(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】地中埋設型シェルター及びその構築方法
(51)【国際特許分類】
E04H 9/14 20060101AFI20240125BHJP
E04H 9/12 20060101ALI20240125BHJP
E02D 29/045 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
E04H9/14 K
E04H9/12
E02D29/045
(21)【出願番号】P 2023052897
(22)【出願日】2023-03-29
【審査請求日】2023-10-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229667
【氏名又は名称】日本ヒューム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 貴信
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘輔
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-053169(JP,A)
【文献】特開2021-172974(JP,A)
【文献】特開平11-013072(JP,A)
【文献】特許第7281609(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 9/16
E04B 1/38 - 1/61
E02D 29/00 -29/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの居住室と、2つの前記居住室の間に設けられた貯蔵室と、が水平方向に並んで形成され、地下に設置される地中埋設型シェルターであって、
前記居住室の水平方向における側面、及び前記居住室と前記貯蔵室との水平方向における境界面を構成するように水平方向に離間して設置された4つの側壁部と、
隣接する2つの前記側壁部の間を上側から封止して2つの前記居住室を形成し、それぞれ当該2つの前記側壁部に下側から支持される2つの居住室頂版と、
2つの前記居住室頂版の間において、隣接する2つの前記側壁部の間を上側から封止して前記貯蔵室を形成し、当該2つの前記側壁部に下側から支持される貯蔵室頂版と、
を具備し、
前記居住室頂版における前記貯蔵室頂版が設けられない側において、前記居住室頂版と当該居住室頂版を下側から支持する前記側壁部は、各々において鉛直方向に沿って形成された孔部である鉛直孔部の内部に、当該側壁部から当該居住室頂版にかけて鉛直方向に延伸する鉄筋である鉛直鉄筋が設置された状態で固定され、
前記居住室頂版における前記貯蔵室頂版が設けられた側において、前記居住室頂版と前記貯蔵室頂版とは、各々において水平方向に沿って形成された孔部である水平孔部の内部に、前記居住室頂版から前記貯蔵室頂版にかけて水平方向に延伸する鉄筋である水平鉄筋が設置された状態で固定されたことを特徴とする地中埋設型シェルター。
【請求項2】
2つの前記居住室頂版及び前記貯蔵室頂版は重量コンクリートで構成されたことを特徴とする請求項1に記載の地中埋設型シェルター。
【請求項3】
前記居住室頂版における前記貯蔵室頂版が設けられない側において形成された前記鉛直孔部は、前記居住室頂版を上下方向にわたり貫通するように形成され、当該鉛直孔部には、内部に前記鉛直鉄筋が設置された状態でモルタルが充填されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の地中埋設型シェルター。
【請求項4】
前記側壁部は、最下部において局所的に水平方向に広く形成されたことによって自身が載置された際に自身を支持する脚部を具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の地中埋設型シェルター。
【請求項5】
前記居住室及び前記貯蔵室を、2つの前記居住室と前記貯蔵室が並んだ方向と垂直な方向かつ水平方向で封止する側板を具備し、
当該側板は、最下部において局所的に水平方向で広く形成されたことによって自身が載置された際に自身を支持する脚部を具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の地中埋設型シェルター。
