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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】免震装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/023 20060101AFI20240126BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240126BHJP
   F16F 9/02 20060101ALI20240126BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
F16F15/023 A
E04H9/02 331Z
F16F9/02
F16F9/32 V
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020049156
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021148207
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501138231
【氏名又は名称】国立研究開発法人防災科学技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】390027292
【氏名又は名称】根本企画工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 学
(72)【発明者】
【氏名】梶原 浩一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 栄児
(72)【発明者】
【氏名】早津 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】根本 功
(72)【発明者】
【氏名】根本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】嘉瀬 英夫
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-204763(JP,A)
【文献】特開2010-014159(JP,A)
【文献】特開平11-264446(JP,A)
【文献】登録実用新案第3221835(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/023
E04H 9/02
F16F 9/02
F16F 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被支持物と土台との間に配置されて、前記被支持物と前記土台とのいずれか一方に固定されて上下方向に向けて配置されたシリンダと、前記被支持物と前記土台とのいずれか他方に連結されかつ前記シリンダに抜き差し可能に挿入されたピストンとを有し、かつ前記シリンダに充填された圧縮性流体の圧力によって前記被支持物の荷重を支える流体ばね機構を備え、前記荷重を支える前記圧力に応じた支持力と前記荷重とが均衡するように前記流体ばね機構に前記圧縮性流体を連続的に供給するとともに前記流体ばね機構から前記圧縮性流体を漏洩させ、振動によって前記荷重が増大する場合には前記圧縮性流体の漏洩に対する抵抗力を増大させるとともに振動によって前記荷重が低下する場合には前記圧縮性流体の漏洩に対する抵抗力を低下させるように構成された免震装置であって、
前記シリンダの内部の前記圧縮性流体を漏洩させるとともに、前記圧縮性流体の漏洩に対する抵抗力を前記振動に基づく荷重の変化に応じて変化させる漏洩調整機構が前記流体ばね機構とは別体に設けられ、
前記漏洩調整機構は、前記シリンダに連通管によって連通されかつ前記被支持物と前記土台とのいずれか一方に取り付けられた、前記シリンダより内径の小さい内径の小口径シリンダと、前記小口径シリンダの内部に前記小口径シリンダの内周面との間に隙間をあけた状態で挿入されかつ前記被支持物と前記土台とのいずれか他方に取り付けられたプランジャ軸とを有し、
