(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/23 20060101AFI20240126BHJP
B23K 9/007 20060101ALI20240126BHJP
B23K 9/167 20060101ALI20240126BHJP
B23K 9/173 20060101ALI20240126BHJP
B23K 10/02 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
B23K9/23 J
B23K9/007
B23K9/167 A
B23K9/173 A
B23K10/02 A
(21)【出願番号】P 2022012691
(22)【出願日】2022-01-31
(62)【分割の表示】P 2020190691の分割
【原出願日】2017-03-24
【審査請求日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2016067198
(32)【優先日】2016-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016077848
(32)【優先日】2016-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】藤原 潤司
(72)【発明者】
【氏名】川本 篤寛
(72)【発明者】
【氏名】西村 仁志
(72)【発明者】
【氏名】向井 康士
(72)【発明者】
【氏名】米森 茂樹
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0188206(US,A1)
【文献】特開2012-006034(JP,A)
【文献】米国特許第03095951(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/23
B23K 9/007
B23K 9/167
B23K 9/173
B23K 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の同種系金属材と、前記第1の同種系金属材に溶接可能な第2の同種系金属材とで、前記第1の同種系金属材および前記第2の同種系金属材に溶接するのが困難である異種材を挟んでアーク溶接する溶接方法であって、
前記第1の同種系金属材は第1の突起部を有し、
前記第1の突起部は、不貫通の底面、または前記第1の突起部の内縁である突起内縁部よりも直径または幅が小さく、中央の一部に空いた穴である第2の貫通部を有する鍔状の底面を有し、
前記第2の同種系金属材上に第1の貫通部を有する前記異種材を配置し、
前記第1の同種系金属材に設けられた前記第1の突起部を前記異種材に設けられた前記第1の貫通部へ挿入し、
前記第1の同種系金属材の
前記突起内縁部にアークを照射し、
前記第1の同種系金属材と前記第2の同種系金属材を溶接して、
前記異種材と前記第1の同種系金属材と前記第2の同種系金属材を固定
するため、前記第1の同種系金属材を配置する際、
前記第1の同種系金属材と前記第2の同種系金属材との間に、前記第1の同種系金属材を前記第2の同種系金属材から厚さ方向に互いに離間させる、前記第1の貫通部の板厚方向の隙間である第2のギャップを形成し、
前記第2のギャップは、アークが適用される前記第1の同種系金属材または前記第2の同種系金属材の厚さに応じた所定量であ
り、前記第2のギャップの前記所定量は、
アークが適用される前記第1の同種系金属材または前記第2の同種系金属材の厚さに対して4~75%に設定され、
前記第1の同種系金属材と前記第2の同種系金属材とが前記第1の貫通部を介して互いに溶融結合して前記異種材が圧縮固定されることにより、前記異種材と前記第1の同種系金属材および前記第2の同種系金属材とが固定される溶接方法。
【請求項2】
前記第2の貫通部は、前記第1の貫通部よりも直径または幅が小さい請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記アーク溶接は、
消耗電極によるアーク溶接と、
非消耗電極によるタングステン不活性ガス溶接と、
非消耗電極によるプラズマ溶接とのいずれかである請求項1記載の溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アークおよびプラズマを熱源として一種類以上の異種材を同種系金属材にて挟む接合構造の溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車をはじめとする輸送機器のグローバル化により生産量が増加することで、製品一台当たりのトータルコスト低減、特に生産時間短縮による生産性向上に対する要望が高まってきている。
【0003】
また、地球温暖化防止のためCO2排出規制要求がグローバルで強く求められており、自動車業界をはじめとする輸送業界ではこの要求に応えるために燃費改善への取り組みが加速している。この燃費改善に対する具体的な取り組みとして、車両の重量の軽量化が求められており軽量素材の使用割合を増加させる検討が進められている。
【0004】
このような要望が求められている中、自動車等の輸送機器に用いられている溶接方法として、スポット溶接が広く普及している。しかしながら、抵抗溶接であるスポット溶接は、スポット溶接を行うスポット用の溶接ガンである上下の電極で材料を加圧して溶接材料間の間隙を無くして上下の電極間を通電することで溶接する必要がある。このため、片側溶接には適しておらず、溶接箇所がスポット用の溶接ガンにより上下方向から挟める形状である等、製品形状に制約が発生する。また、溶接箇所を加圧するためには、スポット用の溶接ガンが、溶接材の上下に入り込むスペースが必要である。また、スポット用の溶接ガン自体の重量が重いため、スポット用の溶接ガンの移動速度が遅く、溶接位置に到着しても加圧時間が必要であり、溶接後も冷却時間を確保しなければならず、溶接以外にも多くの時間が必要である。
