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特許7426452注射可能薬物送達デバイスのための投与量制御デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】注射可能薬物送達デバイスのための投与量制御デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
A61M5/315 550N
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022154351
(22)【出願日】2022-09-28
(62)【分割の表示】P 2020547191の分割
【原出願日】2019-03-13
(65)【公開番号】P2022186714
(43)【公開日】2022-12-15
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2018/000426
(32)【優先日】2018-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】519266638
【氏名又は名称】バイオコープ プロダクション ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルコス、アラン
(72)【発明者】
【氏名】ペレイラ、アレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】ポラード、マチュー
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/013419(WO,A1)
【文献】特表2014-531283(JP,A)
【文献】特表2007-506469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手持ち式のペン型注射可能薬物送達デバイスを操作するための方法であって、前記手持ち式のペン型注射可能薬物送達デバイスが、近位側先端部及び遠位側先端部を有する細長いボディと、前記近位側先端部から前記遠位側先端部へ延びる長手方向軸と、前記近位側先端部に位置する回転可能な投与量設定ホイールとを有し、前記方法が、
1つ又は複数の磁界センサ、及び前記磁界センサと通信するデータ処理ユニットを、前記細長いボディの外側表面上に取り付けるステップと、
クラッチ組立体を、前記手持ち式のペン型注射可能薬物送達デバイスの前記近位側先端部に取り付けるステップであって、前記クラッチ組立体は磁界生成手段を有し、また前記クラッチ組立体は、前記磁界生成手段を第1の係合位置から第2の非係合位置へ選択的に動かすように構成されている、ステップと
を含み、
前記クラッチ組立体は、
長手方向の内部孔を有する円筒形ボディを有し、前記磁界生成手段が前記円筒形ボディの前記長手方向の内部孔内に位置し、前記円筒形ボディが、軸方向の長手方向において位置合わせされて前記回転可能な投与量設定ホイールの周りに取り外し可能に取り付けられ、且つ前記回転可能な投与量設定ホイールと共に回転可能であり、
前記第1の係合位置は、前記円筒形ボディのいかなる回転運動も前記磁界生成手段に直接伝わって前記磁界生成手段を回転させるように前記磁界生成手段が前記円筒形ボディの前記孔内で保持される位置であり、また
前記第2の非係合位置は、前記円筒形ボディのいかなる回転運動も前記磁界生成手段に伝わらないように前記磁界生成手段が前記円筒形ボディの前記孔内で保持される位置である、方法。
【請求項2】
前記円筒形ボディが遠位側先端部を有し、前記遠位側先端部が、前記投与量設定ホイールの外側表面と嵌合して前記外側表面を把持するように構成され、また前記円筒形ボディが近位側先端部を有し、前記近位側先端部が、クラッチ作動ボタンの少なくとも一部分を受け入れるように構成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記円筒形ボディが、前記孔内で前記孔に沿って前記近位側先端部の方に延びる第1の環状壁を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の環状壁が前記円筒形ボディの内側表面壁に接続される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の環状壁が、前記第1の環状壁から前記円筒形ボディの内側表面壁へ径方向外向きに延びる第1の環状スカートを介して前記円筒形ボディの内側表面壁に接続される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の環状壁、前記第1の環状スカート、及び前記円筒形ボディの内側表面壁が、クラッチ作動ボタンの少なくとも一部分を受け入れるための環状溝を形成する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の環状壁が、前記第1の環状壁の近位側先端部に位置する第2の環状スカートをさらに有し、前記第2の環状スカートが、前記第1の環状壁の近位側先端部から前記円筒形ボディの前記孔内へ径方向内向きに突出している、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記クラッチ組立体が磁界生成手段ホルダをさらに有し、前記磁界生成手段ホルダが、長手方向孔と、近位側先端部と、遠位側先端部とを有するホルダ・ボディを有し、前記ホルダ・ボディが磁界生成手段材料を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記ホルダ・ボディが、前記ホルダ・ボディの前記遠位側先端部に隣接して位置するスカートを有し、前記スカートが、前記ホルダ・ボディから径方向外向きに延びる略平坦な表面と、前記略平坦な表面の周縁部から遠位に延び環状周囲壁とを有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記スカートが、前記スカートによって画定される内側ボリューム内に位置する、前記磁界生成手段のための少なくとも1つの着座手段をさらに有し、前記着座手段が、前記磁界生成手段を受け入れて前記スカート内に着座させるように構成されている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ホルダ・ボディが、前記クラッチ作動ボタンに係合されて前記クラッチ作動ボタンを保持するように構成された作動ボタン係合部材をさらに有する、請求項2を引用する請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記作動ボタン係合部材が、前記ホルダ・ボディの近位側先端部に隣接する前記ホルダ・ボディの前記長手方向孔内に位置する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記クラッチ組立体がクラッチ作動ボタンをさらに有する、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記クラッチ作動ボタンが、前記磁界生成手段ホルダ上に設けられる作動ボタン係合部材を保持し且つそれに係合するように構成されたホルダ係合部材を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記クラッチ組立体が、前記円筒形ボディの前記近位側先端部に隣接する環状壁から径方向内向きに突出する環状スカートと、前記クラッチ作動ボタンとの間に位置する予め押し込められた状態の付勢部材をさらに有し、前記予め押し込められた状態の付勢部材が前記円筒形ボディの前記環状壁の前記環状スカート上の遠位側に着座し、前記クラッチ作動ボタンの略円筒形の内側ボリューム内に挿入され、それにより前記内側ボリュームの閉じている近位側先端部に対して近位に着座する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記予め押し込まれた状態の付勢部材が、クラッチ組立体係合位置において、比較的押し込まれていない状態をとり、クラッチ組立体非係合位置において、比較的押し込まれている状態をとる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記予め押し込まれた状態の付勢部材が、フラット・ワイヤ圧縮ばね、又は波形ばねである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記円筒形ボディが、前記近位側先端部の内側壁上に位置する熱可塑性エラストマのゲルを含む摩擦層をさらに有し、前記スカート表面が、前記円筒形ボディ内に設けられる前記摩擦層に選択的に係合可能であり、且つ前記摩擦層から選択的に解放可能である、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は注射可能薬物送達デバイスの分野に関し、詳細には、このような注射可能薬物送達デバイスのために提供される投与量制御(dose control)システムに関する。
【背景技術】
【0002】
注射可能薬物のための送達デバイスは長年にわたって知られているものである。患者自身の個別の治療・薬物療法の計画の管理において患者の責任を増大させることの必要性が強まっていることから、使用者の薬物を使用者が自己注射するのを可能にする多様な薬物送達デバイスが開発されてきた。これは特には、例えば糖尿病の症状(consequence)を治療することを意図されるインスリンの事例に当てはまる。しかし、他の薬物もこのカテゴリーに該当し、これらは例えば、潜在的な生命にかかわる事態に対処するのに必要とされるものであり、また、必要な薬物を迅速に緊急注射するのを可能にするものであり、アナフィラキシー性ショックの治療、抗凝血薬、並びにオピオイド受容体作動薬及びオピオイド受容体拮抗薬などであり、これは、これらの慢性の病気を患っているかこれらの慢性の病気を発症しやすい患者がこれらのデバイスを持ち歩くということが通常のこととされるような範囲におけるものである。
【0003】