【請求項6】
4つの前記側壁部、2つの前記居住室頂版は、それぞれ共通の形状とされたことを特徴とする請求項1又は2に記載の地中埋設型シェルター。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の地中埋設型シェルターの構築方法であって、
前記側壁部、前記居住室頂版、及び前記貯蔵室頂版をプレキャストブロックとして製造し、
地面を切削した後の底面において、一方の側から他方の側に向かい第1から第4の前記側壁部を順次配置する側壁部配置工程と、
第1の前記側壁部と第2の前記側壁部の間、第2の前記側壁部と第3の前記側壁
部の間、及び第3の前記側壁部と第4の前記側壁部の間、の底部にそれぞれ底版を設置する底版配置工程と、
第1の前記側壁部と第2の前記側壁部の上側に、第1の前記居住室頂版を設置し、第1の前記側壁部と第1の前記居住室頂版とを、前記鉛直鉄筋を介して連結して固定する第1固定工程と、
前記第1固定工程後に、前記水平鉄筋を介して前記貯蔵室頂版と第1の前記居住室頂版とを連結して、前記貯蔵室頂版を第2の前記側壁部と第3の前記側壁部の上側に固定する第2固定工程と、
前記第2固定工程後に、前記水平鉄筋を介して第2の前記居住室頂版と前記貯蔵室頂版とを連結し、かつ第4の前記側壁部と第2の前記居住室頂版とを、前記鉛直鉄筋を介して連結して、第2の前記居住室頂版を第3の前記側壁部と第4の前記側壁部の上側に固定する第3固定工程と、
を具備することを特徴とする、地中埋設型シェルターの構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、避難用に地中に設けられる建築物である地中埋設型シェルター、及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
津波等の自然災害や核兵器等による放射線被曝被害を防ぐために各種の構造のシェルターが提案されている。このうち、放射線等からの遮蔽という観点からは、このようなシェルターを地下に設けることが有効である。避難民がシェルター内に滞在する期間は不定であり、長くなることも想定されるため、シェルターの構造は、多くの避難民が長期間生活できるように、様々な部屋が設けられる。このような構造のシェルターは、例えば特許文献1、2等に記載されている。
【0003】
これらのシェルターは、他の建築物と同様に、コンクリート(鉄筋コンクリート)を主とした材料で構築される。コンクリートは、建築物として要求される機械的強度を有すると共に、中性子に対して一定の遮蔽能力もあるため、これらのシェルターの材料として好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-346478号公報
【文献】特開2007-297898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなシェルターに対しても、他の鉄筋コンクリート製の施設と同様に、これを短期間に構築できることが望まれる。他のコンクリート構造物を短期間に構築する構築方法として、施工現場とは別の工場で型枠を用いて製造された複数のコンクリートブロック(プレキャストブロック)を施工現場で組み立てるプレキャスト工法(PC工法)が知られている。また、これによって、構築される構造物の品質も高くすることができる。
【0006】
一方で、上記のように複数の部屋が設けられたシェルターの構造は複雑となる。前記のようなプレキャスト工法は、例えば橋梁等の比較的単純な構造のコンクリート構造物の構築には適しているが、このシェルターのような複数の部屋が設けられたコンクリート構造物の構築には適しておらず、適用が困難であった。
【0007】