【0005】
また、自動車に用いられる材料の軽量化に対しては、部品の一部を鋼からアルミニウム等の軽金属材料に変更する検討が進んでおり、軽金属材料と鋼を接合する技術及び構造が求められている。
【0006】
従来の異種材に対する接合用部材として、リベットを用いたスポット溶接や接着剤を使用した接合等が挙げられる。例えば特許文献1では、リベットとリベット材質と同種の接合材に挟まれた異種材の加圧及びスポット溶接時の溶接熱による異種材の塑性流動を吸収するリベット形状及びかしめ及びスポット溶接方法が知られている。かしめ時およびスポット溶接時に異種材料の一部が変形して移動するスペースの確保及びスポット溶接時の電極の位置ズレ等による異種材の陥没等を防いで締結力低下の抑制が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の異種材の接合部材を、
図14を用いて説明する。かしめ時およびスポット溶接時に異種材料200の一部が変形して移動するスペースを確保するために、及び、スポット溶接時の電極400の位置ズレ等による異種材料200の陥没等を防いで締結力低下の抑制を可能とするために、R(Radius)形状の面取り30や環状溝31等の複雑なリベット形状が必要である。この場合、リベット51の形状に精度が必要であり複雑な形状となる。そのため、リベット51の加工に精密加工等が必要となり製造コストも高くなる。また、抵抗溶接であるスポット溶接であるので、加圧、通電、冷却、移動等に時間がかかるため作業時間が長くなる。また、接合部材100を両側から挟みこむ必要があるので、接合部材100の設計自由度が制限される。
【0009】
また、隣のリベットに近接し過ぎるとスポット溶接の電流の分流が発生して抵抗溶接した溶接部に発生する溶接凝固した部分であるナゲット形成が不十分となる。そのため、分流せずに所望のナゲット形成が行える最小離間ピッチ以上の接合ピッチが必要となる。よって、最小離間ピッチ以下の接合ピッチでリベットを配置できず、必要箇所での接合の剛性増加ができないという課題があった。
【0010】
本開示は、異種材接合を可能とし、生産性を向上するアーク溶接またはプラズマ溶接用のシンプルな接合構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の溶接方法は、第1の同種系金属材と、前記第1の同種系金属材に溶接可能な第2の同種系金属材とで、前記第1の同種系金属材および前記第2の同種系金属材に溶接するのが困難である異種材を挟んでアーク溶接する溶接方法であって、前記第1の同種系金属材は第1の突起部を有し、
前記第1の突起部は、不貫通の底面、または前記第1の突起部の内縁である突起内縁部よりも直径または幅が小さく、中央の一部に空いた穴である第2の貫通部を有する鍔状の底面を有し、前記第2の同種系金属材上に第1の貫通部を有する前記異種材を配置し、前記第1の同種系金属材に設けられた前記第1の突起部を前記異種材に設けられた前記第1の貫通部へ挿入し、前記第1の同種系金属材の前記突起内縁部にアークを照射し、前記第1の同種系金属材と前記第2の同種系金属材を溶接して、前記異種材と前記第1の同種系金属材と前記第2の同種系金属材を固定するため、前記第1の同種系金属材を配置する際、
前記第1の同種系金属材と前記第2の同種系金属材との間に、前記第1の同種系金属材を前記第2の同種系金属材から厚さ方向に互いに離間させる、前記第1の貫通部の板厚方向の隙間である第2のギャップを形成し、
前記第2のギャップは、アークが適用される前記第1の同種系金属材または前記第2の同種系金属材の厚さに応じた所定量であり、前記第2のギャップの前記所定量は、
アークが適用される前記第1の同種系金属材または前記第2の同種系金属材の厚さに対して4~75%に設定され、
前記第1の同種系金属材と前記第2の同種系金属材とが前記第1の貫通部を介して互いに溶融結合して前記異種材が圧縮固定されることにより、前記異種材と前記第1の同種系金属材および前記第2の同種系金属材とが固定される。
【発明の効果】
【0012】
本開示の溶接方法によれば、信頼性の高い異種材接合を可能とし、生産タクトタイムを大幅に短縮することもでき、更に必要箇所での剛性を増加させ、設計自由度を拡げることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態1におけるアーク溶接時の接合構造を説明するための図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施の形態2におけるアーク溶接時の接合構造を説明するための図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施の形態2におけるアーク溶接時の接合構造を説明するための図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施の形態1におけるアーク溶接時の接合状況を説明するための図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施の形態1におけるアーク溶接時の接合状況を説明するための図である。
【
図6】
図6は、本開示の実施の形態1における、第1の材料の板厚と板厚方向の隙間である第2のギャップの関係を測定した結果を表すグラフを示す図である。
【
図7】
図7は、本開示の実施の形態1における、第2の材料の材質と第1のギャップの関係を測定した結果を表すグラフを示す図である。
【
図8】
図8は、本開示の実施の形態1におけるアーク溶接時の接合状況を説明するための図である。
【
図9】
図9は、本開示の実施の形態1におけるアーク溶接時の接合状況を説明するための図である。
【
図10】
図10は、本開示の実施の形態3におけるアーク溶接時の接合構造を説明するための図である。
【
図11】
図11は、本開示の実施の形態3におけるアーク溶接時の接合構造を説明するための図である。
【
図12】
図12は、本開示の実施の形態3におけるアーク溶接時の接合構造を説明するための図である。
