(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】アルミ切粉を用いた水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/08 20060101AFI20240126BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20240126BHJP
【FI】
C01B3/08 Z
B09B3/70
(21)【出願番号】P 2020090631
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】514169714
【氏名又は名称】アルハイテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】徳永 大貴
(72)【発明者】
【氏名】高坂 直樹
(72)【発明者】
【氏名】麻生 善之
(72)【発明者】
【氏名】田村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 孝明
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】加藤 和範
(72)【発明者】
【氏名】原 裕之
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/073113(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0237994(US,A1)
【文献】特開昭56-026997(JP,A)
【文献】特開2007-099906(JP,A)
【文献】特開2010-180392(JP,A)
【文献】特開2001-262178(JP,A)
【文献】特開平09-194872(JP,A)
【文献】特開昭62-019766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/08
B09B 3/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム及びアルミニウム合金の切粉を原料にして水素を製造する方法であって、
前記切粉は水溶性のクーラントを用いて機械加工された際に発生するもので
あり、水溶性のクーラントを洗浄除去せず使用することを特徴とする水素の製造方法。
【請求項2】
前記切粉は機械加工時の水溶性クーラントが付着されたまま運搬又は保存されたものであることを特徴とする請求項1記載の水素の製造方法。
【請求項3】
水溶性のクーラントを切粉に追加で付着させることを特徴とする請求項1又は2記載の水素の製造方法。
【請求項4】
前記水溶性のクーラントは防錆剤が添加されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の水素の製造方法。
【請求項5】
水溶性のクーラントを含有している水中に保管した切粉を使用することを特徴とする請求項1記載の水素の製造方法。
【請求項6】
前記水溶性のクーラントは新品又は廃クーラントであることを特徴とする請求項4記載の水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金をアルカリ性水溶液と反応させて水素を製造する方法に関し、特にアルミ切粉を原材料とする水素の製造方法に係る。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、必要に応じてアルミニウム合金等と称する。)は、アルカリ性水溶液と反応させると水素が発生する。
循環型社会を構築する観点から本発明者らは、アルミ製品を製造する過程で工場内に機械加工による切粉が多く発生することに鑑みて、この切粉を水素製造の原料として使用できないか検討した結果、本発明に至った。
特許文献1には、使用済みの回収アルミ缶を原料にした水素の製造方法を開示するが、本発明は機械加工時に発生した切粉を原料とする点で、上記文献1とは相違する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、アルミ製品の機械加工の過程で発生するアルミの切粉を用いた水素の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る水素の製造方法は、アルミニウム及びアルミニウム合金の切粉を原料にして水素を製造する方法であって、前記切粉は水溶性のクーラントを用いて機械加工された際に発生するものであることを特徴とする。
切削や旋削等の機械加工時には、加工面の粗さや加工精度等の多くの品質項目が要求されることから、いわゆるクーラントと称されている切削油剤が使用されている。
本発明者らの研究の結果、機械加工時に用いるクーラントのうち、水溶性のクーラントを用いればその後に切粉に付着しているクーラントを洗浄除去することなく、そのままアルカリ水溶液と反応させることができ、発生する水素の純度や発生量に影響がないことが明らかになった。
【0006】
ここで水溶性のクーラントは、アルミニウム合金に適したものであれば、JIS K2241に規定されているA1種,A2種のいずれでもよい。
これらのクーラントには、アルミニウム合金の防錆剤も添加されていて、通常は原液を5~30倍に希釈して使用されているが、本発明においてはこの濃度に限定されない。
【0007】
水溶性のクーラントが付着している切粉は、アルミ表面の腐食を抑えるので、そのまま水素製造の原材料として運搬や保存できるメリットもあることが明らかになった。
また切粉は、水溶性のクーラントを含有する水中にて保管することもできる。
クーラントは、使用済みのクーラントを利用してもよい。
【0008】
本発明の水素製造に用いるアルカリ性水溶液は、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム等の通常用いられている水溶液でよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、アルミダイカスト鋳造品等の各種アルミ製品の機械加工時に工場内等で発生する切粉を水溶性のクーラントが付着したまま、アルカリ水溶液との反応に使用できるので、効率的である。
また、切粉をクーラントを含有させた水中に保管することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示したウォーターバス中にて、温調(60℃)した反応フラスコに試料1gと、pH=13以上に設定した水酸化ナトリウムの水溶液(100g)を投入し、水素の発生速度と水素の発生量を計測した。
試料1:アルミダイカスト鋳造品の切削加工時に用いた10倍希釈のクーラントがそのまま付着したもの
試料2:フラスコに廃クーラントを0.1%追加したもの
試料3:フラスコに廃クーラントを1.0%追加したもの
試料4:フラスコに廃クーラントを10%追加したもの
試料5:切粉に付着しているクーラントを純水で洗浄除去したもの
ここで廃クーラントとは、機械加工で使用し、新品と入れ替えたものをいう。
【0012】
(1)水素の発生速度及び最終的な水素の発生量においても試料1と5では全く差が無かった。
(2)試料2,3は水素の発生量に試料1,5との差は認められなかったが、水素の発生速度が僅かに遅くなった。
(3)試料4は試料1に対して水素の発生速度が約60%に低下していたが、総発生量には殆ど差がなかった。
【0013】
以上の実験結果からは、アルミニウム合金の機械加工時に水溶性のクーラントを用いることで、このクーラントが付着している切粉をそのまま水素製造に用いることができることが明らかになった。