記小口径シリンダの内周面と前記プランジャ軸の外周面との間の前記隙間が前記圧縮性流体を漏洩させる漏洩流通部となっており、
前記被支持物の前記土台に対する相対的な上昇および下降によって前記プランジャ軸が前記小口径シリンダに対して抜き差しされて前記隙間の前記小口径シリンダおよび前記プランジャ軸の軸線方向における長さが変化して前記圧縮性流体の流れに対する抵抗力が変化するように構成されている
ことを特徴とする免震装置。
【請求項2】
請求項1に記載の免震装置において、
前記被支持物が前記土台に対して相対的に上昇および下降する際に、前記小口径シリンダと前記プランジャ軸とが同一軸線上の位置を維持するように案内するガイド機構が更に設けられていることを特徴とする免震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震等による揺れを緩和し、建物や機器を保護する免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の免震装置は、建物や機械装置類など(以下、仮に、これらまとめて構造物と記す)の荷重を弾性機構によって支えるのが基本的な構成である。したがって、構造物と免震装置とが所定の固有振動数の振動系を構成する。その固有振動数が地震による振動数と一致すると、構造物が共振によって大きく揺れてしまう。そのため、免震装置としては、ばね定数の小さい弾性機構を主体として構成することが望まれる。
【0003】
免震装置に採用できる弾性機構としてゴムを使用した機構や空気ばねを採用した機構が知られている。これらの弾性機構のうち空気ばねは、圧縮性流体である空気の弾性を利用したばねであり、空気の圧力や体積はボイルの法則に従って変化するから、反力(圧力)と変位量(圧縮量)との比であるばね定数は非線形特性を示す。そのばね定数は、支えている構造物の重量(荷重)が小さいことにより変位量(圧縮量)が小さければ小さいほど小さくなり、荷重が大きいことによって変位量(圧縮量)が大きければ大きいほど大きくなる。
【0004】
免震装置として空気ばねを使用する場合、支える荷重が大きいことにより、空気圧が高くなって実質的なばね定数が大きくなる。すなわち、その免震装置を含む振動系の固有振動数が大きくなり、地震による揺れを防止もしくは緩和するためには、空気ばねをそのまま使用することは困難である。そこで従来では、空気を充填するチャンバーを蛇腹構造としたり、ゴムなどの弾性材で構成したり、さらにはリザーバータンクを繋いで空気をチャンバーに対して出し入れするなどの構造が知られている。さらにシリンダから空気を継続的に漏洩させるとともに、その漏洩する空気流に対する抵抗を生じさせて、荷重と空気による弾性力とをバランスさせる構成が知られている。
【0005】
この種の装置の一例が、特許文献1に記載されている。その構成を簡単に説明すると、シリンダが鉛直方向で上向きに設置され、構造物などの被支持物に取り付けたピストン(もしくはプランジャ)がシリンダにその上側から挿入されている。そのシリンダの内周面とピストンの外周面との間に僅かな隙間をあけてあり、ここから空気が漏れ出るように構成されている。したがって、シリンダとピストンとは接触していないことにより被支持物を上下方向にガイドする機構が必要であり、特許文献1に記載された装置では、シリンダおよびピストンと平行にガイド機構が設けられている。さらに、シリンダの内部には、空気をチョーク流れに制御して連続的に供給するようになっている。
【0006】
特許文献1に記載されている装置では、空気がシリンダとピストンとの間の隙間を通って外部に流れる際にその隙間の大きさおよび空気の粘性で決まる抵抗が生じ、その流動抵抗およびシリンダに対する空気の供給圧に応じた圧力がシリンダの内部の圧力になる。したがって、地震などによって、シリンダの内部の空気を圧縮する方向の荷重が増大すると、シリンダとピストンとの間の隙間から漏れ出る空気の量が増大しようとするが、シリンダとピストンとが嵌合している部分の長さすなわち上記の隙間の長さが長くなって空気に対する流動抵抗が増大し、それに伴ってシリンダの内部の空気圧が高くなる。すなわち、支えている構造物の下方向への移動(振動)が規制もしくは抑制される。反対にシリンダ内の容積が増大する方向に構造物が移動(振動)した場合には、上記の隙間の長さが短くなって空気に対する流動抵抗が小さくなるので、空気の漏洩によってシリンダ内の空気圧の増大が抑制され、その結果、構造物が過度に押し上げられることがない。このような空気圧による荷重の支持力の増大および減少が、地震などの振動に対して遅れるので、振動を緩和し、被支持物の揺れを防止あるいは抑制できる。
