(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】手洗い状態の可視化判定装置および手洗い状態の可視化判定方法
(51)【国際特許分類】
G09B 19/00 20060101AFI20240126BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
G09B19/00 H
G01N21/64 F
G01N21/64 Z
(21)【出願番号】P 2020038464
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】515306367
【氏名又は名称】フーテックサービス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】310010575
【氏名又は名称】地方独立行政法人北海道立総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106954
【氏名又は名称】岩城 全紀
(72)【発明者】
【氏名】今 直樹
(72)【発明者】
【氏名】井川 久
【審査官】池田 剛志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-186438(JP,A)
【文献】特開2004-212217(JP,A)
【文献】特開2019-075043(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0321153(US,A1)
【文献】登録実用新案第3209337(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00- 9/56,
17/00-19/26
G01N 21/62-21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置本体の内部に被験者の手を入出可能な開口部を形成した手洗い状態の可視化判定装置であって、
前記装置本体の内部に蛍光物質を発光させる光を照射する照明装置と、
被験者が蛍光物質を塗布した手を洗った後に、前記装置本体の内部に差し入れた前記被験者の手に前記照明装置の光を照射するために形成した照射エリアと、
前記照射エリアにある被験者の手の蛍光状態を撮像する第一撮像装置と、
前記第一撮像装置で撮像した画像から被験者の手の洗い残し状態を数値化する画像処理装置と、
前記画像処理装置で数値化したデータを予め設定した合否判断基準値と比較して合否判定する比較判断装置と、
前記比較判断装置で判断した合否判定を表示する表示装置
とを具備し、
前記画像処理装置は、
前記画像から洗い残しエリアを抽出する洗い残しエリア抽出部と、
前記画像から手エリアを抽出する手エリア抽出部と、
前記手エリアに対する前記洗い残しエリアの面積割合を計算する洗い残し面積割合算出部と、
前記洗い残しエリアを多数に分割した単位エリア毎に蛍光の輝度値を算出し、これらの輝度値の平均値を洗い残し量として算出する洗い残し量算出部と、を備え、
前記比較判断装置は、前記洗い残し面積割合と前記洗い残し量の両方又はいずれかをデータとし、前記合否判断基準値と比較して合否判定することを特徴とする手洗い状態の可視化判定装置。
【請求項2】
前記装置本体は、折り畳み可能に形成したことを特徴とする
請求項1に記載の手洗い状態の可視化判定装置。
【請求項3】
被験者の手に蛍光物質を塗布した後に手洗いを行う蛍光物質の塗布および手洗い工程と、
手洗い状態の可視化判定装置において装置本体の内部の照射エリアに前記被験者の手を差し入れて前記蛍光物質を発光させる光を照射し、被験者の手の蛍光状態を撮像する洗い残し画像取得工程と、
前記画像から洗い残しエリアを抽出する洗い残しエリア抽出工程と、
前記画像から手エリアを抽出する手エリア抽出工程と、
前記手エリアに対する前記洗い残しエリアの面積割合を計算する洗い残し面積割合の算出工程と、
前記洗い残しエリアを多数に分割した単位エリア毎に蛍光の輝度値を算出し、これらの測定輝度値の平均値を洗い残し量として算出する洗い残し量の算出工程と、
前記洗い残し面積割合と前記洗い残し量の両方又はいずれかをデータとし、このデータを予め設定した合否判断基準値と比較して合否判定する洗い残し状態の合否判定工程と、
を備えていることを特徴とする手洗い状態の可視化判定方法。
【請求項4】
前記洗い残し状態の合否判定工程は、前記洗い残し面積割合と前記洗い残し量との総合評価値を計算し、この総合評価値を前記合否判断基準値と比較して合否判定することを備えていることを特徴とする
