(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】分相性オパールガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 3/091 20060101AFI20240125BHJP
C03B 32/00 20060101ALI20240125BHJP
C03C 3/064 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C03C3/091
C03B32/00
C03C3/064
(21)【出願番号】P 2022567449
(86)(22)【出願日】2022-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2022002927
(87)【国際公開番号】W WO2022163717
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2021013699
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515078497
【氏名又は名称】株式会社五鈴精工硝子
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山黒 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】末次 竜也
(72)【発明者】
【氏名】羽尻 好孝
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特公昭47-7393(JP,B1)
【文献】特表2016-519777(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025884(WO,A1)
【文献】特開2015-227272(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105036551(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
C03B32/00-32/02
G02B5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算のモル濃度%で、
15~82%のSiO
2、
12~75%のB
2O
3、
4~7%のAl
2O
3、
4~20%のLi
2O及び/又は1~14%のNa
2O並びに
5~20%のアルカリ土類金属酸化物を含有する、分相性オパールガラスであって、該分相性オパールガラス中の分散相の平均粒子径が、0.5~2μmであることを特徴とする、
分相性オパールガラス。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属酸化物が、MgO及びCaOからなる群より選択される何れか1種以上である、請求項1に記載する分相性オパールガラス。
【請求項3】
前記分相性オパールガラスの透過光における、300~600nmの透過率の変動が3%以下である、請求項1又は2に記載する分相性オパールガラス。
【請求項4】
下記工程(1)及び(2)を含有する、
請求項1~3のいずれかに記載の分相性オパールガラスの製造方法;
(1) 酸化物換算のモル濃度%で、
15~82%のSiO
2
12~75%のB
2O
3、
4~7%のAl
2O
3、
4~20%のLi
2O及び/又は1~14%のNa
2O並びに
5~20%のアルカリ土類金属酸化物
を含有する混合物を溶融させた後に冷却する工程1、
(2)工程1にて得られた冷却物を、600~800℃
に加熱する工程2。
【請求項5】
前記工程2における加熱時間を、5~30時間とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3の何れか一項に記載する分相性オパールガラスと、レンズとを有する積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分相性オパールガラスに関する。また、本発明は、分相性オパールガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オパールガラスとは、一般的にフッ化物系の結晶化ガラスであることが知られており、乳白色を呈することから、装飾用途として使用される(特許文献1~5)。他方、オパールガラスが分相性を有することに起因して、これを拡散板として使用できることも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許2505685号