【
図13】
図13は、本開示の実施の形態4におけるアーク溶接時の接合構造を説明するための図である。
【
図14】
図14は、従来の異種材接合の形態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施の形態1)
本実施の形態について、
図1から
図9を用いて説明する。
図1は、接合部材であって、本開示に係る第1の同種系金属材である第1の材料1と本開示に係る第2の同種系金属材である第3の材料3と、異種材の第2の材料2との接合構造を示している。ここで、
図4は、上板としての第1の材料1が円形状である構造のものを説明するための図である。
図5は、上板としての第1の材料1が角形状である構造のものを説明するための図である。そして、
図4および
図5に示すI-I断面が、
図1の断面位置に対応する。
【0015】
図1は材質が金属である第1の材料1および第3の材料3と異種材の材質である第2の材料2との接合に際して、第1の材料1と第3の材料3で第2の材料2を挟み込む配置とする。第1の材料1と第3の材料3は互いに溶接可能な同種系金属材であり、第2の材料2は、第1の材料1および第3の材料3の同種系金属材と溶接困難な異種材である。
【0016】
ここで第2の材料2には本開示に係る第1の貫通部の一例である第1の貫通穴11が予め加工されている。第1の材料1の第1の突起部4および第3の材料3の第2の突起部5がこの第1の貫通穴11に挿入され、第1の突起部4と第2の突起部5が互いに対向して配置される。第2の材料2の第1の貫通穴11に、第1の材料1の第1の突起部4および第3の材料3の第2の突起部5がそれぞれ挿入されるので、第1の貫通穴11に対する第1の材料1および第3の材料3の相対的な位置ズレを抑制する効果がある。そのため、アーク溶接位置の目印及びビード形成位置の妥当性が目視で確認できる利点がある。
【0017】
なお、本実施の形態では、第1の貫通部を第1の貫通穴11としているが、例えば貫通溝であっても良い。
【0018】
また、なお、同種系金属材とは、互いに溶接可能な金属であり、同じ材質同士だけではなく、鉄系金属材同士、非鉄系金属材同士などの溶接接合性が、言い換えると、溶接の相性が良い同種系の材料とする。具体的には、溶接時の材料の組合せとしては、例えば、第1の材料1および第3の材料3では、軟鋼と軟鋼、軟鋼とステンレス、ステンレスとステンレス、軟鋼とハイテン(高張力鋼)、ハイテンとステンレス、ハイテンとハイテン等の鉄系金属材である。または、例えば、アルミとアルミ、アルミとアルミ合金、アルミ合金とアルミ合金等の非鉄金属である。
【0019】
また、異種材としての第2の材料2は、同種系金属材としての第1の材料1および第3の材料3とは異なる材質の材料であり、同種系金属材に対して溶接が困難な材質である。例えば同種系金属材としての第1の材料1および第3の材料3をともに鉄系金属にした場合、異種材としての第2の材料2は、例えば銅材やアルミ材等の非鉄系金属である。また、第1の材料1および第3の材料3を金属材料とした場合、異種材としての第2の材料2は、例えば樹脂材としてのCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics、炭素繊維強化プラスチック)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等である。
【0020】
第1の材料1の第1の突起部4および第3の材料3の第2の突起部5の形状は、本実施例では実質的に同じとする。対向して配置される第1の材料1の第1の突起部4および第3の材料3の第2の突起部5の突起外縁部19と第2の材料2の第1の貫通穴11の端部との隙間を第1のギャップ7とする。また、第1の材料1の第1の突起部4と第3の材料の第2の突起部5を第2の材料2の第1の貫通穴11に挿入した場合、第1の突起部4と第2の突起部5との間の板厚方向の隙間を第2のギャップ8とする。また、上側から見た第1の突起部4および第2の突起部5の内縁部の領域を突起内縁部10とする。溶接状況は
図4に示すように、アーク15を第1の材料1の上側から接合可能範囲としての第3の材料3の第2の突起部5の突起内縁部10(
図1、4参照)内に向けて照射して溶接し、その結果形成されるビードは
図1に示すように溶接部16となる。このように、アーク15が第1の材料1に対して照射される場合、第1の材料1が本開示に係る第1の同種系金属材に該当し、第3の材料3が本開示に係る第2の同種系金属材に該当する。
【0021】
ここで、板厚方向とは、溶接前の状態において第1の材料1、第2の材料2および第3の材料3の主面に垂直な方向であり、
図1において矢印で示す方向である。
【0022】
次に、溶接時及び溶接後の板厚方向の第2のギャップ8について
図1を用いて説明する。
【0023】
アーク15を第1の材料1の第1の突起部4および第3の材料3の第2の突起部5の突起内縁部10内にアークスポットの溶接を行うと、溶接部16が形成される際に第1の材料1および第3の材料3の溶接時の溶接部16の溶融金属が凝固収縮するため、第1の材料1の第1の突起部4と第3の材料3の第2の突起部5との間の所定の隙間である第2のギャップ8が縮小する。この第2のギャップ8の大きさを、アーク15が照射される側の上板となる第1の材料1、あるいはアーク15が照射される側としての第1の材料1または第3の材料3の板厚に対して4~75%に設定すると、溶接部16の凝固収縮が第1の材料1と第3の材料3による第2の材料2を挟む圧縮力18となり、第1の材料1および第3の材料3により第2の材料2を圧接固定することが可能となる。このアーク15が照射される側としての第1の材料1または第3の材料3の板厚に対して第2のギャップ8を4~75%とする設定は、実験データにより導き出したものであり、その実験データの一例を
図6に示す。
図6は、第1の材料の第1の突起部4の板厚tと、板厚方向の第1の突起部4と第2の突起部5との間の隙間である第2のギャップ8の関係を測定した結果を表すグラフを示す図である。
