(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】ろ過布
(51)【国際特許分類】
B01D 39/08 20060101AFI20240126BHJP
B01D 29/11 20060101ALI20240126BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
B01D39/08 Z
B01D29/10 501Z
B01D29/10 510B
B01D29/10 530A
D03D1/00 Z
(21)【出願番号】P 2019143664
(22)【出願日】2019-08-05
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000231431
【氏名又は名称】日本植生株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 博文
(72)【発明者】
【氏名】高橋 大
(72)【発明者】
【氏名】藤嶋 泰良
(72)【発明者】
【氏名】大倉 卓雄
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-144444(JP,A)
【文献】特開2012-091088(JP,A)
【文献】特開2006-305468(JP,A)
【文献】特開2005-144405(JP,A)
【文献】特開2002-028416(JP,A)
【文献】特開2019-155254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-41/04
B01D 23/00-35/04,35/08-37/08
D03D 1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁液をろ過するろ過槽の構成部材として用いられるろ過布であって、
経糸と緯糸とを備えた織布で構成されたシート状のろ過部を有し、
前記ろ過槽は、前記ろ過部が下方に向けて凹入した形状となるように保持する保持具を備え、該保持具で保持された状態での前記ろ過部で前記懸濁液をろ過するように構成されており、
前記ろ過部を構成する前記織布は、前記経糸と前記緯糸との両方に対して45度となる方向に1kgfの張力を加えた際の伸び率が10%以上35%以下で
、
自然状態における形状が平坦なシート状であるろ過布。
【請求項2】
前記織布は、前記経糸の方向に1kgfの張力を加えた際の伸び率、及び、前記緯糸の方向に1kgfの張力を加えた際の伸び率が、いずれも10%未満である請求項1記載のろ過布。
【請求項3】
前記ろ過部を前記保持具に固定する固定部がさらに備えられ、
前記織布が矩形状で、4つの辺がそれぞれ前記経糸又は前記緯糸に平行となっており、
該織布の4つの角部に前記固定部が設けられている請求項1又は2記載のろ過布。
【請求項4】
前記固定部が前記4つの辺の中央部にさらに設けられている請求項3記載のろ過布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、懸濁液をろ過するためのろ過布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートの打設現場やコンクリート製品の製造現場などから排出される懸濁液をろ過し、該懸濁液に含まれているセメントなどの固形分を除去する工程が行われている。
例えば、下記特許文献1には、不織布を有底円筒状に成形してこれをろ過材とし、該ろ過材よりも一回り大きな有底円筒状の枠材を前記ろ過材の保持具として用い、前記保持具に前記ろ過材を収容してこれをろ過槽とし、当該ろ過槽を使ってセメントなどを含んだ懸濁液をろ過することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているような立体的な形状を有するろ過材は、形状が異なる保持具には装着し難いために汎用性が十分良好であるとは言い難い。
このような従来のろ過槽における問題点に関し、平坦なシート状のろ過部を有するろ過布を用い、前記ろ過部が下方に向けて凹入した形状となるように保持具で保持させ、前記ろ過部の凹入した部分に懸濁液を注いでろ過させるようにすれば、保持具の形状に特段の制約が加わることもなく前記ろ過布の汎用性を向上させることができると考えられる。
