(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】消火材用組成物、消火材、及び自動消火機能を有する装置
(51)【国際特許分類】
C09K 21/14 20060101AFI20240125BHJP
C09D 5/18 20060101ALI20240125BHJP
C09D 175/08 20060101ALI20240125BHJP
C09D 201/10 20060101ALI20240125BHJP
C09D 135/08 20060101ALI20240125BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240125BHJP
C08L 75/08 20060101ALI20240125BHJP
C08L 101/10 20060101ALI20240125BHJP
C08L 35/08 20060101ALI20240125BHJP
C08K 3/016 20180101ALI20240125BHJP
A62C 35/02 20060101ALI20240125BHJP
A62D 1/06 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C09K21/14
C09D5/18
C09D175/08
C09D201/10
C09D135/08
C09D7/61
C08L75/08
C08L101/10
C08L35/08
C08K3/016
A62C35/02 A
A62D1/06
(21)【出願番号】P 2023121008
(22)【出願日】2023-07-25
【審査請求日】2023-07-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】本庄 悠朔
(72)【発明者】
【氏名】掛川 駿太
(72)【発明者】
【氏名】椎根 康晴
(72)【発明者】
【氏名】黒川 真登
(72)【発明者】
【氏名】磯和 愛実
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0332015(US,A1)
【文献】国際公開第2021/149766(WO,A1)
【文献】特開2021-137346(JP,A)
【文献】特開2021-147942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K21/
A62D1/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、
エーテル系ポリウレタン樹脂である成分Aと、
酸無水物基及びアルコキシシリル基を有する化合物である成分Bと、
ビニルエーテルモノマーに由来する構造単位と、不飽和無水カルボン酸モノマーに由来する構造単位とを含むコポリマーであ
り且つ前記成分Aと異なる成分である成分Cと、
を含
む消火材用組成物であって、
大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで前記成分Aを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでの前記成分Aの重量減少率が50%以上であり、
大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで前記成分Bを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでの前記成分Bの重量減少率が50%未満であり、
大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで前記成分Cを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでの前記成分Cの重量減少率が50%以上であり、
前記成分A、前記成分B、及び前記成分Cの合計質量を100質量部としたとき、
前記成分Aの含有量が1質量部以上40質量部未満であり、
前記成分Bの含有量が10質量部以上25質量部未満であり、
前記成分Cの含有量が40質量部以上90質量部未満であ
り、
前記消火剤の含有量が当該消火材用組成物全量の固形分を基準として70質量%以上97質量%以下である、消火材用組成物。
【請求項2】
前記成分Aの含有量が10質量部超である、請求項1に記載の消火材用組成物。
【請求項3】
前記ビニルエーテルモノマーがメチルビニルエーテルである、請求項1に記載の消火材用組成物。
【請求項4】
前記不飽和無水カルボン酸モノマーが無水マレイン酸である、請求項1に記載の消火材用組成物。
【請求項5】
前記酸無水物基がカルボン酸無水物基である、請求項1に記載の消火材用組成物。
【請求項6】
前記成分Bがシランカップリング剤である、請求項1に記載の消火材用組成物。
【請求項7】
前記塩がカリウム塩である、請求項1に記載の消火材用組成物。
【請求項8】
液状媒体を更に含む、請求項1に記載の消火材用組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の消火材用組成物を含む、消火材。
【請求項10】
請求項9に記載の消火材を備える、自動消火機能を有する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、消火材用組成物、消火材、及び自動消火機能を有する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼によりエアロゾルを発生する消火剤組成物をバインダと混合し、これをシート状に成形した自己消火性成形品が知られている(例えば、特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/047762号