請求項3に記載の手洗い状態の可視化判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手洗いの仕方を訓練・教育するために、被験者が手洗いした手洗い状態を数値化且つ可視化し、又、合否を判定する手洗い状態の判定装置および手洗い状態の可視化判定方法を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食店や食品加工工場、生鮮業や青果業などの食品関連産業、病院や保健所や薬品工場などの医療関連産業、コンビニやスーパーなどのサービス関連産業などの従事者にとって食の安全安心を担保することは重要な課題である。
具体的な動向としては2020年6月から食品衛生法の改訂により、いわゆるHACCPによる衛生管理の手法が食品事業者に義務化されることになった。HACCPでは、食品事業の従事者に対して衛生教育を行うことが求められており、かかる教育の実施記録を残すことや、教育効果を確認することが重要となっている。
【0003】
これらの動向に鑑みて特に留意すべき点は、2019年4月から外国人の在留に関する法律が改訂され、外国人労働者の受け入れが可能となったことである。これまでの外国人技能実習生も合わせると、数十万人の外国人が食品関係の製造現場などで働くことになる。このような状況において、外国人労働者の主な出身地は、東南アジアの国々が多く、これらの多くの国々は水道水が飲めないといった衛生環境が良くない国である。このため、これらの国々の人は食品衛生に関する意識、特に手洗いの重要性に対する意識が極めて乏しいという課題がある。手洗いの仕方は衛生管理上、重要且つ極めて基本的な事柄である。
【0004】
従来から、適正な手洗いの仕方を確立するために種々の方法が提案されている。例えば、前述のような各施設には、適正な手洗いのためのマニュアルが準備され、それに基づいて教育されてきた。しかしながら、マニュアル通りに実行するかどうかは各従事者の主観にゆだねられるので、実際に適正な手洗いが実行されたかどうかは不明である。
【0005】
食堂や病院などの手洗いと、家庭などの手洗いとは、求められる衛生管理状況が異なるので、人がすべき手洗い動作は個々人がおかれる状況によって異なる。
そこで、特許文献1には、手洗いを行う状況に応じて、人に対して適切な手洗い動作を促すことを可能とする手洗いモニタの発明が開示されている。この手洗いモニタは、人の手洗い動作を撮像した画像における手の動作を認識し、さらにこの認識した手の動作が、人がすべき手洗い動作に関する手洗い情報に基づいて規定された手洗い動作を行ったか否かを判定することで、人に対して適切な手洗い動作を促すものである。
【0006】
また、特許文献2に記載された衛生指導装置に関する発明は、手洗いの順序を複数の図を用いて説明する表示部と、手洗いの順序の各過程における手洗い時間を利用者に知らせるタイマ部と、を備えている。利用者は、この衛生指導装置の表示部に表示される手洗い順序と、手洗い順序の各過程における手洗い時間の案内に従って手洗いを行うように構成され、これにより、誰もが同じように衛生的で確実な手洗いをすることが可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-180046号公報
【文献】実用新案登録第3133257公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の発明は、手洗い動作を訓練し教育することで適正な手洗いの仕方を確立しようとしているのであるが、利用者は自分の手洗い動作がどれほど汚れを落とす効果があるかをビジブルに認識することができない。そのために利用者に対して手洗いをすべき動機付けを与えることが難しい。
【0009】
また、特許文献2記載の発明は、手洗い順序やその手洗い順序の各過程における手洗い時間の案内に従って手洗いをするように促すもので、特許文献1記載の発明と同様に、利用者に対して自分の手洗い動作が、どれほど汚れを落とす効果があるかをビジブルに認識することができない。そのために利用者に対して手洗いをすべき動機付けを与えることが難しい。
【0010】
確かに手洗い手順や手洗い動作の仕方を教育し訓練することは必要であるが、それだけでは不十分である。実際に手洗いを行うのは利用者であるので、利用者が手洗いの重要性を意識し、手洗いをする意欲を持つことが、適正な手洗いの仕方を確立するための重要な鍵となる。
