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特許7426492複合材料製パネル構造体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】複合材料製パネル構造体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/46 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
B29C70/46
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022543993
(86)(22)【出願日】2021-08-19
(86)【国際出願番号】 JP2021030385
(87)【国際公開番号】W WO2022039226
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2020138648
(32)【優先日】2020-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川又 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 陽一
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-196146(JP,A)
【文献】特表2014-510879(JP,A)
【文献】国際公開第2008/038429(WO,A1)
【文献】特開2014-151648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00 - 70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維およびマトリクス樹脂を含有する複合材料製のプレス成形品であるパネル構造体であって、
基板部と、
当該基板部に対して立設するリブと、を備え、
前記基板部には、前記基板部および前記リブの体積から算出される前記基板部の必要板厚に基づいて積層数が決定された複合材料層である基本層が積層され、
前記基板部のうち、少なくとも前記リブが立設するリブ基底部には、前記基本層に加えて連続繊維を含むシート状の複合材料層であるダブラ層が積層され、
前記リブの先端部まで前記強化繊維が配置している、
複合材料製パネル構造体。
【請求項2】
前記パネル構造体の設計上の体積を成形基準体積としたとき、
前記基本層と前記ダブラ層との合計積層数は、前記成形基準体積以上から前記成形基準体積の1.25倍以下までの範囲内となる積層数である、
請求項1に記載の複合材料製パネル構造体。
【請求項3】
前記リブおよび前記リブと湾曲してつながり前記基板部の一部を構成する複合材料層を第一面側積層体とし、
前記リブと反対側の前記第一面側積層体表面に配置され、前記基板部を構成する複合材料層を第二面側積層体とし、
前記第一面側積層体と前記第二面側積層体との間に生じる、前記リブに沿って延伸する三角形状の断面を有する領域をフィラー領域としたときに、
前記フィラー領域のみに複合材料フィラー層が配置されている、
請求項1または2に記載の複合材料製パネル構造体。
【請求項4】
前記フィラー領域の設計上の体積をフィラー基準体積としたときに、
前記複合材料フィラー層の積層数は、前記フィラー基準体積以上から前記フィラー基準体積の3.0倍以下までの範囲内となる積層数である、
請求項3に記載の複合材料製パネル構造体。
【請求項5】
前記強化繊維は、連続繊維および切込み入り連続繊維の少なくとも一方である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の複合材料製パネル構造体。
【請求項6】
航空機用、宇宙機用または自動車用である、
請求項1から5のいずれか1項に記載の複合材料製パネル構造体。
【請求項7】
前記強化繊維が炭素繊維であり、前記マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂である、
請求項1から6のいずれか1項に記載の複合材料製パネル構造体。
【請求項8】
基板部と、基板部に対して立設するリブとを含み、強化繊維およびマトリクス樹脂を含有する複合材料製のパネル構造体を製造する複合材料製パネル構造体の製造方法であって、
前記基板部が必要板厚となる数のプリプレグである基本プライ、および前記基板部のうち前記リブが立設するリブ基底部に連続繊維からなるシート状のプリプレグであるダブラプライを積層してプリプレグ積層体を形成し、
前記プリプレグ積層体を成形型によりプレス成形する、
複合材料製パネル構造体の製造方法。
【請求項9】
前記基本プライと前記ダブラプライとの合計積層数は、前記成形型のキャビティ体積以上から前記キャビティ体積の1.25倍以下までの範囲内となる積層数である、
請求項8に記載の複合材料製パネル構造体の製造方法。
【請求項10】
前記パネル構造体において、
前記リブおよび前記リブと湾曲してつながり前記基板部の一部を構成する複合材料層を第一面側積層体とし、
前記リブと反対側の前記第一面側積層体表面に配置され、前記基板部を構成する複合材料層を第二面側積層体とし、
前記第一面側積層体と前記第二面側積層体との間に生じる、前記リブに沿って延伸する三角形状の断面を有する領域をフィラー領域としたときに、
前記フィラー領域のみにプリプレグであるフィラープライを積層する、
請求項8または9に記載の複合材料製パネル構造体の製造方法。
【請求項11】
前記フィラー領域の設計上の体積をフィラー基準体積としたときに、
前記フィラープライの積層数は、前記フィラー基準体積以上から前記フィラー基準体積の3.0倍以下までの範囲内となる積層数である、
請求項10に記載の複合材料製パネル構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形により製造される複合材料製パネル構造体とその製造方法に関し、特に、基板部に対して立設するリブにより補強された複合材料製パネル構造体とその製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
