(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】コアシェル触媒の後処理方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
B01J 23/44 20060101AFI20240126BHJP
B01J 35/51 20240101ALI20240126BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20240126BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240126BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20240126BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240126BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
B01J23/44 M
B01J35/08 Z
B01J37/02 101E
H01M4/88 K
H01M4/92
H01M4/86 B
H01M4/90 M
H01M4/90 B
(21)【出願番号】P 2022546647
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(86)【国際出願番号】 CN2020121822
(87)【国際公開番号】W WO2022021617
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2022-07-29
(31)【優先権主張番号】202010762267.X
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522303652
【氏名又は名称】広州市香港科大霍英東研究院
【氏名又は名称原語表記】GUANGZHOU HKUST FOK YING TUNG RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】Science And Technology Building,Nansha IT Park,No.2 Huan Shi Da Dao Road,Nansha District,Guangzhou,Guangdong 511458,China
(73)【特許権者】
【識別番号】500540958
【氏名又は名称】香港科技大学
【氏名又は名称原語表記】The Hong Kong University of Science and Technology
【住所又は居所原語表記】Clear Water Bay, Kowloon, Hong Kong, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】邵 敏華
(72)【発明者】
【氏名】武 希文
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-029967(JP,A)
【文献】特開2016-137425(JP,A)
【文献】特開2015-150504(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108385156(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
H01M 4/86- 4/98
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェル触媒をクエン酸又はエチレンジアミン四酢酸を含有する電解質溶液に添加し、電解質溶液に酸素を含有するガスを流し、所定時間撹拌して反応させ、反応中に開回路電位を記録し、反応が完了した時に開回路電位を0.90~1.0Vvs.RHEに安定させるステップを含み、
前記クエン酸又はエチレンジアミン四酢酸とコアシェル触媒における白金とのモル比は10~1000:1であり、
前記酸素を含有するガスにおける酸素の体積百分率は10~100%である、ことを特徴とするコアシェル触媒の後処理方法。
【請求項2】
