IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クレハの特許一覧

特許7426502圧電フィルム、タッチパネル、および圧電フィルムの製造方法
<>
  • 特許-圧電フィルム、タッチパネル、および圧電フィルムの製造方法 図1
  • 特許-圧電フィルム、タッチパネル、および圧電フィルムの製造方法 図2
  • 特許-圧電フィルム、タッチパネル、および圧電フィルムの製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】圧電フィルム、タッチパネル、および圧電フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20240125BHJP
   B05D 7/04 20060101ALI20240125BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240125BHJP
   H10N 30/857 20230101ALI20240125BHJP
   H10N 30/077 20230101ALI20240125BHJP
   H10N 30/045 20230101ALI20240125BHJP
【FI】
G06F3/041 602
G06F3/041 495
B05D7/04
B32B27/30 D
H10N30/857
H10N30/077
H10N30/045
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022559018
(86)(22)【出願日】2021-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2021038367
(87)【国際公開番号】W WO2022091828
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2020183103
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】今治 誠
(72)【発明者】
【氏名】山口 慧
(72)【発明者】
【氏名】早川 奨
【審査官】酒井 優一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-211482(JP,A)
【文献】国際公開第2015/053346(WO,A1)
【文献】中国実用新案第207516966(CN,U)
【文献】特開2019-067908(JP,A)
【文献】特表2017-503241(JP,A)
【文献】特開2007-238754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
B05D 7/04
B32B 27/30
H10N 30/857
H10N 30/077
H10N 30/045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂製の20~60μmの厚みを有する透明圧電基材フィルムと、0.20~2.5μmの厚みを有する透明コーティング層とが重ねられて構成され、
前記透明コーティング層は、前記透明圧電基材フィルムと重なっている領域全体にわたって前記透明圧電基材フィルムと界面を形成しており
前記透明コーティング層は、
メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂およびシリコーン樹脂からなる群より選択される一種以上の樹脂からなる、或いは
中空シリカ系微粒子、シランカップリング剤、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫、凝集シリカ、球状シリカ、ポリメチルメタクリレート(PMMA)ビーズ、およびシリコーンビーズからなる群から選択される一種以上をさらに含む前記樹脂からなり、
全光線透過率が80%以上である、圧電フィルム。
【請求項2】
ヘイズが2.0%以下である、請求項1に記載の圧電フィルム。
【請求項3】
圧電定数d33が8.0~30.0pC/Nである、請求項1または2に記載の圧電フィルム。
【請求項4】
前記フッ素樹脂がフッ化ビニリデン樹脂である、請求項1~3のいずれか一項に記載の圧電フィルム。
【請求項5】
前記透明コーティング層の表面の表面粗さの最大高さRzが0.10μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の圧電フィルム。
【請求項6】
前記透明圧電基材フィルムの両面に前記透明コーティング層が積層されている、請求項1~のいずれか一項に記載の圧電フィルム。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の圧電フィルムを有する、タッチパネル。
【請求項8】
フッ素樹脂シートを延伸と分極処理により透明圧電基材フィルムを製造する工程と、
前記製造する工程において製造したフッ素樹脂製の透明圧電基材フィルムの少なくとも一方の面上に透明コーティング層を形成する工程を含み、
前記透明コーティング層を形成する工程は、
前記透明コーティング層作製用の塗料を前記透明圧電基材フィルムの少なくとも一方の面に塗布する工程と、
前記塗布する工程で形成された塗膜を固化する工程と、を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の圧電フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電フィルム、タッチパネル、および圧電フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電フィルムは、圧力に応じて電気を発生するとともに、構成に応じて、圧力が印加された位置も特定可能であることから、タッチパネルの感圧センサに利用することができる。
【0003】
このような圧電フィルムには、フッ化ビニリデン-四フッ化エチレン共重合体を含有するシート状透明圧電体層が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、上記の圧電フィルムは、フッ化ビニリデン樹脂を主成分とする樹脂フィルムを延伸および分極処理することによって製造することが知られている。その際、上記樹脂フィルムと延伸ロールの接する面に保護フィルムを重ねることにより、上記樹脂フィルムを延伸工程にて延伸する際に、延伸ロールの粗面と樹脂フィルムが接することにより生じる傷から樹脂フィルムを保護することが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、上記の圧電フィルムを、基材フィルムに圧電性を有するコーティング層が積層された構成とすることで、圧電体層が単独のフィルムとなっている従来の圧電フィルムと比べて、全光線透過率およびヘイズが改善されることが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-108490号公報