【文献】特許2505686号
【文献】特許平5-073703号
【文献】特許平5-073701号
【文献】特開昭61-141639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記するように、オパールガラスは、拡散板として使用できるものの、その拡散光の指向性が問題になることがある。このような指向性は、例えば、LED等の光源から指向性の少ない均一な拡散光を得ようとする際の問題点となっている。よって、本発明は、指向性の少ない均一な拡散光が得られるようなオパールガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特定の成分を含有するケイ酸塩系の分相性オパールガラスであって、これに含有される分散相の平均粒子径を所定の範囲内とすることによって、これを指向性の少ない均一な拡散光が得られる拡散板として用いることを見いだした。本発明は、このような知見を基にして完成されたものであり、下記に示す態様の発明を広く包含する。
【0006】
項1 酸化物換算のモル濃度%で、
15~82%のSiO2、
12~75%のB2O3、
0~7%のAl2O3、並びに
4~20%のLi2O及び/又は1~14%のNa2O
を含有する、分相性オパールガラスであって、
該分相性オパールガラス中の分散相の平均粒子径が、0.5~2μmであることを特徴とする分相性オパールガラス。
【0007】
項2 更に、アルカリ土類金属酸化物を含有する、上記項1に記載する分相性オパールガラス。
【0008】
項3 前記アルカリ土類金属酸化物の含有量が、酸化物換算のモル濃度%で5~20%である、上記項2に記載する分相性オパールガラス。
【0009】
項4 前記アルカリ土類金属酸化物が、MgO及びCaOからなる群より選択される何れか1種以上である、上記項2又は3に記載する分相性オパールガラス。
【0010】
項5 前記分相性オパールガラスの透過光における、300~600nmの透過率の変動が3%以下である、上記項1~4の何れか一項に記載する分相性オパールガラス。
【0011】
項6 下記工程(1)及び(2)を含有する、分相性オパールガラスの製造方法;
(1) 酸化物換算のモル濃度%で、
15~82%のSiO2
12~75%のB2O3、
0~7%のAl2O3、並びに
4~20%のLi2O及び/又は1~14%のNa2Oを含有する混合物を溶融させた後に冷却する工程1、
(2)工程1にて得られた冷却物を、600~800℃に加熱する工程2。
【0012】
項7 前記工程2における加熱時間を、5~30時間とすることを特徴とする、上記項6に記載の製造方法。
【0013】
項8 上記項1~5の何れか一項に記載する分相性オパールガラスと、レンズとを有する積層体。
【発明の効果】
【0014】
本発明のオパールガラスは、これを拡散板として使用すると、その拡散光の指向性を少なくすることができる。より具体的には、ミー散乱による波長選択性の影響を受けない、均等な散乱領域(400~600nm程度)での拡散光が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例にて製造したオパールガラスに含有される、ホウ酸相(分散相)の細孔分布(平均粒子径)の測定値を示すグラフである。グラフの横軸は、粒子径(μm)の対数である。グラフ中の実線は、本発明の分相性オパールガラスの製造方法における工程2を680℃で10時間として製造したオパールガラスの測定値、グラフ中の点線は、上記工程2を700℃で10時間として製造したオパールガラスの測定値、そして、グラフ中の一点鎖線は、上記工程2を700℃で20時間として製造したオパールガラスの測定値の結果を示す。また、グラフ中の写真は、工程2を700℃で10時間として製造したオパールガラスの電子顕微鏡像である。
【
図2】
図2は、実施例にて製造したオパールガラスの透過率を測定した結果を示す。グラフの縦軸は、透過率(%)であり、横軸は、波長(nm)である。グラフ中の実線(a)は、本発明の分相性オパールガラスの製造方法における工程2を680℃で10時間として製造したオパールガラスの透過率、グラフ中の点線(b)は、上記工程2を700℃で10時間として製造したオパールガラスの透過率、グラフ中の鎖線(c)は、上記工程2を700℃で20時間として製造したオパールガラスの透過率、そしてグラフ中の一点鎖線(d)は、他の拡散版(#220)の透過率の測定結果を示す。
