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特許7426675空間光通信用ファイバ分岐構造およびそれを備えた光通信システム
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  • 特許-空間光通信用ファイバ分岐構造およびそれを備えた光通信システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】空間光通信用ファイバ分岐構造およびそれを備えた光通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/50 20130101AFI20240126BHJP
   H04B 10/112 20130101ALI20240126BHJP
   H04B 10/80 20130101ALI20240126BHJP
【FI】
H04B10/50
H04B10/112
H04B10/80
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021573652
(86)(22)【出願日】2020-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2020002852
(87)【国際公開番号】W WO2021152679
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【弁理士】
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 要
(74)【代理人】
【識別番号】100195349
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 信喜
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恵子
(72)【発明者】
【氏名】西村 直喜
(72)【発明者】
【氏名】澤 隆雄
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-028572(JP,A)
【文献】特開2018-007069(JP,A)
【文献】特開2019-176046(JP,A)
【文献】特開2011-254256(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104075(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/049598(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/00-10/90
H04J 14/00-14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信光を発することにより情報の送信を行う空間光通信用ファイバ分岐構造において、
通信光を発する発光器と、
水中構造物の周囲に取り付け可能な複数の出射口の各々に通信光を出力する前記発光器を制御する発光制御部と、
前記発光器から発した光を伝送する光ファイバと、
前記光ファイバの出力端子に光学的に接続された光を分配する分配器と、
前記分配器が有する複数の出力端子に光学的に接続され、前記出射口に光学的に結合された光ファイバ群を備える空間光通信用ファイバ分岐構造。
【請求項2】
請求項1に記載の空間通信用ファイバ分岐構造において、
前記光ファイバ群は、構造物に取り付け可能となっている空間光通信用ファイバ分岐構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の空間光通信用ファイバ分岐構造において、
前記発光器および前記発光制御部に電力を供給し、外部との通信を行うケーブルを備える空間光通信用ファイバ分岐構造。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の空間光通信用ファイバ分岐構造において、
前記光ファイバ群における末端の、構造物に対する各々の出射口の角度を調整する調整具を備える空間光通信用ファイバ分岐構造。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4にいずれかに記載の空間光通信用ファイバ分岐構造において、
前記光ファイバ群を構成する光ファイバの各々は、パッチコードを備えた光ファイバに連絡している空間光通信用ファイバ分岐構造。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の空間光通信用ファイバ分岐構造において、
水中に通信光を発する空間光通信用ファイバ分岐構造。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の空間光通信用ファイバ分岐構造において、
