(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】センサシステム、センシング方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01P 21/00 20060101AFI20240126BHJP
【FI】
G01P21/00
(21)【出願番号】P 2022516853
(86)(22)【出願日】2021-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2021004542
(87)【国際公開番号】W WO2021215077
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2020075698
(32)【優先日】2020-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020115186
(32)【優先日】2020-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 岳志
(72)【発明者】
【氏名】山崎 稔夫
(72)【発明者】
【氏名】服部 勲
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐嗣
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/155057(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/178117(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/072090(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0122565(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P15/00-21/02
G01C19/00-19/72
G01L 1/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力に対応する電気信号を出力するセンサ素子と、
前記センサ素子からの前記電気信号を所定の信号形式に変換して出力する信号処理回路と、
前記センサ素子が出力する疑似信号を補正する疑似信号補正回路と、を備え、
前記センサ素子は、テスト信号を受け取ると、前記テスト信号に基づいて自己診断を行い、前記自己診断の結果を表す前記疑似信号を出力し、
前記疑似信号補正回路は、前記センサ素子及び前記信号処理回路の少なくとも一方の設置されている環境に関する環境情報に基づいて、前記疑似信号を補正する、
センサシステム。
【請求項2】
前記テスト信号を出力する自己診断入力回路を、更に有し、
前記自己診断入力回路は、出力信号を生成する電源回路と、前記電源回路からの前記出力信号を基に前記テスト信号を形成する変換回路と、前記テスト信号を出力することを前記変換回路に指示する出力制御回路と、を備え、
前記電源回路は、前記電源回路から出力される前記出力信号における温度変化による出力変動を抑制するバンドギャップ回路を含む、
請求項1に記載のセンサシステム。
【請求項3】
前記環境情報を検知する環境センサを、更に備える、
請求項1又は2に記載のセンサシステム。
【請求項4】
前記環境情報は、前記環境での温度の情報を含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサシステム。
【請求項5】
前記センサ素子は、
第1検出軸に応じた慣性力を検出する第1慣性力センサ素子と、
前記第1検出軸と直交する第2検出軸に応じた慣性力を検出する第2慣性力センサ素子と、
前記第1検出軸及び前記第2検出軸に直交する第3検出軸に応じた慣性力を検出する第3慣性力センサ素子と、を有し、
前記第1慣性力センサ素子、前記第2慣性力センサ素子及び前記第3慣性力センサ素子のうちの少なくとも1つの慣性力センサ素子の出力結果を用いて前記疑似信号を出力する、
請求項1~4のいずれか1項に記載のセンサシステム。
【請求項6】
前記センサ素子は、前記第1検出軸、前記第2検出軸及び前記第3検出軸の軸毎に、前記疑似信号を出力する、
請求項5に記載のセンサシステム。
【請求項7】
前記信号処理回路は、前記疑似信号と、所定の信号形式に変換された前記電気信号とを、時分割で同一ポートから出力する、
請求項1~6のいずれか1項に記載のセンサシステム。
【請求項8】
センサ素子が外力に対応する電気信号を出力する
第1出力ステップと、
信号処理回路が前記センサ素子からの前記電気信号を所定の信号形式に変換して出力する
第2出力ステップと、
疑似信号補正回路が前記センサ素子の出力する疑似信号を補正する
補正ステップと、を備え、
前記センサ素子は、テスト信号を受け取ると、前記テスト信号に基づいて自己診断を行い、前記第1出力ステップでは、前記自己診断の結果を表す前記疑似信号を出力し、
前記補正ステップでは、前記疑似信号補正回路が、前記センサ素子及び前記信号処理回路の少なくとも一方の設置されている環境に関する環境情報に基づいて、前記疑似信号を
補正する、
センシング方法。
【請求項9】
コンピュータに、請求項8に記載のセンシング方法を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般にセンサシステム、センシング方法及びプログラムに関し、より詳細にはセンサ素子と信号処理回路とを備えたセンサシステム、センシング方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
