(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂管体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/44 20060101AFI20240126BHJP
B29C 43/12 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
B29C70/44
B29C43/12
(21)【出願番号】P 2022551927
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2021034043
(87)【国際公開番号】W WO2022065179
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2020159548
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 貴博
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 史也
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 潔
(72)【発明者】
【氏名】布谷 勝彦
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-22926(JP,A)
【文献】特開平7-223271(JP,A)
【文献】特開2008-155383(JP,A)
【文献】特開2012-52588(JP,A)
【文献】特許第6873369(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/10
B29C 43/12
B29C 70/44
B29C 70/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維が巻回された筒状の膨張体を準備する準備工程と、
前記準備工程の後に、前記膨張体を金型内に設置する設置工程と、
前記設置工程の後に、前記金型内を減圧する減圧工程と、
前記
減圧工程の後に、前記膨張体が配置された前記金型内に樹脂を流入させる流入工程と、
前記流入工程の後に、前記膨張体を前記金型の内壁方向へ膨張させる膨張工程と、
を備え
、
前記減圧工程は、前記金型内の減圧に対応して前記膨張体の内部の圧力を調圧する調圧工程を含み、
前記調圧工程は、前記金型内及び前記膨張体内の圧力を計測する圧力センサの計測値に基づいて、前記金型内の減圧に伴って前記膨張体が膨張しないように制御する、
繊維強化樹脂管体の製造方法。
【請求項2】
前記膨張体の一部には金属部材が設けられており、
前記金型には、前記金属部材に対応する位置に樹脂を流入させる流入ゲートが設けられ、
前記流入工程において、前記流入ゲートから前記金型内に樹脂を流入させる、
請求項1に記載の繊維強化樹脂管体の製造方法。
【請求項3】
前記膨張体の一部には金属部材が設けられており、
前記繊維は、前記金属部材の一部にも巻回されており、
前記金型は、少なくとも第一金型と第二金型の2つを組み合わせて構成されており、
前記第一金型及び前記第二金型は、前記金属部材に対応する位置にそれぞれ凹部を有し、
前記凹部は、前記金属部材のうち前記繊維が巻回された部分と前記繊維が巻回されていない部分との境界に対応する位置に段差部を有し、
前記設置工程は、
前記繊維の端部を前記第一金型の前記段差部に合わせつつ、前記第一金型の凹部に前記金属部材を設置する第一設置工程と、
前記第二金型の前記段差部を前記繊維の端部に合わせつつ、前記第一金型の凹部に設置された前記金属部材に、前記第二金型の凹部を嵌め合わせる第二設置工程と、を有する、
請求項1又は請求項2に記載の繊維強化樹脂管体の製造方法。
【請求項4】
前記流入工程の後であり前記膨張工程の前に、前記樹脂の流入を停止する流入停止工程を有する、
請求項1乃至請求項
3のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂管体の製造方法。
【請求項5】
前記金型は、前記膨張体の軸線方向に互いに離間する流入ゲート及び流出ゲートを備え、
前記金型は、前記金型内に設置された前記膨張体の軸線が水平方向に対して交差するとともに、前記流入ゲートが前記流出ゲートよりも下方に位置するように配置されている、
請求項1乃至請求項
4のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂管体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂管体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂管体の製造方法として、特許文献1には、樹脂を含浸した繊維体をフィラメントワインディング法によってマンドレルに巻き付け、オートクレーブ処理によって樹脂を含浸した繊維体を硬化させることが記載されている。
また、特許文献2には、繊維体を積層等したプリフォーム品を金型内に設置し、当該金型内に樹脂を導入して繊維体に当該樹脂を含浸させることで、繊維強化樹脂管体を成形するいわゆるRTM(レジン・トランスファー・モールド)成形技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-127257号公報
【文献】特開平8-323870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
出願人は、繊維強化樹脂管体をRTM成形で製造する研究を進める中で、繊維体に長手方向から樹脂を含浸させていくよりも、径方向(積層方向)から樹脂を含浸させた方が成形品質向上に寄与するという知見を得た。
