(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/379 20170101AFI20240126BHJP
B29C 33/40 20060101ALI20240126BHJP
B29C 33/70 20060101ALI20240126BHJP
B29C 64/386 20170101ALI20240126BHJP
B33Y 40/00 20200101ALI20240126BHJP
【FI】
B29C64/379
B29C33/40
B29C33/70
B29C64/386
B33Y40/00
(21)【出願番号】P 2020003927
(22)【出願日】2020-01-14
【審査請求日】2023-01-03
(73)【特許権者】
【識別番号】512031183
【氏名又は名称】有限会社スワニー
(74)【代理人】
【識別番号】100169188
【氏名又は名称】寺岡 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 良博
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-028876(JP,A)
【文献】特開2005-199567(JP,A)
【文献】特開2007-168424(JP,A)
【文献】米国特許第10493689(US,B1)
【文献】特表2019-509192(JP,A)
【文献】特表2011-502061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B29C 33/00-33/76
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を有する成形型を用いた成形方法であって、
(1)成形物の設計3Dデータを作成する工程と、
(2)前記成形型の3Dデータを作成する工程と、
(3)前記成形型3Dデータに基づき、3Dプリンターを用いて、実際の成形型を造形する工程と、
(4)前記実際の成形型を用いて成形を行い、実際の成形物を製造する工程と、
をこの順に行う工程と、
(5)前記実際の成形型を3D測定機で3Dデータとして取得する工程と、
(6)前記実際の成形物の3Dデータを3Dスキャナーを使って取得する工程と、
を有し、
(7)前記(1)の3Dデータと、前記(6)の3Dデータとを比較し、その差が許容範囲になければ、前記(1)または(2)の工程に戻り、且つ前記(6)のデータを前記(1)のデータに近づける操作をし、前記(2)の工程から前記(7)の工程を繰り返す工程、
を有
し、
前記(1)および前記許容範囲の(6)の3Dデータ、およびその(6)を実現する(2)および(5)の3Dデータを記憶媒体に保存し
、
前記(1)および前記許容範囲の(6)の3Dデータ、およびその(6)を実現する(2)および(5)の3Dデータを記憶媒体からダウンロードし、
前記(3)で用いたのとは異なる3Dプリンターを用いた(3)と同じ工程と、前記(4)(5)(6)(7)の工程を
行う成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、自動車1台作るのに、金型は自動車部品の数だけ必要であり、数千個以上必要とされると言われている。その自動車を量産している時期であれば、数百から数千個以上の金型はフル稼働し、量産が終われば、補修部品または消耗部品等調達のためにそれら金型は、3年から10年間以上保管されることが要求され、倉庫や野外保管などで多大なスペースが要求される。また、長期間の保管の間に金型に錆などが発生してしまい、部品調達時もメンテナンスに時間が掛かり直ぐに成形が出来ず期間が掛かったり、金型紛失など問題も発生している。
【0003】
そこで、特許文献1では、金型を圧縮密封袋に収納して保管することを提案している。この圧縮密封袋は、吸引時に変形して脱気できるプラスチックフイルムからなり、金型を圧縮密封袋に収納した状態で脱気し、酸素を可及的に少なくした状態で保管するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、金型の保管は、金型を扱う事業者に大きな負担を課すことになる。
【0006】