【文献】特開2019-67908号公報
【文献】特開2017-215960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
タッチパネルのような用途で使用される圧電フィルムは、高い透明性を有していることが好ましく、圧電フィルムにはこのような高い透明性が求められている。また、圧電フィルムを感圧センサとして利用するためには、高い透明性に加えて、十分な圧電特性を発現できることが求められる。
【0008】
本発明の一態様は、十分な圧電性と十分な透明性との両方を発現可能な圧電フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る圧電フィルムは、フッ素樹脂製の透明圧電基材フィルムと、0.20~2.5μmの厚みを有する透明コーティング層とが重ねられて構成され、前記透明コーティング層は、前記透明圧電基材フィルムと重なっている領域全体にわたって前記透明圧電基材フィルムと界面を形成している。
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るタッチパネルは、上記の圧電フィルムを有する。
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る圧電フィルムの製造方法は、フッ素樹脂製の透明圧電基材フィルムの少なくとも一方の面上に0.20~2.5μmの厚みを有する透明コーティング層を形成する工程を含み、前記透明コーティング層を形成する工程は、前記透明コーティング層作製用の塗料を前記透明圧電基材フィルムの少なくとも一方の面に塗布する工程と、前記塗布する工程で形成された塗膜を固化する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、十分な圧電性と十分な透明性との両方を発現可能な圧電フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る圧電フィルムの層構成を模式的に示す図である。
図2】本発明の他の実施形態に係る圧電フィルムの層構成を模式的に示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係るタッチパネルの層構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔構成〕
本発明の一実施形態に係る透明圧電積層フィルム(以下、「圧電フィルム」と称する)は、透明圧電フィルム(以下、「透明圧電基材フィルム」と称する)と、0.20~2.5μmの厚みを有する透明コーティング層とが重ねられて構成されている。なお、本実施形態において、「~」は両端の数値を含む範囲を表す。
【0015】
[透明圧電基材フィルム]
本実施形態における透明圧電基材フィルムは、フッ素樹脂製である。本実施形態において「フッ素樹脂製」とは、透明圧電基材フィルムを構成する組成物においてフッ素樹脂が主成分であることを意味し、「フッ素樹脂が主成分である」とは、当該組成物においてフッ素樹脂が樹脂成分中で最多の成分であることを意味する。当該組成物におけるフッ素樹脂の含有量は、51質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0016】
また、「圧電基材フィルム」とは、透明コーティング層が付与されていない、圧電性を有する基材フィルムを意味する。また、本実施形態において、「透明」とは、圧電フィルムの用途に応じた所望の割合以上に可視光線を透過する光学的特性を意味する。
【0017】
本実施形態におけるフッ素樹脂は、圧電フィルムに使用可能ないかなるフッ素樹脂であってもよく、一種でもそれ以上でもよい。当該フッ素樹脂の例には、フッ化ビニリデン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂およびこれらの混合物が含まれる。
【0018】
フッ化ビニリデン樹脂の例には、フッ化ビニリデンの単独重合体、およびその共重合体が含まれる。フッ化ビニリデンの共重合体におけるフッ化ビニリデン以外の単量体に由来する構成単位の含有量は、圧電フィルムの用途に応じた特性を発現可能な範囲で適宜に決めてよい。
【0019】
フッ化ビニリデンの共重合体におけるフッ化ビニリデン以外の単量体の例には、炭化水素系単量体およびフッ素化合物が含まれる。当該炭化水素系単量体の例には、エチレンおよびプロピレンが含まれる。当該フッ素化合物は、フッ化ビニリデン以外のフッ素化合物であって、重合性の構造を有するフッ素化合物である。当該フッ素化合物の例には、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフルオロアルキルビニルエーテルが含まれる。
【0020】
テトラフルオロエチレン樹脂の例には、テトラフルオロエチレンの単独重合体およびその共重合体が含まれる。当該共重合体の構造単位を構成するテトラフルオロエチレン以外の単量体の例には、エチレン、フルオロプロピレン、フルオロアルキルビニルエーテル、パーフルオロアルキルビニルエーテルおよびパーフルオロジオキシソールが含まれる。
【0021】
本実施形態におけるフッ素樹脂が共重合体の場合では、当該フッ素樹脂におけるフッ化ビニリデン由来の構造単位の含有量は、本実施形態の効果が得られる範囲において適宜に決めることができ、この観点から、20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。
【0022】
本実施形態における透明圧電基材フィルムは、本実施形態の効果が得られる範囲において種々の添加剤を含んでもよい。当該添加剤は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、可塑剤、滑剤、架橋剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、安定剤、抗酸化剤、界面活性剤および顔料が含まれる。
【0023】