前記コアシェル触媒は、パラジウム白金-コアシェル触媒、ルテニウム白金-コアシェル触媒、パラジウム合金白金-コアシェル触媒のうちの1つである、ことを特徴とする請求項1に記載のコアシェル触媒の後処理方法。
【請求項3】
前記電解質溶液は、硫酸銅溶液であり、前記酸素を含有するガスは、空気又は純酸素である、ことを特徴とする請求項1に記載のコアシェル触媒の後処理方法。
【請求項4】
前記クエン酸又はエチレンジアミン四酢酸の濃度は、5~50mMである、ことを特徴とする請求項1に記載のコアシェル触媒の後処理方法。
【請求項5】
前記所定時間は、6~12hである、ことを特徴とする請求項1に記載のコアシェル触媒の後処理方法。
【請求項6】
前記後処理方法は、反応が完了した後、濾過し、固体を保留し、洗浄し、乾燥すれば、コア溶解後処理されたコアシェル触媒を得る浄化ステップをさらに含む、ことを特徴とする請求項1に記載のコアシェル触媒の後処理方法。
【請求項7】
前記コアシェル触媒は、銅-白金置換反応により得られる、ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のコアシェル触媒の後処理方法。
【請求項8】
前記銅-白金置換反応は、具体的に、
コア材料を反応器に添加し、水を添加して混合し、硫酸溶液を添加し、撹拌を開始し、不活性ガスを流して反応器内の酸素を除去し、水素を流し、コア材料の表面に吸着された不純物を脱着し、不活性ガスを流して水素を除去し、酸素又は空気で結晶格子内に埋め込まれた水素を脱出させ、不活性ガスを流して溶液中の溶存酸素を除去するステップS1と、
不活性ガスを流し続け、撹拌を停止し、コア材料が沈降した後、電位CV走査を行い、20~40min静置するごとに10~70s撹拌を開始し、撹拌を停止し、コア材料が沈降した後、CV曲線が安定するまで電位CV走査を継続するステップS2と、
反応器に硫酸銅溶液を添加し、その間に開回路電位を記録し、硫酸銅溶液の添加が完了した後、撹拌を停止し、材料が沈降した後、定電位制御を行い、記録された電流が安定するまで、20~40min静置するごとに10~70s撹拌を開始するステップS3と、
白金イオン、クエン酸、硫酸を含有する前駆体溶液を調製し、不活性ガスを流し、白金前駆体溶液を得、定電位ステップが終了すると、電位制御を停止し、撹拌を開始し、白金前駆体溶液を滴下して銅-白金置換反応を行い、置換反応が完了し、濾過し、固体を保留し、洗浄し、乾燥すれば、コア溶解後処理されないコアシェル触媒を得るステップS4と、を含む、ことを特徴とする請求項7に記載のコアシェル触媒の後処理方法。
【請求項9】
前記コア材料は、炭素担体ナノパラジウムである、ことを特徴とする請求項8に記載のコアシェル触媒の後処理方法。
【請求項10】
コアシェル触媒の後処理反応に反応場所を提供するために用いられる反応器であって、その中に撹拌器が設けられる反応器と、
反応器に酸素又は純酸素を供給するために用いられるガス供給装置と、
反応器内の反応系の開回路電位を記録するために用いられる電気化学作業ステーションと、
前記コアシェル触媒をクエン酸又はエチレンジアミン四酢酸を含有する電解質溶液に添加し、電解質溶液に酸素を含有するガスを流し、所定時間撹拌して反応させ、反応中に開回路電位を記録し、反応が完了した時に開回路電位を0.90~1.0Vvs.RHEに安定させる制御ステップを備える制御装置とを含み、
前記クエン酸又はエチレンジアミン四酢酸とコアシェル触媒における白金とのモル比は10~1000:1であり、
前記酸素を含有するガスにおける酸素の体積百分率は10~100%である、
ことを特徴とするコアシェル触媒の後処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池材料分野に関し、特にコアシェル触媒の後処理方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン交換膜燃料電池は、小分子燃料(例えば、水素、メタノールなど)及び酸素を反応物とし、膜電極内で電気化学反応を発生して発電を行うエネルギー供給装置である。現在、車両用燃料電池の研究開発は、水素を燃料とするプロトン交換膜燃料電池に焦点を合わせることが多く、その他の燃料と比較してエネルギー密度がより高く、反応機構がより簡単で、反応動力学が速いからである。