さらに、利用者が実際に手洗いを行って、汚れが落ちているかどうかをビジブルにチェックできるとしても、利用者が主観的に判断することになる。その際、利用者の体調や気分によって判断が異なってくるので、どれほど適正に汚れが落ちているかを合否判定することは難しい。このような理由から、従来の各特許文献1,2記載の発明では、利用者に対して適正な手洗いをすべき意欲的な動機付けを与えて訓練・教育することに課題があった。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、各人が手洗いの重要性を意識し、手洗いをすべき動機付けを与えることで、手洗いをする意欲を持つように訓練・教育することを可能とする手洗い状態の可視化判定装置および手洗い状態の可視化判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の発明は、装置本体の内部に被験者の手を入出可能な開口部を形成した手洗い状態の可視化判定装置である。
すなわち、前記装置本体の内部に蛍光物質を発光させる光を照射する照明装置と、被験者が蛍光物質を塗布した手を洗った後に、前記装置本体の内部に差し入れた前記被験者の手に前記照明装置の光を照射するために形成した照射エリアと、前記照射エリアにある被験者の手の蛍光状態を撮像する第一撮像装置と、 前記第一撮像装置で撮像した画像から被験者の手の洗い残し状態を数値化する画像処理装置と、前記画像処理装置で数値化したデータを予め設定した合否判断基準値と比較して合否判定する比較判断装置と、前記比較判断装置で判断した合否判定を表示する表示装置とを具備し、
前記画像処理装置は、
前記画像から洗い残しエリアを抽出する洗い残しエリア抽出部と、
前記画像から手エリアを抽出する手エリア抽出部と、
前記手エリアに対する前記洗い残しエリアの面積割合を計算する洗い残し面積割合算出部と、
前記洗い残しエリアを多数に分割した単位エリア毎に蛍光の輝度値を算出し、これらの輝度値の平均値を洗い残し量として算出する洗い残し量算出部と、を備え、
前記比較判断装置は、前記洗い残し面積割合と前記洗い残し量の両方又はいずれかをデータとし、前記合否判断基準値と比較して合否判定することを特徴とする。
【0014】
請求項2記載の発明は、前記装置本体は、折り畳み可能に形成したことを特徴とする。
【0018】
請求項3記載の発明は、請求項1に記載の手洗い状態の可視化判定装置を用いた手洗い状態の可視化判定方法である。
すなわち、被験者の手に蛍光物質を塗布した後に手洗いを行う蛍光物質の塗布および手洗い工程と、手洗い状態の可視化判定装置において装置本体の内部の照射エリアに前記被験者の手を差し入れて前記蛍光物質を発光させる光を照射し、被験者の手の蛍光状態を撮像する洗い残し画像取得工程と、前記画像から洗い残しエリアを抽出する洗い残しエリア抽出工程と、前記画像から手エリアを抽出する手エリア抽出工程と、前記手エリアに対する前記洗い残しエリアの面積割合を計算する洗い残し面積割合の算出工程と、前記洗い残しエリアを多数に分割した単位エリア毎に蛍光の輝度値を算出し、これらの測定輝度値の平均値を洗い残し量として算出する洗い残し量の算出工程と、前記洗い残し面積割合と前記洗い残し量の両方又はいずれかをデータとし、このデータを予め設定した合否判断基準値と比較して合否判定する洗い残し状態の合否判定工程と、を備えていることを特徴とする。
【0019】
請求項4記載の発明は、前記洗い残し状態の合否判定工程は、前記洗い残し面積割合と前記洗い残し量との総合評価値を計算し、この総合評価値を前記合否判断基準値と比較して合否判定することを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の手洗い状態の可視化判定装置によれば、各被験者が蛍光物質を塗布した手を洗った後の洗い残しの状態を数値化し、かつ合否判定するので、被験者は表示装置の画面に表示した判定結果を確認することができる。被験者は自分の判定結果を確認することで、洗い残しを少なくするべく手洗いの仕方を工夫するように促される。その結果、被験者は手洗いの重要性を意識し、手洗いをすべき動機付けを与えられるので、被験者自身が意欲的に手洗いの仕方を習得するように訓練・教育される。指導者は被験者に対して手洗いの訓練及び指導を容易にかつ効果的に実施することができる。
【0021】
また、画像処理装置では、画像から手エリアと洗い残しエリアを計算し、手エリアに対する洗い残しエリアの割合として洗い残し面積割合を計算できる。さらに、画像から洗い残し量を蛍光の輝度で数値化できる。したがって、比較判断装置では、洗い残し面積割合と洗い残し量の両方又はいずれかをデータとし、合否判断基準値と比較して正確に合否判定できる。
【0022】
また、装置本体は、折り畳み可能に形成したので、例えばトランクなどの収納ボックスにコンパクトに収納し、全国各地並びに外国に容易に運搬することができる。その結果、各地で被験者に対して手洗いの訓練及び指導を容易にかつ効果的に実施することができる。
【0023】
また、表示装置は、洗い残し状態の合否判定の表示内容に加えて、測定の年月日、被験者名や、顔認識表示部にて被験者の顔写真を表示するので、被験者自身が意欲的に手洗いの仕方を習得するように訓練・教育することができる。