但し、ろ過部が平坦なシート状である場合、そのままでは十分深みのある凹入形状にはさせ難く、ろ過部の有効面積(ろ過に利用可能な部分の面積)が広く確保され難くなると考えられる。
【0005】
このように、汎用性を向上させるべく平坦なシート状のろ過部を設けると広いろ過面積を確保し難くなり、良好なろ過性能を発揮させ難くなるという問題を有する。
そこで、本発明は、このような課題を解決することを目的としており、汎用性に優れるとともにろ過性能に優れたろ過布を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、
懸濁液をろ過するろ過槽の構成部材として用いられるろ過布であって、
経糸と緯糸とを備えた織布で構成されたシート状のろ過部を有し、
前記ろ過槽は、前記ろ過部が下方に向けて凹入した形状となるように保持する保持具を備え、該保持具で保持された状態での前記ろ過部で前記懸濁液をろ過するように構成されており、
前記ろ過部を構成する前記織布は、前記経糸と前記緯糸との両方に対して45度となる方向に1kgfの張力を加えた際の伸び率が10%以上35%以下であるろ過布、を提供する。
【0007】
本発明に係るろ過布は、ろ過部が斜め方向に適度な伸びを示す織布で構成されているため、深みのある凹入形状を形成させ易く、ろ過に有効利用可能な面積を広く確保することができる。
また、本発明では、前記ろ過部を構成する織布が経糸と緯糸とを備えている。
そして、前記織布は、経糸や緯糸に対して斜めとなる方向(45度の方向)において適度な伸びを示す。
この織布を斜め方向に伸ばした際には、経糸と緯糸との交差する角度が斜めになって目開きが過大きくなることを抑制することができる。
また、本発明では、斜め方向への伸びの程度が一定以下であるため、過度な伸長によって糸が細って目開きが大きくなってしまうおそれが抑制され得る。
即ち、本発明では、ろ過された水にセメントなどの固形分が混入するおそれが抑制され得る。
【0008】
前記織布は、例えば、前記経糸の方向に1kgfの張力を加えた際の伸び率、及び、前記緯糸の方向に1kgfの張力を加えた際の伸び率が、いずれも10%未満であってもよい。
【0009】
斯かるろ過布においては、経糸方向や緯糸方向での前記織布の伸び率が所定の値未満となっているので、経糸や緯糸が伸長によって細ってしまう(目開きが大きくなってしまう)ことが抑制され得る。
【0010】
本発明のろ過布は、例えば、前記ろ過部を前記保持具に固定する固定部がさらに備えられ、前記織布が矩形状で、4つの辺がそれぞれ前記経糸又は前記緯糸に平行となっており、該織布の4つの角部に前記固定部が設けられていてもよい。
【0011】
斯かるろ過布においては、凹入形状となったろ過部に懸濁液を供給することで、当該ろ過部を構成している前記織布に懸濁液の重みを利用して張力を加えることができ、しかも、その張力を織布の中央部から固定部の形成された角部に向かう方向に作用させ易い。
即ち、斯かる構成を備えたろ過布は、懸濁液のろ過に際して前記織布が斜め方向に伸ばされた状態になり易くろ過面積が広がり易くなる。
【0012】
本発明のろ過布は、例えば、前記固定部がさらに前記4つの辺の中央部に設けられていてもよい。
斯かるろ過布においては、凹入形状となったろ過部に懸濁液を供給した際に、斜め方向に過度な張力が加わることを抑制し得る。
【発明の効果】
【0013】
上記のように本発明においては、汎用性に優れるとともにろ過性能に優れたろ過布が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係るろ過布の使用状態(ろ過槽)を説明するための図である。
【
図6】
図6において、(a)はろ過布の正面側の角部の拡大図であり、(b)はろ過布の背面側の角部の拡大図である。
【
図7】同実施形態に係るろ過布の断面図であって、
図6(b)におけるVII-VII線位置における断面図である。
【
図8】
図8において、(a)はろ過布の直線部の正面側の拡大図であり、(b)はろ過布の直線部の背面側の拡大図である。
【
図9】本実施形態に係るろ過布の断面図であって、
図8(b)におけるIX-IX線位置における断面図である。
【
図10】ろ過布を構成する織布の一部を拡大して糸の状態を示した図である。
【
図11】織布の一部を
図10よりもさらに拡大して示した図である。
【