【0007】
このようにしてシリンダの内部の圧力に基づくピストンの押し上げ力と、ピストンに掛かる荷重とがバランスすることにより、ピストンおよびこれが連結されている構造物が所定の高さ位置に保持される。これがピストンの中立位置である。この中立位置は、供給圧やシリンダから漏れ出る空気の流動抵抗によって変化するから、供給圧を適宜に調整することにより中立位置(あるいは構造物の支持高さ位置)を適宜に設定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-204763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された装置では、シリンダの内部の圧力によって生じるピストンの押し上げ力が、荷重を支える弾性力となるから、建物などの大きい構造物の荷重を支える場合には、複数本のシリンダおよびピストンを用いるとしても、シリンダおよびピストンはかなり大口径のものとなる。それに伴いシリンダとピストンとの間の隙間の周長が長くなるから、空気を排出する隙間の開口面積(流路面積)が広く、その結果、振動のない定常状態においても空気の排出量が多くなってランニングコスト(運転コスト)が高くなる虞がある。
【0010】
また、シリンダとピストンとの間の隙間を空気が流れる際の粘性に基づく抵抗力が、シリンダの内部の圧力および荷重を支える弾性力を決める。したがって、その隙間の寸法精度は、免震装置の精度に大きく影響するので、シリンダとピストンとが嵌合する部分の内径および外径には高い寸法精度が要求される。しかしながら、特許文献1に記載された構成では、大口径のシリンダおよびピストンに高精度の加工を施すことになるので、必要とする高精度の加工を行うことが困難であり、また加工に高コストがかかる可能性がある。
【0011】
本発明は上記の事情を背景としてなされたものであって、固有振動数を低下させることができるとともに低コスト化を図ることのできる免震装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の目的を達成するために、被支持物と土台との間に配置されて、前記被支持物と前記土台とのいずれか一方に固定されて上下方向に向けて配置されたシリンダと、前記被支持物と前記土台とのいずれか他方に連結されかつ前記シリンダに抜き差し可能に挿入されたピストンとを有し、かつ前記シリンダに充填された圧縮性流体の圧力によって前記被支持物の荷重を支える流体ばね機構を備え、前記荷重を支える前記圧力に応じた支持力と前記荷重とが均衡するように前記流体ばね機構に前記圧縮性流体を連続的に供給するとともに前記流体ばね機構から前記圧縮性流体を漏洩させ、振動によって前記荷重が増大する場合には前記圧縮性流体の漏洩に対する抵抗力を増大させるとともに振動によって前記荷重が低下する場合には前記圧縮性流体の漏洩に対する抵抗力を低下させるように構成された免震装置であって、前記シリンダの内部の前記圧縮性流体を漏洩させるとともに、前記圧縮性流体の漏洩に対する抵抗力を前記振動に基づく荷重の変化に応じて変化させる漏洩調整機構が前記流体ばね機構とは別体に設けられ、前記漏洩調整機構は、前記シリンダに連通管によって連通されかつ前記被支持物と前記土台とのいずれか一方に取り付けられた、前記シリンダより内径の小さい内径の小口径シリンダと、前記小口径シリンダの内部に前記小口径シリンダの内周面との間に隙間をあけた状態で挿入されかつ前記被支持物と前記土台とのいずれか他方に取り付けられたプランジャ軸とを有し、前記小口径シリンダの内周面と前記プランジャ軸の外周面との間の前記隙間が前記圧縮性流体を漏洩させる漏洩流通部となっており、前記被支持物の前記土台に対する相対的な上昇および下降によって前記プランジャ軸が前記小口径シリンダに対して抜き差しされて前記隙間の前記小口径シリンダおよび前記プランジャ軸の軸線方向における長さが変化して前記圧縮性流体の流れに対する抵抗力が変化するように構成されていることを特徴としている。