既存の自己注射器システムの既知の問題の1つは、正確で高精度の投薬量制御の問題である。以前の世代の注射可能薬物送達デバイスでは、これらのデバイスは、過量注射又はデバイスの過剰使用を防止又は制限するのを試みること、またさらにはこのような乱用、誤用、又は単純な使用者エラーによる潜在的に深刻な症状を防止又は制限するのを試みることを目的とした機械的手段を装備していた。加えて、使用者の自己注射した薬物の量を使用者に知らせることが可能であり、したがって注射量として少なくとも何らかの形で可視である指示が存在し得、それにより治療計画を管理するのを容易にすることが望ましいと考えられていた。
【0004】
提案されていた機械的な解決策に付随する主要な問題は、必然的なこととして薬物送達装置デバイスの構造を過度に複雑にしてまってしばしば使用者に非常に厳密であるか又は非常に複雑である操作方法が課されてそれによりしばしば使用者の慣れている操作方法とは異なる操作方法になってしまうことであり、結果として、別の操作エラーが生じたり、薬物投与量の損失が生じたり、患者の服薬不履行が生じたり、多数の別の問題が生じたりする。
【0005】
これらの問題を解消するために、薬物送達デバイスから投与されるか、廃棄されるか、パージされるか、又は他の形で排出される注射可能薬物の頻度及び投与量を示すための、デバイスに組み込まれる無接触センサ及び情報処理システムを使用することにより、機械的部品を動かすことを伴いさらには小さい脆弱な構成要素の機械的相互作用を伴うような完全に機械的である解決策が複雑な性質を有することに対処する試みが行われてきた。これにより複数の異なる技術的な解決策が作られたが、各々の解決策は、特定の製造業者の注射可能薬物送達デバイスの対応範囲の仕様に向けられていた。
【0006】
他の形態としては、センサ回路が、注射中に動く駆動機構の特定の構成部品を監視するように適合される位置センサを有することができる。位置センサは線形センサ又は回転センサであってよく、投与量設定・注射の機構の特定のデザインに従ってセンサが個別に選択される。例えば、注射中のピストン・ロッドの動きを監視する線形位置センサが提供され得る。別法として、注射中にピストン・ロッドと同期して動く構成部品の動きを記録する位置センサが提供される。例えば、デバイスの中に回転可能に設置されて注射中に回転する構成部品が回転位置センサによって監視され得、それにより回転可能に設置される構成部品の注射中の回転運動から投与速度が計算され得る。
【0007】
EP1646844B2が注射可能薬物を投与するための注射デバイスを開示しており、このデバイスが、互いを基準として動かされ得る投与デバイスの要素の間での位置を測定するための無接触測定ユニットであって、測定ユニットが、第1の要素を基準として運動可能である第2の磁化可能要素の反対側で第1の要素に固定されて回転位置を測定するための回転要素として具現化される磁気抵抗センサを有する、無接触測定ユニットと、所定の表面プロフィールを有するように、第1の要素上にある永久磁石及び第2の磁化可能要素から構成される形成される磁気デバイスであって、ここでは、第1及び第2の要素が互いを基準として動かされるときに第2の要素の表面が第1の要素の永久磁石からのその距離を変化させ、それにより磁界の変化により磁気抵抗センサ内で測定可能な抵抗の変化が生じる、磁気でバイスと、を有する。これは注射可能薬物送達デバイスのバレル又はボディに多くの追加の可動部品を組み込む非常に複雑なシステムであり、それにより種々の構成部品の潜在的な故障のリスクが増大するか、又は磁石及び磁化可能要素の運動と生成されるそれぞれの信号との間での相互作用が潜在的に阻害されるリスクが増大する。
【0008】
WO2013050535A2が、磁界を測定するように適合されるセンサ組立体と、組み合わせの軸方向運動・回転運動によりセンサ組立体を基準として2つの位置の間で動かされるように適合される可動要素と、を有するシステムを開示しており、この回転運動が軸方向運動に対して所定の関係を有する。磁石が可動要素に設置され、磁石及びひいては可動要素の軸方向運動及び回転運動の両方に対応して変化するようなセンサ組立体を基準とした空間磁界を生成するように構成される。プロセッサが、磁界のための測定値に基づいて可動要素の軸方向位置を決定するように構成される。このシステムでは、磁界生成手段が、注射可能薬物送達デバイスのボディの中に位置する長手方向駆動ねじの上に位置し、センサが上記薬物送達デバイスの長手方向軸に沿うように位置する。磁石がそこに沿って移動するところの長手方向軸に可能な限り近づけてさらにはセンサに近づけて磁界を生成することを目的として、このシステムの全体もやはり薬物送達デバイスのメイン・ボディの中に位置する、ことに留意されたい。
【0009】
WO2014161954A1が薬物送達システムを開示しており、ここでは、薬物送達デバイスのハウジングが、上記ハウジングの内部において一体の形で、第1の力伝達表面を有する、設置される投与量及び/又は排出される投与量に対応する形でハウジングを基準として回転するように適合される第1の回転部材と、第2の力伝達表面を有する、設定される投与量及び/又は排出される投与量に対応する形でハウジングを基準として回転するように適合される第2の回転部材と、をさらに有し、ここでは、第1及び第2の力伝達表面の少なくとも一部分が投与量の設定及び/又は排出中に互いに係合されるように適合され、ここでは、第1の回転部材が、第1の回転部材の回転運動に対応して変化する空間磁界を生成する磁石を有し、第1の回転部材が磁性粒子を含むポリマー材料から完全に形成され、ポリマー材料が空間磁界を生成する磁石を提供するように磁化されている。
【0010】
上記の解決策はすべて、薬物送達デバイスのボディの内部において種々のセンサを非常に複雑に配置すること及び/又は要素を非常に複雑に構成することを伴うものであり、したがって、概して、上記薬物送達デバイスを大幅に修正する必要があることを暗に意味している。
【0011】
WO2017013464A1が、広範囲の現在利用可能な注射可能薬物送達デバイスと共に機能することができる投与量制御デバイスを開示しており、ここでは、投与量制御デバイスが、概略ペン形状の自己注射薬物送達デバイスの細長いボディの近位側先端部に又はその近くに設置される。一実施例で、投与量制御デバイスが、永久双極子磁石などの磁界生成手段を有する環状構成部品を有し、ここでは、上記環状構成部品が、上記細長いボディの長手方向軸を中心として、注射可能薬物送達デバイスの一部分を一般的に形成する既知の投与量設定ホイール上で、細長いボディの近位側先端部に設置され、その結果、上記環状構成部品が投与量設定ホイールと共に回転する。細長いボディの近位側先端部の近くに位置するハウジング内で、信号処理ユニットに接続されて上記環状構成部品から遠位側に位置する磁界検出手段が、投与量設定ホイールの回転時に環状構成部品の回転の任意の角度において磁界の値を検出する働きをする。この投与量制御デバイスは注射可能薬物送達デバイスの有意な修正を必要とせず、つまり、使用者のために投与量制御デバイスがその機能を果たすときの手法すなわちその操作方法が、同様の市販の薬物送達デバイスと比較して、修正される必要がない。さらに、上記注射可能薬物送達デバイス上に取り外し可能に設置されるこのようなデバイスは、例えば、注射可能薬物送達デバイスがダメージを受ける場合に又は注射可能薬物送達デバイスが故障した場合に或は単純に一部の注射可能薬物送達デバイスがわずかな範囲の利用可能な投与量の薬物のみを送達するように構成されておりしたがって異なる範囲の利用可能な投与量を有するような別の注射可能薬物送達デバイスに取り換えられるのを必要とする場合に、注射可能薬物送達デバイスを交換するのを可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】EP1646844B2
【文献】WO2013050535A2
【文献】WO2014161954A1
【文献】WO2017013464A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のような進歩にもかかわらず、一部の現在入手可能であるペン型注射可能薬物送達デバイスは、磁界生成手段の長手方向軸を中心とした回転運動及び/又は長手方向軸に沿う並進運動を所望する及び/又は必要とする可能性のあるような或はその可能性のないような特定の手法で機能するものである。したがって、本発明の目的は、上述した投与量制御デバイスと同様であるが、入手可能なペン型注射可能薬物送達デバイスの様々な使用事例に対しての適応性を有するような、さらなる利点を提供しまたより高い柔軟性を有する投与量制御デバイスを提供することである。本明細書において後で示されて説明される種々の実施例からこれらの及び他の目的が明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上で示したように、特に注目すべきことであるが、この柔軟性は磁界生成手段を有する環状構成部品の動きに関するものである。主題は以下のようにまとめられ得る。
1A)投与量設定フェーズ中、つまり使用者が投与量設定ホールを回転させることにより注射される投与量を設定するとき、磁界生成手段が投与量設定ホイールと共に時計回り方向及び反時計回り方向の両方に回転することまたさらには上記投与量設定ホイールと共に薬物送達デバイスの長手方向軸に沿って遠位方向及び近位方向の両方に並進することが必要である。
1B)投与量注射フェーズ中、つまり薬物が排出されるとき、磁界生成手段が時計回り方向又は反時計回り方向のいずれにも回転しないことまたさらには薬物送達デバイスの長手方向軸に沿って遠位方向のみに動くことが可能であることが必要である。
2A)投与量設定フェーズ中、磁界生成手段が投与量設定ホイールと共に時計回り方向及び反時計回り方向の両方に回転することまたさらには薬物送達デバイスの長手方向軸に沿って遠位方向及び近位方向の両方に並進することが必要である。
2B)投与量注射フェーズ中、磁界生成手段が選択される投与量に対応する単一の方向のみに投与量設定ホイールと共に回転することまたさらには薬物送達デバイスの長手方向軸に沿って遠位方向に動くことが可能であることが必要である。
3A)投与量設定フェーズ中、磁界生成手段が投与量設定ホイールと共に時計回り方向及び反時計回り方向の両方に回転することまたさらには薬物送達デバイスの長手方向軸に沿って遠位方向及び近位方向のいずれの並進運動も禁じられることが必要である。
3B)投与量注射フェーズ中、磁界生成手段が選択される投与量に対応する単一の方向のみに投与量設定ホイールと共に回転することまたさらには薬物送達デバイスの長手方向軸に沿って遠位方向に動くことが可能であることが必要である。