前記発光器を水密状態に収納する保護容器を備え、
前記発光器は、前記保護容器外に位置する分配器に光を送信する空間光通信用ファイバ分岐構造。
【請求項8】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の空間光通信用ファイバ分岐構造において、
前記分配器および前記発光器を水密状態に収納する保護容器を備える空間光通信用ファイバ分岐構造。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の空間光通信用ファイバ分岐構造において、
前記発光器と前記分配器とに挟まれる位置にあり、前記光ファイバを通過する波長の異なる二種類の光を分離する分波器であって、前記発光器が出力する光は前記分配器を介して前記光ファイバ群へ伝送する一方、前記発光器が出力する光とは異なる波長の光であって、前記分配器を介して前記光ファイバ群から伝送されてきた光を分離して出力する出力端子を備えた分波器と、
前記分波器の出力端子に光学的に結合されて前記発光器が出力する光とは異なる波長の光を検出する検出器を備える空間光通信用ファイバ分岐構造。
【請求項10】
請求項3に記載の空間光通信用ファイバ分岐構造を備えた光通信システムにおいて、
前記光ファイバ群は構造物の外表面に分散して取り付けられ、
前記構造物に取り付けられた前記光ファイバ群から発する通信光を受光する受光部を備えた移動体と、
前記発光器および前記発光制御部に電力を供給し、前記ケーブルを通じて前記発光制御部と通信を行うことにより前記移動体を遠隔操作する外部局とを備える光通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間光通信用ファイバ分岐構造およびそれを備えた光通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空間に放出された光を用いて情報の伝達を行う光通信システムとして、水中移動体と海底などに設置された観測装置とを備えた構成のものがある。このような光通信システムの水中移動体および観測装置は、可視光を放射する可視光放射装置と可視光を受光する可視光受光装置とをそれぞれ有しており、可視光放射装置と可視光受光装置との間で可視光を授受することにより、情報のやりとりを行う構成となっている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-278455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来構成は、構造物付近で十分に機能することができないという問題点がある。
【0005】
従来構成は、移動体と観測装置との間に光を遮るものがないということが前提となっている。移動体と観測装置との間に光を遮る構造物が存在する様な環境では、観測装置から発した光が構造物で遮られて移動体まで届かないという事態が起こりうる。このような事態となると、観測装置から移動体まで情報を伝達することができなくなってしまう。
【0006】
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、構造物があっても確実に情報の伝達ができる構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様は、通信光を発することにより情報の送信を行う空間光通信用ファイバ分岐構造において、通信光を発する発光器と、水中構造物の周囲に取り付け可能な複数の出射口の各々に通信光を出力する前記発光器を制御する発光制御部と、前記発光器から発した光を伝送する光ファイバと、前記光ファイバの出力端子に光学的に接続された光を分配する分配器と、前記分配器が有する複数の出力端子に光学的に接続され、前記出射口に光学的に結合された光ファイバ群を備える空間光通信用ファイバ分岐構造に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、死角なく通信エリアを確立できる。すなわち本発明に係る空間光通信用ファイバ分岐構造は、分配器が有する複数の出力端子に光学的に接続される光ファイバ群を備えている。このような光ファイバ群により確実に通信エリアを確立することができるので光通信が遮られる事態が起こらない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1に係る空間光通信用ファイバ分岐構造の全体構成を説明する機能ブロック図である。
図2】実施例1に係る空間光通信用ファイバ分岐構造の使用状況を説明する概念図である。
図3】実施例2に係る空間光通信用ファイバ分岐構造の構成を説明する機能ブロック図である。