本実施形態における透明圧電基材フィルムの厚みは、圧電フィルムの用途に応じて、本実施形態の効果が得られる範囲から適宜に決めることができる。透明圧電基材フィルムの厚みは、薄すぎると機械的強度が不十分となることがあり、厚すぎると効果が頭打ちになり、あるいは透明性が不十分になり、光学用途で使用することが難しくなることがある。
【0024】
透明圧電基材フィルムの厚みは、圧電性および機械的強度を十分に発現させる観点から、5μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましい。また、透明圧電基材フィルムの厚みは、透明性および圧電性を十分に発現させる観点から、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることがさらに好ましい。
【0025】
本実施形態における透明圧電基材フィルムの圧電特性は、圧電フィルムの用途に応じて、本実施形態の効果が得られる範囲から適宜に決めることができる。圧電特性が低すぎると圧電材料としての機能が不十分となることがある。十分な圧電特性を発現させる観点から、例えば圧電フィルムがタッチパネルである場合では、透明圧電基材フィルムの圧電特性は、圧電定数d33で8.0pC/N以上であることが好ましく、10.0pC/N以上であることがより好ましく、12.0pC/N以上であることがさらに好ましい。当該圧電特性の上限は限定されないが、上記の場合であれば、所期の効果が十分に得られる観点から、透明圧電基材フィルムの圧電特性は、圧電定数d33で30.0pC/N以下であればよい。なお、本明細書において規定する透明圧電基材フィルムの圧電定数d33は、透明圧電基材フィルムの厚み方向の圧電定数d33を指す。
【0026】
透明圧電基材フィルムの圧電定数d33は、当該フィルムにおけるフッ素樹脂の電気的双極子の向きおよび配向を調整することによって上記の範囲に調整可能である。電気的双極子の向きおよび配向の調整は、透明圧電基材フィルムにおけるフッ素樹脂の結晶中のα晶とβ晶との割合および分極処理の度合いを調整することによって調整可能である。結晶中のα晶とβ晶との割合および分極処理の度合いは、それぞれ、フッ素樹脂フィルムの延伸およびポーリングの条件を調整することによって調整可能である。
【0027】
本実施形態における透明圧電基材フィルムは、例えば実施例に記載されているように、フッ素樹脂シートの延伸と分極処理によって製造することが可能である。当該製造において、前述した厚みになるように十分に薄くすることが、透明圧電基材フィルムの透明性を高める観点から好ましい。また、当該製造においてロール延伸する場合では、鏡面加工されたロールを用いる、あるいは、保護フィルムを用いること(例えば特開2019-67908号公報参照)が、透明圧電基材フィルムの表面における傷つきを防止し、透明圧電基材フィルムの透明性を高める観点から好ましい。
【0028】
[透明コーティング層]
本実施形態における透明コーティング層は、透明であり、また圧電フィルムにおいて透明圧電基材フィルムの圧電特性が十分に発現され得る層であればよい。
【0029】
透明コーティング層は、透明圧電基材フィルムの一表面側のみに配置されてもよいし、両面側に配置されてもよい。中でもより高いヘイズ低減効果が得られることから、透明コーティング層は、透明圧電基材フィルムの両面に配置されていることが好ましい。透明コーティング層を透明圧電基材フィルムの両面に形成する場合では、二つの透明コーティング層は、同じ組成、厚みおよび物性を有していてもよいし、異なる組成、厚みおよび物性を有していてもよい。透明コーティング層を透明圧電基材フィルムの両面に形成する場合では、後述する透明コーティング層の好ましい構成を、少なくとも一方の透明コーティング層が有していることが好ましく、両方の透明コーティング層が有していることがより好ましい。
【0030】
透明コーティング層は、透明圧電基材フィルムと重なっている領域全体にわたって上記透明圧電基材フィルムと界面を形成している。透明圧電基材フィルムに対する厚み方向における透明コーティング層のこのような配置は、透明圧電基材フィルムのヘイズを低減する観点から好ましい。「界面を形成する」とは、2つの物体が他の物体を間に介さずに直接接していることを意味する。つまり、透明コーティング層が透明圧電基材フィルムと界面を形成するとは、透明コーティング層が、例えば空気等の他の物体を間に介さずに、透明圧電基材フィルムと直接接している状態をいう。透明圧電基材フィルムが表面に微細な凹凸を有している場合であれば、透明コーティング層は、透明圧電基材フィルムの表面形状に追従するように透明圧電基材フィルムと接している状態をいう。
【0031】
本実施形態における圧電フィルムでは、透明コーティング層は、透明圧電基材フィルムと重なっている領域全体にわたって透明コーティング層と界面を形成している。「透明圧電基材フィルムと重なっている領域」は、圧電フィルムの用途に応じて、透明圧電基材フィルムと透明コーティング層とが重なり合っている必要がある領域であってよい。もちろん、透明コーティング層と透明圧電基材フィルムとは、平面方向における全体で完全に重なり合っていてもよい。
【0032】
圧電フィルムの厚み方向において透明コーティング層が透明圧電基材フィルムと界面を形成している態様は、例えば、透明圧電基材フィルムの表面が透明コーティング層でコーティングされた態様であってもよい。
【0033】
本実施形態における透明コーティング層が薄すぎると、透明コーティング層が透明圧電基材フィルムの表面の微細な凹凸形状を十分に覆うことができないことがあり、透明圧電基材フィルムのヘイズを低減する効果が十分に得られないことがある。また、透明コーティング層が厚すぎると、圧電フィルムの圧電性が不十分になることがある。したがって、透明コーティング層の厚みは、透明圧電基材フィルムのヘイズを低減する観点から、0.20μm以上であることが好ましく、0.35μm以上であることがより好ましく、0.50μm以上であることがさらに好ましい。また、透明コーティング層の厚みは、透明圧電基材フィルムの圧電特性を十分に反映させ、透明圧電基材フィルムの圧電特性を十分に発現できる圧電フィルムを得る観点から、3.5μm以下であることが好ましく、2.5μm以下であることがより好ましく、1.5μm以下であることがさらに好ましい。透明コーティング層の厚みが上記範囲であることにより、圧電フィルムにおいて、用途に応じた十分な圧電性と透明性とを両立することが可能となる。
【0034】