【0015】
したがって、本発明の1つの対象は手持ち式のペン型注射可能薬物送達デバイスのための投与量制御デバイスであり、この手持ち式のペン型注射可能薬物送達デバイスが、近位側先端部及び遠位側先端部を有する細長いボディと、近位側先端部から遠位側先端部まで延在する長手方向軸と、近位側先端部に位置する回転可能な投与量設定ホイールと、を有し、この投与量制御デバイスが、
上記細長いボディの近位側先端部に位置する磁界生成手段と、
細長いボディの外側表面上に位置するか又は内部に位置する、データ処理ユニットと通信状態にある1つ又は複数の磁界センサと、
磁界生成手段を第1の係合位置から第2の非係合位置まで選択的に動かすように構成されるクラッチ組立体と
を有する。
【0016】
磁界を生成するための種々の手段が知られており、これは、例えば、伝統的な磁石、電磁石、及び混合材料の磁石である。このような磁石は、通常、元から磁性又は常磁性を有するような、或は材料内に磁界を生成するか又は誘導することを目的として材料に電気フロー若しくは他の励磁的フロー(energizing flow)を通すか又は電気フロー若しくは他の励磁的フローを材料に作用させることにより磁性又は常磁性を有するような、磁化可能材料から作られる。適切な材料は以下から適宜選択され得る。
- 例えば、鉄、酸素、及びストロンチウムの結晶性化合物を含む、特には焼結フェライト磁石である、フェライト磁石
- 熱可塑性マトリックス及び等方性のネオジム-鉄-ホウ素の粉末から構成される複合材料
- 熱可塑性マトリックス及びストロンチウムベースの硬質フェライト粉末で作られる複合材料(したがって、得られる磁石は、等方性のつまり非配向性の又は異方性のつまり配向性のフェライト粒子を含むことができる)
- 熱硬化性プラスチック・マトリックス及び等方性のネオジム-鉄-ホウ素の粉末で作られる複合材料
- 合成ゴム又はPVCと混合されて次いで所望の形状となるように押し出されるか又は薄いシートとなるようにカレンダーにかけられる、例えば強く荷電したストロンチウムのフェライト粉末を用いて作られる、磁性エラストマ
- その厚さ及び組成に応じて程度の差はあるが可撓性を有する、一般に茶色のシートの外観を有する、カレンダーにかけられた可撓性合成物。(これらの合成物はゴムのような弾性を決して有さず、傾向として、60から65Shore D(ANSI)の範囲のショア硬さを有する。このような合成物は、一般に、ストロンチウムのフェライト粒を埋め込まれる合成エラストマから形成される。得られる磁石は異方性を有してよいか又は等方性を有してもよく、シート・タイプは一般にはカレンダー仕上げによる磁性粒子の配列構造を有する)
- 軟鉄の電極プレートを用いて積層される上述の可撓性合成物を一般に含む、積層合成物
- ネオジム-鉄-ホウ素の磁石
- アルミニウム-ニッケル-コバルト合金で作られ磁化された鋼
- サマリウム及びコバルトの合金。
【0017】
本発明で使用されるのに適する磁界生成手段の上記のリストでは、ネオジム-鉄-ホウ素の永久磁石、磁性エラストマ、熱可塑性マトリックス及びストロンチウムベースの硬質フェライト粉末で作られる合成材料、並びに熱硬化性プラスチック・マトリックス及び等方性のネオジム-鉄-ホウ素の粉末で作られる合成材料、からなる群から選択されるものが好適である。これらの磁石は、比較的高い磁界強さを維持しながら、比較的小さいサイズとなるように寸法決定されることが可能であることが知られている。
【0018】
磁石が、円形、楕円形、又はさらには任意適切な多角形形状であってよい、概略ディスク形状によって画定され、単一双極子のみを有するものであり、つまり単一の対の径方向反対側にある磁北極及び磁南極のみを有するものである、ことを理解されたい。上で示したように、本発明で使用される磁石は概略ディスク形状であるが、この概略ディスク形状が、ディスクの概して中心にあるオリフィスを有してそれによりリング形状の又は環状形状の磁石を形成するような磁石を含んでもよい。
【0019】
本発明の磁石は、薬物送達システムの長手方向軸を中心として軸回転するように及び薬物送達システムの長手方向軸に沿って並進するように構成される。回転変位量が投与量設定ホイールの回転変位量に一致し、これは、長手方向軸を中心として磁石を旋回又は回転させることにより上記投与量設定ホイールも同じ回転方向に回転するようになる、ことを意味する。一般に、投与量設定ホイールは、薬物送達デバイスのボディの内部孔を横断する駆動シャフト又はリードねじに取り付けられる。また、投与量制御デバイスが、長手方向軸に沿う磁界生成手段の移動距離を計算することができる。
【0020】
加えて、磁界生成手段が、磁界センサによって検出されるのに十分な磁界を提供するように寸法決定される。
【0021】
本発明による、クラッチ組立体を有する投与量制御システムでは、少なくとも第1及び第2の磁界センサが存在してよく、磁石によって生成される磁界を測定するように構成される。少なくとも第1及び第2の磁界センサが、概略ディスク形状の磁石の回転運動及び任意選択の並進運動によって生成される磁界を測定すること、またそれにより、注射可能薬物送達デバイスを介して投与されるのに選択された投与量を正確に決定するために磁石の角度的な回転位置を計算すること、に使用される。任意選択で、有利には、このシステムがまた、薬物送達デバイスの長手方向軸に沿う対象の基準点の並進位置を計算するのに使用され得、この基準点は、投与される投与量、ゼロ点、プライミング位置、又はシステムの初期化点、注射の開始点、並びに/或は注射の終了点、との相互関係を示すのに使用され得るものである。
【0022】
回転角度位置を決定するために磁界を測定するための手段は当技術分野で一般に知られている。例えば、磁気抵抗器が良く知られている手段であり、その一部が従来技術のシステムで使用されている。このような磁気抵抗器は、しばしば、例えば、AMRセンサ、GMRセンサ、TMRセンサといったように、その省略形によって示され、これらは、これらのセンサ構成部品を機能させる物理的機構を示している。巨大磁気抵抗(GMR:Giant magnetoresistance)は、交互になっている強磁性層及び非磁性導電性層から構成される薄いフィルム構造で観察される量子機械的な磁気抵抗効果である。異方磁気抵抗すなわちAMR(anisotropic magnetoresistance)は、電流方向と磁化方向との間の角度に対しての電気抵抗の依存度が観察されるような材料で見られるものとされている。トンネル磁気抵抗(TMR:tunnel magnetoresistance)は、薄い絶縁体によって分離される2つの強磁性体から構成される構成部品である磁気トンネル接合(MTJ:magnetic tunnel junction)で発生する磁気抵抗効果である。これらの種々の特性を利用する抵抗器はそれ自体既知である。
【0023】
上記に照らして、本発明の投与量制御デバイスが、磁界センサとして、好適には、磁力計を使用し、好適には第1及び第2の磁力計を使用する。これらの磁力計は、磁界強さを直接に測定するという点において、GMRセンサ、AMRセンサ、又はTMRセンサとは異なる。磁力計は2つの主要な手法で磁界を測定する:ベクトル磁力計が磁界のベクトル成分を測定する手法、及び全磁界の磁力計(total field magnetometer)又はスカラー磁力計がベクトル磁界の大きさを測定する手法。別の種類の磁力計として絶対磁力計があり、絶対磁力計は、内部較正を利用するか又は磁気センサの既知の物理定数を利用して絶対的な大きさ又はベクトル磁界を測定する。相対磁力計は、一定であるが未較正の基準値を基準として大きさ又はベクトル磁界を測定するものであり、磁気変化形とも称されており、磁界の変化を測定するのに使用されている。
【0024】
本発明による投与量制御システムで使用される好適な磁力計は、超低電力で高性能の3軸ホール効果磁力計である。互いに垂直であるすなわち直角である3つの軸にわたって磁界を測定するように磁力計を構成することが可能であるが、それでも好適には、磁界センサが、例えばX軸及びZ軸といったように、3つの直角の軸のうちの2つの軸のみにわたって磁界を測定するように構成され、ここでは、Y軸が薬物送達デバイスのボディの長手方向軸と同軸であり、したがって、上述したように、長手方向軸上での基準点の位置を基準として、上記長手方向軸に沿う投与量セレクタ・ホイールの回転運動に関連する距離測定を計算するのが可能となるときの法線に一致する。
【0025】
投与量制御デバイスはまた、有利には、磁界センサから受信する情報を処理するための、磁界センサに接続される一体型の制御・データ処理ユニットを有する。この一体型の制御・データ処理ユニットが、例えば、薬物送達デバイスの細長いボディの上に位置するか又はその中に位置するような適切な寸法を有する印刷回路基板上に設置され得る。一体型の制御・データ処理ユニットが、投与量制御デバイスの異なる電気部品の間でのすべての電気通信及び信号伝達を処理する。一体型の制御・データ処理ユニットは、投与量管理システムを動作させるための働き、及び磁石の正確な位置的なロケーションを計算及び決定するのを可能にする計算を行うための働き、さらには例えばスマートフォンなどのローカルの又は遠隔のデータ処理システムと通信する自律型の電力供給・通信手段から信号を処理する働き、も有する。一体型の制御・データ処理ユニットは、最初の使用時に、又は情報を受信してアップグレードを行うときに、一体型の制御・データ処理ユニットを今現在において含んでいる他の電子デバイスと同様の手法で、遠隔的にプログラムされ得る。このような一体型の制御・データ処理ユニットはそれ自体で既知であり、しばしば、他の所望の構成部品と共に、中央処理ユニット、リアル・タイム・クロック、1つ又は複数の記憶保持システム、及び任意選択の通信システム又は通信サブシステム、を統合する。
【0026】
本発明の一実施例では、クラッチ組立体が:
長手方向の内部孔を有する円筒形ボディであって、磁界生成手段が円筒形ボディの長手方向の内部孔の中に位置し、円筒形ボディが軸方向の長手方向において位置合わせされる形で回転可能な投与量設定ホイールの周りに取り外し可能に設置され、回転可能な投与量設定ホイールと共に回転することができる、円筒形ボディ
を有する。
【0027】