【0014】
さらに、この発明では、前記被支持物が前記土台に対して相対的に上昇および下降する際に、前記小口径シリンダと前記プランジャ軸とが同一軸線上の位置を維持するように案内するガイド機構が更に設けられていてよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被支持物の荷重を流体ばね機構が支える。その流体ばね機構は、圧縮性流体を充填したものであって弾性を有しており、したがって地震などによって土台が振動すると、流体ばね機構が伸縮して振動を吸収もしくは低減する。振動によって前記荷重が増大すると、圧縮性流体が流体ばね機構からこれとは別体に設けられている漏洩調整機構を介して外部に漏れ出るので、流体ばね機構のばね定数は増大せず、あるいは増大が抑制される。そのため、被支持物を含む振動系の固有振動数を小さくすることができる。
【0016】
特に本発明では、被支持物が土台側に相対的に下降して流体ばね機構を圧縮する場合、漏洩調整機構では、流体ばね機構におけるシリンダとは別体に設けられている小口径シリンダから漏れ出る圧縮性流体の流動に対する抵抗が増大し、圧縮性流体の漏洩を制限もしくは抑制する。そのため、流体ばね機構におけるシリンダに圧縮性流体が連続的に供給されていることと相まって、流体ばね機構における圧縮性流体の前記小口径シリンダを介した漏洩に基づく圧力の低下が抑制され、もしくはその圧力が維持される。また、被支持物が土台から離隔する方向に上昇して流体ばね機構に掛かる荷重が低下する場合、漏洩調整機構では、その小口径シリンダから漏れ出る圧縮性流体の流動に対する抵抗が低下して流体ばね機構の圧力が低下するので、被支持物を過度に押し上げることがない。したがって、流体ばね機構は圧縮性流体の連続的な供給と漏洩とを伴って被支持物を弾性的に支え、そのばね定数を小さくして固有振動数を低下させることができる。
【0017】
そして、特に、本発明では、流体ばね機構には、支える荷重に応じた大きさが要求されて大型化する要因が多分にあるが、流体ばね機構とは別体に設けられている漏洩調整機構は、漏洩する圧縮性流体の流動に対する抵抗力を、土台に対する被支持物の相対的な上昇および下降に応じて変化させる機能を有していればよいので、大型化する要因が殆どなく、少なくとも流体ばね機構に比較して大幅に小型化することができる。したがって、圧縮性流体を連続的に漏洩させるとしても、小型化によって漏洩流通部の開口面積を小さくし、圧縮性流体の消費量を少なくすることができる。また、その漏洩量に影響する漏洩流通部の寸法精度を高くする必要があるとしても、その漏洩流通部は小型化によって小さい寸法のものとなるから、高精度の加工を容易に行うことができる。このように、本発明によれば、ランニングコストおよび製造・加工コストを低廉化した免震装置を提供することができる。
【0018】
また、本発明では、漏洩調整機構を、小口径シリンダとプランジャ軸との間の隙間を漏洩流通部とした構成であるから、相対的に上下動するサブ小口径シリンダとプランジャ軸とが接触しないので、それらの摩耗や耐久性の低下を未然に回避できる。また、これら小口径シリンダおよびプランジャ軸とは流体ばね機構におけるシリンダおよびピストンと併用されるものであって、荷重を支えるとしても流体ばね機構に掛かる荷重以外の残余の小さい荷重を支えればよいので小型化でき、したがって小口径シリンダやこれに嵌合させられるプランジャ軸における前記隙間の部分を高精度に、また容易に加工しあるいは仕上げることができる。この点でも低コスト化を図ることができる。
【0019】
さらに、本発明では、ガイド機構を設けることによりシリンダとプランジャ軸とのいわゆる芯ずれを回避もしくは抑制できるので、圧縮性流体の漏洩量や流体ばね機構での圧縮性流体の圧力を、より正確に維持あるいは制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の免震装置の一例を模式的に示す正面断面図である。
図2】その漏洩調整機構における漏洩流通部を模式的に示す部分断面斜視図である。
図3】漏洩調整機構の他の例を模式的に示す断面図である。
図4】ガイド機構の構成を変更した他の免震装置の例を模式的に示す正面断面図である。