以下、水素を燃料とするプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)を、単に燃料電池という。燃料電池におけるカソード電気化学反応(酸素還元反応)は、動力学が遅く、装置の実用性を実現するために多くの触媒を必要とする。現在、商品産業化された燃料電池は、炭素担体ナノ白金を電池の触媒とすることが多く、白金金属は、酸素還元反応を最も効果的に触媒可能な元素であり、また、その他の金属に比べ、白金は、良好な抗酸化耐食性を有するからである。そのため、炭素担体ナノ白金を触媒とし、燃料電池に大きな電力密度を出力させて長時間の耐用年数を実現することができる。しかし、白金は、高価な貴金属であり、地殻中の存在量が少なく、ナノ粒子の形態で白金触媒の利用率を向上させることができるが、酸化性の作業環境で動作することに伴い、白金ナノ粒子は、徐々に凝集して燃料電池の電力出力性能を不可逆的に減衰させる。
【0003】
電池の出力電力密度を保持して耐用年数を延長させつつ、どのように燃料電池の膜電極の白金担持量を低減させるかについては、現在、燃料電池分野の主な研究課題である。触媒自体に着目すると、白金合金、コアシェル構造、単原子などの新規な触媒が、次々に登場し、触媒における単位質量当たりの白金の触媒活性が大幅に向上し、高性能かつ低白金の膜電極の大規模産業化を実現するための重要な一歩となっている。コアシェル構造触媒は、非白金の金属(例えば、パラジウム)又は化合物(例えば、窒化チタン)をコアとし、単層又は複数層の原子厚さの白金をシェルとする触媒であり、この特殊な構造により、白金原子の利用率を大幅に向上させることができ、シェル白金原子に対するコア材料の電子、引張作用は、白金シェルのORR触媒活性を向上させることができる。コア材料は、白金シェルに対する陰極保護により、白金シェルの腐食溶解を減少させ、触媒粒子の凝集を抑制し、電池の耐用年数を延長させることができる。
【0004】
コアシェル触媒の調製は、シェルの成長を正確に制御することが重要であり、シェル層の厚さ及び被覆の均一性は、触媒活性及び耐久性に直接影響する。白金単原子層触媒の調製方法は、アメリカ合衆国Brookhaven National LaboratoryのAdzicチームによって最初に提案され、そのうちコア材料ナノ粒子(例えば、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、金など)の表面にアンダーポテンシャル析出法(UPD)で単原子層テンプレート(例えば、鉛、水素、銅)を成長させ、さらに白金イオンを導入してテンプレートと表面酸化還元置換反応(SLRR)を発生させ、白金単原子シェル層を形成することに関する。上記反応ステップの上で、コアシェル触媒性能を向上させ及び大量調製を拡大する多くの方法が次々に提案され、そのうちパラジウム又はパラジウム合金(例えば、パラジウムコバルト、パラジウムニッケル)をコアとして白金単原子層の触媒活性を効果的に向上させることができるが、パラジウムは、同様に白金族金属(PGM)で、希少価値が高く且つ高価である。化学法又は電気化学法でコアシェル触媒に対して後処理を行い、パラジウムコアを部分的に溶解し及び白金シェル欠陥を補修し、コアシェル触媒におけるパラジウム使用量を効果的に低減させることを実現することができる。溶解されたパラジウムイオンは、回収して精製して再利用し、触媒コストをさらに低減させるという目的を達成することができる。
【0005】
コアシェル触媒の合成方法を改良する以上の研究開発の上で、現在、少量で調製されたコアシェル触媒は、膜電極単電池の試験方法で得られたPGMの質量活性が0.35A/mg未満であることが多く、この数値は、成熟した従来技術の市販の白金炭素触媒よりも高いが、燃料電池自動車コストを考慮すると、依然として大規模な産業化を実現することが困難である。燃料電池自動車内の貴金属の使用量をさらに低減させるために、触媒のPGM(白金族金属)質量活性をさらに向上させなければならず、コアシェル触媒に対して後処理を行うことは、PGM質量活性を向上させる方法の1つであり、後処理が達成しようとする理想的な効果は、