【0024】
同種系金属としての第1の材料1および第3の材料3をそれぞれ軟鋼材、異種材としての第2の材料2を樹脂材料であるPET材とする組合せにおいて、第3の材料3に対して上側に第1の材料1を配置し上下方向に重ね合わせた状態で、アーク溶接のMAG(Metal Active Gas)溶接にて溶接出力(溶接電流:100A~250A)を0.3sec間行い、板厚方向の上側から、アーク溶接のアーク15が照射される照射領域としての、第1の材料1の第1の突起部4の突起内縁部10内にアークスポット溶接した場合の一例である。例えば、第1の材料1および第3の材料3の突起内縁部10はφ10mmの領域とし、第2の材料2の第1の貫通穴11はφ12mmとし、第1の突起部4および第2の突起部5に対して板厚方向から照射されるアーク15の照射領域は、第1の突起部4および第2の突起部5の径または幅に対して所定の距離を有して小さくなるように、アーク15が照射される側の突起内縁部10の大きさに近く突起内縁部10の大きさより小さいφ8mmのスポット径になるようにアーク溶接したものである。
【0025】
また、例えば、アーク15が照射される側の第1の材料1の第1の突起部4の板厚が、t0.8mmの場合では、第2のギャップ8は0.1~0.6mmまでが溶接部16の溶融金属の凝固収縮作用による圧接固定が可能である。第2のギャップ8が0.6mmを超えて大きくなると、溶接部16の一部が穴開き(溶接時の溶融金属の充填不足により溶接部16に開口が形成された)状態となり、溶接不良となる。よって、第1の材料1の板厚の13%から75%までが有効範囲となる。
【0026】
また、t2.3mmの板厚の場合では、第2のギャップ8は0.1~1.4mmまでが溶接部16の溶融金属の凝固収縮作用による圧接固定が可能である。第2のギャップ8が1.4mmを超えて大きくなると溶接部16の一部が穴開き(溶接時の溶融金属の充填不足により溶接部16に開口が形成された)状態となり、溶接不良となる。よって、アーク15が照射される側の同種系金属材としての第1の材料1の板厚に応じた第2のギャップ8の板厚方向の所定の大きさの範囲が溶接可能範囲となる。言い換えると第1の材料1の板厚の4~61%まで(4%以上、61%以下)の第2のギャップ8の大きさが溶接可能範囲となる。
【0027】
これは、第1の材料1の板厚tの最大60~75%に相当する溶融金属が第2のギャップ8に落ち込んで穴開きなく接合できることを示している。第1の材料1の板厚tの最大60~75%を超える第2のギャップ8になると、第2のギャップ8に必要な溶融金属量を確保できないため、一部穴開きという状態を発生させてしまうのである。なお、フィラーワイヤを用いない場合のレーザ溶接やTIG溶接に比べ、消耗電極である溶接ワイヤ14を用いるアーク溶接では、溶接ワイヤ14の溶融による溶接部16への溶融金属の堆積があるため、アーク15が照射される側の第1の材料1の板厚tに対する第2のギャップ8の割合が大きく、ギャップ裕度が大きい。
【0028】
なお、逆に、板厚方向の第1の突起部4と第2の突起部5との間の隙間である第2のギャップ8が、0.1mmより小さくなると、第1の突起部4と第2の突起部5との間の隙間が小さくなりすぎて、同種系金属材である第1の材料1と第3の材料3とが互いに溶融結合して異種材である第2の材料2に対する圧縮固定される圧縮力18が不足する。
【0029】
このように、板厚方向の第1の突起部4と第2の突起部5との間の隙間である第2のギャップ8は、溶接時の溶融金属量を確保できる範囲で、言い換えると穴開き(溶接時の溶融金属の充填不足による溶接部16の開口の形成)が発生しない範囲で、大きくなる程、第2のギャップ8における溶接時の溶接部16の凝固収縮が増大し、第1の材料1と第3の材料3による第2の材料2を挟む固定力としての圧縮力18が増大する。
【0030】
本実施例では、第1の材料1の第1の突起部4と第3の材料3の第2の突起部5の形状を同じとしたが、必ずしも同じでなくても良い。また、アーク15の照射方向として、第1の材料1の側からアーク15を照射するとしたが、アーク15が照射される側としての第1の材料1または第3の材料3の照射領域の板厚の4%以上、61%以下の大きさに第1の突起部4と第2の突起部5との間の第2のギャップ8を設定すれば、溶融時に第2のギャップ8に必要な溶融金属量を確保でき、溶接部16の凝固収縮が第1の材料1と第3の材料3による第2の材料2を挟んで圧縮固定することができる。このため、アーク溶接方向を例えば上側ではなく下側からとし、第3の材料3の側からアーク溶接しても問題ない。また、第1の材料1と第3の材料3の材質は同種系金属材であり、それぞれ軟鋼材と記載したが、互いに溶接が可能であり接合強度が得られる同種系金属材としての材質であれば材質が異なっていても問題ない。例えば、同種系金属材としての第1の材料1及び第3の材料3は、互いに、鉄系金属材としての軟鋼材同士、ステンレス同士、ハイテン同士等、または、軟鋼とハイテン(高張力鋼)、ハイテンとステンレス等の組合せ、あるいは、非鉄金属材としてのアルミ材同士、アルミ合金同士、または、アルミとアルミ合金等の組合せであり、アーク溶接が可能な材質である。逆に異種材としての第2の材料2はアーク溶接が難しい銅、各種樹脂材料や第1の材料1および第3の材料3との溶接接合性の相性が悪い材質(例えば、第1の材料1および第3の材料3をそれぞれ軟鋼材とした場合、第2の材料2がアルミ材との組合せである。またはその逆の組合せの場合もある。)が当てはまる。
【0031】
また、図示していなが、異なる2種類の異種材である第2の材料2を接合する場合、同種系金属材同士の第1の材料1および第3の材料3で挟み、第2のギャップ8を適正にした状態でアーク溶接を実施する。すると、同種系金属材としての第1の材料1および第3の材料3の溶融金属の凝固収縮作用による圧縮力18によりその間に挟まれる異種材としての第2の材料2の圧接固定が可能である。
【0032】
次に、溶接時及び溶接後の第1のギャップ7について
図1を用いて説明する。