故障診断機能を有する加速度検出装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、車両に搭載し、特性の異なる複数の加速度センサと、車両の停止時に診断信号を入力して特性の異なる複数のセンサ個々の加速度センサの出力を診断する機能および故障検出機能の診断を行う機能と、車両の走行時に一つの加速度センサ出力が所定の範囲内にあることを判定し特性の異なる複数のセンサ個々のセンサ出力を比較して故障検出を行う機能とを有する。
【0004】
特許文献1によると、車両に搭載する加速度センサの高い故障診断機能を提供することができる。
【0005】
一方で、故障検出の診断を行う機能に関して、セルフテストを実施してセンサ素子の自己診断を実施する機能がある。セルフテストによって得られる疑似信号によって、センサ素子の感度やオフセットを算出することができるが、疑似信号はセンサ素子や信号処理回路の設置されている環境に依存しており、感度やオフセットの補正に比べると精度は低かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【0007】
本開示は上記課題に鑑みてなされ、セルフテストによって得られる疑似信号の精度を向上させるセンサシステム、センシング方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【0008】
本開示の一態様に係るセンサシステムは、センサ素子と、信号処理回路と、疑似信号補正回路と、を備える。前記センサ素子は、外力に対応する電気信号を出力する。前記信号処理回路は、前記センサ素子からの前記電気信号を所定の信号形式に変換して出力する。前記疑似信号補正回路は、前記センサ素子が出力する疑似信号を補正する。前記センサ素子は、テスト信号を受け取ると、前記テスト信号に基づいて自己診断を行い、前記自己診断の結果を表す前記疑似信号を出力する。前記疑似信号補正回路は、前記センサ素子及び前記信号処理回路の少なくとも一方の設置されている環境に関する環境情報に基づいて、前記疑似信号を補正する。
【0009】
本開示の一態様に係るセンシング方法は、センサ素子が外力に対応する電気信号を出力する第1出力ステップと、信号処理回路が前記センサ素子からの前記電気信号を所定の信号形式に変換して出力する第2出力ステップと、前記疑似信号補正回路が前記センサ素子の出力する疑似信号を補正する補正ステップと、を備える。前記センサ素子は、テスト信号を受け取ると、前記テスト信号に基づいて自己診断を行う。前記第1出力ステップでは、前記センサ素子が前記自己診断の結果を表す前記疑似信号を出力する。前記補正ステップでは、前記疑似信号補正回路が、前記センサ素子及び前記信号処理回路の少なくとも一方の設置されている環境に関する環境情報に基づいて、前記疑似信号を補正する。
【0010】
本開示の一態様に係るプログラムは、コンピュータに前記センシング方法を実行させるためのプログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るセンサシステムの構成を説明する図である。
【
図2】
図2は、同上のセンサシステムの外観を説明する図である。
【
図3】
図3は、同上のセンサシステムの自己診断入力回路を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、同上の自己診断入力回路の電源回路の回路構成例を説明する図である。
【
図5】
図5は、同上のセンサシステムの外力を測定する動作を示すシーケンス図である。
【
図6】
図6は、同上のセンサシステムの自己診断の動作を示すシーケンス図である。
【
図7】
図7Aは、同上のセンサシステムの正の加速度を印加した場合の信号レベルの時間推移である。
図7Bは、同上のセンサシステムの負の加速度を印加した場合の信号レベルの時間推移である。
【
図8】
図8A~8Cは、外力を印加した場合のオフセットの温度特性である。
図8D~8Fは、自己診断のオフセットの温度特性である。
【
図9】
図9A~9Cは、外力を印加した場合の感度の温度特性である。
図9D~9Fは、自己診断の感度の温度特性である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に説明する実施形態及び変形例は、本開示の一例に過ぎず、本開示は、実施形態及び変形例に限定されない。以下の実施形態及び変形例以外であっても、本開示に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0013】
(実施形態)
以下、本実施形態に係るセンサシステム1について、
図1~
図9Fを用いて説明する。
【0014】
(1)概要
本実施形態のセンサシステム1は、半導体パッケージ10を含んでいる。センサシステム1は、外力Fを計測して電気信号に変換し、ユーザシステム100に出力する。ここでは、外力Fとは、加速度、振動等の慣性力を想定している。センサシステム1は、慣性力のような物理量を電気信号に変換するトランスデューサである。
【0015】
半導体パッケージ10は、ユーザシステム100との間で電気信号の受け渡しをするインターフェースを備えている。半導体パッケージ10は、ユーザシステム100と、入力ポート18及び出力に関するポート14を介して接続されている。
【0016】
半導体パッケージ10は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)9と、センサ素子2としてのMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子と、を含んでいる。以降の説明においては、センサ素子2はMEMS素子2として説明する。MEMS素子2は、加速度のような慣性力や角速度等の外力Fを計測し、検出信号を出力するセンサである。さらに、MEMS素子2は、テスト信号を受けて駆動することで、自己診断応答である疑似信号を出力する。つまり、MEMS素子2は、セルフテストを実施することができる。
【0017】
本実施形態のセンサシステム1の外観を
