(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】目標検知装置、目標検知方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/288 20060101AFI20240126BHJP
G01S 13/28 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
G01S7/288
G01S13/28
(21)【出願番号】P 2019239505
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 敬之
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 一宏
(72)【発明者】
【氏名】秋田 学
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-132523(JP,A)
【文献】国際公開第2015/173891(WO,A1)
【文献】特開2019-045386(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0003802(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 - 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ受信部より得たそれぞれ同じ周波数帯又は異なる周波数帯の複数単位の観測時間の受信信号を取得し、取得した複数単位の観測時間の受信信号を記憶する記憶部と、
前記記憶部が記憶した複数単位の観測時間の受信信号に基づいて、各受信信号の位相差を推定する位相差推定処理部と、
前記位相差推定処理部で得た位相差を用い
て、前記複数単位の観測時間の受信信号を連結した1つの受信信号を得て、得られた1つの受信信号について、目標の距離を得るための評価関数の最大値である最適評価値から前記目標の距離を得るコヒーレント距離推定処理部とを備え、
前記位相差推定処理部での位相差の推定と、その推定した位相差を使った前記コヒーレント距離推定処理部での
前記評価関数が最大となる目標の距離を得る演算とを複数回繰り返して、最大となる
評価関数値での距離を、目標の距離として出力する
目標検知装置。
【請求項2】
前記記憶部が記憶した複数単位の観測
時間の受信時間の受信信号から、それぞれの受信信号ごとに
前記目標の距離を得るための評価関数の演算を行い、算出した各周波数帯域
の評価関数の最大値の和が最大となる
評価関数値を探索して、目標の距離情報を得るノンコヒーレント距離推定処理部をさらに備え、
前記位相差推定処理部は、前記ノンコヒーレント距離推定処理部で得た目標の距離情報から、各受信信号の位相差を推定する
請求項1に記載の目標検知装置。
【請求項3】
前記ノンコヒーレント距離推定処理部で得た目標の距離情報から、目標以外の距離情報を除いて距離推定を行う推定対象選択距離推定
処理部をさらに備え、
前記位相差推定処理部は、前記推定対象選択距離推定
処理部で得た目標の距離情報から、離隔した複数の周波数帯の受信信号の位相差を推定する
請求項2に記載の目標検知装置。
【請求項4】
前記コヒーレント距離推定処理部は、目標以外の距離情報を除いて距離推定を行うようにした
請求項
1又は2に記載の目標検知装置。
【請求項5】
前記複数単位の観測時間の受信信号は、1つの受信アンテナで受信された同じ周波数帯の異なる時間の受信信号である
請求項1~
4のいずれか1項に記載の目標検知装置。
【請求項6】
前記記憶部は、アレーアンテナ受信信号記憶部であり、
前記複数単位の観測時間の受信信号は、前記アレーアンテナ受信信号記憶部が記憶した同じ周波数帯又は異なる周波数帯の同じ時間の受信信号である
請求項1~
4のいずれか1項に記載の目標検知装置。
【請求項7】
レーダ受信部より得たそれぞれ同じ周波数帯又は異なる周波数帯の複数単位の観測時間の受信信号に基づいて、各受信信号の位相差を推定する位相差推定処理と、
前記位相差推定処理で得た位相差を用い
て、前記複数単位の観測時間の受信信号を連結した1つの受信信号を得て、得られた1つの受信信号について、目標の距離を得るための評価関数の最大値である最適評価値から前記目標の距離を得るコヒーレント距離推定処理と、
前記位相差推定処理での位相差の推定と、その推定した位相差を使った前記コヒーレント距離推定処理での
前記評価関数が最大となる目標の距離を得る演算とを複数回繰り返して、最大となる
最適評価値での距離を、目標の距離として出力する目標距離探索処理と、を含む
目標検知方法。
【請求項8】
前記レーダ受信部より得たそれぞれ同じ周波数帯又は異なる周波数帯の複数単位の観測時間の受信信号から、それぞれの受信信号ごとに前記目標の距離を得るための評価関数の演算を行い、算出した各周波数帯域の評価関数の最大値の和が最大となる評価関数値を探索して、目標の距離情報を得るノンコヒーレント距離推定処理を行い、
前記位相差推定処理では、前記ノンコヒーレント距離推定処理で得た目標の距離情報から、各受信信号の位相差を推定する
請求項7に記載の目標検知方法。
【請求項9】
前記コヒーレント距離推定処理では、目標以外の距離情報を除いて距離推定を行うようにした
請求項7又は8に記載の目標検知方法。
【請求項10】
レーダ受信部より得たそれぞれ同じ周波数帯又は異なる周波数帯の複数単位の観測時間の受信信号に基づいて、各受信信号の位相差を推定する位相差推定処理ステップと、
前記位相差推定処理ステップで得た位相差を用い
て、前記複数単位の観測時間の受信信号を連結した1つの受信信号を得て、得られた1つの受信信号について、目標の距離を得るための評価関数の最大値である最適評価値から前記目標の距離を得るコヒーレント距離推定処理ステップと、
前記位相差推定処理ステップでの位相差の推定と、その推定した位相差を使った前記コヒーレント距離推定処理ステップでの
前記評価関数が最大となる目標の距離を得る演算とを複数回繰り返して、最大となる最適評価値を探索して、最大となる
最適評価値での距離を、目標の距離として出力する目標距離探索処理ステップと、をコンピュータに実行させる
プログラム。
【請求項11】
前記レーダ受信部より得たそれぞれ同じ周波数帯又は異なる周波数帯の複数単位の観測時間の受信信号から、それぞれの受信信号ごとに前記目標の距離を得るための評価関数の演算を行い、算出した各周波数帯域の評価関数の最大値の和が最大となる評価関数値を探索して、目標の距離情報を得るノンコヒーレント距離推定処理ステップを、さらにコンピュータに実行させるものであり、
前記位相差推定処理ステップでは、前記ノンコヒーレント距離推定処理ステップで得た目標の距離情報から、各受信信号の位相差を推定する
請求項10に記載のプログラム。