【
図3】
図3は、実施例にて製造したオパールガラスの配光分布特性を測定した結果を示す。グラフ中の数値は、相対光度である。グラフ中の実線は、本発明の分相性オパールガラスの製造方法における工程2を680℃で10時間として製造したオパールガラスの結果、グラフ中の鎖線は、光源として使用した白色LED光源のみで測定した結果、グラフ中の一点鎖線は、他の拡散板(#220)を測定した結果、そして、点線は、指向性のない拡散光であるCOS特性の理論値を示す。
【
図4】
図4は、実施例3の結果を示す。(A)は、光源の配光分布特性を示す図である。(B)は、実施例3で製造したオパールガラスの配光分布特性を示す図である。(C)は、実施例3で製造したオパールガラスと平凸レンズとを貼り合わせた積層体の配光分布特性を示す図である。
図4において、点線(a)が配光角、ドット(前記点よりも大きい黒丸:b)が800nmの測定値、一点鎖線(c)が700nmの測定値、二点鎖線(d)が600nmの測定値、鎖線(e)が500nmの測定値、実線(f)が400nmの測定値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において使用する用語「含む」又は「含有する」は、「本質的にからなる」、「からなる」、及び「のみからなる」の意味を包含する。
【0017】
本明細書における「A~B」との数値範囲の記載は、「A以上B以下」であること意味する。
【0018】
以下、本発明の分相性オパールガラスとその製造方法について説明する。
【0019】
本発明のオパールガラスは分相性を有し、酸化物換算のモル濃度%で、
15~82%のSiO2、
12~75%のB2O3、
0~7%のAl2O3、並びに
4~20%のLi2O及び/又は1~14%のNa2O
の組成比で上記の各成分を含有し、当該オパールガラスに含有される分散相の平均粒子径が、0.5~2μmであることを特徴とする。
【0020】
以下、本発明のオパールガラスの各成分について、その含有量と共に説明する。多成分系ガラスにおいては、各元素の成分が相互に影響して当該ガラスに固有の特性を決定するため、各元素成分の量的範囲を各成分の特性に応じて論じることは必ずしも妥当ではないが、以下に本発明のオパールガラスに含有される各元素成分の量的範囲を規定した理由を述べる。
【0021】
SiO2は、本発明のオパールガラスの骨格構造を形成する酸化物として含有される。また、本発明のオパールガラスにおいて、SiO2の含有量が多くなると、その粘性が高くなる傾向であり、その膨張係数が下がる傾向となる。
【0022】
本発明のオパールガラスに含有されるSiO2の量は、モル濃度で15~82%であり、好ましくは、モル濃度で40~70%程度であり、より好ましくは、モル濃度で50~60%程度である。
【0023】
上記するSiO2の含有量が15%未満の場合には、本発明のオパールガラスの耐水性が低下するおそれがある。上記するSiO2の含有量が82%を超える場合には、本発明のオパールガラスの分相性が低下するおそれがある。
【0024】
B2O3は、本発明のオパールガラスの分散相を形成する酸化物として含有される。また、本発明のオパールガラスにおいて、B2O3の含有量が多くなると、その溶融性が高くなる傾向であるが、耐候性が下がる傾向となり、得られるオパールガラスの分相性が低くなる傾向となる。
【0025】
本発明のオパールガラスに含有されるB2O3の量は、モル濃度で12~75%である。好ましくは、モル濃度で12~40%程度であり、より好ましくは、モル濃度で12~30%程度である。
【0026】
上記するB2O3の含有量が12%未満の場合には、本発明のオパールガラスの分相性が低下するおそれがある。また、上記するB2O3の含有量が75%を超える場合には、本発明のオパールガラスの耐水性が低下するおそれがある。
【0027】
Al2O3は、本発明のオパールガラスの骨格相を形成する酸化物として含有される。また、本発明のオパールガラスにおいて、Al2O3の含有量が多くなると、その分相性及び溶融性が低くなる傾向であるが、耐候性及び膨張係数が上がる傾向となる。
【0028】