【0024】
また、種々のデータは記憶装置に記憶されるので、手洗いの訓練・教育の履歴の教育実施記録を蓄積することができ、また今後の手洗いの訓練・教育に役立たせることが可能である。さらに、HACCPによる教育実施記録を残すことや、教育効果を確認することの指示にも的確に応じることができる。
【0025】
また、被験者の手を保持するための手保持部は、照明装置から被験者の手までの距離を所定長さで安定させるので、安定した画像を取得することができ、より正確に合否判定することができる。
【0026】
本発明の手洗い状態の可視化判定方法によれば、前述の手洗い状態の可視化判定装置を用いて行うようにしていることから、前記と同様の作用・効果を奏する。すなわち、各被験者が蛍光物質を塗布した手を洗った後の洗い残しの状態を数値化し、かつ合否判定するので、被験者は表示装置の画面に表示した判定結果を確認することができる。被験者は自分の判定結果を確認することで、洗い残しを少なくするべく手洗いの仕方を工夫するように促される。その結果、被験者は手洗いの重要性を意識し、手洗いをすべき動機付けを与えられるので、被験者自身が意欲的に手洗いの仕方を習得するように訓練・教育される。指導者は被験者に対して手洗いの訓練及び指導を、容易にかつ効果的に実施することができる。
【0027】
また、画像から手エリアと洗い残しエリアを計算し、手エリアに対する洗い残しエリアの割合として洗い残し面積割合を計算できる。さらに、画像から洗い残し量を蛍光の輝度で数値化できる。したがって、洗い残し面積割合と洗い残し量の両方又はいずれかをデータとし、合否判断基準値と比較して正確に合否判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明に係る手洗い状態の可視化判定装置の一部を示す斜視図である。
【
図2】
図1の手洗い状態の可視化判定装置の概略的な正面図、並びに、回路構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3(a)~
図3(e)は、装置本体の折り畳み並びに組立状態を示す斜視図である。
【
図4】手洗い状態の可視化判定装置における画像処理を示すフローチャートである。
【
図5】
図5(a)~
図5(e)は、
図4のステップS1,S2,S4~S8を示す説明図である。
【
図6】
図6(a)~
図6(e)は、
図4のステップS9,S10,S11を示す説明図である。
【
図8】表示装置の画面に表示される合否判定表示部と顔認識表示部を示す概略図である。
【
図9】
図9(a)は、未手洗いの状態と総合評価点を示す模式図で、
図9(b)は、手洗い1回目の状態と総合評価点を示す模式図である。
【
図10】
図10(a)は、手洗い2回目の状態と総合評価点を示す模式図で、
図10(b)は、手洗い3回目の状態と総合評価点を示す模式図である。
【
図11】表示装置の合否判定表示部の他の実施例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態に係る手洗い状態の可視化判定装置について図面を参照して説明する。
手洗い状態の可視化判定装置1は、
図1及び
図2に示すように、主として装置本体10、照明装置20、照射エリア30、第一のカメラ40(第一撮像装置)、第二のカメラ50(第二撮像装置)、画像処理装置60、比較判断装置71及び記憶装置72を備えた制御装置70、合否判定表示部81及び顔認識表示部82を有する表示装置80とを備えている。
【0030】
装置本体10は箱型形状であり、
図1において右斜め下側の正面の下部に、開口部16が形成されている。この開口部16は、被験者が両手を広げて出し入れ可能な大きさを有している。さらに、装置本体10は正面の上部に前部側板11が形成されている。さらに、装置本体10は、左側板12、右側板13、後部側板14、底板15によって閉塞されている。装置本体10の上面は天井開口部17が形成されており、この天井開口部17は天井蓋部18で被蓋されている。
【0031】
装置本体10は、本実施形態では、
図3(a)~
図3(e)に示すように折り畳み可能に構成されており、持ち運び自由なトランクなどの収納ボックスに収納可能である。例えば、前部側板11と左側板12と右側板13と後部側板14と底板15は、互いにヒンジ部19,・・・,19を介して折り畳み可能に連結されており、左側板12と右側板13は、それぞれ前後方向のほぼ中央で互いに向き合うように折り畳み可能である。底板15は後部側板14の下端縁でヒンジ部19を介して折り畳み可能に連結している。天井蓋部18は下面を開口した箱型形状である。
【0032】