【請求項12】
前記コヒーレント距離推定処理ステップでは、目標以外の距離情報を除いて距離推定を行うようにした
請求項10又は11に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダにより高性能な計測を可能とする目標検知装置、目標検知方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ミリ波帯の利用による車載レーダ装置やインフラとして設置されたレーダ装置の高分解能化や高信頼性化が求められている。すなわち、既存の車載レーダ装置であっても、車両などの比較的大きな物体の検知は可能であるが、歩行者やさらに小さな対象物の検知を可能とする必要があり、ミリ波レーダのさらなる高分解能化や高信頼性化が求められている。
【0003】
レーダ装置の高分解能化を図るためには、例えば使用する周波数帯を増やして、それぞれの周波数帯域での受信信号を合成することが考えられる。
例えば本出願は先に、離隔した複数の周波数帯のレーダ群の受信信号を取得して、それぞれの離隔した複数の周波数帯の受信信号の位相差を推定し、推定した位相差を使って、コヒーレント距離推定処理で最適評価値を判定して、目標の距離を得る離隔周波数合成レーダ装置を提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたように、複数の周波数帯を使用することで、実質的に受信周波数帯が広がり、目標の検出精度が向上する。
しかしながら、レーダ装置が利用できる周波数帯域は、使用する国での法規などにより制約があり、使用できる周波数帯は限られている。また、複数の周波数帯を使用するためには、レーダ装置で複数の周波数帯を受信する受信回路が必要になり、それだけレーダ装置の構成が複雑化してしまうという問題がある。
【0006】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、使用する周波数帯域を適切な帯域に設定した上で、従来よりも高分解能化や信頼性の向上を図ることができる目標検知装置、目標検知方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目標検知装置は、レーダ受信部より得たそれぞれ同じ周波数帯又は異なる周波数帯の複数単位の観測時間の受信信号を取得し、取得した複数単位の観測時間の受信信号を記憶する記憶部と、記憶部が記憶した複数単位の観測時間の受信信号に基づいて、各受信信号の位相差を推定する位相差推定処理部と、位相差推定処理部で得た位相差を用いて、複数単位の観測時間の受信信号を連結した1つの受信信号を得て、得られた1つの受信信号について、目標の距離を得るための評価関数の最大値である最適評価値から目標の距離を得るコヒーレント距離推定処理部とを備える。
そして、位相差推定処理部での位相差の推定と、その推定した位相差を使ったコヒーレント距離推定処理部での評価関数が最大となる目標の距離を得る演算とを複数回繰り返して、最大となる評価関数値での距離を、目標の距離として出力するようにした。
【0008】
また、本発明の目標検知方法は、レーダ受信部より得たそれぞれ同じ周波数帯又は異なる周波数帯の複数単位の観測時間の受信信号に基づいて、各受信信号の位相差を推定する位相差推定処理と、位相差推定処理で得た位相差を用いて、複数単位の観測時間の受信信号を連結した1つの受信信号を得て、得られた1つの受信信号について、目標の距離を得るための評価関数の最大値である最適評価値から目標の距離を得るコヒーレント距離推定処理と、位相差推定処理での位相差の推定と、その推定した位相差を使った前記コヒーレント距離推定処理での評価関数が最大となる目標の距離を得る演算とを複数回繰り返して、最大となる最適評価値を探索して、最大となる最適評価値での距離を、目標の距離として出力する目標距離探索処理と、を含む。
【0009】
また、本発明のプログラムは、目標検知方法の各処理をコンピュータに実行させるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、レーダ受信部より得た受信信号を単純に平均化した場合よりも高分解能化を図ることができ、目標を検出する上で信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施の形態例によるレーダ装置の受信信号を得る構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態例による受信信号の合成処理の例を示す図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態例によるレーダ装置のブロック図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態例による処理例を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の第1の実施の形態例による推定距離と尤度値との関係の例を示す説明図である。
【
図6】本発明の第1の実施の形態例によるRMS改善状況の例を示す特性図である。
【
図7】本発明の第2の実施の形態例によるレーダ装置の受信信号を得る構成を示すブロック図である。
【
図8】本発明の第2の実施の形態例による受信信号の合成処理の例を示す図である。
【
図9】本発明の第2の実施の形態例によるレーダ装置の例を示すブロック図である。
【
図10】本発明の第3の実施の形態例によるレーダ装置の受信信号を得る構成を示すブロック図である。
【
図11】本発明の第3の実施の形態例によるレーダ装置の例を示すブロック図である。
【
図12】本発明の第4の実施の形態例によるレーダ装置の例を示すブロック図である。
【
図13】本発明の第5の実施の形態例によるレーダ装置の例を示すブロック図である。
【
図14】本発明の第6の実施の形態例によるレーダ装置の例を示すブロック図である。
【
図15】本発明の第6の実施の形態例による処理例を示すフローチャートである。
【
図16】本発明の実施の形態例の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施の形態例を、図面を参照して順に説明する。各実施の形態例を説明する図面において、同一の部分には同一の符号を付し、別の実施の形態例で既に説明した構成や処理についての重複説明は省略する。
【0013】
<第1の実施の形態例>
まず、本発明の第1の実施の形態例の多周波ステップレーダ装置を、
図1~
図6を参照して説明する。ここでの多周波ステップレーダ装置は、周囲の物体を検知する目標検知装置として使用するものである。
図1は、第1の実施の形態例のレーダ装置の受信信号を得るまでの構成を示す。
