している初期等価回路定数と、所定期間使用した二次電池20の等価回路定数を比較し(S5)、等価回路定数の変化により二次電池20の劣化を判定する。
【0020】
具体的には、等価回路定数の変化が所定の閾値以内であった場合は、二次電池20は劣化していない(良品)と判定し、等価回路定数の変化が所定の閾値より大きい場合は、二次電池20は劣化している(不良品)と判定する。
【0021】
<電池劣化判定システムのシステム構成>
次に、電池劣化判定システムのシステム構成について説明する。
図2は、電池劣化判定システムのシステム構成を示す図である。
図2に示すように、電池劣化判定システムは、電池劣化判定装置10に定電流電源30、定電流負荷31、スイッチ32、電流センサ33及び電圧センサ34が接続されている。そして電池劣化判定システムは、二次電池20の充放電特性を計測し、等価回路定数を計測した充放電特性より算出し、算出された等価回路定数の変化が初期の等価回路定数と比較して、所定の閾値以内である場合は、二次電池20は劣化していないと判定し、等価回路定数の変化が所定の閾値より大きい場合は、二次電池20は劣化していると判定する。
【0022】
二次電池20は、充電及び放電を繰り返して使用できる電池で、例えばニッケル水素電池等である。定電流電源30は、二次電池20を充電する場合に一定の電流を流す電源である。定電流負荷31は、二次電池20を放電する場合に一定の電流を流して放電する負荷装置である。
【0023】
スイッチ32は、二次電池20を充電する場合には、二次電池20に定電流電源30を接続し、二次電池20を放電する場合は、二次電池20に定電流負荷31を接続するように切り替えるスイッチである。電流センサ33は、定電流電源30から二次電池20に流れ込む電流及び二次電池20から定電流負荷31へ流れ出る電流を計測するセンサである。電圧センサ34は、二次電池20の端子電圧を計測する電圧センサである。
【0024】
具体的には、
図2に示すように、電池劣化判定装置10は、定電流電源30及び定電流負荷31の電源を投入し設定を初期化する(S11)。そして、電池劣化判定装置10は、スイッチ32を制御し、定電流電源30を二次電池20に接続し、二次電池20を充電する(S12)。電池劣化判定装置10は、電流センサ33より二次電池20の充電時に二次電池20に流れ込む電流を計測し記憶するとともに、電圧センサ34より二次電池20の充電時の端子電圧のデータを取得し、記憶する(S13)。
【0025】
そして、電池劣化判定装置10は、スイッチ32を制御し、二次電池20を定電流負荷31に接続し、二次電池20を放電する(S14)。電池劣化判定装置10は、電流センサ33より二次電池20の放電時に二次電池20から流れる電流を計測し記憶するとともに、電圧センサ34より二次電池20の放電時の端子電圧のデータを取得し、記憶する(S15)。
【0026】
その後、電池劣化判定装置10は、二次電池20の充放電時の時間に対する端子電圧のデータから等価回路定数を算出する(S16)。そして、電池劣化判定装置10は、算出した等価回路定数と、あらかじめ記憶してある二次電池20の初期の等価回路定数を比較し、等価回路定数の変化が予定の閾値以内である場合には、二次電池20は良品と判定し、等価回路定数の変化が所定の閾値より大きい場合は、二次電池20は不良品と判定する(S17)。
【0027】
<二次電池20の等価回路>
次に、二次電池20の等価回路について説明する。
図3は、
図2に示した二次電池20の等価回路の一例を示す図である。
図3に示すように、等価回路は、抵抗素子R0と、容量素子C0とを並列に接続したメインタンク回路と、抵抗素子Dと、抵抗素子R1と、容量素子C1とを並列に接続した第1のサブタンク回路と、抵抗素子R2と容量素子C2とを並列に接続した第2のサブタンク回路と、抵抗素子R3と、容量素子C3とを並列に接続した第3のサブタンク回路とが直列接続されている。
【0028】
<電池劣化判定装置10の構成>
次に、電池劣化判定装置10の構成について説明する。
図4は、
図2に示した電池劣化判定装置10の構成を説明する機能ブロック図である。