本発明のオパールガラスに含有されるAl2O3の量は、モル濃度で0~7%である。好ましくは、モル濃度で3~6%程度であり、より好ましくは、モル濃度で4~6%程度である。
【0029】
上記するAl2O3の含有量が、7%を超える場合には、本発明のオパールガラスの分相性が低下するおそれがある。なお、0%とは、本発明のオパールガラスにAl2O3が含有されないことを意味する。
【0030】
Li2Oは、本発明のオパールガラスの分散相を形成する酸化物として含有される。また、本発明のオパールガラスにおいて、Li2Oの含有量が多くなると、その分相性が低くなる傾向となるが、他のアルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物と併用することにより、その分相性の低下を抑えることができる。また、本発明のオパールガラスにおいて、Li2Oの含有量が多くなると、その溶融性が高くなるものの、耐候性が下がる傾向となる。
【0031】
本発明のオパールガラスに含有されるLi2Oの量は、モル濃度で4~20%である。好ましくは、モル濃度で5~15%程度であり、より好ましくは、モル濃度で7~12%程度である。
【0032】
上記するLi2Oの含有量が4%未満の場合には、本発明のオパールガラスの分相性が低下するおそれがある。また、上記するLi2Oの含有量が20%を超える場合には、本発明のオパールガラスの耐候性が低下するおそれがある。
【0033】
Na2Oは、本発明のオパールガラスの分散相を形成する酸化物として含有される。また、本発明のオパールガラスにおいて、Na2Oの含有量が多くなると、その溶融性が高くなるが、その耐候性は低くなる傾向となる。
【0034】
本発明のオパールガラスに含有されるNa2Oの量は、モル濃度で1~14%である。好ましくは、モル濃度で2~10%程度であり、より好ましくは、モル濃度で2~7%程度である。
【0035】
上記するNa2Oの含有量が1%未満の場合には、本発明のオパールガラスの溶融性が低下するおそれがある。また、上記するNa2Oの含有量が14%を超える場合には、本発明のオパールガラスの耐候性が低下するおそれがある。なお、上記Li2OとNa2Oとの関係は「及び/又は」であり、本発明のオパールガラスはどちらか一方を含有してもよく、両方を含有してもよい。
【0036】
本発明のオパールガラスは、分相性を有する。具体的に、本発明のオパールガラスに含有される分散相の平均粒子径が0.5~2μmであることを特徴とする。分散相の平均粒子径は、好ましくは0.7~1.5μmである。このような平均粒子径は、公知の方法で測定することができる。具体的には、後記するように分相させたオパールガラスを高温で酸処理して、ホウ酸が主成分である分散相を溶出することで、軽石状のポーラスなガラスとし、そのガラスの細孔を後記する実施例に記載した細孔分布を測定する方法か、又はそれに使用した測定機器の同等品を使用して、それと同様に測定する方法である。
【0037】
本発明のオパールガラスに含有される分散相の平均粒子径を、0.5~2μmにすることによって、当該オパールガラスを透過する(可視光の)拡散光の指向性を少なくすることができ、均一な拡散光を得ることができる。より具体的には、ミー散乱による波長選択性の影響を受けない、均等な散乱領域(300~600nm程度)での拡散光が得られる。
【0038】
均等な散乱領域とは、例えば、本発明のオパールガラスを実施例で記載した測定方法にて測定した300~600nmの透過率の変動が3%程度以下、好ましくは1%程度以下、さらに好ましくは0.1%程度以下であることを意味する。
【0039】
また、好ましい本発明のオパールガラスの態様として、これを透過する拡散光における上記300~600nmの透過率の変動が、より長波長の300~700nmの波長でも同様であることを挙げることができる。より好ましくは300~800nmの波長、更に好ましくは300~900nmの波長であり、特に好ましくは300~1000nmの波長でも同様であることが最も好ましい。
【0040】
なお、本明細書において使用する「分相性の低下」とは、上記する分散相の平均粒子径の数値が低くなることと同じ意味である。
【0041】
一般的に、ガラス材料に含有されるLiO及びNa2Oのようなアルカリ金属酸化物の量が、所定の濃度範囲外となると、そのガラス材料の分相性が低くなることが知られている(Phase Separation in Glass、1984年10月1日、Elsevier Science Ltd、131~138頁参照)。