特に、プレキャスト工法を用いてこのようなシェルターを構築する場合には、例えば直交する2つのプレキャスト部材間を強固に接合する工程が多く必要となる。このため、短期間でシェルターを構築することは困難であった。このため、プレキャスト工法を用いてシェルターを短期間に構築する技術が求められた。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上記の問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、2つの居住室と、2つの前記居住室の間に設けられた貯蔵室と、が水平方向に並んで形成され、地下に設置される地中埋設型シェルターであって、前記居住室の水平方向における側面、及び前記居住室と前記貯蔵室との水平方向における境界面を構成するように水平方向に離間して設置された4つの側壁部と、隣接する2つの前記側壁部の間を上側から封止して2つの前記居住室を形成し、それぞれ当該2つの前記側壁部に下側から支持される2つの居住室頂版と、2つの前記居住室頂版の間において、隣接する2つの前記側壁部の間を上側から封止して前記貯蔵室を形成し、当該2つの前記側壁部に下側から支持される貯蔵室頂版と、を具備し、前記居住室頂版における前記貯蔵室頂版が設けられない側において、前記居住室頂版と当該居住室頂版を下側から支持する前記側壁部は、各々において鉛直方向に沿って形成された孔部である鉛直孔部の内部に、当該側壁部から当該居住室頂版にかけて鉛直方向に延伸する鉄筋である鉛直鉄筋が設置された状態で固定され、前記居住室頂版における前記貯蔵室頂版が設けられた側において、前記居住室頂版と前記貯蔵室頂版とは、各々において水平方向に沿って形成された孔部である水平孔部の内部に、前記居住室頂版から前記貯蔵室頂版にかけて水平方向に延伸する鉄筋である水平鉄筋が設置された状態で固定されたことを特徴とする。
本発明において、2つの前記居住室頂版及び前記貯蔵室頂版は重量コンクリートで構成されたことを特徴とする。
本発明において、前記居住室頂版における前記貯蔵室頂版が設けられない側において形成された前記鉛直孔部は、前記居住室頂版を上下方向にわたり貫通するように形成され、当該鉛直孔部には、内部に前記鉛直鉄筋が設置された状態でモルタルが充填されたことを特徴とする。
本発明において、前記側壁部は、最下部において局所的に水平方向に広く形成されたことによって自身が載置された際に自身を支持する脚部を具備することを特徴とする。
本発明は、前記居住室及び前記貯蔵室を、2つの前記居住室と前記貯蔵室が並んだ方向と垂直な方向かつ水平方向で封止する側板を具備し、当該側板は、最下部において局所的に水平方向で広く形成されたことによって自身が載置された際に自身を支持する脚部を具備することを特徴とする。
本発明において、4つの前記側壁部、2つの前記居住室頂版は、それぞれ共通の形状とされたことを特徴とする。
本発明の地中埋設型シェルターの構築方法は、前記側壁部、前記居住室頂版、及び前記貯蔵室頂版をプレキャストブロックとして製造し、地面を切削した後の底面において、一方の側から他方の側に向かい第1から第4の前記側壁部を順次配置する側壁部配置工程と、第1の前記側壁部と第2の前記側壁部の間、第2の前記側壁部と第3の前記側壁部の間、及び第3の前記側壁部と第4の前記側壁部の間、の底部にそれぞれ底版を設置する底版配置工程と、第1の前記側壁部と第2の前記側壁部の上側に、第1の前記居住室頂版を設置し、第1の前記側壁部と第1の前記居住室頂版とを、前記鉛直鉄筋を介して連結して固定する第1固定工程と、前記第1固定工程後に、前記水平鉄筋を介して前記貯蔵室頂版と第1の前記居住室頂版とを連結して、前記貯蔵室頂版を第2の前記側壁部と第3の前記側壁部の上側に固定する第2固定工程と、前記第2固定工程後に、前記水平鉄筋を介して第2の前記居住室頂版と前記貯蔵室頂版とを連結し、かつ第4の前記側壁部と第2の前記居住室頂版とを、前記鉛直鉄筋を介して連結して、第2の前記居住室頂版を第3の前記側壁部と第4の前記側壁部の上側に固定する第3固定工程と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プレキャスト工法を用いてシェルターを短期間で構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係るシェルターの斜視図(a)、断面図(b)である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るシェルターの分解図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係るシェルターの構築方法を示す斜視図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係るシェルターの構築方法を示す斜視図(続き)である。