第1の実施の形態例のレーダ装置は、レーダ受信素子101、アナログ/デジタル変換器102、パルス圧縮部103a~103n、パルスドップラフィルタ104a~104n、及び位相補償部105a~105nを備える。
【0014】
レーダ受信素子101は、不図示の送信系から特定の周波数F0で送信された信号の反射波を受信するアンテナ素子である。ここでの周波数F0は、24GHz帯,60GHz帯,76GHz帯,79GHz帯などの周波数帯域が使用される。ここでの送信信号としては、例えば相補の関係にある2つのパルス(Code1、2)を、1単位の観測時間内にM回繰り返し送信する。
【0015】
レーダ受信素子101で得られたレーダ受信信号は、アナログ/デジタル変換器102でデジタル信号に変換される。なお、
図1では説明を簡単にするために、レーダ受信素子101を直接アナログ/デジタル変換器102に接続してあるが、実際にはレーダ受信素子101に受信系回路が接続され、受信系回路で処理された特定の周波数f
0の受信信号が、アナログ/デジタル変換器102でデジタル信号に変換される。
【0016】
アナログ/デジタル変換器102で変換されたデジタル信号は、1単位の観測時間の信号ごとに個別のパルス圧縮部103a~103nに供給される。すなわち、n個(nは2以上の整数)のパルス圧縮部103a~103nを備え、1単位の観測時間(1CPI:Coherent Pulse Interval)の受信信号ごとに、それぞれ別のパルス圧縮部103a~103nに供給される。それぞれのパルス圧縮部103a~103nでは、送信信号に含まれるパルス(Code1、2)に対してパルス圧縮が行われる。
【0017】
各パルス圧縮部103a~103nでパルス圧縮された受信信号は、パルスドップラフィルタ(PDF)104a~104nを介して位相補償部105a~105nに供給されて位相補償処理が行われ、各単位の観測時間の受信信号f0-0,f0-1,・・・,f0-n,・・・,f0-N-1が得られる。
【0018】
本実施の形態例では、各単位の観測時間の受信信号f
0-1,f
0-2,・・・,f
0-nが、次に説明する構成にて、
図2に示すように1つの受信信号に接続される。
すなわち、
図2の上側に示すように、各位相補償部105a~105nでは、観測時間が順に異なる各単位の観測時間の受信信号f
0-0,f
0-1,・・・,f
0-n,・・・,f
0-N-1が得られる。各単位の観測時間の受信信号f
0-0,f
0-1,・・・,f
0-n,・・・,f
0-N-1は、それぞれ異なる観測時間の1点の信号である。この1点の受信信号f
0-0,f
0-1,・・・,f
0-n,・・・,f
0-N-1のデータ点を並べることで、
図2の上段に示すように、レーダ装置の出力波形が得られる。この
図2の上段に示すひとまとまりの波形の信号は、スナップショット(SS)と称される。それぞれのスナップショット間では不連続点がある。なお、大文字で「SS」と示したとき、スナップショットの総数を示し、小文字で「ss」と示したとき、各スナップショットの番号を示す。すなわち、
図2の上段に記載したように、各スナップショットは、ss=0からss=SS-1までの番号を持つ。それぞれのスナップショットは、各点の受信信号f
0-0,f
0-1,・・・などを1つに繋げたものである。
さらに、本実施の形態例では、以下に説明する処理にて、
図2の下側に示すように、それぞれのスナップショットが、1つの周波数軸上の受信信号f
0-X1に接続される。
このように接続された受信信号f
0-X1から目標物までの距離が検出される。
【0019】
図3は、レーダ装置10aの構成を示す。
レーダ装置10aは、レーダ受信部1、CPIデータ記憶部2、位相差推定処理部3、及びコヒーレント距離推定処理部4を備える。
【0020】
レーダ受信部1は、
図1に示す構成にて、それぞれのスナップショットの信号、すなわち
図2の上側に示す各正弦波信号を得る。このレーダ受信部1で得られたスナップショットの信号は、CPIデータ記憶部2に供給され、CPIデータ記憶部2で各単位のスナップショットの信号が記憶される。
【0021】
CPIデータ記憶部2に記憶された各単位のスナップショットの信号は、位相差推定処理部3に供給され、各単位の観測時間の信号の位相差が推定される。各単位の観測時間の信号の位相差が推定されることで、
図2に示すように、各単位のスナップショットの信号は、その推定した位相差を持って連結した1つの受信信号f
0-X1として扱えるようになる。
【0022】
そして、位相差推定処理部3で得た位相差を用いて得た信号から、コヒーレント距離推定処理部4が最適評価値を判定し、最適判定値から目標の距離を得る。
ここで、位相差推定処理部3での位相差の推定と、その推定した位相差を使ったコヒーレント距離推定処理部4での最適評価値の判定は、複数回繰り返し行い、最大となる最適評価値を探索する。そして、レーダ装置10aは、コヒーレント距離推定処理部4で得られた最大となる最適評価値を、目標の距離として出力する。
【0023】
ここで、レーダ装置10aで行われる処理を、数式を用いて説明する。
CPIデータ記憶部2に記憶される各スナップショットの出力z
ss(n)は次式で表される。
この[数1]式において、fは搬送波周波数、Δfは周波数方向のサンプルの刻み幅、nは周波数番号、ssはスナップショット番号(CPI番号)、Kは目標の数、kは目標番号(個々の目標に設定した番号)、R
kは目標の周波数(目標の距離)である。なお、
図2の説明でも述べたように、小文字の「ss」との表記は、スナップショットの番号であり、大文字の「SS」との表記(数7式以降に記載)は、スナップショットの数(総数)である。
【0024】
【0025】
ここで、次の[数2]式に示すように設定すると、[数3]式のように表される。
【0026】
【0027】
【0028】
このとき、位相差推定処理部3では、以下の[数4]式より[数5]に示すあるスナップショットssにおける各目標の位相差(ベクトル)が求められる。
【0029】
【0030】
【0031】
ここでは、(^)Assを以下の[数6]式のように定義する。
【0032】
【0033】
そして、コヒーレント距離推定処理部4では、位相差推定処理部3において求めた複素振幅を用いて、次の[数7]式の演算で、距離推定対象外の波形が減算される。
【0034】
【0035】
ここで、[数7]式におけるXk,ssは、以下[数8]式で表現される。
【0036】
【0037】
コヒーレント距離推定処理部4では、目標kについて、各スナップショットの分離信号xk,ssを、推定複素振幅(^)αk,ssで除算することで、各スナップショットのモードベクトル位相と等しくなるように揃える。なお、本明細書において、(^)は、その直後の記号の上に^が付与されることを意味する。イメージデータとして記載した数式では、^を本来の位置に記載する。