一方で、樹脂の流動速度を高めるためには、繊維体の径方向(積層方向)の外側に空間を設ける必要がある。しかしこの空間があることにより、最終的に製造された繊維強化樹脂管体の樹脂量が増加し、繊維強化樹脂管体の質量が増加するという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するために創作されたものであり、成形品質の向上と質量増加の抑制を図ることが可能な繊維強化樹脂管体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明に係る繊維強化樹脂管体の製造方法は、繊維が巻回された筒状の膨張体を準備する準備工程と、前記準備工程の後に、前記膨張体を金型内に設置する設置工程と、前記設置工程の後に、前記膨張体が配置された前記金型内に樹脂を流入させる流入工程と、前記流入工程の後に、前記膨張体を前記金型の内壁方向へ膨張させる膨張工程と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、成形品質の向上と質量増加の抑制を図ることが可能な繊維強化樹脂管体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】動力伝達軸に用いられる管体の本体部を軸線方向に切った断面図である。
【
図3】第一実施形態に係る管体の製造工程を示すフローチャートである。
【
図4】第一実施形態に係る管体の製造工程の準備工程を示す図である。
【
図5】第一実施形態に係る管体の製造工程の減圧工程を示す図である。
【
図6】第一実施形態に係る管体の製造工程の流入工程を示す図である。
【
図7】第一実施形態に係る管体の製造工程の膨張工程及び硬化工程を示す図である。
【
図9】第一実施形態の変形例に係る管体の製造工程の硬化工程を示す図である。
【
図10】第二実施形態の膨張体の一部を破断して示した側面図である。
【
図11】第二実施形態の膨張体を金型内に設置した状態を示す断面図である。
【
図13A】
図12に示すXIII-XIII線に対応する変形例1の断面図である。
【
図13B】
図12に示すXIII-XIII線に対応する変形例2の断面図である。
【
図14】第三実施形態における第一設置工程を示す断面図である。
【
図15】第三実施形態における第二設置工程を示す断面図である。
【
図16】第四実施形態における流入工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明を動力伝達軸に用いられる管体の製造方法に適用した場合を例にとって、図面を参照しながら説明する。共通する技術的要素には、共通の符号を付し、説明を省略する。最初に管体の製造方法で製造される動力伝達軸について説明する。
【0010】
[動力伝達軸]
図1に示すように、動力伝達軸101は、FF(Front-engine Front-drive)ベースの四輪駆動車に搭載されるプロペラシャフトである。車両の前後方向に延在する略円筒状の管体102と、管体102の前端に接合する十字軸ジョイントのスタブヨーク103と、管体102の後端に接合する等速ジョイントのスタブシャフト104と、を備えている。
【0011】
スタブヨーク103は、車体の前部に搭載された変速機と管体102とを連結する連結部材である。スタブシャフト104は、車体の後部に搭載された終減速装置と管体102とを連結する連結部材である。
動力伝達軸101は、変速機から動力(トルク)が伝達されると軸線O1回りに回転し、その動力を終減速装置に伝達する。
【0012】
繊維強化樹脂管体としての管体102は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)により形成されている。
管体102の内部において、軸線O1を中心に周方向に延在する繊維からなる繊維層と、軸線O1方向に延在する繊維からなる繊維層と、が積層している。このため、管体102は、機械的強度が高く、かつ、軸線O1方向に高弾性化している。
また、周方向に配向する繊維としてPAN系(Polyacrylonitrile)繊維が好ましく、軸線O1方向に配向する繊維としてピッチ繊維が好ましい。
【0013】
なお、本発明において繊維強化プラスチックに使用される繊維は、炭素繊維に限られず、ガラス繊維やアラミド繊維であってもよい。
管体102は、管体102の大部分を占める本体部110と、本体部110の前側に配置された第一接続部120と、本体部110の後側に配置された第二接続部130と、本体部110と第二接続部130との間に位置する傾斜部140と、を備えている。
【0014】
なお、
図2以降の図面においては、管体102の形状を分かり易くするため、管体102の形状を誇張して描写している。
図2に示すように、本体部110の前端部111には、第一接続部120が連続し、本体部110の後端部112には、傾斜部140が連続している。
【0015】
軸線O1を法線とする平面で本体部110を切った場合、本体部110の外周面114の断面形状及び内周面115の断面形状は、円形状となっている。本体部110の外径は、中央部113から両端部(前端部(他端部)111及び後端部(一端部)112)に向うに連れて縮径しており、中央部113の外径R1は、両端部(前端部111及び後端部112)の外径R2よりも大きい。
なお、本体部110の内径も、本体部110の中央部113から両端部(前端部111及び後端部112)に向うに連れて縮径している。
【0016】
軸線O1に沿って本体部110を切った場合、本体部110の外周面114の断面形状及び内周面115の断面形状は、緩やかな曲線を描き、中央部113が外側に向けて突出する円弧状となっている。よって、本体部110の外形は、中央部113が径方向外側に膨らむ樽形状(バレル形状)となっている。また、その断面形状において、本体部110の板厚は、両端部(前端部111及び後端部112)から中央部113に向うに連れて薄くなっており、中央部113の板厚T1は、両端部(前端部111及び後端部112)の板厚T2よりも薄い。