【
図5】本発明の実施の形態に係るシェルターの構築方法における、特に居住室頂版と側壁部の間の構造を詳細に示す図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係るシェルターの構築方法における、特に居住室頂版と側壁部の間の構造を詳細に示す図(続き)である。
【
図7】本発明の実施の形態に係るシェルターの構築方法における、特に居住室頂版と貯蔵室頂版の間の構造を詳細に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態に係るシェルターの構造について説明する。
図1(a)は、このシェルター(地中埋設型シェルター)1の斜視図であり、
図1(b)は、
図1(a)におけるy軸に垂直な断面図である。鉛直方向はz方向とされる。
図1(b)においては、シェルター1の地盤G中における態様が示されているが、
図1(a)には、シェルター1のみの斜視図が示されている。このシェルター1においては、避難民の生活空間となる居住室1Aが図中の水平方向(x方向)の両側においてそれぞれ設けられており、これらの間には、避難民にとって必要である物質(例えば飲料水)等を貯蔵する貯蔵室1Cが形成されている。
【0013】
図1において、このシェルター1は、4つの側壁部(第1の側壁部10A~第4の側壁部10D)、2つの居住室底版(第1の居住室底版20A、第2の居住室底版20B)、1つの貯蔵室底版30、2つの居住室頂版(第1の居住室頂版40A、第2の居住室頂版40B)、1つの貯蔵室頂版50、1つの側板60が組み合わされて構成される。
図1(a)においては便宜上y方向負側においてのみ側板60が設けられているように記載されているが、実際には、y方向正側においても同様に側板60が設けられている。
図2は、この分解図を示す。
図2に示された各部材はいずれもプレキャスト部材として製造される。ただし、居住室底版20A、20B、貯蔵室底版30は、プレキャスト部材ではなく現場打ちコンクリートで構成してもよい。
【0014】
図1に示されるように、居住室1Aは、2つの側壁部(第1の側壁部10Aと第2の側壁部10B)とその間の第1の居住室底版20A、第1の居住室頂版40A、側板60で囲まれて構成され、居住室1Bは、2つの側壁部(第3の側壁部10Cと第4の側壁部10D)とその間の第2の居住室底版20B、第2の居住室頂版40B、側板60で囲まれて構成され、貯蔵室1Cは、2つの側壁部(第2の側壁部10Bと第3の側壁部10C)とその間の貯蔵室底版30、貯蔵室頂版50、側板60で囲まれて構成される。なお、
図1、2においては、これらの各構成要素を連結する構造については記載が省略されており、これについては後述する。
【0015】
居住室1A、1Bを構成する側板60においては、避難民の居住室1A、1Bに対する出入口となる扉が適宜形成される。また、貯蔵室1Cに前記のように飲料水を貯蔵する場合には、貯蔵室1C内の空間を水タンクとして用いることができる。ただし、この内部空間に生活に必須な設備等を設置してもよい。この飲料水やこの設備等に対して両側の居住室1A、1B側からアクセスが可能とされるように、側壁部10B、10Cには、小さな扉や開口等が適宜設置される。
【0016】
側壁部10A~10D、居住室底版20A、20B、貯蔵室底版30、居住室頂版40A、40B、貯蔵室頂版50、側板60は、それぞれ鉄筋コンクリートで構成されたプレキャスト部材として製造される。ここでは側壁部10A~10Dの各々を同一、居住室底版20A、20Bの各々を同一、居住室頂版40A、40Bの各々を同一、の形状とすることができる。また、側壁部と居住室頂版の間は、上下方向に延伸する鉄筋(鉛直鉄筋)を用いて連結し、居住室頂版と貯蔵室頂版の間は、水平方向に延伸する鉄筋(水平鉄筋)を用いて連結することができる。
【0017】
ただし、側壁部については、両端部側の第1の側壁部10Aと第4の側壁部10Dを同一、中央側の第2の側壁部10Bと第3の側壁部10Cを同一とし、左右両端部側の側壁部と中央側の2つの側壁部の形状を変えてもよい。なお、上記の構成要素の各々には、前記の位置決め用の鉄筋(鉛直鉄筋、水平鉄筋)以外にも、その製造時において適宜鉄筋を設けることができる。