図3(a)では、天井蓋部18は開口を上に向けた状態である。前部側板11と左側板12と右側板13と後部側板14と底板15は折り畳まれた状態で、天井蓋部18の開口から内部へ収納されている。
【0033】
図3(b)~
図3(d)では、前部側板11を引き上げると、左側板12と右側板13が互いに向き合うように、折り畳んだ状態から広げられて立設された状態が形成される。
なお、左側板12は、前後方向のほぼ中央で2つの分割左側板12aと分割左側板12bがヒンジ部19を介して折り畳み可能に連結されている。一方、右側板13は、前後方向のほぼ中央で2つの分割右側板13aと分割右側板13bがヒンジ部19を介して折り畳み可能に連結されている。
【0034】
図3(d)にて示されるように、前部側板11をさらに引き上げると、底板15が天井蓋部18の開口から、後部側板14の下端縁のヒンジ部19を介して広げられるように外側へ回動する。
【0035】
図3(e)では、底板15を下にしながら左側板12と右側板13を回動させて、前記底板15の上に載せた状態で固定する。天井開口部17が前部側板11と左側板12と右側板13と後部側板14の上面に形成される。天井蓋部18は、その開口を下に向けた状態で、天井開口部17を塞ぐように被蓋することで、装置本体10が
図1に示すように箱型形状に形成される。
【0036】
以上のように、装置本体10が折り畳み可能に形成されることで、本実施形態の手洗い状態の可視化判定装置1は、装置本体10と他の付属品も一括して、例えばトランクなどの収納ボックスにコンパクトに収納し、全国各地並びに外国に容易に運搬することができる。その結果、各地で被験者に対して手洗いの訓練及び指導を容易にかつ効果的に実施することができる。
【0037】
図1及び
図2に示される照明装置20は、蛍光物質を発光させる光を照射するためのもので、本実施形態では
図1に示すように4本のブラックライト22,・・・,22を使用している。各ブラックライト22,・・・,22は、紫外線(波長は395~400nm)を発するUVライトである。
【0038】
より詳しく説明すると、照明装置20は、
図1および
図2に示すように直方体形状の照明用本体21の内側下方に取り付けられているとともに、装置本体10の天井開口部17に対し、上側から着脱可能に装着できる構成である。照明用本体21の下面には、4本のブラックライト22,・・・,22が横方向且つ長手方向となるよう、前後に並列状態で装着されており、ブラックライト22,・・・,22の紫外線光が下方の被験者の両手に照射される構成である。ブラックライト22,・・・,22の紫外線光が当たると、被験者の両手に予め塗布されたローションに含まれる蛍光物質の水色が発光するようになっている。
【0039】
照射エリア30は、
図1および
図2に示すように装置本体10の底板15に両手載置台31が着脱可能に配置されており、この両手載置台31の上面の手保持部32に被験者の両手を広げて載せられると共に、この被験者の両手にブラックライト22,・・・,22の紫外線光を照射するために形成したエリアである。したがって、両手載置台31は手保持部32が4本のブラックライト22,・・・,22から両手までの距離を所定長さに適正に保持するように高さ位置を予め設定している。これによって安定した画像を取得することができ、より正確に合否判定することができる。また、照射エリア30は被験者の両手を出し入れするために装置本体10の正面の開口部16に臨んでいる。
【0040】
なお、被験者は両手に蛍光物質を含有するローションを塗布した後、このローションを所謂“汚れ”とみなして両手のローションを落とすように手洗いする。その後に両手を広げて両手載置台31の上面の手保持部32に載せる。ブラックライト22,・・・,22の紫外線光が被験者の両手に照射されると、洗い残しがあれば両手に残っている蛍光物質が発光する。
【0041】
第一のカメラ40は、
図1に示すように照射エリア30にある被験者の両手に紫外線光を照射した際に、両手に残っている蛍光物質が発光する蛍光状態を撮像する第一撮像装置である。
第一のカメラ40は、装置本体10の天井開口部17を被蓋した天井蓋部18のほぼ中央位置に着脱可能に配置しており、第一のカメラ40の下端のレンズ部41が照明用本体21の中央の2本のブラックライト22,22の間から下方に露出して照射エリア30の手保持部32に載せた両手を撮像できる構成である。
【0042】
第二のカメラ50は、被験者の顔を撮像する第二撮像装置であり、本実施形態では、
図1に示すように例えば、装置本体10の天井蓋部18の上に着脱可能に設置される。しかも、第二のカメラ50のレンズの向きが被験者の顔を撮像可能に調整できる市販のカメラを利用しており、特に限定されない。この第二のカメラは、場合によっては設置せずに、被験者を識別する他の装置、例えばバーコードリーダなどの識別装置で代用することも可能である。
