(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】光演算システム
(51)【国際特許分類】
G02F 3/00 20060101AFI20240125BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20240125BHJP
G02F 1/21 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
G02F3/00 501
G02B5/18
G02F1/21
(21)【出願番号】P 2022569706
(86)(22)【出願日】2021-08-18
(86)【国際出願番号】 JP2021030195
(87)【国際公開番号】W WO2022130690
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2020210653
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】日下 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】柏木 正浩
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-529998(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0333668(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0195857(US,A1)
【文献】特開2016-145938(JP,A)
【文献】特開2019-070784(JP,A)
【文献】国際公開第2009/133592(WO,A1)
【文献】特開2009-146542(JP,A)
【文献】J. A. DAVIS et al.,“Programmable optical interconnections with large fan-out capability using the magneto-optic spatial light modulator”,Optics Letters,1989年01月01日,Vol. 14, No. 1,pp.102-104,DOI: 10.1364/ol.14.000102
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-3/00
G02B 5/18
G02B 27/00、27/18、27/48
G02B 26/02
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n個(nは2以上の自然数)の強度変調装置からなる強度変調装置群であって、各強度変調装置AMi(i=1,2,…,n)が、複数の変調用セルにより構成され、各強度変調装置AMiの各変調用セルが、信号Siに従って搬送光を強度変調する強度変調器群と、
厚み又は屈折率が互いに独立に設定された複数の回折用セルにより構成された光回折素子と、を備え、
前記光回折素子の各回折用セルには、各強度変調装置AMiにおいて該回折用セルに対応する変調用セルにて強度変調されたn個の信号光が入力され、
各強度変調装置AMiにて強度変調され
、自由空間を伝搬する信号光
を、光路長の異なる光路を経由して前記光回折素子に入射させることにより、前記光回折素子の各回折用セルに入力されるn個の信号光の位相を異ならせた、
ことを特徴とする光演算システム。
【請求項2】
前記光回折素子の各回折用セルは、高さが互いに独立に設定されたピラーにより構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の光演算システム。
【請求項3】
各強度変調装置AMiにて強度変調され、自由空間を伝搬する信号光を、光路長の異なる光路を経由して前記光回折素子に入射させるための空間光学系として、ミラー及びハーフミラーにより構成される空間光学系を更に備える、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光演算システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光回折素子を用いて演算を行う光演算システムに関する。
【背景技術】
【0002】
屈折率が個別に設定された複数のマイクロセルを有し、各マイクロセルを透過した光を相互に干渉させることによって、予め定められた演算を光学的に実行する光回折素子が知られている。光回折素子を用いた光学的な演算には、プロセッサを用いた電気的な演算と比べて高速且つ低消費電力であるという利点がある。特許文献1には、入力層、中間層、及び出力層を有する光ニューラルネットワークが開示されている。上述した光回折素子は、例えば、このような光ニューラルネットワークの中間層として利用することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の光回折素子は、特定の波長の光を入力したときに、特定の光演算を実行することしかできない。このため、相異なる複数の信号に対する演算を、単一の光回折素子を用いて光学的且つ並列的に実行可能な光演算システムは実現されていなかった。