【0018】
また、
図2において、側壁部10Aの下部には、側壁部10Aを自立させるために下方で局所的に水平方向で広く形成され、下面側が水平面とされた脚部12が形成されている。他の側壁部においても同様である。側板60においても、同様の形状の脚部61が形成されている。このような脚部を設けることにより、構築時に側壁部等を支持する必要がない、あるいはこれを支持するための構造を簡略化できる。このため、このシェルター1の構築を容易とする、あるいは工期を短くすることができる。
図2における各部材はプレキャスト部材として製造されるため、このような構造のものを容易に製造できる。
【0019】
また、居住室頂版40Aを製造する際に用いる型枠として、
図2においてこれをy方向で点線で示されたように分割した型枠を組み合わせて用いることができる。この場合、個々の型枠の構造は変更せず、組み合わせる型枠の数のみを変えることによって、y方向における長さの異なる居住室頂版40Aを製造することができる。他の部材についても同様である。すなわち、各部材の断面形状が一方向において一様である場合には、この方向で分割した型枠をこのように分割して組み合わせることにより、これらの部材の製造コストを低くすることができる。
【0020】
また、以上のようにシェルター1を多くの部品(プレキャストブロック)で構成することにより、個々の部品の重量を軽く、小さくすることができる。これにより、これらの運搬を容易とし、例えば狭い箇所における運搬も容易となる。
【0021】
また、
図2に示された各部材をプレキャストブロックとして製造する際に、これらの各々を異なる材料(異なる種類のコンクリート)で構成することができる。
図1(b)の形態においては、遮蔽すべき放射線は主に上側からシェルター1の内部に侵入する。このため、
図1(b)において特に放射線に対する高い遮蔽能力が要求されるのは、居住室頂版40A、40B、貯蔵室頂版50である。
【0022】
このため、これらの頂版を構成するコンクリートとしては、例えば特開2014-231450号公報に記載されたような重量コンクリートを用いることができる。重量コンクリートは、通常のコンクリートに対して鉄成分を含有する骨材が混入されたコンクリート材料であり、通常のコンクリートよりも比重が大きく、中性子やγ線等の遮蔽性能を有する。一方、重量コンクリートで構成されたプレキャストブロックは重いため、その運搬が困難となる。このため、
図2において、特に高い遮蔽能力が要求されるこれらの頂版のみを重量コンクリートで構成し、側壁部10A(10B)、底版12は通常のコンクリートで構成することが好ましい。
【0023】
これらの部材がプレキャスト部材として製造されるため、施工現場でコンクリートを打設する作業は不要、あるいは大幅に簡略化される。なお、
図1において、例えば貯蔵室1Cに飲料水を溜める場合、貯蔵室頂版50に小さな開口を形成してチューブをここに設置して飲料水の投入口とし、側壁部10B、10Cに小さな開口を形成してチューブをここに設置して居住室1A、1B側に飲料水を供給することができる。前記のような居住室1A、1Bに対する出入口や、このような開口は、上記のような部材を
図1の形態に組み立てた後に、各部材を加工することによって形成することができる。
【0024】
このため、このシェルター1を構築する際には、まず、上記の部材を組み合わせて固定する作業が必要となるが、この固定作業は、以下に説明するように行われる。
図3、4は、この組立作業を説明する斜視図である。このシェルター1は地中に設置されるため、まず地面が切削され、その内部における底面上の状態がここでは記載されている。また、
図5~7は、後述するような、
図3、4中の一部を形成する工程を拡大して示す図である。
【0025】
ここでは、まず、
図3(a)に示されるように、4つの側壁部10A~10Dがx方向に沿って所定の位置に設置される(側壁部配置工程)。その後、
図3(b)に示されたように、隣接する2つの側壁部の間に居住室底版20A、20B、1つの貯蔵室底版30が設置される(底版配置工程)。これらの下側には適宜コンクリートが打設されていてもよい。また、各側壁部と居住室底版、貯蔵室底版の間の空隙にモルタルを充填することができる。前記のように、居住室底版20A、20B、貯蔵室底版30はプレキャスト部材とはせずに、側壁部配置工程の後でコンクリートを打設することによってこれらを形成してもよい。