図4に示すように、電池劣化判定装置10は、表示部11、入力部12、記憶部13及び制御部14を有する。また、電池劣化判定装置10は、定電流電源30、定電流負荷31、スイッチ32,電流センサ33及び電圧センサ34が接続されている。
【0029】
表示部11は、液晶パネル又はディスプレイ装置等の表示デバイスであり、入力部12は、テンキーやマウスなどの入力デバイスである。
【0030】
記憶部13は、ハードディスク装置や不揮発性メモリなどの記憶デバイスであり、初期設定データ13aと、初期等価回路定数13bと、電流・電圧データ13cと、等価回路定数13dとを記憶する。初期設定データ13aは、定電流電源30、定電流負荷31等の初期設定値(例えば、電流値を1Aに設定する)等のデータである。初期等価回路定数13bは、後述する手順で算出した二次電池20の初期の等価回路定数である。電流・電圧データ13cは、電流センサ33及び電圧センサ34で計測した二次電池20の電流及び電圧のデータである。等価回路定数13dは、後述する手順で算出した二次電池20の等価回路定数である。
【0031】
制御部14は、電池劣化判定装置10の全体を制御する制御部であり、初期設定部14aと、スイッチ制御部14bと、電流・電圧計測部14cと、等価回路定数算出部14dと、劣化判定部14eとを有する。実際には、これらのプログラムをCPUにロードして実行することにより、初期設定部14aと、スイッチ制御部14bと、電流・電圧計測部14cと、等価回路定数算出部14dと、劣化判定部14eとにそれぞれ対応するプロセスを実行させることになる。
【0032】
初期設定部14aは、定電流電源30及び定電流負荷31等に初期のパラメータを設定する処理を行う。例えば、電流値を1Aに設定を行う等である。
【0033】
スイッチ制御部14bは、二次電池20に定電流電源30を接続する処理及び二次電池20に定電流負荷31を接続する処理を行う。スイッチの制御は、あらかじめ決めたれた充電時間及び放電時間に合わせてスイッチを制御し、定電流電源30あるいは定電流負荷31の接続を切り替える。
【0034】
電流・電圧計測部14cは、電流センサ33から二次電池20を充電する場合には、二次電池20に流れ込む電流値を取得し、二次電池20を放電する場合には、二次電池20から流れる電流値を取得する。また、二次電池20の端子の電圧値を電圧センサ34から取得し、電流・電圧データ13cとして記憶部13に記憶する処理を行う。
【0035】
等価回路定数算出部14dは、後述する手順に従い
図2に示した等価回路の抵抗素子及び容量素子の素子値等の等価回路定数を算出する処理を行う。
【0036】
劣化判定部14eは、二次電池20の初期の等価回路定数と、計測した二次電池20の等価回路定数を比較し、等価回路定数の変化が所定の閾値以内である場合は、二次電池20は良品と判定し、等価回路定数の変化が所定の閾値より大きい場合は、二次電池20は不良品であると判定を行う。
【0037】
定電流電源30は、初期設定部14aで設定された一定の電流を二次電池20に流す電源である。定電流負荷31は、初期設定部14aで設定された一定の電流を二次電池20から流す負荷である。スイッチ32は、あらかじめ決められた時間で二次電池20に定電流電源30を接続するか、定電流負荷31を接続するかを切り替える。
【0038】
電流センサ33は、スイッチ32と二次電池20に直列に接続され、二次電池20を充電する場合は、二次電池20に流れ込む電流値を、二次電池20を放電する場合は、二次電池20から流れる電流値を計測する。電圧センサ34は、二次電池20の端子電圧の電圧値を計測する。
【0039】
<等価回路定数の算出について>
次に、
図3に示した等価回路の等価回路定数の算出について説明する。等価回路定数は、サンプリング時間t
Sの異なる複数の充電特性及び複数の放電特性を取得し、それぞれの等価回路定数を算出するとともに、最終的な等価回路定数は、その複数の等価回路定数の組み合わせを用いて二次電池20の充放電特性を計算する。ここでは、サンプリング時間t
S(ms)を50ms、400ms、900msの3種類を用いた場合について説明する。
【0040】