図1に示すように、パラジウムコアを部分的に溶解してピンホール欠陥を補修し、白金シェルの完全性を維持することである。現在の化学的後処理法は、加熱(80~100℃)の酸化雰囲気で、硝酸鉄又は塩化鉄で臭化カリウムと組み合わせてパラジウムコアに対してエッチングを行うことが多く、そのうちエッチングの程度は、鉄イオンの濃度に大きく影響されやすく、プロセス全体の制御が困難である。コアシェル構造の外貌を破壊して触媒活性を減衰させやすく、さらに臭化カリウム又はその他の添加剤濃度、反応温度に対する繁雑なパラメータ制御、及びコアシェル触媒合成反応の別の反応器、反応ステップを必要とし、この鉄イオンをエッチング剤とする後処理法は、確実な高活性コアシェル触媒の大量の調製を実現することが困難である。電気化学的後処理法は、電位循環(方形波、三角波)を利用してパラジウムコアを部分的に溶解し、白金シェルのピンホールを補修するという目的を達成する。電気化学的後処理法は、コアシェル触媒でまず電極を作り、過塩素酸電解質と酸化雰囲気下で、電気化学作業ステーションに接続してそれに対して電位循環を行うことが多い。この処理方法は、同様に追加の反応器、反応ステップを必要とし、大量に調製する時に電位を正確に制御することが困難であり、低コストの良質なコアシェル触媒の拡大調製を実現することが困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これに基づき、上記問題に対し、コアシェル触媒の後処理方法を提供する必要があり、大量のコアシェル触媒の後処理を実現することができ、処理されたコアシェル触媒の白金質量活性及びPGM質量活性が顕著に向上する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
コアシェル触媒の後処理方法であって、コアシェル触媒をクエン酸又はエチレンジアミン四酢酸を含有する電解質溶液に添加し、電解質溶液に酸素を含有するガスを流し、所定時間撹拌して反応させ、反応中に開回路電位を記録し、反応が完了した時に開回路電位を0.90~1.0Vvs.RHEに安定させるステップを含み、
前記クエン酸又はエチレンジアミン四酢酸とコアシェル触媒における白金とのモル比は10~1000:1であり、
前記酸素を含有するガスにおける酸素の体積百分率は10~100%である。
【0008】
上記コアシェル触媒の後処理方法では、クエン酸又はエチレンジアミン四酢酸アニオンは、金属に選択的に吸着し、白金の表面に吸着される傾向があり、その他の金属(例えば、パラジウム)の表面に弱くしか吸着されず、クエン酸又はエチレンジアミン四酢酸の白金シェルに対する保護で、酸性及び酸化雰囲気で、コア溶解反応速度をゆっくりと制御可能であり、しかも、白金原子を再配列し、より緻密なシェルを形成し、コアシェル構造の外貌を維持することができ、得られたコアシェル触媒の白金質量活性とPGM質量活性が顕著に向上し、活性減衰率が小さく、良好な耐久性を有する。本発明の後処理方法は、化学方法に属し、大量のコアシェル触媒の調製に用いることができ、反応器及び電解質を交換し又は添加剤を追加する必要がなく、確実なワンポット法で良質なコアシェル触媒を合成することを実現する。
【0009】
そのうちの1つの実施例において、前記コアシェル触媒は、パラジウム白金-コアシェル触媒、ルテニウム白金-コアシェル触媒、パラジウム合金白金-コアシェル触媒のうちの1つである。
【0010】
そのうちの1つの実施例において、前記クエン酸又はエチレンジアミン四酢酸とコアシェル触媒における白金とのモル比は、50~70:1である。
【0011】
そのうちの1つの実施例において、前記電解質溶液は、硫酸銅溶液である。
【0012】
そのうちの1つの実施例において、前記酸素を含有するガスは、空気又は純酸素である。
【0013】
そのうちの1つの実施例において、前記クエン酸又はエチレンジアミン四酢酸の濃度は、5~50mMである。適切なクエン酸又はエチレンジアミン四酢酸の濃度(5~50mM)は、パラジウムコアを溶解する時に白金シェルの溶解を抑制することができる。クエン酸又はエチレンジアミン四酢酸の濃度が5mMよりも低い場合、白金シェルに対する保護作用が非常に小さく、コアが露出し、得られた触媒の活性も大幅に低下する。
【0014】
そのうちの1つの実施例において、前記所定時間は、6~12hである。
【0015】