【0005】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、相異なる複数の信号に対する演算を、単一の光回折素子を用いて光学的且つ並列的に実行可能な光演算システムを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る光演算システムにおいては、厚み又は屈折率が互いに独立に設定された複数のセルにより構成された光回折素子を備え、前記光回折素子の各セルには、相異なる信号によって変調された、位相の異なる複数の信号光が入力される、という構成が採用されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、相異なる複数の信号に対する演算を、単一の光回折素子を用いて光学的且つ並列的に実行可能な光演算システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の各実施形態において共通に利用される光回折素子の構成を示す平面図である。
【
図2】
図1に示す光回折素子の一部分を拡大した斜視図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る光演算システムの要部構成を示す平面図である。
【
図4】
図3の光演算システムに含まれる発光装置の平面図である。
【
図5】
図3の光演算システムに含まれる移相装置の平面図である。
【
図6】
図3の光演算システムに含まれる強度変調装置の平面図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る光演算システムの要部構成を示す平面図である。
【
図8】
図7の光演算システムに含まれる強度変調装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔光回折素子の構成〕
本発明の各実施形態において共通に利用される光回折素子1の構成について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、光回折素子1の平面図である。
図2は、光回折素子1の一部分(
図1において破線で囲んだ部分)を拡大した斜視図である。
【0010】
光回折素子1は、平板状の光回折素子であり、厚み又は屈折率が互いに独立に設定された複数のマイクロセルA(特許請求の範囲における「セル」の一例)により構成されている。光回折素子1に信号光が入射すると、各マイクロセルAを透過した信号光が相互に干渉することによって、予め定められた光演算が行われる。光回折素子1から出力される信号光の強度分布は、その光信号の結果を表す。
【0011】
ここで、「マイクロセル」とは、例えば、セルサイズが10μm未満のセルのことを指す。また、「セルサイズ」とは、セルの面積の平方根のことを指す。例えば、マイクロセルの平面視形状が正方形である場合、セルサイズとは、セルの一辺の長さである。セルサイズの下限は、特に限定されないが、例えば1nmである。
【0012】
図1に例示した光回折素子1は、マトリックス状に配置された12×12個のマイクロセルAにより構成されている。各マイクロセルAの平面視形状は、例えば、1μm×1μmの正方形であり、光回折素子1の平面視形状は、例えば、12μm×12μmの正方形である。
【0013】
(1)マイクロセルAの厚みをセル毎に独立に設定することによって、又は、(2)マイクロセルAの屈折率をセル毎に独立に選択することによって、マイクロセルAを透過する光の位相変化量をセル毎に独立に設定することができる。本実施形態においては、ナノインプリントにより実現可能な(1)の方法を採用している。この場合、各マイクロセルAは、
図2に示すように、各辺の長さがセルサイズと等しい正方形の底面を有する四角柱状のピラーにより構成される。この場合、マイクロセルAを透過する光の位相変化量は、このピラーの高さに応じて決まる。すなわち、高さの高いピラーにより構成されるマイクロセルAを透過する光の位相変化量は大きくなり、高さの低いピラーにより構成されるマイクロセルAを透過する光の位相変化量は小さくなる。
【0014】
なお、各マイクロセルAの厚み又は屈折率の設定は、例えば、機械学習を用いて実現することができる。この機械学習において用いられるモデルとしては、例えば、光回折素子1への入力光の強度分布を入力とし、光回折素子1からの出力光の強度分布を出力とするモデルであって、各マイクロセルAの厚み又は屈折率をパラメータとして含むモデルを用いることができる。ここで、入力光の強度分布とは、例えば、光回折素子1の各マイクロセルAに入力される入力光の強度のことを指す。また、出力光とは、光回折素子1の各マイクロセルAを透過した光が相互に干渉することによって生じる光のことを指し、出力光の強度分布とは、例えば、光回折素子1の後段に配置された光回折素子の各マイクロセル(又は、イメージセンサの各セル)に入力される出力光の強度のことを指す。