図12】本実施形態に係るろ過方法に用いるろ過布の正面図である。
【
図13】織布の伸び率を測定する方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係るろ過布について、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
コンクリートの排出をし終えたコンクリートポンプ車のポンプや配管内を洗浄した後の洗浄排水は、コンクリート等の粒状物が含まれた懸濁状態になっている。
本実施形態に係るろ過布は、
図1に示すように、この洗浄排水のような懸濁液Sをろ過してコンクリート成分のような固形分S1と、水分S2とを分離するために使用される。
即ち、本実施形態に係るろ過布1は、懸濁液Sをろ過するろ過槽100の構成部材として用いられる。
【0017】
本実施形態の前記ろ過槽100は、自然状態における形状が平坦なシート状となる前記ろ過布1と、該ろ過布1を下方に向けて凹入した形状となるように保持する保持具Tとを備えている。
本実施形態の前記ろ過布1には、前記ろ過を実施するための領域としてろ過部2が設けられている。
本実施形態の前記ろ過部2は、外周縁に沿って設けられた端縁部21と、該端縁部21で囲まれた本体部22とを有している。
本実施形態の前記ろ過槽100では、下方に向けて凹入した形状を有する凹入部210が該本体部22において形成されるように前記ろ過布1が保持具Tで保持されている。
【0018】
本実施形態の前記ろ過槽100は、
図1に示すように、前記凹入部210で前記懸濁液Sをろ過するように構成されている。
即ち、本実施形態の前記ろ過槽100は、その一部が下方に凹入されることによって前記ろ過部2に形成された前記凹入部210を前記懸濁液Sの収容される収容空間101として利用し、該凹入部210に収容した前記懸濁液Sを重力の作用によってろ過し、該懸濁液Sの水分S2をろ過布1の上面側から下面側へと通過させるとともに該懸濁液の固形分S1をろ過布1の上面側に堆積させ得るように構成されている。
【0019】
本実施形態でのろ過槽100は、前記ろ過布1を透過するろ液である前記水分S2を排水するための排水口が保持具Tの底面部T1に設けられており、該保持具Tの下方側には、ろ過により得られた水分S2を受けるための水受部Pが設けられている。
本実施形態における前記ろ過槽100は、上面視における形状が前記保持具Tよりも一回り大きく、側面視における高さが前記保持具Tよりも低い受水ピットで前記水受部Pが構成されている。
【0020】
本実施形態における前記保持具Tは、例えば、ろ過布1の中央部を下向きに凹入させて保持できるように上方に向けて開口している開口部を備えたカゴ状の部材となっている。
本実施形態の保持具Tは、底面部T1と底面部T1の外周縁より立ち上る側面部T2とを備え、該側面部T2の上端縁によって前記開口が画定されている。
本実施形態の前記保持具Tは、前記底面部T1と前記側面部T2との内側に形成される空間部の形状が直方体となるカゴ状部材である。
即ち、本実施形態における前記保持具Tは、上面視における形状が長方形となるように形成されている。
【0021】
本実施形態の前記保持具Tでは、前記開口を画定する前記側面部T2の上端縁の高さが、前記開口周りの全周において共通している。
本実施形態の前記保持具Tの前記側面部T2の外側には、当該前記側面部T2の上端縁よりも下側に前記ろ過布1が係止される係止部Taが形成されている。
本実施形態の前記係止部Taはフック(図示せず)によって構成されている。
前記係止部Taは、前記側面部T2の周りを周回する方向に間隔を設けて複数箇所に設けられている。
前記係止部Taは、前記保持具Tの上面視における形状である長方形の4つの角部と、4つの辺中央部との8箇所に設けられている。
【0022】
本実施形態の前記ろ過布1は、前記保持具Tの開口よりも大面積であり、前記保持具Tの側壁部の内側において前記凹入部210を形成させ得るとともに外周部を前記保持具Tの側壁部の上端縁を超えて外側に巻き掛け得る大きさを有している。
【0023】
図2は、ろ過布1の正面図であり、
図3は、この
図2とは反対側からろ過布1を見た様子を示した背面図である。
尚、該正面図(
図2)と背面図(
図3)とは、上下が対称となって示されている。
即ち、
図2における上端は、
図3における下端となっている。
【0024】