複合材料製部品は、航空機用部品に限らず、大量生産の製造効率の観点からプレス成形により製造する手法が従来から検討されている。例えば、特許文献1では、プレス成形により製造される、板状部から突出するリブを有する繊維強化プラスチック成形品が記載されている。この成形品では、板状部が繊維の体積含有率(Vf)が50~70%、平均厚さが1.5mm以下であり、リブは、平均幅が0.1~1.5mmであり、さらに、板状部とリブにわたって繊維が存在している。特許文献1では、リブにおける繊維のVfを板状部と同様のレベルにするため、板状部における繊維のVfを特定するとともに、リブの平均幅を特定する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2019/078242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の成形品では、板状部(基板部)が平均厚さ1.5mm以下の薄肉のものに限定されているとともに、リブの厚さも0.1~1.5mmの範囲内に限定されている。したがって、特許文献1に開示の手法は、1.5mm以上の肉厚の板状部を有するようなパネル構造体には適用できない。
【0005】
また、特許文献1では、リブの高さは特に限定されていないが、上限の一例として50mm以下が望ましいことが例示されている。ただし、リブの高さが高くなるほど、リブの先端まで繊維を存在させることが困難になる場合もある。このことは、特許文献1では、リブの高さとして5.0mm以下の実施例しか挙げられていない点にも示されている。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、基板部およびリブを有し、基板部およびリブの厚さおよび高さによらず、リブの先端に繊維を配置させることが可能な、複合材料製パネル構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る複合材料製パネル構造体は、前記の課題を解決するために、強化繊維およびマトリクス樹脂を含有する複合材料製のプレス成形品であるパネル構造体であって、基板部と、当該基板部に対して立設するリブと、を備え、前記基板部には、前記基板部および前記リブの体積から算出される前記基板部の必要板厚に基づいて積層数が決定された前記複合材料層である基本層が積層され、前記基板部のうち、少なくとも前記リブが立設するリブ基底部には、前記基本層に加えて複合材料層であるダブラ層が積層され、前記リブの先端部まで前記強化繊維が配置している
構成である。
【0008】
本発明に係る複合材料製パネル構造体の製造方法は、前記の課題を解決するために、基板部と、基板部に対して立設するリブとを含み、強化繊維およびマトリクス樹脂を含有する複合材料製のパネル構造体を製造する複合材料製パネル構造体の製造方法であって、前記基板部が必要板厚となる数のプリプレグである基本プライ、および前記基板部のうち前記リブが立設するリブ基底部にプリプレグであるダブラプライを積層してプリプレグ積層体を形成し、前記プリプレグ積層体を成形型によりプレス成形する構成である。
【0009】
前記構成によれば、リブ基底部には基準積層数を超えるダブラ層が積層されることにより、当該リブの先端部まで強化繊維が配置している。これにより、プレス成形するだけで、補強構造を有するパネル構造体を製造できるとともに、基板部およびリブの厚さおよび高さに制限されることなく、補強構造であるリブの先端部まで強化繊維を配置できる。そのため、基板部の強度および剛性を良好にできるので、良好な強度および剛性を有するパネル構造体を低コストで製造できる。
【0010】
本発明の上記目的、他の目的、特徴、および利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、以上の構成により、基板部およびリブを有し、基板部およびリブの厚さおよび高さに制限されることなく、リブの先端にも繊維を配置させることが可能な、複合材料製パネル構造体を提供できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施の形態に係るパネル構造体の構成の一例を示す模式的斜視図である。
図2図2は、図1に示すパネル構造体が備えるリブおよびリブ基底部の代表的な構成の一例を示す模式的断面図である。
図3図3Aは、図2に示すリブおよびリブ基底部の断面構造をさらに模式化した図であり、図3Bは、図3Aに示すリブ基底部に含まれるリブ基底領域を模式的に示す図であり、図3Cは、図3Bに示すリブ基底領域を理論的に計算するためのフィラー領域を除いた領域を模式的に示す図である。
図4図4A図4Bは、本実施の形態でパネル構造体の製造に用いられるプリプレグ積層体の一例を示す模式的断面図である。
図5図5Aは、図1に示すパネル構造体を、図4Aのような積層体を用いてプレス成形で製造する際の成形型の代表的な一例を示す模式図であり、図5Bは、図5Aに示す模式図において、プリプレグ積層体および成形型のキャビティを拡大した部分模式図である。
図6図6Aは、図1に示すパネル構造体を、図4Bのような積層体を用いてプレス成形で製造する際の成形型の他の例を示す模式図であり、図6Bは、図6Aに示す模式図において、プリプレグ積層体および成形型のキャビティを拡大した部分模式図である。
図7図7Aは、従来のプリプレグ積層体を用いて図1に示すパネル構造体を製造する際の成形型の代表的な一例を示す模式図であり、図7Bは、図7Aに示す模式図において、プリプレグ積層体および成形型のキャビティを拡大した部分模式図である。
図8図8Aは、実施例であるパネル構造体の具体例を示す外観写真であり、図8Bは、図8Aに示すパネル構造体のリブの断面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の代表的な実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0014】
[複合材料製パネル構造体]
本開示に係る複合材料製パネル構造体の代表的な一例について、図1および図2を参照して具体的に説明する。なお、以下の説明では、説明の便宜上、複合材料製パネル構造体を、適宜「パネル構造体」と略す場合がある。
【0015】
本実施の形態に係るパネル構造体は、強化繊維およびマトリクス樹脂を含有する複合材料製のプレス成形品である。パネル構造体の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、図1に示すように、ウェブ部11、リブ12、フランジ部13a,13bを備えたパネル構造体10であるここで、説明のためにウェブ部11に沿ってリブ12が延伸する方向をX軸、フランジ部13a、13bが延伸する方向をY軸、リブ12が立設する方向をZ軸とする。