図4】実施例3に係る空間光通信用ファイバ分岐構造の全体構成を説明する機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態について説明する。なお、本実施形態における水中とは、例えば、海水中、湖水中等を意味し、水底とは、例えば、海底、湖底等を意味する。また、本実施形態における水上とは、例えば、海上、湖上等を意味する。なお、以下の各実施例は、水中における本発明の適用例である。本発明は、例えば陸地で使用する光通信装置にも適用することができる。
【実施例1】
【0011】
図1は、実施例1に係る光通信システムの概略図である。実施例1に係る光通信システムは、水中に通信光を発することにより情報の送信を行うものである。この光通信システムは、通信光を発信する水中局10と、通信光を受信する水中移動体40とを備えている。水中局10,および水中移動体40は、いずれも水中に位置する通信装置である。水中局10は、水底に沈設されている後述の構造物50に固定された構成である。水中移動体40は例えば、AUV(Autonomous Underwater Vehicle)であり、自律的に潜水ができる無人機である。このような水中移動体40には、水中または水上の外部局との間で配線を有していないので、より自由に水中を移動することができる。また、水中移動体40は、後述のカメラを用いて構造物50の外形を撮影することができる。水中移動体40は、スクリューなどの移動手段を有し、水中を移動することができる。その他、実施例1に係る光通信システムは、構造物50の外表面に分散して取り付けられた光ファイバ22と、水中ケーブル9と、水上の基地局8とを有する。これら構成は図2に示されている。水中局10は、本発明の光通信装置に相当する。基地局8は、本発明の外部局に相当し、水中移動体40は本発明の移動体に相当する。移動体を水中に置かない場合(例えば陸地に置く場合)、移動体の具体例としては、例えば、無人走行車である。
【0012】
まずは、水中局10の構成について説明する。水中局10は、外部と通信可能な中継局であり、通信光を発する半導体発光素子を有するLD発光器11(Laser Diode発光器)と、LD発光器11を制御するLD制御部12とを有している。LD発光器11は、LD制御部12から出力される電流により半導体発光素子を作動させて、レーザ光を発する。このレーザ光は、LD制御部12の制御により点滅する。この点滅は、デジタルデータを変換した結果である。このようにLD発光器11から出力される光は、デジタルデータの通信光である。LD発光器11は、本発明の発光器に相当し、LD制御部12は本発明の発光制御部に相当する。LD制御部12は、プロセッサによって実現される。
【0013】
通信光は、水中を伝播しやすい例えば、緑色、青色の可視光線となっている。中継局を水中に置かない場合(例えば陸地に置く場合)の通信光ついては、水中伝播性に関する考慮をしなくてもよい。
【0014】
LD発光器11およびLD制御部12は、耐水性、耐圧性を有し、水密を維持した状態の保護容器13に収納されている。保護容器13には、LD発光器11から出力された通信光を保護容器13外部に導くための水中コネクタ13aを有している。水中コネクタ13aは、保護容器13と同様に耐水性、耐圧性を有している。したがって、保護容器13を水底に沈設させたとしても、保護容器13は、水圧に耐え、保護容器13の内部が浸水することがない。LD発光器11は、保護容器13外に位置する後述のビームコンバイナ14に通信光を送信する。中継局を水中に置かない場合(例えば陸地に置く場合)の保護容器13は、耐水性、耐圧性を有する構成としなくてもよい。
【0015】
LD発光器11から発した通信光が伝送される様子について説明する。LD発光器11から出力された通信光は、LD発光器11の出力端子に光学的に結合されている光ファイバ21aを通じて水中コネクタ13aに向かう。光ファイバ21aのLD発光器11側とは反対側の端子(出力端子)は、水中コネクタ13aに光学的に接続されている。
【0016】
水中コネクタ13aにおける保護容器13外側の端子(出力端子)には、光ファイバ21bが光学的に接続されている。この光ファイバ21bの水中コネクタ13a側とは反対側の端子(出力端子)は、後述のビームコンバイナ14に光学的に接続されている。したがって、LD発光器11から発した通信光は、光ファイバ21a,水中コネクタ13a,光ファイバ21bを通じてビームコンバイナ14に導かれる。ビームコンバイナ14は、本発明の分配器に相当する。
【0017】
ビームコンバイナ14は通信光を分配する分配器である。ビームコンバイナ14は一つの通信光入力端に対し複数の通信光出力端がある。ビームコンバイナ14に通信光を入力させると、複数の通信光出力端から同じ通信光が同時に出力される。なお、図1におけるビームコンバイナ14には、8箇所の通信光出力端が設けられている。実施例1ではこの通信光出力端の個数を適宜増減することが可能である。
【0018】