【文献】特許第6443882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に記載の消火剤組成物は硝酸カリウム、硝酸ナトリウムなどの塩を含む。これらの塩は潮解性を有するため、自己消火性成形品の性状を長期に亘り安定的に維持することに関し改善の余地がある。また、本発明者らの検討によると、発火初期における小さな火種を想定した場合、上記自己消火性成形品では反応性が十分でなく、ある程度の確率で初期消火ができない場合がある点において改善の余地がある。
【0005】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、性状安定性に優れると共に、十分に高い確率で初期消火を実現できる消火材用組成物、当該消火材用組成物を含む消火材、及び当該消火材を備える自動消火機能を有する装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火材用組成物に、酸無水物基及びアルコキシシリル基を有する化合物を加えることで、消火材に性状安定性を付与できることを見出した。本発明者らは、酸無水物基及びアルコキシシリル基を有する化合物による性状安定性向上の効果を維持しつつ、消火材の消火性能を更に向上させるべく検討を行った。その結果、潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩、酸無水物基及びアルコキシシリル基を有する化合物を含む消火材用組成物に、更に、ビニルエーテルモノマーに由来する構造単位と、不飽和無水カルボン酸モノマーに由来する構造単位とを含むコポリマーを適量加えることで、性状安定性に優れると共に、十分に高い確率で初期消火を実現できる消火材用組成物が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本開示の一側面は、潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、バインダ樹脂である成分Aと、酸無水物基及びアルコキシシリル基を有する化合物である成分Bと、ビニルエーテルモノマーに由来する構造単位と、不飽和無水カルボン酸モノマーに由来する構造単位とを含むコポリマーである成分Cと、を含む消火材用組成物に関する。上記消火材用組成物は、大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで成分Aを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでの成分Aの重量減少率が50%以上であり、大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで成分Bを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでの成分Bの重量減少率が50%未満であり、大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで成分Cを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでの成分Cの重量減少率が50%以上である。また、上記消火材用組成物は、成分A、成分B、及び成分Cの合計質量を100質量部としたとき、成分Aの含有量が1質量部以上40質量部未満であり、成分Bの含有量が10質量部以上25質量部未満であり、成分Cの含有量が40質量部以上90質量部未満である。このような消火材用組成物は、性状安定性に優れると共に、十分に高い確率で初期消火を実現できる。
【0008】
上記成分Aの含有量は、10質量部超であってもよい。上記成分Aの含有量が上記範囲内である消火材用組成物から形成された消火材は、膜のひび割れが抑制され、カット適性に優れる。
【0009】
上記ビニルエーテルモノマーは、メチルビニルエーテルであってもよく、上記不飽和無水カルボン酸モノマーは、無水マレイン酸であってもよい。上記酸無水物基は、カルボン酸無水物基であってもよく、上記成分Bは、シランカップリング剤であってもよい。上記塩はカリウム塩であってもよい。上記消火材用組成物は、液状媒体を更に含んでいてもよい。
【0010】
本開示の一側面は、上記消火材用組成物を含む消火材に関する。本開示の一側面は、上記消火材を備える自動消火機能を有する装置に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、性状安定性に優れると共に、十分に高い確率で初期消火を実現できる消火材用組成物、当該消火材用組成物を含む消火材、及び当該消火材を備える自動消火機能を有する装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は本開示に係る消火材の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は本開示に係る消火材パッケージ(包装袋に収容されたシート状の消火材)の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<消火材用組成物>
本実施形態に係る消火材用組成物は、潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、バインダ樹脂である成分Aと、酸無水物基及びアルコキシシリル基を有する化合物である成分Bと、ビニルエーテルモノマーに由来する構造単位と、不飽和無水カルボン酸モノマーに由来する構造単位とを含むコポリマーである成分Cとを含む。