図5】ガイド機構の構成を変更した更に他の免震装置の例を模式的に示す正面断面図である。
図6】ガイド機構の構成を変更したまた更に他の免震装置の例を模式的に示す正面断面図である。
図7】一つの漏洩調整機構を複数の空気ばねで共用した例を模式的に示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明の一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0022】
図1に本発明を実施した場合の一例を模式的な断面図で示してある。ここに示す免震装置1は、建物や機械設備などの被支持物2を下から支える流体ばね機構3と、その流体ばね機構3の圧縮性流体の漏洩を制御する漏洩調整機構4と、流体ばね機構3や漏洩調整機構4の上下方向への動作を案内するガイド機構5とを主体にして構成されている。
【0023】
流体ばね機構3は、空気などの圧縮性および粘性のある気体の弾性力を利用したばね機構であり、空気ばねと称される機構が最も一般的である。その一例として図1に示す流体ばね機構(以下、空気ばねと称することがある)3は、被支持物2が配置される土台6と被支持物2とのいずれか一方に一体化させて取り付けられるシリンダ7と、シリンダ7の内部に抜き差し可能に挿入されかつ土台6と被支持物2とのいずれか他方に取り付けられるピストン8とを有し、これらの内部に圧縮性流体として加圧空気を入れるように構成されている。
【0024】
図1に示す例では、シリンダ7は、底面が閉じた円筒状をなし、その開口端が上側になるように土台6の上に固定されている。また、ピストン8は、シリンダ7の内径程度の外径の円筒状の部材であり、その上端部にはシリンダ7の上方を覆う程度の広さを持ったプレート9に一体化されている。このプレート9の上に被支持物2が載せられており、したがってピストン8は被支持物2の下面側に一体に連結されていることになる。さらに、シリンダ7の開口端側(上端側)の内周面に、ピストン8との間を気密状態に維持するためのシールリング10が嵌め込まれている。ピストン8の外周面のうち、少なくとも、シリンダ7に対して相対的に上下動した際にシールリング10に接触する範囲の箇所は気密性が損なわれないように精度よく仕上げられている。なお、シールリング10を一箇所に設けた理由は、シリンダ7の内周部を高精度に加工する箇所を少なくするとともに、ピストン8との間の摺動抵抗を小さくして振動低減作用を良好にするためである。
【0025】
シリンダ7には空気を供給するための給気管11が接続されており、図示しない空気ボンベやコンプレッサーなどの空気源からシリンダ7の内部にこの給気管11を介して加圧空気が供給される。その給気管11の途中にはオリフィス12が設けられ、空気流をここでチョーク流れとするようになっている。すなわち、シリンダ7には空気が質量流量を一定に維持して供給される。
【0026】
つぎに漏洩調整機構4について説明する。図1に示す例では、被支持物2の荷重を支える上記の空気ばね3をメインシリンダとした場合、漏洩調整機構4はメインシリンダに比較して大幅に細いサブシリンダによって構成されている。すなわち漏洩調整機構4は、小口径シリンダ13とその内部に抜き差し可能に挿入されたプランジャ軸14を主体にして構成されている。なお、これら小口径シリンダ13およびプランジャ軸14が本発明における可動部に相当している。小口径シリンダ13は底部が閉じかつ上端が開口した筒状体であり、前述した土台6の上に、前記シリンダ7と同様に、鉛直上方に向けて固定されている。これに対して、プランジャ軸14は中実もしくは中空の軸であって、前述したプレート9の下面に鉛直下方に向けて取り付けられており、したがってプランジャ軸14は被支持物2に一体化されている。なお、本発明では、これら小口径シリンダ13とプランジャ軸14との取り付け位置は図1とは反対になっていてもよく、小口径シリンダ13が土台6上に固定され、小口径シリンダ13がその開口端を下にして被支持物2もしくはプレート9に固定されていてもよい。
【0027】