【0017】
図1に示すように、第一接続部120内には、スタブヨーク103のシャフト部103aが嵌め込まれている。シャフト部103aの外周面は、多角形状に形成されている。第一接続部120の内周面は、シャフト部103aの外周面に倣った多角形状に形成されている。このため、スタブヨーク103と管体102が互いに相対回転しないように構成されている。
第二接続部130内には、スタブシャフト104のシャフト部104aが嵌め込まれている。第二接続部130の内周面は、シャフト部104aの外周面に倣った多角形状に形成されている。このため、スタブシャフト104と管体102が互いに相対回転しないように構成されている。
【0018】
傾斜部140の外径は、本体部110から第二接続部130に向かうに連れて次第に縮径し、円錐台形状となっている。傾斜部140の板厚は、第二接続部130側(後側)の端部から本体部110側(前側)の端部に向かうに連れて漸次薄くなっている。このため、傾斜部140のうち前端部の板厚が最も薄く、脆弱部を構成している。
以上から、車両が前方から衝突されて動力伝達軸101に衝突荷重が入力すると、軸線O1に対して傾斜する傾斜部140にせん断力が作用する。そして、傾斜部140に作用するせん断力が所定値を超えると、傾斜部140の前端部(脆弱部)が破損する。このため、車両衝突時、車体の前部に搭載されたエンジンや変速機は速やかに後退し、衝突エネルギーは車体の前部により吸収される。
【0019】
上記した管体102について、曲げ応力が集中し易い本体部110の中央部113は、外径R1が大径に形成され、所定の曲げ強度を有している。一方で、曲げ応力が集中し難い本体部110の両端部(前端部111及び後端部112)は、外径R2が小径に形成され、軽量化している。また、本体部110の中央部113は、板厚T1が薄く軽量化している。よって、管体102は、中央部113の所定の曲げ剛性を確保しつつ本体部110が軽量化しており、管体102の曲げ一次共振点が向上している。
【0020】
[第一実施形態]
図3乃至
図6(適宜
図1、
図2参照)に示すように、第一実施形態における製造方法は、繊維71が巻回された膨張体72を準備する準備工程(ステップS11)と、金型61内に膨張体72を設置する設置工程(ステップ12)と、金型61内を減圧する減圧工程(ステップS13)と、前記膨張体72を配置した金型61内に未硬化の樹脂を流入させる流入工程(ステップS14)と、樹脂の流入を停止する流入停止工程(ステップS15)と、膨張体72に流体を供給し膨張体72を膨張させる膨張工程(ステップS16)と、未硬化の樹脂を硬化させる硬化工程(ステップS17)と、金型61から管体102を取り出す取り出し工程(ステップS18)と、を含んでいる。
【0021】
(準備工程)
図4に示すように、準備工程(ステップS11)は、金型61及び膨張体72を準備する。金型61は、上型62と下型63を備えている。上型62の下面と下型63の上面には、管体102の外形を形成するためのキャビティ面64が形成されている。
キャビティ面64は、一方向に長く形成されている。また、キャビティ面64には、長手方向の他端から一端に向って順に、第一接続部用成形面65、本体部用成形面66、傾斜部用成形面67、並びに第二接続部用成形面68が形成されている。
【0022】
第一接続部用成形面65は、管体102の第一接続部120の外形を成形する面である。本体部用成形面66は、本体部110の外形を成形する面である。傾斜部用成形面67は、傾斜部140の外形を成形する面である。第二接続部用成形面68は、第二接続部130の外形を成形する面である。
【0023】
上型62の下面及び下型63の上面には、型締した際に金型61内と外部とを連通する連通孔9が2つ形成されている。連通孔9のうち1つは、第一接続部用成形面65の他端側に配置され、もう1つは第二接続部用成形面68の一端側に配置されている。
また、金型61には、金型61内に樹脂を供給するための流入ゲート69aと、余分な樹脂を排出するための排出ゲート69bと、が形成されている。流入ゲート69aは、第一接続部用成形面65に配置され、排出ゲート69bは、第二接続部用成形面68に配置されている。
【0024】
膨張体72は、樹脂が含浸されていないドライ状態の繊維71が巻回された筒状の樹脂部材であり、内部に流入する流体の量に応じて膨張する。樹脂部材は、いわゆるマンドレル(心棒)であり、シリコーンゴムや、フッ素ゴム、アクリルゴム、ウレタン系樹脂及びエラストマー、PET(ポリエチレンテレフタラート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PC(ポリカーボネート)など、高温の流体に耐熱性を有する材料が使用されている。なお、膨張体72の両端には供給管11が接続されている。
【0025】
繊維71は、管体102の強度を強化するためのものであり、炭素繊維、ガラス繊維やアラミド繊維が挙げられる。なお、繊維71の巻き付け方法や繊維71の配向等については特に限定されない。
準備工程では、筒状の樹脂部材の外周面に繊維71を巻回することで、中間体としての膨張体72を準備する。一例としては、図示は省略するが、筒状の樹脂部材の軸心と平行に配置された繊維からなる第一層と、当該軸心に対して+45度傾いて巻回された繊維からなる第二層と、当該軸心に対して-45度傾いて巻回された繊維からなる第三層と、を筒状の樹脂部材の外周面にこの順に積層して膨張体72を構成する。
【0026】
(設置工程)