【0015】
消火材用組成物に含まれる成分A、成分B、及び成分Cの合計質量を100質量部としたとき、成分Aの含有量は、1質量部以上40質量部未満である。上記含有量の下限は、10質量部であってよく、20質量部又は25質量部であってもよい。上記含有量が上記下限以上であることで、成分Aが、消火剤を塗膜として固定する結合剤としての役割を果たすことができ、消火材用組成物の塗工適性が高まり製膜がし易いのみならず、膜のひび割れも抑制できる。なかでも、カット適性の観点から、上記含有量は10質量部超であることが好ましい。また、上記含有量の上限は、33質量部であってよく、30質量部であってもよい。上記含有量が上記上限以下であることで、消火材用組成物にB成分及びC成分を十分量添加することが可能となり、性状安定性及び発火初期の消火性能の両立を実現し易くなる。
【0016】
消火材用組成物に含まれる成分A、成分B、及び成分Cの合計質量を100質量部としたとき、成分Bの含有量は、10質量部以上25質量部未満である。上記含有量の下限は、13質量部であってよく、15質量部であってもよい。上記含有量が上記下限以上であることで、塩の潮解を抑制し易い。また、上記含有量の上限は、23質量部であってよく、20質量部又は18質量部であってもよい。上記含有量が上記上限以下であることで、十分な消火性能を発現し易い。
【0017】
消火材用組成物に含まれる成分A、成分B、及び成分Cの合計質量を100質量部としたとき、成分Cの含有量は、40質量部以上90質量部未満である。上記含有量の下限は、50質量部であってよく、55質量部又は59質量部であってもよい。上記含有量が上記下限以上であることで、十分な消火性能を発現し易い。また、上記含有量の上限は、89質量部であってよく、81質量部又は75質量部であってもよい。上記含有量が上記上限以下であることで、塩の潮解を抑制し易いのみならず、消火材用組成物にA成分を十分量添加することが可能となり、消火材用組成物の塗工適性が高まり製膜がし易く、膜のひび割れも抑制できる。
【0018】
(消火剤)
消火剤は、潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩と、酸化剤とを含む。有機塩としては、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらのうち、有機塩としてはカリウム塩を用いることが好ましい。有機カリウム塩としては、酢酸カリウム、クエン酸カリウム(クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム)、酒石酸カリウム、乳酸カリウム、シュウ酸カリウム、マレイン酸カリウム等のカルボン酸カリウム塩が挙げられる。なかでも、燃焼の負触媒効果に対する有用性の観点から、酢酸カリウム又はクエン酸カリウムを用いることが好ましい。
【0019】
無機塩としては、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩等が挙げられる。これらのうち、無機塩としてはカリウム塩を用いることが好ましい。無機カリウム塩としては、四硼酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、燐酸二水素カリウム、燐酸水素二カリウム等が挙げられる。
【0020】
有機塩及び無機塩は、それぞれ単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0021】
有機塩及び無機塩は粒状であってよい。有機塩及び無機塩の平均粒子径D50は1μm以上100μm以下であってよく、3μm以上40μm以下であってもよい。平均粒子径D50が上記下限以上であることで、系中で分散し易い。また、平均粒子径D50が上記上限以下であることで、塗液としたときの安定性が向上して塗工面の平滑性が向上する傾向がある。平均粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式測定により算出することができる。
【0022】
酸化剤としては、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸ストロンチウム、塩素酸アンモニウム、塩素酸マグネシウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム、塩基性硝酸銅、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、三酸化モリブデン等が挙げられる。なかでも、塩素酸カリウムを用いることが好ましい。
【0023】
消火材用組成物に含まれる消火剤の含有量は、当該消火材用組成物全量(固形分)を基準として、70質量%以上97質量%以下であってよく、85質量%以上92質量%以下であってもよい。消火剤の含有量が上記上限以下であることで、塩の潮解を抑制し易く、且つ、消火材用組成物の塗工適性が高まり製膜がし易い。また、消火剤の含有量が上記下限以上であることで、十分な消火性能を発現し易い。
【0024】
(バインダ樹脂(成分A))