図2に示す。ASIC9と、MEMS素子2とは、台座15に固定されている。MEMS素子2は、ケース16で覆われている。また、MEMS素子2及びASIC9を実装した台座15は、補助部材17に実装されている。補助部材17は、複数の配線を樹脂モールドしたもので、センサシステム1に対して、電極の引き回しや緩衝材として機能する。
【0018】
(2)構成
センサシステム1の構成について、
図1を参照して説明する。センサシステム1は、半導体パッケージ10を含んでいる。
【0019】
半導体パッケージ10は、MEMS素子2と、ASIC9と、を含んでいる。
【0020】
MEMS素子2は、外力に対応する電気信号を出力する。本実施形態では、MEMS素子2は、慣性力を検出する慣性力センサである。MEMS素子2は、
図2に示すように、第1慣性力センサ素子11と、第2慣性力センサ素子12と、第3慣性力センサ素子13と、を含んでいる。第1慣性力センサ素子11は、第1検出軸であるX軸に応じた慣性力を検出する。第2慣性力センサ素子12は、第1検出軸と直交する第2検出軸としてのY軸に応じた慣性力を検出する。第3慣性力センサ素子13は、第1検出軸及び第2検出軸に直交する第3検出軸としてのZ軸に応じた慣性力を検出する。MEMS素子2は、第1慣性力センサ素子11、第2慣性力センサ素子12及び第3慣性力センサ素子13のうちの少なくとも1つの慣性力センサ素子の出力結果を用いて疑似信号を出力する。
【0021】
また、MEMS素子2は、第1慣性力センサ素子11、第2慣性力センサ素子12及び第3慣性力センサ素子13のうちの少なくとも1つの慣性力センサ素子の出力結果を用いて検出信号を出力する。
【0022】
本実施形態では、MEMS素子2は、第1慣性力センサ素子11、第2慣性力センサ素子12及び第3慣性力センサ素子13を用いて、それぞれの慣性力センサ素子から疑似信号及び検出信号を送信する。
【0023】
具体的には、第1慣性力センサ素子11と、第2慣性力センサ素子12と、第3慣性力センサ素子13と、はMEMS素子2において、互いに独立している。つまり、MEMS素子2は、X軸、Y軸及びZ軸の軸毎に一対一に対応して、検出信号及び疑似信号を出力する。
【0024】
なお、以下では、第1慣性力センサ素子11と、第2慣性力センサ素子12と、第3慣性力センサ素子13のうち1つの慣性力センサ素子が出力する検出信号及び疑似信号を用いて、各構成要素を説明する。
【0025】
MEMS素子2は、外力Fを計測して電気信号である検出信号sig3を出力する。具体的には、MEMS素子2は、後述するMEMSドライバ6からMEMS素子2を駆動するMEMSドライブ信号sig2を受信する。外力Fを受けてMEMS素子2は外力Fを検知する。MEMS素子2は、変位量をASIC9から受信したMEMSドライブ信号sig2に重畳して規格化し、検出信号sig3として信号処理回路3に出力する。
【0026】
また、MEMS素子2は、自己診断(セルフテスト)を実施するように構成されている。具体的には、自己診断において、MEMS素子2は、ASIC9からテスト信号sig1として静電引力、特定の電圧パルス等を受信する。MEMS素子2は、受信した信号に応じた疑似的な応答信号を生成する。MEMS素子2は、疑似的な応答信号を疑似信号sig4として信号処理回路3に出力する。
【0027】
ASIC9は、
図1に示すように、信号処理回路3と、疑似信号補正回路4と、自己診断入力回路5と、MEMSドライバ6と、環境センサ7と、検出信号補正回路8と、を含んでいる。
【0028】
ASIC9は、入力ポート18を介して、ユーザシステム100から自己診断入力回路5及びMEMSドライバ6のいずれかを入力先として選択する選択信号sig13を受信する。選択信号sig13が自己診断入力回路5を入力先として選択する旨を表している場合には、選択信号sig13は、自己診断入力回路5に入力される。選択信号sig13がMEMSドライバ6を入力先として選択する旨を表している場合には、選択信号sig13は、MEMSドライバ6に入力される。
【0029】
自己診断入力回路5は、MEMS素子2の自己診断を実施する場合にテスト信号sig1を出力する。テスト信号sig1は、例えば、静電引力や特定の電圧パルスである。自己診断入力回路5は、選択信号sig13を受信すると、テスト信号sig1をMEMS素子2へ出力する。
【0030】
図3は自己診断入力回路5の一例を示すブロック図である。
図3に示すように、自己診断入力回路5は、電源回路51と、変換回路52と、出力制御回路53を備えている。電源回路51は、出力信号を生成する。変換回路52は、電源回路51からの出力信号L1を基にテスト信号sig1を形成する。出力制御回路53は、選択信号sig13に応じて、変換回路52からテスト信号sig1の出力を指示する出力制御信号L2を出力する。電源回路51は、例えば、電源回路51から出力される出力信号L1の温度変化に対する出力変動を抑制するバンドギャップ回路54を含んでいる。つまり、バンドギャップ回路54は、テスト信号sig1における温度特性のばらつきを低減することができる。バンドギャップ回路54は、基準電圧Vrefを出力する回路である。例えば、
図4に示すように、バンドギャップ回路54は、オペアンプ(図示例では1つのOP1)と抵抗(図示例では3つの抵抗R1,R2,R3)とトランジスタ(図示例では2つのトランジスタQ1,Q2)の組み合わせを含み、定電圧回路として基準電圧Vrefを生成し、出力する。基準電圧Vrefは、出力信号L1の基準となる電圧である。電源回路51は、バンドギャップ回路54で生成されて出力された基準電圧Vrefを基準として出力信号L1を生成する。
【0031】
図4に示すバンドギャップ回路54では、オペアンプOP1の出力端子はノードN2と接続している。ノードN2は、ノードN1を介して抵抗R3と、抵抗R2とを接続している。抵抗R2は、ノードN3を介してオペアンプOP1の反転入力端子に接続している。抵抗R3は、ノードN4を介してオペアンプOP1の非反転入力端子に接続している。抵抗R1は、ノードN4とトランジスタQ2のエミッタE2と接続している。ノードN3は、トランジスタQ1のエミッタE1と接続している。トランジスタQ2のベースB2とコレクタC2はノードN5で接続している。トランジスタQ1のベースB1は、ノードN6を介して、ノードN5と接続している。トランジスタQ1のコレクタC1は、ノードN7を介して、ノードN6に接続している。ノードN5、ノードN6、ノードN7は、接地されている。