図4に示すように、設置工程(ステップS12)は、膨張体72を金型61の内部に設置する工程である。具体的には、金型61を型開きして、下型63の上に膨張体72を配置し、その上方から上型62を組み合わせて型閉じする。
膨張体72の配置は、連通孔9を貫通する供給管11の先端に係止させる。これによれば、膨張体72は、キャビティ面64から離間した状態で金型61内に固定される。
【0027】
(減圧工程)
図5に示すように、減圧工程(ステップS13)は、膨張体72が設置された状態で金型61の内部空間を減圧する工程である。具体的には、例えば、減圧手段69cを用いて排出ゲート69bから金型61の内部空間内の流体を吸引する。このとき、流入ゲート69aに設けられた弁69dは閉弁されている。これにより、金型61の内部空間の内圧は、例えば大気圧以下の所定圧に設定される。
【0028】
調圧工程(ステップS13a)は、金型61内の減圧に対応して膨張体72の内部の圧力を調圧する工程である。調圧工程は、減圧工程と並行して実施される。つまり、減圧工程は、調圧工程を含んでいる。
調圧工程は、例えば、金型61の内部空間の圧力と膨張体72の内部空間の圧力とが等しくなるように、一方の供給管11に接続した減圧手段69cを用いて膨張体72内の流体を吸引して減圧する。このとき、他方の供給管11の弁11aは閉弁されている。これにより、金型61内の減圧に伴って膨張体72が膨張してしまうのを防止することができる。調圧工程は、例えば、金型61内や膨張体72内の圧力を計測する圧力センサの計測値に基づいて制御される。なお、調圧工程は、膨張体72内の流体(気体)を吸引するのに替えて、膨張体72内に水等の液体を充満させておくことで代替できる。
【0029】
(流入工程)
図6に示すように、流入工程(ステップS14)において、流入ゲート69aを介して未硬化の熱硬化性樹脂77を金型61内に流入させる。これにより、膨張前の膨張体72とキャビティ面64との間の空間に未硬化の熱硬化性樹脂77が充満した状態となる。なお、流入工程の前に、金型61内を減圧する減圧工程を設けているので、金型61内への軸方向における樹脂の供給を速やかに行うことができる。また、熱硬化性樹脂77の中には、短繊維を混合して供給しても良い。さらに、必ずしも熱硬化性樹脂77を充満させる必要はなく、巻回されている炭素繊維の量や後述する樹脂層の厚さを考慮して金型内に供給される熱硬化性樹脂の量を調整しても良い。
【0030】
流入工程は、膨張工程の前に行われるので、膨張体72とキャビティ面64とのクリアランスが大きい状態で、熱硬化性樹脂77が流入する。そのため、熱硬化性樹脂77の流動速度を高めることができる。
【0031】
(流入停止工程)
流入停止工程(ステップS15)は、熱硬化性樹脂77の流入を停止する工程である。流入停止工程では、例えば流入ゲート69aを閉塞することによって、熱硬化性樹脂77の流入が停止される。このとき、排出ゲート69bは、流入ゲート69aと一緒に閉じてもよいし、開いたままでもよい。
【0032】
(膨張工程)
図7に示すように、膨張工程(ステップS16)において、供給管11を介して加熱装置から膨張体72内に流体を供給する。ここで、加熱装置(不図示)は、所望の温度の流体を生成し供給する装置である。また、本実施形態で加熱装置から供給される流体は液体である。加熱装置は、膨張体72が膨張し、膨張体72の外周面がキャビティ面64に近接(あるいは当接)する程度に、流体を供給する。なお、膨張体72に巻回された繊維71間には隙間が形成されているところ、当該膨張工程によりこの隙間が大きくなる。尚、本実施形態においては液体を流体としているが、気体でも良い。また、加熱装置を介さず流体を供給し、後の硬化工程で金型を加熱するようにしても良い。
【0033】
流体によって膨張体72が膨張すると、膨張体72の径方向外側の空間に充満した未硬化の熱硬化性樹脂77に向かって膨張体72が押し付けられる。これにより、膨張体72の周囲に配置された繊維71の隙間に、膨張体72の径方向外側から熱硬化性樹脂77が浸透する。また、膨張体72の膨張量を調整し、膨張体72に巻回された繊維71とキャビティ面64との間に隙間を設けることで、繊維71とキャビティ面64との間(換言すれば、繊維71の膨張体における径方向外側)には、熱硬化性樹脂77の層(後記する樹脂層79,
図8参照)が均一に形成される。
【0034】
また、膨張体72が膨張する圧力によって余剰な熱硬化性樹脂77が排出ゲート69bから排出される。なお、排出ゲート69bの開閉量を調節することで、熱硬化性樹脂77の液圧が下がりすぎないように調節することができる。
【0035】
(硬化工程)
硬化工程(ステップS17)において、2つの供給管11のうち一方で膨張体72内の流体を排出しつつ、他方の供給管11で高温の流体を膨張体72内に供給する。硬化工程で供給する流体の温度は樹脂を硬化できる温度(例えば130℃~180℃)に設定されている。当該工程によれば、流体の温度が膨張体72を介して熱硬化性樹脂77に伝わり、当該熱硬化性樹脂77が硬化する事で、樹脂体75が形成され、延いては繊維強化樹脂製の管体102が形成される。
【0036】
また、本実施形態で説明した方法以外にも、硬化工程において、金型61を用いて加熱して熱硬化性樹脂77を硬化させることも可能であり、金型61と膨張体内に熱流体を供給する方法の両方を用いて加熱することに変えても良い。
【0037】
なお、
図8に示すように、本実施形態の樹脂体75は二層構造となっており、樹脂が含浸した繊維からなる径方向内側の繊維層78と、繊維層78の径方向外側に流入工程で流入した樹脂により繊維層78を保護するように形成される樹脂層79と、を有している。樹脂層79は、繊維層78の表面を被覆している。これにより、繊維層78の保護が図られる。本実施形態で、樹脂層79は、前記準備工程で膨張体72に巻回されている繊維71を含まないように形成される。