【0033】
アーク15が板厚方向から照射され溶接される第1の材料1の第1の突起部4に対する溶接領域は、突起内縁部10よりも小さく、第1の突起部4の径または幅に対して所定の距離を有して小さい接合構造を有している。
【0034】
ここで溶接時の溶接入熱により溶接部16から伝達される熱によって第2の材料2が溶融するには、第1の材料1および第3の材料3のアーク15が照射される第1の突起部4および第2の突起部5の突起外縁部19と第2の材料2の第1の貫通穴11との位置関係が重要である。
【0035】
第2の材料2の第1の貫通穴11の径に対して、第1の材料1および第3の材料3の突起外縁部19の隙間である第1のギャップ7が適正な範囲では、同種系金属材である第1の材料1および第3の材料3の溶接時の溶融入熱の熱影響を受けて溶融した異種材の第2の材料2が第2の材料2の第1の貫通穴11が、第1のギャップ7を有して隣接する第1の突起部4および第2の突起部5の外周側の突起外縁部19の外周側に密着固定可能に流れ込む。すなわち、アーク溶接時の第1の同種系金属材である第1の材料の第1の突起部4の溶接入熱で、異種材である第2の材料2の第1の貫通穴11が間接的に入熱され、溶融し、第1の突起部4の外周側に密着固定可能に流動する。これにより、溶接部16の凝固収縮作用による圧縮固定のみの効果だけでなく、第1の材料1および/または第3の材料3の突起外縁部19と第2の材料2の板厚方向に交差する方向の間の密着固定も出来る。
【0036】
アーク15が照射される第1の突起部4および第2の突起部5の突起外縁部19から第1の貫通穴11までの距離が、第1のギャップ7が小さく近すぎる状態で溶接すると、アーク15の照射による溶接部16の溶接入熱が伝わった突起外縁部19の外周側からの熱影響を、第1の貫通穴11が受け過ぎる。これにより、溶接時に溶融した第2の材料2の第1の貫通穴11の一部が、第1の材料1の第1の突起部4および第3の材料3の第2の突起部5の板厚方向の合わせ面の隙間である第2のギャップ8に流れ込むとともに第2の材料2が樹脂などの沸点が低い材料の場合には、気化して噴き出すことで溶接部16に溶接不良が生じる場合がある。
【0037】
また、第1の貫通穴11と突起外縁部19との隙間である第1のギャップ7が、例えば第2の材料2の材質が樹脂材料の場合は2.0mm以上、CFRPの場合は1.5mm以上と大きくなり、第1の貫通穴11に対して、突起外縁部19の距離が離れすぎると第2の材料2の第1の貫通穴11が溶接部16の溶接入熱を受け難くなり溶融しない。このため、同種系金属材の第1の材料1の第1の突起部4および第3の材料3の第2の突起部5の外周側である突起外縁部19に対して、異種材の第2の材料2が流動して密着固定することが困難となる。凝固収縮作用による圧縮固定のみの効果となる。このため、アーク15が照射されて突起外縁部19からの第2の材料2の第1の貫通穴11へ熱の伝わる距離である第1のギャップ7の大きさや第2の材料2の材質によって、第1の材料1および第3の材料3の溶接時の熱影響による第2の材料2の溶融状態が変化する。
【0038】
なお、図示しないクランプ固定の治具や位置決めピンやロボットアームによる支持位置決めの方式等を用いて、異種材の第1の貫通穴11の径に対して、挿入される同種系金属材の第1の突起部4および第2の突起部5の位置決めを行っても良い。またなお、第1の突起部4および第2の突起部5がエンボス加工されて、突出している突起外縁部19の大きさは突起内縁部10に対して、第1の突起部4および第2の突起部5のプレス加工によりエンボス形状に外周方向に約1mm~板厚相当のオフセットした大きさとなるが、本説明は簡略的に1mmとして記載する。
【0039】
その一例として、実験データの一例を
図7に示す。
図7は第2の材料2の材質と第1のギャップ7の関係を測定した結果を表すグラフを示す図である。
【0040】
具体的には、
図7は第2の材料2の材質(樹脂材料であるPET材とCFRP材、非鉄金属であるA5000系のアルミ合金材等)と第1のギャップ7との関係の実験データである。
【0041】
第1のギャップ7は、第2の材料2の第1の貫通穴11の径に対して、第1の材料1および第3の材料3の突起外縁部19の隙間である。
【0042】
同種系金属材としての第1の材料1および第3の材料3を軟鋼材の板厚をt1.6mmとし、これらの間に板厚t2.0mmの異種材としての第2の材料2の各種材料のいずれか一つを挟み上下に重ね合わせた状態にアーク溶接のMAG溶接にて溶接出力(溶接電流:100A~250A)を0.3sec間行い、上側から、アーク溶接のアーク15が照射される照射領域としての、第1の材料1の第1の突起部4の突起内縁部10内に溶接した場合の一例である。例えば、第1の材料1および第3の材料3の突起内縁部10はφ10mmの領域とし、第2の材料2の第1の貫通穴11はφ12mmとし、突起内縁部10の大きさに近いφ8mmのアーク15のスポット径で溶接をしたものである。
【0043】
第2の材料2が樹脂材料の一例であるPET材の場合は、第1のギャップ7が0.8mm以上、すなわち、第1のギャップ7が異種材である第2の材料2の板厚の40%以上の場合であれば、第1の材料1及び第3の材料3の突起内縁部10への溶接による熱影響を受けても第1の材料1の第1の突起部4および第3の材料3の第2の突起部5の板厚方向の隙間である第2のギャップ8に溶融した第2の材料2が接合不良を起こすように流れ込むことがなく、第2の材料2の圧縮固定が可能である。
【0044】
しかしながら、第1のギャップ7が0.8mmを下回り、すなわち第1のギャップ7が異種材である第2の材料2の板厚の40%を下回り、突起外縁部19と第2の材料2の第1の貫通穴11とが近すぎる場合であれば、第1の材料1及び第3の材料3の突起内縁部10への溶接による熱影響を受けて第1の材料1の第1の突起部4および第3の材料3の第2の突起部5との間の合わせ面の板厚方向の隙間である第2のギャップ8に溶融した第2の材料2が流れ込み、異種材としての第2の材料2の樹脂材料が気化して噴き出すことで溶接不良となることもある。