【0016】
本実施の形態では、ウェブ部11を基板部とし、ウェブ部11においてリブ12が立設する部位をリブ基底部14とする。
【0017】
図1に示すように、パネル構造体10の横断面は「Z形」である。フランジ部13aは平板状のウェブ11の一方の側縁部に位置し、第一面側にZ軸方向に折れ曲がってY軸方向に延伸する。フランジ部13bはウェブ部11の他方の側縁部に位置し、第一面の反対側の表面である第二面側にZ軸方向に折れ曲がってY軸方向に延伸する。リブ12は、ウェブ部11の第一面にZ軸方向に立設し、ウェブ部11の一方の側縁部から他方の側縁部に向かう方向であるX軸方向に延伸している。リブ12の一方の端部は、フランジ部13aにつながっている。
【0018】
パネル構造体10において、基板部の具体的な形状および厚さは特に限定されず、その用途に応じて適宜設計できる。リブ12の具体的な形状、厚さおよび高さも特に限定されない。パネル構造体10がフランジ部13a,13bあるいは他の構造部位を有する場合には、当該パネル構造体10の種類、用途、使用条件等の諸条件に応じて、厚さまたは幅(あるいは高さ)等を適宜設定できる。
【0019】
[リブおよびリブ基底部]
次に、パネル構造体10のリブ12およびリブ基底部14について図2を参照して説明する。図2は、図1に示すパネル構造体10におけるリブ12およびリブ基底部14の断面構成を示す模式図である。
【0020】
図2の横方向がX軸方向に対応し、図2の縦方向がZ軸方向に相当する。また、ウェブ11において図中上側の表面が基板部の第一面に相当し、図中下側の表面が基板部の第二面に相当する。
【0021】
パネル構造体10は、少なくとも強化繊維およびマトリクス樹脂から構成され、基板部は強化繊維を含む複合材料層の積層構造を含む。図2では、強化繊維の層を太線または白抜き線で模式的に図示し、強化繊維を含む層を複合材料層として取り扱う。
【0022】
パネル構造体10の用途等に応じて、ウェブ部11の「必要板厚」および必要板厚を実現するための「基準積層数」が予め設定される。ウェブ11は基準積層数の複合材料層のみで構成される。
【0023】
図2に示す例では、ウェブ部11は模式的に太線の強化繊維の層で示す6層の複合材料層21からなるが、6層に限定されず、実際のパネル構造体10の板厚等に応じて決定すればよい。また、図2では、複合材料層21の間隔が不均一であるが、これも図示の便宜に過ぎないことは言うまでもない。
【0024】
図2においてウェブ部11の必要板厚を実現する複合材料層21を便宜上「基本層21」と称する。ウェブ部11のほとんどは基本層21のみで構成される。リブ基底部14には、基本層21以外の複合材料層であるダブラ層22が積層される。このダブラ層22は、言い換えれば、基準積層数を超えて積層される複合材料層である。図2では、ダブラ層22は、基本層21と区別するために白抜き線の複合材料層として図示する。
【0025】
図2に示す例では、ダブラ層22の積層数は3層であるが、具体的な積層数は限定されない。
【0026】
ダブラ層22の積層数は、パネル構造体10の設計上の体積に基づいて積層数の好ましい範囲を設定できる。例えば、パネル構造体10の設計上の体積を「成形基準体積」とすると、基本層21とダブラ層22との合計積層数は、成形基準体積以上から成形基準体積の1.25倍以下までの範囲内となる積層数である。一般的には、成形基準体積はプレス成形時に用いられる成形型のキャビティに基づいて設定できる。
【0027】
本来であれば、必要板厚を実現する積層数で複合材料層を積層すれば、基板部およびリブ12を成形できるはずである。しかしながら、本発明者らの鋭意検討によれば、単に必要板厚を実現する積層数からなるプリプレグ積層体をプレス成形しても、適切にリブ12を形成できない場合があることが明らかとなった。そのため、リブ12を有するパネル構造体10をプレス成形する場合には、成形基準体積に基づいてダブラ層22の積層数を設定することが好ましい。
【0028】
例えば、ダブラ層22の積層数が成形基準体積と同等の1.0倍未満であると、ダブラ層22を追加積層したとしても、適切なリブ12をプレス成形できなくなる場合がある。一方、ダブラ層22の積層数が成形基準体積の1.25倍を超えた場合、理論上、リブ12およびリブ基底部14の繊維体積含有率が過剰になる可能性がある。
【0029】
基本層21に対してダブラ層22が追加されると、強化繊維の層だけでなくマトリクス樹脂20も追加される。ダブラ層22の追加により複合材料層の積層体積が増加すれば、マトリクス樹脂20はリブ12およびリブ基底部14以外の部分に流出すると考えられるため、リブ12およびリブ基底部14における繊維体積含有率が増加すると見なせる。
【0030】
一般的に、強度低下が見られない繊維体積含有率の上限値は、ノミナル値の+5%と考えられる。計算上、基本層21に対する追加量であるダブラ層22の積層数が成形基準体積の1.25倍以下であれば、繊維体積含有率の上限値に対応すると見なせる。もちろん、諸条件によってはダブラ層22の積層数が成形基準体積の1.25倍を超えても何ら問題ない場合もあることは言うまでもない。
【0031】
パネル構造体10においては、図2に示すように、基本層21に対してダブラ層22を追加積層しているため、リブ12の先端部まで強化繊維が配置されている。図2では、リブ12において、2層のダブラ層22と3層の基本層21とを図示しているが、これに限定されない。
【0032】
さらに、本実施の形態に係るパネル構造体10では、ダブラ層22に加えて、リブ基底部14内にて破線で示すフィラー領域15に、複合材料層であるフィラー層23を積層しても良い。このフィラー領域15およびフィラー層23について、図2に示すリブ基底部14の模式的な断面構造をさらに模式化した図3Aに基づいて具体的に説明する。
【0033】
説明の便宜上、第一面および第二面を「第一面11a」および「第二面11b」として符号を付して図示する。
【0034】
基板部を構成する複数の複合材料層は、図3Aに示すように、第一面側積層体16aおよび第二面側積層体16bに模式的に区分できる。第一面側積層体16aは基板部であるウェブ部11の第一面11a側となる部位である。第二面側積層体16bは基板部であるウェブ部11の第二面11b側となる部位である。
【0035】