除算して得られた信号ベクトルをスナップショット数であるSS個連結して拡張したベクトルを、[数9]式に示すと、このベクトルは、[数10]式のように求められる。
【0038】
【0039】
【0040】
各スナップショットのステアリングベクトルa
ss
(r)を、スナップショットSS個連結拡張したステアリングベクトルack∈CSS×Nとして、[数11]式に示すようになる。
【0041】
【0042】
コヒーレント距離推定処理部4は、このスナップショット間の位相を揃えた分離信号と対応するステアリングベクトルを連結拡張して、以下の目標距離推定処理を行うことでコヒーレント距離推定を行う。
例えば、最尤推定法にもとづいて評価関数Pk(r)を用いた探索で目標距離推定を行う。目標kの推定距離(^)Rkは、評価関数Pk(r)が最大となるrを探索することで得られる。
【0043】
【0044】
得られた目標kの推定距離(^)Rkによって、繰り返し処理で推定距離を更新する。
【0045】
図4のフローチャートは、位相差推定処理部3及びコヒーレント距離推定処理部4で行う処理の流れを示す。まず、目標数の更新により目標数((^)K)が1として設定される(ステップS10)。
【0046】
位相差推定処理部3は、位相差を推定する(ステップS11)。ここでは、位相差推定処理部3は、距離Rk(k=0,1,…K-1)を入力として、距離Rkの目標に対する複素振幅を、最小二乗法(一般化逆行列)等にてそれぞれ推定する。
[数13]式に示すAは、上述の[数2]式に示すAである。
【0047】
【0048】
複素振幅(^)aが入力されたコヒーレント距離推定処理部4は、減算波形生成処理を行う(ステップS12)。ここでは、[数14]式に示す減算目標波形をスナップショットごとに生成する。
【0049】
【0050】
そして、コヒーレント距離推定処理部4は、減算処理を行う(ステップS13)。ここでは、次の[数15]式に示すように、i(i=0,1…(^)K-1)番目の目標を推定するため、元信号(それぞれのスナップショットのレーダで計測される周波数軸上信号)から減算波形を減算する。
【0051】
【0052】
さらに、コヒーレント距離推定処理部4は、目標距離推定・更新処理を行う(ステップS14)。ここでは、ステップS13で得た[数15]式に示す周波数軸上信号(^)Xssを縦に結合し、[数13]式に示す(^)αにて、スナップショット間の位相差補正した(^)Xを入力とする。このとき、[数2]式で示すステアリングベクトルass(R)を縦に結合したbをステアリングベクトルとして、準ニュートン法やレーベンバーグ・マーカット法などを用いて、以下の[数16]式の評価式の最大探索より、目標距離(^)Rjを推定し、更新する。[数16]式のTRは、[数17]式で示される。
【0053】
【0054】
【0055】
ここで、bおよび((^)X′)は、assおよび((^)X)の要素を縦に結合したベクトルである。
【0056】
そして、コヒーレント距離推定処理部4は、試行回数tr1が、設定回数((^)K)に到達したか否かを判断する(ステップS15)。ここで、試行回数tr1が、設定回数未満のとき(ステップS15のNO)、ステップS12に戻り、減算対象目標距離の更新を繰り返す。また、試行回数tr1が設定回数((^)K)になったとき(ステップS15のYES)、ステップS16の初期値更新の回数判定処理に移る。
【0057】
ステップS16での初期値更新の回数判定処理としては、試行回数tr2が、設定回数に到達したか否かを判断する。ここで、試行回数tr2が、設定回数未満のとき(ステップS16のNO)、ステップS11に戻り、目標距離(^)Rjを格納する。
そして、ステップS16で試行回数tr2が、設定回数になったとき(ステップS16のYES)、格納した目標距離(^)RjとTRを出力する。
【0058】
さらに、コヒーレント距離推定処理部4は、ステップS16で出力される目標距離(^)RjとTRの内で、TRの最大値をとる目標距離(^)Rjを出力する(ステップS17)。
次に、以下の式による終了判定を実施する(ステップS18)。ステップS18の終了判定では、設定値εより小さいとき終了する(ステップS18のYES)。すなわち、[数18]式に示すように、設定値εより小さいとき終了する。
【0059】
【0060】
ステップS18の終了判定で、設定値εより小さいという条件を満たさないときは(ステップS18のNO)、ステップS10の目標数の更新に戻り、目標数に1を加えたものが新たに設定される。なお、ステップS11での位相差推定処理時において、入力距離値が入っていないループの1回目では、複素振幅を1などの値に初期化する。
【0061】
図5は、位相差推定処理部3及びコヒーレント距離推定処理部4で距離推定の処理を繰り返し実行することで、推定距離の検出精度が上がる状態の概要を示す。
図5A,B,Cは、いずれも縦軸が尤度値、横軸が推定距離を示す。
もし、各観測時間の受信信号から個別に距離を算出した場合には、例えば
図5Aに示す状態で尤度値が検出され、その尤度値が最も高い点の距離が定まる。但し、この状態では、受信信号が短い観測時間から得た信号であり、推定距離の精度が低い状態である。ここでの推定距離の精度が低い状態とは、
図5Aに示すように、推定距離のピーク(尤度値が最も高い点)が1点に定まらず、明確でない状態である。すなわち、
図5Aに示すように、尤度値の変化が非常になだらかであり、特定の1点を尤度値が最も高い点に決めることが困難な状態である。
【0062】
一方、
図5B及び
図5Cは、位相差推定処理部3及びコヒーレント距離推定処理部4で距離推定を行った場合の例である。
図5Bは、複素振幅係数の推定精度が悪い場合であり、
図4のフローチャートでの試行回数が少ない状態(すなわち、ステップS17でグローバル設定回数が設定回数未満と判断される状態)に相当する。
図5Bに示すように、複素振幅係数の推定精度が悪い場合には、推定距離と尤度値とが一定の関係にはならず、尤度値が変動を繰り返してしまう。この状態では、尤度値が高い状態が探索されたとしても、最大の尤度値とは異なる状態が探索される可能性がある。すなわち、
図5Bに示すように波打って変動を繰り返す波形内の、特定の1つの波のピーク位置が最大尤度として探索されて、本来の最大の尤度値とは異なる位置が探索されてしまう可能性がある。
【0063】
ここで。本実施の形態例では、位相差推定処理部3及びコヒーレント距離推定処理部4で、
図2のフローチャートで説明したように、最大の尤度の探索処理として、ローカル設定回数の繰り返し及びグローバル設定回数の繰り返しを行うことで、徐々に真の最大の尤度値に近い値が探索されるようになる。
図5Cは、最大の尤度の探索をグローバル設定回数繰り返したときの尤度値と推定距離との関係の例を示す。
この
図5Cに示す状態は、複素振幅係数の推定精度が良い状態であり、