【0032】
図4に示すバンドギャップ回路54では、温度補償は抵抗比及び電流比を使用して調整するため、2つのトランジスタQ1,Q2を1チップへ集積化し、隣り合う素子の性能等のミスマッチは小さいことを利用すれば、温度ドリフトの低減を図ることができる。このため、集積回路においてバンドギャップ回路54を使用すると、温度特性のばらつきを抑制する効果がより得やすい。
【0033】
MEMSドライバ6は、MEMS素子2を駆動するMEMSドライブ信号sig2を出力する。MEMSドライバ6は、選択信号sig13を受信すると、MEMS素子2を駆動するためのMEMSドライブ信号sig2をMEMS素子2へ出力する。
【0034】
信号処理回路3は、電気信号を処理する回路である。信号処理回路3は、MEMS素子2から外力を測定する場合には検出信号sig3を、自己診断を行う場合には疑似信号sig4をそれぞれ受信する。信号処理回路3は、センサ素子2からの電気信号を所定の信号形式に変換する。
【0035】
本実施形態では、信号処理回路3は、MEMS素子2の容量変化に関する電気信号(検出信号sig3)を受信すると、受信した検出信号sig3を電圧信号に変換する。信号処理回路3は、電圧信号に変換された検出信号sig6を検出信号補正回路8へ出力し、検出信号補正回路8によって補正された検出信号sig7を受け取る。受け取った補正された検出信号sig7をASIC9のポート14を介して、検出信号sig9としてユーザシステム100に出力する。
【0036】
一方、信号処理回路3は、疑似信号sig4を受信すると、MEMS素子2の容量変化に関する電気信号を電圧信号に変換する。信号処理回路3は、電圧信号に変換された疑似信号sig11を疑似信号補正回路4に出力する。信号処理回路3は、疑似信号補正回路4が補正した疑似信号sig12を受け取り、ASIC9のポート14を介して、受け取った疑似信号sig12を疑似信号sig10としてユーザシステム100に出力する。
【0037】
すなわち、信号処理回路3は、検出信号sig9の出力、及び疑似信号sig10の出力には、同一のポート14を使用している。つまり、信号処理回路3は、異なる信号を、同一のポート14から出力している。そのため、信号処理回路3は、疑似信号sig10と、所定の信号形式に変換された電気信号(検出信号sig9)とを、時分割で同一のポート14から出力する。
【0038】
環境センサ7は、環境情報を検知する。環境情報は、MEMS素子2及び信号処理回路3の少なくとも一方が設置されている環境での温度を表す温度情報を含んでいる。ここで、MEMS素子2及び信号処理回路3の少なくとも一方が設置されている環境とは、MEMS素子2及び信号処理回路3の少なくとも一方が設置されている空間(領域)を含む。また、MEMS素子2及び信号処理回路3の少なくとも一方が設置されている環境とは、MEMS素子2及び信号処理回路3の少なくとも一方の表面温度を含んでもよい。
【0039】
環境センサ7は、MEMS素子2及び信号処理回路3の少なくとも一方が設置されている環境での温度を、MEMS素子2及びASIC9のうち当該環境下で設置されている素子又は回路の温度として計測している。環境センサ7は、本実施形態では温度センサ7であり、以降は温度センサ7として説明する。温度センサ7は、例えば、半導体温度センサであるシリコンダイオードである。シリコンダイオードの順方向電圧には温度係数があり、温度が上がるほど順方向電圧は低下する。シリコンダイオードの両端の電圧を測定することで温度が測定できる。シリコンダイオードはPNP型トランジスタでも代用することができる。
【0040】
検出信号補正回路8は、検出信号sig6を補正する回路である。検出信号補正回路8は、信号処理回路3から検出信号sig6を受け取る。また、検出信号補正回路8は、本実施形態では、温度センサ7の検知結果である温度情報を含む環境情報を表す温度信号sig5を温度センサ7から受け取る。検出信号補正回路8は、温度信号sig5に基づいて、検出信号sig6を補正する。検出信号補正回路8は、補正した検出信号sig6を検出信号sig7として信号処理回路3に出力する。つまり、本実施形態では、検出信号補正回路8は、検出信号sig6の温度依存性を補正している。
【0041】
疑似信号補正回路4は、自己診断の結果の補正を行う回路である。疑似信号補正回路4は、信号処理回路3から疑似信号sig11を受け取る。また、疑似信号補正回路4は、温度センサ7から温度信号sig8を受け取る。疑似信号補正回路4は、温度信号sig8に基づいて、疑似信号sig11を補正する。疑似信号補正回路4は、補正された疑似信号sig11を疑似信号sig12として信号処理回路3に出力する。つまり、本実施形態では、疑似信号補正回路4は、疑似信号sig11の温度依存性を補正している。
【0042】
疑似信号補正回路4は、疑似信号sig11の温度特性を、基準となる外力の温度特性と一致するように設定している。疑似信号sig11の補正係数は、MEMS素子2のセンサ感度を調整する工程において、検出信号sig3の感度及びオフセットの温度特性の補正時に、疑似信号sig4による感度及びオフセットを取得する。検出信号sig3の感度及びオフセットと、疑似信号sig4の感度及びオフセットのずれ量は、以下の数式のようにその次数に応じて導出し、その結果をASIC9の不揮発性メモリ(不図示)に記憶しておく。
【0043】
検出信号の感度=(1+AnTn+An-1Tn-1+...)×疑似信号
検出信号のオフセット=疑似信号のオフセット+BmTm+Bm-1Tm-1+...
検出された疑似信号出力=(1+AnTn+An-1Tn-1+...)×疑似信号+BmTm+Bm-1Tm-1+...