リブ12は2つの第一面側積層体16a同士が対向して貼り合わされて構成されており、当該リブ12の根元では2つの第一面側積層体16aが互いにY軸方向反対向きに湾曲して折り曲げられている。そのため、リブ12は、ウェブ部11である基板部から立設する構造となる。また、第二面側積層体16bは、第一面側積層体16aの第二面11b側の表面に接するように配置される。
【0036】
このような構造において、リブ12と第一面側積層体16aと第二面側積層体16bとの間には、図3Aの模式的断面図に示すように、三角形状の断面を有するフィラー領域15が規定される。当該領域15は、X軸方向に沿って延伸する三角形状の断面を有する細長い領域である。図3Aでは、リブ12の延伸方向は紙面の鉛直方向である。
【0037】
[フィラー領域]
図3Aおよび図2に示すように、フィラー領域15は、ウェブ部11のリブ基底部14に含まれる。本実施の形態では、リブ基底部14のフィラー領域15に対応する部位のみにフィラー層23を積層する。
【0038】
リブ基底部14に対して、基準積層数を超える複合材料層として、ダブラ層22に加えてフィラー層23を積層する。これにより、特にパネル構造体10の第二面11bにおいて、リブ12の反対側すなわち第一面11aのリブ12に対向する側の部位の品質をより一層良好にできる。
【0039】
諸条件にもよるが、ダブラ層22のみが追加積層され、フィラー層23が追加積層されていない場合には、パネル構造体10の第二面11bには、リブ12に対応する位置に凹みが生じることがある。この凹みは、用途によってはパネル構造体10の機能、強度等に影響を及ぼし、表面品質を低下させる可能性がある。
【0040】
例えば、パネル構造体10を構成要素の一つとして用いたときに、当該パネル構造体10の第二面11bを構造上の最外側に配置させる場合には、第二面11bに凹みが存在しない方が好ましい。あるいは、パネル構造体10の第二面11bを他の構成要素と密接させる場合にも、第二面11bに凹みが存在しない方が好ましい。また、パネル構造体10のウェブ部11に強度要求がある場合には、第二面11bに凹みが存在すると繊維がうねっていることによる強度低下が生じる。この観点でも、第二面11bには凹みが存在しない方が好ましい。このような用途では、リブ基底部14に対してダブラ層22に加えてフィラー層23を追加積層することが好ましい。
【0041】
フィラー層23を追加積層する場合、具体的なフィラー層23の積層数は特に限定されない。例えば、第二面11bに凹みが生じても特に問題がない場合には、フィラー層23は不要である。また、第二面11bの凹みを適度に軽減する程度でよい場合、フィラー領域15の設計上の体積に応じて、適当なフィラー層23を追加積層すればよい。
【0042】
さらに、第二面11bに凹みが生じることを回避する場合、フィラー領域15の設計上の体積をフィラー基準体積としたときに、フィラー層23の積層数は、フィラー基準体積以上からフィラー基準体積の3.0倍以下までの範囲内となる積層数に設定することが好ましい。計算上、フィラー層23の追加量がフィラー基準体積の3.0倍以下であれば、前述した繊維体積含有率の上限値(ノミナル値の+5%)に対応すると見なせる。
【0043】
もしフィラー層23の積層数がフィラー基準体積未満であれば、第二面11bに凹みが生じることを回避できない可能性がある。一方、フィラー層23の積層数がフィラー基準体積の3.0倍を超えた場合、リブ基底部14の繊維体積含有率が過剰になる可能性がある。
【0044】
ここで、ダブラ層22の積層数の基準となる成形基準体積は、前記の通り、プレス成形時に用いられる成形型のキャビティに基づいて設定すればよい。フィラー層23の積層数の基準となるフィラー基準体積は、リブ12の厚さとリブ基底部14付近の湾曲の程度に基づいて理論的に計算できる。
【0045】
フィラー基準体積の計算方法について、図3Aに加えて、図3Bおよび図3Cに基づいて具体的に説明する。図3Bは、図3Aに示すリブ基底部14を拡大した模式図である。図3Cは、図3Aおよび図3Bに示すリブ基底領域17を示す模式図である。
【0046】
前述したフィラー領域15は、リブ基底部14の第一面11a側で互いに対向する第一面側積層体16aと、第二面11b側に位置し、これら第一面側積層体16aに対向する第二面側積層体16bとの間の領域として設定できる。また、図3Aにおいて破線で囲んだリブ基底領域17は、リブ基底部14のうち互いに対向する第一面側積層体16aの湾曲部分と、その間のフィラー領域15と、により構成される領域として設定される。
【0047】
リブ基底領域17をより具体的に説明する。図3Bに示すように、第一面側積層体16aの湾曲部分を半径Rの四分円(半径Rの真円を1/4に分割した、中心角90°の扇形)に近似したとする。このとき、第一面側積層体16aの厚さtHは、リブ12の厚さtAの半分であるtA/2になる。リブ基底領域17のZ軸方向の長さはR+tHとなる。リブ基底領域17のY軸方向の長さは2R+2tHとなる。さらに、図3Cに示すように、リブ基底領域17の横断面においてフィラー領域15を除いた網掛け領域は、半径R+tHの四分円がY軸方向に並列した状態に近似できる。
【0048】
それゆえ、フィラー領域15の横断面の面積は、リブ基底領域17の面積である(R+tH)×(2R+2tH)から、図3Cに示す網掛け領域の面積であるπ×(R+tH)2×(2/4)を減算した面積として計算できる。フィラー領域15は、X軸方向であるリブ12の延伸方向に沿って延伸する細長い領域である。そのため、フィラー領域15の体積すなわちフィラー基準体積は、フィラー領域15の横断面の面積にリブ12の長さすなわちフィラー領域15の長さを乗算した体積として計算できる。
【0049】
[プリプレグおよび積層体]
次に、パネル構造体10を製造するために用いられるプリプレグおよびその積層体について、図4A図4Bを参照して説明する。なお、図4A図4Bにおいても、図3Aと同様に、説明の便宜上、第一面および第二面を「第一面11a」および「第二面11b」として符号を付して図示する。図4A図4Bに示す例では、図面下側が第一面11aであり、図面上側が第二面11bである。
【0050】
前記の通り、本実施の形態に係るパネル構造体10は、プレス成形により製造される「プレス成形体」である。当該構成を有するパネル構造体10を製造する際には、一般的にはプリプレグが用いられる。プリプレグは、強化繊維で構成される基材にマトリクス樹脂20を含浸したシート体である。
【0051】