【0038】
さらに、硬化工程(ステップS17)においては、図示しないヒータなどにより金型61を加熱してもよい。これによれば、金型61のキャビティ面64側から樹脂体75に熱を加えることができ、樹脂体75の加熱時間が短縮する。
【0039】
(取り出し工程)
取り出し工程(ステップS18)は、金型61から管体102を取り出す工程である。取り出し工程では、初めに膨張体72内の流体を排出する。これにより、膨張体72は、内圧が低下し、元の形状に復帰し筒状となる。次いで、金型61を開いて管体102を取り出す。その後、管体102から膨張体72(より詳しくはマンドレルとしての樹脂部材)を引き抜き管体102が完成する。尚、膨張体72の引き抜きは、必ずしも必要ではなく、膨張体72を元の形状に復帰させずに、芯材として使用しても良い。
【0040】
<第一実施形態の作用効果>
第一実施形態に係る管体102の製造方法は、少なくとも、繊維71が巻回された筒状の膨張体72を準備する準備工程(ステップS11)と、準備工程の後に、膨張体72を金型61内に設置する設置工程(ステップS12)と、膨張体72が設置された金型61内に未硬化の熱硬化性樹脂77を流入させる流入工程(ステップS14)と、膨張体72に流体を供給し、膨張体72を膨張させる膨張工程(ステップS16)と、を備える。
【0041】
かかる製造方法によれば、設置工程(ステップS12)において繊維71が巻回された筒状の膨張体72を膨張していない状態で金型61内に設置するので、繊維71と金型61とのクリアランスを確保することができる。
また、膨張工程(ステップS16)の前に流入工程(ステップS14)を行うので、繊維71と金型61とのクリアランスが大きい状態で金型61内に樹脂が供給される。そのため、金型61内の隅々まで樹脂を行き渡らせることができる。
【0042】
また、膨張工程(ステップS16)において膨張体72を膨張させて熱硬化性樹脂77を排出することで、樹脂体75を薄く(クリアランスを小さく)することができるので、管体102の質量を抑制することができる。また、膨張工程を設けない通常のRTM(レジン・トランスファー・モールド)成形と比較して、本製法を用いることで管体102の繊維含有率を高くすることが可能である。
【0043】
さらに、第一実施形態にかかる管体102の製造方法によれば、膨張体72を膨張させる膨張工程(ステップS16)よりも前に、クリアランスに樹脂を充満させる流入工程(ステップS14)を行うことによって、膨張工程(ステップS16)において繊維71同士の隙間に膨張体72の径方向外側から樹脂を浸透させることができる。
これにより、膨張体72を膨張させてから、繊維71の隙間に膨張体72の軸方向に沿って樹脂を供給する場合に比較して、樹脂の成形品質を高めることができる。
【0044】
また、膨張マンドレルを膨張させる前の繊維71と金型61とのクリアランスが大きい状態で樹脂を充填することが可能なため、低圧大流量で樹脂を投入することができ、製造速度の向上を図ることができるとともに、高圧をかけて樹脂流入しなければいけない場合よりも金型や型締め機等の設備を簡素化できる。
【0045】
また、比較例として、樹脂が含浸された繊維をマンドレルに巻き回してオートクレーブ成形によって管体を成形する場合を説明すると、当該繊維を巻き回した際に発生するトルクにより含浸された樹脂が繊維から染み出すことにより、繊維層の外側に樹脂層(樹脂だけの層)が形成される。この場合、樹脂層の厚さが均一になり難く、繊維層の保護性能が低下する。
一方、第一実施形態にかかる繊維強化樹脂管体の製造方法によれば、膨張工程において、膨張体72の径方向外側に樹脂が潤沢に存在する状態で膨張体72を膨張させるので、膨張体72の膨張量を調整することによって、膨張体72の軸方向及び周方向にわたって厚さの均一性が高い樹脂層79(
図8参照)を形成することができる。
【0046】
また、第一実施形態に係る管体102の製造方法は、設置工程(ステップS12)の後であり流入工程(ステップS14)の前に、金型61内を減圧する減圧工程(ステップS13)を有する。これによれば、流入工程において金型61内への軸方向における熱硬化性樹脂77の供給を速やかに行うことができる。
【0047】
また、減圧工程(ステップS13)は、金型61内の減圧に対応して膨張体72の内部の圧力を調圧する調圧工程(ステップS13a)を含む。これによれば、金型61内の減圧と膨張体72内の減圧とを同調させて、金型61内の減圧によって膨張体72が意図せずに膨張することを防止できる。
【0048】
また、第一実施形態に係る管体102の製造方法は、流入工程(ステップS14)の後であり膨張工程(ステップS16)の前に、熱硬化性樹脂77の流入を停止する流入停止工程(ステップS15)を有する。これによれば、熱硬化性樹脂77の無駄を抑制することができる。
【0049】
[第一実施形態の変形例]
図9に示すように、第一実施形態の変形例における製造方法は、上型42及び下型43からなる金型41の形状が第一実施形態と異なっている。なお、準備工程(ステップS11)乃至取り出し工程(ステップS18)については、基本的に第一実施形態と同様である。
以下、第一実施形態との変更点に絞って説明する。
【0050】
金型41のキャビティ面44には、第一接続部用成形面45、本体部用成形面46、傾斜部用成形面47、並びに第二接続部用成形面48を備えている。本体部用成形面46は、他端側(第一接続部用成形面45側)から一端側(傾斜部用成形面47側)にかけて径が一定に形成されている。この金型41によれば、径が一定に形成された円筒状の本体部110Aを備える管体102Aを製造できる。
【0051】
以上、第一実施形態について説明したが、本発明は上記した例に限定されない。
