(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】植物抽出物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20240126BHJP
A61K 31/12 20060101ALI20240126BHJP
A61K 8/35 20060101ALI20240126BHJP
A61K 36/906 20060101ALI20240126BHJP
A61K 8/9794 20170101ALI20240126BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240126BHJP
A61K 36/9068 20060101ALI20240126BHJP
B01D 11/02 20060101ALI20240126BHJP
A23L 33/105 20160101ALN20240126BHJP
【FI】
A23L19/00 Z
A61K31/12
A61K8/35
A61K36/906
A61K8/9794
A61P43/00 111
A61K36/9068
A61P43/00 121
B01D11/02 A
A23L19/00 A
A23L33/105
(21)【出願番号】P 2019141724
(22)【出願日】2019-07-12
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-323466(JP,A)
【文献】特開2018-102260(JP,A)
【文献】特開2012-090526(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0013508(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0054814(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第109504538(CN,A)
【文献】特開2014-019648(JP,A)
【文献】特開2011-016827(JP,A)
【文献】特開2012-144472(JP,A)
【文献】特開2019-006706(JP,A)
【文献】特開2010-124786(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0124412(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショウガオール及びパラドール含有植物の水性溶媒抽出物であって、水性溶媒が、水、又は水とエタノールとの混合液であって、エタノール濃度が50重量%以下であり、該抽出物固形分中に、0.02重量%以上のショウガオール及び0.10重量%以上のパラドールを含む、植物抽出物
(ただし、センダングサ属植物抽出物を含まない)。
【請求項2】
ショウガオール及びパラドール含有植物原料
(ただし、センダングサ属植物を含まない)を、水性溶媒中で、
添加した乳化剤
の存在下で抽出する、ショウガオール及びパラドールの抽出方法。
【請求項3】
水性溶媒が、水、又は水とエタノールとの混合液であって、エタノール濃度が50重量%以下であることを特徴とする、請求項2記載の抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラドール及びショウガオールを含む植物抽出物及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
辛味成分として知られているパラドールやショウガオールは、近年、機能性が注目され、例えば、特許文献1には、ギニアショウガ若しくはその抽出物、又は6-パラドールを有効成分とするペルオキシソーム増殖剤活性化受容体δ活性化剤(PPARδ活性化剤)が記載されており、その他にも多くの効果効能が知られているため、活発な利用を進めるために、より多くのパラドールやショウガオールを調製する方法が求められている。
【0003】
特許文献2には、ショウガ乾燥物を120℃~250℃で加熱することにより、通常ジンゲロールより少ない含有量のショウガオールを、ジンゲロールより多く含有させたショウガ加工物の製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献3には、パラドールを、ギニアショウガの乾燥種子からアセトンやヘキサン等の有機溶媒で抽出する方法やバニリン等を用いたパラドールの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-19648号公報