図5Bに示すような尤度値の波打った変動がなく、最大の尤度値での推定距離を選ぶことで、最適な推定距離が得られるようになる。
【0064】
具体的には、各観測時間の信号の平均化を行うことを想定すると、測距精度は、サンプル数を2倍としたとき1/√2で示される。これに対して、位相差推定処理部3及びコヒーレント距離推定処理部4で距離推定を行った場合には、ベクトル長が2倍となり測距精度は1/2√2が見込まれ、個別の観測時間の処理結果の平均処理では得られないような、高精度かつ高分解能な測距性能を達成することができる。
【0065】
図6は、本実施の形態例のレーダ装置10aによって各観測時間の信号を連結して距離推定を行った場合の特性α1を、各観測時間の信号の平均化で距離推定を行った場合の特性α0と比較したものである。
図6の縦軸は、推定距離の誤差を示し、横軸は得られた受信信号の数を示す。推定距離の誤差は値が小さいほどよく、各観測時間の信号を連結して距離推定を行った場合の特性α1は、平均化による特性α0よりも誤差が小さいことが分かる。したがって、本実施の形態例のレーダ装置10aによると、使用する周波数帯域を広げることなく、高精度かつ高分解能な測距性能が得られるようになる。
【0066】
高精度かつ高分解能な測距性能が得られるということは、例えば本実施の形態例のレーダ装置10aを自動車などの移動体に搭載して、その移動体の周囲の近接した位置に2つの目標(車、人、自転車など)が存在するとき、その2つの目標を正確に分離してそれぞれの位置を推定できることになる。
【0067】
<第2の実施の形態例>
次に、本発明の第2の実施の形態例のレーダ装置を、
図7~
図9を参照して説明する。
図7は、第2の実施の形態例のレーダ装置で、受信信号を得るまでの構成を示す。
第2の実施の形態例のレーダ装置は、受信素子111,121,・・・,191を備えたアレーアンテナ構成としたものである。ここでは、それぞれの受信素子111~191が受信する周波数は、同じ周波数f
0としてある。
【0068】
受信素子111~191の出力は、アナログ/デジタル変換器112,122,・・・,192に個別に供給され、各受信素子で得た受信信号が個別にデジタル信号に変換される。
なお、
図7に示す構成の場合にも、
図1の例と同様に、受信素子111~191とアナログ/デジタル変換器112~192との間に、不図示の受信系回路が接続され、受信系回路で処理された特定の周波数f
0の受信信号が、アナログ/デジタル変換器112~192でデジタル信号に変換される。
【0069】
各アナログ/デジタル変換器112~192の出力は、1単位の観測時間ごとに個別のパルス圧縮部113a~113n,123a~123n,・・・,193a~193nに供給され、パルス圧縮される。
パルス圧縮部113a~113n,123a~123n,・・・,193a~193nの出力は、パルスドップラフィルタ114a~114n,124a~124n,・・・,194a~143nに供給され、フィルタ処理が行われる。
パルスドップラフィルタ114a~114n,124a~124n,・・・,194a~143nの出力は、位相補償部115a~115n,125a~125n,・・・,195a~195nに供給され、位相補償処理が行われる。
【0070】
本実施の形態例では、受信素子111~191で得た全ての受信信号は、次に説明する構成にて、
図8に示すように1つの受信信号に接続される。
すなわち、位相補償部115a~115n,125a~125n,・・・,195a~195nでは、
図8の左側に示すように、各受信素子(Ch=0,1,…L‐1)111~191の受信信号f
0-0,f
0-1,・・・,f
0-N-1がL個(0~L-1まで)得られる。
それぞれの受信素子(Ch=0,1,…L‐1)の受信信号は、例えば
図2に示した受信信号f
0-0,f
0-1,・・・,f
0-N-1を並べて受信波形としたものである。
但し、この段階の受信信号f
0-0,f
0-1,・・・,f
0-N-1は、
図8の左側に示すようにコヒーレントにつながっていない(スナップショット間で不連続点がある)状態である。
【0071】
図7に示すアレーアンテナ構成で、1つの周波数軸上の受信信号f
0-X2を得る際には、例えばある同じ観測時間における全ての受信素子111~191の受信信号を連結し、その後、次の観測時間における全ての受信素子111~191の受信信号を連結するようにして、1つの周波数軸上の受信信号f
0-X2とする。但し、この連結順序は一例であり、その他の連結順序としてもよい。
そして、
図8に示すように連結された受信信号f
0-X2を使って、
図9に示すレーダ装置10bで目標物までの距離を検出する処理が行われる。
【0072】
図9は、レーダ装置10bの構成を示す。
図9に示すレーダ装置10bは、
図3に示すレーダ装置10aとの相違点として、
図3に示すCPIデータ記憶部2の代わりに、アレーアンテナデータ記憶部2′を用意した。
アレーアンテナデータ記憶部2′は、
図7に示す全ての位相補償部115a~115n,125a~125n,・・・,195a~195nが出力する受信信号を記憶するものである。
すなわち、
図8の左側に示す各スナップショットの信号f
0-A,f
0-B,・・・f
0-Nが供給される。
そして、位相差推定部3は、このアレーアンテナデータ記憶部2′が記憶した全ての信号を読み出し、各信号の間の位相差を推定する。
【0073】
レーダ装置10bの位相差推定部3での処理と、コヒーレント距離推定処理部4での処理は、第1の実施の形態例で説明したレーダ装置10aの位相差推定部3及びコヒーレント距離推定処理部4での処理と同じである。
【0074】
ここで、
図7~
図9に示す構成にて行われる処理を、数式を用いて説明する。
まず、各受信素子111~191の帯域合成前の出力を、出力chとすると、この出力chは、次の[数19]式で表される。
【0075】
【0076】
この信号zch(n)が、アレーアンテナデータ記憶部2′に記憶される。
ここで、次の[数20]式に示すように各データを定義したとき、信号zchは、[数21]式のように表すことができる。
【0077】
【0078】
【0079】
このとき、位相差推定部3では、以下の[数22]式より位相差が求められる。
【0080】
【0081】
この[数22]式において、(^)ach(R)と(^)achは、以下のように定義する。
【0082】
【0083】
コヒーレント距離推定処理部4では、位相差推定部3において求めた複素振幅を用いて、[数24]式に示すように距離推定対象外の波形が減算される。
【0084】
【0085】
ここで[数24]式におけるXk,chは、以下の[数25]式のとおり表される。
【0086】
【0087】
ここで、目標kについて、各受信素子の分離信号xk,chを、推定複素振幅(^)ak,chで除算することで、各素子のモードベクトル位相と等しくなるように揃える。除算して得られた信号ベクトルを受信素子の個数だけ連結して拡張したベクトルxck∈CCH×Nを、次の[数26]式に示すように求める。