なお、本実施形態では、透明コーティング層の厚みは、一つの透明コーティング層の厚みを意味する。透明コーティング層が透明圧電基材フィルムの両面に配置されている場合では、透明コーティング層の厚みは、透明コーティング層が当該圧電フィルムに与える影響を十分に反映し得る値であればよい。たとえば、二つある透明コーティング層のうち、より厚い方の透明コーティング層の厚みであってもよいし、両方の厚みの平均値であってもよい。また、両面に透明コーティング層を形成する場合では、それぞれの透明コーティング層は、独立して上記の範囲の厚みを有していればよく、実質的に同じ厚みを有していてもよいし、実質的に異なる厚みを有していてもよい。
【0035】
本実施形態における透明コーティング層の表面は、透明性を高める観点から平滑であることが好ましい。透明コーティング層の表面とは、透明コーティング層における透明圧電基材フィルムと接していない側の面を指す。また、透明コーティング層が複数重なっている場合には、透明コーティング層の表面とは、最外層の透明コーティング層における他の透明コーティング層と接していない側の面を指す。透明コーティング層が透明圧電基材フィルムの両面に配置されている場合では、二つある透明コーティング層の表面の両方が平滑であることが好ましい。
【0036】
このような観点から、透明圧電基材フィルムの表面形状は、表面粗さの最大高さRzが0.15μm以下であることが好ましく、0.10μm以下であることがより好ましく、0.080μm以下であることがさらに好ましい。当該表面形状は、樹脂フィルムの表面形状を測定可能な公知の技術によって測定可能であり、あるいは、積層フィルムの断面から特定の層の表面形状を測定可能な公知の技術によって測定可能である。
【0037】
透明コーティング層は、いわゆるハードコート層とも呼ばれる、傷つき防止のための透明な表面保護層であってよい。透明コーティング層の材料は、透明であり、また透明圧電基材フィルムの圧電特性を十分に発現可能であるという範囲において、圧電フィルムに使用可能なあらゆる材料の中から選ぶことが可能である。当該材料は、無機材料でも有機材料でもよいし、一種でもそれ以上でもよい。また、当該コーティング層の材料は、ハードコート層の材料であってもよい。当該材料の例には、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂およびシリコーン樹脂が含まれる。すなわち透明コーティング層は、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂およびシリコーン樹脂からなる群より選択される一種以上の樹脂製であってもよい。透明コーティング層を透明圧電基材フィルムの両面に形成する場合では、二つの透明コーティング層は、同じ組成を有していてもよいし、異なる組成を有していてもよい。
【0038】
透明コーティング層の材料がアクリル樹脂であること、すなわち透明コーティング層がアクリル樹脂製であることは、十分な透明性ならびに材料の種類の豊富さおよび原料価格の低さの観点から好ましい。また、アクリル樹脂は、紫外線硬化型の樹脂であることから、透明コーティング層を形成する際の透明圧電基材フィルムの熱変形を防ぐ観点からも好ましい。
【0039】
アクリル樹脂は、アクリル樹脂を主成分とする樹脂組成物であることを意味する。アクリル樹脂は(メタ)アクリル酸エステル樹脂でよい。なお、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタクリル酸の総称であり、これらの一方または両方を意味する。
【0040】
(メタ)アクリル酸エステル樹脂の例には、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの単独重合体、および(メタ)アクリル酸エステルモノマーとその他のモノマーとの共重合体が含まれる。(メタ)アクリル酸エステルモノマーの例には、単官能型(メタ)アクリル酸エステルモノマー、および多官能型(メタ)アクリル酸エステルモノマーが含まれる。その他のモノマーの例には、ウレタン(メタ)アクリル酸モノマー、エポキシ(メタ)アクリル酸モノマー、およびポリエステル(メタ)アクリル酸が含まれる。
【0041】
なお、透明コーティング層における材料の樹脂の説明において「主成分とする」とは、主成分とする樹脂が樹脂成分中で最多の成分であることを意味する。当該組成物における主成分とする樹脂の含有量は、51質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0042】
透明コーティング層は、本実施形態における効果が発現される範囲において種々の機能を有していてもよい。透明コーティング層の材料は、他の成分として、任意の機能を発現させるための材料をさらに含んでいてもよい。このような材料は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、透明コーティング層の屈折率を制御するための光学調整剤、帯電防止剤、および、アンチブロッキング材が含まれる。光学調整剤の例には、中空シリカ系微粒子、シランカップリング剤、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛および酸化錫が含まれる。帯電防止剤の例には、界面活性剤、五酸化アンチモン、ITOおよび導電性高分子が含まれる。当該他の成分は、透明コーティング層が透明圧電基材フィルムの両面に形成される場合では、これらの透明コーティング層の一方のみに含まれていてもよいし、両方に含まれていてもよい。
【0043】
アンチブロッキング材は、本実施形態において、圧電フィルムのブロッキングを防ぐ観点から好ましい。当該アンチブロッキング材は、透明コーティング層の透明性が十分に発現され得る範囲から適宜に選ぶことが可能である。たとえば、アンチブロッキング材の屈折率は、透明コーティング層の材料となる樹脂の屈折率との差が小さいことが好ましい。アンチブロッキング材の例には、凝集シリカ、球状シリカ、ポリメチルメタクリレート(PMMA)ビーズ、シリコーンビーズなどの無機または有機微粒子が含まれる。中でも、球状シリカは、アンチブロッキング性および透明性に加えて低価格であることから、透明コーティング層用のアンチブロッキング材として特に好ましい。アンチブロッキング材は、圧電フィルムのブロッキングを防ぐ観点から、透明コーティング層が透明圧電基材フィルムの両面に形成される場合では、これらの透明コーティング層の一方のみに含まれていればよいが、両方に含まれていてもよい。
【0044】
[その他の層構成]