【文献】特許第5885153号公報
【文献】特許第4819171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ショウガオールやパラドールは水にほとんど溶けないため、ショウガオールやパラドールを含む抽出物としては、原料から有機溶媒によって抽出された抽出物が利用されていたが、消費者が直接口にする飲食品への利用においては、水性溶媒による抽出物が求められていた。しかし、水性溶媒による抽出では抽出効率が悪いため、水性溶媒によって効率よくショウガオールやパラドールを抽出する方法が求められていた。本発明は、前記に鑑みてなされたものであり、水性溶媒によって、原料から機能性の高いショウガオール及びパラドールを含む抽出物を効率よく抽出する方法、及び該抽出物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、ショウガオール及びパラドールを含む植物原料を、水性溶媒中で、乳化剤又は加水分解酵素の少なくとも一方の存在下で抽出することで、ショウガオール及びパラドールを効率的に抽出できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]の態様に関する。
[1]ショウガオール及びパラドール含有植物の水性溶媒抽出物であって、該抽出物固形分中に、0.02重量%以上のショウガオール及び0.10重量%以上のパラドールを含む、植物抽出物。
[2]水性溶媒が、水、又は水とエタノールとの混合液であって、エタノール濃度が50重量%以下であることを特徴とする、[1]記載の植物抽出物。
[3]ショウガオール及びパラドール含有植物原料を、水性溶媒中で、乳化剤又は加水分解酵素の少なくとも一方の存在下で抽出する、ショウガオール及びパラドールの抽出方法。
[4]水性溶媒が、水、又は水とエタノールとの混合液であって、エタノール濃度が50重量%以下であることを特徴とする、[3]記載の抽出方法。
[5]原料中に含まれる全パラドール含有量の5重量%以上を抽出することができる、[3]又は[4]記載の抽出方法。
[6]乳化剤及び加水分解酵素非存在下に比べて、乳化剤又は加水分解酵素存在下で、パラドール抽出効率が少なくとも2倍に上昇する、[3]~[5]の何れかに記載の抽出方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、水性溶媒によって効率よくショウガオールやパラドールを含む植物抽出物を抽出できるようになり、飲食品等への利用がし易いショウガオール及びパラドールを含む植物抽出物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の抽出物は、ショウガオール及びパラドール含有植物の水性溶媒抽出物であって、該抽出物中に含まれる固形分中に、0.02重量%以上、好ましくは0.03~5.0重量%、より好ましくは0.05~8.0重量%、さらに好ましくは0.10~10重量%のショウガオール、及び0.10重量%以上、好ましくは0.15~6.0重量%、より好ましくは0.20~7.0重量%、さらに好ましくは0.30~8.0重量%のパラドールを含む植物抽出物である。
【0011】
本発明に記載のショウガオール及びパラドール含有植物は、ショウガオール及びパラドールを含む植物であれば特に限定されないが、ギニアショウガ(Aframomum melegueta)又はショウガ(Zingiber officinale)が例示でき、単独又は二種類以上を組み合わせて使用してもよい。具体的には、ギニアショウガの種子又はショウガの根茎が好ましく、切断、破砕、細砕、粉砕等の処理を行って原料とするのが好ましく、例えば110~300℃、好ましくは120~250℃で加熱処理したものを使用してもよく、加熱処理することでジンゲロールをショウガオールに変換し、ショウガオール含有量の高い抽出物を得ることができる。
【0012】
本発明の抽出方法は、前記植物原料を、水性溶媒中で、乳化剤又は加水分解酵素の少なくとも一方の存在下、つまり、乳化剤存在下、加水分解酵素存在下、又は乳化剤及び加水分解酵素存在下の何れかで、抽出することにより、効率よくショウガオール及びパラドールを抽出することができる。特に、原料中に含まれる全パラドール含有量を100重量%とした場合に、好ましくは5重量%以上抽出でき、10~60重量%抽出できるのがより好ましく、20~80重量%抽出できるのがさらに好ましい。また、乳化剤及び加水分解酵素非存在下に比べて、乳化剤又は加水分解酵素存在下で抽出することで、パラドール抽出効率が優位に上昇するが、少なくとも2倍に上昇するのが好ましく、少なくとも2.5倍に上昇するのがより好ましい。