まず、充電電圧Vc(t)を求める。等価回路は
図3に示す等価回路を用いるとすると、充電電圧Vc(t)は、この等価回路に定電流Iを流した時には(1)式で表わされる。
【0041】
【数1】
ここで、時間t=0における容量素子C
iの両端の初期電圧をV0
i(i=0,1,2,3)とし、時定数τ
i=R
iC
i(i=0,1,2,3)と定義した。
【0042】
また、二次電池20の放電電圧Vd(t)は、放電開始の時間tを改めてt=0とすると(2)式で表わされる。
【0043】
【数2】
ここでVT
iは、時間t=0における各タンク回路の初期電圧である。ここで、a
i=VT
i(i=0,1,2,3)、x
i=e
-t/τ
i(i=0,1,2,3)とおくと、放電電圧V
d(t)は、(3)式で表わされる。
【0044】
【数3】
ここでVd(t)は、a
0、a
1、a
2、a
3、x
0、x
1、x
2、x
3の8個の未知数から求められるので、それらを未知数とする連立方程式から、未知数を代数の計算あるいは数値計算を用いることで算出することが可能となる。また、a
0、a
1、a
2、a
3、x
0、x
1、x
2、x
3が求まると
図3に示す等価回路の抵抗素子D、R
i及び容量素子C
iを算出することができる。
【0045】
次に、等価回路を算出するための電圧特性の取得について説明する。
図5は、充放電特性とサンプリング時間t
S=50msとした場合の計測点の一例を示す図である。
図5に示すように、充電開始時間t1よりt2までサンプリング時間50msで電圧を計測する。なお、ここでは、充電時間を8000ms、放電時間を8000msとした場合について説明する。サンプリング時間t
S=50msの場合は、t1=0msとするとt2=350ms、t3=8000ms、t4=8350msとなる。
【0046】
この計測では、充放電特性初期の急速に電圧が立ち上がった後、電圧の変化が緩やかになる部分の等価回路定数を算出することができる。
【0047】
次に充放電特性をサンプリング時間t
S=400msで計測した時の計測点について説明する。
図6は、充放電特性とサンプリング時間t
S=400msとした場合の計測点の一例を示す図である。
図6に示すように、充電開始時間t1よりt5までサンプリング時間t
S=400msで電圧を計測する。サンプリング時間t
S=400msの場合は、t5=2800msとなり、t6=10800msとなる。
【0048】
この計測では、充放電特性の初期から中期にかかる電圧の変化の部分の等価回路定数を算出することができる。
【0049】
次に充放電特性をサンプリング時間t
S=900msで計測した時の計測点について説明する。
図7は、充放電特性とサンプリング時間t
S=900msとした場合の計測の一例を示す図である。
図7に示すように、充電開始時間t1よりt7までサンプリング時間ts900msで電圧を計測する。サンプリング時間ts=900msの場合は、t7=6300msとなり、t8=14300msとなる。
【0050】
この計測では、充放電特性のなだらかに変化する電圧の部分の等価回路定数を算出することができる。
【0051】
次に、異なるサンプリング時間t
Sで計測した充放電特性の計測値に基づいて算出された等価回路定数について説明する。
図8は、異なるサンプリング時間t
Sの計測値に基づく等価回路定数の一例を示す図である。
【0052】
図8に示すように、サンプリング時間t
S=0.05sの場合の等価回路定数(時定数)は、τ
0=3866.9s、τ
1=0.063632s、τ
2=0.0061280s
である。サンプリング時間t
S=0.4sの場合の等価回路定数(時定数)は、τ
0=36536s、τ
1=0.93965s、τ
2=0.12048sである。また、サンプリング時間t
S=0.9sの場合の等価回路定数は、τ
0=71567s、τ
1=1.692s、τ
2=0.24380sである。このように等価回路定数(時定数)は、時間によって変化している。
【0053】
二次電池20の等価回路モデルは、時間により等価回路定数(時定数)が変化するため、タンク回路の両端の電圧値の連続性を考慮した等価回路モデルを考える。ここで、微小区間をΔtとすると、(1)式及び(2)式は、この微小区間において時定数τi(t)が一定とする。