本実施の形態における代表的な一例では、まず、プリプレグを複数枚積層して図4Aまたは図4Bに示すようにプリプレグ積層体30Aまたは30Bを形成する。当該リプレグ積層体30Aまたは30Bをプレス成形することによりパネル構造体10を製造する。なお、本開示に係るパネル構造体10のより具体的な製造方法については後述する。
【0052】
基本層21およびダブラ層22のいずれも、プレス成形される前はプリプレグすなわち基材にマトリクス樹脂20を含浸したシート体である。そこで、図4Aまたは図4Bにおいては、基本層21に対応するプリプレグを基本プライ31として図示し、ダブラ層22に対応するプリプレグをダブラプライ32として図示する。
【0053】
図4Aに示すプリプレグ積層体30Aは、基本プライ31およびダブラプライ32で構成されるが、図4Bに示すプリプレグ積層体30Bは、基本プライ31およびダブラプライ32に加えて、フィラー領域15に対応する部位にフィラープライ33から構成される。
【0054】
ここで、プリプレグ積層体30Aまたは30Bにおいて、ダブラプライ32は少なくともリブ12に対応する位置に積層される。ただし、ダブラプライ32の寸法または形状等は限定されない。
【0055】
プリプレグ積層体30Bにおいて、フィラープライ33は、フィラー領域15に対応する位置に、フィラー領域15に対応する三角形状の断面形状となるように積層される。図4Bに示す例では、プリプレグ積層体30Bの中央部に、第一面11aに位置するに伴って徐々に幅が狭くなる三角形状にフィラープライ33が積層されている。
【0056】
なお、基本プライ31の積層数、ダブラプライ32の積層数、およびフィラープライ33の積層数はいずれも特に限定されない。製造されるパネル構造体10に求められる基板部またはリブ12の厚さ、成形型のキャビティ体積、あるいはフィラー領域15の設計上の体積等に基づいて適宜設定できる。基板部またはリブ12の厚さは前述した必要板厚等に対応する。キャビティ体積は、前述した成形基準体積に対応する。フィラー領域15の設計上の体積は、前述したフィラー基準体積に基づく。
【0057】
ダブラプライ32はプレス成形によりパネル構造体10のダブラ層22となる。フィラープライ33はプレス成形によりパネル構造体10のフィラー層23となる。そのため、ダブラプライ32の積層数は、成形型のキャビティ体積以上から当該キャビティ体積の1.25倍以下までの範囲内となる積層数に設定できる。これは成形基準体積1.0倍以上から成形基準体積の1.25倍以下の範囲内である。同様に、フィラープライ33の積層数は、フィラー基準体積以上からフィラー基準体積の3.0倍以下までの範囲内となる積層数に設定できる。
【0058】
また、成形基準体積またはフィラー基準体積等の基準体積に基づいて複合材料層またはプリプレグの積層数を設定する手法については特に限定されず、従来の製造方法の知見を利用できる。
【0059】
プリプレグを構成するマトリクス樹脂20および強化繊維の具体的な種類は特に限定されない。マトリクス樹脂20および強化繊維としては、パネル構造体10の用途等に応じて公知の適用可能な材料を適宜選択して用いることができる。
【0060】
複合材料に用いられるマトリクス樹脂20としては、代表的には、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂の具体的な種類は特に限定されないが、代表的には、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、シアネートエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0061】
これら熱硬化性樹脂は単独種で用いることができ、あるいは、複数種を組み合わせて用いることができる。また、これら熱硬化性樹脂のより具体的な化学構造も特に限定されない。これら熱硬化性樹脂は、公知の種々のモノマーが重合されたポリマーであってもよいし、複数のモノマーが重合されたコポリマーであってもよい。また、熱硬化性樹脂の平均分子量、主鎖および側鎖の構造等についても特に限定されない。
【0062】
熱可塑性樹脂の具体的な種類も特に限定されないが、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)等のエンジニアリングプラスチックが好適に用いられる。これら熱可塑性樹脂のより具体的な化学構造は特に限定されない。
【0063】
これら熱可塑性樹脂は、公知の種々のモノマーが重合されたポリマーであってもよいし、複数のモノマーが重合されたコポリマーであってもよい。また、熱可塑性樹脂の平均分子量、主鎖および側鎖の構造等についても特に限定されない。
【0064】
マトリクス樹脂20には、公知の添加剤等の他の成分を添加することができる。例えば、添加剤としては、公知の硬化剤、硬化促進剤、繊維基材以外の補強材または充填材等を挙げることができる。これら添加剤の具体的な種類、組成等についても特に限定されず、公知の種類または組成のものを好適に用いることができる。
【0065】
マトリクス樹脂20が樹脂以外の他の成分を含有する場合には、樹脂および他の成分により構成される樹脂組成物と解釈できる。
【0066】
強化繊維の具体的な種類は特に限定されないが、例えば、炭素繊維、ポリエステル繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、ボロン繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、シリカ繊維(石英繊維)、炭化ケイ素(SiC)繊維、ナイロン繊維、等を挙げることができる。これら強化繊維は、1種類のみが用いられてもよいし2種類以上が適宜組み合わせて用いることができる。また、強化繊維の基材は特に限定されないが、代表的には、織物、組物、編物、不織布等を用いることができる。
【0067】
強化繊維として連続繊維もしくは長繊維(不連続繊維であるが繊維の長さが長いもの)を用いられても良い。また、強化繊維としては、複数種類の繊維材料または充填材もしくは補強材を併用することができる。例えば、強化繊維として連続繊維に加えて短繊維を用いることができ、繊維状ではなく粒子状の充填材または補強材すなわちフィラーを用いることができる。充填材もしくは補強材としては、複合材料またはマトリクス樹脂20の種類に応じて公知のものを好適に用いることができる。
【0068】