成分Aは、熱によって重量減少し易いものであることが好ましい。すなわち、大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで成分Aを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでの成分Aの重量減少率は50%以上である。上記重量減少率の下限は、60%であってもよい。上記重量減少率が上記範囲内であることで、得られる消火材用組成物における発火初期の消火性能が優れる。なお、成分Aの重量減少率は、成分Aが複数ある場合、その混合物の重量減少率を意味する。上記重量減少率の上限は、例えば、88%であってよく、80%又は70%であってもよい。
【0025】
成分Aとしては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を使用できる。熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ(1-)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、エチレン-プロピレン樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンコム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム(1,2-BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPR、EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アクリルゴム(ACM、ANM)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)、多加硫ゴム(T)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM、FZ)、ウレタンゴム(U)等のゴム類、ポリウレタン系樹脂、ポリイソシアネート系樹脂、ポリイソシアヌレート系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。上記樹脂のうち、一種を単独で使用してもよいし、複数種を併用してもよい。これらのうち、塗工適性の観点から、ポリウレタン系樹脂又はポリビニルアルコール系樹脂を使用することが好ましい。なお、成分Aには、硬化剤成分が含まれていてもよい。
【0026】
成分Aの重量平均分子量は、5000以上であってよく、20000以上であってもよく、また、150000以下であってよく、100000以下であってもよい。重量平均分子量が上記下限以上であることで、樹脂の疎水性を確保し易い。また、重量平均分子量が上記上限以下であることで、適度な樹脂柔軟性を確保し易く、耐屈曲性や塗工適性が向上し易い。重量平均分子量は、GPC法により算出することができる。
【0027】
成分Aのガラス転移温度は、特に制限はないが、-40℃以上であってよく、55℃以上又は80℃以上であってもよく、また、110℃以下であってよく、100℃以下であってもよい。ガラス転移温度が上記下限以上であることで、結晶性が大きくなるために樹脂の疎水性を確保し易い。また、ガラス転移温度が上記上限以下であることで、塗工適性が向上し易い。ガラス転移温度は、示差走査熱量計を用いた熱分析により測定することができる。
【0028】
成分Aを液状媒体に溶解させた樹脂溶液の20℃における粘度は、500mPa・s以上であってよく、1000mPa・s以上であってもよく、また、10000mPa・s以下であってよく、6000mPa・s以下であってもよい。粘度は、B型回転粘度計により測定することができる。
【0029】
(酸無水物基及びアルコキシシリル基を有する化合物(成分B))
消火材用組成物は、成分Bを含むことで成形品の性状を長期に亘り安定的に維持することができる。この理由は定かではないが、酸無水物基が水と反応することができるため、消火材を包装するのに用いられるバリアフィルムを通過して侵入してきた水をトラップすることで成形品に含まれる塩の潮解を防いでいること、及び/又は、アルコキシシランが加水分解された後、自己反応が生じてシロキサンが形成されることにより、耐水性が向上すると共に膜密度が向上し、潮解性を有する塩と水との接触が抑えられていることが影響しているものと推測される。
【0030】
成分Bは、成分A及び成分Cと比較して、熱によって重量減少し難いものである。すなわち、大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで成分Bを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでの成分Bの重量減少率は50%未満である。上記重量減少率の上限は、40%であってよく、30%、20%、又は15%であってもよい。上記重量減少率が上記範囲内であることで、得られる消火材用組成物における性状安定性が優れる。なお、成分Bの重量減少率は、成分Bが複数ある場合、その混合物の重量減少率を意味する。上記重量減少率の下限は、例えば、0%であってよく、3%又は7%であってもよい。
【0031】
成分Bとしては、オキソ酸2分子が脱水縮合することにより構成される酸無水物基を分子中に1以上有し、更に、アルコキシシリル基を分子中に1以上有する化合物であれば特に制限されない。酸無水物基を構成するオキソ酸としては、例えば、カルボン酸、硫酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。これらのうち、酸無水物基を構成するオキソ酸は、カルボン酸であることが好ましい。カルボン酸無水物基を有する化合物としては、例えば、無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸等のカルボン酸無水物の単体、又は、無水マレイン酸等の不飽和結合を有するカルボン酸無水物をモノマーとした共重合体等が挙げられる。