【0042】
本発明のオパールガラスには、本発明の効果を阻害しない範囲において、更にアルカリ土類金属酸化物を含有させることができる。このようなアルカリ土類酸化物は、本発明のオパールガラスの分散相を形成する酸化物として含有される。また、本発明のオパールガラスにおいて、アルカリ土類金属酸化物の含有量が多くなると、その溶融性が向上する傾向となる。
【0043】
本発明のオパールガラスに含有される具体的なアルカリ土類金属酸化物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、特に限定されない。好ましい態様のアルカリ土類金属酸化物として、MgO及び/又はCaOを挙げることができる。
【0044】
本発明のオパールガラスに含有される具体的なアルカリ土類酸化物の量は、本発明の効果を発揮する範囲において、特に限定されない。例えば、モル濃度で5~20%が好ましい。より好ましくは、モル濃度で6~15%程度であり、更に好ましくは、モル濃度で7~14%程度である。
【0045】
上記に挙げた成分以外にも、本発明の効果を発揮する範囲において、他の成分を含有することもできる。
【0046】
本発明の分相性オパールガラスは、下記工程(1)及び(2)を経て製造される。
【0047】
工程(1)
酸化物換算のモル濃度で、
15~82%のSiO2
12~75%のB2O3、
0~7%のAl2O3、並びに
4~20%のLi2O及び/又は1~14%のNa2Oを含有する混合物を溶融させた後に冷却する工程。
【0048】
工程(2)
工程1にて得られた冷却物を、600~800℃に加熱する工程。
【0049】
このようにして製造した分相性オパールガラスは、これに含有される分散相の平均粒子径を、0.5~2μmとすることができ、これを拡散板として使用すると、その拡散光の指向性を少なくすることができる。より具体的には、ミー散乱による波長選択性の影響を受けない、均等な散乱領域(400~600nm程度)での拡散光が得られる。
【0050】
工程1について
工程1における、具体的な溶融工程は、公知の手段を採用することができ、本発明の分相性オパールガラスが製造できる範囲において、特に限定されない。例えば、石英坩堝内に各成分の原料の所定量を投入し、熱処理に供する溶融方法を挙げることができる。
【0051】
このような熱処理を行う時間は、本発明の効果を発揮する範囲において、石英坩堝の内容物が十分にガラス化される時間であればよく、特に限定されない。具体的には、2~10時間程度であり、より好ましくは3~5時間程度である。また、ガラス化の際の熱処理温度は、特に限定されない。例えば、900~1600℃程度であり、より好ましくは1100~1300℃程度である。上記ガラス化が終了した後に、本発明の効果を発揮する範囲において、攪拌工程、清澄工程、成型工程等を適宜採用することができる。
【0052】
上記工程の後に設ける冷却(徐冷)工程は、公知の手段を採用することができ、本発明の分相性オパールガラスが製造できる範囲において、特に限定されない。例えば、成型後自然放冷する方法、転移点付近の温度から0.5~10℃/分の速度で冷却する方法等を挙げることができる。
【0053】
工程2について
工程2において、工程1にて得られた冷却物を加熱する温度は、600~800℃である。好ましくは、650~750℃程度であり、より好ましくは、660~730℃程度であり、670~710℃程度とすることが最も好ましい。このような温度を採用することにより、本発明の分相性オパールガラスを透過する拡散光を、ミー散乱による波長選択性の影響を受けない、均等な散乱領域(300~600nm程度)の光とすることができる。
【0054】
600℃以上の温度とすれば、波長選択性の影響を及ぼすことなく、より均等な散乱光とすることができ、800℃以下の時間とすることにより、強固なガラスを得ることができる。
【0055】
工程2における加熱時間は、本発明の効果を発揮する範囲において、特に限定されない。具体的には、5~30時間を挙げることができる。好ましくは、8~20時間程度である。このような温度を採用することにより、本発明の分相性オパールガラスを透過する拡散光を、ミー散乱による波長選択性の影響を受けない、均等な散乱領域(300~600nm程度)の光とすることができる。
【0056】
5時間以上の処理時間とすれば、波長選択性の影響を及ぼすことなく、より均等な散乱光とすることができ、30時間以下の処理時間とすることにより、堅牢なガラスと得ることができる。