ここで、Aを感度温度特性補正係数、Bをオフセット温度特性補正係数、nを感度温度特性補正次数、mをオフセット温度特性補正次数、としている。
【0044】
(3)動作
センサシステム1の動作について、
図5のシーケンス図を用いて説明する。
【0045】
図1に示すように、ユーザシステム100は、選択信号sig13をASIC9に入力する。つまり、ユーザシステム100は、センサシステム1が、外力を測定するか、セルフテストを実施するか、を決定する。
【0046】
ユーザシステム100は、外力の測定を選択する指示を表す選択信号sig13を出力する(ステップS1)。ASIC9のMEMSドライバ6は、ステップS1で出力された選択信号sig13をユーザシステム100から受け取ると、MEMSドライブ信号sig2を半導体パッケージ10のMEMS素子2に出力する(ステップS2)。
【0047】
MEMS素子2は、MEMSドライブ信号sig2を受信すると、外力Fを測定する(ステップS3)。MEMS素子2は、外力Fを測定した結果を検出信号sig3として出力する(ステップS4)。
【0048】
信号処理回路3は、MEMS素子2が出力した電気信号としての検出信号sig3を受け取り、所定の信号形式(ここでは電圧)に変換して検出信号sig6として検出信号補正回路8に出力する。
【0049】
環境情報を検知する環境センサである温度センサ7は、環境情報として温度を測定し、温度信号sig5を検出信号補正回路8に出力する(ステップS5)。
【0050】
検出信号補正回路8は、検出信号sig6を温度信号sig5に基づいて補正し、補正された検出信号sig6を検出信号sig7として信号処理回路3に出力する(ステップS6)。
【0051】
信号処理回路3は、補正された検出信号sig9を、ポート14を介してユーザシステム100に出力する(ステップS7)。
【0052】
次に、ユーザシステム100が自己診断入力回路5を選択した場合について、
図6のシーケンス図を用いて説明する。
【0053】
センサシステム1のセンシング方法は、センサ素子2が外力Fに対応する電気信号を出力するステップと、信号処理回路3がセンサ素子2からの電気信号を所定の信号形式に変換して出力するステップと、を備える。また、疑似信号補正回路4がセンサ素子2の出力する疑似信号を補正するステップと、を更に備える。センサ素子2が、センサ素子2及び信号処理回路3の少なくとも一方の設置されている環境に関する環境情報に基づいて、疑似信号を補正するステップを含む。
【0054】
ユーザシステム100は、セルフテストの実施を指示する選択信号sig13を出力する(ステップS11)。ASIC9の自己診断入力回路5は、選択信号sig13を受け取ると、MEMS素子2にテスト信号sig1を出力する(ステップS12)。
【0055】
MEMS素子2は、テスト信号sig1を受け取ると、テスト信号sig1に応じた自己診断を行う(ステップS13)。MEMS素子2は、自己診断の結果を表す疑似信号sig4を信号処理回路3に出力する(ステップS14)。MEMS素子2は、例えば、電圧に応じて、疑似応答を変化させる。
【0056】
信号処理回路3は、電気信号としての疑似信号sig4を所定の信号形式(ここでは電圧)に変換して疑似信号補正回路4に変換後の疑似信号sig4を疑似信号sig11として出力する。
【0057】
温度センサ7は、環境情報として温度を測定し、温度信号sig8を疑似信号補正回路4に出力する(ステップS15)。
【0058】
疑似信号補正回路4は、入力された疑似信号sig11を温度信号sig8に基づいて補正し(ステップS16)、補正された疑似信号sig11を疑似信号sig12として信号処理回路3に出力する。
【0059】
信号処理回路3は、疑似信号sig12を、ポート14を介してユーザシステム100に出力する(ステップS17)。
【0060】
以上により、ユーザシステム100は、外力の測定とセルフテストを実施することができる。なお、上述したように、ポート14では、検出信号と疑似信号とが時分割で出力されている。
【0061】
(4)セルフテストの具体例
セルフテストの具体例について説明する。
【0062】
テスト信号の内容を
図7A及び
図7Bに示す。縦軸は信号レベル、横軸には時間を示している。MEMS素子2が加速度Axyzを検出している状態であるとする。この場合、Axyzは、加速度AのX軸、Y軸及びZ軸への出力を意味している。加速度AxyzのX軸成分をAX、加速度AxyzのY軸成分をAY、加速度AxyzのZ軸成分をAZとする。また、印加する加速度がプラスの場合の応答をPositive、印加する加速度がマイナスの場合の応答をNegativeとする。
【0063】
加速度AxyzのMEMS素子2にテスト信号として更に加速度“+3G”(Gは重力加速度)を印加する場合について説明する。
図7Aの時刻aにおいて、X軸、Y軸、Z軸の全軸で同時にテストを開始する。つまり、MEMS素子2は、加速度“Axyz+3G”を印加される。時刻aから時刻bまでのセトリング時間で、加速度“Axyz+3G”に到達する。ここで、セトリング時間とは、加速度Axyzに加速度“+3G”が印加されてから、加速度“Axyz+3G”に到達するまでの時間である。最終的な目標値に到達したかどうかは、セルフテストでは、時刻bにおいて加速度の変化量が仕様内であるかどうかで判断する。また、最終的な目標値に到達したかどうかは、セトリング時間が仕様範囲内であることを確認する。
【0064】
次に、時刻cにおいて、セルフテストをキャンセルする。時刻cからセトリング時間内において、つまり
図7Aの時刻dにおいて、印加されていた加速度“+3G”はキャンセルされ、MEMS素子2は、加速度Axyzに戻っている。最終的な目標値である加速度Axyzに到達したかどうかは、時刻cから時刻dまでのセトリング時間が仕様範囲内であることで判断し、また、セトリング時間が仕様範囲内であることを確認する。このときのMEMS素子2の特性が仕様範囲内にあれば、セルフテストの結果、加速度センサは正しく動作していると確認できる。
【0065】