【0032】
成分Bとしては、例えば、シランカップリング剤を用いてもよい。なお、成分Bとして用いられるシランカップリング剤は、消火材用組成物中においてバインダ樹脂と同様の機能を有していてもよい。
【0033】
(ビニルエーテルモノマーに由来する構造単位と、不飽和無水カルボン酸モノマーに由来する構造単位とを含むコポリマー(成分C))
消火材用組成物は、成分Cを含むことで成形品の性状を長期に亘り安定的に維持することができると共に、十分に高い確率で初期消火を実現できる。この理由は定かではないが、ビニルエーテルモノマーに由来する構造単位が消火性能の向上に寄与し、不飽和無水カルボン酸モノマーに由来する構造単位が性状安定性の向上に寄与しているものと推測される。成分Cは、消火材用組成物中においてバインダ樹脂と同様の機能を有していてもよいが、ビニルエーテルモノマーに由来する構造単位と、不飽和無水カルボン酸モノマーに由来する構造単位とを含むコポリマーである点において、成分Aと区別される。
【0034】
成分Cは、熱によって重量減少し易いものであることが好ましい。すなわち、大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで成分Cを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでの成分Cの重量減少率は50%以上である。上記重量減少率の下限は、55%であってもよい。上記重量減少率が上記範囲内であることで、得られる消火材用組成物における発火初期の消火性能が優れる。なお、成分Cの重量減少率は、成分Cが複数ある場合、その混合物の重量減少率を意味する。上記重量減少率の上限は、例えば、80%であってよく、70%又は60%であってもよい。
【0035】
成分Cは、例えば、ビニルエーテルモノマーと、不飽和無水カルボン酸モノマーとを共重合することにより得られる。ビニルエーテルモノマーとしては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテルが挙げられる。これらのうち、ビニルエーテルモノマーは、メチルビニルエーテルであることが好ましい。不飽和無水カルボン酸モノマーとしては、例えば、無水マレイン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらのうち、不飽和無水カルボン酸モノマーは、無水マレイン酸であることが好ましい。
【0036】
消火材用組成物に含まれる成分A、成分B、及び成分Cの含有量の合計は当該消火材用組成物全量(固形分)を基準として、3質量%以上30質量%以下であってよく、5質量%以上20質量%以下又は8質量%以上15質量%以下であってもよい。
【0037】
(液状媒体)
消火材用組成物は、液状媒体を更に含んでいてもよい。液状媒体としては、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、水溶性の溶媒が挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類;N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル類等が挙げられる。塩と共に用いられる観点から、液状媒体はアルコール系溶媒であってもよい。
【0038】
液状媒体の量は、消火材用組成物の使用方法に応じて適宜調整すればよいが、当該消火材用組成物全量(液状媒体含む)を基準として30質量%以上70質量%以下とすることができる。液状媒体を含む消火材用組成物を、消火材用塗液ということができる。
【0039】
(その他の成分)
消火材用組成物には、上述した以外にその他の成分が混合されてもよい。その他の成分としては、界面活性剤、アンチブロッキング剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤、無機充填材、流動性付与剤、防湿剤、分散剤、UV吸収剤、柔軟性付与剤、触媒等が挙げられる。これらの他の成分は、消火剤、成分A、成分B、成分C、又は液状媒体の種類等により適宜選択することができる。消火材用組成物に含まれるその他の成分の含有量は、当該消火材用組成物の全量を基準として10質量%以下とすることができる。
【0040】
消火材用組成物は、潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、成分Aと、成分Bと、成分Cと、必要に応じて使用される他の成分とを混合することによって製造することができる。
【0041】
<消火材>
消火材は、消火材用組成物から形成することができる。
図1は消火材の一実施形態を模式的に示す断面図である。消火材1は、基材2と、基材2の一方の面上に設けられた消火材層3とを備える。消火材1は、基材2の一方の面上に消火材用塗液を塗布する工程と、塗布された層を乾燥させて消火材層3を形成する工程を経て製造することができる。基材2の素材は、例えば、金属、樹脂、木材、セラミックス、ガラスであり、非多孔性であっても多孔性であってもよい。
【0042】
塗布はウェットコーティング法にて行うことができる。ウェットコーティング法としては、グラビアコーティング法、コンマコーティング法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコート法、スピンコート法、スポンジロール法、ダイコート法、刷毛による塗装等が挙げられる。
【0043】