【0054】
まず、放電部分において、二次電池20を充電したのち、放電を開始した時間をt=0とし、時間tにおける各タンク回路間の電圧をVi(t)(i=0,1,2,3)、時定数をτi(t)(i=0,1,2,3)とする。時間t1とt2が十分近い時間である場合は、t2における各タンク回路間の電圧Vi(t2)は、時間t1における各タンク回路間の電圧Vi(t1)を用いて(4)式のように表わされる。
【0055】
【数4】
(4)式において、正の整数n=0,1,2,…に対して、t
1=nΔt、t
2=(n+1)Δtとすることで、時間(n+1)Δtにおける二次電池20の電圧V
d((n+1)Δt)は、時間nΔtの各タンク回路の電圧Vi(nΔt)を用いて(5)式のように表わされる。なお、ここでサブタンク回路の時定数は一定とする。
【0056】
【数5】
(5)式からτ
0(nΔt)を導出すると(6)式が得られる。
【0057】
【数6】
サブタンク回路の時定数τ
iと、時間t=0の各タンク回路間の電圧V
i(0)を求めることで、(6)式より時定数τ
0(nΔt)を求めることができる。
【0058】
図9に、(6)式より二次電池20の実測した充放電特性の充放電曲線に基づいて数値計算を行った時定数τ
0の一例を示す。
図9に示すように、メインタンク回路の時定数τ
0は、時間の一次関数であることが分かる。なお、放電特性の放電開始から所定の時間(例えば、8秒)までの区間は、時定数τ
0(t)を時間の一次関数で表せないため、例えば、対数曲線で逐次近似し求める。
【0059】
次に、時間で変化する時定数τ
0に基づいて算出した放電特性を示す。
図10は、二次電池の放電特性の一例を示す図である。
図10に示すように、時間で変化する時定数τ
0に基づいて求めた放電特性は、実測値とほぼ同様の特性を示す。
【0060】
また、充電部分の時定数は、放電部分と同様に所定の時間以上では、時間の一次関数で表わされるが、充電開始から所定の時間(例えば、20秒)までは、対数曲線などでフィッティングを行い求める。そして、求められた充電部分及び放電部分の時定数を用いて、充電電圧及び放電電圧を求める電圧式を求めて等価回路モデルとする。
【0061】
<二次電池20の劣化判定>
次に、二次電池20の劣化の判定について説明する。
図11は、二次電池20の初期の充放電特性と所定期間使用した二次電池20の充放電特性を比較した一例を示す図である。
図11に示すように、所定期間使用した二次電池20の充放電特性は、二次電池20の初期の特性に比較して電圧の上昇が早くなり、放電の場合も電圧降下が初期の二次電池20の特性よりも早くなる。
【0062】
電池劣化判定装置10は、この所定期間使用後の二次電池20の充放電特性に基づいて、等価回路定数を算出し、算出された等価回路定数を初期の等価回路定数と比較し、等価回路定数の変化が所定の閾値以内であるか否かで二次電池20の劣化を判定する。
【0063】
具体的には、所定期間使用後の二次電池20の等価回路定数と、初期の二次電池20の等価回路定数を比較し、所定の閾値以下の変化の場合は、二次電池20は良品と判定し、所定の閾値より大きな変化がある場合は、二次電池20は不良品と判定する。
【0064】
<電池劣化判定装置10の処理手順>
次に電池劣化判定装置10の処理手順について説明する。
図12及び
図13は、
図2に示した電池劣化判定装置10の処理手順を示すフローチャートである。
図12に示すように、電池劣化判定装置10は、まず、定電流電源30及び定電流負荷31の電流値等の初期設定を行う(ステップS101)。
【0065】
そして、電池劣化判定装置10は、スイッチ32を制御し定電流電源30を二次電池20に接続し、所定の一定電流で二次電池20を充電する(ステップS102)。電池劣化判定装置10は、電流センサ33及び電圧センサ34より電流値及び電圧値を取得し、その計測値を電流・電圧データ13cとして記憶部13に記憶する(ステップS103)。
【0066】