ビームコンバイナ14の通信光出力端の各々には、光ファイバ22が光学的に接続されている。図1の場合、ビームコンバイナ14は、8つの通信光出力端を有しており、光ファイバ22は8本存在する。これら光ファイバ22は本発明における光ファイバ群に相当する。
【0019】
この8本の光ファイバ22におけるビームコンバイナ14側と反対側の端部の構成について説明する。図1に示すように、光ファイバ22のビームコンバイナ14側とは反対側の端子(出力端子)は、アダプタ32を介して被覆光ファイバ23に光学的に接続されている。光ファイバのアダプタ32への接続を可能にするのが、光ファイバ22の端部に設けられたコネクタ31aと、被覆光ファイバ23の端部に設けられたコネクタ31bである。
【0020】
被覆光ファイバ23は、中心をなす光ファイバを被覆するように保護層を設けたものである。被覆光ファイバ23は、通常の光ファイバと比べて物理的に強い性質を有している。被覆光ファイバ23は具体的には例えばパッチコードである。光ファイバ群を構成する光ファイバ22の各々は、パッチコードを備えた被覆光ファイバ23に連絡している。
【0021】
被覆光ファイバ23のアダプタ32側とは反対側の端子(出力端子)は、レセプタクル33に光学的に接続されている。レセプタクル33は、後述の角度調整具15に装着される被覆光ファイバ23の出力端子を形成している。図1では角度調整具15は省略されているので、図1では通信光がレセプタクル33から直接出力されるように描かれている。なお、図1では、通信光は、あたかも一番左側のレセプタクル33からしか発せられていないように描かれているが、実際の通信光は、全てのレセプタクル33から同時に発せられる。被覆光ファイバ23のレセプタクル33への接続を可能にするのが、被覆光ファイバ23の端部に設けられたコネクタ31cである。
【0022】
続いて、水中移動体40について説明する。水中移動体40は、LD発光器11から出力された通信光を受光する受光部41と、受光部41の受光結果に基づいて、通信光を電気信号に変換する信号変換部42と、水中移動体40が有するモータなどの駆動を制御する移動体制御部43とを備えている。LD発光器11から出力された通信光は、後述の構造物50から発せられる通信光でもある。
【0023】
水中移動体40は、上述した通信光を受けて例えば移動方向を変えることができるので、この点について説明する。例えば、LD制御部12がLD発光器11を通じて水中移動体40に旋回せよという意味の通信光を発したとする。この通信光は、被覆光ファイバ23等を通じて水中に発せられる。水中移動体40は、この通信光を受光部41で受信する。そして、信号変換部42は、通信光を旋回せよという意味の電気信号に変換する。移動体制御部43は、この電気信号に従い、水中移動体40が旋回するように水中移動体40に付属のモータ等を制御する。信号変換部42および移動体制御部43は、プロセッサにより実現される。
【0024】
図2は、水中局10および水中移動体40が水中で使用されているときの様子を示している。従って、水中局10および水中移動体40は、水面60の下にある。図2における構造物50は、細長いフレーム51を組み立てて構成されており、例えば、マニフォルドのような水底61に設置される水底油田開発用の構造物である。
【0025】
水中局10は、構造物50に配設されている。水中局10の保護容器13は、水中ケーブル9を通じて水上の基地局8に連絡している。水中ケーブル9は、基地局8からの電力を保護容器13の内部に供給すると共に、基地局8からのLD制御部12を制御するための制御信号を伝達する。基地局8のヒューマンインターフェースを操作すれは、水中移動体40を遠隔操作することができる。水中ケーブル9は、LD発光器11およびLD制御部12に電力を供給し、LD制御部12が水上との通信を行うときに用いられるものである。水中ケーブル9は、本発明のケーブルに相当する。
【0026】
構造物50には、上述の光ファイバ22,23が配線されている。光ファイバ22,23の先端は、上述のレセプタクル33を通じて角度調整具15に光学的に結合している。角度調整具15は、通信光の出射口を有している。そして、角度調整具15は、光ファイバ22,23が伝達した通信光を水中の所定方向に発散させることができるように通信光の出射口の角度を調整することが可能な構成となっている。角度調整具15の出射口は、図2における破線が示すように通信光をある程度の広がりを持たせて放射状に照射する。角度調整具15は、光ファイバ22,23における末端の、構造物50に対する各々の出射口の角度を調整する構成である。角度調整具15の各々は、構造物50の異なる位置に配置されている。このようにすることにより、角度調整具15から出射する通信光の発信源を互いに異ならせることができる。角度調整具15は、本発明の調整具に相当する。
【0027】