図4は、ろ過布1の平面図であり、
図2のろ過布1を下方側から見た図はである。
前記ろ過布1の右側面図(
図2のろ過布1を右方側から見た図)を
図5に図示しているが、ろ過布1の左側面図(
図2のろ過布1を左方側から見た図)は、
図5に図示するろ過布1と左右対称な形状となっている。
【0025】
本実施形態のろ過布1は、
図2における前面である第1面11が上面となって、
図3における前面である第2面12が下面となるように前記保持具Tに取り付けられて前記懸濁液Sのろ過に利用される。
本実施形態のろ過布1は、前記ろ過部2が前記の通り横長な長方形となっており、例えば、前記ろ過部2の長辺の寸法が150~200cm、短辺の寸法が100~150cmとなる大きさとされ得る。
【0026】
本実施形態のろ過布1は、ろ過部2が織布で構成されており、前記本体部22を構成する前記織布の外周部が折り返されて前記端縁部21が形成されている。
前記端縁部21は、織布とは別の帯状の部材を挟み込んで補強されていてもよい。
該端縁部21は、
図2、
図3に示すように、横方向に延びる横端縁部21aと、縦方向に延びる縦端縁部21bとを備える。
【0027】
図1~
図3に示すように、ろ過布1は、保持具Tに固定するための固定部3と、固定部3をろ過部2に接続するための接続手段4(
図6、
図8参照)とを備える。
【0028】
前記ろ過部2を保持具Tに固定するための前記固定部3は、
図2、
図3などにも示すように長手方向と該長手方向に直交する短手方向とを有する帯状に形成されており、長手方向一端部が前記ろ過部2の端縁部21に接続されている。
本実施形態の前記固定部3は、扁平な紐体が重ね合わされて構成されている。
該固定部3は、ろ過部2に対して複数取り付けられている。
本実施形態では、固定部3は、ろ過部2の角部200及び直線部201に取り付けられている。
直線部201に取り付けられた固定部3は、該直線部201の中央部分に取り付けられている。
より具体的には、固定部3は、前記ろ過部2を構成する矩形状の織布の4つの角部にそれぞれ設けられているとともに矩形状の織布の4つ辺の中央部に設けられている。
即ち、本実施形態の固定部3は、前記横端縁部21aの中央部と、前記縦端縁部21bの中央部と、前記横端縁部21aと前記縦端縁部21bの接続箇所となる角部との8か所に接続されており、1つのろ過部2に対して8個取り付けられている。
【0029】
固定部3は、長手方向における一端部がろ過部2に取り付けられた固定端となっており、他端部が自由端となっている。
【0030】
固定部3をろ過部2に接続するための手段である接続手段4は、本実施形態においては、縫い糸であり、縫目部40を形成している。
具体的には、固定部3は、ろ過部2の端縁部21に対して縫い糸を用いて縫い付けられている。
【0031】
図6~
図9に示すように、縫目部40は、固定部3の長手方向に交差するように形成されている。
縫目部40は、固定部3の長手方向で離間する一対の第1縫目部41と、該一対の第1縫目部41を繋ぐように形成された第2縫目部42とを有する。
一対の第1縫目部41は、固定部3の長手方向に対して略直交する方向に延びている。第2縫目部42は、一対の第1縫目部41のうちの一方の第1縫目部41の一端と、他方の第1縫目部41の他端とを繋ぐように延びている。
即ち、本実施形態の縫目部40は、Z字状に形成されている。
【0032】
本実施形態のろ過布1は、長手方向一端部が接続手段4によって前記端縁部21に接続された固定部3の他端部が保持具Tの所定箇所に係止されることによって保持具Tに対する位置が固定される。
本実施形態のろ過布1は、前記保持具Tにセットした際に、該保持具Tの側面部の外側の8箇所に設けられた前記係止部Taに、8つの前記固定部3のそれぞれを係止させ得るように構成されている。
【0033】
本実施形態のろ過槽100では、例えば、
図2に示すようなろ過布1を複数枚備え、該複数のろ過布1が重ね合わされた積層体10を用いて前記懸濁液Sのろ過が実施される。
本実施形態での前記積層体10は、前記懸濁液Sのろ過に用いられる前の状態において最も下方のろ過布1の下面が前記保持具Tの底面部T1の上面全体に同時に接しない状態となるように前記保持具Tにセットされる。
【0034】
本実施形態の前記積層体10は、同じ形状を有する複数枚のろ過布1が重ね合わされて構成されており、前記ろ過部2の外周縁や固定部が上下方向において揃えられた状態となるように複数枚のろ過布1が重ね合わされて構成されている。