【0013】
本発明で使用する水性溶媒は、無機塩、エタノール等を含有する水溶液でもよいが、水、又は水とエタノールとの混合液が好ましく、水がより好ましい。水性溶媒がエタノールを含有する場合の濃度は、溶媒全体の50重量%以下が好ましく、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下又は2重量%以下がより好ましい。添加量は、本発明の抽出物が得られれば特に限定されないが、前記植物原料を1重量部とした場合に、好ましくは0.5~50重量部、より好ましくは1~30重量部、さらに好ましくは2~20重量部である。尚、原料中の水分でもよい。
【0014】
本発明に記載の乳化剤は、ショウガオール及びパラドールを抽出できれば特に限定されず、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等、市販の食品用乳化剤を使用することができ、単独又は二種類以上を組み合わせて使用してもよい。ポリグリセリン脂肪酸エステル又はショ糖脂肪酸エステルが好ましく、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、リョートー(登録商標)ポリグリエステル(三菱化学フーズ株式会社製)等、ショ糖脂肪酸エステルとしては、リョートーシュガーエステル(三菱化学フーズ株式会社製)等が例示できる。乳化剤のHLB値(Hydrophile-Lipophile Balance Value、親水性-親油性バランス)は7~20が好ましく、下限は8以上がより好ましく、上限は18以下がより好ましい。乳化剤の添加量は、ショウガオール及びパラドールを効率よく抽出できれば特に限定されないが、前記植物原料100重量%に対して、0.5重量%以上が好ましく、1.0重量%以上がより好ましく、2.0重量%以上がさらに好ましい。また上限は、200重量%以下が好ましく、150重量%以下がより好ましい。乳化剤を添加することで、ショウガオール及びパラドールの抽出効率を上げることができる。
【0015】
本発明に記載の加水分解酵素は、ショウガオール及びパラドールを抽出できれば特に限定されず、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、イソアミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、プロテアーゼ等、市販の酵素製剤を使用することができ、単独又は二種類以上を組み合わせて使用してもよいが、α-アミラーゼが好ましく、例えば、市販のα-アミラーゼ製剤である液化酵素T(エイチビィアイ株式会社製)、クライスターゼ(登録商標)T10S(天野エンザイム株式会社製)等が例示できる。酵素添加量は、加水分解反応が進む条件であれば特に限定されないが、例えば、酵素製剤として、前記植物原料100重量%に対して、0.01~5重量%が好ましく、0.05~3重量%がより好ましい。また、pH条件は酵素の最適pH、pH安定性等を考慮して適宜設定できるが、例えば、pH3~9が例示でき、pH4~8が好ましい。酵素添加することで、澱粉質等が分解され、ショウガオール及びパラドール抽出効率を上げることができる。
【0016】
抽出時の温度条件は、ショウガオール及びパラドールを抽出できれば特に限定されず、例えば10~150℃が例示でき、15~140℃が好ましく、20~130℃がより好ましく、加水分解酵素存在下では、100℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましい。また時間は温度等により適宜設定できるが、例えば1分間~24時間が例示でき、5分間~12時間が好ましく、10分間~6時間がより好ましい。また、例えば20~100℃、好ましくは30~95℃、より好ましくは40~90℃で、例えば5分間~12時間、好ましくは10分間~5時間、より好ましくは20分間~3時間抽出処理した後、さらに、例えば70~130℃、1分間~10時間又は80~100℃、3分間~5時間の加熱処理を追加で行うことができ、追加の加熱処理によって酵素を失活させたり、総抽出量を高めたり、ジンゲロールをショウガオールに変換してショウガオール含有量を高めたりすることができる。
【0017】
本発明の植物抽出物は、ショウガオール及びパラドールを固形分あたりに所定量以上含有していれば特に限定されず、抽出後に、不織布、メッシュ等を用いたろ過、遠心分離等により、固液分離することで得られる液体として利用してもよいし、さらに濃縮及び/又は乾燥し、濃縮品や乾燥品として利用してもよい。乾燥は、ドラムドライ、エアードライ、スプレードライ、真空乾燥及び/又は凍結乾燥等により行うことができる。