被覆光ファイバ23について説明する。構造物50には、フレーム51に様々機器が取り付けられる。これら機器の中には、構造物50から突出するように設けられるものもある。このような機器に角度調整具15を取り付ける場合も構造物50本体から光ファイバを配線することになる。実施例1によれば、構造物50本体から外側へ向けて伸びる光ファイバには、被覆光ファイバ23を用いるようにしている。このようにすることにより、水中局10はより衝撃に強いものとなる。
【0028】
角度調整具15の設置状況について説明する。複数の角度調整具15が水中移動体40との通信が途切れないように構造物50の外表面に分散して設けられている。つまり、実施例1によれば構造物50の全体が通信光で発光するので、構造物50の近傍水域に位置する水中移動体40は、常にいずれかの角度調整具15から発せられた通信光を受光部41で受信することができる。例えば、基地局8において水中局10に水中ケーブル9を通じて旋回せよという指示を発すると、水中移動体40は、旋回に関する通信光をいずれかの角度調整具15から受信して旋回する。
【0029】
以上のように、実施例1によれば、死角なく水中において通信エリアを確立できる光通信装置を提供することができる。すなわち実施例1に係る光通信装置は、ビームコンバイナ14が有する複数の通信光出力端に光学的に接続され、水中の構造物に取り付け可能な複数の光ファイバ22を備えている。このような複数の光ファイバ22により構造物50自体を発光させることができるので、構造物50が影となり光通信が遮られる事態が起こらない。
【実施例2】
【0030】
続いて実施例2について説明する。実施例2は、実施例1と同様の構成であるが、ビームコンバイナ14が保護容器13内に設けられている点で実施例1とは異なる。すなわち、実施例2の構成によれば、保護容器13は、ビームコンバイナ14およびLD発光器11を水密状態に収納する。
【0031】
図3に示す様に、実施例2に係る水中局10aは、LD発光器11とビームコンバイナ14とを光学的に接続する光ファイバ21を有している。そして、ビームコンバイナ14の通信光出力端の各々は、保護容器13の内部で光ファイバ22aに光学的に接続されている。光ファイバ22aに入力された通信光は、光ファイバ22aの各々に対応して設けられた水中コネクタ13bに向かう。光ファイバ22aのビームコンバイナ14側とは反対側の端子(出力端子)は、水中コネクタ13bに光学的に接続されている。
【0032】
水中コネクタ13aにおける保護容器13の外側の端子(出力端子)には、光ファイバ22bが光学的に接続されている。光ファイバ22bの先端部の構成は、実施例1における光ファイバ22のものと同様である。
【0033】
以上のように、実施例2によれば、ビームコンバイナ14を水から保護することができ、故障の少ない光通信装置を提供することができる。
【実施例3】
【0034】
実施例3は、実施例1の構成に水中移動体40からの通信光を受信する機能を備えた構成となっている。したがって、実施例3における通信光の送信についての構成は、実施例1と同様である。
【0035】
図4は、実施例3に係る水中局10bを示している。水中局10bは、保護容器13の内部にLD発光器11が発した通信光を通過させる分波器16と、水中局10bが受信した水中移動体40からの通信光を検出する検出器17とを備えている。したがって、分波器16は、LD発光器11とビームコンバイナ14とに挟まれる位置にある。
【0036】
LD発光器11から出力された通信光は、LD発光器11の出力端子に光学的に結合されている光ファイバ21aを通じて分波器16に向かう。光ファイバ21aのLD発光器11側とは反対側の端子(出力端子)は、分波器16に光学的に接続されている。
【0037】
分波器16から出力された通信光は、分波器16の出力端子に光学的に結合されている光ファイバ21cを通じて水中コネクタ13aに向かう。光ファイバ21cの分波器16側とは反対側の端子(出力端子)は、水中コネクタ13aに光学的に接続されている。
【0038】
水中コネクタ13aにおける保護容器13外側の端子(出力端子)には、光ファイバ21bが光学的に接続されている。この光ファイバ21bの水中コネクタ13a側とは反対側の端子(出力端子)は、ビームコンバイナ14に光学的に接続されている。したがって、LD発光器11から発した通信光は、光ファイバ21a,分波器16,光ファイバ21c,水中コネクタ13aおよび光ファイバ21bを通じてビームコンバイナ14に導かれる。
【0039】
分波器16は、LD発光器11からの通信光を出力する出力端子の他に、水中移動体40からの通信光を検出する検出器17に接続されたもう一つの出力端子を有している。すなわち、分波器16は、光ファイバ24を通じて検出器17に接続されている。検出器17は、通信光を検出して電気信号を出力する構成となっている。
【0040】