【0035】
本実施形態のろ過布1は、後段においてさらに詳述するように、経糸と緯糸とを備えた織布で構成されたシート状のろ過部2を有し、該ろ過部2で懸濁液Sのろ過を実施し得るように構成されている。
従って、前記積層体10は、上下に重なるろ過布1の間で経糸の方向と緯糸の方向とが共通するように構成されている。
【0036】
尚、以下においては前記経糸の長さ方向を織布や前記の縦方向と称し、前記緯糸の長さ方向を織布の横方向と称する。
本実施形態のろ過布1では、前記織布が矩形状であり、より具体的には、前記織布は、正面視において横長な長方形となる形状を有している。
本実施形態の前記織布は、この長方形の短辺に沿った方向が経糸の方向(縦方向)となり、前記長方形の長辺に沿った方向が緯糸の方向(横方向)となっている。
本実施形態においては、前記ろ過布1や前記積層体10の縦方向、横方向のそれぞれが、この織布の縦方向、横方向に共通している。
【0037】
ろ過部2を構成する織布は、平織の織布であっても、綾織の織布であっても、朱子織の織布であってもよい。
【0038】
本実施形態におけるろ過部2は、
図10、
図11に示されているように朱子織の織布によって構成されている。
そのため、同図に示すようにろ過部2の第1面11においては、縦方向に延びる経糸24の現れている部分の面積の割合が、横方向に延びる緯糸25の表出している部分の面積の割合に比べて小さくなっている。
具体的には、ろ過部2の第1面11においては、5本の緯糸25に対して1回の割合で前記経糸24が表出している。
尚、図には示していないが、前記第1面11とは逆側となるろ過部2の第2面12では、経糸24の表出している部分の面積の割合は、緯糸25の表出している部分の面積の割合に比べて大きくなっている。
具体的には、ろ過部2の第2面12においては、5本の経糸24に対して1回の割合で前記緯糸25が表出している。
【0039】
本実施形態の経糸24と緯糸25とは、その材質が同じであっても異なっていてもよく、これらの糸の材質としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、共重合ポリエステル)、ポリアミド(脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド)等の合成樹脂繊維などが挙げられる。
これらの糸は、綿、麻、竹、羊毛、絹、ロックウールなどの天然繊維で構成されていてもよい。
前記糸を構成する繊維は、キュプラ、レーヨンなどの再生繊維であっても、アセテートなどの半合成繊維であってもよい。
前記繊維は、スチールウールなどの金属繊維などであってもよい。
【0040】
本実施形態での経糸24と緯糸25とは、ポリエステル製であるか、又は、ポリアミド製であるかの何れかであることが好ましく、ポリエステル製であることがより好ましい。
なかでも、前記経糸24や前記緯糸25は、ポリエステルエラストマー以外のポリエステル製であることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート製、或いは、ポリブチレンテレフタレート製であることが好ましい。
【0041】
本実施形態の経糸24と緯糸25とは、スパン糸であってもフィラメント糸であってもよい。
本実施形態の経糸24と緯糸25とが前記フィラメント糸である場合、これらの糸は、モノフィラメント糸であってもマルチフィラメント糸であってもよい。
本実施形態の経糸24と緯糸25とがマルチフィラメント糸である場合、これらの糸は、フィラメントを引き揃えただけの引き揃え糸であっても、撚りが加わった撚糸であってもよい。
【0042】
本実施形態の経糸24と緯糸25とが撚糸である場合、これらの糸は、拠り数が500回/m未満の甘撚糸であっても、拠り数が500回/m以上1000回/m未満の中撚糸であってもよい。
これらの糸は、拠り数が1000回/m以上2500回/m未満の強撚糸であっても、拠り数が2500回/m以上の超強撚糸であってもよい。
【0043】
本実施形態における前記織布は、前記経糸24と前記緯糸25との内の少なくとも一方がマルチフィラメント糸であることが好ましく、両方がマルチフィラメント糸であることがより好ましい。