【0088】
【0089】
各素子のステアリングベクトルaiF(r)を、受信素子のCH個連結拡張したステアリングベクトルをack∈CCH×Nとしたとき、次の[数27]式に示すように表される。
【0090】
【0091】
この受信素子の間の位相を揃えた分離信号と対応するステアリングベクトルを連結拡張して、目標距離推定処理を行うことでコヒーレント距離推定を行う。
例えば、最尤推定法にもとづいて、次の[数28]式による評価関数Pk(r)を用いた探索で目標距離推定を行う。目標kの推定距離(^)Rkは、評価関数Pk(r)が最大となるrを探索することで得られる。
【0092】
【0093】
このようにして推定距離(^)R
kを得る処理を繰り返して、推定距離を更新する。
この
図9に示す構成のレーダ装置10bによっても、第1の実施の形態例のレーダ装置10aと同様に、高精度かつ高分解能な測距性能を達成できる。
なお、コヒーレント距離推定処理部4は、第1の実施の形態例と同様に
図4のフローチャートに示す処理が行われる。
【0094】
<第3の実施の形態例>
次に、本発明の第3の実施の形態例のレーダ装置を、
図10及び
図11を参照して説明する。
図10は、第3の実施の形態例のレーダ装置で、受信信号を得るまでの構成を示す。
第3の実施の形態例のレーダ装置は、複数のアレーアンテナ211,221,・・・,291を備えて、それぞれのアレーアンテナ211~291に、複数個の受信素子が配置され、複数個の受信素子を使って複数の受信信号を同時に得るようにした。例えば9組のアレーアンテナ211~291のそれぞれが10個のレーダ受信素子を備える場合、合計で9×10の90個の受信素子を配置する。
【0095】
各アレーアンテナ211~291の出力は、アナログ/デジタル変換器112a~112n,122a~122n,・・・,192a~192nに個別に供給され、各受信素子で得た受信信号が個別にデジタル信号に変換される。各アレーアンテナ211~291では、全て同じ受信周波数f
0の信号が得られる。
なお、
図10の構成においても、
図1の例と同様に、各アレーアンテナ211~291と各アナログ/デジタル変換器112a~112n,122a~122n,・・・,192a~192nとの間に、不図示の受信系回路が接続され、受信系回路で処理された特定の周波数f
0の受信信号が、アナログ/デジタル変換器102でデジタル信号に変換される。
【0096】
アナログ/デジタル変換器112a~112n,122a~122n,・・・,192a~192nの出力は、パルス圧縮部113a~113n,123a~123n,・・・,193a~193nに個別に供給され、パルス圧縮される。
パルス圧縮部113a~113n,123a~123n,・・・,193a~193nの出力は、パルスドップラフィルタ114a~114n,124a~124n,・・・,194a~143nに個別に供給され、フィルタ処理が行われる。
パルスドップラフィルタ114a~114n,124a~124n,・・・,194a~143nの出力は、位相補償部115a~115n,125a~125n,・・・,195a~195nに個別に供給され、位相補償処理が行われる。
位相補償部115a~115n,125a~125n,・・・,195a~195nの出力は、合成帯域部116a~116n,126a~126n,196a~196nにより1つの帯域の信号に合成される。
【0097】
図11は、本実施の形態例のレーダ装置10cの構成を示す。
図11に示すレーダ装置10cは、
図9に示すレーダ装置10bとの相違点として、受信信号を得るアレーアンテナごとのレーダ受信部1a~1nを備え、その複数のレーダ受信部1a~1nに得られる受信信号が、複数アレーアンテナデータ記憶部2″に記憶されるようにした。
複数アレーアンテナデータ記憶部2″は、
図10に示す全ての合成帯域部116a~116n,126a~126n,196a~196nが出力する全アレーアンテナの受信信号を記憶するものである。そして、位相差推定部3は、このアレーアンテナデータ記憶部2′が記憶した全ての信号を読み出し、各信号の間の位相差を推定する。
【0098】
レーダ装置10bの位相差推定部3での処理と、コヒーレント距離推定処理部4での処理は、第1の実施の形態例で説明したレーダ装置10aの位相差推定部3及びコヒーレント距離推定処理部4での処理と同じである。
【0099】
ここで、
図10~
図11に示す構成にて行われる処理を、数式を用いて説明する。
ここでは、
図10に示す合成帯域部116a~116n,126a~126n,196a~196nでの各レーダをmとし、そのレーダmの出力(帯域合成後)は、
次の[数29]式で表される。
【0100】
【0101】
この信号zm(ch)が、複数アレーアンテナデータ記憶部2″に記憶される。
ここで、次の[数30]式に示すように各データを定義したとき、信号zm(ch)は、[数31]式のように表すことができる。
【0102】
【0103】
【0104】
このとき、位相差推定部3では、以下の[数32]式より位相差が求められる。
【0105】
【0106】
この[数32]式において、(^)Am(θ)と(^)amは、以下のように定義する。
【0107】
【0108】
コヒーレント距離推定処理部4では、位相差推定部3において求めた複素振幅を用いて、以下[数34]式に示すように、下の距離推定対象外の波形[数36]式が減算される。
【0109】
【0110】
ここで、[数34]におけるXk,mは、以下の[数35]式のとおり表される。
【0111】
【0112】
ここで、目標kについて、各受信素子の分離信号xk,mを、推定複素振幅(^)ak,mで除算することで、各素子のモードベクトル位相と等しくなるように揃える。除算して得られた信号ベクトルをレーダの個数だけ連結して拡張したベクトルxck∈CM×Lを、次の[数36]式に示すように求める。
【0113】
【0114】
各レーダのステアリングベクトルam(θ)を、レーダの数(アレーアンテナ211~291の数)だけ連結拡張したステアリングベクトルをack∈CM×Lとしたとき、次の[数37]式に示すように表される。
【0115】
【0116】
この受信素子の間の位相を揃えた分離信号と対応するステアリングベクトルを連結拡張して、目標距離推定処理を行うことでコヒーレント距離推定を行う。
例えば、最尤推定法にもとづいて、次の[数38]式による評価関数Pk(r)を用いた探索で目標距離推定を行う。目標kの推定距離(^)θkは、評価関数Pk(θ)が最大となるθを探索することで得られる。
【0117】
【0118】
このようにして推定距離(^)θ
kを得る処理を繰り返して、推定距離を更新する。
この