本発明の別の実施例では、第1の係合位置が、円筒形ボディの孔の中で磁界生成手段を保持してそれにより円筒形ボディのいかなる回転運動も磁界生成手段に直接に伝えてそれにより磁界生成手段を円筒形ボディと共に回転させる、位置である。
【0028】
別の実施例では、第2の非係合位置が、円筒形ボディの孔の中で磁界生成手段を保持してそれにより円筒形ボディのいかなる回転運動も磁界生成手段に伝えずにそれにより磁界生成手段を円筒形ボディと共に回転させるのを防止する、位置である。
【0029】
本発明の別の実施例では、円筒形ボディが遠位側先端部を有し、遠位側先端部が、投与量設定ホイールの外側表面と対合して投与量設定ホイールの外側表面を握持するように構成される。
【0030】
本発明の別の実施例では、円筒形ボディが近位側先端部を有し、近位側先端部がクラッチ作動ボタンの少なくとも一部分を受けるように構成される。
【0031】
本発明の別の実施例では、円筒形ボディが孔の中で孔に沿って近位側先端部の方に延在する第1の環状壁を有する。
【0032】
本発明の別の実施例では、第1の環状壁が上記円筒形ボディの内側表面壁に接続される。
【0033】
本発明の別の実施例では、第1の環状壁が、第1の環状壁から円筒形ボディの内側表面壁まで径方向外向きに延在する第1の環状スカートを介して円筒形ボディの内側表面壁に接続される。
【0034】
本発明の別の実施例では、第1の環状壁、第1の環状スカート、及び円筒形ボディの内側表面壁が、クラッチ作動ボタンの少なくとも一部分を受けるための環状溝を形成する。
【0035】
本発明の別の実施例では、第1の環状壁が第1の環状壁の近位側先端部に位置する第2の環状スカートをさらに有し、第2の環状スカートが、第1の環状壁の近位側先端部から円筒形ボディの孔の中へ径方向内向きに突出する。
【0036】
本発明の別の実施例では、環状壁が、環状壁の近位側先端部の内側表面から円筒形ボディの孔の中まで径方向内向きに延在する少なくとも1つの対のクラッチ歯突出部をさらに有する。
【0037】
本発明の別の実施例では、第2の環状スカートが、第2の環状スカートの内側先端部から延在する第2の環状壁をさらに有し、ここでは、第2の環状壁が、第1の環状壁と同軸に、円筒形ボディの近位側先端部の方に延在する。
【0038】
本発明の別の実施例では、第2の環状壁が、第2の環状壁の内側表面から円筒形ボディの孔の中まで径方向内向きに延在する少なくとも1つの対のクラッチ歯突出部を有する。
【0039】
本発明の別の実施例では、少なくとも1つの対のクラッチ歯突出部の各歯突出部の遠位側先端部が、その近位端のところの歯突出部の断面より細い断面及び/又はプロフィールを有する。
【0040】
本発明の別の実施例では、少なくとも1つの対のクラッチ歯突出部の各歯突出部の遠位側先端部が円形である。
【0041】
本発明の別の実施例では、クラッチ組立体が磁界生成手段ホルダをさらに有する。
【0042】
本発明の別の実施例では、磁界生成手段ホルダが、長手方向孔と、近位側先端部と、遠位側先端部とを有するホルダ・ボディを有する。
【0043】
本発明の別の実施例では、磁界生成手段ホルダ・ボディが磁界生成手段材料を含む。
【0044】
本発明の別の実施例では、ホルダ・ボディが、ホルダ・ボディの遠位側先端部に隣接して位置するスカートであって、スカートが、ホルダ・ボディから径方向外向きに延在する概略平坦な表面を有する、スカートと、概略平坦な表面の周縁部から外側に延在する環状周囲壁とを有する。
【0045】
本発明の別の実施例では、スカートが、スカートによって画定される内側ボリュームの中に位置する、磁界生成手段のための少なくとも1つの着座手段をさらに有し、着座手段が、磁界生成手段を受けて磁界生成手段をスカートの中で着座させるように構成される。
【0046】
本発明の別の実施例では、ホルダ・ボディが、ホルダ・ボディの外側周囲表面から離間される関係で径方向外向きに延在する、ホルダ・ボディの外側周囲表面の周りに位置する、クラッチ歯突出部のアレイをさらに有する。
【0047】
本発明の別の実施例では、クラッチ歯突出部のアレイが、円筒形ボディの環状壁の近位側先端部の内側表面から径方向内向きに延在する少なくとも1つの対のクラッチ歯突出部に選択的に係合可能であり、またそこから解放可能である。
【0048】
本発明の別の実施例では、ホルダ・ボディが、クラッチ作動ボタンに係合されてクラッチ作動ボタンを保持するように構成される作動ボタン係合部材をさらに有する。
【0049】
本発明の別の実施例では、クラッチ作動ボタン係合部材が、ホルダ・ボディの近位側先端部に隣接するところでホルダ・ボディの孔の中に位置する。
【0050】
本発明の別の実施例では、クラッチ組立体がクラッチ作動ボタンをさらに有する。
【0051】
本発明の別の実施例では、クラッチ作動ボタンが遠位側表面を有する遠位側先端部を有し、ここでは、クラッチ組立体が非係合位置にあるとき、遠位側表面が、円筒形ボディの近位側先端部に位置する対応する近位側表面に接触し、クラッチ組立体が係合位置にあるとき、クラッチ作動ボタンの近位側先端部の遠位側表面が円筒形ボディの近位側先端部に位置する対応する近位側表面に接触しない。
【0052】
本発明の別の実施例では、クラッチ作動ボタンがボタン・ボディを有し、ボタン・ボディがボタン・ボディの近位側先端部から遠位側先端部の方に延在し、ボタン・ボディが、ボタン・ボディの長手方向軸に沿って遠位側に延在する環状壁突出部を有し、ここでは、環状壁突出部がボタン・ボディの直径より小さい直径を有し、それにより、ボタン・ボディの近位側先端部の遠位側においてボタン・ボディの近位側先端部から離間するロケーションに遠位側ショルダを形成し、上記遠位側ショルダが、クラッチ組立体の非係合位置において、円筒形ボディの近位側先端部に位置する対応する近位側表面に接触するように寸法決定されている。
【0053】
本発明の別の実施例では、作動ボタン・ボディの環状壁が遠位側先端部表面を有し、遠位側先端部表面が、クラッチ組立体の非係合位置において、第1の環状壁と、第1の環状スカートと、円筒形ボディの内側表面壁とによって形成される環状溝に接触する。
【0054】
本発明の別の実施例では、上記作動ボタン・ボディの環状壁突出部が、環状壁突出部の内側にある概略円筒形の内側ボリュームを画定し、この内側ボリュームが、開いている遠位側先端部及び閉じている近位側先端部を有する。
【0055】
本発明の別の実施例では、作動ボタンが、磁界生成手段ホルダ上に設けられる作動ボタン係合部材を保持し且つそれに係合されるように構成されるホルダ係合部材を有する。
【0056】
本発明の別の実施例では、クラッチ組立体が、円筒形ボディの近位側先端部に隣接するところで環状壁から径方向内向きに突出する環状スカートと、クラッチ作動ボタンと、の間に位置する予め押し込められた状態の(pre-constrained)付勢部材をさらに有する。
【0057】
本発明の別の実施例では、予め押し込められた状態の付勢部材が円筒形ボディの環状壁の環状スカート上の遠位側に着座し、作動ボタンの概略円筒形の内側ボリュームの中に挿入され、それにより内側ボリュームの閉じている近位側先端部の近位側においてそれに接触する形で着座するようになる。
【0058】
本発明の別の実施例では、予め押し込まれた状態の付勢部材が、クラッチ組立体の非係合位置において、比較的押し込まれていない状態をとり、クラッチ組立体の係合位置において、比較的押し込まれている状態をとる。
【0059】
本発明の別の実施例では、予め押し込まれた状態の付勢部材が、クラッチ組立体の非係合位置において、圧縮される。
【0060】
本発明の別の実施例では、予め押し込まれた状態の付勢部材が、クラッチ組立体の係合位置において、緩められる。
【0061】
本発明の別の実施例では、作動ボタンに対して遠位方向の力を加えることにより、予め押し込まれた状態の付勢部材が圧縮され、それにより、ホルダの突出する歯が円筒形ボディの対応する突出する歯との付勢接触状態から解放され、クラッチ作動ボタンの環状壁の遠位側先端部表面を動かして、第1の環状壁と、第1の環状スカートと、円筒形ボディの内側表面壁とによって形成される環状溝に接触させる。
【0062】
本発明の別の実施例では、予め押し込まれた状態の付勢部材の圧縮状態を解除することにより付勢部材が膨張して、比較的押し込まれていない状態となり、すなわち緩められた状態となり、それによりクラッチ作動ボタンを近位側へと動かし、ホルダ係合部材と作動ボタン係合部材との間での係合接続により、ホルダも近位側に動き、それによりホルダの突出する歯が円筒形ボディの対応する突出する歯に付勢接触の形で係合される。
【0063】
本発明の別の実施例では、予め押し込まれた状態の付勢部材がばねである。
【0064】
予め押し込まれた状態の付勢部材の性質及び種類が考慮される限りにおいて、当業者により適切な選択が行われ得る。しかし、本発明の場合、予め押し込まれた状態の付勢部材がフラット・ワイヤ(平型ワイヤ)圧縮ばね、又は波形ばねであることが有利であることが分かっている。このようなフラット・ワイヤの圧縮ばね又は波形ばねは一般に当技術分野では既知であり、例えば、CM及びCMSというカテゴリー表記(range identification)でSmalley Steel Ring Companyから入手可能であり、ここでは、CMがプレーン・エンドの波形ばねを意味しており、CMSがシム・エンドの波形ばねを意味している。このようなばねは一般に炭素鋼又はステンレス鋼で作られる。
【0065】
本発明の代替の対象では、投与量制御デバイスが相互作用する突出する歯を有さず、代わりに、円筒形ボディが、近位側先端部の内側壁上に位置する摩擦層をさらに有する。円筒形ボディが、歯を有する係合手段の代替手段として、摩擦層を設けることにより、その遠位側先端部のところが修正され得、それでもやはり、磁界生成手段ホルダ・ボディとクラッチ作動ボタンとの間での選択可能な結合又は解放が可能となる。摩擦層は、摩擦層に対してスカート表面が係合されるときに、円筒形ボディとの協働的な磁界生成手段ホルダ・ボディのスカート表面の回転運動を促進するのに十分な摩擦係合抵抗力を提供するような任意適切な材料によって提供され得る。多種多様な適切な摩擦発生材料がこのような機能性を可能にするが、出願人は、摩擦層が、例えば、ゲルと同程度のコンシステンシーを有する0ショアAから、対照的に比較的高い剛性を有する材料である70ショアDの間のショア硬さを有するような、比較的高い剪断力係数を有するポリマー材料を含む場合に特に適切な摩擦係合が達成され得ることを発見した。このようなポリマーは熱可塑性エラストマすなわち略すとTPE(thermoplastic elastomer)として知られており、概して、以下の6つの異なるファミリーに分類される。