【0015】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係る光演算システム10Aについて、
図3~
図6を参照して説明する。
図3は、光演算システム10Aの構成を示す平面図である。
図4は、光演算システム10Aに含まれる発光装置2の平面図である。
図5は、光演算システム10Aに含まれる移相装置4の平面図である。
図6は、光演算システム10Aに含まれる強度変調装置5の平面図である。
【0016】
光演算システム10Aは、上述した光回折素子1に加えて、発光装置2と、受光装置3と、移相装置4と、強度変調装置5と、を備えている。
【0017】
発光装置2は、搬送光を生成するための装置である。発光装置2は、
図4に示すように、マトリックス状に配置された複数のセルBを有しており、例えば、2次元ディスプレイにより構成される。
【0018】
発光装置2から出力された搬送光の光路上には、移相装置4が配置されている。移相装置4は、発光装置2から出力された搬送光を移相するための装置である。移相装置4は、
図5に示すように、マトリックス状に配置された複数のセルCを有している。移相装置4の各セルCと発光装置2の各セルBとは一対一に対応しており、発光装置2の各セルBから出力された搬送光は、移相装置4の対応するセルCに入力される。移相装置4の各セルCは、n個(nは2以上の自然数)のサブセルC1,C2,…,Cnに分割されている。移相装置4の各セルCに含まれる各サブセルCi(i=1,2,…,n)は、そのセルCに対応する発光装置2のセルBから出力された搬送光を移相する。サブセルC1,C2,…,Cnの移相量(位相の変化量)δ1,δ2,…,δnは、0≦δ1<δ2<…<δn<2πを満たす。なお、本実施形態において、サブセル数nは3である。また、本実施形態において、サブセルC1の移相量δ1[rad]は0であり、サブセルC2の移相量δ2[rad]は2/3πであり、サブセルC3の移相量δ3[rad]は4/3πである。
【0019】
移相装置4から出力された搬送光の光路上には、強度変調装置5が配置されている。強度変調装置5は、n個の信号S1,S2,…Snに従って移相装置4から出力された搬送光を強度変調することによって、信号光を生成するための装置である。強度変調装置5は、
図6に示すように、マトリックス状に配置された複数のセルDを有している。強度変調装置5の各セルDと移相装置4の各セルCとは一対一に対応しており、移相装置4の各セルCから出力された搬送光は、強度変調装置5の対応するセルDに入力される。強度変調装置5の各セルDは、移相装置4の各サブセルCiと同様、n個のサブセルD1,D2,…,Dnに分割されている。強度変調装置5の各セルDに含まれる各サブセルDiは、そのセルDに対応する移相装置4のセルCに含まれるサブセルCiから出力された搬送光を、信号Siに従って強度変調する。
【0020】
強度変調装置5から出力された信号光の光路上には、光回折素子1が配置されている。光回折素子1は、
図1に示したように、マトリックス状に配置された複数のマイクロセルAを有している。光回折素子1の各マイクロセルAと強度変調装置5の各セルDとは一対一に対応しており、強度変調装置5の各セルDから出力された信号光は、光回折素子1の対応するマイクロセルAに入力される。すなわち、光回折素子1の各マイクロセルAに入力される信号光には、信号S1に従って強度変調された移相量δ1の信号光、信号S2に従って強度変調された移相量δ2の信号光、…、及び信号Snに従って強度変調された移相量δnの信号光が入力される。光回折素子1は、上述したように、各マイクロセルAを透過した信号光を相互に干渉させることによって予め定められた光演算を行う。
【0021】
光回折素子1から出力された信号光の光路上には、受光装置3が配置されている。受光装置3は、光回折素子1から出力された信号光を検出するための装置である。受光装置3は、マトリックス状に配置された複数のセルを有しており、例えば、2次元イメージセンサにより構成される。光回折素子1の各マイクロセルAを透過した信号光は、光回折素子1の他のマイクロセルAを透過した光と干渉し、受光装置3の各セルに入力される。受光装置3の各セルは、移相量がδ1である信号光、移相量がδ2である信号光、・・・、及び移相量がδnである信号光を重ね合せた光の強度分布を検出する。ここで、重ね合せた光の強度分布は、信号S1に従って強度変調された信号光に対して予め定められた光演算を行った結果と、信号S2に従って強度変調された信号光に対して予め定められた光演算を行った結果と、…、信号Snに従って強度変調された信号光に対して予め定められた光演算を行った結果との和を表す。なお、受光装置3の各セルをサブセルに分割し、サブセル毎に異なるフィルタを付加することで、移相量がδ1である信号光、移相量がδ2である信号光、・・・、及び移相量がδnである信号光の強度分布を個別に検出できるようにしてもよい。