【0045】
第2の材料2が樹脂材料の中でも繊維強化樹脂の一例であるCFRP材の場合は、第1のギャップ7が0.6mm以上、すなわち、第1のギャップ7が異種材である第2の材料2の板厚の30%以上の場合であれば、第1の材料1または第3の材料3の突起内縁部10への溶接による熱影響を受けても、第1の材料1の第1の突起部4および第3の材料3の第2の突起部5との間の合わせ面の板厚方向の隙間である第2のギャップ8に溶融した第2の材料が接合不良を起こすように流れ込むことがなく、第2の材料2の圧縮固定が可能である。しかしながら、第1のギャップ7が0.6mmを下回り、すなわち第1のギャップ7が異種材である第2の材料2の板厚の30%を下回り、突起外縁部19と第2の材料2の第1の貫通穴11と近すぎる場合であれば、第1の材料1及び第3の材料3の突起内縁部10への溶接による熱影響を受けて第1の材料1の第1の突起部4および第3の材料3の第2の突起部5との間の合わせ面の隙間である第2のギャップ8に溶融した第2の材料2が流れ込み、気化して噴き出すことで溶接不良となる可能性がある。以上のように、同種系金属材の間に挟まれる異種材としての第2の材料2の樹脂材料の融点や沸点などの特性により、溶接時の許容される第1のギャップ7の大きさに多少の違いが出てくるものである。ちなみに、レーザ溶接に比べ、アーク溶接ではアーク熱による入熱が高いため、第1のギャップ7の裕度が狭い結果となっている。
【0046】
第2の材料2が非鉄金属の一例であるA5000系のアルミ合金材の場合は、第1のギャップ7の大きさに関係なく、第1の材料1及び第3の材料3の突起内縁部10へのアーク15の照射の溶接による熱影響を受けても第1の材料1の第1の突起部4および第3の材料3の第2の突起部5との間の合わせ面の隙間である第2のギャップ8に接合不良を起こすように溶融した第2の材料2が流れ込むことがなく、安定した圧縮固定が可能である。
【0047】
上記内容は、第2の材料2の材質による違いの一例を示した実験データであるが、第2の材料2が樹脂材料であれば、
図7に示すPET材とほとんど同じような傾向にある。また、樹脂材料の中でも、CFRP材のような繊維強化樹脂であれば、CFRP材と同じような傾向にある。なお、第2の材料2が非鉄金属であれば、A5000系のアルミ合金材では、第1の材料1の第1の突起部4または第3の材料3の第2の突起部5へのアーク15の照射による溶接時の溶接入熱により第2の材料2の第1の貫通穴11が気化して噴き出すことで溶接部16の溶接不良となる熱影響を受けることはないので、他の非鉄金属でもほとんど同じような傾向にある。したがって、第2の材料が非鉄金属の場合、第2の材料2が溶融し、第1の材料1の第1の突起部4および第3の材料3の第2の突起部5との間の合わせ面の隙間である第2のギャップ8に溶融した第2の材料2が流れ込むほどの熱影響は受けることはないと言える。
【0048】
また、円形状の突起部以外の実施例を
図5に示す。
図5は、同種系金属材の第1の材料1および第3の材料3と異種材の第2の材料2との接合構造において、板厚方向の上板としての第1の材料1の溶接形状が角形状の溶接形状が直線の場合である。溶接部16に求められる接合強度が方向性を持つ場合、必要とする接合強度が高い方向に沿うように、例えば、長方形状とした場合の接合構造の長手側を配置することで、大きな正方形の角形状の第1の突起部4および第2の突起部5を設ける場合に対して面積を縮小できる。また、
図5のように溶接形状を直線状にすることで円形状の突起部を複数箇所接合するよりも短時間で溶接が可能となる。
【0049】
また、さらに強度を高めるための実施例や、位置決めを容易とする実施例を
図8および
図9に示す。
【0050】
図8において、第1の材料1は、第3の材料3と第2の材料2とを接合する際、第2の材料2を位置決めする機能を兼ねている。具体的には、第2の材料2を、段状に折り曲げた第1の材料1の段差部分に当接し、第1の材料1と第3の材料3とで挟み込む構造とすることで、第2の材料2を位置決めすることができる。
【0051】
また、
図8に示す接合構造は、接合部の引張強度を高める接合構造である。具体的には、溶接部16において、第1の突起部4を持つ第1の材料1を、第2の材料2を介して第3の材料3と接合し、さらに溶接部16とは別の溶接部16aにおいて第1の材料1を、第2の材料を介さずに第3の材料3に対して接合する接合構造(両持ち)である。これにより、第3の材料3に対して、第2の材料2の引張およびねじり等による外力が加わった時に、溶接部16と溶接部16aとに応力が分散する。そのため、第2の材料2を介して接合される第1の材料1と第3の材料3との溶接部16に対して集中して応力がかかることを抑制できる。これにより、接合構造全体として、同種系金属材と異種材との接合の強度を高めることが可能となる。
【0052】
また、
図9のように、第3の材料3を折り返すことで、第1の材料1を用いないで、第1の材料1の第1の突起部4の機能を第2の材料2を挟む第3の材料3の上側の板に含めた構造にすることができる。これにより、第1の材料1を固定する固定用治具が不要となる。また、第2の材料2を第3の材料3に対して差し込んで、仮固定が可能となり、第2の材料2の位置決めも容易となる。
【0053】
ここで、
図9において、本開示に係る第1の同種系金属材は、第3の材料3を折り返して形成される上板部分に相当し、本開示に係る第2の同種系金属材は、第3の材料3を折り返して形成される下板部分に相当する。すなわち、本開示に係る第1の同種系金属材と第2の同種系金属材は、溶接前の状態において一体であってもよい。
【0054】