- TPS又はTPE-sとしても知られている、スチレンブロック共重合体
- TPO又はTPE-oとしても知られている、熱可塑性ポリオレフィンエラストマ
- TPV又はTPE-vとしても知られている、熱可塑性加硫物
- TPUとしても知られている、熱可塑性ポリウレタン
- TPC又はTPE-Eとしても知られている、熱可塑性共重合ポリエステル
- TPA又はTPE-aとしても知られている、熱可塑性ポリアミド及び
- TPZとしても知られている、未分類の熱可塑性エラストマ。
【0066】
上記の多くが想定する機能性に適合し得るが、出願人は、摩擦層のための好適な材料として、スチレンブロック共重合体からの部材を使用し続けており、具体的には、約40から約80の間のショアA硬さを有する、例えばKraton-G(Shell Chemicals)というブランド名で市販されている、SEBSポリマーとしても知られている、ポリスチレン-b-ポリ(エチレン-ブチレン)-b-ポリスチレンから作られるか又はこのポリスチレン-b-ポリ(エチレン-ブチレン)-b-ポリスチレンを含む材料からの部材を使用し続けている。
【0067】
上で言及したように、摩擦層が、有利には、円筒形ボディの近位側先端部の内側表面上に位置する。この点に関して、摩擦層は、連続的な層であっても、半連続的な層であっても、或は摩擦発生材料の積層物アレイの形態として提供されるものであってもよく、ここでのこれらの各々は、いずれも、層又は積層物の厚さに関して、必要とされる摩擦効果を生み出すように適合される。好適には、摩擦層は、着座手段を介して円筒形ボディの近位側先端部の内側表面上にさらに着座する、SEBS材料の環状形状の層である。この着座手段は、例えば、内側表面の上に、及び/又は内側表面に接触することになる摩擦層の近位側表面の上に、配置されるか又は塗布されるシーラント又は接着剤であってよい。しかし、出願人は、好適には、円筒形ボディの近位側先端部内に設けられる対応する開口部の中に位置してその中で膨張する摩擦材料のダブテール形状の延長部分又は突出部として着座手段を提供することが有利であることを発見した。
【0068】
次に、説明及び例示を目的として提供される添付図面に関連して本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1】手持ち式のペン型注射可能薬物送達デバイスのための、本発明による投与量制御デバイスを示す概略断面図である。
図2】第1の係合位置にある投与量制御デバイスのクラッチ組立体を示している、図1の投与量制御デバイスを示す概略拡大断面図である。
図3】第2の非係合位置にある投与量制御デバイスのクラッチ組立体を示している、図1の投与量制御デバイスを示す概略拡大断面図である。
図4】手持ち式のペン型注射可能薬物送達デバイスの注射ステップの開始後の投与量制御デバイスの相対位置を示している、図1の投与量制御デバイスを示す概略拡大断面図である。
図5】上記デバイスの近位側先端部から上記デバイスの遠位側先端部の方への視線に沿って、本発明による投与量制御デバイスを示す概略分解図である。
図6】上記デバイスの遠位側先端部から上記デバイスの遠位側先端部の方への視線に沿って、本発明による投与量制御デバイスを示す概略分解図である。
図7】別のクラッチ組立体が第1の係合位置にある状態の、図2に示されるものと同様の、本発明による投与量制御デバイスを示す概略拡大断面図である。
図8】第2の非係合位置にある投与量制御デバイスのクラッチ組立体を示している、図7の投与量制御デバイスを示す概略拡大断面図である。
図9】手持ち式のペン型注射可能薬物送達デバイスの注射ステップの開始後の投与量制御デバイスの相対位置を示している、図7の投与量制御デバイスを示す概略拡大断面図である。
図10】上記デバイスの近位側先端部から上記デバイスの遠位側先端部の方への視線に沿って、図7の代替のクラッチ組立体を有する本発明による投与量制御デバイスを示す概略分解図である。
図11】上記デバイスの遠位側先端部から上記デバイスの遠位側先端部の方への視線に沿って、図7の代替のクラッチ組立体を有する本発明による投与量制御デバイスを示す概略分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0070】
ここで、図を参照して本発明による投与量制御デバイスをより詳細に説明する。図1では、手持ち式のペン型注射可能薬物送達デバイス(2)のための投与量制御デバイス(1)が示されている。通常はこのような手法で投与される薬物などの、1つ例を挙げると、例えばインスリンなどの、薬物の自己注射のための自動注射器である、手持ち式のペン型注射可能薬物送達デバイスが、近位側先端部(4)及び遠位側先端部(5)を有する細長いボディ(3)と、遠位側先端部(4)から遠位側先端部(5)まで延在する長手方向軸(6)と、自動注射器などの既存の薬物送達デバイスから一般に知られているような、近位側先端部(4)に位置する、回転可能な投与量設定ホイール(7)と、を有する。さらに、投与量設定ホイール(7)が、複数の自動注射器型の薬物送達デバイスからやはり一般に知られている、投与開始ボタン(21)を有する。投与開始ボタン(21)が、薬物送達デバイス(2)からの薬物の注射を開始するように機能する。
【0071】
投与量制御デバイスが、概して、上記細長いボディ(3)の近位側先端部(4)に位置する磁界生成手段(8)と、細長いボディ(3)の外側表面(9)上に位置するか又は内部に位置する、データ処理ユニット(図示せず)と通信状態にある1つ又は複数の磁界センサ(図示せず)と、を有する。図1では、WO2017013464A1として公開済みの特許出願で例示及び説明されているように、磁界センサ及びデータ処理ユニットが、薬物送達デバイス(2)の細長いボディ(3)の外側表面(9)の上に且つ周りに位置するハウジング(10)の中に位置する。しかし、これらのセンサ及びデータ処理ユニットが薬物送達デバイスのボディ(3)に直接に統合されてもよい。
【0072】
ここで説明されるような投与量制御デバイスの概略的な提示に加え、上記投与量制御デバイスはさらに、第1の係合位置から第2の非係合位置まで磁界生成手段(8)を選択的に動かすように構成されるクラッチ組立体(11)によって画定される。クラッチ組立体が長手方向の内部孔(13)を有する円筒形ボディ(12)を有し、磁界生成手段(8)がこの孔(13)の中に位置する。円筒形ボディ(12)が軸方向の長手方向において長手方向軸(6)に位置合わせされる形で回転可能な投与量設定ホイール(7)の周りに取り外し可能に設置され、回転可能な投与量設定ホイール(7)と共に回転することができる。第1の係合位置が、円筒形ボディ(12)の孔(13)の中で磁界生成手段(8)を保持してそれにより円筒形ボディ(12)のいかなる回転運動も磁界生成手段(8)に直接に伝えてそれにより磁界生成手段を円筒形ボディ(12)と共に回転させる、位置である。この第1の係合位置が図2に示されている。
【0073】
第2の係合位置が、円筒形ボディ(12)の孔(13)の中で磁界生成手段(8)を保持してそれにより円筒形ボディ(12)のいかなる回転運動も磁界生成手段(8)に伝えずにそれにより磁界生成手段(8)を円筒形ボディ(12)と共に回転させるのを防止する、位置である。この第2の非係合位置が図3に示されている。
【0074】
図2、3、及び4が、薬物送達デバイス(2)の近位側部分及び投与量制御デバイス(1)の細部の拡大図を示す。
【0075】
円筒形ボディ(12)が遠位側先端部(14)を有し、遠位側先端部(14)が、投与量設定ホイール(7)の外側表面(15)と取り外し可能に対合して投与量設定ホイール(7)の外側表面(15)を握持するように構成される。これを可能にする適切な構成の実例として、円筒形ボディ(12)が、投与量設定ホイール(7)の対応する外径よりわずかに小さい内径又は孔を有することができる弾性係合壁(16)と、遠位側先端部(14)から近位側に離間されるロケーションに設けられる内側環状ショルダ(17)と、を形成するようにその遠位側先端部(14)において成形され得る。こうすることで、円筒形ボディ(12)が投与量設定ホイール(7)の上に且つその周りに挿入されるとき、円筒形ボディ(12)が、ショルダ(17)を投与量設定ホイール(7)の近位側表面(18)に係合させて当接させるまで、上記壁(16)の内側表面(19)と投与量設定ホイール(17)の上記外側表面(15)との間での増大する摩擦により漸進的に強固になるように弾性係合される。
【0076】
別法として、壁の内側表面が、孔の中へと内側に突出して投与量設定ホイールの外側表面に接触する突出ラグを有することができる。対応する同様の形で、投与量設定ホールの外側表面が対応する対合溝(20)又はポケットを装備することができ、この対合溝(20)又はポケットが例えば、上記長手方向軸(6)に沿う長手方向において、離間される形で、上記投与量設定ホイール(7)の外側表面(15)の周りを延在するか、又は機能的に等価である他の形で延在する。
【0077】
したがって、円筒形ボディ(12)が投与量設定ホイール(7)上で強固ではあるが取り外し可能に保持され、それにより、投与量設定ホイール(7)の回転時に円筒形ボディ(12)も同じ分だけ回転するようになり、これは逆も同様であり、つまり円筒形ボディ(12)の回転時にこの回転が投与量設定ホイール(7)に同じ分だけ伝えられ、それにより、使用者が、薬物送達デバイスによって投与されることになる投与量を設定することが可能となり、上記薬物送達デバイスの通常の操作方法を妨害しない。
【0078】
円筒形ボディ(12)が、クラッチ作動ボタン(23)の少なくとも一部分を受けるように構成される近位側先端部(22)をさらに有する。円筒形ボディ(12)の近位側先端部(22)に第1の環状壁(24)を設けることにより、クラッチ作動ボタン(23)を受けることが達成され得、この第1の環状壁(24)が孔(13)の中で孔(13)に沿うように近位側先端部(22)の方に延在する。第1の環状壁(24)が、例えば第1の環状壁(24)から円筒形ボディの内側表面壁(15)まで径方向外向きに延在する第1の環状スカート(25)を介して、或は別法として及び/又は加えて、上記内側表面壁(15)の厚み部分(26)を介して、上記円筒形ボディ(12)の内側表面壁(15)に接続されて支承する。このようにして、第1の環状スカート(25)及び円筒形ボディの内側表面壁(15)が、クラッチ作動ボタン(25)の少なくとも遠位側部分を受けるための環状溝(27)を形成する。