本開示においては、強化繊維は、連続繊維および切込み入り連続繊維の少なくとも一方であることが好ましい。言い換えれば、プリプレグに用いられる強化繊維は、連続繊維であることが好ましい。当該連続繊維には切込みが入ってもよいし切込みが入っていなくてもよいし、切込みのあるものとないものが併用されてもよい。強化繊維が切込みを有するものである場合、連続繊維が織物または組物等の基材であればよい。また、切込みは、基材に対して部分的に形成されてもよいし、全体的に形成されてもよい。
【0069】
[パネル構造体の製造方法]
次に、パネル構造体の製造方法について、図5A図5B図6A図6B、並びに図7A図7Bを参照して具体的に説明する。
【0070】
なお、パネル構造体10として図1ではフランジ部13a,13bを備える構成を図示しているが、プレス成形によりリブ12の形成を説明する便宜上、図5A図5B図6A図6B図7A、および図7Bにおいては、フランジ部13a,13bの形成に関しては図示を省略している。
【0071】
本実施の形態では、プリプレグ積層体30Aをプレス成形することによりパネル構造体10を製造する方法を第一の製造方法例とする。また、プリプレグ積層体30Bをプレス成形することによりパネル構造体10を製造する方法を第二の製造方法例とする。
【0072】
図5Aに示すように、プレス成形時に用いられる成形型40は、パネル構造体10を製造するために用いられるものであり、上型41、下型42、上側熱盤43、下側熱盤44等を備えている。
【0073】
図5Aに示す例では、上型41が基板部であるウェブ部11の第二面に対応し、下型42がウェブ部11の第一面およびリブ12に対応する。上型41と下型42との間には、プリプレグ積層体30が設置されるキャビティ45が形成されている。なお、キャビティ45には、フランジ部13a,13bに対応する空間が含まれるが、フランジ部13a,13bに対応する空間は図示を省略している。
【0074】
上型41の外側には上側熱盤43が設けられ、下型42の外側には下側熱盤44が設けられている。上型41の外側を上側とし、下型42の外側を下側とする。これら熱盤43,44から上型41および下型42に対して熱および圧力が加えられる。これにより、上型41および下型42の間に介在するプリプレグ積層体30Aが加熱加圧すなわちホットプレスされ、パネル構造体10が成形される。
【0075】
下型42は、少なくともリブ12に対応する凹凸構造が形成されている。そのため、図5Aに示す例では、下型42は、複数の型部材を締結部材46で締結固定された構成を有している。なお、成形型40は図5Aに示す構成に限定されない。
【0076】
図5B上に示すように、まず上型41および下型42の間にプリプレグ積層体30Aを配置する。続いて、図5B下に示すように、上下の熱盤43,44により上型41および下型42を加熱加圧すなわちホットプレスする。なお、図5B下の矢印は、加圧方向を示している。このようなプレス成形により、プリプレグである基本プライ31およびダブラプライ32を構成するマトリクス樹脂20が流動し、強化繊維もマトリクス樹脂20とともに流動または伸展する。もしくは強化繊維は流動するとともに伸展することもある。
【0077】
その結果、基本プライ31とともにダブラプライ32が、キャビティ45のうちリブ12に対応する空間に導入される。これにより、図5B下に示すように、リブ12には、基本プライ31およびダブラプライ32に由来する複合材料層が形成され、リブ12の先端部まで強化繊維が配置される。このため、基板部に設けられるリブ12の強度および剛性を向上させることができる。
【0078】
一般的に、複合材料製成形品がリブ12のような複雑な立体構造を含む場合、当該複雑な構造に対応する立体形状となるようにプリプレグが積層されため、積層時間が長くなる。また、複雑な立体形状にプリプレグを積層した積層体をプレス成形することは通常困難であるため、実用上ではオートクレーブ成形が用いられている。しかしながら、オートクレーブ成形では、成形時間が長くなってしまう。このように従来技術を適用して立体構造からなるパネル構造体を製造するためには多大な時間を必要とするため大量生産が難しかった。
【0079】
これに対して、本実施の形態によれば、プリプレグ積層体30Aは実質的に平板状であるためプレス成形が可能であり、リブ12を含む複雑な立体形状からなるパネル構造体を容易に低コストで製造することができる。また、従来、基板部およびリブの厚さおよび高さに制限がないパネル構造体のリブ先端に連続繊維を配置することは難しかったが、リブ基底部14にダブラ層22を追加したプリプレグ積層体30Aをプレス成形することで、リブ12の先端部を含めたリブ12およびリブ基底部14全体に強化繊維が配置できるため、強度および剛性を向上させたパネル構造体10を製造することができる。
【0080】
次に、第二の製造方法例について、図6A図6Bを参照して説明する。図6Aおよび図6Bに示す例では、上型41が基板部であるウェブ部11の第二面に対応し、下型42がウェブ部11の第一面およびリブ12に対応する。
【0081】
図6B上に示すように、まず上型41および下型42の間に、積層されたフィラープライ33が逆三角形状になるようにプリプレグ積層体30Bを配置する。
【0082】
続いて、図6Bに示すように、上下の熱盤43,44により上型41および下型42が加熱加圧すなわちホットプレスされ、上型41および下型42の間に介在するプリプレグ積層体30Bがプレス成形される。このとき、プリプレグである基本プライ31、ダブラプライ32およびフィラープライ33を構成するマトリクス樹脂20が流動し、強化繊維もマトリクス樹脂20とともに流動または伸展する。もしくは強化繊維は流動するとともに伸展することもある。
【0083】
その結果、基本プライ31とともにダブラプライ32が、キャビティ45のうちリブ12に対応する空間に導入される。さらに、キャビティ45のうちフィラー領域15に相当する空間には、フィラープライ33が導入される。これにより、リブ12には、基本プライ31およびダブラプライ32に由来する複合材料層が形成され、リブ12の先端部まで強化繊維が配置される。
【0084】
さらに、リブ基底部14におけるフィラー領域15には、フィラープライ33に由来する複合材料層が形成される。リブ12の全体に強化繊維が配置されるとともに、フィラー領域15がフィラー層23により良好に充填されるため、リブ12の強度を向上できるとともに、基板部であるウェブ部11の第二面における凹みの発生を有効に回避または抑制できる。
【0085】