以上のように本実施の形態のアーク15による溶接での接合構造は、第1の突起部4を有する第1の同種系金属材と、第1の同種系金属材と互いに溶接可能な第2の同種系金属材と、第1の貫通穴11が設けられ、第1の同種系金属材と第2の同種系金属材との間に挟まれ、第1の同種系金属材および第2の同種系金属材と溶接困難な異種材と、を備える。第1の突起部4は、第1の貫通穴11に対して、第1の貫通穴11の径または幅より小さく、径方向または幅方向の第1のギャップ7を有している。第1の突起部4が第1の貫通穴11に挿入され、第1の貫通穴11の板厚方向の第1の同種系金属材と第2の第2の同種系金属材との隙間である第2のギャップ8を有する。第1の同種系金属材の第1の突起部4に対して、板厚方向からアーク溶接され、板厚方向の隙間である第2のギャップ8の量は、アーク溶接のアークが照射される側の第1の同種系金属材の第1の突起部4の板厚に対する所定量である。第1の同種系金属材と第2の同種系金属材とが第1の貫通穴11を介して互いに溶融結合して異種材が圧縮固定されることにより、異種材と第1の同種系金属材および第2の同種系金属材とが固定されている。
【0055】
これにより、同種系金属材に対して溶接が困難な材質である異種材と同種系金属材との信頼性の高い接合を可能とし、生産タクトタイムを大幅に短縮することもでき、更に必要箇所での剛性を増加させ設計自由度を拡げることも可能である。
【0056】
なお、本実施例でのアーク溶接は、消耗電極を用いるアーク溶接として記載してきたが、非消耗電極を用いるTIG(Tungsten Inert Gas)溶接またはプラズマ溶接(図示なし)でも良い。
【0057】
(実施の形態2)
次に、本実施の形態2について、
図2を用いて説明する。実施の形態1と重複する部分は説明を省略する。実施の形態1と異なる点は、第1の材料1には第1の突起部4が有るが、第3の材料3の形状に第2の突起部5が無い点である。第3の材料3に第2の突起部5の加工が無いことで材料の加工費用の削減が可能であり、第1の材料1と第2の材料2と位置が第3の材料3の位置ズレに影響されない利点がある。この場合も、実施の形態1と同様に、第1の貫通穴11の板厚方向の第1の材料と第3の材料との隙間である第2のギャップ8を設けてアーク溶接することで、溶接部16の凝固収縮が圧縮力18となり、第1の材料1と第3の材料3との間に挟まれた第2の材料2を圧縮固定する。
【0058】
本実施例では、第1の突起部4を第1の材料1の側に設けたが、逆に第3の材料3の側に第1の突起部を設けて第1の材料1側には加工を実施しないものであっても良い。この場合、本開示に係る第1の同種系金属材が第3の材料3に該当し、本開示に係る第2の同種系金属材が第1の材料1に該当する。アーク15が照射される側の同種系金属材の第1の材料1または第3の材料3の板厚に対して、アーク15による同種系金属材の溶け落ちが無い程度の第2のギャップ8の大きさであるため、アーク溶接方向に関して第1の材料1の側からアーク溶接しても第3の材料3の側からアーク溶接しても良い。
【0059】
以上のように本実施の形態の板厚方向からアーク15による接合構造は、第1の貫通穴11(第1の貫通部)を介して第2の材料(異種材)を挟み込む第1の同種系金属材の第2の同種系金属材と対向する面に、第1の突起部4が形成されている。
【0060】
これにより、溶接接合性が低く、溶接接合が困難な材質である異種材の信頼性の高い接合を可能とし、同種系金属材の第1の材料1および第3の材料3の対向する面の少なくとも一方に第1の突起部が形成されているため、第2の材料2と、第1の材料1または第3の材料3のいずれか一方に第1の突起部が形成された方の材料は、第1の突起部が形成されていない他方の材料の位置ズレに影響を受けない。
【0061】
また、
図3のように、同種系金属材の第1の材料1および第3の材料3のいずれについても突起部の加工を実施していないことも可能である。この場合も、実施の形態1と同様に、アーク15が貫通部としての第1の貫通穴11に向けて照射される同種系金属材の照射領域の板厚方向において、異種材の第2の材料2を間に挟む同種系金属材の第1の材料1と第3の材料3との板厚方向の隙間として、異種材の第2の材料2の板厚により形成される第2のギャップ8を設けてアーク溶接することで、溶接部16の凝固収縮が圧縮力18となり、第2の材料2を圧縮固定することができる。この場合、第2のギャップ8としての異種材の第2の材料2の板厚は、アーク15の照射される側の照射領域の同種系金属材の第1の材料1の板厚tに対応する所定量である(
図6参照)。
【0062】
(実施の形態3)
次に、本実施の形態3について、
図10~
図12を用いて説明する。実施の形態1や2と重複する部分は説明を省略する。実施の形態1と異なる点は、板厚方向からアーク溶接される第1の突起部4および第2の突起部5に対する溶接領域において、例えば、アーク15が照射される側の第1の材料1の第1の突起部4の中央の一部分に、アーク15が照射される溶接領域より小さい第2の貫通穴6(本開示に係る第2の貫通部の一例)を設け、第1の突起部4の形状を中央部の一部に穴が開いた鍔状とした点である。この第2の貫通穴6により、上板である第1の材料1をアーク熱で穴開きを作り、第3の材料3と溶融接合させる必要がなく、溶接ワイヤの溶融金属で第1の材料1と第3の材料3との溶融を促進させて、第1の突起部4および第2の突起部5の対向面を互いに強固に溶融接合させることができるものである。
【0063】
実施の形態1のように、第1の材料1の第1の突起部4の中心に第2の貫通穴6を設けていない場合は、上板である第1の材料1の板厚が薄い場合(例えば、板厚t1.0mm未満)のみ有効である。板厚が厚い(例えば、板厚t1.0mmより厚い板厚)と上板である第1の材料1を溶け落ちさせるだけの熱量が過剰に必要になってくることから、不向きである。この実施の形態3のように、第1の材料1の第1の突起部4の中心に第2の貫通穴6を設けた場合は、上板である第1の材料1の板厚が厚い場合(例えば、板厚t1.0mm以上)に非常に効果的である。
【0064】
なお、第1の材料1の第1の突起部4の中心に第2の貫通穴6を設けた場合において、
図11のように、実施の形態1と異なる第3の材料3の形状に第2の突起部5の加工を実施していない場合でも良い。また、
図12のように、同種系金属材の第1の材料1および第3の材料3のいずれについても突起部の加工を実施しないことも可能である。