次に、テスト信号として加速度“-3G”を印加する場合について説明する。テスト信号を
図7Bに示す。
図7Bの時刻eにおいて、X軸、Y軸、Z軸の全軸で同時にセルフテストを開始する。MEMS素子2の感度は、時刻eから時刻fまでセトリング時間で加速度Axyzから加速度“Axyz-3G”へと変化する。次に、時刻gにおいてセルフテストをキャンセルする。時刻gから時刻hまでのセトリング時間内において、つまり
図7Bでは時刻hにおいて、印加されていた加速度“-3G”はキャンセルされ、加速度センサは加速度Axyzに戻っている。このときの加速度センサの特性が仕様範囲内にあれば、セルフテストの結果、加速度センサは正しく動作していると確認できる。
【0066】
(5)比較例の感度とオフセットの温度特性
感度とオフセットの温度特性について、
図8A~
図8Fを参照して説明する。比較例では、ASICは、検出信号補正回路は有するものの、疑似信号補正回路は有していない。そのため、比較例のASICでは、疑似信号を環境に応じて補正することはできない。
【0067】
一方、本実施形態では、ASIC9は、疑似信号sig4を環境に応じて補正する。例えば、
図7A及び
図7Bに示すように、疑似的なMEMS素子の応答をPositive(+3G印加)とNegative(-3G印加)の方向で確認し、以下の演算をすることで、自己診断の機能を利用して疑似的に感度とオフセットを算出することができる。ここで、測定した温度は、-40℃、25℃及び125℃である。
【0068】
オフセット=(Positive出力+Negative出力)/2
感度=(Positive出力―Negative出力)/2/規格化係数
ここで、規格化係数とは、印加された加速度の絶対値を重力加速度を基に規格化した数値である。例えば、疑似応答が±3Gの場合、規格化係数は「3」となる。
【0069】
図8A~
図8Cは、外力として重力加速度±1Gを印加して求めたオフセットである。
図8AはX軸方向のオフセットを、
図8BはY軸方向のオフセットを、
図8CはZ軸方向のオフセットを、それぞれ表している。
図8D~
図8Fは、重力加速度±3Gを印加して自己診断により算出した従来例のオフセットである。この場合、ASICは疑似信号補正回路は搭載していない。
図8Dは自己診断をしたときのX軸方向のオフセットを、
図8Eは自己診断をしたときのY軸方向のオフセットを、
図8Fは自己診断をしたときのZ方向のオフセットを、それぞれ表している。
【0070】
外力に対するオフセット(
図8A~
図8C参照)と、自己診断機能により算出した従来例のオフセット(
図8D~
図8F参照)と、の温度特性の相関は高いものの、特性が一致している訳ではない。このため、ユーザシステムにおいて、外力を検査工程で印加する必要があった。そのためには、動作機構を持つ検査設備が必要となり、ユーザシステムの負荷が大きくなる傾向にあった。
【0071】
一方、本実施形態では、ASIC9は、疑似信号sig4を環境(温度)に応じて補正する。このため、本実施形態のオフセットの温度特性は、外力として重力加速度±1Gを印加して算出したオフセットと高い相関を持ち、特性がほぼ一致する。
【0072】
次に、感度について説明する。
【0073】
図9A~
図9Cは、外力として重力加速度±1Gを印加して求めた感度である。
図9Aは外力を印加したときのX軸方向の感度を、
図9Bは外力を印加したときのY軸方向の感度を、
図9Cは外力を印加したときのZ軸方向の感度を、それぞれ表している。
図9D~
図9Fは、重力加速度±3Gを印加して自己診断により算出した比較例の感度である。この場合、比較例のASICは疑似信号補正回路は搭載していない。
図9Dは自己診断をしたときのX軸方向の感度を、
図9Eは自己診断をしたときのY軸方向の感度を、
図9Fは自己診断をしたときのZ軸方向の感度を、それぞれ表している。
【0074】
外力に対する感度(
図9A~
図9C参照)と、自己診断により算出した感度(
図9D~
図9F参照)と、の温度特性の相関は低い。これは、自己診断ではテスト信号として電圧を印加するが、電圧が更に温度によって変動するためと考えられる。特に
図8D及び
図8Eに示すように、低温(-40℃)と高温(125℃)で顕著に乖離している。感度では、上述したように、Positive出力とNegative出力の差分を計算するために、低温と高温とでは、誤差が増大し、結果として外力の測定結果から算出される感度と自己診断による感度は、顕著に乖離したと考えられる。
【0075】
一方、本実施形態では、ASIC9は、疑似信号sig4を環境(温度)に応じて補正する。このため、本実施形態の感度の温度特性は、外力として重力加速度±1Gを印加して算出した感度と高い相関を持ち、特性がほぼ一致する。
【0076】
このため、本実施形態では、ASIC9の中に疑似信号の温度補正を実施する回路を導入している。本実施形態において、疑似信号補正回路4を導入したことにより、オフセット及び感度の温度依存性を補正できるようになる。このため、実際に外力を印加して算出オフセット及び感度と、自己診断により算出したオフセット及び感度が、温度補正を実施しない場合に比べて、高い精度で一致する。この結果、ユーザシステム100の検査工程において実際に外力を加えなくても検査できるようになり、ユーザシステム100の負担が軽減できる。
【0077】
(6)利点
センサシステム1は、センサ素子2と、信号処理回路3と、疑似信号補正回路4と、を備える。センサ素子2は、外力に対応する電気信号を出力する。信号処理回路3は、センサ素子2からの電気信号を所定の信号形式に変換して出力する。疑似信号補正回路は、センサ素子2が出力する疑似信号を補正する。センサ素子2は、テスト信号を受け取ると、テスト信号に基づいて自己診断を行い、自己診断の結果を表す疑似信号を出力する。疑似信号補正回路4は、センサ素子2及び信号処理回路3の少なくとも一方の設置されている環境に関する環境情報に基づいて、疑似信号を補正する。
【0078】
この構成によると、セルフテストによって得られる疑似信号の精度を向上させるセンサシステムを提供することができる。