【0022】
以上のように、光演算システム10Aにおいては、光回折素子1の各マイクロセルAに、強度変調装置5において該マイクロセルAに対応するセルDに含まれるn個のサブセルD1,D2,…,Dnの各々にて強度変調されたn個の信号光が入力される。そして、光演算システム10Aにおいては、移相装置4において各サブセルCiの移相量を異ならせることにより、光回折素子の各マイクロセルAに入力されるn個の信号光の位相を異ならせている。
【0023】
これにより、光演算システム10Aによれば、相異なる複数の信号S1,S2,…,Snに対する演算を、単一の光回折素子1を用いて光学的且つ並列的に実行することができる。例えば、カラー画像を表す画像信号の各色成分に対する演算を、単一の光回折素子1を用いて光学的且つ並列的に実行することができる。この場合、画像信号のR(赤)成分を信号S1、画像信号のG(緑)成分を信号S2、画像信号のB(青)成分を信号S3として、強度変調装置5に入力すればよい。
【0024】
なお、本実施形態においては、強度変調装置5から出力された信号光の光路上に単一の光回折素子1を配置し、この光回折素子1を透過した光を受光装置3に入力する構成を採用しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、強度変調装置5から出力された信号光の光路上に複数の光回折素子1を配置し、これらの光回折素子1を透過した光を受光装置3に入力する構成を採用してもよい。これにより、複数の光演算を順次実行することが可能な光演算システム10Aを実現することが可能になる。
【0025】
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係る光演算システム10Bについて、
図7~
図8を参照して説明する。
図7は、光演算システム10Bの構成を示す平面図である。
図8は、光演算システム10Bに含まれる強度変調装置AM1の平面図である。
【0026】
光演算システム10Bは、上述した光回折素子1に加えて、発光装置2と、受光装置3と、n個(nは2以上の自然数)の強度変調装置AM1~AMnからなる強度変調装置群5’と、n個のミラーMa1~Manからなるミラー群Maと、n個のミラーMb1~Mbnからなるミラー群Mbと、を備えている。ミラーMa1~Man-1及びミラーMb1~Mbn-1は、入射した光の50%を反射すると共に、残りの50%を透過するハーフミラーである。一方、ミラーMan及びMbnは、入射した光の100%を反射するミラーである。以下、n=3であるものとして、各装置の構成を説明する。
【0027】
発光装置2は、搬送光を生成するための装置である。発光装置2は、第1の実施形態に係る光演算システム10Aと同様、マトリックス状に配置された複数のセルBを有しており、例えば、2次元ディスプレイにより構成される。
【0028】
発光装置2から出力された搬送光の光路上には、ミラーMa1が配置されている。ミラーMa1は、ハーフミラーであり、発光装置2から出力された搬送光の1/2を透過し、残り1/2を反射する。ミラーMa1にて反射された搬送光の光路上には、ミラーMa2が配置されている。ミラーMa2は、ハーフミラーであり、ミラーMa1にて反射された搬送光の1/2を透過し、残り1/2を反射する。ミラーMa2を透過した搬送光の光路上には、ミラーMa3が配置されている。ミラーMa3は、ミラーMa2を透過した搬送光を反射する。
【0029】
ミラーMa1を透過した搬送光の光路上には、強度変調装置AM1が配置されている。強度変調装置AM1は、信号S1に従ってミラーMa1を透過した搬送光を強度変調するための構成である。強度変調装置AM1は、
図8に示すように、マトリックス状に配置された複数のセルDを有している。強度変調装置AM1の各セルDと発光装置2の各セルBとは一対一に対応しており、発光装置2の各セルBから出力された搬送光は、強度変調装置AM1の対応するセルDに入力される。強度変調装置AM1の各セルDは、そのセルDに対応する発光装置2のセルBから出力された搬送光を、信号S1に従って強度変調する。
【0030】
強度変調装置AM1から出力された信号光の光路上には、ミラーMb1が配置されている。強度変調装置AM1から出力された信号光の1/2は、ミラーMb1を透過した後、光回折素子1に入力される。
【0031】
ミラーMa2にて反射された搬送光の光路上には、強度変調装置AM2が配置されている。強度変調装置AM2は、信号S2に従ってミラーMa2にて反射された搬送光を強度変調するための構成である。強度変調装置AM2は、強度変調装置AM1と同様、マトリックス状に配置された複数のセルDを有している。強度変調装置AM2の各セルDと発光装置2の各セルBとは一対一に対応しており、発光装置2の各セルBから出力された搬送光は、強度変調装置AM2の対応するセルDに入力される。強度変調装置AM2の各セルDは、そのセルDに対応する発光装置2のセルBから出力された搬送光を、信号S2に従って強度変調する。
【0032】