【0026】
次に、
図3(c)に示されたように、図中左側(x方向負側)の第1の居住室頂版40Aを設置する(第1固定工程)。
図5、6は、
図3(c)における領域Aに対応する領域の状況を更に詳細に説明する図である。
図5(a)においては、設置前における居住室頂版40Aの領域Aに対応する部分と側壁部10Aにおける領域Aに対応する部分が示されている。ここで示されるように、居住室頂版40Aには、これを鉛直方向(z方向)で貫通する孔部(居住室頂版側取付用孔部:鉛直孔部)41が、図中で4つ形成されている。これに対応して、側壁部10Aの上面側にも、鉛直方向(z方向)に沿った孔部(側壁部側取付用孔部:鉛直孔部)11が4つ形成されている。孔部41と異なり、孔部11は側壁部10を貫通せず、一定の深さで形成されている。
【0027】
図5(b)においては、居住室頂版40Aが側壁部10Aの上に載置された状態が示されている。この状態で、居住室頂版40A側の孔部41の各々と側壁部10A側の孔部11が連通するように設定される。その後、
図6(c)に示されるように、各孔部41に上側(z方向正側)から、鉛直方向に延伸する鉄筋(鉛直鉄筋100A)を挿入すれば、
図6(d)に示されるように、鉛直鉄筋100Aは、居住室頂版40Aと側壁部10A間で保持される。この状態で、上側から各孔部41にモルタル等を充填して固化させれば、居住室頂版40Aと側壁部10Aの間が固定されることにより、
図3(c)における領域Aの部分が構成される。
【0028】
次に、
図4(d)に示されるように、貯蔵室頂版50を設置して固定する(第2固定工程)。
図7は、
図3(c)、
図4(d)における領域Bに対応する領域の状況を更に詳細に説明する図である。
図7(a)においては、貯蔵室頂版50の設置前における居住室頂版40Aが側壁部10Bの上に載置された状態の、貯蔵室頂版50における領域Bに対応する部分が示されている。居住室頂版40Aと側壁部10Bの間にはモルタルが塗布されている。ここで示されるように、居住室頂版40Aには、水平方向(x方向)に沿って掘り下げられた孔部(居住室頂版側取付用孔部:水平孔部)42が、図中で4つ形成されている。これに対応して、貯蔵室頂版50にも、水平方向に沿って掘り下げられた孔部(貯蔵室頂版側取付用孔部:水平孔部)51が4つ形成されている。孔部42、51は共に一定の深さで形成されている。
【0029】
この状態で、
図7(b)に示されるように、居住室頂版40A側の孔部42の各々に、孔部42の深さよりも長く水平方向に延伸する鉄筋(水平鉄筋100B)を挿入することにより、水平鉄筋100Bは、各孔部42から水平鉄筋100Bの一部が突出するように設置される。
【0030】
その後、
図7(c)に示されるように、突出した水平鉄筋100Bを貯蔵室頂版50側の孔部51に図中左側(x方向負側)から挿入すれば、この水平鉄筋100Bは、居住室頂版40Aと貯蔵室頂版50間で保持される。この状態で、
図3(d)中の領域Bにおける居住室頂版40A、側壁部10B、貯蔵室頂版50の位置関係は定まり、これらが固定される。
【0031】
その後、
図4(e)に示されるように、第2の居住室頂版40Bを設置する(第3固定工程)。この際、
図7と同様の孔部42、51が、
図4(e)中の領域Cにおいても居住室頂版40Bのx方向負側、貯蔵室頂版50のx方向正側に、それぞれ形成されている。このため、先に側壁部10C側に載置された貯蔵室頂版50側の孔部51側に水平鉄筋100Bを挿入してから、居住室頂版40B側の孔部42にこの水平鉄筋100Bを挿入することによって、
図7と同様に貯蔵室頂版50と居住室頂版40Bの位置関係を定めることができる。
【0032】
また、
図4(e)中の領域Dにおいて、
図5、6と同様の孔部41、孔部11が、居住室頂版40Bのx方向正側、側壁部10Dの上側にそれぞれ形成されている。このため、
図5、6と同様に、居住室頂版40B側の孔部41と側壁部10D側の孔部11を連通させた状態で垂直鉄筋100Aを挿入し、孔部41にモルタルを充填し、これらの間の位置決めを行い固定することができる。これにより、
図4(e)の構造が構築される。その後、