図11に示す構成のレーダ装置10cによっても、第1の実施の形態例のレーダ装置10aや第2の実施の形態例のレーダ装置10bと同様に、高精度かつ高分解能な測距性能を達成できる。
なお、コヒーレント距離推定処理部4は、第1の実施の形態例と同様に
図4のフローチャートに示す処理が行われる。
【0119】
<第4の実施の形態例>
次に、本発明の第4の実施の形態例のレーダ装置を、
図12を参照して説明する。
図12は、第4の実施の形態例のレーダ装置10dの構成を示す。
図12に示すレーダ装置10dは、離隔周波数レーダ受信部1′を備え、離隔周波数レーダ受信部1′で得られる複数単位の受信信号が、離隔した異なる周波数帯の信号としたものである。離隔した異なる周波数帯の信号は、例えば異なる観測時間の複数単位の受信信号とするが、同じ観測時間の複数単位の受信信号でもよい。
図12に示すレーダ装置10dのその他の構成は、
図3に示すレーダ装置10aと同じである。
【0120】
図12に示すように、離隔した異なる周波数帯の信号を複数単位の受信信号として取得して、位相差推定処理部3での各信号の位相差の推定と、コヒーレント距離推定処理部4での距離推定を行うことでも、第1の実施の形態例のレーダ装置10aと同様に精度の高い距離推定が可能になる。
【0121】
<第5の実施の形態例>
次に、本発明の第5の実施の形態例のレーダ装置を、
図13を参照して説明する。
図13は、第5の実施の形態例のレーダ装置10eの構成を示す。
レーダ装置10eは、レーダ受信部1と、CPIデータ記憶部2と、ノンコヒーレント距離推定処理部5と、位相差推定処理部3と、コヒーレント距離推定処理部4とを備える。
【0122】
レーダ受信部1は、ここまで説明した第1~第4の実施の形態例のレーダ受信部1,1a~1nや離隔周波数レーダ群受信部1′のいずれを適用してもよい。
そして、レーダ受信部1で得た受信信号を、CPIデータ記憶部2が記憶し、CPIデータ記憶部2が記憶した各スナップショットの信号をノンコヒーレント距離推定処理部5に供給する。
【0123】
ノンコヒーレント距離推定処理部5は、各帯域又は信号での評価値(ここでは評価値を尤度とする)を算出する尤度算出部51と、尤度算出部51で得た各信号の尤度の和が最大となる最大尤度(最適評価値)を探索する最大尤度探索部52とを有する。なお、尤度算出部51が評価値として尤度を算出し、最大尤度探索部52が最適評価値として最大尤度を探索するのは一例であり、その他の評価値及び最適評価値を算出するようにしてもよい。すなわち、最尤推定における尤度を探索する場合の他に、最小二乗法における二乗誤差を評価値として最適評価値を探索する場合、MAP推定における事後確率を評価値として最適評価値を探索する場合、モーメント法におけるモーメントの一致性を評価値として最適評価値を探索する場合などがある。
【0124】
そして、ノンコヒーレント距離推定処理部5で推定した距離を、位相差推定部3に供給する。さらに、位相差推定部3で推定した位相差に基づいて、コヒーレント距離推定処理部4が距離を推定する。この位相差推定部3での位相差推定と、ノンコヒーレント距離推定処理部4での距離推定は、所定回繰り返し実行する。
【0125】
本実施の形態例のように、ノンコヒーレント距離推定処理部5で距離を推定した後、位相差推定部3での位相差の推定と、コヒーレント距離推定処理部4での距離推定を繰り返すことでも、目標の距離を得ることができる。
【0126】
<第6の実施の形態例>
次に、本発明の第6の実施の形態例のレーダ装置を、
図14及び
図15を参照して説明する。
図14は、第6の実施の形態例のレーダ装置10fの構成を示す。
レーダ装置10fは、レーダ受信部1と、CPIデータ記憶部2と、ノンコヒーレント距離推定処理部5と、推定対象選択距離推定処理部6と、位相差推定処理部3と、コヒーレント距離推定処理部4とを備える。
【0127】
レーダ受信部1は、上述した第1~第4の実施の形態例のレーダ受信部1,1a~1nや離隔周波数レーダ群受信部1′のいずれを適用してもよい。
そして、レーダ受信部1で得た受信信号を、CPIデータ記憶部2が記憶し、CPIデータ記憶部2が記憶した各スナップショットの信号をノンコヒーレント距離推定処理部5に供給する。ノンコヒーレント距離推定処理部5は、第5の実施の形態例のレーダ装置10eが備えるノンコヒーレント距離推定処理部5と同じである。
【0128】
そして、ノンコヒーレント距離推定処理部5が推定した距離を、推定対象選択距離推定処理部6に供給する。推定対象選択距離推定部6は、射影行列を使って、対象となる目標以外の情報を除く処理を行った上で、距離を推定する処理を行う。例えば2つの目標距離R0,R1が存在するとき、目標距離R0を推定する際には、目標距離R1についての情報を除去(抑圧)して推定し、目標距離R1を推定する際には、目標距離R0についての情報を除去(抑圧)して推定することを行うものである。
【0129】
そして、推定対象選択距離推定部6で不要成分が抑圧された目標の距離の情報を、位相差推定処理部3に供給する。その他の構成については、第1の実施の形態例に示したレーダ装置10aと同様に構成する。
【0130】
図15のフローチャートは、推定対象選択距離推定部6で行う処理の流れを示す。
推定対象選択距離推定部6は、まずノンコヒーレント距離推定処理部5で得た目標の距離R
0,R
1に対して、微少な値を付加して初期値をランダムにシフトした値とする(ステップS31)。ここで付加する微少な値としては、例えば距離の探索範囲に対して1/100程度の値とする。
そして、推定対象選択距離推定部6は、初期値の更新処理を行う(ステップS32)。試行回数1回目ではステップS31で付与した初期値を、そのままステップS32での更新値として使用する。
【0131】
その後、更新された目標距離を、減算対象目標距離として更新する(ステップS33)。試行回数1回目ではステップS31で付与した初期値を、そのままステップS33での減算対象目標距離として使用する。
次に、推定対象選択距離推定部6は、減算目標の振幅推定処理を行う(ステップS34)。ここでは、目標推定距離が入力され、減算対象目標距離に対応する複素振幅をフーリエ変換等により求める。
【0132】
次に、推定対象選択距離推定部6は、減算対象目標(例えば目標距離R0,R1)に対応する各周波数帯における減算波形を生成する(ステップS35)。
そして、推定対象選択距離推定部6は、元信号(それぞれの周波数帯域のレーダで計測される周波数軸上信号(X60,X76))から、減算波形を減算する減算処理を行い(ステップS36)、減算された信号に更新する。
【0133】
減算された信号を得た後、推定対象選択距離推定部6は、準ニュートン法やレーベンバーグ・マーカート法等を用いて、目標距離を推定し、推定結果で目標距離を更新する(ステップS37)。
【0134】