電池劣化判定装置10は、所定の時間を経過したか否かを判定し(ステップS104)、所定の時間を経過していない場合は(ステップS104;No)、ステップS103に移行し、計測を続行する。ここで、所定の時間とは、例えば、サンプリング時間tS=50msの場合は、350ms、サンプリング時間tS=400msの場合は、2800ms、サンプリング時間tS=900msの場合は、6300msである。
【0067】
これに対して、所定の時間を経過している場合は(ステップS104;Yes)、スイッチ32を制御し、定電流負荷31に二次電池20を接続し、所定の電流で二次電池20を放電する(ステップS105)。電池劣化判定装置10は、電流センサ33及び電圧センサ34より電流値及び電圧値を取得し、その計測値を電流・電圧データ13cとして記憶部13に記憶する(ステップS106)。
【0068】
電池劣化判定装置10は、所定の時間を経過したか否かを判定し(ステップS107)、所定の時間を経過していない場合は(ステップS107;No)、ステップS106に移行し、計測を続行する。
【0069】
これに対して、所定の時間を経過している場合は(ステップS107;Yes)、異なるサンプリング時間で計測が完了したか否かを判定する(ステップS108)。計測が終了していない場合は(ステップS108;No)、ステップS102に以降し、異なるサンプリング時間で充放電特性の計測を行う。
【0070】
電池劣化判定装置10は、異なるサンプリング時間での計測が完了した場合は(ステップS108;Yes)、記憶した電圧の計測値に基づいて二次電池20の等価回路定数を算出する(ステップS109)。そして、電池劣化判定装置10は、初期等価回路定数13bと算出した等価回路定数を比較し、等価回路定数の変化が所定の閾値以内か否かを判定する(ステップS110)。
【0071】
等価回路定数の変化が所定の閾値以内であった場合は(ステップS110;Yes)、二次電池20を良品と判定し(ステップS111)、一連の処理を終了する。これに対して、等価回路定数の変化が所定の閾値より大きい場合は(ステップS110;No)、二次電池20を不良品と判定し(ステップS112)、一連の処理を終了する。
【0072】
上述してきたように、本実施形態では、複数のサンプリング時間の異なる充放電特性の電圧値を計測し、その計測値に基づいて
図3に示した等価回路の等価回路定数を算出する。そして、時間によって変化するメインタンク回路の時定数を算出し、その時定数に基づいた等価回路モデルを作成し、二次電池20の新品時の初期等価回路定数13bと、所定期間使用した二次電池20の等価回路定数13dとを比較して、等価回路定数の変化が所定の閾値以内か否かにより二次電池20の劣化を判定するようにしたので、等価回路から算出される充放電特性の精度を向上し、二次電池20の劣化を効率良く判定することができる。
【0073】
なお、上記実施形態では、充放電に流す一定電流は固定している場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、充放電に流す一定電流の電流値を変化させ、例えば、電流値を1A、2A、3Aと変化させ、この電流値をパラメータとして等価回路定数を算出してもよい。
【0074】
上記の各実施形態で図示した各構成は機能概略的なものであり、必ずしも物理的に図示の構成をされていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係る電池劣化判定システム、電池劣化判定装置及び電池劣化判定方法は、二次電池の劣化判定を迅速かつ効率的に行う場合に適している。
【符号の説明】
【0076】
10 電池劣化判定装置
11 表示部
12 入力部
13 記憶部
13a 初期設定データ
13b 初期等価回路定数
13c 電流・電圧データ
13d 等価回路定数
14 制御部
14a 初期設定部
14b スイッチ制御部
14c 電流・電圧計測部
14d 等価回路定数算出部
14e 劣化判定部
20 二次電池
30 定電流電源
31 定電流負荷
33 スイッチ
34 電流センサ
35 電圧センサ
C0、C1、C2、C3 容量素子
D、R0、R1、R2、R3 抵抗素子