図1、2における側板60を装着することによって、シェルター1が構築される。その後、居住室1A、1Bに対する出入口や各種の開口等を形成した上で、周囲、上部に土砂が導入され、この出入口や開口等が使用可能となるような通路が土砂中に設けられる。
【0033】
なお、上記の例においては、領域Bにおいては水平鉄筋100B(水平孔部42、51)のみが用いられたが、領域Bにおいても、孔部同士が交差(干渉)しない限りにおいて、鉛直鉄筋100A(鉛直孔部41、11)を用いて居住室頂版40Aと側壁部10Bを固定してもよい。
【0034】
上記の構造、製造方法によれば、直交する各部材に結合具(ヒンジ等)を用いることなく、適切な位置関係を固定することができる。このため、同様の構造のシェルターを現場打ちにより構築する場合、あるいはプレキャスト部材同士の接合に結合具を用いて行う場合と比べて、短い工期でこのシェルターを構築することができる。各部材をプレキャスト部材とすることにより、各部材を均一かつ高品質とすることもできる。
【0035】
上記の例において、各孔部は、プレキャストブロックとして製造された側壁部10A~10D、居住室頂版40A、40B、貯蔵室頂版50に対して穿孔することによって形成することができる。このため、穿孔前の状態においては、4つの側壁部、2つの居住室頂版をそれぞれ共通とすることができる。
【0036】
また、例えば
図5~7の居住室頂版40Aにおいては、x方向負側に孔部(鉛直孔部)41、x方向正側に孔部(水平孔部)42が形成されたが、どちらの側においても孔部(鉛直孔部)41、孔部42(水平孔部)を共に形成してもよく、実際に使用するのをこれらのうちの一方のみとしてもよい。この場合には、孔部が形成された状態においても、居住室頂版40A、40Bを共通の形状とすることができる。同様に、
図5(a)においては、孔部11は側壁部10Aのx方向正側に偏って形成されているが、をx方向付側にも形成し、場合に応じて使用する孔部を適宜選択してもよい。この場合には、孔部が形成された状態の側壁部10A~10Dを共通の形状とすることができる。
【0037】
なお、
図5~7においては、各孔部は4つずつ(
図5、6においてはx方向、y方向で2つずつ、
図7においてはy方向、z方向で2つずつ)設けられたが、
図2に示されるように、側壁部等はy方向で長く形成されるため、y方向の幅に応じて各孔部をより多く形成することが好ましい。
【0038】
上記の例では、2つの居住室1A、1Bの間に貯蔵室1Cが設けられた。しかしながら、より多くの居住室を設け、隣接する居住室の間にそれぞれ貯蔵室を設けた場合においても、上記と同様の側壁部、居住室頂版等を用いて同様にシェルターを構築できる。この場合においても、各側壁部、各居住室頂版等を全て共通の構造とすることができるために、このシェルターを短期間に構築することができる。すなわち、居住室等を多く形成した場合には、上記の構造、構築方法は特に有効となる。
【0039】
以上、本発明を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0040】
1 シェルター(地中埋設型シェルター)
1A、1B 居住室
1C 貯蔵室
10A~10D 側壁部
11 孔部(側壁部側取付用孔部:鉛直孔部)
12、61 脚部
20A、20B 居住室底版
30 貯蔵室底版
40A、40B 居住室頂版
41 孔部(居住室頂版側取付用孔部:鉛直孔部)
42 孔部(居住室頂版側取付用孔部:水平孔部)
50 貯蔵室頂版
51 孔部(貯蔵室頂版側取付用孔部:水平孔部)
60 側板
100A 鉄筋(鉛直鉄筋)
100B 鉄筋(水平鉄筋)
G 地盤
【要約】
【課題】プレキャスト工法を用いてシェルターを短期間に構築する。
【解決手段】側壁部10A~10D、居住室底版20A、20B、貯蔵室底版30、居住室頂版40A、40B、貯蔵室頂版50、側板60は、それぞれコンクリートで構成されたプレキャスト部材として製造される。ここでは側壁部10A~10Dの各々を同一、居住室底版20A、20Bの各々を同一、居住室頂版40A、40Bの各々を同一、の形状とすることができる。また、側壁部と居住室頂版の間は、上下方向に延伸する鉄筋(鉛直鉄筋)を用いて連結し、居住室頂版と貯蔵室頂版の間は、水平方向に延伸する鉄筋(水平鉄筋)を用いて連結することができる。
【選択図】
図1