【0079】
システムの検査設備において、MEMS素子2が実装された基板に実際の外力を入力して検査しなくても、センサのセルフテスト機能を利用して疑似信号を発生させ、その信号を使用してシステムを検査することができる。このため、システムの検査設備の駆動機構が不要となる。
【0080】
(7)変形例
以下に、変形例について列記する。なお、以下に説明する変形例は、上記実施形態と適宜組み合わせて適用可能である。
【0081】
実施形態では、MEMS素子2の3軸すべてを利用する構成としたが、この構成に限定されない。ASIC9は、3軸の慣性力センサのうち、1つ又は2つの軸に対する慣性力センサの結果を用いてもよい。すなわち、ASIC9は、第1慣性力センサ素子11、第2慣性力センサ素子12、及び第3慣性力センサ素子13のうち少なくとも1つの慣性力センサの結果を用いてもよい。
【0082】
実施形態では、自己診断は電圧信号であるテスト信号sig1により駆動される構成としたが、この構成に限定されない。電圧信号に限らず、電流信号であってもよい。
【0083】
実施形態では、MEMS素子2は、外力として慣性力を検出する慣性力センサである構成としたが、この構成に限定されない。例えば、圧力を電気信号に変換するトランスデューサであってもよい。
【0084】
実施形態では、温度の補正を行う構成としたが、この構成に限定されない。例えば、耐久変動(信頼性)、湿度が挙げられる。耐久変動の場合には、ASIC9やMEMS素子2に限らず、半導体パッケージ10の全体で劣化が起こることが想定される。疑似信号を出しているASIC9の耐久変動の場合には、ASIC9を使い出してからの経年劣化が問題となる。例えば、1週間のASIC9の状態と、1箇月のASIC9の状態と、1年のASIC9の状態と、において疑似信号を比較することによって、変化量に応じた補正を疑似信号に加えることができる。つまり、経年を環境情報として補正することができる。疑似信号を用いて自己診断をする場合、疑似信号には重畳しないものの外力に影響を与える要因が反映されないために、検出信号と疑似信号とでは齟齬が生じていた。このため、本来疑似信号には重畳しない要素、例えば、温度、湿度、経年といった要素を疑似信号に重畳することによって補正し、検出信号と同じような結果を得ることができる。
【0085】
上記実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。上記実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、センサシステム1と同様の機能は、センシング方法、コンピュータプログラム、又はプログラムを記録した非一時的な記録媒体等で具現化されてもよい。一態様に係るセンサシステム1のセンシング方法は、MEMS素子2が外力に応答する電気信号を出力するステップと、信号処理回路3がMEMS素子2からの電気信号を所定の信号形式に変換して出力するステップと、疑似信号補正回路4がMEMS素子2の出力する疑似信号を補正するステップと、を備える。MEMS素子2は、MEMS素子2及び信号処理回路3の少なくとも一方の設置されている環境に関する環境情報に基づいて、疑似信号を補正するステップを、更に含む。
【0086】
一態様に係るプログラムは、コンピュータシステムを、上述したセンサシステム1又はセンサシステム1のセンシング方法として機能させるためのプログラムである。
【0087】
本開示におけるセンサシステム1は、コンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムは、ハードウェアとしてのプロセッサ及びメモリを主構成とする。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムをプロセッサが実行することによって、本開示におけるセンサシステム1としての機能が実現される。プログラムは、コンピュータシステムのメモリに予め記録されてもよく、電気通信回線を通じて提供されてもよく、コンピュータシステムで読み取り可能なメモリカード、光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。ASIC9は、半導体集積回路(IC)又は大規模集積回路(LSI)を含む1ないし複数の電子回路で構成される。ここでいうIC又はLSI等の集積回路は、集積の度合いによって呼び方が異なっており、システムLSI、VLSI(Very Large Scale Integration)、又はULSI(Ultra Large Scale Integration)と呼ばれる集積回路を含む。さらに、LSIの製造後にプログラムされる、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はLSI内部の接合関係の再構成若しくはLSI内部の回路区画の再構成が可能な論理デバイスについても、ASIC9として採用することができる。複数の電子回路は、1つのチップに集約されていてもよいし、複数のチップに分散して設けられていてもよい。複数のチップは、1つの装置に集約されていてもよいし、複数の装置に分散して設けられていてもよい。
【0088】
同様に、信号処理回路3、自己診断入力回路5、MEMSドライバ6、温度センサ7、検出信号補正回路8及び疑似信号補正回路4が同一のASIC9に搭載されていることは必須ではない。複数のASICに分散されていてもよい。また、MEMS素子2とASIC9とは同一の半導体パッケージ10に搭載されていることは必須ではなく、別々のパッケージに搭載されていてもよい。
【0089】
センシング方法は、コンピュータにより実現されてもよい。つまり、コンピュータに、上記センシング方法を実行させるためのプログラムにより実現されてもよい。
【0090】
(まとめ)