そのうちの1つの実施例において、前記後処理方法は、反応が完了した後、濾過し、固体を保留し、洗浄し、乾燥すれば、コア溶解後処理されたコアシェル触媒を得る浄化ステップをさらに含む。浄化ステップでは、大部分のクエン酸を除去することができ、白金の表面に吸着された残りのクエン酸は、燃料電池の作業環境で高電位及び低電位サイクルした後に脱着又は分解することができ、触媒の作用を損なわない。
【0016】
そのうちの1つの実施例において、前記コアシェル触媒は、銅-白金置換反応により得られる。
【0017】
そのうちの1つの実施例において、前記銅-白金置換反応は、具体的に、
コア材料を反応器に添加し、水を添加して混合し、硫酸溶液を添加し、撹拌を開始し、不活性ガスを流して反応器内の酸素を除去し、水素を流し、コア材料の表面に吸着された不純物を脱着し、不活性ガスを流して水素を除去し、酸素又は空気で結晶格子内に埋め込まれた水素を脱出させ、不活性ガスを流して溶液中の溶存酸素を除去するステップS1と、
不活性ガスを流し続け、撹拌を停止し、コア材料が沈降した後、電位CV走査を行い、20~40min静置するごとに10~70s撹拌を開始し、撹拌を停止し、コア材料が沈降した後、CV曲線が安定するまで電位CV走査を継続するステップS2と、
反応器に硫酸銅溶液を添加し、その間に開回路電位を記録し、硫酸銅溶液の添加が完了した後、撹拌を停止し、材料が沈降した後、定電位制御を行い、記録された電流が安定するまで、20~40min静置するごとに10~70s撹拌を開始するステップS3と、
白金イオン、クエン酸、硫酸を含有する前駆体溶液を調製し、不活性ガスを流し、白金前駆体溶液を得、定電位ステップが終了すると、電位制御を停止し、撹拌を開始し、白金前駆体溶液を滴下して銅-白金置換反応を行い、置換反応が完了し、濾過し、固体を保留し、洗浄し、乾燥すれば、コア溶解後処理されないコアシェル触媒を得るステップS4と、を含む。
【0018】
そのうちの1つの実施例において、前記不活性ガスは、アルゴン又は窒素である。
【0019】
そのうちの1つの実施例において、前記コア材料は、炭素担体ナノパラジウムである。
【0020】
本発明の一態様にてさらに提供されるコアシェル触媒の後処理システムは、
コアシェル触媒の後処理反応に反応場所を提供するために用いられる反応器であって、その中に撹拌器が設けられる反応器と、
反応器に酸素又は純酸素を供給するために用いられるガス供給装置と、
反応器内の反応系の開回路電位を記録するために用いられる電気化学作業ステーションと、を含む。
【0021】
上記システムは、大量のコアシェル触媒の後処理を実現することができ、処理効率が高く、処理されたコアシェル触媒の白金質量活性及びPGM質量活性が顕著に向上する。
【発明の効果】
【0022】
従来技術に比べ、本発明は、以下の有益な効果を有する。
【0023】
本発明のコアシェル触媒の後処理方法は、クエン酸又はエチレンジアミン四酢酸が白金シェルに対して保護作用を有し、酸性及び酸化雰囲気で、コア溶解反応速度をゆっくりと制御可能であり、しかも、白金原子を再配列し、より緻密なシェルを形成し、コアシェル構造の外貌を維持することができ、得られたコアシェル触媒の白金質量活性とPGM質量活性が顕著に向上し、白金質量活性が1.01A/mgPtに達し、PGM質量活性が0.48A/mgPGMに達し、そのうち白金質量活性は、成熟した従来技術の市販の白金炭素触媒活性の5倍であり、また老化試験において製品のコアシェル触媒質量活性減衰率は、22.3%のみであり、同一条件の試験において市販の白金炭素質量活性減衰率は、55.7%であり、本発明の処理後のコアシェル活性減衰率が小さく、良好な耐久性を有することを示す。
【0024】
本発明のシステムは、大量のコアシェル触媒の調製及び後処理に用いることができ、反応器及び電解質を交換し又は添加剤を追加する必要がなく、確実なワンポット法で良質なコアシェル触媒を合成することを実現する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】コアシェル触媒の調製及び後処理の反応フローの概略図である。
【
図2】コアシェル触媒の質量活性試験及び老化試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明を容易に理解するために、以下、好ましい実施例を挙げて本発明をより全面的に説明する。しかし、本発明は、多くの異なる形態で実現することができ、本明細書に説明した実施例に限定されない。逆に、これらの実施例を提供する目的は、本発明の開示内容をより明確かつ完全に理解することである。