【0079】
加えて、第1の環状壁(24)が、第1の環状壁(24)の近位側先端部(29)に位置する第2の環状スカート(28)をさらに有し、第2の環状スカート(28)が第1の環状壁の近位側先端部(29)から円筒形ボディ(12)の孔(13)の中へ径方向内向きに突出する。第2の環状スカート(28)が、第2の環状スカート(28)の内側先端部から延在する第2の環状壁(30)をさらに有し、ここでは、第2の環状壁(30)が第1の環状壁と同軸に円筒形ボディ(12)の近位側先端部(22)の方に延在する。
【0080】
図5及び6の分解図でより詳細に示されるように、クラッチ組立体(11)が磁界生成手段ホルダ(31)をさらに有し、磁界生成手段ホルダ(31)が、長手方向孔(33)と、近位側先端部(34)と、遠位側先端部(35)とを有するホルダ・ボディ(32)を有する。磁界生成手段ホルダ(30)が円筒形ボディ(12)の孔(13)の中に位置し、磁界生成手段(8)を保持するか着座させるように構成されるか、或は少なくとも部分的に磁界生成手段材料から構成される。これらの図に示されるように、磁界生成手段(8)はディスクであり、好適には径方向反対側に配置される形の単一のN極及びS極のみを有するディスク形状の双極子磁石(8)であり、ここでは、ディスクの一方の半体がN極であり、ディスクのもう一方の半体がS極である。別法として、磁界生成手段ホルダ・ボディ(32)が、少なくとも部分的に、磁界生成手段材料によって構築され得、磁界生成手段材料は、例えば、熱により形作られ得るつまり熱により成形可能であるプラスチックで概して構成される既知の適切なプラスチック磁性材料などであり、その中には、磁性粒子又は磁化可能粒子が埋め込まれておりすなわち分布している。これらの図では、ホルダ・ボディ(32)が、ホルダ・ボディ(32)の遠位側先端部(35)に隣接して位置するスカート(36)を有し、スカート(36)が、ホルダ・ボディ(32)から径方向外向きに延在する概略平坦な表面と、概略平坦な表面の周縁部(38)から遠位側に延在する環状周囲壁(37)とを有する。
【0081】
磁界生成手段ホルダ・ボディ(32)のスカート(36)が、磁界生成手段(8)のための少なくとも1つの着座手段又は配置手段(39)をさらに有し、この着座手段又は配置手段が、スカート(36)によって画定される内側ボリュームの中に配置され、スカート(36)の中で磁界生成手段(8)を受けて着座させるように構成される。図5及び6では、着座手段(39)が、スカート(36)の内側ボリュームの内側周縁部の周りに位置する1つ又は複数の隆起縁部又は突出縁部を有し、例えば、上記着座手段又は配置手段(39)と、ディスク形状の磁界生成手段(8)の外側周縁部表面との弾性係合により、磁界生成手段(8)がスカート(36)の内側ボリュームの中に挿入されるか又はその上に固定される。
【0082】
ホルダ・ボディ(32)が、ホルダ・ボディ(32)の外側周囲表面(41)から離間される関係で径方向外向きに延在する、ホルダ・ボディ(32)の上記外側周囲表面(41)の周りに位置する、クラッチ歯突出部(40)のアレイをさらに有する。クラッチ歯突出部(40)のこのアレイが、第1の環状壁から内側に突出して円筒形ボディ(12)に接続される第2の環状壁の近位側先端部(44)の内側表面(43)から径方向内向きに延在する少なくとも1つの対の対応するクラッチ歯突出部(42)に選択的に係合可能であり、またそこから解放可能である。少なくとも1つの対のクラッチ歯突出部(42)の各歯突出部(42)の遠位側先端部(44)が、その近位側先端部(45)のところの歯突出部(42)の断面より細い断面及び/又はプロフィールを有する。好適には、少なくとも1つの対のクラッチ歯突出部(40)の各歯突出部(42)の上記遠位側先端部が円形(丸い形状)である。反対側であるが同様に、磁界生成手段ホルダ・ボディ(32)のクラッチ歯突出部(40)が近位側先端部(46)及び遠位側先端部(47)を有する。磁界生成手段ホルダ・ボディ(32)のクラッチ歯突出部(40)の近位側先端部(46)が、その遠位側先端部(47)のところの同じ歯突出部(40)の断面より細い断面及び/又はプロフィールを有する。この構成により、円筒形ボディの歯(42)に対してホルダの歯(40)が軸方向において部分的に位置をずらされることにより種々の歯突出部(40、42)を協働的に摺動的に係合及び解放することが容易となる。これは例えば、クラッチ組立体が作動されて磁界生成手段を第1の係合位置から第2の非係合位置まで動かしてさらに再び作動されて磁界生成手段を動かして第2の非係合位置から第1の係合位置に戻した後で、起こり得る。
【0083】
ホルダ・ボディ(32)が、クラッチ作動ボタン(23)に係合されてクラッチ作動ボタン(23)を保持するように構成されるクラッチ作動ボタン係合部材(48)をさらに有する。図5に示されるように、この係合部材(48)は、ホルダ・ボディ(32)の孔(33)の内側にあってホルダ・スカート(36)から離れている、ホルダ(34)の近位側先端部の方に近位方向に延在する突出部によって提供される。図5では、クラッチ作動ボタン係合部材(48)が、長手方向軸(6)に沿う向きの円筒形の棒状の突出部(49)を中央に有する概略十字型の断面を有するものとして提示されており、この円筒形の棒状の突出部(49)から4つの均等に離間されるブロック状の突出部(50)が孔(33)の方に径方向外向きに延在する。
【0084】
上で言及したように、クラッチ組立体がクラッチ作動ボタン(23)をさらに有する。クラッチ作動ボタンが遠位側表面(52)を有する遠位側先端部(51)を有し、クラッチ組立体が非係合位置にあるとき、遠位側表面(52)が、円筒形ボディ(12)の近位側先端部(22)に隣接して位置する対応する近位側表面(53)に接触する。クラッチ組立体が係合位置にあるとき、クラッチ作動ボタン(23)の遠位側先端部(51)の遠位側表面(52)が、円筒形ボディの近位側先端部に位置する対応する近位側先端部表面(53)に接触しない。クラッチ作動ボタンがボタン・ボディ(54)をさらに有し、ボタン・ボディがクラッチ作動ボタン(23)の近位側先端部(55)からボタン・ボディの遠位側先端部(51)の方に延在し、ボタン・ボディ(54)の長手方向軸に沿って遠位側に延在する環状壁(56)を有する。ボタン・ボディの環状壁(56)がボタン・ボディ(54)の直径より小さい直径を有し、それにより、ボタン・ボディ(54)近位側先端部(55)の遠位側においてボタン・ボディ(54)の近位側先端部(55)から離間されるロケーションに遠位側ショルダ(57)を形成する。この遠位側ショルダ(57)は、クラッチ組立体(11)の非係合位置において、円筒形ボディ(21)の近位側先端部(22)に位置する対応する近位側表面(58)に接触するように寸法決定されている。しかし、クラッチ組立体が係合位置にあるとき、遠位側ショルダ(57)及び近位側表面(58)が互いに接触せず、それらの間に隙間を残す。作動ボタン・ボディ(54)の環状壁(56)が遠位側先端部表面(52)を有し、クラッチ組立体の非係合位置において、遠位側先端部表面(52)が、第1の環状壁(24)と、第1の環状スカート(25)と、円筒形ボディの内側表面壁(15)とによって形成される環状溝(27)に接触する。クラッチ作動ボタン・ボディ(54)の環状壁(56)がさらに、環状壁(56)の内側に概略円筒形の内側ボリュームを画定し、この内側ボリュームが、開いている遠位側先端部(59)及び閉じている近位側先端部(63)を有する。ホルダ係合部材(60)が内側ボリュームの中に位置し、示されるように、上記内側ボリュームの閉じている近位側先端部(63)から開いている遠位側先端部(59)の方に延在する、割れ目を有する円筒形突出部(61)を有し、この割れ目を有する円筒形突出部(61)が、磁界生成手段ホルダ(31)の上に設けられる作動ボタン係合部材(48)の、円筒形の棒状の突出部(49)と、等間隔に離間される4つのブロック状の突出部(50)のうちの少なくとも一部のブロック状の突出部(50)とを保持するように、また、これらの円筒形の棒状の突出部(49)及び4つのブロック状の突出部(50)のうちの少なくとも一部のブロック状の突出部(50)を囲むように、また、これらの円筒形の棒状の突出部(49)及び4つのブロック状の突出部(50)のうちの少なくとも一部のブロック状の突出部(50)に係合されるように、成形及び寸法決定されている。
【0085】
これらの図からやはり分かるように、クラッチ組立体(11)が、円筒形ボディ(12)の近位側先端部(22)に隣接する第1の環状壁(24)から径方向内向きに突出する第2の環状スカート(28)と、クラッチ作動ボタン(23)と、の間に位置する予め押し込まれた状態の付勢部材(62)をさらに有する。これらの図に示されるように、予め押し込まれた状態の付勢部材(62)が、円筒形ボディ(12)の第1の環状壁の第2の環状スカート(28)の上の遠位側に着座する。また、予め押し込まれた状態の付勢部材が第2の環状壁(30)の周りに位置し、第2の環状壁(30)に沿う形でその周りで緩められたり圧縮されたりされ得る。同時に、予め押し込まれた状態の付勢部材(62)がクラッチ作動ボタン(23)の概略円筒形の内側ボリュームの中に挿入されて収容され、それにより近位側において内側ボリュームの閉じている近位側先端部(63)に接触する形で着座する。この構成は図3及び4で明瞭に見ることができる。予め押し込まれた状態の付勢部材(62)が、例えば図3に示されるように、クラッチ組立体の非係合位置では、比較的押し込まれている状態すなわち圧縮されている状態をとり、図2に示されるように、クラッチ組立体の係合位置では、比較的押し込まれていない状態すなわち緩められた状態をとる。
【0086】
クラッチ組立体の機能は以下のようにまとめることができる。