本実施形態の圧電フィルムは、本実施形態における効果が発現される範囲において、前述以外の他の構成をさらに有していてもよい。このような他の構成は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、圧電フィルムをカバーガラスや透明電極に貼り合わせるための透明粘着剤層、透明粘着剤層に当接し剥離可能な離型層、光学調整層(インデックスマッチング層)、および導電層が含まれる。当該光学調整層は、所期の性能を発現する範囲において、前述した透明コーティング層の材料を用いて形成することができる。
【0045】
なお、圧電フィルムを構成する各層の厚みは、圧電フィルムをエポキシ樹脂に包埋し、圧電フィルムの断面が露出するようにエポキシ樹脂隗を切断し、当該断面を走査型電子顕微鏡で観察することにより測定することが可能である。当該層の厚みは、当該層の厚みの代表値であればよく、任意の複数の測定値の平均値であってもよいし、当該測定値の最大値であってもよいし、当該測定値の最小値であってもよい。
【0046】
〔物性〕
本実施形態の圧電フィルムは、十分な透光性を実現する観点から、十分に透明であることが好ましい。たとえば、圧電フィルムの全光線透過率は、当該圧電フィルムの用途に応じて適宜に決めることができる。圧電フィルムの全光線透過率は、タッチパネルの感圧センサの用途であれば80%以上であることが好ましく、タッチパネルにおいてディスプレイより表面側に配置される感圧センサに適用する観点から、83%以上であることがより好ましい。当該全光線透過率の上限は限定されないが、上記の場合であれば、所期の効果が十分に得られる観点から、全光線透過率が97%以下であればよい。全光線透過率は、透明体の指標に用いられるパラメータであり、全光線透過率が100%に近い程透明であると言える。全光線透過率は、例えばヘイズメータを用いて、JIS K7361-1に記載の公知の方法に基づいて測定することが可能である。
【0047】
また、圧電フィルムのヘイズ値も、全光線透過率と同様に、当該圧電フィルムの用途に応じて適宜に決めることができる。圧電フィルムのヘイズ値は、タッチパネルの感圧センサの用途であれば2.0%以下であることが好ましく、タッチパネルにおいてディスプレイより表面側に配置される感圧センサに適用する観点から、1.0%以下であることがより好ましい。当該ヘイズ値の下限は限定されないが、上記の場合であれば、所期の効果が十分に得られる観点から、ヘイズ値が0.1%以上であればよい。ヘイズは曇りの度合のことで、圧電フィルムのヘイズ値は、圧電フィルムそのものの透明さの程度を表わす。曇り具合が増えるに従ってヘイズ値は高くなり、ヘイズ値が0であれば、完全な透明体であると判断される。ヘイズ値は、例えばヘイズメータを用いて、JIS K7136に記載の公知の方法に基づいて測定することが可能である。なお、圧電フィルムの所望の全光線透過率およびヘイズ値が得られれば、透明圧電基材フィルムの全光線透過率およびヘイズ値は特に制限されない。
【0048】
本実施形態の圧電フィルムは、透明圧電基材フィルムの圧電特性を十分に発現する観点から、例えば、圧電フィルムの圧電定数d33は、タッチパネルの感圧センサの用途であれば8.0pC/N以上であることが好ましく、タッチパネルにおいてディスプレイより表面側に配置される感圧センサに適用する観点から、10.0pC/N以上であることがより好ましく、12.0pC/N以上であることがさらに好ましい。当該圧電定数d33の上限は限定されないが、上記の場合であれば、所期の効果が十分に得られる観点から、圧電フィルムの圧電特性は、圧電定数d33で30.0pC/N以下であればよい。なお、本明細書において規定する圧電フィルムの圧電定数d33は、圧電フィルムの厚み方向の圧電定数d33を指す。
【0049】
圧電定数d33は、後述する実施例に記載したような公知の技術によって測定可能である。圧電フィルムの圧電特性は、圧電フィルムにおける透明コーティング層の厚み、あるいは、所望の圧電性を有する透明圧電基材フィルムの使用によって調整することが可能である。圧電フィルムにおける透明コーティング層の厚みを前述の範囲とすることによって、透明コーティング層付与による透明圧電基材フィルムの圧電定数d33の低下度合いを低く抑えることができる。このため、圧電特性が圧電定数d33で8.0pC/N以上、30.0pC/N以下の範囲の透明圧電基材フィルムを使用することにより、圧電フィルムの圧電定数d33を前述の範囲とすることができる。
【0050】
〔製法〕
本実施形態の圧電フィルムは、前述したフィルムを用い、前述した層を形成する以外は、公知の圧電フィルムと同様に製造することが可能である。
【0051】
本実施形態における透明コーティング層は、透明コーティング層を形成するための塗料を透明圧電基材フィルムの少なくとも一方の面に塗布する工程と、当該塗布する工程で形成された塗膜を固化する工程と、によって製造することができる。当該塗料を塗布する工程は、公知の塗工方法によって実施することが可能である。塗工方法の例には、スプレーコート、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコートおよび蒸着が含まれる。当該塗膜の厚さは、塗布回数または塗料の粘度によって適宜に調整することができる。
【0052】
固化する工程は、上記の塗料の塗膜を固化する公知の方法によって実施することが可能である。固化する方法の例には、乾燥、加熱または光照射による重合での硬化、が含まれる。中でも、物体の表面での加工に適している観点および各層の熱変形を防ぐ観点から、紫外線(UV)照射などの光照射による重合での硬化が好ましい。たとえば、透明コーティング層は、上記塗料を塗工後、塗料中の溶媒を加熱により除去し、次いでUV照射によって塗膜を硬化させることにより、形成することができる。UV照射により透明コーティング層を形成する場合には、酸素による硬化阻害を防ぐ観点から、当該UV照射は不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0053】
透明コーティング層用の上記塗料は、ポリマーを含有していてもよいし、モノマーを含有していてもよいし、これらの両方を含有していてもよい。また、上記の塗料において、ポリマーが硬化をもたらす架橋構造を含んでいてもよいし、架橋構造を複数有する低分子化合物がさらに含有されていてもよい。さらに、当該塗料は、必要に応じて、当該重合反応を生じさせるための重合開始剤などの、固化のための添加剤を適宜に含有していてもよい。
【0054】
以下、図を用いて本発明の実施形態を説明する。図1に示されるように、本発明の一実施形態に係る圧電フィルム10は、透明圧電基材フィルム1と、透明コーティング層2とが直接重ねられて構成されている。
【0055】
