(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】ベーンポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 2/344 20060101AFI20240126BHJP
F04C 14/24 20060101ALI20240126BHJP
F04C 15/06 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
F04C2/344 331J
F04C14/24 B
F04C15/06 A
(21)【出願番号】P 2019235106
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】庄司 幸広
(72)【発明者】
【氏名】下口 保
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-096478(JP,U)
【文献】特開2013-119918(JP,A)
【文献】特開昭55-049594(JP,A)
【文献】実開平04-107550(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/344
F04C 14/24
F04C 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
前記ケーシングの内部空間に回転可能に配置され、外周面に複数のスリットを形成されたロータと、
前記ケーシングの内周面に当接するように、前記複数のスリットに進退可能に配置された複数のベーンとを有するベーンポンプであって、
前記ケーシングには、
油を導入する第一の吸入口と、前記第一の吸入口から導入した油を車両駆動用のモータへ送出する第一の吐出口と、
油を導入する第二の吸入口と、前記第二の吸入口から導入した油を軸受へ送出する第二の吐出口と、
油を導入する第三の吸入口と、前記第三の吸入口から導入した油をギヤへ送出する第三の吐出口とが形成され
ており、
前記第一の吐出口を、前記モータに連通する油路と、前記第一の吸入口、前記第二の吸入口または前記第三の吸入口のうち少なくとも一つに連通する還流路とのいずれか一方へ選択的に接続する流路切替弁を設け、
前記第一の吐出口は通常前記モータに連通する油路に接続されているが、前記モータの冷却が不要な場合、前記流路切替弁により前記第一の吐出口を前記還流路に接続することを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
前記ロータの回転中心から前記ケーシングの内周面までの高さが、前記第一の吸入口から前記第一の吐出口までの領域内において最大となることを特徴とする請求項1記載のベーンポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種機械に冷却油または潤滑油を供給するベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ベーンポンプは、EV車において車両駆動用のモータへの冷却油の供給、軸受への潤滑油の供給、および減速機やディファレンシャルギヤ等のギヤへの潤滑油の供給などを行う冷却・潤滑システムの油供給源として用いられている。
【0003】
従来のベーンポンプは、特許文献1のように、ケーシングと、ケーシングの内部に配置され動力源により回転するロータと、ロータの外周面に放射状に形成された複数のスリットに収容され、ケーシングの内周面に当接してリングの内側に複数の圧縮室を形成する複数のベーンとを有していた。特許文献1のベーンポンプでは、ケーシングに油の吸入口と吐出口とが1つずつ形成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のベーンポンプを冷却・潤滑システムに用いる場合、モータへ冷却油を供給するベーンポンプと、軸受へ潤滑油を供給するベーンポンプと、ギヤへ潤滑油を供給するベーンポンプとがそれぞれ別個に必要となり、車両内のレイアウトが制限されるとともに製造コストが大きくなる問題があった。
【0006】
本発明は前記の問題点を解決するためになされたものであり、一つのベーンポンプでEV車の冷却・潤滑システムへ油を供給することのできるベーンポンプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のベーンポンプは、ケーシングと、ケーシングの内部空間に回転可能に配置され、外周面に複数のスリットを形成されたロータと、ケーシングの内周面に当接するように、複数のスリットに進退可能に配置された複数のベーンとを有するベーンポンプであって、ケーシングには、油を導入する第一の吸入口と、第一の吸入口から導入した油を車両駆動用のモータへ送出する第一の吐出口と、油を導入する第二の吸入口と、第二の吸入口から導入した油を軸受へ送出する第二の吐出口と、油を導入する第三の吸入口と、第三の吸入口から導入した油をギヤへ送出する第三の吐出口とが形成されており、第一の吐出口を、モータに連通する油路と、第一の吸入口、第二の吸入口または第三の吸入口のうち少なくとも一つに連通する還流路とのいずれか一方へ選択的に接続する流路切替弁を設け、第一の吐出口は通常モータに連通する油路に接続されているが、モータの冷却が不要な場合、流路切替弁により第一の吐出口を還流路に接続することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のベーンポンプによれば、一つのベーンポンプでモータの冷却、軸受の潤滑およびギヤの潤滑を実現することができるため、コンパクトな冷却・潤滑システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るベーンポンプを示す断面図である。
【
図2】本発明の第二実施形態に係るベーンポンプを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第一実施形態>