【0065】
(実施の形態4)
次に、本実施の形態4について、
図13を用いて説明する。実施の形態1と重複する部分は説明を省略する。実施の形態1と異なる点は、第1の材料1の第1の突起部4や第3の材料3の第2の突起部5に接し合う箇所より板厚方向に直交する方向の外側または、異種材の第1の貫通穴11より板厚方向に直交する方向の外側で、同種系金属材の板厚方向に貫通するに複数個の排出穴17または排出溝を設けたことである。排出穴17および排出溝は、本開示に係る排出部の一例である。
【0066】
異種材の第2の材料2が融点、沸点の低い樹脂材料などの場合、溶接時の溶接入熱により、第2の材料2が溶融し、溶接部16に流れ込むと気化して穴開きなどの溶接不良を発生することがある。かかる場合に、この排出穴17を、異種材を挟んで接合固定する同種系金属材に設けることで、アーク15の照射による溶接時の溶接部16への溶融した第2の材料2の流れ込みを防ぎ、外部への排出を促す利点がある。
【0067】
本実施例では、排出穴17を同種系金属材の第3の材料3側に設けたが第1の材料1側に排出穴17を設けても良いし、両側に設けても良い。また、排出穴ではなく、例えば長尺の排出溝でも良い。
【0068】
(まとめ)
従来の異材接合用部材としてのリベットは、かしめ加工時およびスポット溶接時に異種材料の一部が変形して移動するスペースの確保及びスポット溶接時の電極の位置ズレ等による異種材の陥没等を防いで締結力低下の抑制を可能とするために、R形状の面取りや環状溝等の複雑なリベット形状が必要であった。
【0069】
この場合、リベット形状に精度が必要であり複雑な形状となる。そのため、リベットの加工に精密加工が必要となり製造コストも高くなる。また、スポット溶接であるので、加圧、通電、冷却、移動等に時間がかかるため生産性が低い上に、両側から挟みこむ必要があるので接合部材の設計自由度が制限される。また、隣のリベットに近過ぎるとスポット溶接の電流の分流が発生して、抵抗溶接した溶接部に発生する溶接凝固した部分であるナゲット形成が不十分となる。そのため、所望のナゲット形成が行える最小限以上の接合のピッチの間隔が必要となる。よって、必要箇所での接合の剛性を増加できないという課題があった。本開示により、従来の課題を解決することができる。
【0070】
以上のように、実施の形態に係る接合構造は、第1の突起部4を有する第1の同種系金属材と、第1の同種系金属材と互いに溶接可能な第2の同種系金属材と、第1の貫通穴11が設けられ、第1の同種系金属材と第2の同種系金属材との間に挟まれ、第1の同種系金属材および第2の同種系金属材と溶接困難な異種材と、を備える。第1の突起部4は、第1の貫通穴11に対して、第1の貫通穴11の径または幅より小さく、径方向または幅方向の第1のギャップ7を有する。第1の突起部4が第1の貫通穴11に挿入され、第1の貫通穴11の板厚方向の第1の同種系金属材と第2の同種系金属材との隙間である第2のギャップ8を有する。第1の同種系金属材の第1の突起部4に対して、板厚方向からアーク溶接され、板厚方向の隙間である第2のギャップ8の量は、アーク溶接のアークが照射される側の第1の同種系金属材の第1の突起部4の板厚に対する所定量である。
【0071】
これにより、アークが照射される照射領域において、溶接前の第2のギャップが存在する状態でアークが照射されて、第1の同種系金属材と第2の同種系金属材とが第1の貫通穴11を介して互いに溶融結合して異種材が圧縮固定されることにより、異種材と第1の同種系金属材および第2の同種系金属材とが固定されている。
【0072】
この接合構造を用いると、複雑で精度が必要な構造部品は不要となる。さらに、スポット溶接ではなくアーク溶接を用いるので、溶接を含めた作業時間がスポット溶接に対して約25%に短縮でき、著しく生産性を向上する。また、必要箇所での剛性を増加させ、設計自由度を拡げることも可能となる。
【0073】
異種材の第1の貫通穴11を介して異種材を挟み込む第1の同種系金属材の第2の同種系金属材と対向する面に、第1の突起部4が形成されていてもよい。
【0074】
第2の同種系金属材は第2の突起部5を有していてもよい。この場合、異種材の第1の貫通穴11を介して異種材を挟み込む第2の同種系金属材の第1の同種系金属材と対向する面に、第2の突起部5が形成されている。
【0075】
異種材の第1の貫通穴11は、溶融し、第1の突起部4の外周側に密着固定可能に流動していてもよい。
【0076】
板厚方向からアーク溶接される第1の突起部4に対する溶接領域は第1の突起部4の径または幅に対して所定の距離を有して小さくてもよい。
【0077】
板厚方向からアーク溶接される第1の突起部4の溶接領域の一部に第2の貫通穴6を設けて、第1の突起部の形状を中央部の一部に穴が開いた鍔状としてもよい。
【0078】
異種材の第1の貫通穴11より外側に対応する位置に、板厚方向に貫通する排出穴17が、異種材を挟む第1の同種系金属材および前記第2の同種系金属材の少なくとも一方に設けられていてもよい。
【0079】
アーク溶接は消耗電極を用いるアーク溶接、あるいは、非消耗電極を用いるTIG溶接またはプラズマ溶接であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本開示に係る接合構造は、異材接合に際し、シンプルな構造で生産タクトタイムを大幅に短縮し、必要箇所での剛性を増加させることができる。そして、接合部材の設計自由度を拡げる接合構造の溶接方法として産業上有用である。
【符号の説明】
【0081】
1 第1の材料(第1の同種系金属材)
2 第2の材料(異種材)
3 第3の材料(第2の同種系金属材)
4 第1の突起部
5 第2の突起部
6 第2の貫通穴(第2の貫通部)
7 第1のギャップ
8 第2のギャップ
9 第2の貫通穴径
10 突起内縁部
11 第1の貫通穴(第1の貫通部)
12 ノズル
13 チップ
14 溶接ワイヤ
15 アーク
16,16a 溶接部
17 排出穴(排出部)
18 圧縮力
19 突起外縁部