使用者の親指又は指により押すなどしてクラッチ作動ボタン(23)に遠位方向の力を加えることにより、予め押し込まれた状態の付勢部材(62)が圧縮され、それにより、ホルダ(31)の突出する歯(40)が、円筒形ボディ(12)の対応する突出する歯(42)との付勢接触状態から解放される。同時に、クラッチ作動ボタン・ボディの環状壁の遠位側先端部表面(52)が、第1の環状壁(26)と、第1の環状スカート(28)と、円筒形ボディの内側表面壁(15)とによって形成される環状溝(27)に接触する。
例えば使用者が遠位方向に力を加えている親指又は指の圧力を緩めるなどして、予め押し込まれた状態の付勢部材(62)に対しての圧縮力が解除されると、付勢部材(62)が膨張し、つまり圧縮を緩められ、比較的押し込まれていない状態すなわち緩められた状態となり、それによりクラッチ作動ボタン(23)を近位側に動かす。ホルダ係合部材(48)とクラッチ作動ボタン係合部材(60)との間の係合接続により両方の部材が一体に保持されることから、クラッチ作動ボタン(23)が近位側に動くことによりホルダも近位方向に動き、それによりホルダ(31)の突出する歯(40)が、円筒形ボディ(12)の対応する突出する歯(42)に再び付勢接触する形で係合される。本発明で使用されるのに適する予め押し込まれた状態の付勢部材はばねであり、好適には、フラット・ワイヤの圧縮ばね又は波形ばねである。フラット・ワイヤの圧縮ばねは本発明で特に有利である。その理由は、フラット・ワイヤの圧縮ばねは、比較的小さい直径で、十分な程度の圧縮及び圧縮緩和を短い距離で実現するのを可能にする、からである。
【0087】
使用時、クラッチ組立体を装備する投与量制御デバイスが以下のように機能する:
【0088】
図2が、使用者が薬物送達デバイス(2)をそのパッケージングから取り出すときに通常見られるような、予め設置されており使用の準備が整った状態にあるクラッチ組立体(11)を示している。
【0089】
クラッチ組立体(11)を投与量設定ホイール(7)に設置することは、一般に、薬物送達デバイスのパッケージング中に、例えば上記薬物送達デバイス(2)の製造現場で、行われる。しかし、クラッチ組立体(11)は取り外し可能でもあることから、薬物送達デバイスの使用及び廃棄後に、例えば再生利用のために、取り外されてもよい。別法として、クラッチ組立体は、薬物送達デバイスの使用のための準備を行うときに、WO2017013464A1で説明されるようにデータ処理ユニットと通信状態にある1つ又は複数の磁界センサなどの、投与量制御デバイスの任意の他の設置可能な構成部品と共に、使用者によって設置されてもよい。いずれの場合も、図2に示されるように、クラッチ組立体が投与量設定ホイール(7)の上に且つその周りに設置される。円筒形ボディが遠位側先端部(14)から近位側先端部(22)の方に延在し、それにより、遠位側先端部(14)が投与量設定ホイール(7)の遠位側先端部に実質的に位置合わせされる。したがって、円筒形ボディ(12)が、薬物送達デバイス(2)の上での設置時に、投与量設定ホイールの遠位側先端部(64)から近位方向において上記投与量設定ホイール(7)の近位側先端部(65)を越えるように、延在し、この近位側先端部(65)が露出される近位側表面(18)を有し、この露出される近位側表面(18)に対して円筒形ボディのショルダ(17)が係合されて当接される。薬物送達ボタン、薬物注射ボタン、又は投与開始ボタン(21)が投与量設定ホイール(7)に位置して投与量設定ホイール(7)に接触し、薬物送達デバイス(2)の一体部分を形成する。円筒形ボディの近位側先端部(22)に隣接するところで、クラッチ作動ボタン(23)及び磁界生成手段ホルダ(31)がそれぞれの係合部材(48、60)を介して互いに係合され、磁界生成手段ホルダ(31)がクラッチ作動ボタン(23)によって保持される。この事例ではフラット・ワイヤの圧縮ばねである予め押し込まれた状態の付勢部材(62)が、比較的押し込まれていない状態すなわち緩められた状態において、第2の環状壁(30)を中心としてその周りで、第2の環状スカート(28)の近位側表面の上の近位側に着座する。図2には示されていないが、このばねは、常に、内側ボリュームの近位側先端部(63)の上に着座するか又はそれに当接されるように、押し込まれていない状態すなわち緩められた状態で近位方向に延在する。図2から分かるように、ばね(62)の予め押し込まれた状態によりホルダ(31)が引かれて、押し込まれていない状態すなわち緩められた状態において、ホルダの係合接続(48、60)を介して、クラッチ作動ボタン(23)に到達し、その結果、ホルダ(31)の突出歯(40)が円筒形ボディの突出歯(42)に係合される。ボタン・ボディ(54)の遠位側面(52)が環状溝(27)の中に留まり、その近位側先端部に隣接するところに及び円筒形ボディ(12)の近位側先端部(22)に隣接するところに位置する。これは第1の係合位置を表している。その理由は、円筒形ボディ(12)に伝えられるいかなる回転運動も、それぞれの係合歯(40、42)の往復動的な係合を介して、磁石(8)にさらに伝達されるからである。磁石(8)が回転することにより、薬物送達デバイス(2)の長手方向軸(6)に一致する磁石の回転軸を中心として三次元的に生成される磁界成分の分布が変化し、これらの変化が、薬物送達デバイスのボディの上に又はその中に位置する磁界センサによって検出される。さらに、投与量ホイールの回転により、薬物送達デバイスを介して投与される単位としての薬物の投与量が既知の手法で設定される。所望の投与量が設定されると、使用者が親指又は指でクラッチ作動ボタンの近位側先端部(55)を押圧し、それによりクラッチ組立体を遠位方向に動かして非係合位置に入れる。非係合位置では、図3から分かるように、クラッチ作動ボタン(23)が使用者によって押されている。このボタンが、予め押し込まれた状態の付勢部材(62)に接触する形で動いてこの付勢部材(62)を圧縮し、それによりばねを動かして、緩められた状態すなわち押し込まれていない状態から、圧縮されている状態すなわち押し込まれている状態にする。これが行われるとき、ボタン・ボディ(54)の遠位側表面(52)が環状溝の中のより深いところまで動き、その結果、最終的に遠位側表面(52)が、円筒形ボディ(12)の第1の環状スカート(25)の近位側表面に係合されて当接されるか又はそのような係合・当接に近い状態となる。同様に、ボタン・ボディ(54)の遠位側ショルダ(57)が、円筒形ボディ(12)の近位側先端部(22)に位置する近位側表面(58)に表面的に係合されて当接される。遠位側に動くとき、ホルダ(31)の突出する歯(40)が円筒形ボディ(12)の突出する歯(42)との係合・当接による接触状態から押し出されるが、それぞれの対応する係合部材(48、60)を介してクラッチ作動ボタンに接続された状態を維持する。この位置が第2の非係合位置である。使用者により指又は親指の遠位方向の圧力がクラッチ作動ボタンに加えられている状態である限り、強制的に第2の非係合位置となる。非係合位置では、突出する歯(40、42)の間で係合・当接が一切見られない状態において、磁石(8)が、円筒形ボディに加えられるいかなる回転運動の影響も受けることがなく、したがって、磁石(8)によって生成される三次元的な磁界成分に影響することなく、所望される場合に円筒形ボディ及び対応する投与量設定ホイールを回転させることが可能である、ことにも留意されたい。また、非係合位置では、磁石(8)の遠位側表面(66)が薬物送達作動ボタン(21)の近位側表面に接触しているか又はそれに近接している、ことにも留意されたい。したがって、この場合、クラッチ作動ボタン(23)に対して遠位方向の圧力を継続的に加えることにより、薬物送達デバイス内で薬物の送達を開始することが可能となる。この遠位方向の圧力により、クラッチ組立体が遠位方向に動き、ここでは磁石(8)の遠位側表面(66)が薬物送達作動ボタン(21)を支承している状態である。上記薬物送達作動ボタン(21)が投与量設定ホイール(7)及び薬物送達デバイスの注射バレル(67)に接触していることから、さらに、これらの要素が遠位方向へと前方に動かされ、それにより薬物送達デバイスからの薬物の注射及び送達を実施する。注射ステップの完了時の、クラッチ組立体(11)、投与量設定ホイール、及び薬物送達作動ボタン(21)の最終位置が図4に示されている。注射の完了後、クラッチ作動ボタン(23)に対しての圧力が解除されるか又は停止され、予め押し込まれた状態の付勢部材(62)が、クラッチ作動ボタン及び接続状態のホルダ(31)を逆の近位方向に付勢し、それにより、対応する突出する歯(40)と協働する形でホルダ(31)と共に動くようになり、クラッチ組立体(11)を動かして第1の係合位置に戻し、第1の係合位置では、それぞれの突出する歯(40、42)が再び互いに当接係合される。円筒形ボディが回転すると再び磁石(8)も回転させられ、それにより、さらなる薬物の投与の準備のために投与量設定ホイールが使用されることが可能となる。
【0090】
次に、図7、8、9、10、及び11を参照すると、本明細書において後で説明される代替のクラッチ組立体を有する本発明による投与量制御デバイスが示されている。デバイスの同様の要素を参照するのに同様の参照符号を使用する。
【0091】
図7が、係合位置において円筒形ボディ(12)を設置されている代替のクラッチ組立体を示しており、ここでは、ばね(62)が、図2と同様の、緩められた状態すなわち実質的に押し込まれていない状態である。この位置では、ばね(62)が、投与量制御デバイス(1)の長手方向軸(6)に沿って近位方向にクラッチ作動ボタン(23)を付勢して円筒形ボディから離す。クラッチ作動ボタン(23)が、図2と同様に、遠位側表面(52)を有する遠位側先端部(51)を有する。クラッチ組立体が係合位置にあるとき、クラッチ作動ボタン(23)の遠位側先端部(51)の遠位側表面(52)が、円筒形ボディ(12)の近位側先端部(22)に位置する対応する近位側先端部表面(53)に接触していない。さらに、クラッチ作動ボタン(23)がボタン・ボディ(54)を有し、このボタン・ボディがクラッチ作動ボタン(23)の近位側先端部(55)からボタン・ボディ(54)の遠位側先端部(51)の方に延在し、ボタン・ボディ(54)の長手方向軸に沿って遠位側に延在する環状壁を有し、ボタン・ボディ(54)の長手方向軸が長手方向軸(6)と同軸となるように位置合わせされる。これが、例えば、注射を実行するのにデバイスを使用する前での、又は別法として薬物送達デバイスの使用者が注射を実行するときの、クラッチ組立体の初期設定の静止位置である。クラッチ組立体のこの代替的実施例では、一方が磁界生成ボディ(31)上に設けられて、もう一方が円筒形ボディ上に設けられるような、相互作用する係合歯のセットは存在しない。代わりに、図10及び11に関連して本明細書において後でより詳細に説明するように、円筒形ボディ(12)の近位側先端部(22)の内側表面(69)上に位置する摩擦層(68)により係合手段が提供される。