【0027】
特に定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明の技術分野に属する当業者が一般的に理解する意味と同じである。本明細書において、本発明の明細書で使用される用語は、具体的な実施例を説明する目的のためだけで、本発明を限定することを意図していない。本明細書で使用される用語「及び/又は」は、1つ又は複数の関連する列挙項目の任意及び全ての組み合わせを含む。
【0028】
以下の実施例において、硫酸銅、塩化白金酸カリウム、クエン酸は、いずれもSigma-AldrichTMから購入され、炭素担体ナノパラジウムは、田中貴金属株式会社から提供される。
【0029】
実施例1
一、コアシェル触媒の調製
(1)1000mgの炭素担体ナノパラジウムをガラス瓶に入れ、適量の超純水を添加して混合し、反応器内に注ぎ、硫酸溶液でガラス瓶をリンスし、反応器内の硫酸溶液の濃度が50mMになり、総体積が600mLになるまで、反応器内に注いだ。反応器内にアルゴンを30min流し、酸素を除去し、さらに水素を約40min流し、パラジウムコア表面に吸着された不純物を脱着させ、続いてアルゴンを30min流し、溶液中の溶存酸素を除去した。各ガス流しステップにおいて、いずれも300rpmで懸濁液を撹拌した。このステップが完了した後、銅-白金置換反応が終了するまで、反応器内にアルゴン又は窒素を流し続けた。
【0030】
(2)撹拌をオフにしてコア材料を自然に沈降させ、電気化学作業ステーションを設置して電位CV走査(0.36~0.45Vvs.RHE可逆水素電極、5mV/s走査速度、以下の全ての電位はいずれもRHEを参照とする)を行い、作業ステーションに記録されたCV曲線が安定するまで、その間に30min静置するごとに300rpmで1min撹拌した。このステップは、印加電力でコア材料の表面の不純物や酸化物を除去し、一般的に2hかかり、4回以上撹拌する必要がある。CV走査ステップの終了1h前に、硫酸銅溶液を調製し、その濃度は添加後の反応器内の銅イオン濃度50mMで算出した。ペリスタポンプで硫酸銅溶液を急速に添加し、その間に電気化学作業ステーションで開回路電位を記録した。硫酸銅溶液を完全に添加した後(開回路電位は約0.64Vに安定する)、撹拌をオフにしてコア材料を自然に沈降させ、電気化学作業ステーションを設置して定電位で0.36Vを保持し、作業ステーションで記録された電流が安定するまで、その間に30min静置するごとに300rpmで1min撹拌した。
【0031】
(3)白金イオン濃度約4~10mM、クエン酸約0.2M、硫酸50mMを含有する前駆体溶液を調製し、アルゴンを30min流した。定電位ステップが終了すると、作業ステーションの電位制御を停止し、400rpm撹拌を開始し、ペリスタポンプで白金前駆体溶液をゆっくりと滴下して銅-白金置換反応を行い、その間に電気化学作業ステーションで開回路電位を記録した。開回路電位は、白金イオンの添加に伴って徐々に上昇し、白金前駆体溶液を滴下した後に40min撹拌し続け、置換反応の完了を確保した。
【0032】
(4)反応が終了した後、触媒を吸引濾過した。濾液は、青色の硫酸銅水溶液であった。触媒を超純水で複数回洗浄し、真空乾燥し、コア溶解後処理されないコアシェル触媒を得た。
【0033】
二、コアシェル触媒の後処理
(1)銅-白金置換反応終了後、クエン酸(クエン酸:白金のモル比は約60:1)を含有する電解質溶液に空気を流し、クエン酸の濃度は40mMであり、12h撹拌し、その間に電気化学作業ステーションで開回路電位を記録し、反応が完了した時に開回路電位が0.97Vvs.RHEに安定した。
【0034】
(2)反応が完了した後、真空で吸引濾過し、濾液は黄緑色であった。固体を保留し、触媒を超純水で複数回洗浄し、真空乾燥すれば、コア溶解後処理されたコアシェル触媒を得た。
【0035】
本実施例において、後処理されないコアシェル触媒(Pd@Pt)のパラジウム/白金質量比は1.80であり、後処理されたコアシェル触媒のパラジウム/白金質量比は1.30である。
【0036】
実施例2