分波器16についてより詳細に説明する。分波器16が有する二つの出力端子のうち、水中コネクタ13aに接続されている出力端子を第1出力端子と呼び、検出器17に接続されている出力端子を第2出力端子と呼ぶことにする。分波器16が有する入力端子には、LD発光器11からの通信光とは異なる波長を有する水中移動体40からの通信光が進入することがない。その代わり、水中移動体40からの通信光は、検出器17に到達する。このような分波器16の特性は、LD発光器11からの通信光の波長と水中移動体40からの通信光の波長とが互いに異なっていることによる。つまり、分波器16は、光ファイバを通過する波長の異なる二種類の光を分離する機能を有している。
【0041】
実施例3に係る水中局10bは、水中移動体40に搭載されたカメラ45の映像データを受信することができるのでこの点について説明する。水中移動体40は、水中移動体40から確認できる水中の様子を撮影するカメラ45を備えている。カメラ45は、リアルタイムな動画を撮影して動画データを生成し、水中移動体40に搭載された信号変換部42に送信する。
【0042】
信号変換部42は、電気信号となっている動画データをカメラ45から受け取ると、動画データを光信号に変換する。こうして生成された通信光は、発光部44を介して水中に発せられる。このとき発光部44が発する通信光は、図4の破線が示す様にある程度の広がりを有した放射状に広がる光であり、その波長は、水中局10bが発する通信光の波長とは異なっている。
【0043】
水中移動体40からの通信光は、構造物50の各所に設置された角度調整具15に入射し、実施例1で説明したLD発光器11からの通信光とは逆の経路を辿って分波器16に向かう。水中移動体40からの通信光が分波器16に向かう様子は、図4において矢印で示されている。従って、分波器16における第1出力端子は、水中移動体40からの通信光を入力させる入力端子にもなっている。なお、図4においては角度調整具15を省略して水中局10bを描いている。
【0044】
分波器16は、所定の波長の光を入力端子から出力させる構成となっており、水中移動体40からの通信光の波長は、入力端子から出射できる波長となっていないので、分波器16に入力された水中移動体40からの通信光は、LD発光器11の側に向かうことがない。その代わり、水中移動体40からの通信光は、第2出力端子を通じて検出器17に入射する。検出器17は、水中移動体40からの通信光を電気信号に変換し、これを水中ケーブル9を通じて水上の基地局8まで伝達させる。水上の基地局8では、水中移動体40が撮影している水中の様子をリアルタイムで確認することができる。このように、検出器17は、分波器16のうちLD発光器11が出力する光とは異なる波長の光を出力する出力端子(第2出力端子)に光学的に結合される構成であり、水中移動体40からの通信光を検出する。
【0045】
以上のように、実施例3によれば、より確実に送受信が可能な光通信装置が提供できる。すなわち実施例3に係る光通信装置は、水中移動体40からの通信光を受信する水中の構造物に取り付け可能な複数の光ファイバ22を備えている。このような複数の光ファイバ22により構造物50の全体を受信装置として動作させることができるので、構造物50が影となり光通信が遮られる事態が起こらない。
【0046】
本発明は、上述の実施例に限られず下記の様に変形実施することが可能である。
【0047】
(1)各実施例における光ファイバ22,23の先端は、角度調整具15に光学的に接続されていたが、本発明はこの構成に限られない。光ファイバ22,23の先端を角度調整具15によって固定せず、構造物50のフレーム51に光ファイバ22,23を巻き付けることにより光ファイバの配線を行うようにしてもよい。この場合、角度調整具15を備えない構成とすることもできる。
【0048】
(2)各実施例における光ファイバ22,23は、構造物50に配線されていたが、本発明は、構造物50に光ファイバを配線しない構成にも適用ができる。例えば、光ファイバ22,23の先端を地面や水底に設置することができる。また、光ファイバ22,23を通信エリアの上方に設置し、光ファイバ22,23を垂下させて使用することもできる。別の例としては、光ファイバ設置用の構造体を構造物50とは別に設けるようにしてもよい。
【0049】
(3)実施例3においては、ビームコンバイナ14が保護容器13の外にあったが、実施例3の構成を採用しつつ、実施例2のようにビームコンバイナ14が保護容器13に収納された構成とすることもできる。
【0050】
(4)各実施例ではビームコンバイナ14を備えていたが、本発明はこの構成に限られない。ビームコンバイナ14に代えて光を分配する機能を有するビームコンバイナ14以外の部品を用いることもできる。
【0051】
(5)各実施例における基地局8は、陸地に設置されていたが、本発明はこの構成に限られず、基地局8を船上に設置するようにしてもよい。
【0052】
上述の複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0053】