例えば、第一実施形態では、膨張体72の膨張量を調整することで、樹脂が含浸した繊維層78の径方向外側に樹脂だけの樹脂層79を形成したが、膨張工程において、繊維71がキャビティ面64に当接するまで膨張体72を膨張させることによって、樹脂層79を形成しないこともできる。
【0052】
また、第一実施形態及びその変形例では熱硬化性樹脂を用いたが、金型に注入して硬化可能であれば、熱以外の作用で硬化する樹脂を用いてもよい。
【0053】
また、金型のキャビティ面において、スタブヨーク103又はスタブシャフト104と接続する接続部(第一接続部120,第二接続部130)を形成する接続部用成形面(第一接続部用成形面65,45、第二接続部用成形面68,48)の断面形状を多角形状にしてもよい。これによれば、第一接続部120及び第二接続部130の断面形状が多角形状に形成される。よって、別途に第一接続部120及び第二接続部130を多角形状に成形する手間を省くことができる。
【0054】
また、本発明の管体に関し、軸線O1方向に沿って切った本体部110の断面形状は円弧状のものに限定されない。例えば、軸線O1に沿って切った本体部110の断面形状が階段状となっていてもよい。つまり、金型のキャビティ面において、本体部用成形面66,46を長手方向に切った断面形状を階段状に形成してもよい。また、当然に、軸線O1を法線とする平面に沿って切断した断面形状が円形で、軸線O1に沿って切った断面形状が軸方向にわたって直線になっているものを形成しても良い。
【0055】
また、本発明の製造方法で製造される繊維強化樹脂管体は、上記した動力伝達軸に用いられる管体に限定されない。
【0056】
[第二実施形態]
次に、第二実施形態に係る繊維強化樹脂管体の製造方法について説明する。第二実施形態に係る繊維強化樹脂管体の製造方法は、膨張体の一部に金属部材が設けられている点、及び、金型において金属部材に対応する位置に流入ゲートが設けられている点が、第一実施形態と主に相違している。以下、第一実施形態との相違点について詳細に説明する。
【0057】
図10は、第二実施形態の膨張体200の一部を破断して示した側面図である。
図10に示すように、第二実施形態の膨張体200は、マンドレル210と、マンドレル210の一方の端部に配置された第一金属部材230と、マンドレル210の他方の端部に配置された第二金属部材240と、これらに巻回された繊維220と、を有している。
【0058】
マンドレル210は、軸方向中間部の大径部211と、軸方向一端側に形成されるテーパ部212及び中径部213と、軸方向他端側に形成される段部214及び小径部215と、を一体に備える。本実施形態において、中径部213の軸方向一端側には、中径部213よりも小径な突出部216が形成されている。マンドレル210は、径方向に膨張可能な樹脂部材で構成されている。
【0059】
第一金属部材230は、いわゆるスタブシャフトであり、略円柱形状を呈する。第一金属部材230の軸線方向一端側は、繊維220から露出している。第一金属部材230の軸方向中間部には、環状のフランジ部231が形成されている。また、第一金属部材230の軸方向他端側には、有底の孔部232が形成されており、マンドレル210の突出部216に外嵌している。第一金属部材230は、軸方向他端側からフランジ部231を超える範囲まで繊維220に覆われている。
【0060】
第二金属部材240は、いわゆるカラーであり、略円筒形状を呈する。第二金属部材240の軸線方向他端側は、繊維220から露出しており、第二金属部材240の軸方向一端側は、繊維220に覆われている。また、第二金属部材240は、マンドレル210の段部214に外嵌している。
【0061】
図11は、第二実施形態の膨張体200を金型260内に設置した状態を示す断面図である。
図12は、
図11のXII部の拡大図である。
図11に示すように、金型260は、上型262と下型263とを備えている。上型262に設けられた流入ゲート269aは、第一金属部材230に対応する位置に設けられている。さらに詳細には、
図12に示すように、流入ゲート269aの下流側の端部269a1は、第一金属部材230のうち、繊維220が巻回されていない部分に向かって開口するように設けられている。また、流入ゲート269aの下流側の端部269a1と繊維220の端部との間には樹脂だまり269a2が設けられている。
【0062】
なお、
図11に示すように、上型262に設けられた流出ゲート269bの上流側の端部269b1は、第二金属部材240のうち繊維220が巻回されている部分に対応する位置に設けられている。ただし、流入ゲート269aと同様に、流出ゲート269bの上流側の端部269b1を、第二金属部材240のうち繊維220が巻回されていない部分に対応する位置に設けてもよい。
また、上型262には、マンドレル210の内部へ流体の供給又は抜き取りを行うための流体通路262cが設けられている。流体通路262cは、小径部215の端部に設けられた開口に連通している。
【0063】
第二実施形態に係る繊維強化樹脂管体の製造方法では、膨張体200の一端側に第一金属部材230が設けられており、上型262には、第一金属部材230のうち繊維220が巻回されていない部分に対応する位置に流入ゲート269aが設けられている。そして、流入工程において、流入ゲート269aから第一金属部材230のうち繊維220が巻回されていない部分に向かって樹脂が流入する。金型260内に流入した樹脂は、樹脂だまり269a2を介して繊維220に供給される。これにより、流入ゲート269aから流入する樹脂の流れによって繊維220の配列が乱れることを抑制することができる。
【0064】
また、第一金属部材230の軸線方向他端側及び第二金属部材240の軸線方向一端側は、繊維220に覆われている。そのため、RTM成形を行うことにより、第一金属部材230及び第二金属部材240と繊維強化樹脂管体とが一体化される。