これに対して、従来技術では、図7Aおよび図7Bに示すように、基本プライ31のみからなるプリプレグ積層体130を使用してプレス成形するため強化繊維は十分に流動または伸展しない。これにより、従来の比較パネル構造体100では、リブ12に強化繊維が十分に配置されない。また、図7B下に示すように、基板部であるウェブ部11では、リブ12の反対側である第二面には凹みが生ずるおそれがある。
【0086】
本開示においては、基本層に加えて、計算上「過剰な」複合材料層であるダブラ層を追加する。過剰な複合材料層であるダブラ層をリブ基底部付近に追加したとしても、技術常識を考慮すれば、リブ全体に強化繊維を配置できないと考えられる。すなわち、技術常識では、プレス成形時には、強化繊維が良好に流動または伸展するとは考えられないため、リブ全体に強化繊維が配置されないと考えられる。ところが、本発明者らの鋭意検討の結果、ダブラ層を追加することで、リブの先端部まで強化繊維を配置することが可能であることが明らかとなった。
【0087】
さらには、本発明者らの鋭意検討の結果、リブ基底部には、本開示で規定する「フィラー領域」というプレス成形において重要となる領域が存在することが明らかとなった。そのため、本開示では、フィラー領域を充填するような複合材料層すなわちフィラー層をさらに追加する。これにより、まず、リブの先端部まで強化繊維を配置できる。これに加えて、パネル構造体の第二面に凹みが生じる可能性を有効に抑制または回避できる。リブの先端部まで強化繊維を配置できること、パネル構造体の第二面の凹みを抑制または回避できることは、基板部およびリブの厚さに制限されることなく実現できることは、本発明者らによる実験的な検証で明らかとなった。
【0088】
次に、パネル構造体10の具体的な実施例について、図8A図8Bを例示して説明する。図8Aはパネル構造体10の実施例を示す平面写真であり、図1に示すパネル構造体10を図1の左側から撮影した状態に相当する。図8Bは、図8Aに示すパネル構造体10が備えるリブ12の断面写真である。図8Aおよび図8Bの写真は、前述した本発明者らによる実験的な検証の代表的な一例である。
【0089】
図8Aおよび図8Bに示すパネル構造体10は、基本層に対してダブラ層を追加積層して、プレス成形により製造したものである。図8Bから明らかなように、リブ12の先端部まで強化繊維が配置していることが観察される。したがって、本開示によれば、プレス成形により当該リブ12の先端部まで強化繊維が配置されたパネル構造体10を製造できることがわかる。
【0090】
[変形例]
本開示に係るパネル構造体10の具体的な形状は図1に示す構造に限定されない。パネル構造体10は、基板部とリブとを備え、基板部が複数の複合材料層が積層されたものであり、リブが基板部に対して立設する板状である構造にできる。したがって、図1に示すようなパネル構造体10は、Z形断面ではなくてもよいし、両側縁部の少なくとも一方がフランジ部でなくてもよい。また、リブの延伸方向も図1に示すような側縁部に対して直行する方向でなくてもよい。ただし、前述したように、基板部のうち少なくともリブ基底部14には、複合材料層に加えてダブラ層が積層される構造にできる。複合材料層は、基板部を構成する基本となる層であり、ダブラ層は、追加的な複合材料層であり、リブ12にはその先端部まで強化繊維が配置している。
【0091】
本開示に係るパネル構造体10において、例えば、図1では、基板部であるウェブ部11は平坦な板状であるが、ウェブ部11は、パネル構造体10の用途に応じて湾曲構造にできる。リブ12は、代表的には、基板部を補強するために設けられる。図1ではウェブ部11が基板部である。そのため、リブ12の厚さおよび高さは、基板部に求められる強度および剛性に応じた厚さまたは高さに設定できる。同様に、パネル構造体10が備えるフランジ部13a,13bあるいは他の構造部位の厚さまたは幅、あるいは高さ等を適宜設定できる。
【0092】
図2にはフィラー領域15に積層されるフィラー層23を模式的に図示した。当該フィラー層23の積層数の代表的な範囲は、前述したフィラー基準体積の1.0倍以上3.0倍以下の範囲内に限定されない。諸条件にもよるが、あくまで一例であるが、フィラー層23の積層数の好ましい範囲としては、フィラー基準体積の1.2倍以上1.5倍以下を挙げることができる。フィラー層23の積層数がこの範囲内であれば、基板部(ウェブ部11)の第二面11bに凹みが実質的に生じない。また、フィラー層23の積層数がこの範囲内であれば、リブ基底部14において、マトリクス樹脂20および強化繊維の均等的な配置を実現しやすくできる。
【0093】
プリプレグ積層体30Aまたは30Bは、パネル構造体10の用途によっては、プリプレグすなわち複合材料層以外の他の材料層を含むことができる。つまり、本開示に係るパネル構造体10は、複合材料以外の他の材料を含むことができる。あくまで一例であるが、プリプレグ積層体30Aまたは30Bの第一面11aまたは第二面11bには、伸展性を有する樹脂または樹脂組成物により形成された樹脂層を積層することができる。このような樹脂層を含むプリプレグ積層体30Aまたは30Bをプレス成形することで、表面に樹脂層が形成されたパネル構造体10を製造できる。
【0094】
表面の樹脂層としては、機械加工性を付与する目的、あるいは、パネル構造体10の外観を向上する目的のものが挙げられるが、特に限定されない。なお、機械加工性とは、例えば、前述した穴開け時にバリまたはささくれ等の発生を防止する性質が挙げられる。
【0095】
プリプレグ積層体30Aまたは30Bは、他の材料層として金属メッシュ層あるいは金属箔を含むことができる。金属メッシュ層または金属箔も伸展性を有するので、本開示に係るパネル構造体10の他の材料層として好適に用いることができる。例えば、プリプレグ積層体30Aまたは30Bの表面には、銅メッシュ層を積層することができる。銅メッシュ層を含むプリプレグ積層体30Aまたは30Bを加熱加圧成形することで、表面に銅メッシュを備えるパネル構造体10を製造できる。
【0096】
また、プリプレグ積層体30Aまたは30Bは、他の材料層として非導電性複合材料の材料層を含むことができる。非導電性複合材料としては、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)等が挙げられる。非導電性複合材料は、プリプレグ積層体30Aまたは30Bの表面全体に積層することができ、あるいは、部分的に積層することができる。このような非導電性複合材料の層を含む積層体を加熱加圧成形することで、表面に非導電性複合材料の層を備えるパネル構造体10を製造できる。
【0097】