強度変調装置AM2から出力された信号光の光路上には、ミラーMb2が配置されている。(1)強度変調装置AM2から出力された信号光の1/2は、ミラーMb2にて反射され、(2)ミラーMb2にて反射された信号光の1/2は、Mb1にて反射され、光回折素子1に入力される。
【0033】
ミラーMa3にて反射された搬送光の光路上には、強度変調装置AM3が配置されている。強度変調装置AM3は、信号S3に従ってミラーMa3にて反射された搬送光を強度変調するための構成である。強度変調装置AM3は、強度変調装置AM1と同様、マトリックス状に配置された複数のセルDを有している。強度変調装置AM3の各セルDと発光装置2の各セルBとは一対一に対応しており、発光装置2の各セルBから出力された搬送光は、強度変調装置AM3の対応するセルDに入力される。強度変調装置AM3の各セルDは、そのセルDに対応する発光装置2のセルBから出力された搬送光を、信号S3に従って強度変調する。
【0034】
強度変調装置AM3から出力された信号光の光路上には、ミラーMb3が配置されている。(1)強度変調装置AM3から出力された信号光は、ミラーMb3にて反射され、(2)ミラーMb3にて反射された信号光の1/2は、ミラーMb2を透過し、(3)ミラーMb2を透過した信号光の1/2は、Mb1にて反射され、光回折素子1に入力される。
【0035】
ここで、強度変調装置AM1にて強度変調される信号光の発光装置2から光回折素子1までの光路長L1、強度変調装置AM2にて強度変調される信号光の発光装置2から光回折素子1までの光路長L2、及び、強度変調装置AM3にて強度変調される信号光の発光装置2から光回折素子1までの光路長L3は、それぞれ異なる。例えば、
図7に示す構成を採用した場合、これらの光路長L1,L2,L3は、不等式L1<L2<L3を満たす。従って、強度変調装置AM1にて強度変調されて光回折素子1に入力される信号光の移相量δ1、強度変調装置AM2にて強度変調されて光回折素子1に入力される信号光の移相量δ2、及び、強度変調装置AM3にて強度変調されて光回折素子1に入力される信号光の移相量δ3は、それぞれ異なる。例えば、
図7に示す構成を採用した場合、これらの移相量δ1,δ2,δ3は、不等式δ1<δ2<δ3を満たす。
【0036】
光回折素子1は、
図1に示したように、マトリックス状に配置された複数のマイクロセルAを有している。光回折素子1の各マイクロセルAと強度変調装置AM1,AM2,AM3の各セルDとは一対一に対応している。強度変調装置AM1の各セルDから出力された信号光は、光回折素子1の対応するマイクロセルAに入力され、強度変調装置AM2の各セルDから出力された信号光は、光回折素子1の対応するマイクロセルAに入力され、強度変調装置AM3の各セルDから出力された信号光は、光回折素子1の対応するマイクロセルAに入力される。したがって、光回折素子1の各マイクロセルAに入力される信号光には、信号S1に従って強度変調された移相量δ1の信号光、信号S2に従って強度変調された移相量δ2の信号光、及び信号S3に従って強度変調された移相量δ3の信号光が入力される。光回折素子1は、上述したように、各マイクロセルAを透過した信号光を相互に干渉させることによって予め定められた光演算を行う。
【0037】
光回折素子から出力された信号光の光路上には、受光装置3が配置されている。受光装置3は、光回折素子1から出力された信号光を検出するための装置である。受光装置3は、第1の実施形態に係る光演算システム10Aが備える受光装置3と同様、マトリックス状に配置された複数のセルを有しており、例えば、2次元イメージセンサにより構成される。光回折素子1の各マイクロセルAを透過した信号光は、光回折素子1の他のマイクロセルAを透過した光と干渉し、受光装置3の各セルに入力される。受光装置3の各セルは、移相量がδ1である信号光の強度分布、移相量がδ2である信号光の強度分布、・・・、及び移相量がδnである信号光の強度分布を個別に検出する。ここで、移相量がδ1である信号光の強度分布は、信号S1に従って強度変調された信号光に対して予め定められた光演算を行った結果を表し、移相量がδ2である信号光の強度分布は、信号S2に従って強度変調された信号光に対して予め定められた光演算を行った結果を表し、…、移相量がδnである信号光の強度分布は、信号Snに従って強度変調された信号光に対して予め定められた光演算を行った結果を表す。
【0038】
以上のように、光演算システム10Bにおいては、光回折素子1の各マイクロセルAに、n個の強度変調装置AM1,AM2,…,AMnの各々において該マイクロセルAに対応するセルDにて強度変調されたn個の信号光が入力される。そして、光演算システム10Bにおいては、各強度変調装置AMiにて強度変調される信号光の発光装置2から光回折素子1までの光路長Liを異ならせることによって、光回折素子の各マイクロセルAに入力されるn個の信号光の位相を異ならせている。
【0039】