【0018】
本発明の植物抽出物は、各種飲食品等に添加することにより、ショウガオール及びパラドール含有飲食品等を製造できる。これにより、該抽出物が有する各種機能性成分を容易に各種飲食品等に付加することができる。各飲食品等への添加量は特に限定されないが、好ましくは0.1~80重量%、より好ましくは0.5~50重量%、さらに好ましくは1.0~30重量%、特に好ましくは2.0~20重量%である。添加する飲食品等は特に限定されないが、飲料、食品、調味料、機能性食品、サプリメント等の各種飲食品の他、医薬品、医薬部外品、化粧品、飼料等にも利用できる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【0020】
[調製例]
ギニアショウガ種子200gを粉砕処理した後、16メッシュ篩で篩別することでギニアショウガ粉砕物180gを得た。該ギニアショウガ粉砕物中の各辛味成分含有量を測定するために、抽出処理を行い、HPLC分析を行った。
【0021】
(抽出処理)
原料である上記ギニアショウガ粉砕物2gを50mLネジ口瓶に採取し、95%エタノールを8g添加して、80℃、2時間還流抽出した。抽出後、約1mLを採取して遠心分離し、得られた上清のうち0.25gを10mLメスフラスコに採取し、95%エタノールでメスアップして、撹拌後、一部を採取し遠心分離して得られた上清をHPLC分析に供した。以下の測定条件で、辛味成分(6-ジンゲロール、6-ショウガオール、6-パラドール)の含有量を測定し、結果を表1に示した。
【0022】
<HPLC測定条件>
・検出器:UV検出器(282nm)
・カラム:InertSustain C18(内径4.6mm、長さ250mm)
・移動相:30%アセトニトリル水溶液から100%アセトニトリルへグラジエント
・流速:0.8ml/分
・カラム温度:40℃
・標品:6-ジンゲロール(富士フィルム和光純薬株式会社製)、6-ショウガオール(富士フィルム和光純薬株式会社製)、6-パラドール(コスモ・バイオ株式会社製)を95%エタノールに溶解して、検量線を作成した。
・検体:試料を95%エタノールにて適宜希釈して使用した。
【0023】
【0024】
原料であるギニアショウガ粉砕物は、1gあたり11.17mg(原料全体の1.12%)の6-ジンゲロール、2.75mg(原料全体の0.28%)の6-ショウガオール及び10.49mg(原料全体の1.05%)の6-パラドールを含んでおり、辛味成分の合計含有量は24.41mgであることが分かった。尚、表1に記載した6-パラドールの含有量を原料が含む全6-パラドールとし、10.49mgの6-パラドールが抽出された場合を抽出効率100%として、以下の抽出効率を算出した。
【0025】
[試験例1]
(乳化剤の検討)
調製例で得られたギニアショウガ粉砕物2gに、水道水18g、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルであるリョートーポリグリエステルS-28D(HLB:9、実施例1-1)、リョートーポリグリエステルS-24D(HLB:10、実施例1-2)、リョートーポリグリエステルSWA-20D(HLB:11、実施例1-3)、リョートーポリグリエステルSWA-15D(HLB:13、実施例1-4)若しくはリョートーポリグリエステルSWA-10D(HLB:14、実施例1-5)、又はショ糖脂肪酸エステルであるリョートーシュガーエステルM-1695(HLB:16、実施例1-6)をそれぞれ0.4g加えて混合した後、60℃で10分間、抽出処理を行った。また、乳化剤を加えずに同様に処理したものを比較例1とした。次いで、200メッシュストレーナーを用いて固液分離して液部を回収することで、実施例1-1~1-6及び比較例1のギニアショウガ抽出物13.0~14.2gを得た。
【0026】
各ギニアショウガ抽出物について、常圧加熱乾燥法にて固形分を測定するとともに、上記のHPLC分析にて辛味成分(6-ジンゲロール、6-ショウガオール、6-パラドール)の含有量を測定し、表2に示した。測定値から固形分中の各辛味成分濃度、原料1gあたりの各辛味成分抽出量を算出し、さらに、調製例で抽出した抽出効率を100%として、6-パラドールの抽出効率を算出して、表2に示した。また、比較例1を抽出効率1倍として、実施例1-1~1-6の乳化剤による抽出効率の上昇率を算出して、表2に示した。
【0027】
【0028】
乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステル又はショ糖脂肪酸エステル(HLB:9~16)存在下で水抽出して得られた実施例1-1~1-6のギニアショウガ抽出物では、乳化剤非存在下で水抽出した比較例1に比べ、原料1gあたりの各辛味成分(6-ジンゲロール、6-ショウガオール、6-パラドール)の抽出量が、何れの乳化剤においても高かった。特に、調製例で抽出された6-パラドールの抽出効率を100%とした場合に、乳化剤存在下での6-パラドールの抽出効率は20.5~27.1%だったのに対し、乳化剤非存在下では3.7%であり、乳化剤により抽出効率が5.5倍以上に上昇し、全6-パラドールの20.5~27.1%が抽出できることが分かった。
【0029】
[試験例2]
(乳化剤添加割合の検討)
調製例で得られたギニアショウガ粉砕物2gに、水道水18g、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルであるリョートーポリグリエステルM-7D(HLB:16)0.04g(実施例2-1)、0.1g(実施例2-2)、0.2g(実施例2-3)、0.4g(実施例2-4)、1g(実施例2-5)又は2g(実施例2-6)を加えて混合した後、30℃で30分間、抽出処理を行った。また、乳化剤を加えずに同様に処理したものを比較例2とした。次いで、200メッシュストレーナーを用いて固液分離して液部を回収することで、実施例2-1~2-6及び比較例2のギニアショウガ抽出物12.9~14.2gを得た。
【0030】
各ギニアショウガ抽出物について、常圧加熱乾燥法にて固形分を測定するとともに、上記のHPLC分析にて辛味成分(6-ジンゲロール、6-ショウガオール、6-パラドール)の含有量を測定し、表3に示した。測定値から固形分中の各辛味成分濃度、原料1gあたりの各辛味成分抽出量を算出し、さらに、調製例で抽出した抽出効率を100%として、6-パラドールの抽出効率を算出して、表3に示した。また、比較例2を抽出効率1倍として、実施例2-1~2-6の乳化剤による抽出効率の上昇率を算出して、表3に示した。
【0031】
【0032】
乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB:16)を、原料100%に対して2~100%添加して、水抽出して得られた実施例2-1~2-6のギニアショウガ抽出物では、乳化剤非存在下で水抽出した比較例2に比べ、原料1gあたりの各辛味成分(6-ジンゲロール、6-ショウガオール、6-パラドール)の抽出量が、何れの乳化剤添加濃度においても高かった。特に、調製例で抽出された6-パラドールの抽出効率を100%とした場合に、乳化剤存在下での6-パラドールの抽出効率は8.1~30.5%だったのに対し、乳化剤非存在下では1.8%であり、乳化剤を2%以上添加して抽出することにより、抽出効率が4.4倍以上に上昇し、全6-パラドールの8.1~30.5%が抽出できることが分かった。
【0033】
[試験例3]
(酵素の添加)
調製例で得られたギニアショウガ粉砕物2gに、水道水18g、α-アミラーゼ製剤である液化酵素T(エイチビィアイ株式会社製)0.01g、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルであるリョートーポリグリエステルS-28D(HLB:9、実施例3-1)、リョートーポリグリエステルS-24D(HLB:10、実施例3-2)、リョートーポリグリエステルSWA-20D(HLB:11、実施例3-3)、リョートーポリグリエステルSWA-15D(HLB:13、実施例3-4)若しくはリョートーポリグリエステルSWA-10D(HLB:14、実施例3-5)をそれぞれ0.4g、又はポリグリセリン脂肪酸エステルであるリョートーポリグリエステルM-7D(HLB:16)0.04g(実施例3-6)、0.1g(実施例3-7)、0.2g(実施例3-8)、0.4g(実施例3-9)、1g(実施例3-10)若しくは2g(実施例3-11)を加えて混合した後、90℃で30分間、抽出処理を行った。また、乳化剤を加えずに同様に処理したものを比較例3とした。次いで、200メッシュストレーナーを用いて固液分離して液部を回収することで、実施例3-1~3-11及び比較例3のギニアショウガ酵素処理抽出物9.9~14.1gを得た。
【0034】
各ギニアショウガ酵素処理抽出物について、常圧加熱乾燥法にて固形分を測定するとともに、上記のHPLCを分析にて辛味成分(6-ジンゲロール、6-ショウガオール、6-パラドール)の含有量を測定し、表4に示した。測定値から固形分中の各辛味成分濃度、原料1gあたりの各辛味成分抽出量を算出し、さらに、調製例で抽出した抽出効率を100%として、6-パラドールの抽出効率を算出して、表4に示した。また、比較例3を抽出効率1倍として、実施例3-1~3-11の乳化剤による抽出効率の上昇率を算出して、表4に示した。