次に、推定対象選択距離推定部6は、ステップS37での目標距離の推定及び更新が行われた試行回数が、予め設定された試行回数であるか、あるいは試行回数未満かを判断する(ステップS38)。ここで、試行回数が設定された試行回数未満であるとき(ステップS38のNO)、推定対象選択距離推定部6は、ステップS33の処理に戻り、ステップS37で得た目標距離の推定値で減算目標距離を更新させる。
【0135】
また、ステップS38で、試行回数が予め設定された試行回数に到達したとき(ステップS38のYES)、推定対象選択距離推定部6は、ステップS32での初期値を更新した試行回数が、予め設定された試行回数であるか、あるいは試行回数未満かを判断する(ステップS39)。ここで、試行回数が設定された試行回数未満であるとき(ステップS39のNO)、推定対象選択距離推定部6は、ステップS32の初期値の更新処理に戻り、試行回数ごとに初期値の更新処理として得た目標距離を得る。
【0136】
また、ステップS39で、試行回数が予め設定された試行回数に到達したとき(ステップS39のYES)、推定対象選択距離推定部6は、ステップS31で初期値を生成した試行回数が予め設定された試行回数であるか、あるいは試行回数未満かを判断する(ステップS40)。ここで、初期値を生成した試行回数が設定された試行回数未満であるとき(ステップS40のNO)、推定対象選択距離推定部6は、ステップS31の初期値の生成処理に戻り、初期値の生成処理から繰り返す。
【0137】
また、ステップS40で、試行回数が予め設定された試行回数に到達したとき(ステップS40のYES)、推定対象選択距離推定部6は、ステップS37で格納した目標距離の組を使って、目標距離を決定する(ステップS41)。ここでは、例えば入力される目標距離の組の中央値もしくは最頻値により、目標距離を決定する。
推定対象選択距離推定部6は、このようにして決定した目標距離を、位相差推定処理部3に出力する。
【0138】
この推定対象選択距離推定部6を備えることで、レーダ受信部1の出力に多数の目標の信号が含まれる場合であっても、ターゲットとなる目標の信号を取り出して、位相差推定処理部3での位相差推定及びコヒーレント距離推定処理部4で距離推定を行うことができ、高精度かつ高分解能な測距性能を達成できる。
【0139】
<変形例>
なお、ここまで説明した各実施の形態例では、レーダ受信部1と、そのレーダ受信部1から得られる信号で距離を推定する処理部(位相差推定部3,コヒーレント距離推定処理部4など)とを一体としたレーダ装置としたが、既存のレーダ受信部1から得た信号を処理する装置として構成してもよい。
さらに、ここまで説明した距離推定を行う装置は、各実施の形態例で説明した処理を演算により実行するコンピュータにより構成してもよい。この場合、各実施の形態例で説明したそれぞれの処理を実行するプログラムを作成して、そのプログラムをコンピュータに実装すればよい。
【0140】
また、
図4や
図15のフローチャートなどで説明した処理の流れは一例であり、他の処理の流れを適用してもよい。
例えば、実施の形態例によっては、
図16のフローチャートに示す処理を適用してもよい。
図16のフローチャートは、位相差推定処理部3での位相差推定と、コヒーレント距離推定処理部4での最大尤度探索処理の別の例を示す。
まず、位相差推定処理部3は、各観測時間の信号の位相差を推定処理する(ステップS51)。ここでの位相差推定処理は、例えば上述した[数4]式に示す演算で実行される。
【0141】
位相差推定処理部3で得た各観測時間の信号の位相差は、コヒーレント距離推定処理部4に初期位相として設定する(ステップS52)。そして、コヒーレント距離推定処理部4は、格納された位相差と、その位相差の推定に使用した距離とから、最大尤度の探索処理を行う(ステップS53)。すなわち、コヒーレント距離推定処理部4は、この周波数軸上信号を入力として、尤度が最大となる距離を、準ニュートン法やレーベンバーグ・マーカート法などで非線形探索を行い、距離の推定値を得る。ここで、コヒーレント距離推定処理部4は、得られた尤度値と推定した距離を一旦記憶し(ステップS54)、ステップS53での推定値を得る試行を予め決められたローカル設定回数だけ実行したか否かを判断する(ステップS55)。
ステップS55で、試行回数がローカル設定回数未満であると判断したとき(ステップS55のNO)、コヒーレント距離推定処理部4は、ステップS53に戻り、探索初期値である距離に対して乱数値を付与して探索初期値を更新し、再度、尤度が最大となる距離の非線形探索を行う。
【0142】
また、ステップS55で、試行回数がローカル設定回数になったと判断したとき(ステップS55のYES)、コヒーレント距離推定処理部4は、ステップS14で格納した結果の中から最大尤度となる距離を取り出して、最大尤度判定結果として記憶する(ステップS56)。
【0143】
その後、コヒーレント距離推定処理部4は、ステップS56で最大尤度となる距離を取り出す試行を予め決められたグローバル設定回数だけ実行したか否かを判断する(ステップS57)。
ステップS57で、試行回数がグローバル設定回数未満であると判断したとき(ステップS57のNO)、コヒーレント距離推定処理部4は、ステップS56で格納した最大尤度判定結果の推定距離を位相差推定処理部3に供給し、その最大尤度判定結果の推定距離を使ったステップS51での位相差推定から、再度処理を実行させる。
【0144】
また、ステップS57で、試行回数がグローバル設定回数になったと判断したとき(ステップS57のYES)、コヒーレント距離推定処理部4は、ステップS56で格納した結果の中から最大尤度となる距離を取り出し、取り出した最大尤度となる距離を、コヒーレント距離推定処理部4での推定結果として出力する(ステップS58)。
この
図16のフローチャートに示す処理によっても、距離の推定結果を得ることができる。
【符号の説明】
【0145】
1,1a~1n…レーダ受信部、1′…離隔周波数レーダ受信部、2…CPIデータ記憶部、2′…アレーアンテナデータ記憶部、2″…複数アレーアンテナデータ記憶部、3…位相差推定処理部、4…コヒーレント距離推定処理部、5…ノンコヒーレント距離推定処理部、6…推定対象選択距離推定部、10a,10b,10c,10d,10e,10f…レーダ装置、51…尤度算出部、52…最大尤度探索部、101,111,121,191…受信素子、102,112,122,192…アナログ/デジタル変換器、103a~103n,113a~113n,123a~123n,193a~193n…パルス圧縮部、104a~104n,114a~114n,124a~124n,194a~194n…パルスドップラフィルタ、105a~105n,115a~115n,125a~125n,195a~195n…位相補償部、116a~116n,126a~126n,196a~196n…合成帯域部