これにより、光演算システム10Bによれば、相異なる複数の信号S1,S2,…,Snに対する演算を、単一の光回折素子1を用いて光学的且つ並列的に実行することができる。例えば、カラー画像を表す画像信号の各色成分に対する演算を、単一の光回折素子1を用いて光学的且つ並列的に実行することができる。この場合、画像信号のR(赤)成分を信号S1として強度変調装置AM1に入力し、画像信号のG(緑)成分を信号S2として強度変調装置AM2に入力し、画像信号のB(青)成分を信号S3として強度変調装置AM3に入力すればよい。
【0040】
なお、本実施形態においては、強度変調装置AM1,AM2,AM3から出力された信号光の光路上に単一の光回折素子1を配置し、この光回折素子1を透過した光を受光装置3に入力する構成を採用しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、強度変調装置AM1,AM2,AM3から出力された信号光の光路上に複数の光回折素子1を配置し、これらの光回折素子1を透過した光を受光装置3に入力する構成を採用してもよい。これにより、複数の光演算を順次実行することが可能な光演算システム10Bを実現することが可能になる。
【0041】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る光演算システムにおいては、厚み又は屈折率が互いに独立に設定された複数のセルにより構成された光回折素子を備え、前記光回折素子の各セルには、相異なる信号によって変調された、位相の異なる複数の信号光が入力される、という構成が採用されている。
【0042】
上記の構成によれば、相異なる複数の信号に対する演算を、単一の光回折素子を用いて光学的且つ並列的に実行することができる。
【0043】
本発明の態様2に係る光演算システムにおいては、態様1に係る構成に加えて、複数のセルにより構成された移相装置であって、各セルCが、n個(nは2以上の自然数)のサブセルC1,C2,…,Cnに分割され、各サブセルCi(i=1,2,…,n)が、搬送光を移相する移相装置と、複数のセルにより構成された強度変調装置であって、各セルDが、n個のサブセルD1,D2,…,Dnに分割され、各サブセルDiが、前記移相装置において該セルDに対応するセルCに含まれるサブセルCiから出力された搬送光を信号Siに従って強度変調する強度変調装置と、を更に備え、前記光回折素子の各セル(マイクロセルA)には、前記強度変調装置において該セル(マイクロセルA)に対応するセルDに含まれるn個のサブセルD1,D2,…,Dnの各々にて強度変調されたn個の信号光が入力され、前記移相装置において各サブセルCiの移相量を異ならせることにより、前記光回折素子の各セル(マイクロセルA)に入力されるn個の信号光の位相を異ならせる、という構成が採用されている。
【0044】
上記の構成によれば、信号S1,S2,…,Snの各々によって変調された、位相の異なるn個の信号光を、光回折素子の各セルに入力することができる。これにより、信号S1,S2,…,Snに対する演算を、単一の光回折素子を用いて光学的且つ並列的に実現することができる。
【0045】
本発明の態様3に係る光演算システムにおいては、態様1に係る構成に加えて、n個(nは2以上の自然数)の強度変調装置AM1,AM2,…,AMnからなる強度変調装置群であって、各強度変調装置AMi(i=1,2,…,n)が、複数のセルにより構成され、各強度変調装置AMiの各セルDが、信号Siに従って搬送光を強度変調する強度変調器群を更に備え、前記光回折素子の各セル(マイクロセルA)には、複数の強度変調装置AM1,AM2,…,AMnの各々において該セル(マイクロセルA)に対応するセルDにて強度変調されたn個の信号光が入力され、各強度変調装置AMiにて強度変調される信号光の前記光回折素子までの光路長を異ならせることにより、前記光回折素子の各セル(マイクロセルA)に入力されるn個の信号光の位相を異ならせる、という構成が採用されている。
【0046】
上記の構成によれば、信号S1,S2,…,Snの各々によって変調された、位相の異なるn個の信号光を、光回折素子の各セルに入力することができる。これにより、信号S1,S2,…,Snに対する演算を、単一の光回折素子を用いて光学的且つ並列的に実現することができる。
【0047】
本発明の態様4に係る光演算システムにおいては、態様1~3の何れか一態様に係る構成に加えて、前記光回折素子の各セルは、高さが互いに独立に設定されたピラーにより構成されている、という構成が採用されている。
【0048】
上記の構成によれば、ナノインプリント技術等を用いて光回折素子を容易に製造することができる。
【0049】
〔付記事項〕
本発明は、上述した実施形態に限定されるものでなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、上述した実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0050】
1 光回折素子
2 発光装置
3 受光装置
4 移相装置
5 強度変調装置
5’ 強度変調装置群
AM1,AM2,AM3 強度変調装置
10A,10B 光演算システム