透明圧電基材フィルム1は、前述したようにフッ素樹脂製であり、例えばフッ素樹脂材料の延伸と分極処理とによって得られるフィルムであってよい。透明コーティング層2は、例えば前述したアクリル樹脂製であり、透明圧電基材フィルム1の一方の表面上に直接重ねられている。
【0056】
また、図2に示されるように、本発明の他の実施形態に係る圧電フィルム20は、透明圧電基材フィルム1と、透明コーティング層2とが直接重ねられて構成されている。圧電フィルム20では、透明コーティング層2は、透明圧電基材フィルム1の両面側に配置されている。すなわち、透明圧電基材フィルム1の一方の表面上には、透明コーティング層2aが重ねられており、透明圧電基材フィルム1の他方の表面上には、透明コーティング層2bが重ねられている。
【0057】
〔タッチパネル〕
本発明の一実施形態のタッチパネルは、前述した本実施形態の圧電フィルムを有する。当該タッチパネルにおける圧電フィルムの位置および数は、タッチパネルの用途または所期の機能に応じて、適宜に決めることができる。図3は、本発明の実施形態のタッチパネルにおける層構成の一例を模式的に示す図である。
【0058】
タッチパネル100は、図3に示されるように、図2に示される圧電フィルム20を、透明電極4bとカバーガラス5とで挟んでなる構成を有している。また、圧電フィルム20とカバーガラス5との間には、圧電フィルム20からカバーガラス5へ向かって、透明粘着剤層3a、透明基板6a、透明電極4a、透明粘着剤層3c、透明基板6c、透明電極4c、透明粘着剤層3dが、この順に重ねられて配置されている。また、圧電フィルム20と透明電極4bとの間には、圧電フィルム20から透明電極4bへ向かって、透明粘着剤層3b、透明基板6bが配置されている。このように、タッチパネル100は、透明電極4bと、圧電フィルム20と、カバーガラス5とがこの順に重ねられて構成されている。タッチパネル100を実用する場合、ディスプレイ30の表面に、タッチパネル100の透明電極4b側の表面を重ねて配置することができるが、これに限定されない。
【0059】
圧電フィルム20とカバーガラス5とは、透明粘着剤層3c、3d、透明電極4a、4c、および透明基板6a、6cを介して、透明粘着剤層3aによって接着されており、圧電フィルム20と透明電極4bとは、透明基板6bを介して、透明粘着剤層3bによって接着されている。また、透明電極4bの積層方向における圧電フィルム20の反対側には、有機EL表示パネルまたは液晶表示パネルなどの表示パネル、すなわちディスプレイ30が配置され得る。ディスプレイ30は、従来公知の表示パネルを採用することができるため、本明細書においては、その詳細な構成の説明は省略する。
【0060】
透明電極4a、4b、4cは、それぞれ透明基板6a、6b、6c上に形成され、透明基板6a、6b、6cとともにタッチパネル100中の所望の層に接着されていてもよいし、積層方向において透明電極4a、4b、4cが隣接する他の層の表面に直接形成され、透明粘着剤層3a、3b、3cまたは3dによって接着されてもよい。
【0061】
透明電極4a、4b、4cには、タッチパネルに用いることが可能な公知の透明電極を採用することができる。より詳しくは、透明電極4a、4b、4cは、実質的に透明な面状の電極であればよく、パターンを有する導電性の薄膜であってもよいし、極細の導電性の線材による平面的な構造であってもよい。透明電極4a、4b、4cを構成する材料は限定されず、In、Sn、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、Wからなる群より選択される少なくとも一種の金属の金属酸化物が好適に用いられる。当該金属酸化物には、必要に応じて、上記群に示された金属原子をさらに含んでいてもよい。当該金属酸化物には、インジウム-スズ複合酸化物(ITO)、アンチモン-スズ複合酸化物(ATO)などが好ましく用いられ、ITOが特に好ましく用いられる。透明電極4a、4b、4cの他の代表的な材料の例には、銀ナノワイヤ、銀メッシュ、銅メッシュ、グラフェンおよびカーボンナノチューブが含まれる。透明基板6a、6b、6cには、上述の透明電極4a、4b、4cを支持する下地として用いることが可能な公知の透明なフィルムを採用することができる。透明基板6a、6b、6cを構成する材料は限定されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)が好適に用いられる。
【0062】
カバーガラス5は、タッチパネルのカバーガラスである。タッチパネル用のシート状の光透過部材であればよく、カバーガラス5のようなガラス板であってもよいし、透明樹脂シートであってもよい。
【0063】
本発明の実施形態におけるタッチパネルは、本実施形態の効果が得られる範囲において、他の構成をさらに含んでいてもよい。
【0064】
また、本発明の実施形態におけるタッチパネルは、前述した本発明の実施形態の圧電フィルムを積層構造中に含んでいればよい。積層方向における当該タッチパネル中における当該圧電フィルムの位置は、本発明の実施形態の効果が得られる範囲において適宜に決めてよい。
【0065】
また、本発明の実施形態のタッチパネルは、GFFタイプまたはGF2タイプなどの従来のタッチパネルにおける積層構造中に、本実施形態における圧電フィルムを適宜に追加した構成を有していてもよい。この場合、本実施形態の圧電フィルムには、圧力を検出するための透明電極層および位置を検出するための位置センサが、直接積層されてもよいし、粘着剤層を介して接着されてもよい。このような構成を有するタッチパネルは、従来のタッチパネルの機能に加えて、圧電フィルムに起因する機能をさらに発現することができ、例えば透明な積層構造中に位置センサと圧力センサの両方を含むタッチパネルを構成することが可能である。
【0066】
なお、本実施形態のタッチパネルの製造において、透明粘着剤層は、透明コーティング層上のみならず、透明粘着剤層を介して透明コーティング層と接着する他の層の上に形成されていてもよい。この場合、透明粘着剤層は、透明コーティング層側にあってもよいし、なくてもよい。
【0067】
〔作用効果〕
本発明の実施形態における圧電フィルムは、前述したように、フッ素樹脂製の透明圧電基材フィルムおよび透明コーティング層で構成され得る。上記のような構成を有する圧電フィルムは、透明圧電基材フィルムによる十分な圧電特性を発現できることに加え、透明圧電基材フィルムのヘイズを低減することにより、より高い透明性を発現することが可能である。
【0068】