なお、流入工程以外の各工程は、第一実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0065】
[第二実施形態の変形例1]
図13Aは、
図12に示すXIII-XIII線に対応する変形例1の断面図である。
図13Aに示すように、変形例1の金型260には、流入ゲート269aから90度間隔で3つの凹部268が設けられている。この金型260を用いて繊維強化樹脂管体を製造すると、繊維強化樹脂管体の外周面に3つの凹部268に対応した3つの樹脂製の凸部が90度間隔で形成される。また、流入ゲート269aに対応する位置にも、ゲート跡としての樹脂製の凸部が残存する。
【0066】
ゲート跡としての樹脂製の凸部の大きさは成形品ごとのばらつきが少なく略一定であるので、ゲート跡としての樹脂製の凸部の大きさを予め推定して、3つの凹部268の大きさを調整する。その結果、ゲート跡としての樹脂製の凸部と3つの凹部268に対応した3つの樹脂製の凸部とが略同等の大きさで90度間隔で形成される。これにより、繊維強化樹脂管体の周方向の重量バランスを整えることができる。なお、凹部268を設ける間隔は、90度に限定されるものではなく、流入ゲート269aから等間隔であればよい。
【0067】
[第二実施形態の変形例2]
図13Bは、
図12に示すXIII-XIII線に対応する変形例2の断面図である。
図13Bに示すように、変形例2の金型260には、繊維強化樹脂管体の周方向に120度間隔で3つの流入ゲート269aが設けられている。このような金型260によれば、ゲート跡としての樹脂製の凸部を繊維強化樹脂管体の周方向に120度間隔で設けることができる。その結果、繊維強化樹脂管体の周方向の重量バランスを整えることができる。また、繊維強化樹脂管体の成形速度を速めることができる。なお、流入ゲート269aを設ける間隔は、120度に限定されるものではなく、等間隔であればよい。
【0068】
[第三実施形態]
次に、第三実施形態に係る繊維強化樹脂管体の製造方法について説明する。第三実施形態に係る繊維強化樹脂管体の製造方法は、金型の金属部材に対応する部位に段差部が形成されている点が、第一実施形態と主に相違している。以下、第一実施形態との相違点について詳細に説明する。
【0069】
図14、
図15に示すように、第三実施形態の膨張体300は、筒状のマンドレル310と、マンドレル310の一端側に設けられた第一金属部材330と、マンドレル310の他端側に設けられた第二金属部材340と、マンドレル310の周囲に巻回された繊維320と、を備えている。また、第三実施形態の金型360は、上型362と下型363とを備えている。なお、
図14、
図15において、各種ゲートの記載は省略されている。
【0070】
繊維320は、層状かつ筒状に巻回されることで、太径部322と、太径部322に対して第一金属部材330側に設けられた細径部324と、太径部322と細径部324との間に設けられたテーパ部326と、を構成している。太径部322の他端側322aは、第二金属部材340の一端側に重なっている。また、細径部324の一端側324aは、第一金属部材330の他端側に重なっている。
【0071】
下型363には、膨張体300の下半部の外形に沿った凹状の下キャビティ部364が形成されている。下キャビティ部364は、繊維320の形状(より正確には、成形される繊維強化樹脂管体の形状)に対応した太径部用下凹部364a、細径部用下凹部364c及びテーパ部用下凹部364bと、第一金属部材330のうち繊維320が巻回されていない部分の形状に対応した第一金属部材用下凹部364dと、第二金属部材340のうち繊維320が巻回されていない部分の形状に対応した第二金属部材用下凹部364eと、マンドレル310の小径部315に対応した小径部用下凹部364fと、を有している。細径部用下凹部364cと第一金属部材用下凹部364dとの境界部分には、第一下段差部Dd1が形成されている。太径部用下凹部364aと第二金属部材用下凹部364eとの境界部分には、第二下段差部Dd2が形成されている。
【0072】
同様に、上型362には、膨張体300の上半部の外形に沿った凹状の上キャビティ部365が形成されている。上キャビティ部365は、繊維部320の形状に応じた太径部用上凹部365a、細径部用上凹部365c及びテーパ部用上凹部365bと、第一金属部材330のうち繊維320が巻回されていない部分の形状に応じた第一金属部材用上凹部365dと、第二金属部材340のうち繊維320が巻回されていない部分の形状に応じた第二金属部材用上凹部365eと、マンドレル310の小径部315に対応した小径部用上凹部365fと、を有している。細径部用上凹部365cと第一金属部材用上凹部365dとの境界部分には、第一上段差部Du1が形成されている。太径部用上凹部365aと第二金属部材用上凹部365eとの境界部分には、第二上段差部Du2が形成されている。
【0073】
第三実施形態に係る繊維強化樹脂管体の製造方法における設置工程は、第一設置工程と第二設置工程を含んでいる。初めに、第一設置工程では、
図14に矢印で示すように、下型363に膨張体300を設置する。このとき、細径部324の一端側324aを第一下段差部Dd1に合わせて設置する。また、太径部322の他端側322aを第二下段差部Dd2に合わせて設置する。これにより、下型363に対して膨張体300の軸線方向の位置を正確に合わせることができる。また、第一金属部材330のうち繊維320が巻回されていない部分が、第一金属部材用下凹部364dに設置される。さらに、第二金属部材340のうち繊維320が巻回されていない部分が、第二金属部材用下凹部364eに設置される。これにより、下型363に対して膨張体300の径方向の位置を正確に合わせることができる。
【0074】