【0057】
本発明の分相性オパールガラスの製造方法には、工程2の後に、加熱物を徐冷することや、研磨することを包含することもできる。
【0058】
本発明の分相性オパールガラスは、レンズと共に積層体を形成することができる。すなわち、本発明の積層体は、本発明の分相性オパールガラスとレンズとを有する。本発明の積層体は、本発明の分相性オパールガラスとレンズとは、公知の手段にて結合させることができる。例えば、接着剤を介した結合等を挙げることができる。
【0059】
本発明の積層体におけるレンズは、特に限定されず、公知のレンズを広く使用できるが、光学的特性を有するレンズとすることが好ましい。例えば、本発明の積層体に含有される分相性オパールガラスが入射光を拡散させる能力があるため、その拡散程度を調節することができるレンズとすることが好ましい。このようなレンズとして、例えば凸レンズを挙げることができ、更に好ましくは、本発明の分相性オパールガラスとの接触面に影響しないような平凸レンズを挙げることができる。また、フレネルレンズを、本発明の積層体における好ましいレンズとすることができる。
【実施例】
【0060】
本発明をより詳細に説明するための実施例を下記に示す。但し、本発明が以下に示す実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0061】
石英坩堝を用意し、1000~1500℃に昇温した電気炉に入れた。次いで、下記の表1及び2に示す組成となるように、各成分の原料を混合し、その調合原料を上記石英坩堝に投入した。なお、下記表中の数値は、オパールガラス中の酸化物100モル中に占める各酸化物のモル%である。また、「評価」とは、後記する分相性評価である。
【0062】
昇温の後に、攪拌/清澄工程に供し、成型/徐冷した。十分に温度が下がった後に、再度、10~20時間の650~750℃程度の熱処理工程(以下、「再加熱工程」と呼ぶ)に供し、その後、徐冷してオパールガラスを製造した。また、必要に応じて、得られたオパールガラスを研磨した。
【0063】
【0064】
【0065】
実施例1:細孔分布測定実験
このようにして製造した各サンプルのオパールガラスにおける細孔分布測定を行った。これにより得られる数値は、本発明にて定義する分相性オパールガラス材料の分散相の平均粒子径に該当する。具体的には、以下の方法によって測定した。
【0066】
得られたオパールガラスを、1Nの硫酸溶液に、12時間、95℃で浸漬させることにより、ホウ酸相を溶出させた後に洗浄/乾燥したものを、細孔分布測定装置(オートポアV9620:島津製作所-マイクロメリティクス社製)を使用して、当該機器のマニュアルに沿って、水銀圧入法にてその細孔分布を測定した。
【0067】
具体的な水銀圧入法は、約0.4~0.5gの試料を標準5cc大片用セルに入る大きさに割って採り、初期圧7kPa(約1psia:細孔直径約180μm相当)の条件で測定した。水銀パラメータとして、接触角を130.0degrees、表面張力を485.0dynes/cmに設定した。
【0068】
図1に、上記表2に記載のサンプルNo.30において、再加熱工程を、680℃で10時間、700℃で10時間、又は700℃で20時間としたものの、細孔分布測定結果を示す。
【0069】
図1に示す結果から、本発明のオパールガラスの製造方法における工程2の再加熱工程での温度が大きいほど、そして処理時間が長いほど、得られるオパールガラスに含有されるホウ酸相(分散相)の細孔径が大きくなる傾向であることが明らかとなった。
【0070】
実施例2:均等な散乱領域の評価(透過光測定実験)
次いで、上記するように再加熱工程における条件を変化させた3つのサンプルを、積分球光源から50mm離れた位置にセットし、U-4100分光光度計(日立ハイテクノロジー社製)により、その拡散光の透過率を測定した結果を
図2に示す。
【0071】
図2に示す結果から、ミー散乱による波長選択性のない均等な散乱領域として、再加熱工程を680℃で10時間として製造したオパールガラス(実線:a)では、300~600nm付近、700℃で10時間として製造したオパールガラス(点線:b)では、300~900nm付近、そして700℃で20時間として製造したオパールガラス(鎖線:c)では、300~1000nm付近であることが明らかとなった。
【0072】