小口径シリンダ13は空気を流通させる連通管15によって、空気ばね3におけるシリンダ7に接続されている。また、プランジャ軸14の外径D14は、図2に示すように、空気が少量ずつ漏洩する隙間が生じるように、小口径シリンダ13の内径D13よりも小さくなっている。この隙間が、本発明における漏洩流通部16となっている。この漏洩流通部16は、ここを流通する空気が粘性流体であることにより、空気流に絞りを与えて粘性に基づく流動抵抗を生じさせるためのものである。その流動抵抗(粘性抵抗)は、空気の粘度以外に、漏洩流通部16の開口幅(上記の各外径D13,D14の寸法差)および長さ(小口径シリンダ13に対するプランジャ軸14の嵌合長さ)Lによって決まる。したがって、小口径シリンダ13の内径D13およびプランジャ軸14の外径D14は、誤差がマイクロメータオーダーもしくは数十マイクロメータオーダーとなるように高精度に仕上げられている。なお、本発明において、小口径シリンダ13およびプランジャ軸14の断面形状は円形である必要はなく、多角形状や星形形状など、漏洩流通部16を形成できる形状であればよい。
【0028】
上記の小口径シリンダ13とプランジャ軸14とは相対的に上下動した場合、それぞれの中心軸線を一直線上に一致させた状態、言い換えればプランジャ軸14の外周全体に均一幅の漏洩流通部16を形成している状態に維持する必要がある。そのためのガイド機構5が設けられている。図1に示す例では、空気ばね3におけるピストン8と共にプランジャ軸14を鉛直線に沿って案内するように構成されている。具体的に説明すると、空気ばね3におけるシリンダ7の上端外周部にフランジ部18が形成されており、そのフランジ部18の互いに対称となる二箇所もしくは複数箇所に、中心軸線を鉛直線に沿わせたガイドブッシュ19が取り付けられている。ガイドブッシュ19は、摺動抵抗の小さい素材で作られた円筒体であり、その中にガイドロッド20が滑らかに上下動するように挿入されている。そして、ガイドロッド20の上端部が、被支持物2を載せてある前記プレート9の下面に連結されている。したがって、プレート9と一体化されている空気ばね3におけるシリンダ7およびそのプレート9の下面に連結されているプランジャ軸14は、水平方向への変位を可及的に抑制した状態で鉛直方向に真っ直ぐ上下動するように案内される。すなわち、プランジャ軸14はその中心軸線を小口径シリンダ13の中心軸線に一致させた状態で上下動し、漏洩流通部16の開口幅や開口形状が維持される。
【0029】
つぎに、上記の構成を備えた免震装置の作用について説明する。空気ばね3におけるピストン8には、内部の空気の圧力とピストン8の受圧面積とに応じた押上力が作用し、この押上力によって被支持物2が支えられる。その場合、シリンダ7に連通している漏洩調整機構4から空気が漏れ出る。漏洩調整機構4に形成されている漏洩流通部16は、小口径シリンダ13の内周面とプランジャ軸14の外周面との間の狭い隙間の部分であり、その隙間の幅や長さLに応じた抵抗力が生じる。すなわち、小口径シリンダ13の内部の空気圧およびこれに連通している空気ばね3の圧力は、その抵抗力に応じた圧力に維持される。したがって、荷重が大きいことによりピストン8およびこれと一体のプレート9が大きく押し下げられると、漏洩流通部16の長さLが長くなって抵抗力が大きくなり、それに伴い空気ばね3による支持力が大きくなる。反対に荷重が小さいことにより被支持物2が押し上げられる場合には、被支持物2およびプレート9と共にプランジャ軸14が押し上げられて漏洩流通部16の長さLが短くなる。すなわち、漏れ出る空気に対する抵抗力が小さくなるので、空気ばね3による支持力が小さくなって荷重とバランスする。このようにしてピストン8は、上から掛かる荷重と空気の圧力に応じた支持力とがバランスする位置(いわゆる中立位置もしくは平衡位置)に維持され、その位置は、空気ばね3に供給する空気の圧力で調整できる。
【0030】
地震などによって土台6が上下に振動した場合、シリンダ7および小口径シリンダ13が土台6と共に上下に振動する。土台6が上側に動いた状態では、空気ばね3が圧縮されて空気圧が増大しようとするが、空気ばね3の空気は、漏洩調整機構4の漏洩流通部16から漏れ出るので、空気ばね3における空気圧力(支持力)の増大が抑制される。また、土台6と共に小口径シリンダ13が上側に動くので、漏洩流通部16の長さLが長くなって空気の漏洩に対する抵抗が大きくなる。すなわち、漏洩調整機構4は、空気ばね3の圧力の低下を抑制するように作用するので、空気ばね3の圧力(支持力)は、漏洩流通部16で増大した抵抗力とバランスする圧力に維持され、ピストン8がシリンダ7の底部に突き当たる(いわゆる底付きする)などの事態に到ることはなく,ピストン8で支持している被支持物2を弾性的に継続して支持することができる。