【0043】
図2に示される画像処理装置60は、第一のカメラ40で撮像した画像から、被験者の両手の洗い残し状態を数値化する装置である。この画像処理装置60は、洗い残しエリア抽出部61と、手エリア抽出部62と、洗い残し面積割合算出部63と、洗い残し量算出部64とを備えている。
【0044】
画像処理方法の一例を説明すると、
図5(e)に示すように、手エリア抽出部62では画像から両手の全体面積の手エリアAaを計算する。さらに洗い残しエリア抽出部61では、
図5(c)に示すように、両手の洗い残しエリアAuを計算する。次いで、洗い残し面積割合算出部63では、手エリアAaに対する洗い残しエリアAuの割合を計算する。本実施形態では、この割合を“洗い残し面積割合”とする。
【0045】
さらに、洗い残し量算出部64では、両手の洗い残しエリアAuの画像から、洗い残し量(蛍光物質の残量)を蛍光の輝度(濃さ)で数値化する。つまり、洗い残し量が多くなるほど蛍光の輝度(濃さ)が高くなることから、洗い残しエリアAuを多数の測定用単位エリアに分割することで、各測定用単位エリア毎に蛍光の輝度値を測定する。これらの測定輝度値の平均値を、洗い残しエリアAuにおける“洗い残し量(濃さ)”とする。
【0046】
比較判断装置71は、
図2に示すように制御装置70に内蔵、若しくは接続されており、画像処理装置60で数値化したデータを予め設定した合否判断基準値と比較して合否判定する装置である。
前述のように画像処理装置60で数値化した“洗い残し面積割合”と“洗い残し量(濃さ)”から総合評価値を算出する。洗い残し状態を総合評価する際に、本実施形態では“洗い残し面積割合”の重要度を高くする。例えば、“洗い残し面積割合”の評価値を8割とし、“洗い残し量(濃さ)”の評価値を2割とすることで、総合評価値は0~100点の点数で表すことができる。なお、この重要度の割合は特に限定されない。
一方、合否判断基準値は、例えば総合評価値を5段階に分けてA判定~E判定の判定基準値とすることができる。なお、この判定基準値の設定は特に限定されない。
【0047】
なお、比較判断装置71では、前述のように洗い残し面積割合と洗い残し量の両方を使用することが望ましいが、いずれか一方をデータとして使用することもできる。
【0048】
記憶装置72は、
図2に示すように制御装置70に内蔵、若しくは接続されており、比較判断装置71で判断した合否判定のデータ、第二のカメラ50(第二撮像装置)で撮像した被験者の顔のデータ、並びに他のデータを記憶する装置である。
【0049】
図2に示される表示装置80は、例えばモニタなどの画面に表示する装置であり、比較判断装置71で判断した合否判定を表示する合否判定表示部81と、第二のカメラ50(第二撮像装置)で撮像した被験者の顔を表示する顔認識表示部82を有する。
合否判定表示部81は、
図8に示すように例えば被験者名および社員番号、測定の年月日、手のひら(表)の評価点とその判定結果の欄、手の甲(裏)の評価点とその判定結果の欄、手の表裏の合計評価点およびその合計評価点を総合的に判定した総合判定の欄などが表示される。顔認識表示部82は例えば被験者の顔写真が表示される。
なお、本実施形態では第一及び第二のカメラ40,50を具備する構成としているが、前述したように、第二のカメラ50を設けず、被験者の情報を特定し関連付けるためにバーコードリーダなど、他の識別手段を用いた構成も可能である。或いは、このような識別手段を設けず、手洗いの状態を可視化する純然たる合否の判定装置とすることもでき、用途に応じた構成が可能である。
【0050】
次に、本実施形態の手洗い状態の可視化判定方法について、前述の手洗い状態の可視化判定装置1を用いて説明する。
手洗い状態の可視化判定方法は、各被験者が手洗いの重要性を意識し、手洗いをすべき動機付けを与えることで、手洗いをする意欲を持つように訓練・教育するものである。実際の手洗いの状態を監視したり検査したりするためのものではない。
蛍光物質を含有するローションを所謂“汚れ”とみなして、各人が両手のローションを水洗いで落とした後に、残存した蛍光物質の所謂“汚れ”がどの程度落ちたかを各人がビジブルに確認できるようにする。しかも、単に各人が目視で個人的な判断で合否判定するのではなく、洗い残しの状態を数値化し、予め設定した判断基準値に対する合否判定を与えるものである。その合否判定結果から、各人がどうすれば“汚れ”が落ちるかを考え工夫することで、手洗いの仕方を習得するものである。
【0051】
〔蛍光物質の塗布および手洗い工程〕
まず、被験者は蛍光物質を含有するローションを両手に満遍なく塗布する。その後、ローションを所謂“汚れ”とみなして両手のローションを落とすように手洗いする。この時、洗い残し(蛍光物質の付着)があっても被験者の目視では分からない状態である。