本実施形態における前記織布は、経糸24と緯糸25との両方がマルチフィラメント糸となっている。
【0044】
前記経糸24と前記緯糸25とは、それ自体の太さや、フィラメントの太さなどが互いに共通していても異なっていてもよい。
前記経糸24や前記緯糸25を構成するフィラメントは、例えば、0.5dtex以上30dtex以下の太さとされ得る。
前記経糸24や前記緯糸25は、例えば、総繊度が100dtex以上2000dtex以下の太さとされ得る。
【0045】
本実施形態における前記織布は、前記経糸24と前記緯糸25との内の少なくとも一方が前記甘撚糸又は前記中撚糸であることが好ましく、両方が前記甘撚糸又は前記中撚糸であることがより好ましい。
本実施形態における前記織布は、経糸24と緯糸25との両方が前記甘撚糸又は前記中撚糸となっている。
【0046】
前記懸濁液Sのろ過に際し、前記水分S2は、通常、隣り合う2本の経糸24の間に形成されている隙間や、隣り合う2本の緯糸25の間に形成されている隙間を通過する。
前記経糸24や前記緯糸25が、マルチフィラメント糸であることで、前記水分S2は、糸を構成するフィラメント間を伝ってろ過部2を通過できるようになる。
【0047】
織布では、
図11に示すように、隣り合う2本の緯糸25の内の一方の緯糸25(25a)が経糸24の下側を通り、他方の緯糸25(25b)が経糸24の上側を通る箇所において、経糸24の隣りに経糸24の厚さに応じて比較的大きな隙間Zが形成され易い。
即ち、隣り合う2本の緯糸25が上下から経糸24を挟み込む状態になった箇所においては、
図11に示すように、経糸24の側縁部と、下側の緯糸25aの上縁部と、上側の緯糸25bの下縁部とに囲まれた三角形の隙間Zが形成され易い。
尚、緯糸25の横にも同様に隙間Zが形成され得る。
即ち、隣り合う2本の経糸24の内の一方の経糸24が緯糸25の下側を通り、他方の経糸24が緯糸25の上側を通る箇所においても、緯糸25の隣りに該緯糸25の厚さに応じて三角形の隙間Zが形成され得る。
【0048】
前記隙間Zは、前記水分S2の通り道となるものの前記固形分S1の中でも比較的大きさの小さいもの(浮遊性固形物等)の通り道ともなり得る。
即ち、前記隙間Zは、ろ液の水質を低下させる要因ともなり得る。
【0049】
前記ろ過部2を、平織の織布で構成させると、縦方向、横方向とのそれぞれにおいて経糸24と緯糸25とが交互に現れる形になって前記隙間Zの形成され得る箇所が多くなるが、本実施形態においては前記織布が朱子織であるため、このような隙間Zの形成され得る箇所が平織の織布の場合に比べて少なくなっている。
【0050】
朱子織の前記織布では、通常、互いに隣り合う2本の経糸24と、互いに隣り合う2本の緯糸25とが上下に重なって井桁状になる箇所が形成される。
朱子織の前記織布では、三角形の前記隙間Zとは別にこの井桁状に糸が配された箇所において矩形の隙間が形成され得る。
前記ろ過部2を構成する織布として、モノフィラメント糸や強撚糸などで織製されたものを用いると、経糸や緯糸が、それぞれ厚さ方向に扁平な形状となり難く、この矩形の隙間や前記の三角形の隙間の面積が大きなものになり得る。
しかしながら、本実施形態においては前記経糸24と前記緯糸25とが甘撚糸や中撚糸であることで経糸24や緯糸25が扁平形状に変形し易く、これらの隙間の面積が小さくなり得る。
【0051】
前記隙間は、ろ液の水質を良好にする上において、最大のものであってもその面積が、1500μm2以下であることが好ましく、1000μm2以下であることがより好ましく、800μm2以下であることがさらに好ましい。
最大の隙間の面積は、一定上のろ過スピードを確保する上において、100μm2以上であることが好ましく、150μm2以上であることがより好ましく、200μm2以上であることがさらに好ましい。
【0052】
本実施形態での前記織布の最大の隙間の面積は、例えば、水平に配置したガラス板の上に織布を配置して前記織布を上面側から見た際に、当該織布の隙間を通して下面側より透過してくる光によって周囲よりも明るく見える点(明点)をマイクロスコープによって観察することによって求めることができる。
尚、最も大きな隙間については、観察される前記明点の内、大きなものを数点選んでマイクロスコープで拡大写真を撮影し、得られた写真を画像解析してそれぞれの面積を算出することによって特定することができる。