更に、他の拡散板(#220)も、これらと同様にして拡散光の透過率を測定した。#220とは、単なる石英ガラスの表面を、200メッシュの粒度の砂で表面を処理してスリ面を作成し、拡散機能を付与したガラスである。
図2より明らかなように、#220(一点鎖線:d)では、200~1200nmの何れの領域にも、均等な散乱領域を確認することができなかった。
【0073】
実施例3:配光分布特性実験
次いで、再加熱工程を700℃で10時間として製造したオパールガラスの拡散光の配光分布特性を、IMS-5000(朝日分光社製)により測定した。光源は、砲弾型白色LEDを使用し、測定最少サンプルは、光源から約2mm離れた場所にセットして測定した。この結果を、
図3に示す。また、比較実験として光源のみの場合と、他の拡散板(#220)を使用した場合の結果と、指向性のない拡散光であるCOS特性の理論値も、
図3に示す。
【0074】
図3に示す結果から、再加熱工程を700℃で10時間として製造したオパールガラスの拡散光は、光源板のみの場合や、他の拡散板(#220)の場合とは異なって、COS特性の理論値に近い測定結果を示すことが明らかとなった。従って、再加熱工程を700℃で10時間として製造したオパールガラスの拡散光は、指向性が少なく、均一であることが明らかとなった。
【0075】
以上の結果から、表1及び2の「評価」に、○と表記するものは、上記実施例1により測定した分散相の平均粒子径が、0.5~2μmであり、かつ実施例2により測定した均等な散乱領域として判断できる上限値が700nm以上の場合を示す。△と表記するものは、記実施例1により測定した分散相の平均粒子径が、0.5~2μmであり、かつ実施例2により測定した均等な散乱領域として判断できる範囲が300~700nmの範囲内であることを示す。そして、×と表記するものは、記実施例1により測定した分散相の平均粒子径が、0.5~2μmに該当しないか、又は実施例2により測定した均等な散乱領域として判断できる均等な散乱領域が300nm以下の範囲内であることを示す。
【0076】
上記実施例に示すように、本発明のオパールガラスにおいて、例えば、サンプルNo.30は、分散相の平均粒子径が、0.5~2μmの範囲を満たし(実施例1)であり、かつ拡散光の均等な散乱領域として判断できる上限値が700nm以上であり(実施例2)、そして指向性が少ない配光特性を発揮する拡散光が得られることが明らかとなった(実施例3)。
【0077】
また、再加熱工程の温度が高いほど、そして熱処理温度が長いほど、分散相の平均粒子径が0.5~2μmの範囲内で大きくなり、拡散光の均等な散乱領域として判断できる波長範囲が広くなることが明らかとなった(実施例2)。
【0078】
ここで、
図2に示すグラフの実線において、600nm以上の透過光が急激に増加する様子は、オパールガラスを透過する拡散効果が薄れ、そのまま透過してくる光が増加していることを示す。そうすると、拡散光の均等な散乱領域の波長範囲が広いオパールガラスほど、より指向性が少なく、良好な拡散板としての効果を発揮することができる。
【0079】
実施例4:他のレンズとの貼り合わせた応用例
上記表1に記載のサンプルNo.15の組成にて、上記実施例1と同様に溶融したものを成型/徐冷し、690℃で10時間の再加熱してオパールガラスを製造した。これを、平凸レンズ(五鈴社製R12x9t[硝材S-LAM60])の平面側と接着剤(サンライズ社製PHOTO BOND)で貼り合せた積層体を作製した。
【0080】
上記に製造した積層体の配光分布特性を、実施例3と同様にして測定した。同時に、光源(白色LED)のみの分光特性及び平凸レンズと貼り合わせないオパールガラスのみの配光分布特性も測定した。結果を
図4に示す。
【0081】
図4(A)に示す光源の配光角は、13.9°であり、これをオパールガラスによる拡散効果により
図4(B)に示す122.38°と大きくなることが明らかとなった。その一方で、凸レンズは、光収束効果を有するため、
図4(B)に示すオパールガラスによる光拡散効果を調節できた。オパールガラスと平凸レンズとを貼り合わせた積層体の配光分布特性を示す
図4(C)では、配光角が99.26°と、
図4(B)に示すオパールガラスによる122.38°の配光角よりも小さい角度となることが明らかとなった。
【0082】
以上に示す結果から、上記実施例で作製したオパールガラスは、他のレンズと組み合わせた積層体とすることによって、所望の配光角となるような拡散板に調製することができることが明白である。