透明性については、透明圧電基材フィルムに透明コーティング層を設けることによって、圧電フィルムにおけるヘイズの低減効果が得られ、その結果、圧電フィルムの透明性が高まる。透明圧電基材フィルムの透明性を低下させる一因には、透明圧電基材フィルムの表面における傷などの微細な凹凸形状があると考えられる。この微細な凹凸形状が透明コーティング層によって埋められることにより、当該凹凸形状による光散乱が抑制され、圧電フィルムにおけるヘイズの低減効果がもたらされる、と考えられる。
【0069】
当該圧電フィルムは、上記のように十分な圧電特性とより高い透明性とを発現するとともに、樹脂などの有機層のみで構成され得ることから、このような十分な圧電特性および透明性を有する感圧センサ全体としての層の厚みをより一層薄くすることが可能である。したがって、当該圧電フィルムは、前述の表示パネルよりも表面(画像表示面)側に感圧センサとして配置することが可能である。よって、タッチパネルの層構成を従来より簡略化すること、あるいはタッチパネル全体としての層の厚みを薄くすること、が可能であり、また、タッチパネルにおける圧電フィルムの配置数および配置箇所の自由度を高めることが可能である。
【0070】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態の圧電フィルムは、フッ素樹脂製の透明圧電基材フィルムと、0.20~2.5μmの厚みを有する透明コーティング層とが重ねられて構成され、前記透明コーティング層は、前記透明圧電基材フィルムと重なっている領域全体にわたって前記透明圧電基材フィルムと界面を形成している。また、本発明の実施形態のタッチパネルは、当該圧電フィルムを有する。したがって、当該圧電フィルムは、十分な圧電性と十分な透明性とを両立させることができる。
【0071】
本発明の実施形態において、圧電フィルムが、ヘイズが2.0%以下であることは、当該圧電フィルムが、タッチパネルの感圧センサの用途として十分な透明性を有しているといえるため好ましい。
【0072】
また、本発明の実施形態において、圧電定数d33が8.0~30.0pC/Nであることは、当該圧電フィルムが、タッチパネルの感圧センサの用途として十分な圧電特性を有しているといえるため好ましい。
【0073】
本発明の実施形態において、圧電フィルムの全光線透過率が80%以上であることは、当該圧電フィルムが、タッチパネルの感圧センサの用途として十分な透明性を有しているといえるため好ましい。
【0074】
本発明の実施形態において、透明コーティング層の表面の表面粗さの最大高さRzが0.10μm以下であることは、透明圧電基材フィルムのヘイズを低減し、圧電フィルムの十分な透明性を実現する観点からより一層効果的である。
【0075】
本発明の実施形態において、透明圧電基材フィルムが、厚みが20~100μmであることは、透明圧電基材フィルムの十分な圧電性と十分な透明性との両方の発現を実現させる観点からより一層効果的である。
【0076】
本発明の実施形態において、透明圧電基材フィルムの両面に前記透明コーティング層が積層されていることは、透明圧電基材フィルムのヘイズを低減し、圧電フィルムの十分な透明性を実現する観点からより一層効果的である。
【0077】
本発明の実施形態の圧電フィルムの製造方法は、フッ素樹脂製の透明圧電基材フィルムの少なくとも一方の面上に0.20~2.5μmの厚みを有する透明コーティング層を形成する工程を含み、透明コーティング層を形成する工程は、透明コーティング層作製用の塗料を透明圧電基材フィルムの少なくとも一方の面に塗布する工程と、塗布する工程で形成された塗膜を固化する工程と、を含む。したがって、十分な圧電性と十分な透明性との両方を発現可能な圧電フィルムを製造することができる。
【0078】
本発明は、上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0079】
〔実施例1〕
インヘレント粘度が1.1dl/gであるポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製)から成形された樹脂フィルム(厚さ、140μm)を、表面温度110℃に加熱されている予熱ロールに通した。続いて、予熱ロールに通したフィルムを表面温度120℃に加熱されている延伸ロールに通し、延伸倍率が4.2倍になるように延伸した。延伸後、フィルムを分極ロールに通して分極処理を行い、圧電性を有するフィルムを得た。直流電圧は0kVから11.8kVへと増加させた。分極処理後のフィルムをさらに130℃で1分間熱処理することで、厚みが40μmの透明圧電基材フィルムを得た。
【0080】
透明圧電基材フィルムの片面に、バーコーターにてハードコート剤(「BS CH271」、荒川化学工業株式会社製)を塗布し、80℃で2分間乾燥させた。ハードコート剤「BS CH271」を以下「HC剤(1)」と称する。
【0081】
次に、ハードコート剤の乾燥させた塗膜に、UV照射装置CSOT-40(株式会社GSユアサ製)を用い、400mJ/cmの積算光量でUVを照射した。こうして、後述する表に記載の厚みを有する透明コーティング層Aを片面に有する圧電フィルムを得た。同様の操作を透明圧電基材フィルムの反対側の面に行うことで、後述する表に記載の厚みを有する透明コーティング層Bを形成し、透明コーティング層を透明圧電基材フィルムの両面に有する、圧電フィルムを得た。
【0082】
〔実施例2~4〕
後述する表に記載の厚みを有するように透明コーティング層を形成する以外は実施例1と同様にして、透明コーティング層の厚みの異なる圧電フィルムをそれぞれ得た。
【0083】
〔実施例5〕
ポリフッ化ビニリデン樹脂フィルムの分極処理における直流電圧を12.0kVに変更したこと、ハードコート剤を「TYAB-M101」(トーヨーケム株式会社製)に変更したこと、および後述する表に記載の厚みを有するように透明コーティング層を形成すること以外は実施例1と同様にして、圧電フィルムを得た。ハードコート剤「TYAB-M101」を、以下「HC剤(2)」と称する。
【0084】
〔実施例6〕
後述する表に記載の厚みを有するように透明コーティング層を片面のみに形成する以外は実施例5と同様にして、透明コーティング層の厚みの異なる圧電フィルムを得た。
【0085】
〔実施例7〕
透明コーティング層B用のハードコート剤を「BS-575CB」(荒川化学工業株式会社製)に変更したこと、および後述する表に記載の厚みを有するように透明コーティング層を形成すること以外は実施例1と同様にして、圧電フィルムを得た。ハードコート剤「BS-575CB」を、以下「HC剤(3)」と称する。
【0086】
〔実施例8〕