コアシェル触媒であって、その調製方法及び後処理方法は、実施例1と基本的に同じであるが、コアシェル触媒の後処理ステップにおいて、純酸素(酸素含有量が99.9992%である)を流す点で相違する。
【0037】
本実施例において、後処理されないコアシェル触媒(Pd@Pt)のパラジウム/白金質量比は、1.80であり、後処理されたコアシェル触媒のパラジウム/白金質量比は、1.10である。
【0038】
比較例1
市販の白金炭素触媒は、燃料電池触媒開発メーカーである田中貴金属株式会社から提供される。
【0039】
比較例2
コアシェル触媒であって、その調製方法及び後処理方法は、実施例1と基本的に同じであるが、コアシェル触媒の後処理ステップにおいて、電解質溶液にクエン酸を添加しない点で相違する。
【0040】
反応系にクエン酸が欠けるため、クエン酸で被覆されないので、白金シェルが破壊されやすく、コアが露出し、最終的に得られた触媒活性が大幅に低下する。
【0041】
比較例3
コアシェル触媒であって、その調製方法及び後処理方法は、実施例1と基本的に同じであるが、コアシェル触媒の後処理ステップにおいて、酸素を含有するガスを流さず、アルゴンを流す点で相違する。
【0042】
この反応条件で、白金シェルが改質されず、表面のピンホール欠陥が補修されないことで、白金シェルの被覆が不完全になり、一部のコアが露出し、触媒の安定性が酸素含有雰囲気で後処理された触媒よりも劣り、燃料電池膜電極が耐用年数の経つにつれてより迅速に電圧減衰することが反映される。また、コアパラジウム原子を無酸素雰囲気でより多く保留し、そのうち大部分は白金シェルORR活性の調整に関与しないため、触媒全体のPGM質量活性は酸素含有雰囲気で後処理された触媒よりも劣る。
【0043】
実験例1
実施例1及び比較例1の触媒を選択し、同じ担持量で(アノード0.05mg/cm2、カソード0.11mg/cm2)、膜電極単電池法で触媒活性を試験した。試験条件は、水素/酸素、80℃、100%相対湿度、活性面積5cm2、1.5atm背圧である。
【0044】
後処理されたコアシェル触媒(d-Pd@Pt/C)の白金質量活性は、1.01A/mgPtに達し、PGM質量活性は、0.48A/mgPGMに達する。d-Pd@Pt/Cの白金質量活性は、市販の白金炭素の5倍である。PGM質量活性は、アメリカ合衆国エネルギー省が策定したPGM質量活性の2020年の目標活性(即ち膜電極単電池の試験方法で0.44A/mgに達する)に達することができる。
【0045】
実験例2
実施例1において、後処理されない触媒(Pd@Pt/C)、後処理された触媒(即ち実施例2、d-Pd@Pt/C)、及び市販の白金炭素触媒(即ち比較例1、Pt/C)に対して老化試験を行い、試験は、アメリカ合衆国エネルギー省が策定した老化試験方法を参照し、単電池膜電極老化試験条件は、水素/窒素、80℃、100%相対湿度、活性面積5cm
2、1.5atm背圧、白金担持量0.1mg/cm
2、3万回方形波サイクル、0.60、0.95V定電圧3秒保持である。試験結果は、
図2に示すとおりであり、Pd@Pt/C質量活性減衰率は、50.0%であり、Pt/C質量活性減衰率は、55.7%であり、本発明の後処理方法で処理された触媒d-Pd@Pt/C質量活性減衰率は、22.3%のみである。また、老化試験のいずれの段階においても、d-Pd@Pt/CのPGM活性は、市販の白金炭素のPGM活性よりも顕著に大きい。
【0046】
以上をまとめると、本発明のコアシェル触媒の後処理方法は、簡単で、確実で、効果的なグラムレベルの大量処理を実現することができる。
【0047】
以上の前記実施例の各技術的特徴は、任意に組み合わせることができ、説明を簡潔にするため、上記実施例における各技術的特徴の全ての可能な組み合わせについて説明しないが、これらの技術的特徴の組み合わせに矛盾が存在しない限り、本明細書に記載の範囲であると考えられるべきである。
【0048】
以上の前記実施例は、本発明のいくつかの実施形態のみを表し、その説明はより具体的で詳細であるが、それにより発明特許の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。なお、当業者であれば、本発明の考えから逸脱せずに、いくつかの変形及び改良を行うことができ、これらはいずれも本発明の保護範囲に属する。したがって、本発明の特許の保護範囲は、添付の特許の範囲に準じるべきである。