以上、説明したように、第1の態様のセンサシステム(1)は、センサ素子(2)と、信号処理回路(3)と、疑似信号補正回路(4)と、を備える。センサ素子(2)は、外力に対応する電気信号を出力する。信号処理回路(3)は、センサ素子(2)からの電気信号を所定の信号形式に変換して出力する。疑似信号補正回路(4)は、センサ素子(2)が出力する疑似信号(sig4)を補正する。センサ素子(2)は、テスト信号(sig1)を受け取ると、テスト信号(sig1)に基づいて自己診断を行い、自己診断の結果を表す疑似信号(sig4)を出力する。疑似信号補正回路(4)は、センサ素子(2)及び信号処理回路(3)の少なくとも一方の設置されている環境に関する環境情報に基づいて、疑似信号(sig4)を補正する。
【0091】
この構成によると、セルフテストによって得られる疑似信号(sig4)の精度を向上させるセンサシステム(1)を提供することができる。疑似信号(sig4)の精度が向上することによって、センサシステム(1)のユーザは、ユーザシステム(100)において、実際の外力を加えることなく検査することができ、検査工程を簡略化することができる。
【0092】
第2の態様のセンサシステム(1)では、第1の態様において、テスト信号(sig1)を出力する自己診断入力回路(5)を、更に有する。自己診断入力回路(5)は、電源回路(51)と、変換回路(52)と、出力制御回路(53)と、を備える。電源回路(51)は、出力信号(L1)を生成する。変換回路(52)は、電源回路(51)からの出力信号(L1)からテスト信号(sig1)を形成する。出力制御回路(53)は、テスト信号(sig1)を出力することを変換回路(52)に指示する。電源回路(51)は、電源回路(51)から出力される出力信号(L1)における温度変化に対する出力変動を抑制するバンドギャップ回路(54)を含む。
【0093】
この構成によると、自己診断入力回路(5)の電源回路(51)からの出力信号(L1)の温度変化に対する出力変動を抑制することで、出力信号(L1)から形成されるテスト信号(sig1)の出力変動を抑制することができる。
【0094】
第3の態様のセンサシステム(1)では、第1又は第2の態様において、環境情報を検知する環境センサ(7)を、更に備える。
【0095】
この構成によると、環境情報を検知することで、疑似信号補正回路(4)はより精度の高い補正を行うことができる。
【0096】
第4の態様のセンサシステム(1)では、第1~第3のいずれかの態様において、環境情報は環境での温度の情報を含む。
【0097】
この構成によると、温度を要因として疑似信号(sig4)の精度が低下することを抑制することができる。ここで、疑似信号(sig4)の精度の低下とは、実際に外力を加えて測定し算出した感度やオフセットと、自己診断により算出した感度やオフセットと、の値が乖離することを意味している。
【0098】
第5の態様のセンサシステム(1)では、第1~第4のいずれかの態様において、センサ素子(2)は、第1慣性力センサ素子(11)と、第2慣性力センサ素子(12)と、第3慣性力センサ素子(13)と、を有する。第1慣性力センサ素子(11)は、第1検出軸(X)に応じた慣性力を検出する。第2慣性力センサ素子(12)は、第1検出軸(X)と直交する第2検出軸(Y)に応じた慣性力を検出する。第3慣性力センサ素子(13)は、第1検出軸(X)及び第2検出軸(Y)に直交する第3検出軸(Z)に応じた慣性力を検出する。第1慣性力センサ素子(11)、第2慣性力センサ素子(12)及び第3慣性力センサ素子(13)のうちの少なくとも1つの慣性力センサ素子の出力結果を用いて疑似信号を出力する。
【0099】
この構成によると、センサシステム(1)が1軸又は多軸化することで、補正により精度が向上すると、外力を加える検査を省略することが可能となるため、ユーザシステム(100)の検査工程の負荷を抑制することができる。特に、センサシステム(1)が多軸化されて補正されると、より顕著に検査工程の負荷を抑制することができる。
【0100】
第6の態様のセンサシステム(1)では、第5の態様において、センサ素子(2)は、第1検出軸(X)、第2検出軸(Y)及び第3検出軸(Z)の軸毎に、疑似信号(sig4)を出力する。
【0101】
この構成によると、軸毎に疑似信号(sig4)を出力することができるので、軸毎に補正の次数が異なる場合にも、対応することができる。また、補正の次数が異なる場合にも対応できるようになることで、疑似信号(sig4)の精度を向上させることができる。
【0102】
第7の態様のセンサシステム(1)では、第1~第6のいずれかの態様において、信号処理回路(3)は、疑似信号と、所定の信号形式に変換された電気信号と、を時分割で同一のポート(14)から出力する。
【0103】
この構成によると、1つのポートで疑似信号と、所定の信号形式に変換された電気信号と、を時分割で検出することができるため、利便性が高い。
【0104】
第8の態様のセンシング方法は、センサ素子(2)が外力に対応する電気信号を出力するステップと、信号処理回路(3)がセンサ素子(2)からの電気信号を所定の信号形式に変換して出力するステップと、疑似信号補正回路(4)がセンサ素子(2)の出力する疑似信号を補正するステップと、を備える。センサ素子(2)は、センサ素子(2)及び信号処理回路(3)の少なくとも一方の設置されている環境に関する環境情報に基づいて、疑似信号を補正するステップを含む。
【0105】
このセンシング方法によると、セルフテストによって得られる疑似信号の精度を向上させるセンサシステム(1)を提供することができる。
【0106】
第9の態様のプログラムは、コンピュータに、第8の態様のセンシング方法を実行させるためのプログラムである。
【0107】
このプログラムによると、セルフテストによって得られる疑似信号の精度を向上させるセンサシステム(1)を提供することができる。
【符号の説明】
【0108】
1 センサシステム
2 センサ素子(MEMS素子)
3 信号処理回路
4 疑似信号補正回路
5 自己診断入力回路
51 電源回路
52 変換回路
53 出力制御回路
54 バンドギャップ回路
7 環境センサ(温度センサ)
11 第1慣性力センサ素子
12 第2慣性力センサ素子
13 第3慣性力センサ素子
14 ポート
X 第1検出軸
Y 第2検出軸
Z 第3検出軸