消火材用塗液の粘度は、例えばグラビアコーティング法であれば、1~2000mPa・sとすることが好ましく、コンマコーティング法であれば500~100000mPa・sとすることが好ましく、スプレーコーティング法であれば0.1~4000mPa・sとすることが好ましい。塗液粘度が所望の範囲になるよう、上記液状媒体の量を適宜調整すればよい。粘度は共軸二重円筒回転粘度計により測定することができる。
【0044】
基材2が多孔性である場合、消火材用塗液は基材2内に浸入することができる。その場合、消火材層3の一部は、基材2の内部に染み込み、残りが基材2の表面上に積層されていてもよい。
【0045】
消火材は、消火材用組成物を所定の形状に成形することで得ることもできる。消火材の形状はその用途に応じて選択すればよく、消火材は粒状消火材、板状消火材、柱状消火材等であってもよい。
【0046】
<自動消火機能を有する装置>
自動消火機能を有する装置は、消火材を備える。自動消火機能を有する装置としては、電気配線やケーブル、変圧器や電気回路等が搭載されている電気系統設備等が挙げられる。具体的には配電盤、分電盤、蓄電池(リチウムイオン電池等)、バッテリー(モバイルバッテリー、工具用バッテリー、自動車用EVバッテリー等)、上記を搭載した蓄電システム等が挙げられる。さらに意図せぬ発火の危険性のある箇所、例えば蓄電池用の回収ボックス、ごみ箱、コンセントカバー等が挙げられる。
【0047】
本開示は、以下の事項に関する。
[1]潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、
バインダ樹脂である成分Aと、
酸無水物基及びアルコキシシリル基を有する化合物である成分Bと、
ビニルエーテルモノマーに由来する構造単位と、不飽和無水カルボン酸モノマーに由来する構造単位とを含むコポリマーである成分Cと、
を含み、
大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで前記成分Aを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでの前記成分Aの重量減少率が50%以上であり、
大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで前記成分Bを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでの前記成分Bの重量減少率が50%未満であり、
大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで前記成分Cを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでの前記成分Cの重量減少率が50%以上であり、
前記成分A、前記成分B、及び前記成分Cの合計質量を100質量部としたとき、
前記成分Aの含有量が1質量部以上40質量部未満であり、
前記成分Bの含有量が10質量部以上25質量部未満であり、
前記成分Cの含有量が40質量部以上90質量部未満である、消火材用組成物。
[2]前記成分Aの含有量が10質量部超である、[1]に記載の消火材用組成物。
[3]前記ビニルエーテルモノマーがメチルビニルエーテルである、[1]又は[2]に記載の消火材用組成物。
[4]前記不飽和無水カルボン酸モノマーが無水マレイン酸である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の消火材用組成物。
[5]前記酸無水物基がカルボン酸無水物基である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の消火材用組成物。
[6]前記成分Bがシランカップリング剤である、[1]~[5]のいずれか一つに記載の消火材用組成物。
[7]前記塩がカリウム塩である、[1]~[6]のいずれか一つに記載の消火材用組成物。
[8]液状媒体を更に含む、[1]~[7]のいずれか一つに記載の消火材用組成物。
[9][1]~[8]のいずれか一つに記載の消火材用組成物から形成される消火材。
[10][9]に記載の消火材を備える、自動消火機能を有する装置。
【実施例】
【0048】
以下、実施例に基づいて本開示を更に具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
実施例及び比較例において以下の材料を使用した。
(消火剤)
有機カリウム塩:クエン酸三カリウム
酸化剤:塩素酸カリウム(KClO3)
クエン酸三カリウムは潮解性を有する塩である。
(成分A:バインダ樹脂)
エーテル系ポリウレタン樹脂(重量減少率:88.0%)
(成分Aの樹脂溶液)
エーテル系ポリウレタン樹脂100質量部をイソプロピルアルコール210質量部で溶解させたエーテル系ポリウレタン樹脂溶液
(成分B:酸無水物基及びアルコキシシリル基を有する化合物)
酸無水物基及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤(信越化学工業株式会社製、商品名:X-12-1287A)(重量減少率:11.8%)
(成分C:ビニルエーテルモノマーに由来する構造単位と、不飽和無水カルボン酸モノマーに由来する構造単位とを含むコポリマー)
ポリメチルビニルエーテル(PMVE)/無水マレイン酸コポリマー(アシュランド・ジャパン株式会社製、商品名:Gantrez AN-119)(重量減少率:60.0%)
(液状媒体)
エタノール
(樹脂基材)
ポリエチレンテレフタレート(PET)基材(東洋紡株式会社製、商品名:E7002、厚さ50μm)