次に、第二設置工程では、
図15に矢印で示すように、膨張体300が設置された下型363に対して上型362を設置して型締めする。このとき、上型362の第一上段差部Du1を細径部324の一端側324aに合わせるとともに、第二上段差部Du2を太径部322の他端側322aに合わせる。また、第一金属部材330のうち繊維320が巻回されていない部分に第一金属部材用上凹部365dを合わせるとともに、第二金属部材340のうち繊維320が巻回されていない部分に第二金属部材用上凹部365eを合わせる。これにより、第一金属部材330及び第二金属部材340が、上型362と下型363とに挟持されるので、膨張体330の軸を、これから成形する繊維強化樹脂管体の軸心に正確に合致させることができる。
【0075】
なお、第三実施形態に係る繊維強化樹脂管体の製造方法において、設置工程以外の各工程は、第一実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0076】
以上のように、第三実施形態に係る繊維強化樹脂管体の製造方法は、膨張体300の一端側及び他端側には第一金属部材330及び第二金属部材340がそれぞれ設けられており、繊維320は、第一金属部材330及び第二金属部材340の一部にも巻回されている。金型360は、第一金型としての下型363と第二金型としての上型362とを組み合わせて構成されている。下型363は、第一金属部材330及び第二金属部材340に対応する位置にそれぞれ第一金属部材用下凹部364d及び第二金属部材用下凹部364eを有する。同様に、上型362は、第一金属部材用上凹部365d及び第二金属部材用上凹部365eを有する。第一金属部材用下凹部364d及び第二金属部材用下凹部364eは、繊維320の両端部324a,322aに対応する位置に第一下段差部Dd1及び第二下段差部Dd2を有する。同様に、第一金属部材用上凹部365d及び第二金属部材用上凹部365eは、第一上段差部Du1及び第二上段差部Du2を有する。設置工程は、繊維320の両端部324a,322aを第一下段差部Dd1及び第二下段差部Dd2にそれぞれ合わせつつ、第一金属部材330及び第二金属部材340を第一金属部材用下凹部364d及び第二金属部材用下凹部364eに設置する第一設置工程と、第一上段差部Du1及び第二上段差部Du2を繊維320の両端部324a,322aにそれぞれ合わせつつ、第一金属部材用上凹部365d及び第二金属部材用上凹部365eを第一金属部材330及び第二金属部材340に設置する第二設置工程と、を有する。
【0077】
これによれば、第一金属部材330のうち繊維320が巻回されていない部分が第一金属部材用下凹部364dと第一金属部材用上凹部365dとに挟持され、第二金属部材340のうち繊維320が巻回されていない部分が第二金属部材用下凹部364eと第二金属部材用上凹部365eとに挟持されるので、繊維320の層厚等に左右されることなく、膨張体300の軸線を繊維強化樹脂管体の軸心に正確に合致させることができる。
また、これによれば、膨張体300を下型363に設置する際に、繊維320の両端部324a,322aを第一下段差部Dd1及び第二下段差部Dd2に合わせるので、下型363に対して膨張体300の軸線方向の位置を正確に合致させることができる。
【0078】
[第四実施形態]
次に、第四実施形態に係る繊維強化樹脂管体の製造方法について説明する。第四実施形態に係る繊維強化樹脂管体の製造方法は、金型内に設置された前記膨張体の軸方向が水平方向に対して交差するように当該金型が配置されている点が、第一実施形態と主に相違している。以下、第一実施形態との相違点について詳細に説明する。
【0079】
図16は、第四実施形態における流入工程を示す断面図である。
図16に示すように、金型460は、膨張体400の軸線O1が水平線Hに対して90度で交差するように配置されている。その結果、金型460に設置された膨張体400の軸線O1は、鉛直方向を指向する。金型460は、左型462と右型463とに分割されており、左型462の下側に流入ゲート469aが設けられ、左型462の上側に流出ゲート469bが設けられている。
【0080】
第四実施形態に係る繊維強化樹脂管体の製造方法では、流入工程において、金型460の下側から樹脂470を流入させるので、仮に金型460内で気泡が発生した場合には、当該気泡を上方に押し上げて流出ゲート469bから気泡を逃がすことができる。これにより、気泡による製品の品質低下を抑制することができる。
【0081】
また、膨張体400の軸線O1が水平線Hに対して90度で交差するように配置されるので、軸線O1が水平方向を指向するように膨張体400を設置する場合に比較して、膨張体400のたわみを抑制することができる。
【0082】
なお、第四実施形態に係る繊維強化樹脂管体の製造方法において、金型460の向きは、金型460内に設置した膨張体400の軸線O1が水平線Hに対して90度で交差する向きが好ましいが、これに限定されるものではない。流入工程において、金型460内に発生した気泡を押し上げることが可能な範囲で、水平線Hに対する軸線O1の交差角度を適宜設定可能である。
第四実施形態における流入工程における金型の向き以外は、第一実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0083】
以上、本発明の第一実施形態乃至第四実施形態について図面を参照しつつ説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で変更可能である。また、各実施形態の構成および工程は相互に組み合わせ可能である。
【符号の説明】
【0084】
61 金型
71 繊維
72 膨張体
77 熱硬化性樹脂(樹脂)
101 動力伝達軸
102 管体(繊維強化樹脂管体)