後述する表に記載の厚みを有するように透明コーティング層を形成すること以外は実施例7と同様にして、透明コーティング層の厚みの異なる圧電フィルムを得た。
【0087】
〔実施例9〕
ポリフッ化ビニリデン樹脂フィルムの分極処理における直流電圧を11.0kVに変更したこと、および後述する表に記載の厚みを有するように透明コーティング層を形成すること以外は実施例1と同様にして、圧電フィルムを得た。
【0088】
〔比較例1〕
実施例1で得た透明圧電基材フィルムを、比較例としての圧電フィルムとした。
【0089】
〔比較例2〕
後述する表に記載の厚みを有するように透明コーティング層を形成する以外は実施例9と同様にして、比較例としての圧電フィルムを得た。
【0090】
〔比較例3〕
後述する表に記載の厚みを有するように透明コーティング層を形成する以外は実施例5と同様にして、比較例としての圧電フィルムを得た。
【0091】
〔評価〕
[透明コーティング層の厚み]
前述した実施例ならびに比較例2および3の圧電フィルムのそれぞれをエポキシ樹脂に包埋し、圧電フィルムの断面が露出するようにエポキシ樹脂隗を切断した。露出した圧電フィルムの断面を、走査型電子顕微鏡(「SU3800」、株式会社日立ハイテク製)を用いて加速電圧3.0kV、倍率50,000倍の条件で観察し、圧電フィルム中の透明コーティング層の厚みを測定した。
【0092】
なお、透明コーティング層の厚みの測定において、当該透明コーティング層のうちの2ヶ所の厚みを測定し、その平均値を透明コーティング層の厚みとした。なお、上記の観察条件において、透明コーティング層の界面は、ほぼ滑らかな線として観察され、透明コーティング層の厚みの測定では、当該線間の距離を測定した。
【0093】
[全光線透過率]
実施例および比較例の圧電フィルムのそれぞれの全光線透過率を、ヘイズメータ(「NDH7700SP II」、日本電色工業株式会社製)を用いて、JIS K7361-1に記載の方法に基づいて測定した。全光線透過率は、80%以上であればタッチパネルの用途において実用上問題ないと判断することができる。
【0094】
[ヘイズ値]
実施例および比較例の圧電フィルムのそれぞれのヘイズ値を、ヘイズメータ(「NDH7700SP II」、日本電色工業株式会社製)を用いて、JIS K7136に記載の方法に基づいて測定した。ヘイズ値は、2.0%以下であればタッチパネルの用途において実用上問題ないと判断することができる。
【0095】
[L値、a値、b値]
実施例および比較例の圧電フィルムのそれぞれのL表色系におけるL値、a値およびb値を、分光色彩計(「SE7700」、日本電色工業株式会社製)を用いて、JIS K8722に準拠する方法により測定した。L値は、85以上であればタッチパネルの用途において実用上問題ないと判断することができる。a値は、3以下であればタッチパネルの用途において実用上問題ないと判断することができる。b値は、4以下であればタッチパネルの用途において実用上問題ないと判断することができる。
【0096】
[圧電定数d33値]
実施例および比較例の圧電フィルムのそれぞれの圧電定数d33を、圧電定数測定装置(「ピエゾメーターシステムPM300」、PIEZOTEST社製)を用いて、0.2Nでサンプルをクリップし、0.15N、110Hzの力を加えた際の発生電荷を読み取った。圧電定数d33の実測値は、測定されるフィルムの表裏によって、プラスの値、またはマイナスの値となるが、本明細書中においては絶対値を記載した。圧電定数d33値は、8.0pC/N以上であればタッチパネルの用途において実用上問題ないと判断することができる。
【0097】
[表面粗さRa]
実施例および比較例の圧電フィルムのそれぞれの透明コーティング層の表面の算術平均粗さ(表面粗さ)Raを、表面粗さ測定器(「SURFCOM1500」、株式会社東京精密製)を用いて、JIS B 0601-2013に準拠する方法により測定した。なお、一透明コーティング層における任意の十か所において、圧電フィルムの幅方向(TD方向)に算術平均粗さ(表面粗さ)Raを測定し、測定値の平均値を求め、これを当該透明コーティング層のRaとした。なお、比較例1では、透明圧電基材フィルムの表面のRaを測定した。また、実施例7および8では、HC剤(3)から形成された透明コーティング層のRaを測定した。
【0098】
[最大高さRz]
実施例および比較例の圧電フィルムのそれぞれの透明コーティング層の表面の最大高さRzを、表面粗さRaと同様に、表面粗さ測定器(「SURFCOM1500」、株式会社東京精密製)を用いて、JIS B 0601-2013に準拠する方法により測定した。最大高さRzも、算術平均粗さ(表面粗さ)Raと同様にして、一透明コーティング層における任意の十か所において、圧電フィルムの幅方向(TD方向)に最大高さRzを測定し、測定値の平均値を求め、これを当該透明コーティング層のRzとした。なお、比較例1では、透明圧電基材フィルムの表面のRzを測定した。また、実施例7および8では、HC剤(3)から形成された透明コーティング層のRzを測定した。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
〔考察〕
実施例1~9の圧電フィルムは、いずれも、十分な透明性と十分な圧電性とを両方を有している。透明性については、透明圧電基材フィルムの表面に形成されている凹凸が透明コーティング層で埋められ、かつ十分に平滑な表面が形成され、その結果、ヘイズがより一層低減したため、と考えられる。また、圧電性については、透明コーティング層が十分に薄いことから透明圧電基材フィルムの厚み方向における変形性が十分に維持されているため、と考えられる。
【0102】
これに対して、比較例1の圧電フィルムは、実施例1~9の圧電フィルムに比べてヘイズ値が高く、透明性の観点から不十分である。これは、透明圧電基材フィルムの表面形状による光の散乱が影響しているため、と考えられる。
【0103】
また、比較例2および3の圧電フィルムは、いずれも、実施例1~9の圧電フィルムに比べて圧電性の観点から不十分である。これは、透明コーティング層が厚すぎて透明圧電基材フィルムの厚み方向における変形性がより制限されているため、と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、タッチパネルに利用することができる。
【符号の説明】
【0105】
1 透明圧電基材フィルム
2、2a、2b 透明コーティング層
3a、3b、3c、3d 透明粘着剤層
4a、4b、4c 透明電極
5 カバーガラス
6a、6b、6c 透明基板
10、20 圧電フィルム
30 ディスプレイ
100 タッチパネル
図1
図2
図3