【0050】
<重量変化率の測定>
成分A、成分B、及び成分Cについて、(株)日立ハイテクサイエンス製の示差熱熱重量測定装置「STA7200RV」にて、大気雰囲気下において昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで昇温した際に、400℃まで昇温した際の重量変化率を測定した。このときのサンプリング周期は1秒とした。
【0051】
<消火材用組成物の形成>
(実施例1)
クエン酸三カリウムとKClO3との混合物を、メノウ乳鉢にて平均粒子径D50が12μm以下となるように粉砕した。粉砕後の混合物87.4質量部と、成分Aの樹脂溶液、成分B、及び成分Cの固形分の合計質量が12.6質量部であって、成分A、成分B、及び成分Cの合計質量を100質量部としたときの各成分の含有量が、それぞれ、1質量部、10質量部、89質量部となるように配合した混合物と、エタノール87質量部とを混合し、撹拌して、消火材用組成物を得た。
【0052】
(実施例2~9、比較例1~13)
成分A、成分B、及び成分Cの上記含有量を表1に記載の含有量となるように変更した以外は、実施例1と同様にして消火材用組成物を得た。なお、表1に記載の含有量は、成分A、成分B及び成分Cの合計質量を100質量部としたときの各成分の含有量を意味する。
【0053】
<消火材の形成>
アプリケーターを用いて、各例で得られた消火材用組成物をPET基材上に塗布した後、75℃のオーブンにて7分間乾燥することにより、PET基材上に厚さが150μmのシート状の消火材が形成された積層体を得た。
【0054】
<各種試験>
シーラント層5(L-LDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)樹脂、厚さ30μm)及び基材層6(シリカ蒸着膜を有するPET樹脂、厚さ12μm)を備えるバリアフィルム(水蒸気透過率は0.2~0.6g/(m
2・day)、JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)を準備した。このバリアフィルムを2枚用いて、シート状の消火材(50mm×50mm)を覆い、バリアフィルムの4辺をヒートシールすることで、シート状の消火材を封入した。ヒートシール条件は140℃、2秒間とした。各辺のヒートシール幅は10mmとした。その結果、外寸が70mm×70mmの
図2に示すような消火材パッケージ20(包装袋4に収容されたシート状の消火材10)が得られた。これを評価試料とした。各例から得られた評価試料について、以下のとおり試験を行った。結果を表1に示す。
【0055】
<性状安定性試験>
評価試料の全光線透過率を、ヘイズメーター(BYK社製 BYK-Gardner Haze-Guard Plus)を用いて、JIS K 7361-1に準拠した方法で測定した。測定は恒温恒湿槽(85℃/85%RH条件下)に投入して168時間経過後に行った。この作業を、測定箇所を変えて3回行い、その平均値を記録した。塩の潮解が進むほどに消火材の透明度が上がって全光線透過率の値が上昇するため、全光線透過率を測定することで潮解の程度を評価した。塩の潮解が生じ難い(例えば、全光線透過率の値が50%以下である)と、消火材の性状安定性が高い。なお、バリアフィルムの全光線透過率は85%であった。
【0056】
<消火性能試験>
縦20cm、横30cm、高さ40cmの鉄製の容器を準備した。着火した固形燃料が窒息により消火しないよう、容器の側面には天面から5.0cm、12.5cm、20.0cm、27.5cm、35.0cmの高さの位置に直径8.5mmの円形の通気口を各側面5カ所ずつ設けた。容器天面の中央に消火材パッケージ(評価試料)を両面テープで貼り付けた。容器底面の中央に、縦15mm、横15mm、高さ10mmの固形燃料(キャプテンスタッグ株式会社製固形燃料ファイアブロック着火剤)を1.5g分置いた。固形燃料の着火後、180秒以内に評価試料が消化できるかについて、固形燃料と評価試料との距離を20cmに調整し、試験を行った。上記試験を複数回繰り返し、消火成功確率を記録した。
【0057】
<カット適性評価試験>
消火材が形成された積層体を、カッターで消火材表面側から刃を入れて切断した際の、消火材塗膜の欠け及び基材からの剥離有無を目視で確認した。評価は、以下の基準に基づいて行った。
A:塗膜の欠け及び基材からの剥離が見られない。
B:塗膜の欠け及び基材からの剥離が一部で発生する。
C:塗膜の欠け及び基材からの剥離が全域で発生する。
【0058】
【表1】
表中、消火成功確率のカッコの表記は(消火成功回数/試験回数)を意味する。
【符号の説明】
【0059】
1…消火材、2…基材、3…消火材層、4…包装袋、5…シーラント層、6…基材層、10…消火材、20…消火材パッケージ。
【要約】
【課題】性状安定性に優れると共に、十分に高い確率で初期消火を実現できる消火材用組成物を提供する。
【解決手段】潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、バインダ樹脂である成分Aと、酸無水物基及びアルコキシシリル基を有する化合物である成分Bと、ビニルエーテルモノマーに由来する構造単位と、不飽和無水カルボン酸モノマーに由来する構造単位とを含むコポリマーである成分Cとを含み、成分A、成分B、及び成分Cの合計質量を100質量部としたとき、成分Aの含有量が1質量部以上40質量部未満であり、成分Bの含有量が10質量部以上25質量部未満であり、成分Cの含有量が40質量部以上90質量部未満である、消火材用組成物。
【選択図】
図1