本発明の目的は、これらの成形型の保管の問題を軽減する成形方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の成形方法は、樹脂を有する成形型を用いた成形方法であって、成形型の一部または全部の3Dデータを記憶媒体に保存し、実際の成形型を使用するときは、記憶媒体から3Dデータを取得し、3Dプリンターを用いて、実際の成形型の一部または全部を造形し、実際の成形型を組み立て、実際の成形型を用いて成形を行い、成形を終了したら、実際の成形型の一部または全部を廃棄する。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の成形方法は、樹脂を有する成形型を用いた成形方法であって、(1)成形物の設計3Dデータを作成する工程と、(2)成形型の3Dデータを作成する工程と、(3)成形型3Dデータに基づき、3Dプリンターを用いて、実際の成形型を造形する工程と、(4)成形型を用いて成形を行い、実際の成形物を作成する工程と、の(1)から(4)の工程をこの順に行う工程と、(5)実際の成形型を3D測定機で3Dデータとして取得する工程と、(6)実際の成形物の3Dデータを3Dスキャナーを使って取得する工程と、を有し、(7)(1)の3Dデータと、(6)の3Dデータとを比較し、その差が許容範囲になければ、(1)または(2)の工程に戻り、且つ(6)のデータを(1)のデータに近づける操作をし、(2)の工程から(7)の工程を繰り返す工程、を有する成形方法。
【0009】
ここで、(1)および許容範囲の(6)の3Dデータ、およびその(6)を実現する(2)および(5)の3Dデータを記憶媒体に保存し、(1)および許容範囲の(6)の3Dデータ、およびその(6)を実現する(2)および(5)の3Dデータを記憶媒体からダウンロードし、(3)で用いたのとは異なる樹脂材料または3Dプリンターを用いた(3)と同じ工程と、(4)(5)(6)(7)の工程を行うこととしても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、成形型の保管の問題を軽減する成形方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る成形方法のフロー図である。
【
図2】本発明の第2の実施の形態に係る成形方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の第1の実施の形態について、
図1に基づいて説明する。まず、成形型の3D(3次元)データを記憶媒体に保存する(S1)。ここで、成形型の3Dデータとは、そのデータに基づき、成形型の一部または全部を作ることができるデータ、たとえば3DCADデータである。
【0013】
そして記憶媒体とは、ハードディスクドライブ(hard disk drive, HDD)等の磁気ディスクや光学ディスク、フラッシュメモリ、またはオンラインストレージ(online storage)、クラウドストレージ(cloud storage)、ファイル・ホスティング(file hosting)、磁気テープ等の物を指す。
【0014】
次に、実際の成形型を使用しようとするときに、記憶媒体から、成形型の3Dデータをダウンロードする等して取得する(S2)。実際の成形型を使用しないのであれば、(S2)には進まない。
【0015】
次に、取得した成形型の3Dデータに基づいて、実際の成形型の一部または全部を、3Dプリンターを用いて樹脂材料を用いて造形する(S3)。造形された実際の成形型は、樹脂材料100%のいわゆる樹脂型である。ここで、3Dプリンターを用いて一定の形状を作り出すことを「造形」と言うこととする。
【0016】
そして、実際の成形型の組み立て(S4)に進むが、この組み立ては、たとえば(S3)において、実際の成形型の一部を、3Dプリンターを用いて造形した場合には、実際の成形型が複数の部品を有すること(たとえば、金属等の補助部品(金属ピンまたはモールドベース等)を含む場合等)があり、それらを組み立てる(S4)必要がある。
【0017】
しかし、たとえば、(S3)の工程が、実際の成形型の全部を、3Dプリンターを用いて造形する場合には、(S4)の工程と(S3)の工程を分ける必要がなく、(S3)の工程をすれば、自動的に(S4)の工程も行うことになる場合もある。
【0018】
次に、(S4)で作製した(S3)の実際の成形型を用いて成形を行い、所望の数の実際の成形物を得る(S5)。所望の数の実際の成形物を得たら(S5)、実際の成形型の全部を廃棄する(S6)。このとき、廃棄する実際の成形型は、その一部としても良い。なお、実際の成形型の形状をそのままにしたまま捨てることを意味する「廃棄」の類義語には、実際の成形型の形状を変えて捨てることを意味する「破棄」があるが、ここでは、これら両者および、他の類義語を含めて「廃棄」の語を使用する。
【0019】
(第2の実施の形態)
以下、本発明の第2の実施の形態について、
図2に基づいて説明する。まず、成形物の設計3Dデータを作成する(S11)。ここで、成形物の設計3Dデータとは、第2の実施の形態の成形型で成形したならば、成形できるだろうと、設計者が希望する、成形物の各所の寸法を有する形状データ、たとえば3DCADデータである。
【0020】