一態様に係る空間光通信用ファイバ分岐構造は、
通信光を発することにより情報の送信を行う空間光通信用ファイバ分岐構造において、
通信光を発する発光器と、
前記発光器を制御する発光制御部と、
前記発光器から発した光を伝送する光ファイバと、
前記光ファイバの出力端子に光学的に接続された光を分配する分配器と、
前記分配器が有する複数の出力端子に光学的に接続される光ファイバ群を備える空間光通信用ファイバ分岐構造を備えていてよい。
【0054】
上記発明によれば、死角なく通信エリアを確立できる。すなわち本発明は、分配器が有する複数の出力端子に光学的に接続される光ファイバ群を備えている。このような光ファイバ群によりくまなく通信エリアを通信光で照明することができるので、確実な光通信が可能である。
【0055】
前記一態様に係る空間通信用ファイバ分岐構造は、
前記光ファイバ群は、構造物に取り付け可能となっている。
【0056】
上記発明によれば、通信光で構造物自体を発光させることができるので、構造物が影となり光通信が遮られる事態が起こらない。
【0057】
前記一態様に係る空間通信用ファイバ分岐構造は、
前記発光器および前記発光制御部に電力を供給し、外部との通信を行うケーブルを備えるようにしてよい。
【0058】
上記発明によれば、発光器および発光制御部が確実に動作させることができる。
【0059】
前記一態様に係る空間光通信用ファイバ分岐構造は、
前記光ファイバ群における末端の、構造物に対する各々の出射口の角度を調整する調整具を備えるようにしてよい。
【0060】
上記発明によれば、構造物の周囲をくまなく通信光で照明することが可能である。
【0061】
前記一態様に係る空間光通信用ファイバ分岐構造は、
前記光ファイバ群を構成する光ファイバの各々は、パッチコードを備えた光ファイバに連絡していてもよい。
【0062】
上記発明によれば、特に衝撃を受けやすい光ファイバ群の先端を保護することができる。
【0063】
前記一態様に係る空間光通信用ファイバ分岐構造は、
水中に通信光を発する。
【0064】
上記発明によれば、水中において通信エリアを確実に確立することができる。
【0065】
前記一態様に係る空間光通信用ファイバ分岐構造は、
前記発光器を水密状態に収納する保護容器を備え、
前記発光器は、前記保護容器外に位置する分配器に光を送信する。
【0066】
上記発明によれば、発光器の故障が確実に抑制される。また、上記発明によれば、保護容器に単一の水中コネクタを設けるだけで構成できるので、安価な装置が提供できる。
【0067】
前記一態様に係る空間光通信用ファイバ分岐構造は、
前記分配器および前記発光器を水密状態に収納する保護容器を備えるようにしてもよい。
【0068】
上記発明によれば、分配器および発光器の故障が確実に抑制された装置を提供することができる。
【0069】
前記一態様に係る空間光通信用ファイバ分岐構造は、
前記発光器と前記分配器とに挟まれる位置にあり、前記光ファイバを通過する波長の異なる二種類の光を分離する分波器であって、前記発光器が出力する光は前記分配器を介して前記光ファイバ群へ伝送する一方、前記発光器が出力する光とは異なる波長の光であって、前記分配器を介して前記光ファイバ群から伝送されてきた光を分離して出力する出力端子を備えた分波器と、
前記分波器の出力端子に光学的に結合されて前記発光器が出力する光とは異なる波長の光を検出する検出器を備えるようにしてよい。
【0070】
上記発明によれば、より確実に送受信が可能となる。すなわち上記発明によれば、通信光を受信する光ファイバ群を備えている。このような光ファイバ群によりくまなく通信エリア内の受信をすることができるので、確実な光通信が可能である。
【0071】
前記一態様に係る空間光通信用ファイバ分岐構造を備えた光通信システムは、
前記光ファイバ群は構造物の外表面に分散して取り付けられ、
前記構造物に取り付けられた前記光ファイバ群から発する通信光を受光する受光部を備えた移動体と、
前記発光器および前記発光制御部に電力を供給し、前記ケーブルを通じて前記発光制御部と通信を行うことにより前記移動体を遠隔操作する外部局とを備えるようにしてよい。
【0072】
上記発明によれば、死角なく移動体の通信エリアを確立できる光通信装置を提供することができる。すなわち本発明に係る光通信システムは、外部局からの情報を変換した通信光を分配する分配器を備えている。そして、上記発明は更に、分配器が有する複数の出力端子に光学的に接続される光ファイバ群を備えている。このような光ファイバ群によりくまなく通信エリアを通信光で照明することができるので、確実な光通信が可能である。
【符号の説明】
【0073】
11 LD発光器(発光器)
12 LD制御部(発光制御部)
14 ビームコンバイナ(分配器)
21 光ファイバ
22 光ファイバ(光ファイバ群)
図1
図2
図3
図4