表面の非導電性複合材料は、代表的には、電食対策に用いることができる。電食対策とは、例えばCFRPとイオン化傾向の遠い金属部材とが接触する際に、当該金属部材の腐食を抑制するための対策が挙げられる。当該被導電性複合材料の具体的な種類は特に限定されず公知のものを好適に用いることができる。また、非導電性複合材料の用途も電食対策に限定されず、公知の他の用途で用いることができる。
【0098】
このように、本開示に係るパネル構造体は、強化繊維およびマトリクス樹脂を含有する複合材料製のプレス成形品であるパネル構造体であって、基板部と、当該基板部に対して立設するリブと、を備え、前記基板部には、前記基板部および前記リブの体積から算出される前記基板部の必要板厚に基づいて積層数が決定された前記複合材料層である基本層が積層され、前記基板部のうち、少なくとも前記リブが立設するリブ基底部には、前記基本層に加えて複合材料層であるダブラ層が積層され、前記リブの先端部まで前記強化繊維が配置している構成である。
【0099】
前記構成によれば、基板部の補強構造となるリブを備える複合材料製パネル構造体において、リブ基底部には基準積層数を超えるダブラ層が積層される。これにより、プレス成形するだけで当該リブの先端部まで強化繊維が配置された、補強構造を有するパネル構造体を製造できる。さらに、基板部およびリブの厚さおよび高さに制限されることなく、補強構造であるリブの先端部まで強化繊維が配置しているので、基板部の強度および剛性を良好にできる。その結果、良好な強度および剛性を有するパネル構造体を低コストで製造できる。
【0100】
前記構成の複合材料製パネル構造体においては、前記パネル構造体の設計上の体積を成形基準体積としたとき、前記基本層と前記ダブラ層との合計積層数は、前記成形基準体積以上から前記成形基準体積の1.25倍以下までの範囲内となる積層数である構成であってもよい。
【0101】
また、前記構成の複合材料製パネル構造体においては、前記リブおよび前記リブと湾曲してつながり前記基板部の一部を構成する複合材料層を第一面側積層体とし、前記リブと反対側の前記第一面側積層体表面に配置され、前記基板部を構成する複合材料層を第二面側積層体とし、前記第一面側積層体と前記第二面側積層体との間に生じる、前記リブに沿って延伸する三角形状の断面を有する領域をフィラー領域としたときに、前記フィラー領域のみに複合材料フィラー層が配置されている構成であってもよい。
【0102】
また、前記構成の複合材料製パネル構造体においては、前記フィラー領域の設計上の体積をフィラー基準体積としたときに、前記複合材料フィラー層の積層数は、前記フィラー基準体積以上から前記フィラー基準体積の3.0倍以下までの範囲内となる積層数である構成であってもよい。
【0103】
また、本開示に係るパネル構造体の製造方法は、基板部と、基板部に対して立設するリブとを含み、強化繊維およびマトリクス樹脂を含有する複合材料製のパネル構造体を製造する複合材料製パネル構造体の製造方法であって、前記基板部が必要板厚となる数のプリプレグである基本プライ、および前記基板部のうち前記リブが立設するリブ基底部にプリプレグであるダブラプライを積層してプリプレグ積層体を形成し、前記プリプレグ積層体を成形型によりプレス成形する構成である。
【0104】
前記構成によれば、基板部の補強構造となるリブを備える複合材料製パネル構造体をプレス成形により製造する際に、リブ基底部に基準積層数を超える枚数のプリプレグを層積層する。これにより、プレス成形されて得られるパネル構造体においては、基板部およびリブの厚さおよび高さに制限されることなく、補強構造であるリブの先端部まで強化繊維を配置できる。また、補強構造であるリブは、その先端部まで強化繊維が配置されているので、基板部の強度および剛性を良好にできる。その結果、良好な強度および剛性を有するパネル構造体を低コストで製造できる。
【0105】
前記構成の複合材料製パネル構造体の製造方法においては、前記基本プライと前記ダブラプライとの合計積層数は、前記成形型のキャビティ体積以上から前記キャビティ体積の1.25倍以下までの範囲内となる積層数である構成であってもよい。
【0106】
また、前記構成の複合材料製パネル構造体の製造方法においては、前記パネル構造体において、前記リブおよび前記リブと湾曲してつながり前記基板部の一部を構成する複合材料層を第一面側積層体とし、前記リブと反対側の前記第一面側積層体表面に配置され、前記基板部を構成する複合材料層を第二面側積層体とし、前記第一面側積層体と前記第二面側積層体との間に生じる、前記リブに沿って延伸する三角形状の断面を有する領域をフィラー領域としたときに、前記フィラー領域のみにプリプレグであるフィラープライを積層する構成であってもよい。
【0107】
また、前記構成の複合材料製パネル構造体の製造方法においては、前記フィラー領域の設計上の体積をフィラー基準体積としたときに、前記フィラープライの積層数は、前記フィラー基準体積以上から前記フィラー基準体積の3.0倍以下までの範囲内となる積層数である構成であってもよい。
【0108】
本開示に係るパネル構造体10の具体的な用途は特に限定されず、航空宇宙分野、自動車・二輪車分野、鉄道分野、海洋分野、産業機器分野、医療機器分野、スポーツ用品分野、建築土木分野等のさまざまな分野において用いられるパネル状部材として好適に用いることができる。より好ましくは、航空機または宇宙機等の航空宇宙分野に用いられる。
【0109】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0110】
また、上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【符号の説明】
【0111】
10:パネル構造体
11:ウェブ部(基板部)
11a:第一面
11b:第二面
12:リブ
13a,13b:フランジ部
14:リブ基底部
15:フィラー領域
16a:第一面側積層体
16b:第二面側積層体
17:リブ基底領域
20:マトリクス樹脂
21:基本層(複合材料層、強化繊維)
22:ダブラ層(複合材料層、強化繊維)
23:フィラー層(複合材料層、強化繊維)
30A,30B:プリプレグ積層体
31:基本プライ(プリプレグ)
32:ダブラプライ(プリプレグ)
33:フィラープライ(プリプレグ)
40:成形型
41:上型
42:下型
43:上側熱盤
44:下側熱盤
45:キャビティ
46:締結部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8