以下、本発明の実施形態に係るベーンポンプについて、図面を用いて説明する。このベーンポンプ10はEV車において要冷却部や要潤滑部への油供給源として用いられるものであり、
図1に示すように、内部空間を有するケーシング12と、ケーシング12の内部空間に配置された筒状のロータ14とを有している。
【0011】
ロータ14の中心にはシャフト16が挿入され、ロータ14がシャフト16と一体的に周方向に回転できるようにスプライン結合されている。ロータ14の外周面には、径方向に形成された複数のスリット18が周上等間隔に配列されている。それぞれのスリット18には、ベーン20が径方向に進退可能に収容されている。
【0012】
ケーシング12には側面視で略正三角形の内部空間が形成され、ケーシング12の内周面には、ロータ14の回転方向の60度ごとにロータ14に近接した部分とロータ14から離間した部分とが連続的に形成されている。内部空間の軸方向両端は、図示しない側壁によって覆われている。このため、ロータ14が回転するとベーン20が遠心力によってケーシング12の内周面に当接し、隣り合う一対のベーン20,20、ロータ14、ケーシング12の内周面および側壁で区切られた複数の圧縮室22が形成される。側壁には、シャフト16が貫通する図示しない孔が形成されている。
【0013】
また、側壁には、内部空間の三角形の頂点部24,26,28を挟み込むように、油を導入する吸入口と、油を送出する吐出口とが形成されている。すなわち、ベーンポンプ10には、ロータ14の回転方向に沿って順に、第一の吸入口30と、第一の吐出口32と、第二の吸入口34と、第二の吐出口36と、第三の吸入口38と、第三の吐出口40とが設けられている。
【0014】
第一の吸入口30、第二の吸入口34、および第三の吸入口38には、図示しないオイルリザーバに接続された一つの油路42から分岐した油路44,46,48がそれぞれ接続されている。第一の吐出口32は、油路50を介して図示しない車両駆動用のモータに冷却油を供給する。第二の吐出口36は、油路52を介して図示しない車両内の軸受に潤滑油を供給する。第三の吐出口40は、油路54を介して、図示しない減速機や車輪のディファレンシャルギヤ等のギヤに潤滑油を供給する。
【0015】
第一の吐出口32の下流には、流路切替弁56が設けられている。流路切替弁56は、スプール58の移動によって、第一の吐出口32を、モータに連通する油路50または第二の吸入口34の上流の油路46に連通する還流路60の一方に選択的に接続するソレノイドバルブとなっている。なお、還流路60を油路46に連通させる代わりに、油路42、油路44または油路48に連通させてもよい。
【0016】
以下に、ベーンポンプ10の動作について説明する。ロータ14が回転すると、第一の吸入口30と頂点部24との間の圧縮室22の容積が増大するにしたがって、第一の吸入口30から油が導入される。その後、頂点部24と第一の吐出口32との間で圧縮室22の容積が減少するにしたがって、第一の吐出口32から油が送出される。同様に、第二の吸入口34から導入された油が第二の吐出口36から油が送出され、第三の吸入口38から導入された油が第三の吐出口40から送出される。
【0017】
第一の吐出口32は通常モータに連通する油路50に接続されているが、モータ始動直後の低温時のようにモータの冷却が不要な場合、流路切替弁56への通電により還流路60に接続される。
【0018】
本実施形態のベーンポンプ10は、三つの吐出口32,36,40を有することにより、一つのベーンポンプでモータの冷却、ギヤの潤滑および軸受の潤滑を実現することができるため、コンパクトな冷却・潤滑システムを提供することができる。
【0019】
また、流路切替弁56を設けたことにより、モータの冷却が不要な場合に第一の吐出口32から送出された油を第二の吸入口34に供給することができるため、冷却・潤滑システムのエネルギ効率を向上させることができる。
【0020】
本実施形態のベーンポンプ10は、車両駆動用のモータを回転動力源とするMOP(機械式オイルポンプ)と専用のモータを回転動力源とするEOP(電動式オイルポンプ)とのいずれとして構成してもよいが、車両駆動用のモータから独立したオンオフが可能で、レイアウトの自由度も高いEOPがより好適である。
【0021】
本実施形態の変形例として、吸入口および吐出口の配置順を変更し、ロータ14の回転方向に沿って、モータへ冷却油を供給する第一の吐出口32、軸受へ潤滑油を供給する第三の吐出口40、ギヤへ潤滑油を供給する第二の吐出口36の順で形成してもよい。
【0022】
<第二実施形態>
第一実施形態のベーンポンプ10では、ケーシング12の内部空間が側面視で略正三角形になるよう形成し、第一から第三の吐出口32,36,40の吐出量が等しくしていたが、第二実施形態のベーンポンプ70は、第一の吐出口32の吐出量が第二および第三の吐出口36,40の吐出量よりも大きくなるように形成されたことを特徴とする。
【0023】
図2に示すように、第二実施形態のベーンポンプ70は側面視で略二等辺三角形の内部空間を有し、第一の吸入口30から第一の吐出口32までの領域内の頂点部74におけるロータ14の回転中心からケーシング12の内周面までの高さが、他の頂点部76,78よりも高く形成されている。したがって、頂点部74の位置における圧縮室22の容積が他の頂点部76,78の位置よりも大きくなるため、第一の吐出口32の吐出量を他の吐出口36,40の吐出量よりも多くすることができる。
【0024】
一般にモータの冷却には軸受の潤滑やギヤの潤滑よりも多量の油が必要となるが、本実施形態のベーンポンプ70によれば、特別な流量調整装置を設けることなく、モータに軸受やギヤよりも多量の油を供給することができる。
【符号の説明】
【0025】
10 ベーンポンプ
12 ケーシング
14 ロータ
16 シャフト
18 スリット
20 ベーン
22 圧縮室
24,26,28 頂点部
30,34,38 吸入口
32,36,40 吐出口
42,44,46,48,50,52,54 油路
56 流路切替弁
58 スプール
60 還流路
70 ベーンポンプ
74,76,78 頂点部