【0031】
一般的な空気ばねの実質的なばね定数は、圧縮当初は小さく、圧縮量が大きくなるのに従って非線形に急激に増大するが、本発明に係る上記の空気ばね3では、上述したように、空気が漏れ出て空気量が一時的に少なくなるので、実質的なばね定数は、空気の漏れがない空気ばねに比較して小さくなる。すなわち、上述した本発明に係る免震装置1によれば、被支持物2を含む振動系の固有振動数を小さくして、被支持物2の振動を効果的に抑制もしくは低減できる。
【0032】
一方、土台6が下側に動いた場合、空気ばね3におけるシリンダ7は外力で引き下げられた状態になるのでシリンダ7の内部の圧力が低下しようとする。また、漏洩調整機構4における小口径シリンダ13が土台6と共に下側に動くので、漏洩流通部16の長さLが短くなって空気の漏洩に対する抵抗が低下する。すなわち、漏洩調整機構4は空気ばね3の圧力(支持力)を低下させるように作用する。このようにして、空気ばね3によって被支持物2を支える支持力が低下する。
【0033】
地震などによる土台6の上下動に伴う空気ばね3による支持力の変化は、空気の漏洩に伴って生じるので、土台6の上下動すなわち振動の周期に対して遅れる。その結果、空気ばね3によって支えている被支持物2に伝達される振動を効果的に減衰させて被支持物2の揺れを回避あるいは低減することができる。
【0034】
上述した空気ばね3内の空気の漏洩の調整あるいは制御は、上述した本発明に係る免震装置1では、空気ばね3とは別個に設けた小口径シリンダ13およびプランジャ軸14からなる漏洩調整機構4によって行っている。この漏洩調整機構4は、被支持物2の荷重を受けるとしてもその被支持物2の荷重の全てを支えるのではなく、空気ばね3が支える荷重以外の残余の荷重を支えればよく、したがって漏洩調整機構4の大きさあるいは容量は被支持物2の荷重に制約されないから、空気の漏洩調整機能を満たす範囲で小型のものであってよい。そして、上述した小口径シリンダ13およびプランジャ軸14において漏洩調整機能に影響する部分は小口径シリンダ13の内径およびプランジャ軸14の外径であり、それらの内外径は、空気ばね3のシリンダ7やピストン8と比較して大幅に小さいから、その寸法精度を容易に向上させることができ、またその加工も容易であり、この点で製品コストを低廉化できる。
【0035】
さらに上述した免震装置1においては、漏洩調整機構4すなわち漏洩流通部16から空気を漏洩させ続けるが、小口径シリンダ13やプランジャ軸14を小型化して漏洩流通部16の開口面積を小さくできるので、空気の漏洩量(消費量)を少なくでき、それに伴ってランニングコストを低廉化できる。また、上述した実施形態では、互いに相対的に上下動する小口径シリンダ13とプランジャ軸14とは、それらの間に漏洩流通部16が設けられていて接触していないので、摩耗やそれに伴う耐久性の低下を回避もしくは抑制できる。万が一、小口径シリンダ13とプランジャ軸14とが接触したとしても、それらの接触圧が小さいから、両者の間の摺動抵抗は小さく、したがって小口径シリンダ13とプランジャ軸14との接触によって免震性能が影響を受けたり、免震性能が阻害されたりすることはない。
【0036】
なお、図1に示すガイド機構5はピストン8やプランジャ軸14を鉛直方向に案内するためのものであり、被支持物2のいわゆる横揺れを抑制する機能は特には有していない。したがって、被支持物2には、横揺れを防止もしくは抑制するダンパー(図示せず)を上記の免震装置1とは別に設けることになる。
【0037】
上述したように、本発明は、空気ばね3と漏洩調整機構4とを主体として構成され、さらにガイド機構5を備えているが、これら空気ばね3ならびに漏洩調整機構4およびガイド機構5は上述した構成に限定されないので、必要に応じて適宜に変更することができる。例えば空気ばね3は上述したいわゆる空気シリンダタイプのものが好ましいが、これに替えてベローズなどの弾性チャンバーに空気を充填して圧縮する構成のものであってもよい。