次に、成形物の設計3Dデータを成形するための成形型の3Dデータを作成する(S12)。当初は、成形物の設計3Dデータを忠実に成形可能な成形型の3Dデータであることが多いが、後述する修正により、形が変わることがある。
【0021】
次に、成形型の3Dデータ(S12)に基づき、3Dプリンターによって、実際の成形型を造形する(S13)。その後、造形した実際の成形型の3Dデータを3Dスキャナー(3D測定機)等で取得する(S14)。実際の成形型の3Dデータは、たとえば、ドイツのGOM社の非接触光学3Dスキャナー「ATOS」で取得するが、これ以外の3Dスキャナー、たとえばCTスキャンを用いても良い。CTスキャンは表面形状情報だけでなく内部までスキャンできるので、実際の成形物の「内部構造」が分かることで内部に空間やボイドがないかを確認できる。また、しきい値により「材料物性」を情報として得ることが出来ることになる。その他の従来からの測定器具(ノギス、測定顕微鏡、ダイヤルゲージ、ピンゲージ、スケール、三次元測定器、投影機など)も、実際の成形型の3Dデータを測定することができる。ここで、成形型の3Dデータとは、そのデータに基づき、実際の成形型の一部または全部を作ることができるデータである。
【0022】
次に、(S13)で造形した実際の成形型を用いて、実際の成形物を成形する(S15)。その後、実際の成形物の3Dデータを3Dスキャナーで取得する(S16)。この3Dスキャナーにも、上述の「ATOS」等を使用することができる。
【0023】
次に、(S11)で作成した成形物の設計3Dデータと、(S16)で取得した実際の成形物の3Dデータの各所寸法を比較する(S17)。この比較は、成形物の設計3Dデータと実際の成形物の3Dスキャンデータを、あたかも仮想的に、各所を一致させて重ね合わせて行うことができる。
【0024】
この比較(S17)の結果、その差が大きくて許容範囲(S18)を外れている場合には、成形型の3Dデータを作成する(S12)の工程に戻る。このとき、(S16)の3Dデータを(S11)の3Dデータに近づける操作(A)を行う。すなわち、許容範囲(S18)に近づけるように成形型の3Dデータを作成する(S12)。必要に応じ、このような工程を繰り返して、許容範囲(S18)となるようにする。
【0025】
このような比較が必要になる理由は、成形物の設計3Dデータ(S20)をダウンロードにより取得したときと、最初に成形物の設計3Dデータ(S11)を取得したときの条件とは、全く異なる条件で実際の成形物を製造する場合等があるためである。このような場合は、たとえば成形物の設計3Dデータを取得したときと、実際の成形物を製造したときの製造機の違いまたは温度湿度環境、樹脂材料の製造時のばらつき等が違うためである。または、数年間前の3Dプリンターは、入手できないことがあることから、3Dプリンターが違い、同じ寸法が確保出来ない場合等があるためである。
【0026】
すなわち、(S16)の3Dデータを(S11)の3Dデータに近づける操作(A)とは、樹脂材料の変更、3Dプリンターの変更、(S11)のデータ、または(S12)における成形型の設計変更等である。
【0027】
許容範囲(S18)となったら、(1)成形物の設計3Dデータ(S11)、(2)成形型の3Dデータ(S12)、(3)造形した成形型の3Dデータ(S14)、(4)実際の成形物の3Dデータ(S16)、の4つのデータを記憶媒体に保存する(S19)。これら4つのデータ以外のデータも記憶媒体に保存しても良い。
【0028】
記憶媒体は、(S11)、(S12),(S14)および(S16)のデータを別々に記憶する複数のものであっても良いし、(S11),(S12),(S14)および(S16)のデータを一緒に記憶する単数のものであっても良い。また、記憶媒体は、第1の実施の形態と同様のものを用いることができる。
【0029】
次に、成形型を使いたくなったら、(S11),(S12),(S14)および(S16)のデータを記憶媒体からダウンロードする(S20)。そして、S13,S14,S15,S16,S17,S18の工程を行い、許容範囲(S18)の成形物を得られるようにする(S21)。このとき、必要に応じて(S11)の工程で作成した3Dデータに変更を加えても良い。
【0030】
次に、実際の成形物を実際の成形型で必要な数だけ成形する(S22)。その後、成形型を廃棄する(S23)。このとき、廃棄する成形型は、その全部または一部としても良い。
【0031】