また、その時の面積を最も大きな隙間の面積とすることができる。
測定対象とする前記明点の選定にあたっては、例えば、前記織布の観察地点からの仰角が45度となる方向で且つ経糸に平行となる第1の方向と、前記織布の観察地点からの仰角が45度となる方向で且つ緯糸に平行となる第2の方向とで前記明点を観察すればよい。
また、最も大きな隙間の面積についてもこの45度の方向での観察によって求めることができる。
【0053】
前記隙間は、面積が一定以下であることが好ましいだけでなく、幅も一定以下であることが好ましい。
前記隙間は、ろ液の水質を良好にする上において、幅が最大のものであって、当該幅が、35μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、25μm以下であることがさらに好ましい。
【0054】
前記隙の最大幅は、隙間の最大面積と同様にして求めることができ、複数の明点について45度の角度からマイクロスコープで観察を行って、それぞれの明点の横幅を測定することによって求めることができる。
【0055】
本実施形態における前記ろ過布1は、前記の通り前記ろ過部2を下方に向けて凹入した形状となるように保持具Tによって保持された状態で前記懸濁液Sをろ過するものである。
即ち、本実施形態の前記ろ過布1は、懸濁液Sのろ過に際して長方形状の前記ろ過部2の中央部に凹入部210が形成された状態で保持具Tに保持される。
本実施形態のろ過布1は、
図12において仮想線XLで区分けされた四隅の領域(以下、「角領域X」ともいう)を、懸濁液Sの重みによって外向きに膨らませ、懸濁液Sのろ過に有効利用可能な面積を拡大させるべく、斜め方向にある程度の伸びを示す織布を使って前記ろ過部2が形成されている。
【0056】
前記角領域Xを除いた中央部の十文字の領域(以下「十字領域Y」ともいう)でのろ過については、従来のろ過布と本実施形態のろ過布1とにおいて大きな相違はない。
本実施形態のろ過布1は、特にろ過の後半に際して前記角領域Xが懸濁液Sのろ過に優れた機能を発揮する。
この点について具体的に説明すると、ろ過の初期段階においてはろ過部2に目詰まり等が生じていないため、ろ過部2に形成させた凹入部210では懸濁液Sに含まれている水分S2が前記織布を素早く通り抜けて前記懸濁液Sの滞留は僅かとなる。
その一方で、ろ過の後半においては、前記凹入部210の内側に固形分S1が堆積するため、水分S2の透過スピードが低下して懸濁液Sの滞留量が増加する。
そして、懸濁液Sの滞留が増加すると、堆積した固形分S1の重みに加え、当該懸濁液Sの重みが凹入部210に対して外向きの力となって作用する。
このとき、本実施形態のろ過布1は、前記織布が斜め方向に伸びを示すことで前記角領域Xに伸びを生じさせることができ、ろ過面積を拡大させることができる。
【0057】
上記のような機能を発揮させる上において、本実施形態においては、前記経糸24と前記緯糸25との両方に対して45度となる方向に1kgfの張力を加えた際の伸び率が10%以上となる織布で前記ろ過部2が構成されている。
前記機能をより確実に発揮させる上において、前記伸び率は、12%以上であることが好ましく、14%以上であることがより好ましく、16%以上であることがさらに好ましい。
ただし、過度な伸びは、固形分S1の透過を許してろ液の水質低下を生じさせる可能性があるため、本実施形態の前記ろ過部2は、前記伸び率が35%以下の織布で構成されている。
ろ液の水質を良好な状態に保つ上で、前記伸び率は、33%以下であることが好ましく、31%以下であることがより好ましく、29%以下であることがさらに好ましい。
【0058】
前記織布を斜め方向に伸長させた際には、伸長した箇所において経糸24と緯糸25とが斜めに交差する状態になる。
そのため、2本の経糸24と緯糸25とが上下に重なり井桁状となっている箇所に形成される矩形の隙間は、その形状が平行四辺形となって面積が狭くなる。
また、
図11に示したような経糸24の両脇に形成され得る三角形の隙間Zについては、経糸24が斜めになって当該隙間Zの一部を塞ぐため、その面積が狭くなる。
このようなことから、本実施形態のろ過布1は、ろ過後期におけるろ過スピードの低下を抑制し得るとともにろ液の水質が低下することも抑制し得る。
【0059】
本実施形態の前記織布は、斜め方向に適度な伸びを示す一方で経糸24や緯糸25に沿った方向(縦方向や横方向)においてはあまり伸びを示さないことが好ましい。