【0035】
【0036】
乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB:9~16)及び酵素存在下で、水抽出して得られた実施例3-1~3-5のギニアショウガ酵素処理抽出物、並びに乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB:16)を、原料100%に対して2~100%添加し、酵素存在下で水抽出して得られた実施例3-6~3-11のギニアショウガ酵素処理抽出物では、乳化剤非存在下かつ酵素存在下で水抽出した比較例3に比べ、原料1gあたりの各辛味成分(6-ジンゲロール、6-ショウガオール、6-パラドール)の抽出量が、何れの場合においても高かった。特に、調製例で抽出された6-パラドールの抽出効率を100%とした場合に、乳化剤及び酵素存在下で抽出した場合の6-パラドールの抽出効率は15.1~36.9%だったのに対し、乳化剤非存在下かつ酵素存在下で抽出した場合は5.2%であり、乳化剤により抽出効率が2.9倍以上に上昇し、全6-パラドールの15.1~36.9%が抽出できることが分かり、また酵素を組み合わせることで高い抽出率となることが分かった。
【0037】
[試験例4]
(原料の加熱処理)
ギニアショウガ種子を乾熱機で200℃、30分間加熱処理した後、粉砕処理して得た加熱処理ギニアショウガ粉砕物2gに、水道水18g、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルであるリョートーポリグリエステルM-7D(HLB:16)0.2g及びショ糖脂肪酸エステルであるリョートーシュガーエステルM-1695(HLB:16)0.2gを加えて混合した後、90℃で30分間、抽出処理を行った(試験例4-1)。また、乳化剤を加えずに同様に処理したものを試験例4-2とした。また、加熱処理ギニアショウガ粉砕物2gに、水道水18g、α-アミラーゼ製剤である液化酵素T0.02g、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルであるリョートーポリグリエステルM-7D(HLB:16)0.2g及びショ糖脂肪酸エステルであるリョートーシュガーエステルM-1695(HLB:16)0.2gを加えて混合した後、90℃で30分間、抽出処理を行った(試験例4-3)。また、乳化剤を加えずに同様に処理したものを試験例4-4とした。次いで、不織布を用いて固液分離して液部を回収することで、試験例4-1及び試験例4-2の加熱処理ギニアショウガ抽出物10.7g及び8.8g、並びに試験例4-3及び試験例4-4の加熱処理ギニアショウガ酵素処理抽出物14.2g及び13.7gを得た。
【0038】
各加熱処理ギニアショウガ抽出物及び加熱処理ギニアショウガ酵素処理抽出物について、常圧加熱乾燥法にて固形分を測定するとともに、上記のHPLC分析にて辛味成分(6-ジンゲロール、6-ショウガオール、6-パラドール)の含有量を測定し、表5に示した。測定値から固形分中の各辛味成分濃度、原料1gあたりの各辛味成分抽出量を算出し、さらに、調製例で抽出した抽出効率を100%として、6-パラドールの抽出効率を算出して、表5に示した。また、試験例4-2を抽出効率1倍として、試験例4-1の乳化剤による抽出効率の上昇率を算出し、試験例4-4を抽出効率1倍として、試験例4-3の乳化剤による抽出効率の上昇率を算出して、表5に示した。
【0039】
【0040】
乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステル(HLB:16)存在下で、水抽出して得られた試験例4-1のギニアショウガ抽出物では、乳化剤非存在下で水抽出した試験例4-2に比べ、原料1gあたりの各辛味成分(6-ジンゲロール、6-ショウガオール、6-パラドール)の抽出量が高かった。特に、調製例で抽出された6-パラドールの抽出効率を100%とした場合に、乳化剤存在下での6-パラドールの抽出効率は33.1%だったのに対し、乳化剤非存在下では0.9%であり、乳化剤により、抽出効率が37.6倍に上昇し、全6-パラドールの33.1%が抽出できることが分かった。
【0041】
乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステル(HLB:16)、並びに酵素存在下で、水抽出して得られた試験例4-3のギニアショウガ酵素処理抽出物では、乳化剤非存在下かつ酵素存在下で、水抽出した試験例4-4に比べ、原料1gあたりの各辛味成分(6-ジンゲロール、6-ショウガオール、6-パラドール)の抽出量が高かった。特に、調製例で抽出された6-パラドールの抽出効率を100%とした場合に、乳化剤及び酵素存在下で抽出した場合の6-パラドールの抽出効率は38.6%だったのに対し、乳化剤非存在下かつ酵素存在下で抽出した場合は5.1%であり、乳化剤により抽出効率が7.6倍に上昇し、全6-パラドールの38.6%が抽出できることが分かった。
【0042】
また、試験例4-2を抽出効率1倍として、試験例4-4のα-アミラーゼによる抽出効率の上昇率を算出したところ、5.8倍となったことから、酵素処理によって、6-パラドールの抽出効率が上昇することが分かった。
【0043】
さらに、ギニアショウガの加熱処理の有無による6-ジンゲロール、6-ショウガオール及び6-パラドールの量を比較するために、加熱処理したギニアショウガ粉砕物を原料とした試験例4-3の原料1gあたりの6-ジンゲロール、6-ショウガオール又は6-パラドール抽出量の値を、加熱処理無しのギニアショウガ粉砕物を原料とした実施例3-9の値で除すことで、加熱による6-ジンゲロール、6-ショウガオール又は6-パラドールの増加率を算出して、表6に示した。
【0044】
【0045】
抽出前にギニアショウガの前処理として加熱処理したものを原料とすることで、抽出される6-ジンゲロールは半減し、6-ショウガオールは3.5倍に増加し、6-パラドールは1.4倍に増加したことが分かった。加熱処理により、6-ジンゲロールは6-ショウガオールへ変換されることが知られているとおり、抽出物中の6-ジンゲロールは減少し、6-ショウガオールは増加したが、加熱処理により、ジンゲロンへ変換されることが知られている6-パラドールは減少せず、増加していた。
【0046】
よって、加熱処理した原料を使用することで、冷え性改善効果等が期待できる6-ショウガオールを抽出物中に増やすことができるとともに、血流促進効果等が期待できる6-パラドールも豊富に含む抽出物を得ることができることから、冷え性改善等の用途に応じて原料の加熱処理を行うことができることが分かった。
【実施例4】
【0047】
(抽出物乾燥品)
調製例で得られたギニアショウガ粉砕物50gに、水道水500g、α-アミラーゼ製剤である液化酵素T1g、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルであるリョートーポリグリエステルSWA-10D(HLB:14)25gを加えて混合した後、90℃で30分間抽出処理し、さらに、121℃で4時間加熱処理を行った。次いで、200メッシュストレーナーを用いて固液分離して回収した液部を、スプレードライヤを用いて乾燥・粉末化することで、ギニアショウガ酵素処理抽出物乾燥品20gを得た。
【0048】
ギニアショウガ酵素処理抽出物乾燥品について、常圧加熱乾燥法にて固形分(水分)を測定するとともに、HPLCを用いた上記の方法にて辛味成分(6-ジンゲロール、6-ショウガオール、6-パラドール)の含有量を測定し、表7に示した。測定値から固形分中の各辛味成分濃度、原料1gあたりの各辛味成分抽出量を算出し、さらに、調製例で抽出した抽出効率を100%として、6-ショウガオール及び6-パラドールの抽出効率を算出して、表7に示した。
【0049】
【0050】
原料中の全6-ショウガオールの56.7%、全6-パラドールの23.6%が抽出できており、追加の加熱処理で、抽出物中の6-ショウガオール濃度は高められ、6-パラドールも高い抽出率を維持できていたと思われる。また、抽出物の乾燥による各辛味成分への影響は特に見られず、乾燥後も各辛味成分は高い含有量であることが分かった。
【0051】
[評価試験]
実施例4のギニアショウガ酵素処理抽出物乾燥品及び調製例のギニアショウガ粉砕物について、各1%水懸濁液を調製し、分散性、沈殿及び官能評価(風味及び辛味)を実施した。結果を表8に示す。
【0052】
【0053】
1%水懸濁液で評価した結果、実施例4のギニアショウガ酵素処理抽出物乾燥品では、調製例のギニアショウガ粉砕物に比べて水分散性に優れており、沈殿が生じなかった。また、官能評価の結果、調製例のギニアショウガ粉砕物の1%水懸濁液は、土臭く、辛味の持続性が弱かったが、実施例4のギニアショウガ酵素処理抽出物乾燥品の1%水懸濁液は、スパイシーで持続性のある辛味を有しており、香辛料として優れたものだった。よって、本発明の抽出物は、各種効果を期待できるサプリメントの他、香辛料としての利用も可能であることが分かった。