【0092】
図8が、クラッチ組立体が非係合位置にあるときのクラッチ組立体及び投与量制御デバイスの相対位置を示しており、ここでは、使用者が注射のために薬物送達デバイスの準備を行っている。この位置では、ばね(62)が圧縮されている状態すなわち実質的に押し込まれている状態であり、ボタン・ボディ(54)の遠位側先端部(51)の遠位側表面(52)が、円筒形ボディ(12)の近位側先端部(22)に隣接して位置する対応する近位側表面(53)に接触する。使用者によりクラッチ作動ボタンに対しての遠位方向の親指又は指の圧力が維持されている限り、強制的に第2の非係合位置となる。非係合位置では、突出する歯(40、42)の間で係合・当接が一切見られない状態において、磁石(8)が、円筒形ボディに加えられるいかなる回転運動の影響も受けることがなく、したがって、磁石(8)によって生成される三次元的な磁界成分に影響することなく、所望される場合に円筒形ボディ及び対応する投与量設定ホイールを回転させることが可能である、ことにも留意されたい。また、非係合位置では、磁石(8)が薬物送達作動ボタン(21)の近位側表面に接触しているか又はそれに近接している、ことにも留意されたい。したがって、この場合、クラッチ作動ボタン(23)に対して遠位方向の圧力を継続的に加えることにより、薬物送達デバイス内での薬物の送達を開始することが可能となる。この遠位方向の圧力により、クラッチ組立体が遠位方向に動き、ここでは磁石(8)の遠位側表面(66)が薬物送達作動ボタン(21)を支承している状態である。上記薬物送達作動ボタン(21)が投与量設定ホイール(7)及び薬物送達デバイスの注射バレル(67)に接触していることから、さらに、これらの要素が遠位方向へと前方に動かされ、それにより薬物送達デバイスからの薬物の注射及び送達を実施する。したがって、図9が、使用者がこのような注射を実施した後のクラッチ組立体及び投与量制御デバイスの相対位置を示している。
【0093】
図10及び11が、第1の方向及び第2の反対の方向から見た場合の、デバイスの長手方向軸に沿う代替のクラッチ組立体のより詳細な概略分解斜視図を示す。これらの図では、円筒形ボディ(12)が、前の実施例を参照して説明したような歯を有する係合手段の代替手段として摩擦層(68)を設けることにより、その遠位側先端部のところが修正されており、磁気生成手段ホルダボディ(32)とプッシュ・ボタン(23)との間の選択的な係合を可能にしている。この摩擦層(68)は、摩擦層(68)に対して近位側外側表面(69)が係合されるときに、円筒形ボディとの協働的な磁界生成手段ホルダ・ボディ(32)の近位側外側表面(69)の回転を促進するのに十分な摩擦係合抵抗力を提供するような任意適切な材料によって提供され得る。多種多様な適切な摩擦発生材料がこのような機能性を有することが可能であるが、出願人は、摩擦層(68)が、例えば、ゲルと同程度のコンシステンシーを有する0ショアAから、対照的に比較的高い剛性を有する材料である70ショアDの間のショア硬さを有するような、比較的高い剪断力係数を有するポリマー材料を含む場合に特に適切な摩擦係合が達成され得ることを発見した。このようなポリマーは熱可塑性エラストマすなわち略すとTPEとして知られており、概して、以下の6つの異なるファミリーに分類される。
- TPS又はTPE-sとしても知られている、スチレンブロック共重合体
- TPO又はTPE-oとしても知られている、熱可塑性ポリオレフィンエラストマ
- TPV又はTPE-vとしても知られている、熱可塑性加硫物;
- TPUとしても知られている、熱可塑性ポリウレタン
- TPC又はTPE-Eとしても知られている、熱可塑性共重合ポリエステル
- TPA又はTPE-aとしても知られている、熱可塑性ポリアミド及び
- TPZとしても知られている、未分類の熱可塑性エラストマ。
【0094】
上記の多くが想定する機能性に適合し得るが、出願人は、摩擦層のための好適な材料として、スチレンブロック共重合体からの部材を使用し続けており、具体的には、約40から約80の間のショアA硬さを有する、例えばKraton-G(Shell Chemicals)というブランド名で市販されている、SEBSポリマーとしても知られている、ポリスチレン-b-ポリ(エチレン-ブチレン)-b-ポリスチレンから作られるか又はこのポリスチレン-b-ポリ(エチレン-ブチレン)-b-ポリスチレンを含む材料からの部材を使用し続けている。
【0095】
上で言及したように、摩擦層(68)が円筒形ボディ(12)の近位側先端部(22)の内側表面(69)上に位置する。この点に関して、摩擦層は、連続的な層であっても、半連続的な層であっても、或は摩擦発生材料の積層物アレイの形態として提供されるものであってもよく、ここでのこれらの各々は、いずれも、層又は積層物の厚さに関して、必要とされる摩擦効果を生み出すように適合され得る。好適には、摩擦層(68)は、着座手段(70)を介して円筒形ボディの近位側先端部(22)の内側表面(69)上にさらに着座する、SEBS材料の環状形状の層である。この着座手段(70)は、例えば、内側表面(69)の上に、及び/又は内側表面(69)に接触することになる摩擦層の近位側表面の上に、配置されるか又は塗布されるシーラント又は接着剤であってよい。しかし、出願人は、好適には、円筒形ボディ(12)の近位側先端部(22)内に設けられる対応する開口部の中に位置してその中で膨張する摩擦材料のダブテール形状の延長部分又は突出部(70)として着座手段を提供することが有利であることを発見した。
【0096】
図7から11により、また特には図10及び11により示される代替的実施例で見ることができる別の特徴としてばね式の着座誘導突出部(72)があり、このばね式の着座誘導突出部(72)が円筒形ボディ(12)の近位側先端部(22)から近位方向へと外側に延在している。この着座誘導突出部(72)は、円筒形ボディ(12)の近位側先端部(22)に対してのばね62の誘導及び適切な着座を促進するために設けられるものである。
【0097】
ここで、図10及び11をより詳細に参照すると、磁界生成手段ホルダ(31)が、磁石(8)を実質的に囲んでいるボディ(32)を有する。この実施例では、ホルダ・ボディ(32)がホルダ・ボディ(32)の遠位側先端部(35)に隣接して位置するスカート(36)を有し、スカート(36)が、ホルダ・ボディ(32)から径方向外向きに延在する概略平坦な表面と、概略平坦な表面の周縁部(38)から遠位側に延在する環状周囲壁(37)とを有する。環状周囲壁(37)が遠位側先端部まで延在し、そこで遠位側先端部壁(73)と交わり、それによりその遠位側先端部のところで磁石(8)を完全に包囲する。磁界生成手段ホルダ・ボディ(32)の遠位側先端部には、ボディ(32)の上に位置するような歯又は孔(33)の上に位置するような突出部が存在しない。したがって、この構成では、ホルダ・ボディ(32)のスカート表面(36)が、円筒形ボディ(12)の摩擦層(68)の遠位側を向く表面との係合手段を形成する。ホルダ係合部材(60)を受ける孔(33)の摩擦による協働により、ホルダ・ボディ(32)及び作動ボタン・ボディ(54)が一体に保持される。任意選択で、有利には、上記孔(33)及びホルダ係合部材(60)が、例えば超音波スポット溶接を介して、組み立て後には永久的に一体に接続される。したがって、係合位置にあるとき、孔(33)と係合部材(60)との間の接続により、ばね(62)がホルダ・ボディ(32)を、摩擦層(68)の遠位側を向く表面の方へと近位方向に引く。ばねがその押し込まれていない状態に到達すると、ホルダ・ボディ(32)のスカート表面(36)が摩擦層(68)の遠位側を向く表面に接触し、摩擦層とスカート表面との間に生じる摩擦により円筒形ボディ(12)のいかなる回転運動もスカート表面(36)に伝達されるような程度で、定位置で保持される。このようにして、磁石(8)が円筒形ボディに摩擦により結合され、したがって、薬物送達デバイスの投与量ホイール(21)に接続される円筒形ボディがいくらかでも回転すると磁石も回転することになる。例えば使用者の親指又は別の指によりクラッチ作動ボタンが押されると、ボタン・ボディ(54)がばね(62)を押し込んでボタン・ボディ(54)及びホルダ・ボディ(32)を軸方向の遠位方向に動かし、それによりホルダ・ボディ(32)のスカート表面(37)を摩擦層(68)から分離し、クラッチ組立体を非係合位置まで動かし、それによりホルダ・ボディ(32)を円筒形ボディ(12)から動作可能に分離し、それによりホルダ・ボディを軸方向に自由に移動させるのを可能にし、それにより例えば、注射ボタンに対してのホルダ・ボディ(32)の遠位側先端部(35)の当接を介して注射を実行し、ここでは、これに対応する形で投与量設定ホイールの回転運動が伝達されることが一切ない。
【0098】
上記では2つの特定の使用のシナリオを詳細に説明してきたが、本明細書で概略的に説明される、選択的に係合可能及び解放可能であるクラッチ組立体は、薬物送達デバイスの製造業者がその製造業者の薬物送達デバイスの一般的な操作方法に対応する形で磁界生成手段の係合及び解放を設定するのを、可能にする。これにより、このようなクラッチ組立体を有する投与量制御デバイスが非常に高い柔軟性を有するツールとなり、ここでの非常に高い柔軟性を有するツールとは、既知の磁界検出センサ及び付随のデータ処理を利用することにより投与量設定及び実際の投薬量を制御及び確認すること、加えて、投与量制御デバイスの誤用を防止するか又は少なくともその誤った使用を検出すること、さらには同様に重要なこととして、また非常に有利なこととして、所与の薬物送達デバイスに関連する使用者の使用習慣を無理に変えないようにすることを、薬物送達デバイスの製造業者にとって可能なこととするようなツールのことである。
図1
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図9
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図11