即ち、前記織布の縦方向及び横方向のそれぞれの伸びは、斜め方向(経糸、緯糸のいずれに対しても45度となる方向)における伸び未満であることが好ましい。
具体的には、前記織布は、前記経糸24の方向に1kgfの張力を加えた際の伸び率、及び、前記緯糸25の方向に1kgfの張力を加えた際の伸び率が、いずれも10%未満であることが好ましい。
縦方向、横方向での伸び率は、8%未満であることがより好ましく、6%未満であることがさらに好ましい。
【0060】
織布の斜め方向や縦横方向での伸びは、織布から採取した一辺の長さが20cmの正方形の試料を使って測定される。
織布の斜め方向での伸び率を測定する様子を模式的に示した
図13を参照しつつ伸び率の測定方法について説明すると、まず、斜め方向での伸び率を測定する際には、織布を経糸方向と緯糸方向とに沿って裁断して一辺の長さが20cmの正方形の試料SPを切り出す。
この試料SPに15cmの距離を設けて2本の標線Aを描き、この標線間の距離(無荷重にて15cm)が1kgfの張力を加えたときにどの程度伸びるかを測定することによって伸び率を求める。
このとき、標線Aは、対角線ALに沿って15cm離れた状態となるようにし、できるだけその中間地点が対角線ALの中心となるように設ける。
このような標線Aを設けるには、一辺20cmの正方形の対角線の長さは約28.3cm(20×2
1/2)であるので、試料SPの対角となる2つの角のそれぞれから対角線ALに沿って約6.6cm内側となる位置に標線Aをそれぞれ描けばよい。
伸び率の測定では、次に、この標線Aからそれぞれの角に向けて4cm外側に移動した地点にフックを通す穴HHを設ける。
ここで、試料SPが正方形の形状を保った状態で標線間の距離(D0)をノギスなどによって正確に測定する。
次いで、先に設けた穴HHの一つを使って試料SPを吊り下げ、もう一つの穴にフックを通して当該フックに1kgfの力が加わるように試料SPを下方に引張り、この状態で改めて標線間の距離(D1)を測定する。
そして、伸び率(E(%))は、下記式を計算して求めることができる。
E=(D1-D0)/D0×100(%)
尚、伸び率は、通常、複数枚(例えば、5枚)の試料に対して実施し、その算術平均値として求めることができる。
縦方向、横方向の伸び率も、引張方向がそれぞれの方向となるように裁断した試料を使って上記と同様に求めることができる。
【0061】
本実施形態のろ過布1は、織布の角部に前記固定部3が設けられており、該固定部が保持具Tに係止されているためにろ過時においてろ過部2の四隅に斜め方向への張力を自動的に生じ得るようになっており、しかも、織布の辺中央部にも前記固定部3が設けられていて当該固定部3が保持具Tに係止されていることで、斜め方向への張力が過度に大きく作用しないように構成されている。
【0062】
本実施形態のろ過槽100では、上記のような織布を備えたろ過布1を用いてろ過が行われるため、ろ過後期におけるろ過スピードの低下が抑制され得るものの最終的にはろ過布1の上に堆積した固形分S1によってろ過の継続実施が困難となる。
その場合、積層体10を構成している最も上位のろ過布1aを取り除けばろ過性能を復活させることができる。
このとき、取り除くろ過布1aの代わりに新たなろ過布を積層体に追加するようにしてもよい。
新たなろ過布は、例えば、積層体10の最も下位のろ過布1bの下側に追加することができる。
【0063】
本実施形態におけるろ過布は、上記のようにして用いられることにより、ろ過の作業効率を従来に比べて大きく向上させ得る。
また、本実施形態のろ過布は、装着される保持具Tの形態に特に制約が加わるものでもないので汎用性に優れ、上記のような作業効率の向上を種々の場面において発揮し得る。
本実施形態でのろ過布の構成や使用状態は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々変更を加え得る。
即ち、本発明は上記例示に何等限定されるものではない。
【符号の説明】
【0064】
1…ろ過布、2…ろ過部、21…端縁部、21a…横端縁部、21b…縦端縁部、22…本体部、24…経糸、25…緯糸、200…角部、201…直線部、3…固定部、4…接続手段、40…縫目部、10…積層体、100…ろ過槽、P…水受部、S…懸濁液、S1…固形分、S2…水分、T…保持具、Z…隙間