【0052】
〔洗い残し画像取得工程〕
次いで、被験者は、
図1に示すように両手を広げて装置本体10の開口部16から照射エリア30内の両手載置台31の上面の手保持部32に載せる。ブラックライト22の紫外線光(波長は395~400nm)が被験者の両手に照射されると、
図5(a)に示すように洗い残しがあれば両手に付着して残っている蛍光物質が水色で発光する。
両手の蛍光状態を第一のカメラ40で撮像して画像を取得する(
図4のステップS1)。この画像はRGB表色系である。RGB表色系とは、赤・緑・青(RGB)の3つの単色光を3原色としたものである。すなわち、赤色(R)は波長700.0nmで、緑色(G)は波長546.1nmで、青色(B)は波長435.5nmである。
【0053】
〔洗い残しエリア抽出工程〕
画像処理装置60では、
図5(a)に示すようにRGB表色系からHSV(色相・彩度・明度)表色系へ変換する(
図4のステップS2)。なお、RGB表色系は画像に用いられるが、認識には有効ではない。一方、より人間の感覚に近いHSV表色系は、認識に適している。
さらに、画像処理装置60では、
図5(b)に示すように前記の取得した画像に対して色相で水色付近の領域を抽出するように閾値を設定することで、洗い残しエリアAuを抽出する(
図4のステップS3,S4)。一例としての洗い残しエリアAuは、
図5(c)に示すように57933pixelとなった(
図4のステップS5)。
【0054】
〔手のエリア抽出工程〕
また、手エリアAaにおける洗い残しエリアAuの割合を求めるために、
図5(a)に示すように装置本体10内面の照射エリア30内に、ローションの蛍光物質の水色とは異なる色を発色する蛍光物質を使用することで、手エリアAaを抽出する。本実施形態では、
図5(d)に示すように紫色を発色する蛍光物質を使用した。手エリアAaは、色相で紫色付近以外の領域を抽出するように閾値を設定することで、手エリアAaの面積を抽出する(
図4のステップS3,S6)。一例としての手エリアAaは、
図5(e)に示すように87093pixelとなった(
図4のステップS7)。
なお、手エリアAaを抽出するために発色する蛍光物質は、水色近傍以外の色であればよく、例えば赤色、もしくはまったく色を返さない黒でもよい。
【0055】
〔洗い残し面積割合の算出工程〕
洗い残し面積割合は、手エリアAaに対する洗い残しエリアAuの割合を計算する。すなわち、一例としての洗い残し面積割合は、
図5に示すように前述の洗い残しエリアAuのピクセル数と手エリアAaのピクセル数で計算する。すなわち、洗い残し面積割合(%)=(洗い残しエリアAuのピクセル数÷手エリアAaのピクセル数)×100=(57933pixel/87093pixel)×100=67(%)となった(
図4のステップS8)。
【0056】
〔洗い残し量(蛍光物質の残量)の算出工程〕
洗い残しエリアAuにおける洗い残し量(蛍光物質の残量)は、両手の洗い残しエリアAuの画像を蛍光の輝度(濃さ)で数値化することで、洗い残し量の判定のバロメータとする。
【0057】
一例を説明すると、両手の洗い残しエリアAuの色相画像は、
図6(a)から
図6(b)に示すようにグレースケール化する。すなわち、グレースケール化された画像は、光が最も強い白から最も弱い黒までの間の灰色の明暗も含めて表示される。
洗い残しエリアAuは、
図6(c)に示すように測定用単位エリアに分割し、各測定用単位エリア毎に蛍光の輝度値(0~255)を測定する。なお、
図6(c)の表は、
図6(b)の洗い残しエリアAuの一部を各測定用単位エリア毎に測定した輝度値を示している。
【0058】
さらに各測定輝度値は、
図6(c)の表から
図6(d)の表に示すように蛍光の最大輝度値(255)に対する割合に変換して正規化する。すなわち、正規化した数値は輝度値(0~1)で変換され、本実施形態では“正規化輝度値”と称する。
【0059】
したがって、洗い残しエリアAuの全体の洗い残し量は、
図6(e)に示すように正規化輝度値のヒストグラムで示すことができる。この正規化輝度値のヒストグラムの平均値が、洗い残しエリアAuにおける“洗い残し量(濃さ)”となる。
この
図6の例では、正規化輝度値の平均値が0.4955であるので、%に変換すると、洗い残し量(濃さ)は約50%となる。
【0060】
〔洗い残し状態の総合評価値の合否判定工程〕
前述の数値化した “洗い残し面積割合”と“洗い残し量(濃さ)”から総合評価値を算出する。例えば、“洗い残し面積割合”と“洗い残し量(濃さ)”はいずれも数値が小さくなるほど洗い残しが少なくなることを示すものである。総合評価としては、洗い残しが少なくなるほど評価点が高くなるように100点を上限として計算する。