【0038】
また、漏洩調整機構4は、被支持物2と土台6との相対的な上下動によって土台6もしくは被支持物2と一体となって相対的に上下動する部材によって、漏洩する空気に対する抵抗を変化させる構成のものであればよい。例えば、図3に示すように、ピストンPが挿入されているシリンダCに縦に長い長方形状もしくは三角形状のスリットSを漏洩流通部として形成し、ピストンPの位置に応じてスリットSの開口面積すなわち空気流に対する抵抗を変化させるように構成してもよい。なお、このような構成の場合、ピストンPの摺動抵抗が振動減衰特性に影響しないように、シリンダCの内周面を正確に仕上げたり、潤滑を行ったり、さらにはピストンPに取り付けるシールリングRのメインテナンスを確実に行ったりすることが好ましい。
【0039】
さらに、ガイド機構5は、要は、地震などによって相対的に上下動する部材を直線的に鉛直方向に案内するように構成されていればよいのであり、空気ばね3を前述したシリンダ7とピストン8とを備えた構成とした場合、ガイド機構5は、そのピストン8の外周面をガイド面としたものであってもよい。その例を図4ないし図6に模式的に示してある。
【0040】
図4に示す例は、ピストン8の外周面にその軸線方向に相対的に摺動するガイドブッシュ30を用いた例であり、このガイドブッシュ30は、シリンダ7の上端部に形成されているフランジ部18の上面に固定したホルダ31によって保持されている。このような構成では、ピストン8の外周面は高い仕上げ精度が要求されるが、内面などの他の部分は粗い仕上げであってよい。
【0041】
図5に示す例は、ガイドブッシュ30に替えて、ガイドローラ40を設けた例である。ガイドローラ40が接触して案内する箇所は、ピストン8の外周面の一箇所に限られるから、ピストン8の偏心を回避するために、周方向に等間隔に少なくとも三つのガイドローラ40を配置する。
【0042】
図6に示す例は、ピストン8の外周面に接触するガイドローラ40に加えて、シリンダ7の内周面をガイド面とする他のガイドローラ41を設けた例である。図6に示す例では、シリンダ7の下端部に半径方向で内側に延びたフランジ部42が形成されており、シリンダ7の内周面に接触しているガイドローラ41がそのフランジ部42の下面に取り付けられている。このガイドローラ41もシリンダ7の周方向に等間隔に三つ以上設けることが好ましい。このようにシリンダ7の内周面をもガイド面とする場合、シリンダ7の内周面には、ピストン8の外周面と同様にある程度高い仕上げ精度が要求される。
【0043】
ところで、本発明における漏洩調整機構4は、空気ばね3からの空気の漏洩を調整するためのものであり、荷重を支える機能を備えるとしても小さい荷重を支える程度であってよい。これに対して、空気ばね3は、支える被支持物2の重量などに応じて複数、設ける場合がある。そのような場合、複数の空気ばね3に対して一つの漏洩調整機構4を設け、それら複数の空気ばね3からの空気の漏洩を一つの漏洩調整機構4によって調整あるいは制御することとしてもよい。その例を図7に模式的に示してある。図7に示す例では、一つの小口径シリンダ13に二つの空気ばね3における各シリンダ7が連通管15によって接続されている。そして、その小口径シリンダ13に挿入されているプランジャ軸14は、被支持物2の下面に連結され、被支持物2と一体となって、小口径シリンダ13に対して相対的に上下動するようになっている。また、図7に示す例では、ガイド機構5として、上記の図4に示す構成の機構が採用され、そのガイド機構5によってピストン8およびその上に載せられている被支持物2が上下方向に相対的に案内されるのに伴って漏洩調整機構4におけるプランジャ軸14が、間接的にガイド機構5によって相対的に上下方向に案内される。
【符号の説明】
【0044】
1 免震装置
2 被支持物
3 流体ばね機構(空気ばね)
4 漏洩調整機構
5 ガイド機構
6 土台
7 シリンダ
8 ピストン
11 給気管
12 オリフィス
13 小口径シリンダ
14 プランジャ軸
15 連通管
16 漏洩流通部
13 内径
14 外径
L 長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7