仮に成形物の設計3Dデータ(S11)との寸法の差が許容範囲(S18)の実際の成形物が得られていないのであれば、成形物の設計3Dデータ(S11)を作った時に用いた樹脂材料、成形型の3Dデータを製造したときの樹脂材料、または3Dプリンターを変えてみる。また、成形型の3Dデータ(S12)を変更するなどする。また、時には成形物の設計3Dデータ(S11)を変更することもある。これらの操作も、(S16)の3Dデータを(S11)の3Dデータに近づける操作(A)である。そして、必要な数の実際の成形物を成形する(S22)。その後、実際の成形型の全部を廃棄する(S23)。廃棄する成形型は、その一部としても良い。
【0032】
(本実施の形態によって得られる主な効果)
本発明の第1および第2の実施の形態は、実際の成形型を使用するときのみ、現物の成形型として作り出し、それ以外のときは、電子データとして3Dデータとして扱うか、廃棄物として扱っている。そのため、成形型を保管するためのスペースを要しない。また、樹脂材料で成形した成形型は、価格が安いため、廃棄しても良い。
【0033】
このように、成形型を電子データとして扱うことができるということは、大量の金型を扱う場合のように、長期間のメンテナンスや特定の金型を探すという作業を要しない。電子データの場合は、データベースを構築可能なため、容易に特定の成形型の3Dデータを探し出すことができる。さらに、金型は、1個数百キログラムのものがあり、クレーンで運ばなければならないものがあるが、成形型の3Dデータは、質量を持たないため、取り出しも容易である。このように、第1および第2の実施の形態は、成形型の保管の問題を軽減する成形方法を提供することができる。
【0034】
本発明の第1および第2の実施の形態では、成形型を使用する直前に、現物の成形型を作り出すことができるため、金型の錆のような老朽化の心配は不要であり、常に新品の成形型を使用することができる。
【0035】
第2の実施の形態では、成形物の設計3Dデータとの寸法の差が許容範囲(S18)の成形物が得られているかどうかを比較できるため、樹脂材料または3Dプリンターに変更があっても、その寸法または樹脂密度等の差の確認ができる。また、比較対象は、2以上のものでも良い。
【0036】
(他の形態)
上述した本発明の実施の形態に係る成形方法は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変形実施が可能である。
【0037】
本発明の第1の実施の形態では、(S1)、(S3)および(S6)の説明の際に「一部または全部」という表現を使用している。そして本発明の第2の実施の形態では、(S12)、(S13)および(S23)の説明の際に「一部または全部」という表現を省略している。しかし、本発明の第1の実施の形態と同様に(S12)は、成形型の3Dデータの一部または全部を作成する工程である、(S13)は、実際の成形型の一部または全部を造形する工程である、(S23)は、実際の成形型の一部または全部を廃棄する工程である、としても良い。これらの「一部」に相当する箇所は、同じでもそれぞれ異なっていても構わない。また、本発明の第2の実施の形態でも、実際の成形型の「組み立て」はあっても良い。
【0038】
本発明の実施の形態では、成形型を樹脂型としているが、樹脂を有する成形型の一部(金属ピンまたはモールドベース等)を金属、セラミック等で、構成するようにしても良い。たとえば、第1の実施の形態では(S3)の工程、第2の実施の形態では(S15)の工程、の際に樹脂材料に金属粉、炭素繊維(カーボンファイバー)、ガラスファイバー、セラミック粉等を含ませても良い。
【0039】
本発明の第2の実施の形態では、(S11)から(S18)((A)を含む)だけでなく(S19)以降の工程も行っているが、(S11)から(S18)((A)を含む)のみの工程を行う成形方法としても良い。
【符号の説明】
【0040】
S1 成形型の3Dデータを記憶媒体に保存する工程
S2 記憶媒体から成形型の3Dデータを取得する工程
S3 3Dプリンターを用いて実際の成形型を造形する工程
S4 実際の成形型を組み立てする工程
S5 実際の成形型を用いて実際の成形物を成形する工程
S6 実際の成形型を廃棄する工程
S11 成形物の設計3Dデータを作成する工程
S12 成形型の3Dデータを作成する工程
S13 実際の成形型を造形する工程
S14 実際の成形型の3Dデータを3Dスキャナーで取得する工程
S15 実際の成形物を製造する工程
S16 実際の成形物の3Dデータを3Dスキャナーで取得する工程
S17 成形物の設計3Dデータと実際の成形物の3Dデータの寸法を比較する工程
S18 許容範囲かどうかの判断する工程
S19 特定のデータを記憶媒体に保存する工程
S20 特定のデータを記憶媒体からダウンロードする工程
S21 S12,S13,S14,S15,S16,S17,S18を行う工程
S22 実際の成形物を実際の成形型で必要な数だけ成形する工程
S23 実際の成形型を廃棄する工程
A (S16)の3Dデータを(S11)の3Dデータに近づける操作