【0061】
例えば、(1-“洗い残し面積割合”)を面積割合の評価値とし、(1-“洗い残し量(濃さ)”)を量(濃さ)の評価値とすると、各評価値は洗い残しが少なくなるほど数値が上昇する。さらに面積割合に対する評価の重要度を上げるために、各評価値に対して重み係数をつける。例えば、面積割合の評価値を8割とし、量(濃さ)の評価値を2割とする。
したがって、総合評価としては、総合評価点={(1-“洗い残し面積割合”)×0.8+(1-“洗い残し量(濃さ)”)×0.2}×100として表わされる。
【0062】
一例として、
図7で示される処理結果の画像では、“洗い残し面積割合”が0.6651で、洗い残し量(濃さ)” が0.4955である場合、総合評価点={(1-0.6651)×0.8+(1-0.4955)×0.2}×100=37(点)となる。
【0063】
また、合否判断基準値としては、例えば上記の総合評価点が、5段階に分けて81~100点でA判定、61~80点でB判定、41~60点でC判定、21~40点でD判定、0~20点でE判定とすることができる。
したがって、
図7で示される処理結果の画像に対する判定結果はD判定である。
さらに、一人の被験者に対しては、手のひら(表)の評価点と手の甲(裏)の評価点を総合的に判定する総合判定基準値を設定し、総合判定することができる。
【0064】
以上のように判定した総合評価点は、
図8に示すように表示装置80の画面に表示される。すなわち、合否判定表示部81は、測定の年月日、被験者名、総合評価点などが表示され、顔認識表示部82は被験者の顔写真が表示される。
【0065】
以上のことから、指導者が被験者に対して手洗いの訓練及び指導を行う際に、手洗い状態の可視化判定装置1を用いると、各被験者がローションを塗布した両手を洗った結果が表示装置80のモニタに数値的に表示され、かつ合否判定されるので、被験者が洗い残しを少なくするように手洗いの仕方を工夫するように促される。その結果、被験者が手洗いの重要性を意識し、手洗いをすべき動機付けを与えられるので、被験者自身が意欲的に手洗いの仕方を習得するように訓練・教育される。指導者は被験者に対して手洗いの訓練及び指導を容易にかつ効果的に実施することができる。
【0066】
また、種々のデータは記憶装置72に記憶されるので、手洗いの訓練・教育の履歴の教育実施記録を蓄積することができ、また今後の手洗いの訓練・教育に役立たせることが可能である。さらに、HACCPによる教育実施記録を残すことや、教育効果を確認することの指示にも的確に応じることができる。
【0067】
一例として、一人の被験者は、
図9および
図10に示すように手洗い1回目と手洗い2回目と手洗い3回目におけるそれぞれの総合評価を確認しながら手洗いの仕方を訓練・教育されていることが分かる。
【0068】
また、表示装置80の画面に表示される合否判定表示部81は、
図11に示すように被験者の氏名と、手のひら(表)と手の甲(裏)の処理結果の画像を表示し、例えば各画像の中に、例えば
図11では画像の左上に100点満点中の何点かの評価点を表示する。さらに、総合評価点の判定はA,B,C,D,Eの5段階評価とした場合、被験者の総合評価点をA,B,C,D,Eの文字やイラストで明確に表示することができる。さらに、
図11に示すように前述の顔認識表示部82の顔写真はなくてもよい。
以上のように、合否判定表示部81の表示の仕方は、被験者に対して手洗いをすべき動機付けを与えるために様々な工夫をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、飲食店や食品製造業などの食品関係、介護施設や保育園や学校など多くの人が集まる施設、病院や保健所や薬局や薬品工場などの医療関連施設、コンビニやスーパーなどのサービス業など広範囲の分野において、利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0070】
1 手洗い状態の可視化判定装置
10 装置本体 11 前部側板
12 左側板 13 右側板
14 後部側板 15 底板
16 開口部 17 天井開口部
18 天井蓋部 19 ヒンジ部
20 照明装置 21 照明用本体
22 ブラックライト
30 照射エリア 31 両手載置台
32 手保持部
40 第一のカメラ(第一撮像装置) 41 レンズ部
50 第二のカメラ(第二撮像装置)
60 画像処理装置 61 洗い残しエリア抽出部
62 手エリア抽出部 63 洗い残し面積割合算出部
64 洗い残し量算出部
70 制御装置 71 比較判断装置
72 記憶装置
80 表示装置 81 合否判定表示部
82 顔認識表示部
Aa 手のエリア
Au 洗い残しエリア